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特表2025-506533スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法
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  • 特表-スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法 図1
  • 特表-スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法 図2
  • 特表-スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法 図3
  • 特表-スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法 図4
  • 特表-スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-11
(54)【発明の名称】スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250304BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20250304BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250304BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20250304BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20250304BHJP
【FI】
C22C38/00 301T
C22C38/00 302Z
C22C38/04
C22C38/58
C21D9/00 Z
C21D9/46 J
C21D9/46 P
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024548605
(86)(22)【出願日】2023-02-17
(85)【翻訳文提出日】2024-08-16
(86)【国際出願番号】 CN2023076709
(87)【国際公開番号】W WO2023155868
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】202210145312.6
(32)【優先日】2022-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雷 鳴
(72)【発明者】
【氏名】潘 華
(72)【発明者】
【氏名】王 利
(72)【発明者】
【氏名】薛 鵬
(72)【発明者】
【氏名】孫 中 渠
(72)【発明者】
【氏名】呉 天 海
(72)【発明者】
【氏名】劉 成 杰
(72)【発明者】
【氏名】呉 岳
(72)【発明者】
【氏名】温 中 令
【テーマコード(参考)】
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA07
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EB15
4K037FA03
4K037FC04
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FG00
4K037FG01
4K037FJ01
4K037FJ05
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037GA05
4K037JA06
4K042AA26
4K042BA01
4K042BA06
4K042BA11
4K042CA02
4K042CA06
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042DA03
(57)【要約】
本発明は、スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法を開示する。当該高強度鋼複合亜鉛メッキ板は、高強度鋼本体(1)、軟鋼複合層(2)および亜鉛メッキ層(3)を含む。2つの軟鋼複合層(2)は、高強度鋼本体(1)の2つの表面にそれぞれ複合圧延され、亜鉛メッキ層(3)は、少なくとも1つの軟鋼複合層(2)の表面に形成され、このように高強度鋼複合亜鉛メッキ板が形成される。本発明は、高強度鋼本体の表面に軟鋼複合層を複合圧延することで、スポット溶接時に液体金属が粒界に沿って母材に浸透するのを回避し、高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME敏感性を低下させ、スポット溶接LME割れの発生を効果的に回避し、スポット溶接LME割れ問題を緩和し、高強度鋼本体の抵抗スポット溶接性能を向上させ、スポット溶接継手の機械的特性を著しく改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度鋼本体(1)、軟鋼複合層(2)および亜鉛メッキ層(3)を含み、2つの軟鋼複合層(2)が高強度鋼本体(1)の2つの表面にそれぞれ複合圧延され、軟鋼複合層(2)の少なくとも一方の表面に亜鉛メッキ層(3)が形成されて高強度鋼複合亜鉛メッキ板が形成されていることを特徴とするスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項2】
前記高強度鋼本体(1)は、スポット溶接LMEに敏感な高強度鋼であり、≧780MPa、好ましくは≧980MPa、より好ましくは≧1180MPaの引張強度を有し、好ましくは、前記高強度鋼の引張強度は、780~1500MPa、好ましくは1180~1500MPaであることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項3】
前記高強度鋼が、質量パーセントで、C≧0.1%、例えば、C≧0.14%、Mn≧1.0%、例えば、Mn≧1.5%、Si≧0.07%、好ましくは、Si≧0.4%を含み、好ましくは、前記高強度鋼が、質量パーセントで、C:0.14~0.60%、Mn:1.5~16%、Si:0.07~2.0%を含有し、より好ましくは、前記高強度鋼が、質量パーセントで、C:0.14~0.30%、Mn:1.5~3.5%、Si:0.4~2.0%を含有することを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項4】
前記高強度鋼は、質量パーセントで、C:0.1~0.3%、Si:0.4~2.50%、Mn:1.0~11.0%およびAl:0~2.0%を含有することを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項5】
前記高強度鋼は、QP鋼、TRIP鋼、DH鋼、7Mn鋼、10Mn鋼およびMS鋼のうちの一つまたは複数から選ばれることを特徴とする請求項2に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項6】
軟鋼複合層(2)は、スポット溶接LMEに鈍感な軟鋼であり、軟鋼がCおよびMnを含有し、質量パーセントで、C含有量≦0.1%、Mn含有量≦1.1%、例えばMn≦0.7%、引張強度≦590MPa、例えば150~590MPaまたは150~340MPaであり、好ましくは、質量パーセントで、軟鋼がC:0.001~0.1%およびMn:0.1~1.1%を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項7】
前記軟鋼は、質量パーセントで、C:0.001~0.1%、Si:0.001~0.50%、Mn:0.1~0.1.1%、Nb:0~0.02%、Ti:0~0.025%、Ni:0~0.025%、Cr:0~0.05%、P:≦0.05%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、または、前記軟鋼は、質量パーセントで、C:0.001~0.08%、Si:0.001~0.05%、Mn:0.1~0.7%、Nb:0~0.02%、Ti:0~0.025%、Ni:0~0.025%、Cr:0~0.05%、P:≦0.05%を含有し、残りはFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項6に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項8】
前記軟鋼は、IF鋼、アルミニウムキルド鋼、冷間圧延炭素構造用鋼、リン添加高強度鋼、焼付硬化鋼および低合金鋼の一つまたは複数から選ばれることを特徴とする請求項6に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項9】
前記高強度鋼本体(1)の生スラブ厚さと、前記軟鋼複合層(2)の生スラブ厚さとの間に、L×A+M×B+N×C=Tの関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
ここで、Aは、複合スラブ厚さに対する一方の軟鋼複合層(2)の生スラブ厚さの割合、Cは、複合スラブ厚さに対する他方の軟鋼複合層(2)の生スラブ厚さの割合、Bは、複合スラブ厚さに対する高強度鋼本体(1)の生スラブ厚さの割合であり、A+B+C=100%である。複合スラブは、高強度鋼本体(1)と2つの軟鋼複合層(2)の生スラブの合計厚さである。
Lは一方の軟鋼複合層(2)の焼鈍後の引張強度、Nは他方の軟鋼複合層(2)の焼鈍後の引張強度、Mは高強度鋼本体(1)の焼鈍後の引張強度である。
Tは高強度鋼複合亜鉛メッキ板の目標引張強度である。
ここで、前記引張強度の単位はMPaであり、前記厚さの単位はミクロンである。
【請求項10】
A:B、C:Bの値が1:35.5~1:5の範囲にあることを特徴とする請求項9に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項11】
以下のことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板:
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、各軟鋼複合層(2)の厚さは10~200μmであり、および/または、
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、亜鉛メッキ層(3)の厚さは4~26μmである。
【請求項12】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME割れに対する耐性とは、溶接スパッタ発生前の継手にLME割れがないこと、溶接スパッタ発生後の継手に、TypeAのLME割れの長さが板厚の10%を超えず、その数が6個を超えないこと、TypeDのLME割れの長さが板厚の3%を超えず、その数が3個を超えないこと、TypeB、TypeCのLME割れがないことであることを特徴とする請求項1に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【請求項13】
以下の工程を含むことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板を調製する方法:
工程1:高強度鋼本体(1)の生スラブおよび2つの軟鋼複合層(2)の生スラブを取り、2つの軟鋼複合層(2)の生スラブを高強度鋼本体(1)の生スラブの2つの表面に貼り付け、2つの軟鋼複合層(2)の生スラブの端部で高強度鋼本体(1)の生スラブの端部に溶接し、複合スラブを形成する。
工程2:複合スラブを厚板分塊工程を経て加熱することによりその厚さを薄くし、初期圧延を行い、その後、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍を順次行うことにより、高強度鋼本体(1)の生スラブと2つの軟鋼複合層(2)の生スラブを冶金的に接合させ、引張強度Tのスラグを形成する。
工程3:スラグの少なくとも一方の面に亜鉛メッキ層(3)をコーティングし、高強度鋼複合亜鉛メッキ板を形成する。
【請求項14】
前記工程1では、2つの軟鋼複合層(2)の生スラブが高強度鋼本体(1)の生スラブと積層される前に、高強度鋼本体(1)と2つの軟鋼複合層(2)の積層面をサンディングして洗浄する必要があることを特徴とする請求項13に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合高強度鋼板およびその調製方法に関し、特に、スポット溶接LME(液体金属脆化)割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板およびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車軽量化材料の研究開発と応用は、自動車の省エネルギー、排ガス低減、安全性、コストなど様々な側面に関連しており、世界の省エネルギー、省資源、環境保護に大きな意義があり、自動車材料開発の主導的な方向となっている。AHSS(先進高張力鋼板)に代表される高強度材料は、省エネを目的とした自動車の軽量化に大きな可能性を十分に発揮している。
【0003】
高強度鋼の耐食性を向上させるために、溶融亜鉛メッキや電気亜鉛メッキなどの亜鉛メッキ加工が広く用いられている。自動車用途に亜鉛メッキ高強度鋼板を使用するには、必然的に接合技術が必要となるが、亜鉛メッキ高強度鋼板は、ホットスタンプや抵抗スポット溶接などのその後の熱間加工中に液体金属脆化(LME)を生じる傾向があるため、自動車分野での亜鉛メッキ高強度鋼板使用の主な障壁の一つとなっている。
【0004】
LME割れの特徴は、母材が他の種類の液体金属、すなわち溶融亜鉛メッキ層と接触している場合、外部から加えられる応力や、拘束力、熱膨張、相転移などに起因する内部応力の下で、液体金属が母材の粒界に沿って浸透し、ひどい場合には割れが形成され、母材の塑性が低下することである。LMEに敏感な母材と液体金属との接触、応力、適切な温度範囲は、LME割れ形成の3つの必要条件であり、高強度鋼亜鉛メッキ板を抵抗スポット溶接した場合、上記の3つの条件を同時に満たすことがあるため、高強度鋼亜鉛メッキ板のスポット溶接LME割れの問題は特に深刻である。これらの鋼種は一般に、残留オーステナイトの存在、高強度、比較的高い炭素、ケイ素、マンガン含有量によって特徴付けられ、中でも第2世代AHSSと第3世代AHSSはスポット溶接LMEに最も敏感である。
【0005】
中国発明特許CN201610963996.5は、1つのスポット溶接サイクルで3つの溶接パルスを使用する、良好な継手特性を有する亜鉛メッキ高強度鋼の抵抗スポット溶接方法を開示している。第1溶接パルスと第2溶接パルスは、溶融核を生成し、LME割れの発生を抑制するために使用される。第1溶接パルスは、直径3.75T1/2-4.25T1/2の溶融核を生成する。第2溶接パルスは、核をゆっくりと成長させる。第3溶接パルスは、溶接スポットの塑性を改善するための徐冷パルスである。この方法は、スポット溶接プロセスの最適化により、スポット溶接継手にLMEを誘発するのに必要な条件が存在する時間と範囲を最小限に抑えるが、LMEの原因を完全に除去することはできない。
【0006】
中国発明特許CN201810819361.7は、多層鋼および液体金属脆化を低減するための方法を開示しており、多層鋼は、変態誘起塑性(TRIP)鋼から形成されたコアを含む。コアの外側の少なくとも片側には脱炭層が配置されている。脱炭層は、コアに対して炭素含有量が低減されている。亜鉛ベース層は、脱炭層の外側に配置される。脱炭層は、少なくとも80%のフェライトからなってもよく、その結果、LMEが低減または緩和される。この方法は、LME割れの問題をある程度までしか軽減できず、脱炭層の厚さや均一性を容易に制御できない、母材の表面特性が不安定になるなどの問題がある。
【0007】
中国発明特許CN201780080831.6は、スポット溶接性および耐食性に優れた多層亜鉛メッキ合金鋼を開示しており、この多層亜鉛メッキ合金鋼は、下地鉄と、下地鉄上に形成された多層メッキ層とを含み、多層メッキの各メッキ層は、Znメッキ層、Mgメッキ層およびZn-Mg合金メッキ層のいずれかであり、多層メッキ層の総重量に対して、多層メッキ層が含むMgの重量の比率は、0.13~0.24である。この方法では、メッキ層と基板との密着性を確保することが難しく、Zn-Mg合金の相転移が複雑なため、メッキ層の安定性や均一性を制御することが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的の一つは、スポット溶接LME敏感性が低く、スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板を提供し、高強度鋼複合亜鉛メッキ板の抵抗スポット溶接性能を向上させることである。
【0009】
本発明の目的のもう一つは、母材の性能を確保しつつ、軟鋼複合層の複合圧延により高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME敏感性を低減し、スポット溶接LME割れの問題を緩和することができる、スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のように実現される:
高強度鋼本体、軟鋼複合層および亜鉛メッキ層を含み、2つの軟鋼複合層が高強度鋼本体の2つの表面にそれぞれ複合圧延され、軟鋼複合層の少なくとも一方の表面に亜鉛メッキ層が形成されて高強度鋼複合亜鉛メッキ板が形成されていることを特徴とするスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板。
【0011】
ここでは、前記高強度鋼本体は、スポット溶接LMEに敏感な高強度鋼であり、C、SiおよびMnを含有することができ、さらにTiおよびCrを含有することができ、任意にNb、BおよびAlなどの1種または2種以上の元素を含有することができ、残部はFeおよびPやSのような不可避的不純物である。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記高強度鋼本体において、質量パーセントで、C≧0.10%、Mn≧1.0%、Si≧0.07%である。いくつかの実施形態では、前記高強度鋼本体において、質量パーセントで、C≧0.14%、Mn≧1.5%、Si≧0.4%である。いくつかの実施形態では、前記高強度鋼本体において、質量パーセントで、C:0.14~0.60%、Mn:1.5~16%、Si:0.07~2.0%である。いくつかの実施形態では、前記高強度鋼本体において、質量パーセントで、C:0.14~0.30%、Mn:1.5~3.5%、Si:0.4~2.0%である。
【0013】
高強度鋼本体にTiとCrを含有させる場合、Tiの含有量は≧0.01%、例えば0.01~0.10%または0.01~0.05%とし、Crの含有量は≧0.01%、例えば0.01~0.10%または0.01~0.05%とすることができる。
【0014】
任意に、高強度鋼はさらに0~0.06%のNb、0~0.005%のB、および0~2.0%のAlを含むことができる。
【0015】
通常、高強度鋼は不純物として≦0.01%のPと≦0.01%のSを含む。
いくつかの実施形態では、本発明の高強度鋼は、C:0.1~0.3%、Si:0.4~2.50%、Mn:1.0~11.0%、およびAl:0~2.0%を含む。
【0016】
ここでは、高強度鋼は、≧780MPa、好ましくは≧980MPa、より好ましくは≧1180MPaの引張強度を有する鋼を指す。いくつかの実施形態では、本明細書で使用される高強度鋼は、780~1500MPa、好ましくは1180~1500MPaの引張強度を有する。
【0017】
本発明を実施するために、当該技術分野で公知の高強度鋼を使用することができる。例示的な高強度鋼は、QP鋼、TRIP鋼、DH鋼、7Mn鋼、10Mn鋼、およびMS鋼の1つまたは複数から選択することができる。例示的なQP鋼は、C:0.1~0.25%、Si:0.4~2.50%、Mn:1.50~3.00%、Al:0.03~1.10%を含むことができる。例示的なTRIP鋼は、C:0.15~0.3%、Si:0.6~2.0%、Mn:1.6~2.5%、Al:0.02~0.90%を含むことができる。例示的なDH鋼は、C:0.12~0.21%、Si:0.3~0.9%、Mn:1.6~2.5%、Al:0.02~0.60%を含むことができる。例示的な7Mn鋼は、C:0.1~0.3%、Si:0.1~2.0%、Mn:6~8%、Al:1~2%を含むことができる。例示的な10Mn鋼は、C:0.1~0.3%、Si:0.1~2.0%、Mn:9~11%、Al:1~2%を含むことができる。例示的なMS鋼は、C:0.1~0.3%、Si:0.1~0.5%、Mn:1.0~1.8%を含むことができる。これらの鋼は、そのような鋼に含まれることが当業界で知られている成分を含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記高強度鋼本体に使用される鋼は、スポット溶接LMEに敏感な高強度鋼であり、高強度鋼本体は、質量パーセントで、C≧0.14%、Mn≧1.5%、Si≧0.4%を含み、引張強度≧780MPaを有する。ここでは、前記軟鋼複合層に使用される鋼は、スポット溶接LMEに鈍感な軟鋼であり、軟鋼は、質量パーセントで、C:≦0.1%、Mn:≦1.1%を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、軟鋼複合層は、CおよびMnを含み、質量パーセントで、C含有量≦0.1%、Mn含有量≦0.7%であり、引張強度≦590MPaを有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、軟鋼は、質量パーセントで、C:0.001~0.1%、Mn:0.1~1.1%を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記軟鋼は、質量パーセントで、C:0.001~0.1%、Si:0.001~0.50%、Mn:0.1~0.1.1%、Nb:0~0.02%、Ti:0~0.025%、Ni:0~0.025%、Cr:0~0.05%、P:≦0.05%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記軟鋼は、C:0.001~0.08%、Si:0.001~0.05%、Mn:0.1~0.7%、Nb:0~0.02%、Ti:0~0.025%、Ni:0~0.025%、Cr:0~0.05%、P:≦0.05%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0023】
いくつかの実施形態では、前記軟鋼は、当技術分野で周知であるIF鋼、アルミニウムキルド鋼、冷間圧延炭素構造用鋼、リン添加高強度鋼、焼付硬化鋼(BH鋼)、および低合金鋼の1つまたは複数から選択することができる。例示的なIF鋼は、C:0.001~0.01%、Mn:0.10~1.00%を含むことができる。例示的なアルミニウムキルド鋼は、C:0.01~0.1%、Mn:0.1~0.5%を含むことができる。例示的なBH鋼は、C:0.002~0.1%、Mn:0.10~1.00%を含むことができる。例示的な低合金鋼は、C:0.02~0.1%、Mn:0.5~1.1%、Si:0.05~0.5%を含むことができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、本発明で使用される軟鋼の引張強度は、150~590MPaの範囲内である。いくつかの実施形態では、本発明で使用される軟鋼の引張強度は、150~340MPaの範囲内である。
【0025】
前記高強度鋼本体の生スラブ厚さと軟鋼複合層の生スラブ厚さとの間に、L×A+M×B+N×C=Tの関係式を満たさなければならない。
【0026】
ここで、Aは、複合スラブ厚さに対する一方の軟鋼複合層の生スラブ厚さの割合、Cは、複合スラブ厚さに対する他方の軟鋼複合層の生スラブ厚さの割合、Bは、複合スラブ厚さに対する高強度鋼本体の生スラブ厚さの割合であり、A+B+C=100%である。複合スラブは、高強度鋼本体と2つの軟鋼複合層の生スラブの合計厚さである。
【0027】
Lは一方の軟鋼複合層の焼鈍後の引張強度、Nは他方の軟鋼複合層の焼鈍後の引張強度、Mは高強度鋼本体の焼鈍後の引張強度である。
【0028】
Tは高強度鋼複合亜鉛メッキ板の目標引張強度である。
ここで、前記引張強度の単位はMPaであり、前記厚さの単位はミクロンである。
【0029】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、2つの前記軟鋼複合層の厚さは同じであってもなくてもよい。
【0030】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、2つの前記軟鋼複合層の組成は同じであってもなくてもよい。
【0031】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、各軟鋼複合層の厚さは10~200μm、好ましくは20~200μmである。
【0032】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、亜鉛メッキ層の厚さは4~26μmである。
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、A:BおよびC:Bの好ましい値は、1:35.5~1:5の範囲内である。
【0033】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME割れに対する耐性とは、溶接スパッタ発生前の継手にLME割れがないこと、溶接スパッタ発生後の継手に、TypeAのLME割れの長さが板厚の10%を超えず、その数が6個を超えないこと、TypeDのLME割れの長さが板厚の3%を超えず、その数が3個を超えないこと、TypeB、TypeCのLME割れがないことである。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板は、降伏強度≧680MPa、引張強度≧980MPa、伸び率≧12%を有する。
【0035】
スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板を調製する方法であって、以下の工程を含む:
工程1:高強度鋼本体の生スラブおよび2つの軟鋼複合層の生スラブを取り、2つの軟鋼複合層の生スラブを高強度鋼本体の生スラブの2つの表面に貼り付け、2つの軟鋼複合層の生スラブの端部で高強度鋼本体の生スラブの端部に溶接し、複合スラブを形成する;
工程2:複合スラブを厚板分塊工程を経て加熱することによりその厚さを薄くし、初期圧延を行い、その後、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍を順次行うことにより、高強度鋼本体の生スラブと2つの軟鋼複合層の生スラブを冶金的に接合させ、引張強度Tのスラグを形成する;
工程3:スラグの少なくとも一方の面に亜鉛メッキ層をコーティングし、高強度鋼複合亜鉛メッキ板を形成する。
【0036】
前記工程1では、2つの軟鋼複合層2の生スラブが高強度鋼本体1の生スラブと積層される前に、高強度鋼本体1と2つの軟鋼複合層2の積層面をサンディングして洗浄する必要がある。
【0037】
前記亜鉛メッキ層をコーティングする方法には、溶融メッキまたは電気メッキが含まれる。
【0038】
上記熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、熱間メッキおよび電気メッキは、当該技術分野で周知の方法で実施することができる。例えば、例示的な熱間圧延は、スラグを1200~1280℃に加熱し、0.5~4時間保持した後、850℃~1000℃の最終圧延温度で熱間圧延し、次いで30~100℃/秒の速度で400~650℃に冷却し、巻き取ることを含む。
【0039】
冷間圧延の変形量は通常35~75%、例えば50~75%に制御できる。
例示的な焼鈍は、均熱温度まで1~20℃/秒の速度で加熱し、均熱温度は800~830℃とし、均熱保持時間は30~240秒とし、次いで、650~750℃まで2~20℃/秒(例えば、3~10℃/秒)の速度で冷却し、次いで、250~350℃まで20~80℃/秒の速度で冷却し、10~120秒間保持することを含んでもよい。いくつかの実施形態では、均熱温度まで1~20℃/秒の速度で加熱し、均熱温度は800~830℃とし、均熱保持時間は30~180秒とし、次いで、650~750℃まで3~10℃/秒の速度で冷却し、次いで、280~300℃まで20~80℃/秒の速度で冷却し、10~120秒間保持し、次いで、450~470℃まで5~20℃/秒の速度で加熱し、200~300秒間保持する。いくつかの実施形態では、均熱温度まで1~20℃/秒の速度で加熱し、均熱温度は810~830℃とし、均熱保持時間は30~240秒とし、露点温度は-50~20℃に制御し、次いで、650~720℃まで2~20℃/秒の速度で冷却し、次いで、250~350℃まで20~80℃/秒の速度で冷却し、10~120秒間保持する。
【0040】
例示的な溶融亜鉛メッキは、440~500℃の亜鉛メッキ温度および5~200秒の亜鉛メッキ時間を含む。亜鉛メッキの後、20℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却する。
【0041】
適切な熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、溶融メッキ/電気メッキ工程は、使用する高強度鋼や軟鋼に応じて選択できることを理解すべきである。
【0042】
本発明は、従来の技術と比べて、以下の利点を有する:
1、本発明は、高強度鋼本体の2つの表面にスポット溶接LME割れに鈍感な軟鋼複合層を複合圧延することで、スポット溶接時に、バリアの役割を果たす軟鋼複合層を介して、液体亜鉛が粒界に沿って高強度鋼本体の母材に浸透するのを回避し、根本的に高強度鋼本体のスポット溶接LME割れの問題を解決し、母材の機械的特性を確保しながら、抵抗スポット溶接性能が良好であり、スポット溶接LME敏感性が非常に低い。
【0043】
2、本発明の高強度鋼複合亜鉛メッキ板は、スポット溶接時に、溶接スパッタ発生前の継手にLME割れがなく、溶接スパッタ発生後の継手に、TypeAのLME割れの長さが板厚の10%を超えず、その数が6個を超えず、TypeDのLME割れの長さが板厚の3%を超えず、その数が3個を超えず、TypeB、TypeCのLME割れがなく、その基本的な溶接性能と母材の機械的特性は、自動車製造およびその他の関連分野の用途要件を満たしている。
【0044】
本発明は、高強度鋼本体の表面に軟鋼複合層を複合圧延することで、スポット溶接時に液体亜鉛が粒界に沿って母材に浸透するのを回避し、高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME敏感性を低下させ、スポット溶接LME割れの発生を効果的に回避し、スポット溶接LME割れ問題を緩和し、高強度鋼本体の抵抗スポット溶接性能を向上させ、スポット溶接継手の機械的特性を著しく改善する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明にかかるスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板の断面図である。
図2図2は、本発明にかかるスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板の実施例1における高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME評価結果(割れ長さ)を示す。
図3図3は、本発明にかかるスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板の実施例1における高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME評価結果(割れ数)を示す。
図4図4は、実施例1の対照例のスポット溶接LME評価結果(割れ長さ)を示す。
図5図5は、本発明にかかるスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板の実施例1におけるスポット溶接継手の硬度分布を示すグラフであり、ここで、
【数1】
は対照例のスポット溶接継手の硬度分布曲線を示し、
【数2】
は実施例1の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手の硬度分布曲線を示す。
1高強度鋼本体、2軟鋼複合層、3亜鉛メッキ層となっている。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を添付図面および具体的な実施形態と併せてさらに説明する。別途図示しないが、本明細書で対象とする鋼組成は、GB/T 13304.1~2008に規定される組成範囲に従う。
【0047】
添付の図1を参照すると、高強度鋼本体1、軟鋼複合層2および亜鉛メッキ層3を含み、2つの軟鋼複合層2が高強度鋼本体1の2つの表面にそれぞれ複合圧延され、軟鋼複合層2の少なくとも一方の表面に亜鉛メッキ層3が形成されて高強度鋼複合亜鉛メッキ板が形成されていることを特徴とするスポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板である。鋼種によってスポット溶接LME敏感性が異なり、スポット溶接LME割れは亜鉛メッキを施した高強度鋼の表面で発生するため、軟鋼複合層2の複合圧延によって高強度鋼本体1の表面のスポット溶接LME割れ敏感性を低減し、スポット溶接LME割れの発生を根本的に解決することができる。
【0048】
前記高強度鋼本体1は、スポット溶接LMEに敏感な高強度鋼であり、質量パーセントで、C≧0.14%、Mn≧1.5%、Si≧0.4%を含み、残部はFe、その他の合金元素および不純物元素であり、引張強度≧780MPaを有する。高強度鋼本体1は、スポット溶接LMEに敏感な任意の高強度鋼であってもよく、例えば、QP(Quenching and Partitioning、すなわち焼入れ分割鋼)、TRIP(transformation induced plasticity steel、すなわち変態誘起塑性鋼)、TWIP(twinning induced plasticity steel、すなわち双晶誘起塑性鋼)、DH(dual-phase high ductility steel、すなわち高延性二相鋼)、7Mn(Fe-7%Mn-0.3%C-2%Al)、10Mn(Fe-10%Mn-0.3%C-2%Al)、DP(dual-phase、すなわち二相鋼)、MS(Martensitic Steel、すなわちマルテンサイト鋼)などの鋼種である。
【0049】
前記軟鋼複合層2は、スポット溶接LMEに鈍感な軟鋼であり、CおよびMnを含有し、質量パーセントで、C含有量≦0.1%、Mn含有量≦0.7%、引張強度≦590MPa、例えば、IF鋼(interstitial-free steel、すなわち格子間原子フリー鋼)、アルミニウムキルド鋼、BH鋼(Bake Hardenable steel、すなわち焼付硬化鋼)、低合金鋼などである。
【0050】
前記高強度鋼本体1の生スラブ厚さと軟鋼複合層2の生スラブ厚さとの間に、L×A+M×B+N×C=Tの関係式を満たさなければならない。
【0051】
ここで、Aは複合スラブ厚さに対する一方の軟鋼複合層2の生スラブ厚さの割合、Cは複合スラブ厚さに対する他方の軟鋼複合層2の生スラブ厚さの割合、Bは複合スラブ厚さに対する高強度鋼本体1の生スラブ厚さの割合であり、A+B+C=100%である。複合スラブは、高強度鋼本体1と2つの軟鋼複合層2の生スラブ厚さの合計厚さである。
【0052】
Lは一方の軟鋼複合層2の焼鈍後の引張強度、Nは他方の軟鋼複合層2の焼鈍後の引張強度、Mは高強度鋼本体1の焼鈍後の引張強度である。
【0053】
Tは高強度鋼複合亜鉛メッキ板の目標引張強度である。
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、各軟鋼複合層2の厚さは10~200μmである。高強度鋼本体1の両側にある2つの軟鋼複合層2の厚さは、同じでも異なってもよい。
【0054】
前記高強度鋼複合亜鉛メッキ板において、亜鉛メッキ層3の厚さは4~26μmである。
【0055】
スポット溶接LME割れに耐性のある高強度鋼複合亜鉛メッキ板を調製する方法であって、以下の工程を含む:
工程1:高強度鋼本体1の生スラブおよび2つの軟鋼複合層2の生スラブを取り、2つの軟鋼複合層2の生スラブを高強度鋼本体1の生スラブの2つの表面に貼り付け、2つの軟鋼複合層2の生スラブの端部で高強度鋼本体1の生スラブの端部に溶接し、複合スラブを形成する。
【0056】
2つの軟鋼複合層2の生スラブが高強度鋼本体1の生スラブと積層される前に、平滑な仕上げを確実にするために、高強度鋼本体1と2つの軟鋼複合層2の積層面をサンディングして洗浄する必要がある。
【0057】
工程2:複合スラブを厚板分塊工程を経て加熱することによりその厚さを薄くし、初期圧延を行い、その後、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍等の工程を順次行うことにより、高強度鋼本体1の生スラブと2つの軟鋼複合層2の生スラブを冶金的に接合させ、引張強度Tのスラグを形成する。初期圧延、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍等の工程は、既存の製造工程から採用したものであり、ここでは説明を繰り返さない。
【0058】
工程3:溶融メッキ、電気メッキまたはその他の手段により、スラグの少なくとも一方の面に亜鉛メッキ層3をコーティングし、高強度鋼複合亜鉛メッキ板を形成する。亜鉛メッキ層3は、溶融メッキ、電気メッキ、または他の既存の工程によってコーティングすることができ、ここでは説明を繰り返さない。
【0059】
本発明の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接LME敏感性を評価するために、北米自動車/鉄鋼パートナーシップ(A/SP)が発行したRapid LME Test Procedure for Coated Sheet Steels V2.0規格を使用した。この規格では、割れの分布位置に基づいて、割れをTypeA、TypeB、TypeC、TypeDに分類している。TypeA割れは、スポット溶接継手上下面のスポット溶接電極先端と鋼板との接触部に存在し、溶接スパッタ発生前のTypeA割れの長さは≦板厚の10%であることが規格で要求されており、溶接スパッタ発生後のTypeA割れの長さについては規格に規定がない。TypeB割れは、スポット溶接継手上下面のスポット溶接電極と鋼板との非接触部に存在し、溶接スパッタ発生前、後に関係なく、TypeB割れの長さは≦板厚の5%であることが規格で要求されている。TypeC割れは、スポット溶接継手の上下層鋼板の接触部に存在し、溶接スパッタ発生前、後に関係なく、TypeC割れの長さは≦板厚の5%であることが規格で要求されている。TypeD割れは、スポット溶接継手上下面のくぼみのショルダー部に存在し、ここで、溶接厚さの変形量が最も大きく、溶接スパッタ発生前のTypeD割れの長さは≦板厚の5%、溶接スパッタ発生後のTypeD割れの長さは≦板厚の10%であることが規格で要求されている。
【0060】
本発明の高強度鋼複合亜鉛メッキ板は、抵抗スポット溶接LME割れに対して良好な耐性を有し、その良好な耐性とは、溶接スパッタ発生前の継手にLME割れがないこと、溶接スパッタ発生後の継手に、TypeAのLME割れの長さが板厚の10%を超えず、その数が6個を超えないこと、TypeDのLME割れの長さが板厚の3%を超えず、その数が3個を超えないこと、TypeB、TypeCのLME割れがないことである。同時に、本発明の高強度鋼複合亜鉛メッキ板の基本的な溶接性能および母材の機械的特性は、関連分野における適用要件を満たす。
【0061】
実施例1
図1を参照すると、(高強度鋼本体1としての)QP1180の生スラブを取った。高強度鋼本体1の生スラブは、質量パーセントで、0.18%のC、1.67%のSi、2.73%のMn、0.0089%のP、0.0009%のS、0.02%のTi、0.03%のCrを含み、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0062】
(軟鋼複合層2としての)IF鋼DC04の生スラブを取った。軟鋼複合層2の生スラブは、質量パーセントで、0.0015%のC、0.002%のSi、0.114%のMn、0.0119%のP、0.0044%のSを含み、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0063】
2つの軟鋼複合層2の生スラブ厚さは同じで、いずれも24mmであり、高強度鋼本体1の生スラブ厚さは182mmであった。高強度鋼本体1の生スラブと軟鋼複合層2の生スラブ(1枚)の厚さ比は7.5:1であり、本実施例では、A=C=10.5%、L=N=150MPa、B=79%、M=1250MPa、T=1019MPaであった。2つの軟鋼複合層2の生スラブ(厚さ同じ)は、複合スラブ化~厚板分塊~熱間圧延~酸洗~冷間圧延~焼鈍の工程で、高強度鋼本体1の生スラブの2つの表面に複合圧延し、スラグを得て、そのスラグの2つの表面に溶融亜鉛メッキにより亜鉛メッキ層3をコーティングして高強度鋼複合亜鉛メッキ板を形成した。その具体的な工程は以下の通りであった:
(1)熱間圧延:スラグを1200に加熱し、0.5時間保持した後、最終圧延温度850℃で熱間圧延し、30の速度で400まで冷却し、巻き取った。
【0064】
(2)冷間圧延:冷間圧延の変形量は50%であった。
(3)焼鈍:5℃/秒の速度で均熱温度800℃まで加熱し、均熱保持時間は50秒であり、3℃/秒の速度で650℃まで冷却し、次いで20℃/秒の速度で280℃まで冷却し、20秒保持し、次いで5℃/秒の速度で450℃まで加熱し、200秒保持した。
【0065】
(4)溶融亜鉛メッキ:亜鉛メッキ温度は450℃であり、亜鉛メッキ時間は20秒であった。亜鉛メッキの後、20℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却した。
【0066】
最終的に得られた高強度鋼複合亜鉛メッキ板の総厚さは1.5mmであり、2つの軟鋼複合層2の厚さは約160μmであり、亜鉛メッキ層3の厚さは約8.6μmであった。高強度鋼複合亜鉛メッキ板の降伏強度は696MPa、引張強度は1074MPa、破断伸び率は15%であり、QP980GIの要件を満たしており、中心層の組織はQP鋼の組織であり、マルテンサイトと残留オーステナイトを含んでいた。
【0067】
本実施例で複合圧延した高強度鋼複合亜鉛メッキ板について、A/SP発行のRapid LME Test Procedure for Coated Sheet Steels V2.0規格を用いて、スポット溶接LME敏感性を評価した。溶接電流≧11kAであると溶接スパッタが発生し、図2および図3に示すように、溶接スパッタ発生前の継手にLME割れがなく、溶接スパッタ発生後の継手にTypeAのLME割れの長さは板厚の10%を超えず、割れの数は6個を超えず、TypeDのLME割れの長さは板厚の3%を超えず、割れの数は3個を超えず、TypeBおよびTypeCのLME割れはなかった。この規格によれば、本実施例の高強度鋼複合亜鉛メッキ板は、スポット溶接LME低敏感性材であった。
【0068】
厚さ1.5mmのQP980GI材を対照例として使用し、QP980GI材の組成は、質量パーセントで、0.18%のC、1.8%のSi、2.3%のMn、0.001%のS、0.012%のP、0.017%のTiを含み、残部は鉄および不可避的不純物であった。QP980GI材の機械的特性:降伏強さは687MPa、引張強度は1068MPa、破断伸び率は22%であった。Rapid LME Test Procedure for Coated Sheet Steels V2.0規格を用いてQP980GI材のスポット溶接LME敏感性評価を行った。溶接電流≧10.5kAであると溶接スパッタが発生し、図4に示すように、スパッタ発生後のTypeA割れが許容されるため、対照としたQP980GI材の評価結果には、TypeA割れは含まれないが、板厚の90%に近い長さのTypeD割れと板厚の20%を超える長さのTypeC割れが発生していた。この材料は、この規格によればスポット溶接LME敏感性材料に分類された。
【0069】
表1に示すスポット溶接のパラメータを用いて、本実施例と対照例についてスポット溶接の基本性能を実験し、そのスポット溶接継手の硬度分布を図5に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
図5からわかるように、本実施例の高強度鋼複合亜鉛メッキ板の溶接可能区間は6.6kA~9.0kA、区間幅は2.4kAであり、対照例のQP980GI材の溶接可能区間は6.7kA~9.1kA、区間幅は2.4kAであり、両者の溶接可能区間は同等であった。溶接可能区間の下限は、生成した溶融核直径が5mmである時に対応する溶接電流であり、溶接可能区間の上限は、溶接スパッタの発生時に対応する最小溶接電流であった。これに対応して、両者の溶融核直径がいずれも5mmである時、両サンプルの継手TSS(Tensile Shear Strength)強度および継手CTS(Cross Tension Strength)強度を測定したところ、本実施例の継手TSS強度は13.89kN(この継手TSS強度値は測定した本実施例の3サンプルの平均値)であり、継手CTS強度は6.22kN(この継手CTS強度値は測定した本実施例の3サンプルの平均値)であり、対照例の継手TSS強度は14.033kN(この継手TSS強度値は測定した対照例の3サンプルの平均値)であり、継手CTS強度は4.277kN(この継手CTS強度値は測定した対照例の3サンプルの平均値)であった。このように、本実施例の継手TSS強度は対照例と同等であるが、複合圧延層のIF鋼の存在により、溶融核領域における炭素当量が減少し、その結果、溶融核の硬度が低下し、溶融核の塑性が向上するため、本実施例の継手CTS強度は対照例と比較して大幅に向上していた。
【0072】
実施例2
図1を参照すると、(高強度鋼本体1としての)QP1180の生スラブを取った。高強度鋼本体1の生スラブは、質量パーセントで、0.18%のC、1.67%のSi、2.73%のMn、0.0089%のP、0.0009%のS、0.02%のTi、0.03%のCrを含み、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0073】
(軟鋼複合層2としての)IF鋼DC04の生スラブを取った。軟鋼複合層2の生スラブは、質量パーセントで、0.0015%のC、0.002%のSi、0.114%のMn、0.0119%のP、0.0044%のSを含み、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0074】
高強度鋼本体1の生スラブおよび軟鋼複合層2の生スラブ(両側の軟鋼複合層2の生スラブは同じ厚さを有する)を、それぞれ、5.5:1、7.5:1、10.5:1、16.5:1および35.5:1(この比率は、高強度鋼本体1の生スラブの厚さと軟鋼複合層の生スラブ1枚の厚さの比率である)の厚さ比で複合スラブ化し、本発明の調製方法で、複合スラブ化~厚板分塊~熱間圧延~酸洗~冷間圧延~焼鈍~溶融亜鉛メッキ等の工程を経て、軟鋼複合層2の厚さが異なる高強度鋼複合亜鉛メッキ板を得て、各高強度鋼複合亜鉛メッキ板(1#~5#)の詳細情報を表2に示す。具体的な工程は以下の通りであった:
(1)熱間圧延:スラグを1230℃に加熱し、1時間保持した後、最終圧延温度920℃で熱間圧延し、50℃/秒の速度で550℃まで冷却し、巻き取った。
【0075】
(2)冷間圧延:冷間圧延の変形量は60%であった。
(3)焼鈍:10℃/秒の速度で均熱温度810℃まで加熱し、均熱保持時間は100秒であり、7℃/秒の速度で700℃まで冷却し、次いで50℃/秒の速度で300℃まで冷却し、80秒保持し、次いで15℃/秒の速度で470℃まで加熱し、300秒保持した。
【0076】
(4)溶融亜鉛メッキ:亜鉛メッキ温度は480℃であり、亜鉛メッキ時間は100秒であった。亜鉛メッキの後、20℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却した。
【0077】
【表2】
【0078】
1#~5#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板について、A/SP発行のRapid LME Test Procedure for Coated Sheet Steels V2.0規格を使用して、それぞれのスポット溶接LME敏感性を評価した。その結果、表3に示すように、溶接スパッタが発生する前に、1#~5#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手にはLME割れがなかった。溶接スパッタが発生した後に、1#~5#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手にはTypeBおよびTypeCのLME割れがなく、TypeAのLME割れの長さは板厚の10%を超えず、割れの数は6個を超えず、TypeDのLME割れの長さは板厚の3%を超えず、割れの数は3個を超えなかった。
【0079】
【表3】
【0080】
実施例3
図1を参照すると、(高強度鋼本体1としての)QP1180の生スラブを取った。高強度鋼本体1の生スラブは、質量パーセントで、0.18%のC、1.67%のSi、2.73%のMn、0.0089%のP、0.0009%のS、0.02%のTi、0.03%のCrを含み、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0081】
軟鋼複合層2の生スラブとして、冷延炭素構造用鋼St37-2G、リン添加高強度鋼HC220P、高強度IF鋼HC180Y、焼付硬化鋼HC180B、低合金高強度鋼HC300LAをそれぞれ取った。上記5種類の軟鋼複合層2の生スラブの主な化学組成を質量パーセントで表4に示し、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0082】
【表4】
【0083】
高強度鋼本体1の生スラブと上記5種類の軟鋼複合層2の生スラブ(1枚)を厚さ比7.5:1により複合スラブ化し、本発明の調製方法に従い、複合スラブ化~厚板分塊~熱間圧延~酸洗~冷間圧延~焼鈍~溶融亜鉛メッキ等の工程を経て、異なる軟鋼複合層2を有する高強度鋼複合亜鉛メッキ板6#~10#を得た。各高強度鋼複合亜鉛メッキ板(6#~10#)の詳細情報を表5に示す。具体的な工程は以下の通りであった:
(1)熱間圧延:スラグを1250℃に加熱し、2時間保持した後、最終圧延温度980℃で熱間圧延し、90℃/秒の速度で630℃まで冷却し、巻き取った。
【0084】
(2)冷間圧延:冷間圧延の変形量は70%であった。
(3)焼鈍:20℃/秒の速度で均熱温度830℃まで加熱し、均熱保持時間は160秒であり、8℃/秒の速度で750℃まで冷却し、次いで70℃/秒の速度で300℃まで冷却し、100秒保持し、次いで15℃/秒の速度で470℃まで加熱し、200秒保持した。
【0085】
(4)溶融亜鉛メッキ:亜鉛メッキ温度は500℃であり、亜鉛メッキ時間は180秒であった。亜鉛メッキの後、20℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却した。
【0086】
【表5】
【0087】
本実施例で複合圧延された6#~10#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板について、A/SP発行のRapid LME Test Procedure for Coated Sheet Steels V2.0規格を使用して、それぞれのスポット溶接LME敏感性を評価した。その結果、溶接スパッタが発生する前に、6#~10#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手にはLME割れがなかった。溶接スパッタが発生した後に、6#~10#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手にはTypeBおよびTypeCのLME割れがなく、TypeAのLME割れの長さは板厚の10%を超えず、割れの数は6個以下であり、TypeDのLME割れの長さは板厚の3%以下であり、割れの数は3個を超えなかった。
【0088】
実施例4
図1を参照すると、(高強度鋼本体1としての)DH980の生スラブを取った。高強度鋼本体1の生スラブは、質量パーセントで、0.18%のC、0.48%のSi、2.4%のMn、0.021%のCr、0.04%のNb、0.02%のTi、0.0004%のB、0.009%のP、0.001%のS、0.23%のAlを含み、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0089】
軟鋼複合層2の生スラブとして、IF鋼DC04、冷延炭素構造用鋼St37-2G、リン添加高強度鋼HC220P、高強度IF鋼HC180Y、焼付硬化鋼HC180Bをそれぞれ取った。上記5種類の軟鋼複合層2の生スラブの主な化学組成を質量パーセントで表6に示し、残部は鉄および不可避的不純物元素であった。
【0090】
【表6】
【0091】
各複合層のスラブの原料は、7.5:1(高強度鋼本体の厚さと軟鋼スラブ1枚の厚さの比率)の厚さに比例して圧延し、使用に備えた。各複合層の隣接する界面を洗浄し、酸化スケールなどの不純物を除去した。接触する各複合層の境界を溶接して密封し、複合層間の酸素は真空引きによって除去し、その後、複合スラブを圧延した。以下の熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍および溶融亜鉛メッキ工程を経て、異なる軟鋼複合層2を有する高強度鋼複合亜鉛メッキ板11#~15#を得て、各高強度鋼複合亜鉛メッキ板(11#~15#)の詳細情報を表7に示す。
【0092】
(1)熱間圧延:スラグを1280℃に加熱し、4時間保持した後、最終圧延温度950℃で熱間圧延し、80℃/秒の速度で600℃まで冷却し、巻き取った。
【0093】
(2)酸洗
(3)冷間圧延:冷間圧延の変形量は40%であった。
【0094】
(4)焼鈍:15℃/秒の速度で均熱温度810℃まで加熱し、均熱保持時間は200秒であり、露点温度は0℃に制御し、次いで、10℃/秒の速度で670℃まで冷却し、次いで、60℃/秒の速度で320℃まで冷却し、80秒保持した。
【0095】
(6)溶融亜鉛メッキ:亜鉛メッキ温度は450℃であり、亜鉛メッキ時間は1600秒であった。亜鉛メッキの後、20℃/秒以上の冷却速度で室温まで冷却した。
【0096】
【表7】
【0097】
本実施例で複合圧延された6#~10#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板について、A/SP発行のRapid LME Test Procedure for Coated Sheet Steels V2.0規格を使用して、それぞれのスポット溶接LME敏感性を評価した。その結果、溶接スパッタが発生する前に、11#~15#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手にはLME割れがなかった。溶接スパッタが発生した後に、11#~15#の高強度鋼複合亜鉛メッキ板のスポット溶接継手にはTypeBおよびTypeCのLME割れがなく、TypeAのLME割れの長さは板厚の10%を超えず、割れの数は6個以下であり、TypeDのLME割れの長さは板厚の3%以下であり、割れの数は3個を超えなかった。
【0098】
以上は本発明の好ましい実施例に過ぎず、発明の保護範囲を限定するものではないため、本発明の主旨や原則以内において行われるいかなる修正や、均等置換、改善などが、本発明の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】