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特表2025-506543エンシフェントリンを含む無菌液体医薬組成物の滅菌プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-11
(54)【発明の名称】エンシフェントリンを含む無菌液体医薬組成物の滅菌プロセス
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20250304BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20250304BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250304BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250304BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P11/00
A61P11/06
A61P29/00
A61K9/72
A61K9/08
A61K9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024549206
(86)(22)【出願日】2023-02-20
(85)【翻訳文提出日】2024-09-04
(86)【国際出願番号】 GB2023050372
(87)【国際公開番号】W WO2023156794
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】2202297.4
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BRIJ
2.プルロニック
3.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】515259535
【氏名又は名称】ヴェローナ ファーマ ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】スパーゴ、ピーター リオネル
(72)【発明者】
【氏名】ヘイウッド、フィリップ エー
(72)【発明者】
【氏名】フレンチ、エドワード ジェームズ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA12
4C076AA22
4C076AA93
4C076BB22
4C076CC04
4C076CC15
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD46
4C076FF36
4C076FF63
4C076GG43
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA57
4C086NA03
4C086ZA59
4C086ZB11
(57)【要約】
本発明は、エンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するためのプロセスに関し、プロセスは以下を含む:(a)無菌エンシフェントリン粒子を得るために100℃から220℃までの温度でエンシフェントリン粒子を加熱すること;および(b)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するために無菌エンシフェントリン粒子を無菌液体ビヒクルと組み合わせること。また無菌液体医薬組成物を含むアンプルを製造するためのプロセスも記載される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するためのプロセスであって、プロセスは以下を含む:
(a)無菌エンシフェントリン粒子を得るために100℃から220℃までの温度でエンシフェントリン粒子を加熱すること;および
(b)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するために無菌エンシフェントリン粒子を無菌液体ビヒクルと組み合わせること。
【請求項2】
エンシフェントリン粒子を120℃から200℃までの温度で加熱することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
エンシフェントリン粒子を140℃から180℃までの温度で加熱することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
エンシフェントリン粒子を該温度で、10分から24時間までの時間加熱することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
エンシフェントリン粒子を該温度で、30分から360分までの時間加熱することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
エンシフェントリン粒子を145℃から175℃までの温度で、45分から160分までの時間加熱することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
エンシフェントリン粒子を155℃から165℃までの温度で、110分から130分までの時間加熱することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
エンシフェントリン粒子が、エンシフェントリン粒子の総重量に対して少なくとも95重量%のエンシフェントリンまたはその医薬上許容し得る塩を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
エンシフェントリン粒子が、乾燥粉末の形態である、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
エンシフェントリン粒子が、0.5から5.0μmまでのDv50の粒子径分布を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
無菌液体ビヒクルが、希釈剤ならびに任意で界面活性剤、緩衝剤および等張化剤から選択される1つ以上の追加の賦形剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
無菌液体ビヒクルが、希釈剤である水を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
無菌液体ビヒクルが、単一の希釈剤である水を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
無菌液体ビヒクルが:水、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム二水和物、ポリソルベート20およびソルビタンラウレートを含む、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
さらに液体ビヒクルの無菌ろ過により無菌液体ビヒクルを製造することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を100℃以上の温度で加熱することをさらには含まない、先行する請求項のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を含むアンプルを製造するためのプロセスであって、プロセスは以下を含む:
(i)請求項1~16のいずれか1項に定義されたプロセスによるエンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造すること;および
(ii)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物をアンプルに充填すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明分野
本発明は、活性医薬成分を含む無菌製剤を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ある種の医薬品は、患者に投与する前に厳しい無菌基準を満たさなければならない。医薬品に対する無菌性の重要性を考慮して、多数の異なるプロセス、プロトコルおよび技術が医薬品の滅菌のために開発されている。これらとしては、蒸気滅菌、乾熱滅菌、電離放射線滅菌(X線およびガンマ線滅菌など)、ガス滅菌、無菌性ろ過および無菌加工などが挙げられる。新薬に対する滅菌プロトコルの選択は、種々の利用可能な方法の評価および特定の製品に対するそれらの適合性に依存する複雑なプロセスである。
【0003】
エンシフェントリン(N-(2-{(2E)-9,10-ジメトキシ-4-オキソ-2-[(2,4,6-トリメチルフェニル)イミノ]-6,7-ジヒドロ-2H-ピリミド[6,1-a]イソキノリン-3(4H)-イル}エチル)尿素;RPL554としても公知)は、PDE3/PDE4のデュアル阻害剤であり、WO00/58308A1に記載されている。エンシフェントリンは、気管支拡張および抗炎症の両方の作用を有し、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系障害の治療に有用である。エンシフェントリンの構造は以下に示す。
【0004】
【化1】
【0005】
エンシフェントリンは、WO2016/042313A1に記載されているように、希釈剤中に粒子の懸濁液として製剤化してもよい。
【0006】
エンシフェントリン粒子を含む液体医薬組成物を滅菌するための適切な方法は記載されていない。滅菌されたエンシフェントリン懸濁液を製造するためのプロセスを開発する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、利用可能なすべての滅菌技術のうち、活性剤の粒子を乾熱滅菌し、その後無菌的に配合することが、懸濁液としてのエンシフェントリンの製剤化に特に適していることを見出した。最終滅菌や乾式燥ガンマ線滅菌などの他の技術は、製剤の劣化を引き起こすことが判明した。
【0008】
本発明は、従って、エンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するためのプロセスを提供し、プロセスは以下を含む:(a)無菌エンシフェントリン粒子を得るために100℃から220℃までの温度でエンシフェントリン粒子を加熱すること;および(b)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するために無菌エンシフェントリン粒子を無菌液体ビヒクルと組み合わせること。
【0009】
本発明は、さらに吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を含むアンプルを製造するためのプロセスを提供し、プロセスは以下を含む:(i)本明細書で定義されるプロセスによる、エンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造すること;および(ii)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物をアンプルに充填すること。
【0010】
発明の詳細な説明
本発明のプロセスは、無菌液体医薬組成物を製造する。無菌液体医薬組成物は、吸入による投与に適する。無菌液体医薬組成物は、無菌エンシフェントリン粒子を含む。
【0011】
用語「無菌」は、生存可能な微生物を本質的に含まない組成物を指す。このように、無菌組成物は、典型的には、生存可能な細菌または真菌を実質的に含まない組成物である。用語「無菌」は、当該技術分野において周知である。
【0012】
無菌液体医薬組成物の無菌性保証レベル(SAL)は、10-3以下、10-6以下または10-9以下でもよい。例えば、SALが10-6は、最終製品が非無菌である確率が1/10であることを意味する。無菌液体医薬組成物の総生物負荷限界値は、10CFU/mL以下、または1CFU/mL以下であってもよい。「CFU」は、コロニー形成単位である。生物負荷は、USP31<61>に記載されているようなプレートカウント法、例えば、プアープレート(pour-plate)法を用いて測定してもよい。
【0013】
典型的に、液体医薬組成物の無菌性は、USP<71>またはPh Eur 2.6.1に従って決定される。液体医薬組成物は、典型的には、USP<71>またはPh Eur 2.6.1に定義される許容判定基準を満たす。
【0014】
医薬組成物は、液体医薬組成物であり、それ自体、周囲温度条件下(例えば、10から40℃までの温度で)で液体である。
【0015】
無菌液体医薬組成物は、無菌エンシフェントリン粒子を含む。エンシフェントリン粒子は、エンシフェントリン(すなわちエンシフェントリン遊離塩基)またはその医薬上許容し得る塩を含む。典型的には、エンシフェントリン粒子は、エンシフェントリン遊離塩基を含む。エンシフェントリン粒子は、典型的には、少なくとも90.0wt%、好ましくは少なくとも95.0wt%のエンシフェントリンまたはその医薬上許容し得る塩を含む。エンシフェントリン粒子は、本質的にエンシフェントリンまたはその医薬上許容し得る塩からなりうる、またはエンシフェントリンまたはその医薬上許容し得る塩からなりうる。例えば、エンシフェントリン粒子は、エンシフェントリン遊離塩基からなりうる。
【0016】
ある成分から本質的になる組成物は、その成分と、その組成物が本質的になる成分の本質的特徴に重大な影響を与えない他の成分のみを含む。ある成分から本質的になる組成物は、典型的には、組成物の総重量に対して少なくとも99.5wt%のその成分を含む。
【0017】
無菌液体医薬組成物中の無菌エンシフェントリン粒子は、無菌液体ビヒクル中に懸濁してもよい。従って、無菌液体医薬組成物は、典型的には、エンシフェントリン粒子の懸濁液を含む。無菌液体医薬組成物中のエンシフェントリン粒子の一部または全部が、例えば、一定期間の貯蔵後に、無菌液体医薬組成物を含む容器の底に沈降している場合もあってもよい。エンシフェントリン粒子は、任意の適切な方法、例えば、無菌液体医薬組成物の撹拌によって再懸濁されてもよい。
【0018】
プロセスの工程(a)は、典型的には、エンシフェントリン粒子を120℃から200℃までの温度で加熱することを含む。プロセスは、140℃から180℃までの温度で、例えば150℃から170℃まで、または155℃から165℃までの温度で、エンシフェントリン粒子を加熱することを含んでもよい。
【0019】
エンシフェントリン粒子は、無菌エンシフェントリン粒子を製造するのに適した任意の期間加熱してもよい。プロセスは、典型的には、エンシフェントリン粒子を該温度で、10分から24時間までの時間加熱することを含む。プロセスは、エンシフェントリン粒子を該温度で、30分から360分、例えば、45分から160分または60分から140分までの時間加熱することを含んでもよい。
【0020】
プロセスは、好ましくは、145℃から175℃までの温度で、45分から160分までの時間で、エンシフェントリン粒子を加熱することを含む。例えば、プロセスは、155℃から165℃までの温度で、110分から130分までの時間で、エンシフェントリン粒子を加熱することを含んでもよい。
【0021】
エンシフェントリン粒子を一定の範囲の温度で一定の時間加熱することは、エンシフェントリン粒子の温度がその範囲内の温度に全時間保持されることを意味する。エンシフェントリン粒子は、典型的には、1回の加熱工程で該当する時間加熱されるが、加熱は、代替的に2回以上の別個の加熱工程で実施されてもよい。例えば、140℃から180℃までの温度で60分間加熱することは、60分間の継続時間を有する単一の加熱工程を含んでもよいし、それぞれ30分間の継続時間を有する2つの別個の加熱工程を含んでもよい。典型的には、エンシフェントリン粒子は、該時間の該温度の単一の加熱工程で加熱される。
【0022】
工程(a)は典型的には乾熱滅菌プロセスである。エンシフェントリン粒子は、典型的には、乾燥粉末の形態である。従って、プロセスは、エンシフェントリン粒子を含む乾燥粉末を100℃から220℃までの温度で加熱して、エンシフェントリン粒子を含む無菌乾燥粉末を得ることを含んでもよい。典型的には、エンシフェントリン粒子は、それ自体で乾熱処理に供される。プロセスは、エンシフェントリン粒子の乾燥粉末(すなわち、本質的にエンシフェントリン粒子からなる乾燥粉末)を100℃から220℃までの温度で加熱して、エンシフェントリン粒子の無菌乾燥粉末を得ることを含んでもよい。乾燥粉末は、典型的には、5.0wt%未満、1.0wt%未満または0.1wt%未満の含水率を有する粉末である。
【0023】
エンシフェントリン粒子は、典型的には0.5μmから5.0μmまでのDv50の粒子径分布を有する。好ましくは、エンシフェントリン粒子は1.0μmから2.0μmまでのDv50を有する。典型的には、エンシフェントリン粒子のDv10は0.2μmから1.0μmまでであり、エンシフェントリン粒子のDv90は2.5μmから6.0μmまでである。例えば、エンシフェントリン粒子のDv10は0.4μmから0.6μmまでであっても、エンシフェントリン粒子のDv90は2.8μmから4.2μmであってもよい。
【0024】
粒子径は、体積分布のメジアン粒子径であるDv50値を参照して本明細書では記載される。したがって、粒子の体積の半分はDv50値未満の直径を有し、粒子の体積の半分はDv50値より大きい直径を有する。これは粒子径分布を表すよく知られた方法である。Dv10とDv90のパラメータもサンプルの粒子径分布を特徴付けるのに使用されてもよい。粒子体積の10%がDv10値未満の直径を有する。粒子体積の90%がDv90値未満の直径を有する。
【0025】
本明細書中で言及するDv50(およびDv10およびDv90)値を測定するために使用される技術は、典型的にはレーザー回折である。エンシフェントリン粒子の粒子径分布は、湿式粉末分散システムを用いてレーザー回折によって測定されたものであってもよい。例えば、粒子径分布は、湿式分散セルと組み合わせたマルバーンスプレーテック(Malvern Spraytec)を使用するレーザー回折によって測定することができる。典型的には、マルバーンスプレーテックのための装置パラメータは次のとおりである:
・粒子-標準の不透明粒子;
・屈折率粒子-1.50;
・屈折率(虚数)-0.50;
・粒子の密度-1.00;
・分散剤の屈折率-1.33;
・制御ユニット-1000RPM;
・測定タイプ-時間指定;
・初期サンプリング時間-30s;
・減衰率-20%~30%;
・分散剤-脱イオン水中の1%ポリソルベート20。
【0026】
エンシフェントリン粒子は、任意の医薬上許容されるサイズ減少プロセスまたは粒子径制御製造プロセスによって製造されてもよい。例えば、粒子は、エンシフェントリンの溶液を噴霧乾燥することによって、制御された結晶化によって、またはエンシフェントリンの固体形態のサイズ減少によって、例えば、エアジェット粉砕、機械的微粒子化または媒体粉砕によって製造され得る。
【0027】
プロセスは、さらに吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造するために無菌エンシフェントリン粒子を無菌液体ビヒクルと組み合わせることを含む。無菌エンシフェントリン粒子を無菌液体ビヒクルと組み合わせることは、典型的には、無菌エンシフェントリン粒子を無菌液体ビヒクルと混合することを含む。
【0028】
無菌液体ビヒクルは、典型的には、1つ以上の希釈剤を含む。希釈剤は任意の適切な液体希釈剤であってもよい。例えば、無菌液体ビヒクルは、典型的には、希釈剤である水を含む。無菌液体ビヒクルは、1つ以上の追加の希釈剤を含んでもよいし、無菌液体ビヒクルが単一の希釈剤を含んでもよい。無菌液体ビヒクルは、単一の希釈剤である水を含んでもよい。
【0029】
水を含む無菌液体ビヒクルは、ネブライザーでの使用に適した無菌液体医薬組成物を製造するために使用してもよい。無菌液体ビヒクルは、典型的には、界面活性剤、緩衝剤および等張化剤から選択される1つ以上の追加の賦形剤をさらに含む。
【0030】
無菌液体ビヒクルは、典型的には、さらに等張化剤を含む。等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、グリセリンおよびマンニトールが挙げられる。好ましくは、等張化剤は塩化ナトリウムである。
【0031】
無菌液体ビヒクル中の等張化剤の濃度は、典型的には1.0mg/mL以上(例えば、1.0から50.0mg/mLまで)である。好ましくは、等張化剤濃度は4.0から20.0mg/mLまでまたは6.0から12.0mg/mLまでである。
【0032】
無菌液体ビヒクルは、典型的には、1つ以上の界面活性剤をさらに含む。1つ以上の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、またはそれらの混合物を含んでもよい。典型的には、1つ以上の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を含む。
【0033】
界面活性剤の例としては、レシチン、オレイン酸、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル類(例えば、PEG300、PEG600、PEG1000、Brij30,Brij35、Brij56、Brij76およびBrij97)、ポリプロピレングリコール(例えば、PPG2000)、グルコシドアルキルエーテル類、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレングリコールアルキルフェノールエーテル類、グリセロールアルキルエステル類、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル類(ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80)、ソルビタンアルキルエステル類(例えば、ソルビタンモノラウレート(Span20)、ソルビタンモノオレエート(Span80)およびソルビタントリオレエート(Span85))、コカミドMEA、コカミドDEA、ドデシルジメチルアミンオキサイド、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのブロックコポリマー(poloxamer)、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレンオキサイドのブロックコポリマー(例えば、プルロニック界面活性剤)、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルアルコール、オリゴ乳酸、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムおよびポリエトキシル化牛脂アミン(POEA)が挙げられる。
【0034】
好ましくは、1つ以上の界面活性剤は、ポリソルベートおよび/またはソルビタンアルキルエステルを含む。1つ以上の界面活性剤は、例えば、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)またはポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート)を含んでもよい。1つ以上の界面活性剤は、例えば、ソルビタンモノラウレート(Span20)、ソルビタンモノオレート(Span80)またはソルビタントリオレート(Span85)を含んでもよい。好ましくは、無菌液体ビヒクルは、ポリソルベート20および/またはソルビタンモノラウレート(Span20)を含む。
【0035】
無菌液体ビヒクルは2つ以上の界面活性剤を含んでもよいし、または無菌液体ビヒクルは単一の界面活性剤を含んでもよい。例えば、組成物は、単一の界面活性剤のポリソルベート、例えば、ポリソルベート20を含んでもよい。無菌液体ビヒクルは、2つ以上の界面活性剤を含んでもよい。例えば、無菌液体ビヒクルは、ポリソルベート20およびソルビタンモノラウレート(Span20)を含んでもよい。
【0036】
無菌液体ビヒクル中の1つ以上の界面活性剤の総濃度は、典型的には、0.01から2.0mg/mLまでである。好ましくは、界面活性剤の総濃度は、0.1から1.0mg/mLまでである。例えば、無菌液体ビヒクル中の界面活性剤の総濃度は、0.25から0.75mg/mLまでであってもよい。無菌液体ビヒクルは、例えば、ポリソルベートを0.1から1.0mg/mLまでの濃度で、任意でソルビタンアルキルエステルを0.01から0.1mg/mLまでの濃度で含む。
【0037】
無菌液体ビヒクルは、典型的には、1つ以上の緩衝剤をさらに含む。緩衝液は、液体医薬組成物のpHを制御するために使用することができる。緩衝液は、典型的には、弱酸およびその共役塩基を含む。緩衝剤の例としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液および重炭酸緩衝液が挙げられる。
【0038】
好ましくは、緩衝液は、リン酸緩衝液である。例えば、無菌液体ビヒクルは、リン酸二水素ナトリウム二水和物および/またはリン酸二ナトリウム二水和物を含んでもよい。
【0039】
無菌液体ビヒクルのpHは、典型的には、6.0から7.5まで、例えば、6.2から7.2までである。無菌液体ビヒクルのpHは、6.5から6.9までであってもよい。無菌液体ビヒクルのpHは、典型的には、20℃の温度で測定したpHである。無菌液体ビヒクルのpHは、任意の適切な技術によって測定されてもよい。例えば、pHは、電位差測定pHメーターを用いて測定されたものであってもよい。
【0040】
無菌液体ビヒクル中の1つ以上の緩衝剤の総濃度は、典型的には、0.1から20.0mg/mLまでである。好ましくは、緩衝液濃度は、1.0から2.0mg/mLまでである。緩衝液の濃度は、緩衝液の酸および共役塩基成分の両方を含む。
【0041】
典型的には、無菌液体ビヒクルは:水、1つ以上の等張化剤、1つ以上の緩衝剤、および1つ以上の界面活性剤を含む。例えば、無菌液体ビヒクルは:水、塩化ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム二水和物、ポリソルベート20およびソルビタンラウレートを含んでもよい。
【0042】
プロセスは、典型的には、さらに無菌液体ビヒクルを製造することを含む。無菌液体ビヒクルは、液体ビヒクルを滅菌すること、例えば、液体ビヒクルの無菌ろ過、熱処理またはガンマ線処理によって製造されてもよい。無菌液体ビヒクルは、典型的には、液体ビヒクルの無菌ろ過により製造される。無菌ろ過は、典型的には、液体ビヒクルを公称孔径0.5μm以下、または0.3μm以下(例えば約0.2μm)を有するフィルターを通してろ過することを含む。
【0043】
本発明のプロセスは、無菌加工および配合を通じて無菌液体医薬組成物を製造する。このように、プロセスは、典型的には、最終滅菌(これは、組成物中の不純物の存在を引き起こすことが見出されている)の追加の工程をさらに含まない。例えば、このプロセスは、典型的には、エンシフェントリン粒子を含む吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を100℃以上の温度で加熱することをさらには含まない。
【0044】
プロセスによって製造される無菌液体医薬組成物中のエンシフェントリン粒子の濃度は、任意の適切な濃度、例えば0.01から400mg/mLまででありうる。典型的には、エンシフェントリン粒子の濃度は、0.1から5.0mg/mLまでである。好ましくは、エンシフェントリン粒子の濃度は、0.1から2.5mg/mLまでである。例えば、エンシフェントリン粒子の濃度は、0.15から0.5mg/mLまで、または1.0から2.0mg/mLまでであってもよい。
【0045】
例えば、無菌液体医薬組成物は以下を含んでもよい:
・水;
・濃度が0.1から20mg/mLまでのエンシフェントリン遊離塩基からなる粒子;
・総濃度が1.0から15mg/mLまでの1つ以上の等張化剤;
・総濃度が0.1から4mg/mLまでの1つ以上の緩衝剤;および
・総濃度が0.05から3mg/mLまでの1つ以上の界面活性剤。
【0046】
無菌液体医薬組成物は以下を含んでもよい:
・水;
・0.5から6mg/mLまでの濃度のエンシフェントリン遊離塩基を含む粒子;
・5から12mg/mLまでの濃度の塩化ナトリウム;
・0.3から2mg/mLまでの濃度のリン酸二水素ナトリウム二水和物;
・0.3から2mg/mLまでの濃度のリン酸二ナトリウム二水和物;
・0.1から1.5mg/mLまでの濃度のポリソルベート20;および
・0.01から0.5mg/mLまでの濃度のソルビタンラウレート。
【0047】
本発明は、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を含むアンプルを製造するためのプロセスも提供する。プロセスは以下を含む:(i)本明細書で定義されるプロセスにより、エンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造すること;および(ii)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物をアンプルに充填すること。アンプルは、ガラスアンプルまたはプラスチックアンプルであってもよい。アンプルは、典型的には、ポリエチレンプラスチックアンプルである。アンプルは、充填後、個々にアルミホイルパウチでオーバーラップしてもよい。
【0048】
アンプルはブローフィルシールアンプルであってもよい。例えば、プロセスは、ブローフィルシール技術を使用してアンプルを製造するためのプロセスであってよく、このアンプルは、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を含み、このプロセスは:(i)本明細書で定義されるプロセスによって、エンシフェントリン粒子を含む、吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物を製造すること;および(ii)吸入による投与に適した無菌液体医薬組成物で充填されたブローフィルシールアンプルを製造することを含む。
【実施例
【0049】
方法
アッセイ試験を表1に示す主要高速液体クロマトグラフィー(HPLC)パラメータを用いて、デュープリケートで行った。
【0050】
【表1】
【0051】
不純物の定量は、表2に示す主要高速液体クロマトグラフィー(HPLC)パラメータを用いて、デュープリケートで行った。
【0052】
【表2】
【0053】
試験生成物
異なる滅菌技術の効果を評価した:
(i)エンシフェントリン粒子を含む懸濁液製剤(最終滅菌);および
(ii)懸濁液として製剤化する前のエンシフェントリン粒子(無菌配合および充填)。
【0054】
表3から表5に示す製剤を有する3つの水性懸濁液を調製した。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
製剤化されていないエンシフェントリン粒子を乾燥粉末として評価した。
【0059】
滅菌技術
表6に示す滅菌技術を評価した。
【0060】
【表6】
【0061】
技術CからFにより得られた滅菌された微粉化エンシフェントリンは、その後、無菌ビヒクルと組み合わされ、懸濁液製剤を得ることができる。
【0062】
結果
滅菌技術AからFのそれぞれで得られた生成物のアッセイおよび関連物質を、上述のHPLC法で評価した。結果を表7にまとめた。
【0063】
【表7】
【0064】
結論
表7の結果は、最終熱処理(技術A)、最終ガンマ照射(技術B)および乾式ガンマ照射(技術F)は、エンシフェントリン粒子の滅菌された懸濁液の調製に使用する場合、いくらかの劣化を引きおこすことを示した。
【0065】
しかしエンシフェントリン粒子は乾熱処理による滅菌に対して非常に耐性があり、150℃から170℃までの温度で処理しても純度またはアッセイに有意な変化はないことが認められた。160℃で少なくとも120分間の乾熱処理が好ましい。乾熱処理により得られた滅菌されたエンシフェントリン粒子は、無菌配合および加工において懸濁液ビヒクルと組み合わせて、エンシフェントリンを含む無菌懸濁液製剤を得ることができる。
【国際調査報告】