(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-13
(54)【発明の名称】板状金属部材へのボルトの止水取付構造
(51)【国際特許分類】
F16B 35/04 20060101AFI20250306BHJP
B60R 9/048 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
F16B35/04 E
B60R9/048
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527232
(86)(22)【出願日】2023-03-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2023007454
(87)【国際公開番号】W WO2023167210
(87)【国際公開日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2022031456
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】増井 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光希
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩二
【テーマコード(参考)】
3D020
【Fターム(参考)】
3D020AA01
3D020AB01
3D020AC01
3D020AD13
(57)【要約】
本発明は、板状金属部材へのボルトの止水取付構造である。ボルトとして、おねじの上端とボルトの頭部の座面との間のねじなし部25をおねじ22の有効径よりも太くしたかしめボルトを用いる。このかしめボルトを板状金属部材の下穴に挿入してかしめることにより、下穴の周縁部の金属がねじなし部25に向かって塑性変形し、ねじなし部25に密着して止水した構造となる。また、かしめボルトの座面にシール剤を塗布することにより、かしめ時に板状金属部材の下穴の周縁部とボルトとの間にシール剤が流入し、止水した構造を持つようにしてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状金属部材へのボルトの止水取付構造であって、
前記ボルトが前記板状金属部材の下穴に挿入され、かしめられたかしめボルトであり、
このかしめボルトは、ボルト軸部に形成されたおねじの上端とボルトの頭部座面との間のねじなし部を前記おねじの有効径よりも太くしたものであり、
前記板状金属部材の下穴の周縁部の金属がかしめ時に前記ねじなし部に向かって塑性変形し、前記ねじなし部に密着して止水した構造を持つことを特徴とする板状金属部材へのボルトの止水取付構造。
【請求項2】
板状金属部材へのボルトの止水取付構造であって、
前記ボルトが前記板状金属部材の下穴に挿入され、かしめられたかしめボルトであり、
前記ボルトの座面にシール剤を塗布することにより、かしめ時に前記板状金属部材の下穴の周縁部と前記ボルトとの間にシール剤が流入し、止水した構造を持つことを特徴とする板状金属部材へのボルトの止水取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状金属部材へのボルトの止水取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の天井部を構成するルーフパネルにルーフレールを取付けるためには、ルーフレールブラケットと呼ばれる板状金属部材が用いられる。特許文献1に示されるように、ルーフレールブラケットにボルトを取付け、このボルトを利用してルーフレールブラケットをルーフパネルに固定している。
【0003】
このボルトはルーフパネルを貫通するため、もしルーフレールブラケットの下穴とボルトとの間に隙間があると、ルーフレールブラケットに落下した雨水がボルトの軸部を伝わって室内に浸入するおそれがある。そこで従来はこのボルトとしてシールワッシャ付きボルトが用いられており、天井側からシールワッシャ付きボルトを挿入し、室内側からナットを捩じ込むことによりシールワッシャをルーフレールブラケットに密着させ、雨水の浸入を防止する止水構造が採用されていた。
【0004】
しかし、ルーフパネルを貫通させたシールワッシャ付きボルトに室内側からナットを嵌めて締結する作業を行う際に、ナットに加えられるトルクによってシールワッシャ付きボルトが空転してしまい、作業性が悪いという問題があった。また、シールワッシャ付きボルトはボルト本体とシールワッシャとの2部材からなるものであるから、ボルトのコストが上昇するという問題があった。上記のような問題はルーフパネルブラケットに限らず、止水性が要求されるルーフパネル、ダッシュパネル、フロアパネル、バッテリーパック、ドアパネルなどの板状金属部材にボルトを取付ける場合にも、発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、止水性、作業性に優れ、しかも低コストの板状金属部材へのボルトの止水取付構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた請求項1の発明は、板状金属部材へのボルトの止水取付構造であって、前記ボルトが前記板状金属部材の下穴に挿入され、かしめられたかしめボルトであり、このかしめボルトは、ボルト軸部に形成されたおねじの上端とボルトの頭部座面との間のねじなし部を前記おねじの有効径よりも太くしたものであり、前記板状金属部材の下穴の周縁部の金属がかしめ時に前記ねじなし部に向かって塑性変形し、前記ねじなし部に密着して止水した構造を持つ
ことを特徴とするものである。
【0008】
また上記の課題を解決するためになされた請求項2の発明は、板状金属部材へのボルトの止水取付構造であって、前記ボルトが前記板状金属部材の下穴に挿入され、かしめられたかしめボルトであり、前記ボルトの座面にシール剤を塗布することにより、かしめ時に前記板状金属部材の下穴の周縁部と前記ボルトとの間にシール剤が流入し、止水した構造を持つことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の板状金属部材へのボルトの止水取付構造によれば、板状金属部材を固定するボルトとして板状金属部材の下穴に挿入され、かしめられるかしめボルトを用いるため、かしめボルトが板状金属部材に対して回転することがなくなる。このため、ナットを締め付ける際にかしめボルトが空転することがなくなり、ナット締結の作業性を向上させることができる。
【0010】
また本発明の板状金属部材への止水取付構造によれば、従来のような2部材からなるシールワッシャ付きボルトを必要とせず、単独のかしめボルトにより止水構造とすることができるので、ボルトのコストを低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ルーフパネルに板状金属部材であるルーフレールブラケットを固定した状態の全体構造を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態で用いたかしめボルトの拡大正面図である。
【
図3】第1の実施形態のかしめボルトを、板状金属部材であるルーフレールブラケットの下穴に挿入した状態を示す断面図である。
【
図4】第1の実施形態のかしめボルトを、板状金属部材であるルーフレールブラケットの下穴に挿入し、かしめた状態を示す断面図である。
【
図5】第2の実施形態で用いたかしめボルトの拡大正面図である。
【
図6】第2の実施形態のかしめボルトを板状金属部材であるルーフレールブラケットの下穴に挿入し、かしめた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下に本発明の第1の実施形態を説明する。以下に示す第1、第2の実施形態では、板状金属部材であるルーフレールブラケットへのボルトの止水取付構造を説明する。ルーフレールブラケットはこのボルトを用いてルーフパネルに固定される。しかし本発明における板状金属部材はルーフレールブラケットに限定されるものではなく、止水性が要求されるルーフパネル、ダッシュパネル、フロアパネル、バッテリーパック、ドアパネルなどに広く適用することができる。
【0013】
先ず
図1に、ルーフパネルにルーフレールブラケットを固定した状態の全体構造を示す。
図1において、10は板状金属部材であるルーフレールブラケット、11は自動車のルーフパネルである。12はルーフレールブラケット10に取付けられるボルトであるかしめボルト、13はこのかしめボルト12に室内側から螺合されるナットである。また14はルーフレールブラケット10とルーフパネル11の間に配置されたスポンジである。以下に説明するように、かしめボルト12はルーフレールブラケット10の下穴に挿入され、かしめることにより止水取付されたうえ、ルーフパネル11に挿通され、ナット13により固定される。
【0014】
図2は第1の実施形態で用いたかしめボルト12の拡大正面図である。
図2において、20はボルトの頭部、21はボルトの軸部、22は軸部21に形成されたおねじである。23は頭部20の座面であり、座面23には全周にわたり、星型の凸部24が形成されている。この凸部24はかしめボルト12を板状金属部材であるルーフレールブラケット10に挿入し、かしめたときにルーフレールブラケット10に喰い込み、ボルトの空転を防止する機能を持つものである。
【0015】
かしめボルト12のおねじ22の上端と座面23都の間には、ねじなし部25が形成されている。このねじなし部25の径は通常のかしめボルトボルトよりも太く形成されている。具体的には、ねじなし部25の径はおねじ22の有効径よりも大きく、おねじ22の外径よりは小さくしてある。例えばM8サイズの場合には、JISによればおねじの外径は8.000mm、谷径は6.647mm・有効径は7.188mmと規定されているので、ねじなし部25の径は7.188mmより大きく、8.000mmより小さく設定されている。
【0016】
図3はこのかしめボルト12を板状金属部材であるルーフレールブラケット10の下穴に挿入した状態を示す断面図である。30はダイスであり、かしめボルト12の軸部21を挿通する中心孔31を備えている。ダイス30の上面32は平面でありその上にルーフレールブラケット10が載せられるが、ダイス30の上面32の中心部には、細幅の環状突起33が形成されている。下穴に挿入されたかしめボルト12は図示を略したパンチによって上方から圧力を加えてかしめられる。
【0017】
この圧力によって、かしめボルト12の座面23に形成された凸部24がルーフレールブラケット10の上面に喰い込み、かしめボルト12は強固に固着される。またこれと同時に、ダイス30の環状突起33がルーフレールブラケット10の下穴の周縁部に喰い込み、その部分の金属をかしめボルト12のねじなし部25に向かって塑性変形させ、ねじなし部25に密着させる。前記したようにこのねじなし部25は通常よりも太径とされているため、
図4に示すように下穴の周縁部の金属をねじなし部25に隙間なく密着させ易くなる。その止水性能、空転トルクのデータは後述する実施例に示す。
【0018】
上記したように、環状突起33を備えたダイス30を用い、ねじなし部25を太くしたかしめボルト12を板状金属部材であるルーフレールブラケット10にかしめ固定すれば、かしめボルト12の座面23とルーフレールブラケット10の上面との間から雨水が浸入した場合にも、ねじなし部25の部分でそれ以上の浸入が阻止されることとなり、優れた止水効果を得ることができる。また、かしめボルト12は強固にルーフレールブラケット10に固着されるため、
図1に示したナット13を締め付ける際にかしめボルト12が空転することはなく、締結の作業性を向上させることができる。さらに、従来のシールワッシャ付きボルトとは異なり、かしめボルト12だけを用いればよいので、ボルトのコストを低減することができる。
【0019】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態を示す。第2の実施形態もかしめボルト12を板状金属部材であるルーフレールブラケット10の下穴に挿入し、かしめ固定する点は第1の実施形態と同様である。しかし
図5に示すように、かしめボルト12のかしめ時に圧力が加えられる座面23に、シール剤40を塗布しておく。このシール剤40としては、ボルトナットの技術分野において多用されているエポキシ樹脂系の熱可塑性シール剤を用いることができるが、シール剤の材質は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0020】
このように座面23にシール剤40を塗布したかしめボルト12を板状金属部材であるルーフレールブラケット10の下穴に挿入してかしめれば、座面23から押し出されたシール剤40が
図6に示すようにかしめボルト12のねじなし部25に流入し、ボルトの軸部21とルーフレールブラケット10の下穴との間をシールする。なお、図示を略したが、かしめ時にシール剤40の一部は座面23の外周側にも流れ、座面23と板状金属部材との間のシール性が高められる。このため、第1の実施形態と同様に止水効果を得ることができる。また、空転防止効果やコスト低減効果が得られる点も、第1の実施形態と同様である。
【0021】
第2の実施形態では、必ずしもかしめボルト12のねじなし部25の径を通常よりも太くしたり、環状突起33を備えたダイス30を用いたりする必要はない。しかし第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせ、ねじなし部25の径を太くしたかしめボルト12を用い、その座面23にシール剤40を塗布し、環状突起33を備えたダイス30を用いてかしめるようにすれば、より優れた止水効果を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明品の評価実験の結果を示す。
ルーフレールブラケットと同じ材質の鋼板からなる板厚が0.5mmの試験片に直径8.0mmの下穴を形成し、
図1に示した形状のかしめボルトをダイスとパンチを用いてかしめた。かしめ荷重は100kNである。またこれとは別に、かしめボルトの座面にエポキシ樹脂系のシール剤を塗布したサンプルも作成した。
【0023】
次に、かしめボルトにナットを固定してトルクレンチによりナットを回転させ、かしめボルトが試験片から剥離し空転し始めるトルク(空転トルク)を測定した。その結果、シール剤なしの場合、空転トルクの平均値(N=5)は23.8N・m、シール剤ありの場合、空転トルクの平均値(N=5)は26.4N・mであり、いずれも良好な結果を示した。
【0024】
次に水深30mmの位置に試験片(N=6)を置き、水漏れ試験を行った。その結果、シール剤なしの場合もありの場合も、24時間経過後の水漏れ量はゼロであった。さらに水中に空気をバブリングする試験も行ったが水漏れ量はゼロであり、完全なシール性があることが確認できた。
【0025】
以上に説明した通り、本発明の板状金属部材へのボルトの止水取付構造は、止水性、作業性に優れ、しかも低コストである利点があり、実用性に優れたものである。
【符号の説明】
【0026】
10 板状金属部材であるルーフレールブラケット
11 ルーフパネル
12 かしめボルト
13 ナット
14 スポンジ
20 ボルトの頭部
21 ボルトの軸部
22 おねじ
23 座面
24 凸部
25 ねじなし部
30 ダイス
31 中心孔
32 上面
33 環状突起
40 シール剤
【国際調査報告】