(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-13
(54)【発明の名称】最適化されたトランスフェクションプロトコール
(51)【国際特許分類】
C12N 15/88 20060101AFI20250306BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20250306BHJP
【FI】
C12N15/88 Z
C12P21/08 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024552736
(86)(22)【出願日】2023-03-08
(85)【翻訳文提出日】2024-09-20
(86)【国際出願番号】 US2023063953
(87)【国際公開番号】W WO2023172965
(87)【国際公開日】2023-09-14
(32)【優先日】2022-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ダンチン
(72)【発明者】
【氏名】ゴン,ダンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ガルセス,フェルナンド
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD09
4B064CD13
4B064CE09
4B064CE14
4B064DA20
(57)【要約】
本発明は、以前に開示された方法よりも少ないステップ及び少ないDNAを必要とする、細胞をトランスフェクトするための最適化された方法に関する。加えて、方法は、科学者が実験にかかる日数を少なくする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子をコードするDNAにより哺乳動物細胞の集団をトランスフェクトするのための方法であって、
(a)細胞培養培地中の細胞を提供するステップ、
(b)リポソーム/DNA複合体と前記細胞を接触させることによってトランスフェクションステップを実行するステップであって、mg DNA:細胞数の比は、約0.25mg:1×10
9細胞であるステップ、
(c)前記トランスフェクションステップの約40~56時間後に、任意の順で前記細胞培養培地に以下を追加するステップ:
約4.5~5.5g/Lの最終濃度のTryptone N1、
約4.0~5.0g/Lの最終濃度のグルコース及び
約0.8~1.2容量の新鮮な細胞培養培地、
(d)前記トランスフェクションステップの約144~192時間後に、前記細胞培養培地から前記標的分子を収集するステップを含む方法。
【請求項2】
前記細胞は、浮遊細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、接着細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞は、CHO細胞、CHOK1細胞、DXB-11細胞、DG-44細胞、COS-7細胞、HEK293-6E細胞、BHK細胞、TM4細胞、CV1細胞、VERO-76細胞、HELA細胞、MDCK細胞、BRL 3A細胞、W138細胞、Hep G2細胞、MMT細胞、TRI細胞、MRC 5細胞及びFS4細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞は、HEK293-6E細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞は、約1X10
5~1X10
7細胞/mlで播種される、請求項1~5にいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞は、約1X10
6/mlで播種される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Tryptone N1の前記最終濃度は、約5.0g/Lである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
グルコースの前記最終濃度は、約4.5g/Lである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
新鮮な細胞培養培地の約1容量が、追加される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記トランスフェクションステップの約88~104時間後に、バルプロ酸は、約3.5~4.0mMの最終濃度まで追加される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
バルプロ酸の前記最終濃度は、約3.75mMである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(c)は、前記トランスフェクションステップの約48時間後に実行される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(d)は、前記トランスフェクションステップの約168時間後に実行される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記バルプロ酸は、前記トランスフェクションステップの約96時間後に追加される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項16】
標的分子をコードするDNAにより哺乳動物細胞の集団をトランスフェクトするのための方法であって、
(a)細胞培養培地中の細胞を提供するステップ、
(b)リポソーム/DNA複合体と前記細胞を接触させることによってトランスフェクションステップを実行するステップであって、mg DNA:細胞数の比は、約0.25mg:1×10
9細胞であるステップ、
(c)前記トランスフェクションステップの約2~6時間後に、任意の順で前記細胞培養培地に以下を追加するステップ:
約4.5~5.5g/Lの最終濃度のTryptone N1、
約4.0~5.0g/Lの最終濃度のグルコース及び
約0.8~1.2容量の新鮮な細胞培養培地、
(d)前記トランスフェクションステップの約144~192時間後に、前記細胞培養培地から前記標的分子を収集するステップを含む方法。
【請求項17】
前記細胞は、浮遊細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞は、接着細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞は、CHO細胞、CHOK1細胞、DXB-11細胞、DG-44細胞、COS-7細胞、HEK293-6E細胞、BHK細胞、TM4細胞、CV1細胞、VERO-76細胞、HELA細胞、MDCK細胞、BRL 3A細胞、W138細胞、Hep G2細胞、MMT細胞、TRI細胞、MRC 5細胞及びFS4細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞は、HEK293-6E細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞は、約1X10
5~1X10
7細胞/mlで播種される、請求項1~20にいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞は、約1X10
6/mlで播種される、請求項6に記載の方法。
【請求項23】
Tryptone N1の前記最終濃度は、約5.0g/Lである、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
グルコースの前記最終濃度は、約4.5g/Lである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
新鮮な細胞培養培地の約1容量が、追加される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記トランスフェクションステップの約88~104時間後に、バルプロ酸は、約3.5~4.0mMの最終濃度まで追加される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
バルプロ酸の前記最終濃度は、約3.75mMである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(c)は、前記トランスフェクションステップの約4時間後に実行される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
ステップ(d)は、前記トランスフェクションステップの約168時間後に実行される、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記バルプロ酸は、前記トランスフェクションステップの約96時間後に追加される、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項31】
前記標的分子は、多重特異性抗原結合タンパク質である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照により本明細書に全部が組み込まれる、2022年3月9日に出願された米国仮特許出願第63/317,959号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
参照による組み込み
以下のファイルプロパティによって特定可能なXML形式の配列表の全部が参照により組み込まれる:ファイル名:10071-WO01-SEC.XML;ファイルサイズ:7,813バイト;作成:2023年2月17日。
【0003】
本発明は、以前に開示された方法よりも少ないステップ及び少ないDNAを必要とする、細胞をトランスフェクトするための最適化された方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2013年に、Jager et al(Jager V,Bussow K,Wagner A,Weber S,Hust M,Frenzel A,Schirrmann T.High level transient production of recombinant antibodies and antibody fusion proteins in HEK293 cells.BMC Biotechnol 2013;13:52)は、単一特異性scFv-Fc抗体の発現のための最適化されたHEK293-6Eプロトコールを報告した。現在まで、本論文は、学術的な刊行物及び産業に関する刊行物の両方において163回引用されており、このプロトコールが広く適用されていることを示唆している。手短かに言えば、このプロトコールでは、細胞は、PEI試薬を使用して0.5mg/L DNAによりトランスフェクトされ、トランスフェクションの後、1日後にSheff-Vax+Tryptone N1が供給され、次に、3日目にグルコースが2番目に供給され、4日目に3.75mMのバルプロ酸ナトリウム(sodium valproic)(VPA)が追加される。たとえJagerのプロトコールにより高い収率及び比較的高いスループットでの組換えタンパク質発現が維持されることが示されたとしても、発明者らは、このプロトコールをさらに最適化することができることを合理的に説明した。さらに、Jagerのプロトコールは、scFv-Fc抗体しか検討しなかった。近年、複数の標的を同時に標的にすることができる多重特異性抗体(マルチスペシフィック抗体(Multispecific))は、治療の開発における関心の高まりを見せている。そのため、新しいHEK293-6Eプロトコールは、高い収率及びスループットで良質なマルチスペシフィック抗体を発現するために最適化され、検証されることが必要である。
【0005】
発明者らの目標は、マルチスペシフィック抗体の高い収率を維持することができ、資源を節約することができ且つスループットを向上させることができるHEK293-6Eプロトコールを開発することである。
【0006】
ヒト胎児腎293(HEK293-6E)細胞の一過性トランスフェクションは、前臨床開発を通じて、組換えタンパク質を急速に産生するために、バイオテクノロジー産業において広く使用されている。2013年に、Jagerらは、単一特異性scFv-Fc抗体のハイスループット発現のためのHEK293-6Eプロトコールを報告した。本発明は、Jagerのプロトコールを改善したものである。Jagerのプロトコールと比較して、Grace_v1は、50%少ないDNAを必要とし且つFBSを必要とせず、実験ステップを1つ減らし、一方、同等のタンパク質収率を示す。HEK293-6Eプロトコールをさらに最適化することを目標に、発明者らは、Grace_v1のキーステップを変更した9つの新しいプロトコールを設計した。多数のmAb及びマルチスペシフィック抗体を発現することにおいてGrace_v1と共にこれらの9つのプロトコールを評価すると、2つの新しいプロトコール(Grace_v2及び_v3)は、Grace_v1と同等のタンパク質収率及び品質を示す。驚くべきことに、これらの2つの新しいプロトコールは、トランスフェクションの後にVPAの追加を必要としない。VPAを省くことは、資源を節約するだけでなく、実験スループットを著しく向上させ、柔軟性を改善する。さらに、Jagerのプロトコールと比較して、Grace_v2及び_v3は、資源を節約することができ(50%少ないDNA、FBSなし)、スループットを向上させることができる(実験ステップが2つ少ない)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jager V,Bussow K,Wagner A,Weber S,Hust M,Frenzel A,Schirrmann T.High level transient production of recombinant antibodies and antibody fusion proteins in HEK293 cells.BMC Biotechnol 2013;13:52
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、標的分子をコードするDNAにより哺乳動物細胞の集団をトランスフェクトするための方法であって、
(a)細胞培養培地中の細胞を提供するステップ、
(b)リポソーム/DNA複合体と細胞を接触させることによってトランスフェクションステップを実行するステップであって、mg DNA:細胞数の比は、約0.25mg:1×109細胞であるステップ、
(c)トランスフェクションステップの約40~56時間後に、任意の順で細胞培養培地に以下を追加するステップ、
約4.5~5.5g/Lの最終濃度のTryptone N1、
約4.0~5.0g/Lの最終濃度のグルコース及び
約0.8~1.2容量の新鮮な細胞培養培地、
(d)トランスフェクションステップの約144~192時間後に、細胞培養培地から標的分子を収集するステップを含む方法に関する。
【0009】
一実施形態では、ステップ(c)は、トランスフェクションステップの約48時間後に実行される。
【0010】
一態様では、本発明は、標的分子をコードするDNAにより哺乳動物細胞の集団をトランスフェクトするための方法であって、
(a)細胞培養培地中の細胞を提供するステップ、
(b)リポソーム/DNA複合体と細胞を接触させることによってトランスフェクションステップを実行するステップであって、mg DNA:細胞数の比は、約0.25mg:1×109細胞であるステップ、
(c)トランスフェクションステップの約2~6時間後に、任意の順で細胞培養培地に以下を追加するステップ、
約4.5~5.5g/Lの最終濃度のTryptone N1、
約4.0~5.0g/Lの最終濃度のグルコース及び
約0.8~1.2容量の新鮮な細胞培養培地、
(d)トランスフェクションステップの約144~192時間後に、細胞培養培地から標的分子を収集するステップを含む方法に関する。
【0011】
一実施形態では、ステップ(c)は、トランスフェクションステップの約4時間後に実行される。
【0012】
一実施形態では、細胞は、浮遊細胞である。
【0013】
一実施形態では、細胞は、接着細胞である。
【0014】
一実施形態では、細胞は、CHO細胞、CHOK1細胞、DXB-11細胞、DG-44細胞、COS-7細胞、HEK293-6E細胞、BHK細胞、TM4細胞、CV1細胞、VERO-76細胞、HELA細胞、MDCK細胞、BRL 3A細胞、W138細胞、Hep G2細胞、MMT細胞、TRI細胞、MRC 5細胞及びFS4細胞からなる群から選択される。
【0015】
一実施形態では、細胞は、HEK293-6E細胞である。
【0016】
一実施形態では、細胞は、約1X105~1X107細胞/mlで播種される。
【0017】
一実施形態では、細胞は、約1X106/mlで播種される。
【0018】
一実施形態では、Tryptone N1の最終濃度は、約5.0g/Lである。
【0019】
一実施形態では、グルコースの最終濃度は、約4.5g/Lである。
【0020】
一実施形態では、約1容量の新鮮な細胞培養培地が、追加される。
【0021】
一実施形態では、トランスフェクションステップの約88~104時間後に、バルプロ酸が、約3.5~4.0mMの最終濃度まで追加される。
【0022】
一実施形態では、バルプロ酸の最終濃度は、約3.75mMである。
【0023】
一実施形態では、ステップ(d)は、トランスフェクションステップの約168時間後に実行される。
【0024】
一実施形態では、バルプロ酸は、トランスフェクションステップの約96時間後に追加される。
【0025】
一実施形態では、標的分子は、多重特異性抗原結合タンパク質である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A-1C】
図1は、Jagerのプロトコールの比較を示す図である。Grace_v1は、より高い抗体発現(A)、より良好な細胞成長(B)及び同等の細胞生存率(C)を示した。
【
図2A】
図2は、分子(A)及び実験設計(B)の概略図を示す図である。
【
図2B】
図2は、分子(A)及び実験設計(B)の概略図を示す図である。
【
図3A-3C】
図3は、3つのmAbの発現についての10個のHEK293-6Eプロトコールの比較を示す図である。Grace_v1(protocol_6とも呼ばれる)を赤色で強調する。(A)収集時の生細胞密度(VCD)及びパーセンテージ(%)。(B)ProAビーズによるHT kingfisher精製後のタンパク質収率。(C)非還元MCE及びSECによるProA精製タンパク質の分析。完全なIgGは、MCE及びSECにおいてMPとして現れる。
【
図4A-4C】
図4は、2つのヘテロ-IgG二重特異性抗体の発現についての10個のHEK293-6Eプロトコールの比較を示す図である。Grace_v1(protocol_6とも呼ばれる)を赤色で強調する。(A)収集時の生細胞密度(VCD)及びパーセンテージ(%)。(B)ProAビーズによるHT kingfisher精製後のタンパク質収率。(C)非還元MCE及びSECによるProA精製タンパク質の分析。完全なIgGは、MCE及びSECにおいてMPとして現れる。
【
図5A】
図5は、3つのIgG-scFv、3つのIgG-Fab及び4つのトリスペシフィック抗体(Trispecific)の発現についての10個のHEK293-6Eプロトコールの比較を示す図である。現行の293-6Eプロトコール(#6)を赤色で強調する。(A)ProAビーズによるHT kingfisher精製後の3つのIgG- scFvのタンパク質収率。(B)3つのIgG-Fabのタンパク質収率。(C)4つのトリスペシフィック抗体のタンパク質収率。
【
図5B】
図5は、3つのIgG-scFv、3つのIgG-Fab及び4つのトリスペシフィック抗体(Trispecific)の発現についての10個のHEK293-6Eプロトコールの比較を示す図である。現行の293-6Eプロトコール(#6)を赤色で強調する。(A)ProAビーズによるHT kingfisher精製後の3つのIgG- scFvのタンパク質収率。(B)3つのIgG-Fabのタンパク質収率。(C)4つのトリスペシフィック抗体のタンパク質収率。
【
図5C】
図5は、3つのIgG-scFv、3つのIgG-Fab及び4つのトリスペシフィック抗体(Trispecific)の発現についての10個のHEK293-6Eプロトコールの比較を示す図である。現行の293-6Eプロトコール(#6)を赤色で強調する。(A)ProAビーズによるHT kingfisher精製後の3つのIgG- scFvのタンパク質収率。(B)3つのIgG-Fabのタンパク質収率。(C)4つのトリスペシフィック抗体のタンパク質収率。
【
図6A】
図6は、Miniaturized Golden Gate反応がModVec効率を向上させたことを示す図である。A)11kb 14ピース(ベクター骨格を含む)ModVecアセンブリーの概略図。B)このアセンブリーのために使用されるGolden Gateオーバーハング。下線を引いたオーバーハングは、非相補的オーバーハングと不対合形成することが頻繁に観察された。C)様々なGolden Gate反応容量でのModVecアセンブリーの効率。実験の単純さ、ProA収率及び産物の品質に基づく、2つの改善されたHEK293-6Eプロトコール(Grace_v2及びGrace_v3)についての確認。(A)補正済みProA収率は、Grace_v2及び_v3がGrace_v1と同等の量のタンパク質を発現することを示す。加えて、これらの2つの新しいプロトコールは、現行のプロトコールよりも、必要とする実験ステップが1つ少ない。(B)非還元MCEによるProA精製タンパク質の分析は、2つの新しいプロトコールが現行のプロトコールと同等の品質を有するmAb及びバイスペシフィック抗体(Bispecific)を産生することを示す。
【
図6B】
図6は、Miniaturized Golden Gate反応がModVec効率を向上させたことを示す図である。A)11kb 14ピース(ベクター骨格を含む)ModVecアセンブリーの概略図。B)このアセンブリーのために使用されるGolden Gateオーバーハング。下線を引いたオーバーハングは、非相補的オーバーハングと不対合形成することが頻繁に観察された。C)様々なGolden Gate反応容量でのModVecアセンブリーの効率。実験の単純さ、ProA収率及び産物の品質に基づく、2つの改善されたHEK293-6Eプロトコール(Grace_v2及びGrace_v3)についての確認。(A)補正済みProA収率は、Grace_v2及び_v3がGrace_v1と同等の量のタンパク質を発現することを示す。加えて、これらの2つの新しいプロトコールは、現行のプロトコールよりも、必要とする実験ステップが1つ少ない。(B)非還元MCEによるProA精製タンパク質の分析は、2つの新しいプロトコールが現行のプロトコールと同等の品質を有するmAb及びバイスペシフィック抗体(Bispecific)を産生することを示す。
【
図7A】
図7は、Jager、Grace_v1、_v2及び_v3を含むHEK293-6Eプロトコールの要約を示す図である。(A)プロトコールの詳細。Jagerのプロトコールと比較して、Grace_v1~_v3は、タンパク質収率を向上させ、トランスフェクションのためのDNAを少なくし、実験のステップを減らす(より高いスループット)。(B)Grace_v2及び_v3は、Grace_v1よりも高いスループット及び優れた柔軟性を示す。
【
図7B】
図7は、Jager、Grace_v1、_v2及び_v3を含むHEK293-6Eプロトコールの要約を示す図である。(A)プロトコールの詳細。Jagerのプロトコールと比較して、Grace_v1~_v3は、タンパク質収率を向上させ、トランスフェクションのためのDNAを少なくし、実験のステップを減らす(より高いスループット)。(B)Grace_v2及び_v3は、Grace_v1よりも高いスループット及び優れた柔軟性を示す。
【
図8】
図8は、Jagerプロトコールと比較した、特許請求の範囲に記載される本発明の種々の方法を要約する表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、DNAにより細胞の集団をトランスフェクトするための方法に関する。一実施形態では、DNAは、ゲノムDNAを含む。一実施形態では、DNAは、ベクター又はプラスミドである。本発明は、多重特異性抗原結合タンパク質の1つ以上の成分(例えば可変領域、軽鎖、重鎖、修飾重鎖及びFd断片)をコードする1つ以上の核酸を含むベクターを利用する。用語「ベクター」は、タンパク質コード情報を宿主細胞中に移入するために使用される任意の分子又は実体(例えば核酸、プラスミド、バクテリオファージ又はウイルス)を指す。ベクターの例として、プラスミド、ウイルスベクター、非エピソーム哺乳動物ベクター及び発現ベクター、例えば組換え発現ベクターが含まれるが、これらに限定されない。本明細書において使用される用語「発現ベクター」又は「発現コンストラクト」は、特定の宿主細胞における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な所望のコード配列及び適切な核酸制御配列を含有する組換えDNA分子を指す。発現ベクターは、転写、翻訳に影響を及ぼし又はそれを制御し且つイントロンが存在する場合、それに作動可能に連結されたコード領域のRNAスプライシングに影響を及ぼす配列を含むことができるが、これらに限定されない。原核生物での発現に必要な核酸配列には、プロモーター、任意選択でオペレーター配列、リボソーム結合部位及び場合によりその他の配列が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー並びに終結シグナル及びポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。分泌シグナルペプチド配列もまた、任意選択で、発現ベクターによってコードし、着目されるコード配列に作動可能に連結することができ、その結果、所望される場合、細胞から着目されるポリペプチドがより容易に単離されるように、発現ポリペプチドは、組換え宿主細胞によって分泌させることができる。特定の実施形態では、シグナルペプチドは、MDMRVPAQLLGLLLLWLRGARC(配列番号1)、MAWALLLLTLLTQGTGSWA(配列番号2)、MTCSPLLLTLLIHCTGSWA(配列番号3)、MEAPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号4)、MEWTWRVLFLVAAATGAHS(配列番号5)、METPAQLLFLLLLWLPDTTG(配列番号6)、MKHLWFFLLLVAAPRWVLS(配列番号7)及びMEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号8)からなる群から選択される。
【0028】
典型的には、多重特異性抗原タンパク質を産生するために宿主細胞において使用される発現ベクターは、プラスミド保持のための配列並びに多重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする外来性ヌクレオチド配列のクローニング及び発現のための配列を含有するであろう。総称的に「隣接配列」と称されるそのような配列は、特定の実施形態では、典型的に、以下のヌクレオチド配列:プロモーター、1つ以上のエンハンサー配列、複製起点、転写終結配列、ドナー及びアクセプタスプライス部位を含有する完全イントロン配列、ポリペプチド分泌のためのリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現されることになるポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域並びに選択マーカーエレメントの1つ以上を含むであろう。これらの配列のそれぞれを下記に論じる。
【0029】
任意選択で、ベクターは、「タグ」コード配列、すなわち、ポリペプチドコード配列の5’末端又は3’末端に位置するオリゴヌクレオチド分子を含有してもよく、このオリゴヌクレオチドタグ配列は、ポリHis(ヘキサHisなど)、FLAG、HA(ヘマグルチニンインフルエンザウイルス)、myc又は市販の抗体が存在する別の「タグ」分子をコードする。このタグは、典型的に、ポリペプチドの発現の際にポリペプチドに融合され、宿主細胞からのポリペプチドの親和性精製又は検出のための手段として働くことができる。親和性精製は、例えば、タグに対する抗体を親和性マトリックスとして使用するカラムクロマトグラフィーによって実現することができる。任意選択で、タグは、その後、ある特定の切断用ペプチダーゼを使用するなどの種々の手段によって、精製されたポリペプチドから除去することができる。
【0030】
隣接配列は、同種(すなわち、宿主細胞と同じ種及び/又は株に由来する)、異種(すなわち、宿主細胞の種又は株以外の種に由来する)、ハイブリッド(すなわち、1つを超える供給源に由来する隣接配列の組み合わせ)、合成又は天然であってもよい。したがって、隣接配列の供給源は、任意の原核生物若しくは真核生物、任意の脊椎動物若しくは無脊椎動物又は任意の植物であってもよいが、但し、その隣接配列が宿主細胞機構において機能し且つ宿主細胞機構によって活性化することができることを条件とする。
【0031】
本発明のベクターにおいて有用な隣接配列は、当技術分野においてよく知られているいくつかの方法のいずれかによって得られてもよい。典型的には、本明細書において有用な隣接配列は、マッピング及び/又は制限エンドヌクレアーゼ消化によって事前に特定されていることになっており、適切な制限エンドヌクレアーゼを使用して適した組織源から単離することができる。場合により、隣接配列の全ヌクレオチド配列は、既知であってもよい。この場合、隣接配列は、核酸合成又はクローニングのための通常の方法を使用して合成されてもよい。
【0032】
隣接配列の全てが既知であるか又はその一部のみが既知であるかに関わらず、隣接配列は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を使用して且つ/又は同じ若しくは別の種に由来するオリゴヌクレオチド及び/若しくは隣接配列断片などの好適なプローブによりゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって得られてもよい。隣接配列が不明である場合、隣接配列を含有するDNAの断片は、例えばコード配列を又は別の遺伝子(複数可)さえ含有してもよいDNAのより大きな部分片から単離されてもよい。単離は、制限エンドヌクレアーゼ消化によって適したDNA断片を産生し、続いてアガロースゲル精製、Qiagen(登録商標)カラムクロマトグラフィー(Chatsworth,CA)又は当業者に知られている他の方法を使用して単離することにより実現されてもよい。この目的を実現するのに適した酵素の選択は、当業者であれば容易に分かるであろう。
【0033】
複製起点は、典型的に、市販の原核生物発現ベクターの一部であり、その起点は、宿主細胞におけるベクターの増幅に役立つ。選択したベクターが複製起点部位を含有しなければ、既知の配列に基づいて化学的に合成して、ベクター中にライゲートしてもよい。例えば、プラスミドpBR322(New England Biolabs,Beverly,MA)に由来する複製起点は、ほとんどのグラム陰性菌にとって好適であり、種々のウイルス性の起点(例えばSV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)又はパピローマウイルス、例えばHPV若しくはBPV)が、哺乳動物細胞におけるベクターのクローニングに有用である。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターには必要でない(例えば、SV40起点は、ウイルス初期プロモーターも含有するという理由でのみ、使用されることが多い)。
【0034】
転写終結配列は、典型的に、ポリペプチドコード領域の3’末端側に位置し、転写を終結させるよう働く。通常、原核細胞における転写終結配列は、G-Cリッチ断片とそれに続くポリT配列である。この配列は、ライブラリーから容易にクローニングされる又はベクターの一部として市販すらされているが、既知の核酸合成方法を使用して容易に合成することもできる。
【0035】
選択マーカー遺伝子は、選択培養培地中で成長する宿主細胞の生存及び成長に必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)原核生物宿主細胞に、抗生物質若しくは他の毒素、例えばアンピシリン、テトラサイクリン若しくはカナマイシンに対する耐性を付与する、(b)細胞の栄養要求性欠損を補完する又は(c)複合培地若しくは規定培地からは入手可能でない極めて重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。特異的選択マーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子及びテトラサイクリン耐性遺伝子である。有利なことに、ネオマイシン耐性遺伝子もまた、原核生物宿主細胞及び真核生物宿主細胞の両方における選択のために使用されてもよい。
【0036】
他の選択遺伝子は、発現されるだろう遺伝子を増幅するために使用されてもよい。増幅は、成長又は細胞生存に極めて重要なタンパク質の産生に必要とされる遺伝子が組換え細胞の累代の染色体内でタンデムに反復されるプロセスである。哺乳動物細胞に好適な選択マーカーの例として、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子及びプロモーターレスチミジンキナーゼ遺伝子が含まれる。哺乳動物細胞形質転換体を、この形質転換体のみが唯一、ベクター中に存在する選択遺伝子によって生存するように適合されている選択圧下に置く。選択圧は、培地中の選択剤の濃度が連続的に増加する条件下で形質転換された細胞を培養することによって課され、それにより、選択遺伝子と、本明細書に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の1つ以上の成分などの別の遺伝子をコードするDNAとの両方の増幅を導く。その結果、増幅されたDNAから多量のポリペプチドが合成される。
【0037】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必要であり、シャイン・ダルガーノ配列(原核生物)又はコザック配列(真核生物)によって特徴付けられる。このエレメントは、典型的には、プロモーターの3’側及び発現されることになるポリペプチドのコード配列の5’側に位置する。特定の実施形態では、1つ以上のコード領域が、内部リボソーム結合部位(IRES)に作動可能に連結されてもよく、単一のRNA転写産物から2つのオープンリーディングフレームの翻訳が可能となる。
【0038】
真核宿主細胞発現系においてグリコシル化が所望される場合などのいくつかの場合には、グリコシル化又は収率を改善するために、種々のプレ配列又はプロ配列が操作されてもよい。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ開裂部位を改変してもよく又はプロ配列を付加してもよく、これもまたグリコシル化に影響を及ぼし得る。最終タンパク質産物は、-1位(成熟タンパク質の第1のアミノ酸に対して)において、発現に付随する1つ以上のさらなるアミノ酸を有するかもしれず、これは、完全には除去されていなくてもよい。例えば、最終タンパク質産物は、アミノ末端に結合した、ペプチダーゼ開裂部位内に見出される1つ又は2つのアミノ酸残基を有していてもよい。その代わりに、いくつかの酵素切断部位を使用すると、酵素が成熟ポリペプチド内のそのような領域で切断する場合、所望のポリペプチドがわずかに切断された形態を生じるかもしれない。
【0039】
発現ベクター及びクローニングベクターは、典型的に、宿主生物によって認識され、ポリペプチドをコードする分子に作動可能に連結されたプロモーターを含有するであろう。本明細書で使用される用語「作動可能に連結された」は、所与の遺伝子の転写及び/又は所望のタンパク質分子の合成を誘導することが可能な核酸分子が産生されるように、2つ以上の核酸配列が連結されていることを指す。例えば、タンパク質コード配列に「作動可能に連結された」ベクター中の制御配列は、タンパク質コード配列の発現が制御配列の転写活性と適合する条件下で達成されるように、タンパク質コード配列にライゲートされる。より詳細には、シス作用性転写制御エレメントの任意の組み合わせを含むプロモーター及び/又はエンハンサー配列は、適切な宿主細胞又は他の発現系においてコード配列の転写を刺激する又は調節するならば、コード配列に作動可能に連結されている。
【0040】
プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの上流(すなわち5’側)に位置し(一般に、約100~1000bp以内)、構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。プロモーターは、慣習的に、下記の2つのクラス:誘導性プロモーター及び構成的プロモーターの一方に分類される。誘導性プロモーターは、その制御下で、栄養素の有無又は温度の変化などの培養条件の何らかの変化に応じて、DNAからの転写レベルの増加を開始する。一方、構成的プロモーターは、それが作動可能に連結されている遺伝子を均一に、すなわち遺伝子発現に対する制御をほとんど又は全く行わずに転写する。種々の潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターがよく知られている。好適なプロモーターは、供給源DNAから制限酵素消化によってプロモーターを除去し、所望のプロモーター配列をベクター中に挿入することによって、多重特異性抗原結合タンパク質の、例えば重鎖、軽鎖、修飾重鎖又は他の成分をコードするDNAに作動可能に連結される。
【0041】
酵母宿主との使用に好適なプロモーターもまた、当技術分野においてよく知られている。酵母エンハンサーは、酵母プロモーターとともに使用されるのが有利である。哺乳動物宿主細胞とともに使用するのに好適なプロモーターは、よく知られており、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2型など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス及び最も好ましくはシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるものを含むが、これらに限定されない。他の好適な哺乳動物プロモーターとしては、異種哺乳動物プロモーター、例えば熱ショックプロモーター及びアクチンプロモーターが含まれる。
【0042】
着目されてもよいさらなるプロモーターとしては、SV40初期プロモーター(Benoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310);CMVプロモーター(Thornsen et al.,1984,Proc.Natl.Acad.U.S.A.81:659-663);ラウス肉腫ウイルスの3’側の長い末端反復に含有されるプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797);ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1444-1445);メタロチオネイン遺伝子由来のプロモーター及び調節配列Prinster et al.,1982,Nature 296:39-42)並びにベータ-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物プロモーター(Villa-Kamaroff et al.,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731)又はtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25)が含まれるが、これらに限定されない。組織特異性を示し、トランスジェニック動物に利用されている以下の動物転写制御領域もまた、着目される:膵腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515);膵ベータ細胞において活性であるインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122);リンパ細胞において活性である免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658;Adames et al.,1985,Nature 318:533-538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444);精巣、乳房、リンパ球及び肥満細胞において活性であるマウス乳房腫瘍ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495);肝臓において活性であるアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268-276);肝臓において活性であるアルファ-フェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648;Hammer et al.,1987,Science 253:53-58);肝臓において活性であるアルファ1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171);骨髄細胞において活性であるベータ-グロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94);脳内のオリゴデンドロサイト細胞において活性であるミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性であるミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286)並びに視床下部において活性である性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)。
【0043】
エンハンサー配列をベクター中に挿入して、高等真核生物によって、多重特異性抗原結合タンパク質の成分(例えば軽鎖、重鎖、修飾重鎖、Fd断片)をコードするDNAの転写を増加させてもよい。エンハンサーは、プロモーターに作用して転写を増加させる、通常、約10~300bp長のDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーは、向き及び位置に比較的依存せず、転写単位に対して5’側及び3’側の双方の位置にて見出されている。哺乳動物遺伝子から入手可能ないくつかのエンハンサー配列が知られている(例えばグロビン、エラスターゼ、アルブミン、アルファ-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、ウイルス由来のエンハンサーが使用される。当技術分野において知られているSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーは、真核生物プロモーターの活性化のための例示的な増強エレメントである。エンハンサーは、ベクターにおいてコード配列の5’側又は3’側のいずれかに配置されてもよいが、典型的にはプロモーターから5’側の部位に位置する。適切な天然又は異種のシグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)をコードする配列を発現ベクターに組み込んで、細胞外への抗体の分泌を促進することができる。シグナルペプチド又はリーダーの選択は、抗体が産生されることになる宿主細胞の型に依存し、天然のシグナル配列を異種のシグナル配列と交換することができる。シグナルペプチドの例は、上に記載される。哺乳動物宿主細胞において機能する他のシグナルペプチドとしては、米国特許第4,965,195号明細書に記載されるインターロイキン-7(IL-7)のシグナル配列;Cosman et al.,1984,Nature 312:768に記載されるインターロイキン-2受容体のシグナル配列;欧州特許第0367 566号明細書に記載されるインターロイキン-4受容体シグナルペプチド;米国特許第4,968,607号明細書に記載されるI型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド;欧州特許第0 460 846号明細書に記載されるII型インターロイキン-1受容体シグナルペプチドが含まれる。
【0044】
提供される発現ベクターは、市販のベクターなどの出発ベクターから構築してもよい。そのようなベクターは、所望の隣接配列の全てを含有していてもしていなくてもよい。本明細書に記載される隣接配列のうち1つ以上がベクターに最初から存在していない場合、それらを個々に取得してベクターにライゲートしてもよい。隣接配列のそれぞれを取得するために使用される方法は、当業者によく知られている。発現ベクターを宿主細胞に導入し、それにより、本明細書に記載される核酸によってコードされる融合タンパク質を含むタンパク質を産生することができる。
【0045】
特定の実施形態では、多重特異性抗原結合タンパク質の異なる成分をコードする核酸が、同じ発現ベクター中に挿入されてもよい。そのような実施形態では、軽鎖及び重鎖が同じmRNA転写産物から発現されるように、内部リボソーム侵入部位(IRES)によって且つ単一のプロモーターの制御下で、2つの核酸が分離されていてもよい。その代わりに、2つの核酸は、軽鎖及び重鎖が2つの別個のmRNA転写産物から発現されるように、2つの別個のプロモーターの制御下にあってもよい。
【0046】
同様に、IgG-scFv多重特異性抗原結合タンパク質については、軽鎖をコードする核酸は、修飾重鎖(重鎖及びscFvを含む融合タンパク質)をコードする核酸と同じ発現ベクター中にクローニングされてもよく、その場合、2つの核酸は、単一のプロモーターの制御下にあってIRESによって分離されている又は2つの核酸は、2つの別個のプロモーターの制御下にある。IgG-Fab多重特異性抗原結合タンパク質については、3つの成分のそれぞれをコードする核酸が、同じ発現ベクター中にクローニングされてもよい。一部の実施形態では、IgG-Fab分子の軽鎖をコードする核酸及び第2のポリペプチド(C末端のFabドメインの残りの半分を含む)をコードする核酸は、一方の発現ベクター中にクローニングされるのに対して、修飾重鎖(重鎖及びFabドメインの半分を含む融合タンパク質)をコードする核酸は、第2の発現ベクター中にクローニングされる。特定の実施形態では、本明細書に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の全ての成分は、同じ宿主細胞集団から発現される。例えば、1つ以上の成分が、別個の発現ベクター中にクローニングされる場合でも、宿主細胞に双方の発現ベクターが同時にトランスフェクトされ、その結果、1つの細胞が多重特異性抗原結合タンパク質の全ての成分を産生する。
【0047】
ベクターが構築されて、本明細書に記載される多重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする1つ以上の核酸分子が、ベクターの適した部位中に挿入された後に、完成したベクターは、増幅及び/又はポリペプチド発現に好適な宿主細胞中に挿入されてもよい。ゆえに、本発明は、多重特異性抗原結合タンパク質の成分をコードする1つ以上の発現ベクターを含む単離宿主細胞を包含する。本明細書で使用される用語「宿主細胞」は、核酸により形質転換されており又は形質転換されることが可能であり、それにより、着目される遺伝子を発現する細胞を指す。この用語には、着目される遺伝子が存在する限り、親細胞の後代の形態又は遺伝的構造が元の親細胞と同一であるか否かに関わらず、親細胞の後代が含まれる。好ましくは少なくとも1つの発現制御配列(例えばプロモーター又はエンハンサー)に作動可能に連結された、単離された核酸を含む宿主細胞は、「組換え宿主細胞」である。
【0048】
宿主細胞は、適切な条件下で培養されるとき、抗原結合タンパク質を合成し、これはその後、(宿主細胞が培地中に分泌する場合)培養培地から回収することができる又は(分泌されない場合)それを産生する宿主細胞から直接回収することができる。適切な宿主細胞の選択は、所望の発現レベル、活性に望ましい又は必要であるポリペプチドの修飾(グリコシル化又はリン酸化など)及び生物学的に活性な分子へのフォールディングの容易さなどの種々の要因に依存するであろう。
【0049】
例示的な宿主細胞としては、原核生物、酵母又は高等真核生物細胞が含まれる。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性微生物又はグラム陽性微生物などの真正細菌、例えばエシェリキア属(Escherichia)、例えば大腸菌(E.coli)などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えばネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えばセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)及びシゲラ属(Shigella)並びにバチルス属(Bacillus)、例えばB.サブティリス(B.subtilis)及びB.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)並びにストレプトミセス属(Streptomyces)が含まれる。真核生物の微生物、例えば糸状菌又は酵母が、組換えポリペプチドに好適なクローニング宿主又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母が、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用されている。しかしながら、ピキア属(Pichia)、例えばP.パストリス(P.pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia);カンジダ属(Candida);トリコデルマ・レーシア(Trichoderma reesia);アカパンカビ(Neurospora crassa);シュワニオミセス属(Schwanniomyces)、例えばシュワニオミセス・オクシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)並びにアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニデュランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)などのいくつかの他の属、種、及び株が、一般に利用可能であり且つ本明細書において有用である。
【0050】
グリコシル化された抗原結合タンパク質の発現のための宿主細胞は、多細胞生物由来とすることができる。無脊椎動物細胞の例には、植物細胞及び昆虫細胞が含まれる。多くのバキュロウイルスの株及び変異体並びにツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)(イモムシ)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)及びカイコ(Bombyx mori)などの宿主由来の、対応する昆虫の許容宿主細胞が特定されている。そのような細胞のトランスフェクションのための種々のウイルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPVのL-1変異体及びカイコ(Bombyx mori)NPVのBm-5株が公に入手可能である。
【0051】
脊椎動物宿主細胞もまた好適な宿主であり、そのような細胞からの抗原結合タンパク質の組換え産生は常法となっている。発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当技術分野においてよく知られており、以下に限定されないが、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection:ATCC)から入手可能な不死化細胞株、例えば、以下に限定されないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばCHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB-11、DG-44及びチャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216,1980);SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓株(293細胞又は懸濁培養での成長用にサブクローニングされた293細胞)(Graham et al.,J.Gen Virol.36:59,1977)、例えばHEK293-6E細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68,1982);MRC 5細胞又はFS4細胞;哺乳動物の骨髄腫細胞及びいくつかの他の細胞株が含まれる。別の実施形態では、それ自体の抗体は作製しないが、異種抗体を作製する及び分泌する能力を有するB細胞系統由来の細胞株を選択することができる。CHO細胞が、一部の実施形態では、多重特異性抗原結合タンパク質を発現するのに好ましい宿主細胞である。
【0052】
多重特異性抗原結合タンパク質の産生用の宿主細胞が、上記の核酸又はベクターにより形質転換又はトランスフェクトされて、プロモーターの誘導、形質転換体の選択又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適切となるように修飾された従来の栄養培地中で培養される。加えて、選択マーカーによって分離された複数コピーの転写単位を有する新規のベクター及びトランスフェクトされた細胞株が、抗原結合タンパク質の発現に特に有用である。ゆえに、本発明はまた、本明細書に記載される多重特異性抗原結合タンパク質を調製するための方法であって、本明細書に記載される1つ以上の発現ベクターを含む宿主細胞を、この1つ以上の発現ベクターによってコードされる多重特異性抗原結合タンパク質の発現を可能にする条件下にて培養培地中で培養することと、この培養培地から多重特異性抗原結合タンパク質を回収することとを含む方法も提供する。
【0053】
抗原結合タンパク質を産生するために使用される宿主細胞は、種々の培地中で培養されてもよい。ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)(Sigma))、RPMI-1640(Sigma)及びダルベッコ修飾イーグル培地((DMEM)、Sigma)などの市販の培地は、この宿主細胞を培養するのに好適である。加えて、Ham et al.,Meth.Enz.58:44,1979;Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255,1980;米国特許第4,767,704号明細書;米国特許第4,657,866号明細書;米国特許第4,927,762号明細書;米国特許第4,560,655号明細書;若しくは米国特許第5,122,469号明細書;国際公開第90103430号パンフレット;国際公開第87/00195号パンフレット;又は米国再発行特許第30,985号明細書に記載される培地のいずれも、宿主細胞用の培養培地として使用されてもよい。これらの培地のいずれも、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン又は上皮成長因子)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、緩衝液(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えばゲンタマイシン(商標)薬物)、微量元素(通常、マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物として定義される)並びにグルコース又は等価なエネルギー源が補充されてもよい。任意の他の必要な栄養補助物質もまた、当業者に知られているだろう適切な濃度で含まれてもよい。温度、pH等の培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前から使用されているものであり、当業者であれば分かるであろう。
【0054】
宿主細胞を培養すると、多重特異性抗原結合タンパク質は、細胞内、細胞周辺腔内で産生することができる又は培地中に直接分泌することができる。抗原結合タンパク質が細胞内で産生されるならば、第1のステップとして、粒状の破片である宿主細胞又は溶解断片が、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去される。二重特異性抗原結合タンパク質は、例えばヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、陽イオン又は陰イオン交換クロマトグラフィー或いは好ましくは、親和性リガンドとして着目される抗原又はプロテインA若しくはプロテインGを使用するアフィニティクロマトグラフィーを使用して精製することができる。プロテインAを使用して、ヒトγ1、γ2又はγ4重鎖をベースとするポリペプチドを含むタンパク質を精製することができる(Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.62:1-13,1983)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss et al.,EMBO J.5:15671575,1986)。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合、アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。制御された多孔質ガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの物理的に安定したマトリックスでは、アガロースにより達成することができる場合と比べて、流速を速くし且つ処理時間を短くすることが可能である。タンパク質がCH3ドメインを含む場合には、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,N.J.)が、精製に有用である。回収されることになる特定の多重特異性抗原結合タンパク質に応じて、エタノール沈殿、逆相HPLC、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE及び硫酸アンモニウム沈殿などのタンパク質精製のための他の技術もまた可能である。
【0055】
本明細書で使用されるように、用語「抗体」は、2本の軽鎖ポリペプチド(それぞれ約25kDa)及び2本の重鎖ポリペプチド(それぞれ約50~70kDa)を含む四量体免疫グロブリンタンパク質を指す。用語「軽鎖」又は「免疫グロブリン軽鎖」は、アミノ末端からカルボキシル末端へと、単一の免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)及び単一の免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)を含むポリペプチドを指す。免疫グロブリン軽鎖定常ドメイン(CL)は、カッパ(κ)又はラムダ(λ)とすることができる。用語「重鎖」又は「免疫グロブリン重鎖」は、アミノ末端からカルボキシル末端へと、単一の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン1(CH1)、免疫グロブリンヒンジ領域、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン2(CH2)、免疫グロブリン重鎖定常ドメイン3(CH3)及び任意選択で免疫グロブリン重鎖定常ドメイン4(CH4)を含むポリペプチドを指す。重鎖は、ミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)及びイプシロン(ε)として分類されており、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと定義する。IgGクラス抗体及びIgAクラス抗体はさらに、サブクラス、すなわち、それぞれIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4並びにIgA1及びIgA2に分けられる。IgG抗体、IgA抗体及びIgD抗体内の重鎖は、3つのドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有するのに対して、IgM抗体及びIgE抗体内の重鎖は、4つのドメイン(CH1、CH2、CH3及びCH4)を有する。免疫グロブリン重鎖定常ドメインは、サブタイプを含む任意の免疫グロブリンアイソタイプ由来とすることができる。抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間(すなわち、軽鎖と重鎖との間)及び抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介してともに連結されている。
【0056】
ヒト抗体において、CH1は、EUインデックスの118位~215位でアミノ酸配列を有する領域を意味する。「ヒンジ領域」と呼ばれる高度に柔軟なアミノ酸領域は、CH1とCH2との間に存在する。CH2は、EUインデックスの231位~340位でアミノ酸配列を有する領域を表し、CH3は、EUインデックスの341位~446位でアミノ酸配列を有する領域を表す。
【0057】
「CL」は、軽鎖の定常領域を表す。ヒト抗体においてκ鎖の場合、CLは、EUインデックスの108位~214位でアミノ酸配列を有する領域を表す。λ鎖において、CLは、108位~215位でアミノ酸配列を有する領域を表す。
【0058】
Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)におけるようなEUインデックス及びAHoナンバリングスキーム(Honegger A.and Plueckthun A.J Mol Biol.2001 Jun 8;309(3):657-70)の双方を、本発明において使用することができる。所与の抗体のアミノ酸位置並びに相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)は、いずれの系を使用しても同定され得る。例えば、39、44、183、356、357、360、370、392、399及び409のEU重鎖位置はそれぞれ、AHo重鎖位置46、51、230、484、485、491、501、528、535及び551と同一である。
【0059】
「結合ドメイン」又は「BD」は、典型的には、抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含んでいてもよいが、両方を含む必要はない。Fd断片は、例えば、2つのVH領域を有し、多くの場合、完全な抗原結合ドメインの一部の抗原結合機能を保持している。抗体断片、抗体変異体又は結合ドメインの形式についてのさらなる例としては、(1)VL、VH、CL及びCH1ドメインを有する一価の断片であるFab断片;(2)ヒンジ領域でのジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を有する二価の断片であるF(ab’)2断片;(3)2つのVH及びCH1ドメインを有するFd断片;(4)抗体の1つのアームのVL及びVHドメインを有するFv断片、(5)VHドメインを有するdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR)並びに(7)一本鎖Fv(scFv)が含まれ、後者が好ましい(例えば、scFVライブラリー由来のもの)。
【0060】
本明細書に記載されるそれぞれの参考文献の開示は、参照により本明細書に全部が組み込まれる。
【0061】
本発明は、以下の実施例によってさらに例証される。
【実施例】
【0062】
材料及び方法
細胞培養及びタンパク質発現
浮遊HEK293-6E細胞株は、National Research Council (NRC)、Biotechnological Research Institute(BRI)、Montreal、Canadaから使用許諾を得た。細胞は、0.1%Kolliphor P188(Sigma、カタログ#K4894)、25μg/ml G418(Gibco、カタログ#10131027)及び6mM L-グルタミン(Gibco、カタログ#25030149)を補充したFreeStyle F-17培地(Gibco、カタログ#A1383502)中で培養する。細胞密度及び生存率は、トリパンブルー排除法に基づき、Beckman Coulter Vi-cell Cell Viability Analyzerを使用して決定した。保持及び増殖ステージの間、浮遊HEK293-6E細胞は、0.2um通気キャップを有する500ml~2.5Lポリカーボネートフラスコ(Corning)中、37℃、5%CO2雰囲気で、120rpmで穏やかに振盪しながら培養した。細胞密度が2X106細胞/mlに達したら、細胞を、2日間の継代培養用の3.5X105細胞/ml及び3日間の継代培養用の2X105細胞/mlに分割し、これらはだいたい週3回の継代培養を必要とした。
【0063】
最適なトランスフェクションのための1ml当たり2X106生細胞の密度を達成するために、95%よりも高い生存率を有する細胞を、1X106細胞/mlの密度で26時間前に播種した。細胞1ml毎のトランスフェクションのために、0.5μg DNAは、10分間、100μl FreeStyle F-17培地中で1.5μl PEImax試薬(Polysciences、カタログ#24765-2)と複合体を形成させ、次いで、細胞培養物に追加した。トランスフェクションの後、細胞は、異なるプロトコールで別々に処理した。Grace_v1では、トランスフェクションの1日後に、細胞に、新鮮な細胞培養培地のさらなる1容量と共に、それぞれ5g/L及び4.5g/Lの最終濃度までTryptone N1溶液(Organotechnie、カタログ#19553)及びグルコース(Thermo Fisher、カタログ#A2494001)を供給した。3日後、3.75mM VPA(MP Biomedicals、カタログ#0215206480)を、タンパク質発現の増強を期待して、さらに追加した。プロトコールGrace_v2及び_v3は、VPAを必要としなかったが、それぞれトランスフェクションの4時間後又は24時間後にTrytone N1及びグルコースの追加をなお必要とした。全てのプロトコールについて、条件培地は、トランスフェクションの7日後にProA及びCEXカラムによる完全な精製のために収集した。ProA磁気ビーズによるハイスループットkingfisher精製について、25ul磁気ProAビーズ(GE Life Sciences)をトランスフェクションの6日後に細胞培養物1ml毎に追加し、次いで、7日目に精製のために回収した。
【0064】
プラスミドの構築
抗体HC及びLC遺伝子は、Twist Bioscienceが合成し、次いで、Golden Gateアセンブリー法を使用して哺乳動物一過性発現ベクターに個々にクローニングした。3タンパク質の遺伝的不均質性(heterogenicity)を低下させるために、全てのHCは、アグリコシル化(aglycosylation)突然変異及び新規な操作されたジスルフィド結合を持つヒトIgG1骨格(IgG1-SEFL2)により構築した。4HCヘテロ二量体化を必要とするヘテロ-IgGについては、CPMを、Fc領域に導入した。サンガーの配列決定法の後に、トランスフェクショングレードのDNAを、Maxiプラスミド精製キット(Qiagen、カタログ#12165)を使用して調製し、次いで、モノクローナル抗体及びIgG-scFvについては1:1(HC:LC)、ヘテロ-IgGについては1:1:1:1(HC1:LC1:HC2:LC2)、IgG-Fab及びトリスペシフィック抗体については1:1:1(cLC:HC1:HC2)の比で混合した。
【0065】
ProA磁気ビーズによるハイスループットタンパク質精製
KingFisher(登録商標)Flexシステム(Thermo Fisher)を、磁気ProAビーズ(GE Life Sciences)によるハイスループットタンパク質精製に使用した。手短かに言えば、24ウェルディープブロック中の4mlの293-6E細胞をタンパク質発現のためにトランスフェクトし、続いて、100μlの磁気ProAビーズを追加し、1日後に収集した。次いで、ビーズを回収し、24ディープウェル磁気ヘッドによりKingFisher精製を行った。PBSで3回、Milli-Q水で2回洗浄した後、タンパク質をpH3.6の500μlの100mM酢酸ナトリウムで10分間溶出し、次いで、10μlの3M Tris、pH11.0を追加することによって直ちに中和した。精製したタンパク質の収率は、A280によって測定した。
【0066】
非還元マイクロキャピラリー電気泳動法(MCE)
精製したサンプルの純度は、非還元MCE及び分析用SECにより分析した。非還元MCEについては、6μlのタンパク質を、21μlのサンプルバッファー(8.4mM Tris-HCl pH 7.0、7.98%グリセロール、2.38mM EDTA、2.8%SDS及び2.4mMヨードアセトアミド)と混合し、10分間85℃で加熱し、次いで、Caliper LabChip GXII Touch機器(PerkinElmer)を使用して分析した。
【配列表】
【国際調査報告】