(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-18
(54)【発明の名称】人工多能性幹細胞を網膜色素上皮細胞に分化させる方法、網膜色素上皮細胞、および網膜色素上皮細胞を使用する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20250311BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20250311BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250311BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250311BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20250311BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20250311BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20250311BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20250311BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20250311BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20250311BHJP
C07K 14/61 20060101ALN20250311BHJP
C07K 14/50 20060101ALN20250311BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20250311BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250311BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20250311BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20250311BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/04
A61P43/00 111
A61P27/02
A61K35/30
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/483 C
G01N33/68
C12N5/10 ZNA
C12N1/00 G
C07K14/61
C07K14/50
C12N15/113 Z
C12N15/12
C12N15/63 Z
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024544656
(86)(22)【出願日】2023-01-27
(85)【翻訳文提出日】2024-09-20
(86)【国際出願番号】 SG2023050051
(87)【国際公開番号】W WO2023146477
(87)【国際公開日】2023-08-03
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】508305029
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
(71)【出願人】
【識別番号】519096688
【氏名又は名称】セルリサーチ コーポレイション プライベート リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】519301548
【氏名又は名称】シンガポール ヘルス サービシーズ プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】スー シンイー
(72)【発明者】
【氏名】カッカド レガ
(72)【発明者】
【氏名】バルガヴァ マユリ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ビンシア
(72)【発明者】
【氏名】フンジカー ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】リウ ゼンピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ハオフェイ
(72)【発明者】
【氏名】パリク バヴ ハルシャド
(72)【発明者】
【氏名】チェン チンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ライ フリッツ シェン チョン
(72)【発明者】
【氏名】チャイ チョウ
(72)【発明者】
【氏名】リム カー リョン
(72)【発明者】
【氏名】ファン トアン タン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA36
2G045FB03
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD29
4B065BD33
4B065BD39
4B065BD42
4B065CA08
4B065CA10
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB56
4C087BB64
4C087MA17
4C087MA55
4C087MA58
4C087MA63
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZC02
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA38
4H045EA60
(57)【要約】
本発明は、人工多能性幹細胞を網膜色素上皮細胞に分化させる方法に関する。さらに、本発明は、分化方法により得ることができる網膜色素上皮細胞培養物、および分化方法により得られた網膜色素上皮細胞培養物に関する。さらに、本発明は、分化方法により得ることができるもしくは得られた網膜色素上皮細胞培養物からなる、またはそれを含む、網膜色素上皮に関する。本発明は同様に、分化方法により得られた網膜色素上皮細胞培養物を含む薬学的組成物に関する。本発明は、本方法により人工多能性幹細胞から分化した網膜色素上皮細胞を対象に投与する段階を含む、対象における網膜変性疾患を処置する方法に関する。最後に、本発明は同様に、対象において、定義された方法により人工多能性幹細胞から分化させた網膜色素上皮細胞の生存率を検出するインビボの方法、および定義された方法により人工多能性幹細胞から分化させた該網膜色素上皮細胞の免疫原性を、該分化させたRPE細胞が予め送達されている該対象において判定するインビトロの方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工多能性幹(iPS)細胞を網膜色素上皮(RPE)細胞に分化させる方法であって、臍帯の羊膜の幹細胞に由来するiPS細胞を、RPE細胞への分化に適した条件の下、分化培地中で培養する段階を含み、それにより該iPS細胞を該RPE細胞に分化させる、前記方法。
【請求項2】
前記分化培地が、N2サプリメント、B27サプリメントおよび非必須アミノ酸(NEAA)を含むDMEM (ダルベッコ改変イーグル培地)/F12(ハムF12培地)培地である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記DMEM/F12培地が1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
最終容量1000 mlの培養培地が得られるように、
10 mLの100×N2サプリメント;
20 mLの50×B27サプリメント;
10 mLの100×NEAA;
960 mLのDMEM/F12
を混合することによって、前記分化培地が得られる、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
前記分化培地が、
(i) IGF1、DKK1、ニコチンアミドまたはLDN-193189の少なくともいずれか1つをさらに含む、好ましくはIGF1、DKK1、ニコチンアミドおよびLDN-193189を含む、第1の分化培地;
(ii) IGF1、DKK1、ニコチンアミド、LDN-193189またはb-FGFの少なくともいずれか1つをさらに含む、好ましくはIGF1、DKK1、ニコチンアミド、LDN-193189およびb-FGFを含む、第2の分化培地;
(iii) IGF1、DKK1またはアクチビンAの少なくともいずれか1つをさらに含む、好ましくはIGF1、DKK1およびアクチビンAを含む、第3の分化培地;
(iv) アクチビンAおよび、SU5402またはPD17307のどちらかをさらに含む、好ましくはアクチビンAおよびPD17307を含む、第4の分化培地; ならびに/あるいは
(v) アクチビンA、CHIR99021、またはSU5402もしくはPD17307のどちらかのうちの少なくともいずれか1つをさらに含む、好ましくはアクチビンA、CHIR99021およびPD17307を含む、第5の分化培地
を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
(i)、(ii)および/または(iii)のIGF1が少なくとも約5 ng/mlの最終濃度で使用される、好ましくは(i)、(ii)および/または(iii)のIGF1が約10 ng/mlの最終濃度で使用される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項5 (i)、(ii)および/または(iii)のDKK1が少なくとも約5 ng/mlの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (i)、(ii)および/または(iii)のDKK1が約10 ng/mlの濃度で使用される、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
請求項5 (i)および/または(ii)のニコチンアミドが少なくとも約5 mMの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (i)および/または(ii)のニコチンアミドが約10 mMの濃度で使用される、請求項5~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
請求項5 (i)および/もしくは(ii)のLDN-193189が少なくとも約0.1 μMの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (i)のLDN-193189が約1 μMの濃度で使用され、かつ/または請求項5 (ii)のLDN-193189が約0.2 μMの濃度で使用される、請求項5~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
請求項5 (ii)のb-FGFが少なくとも約2.5 ng/mlの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (ii)のb-FGFが約5 ng/mlの濃度で使用される、請求項5~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
請求項5 (iii)、(iv)および/または(v)のアクチビンAが少なくとも約50 ng/mlの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (iii)、(iv)および/またはv)のアクチビンAが約100 ng/mlの濃度で使用される、請求項5~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
請求項5 (iv)および/または(v)のSU5402が少なくとも約5 μMの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (iv)および/または(v)のSU5402が約10 μMの濃度で使用される、請求項5~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
請求項5 (iv)および/または(v)のPD17307が少なくとも約0.5 μMの濃度で使用される、好ましくは請求項5 (iv)および/または(v)のPD17307が約1 μMの濃度で使用される、請求項5~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記細胞を培養するために、好ましくは約3日間の連続培養の間前記細胞を培養するために、請求項5 (v)のCHIR99021が少なくとも約1 μMかつ約3 μM未満の濃度で使用される、請求項5~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記細胞を引き続き培養するために、好ましくは約5日間の連続培養の間前記細胞を引き続き培養するために、請求項5 (v)のCHIR99021が約3 μMの濃度で使用される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記iPS細胞を培養する段階が、前記第1の分化培地中で約2日間培養することを含む、請求項5~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記iPS細胞を培養する段階が、前記第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第2の分化培地中で約2日間培養することを含む、請求項5~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記iPS細胞を培養する段階が、第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第3の分化培地中で約2日間培養することを含む、請求項5~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記iPS細胞を培養する段階が、前記第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第3の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第4の分化培地中で約2日間培養することを含む、請求項5~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記iPS細胞を培養する段階が、前記第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第3の分化培地中で約2日間培養し、続いて前記第4の分化培地中で約2日間培養し、および続いて前記第5の分化培地中で約8日間培養することを含む、請求項5~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
LDN-193189が少なくとも約2日間の培養の間、使用される、請求項5~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
DKK1が少なくとも約2日間の培養の間、使用される、請求項5~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
SU5402またはPD173074が約10日間の培養の間、使用される、請求項5~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
CHIR99021が約8日間の培養の間、使用される、請求項5~23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記iPS細胞が前記分化培地中で約11~約21日間、好ましくは約16日間培養される、請求項1~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記分化培地中で前記iPS細胞を培養する前にmTESR1培地中で該iPS細胞を培養する段階、好ましくはmTESR1培地中で該iPS細胞を約1~約4日間の培養の間培養する段階をさらに含む、請求項1~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
網膜色素上皮維持(RPEM)培地中で前記RPE細胞を培養する段階をさらに含む、請求項1~26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
前記RPEM培地が、約50%のDMEM/F12と0.5×N1サプリメントおよび1×NEAAを含む約50%の最小必須培地(MEM)とを含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記RPEM培地が、熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、Glutamax、タウリン、ヒドロコルチゾン、3,3',5-トリヨード-L-チロニン、ペニシリン/ストレプトマイシン、ニコチンアミド、またはピルビン酸ナトリウムの少なくともいずれか1つをさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記RPEM培地が、約2%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、1×Glutamax、約0.25 mg/mLのタウリン、約0.02 μg/mLのヒドロコルチゾン、約0.013 ng/mLの3,3',5-トリヨード-L-チロニン、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、約10 mMのニコチンアミドおよび1×ピルビン酸ナトリウムをさらに含む、請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
前記RPE細胞が前記RPEM培地中で約9~約29日間、好ましくは約19日間培養される、請求項27~30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
前記iPS細胞を分化培地中で培養する段階および前記RPE細胞を前記RPEM培地中で培養する段階が、約20~約50日間、好ましくは約30~約35日間、最も好ましくは約35日間からなる、請求項27~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
前記RPE細胞を前記RPEM培地中で培養した後に該RPEM培地中の該RPE細胞を精製する段階をさらに含む、請求項27~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
精製する段階が、
a. 前記RPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定すること;
b. 前記RPE細胞を継代すること;
c. 前記RPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定することおよび前記RPE細胞を継代すること;
d. 前記RPE細胞を継代することおよび前記RPE細胞をその色素沈着にしたがって散乱選別すること; ならびに/または
e. RPE細胞をその色素沈着にしたがって散乱選別すること
を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
請求項34 (a)および/または(c)の、前記RPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定することが、顕微鏡検査により選択することを含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
顕微鏡検査が明視野顕微鏡検査である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
請求項34 (b)、(c)および/または(d)の、前記RPE細胞を継代することが、該RPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEで、好ましくはTrypLEで処理することを含む、請求項34~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
臍帯の羊膜の前記幹細胞においてタンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸、ならびにp53-shRNAを、該幹細胞を再プログラムするのに適した条件の下で発現させることにより、前記iPS細胞が作出される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
臍帯の羊膜の前記幹細胞が、前記外因性核酸を該幹細胞に移入するためのトランスフェクションに供され、該トランスフェクションされた幹細胞が細胞回復に適した培地中で培養され、細胞回復に適した該培地が、炎症応答を抑制しかつ細胞の生存を増強する化合物を含有する、請求項38記載の方法。
【請求項40】
臍帯の羊膜の前記幹細胞が臍帯の羊膜の間葉系幹細胞、または臍帯の羊膜の上皮系幹細胞である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
臍帯の羊膜の前記間葉系幹が間葉系幹細胞集団であり、前記幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が以下のマーカーである、CD73、CD90およびCD105の各々を発現する、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記間葉系幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が以下のマーカーである、CD34、CD45およびHLA-DRの発現を欠く、請求項41記載の方法。
【請求項43】
前記間葉系幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞がCD73、CD90およびCD105の各々を発現し、かつCD34、CD45およびHLA-DRの各々の発現を欠く、請求項41~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
前記タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする前記外因性核酸、ならびに前記p53-shRNAが、1つ、2つまたは3つのベクターにより提供され、好ましくは第1のベクターが該タンパク質OCT3/4および該53-shRNAをコードし、第2のベクターが該タンパク質SOX2およびKLF4をコードし、かつ第3のベクターが該タンパク質L-MYCおよびLIN28をコードする、請求項38~43のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により得ることができる網膜色素上皮(RPE)細胞培養物。
【請求項46】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により得られた網膜色素上皮(RPE)細胞培養物。
【請求項47】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により得ることができる網膜色素上皮細胞培養物からなる、またはそれを含む、網膜色素上皮。
【請求項48】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により得られた網膜色素上皮細胞培養物からなる、またはそれを含む、網膜色素上皮。
【請求項49】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により得られた網膜色素上皮(RPE)細胞培養物を含む薬学的組成物。
【請求項50】
非経口適用または局所適用のために適合される、請求項49記載の薬学的組成物。
【請求項51】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、BEST1、PMEL17、MITF、TYROSINASE、TRYP2、ZO-1、RPE65、RLBP1またはMERTKの少なくともいずれか1つを発現する、請求項45~46のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載の上皮、および/または請求項49~50のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項52】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、胚性幹細胞(ES)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約2の倍率変化でBEST1を発現する、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51記載の薬学的組成物。
【請求項53】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約0.9の倍率変化でPMEL17を発現する、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~52のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~52のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~52のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項54】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約4.5の倍率変化でMITFを発現する、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~53のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~53のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~53のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項55】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約2.9の倍率変化でTRYP2を発現する、請求項45~46のいずれか一項記載のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~54のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~54のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~54のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項56】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約0.6の倍率変化でRPE65を発現する、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~55のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~55のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~55のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項57】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約17.5の倍率変化でRLBP1を発現する、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~56のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~56のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~56のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項58】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約6の倍率変化でMERTKを発現する、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~57のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~57のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~57のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項59】
前記培養物に含まれる前記RPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べて増加した酸素消費速度(OCR)および/または細胞外酸性化速度(ECAR)を含む、請求項45~46のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~58のいずれか一項記載のRPE細胞培養物、請求項47~48のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~58のいずれか一項記載の上皮、ならびに/または請求項49~50のいずれか一項記載および/もしくは請求項51~58のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項60】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により人工多能性幹(iPS)細胞から分化させた網膜色素上皮(RPE)細胞を対象に投与する段階を含む、対象における網膜変性疾患を処置する方法。
【請求項61】
前記網膜変性疾患が加齢黄斑変性(AMD)または網膜ジストロフィーである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
対象において請求項1~44のいずれかに定義される方法により人工多能性幹(iPS)細胞から分化させた網膜色素上皮(RPE)細胞の生存率を検出するインビボの方法であって、以下を含む方法:
(a) 請求項1~44のいずれかに定義される方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞を対象に導入する段階であって、該RPE細胞が生物発光標識を含む、段階;
(b) 撮像法を用いて該RPE細胞の生物発光シグナルを経時的に検出する段階であって、それによって撮像データを収集する、段階;
(c) 段階(b)で受信した撮像データを参照撮像データと比較する段階。
【請求項63】
参照撮像データと比較して前記対象からの前記撮像データにおける生物発光シグナルの差がないことが、該対象における前記RPE細胞の生存を示す、請求項62記載の方法。
【請求項64】
請求項1~44のいずれかに定義される方法により人工多能性幹(iPS)細胞から分化させた網膜色素上皮(RPE)細胞の免疫原性を、該分化させたRPE細胞が予め送達されている対象において判定するインビトロの方法であって、以下を含む方法:
(a) 該対象から得られたサンプルであって、該分化させたRPE細胞を含むサンプルにおいて、撮像法を用いて炎症促進性サイトカインレベルを検出する段階であって、それによって撮像データを収集する、段階;
(b) 段階(a)で受信した撮像データを参照撮像データと比較する段階。
【請求項65】
参照撮像データと比較して前記撮像データにおけるサイトカインレベルの低下が、前記対象における前記RPE細胞の免疫原性の低減を示す、請求項64記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年1月27日付で出願された米国仮特許出願第63/303,849号の優先権の恩典を主張するものであり、その内容は全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は、人工多能性幹細胞を作出する方法に関する。さらに、本発明は、本方法により得ることができる人工多能性幹細胞集団、および本方法により得られた人工多能性幹細胞集団に関する。本発明は同様に、本発明の人工多能性幹細胞を含む薬学的組成物に関する。本発明は同様に、本発明の人工多能性幹細胞を分化させる方法に関する。さらに、本方法により得られた分化した人工多能性幹細胞を含む薬学的組成物にも関する。さらに、本発明は、多能性幹細胞から分化した標的細胞を対象に投与する段階を含む、対象における先天性または後天性の変性障害を処置する方法に関する。本発明は同様に、人工多能性幹細胞を網膜色素上皮細胞に分化させる方法に関する。さらに、本発明は、分化方法により得ることができる網膜色素上皮細胞培養物、および分化方法により得られた網膜色素上皮細胞培養物に関する。さらに、本発明は、分化方法により得ることができるもしくは得られた網膜色素上皮細胞培養物からなる、または分化方法により得ることができるもしくは得られた網膜色素上皮細胞培養物を含む網膜色素上皮に関する。本発明は同様に、分化方法により得られた網膜色素上皮細胞培養物を含む薬学的組成物に関する。本発明は、本方法により人工多能性幹細胞から分化した網膜色素上皮細胞を対象に投与する段階を含む、対象における網膜変性疾患を処置する方法に関する。最後に、本発明は同様に、対象において定義された方法により人工多能性幹細胞から分化した網膜色素上皮細胞の生存率を検出するインビボの方法、および該分化したRPE細胞が予め送達されている該対象において定義された方法により人工多能性幹細胞から分化した該網膜色素上皮細胞の免疫原性を判定するインビトロの方法に関する。
【0003】
発明の分野
幹細胞は、無限に自己再生する能力および複数の細胞または組織型に分化する能力を保有する細胞集団である。幹細胞が自己再生する能力は、原始的な未分化細胞のリザーバとしてのその機能に重要であり、幹細胞の「適応性」は、その起源とは異なる組織に、おそらく、胚性胚葉を越えて分化転換する能力に依存する。対照的に、ほとんどの体細胞は、テロメア短縮のために自己再生能力が制限されている(例えば、Dice, J.F. (1993) Physiol. Rev. 73, 149-159(非特許文献1)に概説されている)。このように、幹細胞に基づく治療法は、多数のヒトおよび動物疾患の処置に有用である可能性がある。
【0004】
胚性幹細胞(受精後およそ3~5日目)は無限に増殖し、全ての組織型に自発的に分化することができる: したがって、それらは多能性幹細胞と称されている(例えば、Smith, A.G. (2001) Annu. Rev. Cell. Dev. Biol. 17, 435-462(非特許文献2)に概説されている)。胚性幹細胞の可能性はかなり大きいとはいえ、その使用には多くの倫理的問題が伴う。それゆえ、非胚性幹細胞が代替供給源として提案されている。
【0005】
成体幹細胞は、より組織特異的であり、複製能力が低い可能性がある: したがって、それらは多能性幹細胞と称されている(例えば、Paul, G. et al. (2002) Drug Discov. Today 7, 295-302(非特許文献3)に概説されている)。これらの細胞は骨髄間質、脂肪組織および真皮に由来することができ、特に軟骨細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、筋芽細胞、心筋細胞、星状細胞および腱細胞に分化する能力を有する。しかしながら、多くの場合、骨髄間質、脂肪組織、真皮および臍帯血から抽出される幹細胞の数は、かなり少ない。
【0006】
新生児幹細胞ともいわれる、非常に若く適応力のある成体幹細胞の包括的な供給源は、臍帯血もしくは組織または胎盤である。例えば、多量の幹細胞は臍帯組織、すなわち、臍帯のマトリックスであるワルトンゼリーから得ることができる(Mitchell, K.E. et al. (2003) Stem Cells 21, 50-60(非特許文献4); 米国特許第5,919,702号(特許文献1); 米国特許出願第2004/0136967号(特許文献2))。これらの細胞は、例えば、それぞれニューロン表現型および軟骨組織に分化する能力を有することが示されている。間葉幹細胞は、臍帯内に見られる3つの血管(2つの動脈、1つの静脈)の1つである臍帯静脈の内皮下層からも分離されている(Romanov, Y.A. et al. (2003) Stem Cells 21, 105-110(非特許文献5); Covas, D.T. et al. (2003) Braz. J. Med. Biol. Res. 36, 1179-1183(非特許文献6))。さらに、臍帯の羊膜組織からは、上皮幹細胞だけでなく間葉幹細胞も成功裏に分離されている(US2006/0078993(特許文献3))。例えば、間葉幹細胞はインビトロおよびインビボで分化を起こすことができるため、これらの幹細胞は中胚葉欠損修復および疾患管理の有望な候補となるが、成体幹細胞の使用はその多能性によって制限される。この制限を克服するために、非胚性細胞を多能性幹細胞、いわゆる人工多能性幹細胞(iPS)に再プログラムすることができる。
【0007】
IPSは、Yamanaka因子としても知られる4つの転写因子OCT3/4、SOX2、KLF4およびC-MYCの過剰発現を通じて、非胚性細胞を多能性状態に再プログラムしたTakahashiおよびYamanakaにより初めて作製された(Takahashi, K. and Yamanaka, S. (2006), Cell, 126(4), pp. 663-676(非特許文献7))。詳細には、TakahashiおよびYamanakaはマウス胚線維芽細胞を使用し、レトロウイルス形質導入を介してYamanaka因子を導入し、それによって転写因子の過剰発現を可能にし、胚細胞の形態および成長特性を示す細胞が作製された。この方法は主要な突破口となったが、形質導入プロセスにより、移入されたDNAが宿主細胞のゲノムに組み込まれる可能性があり、iPSはヒトでの治療的処置には不可欠なものとなっている。2011年にOkita, K. et al., Nature methods, 8(5), pp. 409-412(非特許文献8)によって、iPSを作製するための非統合的な代替法が確立された。Okitaらはエレクトロポレーションを用いて、Yamanaka因子をコードする3つのエピソームプラスミドベクターおよびp53抑制用のp53-shRNAをヒト皮膚線維芽細胞および歯髄に移入し、かくして外因性DNAの過剰発現を可能にし、それによって遺伝子挿入のない(integration free)ヒトiPSを作製した。遺伝子挿入のないヒトiPSの成長および維持を支持するために、Okita et al., 前記は、ネオマイシン耐性およびマウスLIF遺伝子(SNL)で形質転換されている、STO細胞株またはマウス胚線維芽細胞(MEF)からなるフィーダー層でiPSを培養した。しかしながら、フィーダー層での培養は、iPSに外来 DNAを混入するリスクを伴いうる。したがって、Okita et al., 前記による挿入のないiPSも、ヒトでの治療的処置には不可欠なものでありうる。
【0008】
iPS技術は、その構想から10年後、臨床応用の段階に入り、加齢黄斑変性(AMD)(Mandai, M., et al,. N Engl J Med, 2017. 376(11): p. 1038-1046(非特許文献9))およびパーキンソン病(PD)(Reardon, S. and Cyranoski, D. (2014) ‘Japan stem-cell trial stirs envy’, Nature. England, pp. 287-288. doi: 10.1038/513287a(非特許文献10))に対してヒト初回投与試験が行われている。iPS技術の最大の期待は、移植細胞の拒絶を防ぐための長期的な免疫抑制または組織適合性マッチングの必要性を回避しうる自家細胞療法を可能にするその潜在性にある。このパラダイムは、非ヒト霊長類モデルにおける線維芽細胞および骨髄由来iPSで実証されており(Morizane, A., et al., Stem Cell Reports, 2013. 1(4): p. 283-92(非特許文献11); Hallett, P.J., et al., Cell Stem Cell, 2015. 16(3): p. 269-74(非特許文献12); Wang, S., et al., Cell Discov, 2015. 1: p. 15012(非特許文献13); Shiba, Y., et al., Nature, 2016. 538(7625): p. 388-391(非特許文献14))、AMDに対するiPSに基づく細胞治療の最初のヒト試験の基礎となっている(Mandai, M., et al., N Engl J Med, 2017. 376(11): p. 1038-1046(非特許文献9))。しかしながら、臨床等級のiPSの作製に伴う多大な期間および費用のため、ヒトの治療のために大規模に実施される可能性は低いであろう。さらに、患者からの自家iPSの作製が現実的ではない状況も存在する。例えば、疾患を引き起こす変異を保有している患者の場合、これらの患者に由来するiPSを用いることが可能になる前に、これらの変異をまず初めに修正する必要がある。これは、変異が扱いやすい場合には達成可能であるが、多くの疾患の散発性形態の根底にあるものなど、変異が扱いにくい場合には、遺伝子修正戦略は支持できない可能性がある。したがって、結果的に得られるiPSがヒトでの治療的処置に適した網膜色素上皮(RPE)細胞などの、標的細胞に分化することができる、iPSを作出するための代替方法が依然として必要とされている。現在RPE作出に用いられている幹細胞、すなわち人工多能性幹細胞(iPS)および胚性幹細胞(ES)には、いくつかの欠点がある。個体のゲノムは生涯にわたって変異を蓄積し、それががんのような加齢に伴う疾患の根底にあることは十分に確立されている(Stratton MR et al., 2009, Nature 458, 719-7249 2001(非特許文献15))。若い個体から得られたiPS細胞は、高齢個体から得られたiPS細胞と比較して少ない変異を保有している。年齢21~100歳の対象のDNA配列を比較すると、iPS細胞で見つかった遺伝的および後成的変異は、ドナーの年齢が上がるにつれて増加した(Lo Sardo et at., 2017, Nat Biotechnol. 35(1):69-74(非特許文献16))。加齢に伴う異常はミトコンドリアDNAでも増加し、高齢対象の線維芽細胞由来iPS細胞は若年対象よりも有意に高い変異を担持していた(Kang et al., 2016, Cell Stem Cell 18, 625-636, May 5, 2016(非特許文献17))。成人に由来するiPS細胞も、同種宿主に由来する場合、免疫抑制を必要とすることもある。ES細胞の使用は、倫理的な問題や免疫抑制の使用を必要とする免疫拒絶に関連している。皮膚細胞は組織採取が容易なためiPS細胞の作出に広く用いられているが、日光からのUVに長期間曝露されるため変異を起こす大きな変化を有している(Apalla Z. et al., 2017, Dermatol Pract Concept. 2017 Apr; 7(2): 1-6(非特許文献18))。
【0009】
その結果として、本発明の目的は、これらの要求を満たす、iPS細胞の作出および該特定のiPS細胞のRPE細胞への分化の方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,919,702号
【特許文献2】米国特許出願第2004/0136967号
【特許文献3】US2006/0078993
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dice, J.F. (1993) Physiol. Rev. 73, 149-159
【非特許文献2】Smith, A.G. (2001) Annu. Rev. Cell. Dev. Biol. 17, 435-462
【非特許文献3】Paul, G. et al. (2002) Drug Discov. Today 7, 295-302
【非特許文献4】Mitchell, K.E. et al. (2003) Stem Cells 21, 50-60
【非特許文献5】Romanov, Y.A. et al. (2003) Stem Cells 21, 105-110
【非特許文献6】Covas, D.T. et al. (2003) Braz. J. Med. Biol. Res. 36, 1179-1183
【非特許文献7】Takahashi, K. and Yamanaka, S. (2006), Cell, 126(4), pp. 663-676
【非特許文献8】Okita, K. et al., Nature methods, 8(5), pp. 409-412
【非特許文献9】Mandai, M., et al,. N Engl J Med, 2017. 376(11): p. 1038-1046
【非特許文献10】Reardon, S. and Cyranoski, D. (2014) ‘Japan stem-cell trial stirs envy’, Nature. England, pp. 287-288. doi: 10.1038/513287a
【非特許文献11】Morizane, A., et al., Stem Cell Reports, 2013. 1(4): p. 283-92
【非特許文献12】Hallett, P.J., et al., Cell Stem Cell, 2015. 16(3): p. 269-74
【非特許文献13】Wang, S., et al., Cell Discov, 2015. 1: p. 15012
【非特許文献14】Shiba, Y., et al., Nature, 2016. 538(7625): p. 388-391
【非特許文献15】Stratton MR et al., 2009, Nature 458, 719-7249 2001
【非特許文献16】Lo Sardo et at., 2017, Nat Biotechnol. 35(1):69-74
【非特許文献17】Kang et al., 2016, Cell Stem Cell 18, 625-636, May 5, 2016
【非特許文献18】Apalla Z. et al., 2017, Dermatol Pract Concept. 2017 Apr; 7(2): 1-6
【発明の概要】
【0012】
本発明は、本明細書において記述される人工多能性幹細胞(iPS)を作製する方法、得られた人工多能性幹細胞、得られた人工多能性幹細胞を分化させる方法、および人工多能性幹細胞に由来する分化細胞を用いて対象における障害を処置する方法に関する。
【0013】
したがって、本発明は、人工多能性幹細胞を作製する方法であって、臍帯の羊膜の幹細胞において、幹細胞を再プログラムするのに適した条件下で、タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸ならびにp53-shRNAを発現させ、それによって人工多能性幹細胞を作製する段階を含む、方法を提供する。この方法の態様において、臍帯の羊膜の幹細胞は、臍帯の羊膜の間葉幹細胞または臍帯の羊膜の上皮幹細胞である。
【0014】
さらに、本発明は同様に、本方法によって得ることができる人工多能性幹細胞集団、および本方法によって得られた人工多能性幹細胞集団を提供する。人工多能性幹細胞集団は、臍帯の羊膜の間葉幹細胞(集団)に由来する人工多能性幹細胞集団、または臍帯の羊膜の上皮幹細胞(集団)に由来する人工多能性幹細胞集団のいずれかであることができる。
【0015】
加えて、本発明は同様に、本発明の人工多能性幹細胞を含む薬学的組成物を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、本発明の人工多能性幹細胞を標的細胞に分化させる方法であって、人工多能性幹細胞が分化に適した条件下で標的細胞に分化される、方法を提供する。その結果として、本発明は同様に、本発明によって得られた分化した人工多能性幹細胞を含む薬学的組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、本発明によって得られた多能性幹細胞から分化させた標的細胞を対象に投与する段階を含む、対象における先天性または後天性の変性障害を処置する方法も提供する。
【0018】
加えて、本発明は、本発明の人工多能性幹細胞集団により産生される、または本発明の人工多能性幹細胞の分化によって得られた細胞により産生される細胞外膜小胞を提供する。本発明は、治療剤の送達担体としての本発明のそのような細胞外膜小胞の使用をさらに含む。
【0019】
本発明はまた、乳腺上皮基礎培地(Mammary Epithelial Basal Medium) MCDB 170、EpiLife培地、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、F12(ハムF12培地)、およびFBS(ウシ胎仔血清)を含む細胞培養培地も提供する。
【0020】
本発明はさらに、本明細書において記述される人工多能性幹(iPS)細胞を網膜色素上皮(RPE)細胞に分化させる方法、結果的に得られるRPE細胞、本明細書の他の箇所において記述されるRPE細胞からなる、または本明細書の他の箇所において記述されるRPE細胞を含む網膜色素上皮、本明細書において記述される方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞を用いて対象における網膜変性疾患を処置する方法、および本明細書において記述される方法により得られたRPE細胞を含む薬学的組成物に関する。さらに、本発明は同様に、本明細書において記述される方法により得られたRPE細胞を用いるインビボおよびインビトロの方法に関する。
【0021】
本発明者らは、臍帯表層細胞に由来するiPS細胞(略称: CLiPS)を用いて臨床用のRPE細胞を作出することについて記述する。本発明者らは、ESおよび皮膚iPS細胞と比較して本発明の方法を用いてCLiPSをRPEに分化させ、一貫して増大したRPE分化効率を有するRPEを作出した。CLiPS由来のRPEは、MITF、PMEL17およびTRYP2などの色素沈着特異的遺伝子ならびにBEST1、RPE65、MERTK、RLBP1などのRPE特異的遺伝子の発現レベルの増加に基づきES由来のRPEよりも高い色素沈着を有していた。異なる幹細胞(CLiPS、ESおよび皮膚iPS)に由来するRPEの生体エネルギーを比較することによって機能レベルに関しても、CLiPS-RPEはES由来のRPEと比較して増大した解糖およびミトコンドリア呼吸レベルを含むことが実証された。
【0022】
したがって、本発明の第1の局面において、本発明は、iPS細胞をRPE細胞に分化させる方法であって、臍帯の羊膜の幹細胞に由来するiPS細胞を、RPE細胞への分化に適した条件の下、分化培地中で培養する段階を含み、それにより該iPS細胞を該RPE細胞に分化させる、前記方法を提供する。
【0023】
本発明の第2の局面において、本発明は、本方法により得ることができるRPE細胞培養物、および本方法により得られたRPE細胞培養物を提供する。
【0024】
本発明の第3の局面において、本発明は同様に、本方法により得ることができるRPE細胞培養物からなる、もしくは本方法により得られるRPE細胞培養物を含む、および本方法により得られたRPE細胞培養物からなる、もしくは本方法により得られたRPE細胞培養物を含む、網膜色素上皮を提供する。
【0025】
本発明の第4の局面において、本発明は同様に、本発明の方法により得られたRPE細胞培養物を含む薬学的組成物を提供する。
【0026】
本発明の第5の局面において、本発明は同様に、本発明の方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞を対象に投与する段階を含む、対象における網膜変性疾患を処置する方法を提供する。
【0027】
本発明の第6の局面において、本発明は、対象において本明細書において定義される方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞の生存率を検出するインビボの方法であって、以下を含む、該方法を提供する:(a) 定義される方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞を対象に導入する段階であって、該RPE細胞が生物発光標識を含む、段階; (b) 撮像法を用いて該RPE細胞の生物発光シグナルを経時的に検出する段階であって、それによって撮像データを収集する、段階; (c) 段階(b)で受信した撮像データを参照撮像データと比較する段階。
【0028】
本発明の第7の局面において、本発明は、定義される方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞の免疫原性を、該分化させたRPE細胞が予め送達されている対象において判定するインビトロの方法であって、以下を含む、該方法を提供する:(a) 該分化させたRPE細胞を含む、該対象から得られたサンプルにおいて、撮像法を用いて炎症促進性サイトカインレベルを検出する段階であって、それによって撮像データを収集する、段階; (b) 段階(a)で受信した撮像データを参照撮像データと比較する段階。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、非限定的な実施例および図面と併せて考慮した場合に、詳細な説明を参照してより良く理解されるであろう。
【0030】
【
図1】本発明の人工多能性幹細胞を作製する方法の例示的な態様の実験段階を模式的に表す流れ図を示す。本明細書において用いられる幹細胞は、臍帯の羊膜から単離されたもので、臍帯ライニング幹細胞(CLSC)ともいわれる。この態様は、細胞培養装置から細胞を解離することにより単離されたCLSCを回収することから始まる(しかしながら、CLSCは本発明の方法のために単離された形態で供給することもできることに留意されたい)。次に、CLSCをカウントし、約70万個の細胞を微量遠心管に分注しペレット化する。Yamanaka因子をコードするプラスミドを細胞-緩衝液混合物に添加する前に、細胞ペレットをエレクトロポレーションに適した緩衝液に再懸濁する。エレクトロポレーションは、臍帯ライニング間葉細胞(CLMC)および臍帯ライニング上皮細胞(CLEC)の場合、それぞれ約20 msの持続時間および約1600 Vの電圧を有する1パルスで、または30 msの持続時間および約1350 Vの電圧を有する2パルスで実行される。エレクトロポレーション後、幹細胞は回復に適した培地中に直ちに移されるが、ここでこの培地には、炎症応答を抑制しかつ細胞生存を増強する化合物が含まれる。適当な回復時間の後、回復に適した培地は、2つの異なる細胞培養培地の1:1混合物に置き換えられ、ここで2つの異なる細胞培養培地は、回復に適した培地および第2の細胞培養培地である。細胞培養培地をリフレッシュするために、エレクトロポレーションの約4日後に培地混合物を同じ細胞培養培地の混合物に置き換える。それにより、本明細書においてCLiPSともいわれる臍帯ライニング人工多能性幹細胞のコロニーが作製される。さらに約2日後、2つの異なる細胞培養培地の1:1混合物を第2の細胞培養培地に置き換える。この培地も約2日ごとに置き換えて、培地を鮮度に保つ。直径が約0.5 mmから1.5 mmのサイズに達したら、CLiPSコロニーをピッキングし、細胞の培養および増殖に適したコーティングされた細胞培養容器に移す。この場合も先と同様に、細胞培養培地を同じ培地に定期的に置き換える。約50%の集密度に達した後、CLiPSコロニーをコーティングされた培養装置から剥離し、細胞の培養および増殖に適した別の細胞培養容器に移す。このようにして、CLiPSコロニーをさらに解離させる。約70~80%の集密度に達したら、CLiPSを約1:3 (v/v)の比率で継代し、ここで約1:3 (v/v)の比率での継代は、1容量の解離したCLiPSを2容量の新鮮な培地に接触させることによって実施される。次に、約30~60%の集密度に達するまで、細胞の生存を増強する物質を含有する培地中でCLiPSを培養する。この時点で、CLiPSは任意の所望の標的細胞に分化することができる。
【
図2】個々のCLSC集団の再プログラミング効率の例示的な比較を示す。幹細胞は、外因性核酸を細胞にトランスフェクトするために、異なるエレクトロポレーション設定に供された。エレクトロポレーションは、Okita et al, 前記に示されたエレクトロポレーションパラメータ(1650 V, 10 ms, 3パルス)ならびに、それぞれ臍帯の羊膜の上皮幹細胞(本明細書において「臍帯ライニング上皮幹細胞」またはCLECともいわれる; 1350 V, 30 ms, 2パルス)および臍帯の羊膜の間葉幹細胞(本明細書において臍帯ライニング間葉幹細胞またはCLMCともいわれる(1600 V, 20 ms, 1パルス))のトランスフェクションのために本発明において用いられた各パラメータを用いて実行された。200Kのトランスフェクト細胞を6ウェルプレートに三つ組でプレーティングした。トランスフェクションから約21日後、再プログラミング効率のパーセントをコロニー数/200,000×10として計算した。
【
図3-1】ヒトCLMCからの人工多能性幹細胞の例示的なコロニー発生を示す。
図3a~f: コロニー発生の代表的な時間経過を示し、ここで
図3aは、培養0日目にその維持培地中で培養されたヒトCLMCの典型的な形態を描写している。
図3b: 培養15日目にその維持培地中で培養されたヒトCLMCの典型的な形態を描写している。
図3c: 培養24日目にその維持培地中で培養されたヒトCLMCの典型的な形態を描写している。
図3d: 培養29日目にその維持培地中で培養されたヒトCLMCの典型的な形態を描写している。
図3e: iPSコロニー初回継代の典型的な形態の4倍拡大図を示し、
図3f: 初回継代時のiPSコロニーの典型的な形態の10倍拡大図を示す。
図3g~l: 多能性胚性幹細胞マーカーの内因性発現の活性化を示す、ヒト臍帯ライニング細胞に由来するiPSの例示的な免疫蛍光染色を描写し、ここで
図3g: KLF4の発現を示し、
図3h: NANOGの発現を示し、
図3i: OCT3/4の発現を示し、
図3j: SOX2の発現を示し、
図3k: SSEA4の発現を示し、
図3l: Tra-1-60の発現を示す。
図3m: 個々の細胞株CLEC23 (EC23-CLiPS)、CLMC23 (MC23-CLiPS)、CLEC44 (EC44-CLiPS)およびCLMC44 (MC44-CLiPS)におけるCLiPSの正常染色体数およびG-バンディングパターンを実証する例示的な核型分析を示す。
図3n: 再プログラミング10日で出現した例示的なヒトCLMSC-DTHN培養物を、20倍に拡大して示す。
図3o: ラミニン-511基質上で培養された拡張ヒトCLMSC-DTHNの典型的な形態を4倍に拡大して示す。
図3p: ラミニン-511基質上で培養された拡張ヒトCLMSC-DTHNの典型的な形態を10倍に拡大して示す。
図3q: ラミニン-511基質上で培養された拡張ヒトCLMSC-DTHNの典型的な形態を20倍に拡大して示す。
図3r: 継代数3のCLMSC-DTHN iPSにおけるヒト多能性マーカーNANOGの例示的な発現を示す。
図3s: 継代数3のCLMSC-DTHN iPSにおけるヒト多能性マーカーOCT3/4の例示的な発現を示す。
図3t: 継代数3のCLMSC-DTHN iPSにおけるヒト多能性マーカーSOX2の例示的な発現を示す。
図3u: 継代数3のCLMSC-DTHN iPSにおけるヒト多能性マーカーNTRA-1-81の例示的な発現を示す。スケールバー: 全て100 μm。
図3v: 初代親細胞、ベクタートランスフェクション11日後の親細胞(D11トランスフェクト細胞)および確立されたiPSクローン(CLiPS)における再プログラミング遺伝子発現および多能性遺伝子発現の例示的なRT-PCR分析を示す。「Vec」は、ベクター由来の配列に特異的な増幅を示す。グリセリンアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を内部対照として用いた。逆転写なしのヒト(homo sapiens) (H1)全RNAのPCRを用いて、全てのプライマー対のゲノム混入を制御した。
【
図4-1】CLiPS注射後に免疫不全非肥満糖尿病重症複合免疫不全(NOD-SCID)マウスによって形成された奇形腫の例示的な組織学的分析を示す。奇形腫形成アッセイにより、3つの胚葉全ての形成が明らかにされる。
図4a挿入図: 皮下注射3ヶ月後にヒトCLEC由来iPSから得られた奇形腫を示す。奇形腫の切片は、ヘマトキシリン・エオシン染色によってさらに分析されている。
図4a: 奇形腫における呼吸器様上皮の存在を示す。
図4b: 奇形腫における内胚葉を表す腺構造の存在を示す。
図4c中: 矢印は奇形腫における軟骨の存在を示す。
図4d中: 矢印は、奇形腫における中胚葉を表す骨の存在を示す。
図4e: 奇形腫における腎臓組織の存在を示す。黒塗り矢印は糸球体を示し、中空の矢印は尿細管を示す。
図4f中: 矢印は奇形腫における外胚葉を表す神経上皮の存在を示す。有向の分化プロトコルを用いて、CLiPSは特定の組織に分化するように誘導された。
図4g: α-フェトプロテイン(AFP)および4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で可視化された肝細胞に分化したCLiPSを示す。
図4h: ヒト血清アルブミン(HAS)、サイトケラチン18 (CK18)およびDAPIで可視化された肝細胞に分化したCLiPSを示す。
図4i: オイルレッドO (Oil Red O)で可視化された肝細胞に分化したCLiPSを示す。
図4j: α-アクチニン(αACT)、心筋トロポニンI (cTnl)、ミオシン調節性軽鎖2a (MLC2a)およびDAPIで可視化された心筋細胞に分化したCLiPSを示す。
図4k: 底板マーカーFOXA2、蓋板マーカーLMX1AおよびDAPIで可視化されたドーパミン作動性ニューロンに分化したCLiPSを示す。
図4l: ニューロン特異的クラスIIIβ-チューブリン(TUJI)およびチロシンヒドロキシラーゼ(TH)で可視化されたドーパミン作動性ニューロンに分化したCLiPSを示す。
図4m: OLIG2およびDAPIで可視化されたオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化したCLiPSを示す。
図4n: O4およびDAPIで可視化されたオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化したCLiPSを示す。
図4o: 分化45日目の成熟ヒトCLiPS由来ドーパミン作動性ニューロンの電気生理学的分析を示す。ヒトCLiPS由来ドーパミン作動性ニューロンは、注入された電流で活動電位のトレインを発火させる。スケールバー:
図4a、
図4cおよび
図4dでは200 μm;
図4b、
図4eおよび
図4fでは100 μm;
図4g、
図4h、
図4i、
図4k、
図4l、
図4mでは50 μm;
図4j、
図4nでは25 μm。
【
図5-1】ヒトCLiPSのさまざまな異なる細胞型への例示的な有向の分化を示し、ここで
図5a: TH、TuikおよびDAPIで可視化されたヒトCLiPS由来のニューロンを描写し、
図5b: CK18、HASおよびDAPIで可視化されたヒトCLiPS由来の肝細胞を描写し、
図5c: cTnl、αActおよびDAPIで可視化したヒトCLiPS由来の心筋細胞を描写し、
図5d: 自発的活動電位を生成する細胞を例示する収縮ヒトCLiPS由来の心筋細胞の電気生理学的分析を示す。
【
図6-1】iPSおよびそれから分化したドーパミン作動性神経前駆細胞での主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)クラスIおよびII、ならびにT細胞共刺激タンパク質発現の例示的なフローサイトメトリー分析を示す。
図6a: 未分化iPSでの免疫関連遺伝子発現のフローサイトメトリープロファイルを示す。
図6b: 神経細胞接着分子(NCAM)陽性集団のフローサイトメトリー分析を示す。これらの集団は、免疫関連タンパク質発現の分析のためにゲーティングされた。
図6c: 25日目の分化したドーパミン作動性神経前駆細胞での免疫関連タンパク質発現の分析を示す。
【
図7】ヒトCLiPSおよびヒト成人線維芽細胞iPS (asF-iPS)に由来するドーパミン作動性神経前駆細胞(NPC)のNOD-SCIDマウスにおける生着のインビボでの比較を示す。25日目のドーパミン作動性NPCをNOD-SCIDマウスの線条体に注射して、免疫不全環境での細胞の生着および分化能を評価した。TH-免疫反応性ドーパミン作動性ニューロンは、豊富なヒトNCAM陽性生着ニューロンの中に存在する。
図7a: ヒトasF-iPSに由来する25日目のドーパミン作動性NPCのインビボでの生着を示す。
図7b: ヒトCLEC-iPS (EC23-CLiPS)に由来する25日目のドーパミン作動性NPCのインビボでの生着を示す。
図7c: CLMC-iPS (MC23-CLiPS)に由来する25日目のドーパミン作動性NPCのインビボでの生着を示す。
図7d: ヒトCLEC-iPS由来のドーパミン作動性NPC移植1ヶ月後に免疫適格性C57BL/6NTacマウスにおいて作製されたパーキンソン病(PD)マウスモデルの移植半球の抗体染色を示す。ヒトNCAM (緑色)およびTH (赤色)二重陽性ニューロンが注射部位に豊富に存在する。
図7e: 移植部位から発生した長い神経突起が脳梁の大鉗子に沿って脳の遠位領域まで投影されていることを示す。
図7f中の矢印: 矢印によって示されるように、注射部位に豊富に存在するヒトNCAMおよびTH二重陽性ニューロンを示す。
図7g:
図7dに示されるのと同じ切片の対側の非移植半球を示す。
図7h: ヒト成人asF-iPS由来NPCを移植した線条体に生存細胞が見えないことを例示し、免疫拒絶を示唆している。
図7i: 移植された半球における豊富なミクログリア/マクロファージの凝集を示す。
図7j: 非移植半球にミクログリア/マクロファージの凝集がないことを示す。
図7k:
図7iのさらに高倍率を示す。移植片の近位および内部に位置するミクログリアが、活性化されたミクログリアに特徴的なさらにアメーバ状の形態を呈することを見て取ることができる。
図7l:
図7kのさらに高倍率を示し、ミクログリアの活性化マーカーであるCD68の発現を示している。スケールバー:
図7a~cおよび
図7kでは100 μm;
図7d、
図7gおよび
図7hでは200 μm;
図7e、
図7fおよび
図7lでは50 μm。
【
図8-1】移植9ヶ月後のマウスPDモデルにおけるヒトCLEC由来(EC23-CLiPS)ドーパミン作動性ニューロンの生存を示す。
図8a: 移植された半球に存在するHuNu+/hNCAM+/TH+ニューロンを示す。
図8b:
図8c~fの重ね合わせであり、
図8a中の枠で囲んだ領域のさらに高倍率を示す。
図8c: 移植された半球に存在するhNCAM+ニューロンを示す。
図8d: 移植された半球に存在するHuNu+ニューロンを示す。
図8e: 移植された半球に存在するTH+ニューロンを示す。
図8f: 移植された半球に存在するニューロンの核を示す。
図8g: C57BL/6NTacマウスの線条体への6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)注射によるPD病変の誘発から始まる実験段階を模式的に例示する。移植前回転行動アッセイは、NPC移植の1週間および2週間前に実施した。
図8h: ヒトEC23-CLiPSおよびasF-iPSに由来するドーパミン作動性NPCを移植したマウス、ならびに偽対照におけるアポモルフィン誘発回転非対称性アッセイの結果を示す。アッセイは、移植後22週まで2週間ごとに実施された。ヒトEC23-CLiPS群の動物は、移植後20週目からasF-iPS群と比較して統計的に有意な回転の回復を示した(n=5, p<0.05)。偽処置群では回復が観察されなかった。
図8h: 移植後6ヶ月の線条体ドーパミン作動性ニューロンにおけるドーパミン輸送体(DAT)機能の回復を評価するための、[18F]PE-P2Iリガンドの取り込みの代表的なインビボ陽電子放射断層(PET)撮影を示す。ヒトEC23-iPS NPCを移植したマウスは、asF-iPS NPCを移植したマウスまたは偽処置対照と比較して、DAT活性の回復を示した。スケールバー:
図8aでは200 μm;
図8b~fでは100 μm。
【
図9】移植マウスにおける線条体ドーパミン産生の例示的なインビボPET撮像を示す。PETは、iPS由来NPC移植6ヶ月後の線条体ドーパミン作動性ニューロンにおけるドーパミン輸送体(DAT)機能の回復を評価するための、[18F]PE-P2lリガンドの取り込みを例示する。ヒトCLEC-iPS由来のNPCを移植したマウスは、ヒト成人iPS由来のNPCを移植したマウスまたは偽移植対照と比較して、DAT活性の明らかな回復を示す。
【
図10】マウス脳への移植後6ヶ月および9ヶ月のヒトCLiPSに由来する移植片のインビボでの維持を例示する。移植片は、ヒト抗原NCAMおよびTHドーパミン作動性マーカーについて陽性に染色される。腫瘍の形成は記録されていない。スケールバー: 50 μm。
【
図11】完全に免疫適格なWistar Hannoverラットにおいて作製されたPDの内側前脳束(MFB)病変モデルにおける移植ヒトEC23-CLiPSドーパミン作動性NPCの組織学的および機能的分析の結果を示す。
図11a: ヒト細胞質(STEM 121)およびヒト核抗原(HuNu)抗体に対する陽性二重染色によって実証された、移植3ヶ月後のラット脳の線条体領域におけるヒトEC23-CLiPSニューロンの生着を示す。染色は機能回復を示す。
図11b: シナプシン1免疫反応とhNCAM+/TH+ニューロンとの共局在化を示し、移植3ヶ月後の移植ヒトCLiPS由来細胞と宿主組織との統合の可能性を示唆している。
図11c: ラット脳の黒質におけるドーパミン作動系の逆行性病変を示す。
図11d: チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色により、
図11cの黒質におけるドーパミン作動系の逆行性病変を確認する非病変ラット脳を示す。
図11e: ヒトCLEC23-iPSに由来するドーパミン作動性NPCを移植したラットにおけるアポモルフィン誘発回転非対称性アッセイの結果を示す。この結果は、CLiPS-NPCの移植が6ヶ月の研究期間にわたって、PDのラットMFBモデルにおける機能的運動障害の回復を媒介したことを示す。スケールバー:
図11aおよび
図11bでは100 μm;
図11cおよび
図11dでは200 μm。
【
図12a】
図12a、b、およびcは、PTTe-3培地を回復培地として用いることにより作製されたヒトCLECに由来する人工多能性幹細胞の例示的なコロニーをそれぞれ示す。
【
図13】CLiPSがRPEに分化することを示す: 異なる幹細胞、ヒトES細胞(H9)、皮膚に由来するiPS細胞株(Asf5、AGO、HDFA)、臍帯表層間葉細胞(CLMC23、CLMC30、CLMC44)および臍帯表層外胚葉細胞(CLEC23)からの分化培養物の画像。細胞培養プレート上の濃いパッチは、色素沈着したRPE細胞の存在に対応する。
【
図14a】CLMCsは一貫して高い分化効率を有することを示す。
図14a: 色素沈着細胞が占めるウェルの面積の割合に基づいてRPE分化効率を推定するための視覚的等級付けシステムを示し、RPE分化効率は、色素沈着なし、<30%、30~60%または>60%の色素沈着について、それぞれ0、1、2または3と等級付けされる。
図14b: 分化プレートの色素沈着細胞面積の視覚的等級付けによって推定されたRPE分化効率を示す。各バーは分化プレート1枚の等級付けを表し、バー上の数字は、異なる茶色の色合いで示された異なる等級の色素沈着を有するプレート上のウェルの割合を示す。数字1~3は生物学的複製を表す。
図14c: フローサイトメトリーによるPmel17によって推定された異なる幹細胞のRPE分化効率を示す; 3ウェルの細胞をFACS分析用にプールした。
【
図15a】CLiPS由来のRPEがES由来と比較して色素沈着が多いことを示す。
図15a: ChemiDoc Touchゲル撮像システム(Bio-Rad laboratories)を用いて、分化30日目に同一条件で撮影した分化プレートの画像を示す。
図15b: H9の弱い色素沈着を示す異なる幹細胞由来のRPEの位相差画像を示す。H9: (ヒトES細胞由来RPE)、CLMC23、CLMC30、CLMC44、CLEC23 (CLiPS由来RPE)、AGO、HDFA、Asf5 (皮膚iPS細胞由来RPE)。
図15c: CLiPS由来RPEがES由来と比較して多い色素沈着を有することを示す。H9: (ヒトES細胞由来のRPE)、CLMC23、CLMC30およびCLEC23 (CLiPS由来のRPE)の分化に沿って異なる時点でBioradのCmemidoc Touchシステムを用いて撮影した分化プレートの画像から分析した色素沈着の濃さを示すグラフ。
図15d: 色素沈着関連遺伝子およびRPE特異的遺伝子がCLiPにおいて高いことを示す: 分化18日目および35日目の色素沈着に関与する遺伝子: MITF、PMEL17、チロシナーゼ(TYROSINASE)、TRYP2のRT-qCPR分析。
【
図16】分化18日目および35日目にRPE特異的遺伝子を発現するCLiPSを示す: RPE特異的RPE65およびMERTKのRT-qCPR分析。
【
図17】CLiPS由来のRPEが機能的であることを示す。
図17a: 天然RPEと同様に、インビトロで作出されたRPEにより密着結合が形成されることを示す: 上皮電圧抵抗計(Epithelial Volt Ohm meter) EVOM2(商標)を用い4ヶ月にわたって測定された、異なる幹細胞に由来するRPEにおける密着結合の完全性の尺度である経上皮電気抵抗(TEER)。
図17b: インビトロで作出されたRPEが高度に貪食性であることを示す: 異なる幹細胞に由来するRPEによるFITC標識視細胞外節(POS)の貪食率。
【
図18】ES由来と同様のタンパク質発現を示すCLiPS由来RPEを示す。CLiPS-RPEはMertkの頂端発現、ZO-1の接合発現およびRPE65の細胞質発現を示す。
【
図19-1】RPE分化のオリジナルな方法とその修正点を示す。
図19a: 異なる段階で使用される分化培地とその組成を示す、オリジナルの方法の概略図を示す。
図19b: 分化プロトコルに導入された修正点を示し、CHIR99021濃度の漸増と、FGF阻害剤SU5402のPD173074との置換を示している。
図19c: SU5402を用いた公開プロトコルまたはPD173074を用いた修正プロトコルにより分化させたCLMC30プレートの写真を示し、同程度のRPE分化および色素沈着を示している。DM1~DM5: 分化培地1~5。PD173074を用いた修正RPE分化プロトコルにより機能的RPEが得られる。SU5405またはPD173074を用いた分化方法由来のRPEの機能性を、TEER (
図19d)およびFITC標識POS粒子の貪食(
図19e)について試験した。
【
図20a】
図20aおよびb: 異なる精製方法によるRPE収率の比較を示す。具体的には、
図20aおよびbは、RPE精製の異なる方法の概略図を示す: RPEおよび非RPEを含有する分化培養物を以下で精製した: (i) 手動精製: 解剖顕微鏡下で観察することでの形態と色素沈着の欠如に基づく非RPE細胞の同定、および掻き取りによるそれらの手動の除去、(ii) TrypLE精製: 部分的なTrypLE処理による弱付着性の非RPEクラスタの大部分の除去、(iii) TrypLE+ 手動: 部分的なTrypLE処理による弱付着性の非RPEクラスタの大部分の除去後、解剖顕微鏡下で観察することでのTrypLE処理を免れた少数の非RPEクラスタの手動の除去、(iv) TrypLE + 散乱選別: 部分的なTrypLE処理による弱付着性の非RPEクラスタの除去後、散乱選別、(v) 散乱選別: 混合分化培養物から全細胞を、その相対的な光散乱に基づき、散乱の高い(色素沈着RPE細胞)集団と散乱の低い(非色素沈着非RPE細胞)集団として分離。
図20cおよびd: 散乱の高いRPE細胞をより正確に選択するためのオリジナルの散乱選別法および修正された散乱選別法を示す。
図20c: オリジナルのプロトコルと同様に、散乱の高いゲート(青緑色)および散乱の低いゲート(赤紫色)について任意に選択されたゲートを示す。
図20d: 散乱の高いゲート(青緑色)をより正確に選択するために、部分的なTryPLE処理により解離した弱付着性の非RPE細胞を用いて散乱の低いゲート(赤紫色)を設定する修正されたゲート選択を示す。
図20e: 異なる精製方法から得られたRPEの収率を示す。
図20f: Pmel17フローサイトメトリーにより評価された異なる精製方法からのRPEの純度を示す。
図20g: 異なる精製方法から得られたRPEのTEERを示す; M: 手動精製、T: TrypLE精製、T+M: TrypLE+手動精製、T+Sc: TrypLE+散乱選別、Sc: 散乱選別、T (緩い): TrypLE処理により容易に剥離した弱付着性の非RPE細胞、Sc低: 散乱選別からの散乱の低い非RPE細胞。
図20h: 視細胞外節(POS)貪食アッセイにより評価された異なる精製方法からのRPEの貪食能を示す。
図20i: 異なるRPE精製方法を比較した表を示す。
図20j: CLMC23およびH9におけるRPE特異的遺伝子発現の定量的PCR比較を示す。qPCR結果は、GAPDH に対して正規化されたBEST1、RPE65、RLBP1、MERTK、MITF、PMEL17およびTRYP2などのRPE特異的遺伝子の相対的発現を示す。
図20k: CLMC23およびH9における遺伝子発現の比較を示し、H9に対するCLMC23の倍率変化として表されている。
【
図21a】CLiPs-RPE (CLEC23-RPE)が天然RPE (AHRPE)と同様の生体エネルギープロファイルを有することを示す。CLiPsRPE (CLEC23-RPE)はまた、皮膚iPSC-RPE (ASF5-RPE)およびhESC-RPE (H9-RPE)の両方と比較して、より高い解糖および酸化的リン酸化を示す。
図21a: OCR曲線について基底呼吸、ATP産生、最大容量および予備呼吸能がH9-RPEと比較してそれぞれ38%、40%、35%および36%だけCLiPs-RPEにおいて高いことを示す。
図21b: ECAR曲線について解糖、解糖能および解糖予備能がH9-RPEと比較してそれぞれ25%、37%および50%だけCLiPs-RPEにおいて高いことを示す。
図21c~f: ASF5-RPE (d)での27%の低減およびH9-RPE (e)での43%の低減に比べてCLEC23-RPE (c)の場合にoxLDL点線の曲線)への曝露後に最大容量の減少がないことから明らかなように、CLiPs-RPEは酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)に対する耐性の増加を示すことを示している。(CLiPs-RPE細胞の酸化ストレスに対する応答は、天然RPE (AHRPE - f)において見られるものと類似しており、それらを、他の分化RPEと比較して初代RPEに機能的に近くしている。
図21g~j: ASF5-RPE (h)での27%の低減およびH9-RPE (i)での99%の低減に比べてCLEC23-RPE (g)の場合にH2O2 (点線の曲線)への曝露後に最大容量の減少がないことから明らかなように、CLiPs-RPEは過酸化水素(H2O2)に対する耐性の増加を示すことを示している。CLiPs-RPE細胞の酸化ストレスに対する応答は、天然RPE (AHRPE) (fおよびj)において見られるものと類似しており、それらを、他の分化RPEと比較して初代RPEに機能的に近くしている。
【
図22a】全ての幹細胞由来網膜色素上皮(SC-RPE)細胞株に免疫系クリアランスがないことを示す。
図22aおよびb: ヒト化マウスとNOD-SCID IL2Rγ-/- (免疫不全)マウスの両方において表示された時点でマトリゲル・プラグに埋め込まれた注入ルシフェラーゼ発現SC-RPEのインビボ生物発光測定(全発光)を示す。
図22c: 2ヶ月の終点でのヒト化マウスに移植されたマトリゲル・プラグからのRPE65、Ki67およびHoechst染色を示す全SC-RPE株の代表的な画像を示す。スケールバー, 50 μm。
【
図23a】CLEC23-RPE群が、細胞性免疫応答の誘導に関与する炎症促進性サイトカインのレベルを低減させたことを示す。
図23aおよびb: 分析された終点での血清サイトカイン(IFN-γおよびIL-18)を示す。
図23c: 免疫細胞の浸潤を示すRPE-マトリゲル・プラグのOTX2、ヒトCD45 (hCD45)およびHoechst染色を示した代表的な画像を示す。
図23dおよびe: RPE-マトリゲル・プラグ内のhCD45陽性細胞に基づく細胞性免疫応答の等級付け(0~3)を示す。スケールバー, 50 μm。
【
図24a】CLEC23-RPEがCD8 T細胞の活性化を抑制しうることを示す。
図24aおよびb: 分析された終点での血清サイトカイン血清サイトカイン(IL-23およびIL-17A)を示す。
図24c: T細胞(CD3)対B細胞(CD19)比がフローサイトメトリー分析後に計算されたことを示す。
図24d: T細胞分化を分析するために、CD3陽性細胞がさらにヘルパーT (CD4)細胞および細胞傷害性T (CD8)細胞にゲーティングされたことを示す。
図24eおよびf: CD4陽性およびCD8陽性細胞が特異的な表面マーカーに基づいて、T細胞の活性化状態が異なる4群にゲーティングされたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、幹細胞を再プログラムするのに適した条件下で、臍帯の羊膜の幹細胞から人工多能性幹細胞を作製し、それによって人工多能性幹細胞(iPS)を作製する方法を特に対象にする。
【0032】
本発明において、本明細書ではひとまとめにして臍帯ライニング幹細胞(CLSC)ともいわれる、臍帯の羊膜の間葉幹細胞および上皮幹細胞の両方を用いて、本明細書において臍帯ライニング由来人工多能性幹細胞または「CLiPS」ともいわれるiPSを作製する。本発明の臍帯ライニング由来人工多能性幹細胞は、異なる系統の機能的標的細胞に分化することができる堅牢かつ均質な幹細胞であることが驚くべきことに見出された(実施例3および4参照)。例えば、臍帯ライニング由来人工多能性幹細胞は、複数の細胞型に分化する能力を有し、例えば、内胚葉組織を代表する肝細胞(実施例8参照)、中胚葉組織を代表する心筋細胞(実施例9参照)、ならびに外胚葉組織を代表するドーパミン作動性ニューロン(実施例7参照)およびオリゴデンドロサイト(実施例10参照)などの、さまざまな細胞型に分化することができる。さらに驚くべき重要なことは、例えば、ヒトCLiPS由来ドーパミン作動性ニューロンは、異なる種において機能的に生着することができ、免疫抑制のないマウスパーキンソン病(PD)モデルにおいて最大9ヶ月および免疫抑制のないラットPDモデルにおいて6ヶ月生存したという所見である(実施例12および13参照)。それゆえ、要約すると、本発明者らは、完全に免疫適格な宿主において生着し、統合し、治療的回復を媒介することが可能な低免疫原性細胞源を作製した。本発明の臍帯ライニング由来人工多能性幹細胞は、免疫抑制を必要とせずにヒトにおける同種異系細胞移植のための普遍的な細胞源として潜在的に使用することができ、これによりそれらはそのような細胞に基づく治療法のための理想的な候補となる。さらなる利点として、本発明の臍帯ライニング由来人工多能性幹細胞は、組み込みおよびフィーダーを用いない方法により作製できるため、現行の適正製造基準(cGMP)条件下でiPSを生産できることが本明細書で見出された。近年、臍帯の羊膜の間葉幹細胞を大量に生産するためのGMPプロセスが確立されているため(国際出願WO 2018/067071または米国特許出願US2018127721を参照のこと)、本発明は、その後のヒトまたは動物での細胞に基づく治療法のためのiPSを生産する理想的なプラットフォームを提供する。
まとめると、非常に若い組織に由来するCLiPSは、若い組織から得られるため、遺伝的、後成的およびミトコンドリアDNA変異を保有する可能性が低い。これらの利点のため、CLiPSは、再生医療用の分化細胞を作出するための潜在的に優れた幹細胞源である。ゆえに、CLiPSは、組織収集の侵襲的手順を必要とする皮膚または血液から得られたiPS細胞よりも優れている。また、CLiPSは、ES細胞に関連する倫理的問題がない。したがって、CLiPSは、再生医療用のより良好な幹細胞源である。本発明者らは、そのようなCLiPSが本発明の方法により、RPEとも呼ばれる網膜色素上皮(RPE)細胞に確実に分化することを見出した。本発明では、本発明者らは異なる幹細胞源: ヒトES細胞(ES)、皮膚に由来するiPS細胞(皮膚-iPS)および脊髄表層(cord-lining)細胞(CLiPS)を、インビトロでRPEを作出するその能力について比較した。CLiPSは、間葉系(CLMC)または外胚葉系(CLEC)由来のいずれかのものであることができる。本発明者らは次に、CLiPSのRPE分化効率をES細胞および皮膚iPS細胞と比較した。皮膚-iPSと比較して、CLiPSは、視覚的等級付けおよびフローサイトメトリー推定により、皮膚-iPS細胞よりも一貫して高いRPE分化効率を示した。視覚的におよび画像分析により分化培養の色素沈着を比較することで、CLiPS由来のRPEはES由来のRPEよりも高い色素沈着を有することも示された。また、CLiPSから作出されたRPEは、インビトロでの成熟後にRPEの機能的特徴を呈し、RPE細胞の優れた供給源であることを示唆していた。さらに、本発明者らは、異なる幹細胞に由来するRPEの生体エネルギーを比較することにより、CLiPS-RPEがES由来RPEよりも高い解糖およびミトコンドリア呼吸を有することを見出した。臍帯羊膜幹細胞(CLiPSもしくはCLSC)に由来する人工多能性幹(iPS)細胞をRPE細胞に分化させるのに使用される本発明の方法は、本明細書において記述されるように特に改変されており、これにより最大のRPE収量が達成される。
【0033】
ここでまず、本発明のiPSを作製する方法について説明すると、この方法は、タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸ならびにp53-shRNAを発現させることを含みうる。POU5FL、OCT3またはOCT4といわれることもあるOCT3/4 (配列番号:1)をコードする核酸は、八量体結合転写因子4をコードする。OCT3/4 (配列番号:2)は、SOX2とヘテロ二量体を形成して、細胞内の多能性因子を調節する。SEYといわれることもあるSOX2 (配列番号:3)は、性決定領域Yボックス2転写因子(配列番号:4)をコードする。SOX2は、OCT3/4に結合すると、非パリンドロームゲノム配列に結合し、細胞内の多能性因子の転写が活性化される。GKLFと呼ばれることもあるKLF4 (配列番号:5)は、クルッペル(Krueppel)様因子4をコードする。KLF4 (配列番号:6)はジンクフィンガー転写因子であり、これは腫瘍抑制因子p53を媒介することにより細胞周期のG1~G2移行を制御する腫瘍抑制因子として機能する。L-MYC (配列番号:7)は、増殖性遺伝子の発現を活性化する転写因子(配列番号:8)をコードする。LIN28 (配列番号:9)は、幹細胞の自己再生を調節するRNA結合タンパク質Lin-28相同体A (配列番号:10)をコードする。p53-shRNA (配列番号:11)は、該タンパク質が細胞内に蓄積すると細胞周期を停止させることによって細胞周期を調節しうるタンパク質であるp53に向けられた小型ヘアピンRNAをコードする。p53による細胞周期の停止を回避するために、p53-shRNAは、転写後のp53の発現をサイレンシングしてもよい。CLiPSを作製するために、OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28、LMYCおよびp53-shRNAをコードする外因性核酸が、発現のためCLSCに移入されてもよい。あるいは、タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28、L-MYCおよびp53 shRNAが、CLSCに直接移入されてもよい。
【0034】
上記で説明したように、本発明の人工多能性幹細胞集団は、臍帯の羊膜の幹細胞を再プログラミングすることによって得ることができる。臍帯の幹細胞は、臍帯ライニング間葉幹細胞(CLMC)ともいわれる、臍帯の羊膜の(単離された)間葉幹細胞、または臍帯ライニング上皮幹細胞(CLEC)ともいわれる、臍帯の羊膜の(単離された)上皮幹細胞でありうる。本発明のiPSを作製するために用いられるCLECおよびCLMCは、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サルまたはヒトなどの任意の哺乳動物種に由来してもよく、1つの態様ではヒト由来の幹細胞が好ましい。したがって、同様に本発明のiPSは、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ、サルまたはヒトなどの、任意の哺乳動物種に由来することができ、1つの態様ではヒト由来の幹細胞が好ましい。好ましい態様では、CLECが、本発明のiPSを作製するために使用される。
【0035】
臍帯の羊膜の上皮幹細胞を出発材料として用いる場合、これらの上皮幹細胞は、例えば、米国特許出願第2006/0078993号(付与された米国特許第9,085,755号および同第9,737,568号につながる)または対応する国際特許出願WO2006/019357に記述されているように得ることができる。臍帯の羊膜の間葉幹細胞を出発材料として用いる場合、それらは同様に、米国特許出願第2006/0078993号(付与された米国特許第9,085,755号および同第9,737,568号につながる)または対応する国際特許出願WO2006/019357に記述されているように得ることができる。
【0036】
出発材料として、公開された米国特許出願第2018/127721号または対応する国際出願WO 2018/067071に記述されるような間葉幹細胞集団を用いることも可能である。国際出願WO 2018/067071の間葉幹細胞集団は、この集団の幹細胞の99%またはそれ以上が3つの間葉幹細胞マーカーCD73、CD90について陽性であると同時にCD34、CD45およびHLA-DRの発現を欠いているという利点を有しており、国際出願WO 2018/067071の間葉幹集団の99%またはそれ以上の細胞が幹細胞マーカーCD73、CD90およびCD105を発現する一方で、マーカーCD34、CD45およびHLA-DRを発現しないということを意味している。この極めて均質かつ十分に定義された細胞集団は、それらが、例えばDominici et al, 「Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement」, Cytotherapy (2006) Vol. 8, No. 4, 315-317, Sensebe et al,. 「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a, review」, Stem Cell Research & Therapy 2013, 4:66), Vonk et al., Stem Cell Research & Therapy (2015) 6:94、またはKundrotas Acta Medica Lituanica. 2012. Vol. 19. No. 2. P. 75-79によって定義されたように、細胞療法のために用いられるヒト間葉幹細胞について一般的に受け入れられている基準を完全に満たしているので、臨床試験および細胞に基づく治療法に理想的な候補である。したがって、国際出願WO 2018/067071の間葉幹集団は、GMP条件下で本発明のCLiPSを生産するための理想的な出発材料である。
【0037】
これに関連して、導入遺伝子でトランスフェクトされたCLMCは、その幹細胞性および幹細胞特性を維持するものの、CD73、CD90およびCD105などの間葉幹細胞マーカーを発現する細胞の割合の減少を示しうるが、同時にCD34、CD45またはHLA-DRなどの陰性マーカーを発現する細胞の割合の増加も示しうることに留意されたい。Yap et al., Malaysian J Pathol 2009; 31(2): 113-120)を参照されたく; 同様にMadeira et al, Journal of Biomedicine and Biotechnology. Volume 2010, Article ID 735349, 12 pagesを参照されたい。これに照らして、本明細書において記述されるCLMCの再プログラミングにより作製され、臍帯の羊膜から単離された本発明のCLiPSは、CLiPS集団の少なくとも約81%もしくはそれ以上、約82%もしくはそれ以上、少なくとも83%もしくはそれ以上、少なくとも84%もしくはそれ以上、少なくとも約85%または、約86%もしくはそれ以上、約87%もしくはそれ以上、約88%もしくはそれ以上、約89%もしくはそれ以上、約90%もしくはそれ以上、約91%もしくはそれ以上、約92%もしくはそれ以上、約93%もしくはそれ以上、約94%もしくはそれ以上、約95%もしくはそれ以上、約96%もしくはそれ以上、約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、約99%もしくはそれ以上の細胞が、以下のマーカー: CD73、CD90およびCD105の各々を発現しうる幹細胞集団でありうる可能性がある。さらに、本発明の人工多能性幹細胞のそのようなCLMC由来の集団は、少なくとも約81%もしくはそれ以上、約82%もしくはそれ以上、少なくとも83%もしくはそれ以上、少なくとも84%もしくはそれ以上、少なくとも約85%または、約86%もしくはそれ以上、約87%もしくはそれ以上、約88%もしくはそれ以上、約89%もしくはそれ以上、約90%もしくはそれ以上、約91%もしくはそれ以上、約92%もしくはそれ以上、約93%もしくはそれ以上、約94%もしくはそれ以上、約95%もしくはそれ以上、約96%もしくはそれ以上、約97%もしくはそれ以上、約98%もしくはそれ以上、約99%が、CD34、CD45およびHLA-DRの各々の発現を欠きうる集団でありうる。本発明の人工多能性幹細胞のそのようなCLMC由来の集団の好ましい一例は、CLMC集団の少なくとも約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90およびCD105の各々を発現し、CD34、CD45およびHLA-DRの各々の発現を欠いている、集団でありうる。
【0038】
本発明の人工多能性幹細胞(集団)の作製に再び目を向けると、そのような人工多能性幹細胞は、臍帯の羊膜の幹細胞(集団)を、そのような人工多能性幹細胞(集団)に再プログラムする任意の適当な方法によって得られることに再び留意することが重要である。そのような人工多能性幹細胞を作製する1つの方法は、臍帯の羊膜の幹細胞において、幹細胞を再プログラムするのに適した条件下で、タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸ならびにp53-shRNAを発現させ、それによって人工多能性幹細胞を作製する段階を含むが、本発明はこの方法によって得られたCLiPSに決して制限されるものではない。むしろ、CLiPSは、例えば、Cieslar-Probudaらの総説「Transdifferentiation and reprogramming: Overview of the processes, their similarities and differences」 BBA - Molecular Cell Research, Volume 1864, Issue 7, July 2017, Pages 1359-1369に記述されているように、任意の適当な方法によって得ることができる。例えば、再プログラミングは、小分子を使用することにより化学的にも、または細胞内で再プログラミング因子をコードする外因性核酸を発現させることにより生物学的にも、本発明において実施されうる。あるいは、タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28、L MYCをコードする外因性核酸およびp53 shRNAが、発現に適した任意の核酸として提供されうる。例えば、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、メッセンジャーRNA (mRNA)およびマイクロRNA (miRNA)を含むリボ核酸(RNA)でありうる。外因性核酸はそのまま移入されてもよく、または外因性核酸は細胞への移入に適した1つもしくは複数のベクターに組み込まれてもよい。これに関連して、CLSCに移入するのに適した任意のベクターを用いることができる。そのようなベクターの例は、プラスミドでありうる。本発明において、外因性核酸は、幹細胞に移入するのに適した1つ、2つ、3つまたは4つのベクターによって提供されうる。例として、pCXLE-hOCT3/4-shp53-F (Addgeneプラスミド番号27077; 配列番号:12)、pCXLE-hSK (Addgeneプラスミド番号27078, 配列番号:13)およびpCXLE-hUL (Addgeneプラスミド番号27080; 配列番号:14)でありうる3つのベクターが、CLSCをCLiPSに再プログラミングするための外因性核酸を提供しうる。
【0039】
上記にしたがって、外因性核酸またはタンパク質をCSLCに移入するのに適した任意の方法を用いることができる。一例では、ウイルスベクターを用いて外因性核酸をCSLCに移入してもよい。そのようなウイルスベクターの例は、レトロウイルス、レンチウイルス、誘導性レンチウイルス、センダイウイルスまたはアデノウイルスでありうる。あるいは、外因性核酸をCSLCに移入するためにトランスフェクションが実施されてもよい。本発明において、トランスフェクションは、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム媒介および非リポソーム媒介トランスフェクションおよびソノポレーションを含みうる。
【0040】
好ましい例において、CLMCはCLECとは異なるエレクトロポレーション条件を必要とする場合があるため、CLSCは、使用されるCLSCのタイプに応じて電気パラメータが調整されうる、エレクトロポレーションに供されてもよい。電気パラメータは、幹細胞に印加される電気パルスの数、印加される電気パルスの持続時間、および印加される電気パルスの電圧を含んでもよい。各電気パラメータは、本発明のエレクトロポレーションをさらに最適化するために調整可能でありうる。そうする場合、各電気パラメータは独立して、または他の電気パラメータの1つもしくは複数と組み合わせて調整されてもよい(実施例1参照)。本発明において、外因性核酸のCLSCへの移入を可能にするのに適した任意のパラメータ設定が適用されうる。本発明の1つの例において、CLMCはエレクトロポレーションに供されうる。そのような場合、エレクトロポレーションは、約15ミリ秒(ms)~約25 msの持続時間および約1550 V~約1650 Vの電圧を有しうる1電気パルスで実行されうる。したがって、1つの例において、CLMCは、約20 msの持続時間および約1600 Vの電圧を有しうる1電気パルスでのエレクトロポレーションに供されうる。さらに、CLMCに由来するCLiPSの使用可能な量/数をもたらすエレクトロポレーションは、トランスフェクションされる各ベクター(プラスミド) DNAとトランスフェクションに用いられるCLMCの数との比率に依存することが本明細書において見出された。この比率は本明細書において、エレクトロポレーションに供されるCLMCの数(細胞1×106個単位)に対して用いられる各ベクター(プラスミド) DNAの量(μg単位)により表される。例として、細胞の数に対する各ベクターのベクター(プラスミド) DNAの量の比率は、約1×106個のCLMCに対して1.5 μgのDNA~約1×106個のCLMCに対して約2.5 μgのDNAの範囲でありうる。したがって、この比率は、約1×106個のCLMCに対して約2.5 μgのDNA、約1×106個のCLMCに対して約2.25 μgのDNA、約1×106個のCLMCに対して約1.8 μgのDNA、約1×106個のCLMCに対して約1.7 μgのDNA、約1×106個のCLMCに対して約1.67 μgのDNA、約1×106個のCLMCに対して約1.6 μgのDNA、または約1×106個のCLMCに対して約1.5 μgのDNAでありうる(約1×106個のCLMCに対して約1.67μgのDNAの、細胞の数に対する各ベクターのベクター(プラスミド) DNAの量の比率を用いることで、効果的な形質転換収率が得られたことを示す表1を参照されたい)。したがって、CLMCに由来するCLiPSを作製する1つの態様において、CLMCのエレクトロポレーションにおいて各ベクターを同じ量で用いることが好ましい。また、CLECをエレクトロポレーションに供して、本発明のCLiPSを得てもよい。CLECに由来するCLiPSの場合、エレクトロポレーションは、それぞれ約25 ms~約35 msの持続時間および各約1300 V~約1400 Vの電圧を有しうる2電気パルスで実行されうる。したがって、1つの例において、CLECは、それぞれ約30 msの持続時間および約1350 Vの電圧を有しうる2電気パルスでのエレクトロポレーションに供されうる。CLMCに関しては、CLECに由来するCLiPSについても、CLECに由来するCLiPSの使用可能な量/数をもたらすエレクトロポレーションは、トランスフェクションされる各プラスミドDNAの量とトランスフェクションに用いられるCLECの数との比率に依存することも見出された。また、この比率は本明細書において、トランスフェクトされるCLECの数(細胞1×106個単位)に対してトランスフェクションに用いられるベクター(プラスミド) DNAの量(μg単位)により表される。例として、細胞の数に対するベクター(プラスミド) DNAの量の比率は、約1×106個のCLECに対して約1.5 μgのDNA~約1×106個のCLECに対して約2.5 μgのDNAの範囲でありうる。したがって、この比率は、約1×106個のCLECに対して約1.5 μgのDNA、約1×106個のCLECに対して約1.6 μgのDNA、約1×106個のCLECに対して約1.67 μgのDNA、約1×106個のCLECに対して約1.7 μgのDNA、約1×106個のCLECに対して約1.8 μgのDNA、約1×106個のCLECに対して約1.9 μgのDNA、約1×106個のCLECに対して約2.0 μgのDNA、または約1×106個のCLECに対して約2.5 μgのDNAでありうる(約1×106個のCLECに対して約1.67μgのDNAの、細胞の数に対する各ベクターのプラスミドDNAの量の比率を用いることで、効果的な形質転換収率が得られたことを示す表1を参照されたい)。したがって、CLECに由来するCliPSを作製する1つの態様において、CLECのエレクトロポレーションにおいて各ベクターを同じ量で用いることが好ましい。CLECおよびCLMCの両方のエレクトロポレーションは、本発明の方法において均一な電場で実施されうる。それにより、pH変化、イオン形成または熱発生などのエレクトロポレーションの重大な影響が最小限に抑えられうる。均一な電場は、各電極の表面積を最小化しながら電極間のギャップを最大化することによって作製されうる。そのような均一な電場を提供するシステムの例は、ThermoFisher ScientificのNeon(商標) Transfection Systemである。適当な市販のトランスフェクションシステムの別の例は、Bio-Radから入手可能なThe Gene Pulser MXcellエレクトロポレーションシステムである。最後に、トランスフェクションは、任意の適当なエレクトロポレーション緩衝液を用いて実行することができる。Neon(商標)トランスフェクションシステムなどの市販のトランスフェクションシステムが用いられる場合、トランスフェクションシステムの製造業者が提供する各エレクトロポレーション緩衝液が、通常、エレクトロポレーションに用いられる。
【0041】
トランスフェクション後、幹細胞を、細胞回復および細胞培養に適した培地に移してもよい。本発明では、細胞回復および/または増殖に適した任意の細胞培養培地を用いることができる。そのような適用な細胞培養培地の例は、mTeSR1、StemMACS(商標) iPS-Brew XF、TeSR(商標)-E8、mTeSR(商標)Plus、TeSR(商標)2、mTeSR(商標)1などのヒト人工多能性幹細胞の培養(増殖)のために一般的に用いられる培地でありうる。CLECまたはCLMCの増殖(分化なし)/健常な成長を支持することができる任意の培地を細胞回復培養に用いることも可能である。このCLECの培養に適した培地の例は、例えば、米国特許出願第2006/0078993号に記述されており、EpiLife培地、Medium 171、MEGM-乳腺上皮細胞培地(Mammary Epithelial Cell Medium)またはそのような培地の混合物、例えば培地PTT-e3 (CLECに由来するCLiPSの作製のために本明細書において用いられ、本明細書において以下に詳細に記述されている)を含む。CLMCのこの培養に適した培地の例は、例えば、米国特許出願第2006/0078993号および同第2018/127721号ならびに国際特許出願WO2007/046775に記述されており、DMEM/10% FBS、DMEM:F12培地(DMEMおよびハムのF-12培地の1:1混合物)、またはPPT-6(DMEM、F12-培地、Medium 171、およびFBSを含む培地、米国特許出願第2018/127721号参照)もしくはPTT4(ここで後者は、CLMCに由来するCLiPSの作製のために本明細書の実施例セクションにおいて用いられた)などの培地を含む。この細胞回復培養のために、これらの培地の混合物(例えば、mTeSR1と培地PTTe-3または培地PTT-4との混合物)を用いることも可能である。本明細書において記述されるトランスフェクトされたCLECまたはCLMCの細胞回復に適した培地は、細胞の成長および増殖を刺激しうる成長因子をさらに含んでもよい。成長因子を、そのまま細胞培養培地に添加してもよい。さらに、回復培地は、例えば、ウシ胎児血清(FBS)などの血清を含んでもよい。したがって、トランスフェクション後の細胞回復に適した培地は、無血清培地または血清含有培地でありうる。
【0042】
上記の開示に沿って、細胞回復に適した培地の組成は、使用されるCLSCに応じて異なってもよい。
【0043】
例えば、トランスフェクトされたCLMCの回復に適した培地は、(化学的に)定義された培地およびFBSからなりうる。したがって、トランスフェクトされたCLMCの回復に適した培地は、それぞれ約80% (v/v)、約85% (v/v)、約90% (v/v)または約95% (v/v)の化学的に定義された培地および約20% (v/v)、約15% (v/v)、約10% (v/v)または約5% (v/v) FBSからなりうる。好ましい例において、CLMCは、トランスフェクション後の細胞回復のために培地PTT-4において培養され、ここで国際特許出願WO2007/046775に記述されている、培地PTT-4は、90% (v/v) CMRL-1066および10% (v/v) FBSからなる。トランスフェクトされたCLECの回復に適した培地は、無血清培地であってもよく、ここで培地はサイトカインおよび成長因子を含有してもよい。
【0044】
また、トランスフェクトされたCLECの回復に適した培地は、定義された培地であってもよい。そのような回復培地は、乳腺上皮基礎培地MCDB 170、EpiLife培地、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、F12(ハムF12培地)、およびFBS(ウシ胎仔血清)を含みうる。
【0045】
説明的な例において、そのような培地は、約10~約30% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約20~約40% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約5~約15% (v/v)の最終濃度のF12、約30~約45% (v/v)の最終濃度のDMEM、および約0.1~2% (v/v)の最終濃度のFBSを含む。そのような培地の1つは、約15~約25% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約25~約35% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約7.5~約13% (v/v)の最終濃度のF12、約35~約40 % (v/v)の最終濃度のDMEM、および約0.5~1.5 % (v/v)の最終濃度のFBSを含みうる。別のそのような培地は、約20% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約30% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約12.5 (v/v)の最終濃度のF12、約37.5% (v/v)の最終濃度のDMEM、および約1.0% (v/v)の最終濃度のFBSを含みうる。本明細書において用いられる「% (v/v)」という値は、培地の最終体積に対する個々の構成成分の体積をいう。これは、DMEMが例えば約35~約40% (v/v)の最終濃度で培地中に存在するのであれば、1リットルの培地が約350 ml~400 mlのDMEMを含有することを意味する。1つの態様において、トランスフェクトされたCLEC細胞の回復に適した培地は、最終体積1000 mlの培養培地を得るために、
・200 mlの乳腺上皮基礎培地MCDB 170、
・300 mlのEpiLife培地、
・250 mlのDMEM、
・250 mlのDMEM/F12、および
・1%のウシ胎仔血清
を混合することによって得られる。
【0046】
トランスフェクトされたCLECの回復に適した培地中の成長因子は、IGF-1またはIGF-2などのインスリン様成長因子(IGF)、HB-EGFまたはEPRなどの上皮成長因子(EGF)、TGF-αまたはTGF-β1などの形質転換成長因子(TGF)、アクチビン、骨形成タンパク質(BMP)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフェリン、およびインスリンでありうる。1つの例において、CLECは、トランスフェクション後の細胞回復のために培地PTTe-3において培養され、ここで培地PTTe-3は、ヒト上皮成長因子(EGF)、TGF-αおよび/もしくはTGF-β(TGF-β1、TGF-β2および/もしくはTGF-β3)などの1つもしくは複数の形質転換成長因子、またはインスリンを含有する。
【0047】
上記にしたがって、トランスフェクトされたCLECの回復に適した培地は、約1~約15 ng/mlの最終濃度のヒト上皮成長因子(EGF)を含みうる。回復培地は、約1~約7.5 μg/mlの最終濃度のインスリンを含んでもよい。この回復培地は、以下のサプリメントの少なくとも1つをさらに含んでもよい: アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)。1つの態様において、培地はアデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)の3つ全てを含む。この場合、培地は、約0.05~約0.1 mMアデニンの最終濃度のアデニン、約0.1~0.5 μMヒドロコルチゾンの最終濃度のヒドロコルチゾン、および約0.1~約5 ng/mlの最終濃度の3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)を含みうる。回復培地は、1つまたは複数の形質転換成長因子(TGF)、例えば形質転換成長因子β1(TGF-β1)および/または形質転換成長因子α(TGF-α)を含みうる。そのような培地において、TGF-β1は約0.1~約5 ng/mlの最終濃度で存在してもよく、TGF-αは約1.0~約10 ng/mlの最終濃度で存在してもよい。さらに、CLECの回復培地は、コレラ菌(Vibrio cholerae)由来のコレラ毒素(これは、例えば、Sigma Aldrichからカタログ番号C8052で市販されている)を含んでもよい。コレラ菌由来のコレラ毒素が用いられる場合、それは約1×10-11 M~約1×10-10 Mの最終濃度で存在してもよい。
【0048】
「DMEM」とは、1969年に開発され、基本培地イーグル(BME)の改変物であるダルベッコ改変イーグル培地を意味する(Lonzaから入手可能なDMEMのデータシートを示す
図1を参照されたい)。最初のDMEM処方は1000 mg/Lのグルコースを含有し、胚性マウス細胞の培養について初めて報告された。それ以来DMEMは細胞培養のための標準的な培地となり、ほんの数例の供給業者を挙げると、ThermoFisher Scientific (カタログ番号11965-084)、Sigma Aldrich (カタログ番号D5546)、またはLonzaなどの、さまざまな供給源から市販されている。したがって、いかなる市販のDMEMも、本発明において使用することができる。好ましい態様において、本明細書において用いられるDMEMは、Lonzaからカタログ番号12-604Fで入手可能なDMEM培地である。この培地は、4.5 g/L グルコースおよびL-グルタミンが補充されているDMEMである。別の好ましい態様において、本明細書において用いられるDMEMは、Sigma Aldrichカタログ番号D5546のDMEM培地であり、これは1000 mg/L グルコースおよび炭酸水素ナトリウムを含有するが、L-グルタミンを含まない。
【0049】
「F12」培地とは、ハムF12培地を意味する。この培地もまた標準的な細胞培養液であり、ホルモンおよびトランスフェリンと組み合わせて血清とともに使用された場合に、幅広い種類の哺乳動物細胞およびハイブリドーマ細胞を培養できるように、当初デザインされた栄養混合物である。いかなる市販のハムF12培地(例えば、ほんの数例の供給業者を挙げると、ThermoFisher Scientific (カタログ番号11765-054)、Sigma Aldrich (カタログ番号N4888)、またはLonzaからのもの)も、本発明において使用することができる。好ましい態様では、LonzaからのハムF12培地が用いられる。「DMEM/F12」または「DMEM:F12」とは、DMEMとハムF12培養液の1:1混合物を意味する。DMEM/F12 (1:1)培地もまた、多くの異なる哺乳動物細胞の増殖を支持するために広く使用されている基本培地であり、ThermoFisher Scientific (カタログ番号11330057)、Sigma Aldrich (カタログ番号D6421)、またはLonzaなどのさまざまな供給業者から市販されている。いかなる市販のDMEM:F12培地も、本発明において使用することができる。好ましい態様において、本明細書で用いられるDMEM:F12培地は、Lonzaからカタログ番号12-719Fで入手可能なDMEM/F12 (1:1)培地(L-グルタミン、15 mM HEPES、および3.151 g/Lグルコースを伴うDMEM: F12である)である。
【0050】
「M171」とは、正常ヒト乳腺上皮細胞の増殖について培養するための基本培地として開発された培養液171を意味する。この基本培地もまた広く使用されており、例えばThermoFisher ScientificまたはLife Technologies Corporation (カタログ番号M171500)などの供給業者から市販されている。いかなる市販のM171培地も、本発明において使用することができる。好ましい態様において、本明細書において用いられるM171培地は、Life Technologies Corporationからカタログ番号M171500で入手可能なM171培地である。
【0051】
「乳腺上皮基礎培地MCDB 170」とは、乳腺上皮細胞の成長に用いられ、粉末形態で、例えば、United States Biological, Salem Massachusetts USAからカタログ番号M2162で、またはBio-Connect B.V., Huissen, The Netherlandsからカタログ番号(MBS652676_10l)で市販されている基礎栄養培地を意味する。
【0052】
EpiLife培地とは、塩化カルシウムなしで調製され、ヒト表皮角化細胞およびヒト角膜上皮細胞の無血清長期培養に一般的に使用され、5% CO2および95%空気の雰囲気のインキュベータ内で使用するようにデザインされたたHEPESおよび重炭酸塩緩衝液体培地を意味する。ThermoFisher Scientific, カタログ番号MEPICF500から、またはProduct Code E 0151でSigma Aldrichから入手可能である。
【0053】
「CMRL培地」とは、無血清条件下でのアールの「L」細胞の増殖のためにConnaught Medical Research Laboratoriesにより当初開発された培地を意味する。CMRL培地は、サル腎臓細胞のクローニングに、およびウマ血清またはウシ血清を補充した場合には他の哺乳動物細胞株の増殖に特に有用であることも知られている。CMRL培地は、例えば、ThermoFisher Scientific (カタログ番号11530037)から市販されている。
【0054】
「FBS」とは、ウシ胎仔血清(「ウシ胎児血清」ともいわれる)、すなわち、天然の血液凝固後に残存し、続いて遠心分離によっていかなる残存赤血球も除去された血液画分を意味する。ウシ胎仔血清は、非常に低レベルの抗体を有し、より多くの増殖因子を含有し、多くの異なる細胞培養適用における多用途性を可能にするという理由で、真核細胞のインビトロ細胞培養のために最も広く使用されている血清補充物質である。FBSは、その主眼が、適切な起源追跡管理、表示の真実性、ならびに適切な規格化および監視を通した血清および動物由来製品の安全性および安全使用であるInternational Serum Industry Association (ISIA)のメンバーから入手することが好ましい。ISIAメンバーであるFBSの供給業者には、少し記述するだけでも、Abattoir Basics Company、Animal Technologies Inc.、Biomin Biotechnologia LTDA、GE Healthcare、Gibco by Thermo Fisher Scientific、およびLife Science Productionが含まれる。現在好ましい態様において、FBSはGE Healthcareからカタログ番号A15-151で得られる。
【0055】
細胞回復に適した培地は、炎症応答を抑制しうる、ならびに/またはトランスフェクション後の細胞の生存および増殖を増強しうる化合物を含有してもよい。そのような化合物の例はグルココルチコイドでありうる。グルココルチコイドは、核内で抗炎症タンパク質の発現を上方制御し、細胞質ゾル内で炎症誘発性タンパク質の発現を抑制しうるステロイドホルモンである。本明細書において用いられるグルココルチコイドは、適当なグルココルチコイドのほんの数例の例を挙げると、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、コルチコステロンまたはヒドロコルチゾンでありうる。そのようなグルココルチコイドの2つまたはそれ以上を一緒に、例えば、コルチコステロンおよびヒドロコルチゾンの混合物を用いることも可能である。グルココルチコイドは任意の適当な濃度で、例えば、約0.1 μM~約2.5 μMまたは0.1 μM~約5 μMの濃度で用いることができる。1つの例として、トランスフェクトされたCLSCの回復に適した培地中のグルココルチコイドは、約0.1 μM~約2.5 μMの濃度で用いられるヒドロコルチゾンでありうる。1つの例において、トランスフェクトされたCLSCの回復に適した培地中のヒドロコルチゾン濃度は、約0.5 μM~約2 μMである。そのような1つの例では、ヒドロコルチゾン濃度は約1 μMである。
【0056】
トランスフェクトされたCLSCの回復は、細胞培養容器などの細胞培養装置の中で実行されうる。細胞培養容器は、培養フラスコ、ペトリ皿、ローラーボトル、およびマルチウォールプレートでありうるが、これらに限定されることはない。さらに、細胞培養容器は、細胞に代謝産物を供給することによって細胞成長を促進しうる層を提供するためにコーティングされてもよい。細胞培養容器のコーティングは、血清由来であってもまたは無血清であってもよい。血清由来コーティングの例は、マトリゲルなどの基底膜様マトリックスからのゼラチン状タンパク質によるコーティングでありうる。その代わりとして、細胞培養容器の無血清コーティングは、動物質不含および異種物不含により特徴付けられ、したがってcGMP条件下での細胞培養を可能にしうる。細胞培養容器の無血清コーティングの例は、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、例えばラミニン-511 E8断片またはラミニン521を含むラミニン、例えば市販のシトロネクチンXF(商標)、CELLstartまたはSynthemax(商標)ビトロネクチン基質の形態の、ビトロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質によるコーティングのような組換えタンパク質またはその一部によるコーティングでありうる。本発明の1つの例において、トランスフェクトされたCLECは、好ましくは、血清由来コーティングを有する細胞培養容器の中で培養されうるが、CLMCは、好ましくは、無血清コーティングを有する細胞培養容器の中で培養されうる。
【0057】
トランスフェクトされたCLSCの回復に適した培地は、適切な期間の後、別の細胞培養培地と交換されうる。適当な期間は、例えば、トランスフェクション後に約1日、約2日または約3日でありうる。したがって、1つの例において、培地交換はトランスフェクション約2日後に実行されうる。培地交換に用いられる別の細胞培養培地は、異なる細胞培養培地の混合物であってもよい。本発明において、iPSの産生に適した任意の細胞培養培地または細胞培養培地混合物を用いることができる。さらに、適当な細胞培養培地または細胞培養培地混合物は、炎症応答を抑制しかつ細胞生存を増強しうる化合物を含有しうる。本発明において、トランスフェクション後の細胞回復に適した培地は、体細胞再プログラミングを起こす際に細胞が本来の状態からより多能な状態に移行するように、栄養素と適当なブレンドの成長因子の細胞への適切な供給を確実とするのに適した期間後に2つの異なる細胞培養培地の混合物と交換されうる。したがって、本発明の細胞培養培地混合物は、ヒドロコルチゾンを含有しうる細胞回復に適した培地、および第2の細胞培養培地からなりうる。好ましい例において、2つの異なる細胞培養培地は、約1:1 (v/v)の比率で混合され、ここで混合物は、1体積の細胞回復に適した培地を1体積の第2の細胞培養培地と接触させることによって調製されうる。別の好ましい例において、2つの異なる細胞培養培地は、約1:2 (v/v)または2:1の比率で混合され、ここで混合物は、1体積の細胞回復に適した培地を2体積の第2の細胞培養培地と(または2体積の細胞回復に適した培地を1体積の第2の細胞培養培地と)接触させることによって調製されうる。細胞培養混合物を作製するために用いられる第2の細胞培養培地は、iPS増殖を増強または維持するのに適した任意の細胞培養培地でありうる(そのような培地は、本明細書において「維持培地」とも称される)。細胞回復に用いられる培地と維持培地の1:1混合物のような混合物を用いると、CLiPS細胞は、その生存性を損なう可能性のある突然の切り替えではなく、同種の培地からES/iPSC培地に徐々に移行することが可能になるという利点が得られる。理論によって束縛されることを望むわけではないが、トランスフェクション約2日後に、トランスフェクトに成功した臍帯ライニング幹細胞の一部が多能性幹細胞の特徴を獲得し始め、同時にPSCの栄養素要求量を獲得すると想定される。そのような適当な細胞培養培地の例としては、mTeSR1、StemMACS(商標) iPS-Brew XF、TeSR(商標)-E8、mTeSR(商標)Plus、TeSR(商標)2もしくはmTeSR(商標)1、Corning(登録商標) NutriStem(登録商標) hPSC XF Medium、Essential 8 Medium (ThermoFisher Scientific)、StemFlex (ThermoFisher Scientific)、StemFit Basic02 (Ajinomoto Co. Inc)、またはPluriSTEM (Merck Millipore)などの市販の維持培地が挙げられるが、これらに限定されることはない。培地mTeSR(商標)1は、GMP条件下で製造されているため、好ましくは、iPSコロニーが動物質不含および異種物不含GMP条件下で培養される場合に使用されうる。したがって、1つの好ましい例において、mTeSR1は、細胞培養混合物を作製するために用いられる第2の細胞培養培地でありうる。本発明において、1:1 (v/v)の細胞培養培地混合物は、適当な期間内に同じ細胞培養培地混合物と交換されうる。この適当な期間は、トランスフェクション後に約3日、約4日、約5日または約6日でありうる。したがって、1つの例において、1:1 (v/v)の細胞培養培地混合物は、トランスフェクション4日後に同じ混合物と交換されうる。適当な期間の後、1:1 (v/v)の細胞培養培地混合物は、細胞培養混合物のみを作製するために用いられる第2の細胞培養培地とさらに交換されうる。これに関連して、適当な期間は、トランスフェクション後に約4日、約5日、約6日または約7日でありうる。1つの例において、1:1 (v/v)の細胞培養培地混合物は、トランスフェクション6日後に第2の細胞培養培地と交換されうる。好ましい例において、1:1 (v/v)の細胞培養培地混合物は、トランスフェクション6日後に、それぞれ、mTeSR1 and mTeSR(商標)1と交換されうる。定期的な細胞培養培地の変更および交換は、生き残ったCLiPSの増加に寄与しうる。したがって、CLiPSコロニーが成長および増殖しうる。
【0058】
細胞培養培地混合物を1つの細胞培養培地に変更した後に、CLiPSはさらに培養されてもよい。この目的のために、細胞培養培地を、栄養素と適当なブレンドの成長因子の細胞への適切な供給を確実とするように同じ培地と定期的に交換してもよい。例えば、細胞培養培地を、毎日または2日ごと、3日ごともしくは4日ごとに交換してもよい。本発明の1つの例において、細胞培養培地を2日ごとに交換してもよい。その結果として、CLiPSコロニーは、さらに成長および増殖することができる。
【0059】
CLiPSコロニーは、トランスフェクション約10、11、12、13、14、15または16日後に肉眼で見えるようになりうる(実施例2参照)。適当なサイズに達したら、CLiPSを選択し、さらなる培養および増殖のために別のコーティングされた培養容器に移してもよい。これに関連して、適当なコロニーサイズは、直径が約0.1 mm~約2 mmの長さを含みうる。本発明の1つの例において、CLiPSコロニーは、直径が約0.5 mm~約1.5 mmの長さに達した場合に選択されてもよく、ここでCLiPSコロニーは、トランスフェクション約20日後にこのサイズに達しうる。適当なサイズを有するCLiPSコロニーを別の培養容器に移すために、CLiPSコロニーをピッキングしてもよい。これは、必要であれば、手動で実行されてもよい。コロニーのピッキングを容易にするために、コロニーの拡大視野を可能にする装置が用いられてもよい。そのような装置の例は、拡大鏡または顕微鏡でありうる。本発明において、CLiPSは、明視野顕微鏡下で選択およびピッキングされうる。細胞培養容器に目を向けると、ピッキングされたCLiPSコロニーを、別の細胞培養容器に移してもよく、ここで細胞培養容器のコーティングは、トランスフェクトされたCLSCの回復に用いた細胞培養容器のコーティングと異なってもよく、または同じであってもよい。好ましい例において、cGMPの適当な条件下でこれまで培養されたCLMCに由来するCLiPSは、動物質不含および異種物不含で維持され、それによりcGMP条件を守ることができるため、培養容器のコーティングは同じものである。その結果として、例えば、CLMCに由来するCLiPSコロニーを、さらなる培養のためにラミニン-511 E8断片などの無血清物質でコーティングされた細胞培養容器に移してもよい(実施例3参照)。あるいは、CLECに由来するおよび/またはCLMCに由来するCLiPSコロニーを、例えば、さらなる培養のためにマトリゲルなどの血清由来物質でコーティングされた細胞培養容器に移してもよい。細胞培養培地は、コロニーピッキング前に用いられるのと同じものであることが好ましい。本発明の例において、細胞培養培地を、コロニーピッキング後に定期的に交換してもよい。例えば、培地を、毎日、2日ごとまたは3日ごとに交換してもよい。本発明の好ましい例において、細胞培養培地を、コロニーピッキング後に毎日交換してもよい。
【0060】
適当な集密度に達したら、CLiPSコロニーまたはコロニーから形成された細胞集団は、通常、コーティングされた細胞培養容器から剥離され、コロニーピッキングの直後に用いられたのと同じ培養条件下でのさらなる培養のためにより大きな細胞培養容器に移される。適当な集密度は、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%および少なくとも約65%の集密度でありうる。これに関連して、CLiPS細胞は、約70%~約80%の集密度に達したときにコロニー様の外観を取らないので、コロニーを形成するCLiPSの増殖に関連して用いられる場合の「細胞集団」という用語がより適当であることに留意されたい。CLiPSコロニーまたはコロニーから形成された細胞集団をコーティングされた細胞培養容器から剥離するために、細胞接着を破壊するのにまたはペプチド結合を加水分解するのに適した任意の解離剤を用いることができる。そのような適当な解離剤の例は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤を含有する溶液、またはトリプシンもしくはディスパーゼなどの酵素を含有する溶液でありうる(コーティングされた細胞培養容器からCLiPSコロニーを剥離するためにディスパーゼが用いられている、本出願の実験セクションを参照されたい)。細胞培養培地を、定期的に、例えば、毎日、2日ごとまたは3日ごとに交換してもよい。本発明の好ましい例において、細胞培養培地を毎日交換してもよい。このようにして、CLiPSは、さらに成長および増殖することができる。
【0061】
本発明において、CLiPSコロニーまたはコロニーから形成された細胞集団を、適当なサイズに達した場合に継代してもよい。適当なサイズは、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%および約95%の集密度に相当しうる。本発明の例において、培養物が約60~90%の集密度に達した場合に、CLiPSコロニーまたはそれから形成された細胞集団を継代してもよい。したがって、好ましい例において、CLiPSコロニーまたはそれから形成された細胞集団を、約70~80%の集密度に達した場合に継代してもよい。継代の場合、CLiPSを適当な比率で継代してもよく、ここで1体積のCLiPSを複数体積の細胞培養培地と接触してもよい。本発明において、CLiPSを、約1:3 (v/v)または約1:4 (v/v) または約1:5 (v/v)または約1:6 (v/v)の比率で継代してもよく、ここで継代は、1体積の解離CLiPSをそれぞれ約2または約3または約4または約5体積の解離CLiPSに分割することによって実施されうる。好ましい例において、CLiPSを約1:3 (v/v)の比率で継代してもよい。本発明の培養CLiPSの継代を可能にするために、この場合も先と同様に、培養容器から細胞を剥離するのに適した任意の酵素を用いることができる。例えば、この目的のためにディスパーゼが使用されうる。さらに、細胞・細胞間接着を除去するのに適した任意の化学物質を、本発明との関連でCLiPS継代に用いることができ、ここで化学物質の濃度は、細胞に害を及ぼすことなく細胞・細胞間接着を除去するのに適当でありうる。そのような化学物質の例は、EDTAでありうる。EDTAはより高い濃度で細胞を死滅化しうるので、本発明の適当なEDTA濃度は約0.5 mMでありうる。本発明において、継代に用いられる細胞培養培地に、解離時にCLiPSの生存を増強するのに適した物質を補充してもよい。この目的のために、解離されたときのCLiPSの生存を増強するのに適した任意の物質が使用されうる。そのような適当な物質の例は、rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)シグナル伝達経路などのシグナル伝達経路の阻害剤でありうる。したがって、RHO/ROCK経路阻害剤Y-27632は、解離されたCLiPSの生存を増強するのに適した物質の例でありうる。あるいは、CloneR(商標) (StemCell Technologiesから入手可能)などのヒトiPS細胞の単一細胞クローニング用に定義されたサプリメントが、解離された細胞の生存を増強するために用いられてもよい。本発明において、継代されたCLiPSは、標的細胞に分化させる前に適当な期間、解離されたCLiPSの生存を増強するのに適した物質を補充した培地中で培養されうる。
【0062】
継代後のCLiPSを培養することにより、(一次)単離CLiPSを含むマスター細胞バンクを得ることができる。CLiPsのマスター細胞バンクを作製するために、本明細書において記述されるプロセスによって得られたCLiPS細胞を、細胞培養プレートなどの培養容器に播種することができる。CLiPSは、この目的のために、任意の適当な培地、典型的にはmTeSR1、StemMACS(商標) iPS-Brew XF、TeSRTM E8、mTeSRTMPlus、TeSRTM2もしくはmTeSRTM1、Corning(登録商標) NutriStem(登録商標) hPSC XF Medium、Essential 8 Medium (ThermoFisher Scientific)、StemFlex (ThermoFisher Scientific)、StemFit Basic02 (Ajinomoto Co. Inc)、またはPluriSTEM (Merck Millipore)などの上記の市販の培地などのiPS細胞用の維持培地において懸濁および培養することができる。そのようなiPS維持培地では、CLMCに由来するCLiPSとCLECに由来するCliPSの両方を培養することができる。継代培養の場合、CLiPS細胞(CLMCおよびCLECに由来するCLiPSの両方)は、任意の適当な濃度で、例えば、または約0.5×106個の細胞/ml~約5.0×106個の細胞/mlの濃度で播種することができる。1つの例において、細胞は約1.0×106個の細胞/mlの濃度で継代培養のために懸濁される。継代培養は、単純な培養フラスコだけでなく、例えば、インキュベータにおいて積み重ねることができるCellSTACK (Corning, NY, USA)またはCell Factory (Nunc, part of Thermo Fisher Scientific Inc., Waltham, MA, USA)などの多層システムにおいても培養により実行することができる。あるいは、継代培養は、バイオリアクタなどの閉鎖型自給式システムで実行することもできる。バイオリアクタの異なるデザイン、例えば、平行プレート、中空繊維、またはマイクロ流体バイオリアクタが当業者に公知である。例えば、Sensebe et al. 「Production of mesenchymal stromal/stem cells according to good manufacturing practices: a review」, 上記を参照されたい。市販の中空繊維バイオリアクタの例は、例えば、臨床試験用の骨髄間葉幹細胞の拡張のために(Hanley et al, Efficient Manufacturing of Therapeutic Mesenchymal Stromal Cells Using the Quantum Cell Expansion System, Cytotherapy. 2014 August; 16(8): 1048-1058を参照のこと)、および国際特許出願WO 2018/067071に記述されている高純度の臍帯ライニング間葉幹細胞集団の拡張のために用いられてきたQuantum(登録商標) Cell Expansion System (Terumo BCT, Inc)である。本発明のCLiPS集団の継代培養に使用できる市販のバイオリアクタの別の例は、GE Healthcareから入手可能なXuri Cell Expansion Systemである。Quantum(登録商標) Cell Expansion Systemなどの自動化システムでのCLiPS集団の培養は、GMP条件下で治療用途に向けた実用的な細胞バンクを生産する必要があり、多数の細胞が必要とされる場合に特に有用である。継代培養の場合にも、適当な量の細胞が成長するまでCLiPSを培養することができる。例として、CLiPSが約70%~約80%の集密度に達するまで、CLiPSは継代培養される。CLiPSの集団の単離/培養は、哺乳動物細胞の培養のための標準的な条件下で実行することができる。ひとたび所望の/適当な数のCLiPSが継代培養から得られたならば、継代培養に使用した培養容器からCLiPSを取り出すことによって細胞を回収する。CLiPSの回収は、典型的には、酵素処理によって実行される。単離されたCLiPSをその後に収集し、直接使用するかまたはさらなる使用のために保存する。典型的には、保存は凍結保存によって実行される。「凍結保存」という用語は、本明細書においてその通常の意味で用いられて、CLiPSが、(典型的には)-80℃または-196℃ (液体窒素の沸点)などの氷点下の温度まで冷却することによって保存されるプロセスを記述する。凍結保存は、当業者に公知のように実行することができ、CLiPS細胞中の氷晶の形成を遅らせる、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはグリセロールなどの凍結保護剤の使用を含むことができる。
【0063】
本発明は同様に、本明細書において記述される方法によって得ることができるCLiPSを対象にし、本明細書において記述される方法によって得られたCLiPSを対象にする。本発明によって得ることができる/得られたCLiPSは、頑健に成長および増殖しうる(実施例2および実施例3参照)。それにより、CLiPS培養は、例えば、骨髄間質、脂肪組織、真皮またはワルトンゼリーに由来するiPSの培養と比較して、より効率的でありうる。CLiPS機能性の分析により、自己再生特性および正常な核型を示すヒト胚性幹細胞マーカーの発現が明らかにされる(実施例4および実施例5参照)。さらに、CLiPSは、インビトロおよびインビボで多能性を示す複数の細胞型(機能的標的細胞)に分化することができる(実施例6参照)。それゆえ、CLiPSは医療用途および治療用途に非常に適している。その結果として、本発明は同様に、本明細書において記述される方法によって得ることができる/得られたiPSを含む薬学的組成物を対象にする。
【0064】
本発明はさらに、分化に適した条件下でCLiPSを標的細胞に分化させる方法を対象にする。適当な標的細胞の例としては、わずかに例を挙げるだけでも、ニューロン細胞、ドーパミン作動性ニューロン細胞、オリゴデントロサイト、星状細胞、皮質ニューロン、肝細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、骨細胞、歯細胞、毛包細胞、内耳有毛細胞、皮膚細胞、メラノサイト、心筋細胞、造血前駆細胞、血液細胞、免疫細胞、Tリンパ球もしくはBリンパ球、ミクログリア、ナチュラルキラー細胞または運動ニューロンが挙げられるが、決してこれらに限定されることはない。標的細胞への指向性分化を促進するために、CLiPSは、典型的には、他の供給源に由来するiPSの標的細胞への分化から当業者に知られている条件下で、プライミング物質に曝露されてもよい。曝露は、CLiPS分化のプライミングおよびその後の培養に適した細胞培養培地で満たされた細胞培養容器内での培養を含みうる適当な条件下で実行されうる。本発明において、iPSのプライミング、増殖および分化に適した任意の細胞培養培地を用いることができ、ここで培地組成およびしたがって分化の方法は、標的細胞に依存しえ、iPSの所望の標的細胞への分化のための既知のプロトコルから採用されうる(この点において、the reviews of Hirschi et al 「Induced Pluripotent Stem Cells for Regenerative Medicine」 Annu Rev Biomed Eng. 2014 July 11; 16: 277-294)またはShi et al 「Induced pluripotent stem cell technology: a decade of progress」 Nat Rev Drug Discov. 2017 February; 16(2): 115-130を参照されたい)。例えば、CLiPSは、CLiPSの増殖およびドーパミン作動性ニューロン細胞への分化に適合された培地中で培養されうる。そのような場合、培地は、神経分化を誘導する、B-27マイナスビタミンA、形質転換成長因子3-β(TGFβ3)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アスコルビン酸、ジブチルcAMP、CHIR99021などのグリコーゲンシンターゼキナーゼ3の阻害剤および(2S)-N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン1,1-ジメチルエチルエステル(DAPT)などのγセクレターゼ阻害剤などの成長因子を補充したNeurobasal培地でありうる。そのような培地の例は、NB27である。ドーパミン作動性ニューロン細胞へのCLiPSの分化は、実施例7に例示的に示されている。別の例として、CLiPSは、CLiPSの増殖および肝細胞への分化に適合された培地中で培養されうる。この場合、培地は、中内胚葉運命への分化を誘導する化合物を補充した、タンパク質、脂質および成長因子を含まない培地でありうる。アクチビンAを補充したRPMI 1640-B27は、肝細胞へのCLiPS分化に適した培地の例でありうる。肝細胞へのCLiPSの分化は、実施例8に例示的に示されている。別の例として、CLiPSは、CLiPSの増殖および心筋細胞への分化に適合された培地中で培養されうる。そのような場合、培地は、CHIR99021などのグリコーゲンシンターゼキナーゼ3の阻害剤を補充した、タンパク質、脂質および成長因子を含まない培地でありうる。RPMI/2%-B27マイナスインスリンは、肝細胞へのCLiPS分化に適した培地の例でありうる。心筋細胞へのCLiPS分化は、実施例9に例示的に示されている。さらなる例として、ペアードボックス6-陽性(PAX6+)神経幹細胞への分化を可能にし、これによってオリゴデンドロサイト転写因子陽性(OLIG2+)前駆細胞をもたらす、化学的に定義された成長因子に富む培地を用いて、CLiPSは、オリゴデンドロサイトに分化されうる(実施例10参照)。これに関連して、CLiPSの標的細胞への分化も、cGMP産生に適した条件下で実行されうることに留意されたい。
【0065】
本発明は同様に、本明細書において記述される方法によって得られた分化したCLiPSを含む薬学的組成物を含む。CLiPSおよびそれらの神経誘導体の免疫原性の分析により、免疫原性の低減が明らかになった(実施例11)。分化したCLiPSを含む薬学的組成物の例は、分化したCLiPSを移植するのに適した注射溶液または任意の種類の移植片である。1つの例において、そのような移植片は、器官またはその一部などの分化したCLiPS由来の多層組織を含みうる。1つの例において、分化したCLiPSを移植するのに適した移植片は、分化したCLiPSでコーティングされた移植可能なマトリックスを含みうる。薬学的組成物は、非経口適用のために製剤化/適合されうる。そのような場合、非経口適用は、ヒトまたは動物の体内での注射、注入または移植を意図した無菌調製物を含みうる。完全に免疫適格なマウスおよびラットパーキンソン病モデルにおけるCLiPS由来ドーパミン作動性ニューロンの移植は、機能的生着およびドーパミン再取り込み機能の有意な回復さえ示した(実施例12および実施例13参照)。
【0066】
本発明はさらに、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、非ヒト霊長類またはヒトを含む群より選択されうる対象における先天性または後天性変性障害を処置する方法を含む。好ましい例において、対象はヒトである。これに関連して、処置することは、本明細書において記述される方法によってCLiPSから分化した標的細胞を対象に投与することを含みうる。疾患は、細胞に基づく治療法によって処置されると考えられてきた任意の既知の疾患であってもよく、これに関連して、例えば、Shi et al 「Induced pluripotent stem cell technology: a decade of progress」 上記を参照されたい。先天性または後天性の変性障害は、異なる起源を有しうる。例えば、そのような先天性または後天性変性障害は、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症(SCA)およびバッテン病などの神経障害でありうる。肝変性障害の例は、とりわけ、肝不全、肝硬変およびウイルス性肝炎でありうる。先天性または後天性変性障害は、とりわけ、急性ダノン病、短QT症候群、ブルガダ症候群、心筋梗塞、ジャーベルおよびランゲ-ニールセン症候群を含む心臓障害であってもよい。障害は、多発性硬化症などの自己免疫疾患であってもよい。
【0067】
本発明は同様に、CLiPSまたはCLiPSの分化した誘導体によって産生されうる細胞外膜小胞を対象にする。そのような小胞は、エキソソームとしても知られる、直径が30から150ナノメートル(nm)の範囲の小胞を含みうるが、排他的ではない。当初、エキソソームは主に排泄機能を担うと考えられていたが、現在では、細胞間コミュニケーション、細胞老化、増殖および分化、組織恒常性、組織修復および再生、抗原提示、ならびに免疫調節などの、さまざまな重要な生物学的プロセスに関与していることが知られている(例えば、Pegtel, D.M. and S.J. Gould, Exosomes. Annu Rev Biochem, 2019. 88: p. 487-514またはKalluri, R. and V.S. LeBleu, The biology, function, and biomedical applications of exosomes. Science, 2020. 367(6478)を参照のこと。エキソソームは、がん(例えば、Visan, K.S., R.J. Lobb, and A. Moller, The role of exosomes in the promotion of epithelial-to-mesenchymal transition and metastasis. Front Biosci (Landmark Ed), 2020. 25: p. 1022-1057、またはZhang, L. and D. Yu, Exosomes in cancer development, metastasis, and immunity. Biochim Biophys Acta Rev Cancer, 2019. 1871(2): p. 455-468を参照のこと)、骨関節炎(Asghar, S., et al., Exosomes in intercellular communication and implications for osteoarthritis. Rheumatology (Oxford), 2020. 59(1): p. 57-68)、脳卒中、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、プリオン病および筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの中枢神経系の疾患(例えば、Liu, W., et al., Role of Exosomes in Central Nervous System Diseases. Front Mol Neurosci, 2019. 12: p. 240またはQuek, C. and A.F. Hill, The role of extracellular vesicles in neurodegenerative diseases. Biochem Biophys Res Commun, 2017. 483(4): p. 1178-1186を参照のこと)、精神障害(Saeedi, S., et al., The emerging role of exosomes in mental disorders. Transl Psychiatry, 2019. 9(1): p. 122)、心血管疾患(Wang, Y., et al., Exosomes: An emerging factor in atherosclerosis. Biomed Pharmacother, 2019. 115: p. 108951)、代謝性疾患(例えば、Dini, L., et al., Microvesicles and exosomes in metabolic diseases and inflammation. Cytokine Growth Factor Rev, 2020. 51: p. 27-39またはSoazig, L.L., A. Ramaroson, and M. M. Carmen, Exosomes in metabolic syndrome, in Exosomes: A Clinical Compendium, L.R. Edelstein, et al., Editors. 2020, Academic Press. p. 343 - 356を参照のこと)ならびにさらに多くのものを含む広範囲の疾患に関係があるとされている。
【0068】
エキソソームのカーゴは、タンパク質、脂質および核酸を含むさまざまな生体分子からなることが知られている。tRNA、mRNA、lncRNA、環状RNAおよびmiRNAなどのRNA種は、標的細胞および組織における遺伝子発現を潜在的に調節しうる。ある種の細胞型によって産生されるエキソソームは、治療特性を保有することが示されている。この点において、骨髄、脂肪組織および臍帯などの異なる供給源から単離された間葉幹細胞(MSC)が特に好ましいものとして浮上している。MSC由来のエキソソームは、数ある中でも角膜、心血管、アルツハイマー病、パーキンソン病および炎症性腸疾患の動物モデルにおいて潜在的な治療効果を示している。内因性細胞に加えて、胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPS)などの体外培養多能性幹細胞(PSC)がエキソソームを産生することが示されている(Y.H., et al., Exosomes Derived from Embryonic Stem Cells as Potential Treatment for Cardiovascular Diseases. Adv Exp Med Biol, 2017. 998: p. 187-206.またはJeske, R., et al., Human Pluripotent Stem Cell-Derived Extracellular Vesicles: Characteristics and Applications. Tissue Eng Part B Rev, 2020. 26(2): p. 129-144を参照のこと。残存する未分化細胞からの腫瘍形成のリスクがあるため、無細胞iPS由来エキソソームの投与はiPS由来細胞より安全であると考えられている(Riazifar, M., et al., Stem Cell Extracellular Vesicles: Extended Messages of Regeneration. Annu Rev Pharmacol Toxicol, 2017. 57: p. 125-154)。注目すべきは、iPSの分化誘導体から単離されたエキソソームについても治療特性が実証されている。例えば、iPS由来の心筋細胞から精製されたエキソソームを用いた処置により、心筋梗塞モデルマウスにおいて心筋回復が増強され、未処置の動物と比較してアポトーシスおよび線維症の有意な低減があった。また、このエキソソームは、iPS-心筋細胞のインビトロ培養物を低酸素およびエキソソーム生合成阻害からレスキューした(Liu, B., et al., Cardiac recovery via extended cell-free delivery of extracellular vesicles secreted by cardiomyocytes derived from induced pluripotent stem cells. Nat Biomed Eng, 2018. 2(5): p. 293-303)。別の研究では、iPS由来MSCから単離されたiPS由来MSC由来エキソソームからのエキソソームは、ヒト皮膚線維芽細胞およびヒト角化細胞の増殖を加速し、インビトロでのスクラッチアッセイにおいて創傷治癒を増強した。初代MSCから単離されたものと比較して、これらのエキソソームの効果に有意差はなかった(Kim, S., et al., Exosomes Secreted from Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Mesenchymal Stem Cells Accelerate Skin Cell Proliferation. Int J Mol Sci, 2018. 19(10)。
【0069】
したがって、これらの報告によれば、本発明のCLiPS (CLMCもしくはCLEC由来のいずれか)またはCLiPSの分化誘導体により産生される細胞外膜小胞またはエキソソームは、がん、変形性関節症、脳卒中、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、プリオン病および筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの中枢神経系の疾患、精神障害または代謝性疾患などの上記の例示的な疾患を含む疾患の処置に有用であると考えられる。
【0070】
加えて、エキソソームは、その効率的なカーゴ送達能力を利用して、マイクロRNA、薬物およびペプチドなどのさまざまな治療剤の細胞取り込みを促進するための送達担体として積極的に追求されている(Antimisiaris, S.G., S. Mourtas, and A. Marazioti, Exosomes and Exosome-Inspired Vesicles for Targeted Drug Delivery. Pharmaceutics, 2018. 10(4)、Liao, W., et al., Exosomes: The next generation of endogenous nanomaterials for advanced drug delivery and therapy. Acta Biomater, 2019. 86: p. 1-14またはWang, X., et al., Cell-derived Exosomes as Promising Carriers for Drug Delivery and Targeted Therapy. Curr Cancer Drug Targets, 2018. 18(4): p. 347-354を参照のこと。これに沿って、本発明のCLiPS (CLMCもしくはCLEC由来のいずれか)またはCLiPSの分化誘導体により産生される細胞外膜小胞またはエキソソームは、治療剤の細胞取り込みを促進するための送達担体として用いることもできると考えられる。したがって、本発明は同様に、外因的に負荷された分子またはトランスジェニックに発現された分子の送達の目的でのCLiPSまたはCLiPSの分化誘導体の使用も包含する。
【0071】
CLiPS (CLMCもしくはCLEC由来のいずれか)またはCLiPSの分化誘導体により産生される細胞外膜小胞およびエキソソームは、文献に記述されている各方法を用いて単離することができる。典型的には、エキソソームは、それらが分泌される細胞外環境から精製される。エキソソームの単離のための既知の方法は、超遠心分離、限外ろ過、サイズ排除クロマトグラフィー、フィールドフロー分画、ポリマー共沈、免疫親和性、マイクロフルイディクス、または音響ナノフィルタを含む。これらの方法は全て、CLiPSまたは本明細書に記述したCLiPSの分化誘導体により産生されるエキソソームの単離に用いることができる。
【0072】
本発明はさらに、本明細書の他の箇所において定義される臍帯の羊膜の幹細胞に由来し、本明細書において同様に定義されるCLiPSをいうiPS細胞を、RPE細胞に分化させる特定の方法に関する。この分化方法はRPE細胞への分化に適した条件の下で、CLiPsを分化培地中で培養する段階を含む。
【0073】
「網膜色素上皮(略称: RPE)細胞」とは、網膜色素上皮から得られる/からの/から採取される細胞をいう。換言すれば、そのような細胞は網膜色素上皮により含まれ、以下により詳細に定義される。CLiPsからのRPE分化は、本発明による迅速な、有向性の、かつ改変された分化方法を用いて達成された。RPE細胞への分化のために本明細書において使用されるCLiPSは、臍帯表層間葉細胞(CLMC23、CLMC30、CLMC44などの)に由来し、および/または臍帯表層外胚葉細胞(CLEC23などの)に由来しうる。好ましい態様において、RPE細胞への分化のために本明細書において使用されるCLiPSは、CLMC23、CLMC30、CLMC44またはCLEC23のいずれか1つである。好ましい態様において、RPE細胞への分化のために本明細書において使用されるCLiPSはCLMC23である。別の好ましい態様において、RPE細胞への分化のために本明細書において使用されるCLiPSはCLMC30である。別の好ましい態様において、RPE細胞への分化のために本明細書において使用されるCLiPSはCLMC44である。別の好ましい態様において、RPE細胞への分化のために本明細書において使用されるCLiPSはCLEC23である。本明細書において記述される分化方法により本明細書において定義されるCLiPSから分化したRPE細胞は、CLiPS由来RPE細胞またはCLiPS-RPEをいいうる。CLiPsに由来するRPE細胞の分化は本発明による分化方法を用いて、H9 ES細胞などのES細胞に由来するRPE細胞(そのようなRPE細胞をいう場合にはES由来RPEとも呼ばれる)の分化と比較され、および/またはAsf5、AGOもしくはHDFA細胞などの皮膚に由来するiPS細胞(皮膚iPSとも呼ばれ、したがってそのようなRPE細胞をいう場合には皮膚iPS由来RPEとも呼ばれる)由来のRPE細胞の分化と比較されうる(実施例の項を参照のこと)。
【0074】
臍帯の羊膜の幹細胞に由来するiPS細胞を培養する段階を含むiPS細胞をRPE細胞に分化させる分化方法において使用される分化培地は、好ましくは、N2サプリメント、B27サプリメントおよび非必須アミノ酸(NEAA)を含む本明細書において定義されるDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)、さらにより好ましくは、N2サプリメント、B27サプリメントおよび非必須アミノ酸(NEAA)を含む本明細書の他の箇所において定義されるDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)/F12培地(ハムF12培地)である。好ましい態様において、iPS細胞をRPE細胞に分化させる分化方法において使用されるDMEM/F12培地は、1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含む。培地中に1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含むことは、以下の態様でも見られるように、最終濃度が1×であることを意味する。前記態様において、分化培地、好ましくはDMEM培地、さらにより好ましくは本明細書において定義されるDMEM/F12培地は、最終容量1000 mlの培養培地が得られるように、
・10 mLの100×N2サプリメント;
・20 mLの50×B27サプリメント;
・10 mLの100×NEAA;
・960 mLのDMEM、好ましくはDMEM/F12
を混合することによって得られる。
【0075】
本明細書において定義される分化培地は、本明細書の他の箇所において定義されるようにさまざまな増殖因子および/またはサイトカインをさらに含みうる/補充されうる。上記で定義されるそのような分化培地は、iPS培養用の基本培地をいいうる。次いで、そのような基本分化培地は、本発明によるiPS細胞をRPE細胞に分化させる方法を用いることにより、iPS細胞がRPE細胞に分化するように本明細書において定義されるiPS細胞を培養するためにさらに改変/補充されうる。
【0076】
特に、本発明によるiPS細胞をRPE細胞に分化させる方法において該細胞がRPE細胞に分化するようにiPS細胞を培養するために使用される分化培地は、IGF1、DKK1、ニコチンアミドまたはLDN-193189の少なくともいずれか1つをさらに含む第1の分化培地を含みうる。第1の分化培地は、DMEM培地、好ましくはN2サプリメント、B27サプリメントおよびNEAAを含むDMEM/F12培地、さらにより好ましくは1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含むDMEM/F12培地を含む基本培地に基づく。好ましい態様において、本明細書において定義される第1の分化培地は、IGF1、DKK1、ニコチンアミドおよびLDN-193189をさらに含む。
【0077】
さらに、本発明によるiPS細胞をRPE細胞に分化させる方法において該細胞がRPE細胞に分化するようにiPS細胞を培養するために使用される分化培地は、追加的または代替的に、IGF1、DKK1、ニコチンアミド、LDN-193189またはb-FGFの少なくともいずれか1つをさらに含む第2の分化培地を含みうる。第2の分化培地はまた、DMEM培地、好ましくはN2サプリメント、B27サプリメントおよびNEAAを含むDMEM/F12培地、さらにより好ましくは1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含むDMEM/F12培地を含む基本培地に基づく。好ましい態様において、本明細書において定義される第2の分化培地は、IGF1、DKK1、ニコチンアミド、LDN-193189およびb-FGFをさらに含む。
【0078】
さらに、本発明によるiPS細胞をRPE細胞に分化させる方法において該細胞がRPE細胞に分化するようにiPS細胞を培養するために使用される分化培地は、追加的または代替的に、IGF1、DKK1またはアクチビンAの少なくともいずれか1つをさらに含む第3の分化培地を含みうる。第3の分化培地はまた、DMEM培地、好ましくはN2サプリメント、B27サプリメントおよびNEAAを含むDMEM/F12培地、さらにより好ましくは1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含むDMEM/F12培地を含む基本培地に基づく。好ましい態様において、本明細書において定義される第3の分化培地は、IGF1、DKK1およびアクチビンAをさらに含む。
【0079】
さらに、本発明によるiPS細胞をRPE細胞に分化させる方法において該細胞がRPE細胞に分化するようにiPS細胞を培養するために使用される分化培地は、追加的または代替的に、アクチビンAおよびSU5402またはアクチビンAおよびPD17307をさらに含む第4の分化培地を含みうる。第4の分化培地はまた、DMEM培地、好ましくはN2サプリメント、B27サプリメントおよびNEAAを含むDMEM/F12培地、さらにより好ましくは1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含むDMEM/F12培地を含む基本培地に基づく。好ましい態様において、本明細書において定義される第4の分化培地は、アクチビンAおよびPD17307をさらに含む。PD17307は、SU5402 が使用される場合に高濃度の適用によって引き起こされる遺伝子発現の望ましくない変化を低減する線維芽細胞増殖因子阻害剤 SU5402 と比較して低濃度で適用されるため、PD17307 は本発明の分化方法に好ましい(
図19)。
【0080】
さらに、本発明によるiPS細胞をRPE細胞に分化させる方法において該細胞がRPE細胞に分化するようにiPS細胞を培養するために使用される分化培地は、追加的または代替的に、アクチビンA、CHIR99021もしくはSU5402の少なくともいずれか1つをさらに含む、またはアクチビンA、CHIR99021もしくはPD17307の少なくともいずれか1つを含む、第5の分化培地を含みうる。第5の分化培地はまた、DMEM培地、好ましくはN2サプリメント、B27サプリメントおよびNEAAを含むDMEM/F12培地、さらにより好ましくは1×N2サプリメント、1×B27サプリメントおよび1×NEAAを含むDMEM/F12培地を含む基本培地に基づく。好ましい態様において、本明細書において定義される第5の分化培地は、アクチビンA、CHIR99021およびPD17307 (上記で定義したのと同じ理由でPD17307を使用する)をさらに含む。第5の分化培地は、好ましくは、アクチビンA、SU5402またはPD17307、好ましくはPD17307、および3 μM未満である第1濃度のCHIR99021を含む。その後、第5の分化培地を再び用いてiPS細胞を培養し、RPE細胞に分化させる場合、Wntシグナル伝達経路の活性化因子CHIR99021の濃度を増加させる。濃度を徐々に増加させることで、使用時に高濃度のCHIRによって引き起こされる過剰な細胞死が抑止される。これにより、色素沈着RPE細胞の収量が改善された。続いて第5の分化培地を適用する場合、それは好ましくはアクチビンA、SU5402またはPD17307、好ましくはPD17307、および約3 μMである第2濃度のCHIR99021を含む。
【0081】
サプリメントとしてのIGF1が本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、IGF1は、約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、IGF1は、少なくとも約 5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、IGF1は、少なくとも約 5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、IGF1は、少なくとも約 5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、IGF1が約10 ng/mlの最終濃度で少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、少なくとも約5日間、少なくとも約6日間、好ましくは約6日間、さらにより好ましくは連続約6日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約6日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。IGF1が本明細書において定義される第1の分化培地中に適用される場合、IGF1は約10 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の0日目から2日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。IGF1が本明細書において定義される第2の分化培地中に適用される場合、IGF1は約10 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の2日目から4日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。IGF1が本明細書において定義される第3の分化培地中に適用される場合、IGF1は約10 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の4日目から6日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。
【0082】
DKK1が本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、DKK1は、約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、DKK1は、少なくとも約 5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、DKK1は、少なくとも約 5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、DKK1は、少なくとも約 5 ng/ml、少なくとも約6 ng/ml、少なくとも約7 ng/ml、少なくとも約8 ng/ml、少なくとも約9 ng/mlもしくは少なくとも約10 ng/mlの最終濃度、または約5~約15 ng/ml、約6~約14 ng/ml、約7~約13 ng/ml、約8~約12 ng/ml、約9~約11 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、DKK1が約10 ng/mlの最終濃度で少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、少なくとも約5日間、少なくとも約6日間、好ましくは約6日間、さらにより好ましくは連続約6日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約6日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。DKK1が本明細書において定義される第1の分化培地中に適用される場合、DKK1は約10 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の0日目から2日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。DKK1が本明細書において定義される第2の分化培地中に適用される場合、DKK1は約10 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の2日目から4日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。DKK1が本明細書において定義される第3の分化培地中に適用される場合、DKK1は約10 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の4日目から6日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。
【0083】
ニコチンアミドが本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約5 mM、少なくとも約6 mM、少なくとも約7 mM、少なくとも約8 mM、少なくとも約9 mMもしくは少なくとも約10 mMの最終濃度、または約5~約15 mM、約6~約14 mM、約7~約13 mM、約8~約12 mM、約9~約11 mMの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、ニコチンアミドは、約10 mMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、ニコチンアミドは、少なくとも約 5 mM、少なくとも約6 mM、少なくとも約7 mM、少なくとも約8 mM、少なくとも約9 mMもしくは少なくとも約10 mMの最終濃度、または約5~約15 mM、約6~約14 mM、約7~約13 mM、約8~約12 mM、約9~約11 mMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 mMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、ニコチンアミドは、少なくとも約 5 mM、少なくとも約6 mM、少なくとも約7 mM、少なくとも約8 mM、少なくとも約9 mMもしくは少なくとも約10 mMの最終濃度、または約5~約15 mM、約6~約14 mM、約7~約13 mM、約8~約12 mM、約9~約11 mMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 mMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、ニコチンアミドが約10 mMの最終濃度で少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、好ましくは約4日間、さらにより好ましくは連続約4日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約4日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。ニコチンアミドが本明細書において定義される第1の分化培地中に適用される場合、ニコチンアミドは約10 mMの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の0日目から2日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。ニコチンアミドが本明細書において定義される第2の分化培地中に適用される場合、ニコチンアミドは約10 mMの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の2日目から4日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。
【0084】
LDN-193189が本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約0.1 μM、少なくとも約0.2 μM、少なくとも約0.3 μM、少なくとも約0.4 μM、少なくとも約0.5 μM、少なくとも約0.6 μM、少なくとも約0.7 μM、少なくとも約0.8 μM、少なくとも約0.9 μMまたは少なくとも約1 μMの最終濃度が使用される。好ましい態様において、LDN-193189は、約1 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。別の好ましい態様において、LDN-193189は、約0.2 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、LDN-193189は、約0.5~約1.5 μM、約0.6~約1.4 μM、約0.7~約1.3 μM、約0.8~約1.2 μM、約0.9~約1.1 μMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約1 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、LDN-193189は、約0.1~約0.3 μM、約0.11~約0.29 μM、約0.12~約0.28 μM、約0.13~約0.27 μM、約0.14~約0.26 μM、約0.15~約0.25 μMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約0.2 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、LDN-193189が、本明細書の他の箇所において定義される少なくとも約0.1 μMの濃度で少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、好ましくは約4日間、さらにより好ましくは連続約4日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約4日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。LDN-193189が本明細書において定義される第1の分化培地中に適用される場合、LDN-193189は約1 μMの濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の0日目から2日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは、LDN-193189は(連続)約2日間使用される。LDN-193189が本明細書において定義される第2の分化培地中に適用される場合、LDN-193189は約0.2 μMの濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の2日目から4日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは、LDN-193189は(連続)約2日間使用される。
【0085】
b-FGFが本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約2.5 ng/ml、少なくとも約3 ng/ml、少なくとも約3.5 ng/ml、少なくとも約4 ng/ml、少なくとも約4.5 ng/mlもしくは少なくとも約5 ng/mlの最終濃度、または約2.5~約7.5 ng/ml、約3~約7 ng/ml、約3.5~約6.5 ng/ml、約4~約6 ng/ml、約4.5~約5.5 ng/mlの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、b-FGFは、約5 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、b-FGFは、少なくとも約2.5 ng/ml、少なくとも約3 ng/ml、少なくとも約3.5 ng/ml、少なくとも約4 ng/ml、少なくとも約4.5 ng/mlもしくは少なくとも約5 ng/mlの最終濃度で、または約2.5~約7.5 ng/ml、約3~約7 ng/ml、約3.5~約6.5 ng/ml、約4~約6 ng/ml、約4.5~約5.5 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約5 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、b-FGFが約5 ng/mlの最終濃度で少なくとも約1日間、少なくとも約2日間、好ましくは約2日間、さらにより好ましくは連続約2日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約2日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。b-FGFが本明細書において定義される第2の分化培地中に適用される場合、b-FGFは約5 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の2日目から4日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。
【0086】
アクチビンAが本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約50 ng/ml、少なくとも約60 ng/ml、少なくとも約70 ng/ml、少なくとも約80 ng/ml、少なくとも約90 ng/mlもしくは少なくとも約100 ng/mlの最終濃度、または約50~約150 ng/ml、約60~約140 ng/ml、約70~約130 ng/ml、約80~約120 ng/ml、約90~約110 ng/mlの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、アクチビンAは、約100 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、アクチビンAは、少なくとも約50 ng/ml、少なくとも約60 ng/ml、少なくとも約70 ng/ml、少なくとも約80 ng/ml、少なくとも約90 ng/mlもしくは少なくとも約100 ng/mlの最終濃度で、または約50~約150 ng/ml、約60~約140 ng/ml、約70~約130 ng/ml、約80~約120 ng/ml、約90~約110 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約100 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、アクチビンAは、少なくとも約50 ng/ml、少なくとも約60 ng/ml、少なくとも約70 ng/ml、少なくとも約80 ng/ml、少なくとも約90 ng/mlもしくは少なくとも約100 ng/mlの最終濃度で、または約50~約150 ng/ml、約60~約140 ng/ml、約70~約130 ng/ml、約80~約120 ng/ml、約90~約110 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約100 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、アクチビンAは、少なくとも約50 ng/ml、少なくとも約60 ng/ml、少なくとも約70 ng/ml、少なくとも約80 ng/ml、少なくとも約90 ng/mlもしくは少なくとも約100 ng/mlの最終濃度で、または約50~約150 ng/ml、約60~約140 ng/ml、約70~約130 ng/ml、約80~約120 ng/ml、約90~約110 ng/mlの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約100 ng/mlの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、アクチビンAが約100 ng/mlの最終濃度で少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、少なくとも約5日間、少なくとも約6日間、少なくとも約8日間、少なくとも約10日間、少なくとも約12日間、好ましくは約12日間、さらにより好ましくは連続約12日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約12日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。アクチビンAが本明細書において定義される第3の分化培地中に適用される場合、アクチビンAは約100 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の4日目から6日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。アクチビンAが本明細書において定義される第4の分化培地中に適用される場合、アクチビンAは約100 ng/mlの最終濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の6日目から8日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約2日間使用される。アクチビンAが本明細書において定義される第5の分化培地中に適用される場合、アクチビンAは約100 ng/mlの最終濃度で約8日間、好ましくは連続約8日間使用され、これは培養の8日目から16日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約8日間使用される。
【0087】
SU5402が本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約5 μM、少なくとも約6 μM、少なくとも約7 μM、少なくとも約8 μM、少なくとも約9 μMもしくは少なくとも約10 μMの最終濃度、または約5~約15 μM、約6~約14 μM、約7~約13 μM、約8~約12 μM、約9~約11 μMの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、SU5402は、約10 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、SU5402は、少なくとも約5 μM、少なくとも約6 μM、少なくとも約7 μM、少なくとも約8 μM、少なくとも約9 μMもしくは少なくとも約10 μMの最終濃度で、または約5~約15 μM、約6~約14 μM、約7~約13 μM、約8~約12 μM、約9~約11 μMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、SU5402は、少なくとも約5 μM、少なくとも約6 μM、少なくとも約7 μM、少なくとも約8 μM、少なくとも約9 μMもしくは少なくとも約10 μMの最終濃度で、または約5~約15 μM、約6~約14 μM、約7~約13 μM、約8~約12 μM、約9~約11 μMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約10 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、SU5402が、本明細書の他の箇所において定義される約10 μMの濃度で約10日間、さらにより好ましくは連続約10日間、最も好ましくは(連続)約10日間、本明細書において定義される分化培地中に適用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。SU5402が本明細書において定義される第4の分化培地中に適用される場合、SU5402は約10 μMの濃度で、約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の6日目から8日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは、SU5402は(連続)約2日間使用される。SU5402が本明細書において定義される第5の分化培地中に適用される場合、SU5402は約10 μMの濃度で、約8日間、好ましくは連続約8日間使用され、これは培養の8日目から16日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは、SU5402は(連続)約8日間使用される。
【0088】
PD17307が本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約0.5 μM、少なくとも約0.6 μM、少なくとも約0.7 μM、少なくとも約0.8 μM、少なくとも約0.9 μMもしくは少なくとも約1 μMの最終濃度、または約0.5~約1.5 μM、約0.6~約1.4 μM、約0.7~約1.3 μM、約0.8~約1.2 μM、約0.9~約1.1 μMの範囲内の最終濃度が使用される。好ましい態様において、PD17307は、約1 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、PD17307は、少なくとも約0.5 μM、少なくとも約0.6 μM、少なくとも約0.7 μM、少なくとも約0.8 μM、少なくとも約0.9 μMもしくは少なくとも約1 μMの最終濃度で、または約0.5~約1.5 μM、約0.6~約1.4 μM、約0.7~約1.3 μM、約0.8~約1.2 μM、約0.9~約1.1 μMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約1 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で使用される。別のさらにより好ましい態様において、PD17307は、少なくとも約0.5 μM、少なくとも約0.6 μM、少なくとも約0.7 μM、少なくとも約0.8 μM、少なくとも約0.9 μMもしくは少なくとも約1 μMの最終濃度で、または約0.5~約1.5 μM、約0.6~約1.4 μM、約0.7~約1.3 μM、約0.8~約1.2 μM、約0.9~約 1.1 μMの範囲内の最終濃度で、最も好ましくは約1 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で使用される。本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、PD17307が、本明細書の他の箇所において定義される約1 μMの濃度で約10日間、さらにより好ましくは連続約10日間、本明細書において定義される分化培地中に適用され、最も好ましくは(連続)約10日間、使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。PD17307が本明細書において定義される第4の分化培地中に適用される場合、PD17307は約1 μMの濃度で約2日間、好ましくは連続約2日間使用され、これは培養の6日目から8日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは、PD17307は(連続)約2日間使用される。PD17307が本明細書において定義される第5の分化培地中に適用される場合、PD17307は約1 μMの最終濃度で約8日間、好ましくは連続約8日間使用され、これは培養の8日目から16日目までの使用を意味し、さらにより好ましくは(連続)約8日間使用される。
【0089】
CHIR99021が本明細書の他の箇所において定義される分化培地中に適用される場合、少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.2 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.3 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.4 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2.5 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.9 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.8 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.7 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.6 μM未満の最終濃度が使用される。好ましい態様において、CHIR99021は、約1.5 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。本明細書において定義される分化培地中で使用されるCHIR99021は、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を連続約3日培養の間、培養するために適用されうる。より好ましい態様において、CHIR99021は、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を連続約3日培養の間、培養するために約1.5 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される分化培地中で使用される。
【0090】
さらにより好ましい態様において、CHIR99021は、少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.2 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.3 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.4 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2.5 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.9 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.8 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.7 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.6 μM未満の最終濃度で、最も好ましくは約1.5 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で使用される。さらにより好ましい態様において、CHIR99021は、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を連続約3日培養の間、培養するために少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.2 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.3 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.4 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2.5 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.9 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.8 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.7 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.6 μMの最終濃度で、最も好ましくは細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を連続約3日培養(これは培養の8日目から11日目までの意味)の間、培養するために約1.5 μMの最終濃度で本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で使用される。
【0091】
CHIR99021が上記に定義される、分化培地、好ましくは第5の分化培地に適用される場合、CHIR99021は、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を引き続いて培養するために、好ましくは連続約5日培養の間、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を引き続いて培養するために分化培地中に再び適用される。好ましい態様において、CHIR99021はその後、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を引き続いて培養するために、さらにより好ましくは連続約5日培養(これは培養の11日目から16日目までの意味)の間、細胞、すなわちRPE細胞に分化する、または既に分化している本発明のiPS細胞を引き続いて培養するために約3 μMの最終濃度で使用される。最終濃度を1.5 μMで3日間、続いて3 μMで5日間と徐々に増加させることにより、色素沈着RPE細胞の収量が向上する。
【0092】
本発明はさらに、RPE細胞に分化する方法であって、約8日間培養の間に、好ましくは連続約8日培養の間にCHIR99021が使用され、さらにより好ましくは、CHIR99021との培養約8日間のうちの最初の(連続) 3日間の間に、CHIR99021が少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.1 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.2 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.3 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1.4 μMおよび約3 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2.5 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約2 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.9 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.8 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.7 μM未満、少なくとも約1 μMおよび約1.6 μM未満の最終濃度で、最も好ましくは約1.5 μMの最終濃度で使用され、かつCHIR99021との培養約8日間のうちの次の(連続)5日間の間に、CHIR99021が約3 μMの最終濃度で使用される、本明細書の他の箇所において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する段階を含む該方法を含む。
【0093】
最も好ましい態様において、分化培地は、約1 μMのLDN-193189、約10 ng/mlのDKK1、約10 ng/mlのIGF1および約10 mMのニコチンアミドを含む第1の分化培地を含む。別の最も好ましい態様において、分化培地は、約0.2 μMのLDN-193189、約10 ng/mlのDKK1、約10 ng/mlのIGF1、約10 mMのニコチンアミドおよび約5 ng/mlのb-FGFを含む第2の分化培地を含む。別の最も好ましい態様において、分化培地は、約10 ng/mlのDKK1、約10 ng/mlのIGF1および約100 ng/mlのアクチビンAを含む第3の分化培地を含む。別の最も好ましい態様において、分化培地は、約100 ng/mlのアクチビンAおよび約10 μMのSU5402を含む第4の分化培地、好ましくは約100 ng/mlのアクチビンAおよび約1 μMのPD17307を含む第4の分化培地を含む。別の最も好ましい態様において、分化培地は、約100 ng/mLのアクチビンA、約10 μMのSU5402および約1.5μmのCHIR99021を含む第5の分化培地、好ましくは約100 ng/mLのアクチビンA、約1 μMのPD17307および約1.5 μmのCHIR99021を含む第5の分化培地を含む。別の最も好ましい態様において、分化培地は、約100 ng/mLのアクチビンA、約10 μMのSU5402および約3 μMのCHIR99021を含む、好ましくは約100 ng/mLのアクチビンA、約1 μMのPD17307および約3 μMのCHIR99021を含む分化方法において最初の第5の分化培地が適用された後に適用される別の第5の分化培地を含む。
【0094】
本発明の好ましい態様において、分化方法においてiPS細胞を培養する段階の場合、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で約2日間、好ましくは本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で連続約2日間、培養することを含む。これは、iPS細胞が0日目から2日目まで本明細書において定義される第1の分化培地に最初に曝露されたことを意味する。
【0095】
別の好ましい態様において、本発明の方法においてiPS細胞を培養する段階の場合、本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で約2日間培養することを含み、好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で約2日間培養することを含み、さらにより好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で連続約2日間培養することを含む。これは、本発明の方法におけるiPS細胞の培養の2日目に、iPS細胞が2日目から4日目まで第2の分化培地に曝露されうることを意味する。
【0096】
別の好ましい態様において、本発明の方法においてiPS細胞を培養する段階の場合、本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で約2日間iPS細胞を培養することを含み、好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で約2日間iPS細胞を培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で約2日間培養することを含み、さらにより好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で連続約2日間iPS細胞を培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で連続約2日間培養することを含む。これは、本発明の方法におけるiPS細胞の培養の4日目に、iPS細胞が4日目から6日目まで第3の分化培地に曝露されうることを意味する。
【0097】
別の好ましい態様において、本発明の方法においてiPS細胞を培養する段階の場合、本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で約2日間iPS細胞を培養することを含み、好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で約2日間iPS細胞を培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で約2日間培養することを含み、さらにより好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で連続約2日間iPS細胞を培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で連続約2日間培養することを含む。これは、本発明の方法におけるiPS細胞の培養の6日目に、iPS細胞が6日目から8日目まで第4の分化培地に曝露されうることを意味する。
【0098】
別の好ましい態様において、本発明の方法においてiPS細胞を培養する段階の場合、本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で約8日間培養することを含み、好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で約8日間培養することを含み、さらにより好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される第1の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第2の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第3の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第4の分化培地中で連続約2日間培養し、続いて本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で連続約8日間培養することを含む。これは、本発明の方法におけるiPS細胞の培養の8日目に、iPS細胞が8日目から16日目まで第5の分化培地に曝露されうることを意味する。
【0099】
本発明のさらにより好ましい態様において、本発明の方法においてiPS細胞を培養する段階の場合、本明細書の他の箇所において定義される少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満の濃度で使用されるCHIR99021を含む本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で約4日間培養し、その後に続いて約3 μMの濃度で使用されるCHIR99021を含む第5の分化培地中でさらに約4日間培養することを含み、最も好ましくは、本明細書の他の箇所において定義される少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満の濃度で使用されるCHIR99021を含む第1の分化培地中で約2日間培養し、続いて第2の分化培地中で約2日間培養し、続いて第3の分化培地中で約2日間培養し、続いて第4の分化培地中で約2日間培養し、続いて第5の分化培地中で約4日間培養し、その後に続いて約3 μMの濃度で使用されるCHIR99021を含む第5の分化培地中でさらに約4日間培養することを含む。本文脈において、特定の培地中で培養するための「日間(days)」という用語は、「日間連続(consecutive days)」という用語と置き換えられうる。これは、本発明の方法における培養の8日目に、細胞が8日目から11日目まで本明細書の他の箇所において定義される少なくとも約1 μMおよび約3 μM未満の濃度で使用されるCHIR99021を含む第5の分化培地に曝露され、その後に11日目の細胞を、11日目から16日目まで約3 μMの濃度で使用されるCHIR99021を含む第5の分化培地に曝露することが行われうることを意味する。
【0100】
したがって本発明は同様に、iPS細胞が合計で約11~約21日間、約12~約20日間、約13~約19日間、約14~約18日間、約15~約17日間、好ましくは合計で約16日間、さらにより好ましくは連続約11~約21日間、連続約12~約20日間、連続約13~約19日間、連続約14~約18日間、連続約15~約17日間、最も好ましくは連続約16日間、分化培地中で培養される、iPS細胞をRPE細胞に分化させる方法を含む。
【0101】
本発明のさらなる態様において、iPS細胞をRPE細胞に分化させる方法は、本明細書において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する前に、mTESR1培地中で該iPS細胞を培養する段階をさらに含むことが好ましい。CLiPおよび参照細胞株としてヒトES細胞はmTeSR1培地中、マトリゲルでコーティングした組織培養プレート上で増殖されうる。細胞が約90~約95%の集密に達したら、それらを次いで、本明細書の他の箇所において定義される分化培地に、好ましくは第1の分化培地に、さらにより好ましくは第1の分化培地、その後に本明細書において定義される第2、第3、第4および第5の分化培地に曝露する。好ましい態様において、iPS細胞をRPE細胞に分化させる方法は、本明細書において定義される分化培地中でiPS細胞を培養する前に、より好ましくは本明細書において定義される第1の分化培地中でiPS細胞を培養する前に、最も好ましくは本明細書において定義される第1の分化培地、その後に本明細書において定義される第2、第3、第4および第5の分化培地の中でiPS細胞を培養する前に約1~約4日間の培養の間、mTESR1培地中で該iPS細胞を培養する段階をさらに含む。
【0102】
本発明のさらなる態様において、iPS細胞をRPE細胞に分化させる方法は、RPE細胞を網膜色素上皮維持(略称: RPEM)培地中で培養する段階をさらに含むことが好ましい。本発明によれば、iPS細胞を分化培地中で培養し、RPE細胞に分化させた後、分化培地は、以下に定義されるRPEM培地に置き換えられうる。好ましくは、RPEM培地中でのRPE細胞の培養は、培養16日目以降(特に、本明細書の他の箇所において定義される第5の分化培地中で細胞を培養した後)に開始されうる。好ましい態様において、本発明の分化方法のRPEM培地は、約50%のDMEM/F12と0.5×N1サプリメントおよび1×NEAAを含む約50%の最小必須培地(MEM)とを含む。より好ましい態様において、本発明の分化方法のRPEM培地は、熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、Glutamax、タウリン、ヒドロコルチゾン、3,3',5-トリヨード-L-チロニン、ペニシリン/ストレプトマイシン、ニコチンアミド、またはピルビン酸ナトリウムの少なくともいずれか1つをさらに含む。さらにより好ましい態様において、本発明の分化方法のRPEM培地は、熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、Glutamax、タウリン、ヒドロコルチゾン、3,3',5-トリヨード-L-チロニン、ペニシリン/ストレプトマイシン、ニコチンアミド、およびピルビン酸ナトリウムをさらに含む。最も好ましい態様において、本発明の分化方法のRPEM培地は、約2%の熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)、1×Glutamax、約0.25 mg/mLのタウリン、約0.02 μg/mLのヒドロコルチゾン、約0.013 ng/mLの3,3',5-トリヨード-L-チロニン、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、約10 mMのニコチンアミドおよび1×ピルビン酸ナトリウムをさらに含む。
【0103】
本発明は同様に、RPE細胞が約9~約29日間、約10~約28日間、約11~約27日間、約12~約26日間、約13~約25日間、約14~約24日間、約15~約23日間、約16~約22日間、約17~約21日間、約18~約20日間、好ましくは約19日間、さらにより好ましくは連続約19日間、本明細書の他の箇所において定義されるRPEM培地中で培養される、本明細書の他の箇所において定義される分化方法を含む。RPEM培地は、該培地中でのRPE細胞の培養中に約2~約3日ごとに、好ましくはRPE細胞の培養中に約9~約29日間、約10~約28日間、約11~約27日間、約12~約26日間、約13~約25日間、約14~約24日間、約15~約23日間、約16~約22日間、約17~約21日間、約18~約20日間、より好ましくはRPE細胞の培養中に約19日間、さらにより好ましくは連続約19日間、約2~約3日ごとに交換されうる。
【0104】
本発明は同様に、本明細書において定義される分化培地中でのiPS細胞の培養および本明細書において定義されるRPEM培地中でのRPE細胞の培養が、約20~約50日、約25~約45日、約30~約40日、好ましくは約30~約35日、最も好ましくは約35日からなり、具体的には本明細書の他の箇所において定義される分化培地中での約16日間のiPS細胞の培養および本明細書の他の箇所において定義されるRPEM培地中での約19日間の分化RPE細胞の培養を有する、本明細書の他の箇所において定義される分化方法を含む。
【0105】
本発明は同様に、RPE細胞をRPEM培地中で培養した後に該RPEM培地中の該RPE細胞を精製する段階をさらに含むことが好ましい、本明細書の他の箇所において定義される分化方法を含む。分化後、RPE細胞と非RPE細胞との混合物が存在するが、分化プレートには純粋なRPE細胞のみが有るように、さらなる精製段階が有用でありうる(
図20)。分化方法の追加的な精製段階は、好ましくは、(a) RPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定することを含み、ここでRPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定することは、好ましくは、当業者に知られているように、顕微鏡検査により選択すること、より好ましくは明視野顕微鏡検査により選択することを含む。この段階はRPE細胞の手動精製をいいうる。具体的には、RPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定することは、明視野顕微鏡検査などの、顕微鏡検査で観察しながら、RPE細胞よりも少ない色素沈着および異なる細胞形態を有する非RPE細胞を、ピペットに取り付けたチップで掻き取ることにより手動で、除去することにより実施されうる。全ての非RPE細胞を除去するために、具体的にはPBSで約3回洗浄することをさらに含みうる。追加的または代替的に、分化方法の追加的な精製段階は、好ましくは、(b) RPE細胞を継代することを含み、ここでRPE細胞を継代することは、好ましくは、RPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEで、最も好ましくはTrypLEで処理することを含む。この段階はRPE細胞の継代精製をいいうる。具体的には、RPE細胞を継代することは、非RPE細胞を剥離し、それらをアキュターゼまたはTrypLEなどの穏和な解離剤での処理、好ましくはTrypLEでの処理によって除去することにより実施されうる。RPE細胞が培養プレートにまだ付着していることがある。その後、残存するRPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEなどの穏和な解離剤で、好ましくはTrypLEで再び処理することおよび該RPE細胞をさらに継代することをさらに含んでもよい。本文脈において、「RPE細胞を継代すること」という用語は、アキュターゼまたはTrypLEなどの穏やかな解離剤で、好ましくはTrypLEで非RPE細胞を剥離かつ除去した後に、残存するRPE細胞をプレーティングすること、および該残存するRPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEなどの穏やかな解離剤で、好ましくはTrypLEで再び処理することをいう。TrypLEが適用される場合、該段階はRPE細胞のTrypLE精製をいうことがある。追加的または代替的に、分化方法の追加的な精製段階は、好ましくは、(c) 本明細書の他の箇所において定義されるようにRPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定する段階および本明細書の他の箇所において定義されるようにRPE細胞を継代する段階の組み合わせを含む。好ましくは上記のTrypLE精製を用いて、RPE細胞を継代することにより実施される精製は、非RPE細胞/細胞集塊の大部分を除去しうるが、本明細書において定義される手動精製によって除去されうる、いくつかの小さな集塊がまだ存在することがある。追加的または代替的に、分化方法の追加的な精製段階は、好ましくは、(d) RPE細胞を継代することおよびRPE細胞をその色素沈着にしたがって散乱選別することの組み合わせを含む。この精製段階は、上記に定義されるように非RPE細胞を除去することおよび該残存するRPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEなどの穏やかな解離剤で、好ましくはTrypLEでさらに処理する段階およびRPE細胞を散乱選別でさらに処理することにより実施されてもよく、ここでアキュターゼまたはTrypLEなどの穏やかな解離剤によって、好ましくはTrypLEで除去される非RPE細胞は、散乱の少ない細胞用のゲートを設定するために使用されてもよい。追加的または代替的に、分化方法の追加的な精製段階は、好ましくは、(e) RPE細胞をその色素沈着にしたがって散乱選別することの組み合わせを含む。この段階はRPE細胞の散乱選別精製をいいうる。具体的には、RPE細胞を散乱選別することは、任意のFACS緩衝液中に解離される(アキュターゼまたはTrypLE、好ましくはTrypLEなどの穏やかな解離剤を使用することにより解離される)単一細胞の細胞ペレットを再懸濁することおよびそれをフィルタに通して単一細胞を得ることおよび例えば当業者に公知の任意のFACS細胞選別装置を用いて散乱の高い画分と散乱の低い画分に分離することにより実施されうる。
【0106】
本明細書において定義される異なるRPE精製方法を比較することにより、上記に定義されるようにRPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEで、好ましくはTrypLEで処理する段階を含むRPE細胞を継代する段階は、高いRPE収率(約47%)をもたらし、RPE細胞の手動精製と比較して容易かつ迅速であり、したがって好ましい可能性があることが分かった。上記に定義されるようにRPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEで、好ましくはTrypLEで処理し、その後に本明細書の他の箇所において同様に定義されるようにRPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定する段階を含むRPE細胞を継代する段階は、高いRPE収率(約43%)をもたらすだけでなく、移植にとって最も重要でありうる最も高い細胞純度(約99%のPMEL17陽性細胞)ももたらす。あるいは、上記に定義されるようにRPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEで、好ましくはTrypLEで処理し、その後に本明細書の他の箇所において同様に定義されるようにRPE細胞をその色素沈着にしたがって手動で同定する段階を含むRPE細胞を継代する段階は、部分的なTrypLE処理によって精製に必要とされる短い時間で非RPE細胞の大部分が除去されるため、実施するのも最も容易である。まとめると、RPE細胞を手動で同定することと組み合わせて、RPE細胞をアキュターゼまたはTrypLEで、好ましくはTrypLEで処理することを含むRPE細胞を継代することの精製は、アキュターゼまたはTrypLEなどの穏やかな解離剤での処理、好ましくはTrypLEでの処理を逃れた可能性のある任意の非RPE細胞を除去するための追加の手動精製段階を伴い、本発明の方法におけるRPE細胞の精製として大抵好ましい。
【0107】
本発明は同様に、臍帯の羊膜の幹細胞に由来し、RPE細胞に分化する方法において使用されるiPS細胞が、本発明によって同様に含まれる人工多能性幹細胞を作出する方法のために本明細書の他の箇所において定義される幹細胞を再プログラムするのに適した条件の下で該臍帯の羊膜の幹細胞においてタンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸、ならびにp53-shRNAを発現させることにより特に作出される、本明細書の他の箇所において定義される分化方法を含む。好ましい態様において、本発明は同様に、臍帯の羊膜の幹細胞におけるタンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸、ならびにp53-shRNAが、1つ、2つまたは3つのベクターにより提供され、好ましくは、第1のベクターがタンパク質OCT3/4および53-shRNAをコードし、第2のベクターがタンパク質SOX2およびKLF4をコードし、第3のベクターがタンパク質L-MYCおよびLIN28をコードする、本明細書の他の箇所において定義される分化方法を含む。まとめると、本明細書の他の箇所において定義される人工多能性幹細胞であって、その後、記述される分化方法にしたがってRPE細胞に分化されるiPS細胞を作出する方法に関する各開示は、必要に応じて、iPS細胞をRPE細胞に分化させる方法にも適用可能でありうる。
【0108】
本発明は同様に、本明細書において記述される分化方法により得ることができるRPE細胞培養物/RPE細胞に関し、および本明細書において記述される分化方法により得られたRPE細胞培養物/RPE細胞に関する。本発明は同様に、本明細書において記述される分化方法により得ることができる、また得られた、網膜色素上皮細胞培養物/RPE細胞からなる、または網膜色素上皮細胞培養物/RPE細胞を含む、網膜色素上皮に関する。
【0109】
本発明は同様に、本明細書において記述される分化方法により得ることができる/得られたRPE細胞培養物/RPE細胞を含む薬学的組成物に関する。分化したRPE細胞/分化したRPE細胞を含むRPE細胞培養物を含む薬学的組成物の例は、分化したRPE細胞を移植するのに適した注射液または任意の種類の移植片である。薬学的組成物が注射液である場合、該組成物は、本明細書において記述される分化方法により得ることができる/得られたRPE細胞培養物を含みうる。薬学的組成物が移植に適した移植片である場合、該組成物は、移植可能なマトリックス、好ましくはポリエステルマトリックス、さらにより好ましくはトランスウェル内のポリエステルマトリックスであって、該マトリックス上で増殖されうる本明細書において記述される分化方法により得ることができる/得られた分化したRPE細胞でコーティングされた該マトリックスを含みうる。本文脈において、本明細書において定義されるマトリックス上で増殖されたRPE細胞は、本明細書において記述される分化方法により得ることができる/得られたRPE細胞培養物をいいうる。薬学的組成物は、当業者に公知のように、非経口適用または局所適用のために配合/適合されうる。そのような場合、非経口適用は、ヒトまたは動物の体内での注射、注入または移植を意図した無菌調製物を含みうる。本明細書において使用される局所適用は、好ましくは網膜下適用をいう。薬学的組成物が移植可能なマトリックスに関して上記に定義される移植片をいう場合、該組成物は網膜下(眼の網膜下)適用のために配合/適合されてもよく、換言すれば網膜下に移植されてもよい。本発明は同様に、RPE細胞(培養物)およびマトリゲルを含む研究目的のための診断用組成物を含む。該組成物は同様に、本明細書において定義される方法により分化されたRPE細胞がマトリゲルと混合され、次いで移植片(マトリゲル中の細胞)が対象に移植される、本明細書において定義される対象への移植に適した移植片をいう。診断用組成物がマトリゲルに関して上記に定義される移植片をいう場合、該組成物は皮下適用のために配合/適合されてもよく、換言すれば皮下移植されてもよい。
【0110】
本明細書において記述される分化方法により得ることができる/得られた、同様に網膜色素上皮に含まれる、および/または同様に本明細書の他の箇所において定義される薬学的組成物によって含まれる、RPE細胞培養物は、分化方法により得ることができる/得られた、複数のRPE細胞のことを指してもよく、好ましくは該RPE細胞のための培地を含んでもよい。「集団」という用語は、「培養」という用語と互換的に使用されることもある。RPE細胞培養物に含まれる、本発明の分化方法により得ることができる/得られた分化したRPE細胞を、さらに特徴付けることができる: 分化したRPE細胞は第一に、皮膚iPS由来RPEと比較して、より高い色素沈着領域%を含みうる。視覚的等級付けにより、CLMC23、CLMC30、CLMC44およびCLEC23からなる群より選択されうる、本発明により試験された全4つのCLiPSが、本明細書において定義される分化培地を用いて、同様の色素沈着を達成した皮膚iPS細胞(Asf5、AGOおよび/またはHDFAなどの)のわずか30%と比較して、約30~約100%、約50~約100%、約70~約100%の色素沈着RPE細胞を発達させた(
図13)。さらに、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、BEST1、PMEL17、MITF、TYROSINASE、TRYP2、ZO-1、RPE65、RLBP1もしくはMERTKの少なくともいずれか1つ、または列挙されたタンパク質マーカーの全ての組み合わせを発現しうる(
図15、16および18)。1つの態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーBEST1を発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーPMEL17を発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーMITFを発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーTYROSINASEを発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーTRYP2を発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーZO-1を発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーRPE65を発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーRLBP1を発現しうる。別の態様において、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、タンパク質マーカーMERTKを発現しうる。したがって、CLiPS由来RPE細胞は、本明細書において用いられるH9細胞などのES由来RPE細胞と比較して、より高度に色素沈着している。これは、例えばMITF、PMEL17、TYROSINASEおよびTRYP2などの色素沈着関連遺伝子の高発現と関連している(
図15)。さらに、培養物に追加的に含まれる分化したRPE細胞は、細胞周期増殖マーカーKi67の発現を欠くか、または発現が低減していることにより特徴付けることができる。成熟RPEマーカーRPE65および増殖マーカーとしてのKi67の発現が欠如していることは、本明細書の他の箇所において定義される方法によってCLiPSから分化したそのようなRPE細胞の生存率を反映する成熟および静止状態を裏付けている(
図22)。
【0111】
より詳細には、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、胚性幹細胞(ES) (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約2、少なくとも約2.1、少なくとも約2.2、少なくとも約2.3、少なくとも約2.4、少なくとも約2.5、少なくとも約2.6、少なくとも約2.7、少なくとも約2.8、少なくとも約2.9、少なくとも約3またはそれ以上、好ましくは約3の倍率変化でBEST1を発現することにより特徴付けることができる。追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約0.9、少なくとも約0.91、少なくとも約0.92、少なくとも約0.93、少なくとも約0.94、少なくとも約0.95、少なくとも約1、少なくとも約1.1、少なくとも約1.2、少なくとも約1.3またはそれ以上、好ましくは約1.3の倍率変化でPMEL17を発現することにより特徴付けることができる。したがってCLiPS-RPEは分化後により高いPMEL17陽性細胞%を含む。分化方法において使用されるCLiPS (CLMC23、CLMC30およびCLEC23などの)は、RPE細胞の約89%~約95%の純度を含むことが見出された。対照的に、Asf5、AGOおよび/またはHDFAなどの使用された3つの皮膚iPS細胞のうちの1つだけが、約90%超の純度を有していた(
図14)。追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約4.5、少なくとも約5、少なくとも約5.5、少なくとも約6、少なくとも約6.5、少なくとも約6.6、少なくとも約6.7、少なくとも約6.8またはそれ以上、好ましくは約6.8の倍率変化でMITFを発現することにより特徴付けることができる。追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約2.9、少なくとも約3、少なくとも約3.5、少なくとも約4、少なくとも約4.1、少なくとも約4.2、少なくとも約4.3またはそれ以上、好ましくは約4.3の倍率変化でTRYP2を発現することにより特徴付けることができる。追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約0.6、少なくとも約0.7、少なくとも約0.8、少なくとも約0.9、少なくとも約0.91、少なくとも約0.92、少なくとも約0.93、少なくとも約0.94、少なくとも約0.95、少なくとも約0.96またはそれ以上、好ましくは約0.96の倍率変化でRPE65を発現することにより特徴付けることができる。追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約17.5、少なくとも約18、少なくとも約19、少なくとも約20、少なくとも約21、少なくとも約22、少なくとも約23、少なくとも約24、少なくとも約25、少なくとも約26、少なくとも約26.1、少なくとも約26.2またはそれ以上、好ましくは約26.2の倍率変化でRLBP1を発現することにより特徴付けることができる。追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞または培養物)から分化したRPE細胞と比べて少なくとも約6、少なくとも約6.5、少なくとも約7、少なくとも約7.5、少なくとも約8、少なくとも約8.5、少なくとも約9、少なくとも約9.1またはそれ以上、好ましくは約9.1の倍率変化でMERTKを発現することにより特徴付けることができる(
図20k)。本文脈において、比較のために使用され、RPE細胞も分化したそのようなES細胞は、H9 ES細胞をいいうる。
【0112】
本文脈において、「と比べて」または「に対して」という用語は、「と比較して」という用語に置き換えることもでき、2つの細胞(例えば、試験細胞としてのCLMC23および参照細胞としてのH9)を、例えば参照細胞に対して試験細胞の倍率変化として表される遺伝子発現に関して、互いに比較させる。本明細書において使用される「倍率変化」とは、ある量が初期値から最終値までどれだけ変化するかを記述する尺度である。例えば、初期値30および最終値60は、2倍率変化、または一般的な用語では2倍増加に相当する。倍率変化は、単純に最終値と初期値との比率として計算され、すなわち、初期値が A であり、最終値がBである場合、倍率変化はB/Aである。倍率変化は、本明細書において記述されるマーカーのmRNAレベルに関して得ることができる。そのような倍率変化は、RT-qPCRを用いて測定されうる。
【0113】
また、CLiPS由来RPEはES (細胞もしくは培養物)から分化したRPE細胞と、および/または皮膚iPS (それが作出された細胞もしくは培養物)から分化したRPE細胞と同様の経上皮電気抵抗(略称: TEER)を達成しうることが分かった。また、CLiPS-RPEはES (それが作出された細胞もしくは培養物)から分化したRPE細胞と、および/または皮膚iPS (それが作出された細胞もしくは培養物)から分化したRPE細胞と同様の高い貪食作用を示した(
図17)。
【0114】
追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて増加した酸素消費速度(OCR)および/または細胞外酸性化速度(ECAR)を含むことにより特徴付けることができる。これらの特徴は、解糖および/またはミトコンドリア呼吸の亢進を示すRPEの生体エネルギーをいう。解糖機能はECARにより、酸化的リン酸化(oxPhos)はOCRにより定量化された(
図21)。
【0115】
本文脈において、OCRは基底呼吸、ATP産生、最大容量および/または予備呼吸能を含みうる。OCRに関してこの文脈で「増加した」という用語は、RPE細胞のOCRがESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約30%、少なくとも約31%、少なくとも約32%、少なくとも約33%、少なくとも約34%、少なくとも約35%、好ましくは少なくとも約35%だけ、または約30~約45%だけ、約31~約44%だけ、約32~約43%だけ、約33~約42%だけ、約35~約40%だけ増加することを意味する。より詳細には、(i) RPE細胞の基底呼吸は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約38%だけ増加し; (ii) RPE細胞のATP産生は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約40%だけ増加し; (iii) RPE細胞の最大容量は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約35%だけ増加し; iv) RPE細胞の予備呼吸能は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約36%だけ増加する。
【0116】
さらに、本文脈において、ECARは解糖、解糖能および/または解糖予備能を含みうる。ECARに関してこの文脈で「増加した」という用語は、RPE細胞のECARがESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%だけ、または約20~約55%だけ、約25~約55%だけ、約25~約50%だけ増加することを意味する。より詳細には、(i) RPE細胞の解糖は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約25%だけ増加し; (ii) RPE細胞の解糖能は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約37%だけ増加し; (iii) RPE細胞の解糖予備能は、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて約50%だけ増加する。
【0117】
さらに、追加的または代替的に、本明細書において定義される方法により得ることができる/得られたRPE細胞はさらに、ES (それが作出された細胞もしくは培養物)から分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPS (それが作出された細胞もしくは培養物)から分化したRPE細胞と比べて、以下でさらに詳細に定義されるように、より低い免疫原性を有する/含むことにより特徴付けることができる。本文脈において、また以下に定義されるインビボ法に関して、より低い免疫原性とは、好ましくはRPE細胞のさらなる分析のために、該細胞を含むサンプルが得られた対象に予め送達されているRPE細胞が、(a) (a) 細胞性免疫応答の誘導に関与する炎症促進性サイトカインのレベルの低減、好ましくはIFN-γおよび/もしくはIL-18 (細胞性免疫応答の代用として)のレベルの低減ならびに/またはT細胞活性化に関与するサイトカインIL-23および/もしくはIL17Aのレベルの低減であって、該RPE細胞が以前に予め送達されている該対象により、特に該対象に存在し、かつ該サンプル内にも含まれる免疫細胞により生み出される該サイトカインの低減をいいうる全身性免疫応答の低減を有することをいう。RPE細胞におけるそのような全身性免疫応答の低減は、実施例の項において定義されるように好ましくは注射部位での、免疫細胞の蓄積の減少をいうこともありうる。したがって、全身性免疫応答の低減には、本明細書において定義されるRPE細胞が、ESから分化したRPE細胞と比べておよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞と比べて全身性T細胞活性化の低減、好ましくはCD8細胞傷害性T細胞活性化の低減/抑制を有することが含まれうる。
【0118】
本発明はさらに、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、非ヒト霊長類(サル)またはヒトを含む群より選択されうる対象において網膜変性疾患を処置する方法を含む。好ましい例では、対象はヒトである。本文脈において、処置することは、本明細書において記述される分化方法によりCLiPSから分化したRPE細胞および/もしくは本発明の方法により得られた該RPE細胞培養物ならびに/または本明細書において定義される薬学的組成物を、本明細書において定義される対象に投与することを含みうる。本明細書において定義される方法により得ることができる/得られた分化した細胞/培養物が、網膜変性疾患の特定の処置における投与に適していることは、RPE細胞には、好ましくは本明細書において定義される対象への分化RPE細胞の事前注射の後に、炎症促進性サイトカインのレベルの低減、好ましくは代用としてのIFN-γおよび/またはIL-18のレベルの低減がもたらされ、細胞性免疫応答の低減を有しているなどの、低免疫原性が含まれるという事実によって実証される(
図23)。これは、本発明のRPE細胞が、対象へのRPE細胞注射の局所部位での免疫細胞浸潤を低減しうることを実証する。また、サイトカイン分析の前に分化RPE細胞が予め送達されている対象から得られたサンプルは、ESから分化したRPE細胞が前に予め送達されている参照対象から得られたサンプルと比べて、および/または皮膚iPSから分化したRPE細胞が前に予め送達されている参照対象から得られたサンプルと比べて、T細胞活性化に関与するサイトカインIL-23および/またはIL17Aのレベルの低下を含むことが実証された。まとめると、本明細書において定義されるRPE細胞は、本明細書において定義されるように炎症促進性サイトカインの別の好ましい例としてのIL-23および/またはIL17Aのレベルの低減がもたられることが可能でありうる。また、T細胞の活性化、特にCD8細胞傷害性T細胞の活性化が、本発明のRPE細胞を含む対象からのサンプルにおいて抑制されうる。換言すれば、RPE細胞はT細胞の活性化、特にCD8細胞傷害性T細胞の活性化を抑制しうる(
図24)。処置される変性疾患は当業者に公知の網膜の疾患であり、好ましくは、網膜変性疾患は加齢黄斑変性(AMD)または網膜ジストロフィーである。1つの態様において、本発明は、本明細書において定義される方法により得られたiPS細胞から分化させたRPE細胞を対象に投与する段階を含む、本明細書において定義される対象においてAMDを処置する方法をいう。別の態様において、本発明は、本明細書において定義される方法により得られたiPS細胞から分化させたRPE細胞を対象に投与する段階を含む、本明細書において定義される対象において網膜ジストロフィーを処置する方法をいう。処置方法においてCLiPSから分化させたRPE細胞の投与は、当業者に公知のように非経口または局所(好ましくは網膜下)適用を含みうる。
【0119】
本発明はさらに、対象において本明細書の他の箇所において定義される分化方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞の生存率を検出するインビボの方法であって、以下を含む、該方法を含む:段階(a) 本明細書において定義される方法によりiPS細胞から分化させたRPE細胞を対象に導入する段階であって、該RPE細胞が生物発光標識を含む、段階。
【0120】
本文脈において、「生存率」という用語は、RPE細胞が死滅しておらず、依然として成熟しており、および/または静止状態にあることをいい、これは、本明細書において定義されるように該細胞が対象に導入され、さらに記述されるような時間にわたって検出された後で、成熟RPEマーカーとしてのRPE65の発現を検出することにより、および増殖マーカーとしてのKi67の発現を検出しないことにより確認されうる。生存率のモニタリングを、定義されるインビボの方法に関して本明細書において互換的に使用することもできる。
【0121】
段階(a)における「導入する」または「導入する段階」という用語は、好ましくはRPE細胞を対象に移植することにより、さらにより好ましくは対象としてのマウスおよび本明細書の他の箇所において定義されるマトリゲル・プラグアッセイを用いることに関してRPE細胞を対象に皮下移植することにより、本明細書において定義されるRPE細胞を対象に持ち込むことをいう。インビボの方法にしたがっておよび同様にインビトロのスクリーニング方法にしたがって本明細書において使用される場合の「対象」という用語は、哺乳動物および非哺乳動物の対象を含む。好ましくは、対象は動物である。インビボ法およびインビトロ法の対象は、ヒト、家畜および農場動物、非ヒト霊長類、ならびに乳腺組織を有する任意の他の動物を含めて、哺乳動物をいいうる。いくつかの態様において、哺乳動物はマウスである。いくつかの態様において、哺乳動物はラットである。いくつかの態様において、哺乳動物はモルモットである。いくつかの態様において、哺乳動物はウサギである。いくつかの態様において、哺乳動物はネコである。いくつかの態様において、哺乳動物はイヌである。いくつかの態様において、哺乳動物はサルである。いくつかの態様において、哺乳動物はウマである。好ましい態様において、本発明の方法において使用される対象としての哺乳動物/動物はマウスである。最も好ましい態様において、該方法において使用される対象としての哺乳動物/動物はヒト化マウスである。
【0122】
本発明にしたがって分化され、インビボの方法のなかで本明細書において定義されるように対象に導入されるRPE細胞は、生物発光標識を含む。本文脈において、「標識」という用語は、蛍光標識または生物発光に適した酵素でありうる。標識が蛍光標識である場合、それはフルオロフォア(フルオロクロムまたはクロモフォアとも呼ばれる)であることができる。そのようなフルオロフォアは、限定されることはないが、フルオレセイン(FITC)、アレクサフルオール(Alexa Fluor) 350、405、488、532、546、555、568、594、647、680、700、750、パシフィックブルー(Pacific Blue)、クマリン(Coumarin)、パシフィックグリーン(Pacific Green)、Cy3、テキサスレッド(Texas Red)、PE、PerCP-Cy5、PE-Cy7、パシフィックオレンジ(Pacific Orange)などの蛍光色素、またはR-PEもしくはAPCなどの蛍光タンパク質、またはCFP、EGFP、GFPもしくはRFPなどの発現蛍光タンパク質のいずれか1つでありうる。標識が酵素である場合、それは、好ましくは細菌ルシフェラーゼ(\uxAB)、フォティナス・ルシフェラーゼ(photinus luciferase)、ren/7/aルシフェラーゼ、およびホタル・ルシフェラーゼからなる群より選択される、ルシフェラーゼであることができるが、これらに限定されることはない。好ましい態様において、本発明にしたがって分化され、インビボの方法のなかで本明細書において定義されるように対象に導入されるRPE細胞は、好ましくは本明細書において定義される発現蛍光タンパク質でタグ付けされた、生物発光酵素遺伝子をコードするベクターを含む。最も好ましい態様において、本発明にしたがって分化され、インビボの方法のなかで本明細書において定義されるように対象に導入されるRPE細胞は、好ましくはGFPでタグ付けされた、ルシフェラーゼ酵素遺伝子をコードするベクターを含む。代替的または追加的に、本明細書において定義されるインビボの方法の段階(a)により同様に含まれるのは、本明細書において定義される方法により分化したRPE細胞であって、当業者に公知のようにRPE-マトリゲル・プラグ中に含まれる該RPE細胞の対象への導入である。マトリゲル・プラグ中に含まれるとは、当業者に公知のように、RPE細胞とマトリゲルとの混合物/組成物を意味する。
【0123】
本明細書において定義されるインビボの方法は、段階(b) 撮像法を用いてRPE細胞の生物発光シグナルを経時的に検出し、それによって撮像データを収集する段階をさらに含む。
【0124】
インビボの方法に関して本明細書において使用される場合の用語「検出する段階または検出」(「モニタリング」をいうこともある)は、好ましくは生物発光撮像法を用いて生物発光標識がルシフェラーゼである場合、任意の公知の撮像法を用いたインビボでのRPE細胞の生物発光の可視化および定性分析をいう。RPE細胞の生物発光シグナルの検出は、少なくとも約2日、約7日、約10日、約14日、約17日、約21日、約24日、約28日、約35日、約42日、約49日もしくは少なくとも約56日; または約2~約56日の間もしくは約2~約49日の間をいいうる時間にわたって実施されるインビボの方法の段階(b)によるものである。生物発光の検出は、好ましくは、本明細書において定義される時間経過にわたって一定の間隔でモニターされる。生物発光の検出は、当業者に公知のようにp/s/cm2/srで表される細胞の全発光の検出をいいうる。経時的な生物発光シグナルの検出により、撮像データが収集される。
【0125】
本明細書において定義されるインビボの方法はさらに、段階(c) 段階(b)で受信した撮像データを参照撮像データと比較する段階を含む。本文脈において、参照撮像データは、本明細書において定義されるように経時的に同様に検出された、ES細胞(好ましくはH9細胞)から分化した、および/または皮膚iPS (好ましくはHDFAもしくはASF5)から分化したRPE細胞の生物発光シグナル(「撮像シグナル」)をいう。本文脈において、ES細胞から分化したおよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞も、本明細書において定義されるように、RPE細胞が本明細書において定義されるように予め送達されている対象(例えばマウス)と全く同じ対象ではない対象(例えば異なるマウス)に導入されており、ES細胞から分化したおよび/または皮膚iPSから分化した該RPE細胞も、CLiPS由来RPE細胞について本明細書において定義されるような生物発光標識を含む。
【0126】
本発明は同様に、参照撮像データと比較して撮像データにおける生物発光シグナルの差がないことが、対象におけるRPE細胞の生存を示す、本明細書において定義されるインビボの方法を含む。差がないことは、ES細胞から分化したおよび/または皮膚iPSから分化したRPE細胞の参照撮像データと比較した撮像データにおける経時的な生物発光シグナルのわずかな、しかし有意でない減少も含む。
【0127】
本発明は同様に、本明細書の他の箇所において定義される分化方法により得られた/得ることができるRPE細胞を含んだ動物を含む。本文脈において、「動物」は、本明細書において定義される任意の哺乳動物、好ましくはマウス、最も好ましくはヒト化マウスをいう。RPE細胞を含んだ動物により、本明細書の他の箇所において定義される分化方法により得られた/得ることができるRPE細胞は、本明細書において定義される動物に、好ましくは該RPE細胞を皮下移植することによって導入されることが意味されうる。
【0128】
本明細書において定義される対象へのインビボでの分化方法によりiPS細胞から分化したRPE細胞の導入およびその後の、該対象から得られた該RPE細胞を含むサンプルのインビトロでの分析が、研究開発目的のさまざまなモデルにおけるそのような細胞の分析のために特に想定されうる。
【0129】
したがって、本発明は同様に、分化したRPE細胞が予め送達されている対象において本明細書において定義される方法によりiPS細胞から分化したRPE細胞の免疫原性を判定するインビトロの(スクリーニング)方法であって、以下を含む該方法を含む:段階(a) 本明細書において定義される該対象から得られるサンプルであって、該分化させたRPE細胞を含むサンプルにおいて、撮像法を用いて炎症促進性サイトカインレベルを検出する段階であって、それによって撮像データを収集する、段階。「予め送達されている」とはこの点で、本発明の分化したRPE細胞がインビトロのスクリーニング方法の前に、本明細書において定義される対象に送達されていることを含む。その後、分化したRPE細胞を含むサンプルが対象から得られ、そのサンプルが、例えば特定のサイトカインレベルについて、さらに分析される。「予め導入された」という用語が互換的に使用されることもある。
【0130】
本文脈において、検出する段階は、フローサイトメトリーなどのサイトカインを検出するのに適した任意の公知の撮像法を用いインビトロで本明細書において定義されるサイトカインレベルを可視化および定量分析することをいう。インビトロの方法について本明細書において定義されるように検出されるサイトカインレベルは、限定されることはないが、細胞性免疫に関連するサイトカインのレベルをいい、好ましくは炎症促進性サイトカインIFN-γ、IL-18、IL-23および/またはIL17Aのレベルをいう。本明細書において定義されるサイトカインのレベルは、pg/mlで表されうる。
【0131】
インビトロの方法の段階(a)において、定義された対象から得られるサンプルは、該対象から採取される任意の生物学的サンプル、好ましくは血清サンプルでありうる。
【0132】
インビトロの方法は、該方法内の追加的または代替的な段階として、本明細書において定義される対象から得られたサンプルであって、分化したRPE細胞を含む該サンプルにおける免疫細胞浸潤を検出し、それによって撮像データをさらに収集する段階を含みうる。
【0133】
本方法はさらに、段階(b) 段階(a)において受信された、および/または浸潤に関して検出段階から受信された撮像データを、参照撮像データと比較する段階を含む。かさねて、参照撮像データは、参照細胞としてES細胞から分化したRPE細胞および/もしくは皮膚iPSから分化したRPE細胞が予め送達されている対象からのサンプル内での、本明細書において定義される同じ検出された炎症促進性サイトカインレベルの撮像データをいい、ならびに/または参照細胞としてES細胞から分化したRPE細胞および/もしくは皮膚iPSから分化したRPE細胞が予め送達されている対象からのサンプル内での、浸潤および検出された同じ免疫細胞の撮像データをいう。参照細胞は、RPE細胞を含むサンプルと同じ種類のサンプル(例えば血液サンプルであるが、異なる血液サンプル)中にも含まれうるが、参照サンプルは、RPE細胞を含むサンプルが得られた試験対象と比較して異なる対象(例えば異なるマウス)から得られてもよい。好ましくは、参照撮像データと比較して、撮像データにおけるサイトカインレベルの低下および/または免疫細胞の浸潤/蓄積の低減/低下は、対象におけるRPE細胞の免疫原性の低減を示し、これは、対象において免疫応答を誘発する本発明によるRPE細胞の能力が、ES細胞から分化したRPE細胞および/または皮膚iPSから分化したRPE細胞の免疫原性と比較して低い/低減していることを意味する。
【0134】
本発明は、以下の非限定的な実験実施例によってさらに例示される。
【実施例】
【0135】
実験実施例
実施例1: CLiPSに適したエレクトロポレーションパラメータの開発
Okita et al., 前記に記述されたプロトコルによるエレクトロポレーションは、全く機能しないことが分かった。Okita et al, 前記のプロトコルにしたがって、CLMCの反応混合物にエピソームベクターpCXLE-hOCT3/4-shp53-F、pCXLE-hSKおよびpCXLE-hULをエレクトロポレーションした場合、IPSコロニーは検出されなかった。CLECの場合、Okita et al, 前記のプロトコルにしたがって、エピソームベクターpCXLE-hOCT3/4-shp53-F、pCXLE-hSKおよびpCXLE-hUL (Addgeneプラスミド番号27077 (配列番号:12 -配列番号:11を特に含む)、番号27078 (配列番号:13)、番号27080 (配列番号:14)によるCLMCのエレクトロポレーション後にわずか0.2%の平均再プログラミング効率(IPSコロニー数を単位として表現した)が見出された。したがって、CLMC由来のCLiPS法に適したエレクトロポレーションプロトコルを一から開発するか、CLECの場合には、大幅に改良されたエレクトロポレーションプロトコルを提供する必要があった。この目的のために、エレクトロポレーションを構成する電気パルス数、持続時間および電圧などの電気的パラメータを変化させて、CLSCで使用可能なエレクトロポレーション条件を開発した。この実験では、本明細書で記述されるように、細胞固有の条件下で培養された個々のCLMCおよびCLECサンプルそれぞれに対して、多数の異なるエレクトロポレーション設定を試験した。各エレクトロポレーション後、約200.000個の細胞を培養のために6ウェルプレートに三つ組でプレーティングした。エレクトロポレーションから約21日後、それまでに発生したCLSCコロニーをカウントして、生存率を求めた。生存率は、エレクトロポレーション効率についての結論を導き出すために用いられた。パーセント効率をコロニー数/200,000×100%として計算した。
【0136】
表1および
図2に示される結果から、CLMCおよびCLECのどちらについても、適当なエレクトロポレーション条件を見出せたことが示唆される。本明細書で見出されたCLECの最適なエレクトロポレーション設定は、1×10
6個の細胞数に対して3つのベクター(pCXLE-hOCT3/4-shp53-F、pCXLE-hSKおよびpCXLE-hUL)それぞれの1.67 μg (プラスミド) DNA量を用いて、それぞれ30 msおよび1350 Vの2電気パルスを含む。これらの設定でトランスフェクトした4つの個々のCLEC株(CLEC42、CLEC44、CLEC23およびCLEC30)は、それぞれ4.67%、7.33%、9.33%および7.50%の生存率を示した。Okita et al., 前記と比較して、CLECに用いたエレクトロポレーション設定により、エレクトロポレーション効率がCLEC42の場合には約23.35%およびCLEC44の場合には36.65%増加した。したがって、これらのエレクトロポレーションパラメータ/設定は、ヒト皮膚線維芽細胞のエレクトロポレーションのためにOkitaらが用いた条件と比較して、CLECについて平均で約30%エレクトロポレーション効率を増加させることが、驚くべきことに見出された。注目すべきは、本明細書で用いられるエレクトロポレーション設定は、角膜上皮細胞などの上皮細胞のエレクトロポレーションの成功について報告された条件(30 msおよび1300 Vの1電気パルスと、細胞数(1×10
6個の細胞)に対するプラスミドDNA量(μg)の比率1:1)とはかなり異なる(Png, E. et al. (2011), Journal of Cellular Physiology. United States, 226(3), pp. 693-699を参照のこと)。
【0137】
前述のように、Okita et al., 前記によるエレクトロポレーションでは、CLMCの生存が全く得られなかったため、エレクトロポレーションプロトコルの最適化の効果はCLMCに関してさらに重要である。4つの個々のCLMC株(CLMC42、CLMC44、CLMC23およびCLMC30)が、20 msおよび1600 Vの1電気パルスと、約1×106個のCLMCに対して1.67 μg (プラスミド) DNAの、細胞数に対して各3つのエピソームベクター(pCXLE-hOCT3/4-shp53-F、pCXLE-hSKおよびpCXLE-hUL)のプラスミドDNA量の比率でトランスフェクションに成功することが本明細書で見出された。得られたトランスジェニック細胞は、それぞれ6.17%、7.50%、5.00%および7.33%の生存率を示した。注目すべきは、CLMCからのCLiPSの作製に最適であることが本明細書で分かったエレクトロポレーション/トランスフェクション条件も、これまでに報告されたエレクトロポレーション条件とは異なっている。これに関連して、例えば、ヒト胚性幹細胞(hESC)に由来する間葉幹細胞のエレクトロポレーションの考えられる負の影響を調べた、Sprangers, A. J., Freeman, B. and Ogle, B. M. (2011), pp. 62-66を参照されたい。そうすることで、Sprangersらは、20 msおよび1400 Vの1電気パルスを用いて1×106個の間葉幹細胞に計4 μgの(プラスミド) DNAをトランスフェクトすると、MSCトランスフェクションに最適となることが分かった。したがって、本発明は、それぞれCLECおよびCLMCエレクトロポレーションのための独特かつ効率的なプロトコルを提供する。4つの個々のCLSC株(異なるドナーからの細胞)にわたるトランスフェクション効率のバラツキは、iPS誘導の固有かつ立証された特徴である個別間のバラツキである。ドナーCLSC株およびそれに由来するCLiPSの性別を確認するために、個々のCLSC株から単離されたゲノムDNAに対して遺伝子特異的プライマーを用いPCR増幅を実施して、ともにY染色体上に存在するDYS439およびSRY遺伝子座の有無を確認した。雄性ドナーから得られたことが確認されているaSF4成人皮膚線維芽細胞を陽性対照として用いた。
【0138】
(表1)CLiPSの作製のために最適化されたエレクトロポレーション条件
【0139】
実施例2: 導入遺伝子組み込みおよび無フィーダーヒトiPSの誘導
臍帯ライニング上皮細胞(CLEC)および臍帯ライニング間葉細胞(CLMC)は、CellResearch Corporation Pte Ltd, Singaporeにより単離および供給された。CLECおよびCLMCはそれぞれ、その培地PTT-e3およびPTT-4中で融解および増殖された。健常78歳アジア人男性ドナー由来の成人皮膚線維芽細胞をCellResearch Corporation Pte Ltdから購入し、DMEM/10% FBS中で培養した。
【0140】
培地PTT-4は90% (v/v) CMRL-1066および10% (v/v) FBSからなり、培地PTTe-3は以下の組成を有する:
【0141】
体細胞再プログラミングは、実施例1で確立された条件を用いて実施され、さらにフィーダーに依存しない方法で実施された。対数期培養物をTrypLE Express (ThermoFisher Scientific)での解離によって回収し、72万個の細胞を1.5 ml遠心分離管中でペレット化した。細胞ペレットを120 μLのBuffer R (Neon(商標) Transfection System 100 μL Kit, Thermo Fisher Scientific MPK10096)に再懸濁した。エピソームベクターpCXLE-hOCT3/4-shp53-F、pCXLE-hSKおよびpCXLE-hUL (それぞれAddgeneプラスミド番号27077 (配列番号:12)、番号27078 (配列番号:13)、番号27080 (配列番号:14))の各1.2 μgを含有するカクテルを、細胞に添加し、十分に混合した(各ベクターを1×106個の細胞数に対して1.67 μgの(プラスミド) DNA量で用いた)。細胞懸濁液を100 μLのNeon(登録商標) Tipに負荷し、以下のパラメータでNeonエレクトロポレーションを実施した: 成人皮膚線維芽細胞 - 1,650 V、10 ms、3パルス; CLEC - 1350V、30 ms、2パルス; CLMC - 1600 V、20 ms、1パルス。細胞を直ちに、1 μMヒドロコルチゾン(StemCell Technologies)を含有するCLECまたはCLMC培地6 mlに移し、マトリゲルでコーティングした6ウェルプレートの3ウェルに均等に分配した。2日後、培地をCLECまたはCLMC培地と1 μMヒドロコルチゾンを補充したmTeSR1の1:1に切り替えた。トランスフェクション後4日目に、同じ培地で培地交換を実施した。トランスフェクション後6日目に、培地を完全なmTeSR1に切り替え、以降はヒドロコルチゾンを含めなかった。その後、mTeSR1で2日ごとに培地交換を実施した。iPSコロニーの直径が約1~2 mMに達した時点(20日目以降頃)で、それらを明視野顕微鏡下にて手動でピッキングし、各コロニーをマトリゲルでコーティングした24ウェルプレート(Nunc)の単一ウェルに配置した。各ウェル中の細胞がおよそ50%の集密度に達した時点で、それらをディスパーゼ(StemCell Technologies)で剥離し、マトリゲルでコーティングした6ウェルプレートのウェルに移した。その後、細胞がほぼ集密度に達した時点で、0.5 mM EDTAで解離することにより、細胞を1:3で継代した。新たに継代した細胞は、10 μM ROCK阻害剤Y-27632を含有する培地中で終夜培養した。mTeSR1 に加え、StemMACS(商標) iPS-Brew XF (Miltenyi Biotec)およびTeSR-E8 (StemCell Technologies)などの他の市販のES/iPS培地を用いてiPSの培養を維持した。
【0142】
CLiPSを作製するためのプロトコル:
1. T-75フラスコ中でそれぞれその維持培地PTTe-3およびPTT-4で培養された活発に分裂しているCLECまたはCLMCを、TrypLE Express (ThermoFisher Scientific)を用いた解離によって回収する。
2. 細胞をカウントし、72万個の細胞を微量遠心管に分注してペレット化する。
3. 細胞ペレットを120 μLのBuffer R (Neon(商標) Transfection System 100 μL Kit, Thermo Fisher Scientific MPK10096)に再懸濁する。pCXLE-hUL、pCXLE-hSKおよびpCXLE-hOCT3/4-shp53-Fの各1.2 μgを含有するカクテルを加え、十分に混合する。
4. 細胞懸濁液を100 μLのNeon(登録商標) Tipに負荷する。エレクトロポレーションを、CLECの場合には以下のパラメータ: 1350 V、30 ms、2パルスおよびCLMCの場合には以下のパラメータ: 1600 V、20 ms、1パルスで実施する。
5. 細胞を直ちに、1 μMヒドロコルチゾンを含有するCLECまたはCLMC培地(それぞれPTTe-3およびPTT-4) 4 mlに移し、次にマトリゲルでコーティングした6ウェルプレートの3ウェルに分配する。
6. エレクトロポレーションから2日後、培地をCLECまたはCLMC培地(それぞれPTT-e3およびPTT-4)と1 μMヒドロコルチゾンを補充したmTeSR1の1:1 (v/v)混合物に替える。
7. エレクトロポレーションから4日後、同じ1:1 (v/v)培地混合物で培地交換を実施する。
8. エレクトロポレーションから6日後、培地をmTeSR1のみに替える。以降、ヒドロコルチゾンを含めない。
9. 2日ごとに培地交換を実施する
10. 早ければトランスフェクション後2週間でiPSコロニーが出現し始める可能性がある。iPSコロニーの直径が約0.5 mm~約1 mmに達した時点(20日目以降頃)で、それらを明視野顕微鏡下にて手動でピッキングし、各コロニーをマトリゲルでコーティングした24ウェルプレート(Nunc)の単一ウェルに配置する。
11. コロニーピッキング後、単離したコロニーの培地交換を毎日実施する。
12. 各ウェル中の細胞が培養表面の約50%を占めるようになったら、それらをディスパーゼ(StemCell Technologies)で剥離し、マトリゲルでコーティングした6ウェルプレートのウェルに移す。
13. その後、細胞が約70%~80%の集密度に達した時点で、0.5 mM EDTAを用いた解離により、細胞を1:3で継代する。新たに継代した細胞は、10 μM ROCK阻害剤Y-27632を含有する培地中で終夜培養する。
【0143】
上記のプロトコルに従うと、親細胞とは形態学的に異なるように見える細胞の小さなクラスタが10日目頃から出現し始めた。15日目までに、細胞クラスタは明確なエッジを獲得し(
図3b)、20日目以降には胚性幹細胞様の個別のコロニーが現れた(
図3cおよび
図3d)。コロニーを、直径が1~2 mmに達した時点でピッキングし、特徴付けおよび保存のために拡張した。拡張したCLiPSは、特徴的な大きな核と薄い細胞質を有する成人皮膚線維芽細胞由来iPSまたはヒト胚性幹細胞(ES)のものと区別できない細胞形態を示した(
図3eおよび
図3f)。
【0144】
実施例3: cGMP適合CLiPS (CLMSC-DTHN)の誘導
CLiPSをヒト治療用途に適合する条件の下で生産することができるという概念実証を提供するために、幹細胞の99%がマーカーCD73、CD90およびCD105を発現するが、マーカーCD34、CD45およびHLA-DR)を発現していない間葉幹集団の生産のためにWO2018/067071に記述されているプロトコル、cGMP品質の試薬を可能な限り用いて、CLMSC-DTHNと呼ばれるcGMP等級のCLMC株からiPSを作製した。再プログラミングプロトコルは、実施例2でCLMCについて記述したものと同じプロトコルであるが、エンジェルブレス-ホーム-スワーン(Engelbreth-Holm-Swarm (EHS))マウス肉腫細胞から調製された細胞外マトリックス基質であるマトリゲルを、細胞培養容器をコーティングするための定義済みの動物質不含および異種物不含基質である組換えヒトラミニン-511 E8断片(iMatrix-511 SILK, ReproCELL)と置き換えた。さらに、CLiPSクローンの再プログラミングおよびその後の維持に用いたmTeSR1を、cGMP mTeSR(商標)1 (StemCell Technologies)と置き換えた。
【0145】
本明細書において記述される条件の下で、CLMSC-DTHNをCLMCと同等の動態および効率で再プログラミングした(データは示されていない)。再プログラミングベクターによるトランスフェクション後10日の時点で、コンパクトな形態を有する細胞の小さなクラスタを観察することができる(
図3n)。これらのクラスタは、20日目以降、単離可能なコロニーに成長した。拡張されたコロニーは、ヒト多能性幹細胞の特徴的な細胞形態を呈した(
図3n~q)。
【0146】
CLiPSの増殖および凍結保存
CLiPSの継代培養(この場合も先と同様にiPS細胞の維持に適したmTeSR1またはTeSR-E8などの培地を使用)を、培養物がおよそ90%の集密度に達した時点で実施する。使用済みの培地を、存在する可能性がある明らかに分化した領域とともに吸引除去する。細胞を長時間空気に触れさせないように注意する。培養物を、予熱した(37℃)ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で1回すすぐ。培養容器に合わせ、適切な量の再加温(37℃)した0.5 mM EDTA溶液を培養物に加える-24ウェルディッシュの場合は0.5 ml/ウェル、6ウェルディッシュの場合は1 ml/ウェルまたは6 cmディッシュの場合は2 ml。培養物を37℃のインキュベータに5分間静置し、その後に顕微鏡下で観察する。細胞は丸く見えるが、表面から剥離してはいないはずである。37℃でのインキュベーション持続時間は、CLiPS株によって異なり、約5~10分の範囲でありうる。インキュベーション持続時間は、各株での過去の経験に主に依存する。インキュベーション後、細胞を取り除かないように注意しながら、EDTA溶液を穏やかに吸引除去する。1 mlピペッターを用いて、ROCK阻害剤Y-27632を含有するmTeSR1またはTeSR-E8などの培地を細胞に直接分注して、細胞を取り除く。使用する培地の量は、使用する容器の大きさに依存し、24ウェルディッシュの場合は0.5 ml/ウェル、6ウェルディッシュの場合は1 ml/ウェルまたは6 cmディッシュの場合は2 mlである。大部分の細胞が取り除かれるまで、穏やかなピペッティングを繰り返す。細胞懸濁液を次いで、15 mlファルコンチューブに移す。培養容器を新鮮な培地ですすぎ、すすぎ液をファルコンチューブ内の細胞懸濁液と合わせる。チューブ内の細胞を、新しいマトリゲルコーティング容器にプレーティングするのに適した量に希釈する。分割比は、初期培養の密度と個々のCLiPS株の成長速度に応じて、1:3から1:10の範囲になりうる。
【0147】
凍結保存のために、細胞を、10% v/vの組織培養等級のジメチルスルホキシド(DMSO; 例えばHybri-Max(商標), Sigma-Aldrich)を補充したmTeSR1もしくはTeSR-E8 (または任意の他の適当な培地)に懸濁する。この細胞懸濁液を次に、適切な数のクライオバイアルに分注する。アリコートあたりの細胞密度は、アリコートを融解して培養したときに細胞の集密度が達成される望ましい速度に依存する。クライオバイアルを次に、Mr. Frosty(商標) Freezing Container (Thermo Scientific)またはCoolCell(登録商標) Cell Freezing Containers (BioCision LLC)などの緩速凍結機器に移し、-80℃で終夜静置する。翌日、クライオバイアルを液体窒素貯蔵に移す。CLiPSアリコートを-80℃で24時間以上放置することは推奨されない。mFreSR(商標) (StemCell Technologies)およびCryoStor(登録商標) CS10 (Biolife Solutions)などのいくつかの市販の凍結用培地も、凍結保存のために利用可能であり、製造業者の使用説明書にしたがって使用されうる。
【0148】
実施例4: CLiPS機能性の分析
CLiPSの機能性を、エレクトロポレーション後、コロニーを形成するCLiPSを免疫蛍光染色に供することによって決定した。これにより、多能性胚性幹細胞マーカー(OCT4、SOX2、KLF4、NANOG、SSEA-4、TRA-1-81)の発現を分析した。この目的のために,細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%ホルムアルデヒドで15分間固定し,その後,PBSで5分間3回洗浄した。細胞内または核マーカー(OCT4、SOX2、KLF4、NANOG)の染色の場合、細胞をPBS中の0.1% Triton X-100で10分間透過処理し、FDB (5% FCS/1% NGS/1% BSA)で1時間ブロッキングした。表面マーカー(SSEA-4、TRA-1-81)の染色の場合は、透過処理段階を省略した。細胞を、FDBで適切に希釈した一次抗体とともに4℃で終夜インキュベートし、続いて適切な蛍光色素を結合した二次抗体とともに室温で2時間のインキュベーションを行った。染色したサンプルを、DAPI入りProLong Diamond Antifade Mountant (ThermoFisher Scientific)にマウントした。
【0149】
さらに、個々のCLiPS株内の染色体の数および構造を、核型分析およびGバンディング分析を実施することによって評価したが、ここでGバンディング分析は、Cytogenetics Laboratory, KK Women’s and Children’s Hospital Pte. Ltd., Singaporeによって実施された。
【0150】
加えて、初代親細胞、ベクタートランスフェクション11日後の親細胞(D11トランスフェクト細胞)およびCLiPSにおける再プログラミングおよび多能性遺伝子の発現を分析するために、RT-PCR分析を実施した。この目的のために、RNeasy MiniまたはPlus Miniキット(Qiagen)を用いて細胞ペレットから全RNAを単離した。2 μgの全RNAをDNase Iで処理し、RevertAid H Minus First Strand cDNA Synthesis Kit (Fermentas, Thermo Fisher Scientific)によるcDNA合成に用いた。PCR反応を以下のように設定した: 0.5 μl cDNA、5 μl 2×MyTaq HS Mix (Bioline)、0.2 μlフォワードプライマー(10 μM)、0.2 μlリバースプライマー(10 μM)、4.2 μl PCR水。サーマルサイクリングは、MJ Mini Thermal Cycler (Bio-Rad)において以下の条件で実施した: 1×95℃ 1分、30×(95℃ 15秒、Tm 15秒、72℃ 15秒)、72℃ 1分。使用したプライマー配列およびアニーリング温度(Tm)を下記表2に示す。
【0151】
定性的な発現分析をアガロースゲル分析によって実施し、ここでサンプルを、1×TAE緩衝液中SYBR Safe DNA染色液(Thermo Fisher Scientific)を組み入れた2%のアガロースゲルに負荷し、80 Vで30分間電気泳動した。ChemiDoc Imaging System (Bio-Rad)を用いて、ゲル画像を捕捉した。
【0152】
【0153】
結果から、CLiPSは抗体染色によって実証されるように、ヒト胚性幹細胞(hES)マーカーKLF4、NANOG、OCT4、SOX2、SSEA4およびTRA-1-60の頑強な発現を示したことが明らかである(
図3g~l)。Gバンディング分析により、CLiPSはコロニーピッキングから17継代まで正常な核型を維持していることが示された(
図3m)。親細胞、トランスフェクト後11日目の細胞および拡張されたiPSクローンにおける遺伝子発現のRT-PCR分析により、内因性OCT4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYC遺伝子の活性化が、完全に再プライミングされたCLiPSにおける多能性維持のためのこれらの遺伝子のベクター駆動発現の役割に取って代わっていることが明らかになった(
図3v)。体細胞再プライミングに重要な遺伝子である内因性NANOG遺伝子座の誘導は、トランスフェクション後11日目に明らかになった。CLiPSクローンにおいて検出可能なレベルのEBNA-1転写物がないことは、プラスミドベクターがこれらの細胞から消失したことを示唆している。CLiPSにおけるさらなるhES特異的遺伝子GDF3、DPPA5、DNMT3、FGF4およびREX-1の発現は、そのhES様分子表現型をさらに確認するものである。自己再生の調節および多能性の維持に不可欠なテロメラーゼの触媒逆転写酵素サブユニットをコードするTERTは、H1 hESと同レベルでCLiPSにおいて発現している。
【0154】
実施例5: CLiPS-DTHNにおける多能性胚性幹細胞マーカーの発現分析
多能性を示す多能性胚性幹細胞マーカー(Oct4、Sox2、Klf4、Nanog)の発現を分析するために、エレクトロポレーション後に発育中のCLMSC-DTHNを免疫蛍光染色に供した。免疫蛍光染色プロトコルは、実施例4でCLiPSについて記述したのと同じプロトコルであった。
【0155】
結果から、CLMSC-DTHNは、対応するその非GMPと区別できないレベルで多能性幹細胞マーカーNANOG、OCT4、SOX2およびTRA-1-81を発現することが明らかである(
図3r~u)。このように、CLMSC-DTHNは、非GMP由来のCLiPSが伴っているのと同じ胚特性を提供しうる。
【0156】
実施例6: CLiPS多能性の決定
CLiPSおよびaSF-iPSの多能性を、NOD-SCIDマウスでの奇形腫形成アッセイにより評価した。この目的のために、1×106個のCLiPS細胞をペレット化し、0.1 mlの氷冷マトリゲルに再懸濁し、6~8週齢NOD/MrkBomTac-Prkdcscid マウスの脇腹背部に注射した。マウスを3ヶ月後に殺処理し、奇形腫を組織学的分析のために採取し、ここでパラフィンワックス切片作製およびヘマトキシリン・エオシン染色を、標準的な技法を用いて実施した。
【0157】
結果から、iPSをマウスの脇腹背部に皮下注射した1ヶ月後から、一部のマウスで触知可能な腫瘍が発生したことが明らかである。注入後3ヶ月で単離された奇形腫の組織学的分析により、CLiPSは内胚葉系、中胚葉系および外胚葉系の組織に自発的に分化することが明らかになった(
図4a~f)。
【0158】
実施例7: CLiPSのドーパミン作動性ニューロンへの分化
CLiPSの潜在的な将来の治療応用の重要な前提条件として、定義されたインビトロ条件下で特定の組織型に分化するその能力を実証する必要がある。ドーパミン作動性ニューロンの分化の場合、Kriks, S., et al, Nature, 2011. 480(7378): p. 547-51に記述されている中脳底板誘導プロトコルを、iPSのドーパミン作動性神経前駆体およびニューロンへの分化に用いた。簡単に説明すると、iPSをマトリゲル(Corning)でコーティングされたディッシュに1 cm2あたり3.5~4.0×104個の細胞の密度でプレーティングし、Knock-Out DMEM、15%ノックアウト血清代替品、1× GlutaMAXおよび10 mM β-メルカプトエタノールを含有するノックアウト血清代替培地(KSR)中で5日間培養した。5日目から、Tomishima 「Midbrain dopamine neurons from hESCs.」 2012 Jun 10. In: StemBook. Cambridge (MA): Harvard Stem Cell Institute; 2008-に記述されているようにKSR培地をN2培地に段階的に移行させた。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK133274/ doi: 10.3824/stembook.1.70.1から入手可能。11日目に、培地を、Neurobasal培地、2% B27マイナスビタミンAおよび1× GlutaMAXから構成されるNB27培地に替え、CHIR (13日目まで)、BDNF (脳由来神経栄養因子, 20 ng/ml; Miltenyi)、アスコルビン酸(0.2 mM, Sigma)、GDNF (グリア細胞株由来神経栄養因子, 20 ng/ml; Miltenyi)、TGFβ3(形質転換成長因子β3型, 1 ng/ml; R&D)、ジブチリルcAMP (0.5mM; Santa Cruz Biotechnology)およびDAPT (10 nM; Tocris,)を9日間補充した。20日目に、細胞を、アキュターゼ(Gibco)を用いて解離させ、10 μM ROCK阻害剤Y-27632を補充したNB27培地中のポリ-L-オルニチン(PLO; 15 mg/ml)/ラミニン(1 μg/ml)/フィブロネクチン(2 μg/ml)でプレコーティングしたディッシュ上に高細胞密度(1 cm2あたり3~4×105個の細胞)で再プレーティングした。培養物は、所望の終点まで1日おきに培地交換を行いながらNB27培地中で維持した。分化した細胞を、この段階で細胞特異的マーカーの発現について分析した。この目的のために、切片を含むスライドを37℃で30分間のインキュベーションによって脱水し、室温に冷却し、TBSTで3回洗浄する、凍結切片作製を実施した。切片の透過処理、ブロッキング、抗体染色およびマウンティングは、実施例4に記述されているように実施した。同じ宿主種からの一次抗体を使用し、フルオロクロムコンジュゲート一価抗体(Jackson ImmunoResearch)を使用して、第2の一次抗体およびコンジュゲートされた二次抗体との順次インキュベーションの前に第1の一次抗体を飽和させた。
【0159】
結果から、このプロトコルを用いてCLiPSおよびasF5-iPSからドーパミン作動性ニューロンが得られたことが明らかである。抗体染色により、ほぼ90%の細胞が底板マーカーFOXA2および蓋板マーカーLMX1A (
図4k、k'、k'')、つまり中脳DAニューロン前駆体の決定的な特徴を共発現していることが明らかになった。さらなる分化により、TUJ1染色で示されるように豊富な成熟ニューロンが得られ、そのうちおよそ30~50%がドーパミン作動性マーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)を共発現していた(
図4l、l'、l'')。分化45日目のCLiPS由来ニューロンの電気生理学的分析により、細胞は成熟した機能特性を示し、過分極電流の注入により、活動電位のトレインは成熟した中脳DAニューロン特有の電圧サグ応答を示すことが実証された(
図4m)。
【0160】
実施例8: CLiPSの肝細胞への分化
CLiPSの潜在的な将来の治療応用の重要な前提条件として、定義されたインビトロ条件下で所望の標的細胞型、または特定の組織型に分化するその能力を実証する必要がある。肝分化の場合、マウスフィーダー層上でのヒト胚細胞(ES)の分化のためにもともと開発されたプロトコル(Medine, C.N., et al., J Vis Exp, 2011(56): p. e2969)を、マトリゲル上のmTeSR1でのCLiPSおよびasF-iPS分化に適合させた。修正点は、iPS培養物が20~30%の集密度に達した時点で、DMSOを2%に補充し、24時間インキュベートしたことである。培養物がおよそ30%~60%の集密度に達した時点で、mTeSR1をプライミング培地(100 ng/mLのアクチビンAおよび50 ng/mLのWnt3aを補充したRPMI 1640-B27)に置き換えることにより、最終的な内胚葉形成を誘導した。培養物はプライミング培地中で3日間維持し、24時間ごとに培地を交換した。プライミング培地中で72時間後、培地をSR-DMSO (80% KO-DMEM、20% KO-SR、0.5% L-グルタミン、1%非必須アミノ酸、0.1 mM β-メルカプトエタノールおよび1% DMSO)に5日間切り替え、48時間ごとに培地を交換した)。8日目に、培養物を、10 ng/mL hHGFおよび20 ng/mL OSMを補充したL-15成熟維持培地(Leibovitz L-15培地、8.3%トリプトースリン酸ブロス、8.3% 熱不活性化FBS、10 μMヒドロコルチゾン21-ヘミスクシネート、1 μMインスリン(ウシ膵臓)、1% L-グルタミン、0.2%アスコルビン酸)に9日間切り替えた(48時間ごとに培地を交換した)。分化した細胞を再度、この段階で細胞特異的マーカーの発現について分析した。この目的のために、凍結切片作製を実施例7に記述されるように実施した。
【0161】
結果から、このプロトコルを用いてCLiPSおよびasF5-iPSから肝細胞様細胞が得られたことが明らかである。抗体染色により、分化17日後に肝細胞マーカーα-フェトプロテイン(AFP;
図4g、g'、g'')、サイトケラチン18 (CK18)およびヒト血清アルブミン(HSA;
図4h、h'、h'')の発現が明らかになった。分化した細胞の大部分は、肝細胞に特徴的な多角形の形状を呈していた。さらに、オイルレッドO (Oil Red O)による染色により、培養肝細胞の特徴である細胞内の豊富な脂質滴の蓄積が示された(
図4i、i'、i'')。
【0162】
実施例9: CLiPSの心筋細胞への分化
CLiPSの潜在的な将来の治療応用の重要な前提条件として、定義されたインビトロ条件下で特定の組織型に分化するその能力を実証する必要がある。心筋細胞分化の場合、iPSの心筋細胞分化のプロトコルは、Lian, X., et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 2012. 109(27), p. E1848-57に記述されているプロトコルから適合された。mTeSR1中のマトリゲル上で維持したiPSを、StemProアキュターゼ(Thermo Fisher Scientific)を用いて5分間37℃で単細胞に解離し、その後、マトリゲルでコーティングした細胞培養ディッシュ上に、5 μM ROCK阻害剤(Y-27632; Stemgent)を補充したmTeSR1中1×105~2×105個の細胞/cm2 (24ウェルあたり5×105個の細胞)で24時間播種した。修正点として、細胞がおよそ80%の集密度に達した時点で、2% DMSOを補充したmTeSR1に培地を切り替えた。細胞が集密度に達した時点で、それらをRPMI/B27-インスリン中のCHIR99021で24時間処理した。別の修正点として、この段階でCHIR99021の濃度を当初の12 μMから5 μMに引き下げた。翌日、培地を、インスリンを含まないRPMI/2%B27に替えた。2日後、古い培地の半分を、10 μM IWP2 (Tocris)を含む等量の新鮮な培地と合わせた。ウェル内の残りの培地を捨て、その混合物を培養物に加えた。2日後、培地を、インスリンのみを含まないRPMI/2%B27に切り替えた。48時間後、所望のエンドポイントまで3日ごとに培地を交換しながらRPMI/2%B27培地中で培養物を維持した。実施例7に記述されているように、拍動している心筋細胞を固定し、細胞特異的マーカーについて染色した。
【0163】
結果から、このプロトコルを用いてCLiPSおよびasF5-iPSから心筋細胞が得られたことが明らかである。抗体染色により、自発的に収縮する心筋細胞の発現が分化8日目から観察されることが明らかになった。機能的心筋マーカーであるミオシン調節性軽鎖2a (MLC2a)、心筋トロポニンI (cTnI)およびα-アクチニン(αACT)に対する免疫蛍光抗体染色により、分化した心筋細胞内のサルコメア構造が明らかになった(
図4j、j'、j'')。その間で分化効率の顕著な差は観察されなかった。
【0164】
実施例10: CLiPSのオリゴデンドロサイトへの分化
本発明の人工多能性幹細胞が所与の標的細胞型に分化する能力をさらに実証するために、CLiPSをオリゴデンドロサイトに分化させた。CLiPSおよびasF-iPSのオリゴデンドロサイト分化は、Douvaras, P. and V. Fossati, Nat Protoc, 2015. 10(8): p. 1143-54のプロトコルにしたがって実施された。さらに、細胞特異的マーカーの発現を分析するために、実施例7において記述されるように凍結切片作製を実施した。
【0165】
分化の75日目に、Olig2陽性のオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC;
図4n)のクラスタ、またはO4陽性の後期OPCが得られた(
図4o)。
【0166】
実施例11: 免疫原性分析
CLiPSおよびその神経誘導体の免疫原性に関する洞察を得るために、これらの細胞による免疫原性関連マーカーのパネルの発現をフローサイトメトリー分析によって評価した。この目的のために、初代細胞および25日目の分化DA NPCをTrypLE Expressでの解離によって回収し、一方でiPS培養物を0.5 mM EDTAでの解離によって回収した。細胞を、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する1×Ca2+不含およびMg2+不含DPBSに500万個の細胞/mlになるように再懸濁させた。100 μlの細胞を暗所中30分間、氷上で適切なコンジュゲート抗体またはそのアイソタイプ対照で染色した。HLA-EおよびHLA-G染色の場合、染色前にBD Phosflow Perm/Wash Buffer I (BD Biosciences)を用いて細胞を製造業者の使用説明書にしたがって透過処理した。染色後、細胞を1×Ca2+不含およびMg2+不含DPBS/5 mM EDTA中で2回洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで暗所中1時間固定し、その後1×Ca2+不含およびMg2+不含DPBS/5 mM EDTA中で2回洗浄した。細胞を0.5 mlの1×Ca2+不含およびMg2+不含DPBS/5 mM EDTAに再懸濁し、フローサイトメーターで分析した。染色した初代細胞およびiPSをFACSCaliburで分析し、一方で染色したドーパミン作動性神経前駆細胞(NPC)をFACSCanto II装置(どちらもBD Biosciences製)で分析した。FlowJoソフトウェアパッケージ(FlowJo LLC)を用いてデータを分析した。使用した抗体を表3に記載する。
【0167】
【0168】
MHCクラスI HLA-A、HLA-BおよびHLA-CならびにMHCクラスII HLA-DR分子は、同種免疫応答に重要であることが知られている。結果から、HLA-ABCは全iPSサンプルにわたって発現しているが、EC23-CLiPSでは著しく低減したレベルが観察されることが明らかである(
図6a)。HLA-DRの発現は、全てのiPSサンプルに存在せず(
図6b)、iPSにおけるHLA-IIの発現が無視できるという以前の報告と一致した(Saljo, K., et al., Sci Rep, 2017. 7(1): p. 13072 and Chen, H.F., et al., Cell Transplant, 2015. 24(5): p. 845-64.)。T細胞共刺激分子CD40、CD80およびCD86は、同種免疫応答中のT細胞の活性化に重要な役割を担っている。調べた3つの分子のうち、CD40のみがiPS上で発現され、他と比較してasF-iPSにより最も低いレベルで、MC23-CLiPSにより最も高いレベルで発現された(
図6a)。寛容原性HLA-EおよびHLA-GがCLMC (Deuse, T., et al., Cell Transplant, 2011. 20(5): p. 655-67)およびCLEC (Zhou, Y., et al., Cell Transplant, 2011. 20(11-12): p. 1827-41)で発現されることが報告されているため、CLiPSによるこれらの抗原の発現も調べた。透過処理した細胞の分析により、MC23-CLiPSおよびEC44-CLiPSではHLA-Eの発現がごくわずかであり、他のサンプルでは検出可能なレベルに満たないことが明らかになった。次に、25日目のDA分化培養におけるマーカーの全パネルの発現プロファイリングを繰り返した。分析は、NCAMの陽性染色でゲーティングされた神経細胞集団に対して実施された。NCAM+画分は全てのサンプルで97%を超え、asF-iPSおよびEC23-CLiPSは99.5%の同等の分化効率を示した(
図6b)。HLA-ABCは全てのNPCサンプルにより発現されたが、その親iPSと比較して一般的に低いレベルであった(
図6c)。EC23-CLiPS由来のNPCは、その親iPSが示した傾向を反映し、サンプルの中で最も低いレベルのHLA-ABCを発現した。MC23-CLiPSのHLA-ABC発現レベルは、NPCへのその分化によって低減された。CD40の発現は全てのNPCサンプルにわたり下方制御され、EC23-iPS由来およびEC44-iPS由来のNPCのみがわずかな発現を示した。HLA-Eの発現は全てのNPCサンプルで見られなかったが、asF-iPS由来およびEC23-iPS由来のNPCではHLA-Gのわずかな上方制御が観察された。これらの結果は、CLiPSの免疫原性の低減を示している。
【0169】
実施例12: パーキンソン病の完全免疫適格マウスモデルにおけるCLiPS由来ドーパミン作動性ニューロンの移植
これまでの研究により、ヒト胚性幹細胞およびiPSからさまざまなプロトコルを用いて作製されたドーパミン作動性ニューロンが、パーキンソン病(PD)のげっ歯類(Kriks, S., et al, Nature, 2011. 480(7378): p. 547-51; Hargus, G., et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 2010. 107(36): p. 15921-6; Doi, D., et al., Stem Cell Reports, 2014. 2(3): p. 337-50; Grealish, S., et al., Cell Stem Cell, 2014. 15(5): p. 653-65; Kirkeby, A., et al., Cell Rep, 2012. 1(6): p. 703-14; Qiu, L., et al., Stem Cells Transl Med, 2017. 6(9): p. 1803-1814; Rhee, Y.H., et al., J Clin Invest, 2011. 121(6): p. 2326-35; Samata, B., et al., Nat Commun, 2016. 7: p. 13097; Wakeman, D.R., et al., Stem Cell Reports, 2017. 9(1): p. 149-161)および非ヒト霊長類(Kriks, S., et al, Nature, 2011. 480(7378): p. 547-51; Hargus, G., et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 2010. 107(36): p. 15921-6; Wakeman, D.R., et al., Stem Cell Reports, 2017. 9(1): p. 149-161; Daadi, M.M., et al., PLoS One, 2012. 7(7): p. e41120; Kikuchi, T., et al., Nature, 2017. 548(7669): p. 592-596)モデルで生着できることが示されている。これら全ての研究では、移植片の拒絶反応を防ぐために、動物は免疫不全にされるか、または薬理学的に免疫抑制されるかのいずれかであった。免疫不全動物または免疫抑制動物の必要性は、移植が自家の(Morizane, A., et al., Stem Cell Reports, 2013. 1(4): p. 283-92; 4. Hallett, P.J., et al., Cell Stem Cell, 2015. 16(3): p. 269-74; Wang, S., et al., Cell Discov, 2015. 1: p. 15012; Emborg, M.E., et al Cell Rep, 2013. 3(3): p. 646-50; Sundberg, M., et al., Stem Cells, 2013. 31(8): p. 1548-62)またはMHC適合した同種異系の(Morizane, A., et al., 2017. 8(1): p. 385) iPS由来細胞を用いて実施された場合に不要とされるのみであった。
【0170】
本発明の方法を用いて分化させたCLiPS由来DA NPCの生着性を実証するために、asF-iPS、EC23-CLiPSおよびMC23-CLiPSから分化させた移植25日目のNPCを免疫不全NOD-SCIDマウス(n=3)に移植した。これに関連して、全ての動物実験は、シンガポール国立神経科学研究所(NNI)の施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認されたプロトコルにしたがって行われたことに留意されたい。
【0171】
CLiPS由来DA NPCの免疫原性を試験するためには、PDモデルで移植を実施する必要がある。この目的のために、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)片側病変マウスモデルを作製した。片側6-OHDA病変は、げっ歯類に対して確立された方法であり、げっ歯類の脳に 6-OHDA を注射することで、角度による回転非対称性によって特徴付けられる運動機能障害を引き起こすことからなる(Bagga, V., Dunnett, S. B. and Fricker, R. A. (2015) Behavioural Brain Research. Elsevier B.V., 288, pp. 107-117)。本発明では、InVivos Pte Ltdから購入され、Animal Research Facility, NNIにおいてSPF条件下で維持されたNOD/MrkBomTac-Prkdcscidマウス(4週齢)およびInVivos Pte Ltd.から購入された雄性C57BL/6NTacマウス(6~8週齢)において6-OHDA病変を誘発し、ここでこの実験に用いたマウスは完全に免疫適格であり、移植の前後に免疫抑制は施されなかった。
【0172】
マウスPDモデルを作製するため、7.5 μgの6-OHDA (Sigma, Merck-Millipore; 0.2%のアスコルビン酸を含有する0.9% NaCl中に2.5 mg/mlで溶解した)を次の座標で定位注射により左線条体に送達した: 前-後(AP) +0.5 mm; 内側-外側(ML) ブレグマから-1.8 mm: 背-腹(DV) 頭蓋から-3.0 mm。2週間の馴化後、3つのNPCサンプル(すなわち、asF-iPS、EC23-CLiPSおよびMC23-CLiPSに由来するNPC)を免疫適格の6-OHDA病変C57BL/6マウスの線条体に定位注射により移植し、損傷に成功したと考えられるマウスモデルに対して実施した。
【0173】
移植に適したモデルを決定するため、アポモルフィン誘発性回転をスコア化し、1分間に6回転を超えるマウスを移植に用いた。移植のために、25日目のドーパミン作動性前駆細胞を解離によって採取し、10 ng/mLのBDNF、10 ng/mLのGDNFを補充したHBSS中でおよそ1.25×105個の細胞/μlに再懸濁した。2 μLの細胞懸濁液を以下の座標で病変マウスに注射した: 頭蓋骨からAP +0.5 mm; ML -2.0 mm、およびDV -2.8 mm。移植されたNPCが病変動物の機能的利益を統合および媒介できるかどうかを評価するために、回転非対称性試験を2週間間隔で実施した。0.1% w/vアスコルビン酸を含有する0.9% NaClに溶解した0.05 mg/kgのアポモルフィンをマウスに腹腔内注射して、回転アッセイを2週間ごとに9ヶ月まで実施した。回転はデジタルカメラを用いて記録し、手動でカウントした。動物のバッチは、移植後1ヶ月、6ヶ月および9ヶ月の時点で終末麻酔により殺処理された。
【0174】
移植から6ヶ月後に、NPC移植マウス、偽注射マウスおよび非操作マウスを、放射性リガンド(2-[18F]フルオロエチル8-[(2E)-3-ヨードプロプ-2-エン-1-イル]-3-(4-メチルフェニル)-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-2-カルボキシレート) ([18F]FE-PE2I)を用いて陽電子放射断層撮影(PET)法により線条体のドーパミン輸送体(DAT)活性について評価した。動物は撮影セッションの前に3時間絶食させた。動物は撮影ベッドからの温風チャネルを統合して、スキャン中に保温された。十分な麻酔レベルを確保するために、スキャンセッション全体を通して呼吸数および温度をモニターした。SingHealth Experimental Medicine Centre (SEMC)でナノスキャン(nanoScan) PET/MRIスキャナ(Mediso Ltd., Hungary)を用いてマウスを撮像した。このスキャナは、軸方向視野(FOV) 94 mmならびに経軸方向FOV 94 mmまたは120 mm径で、それぞれ1:3および1:5の同時性モードを有する12個の検出器モジュールを備えている。3.57~10.61 MBqの[18F]FE-PE2Iを尾静脈から最大量0.1 mlで静脈内注射した後、動物を横臥位で頭位とし、62分間、継続時間が増すフレーム、すなわち10秒で4フレーム、20秒で4フレーム、1分で3フレーム、3分で7フレームおよび6分で6フレーム)で3DダイナミックPETスキャンを実施した。[18F]PE-PE2IはSingapore Radiopharmaceuticals Pte Ltdで合成された。MRI画像は、PETスキャンの減衰補正のために、およびデータ分析におけるPET画像の構造参照として用いられた。このようにして、T1強調MRI画像は、ナノスキャンPET/MRIスキャナのMRIコンポーネントを用いて取得された。統合されたマウスヘッドコイルは、MRIスキャン中に脳全体をカバーする。3D GRE EXTシーケンス: 64 mm角のFOV、128×128のマトリックス、20 msの繰り返し時間(TR)、2.3 msのエコー時間(TE)、25度のフリップ角を用いて0.6 mmのスライスを得た。[18F]FE-PE2I PET画像の画像分析および動態分析は全てPMOD (バージョン3.5; PMOD Technologies)を用いて実施された。全てのPET画像は、最初にPMODのFUSIONツールを用いてMRI画像に自動的に登録された。MRI画像をその後、20領域を有する関心体積(VOI)テンプレートを含む、T2強調マウステンプレート(M.Mirrione, C57BL/6J mice; Ma, Y., et al., Neuroscience, 2005. 135(4): p. 1203-15; Mirrione, M.M., et al., Neuroimage, 2007. 38(1): p. 34-42)に手動で登録した。手動登録の精度は、2人の異なる人物によってアクセスされ検証された。最後に、PET画像をMRIマウステンプレートに変換するために、結合変換行列を適用した。分析には、左右の線条体と小脳のVOIを用いた。誤登録および誤定義による誤差を低減するために(He, B. and E.C. Frey, Phys Med Biol, 2010. 55(12): p. 3535-44)、得られたVOIに対して1ボクセルの3Dエロージョンを適用した。[18F]FE-PE2I結合は、動脈入力関数を用い動態分析と比較して同等の精度が得られるため、非侵襲的な参照組織モデルを用いて定量化された(Varrone, A., et al., Nucl Med Biol, 2012. 39(2): p. 295-303)。結合電位(BPnd)値は、参照として小脳を使い簡易参照組織モデル(SRTM) (Lammertsma, A.A. and S.P. Hume, 1996. 4(3 Pt 1): p. 153-8)を用いて計算された。また、線条体および小脳のVOIから局所時間活動曲線(TAC)を抽出した。麻酔は100% O2中5%のイソフルランで誘導し、撮影中は1.5~2%のイソフルランで維持した。
【0175】
マウスの脳切片は、これらの細胞がCNSにおける同種移植片および異種移植片拒絶反応において重要な役割を果たすことが知られているため、ミクログリア/マクロファージの存在について分析した(Hoornaert, C.J., et al., Stem Cells Transl Med, 2017. 6(5): p. 1434-1441)。この目的のために、4% PFAで経心灌流した後、ミクログリア/マクロファージ特異的マーカーIba1の免疫染色を実施した。この目的のために、PFA灌流した脳を4% PFA中で終夜固定し、その後PBS中15%および30% w/vのスクロース溶液中でチューブの底に沈むまで平衡化を行った。脳をOCT凍結用培地に包埋し、CM3050 S cryostat (Leica Biosystems)で18 μmの切片を切り出し、BOND Plus Slides (Leica Microsystems)に回収した。
【0176】
結果から、移植1ヶ月後には3群全てにhNCAM+/TH+ニューロンが存在することが明らかになり(
図7a~c)、NPCが成熟ニューロンへ分化し、宿主環境中で生存できることが示唆された。しかしながら、asF-iPS (
図7h)またはMC23-iPS (データは示されていない)群では、生着の兆候は見られなかった。hNCAM/TH+線維は、EC23-CLiPS群の移植コア内のニューロンから脳梁の軸索路に沿って伸びていることが見られうる(
図7dおよび
図7e)。ミクログリア/マクロファージ特異的マーカーIba1の免疫染色により、非注射半球と比較して注射半球にミクログリア/マクロファージが豊富に存在していることが明らかにされた(
図7iおよび
図7j)。移植片のコアに浸潤したミクログリア/マクロファージは、静止細胞に典型的な分枝した形態を示した移植片の周辺にあるものと比較して、活性化されたミクログリアに特徴的なアメーバ状の形態を呈した。さらに、浸潤したミクログリアは、活性化されたミクログリアのマーカーであるCD68について陽性に染色された。移植後1ヶ月の時点で、asF5-iPSおよびMC23-CLiPS NPC移植脳の注射部位にミクログリアの蓄積は観察されなかった。これは、異種移植片のクリアランス後にミクログリアが分散して静止状態に戻ったためと推定される。ヒトTH+ニューロンは、ヒト核抗原(HuNu)およびヒトNCAM染色によって確認されるように、EC23-CLiPS NPCを移植された一部の動物において9ヶ月まで生存した(
図8a~f)。回転非対称性試験により、ドーパミンアゴニストであるアポモルフィンに曝露すると、ドーパミン枯渇の結果として損傷した線条体上のシナプス後D2ドーパミン受容体の過敏症により、損傷した動物が反対方向の回転を示すことが明らかにされた。施行された介入の有効性は、この回転非対称性の改善として現れるであろう。EC23-CLiPS NPCを移植した動物のみが、asF-iPS NPCまたは偽移植動物とは対照的に、両種の回転行動の改善を示した(
図8h)。これらのマウスでは、回転の低減は移植後20週目から有意(p<0.05)に達し、20週目と22週目でそれぞれ18.2 ± 24.7%および11.1 ± 20.8%に減少した。このモデルは回復の潜伏期間を示し、移植後の悪化が最初に観察された。これは、定位注射に起因する炎症反応と、NPCが成熟し、宿主組織と統合し、神経支配するのに必要な時間による可能性が高い。EC23-CLiPS NPC移植動物におけるパーキンソン病の運動症状の機能的改善は、移植された線条体におけるドーパミン作動性機能の機能的回復を示唆するものである。これをさらに調べるために、本発明者らは、移植されたマウスにおいてドーパミン輸送体(DAT)リガンド[18F]FE-PE2Iを用いたPET撮像を実施した(Bang, J.I., et al., Nucl Med Biol, 2016. 43(2): p. 158-64; Sasaki, T., et al.,. J Nucl Med, 2012. 53(7): p. 1065-73)。DATは、シナプスで放出されたドーパミンの再取り込みを主に担うシナプス前膜貫通タンパク質であり、DATの分子撮像は、ドーパミン作動性機能を研究するための確立されたツールである。移植後6ヶ月のPET撮像では、移植された損傷半球のDAT活性が、EC23-iPS NPC移植マウスの非損傷半球の活性の約71.4 ± 10.3% (n=3)に回復したことが示された(
図8i)。対照的に、asF-iPS-NPC移植マウスでは、回復は16.4 ± 4.0%でしかなかった。これらの結果は、EC23-iPS NPC移植マウスにおけるドーパミン再取り込み機能の有意な回復を明確に示している。
【0177】
実施例13: パーキンソン病の完全免疫適格げっ歯類ラットモデルにおけるCLiPS由来ドーパミン作動性ニューロンの移植
本発明者らの移植結果は、C56BL/6マウスの線条体に移植した場合、EC23-CLiPS由来のNPCが耐容されることを示している。この現象の種特異的な偏りの可能性を排除するために、別の種であるウィスターラットで移植試験を再現した。パーキンソン病は、6-OHDAをMFBに注射して黒質線条体経路を損傷することにより、これらのラットにおいて誘発された。これに関連して、全ての動物実験は、シンガポール国立神経科学研究所(NNI)の施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認されたプロトコルにしたがって行われたことに留意されたい。ラット実験の追加承認は、シンガポール国立工科大学(NTU)のIACUCによって提供された。MFB病変は、線条体病変と比較してドーパミン系のより完全な枯渇を引き起こすことが知られており、それゆえ、自然回復につながる可能性は低いと推定される(Torres, E.M. and S.B. Dunnett, Animal Models of Movement Disorders: Volume I, E.L. Lane and S.B. Dunnett, Editors. 2012, Humana Press: Totowa, NJ. p. 267-279)。ラットは完全に免疫適格であり、移植前または移植後に免疫抑制は施されなかった。分析のために、およそ8週齢の雌性ウィスターラットをInVivos Pte Ltdから購入した。4 μl中20 μgの6-OHDAを左内側前脳束(MFB)に以下の座標で定位注射することにより、片側性病変を誘発した: 硬膜からAP -4.4 mm; ML -1.2 mm; およびDV -8.6 mm。移植に適したモデルを決定するために、アポモルフィン誘発性回転を、実施例12に記述されているようにスコア化した。6回転/分超を示すラットに、ブレグマを基準として以下の座標で左線条体に3 μlの約1.25×105個の細胞/μlの25日目ドーパミン作動性前駆細胞を移植した: 硬膜からAP +0.8 mm; ML -2.5 mm; およびDV -5 mm。移植されたNPCが病変動物の機能的利益を統合および媒介できるかどうかを評価するために、回転非対称性試験を実施例12に記述されているように1ヶ月間隔で実施した。ラットを終末麻酔により6ヶ月時に殺処理し、脳を実施例12に記述されているように4% PFAで経心灌流した後、免疫組織学的分析のために採取した。病変形成基準を満たせなかった数匹の動物も同様に移植し、移植後1ヶ月および3ヶ月の時点で殺処理して、細胞の生存および生着を評価した。
【0178】
結果から、MFBを介した6-OHDAの逆行性輸送の結果として、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの一方的な枯渇が、中脳切片におけるTHのDAB染色によりモデルで確認されたことが明らかである(
図11d)。アポモルフィン曝露で少なくとも5回転/分を示す動物に、asF-iPS由来、EC23-CLiPS由来およびMC23-CLiPS由来のNPCを移植した。移植3ヶ月後の組織学的分析により、EC23-CLiPS群にのみhCyto+/HuNu+およびhNCAM+/TH+細胞の存在が示された。加えて、移植片のTH+ニューロンはシナプシン1の発現を示し、宿主ニューロンとの統合が示唆された(
図11b)。さらに、EC23-CLiPS NPCを移植した動物のみが、asF-iPS NPCまたは偽移植動物とは対照的に、両種の回転行動の改善を示した(
図11e)。また、ラットモデルは、回復の潜伏期間を示し、移植後の悪化が最初に観察された。これは、定位注射に起因する炎症反応と、NPCが成熟し、宿主組織と統合し、神経支配するのに必要な時間による可能性が高い。この結果は、CLiPS由来のNPC移植ラットにおけるドーパミン再取り込み機能の有意な回復も示している。
【0179】
実施例14: RPE細胞を分化させ特徴付ける方法
迅速かつ有向性の分化プロトコルを用いて、CLiPsからのRPE分化を達成した。分化したRPE細胞を精製し、免疫染色および定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(q-RT-PCR)を用いた遺伝子発現アッセイなどの、さらなる特徴付けのためにトランスウェルにプレーティングした。経上皮電気抵抗(TEER)および視細胞外節(POS)の貪食を用いて、細胞の機能性を分析した。
【0180】
臍帯表層人工多能性幹細胞(CLiPs)培養
マトリゲル(Corning)でコーティングした組織培養プレート(Corning Costar)上にてmTESR1 (Stem Cell Technologies)培地中でCLiPsを培養した。
【0181】
網膜色素上皮への分化
本発明者らは、Foltz and Clegg (2017)による有向性分化プロトコルを、異なる修正を加えて使用した。CLiPsおよびヒトES細胞を、マトリゲルでコーティングした組織培養プレート上にてmTeSR1培地中で増殖させた。細胞が90~95%の集密に達したら、それらを、さまざまな増殖因子を補充した基本培地(1×B27および1×N2サプリメントならびに非必須アミノ酸を有するDMEM/F12)を含有する、さまざまな分化培地に曝露した。
【0182】
分化培地1: 0日目から2日目まで、1 μM LDN-193189、10 ng/ml Dkk1、10 ng/ml IGF1および10 mM ニコチンアミド。分化培地2: 2日目から4日目まで、0.2 μM LDN-193189、10 ng/ml Dkk1、10 ng/ml IGF1、10 mMニコチンアミドおよび5 ng/ml b-FGF。分化培地3: 4日目から6日目まで、10 ng/ml Dkk1および10 ng/ml IGF1および100 ng/mlアクチビンA。分化培地4: 6日目から8日目まで、100 ng/mlアクチビンAおよび10 μM SU5402。分化培地5A: 8日目~11日目まで、基本培地は100 ng/mLアクチビンA、10 μM SU5402および1.5 μm CHIR99021を含んでいた。分化培地5B: 11~16日目まで、100 ng/mLアクチビンA、10 μM SU5402および3 μM CHIR99021。16日目に、基本培地を以下のRPE維持培地に置き換えた: 50% DMEM/F12、50%最小必須培地Eagle, Alpha Modification, 10 mMニコチンアミド、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピルビン酸ナトリウム、MEM非必須アミノ酸、GlutaMAX (全て1:100)、N1サプリメント(1:200)、0.25 mg/mlタウリン、0.02 μg/mlヒドロコルチゾン、および0.013 ng/ml 3,3',5-トリヨード-L-チロニンに2%熱不活性化ウシ胎仔血清(FBS)を補充。培地を2~3日ごとに交換した。修正プロトコルでは、分化培地4、5Aおよび5B中のSu5402を1 μM PD173074に置き換えた。
【0183】
CLiPs由来RPEの特徴付け
・転写アッセイ - 定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応
・RPE特異的タンパク質を評価するための免疫細胞化学
・経上皮抵抗(TEER)
・視細胞外節(POS)貪食アッセイ
【0184】
定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)
RNAサンプルを0日目、2日目、4日目、6日目、8日目、12日目、16日目および30日目(D30)に収集した。RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて全RNAを単離した。iScript cDNA Synthesis Kit (Bio-Rad)を用いてRNA 1 μgからcDNAを合成した。Quant Studio 3 Real-Time PCR Systems (Thermo Fischer)にてKAPA SYBR FASTを用い96ウェルプレート中、技術的三つ組(10 μl反応)でqRT-PCRを行った。75~200塩基対のPCR産物を作出するようにデザインされた遺伝子特異的プライマーには、多能性マーカーのOCT4、NANOGおよびSOX2、初期眼野マーカーとしてのOTX2、LHX2、RAXおよびSIX3、初期RPEマーカーとしてのPAX6、MITF、VSX2およびSOX10、成熟RPEマーカーとしてのBEST-1、PMEL17、MERTK、チロシナーゼ(TYROSINASE)、TRYP2およびRPE65が含まれた。データは「ハウスキーピング」遺伝子であるグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化された。
【0185】
免疫細胞化学
トランスウェルに播種してから6週間後、細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(pH 7.4)を用いて室温(RT)で20分間固定した。その後、固定した細胞をPBSで洗浄し、0.2% Triton X-100を用いてRTで3~5分間透過処理し、PBS中1%のウシ血清アルブミン(BSA)を用いてRTで1時間ブロッキングした。その後、細胞を1% BSA中の一次抗体により4℃で一晩プローブした。一次抗体を除去するために3回洗浄した後、適切なAlexa Fluor結合二次抗体(1:1000; Life Technologies)、核を染色するためのDAPI、およびアクチンを染色するためのAlexa結合ファロイジンとともに、細胞をRTで45分間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、Fluorsave (Calbiochem)を用いてマウントした。LSM 700共焦点顕微鏡(Carl Zeiss, Jena, Germany)を使い、40倍または63倍の油浸対物レンズを用いて細胞を撮像した。
【0186】
以下の抗体を使用した: ウサギゾナ・オクルーデンス(zona-occludens) 1 (ZO-1, 1:200, Invitrogen)、ウサギオクルディン(Occludin) (1:125, Invitrogen)、マウス網膜色素上皮特異的65 KDaタンパク質(RPE65, 1:125, Abcam)、マウス細胞性レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP, 1:1000, Abcam)、マウスベストロフィン(BEST-1, 1:125, Abcam)、マウスNa+/ATPase (1:250, Invitrogen)、マウスエズリン(Ezrin) (1:200, Abcam)およびマウスクローディン19 (1:125)。
【0187】
経上皮抵抗(TEER)
TEERを測定することにより、RPE単層の完全性および極性を反映するRPE細胞間の密着結合の形成および上皮性関門特性の発達を判定した。このために、細胞をSynthemax-II (Corning)でコーティングした透過性0.4 μm 24ウェルTranswellインサート(Corning)上で培養した。上皮電圧抵抗計(Epithelial Volt Ohm meter) - EVOM2(World Precision Instruments)を製造業者の指示にしたがって用い、TEER測定を毎週行った。簡単に説明すると、電極を70%エタノールで滅菌し、風乾し、RPE培地中で平衡化し、長い方の電極を皿の底に接する下側のチャンバに、短い方の電極を上側のチャンバに配置してトランスウェルフィルタに入れた。正味TEER (Ω.cm2)は、実験用トランスウェルの抵抗値から、細胞をプレーティングしていない対照用トランスウェルの抵抗値を差し引き、正味値にフィルタ膜の面積を乗じて算出された。
【0188】
視細胞外節(POS)貪食アッセイ
地元の屠殺場から収集したブタの眼球からPOSを単離した。ブタの眼球を刃物で半分に切り、暗室中、赤色光の下で鉗子を用いて網膜を取り除いた。網膜をホモジナイゼーション培地に入れ、十分に混合し、ろ過した。網膜懸濁液をショ糖勾配(25~60%)の上に重ね、超遠心分離機(Optima超遠心分離機, Beckman)中1時間、112,398×gで遠心分離した。ピンク色のPOS層を回収し、0.1 M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH 9.5)中、1時間RTでPOSをフルオレセインイソチオシアネート(FITC, Invitrogen)で標識した。標識されたPOSを洗浄し、使用するまで-80℃でアリコートとして貯蔵した。貪食アッセイでは、トランスウェル上で増殖しているRPE細胞を、FITC標識POSに2時間、5% CO2インキュベーター中37℃で、または対照の場合には4℃で曝露した。非標識POSに曝露した細胞を対照として用いた。その後、ウェルをPBSで3回洗浄して未結合のPOSを除去し、TrypLE (Gibco)を用いて単一細胞に解離した。BD LSR IIフローサイトメーターを用いてFITC蛍光を測定し、POS貪食を判定した。
【0189】
フローサイトメトリー
IntraPrep Permeabilization Reagent (Beckman Coulter, IM2389)を用いPmel17抗体(Dako, M0634)で、24ウェルプレート上で増殖した4~6週齢の細胞を染色した。簡単に説明すると、細胞をTrypLEで解離し、キット中に提供されている説明書にしたがって固定および透過処理した。約50,000個の細胞を15 mlの遠心分離管に移し、低温室内でローラーシェーカー上にてPmelまたはRPE65抗体2~4 μlとともに一晩インキュベートした後、PBSで洗浄し、細胞をAlexa標識488/647二次抗体とともにインキュベートし、FACS LSR5 II装置(BD)で分析した。
【0190】
RPE精製方法
(i). 手動精製: 分化培養中の非RPE細胞は、解剖顕微鏡下で培養プレートを観察しながら、ピペットに取り付けた10 μlのチップで掻き取ることにより手動で除去した。プレートをPBSで3回洗浄して全ての非RPE細胞を除去した。RPEが高度に濃縮された残りの細胞は、新鮮なTrypLEを加えて5~10分間インキュベーションすることにより解離させた。
【0191】
(ii). TrypLE精製: RPE細胞は非RPE細胞と比較して組織培養プレートへの付着が強い。非RPE細胞は増殖表面への付着が弱いため、TrypLEのような穏やかな解離剤での処理によって容易に除去することができる。培地を吸引した後に、リン酸緩衝生理食塩水をウェルに加え、1 mlピペットで激しくピペッティングすることにより、緩く付着した非RPE集塊を除去した。剥離した集塊の除去後、プレートをTrypLEとともに5~10分間インキュベートし、非RPE細胞を穏やかにタッピングかつピペッティングすることにより剥離させ、非RPE細胞を放出させた。剥離した非RPE細胞を集め、解離させ、「緩い」画分として使用した。プレートをPBSで3回十分に洗浄して全ての非RPE細胞を除去し、強固に付着したRPE細胞を新鮮なTrypLEとともに5~10分間インキュベートすることにより解離させた。強固に付着したRPE細胞と緩く付着した非RPE細胞の両方を実験用にプレーティングした。
【0192】
(iii). TrypLE + 手動精製: 上記のTrypLE精製により、大きな非RPE集塊の大部分は除去されたが、いくつかの小さな集塊はまだ存在し、それらは方法1に記述されたように手動精製によって除去された。
【0193】
(iv) TrypLE + 散乱選別: 培地を吸引した後に、方法3において記述されたように、緩く付着したRPE細胞を除去した。残りの細胞をさらに5~10分間TrypLE処理により解離させ、散乱選別において記述されたように処理した。選別中に、TrypLE処理によって除去された弱く付着した非RPE細胞を用いて、散乱の低い細胞のゲートを設定した。強く付着した画分にのみ存在する散乱の高い集団は、RPE細胞を選別するためのゲートを設定するのに役立つ。
【0194】
(v) 散乱選別: 分化プレート上の全細胞をTrypLE処理により単一細胞に解離させ、ペレット化した。細胞ペレットをFACS緩衝液に再懸濁し、70 μmのフィルタに通し単一細胞を得て、BD FACS Aria II細胞選別装置中で用いて散乱の高い画分と低い画分に分離した。
【0195】
ミトコンドリア機能および解糖機能の分析
CLiPs-RPE、皮膚-iPSC-RPEおよびH9-RPE細胞について、XFe96 Extracellular Flux Analyzer (Seahorse Bioscience)を使い製造業者により記述されたアッセイ条件を用いてミトコンドリアおよび解糖機能の分析を実施した。細胞をSynthemax-IIコーティング96ウェルプレート中に6×104個の播種密度でプレーティングし、48時間増殖させた。酸素消費速度(OCR)はCell Mito Stress Testを用い基本条件の下で、その後にオリゴマイシン(2 μm)、FCCP (1.5 μm)、ならびにロテノン(0.5 μM)およびアンチマイシンA (0.5 μM)の順次添加を行って検出した。これにより以下のパラメータ: 基底呼吸、OCR、ATP産生、最大呼吸、予備呼吸能および非ミトコンドリア呼吸の測定が可能になった。細胞外酸性化速度(ECAR)は基本条件の下で、その後に10 mMグルコース、5 μMオリゴマイシンおよび100 mM 2-DGの順次添加を行い、解糖ストレス試験を用いて測定した。これにより解糖能と解糖予備能のパラメータが測定された。アッセイ結果を細胞数に対して正規化した。
【0196】
色素沈着を評価するための画像分析
Chemidoc touch system (Biorad)を用いて、分化プレートの白黒16ビット画像を17日目から一定間隔で撮影した。背景強度閾値に基づいて、RPE細胞の黒色領域とその発光を、Matlabソフトウェアを用いて測定した。分析から得られた色素沈着の明るさを、16ビット画像の最大可能発光強度(65535)から差し引いて、色素沈着の濃さを得た。
【0197】
実施例15: CLiPSはRPE細胞に分化する
本発明者らはRPE分化方法を用いて、間葉系(CLMC)または外胚葉系(CLEC)由来のいずれかでありうるCLiPSからRPEを作出した(表4)。
【0198】
【0199】
本発明者らは、RPE分化における対照としてES細胞および皮膚iPS細胞を使用した(表4)。この方法を用いると、CLiPSはRPEに確実に分化した(
図13)。
【0200】
実施例16: CLiPSは皮膚iPS細胞よりも一貫して高いRPE分化効率を有する
異なる種類の幹細胞のRPE分化効率を比較するために(表4)、本発明者らは、分化プレートの各ウェルで色素沈着細胞が占める面積の割合を推定することによる視覚的等級付けシステム(
図14a)を開発した。RPE分化効率は、色素沈着なし、<30%、30~60%または>60%の色素沈着について、それぞれ0、1、2または3と等級付けされる。分化プレートごとに異なる色で異なる等級の色素沈着を示す、積み上げ縦棒グラフをプロットした(
図14b)。分化の生物学的複製において、ES細胞および臍帯表層間葉細胞(CLMCs)に由来するiPS細胞は、皮膚iPS細胞と比較して一貫して高いRPE分化効率を示した。CLiPSの高いRPE分化は、フローサイトメトリーによりRPE特異的タンパク質Pmel17を発現する細胞の割合を推定することでさらに確認された(
図14c)。
【0201】
実施例17: CLiPS由来RPEはES由来RPEよりも色素沈着が多い
さまざまな細胞株から作出されたRPEの色素沈着の強度および色素沈着の獲得動態を比較するため、ChemiDoc Touchゲル撮像システム(Bio-Rad laboratories)を用いて分化17日目から一定間隔で分化プレートの画像を撮影した。CLiPSは、分化プレートの画像(
図15a)および30日目に撮影した位相差画像(
図15b)においてES細胞よりも濃い色素沈着を有した。異なる分化日数での色素沈着強度の分析から、CLiPS-RPEは分化全体を通してES由来RPEよりも高い色素沈着を有することが示された(
図15c)。これと一致して、CLMC23の分化培養では、色素沈着関連遺伝子MITF、PMEL17、チロシナーゼ(TYROSINASE)およびTRYP2のさらに高い発現が示された(
図15d)。
【0202】
実施例18: CLiPS由来RPEはRPE特異的遺伝子を発現する
本発明者らは分化18日目および35日目に、定量的PCRによってCLiPS由来RPEにおけるRPE特異的遺伝子の発現を確認した。RPE特異的遺伝子RPE65およびMERTKの頑健な発現(
図16)が観察され、そのレベルは35日目にCLiPS由来RPEの方が高く、より成熟している可能性があることを示唆していた。
【0203】
実施例19: CLiPS由来RPEは、機能的な密着結合を有し、かつ貪食することができる
経上皮電気抵抗(TEER)およびFITC標識視細胞外節の貪食を測定することにより、CLiPS-RPEの機能性を判定した。CLiPS-RPEのTEER (
図17a)および貪食(
図17b)は、ES由来RPEのものと同様であった。
【0204】
実施例20: CLiPS-RPEはES由来RPEと同様のタンパク質を発現する
RPEの分極は頂底特異的機能に極めて重要であり、タンパク質は分極したRPE単層において局在発現を示す。CLiPSがこれまでに報告されたRPEと同様のタンパク質の発現を示すかどうかを調べるため、本発明者らはさまざまなタンパク質についてRPEを免疫染色した。ZO-1は細胞間接合部で、Mertkは頂端側で、RPE-65は細胞質内で発現しており(
図18)、天然、ESおよびiPS由来のRPEと同様であった。
【0205】
実施例21: RPE分化プロトコルの修正
本発明者らは、Foltz and Clegg 2017 (J Vis Exp. 2017; (128): 56274)により開発された方法に基づいて、わずかに修正したRPE分化プロトコルを開発した。(A) オリジナルのCleggプロトコルに記述されているように3 μMでのCHIRの使用(
図19a)は、分化の11~12日目頃に過剰な細胞死をもたらし、その結果、RPE収量の劇的な減少をもたらした。これを防ぐため、本発明者らは、培地中のCHIRを以下の方法で徐々に増加させることによりプロトコルを修正した: 3日間(分化8~11日目) 1.5 μMから始めて、引き続き5日間(12~17日目) 3 μM。(B) RPE分化のための新しいFGF阻害剤も同定された: 本発明者らは、SU5402をPD173074に置き換えて(
図19b)、同程度のRPE分化および色素沈着を達成した(
図19c)。PD173074はSU5402よりもはるかに低い濃度(10 μMの代わりに1 μM)で使用され、これにより高濃度の化学物質によって誘導される遺伝子発現の望ましくない変化を低減することができた(Waldmann T et al., 2014, Chem Res Toxicol, . 2014 Mar 17;27(3):408-20)。異なるFGF阻害剤、SU5402またはPD173074を用いて分化して得られたRPEは、同等のTEERおよび貪食作用を有していた(
図19d、e)。
【0206】
実施例22: RPE精製方法の開発
RPE精製は、RPEが色素沈着を達成するときまで、30~35日齢の分化培養物で行われた。混合分化培養物からRPEを精製する方法には、RPE細胞と非RPE細胞との間の形態学的差異に基づく分化14日目の非RPE細胞の手動除去(Foltz and Clegg, 2017)、TrypLEまたはアキュターゼなどの弱い解離剤で短時間処理することによる培養皿に弱く付着している非RPE細胞の選択的な除去(Nazari et al., 2015, Yuko Iwasaki et al., 2016)およびRPE細胞中のメラノソームによる光の散乱が大きいことに基づく散乱選別(Shih et al., 2017)が含まれる。本発明者らは、以前に記述した14日齢の培養物とは異なり、30~35日齢の分化培養物を用いてRPE精製を実施した(Foltz and Clegg, 2017)。30~35日目までに、分化培養物中のRPE細胞は褐色の色素沈着を獲得し、これは手動精製においてRPE細胞と非RPE細胞とを区別するのに役立つ。本発明者らは、どの方法が最も高い純度と収率で機能的RPEを得られるかを特定するために、さまざまな方法(
図20aおよびb)を比較した。これらには以下が含まれた: (i) 手動精製: 解剖顕微鏡下で観察することでの形態と色素沈着の欠如に基づく非RPE細胞の同定、および掻き取りによるそれらの手動の除去、(ii) TrypLE精製: 部分的なTrypLE処理による弱付着性の非RPEクラスタの大部分の除去、(iii) TrypLE+ 手動: 部分的なTrypLE処理による弱付着性の非RPEクラスタの大部分の除去後、解剖顕微鏡下で観察することでのTrypLE処理を免れた少数の非RPEクラスタの手動の除去、(iv) TrypLE + 散乱選別: 部分的なTrypLE処理による弱付着性の非RPEクラスタの除去後、散乱選別、(v) 散乱選別: 混合分化培養物から全細胞を、その相対的な光散乱に基づき(
図20c)、散乱の高い(色素沈着RPE細胞)集団と散乱の低い(非色素沈着非RPE細胞)集団として分離。ゲートの選択をより正確にするため、本発明者らは、分化培養において弱く付着した非RPE細胞(部分的TrypLE処理から収集した)を用いた低散乱の対照を導入した。RPE細胞を選別し、散乱高ゲートに基づいて選択した(
図20d)。フローサイトメトリーの前にまずTrypLEによる非RPE細胞の除去を伴うこの2段階精製は、選別時間を低減するのに役立った。RPE細胞の収率は、精製後に得られたRPE細胞数/精製前のRPE細胞混合集団中の全細胞数×100%により計算された。
【0207】
優先的解離により非RPE細胞が除去されることが予想されるため、精製後に得られた細胞は全てRPE細胞とみなされた。精製後のRPEの収率は、分化培養物に存在する細胞の総数および精製後に得られた細胞数から計算された。精製のために、本発明者らは、フローサイトメトリーによって51%のPmel17陽性細胞を含むHDFA iPS細胞からの分化培養物を使用し、それには51%のRPE細胞が含まれることを示唆していた。ゆえに、この培養で達成可能な最大RPE収率は51%であった。TrypLE精製では50%のRPE細胞が得られ、予想される最大収率51%に非常に近かった。手動およびTrypLE + 手動では、それぞれ47.7%および43.4%と、わずかに低い収率が得られた。散乱選別を伴う方法では、低い収率(21~22%)が得られた(
図20e)。全ての精製方法で、Pmel17フローサイトメトリーによって95%を超える純度が達成された(
図20f)。10週までに、異なる方法によって精製されたRPEのTEER値は同程度となった(
図20g)。貪食アッセイでは、全ての精製方法で90%を超える貪食率を有するRPE細胞が得られた(
図20h)。
【0208】
結論として、どの方法で精製したRPE細胞も同等の純度、TEERおよびPOS貪食作用を有していた。収率の点では、手動、TrypLEおよびTrypLE+散乱が最も高いRPE収率をもたらした。部分的なTrypLE処理で非RPE細胞の大部分が除去されたため、TrypLEおよびTrypLE+手動は実施するのが最も簡単であった(
図20i)。TrypLE精製は、その精製が容易で、収率、純度および機能性が高いため、一般的な研究目的でRPE細胞を作出するのに効率的な方法であろう。TrypLE処理を逃れた可能性のある任意の非RPE細胞を除去するための追加の手動精製段階を伴う、TrypLE+手動方法は、移植用のRPE細胞を作出するのに理想的であろう。精製後、本発明者らは、精製されたCLMC23およびH9におけるBEST1、RPE65、MERTK、MITF、PMEL17、RLBP1およびTRYP2の発現を比較した(
図20j)。これらの遺伝子の大部分は、ES由来のH9 RPEと比較してCLMC23において発現の増加を示した(
図20k)。
【0209】
実施例23: CLiPS由来のRPEは高い解糖およびミトコンドリア呼吸を有する
解糖およびミトコンドリア呼吸の測定は、生体エネルギーおよび細胞の健康状態を示す指標となる。XFe96 Extracellular Flux Analyzer (Seahorse Bioscience)を使いCell Mito Stress Testアッセイ条件を用いて、異なる幹細胞に由来するRPE細胞の生体エネルギーを測定した。解糖機能は細胞外酸性化速度(ECAR)により、酸化的リン酸化(oxPhos)は酸素消費速度(OCR)により定量化した。
図21aおよびbは、分化したRPEのなかのうちで、CLiPs-RPE細胞は初代RPE (AHRPE)に最も近い生体エネルギープロファイルを有し、それらが天然RPEに生理的にいっそう近いことを実証している。さらに、CLiPs-RPEは、皮膚-iPSC-RPE (ASF5-RPE)およびhESC-RPE (H9-RPE)の両方と比較して、高い解糖および酸化的リン酸化も示す(
図21aおよびb)。これらの結果は、CLiPs-RPEがhESC細胞由来RPEと比較して高い生体エネルギープロファイルを有することを示唆している。健常なRPEは、AMD患者由来RPEと比較して高い解糖およびミトコンドリア機能を示す(Ferrington et al, 2017)。CLiPS-RPEの高いOCRおよびECARは、それらが臨床使用のためにhESC由来RPEより優れている可能性があることを示唆している。これは酸化ストレスの影響を受けやすい皮膚-iPSC-RPE (
図21dおよびh)およびhESC-RPE (
図21eおよびi)と比較して、酸化低密度リポタンパク質(
図21c)および過酸化水素(
図21g)への曝露によりCLiPs-RPEが示した酸化ストレスに対する耐性の増加からも明らかである。これは、CLiPs-RPEが移植後、より良好に生存しうることを示している。CLiPs-RPE細胞の酸化ストレスに対する応答は、天然RPE AHRPE)において見られるものと類似しており(
図21fおよびj)、それらは他の分化RPEと比較して初代RPEに機能的にいっそう近い。
【0210】
実施例24: CLiPS RPEはヒト化マウスモデルにおいて潜在的な免疫特権特性を有する
レンチウイルス感染により送達される、GFPでタグ付けされたルシフェラーゼ(Luc)遺伝子コードベクターを用いて、生物発光RPE株を樹立した。生物発光強度を分析することにより、これらの株におけるLucの安定発現を確認した。異なるRPE株の免疫原性を試験するために、以前の刊行物(PMID: 15780993)からマトリゲル・プラグアッセイを採用した。RPE-マトリゲル・プラグをヒト化マウスに皮下移植した。生物発光撮像システムを用いて2ヶ月間にわたり一定間隔で、RPE-マトリゲル・プラグの生物発光をモニターした。ヒト化マウスにおける全RPE株の全発光(生物発光)は、経時的なシグナルのわずかな、しかし重要でない減少を示した(
図22a)。このことから、RPE細胞が明らかに増殖せず、成熟RPEに典型的な、予想される静止状態のままであったことが示された。経時的に観察されたわずかな減少が、免疫系によるクリアランスによるものかどうかを区別するため、RPE-マトリゲル・プラグをNOD-SCID IL2Rγ-/- (NSG)免疫不全マウスに移植した。全発光の同様の減少が観察され、免疫系による RPE 細胞のクリアランスは除外された(
図22b)。そうでなければ、この減少は、実験期間中に徐々に細胞死をもたらした領域への栄養供給不足に起因する可能性がある。マトリゲル-RPEプラグ内のRPE細胞の生存を確認し、その状態を判定するために、移植片を終点で抽出し、成熟RPEマーカー(RPE65)および増殖マーカー(Ki67)を用いて免疫蛍光分析を行った(
図22c)。試験した全てのRPE株において、RPE65の発現が観察され、Ki67はなく、成熟かつ静止状態が確認された。
【0211】
実施例25: 細胞性免疫応答の代用としての炎症促進性サイトカインのモニタリング
全群で成熟RPE細胞移植片の生存を確認した後、ヒト化マウスの終点で収集された血清サンプルを、細胞媒介性免疫の中心的エフェクタである主要な炎症促進性サイトカイン(IFN-γおよびIL-18)の存在について試験した(PMID: 29856726)。試験した全てのRPE株は、ピコグラムの範囲のサイトカインレベルを示し、これは全身的な免疫系の活性化を誘導する閾値未満であった(
図23aおよびb)。予想外なことに、どちらのサイトカインの場合にも、CLEC23-RPEは他の株と比較して最低レベルを一貫して示した。次に、局所的な免疫反応を検出するために、RPE-マトリゲル・プラグという局所レベルで免疫応答を調べた。ヒトCD45 (hCD45)マーカーを用いて免疫細胞浸潤を観察するために、免疫蛍光分析を行った。RPE特異的転写因子であるOTX2を用いてRPE細胞を区別した(
図23c)。IFN-γおよびIL-18サイトカインのレベルが低いことと一致して、CLEC23-RPEでは免疫細胞の浸潤は確かに存在しなかった。hCD45陽性細胞に基づく定性的等級付け(等級0~3)を実行して、全群(少なくともn=3)からの免疫浸潤の重症度を判定し、プロットした(
図23dおよびe)。CLEC23-RPEでは免疫細胞浸潤が最も低かった。これらのデータは、CLEC23-RPEが免疫特権特性を潜在的に有することを示唆している。
【0212】
実施例26: CLEC23-RPEはT細胞の活性化を調節して低免疫原性を付与しうる
移植拒絶反応は主に細胞媒介性免疫応答によって主に引き起こされる。先の図から観察されるように、CLEC23-RPEは免疫細胞の浸潤が最も少なかった。それゆえ、本発明者らは、CLEC23-RPEが細胞媒介性免疫に関与する要素であるT細胞の活性化に影響を及ぼす可能性があるという仮説を立てた。T細胞の活性化に関与する既知のサイトカインIL-23およびIL17Aをヒト化マウス血清中で分析した(
図24aおよびb) (PMID: 26252407)。CLEC23-RPEは他群と比較して最も低いレベルの両サイトカインを示した。これらのサイトカインはT細胞の活性化に影響を与えるため、フローサイトメトリーを用いてT細胞(CD3)とB細胞(CD19)との相対比を計算した(
図24c)。CLEC23-RPE群だけが、B細胞に対するT細胞数が少なく、T細胞の活性化が抑制されている可能性があることを示している。T細胞のサブセット、ヘルパーT (CD4)細胞および細胞傷害性T (CD8)細胞に関する追加分析を実施し、CLEC23-RPEはヘルパーT細胞に対して細胞傷害性T細胞が最も少ないことが示された(
図24d)。これら2つのサブセットの活性化状態を次に、ナイーブ(静止)、中央記憶(CM; 活性化前)ならびに2つの活性化状態、エフェクタ記憶(EM)およびエフェクタ記憶再発現CD45RA (TEMRA)の4群にさらに分類した。CD4ヘルパーT細胞サブセットの活性化状態には明らかな違いはなかった(
図24e)。しかしながら、CD8細胞傷害性T細胞サブセットでは、CLEC23-RPEは明らかに高いナイーブ集団を示した(
図24f)。それゆえ、本発明者らは、CLEC23-RPEの潜在的な免疫特権状態は、CD8細胞傷害性T細胞の活性化の抑制から生じる可能性があると推論している。
【0213】
本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、本明細書において開示された本発明に対してさまざまな置換および修正を行うことができることは、当業者には容易に明白であろう。
【0214】
本明細書において言及される全ての特許および刊行物は、本発明が関連する当技術分野における当業者のレベルを示す。特許および刊行物は全て、各個々の刊行物が参照により組み入れられることが具体的かつ個別的に示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0215】
「に満たない」または順に「を超える」または「を下回る」という用語は、具体的な数を含むものではない。本発明を記述する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)用いられる「1つの(a)」および「1つの(an)」および「その(the)」ならびに同様の参照は、本明細書において別段の指示がない限りまたは文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を網羅するものと解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲内に入る各個別の値に個別に言及している省略表現の方法として役立つことが単に意図される。本明細書において別段の指示がない限り、各個別の値は、本明細書において個別に列挙されているかのように本明細書に組み入れられる。「および/または」という用語は、本明細書においてどこで用いられようとも、「および」、「または」および「該用語により接続される要素の全てのまたは他の任意の組み合わせ」という意味を含む。「含む(including)」という用語は、「含むが限定されることはない(including but not limited to)」を意味する。「含む(including)」および「含むが限定されることはない(including but not limited to)」は、互換的に用いられる。「約」という用語は、プラスまたはマイナス20%、好ましくはプラスまたはマイナス10%、より好ましくはプラスまたはマイナス5%、最も好ましくはプラスまたはマイナス1%を意味する。
【0216】
本明細書において例示的に記述された発明は、本明細書において具体的に開示されていない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の制限の不在下で適切に実践されうる。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する」などの用語は、包括的にかつ非限定的に読み取られるものとする。本明細書において用いられる場合、「からなる」は、主張の要素において指定されていない任意の要素、段階または成分を除外する。本明細書において用いられる場合、「から本質的になる」は、主張の基本的かつ新規的な特徴に実質的に影響を与えない材料または段階を除外しない。さらに、本明細書において用いられる用語および表現は、限定の用語ではなく説明の用語として用いられており、そのような用語および表現の使用には、示されかつ説明された特徴またはその一部のいかなる等価物も除外する意図はなく、主張される本発明の範囲内でさまざまな修正が可能であることが認識される。したがって、本発明を好ましい態様および任意選択の特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書において開示されているその中で具体化された発明の修正および変更が、当業者に委ねられてよいこと、ならびにそのような修正および変更が本発明の範囲内であると見なされることが理解されるべきである。本発明は、本明細書において幅広くかつ総称的に記述されている。総称的な開示の範囲内に入るより狭い種および亜属集団の各々もまた、本発明の一部を形成する。これには、除かれた題材が本明細書において具体的に挙げられているか否かにかかわらず、任意の主題を属から除外する条件付きのまたは負の限定を用いた本発明の総称的記載も含まれる。加えて、本発明の特徴または局面がマーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者は、本発明がまたそれにより、そのマーカッシュ群の任意の個々の成員または成員の部分群の観点からも記述されていることを認識するであろう。本発明のさらなる態様は、以下の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0217】
本発明は、以下の項目によってさらに特徴づけられる。
1.
臍帯の羊膜の幹細胞において、幹細胞を再プログラムするのに適した条件下で、タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸ならびにp53-shRNAを発現させ、それによって人工多能性幹細胞を作製する段階
を含む、人工多能性幹細胞を作製する方法。
2.
臍帯の羊膜の幹細胞が、臍帯の羊膜の間葉幹細胞または臍帯の羊膜の上皮幹細胞である、項目1の方法。
3.
臍帯の羊膜の間葉幹が間葉幹細胞集団であり、該幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー: CD73、CD90およびCD105の各々を発現する、項目1または2の方法。
4.
間葉幹細胞集団の少なくとも約90%またはそれ以上の細胞が、以下のマーカー: CD34、CD45およびHLA-DRの発現を欠いている、項目3の方法。
5.
間葉幹細胞集団の少なくとも約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上の細胞が、CD73、CD90およびCD105の各々を発現し、かつCD34、CD45およびHLA-DRの各々の発現を欠いている、項目3または4の方法。
6.
タンパク質OCT3/4、SOX2、KLF4、LIN28およびL-MYCをコードする外因性核酸ならびにp53-shRNAが、1つ、2つまたは3つのベクターによって提供され、好ましくは、第1のベクターがタンパク質OCT3/4および53-shRNAをコードし、第2のベクターがタンパク質SOX2およびKLF4をコードし、かつ第3のベクターがタンパク質L-MYCおよびLIN28をコードする、項目1~5のいずれかの方法。
7.
臍帯の羊膜の幹細胞をトランスフェクションに供して、幹細胞に外因性核酸を移入する、項目1~6のいずれかの方法。
8.
臍帯の羊膜の幹細胞をエレクトロポレーションに供して、幹細胞に外因性核酸を移入する、項目7の方法。
9.
臍帯の羊膜の間葉幹細胞が、約15~25 msの持続時間および約1550~1650 Vの電圧を有する1パルスのエレクトロポレーション、好ましくは約20 msの持続時間および約1600 Vの電圧を有する1パルスのエレクトロポレーションに供される、項目8の方法。
10.
エレクトロポレーションに供される臍帯の羊膜の間葉幹細胞の数に対する各ベクターのベクター(プラスミド) DNAの量の比率が、約1×106個のCLMCに対して約1.5 μgのプラスミドDNA~約1×106個のCLMCに対して約2.5 μgのDNAの範囲であり、該比率が、例えば、約2.5 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約2.25 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.8 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.7 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.6 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.5 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、または好ましくは約1.67 : 1×106個の細胞である、項目9の方法。
11.
臍帯の羊膜の上皮幹細胞が、約25~35 msの持続時間および約1300~1400 Vの電圧を有する2パルスのエレクトロポレーション、好ましくは約30 msの持続時間および約1350 Vの電圧を有する2パルスのエレクトロポレーションに供される、項目8の方法。
12.
エレクトロポレーションに供される臍帯細胞の羊膜の上皮幹細胞の数に対する各ベクターのベクター(プラスミド) DNAの量の比率が、約1×106個の細胞に対して約1.5 μgのDNA~約1×106個の細胞に対して約2.5 μgのDNAの範囲であり、該比率が、例えば、約1.5 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.6 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.7 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.8 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約1.9 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約2.0 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、約2.5 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞、好ましくは約1.67 μgのプラスミドDNA : 1×106個の細胞である、項目11の方法。
13.
トランスフェクトされた幹細胞が、細胞回復に適した培地中で培養される、項目7~12のいずれかの方法。
14.
細胞回復に適した培地が無血清培地である、項目13の方法。
15.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の間葉幹細胞の回復に適した培地が、約85~95% (v/v)の定義された培地および5~15% (v/v)のウシ胎仔血清からなる、項目13の方法。
16.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の間葉幹細胞の回復に適した培地が、約90% (v/v)の化学的に定義された培地および約10% (v/v)のウシ胎仔血清からなる、項目15の培地。
17.
約85~95% (v/v)のCMRL 1066および約5~15% (v/v)のFBSを含む、項目14または15の培地。
18.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、乳腺上皮基礎培地MCDB 170、EpiLife培地、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、F12(ハムF12培地)、およびFBS(ウシ胎仔血清)を含む、項目13または14の方法。
19.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、約10~約30% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約20~約40% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約5~約15% (v/v)の最終濃度のF12、約30~約45% (v/v)の最終濃度のDMEM、および約0.1~2% (v/v)の最終濃度のFBSを含む、項目18の方法。
20.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、約15~約25% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約25~約35% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約7.5~約13% (v/v)の最終濃度のF12、約35~約40 % (v/v)の最終濃度のDMEM、および約0.5~1.5 % (v/v)の最終濃度のFBSを含む、項目19の方法。
21.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、約20% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約30% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約12.5 (v/v)の最終濃度のF12、約37.5% (v/v)の最終濃度のDMEM、および約1.0% (v/v)の最終濃度のFBSを含む、項目20の方法。
22.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、最終体積1000 mlの培養培地を得るために、
200 mlの乳腺上皮基礎培地MCDB 170、
300 mlのEpiLife培地、
250 mlのDMEM、
250 mlのDMEM/F12、
1%のウシ胎仔血清
を混合することによって得られる、項目18~21のいずれかの方法。
23.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、約1~約7.5 μg/mlの最終濃度のインスリンを含む、項目18~22のいずれかの方法。
24.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、約1~約15 ng/mlの最終濃度のヒト上皮成長因子を含む、項目18~24のいずれかの方法。
25.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、以下のサプリメント: アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)のうちの少なくとも1つをさらに含む、項目18~25のいずれかの方法。
26.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)の3つ全てを含む、項目25の方法。
27.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、1つまたは複数の形質転換成長因子(TGF)をさらに含む、項目18~26のいずれかの方法。
28.
培地が、形質転換成長因子β(TGF-β)および/または形質転換成長因子αを含む、項目27の方法。
29.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、コレラ菌(Vibrio cholerae)由来のコレラ毒素をさらに含む、項目18~28のいずれかの方法。
30.
前記細胞回復に適した培地が、炎症応答を抑制しかつ細胞生存を増強する化合物を含む、項目14~29のいずれかの方法。
31.
化合物がグルココルチコイドである、項目30の方法。
32.
グルココルチコイドが、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、コルチコステロンおよびヒドロコルチゾンからなる群より選択される、項目31の方法。
33.
ヒドロコルチゾン濃度が約0.5 μM~約2 μMである、項目31または32の方法。
34.
培養が、コーティングされた細胞培養容器中で実行され、該細胞培養容器が、好ましくは、血清由来基質または無血清基質でコーティングされる、項目13~33のいずれかの方法。
35.
前記細胞回復に適した培地が、トランスフェクションから約1、2または3日後に、好ましくはトランスフェクションから約2日後に、2つの異なる細胞培養培地の混合物に置き換えられ、それによって人工多能性幹細胞コロニーを得る、項目14~34のいずれかの方法。
36.
2つの異なる細胞培養培地が、細胞回復に適した培地および第2の細胞培養培地である、項目35の方法。
37.
2つの異なる細胞培養培地が、1体積の細胞回復に適した培地を1体積の第2の細胞培養培地と接触させることによって調製される約1:1 (v/v)の比率で混合される、項目35または36の方法。
38.
第2の細胞培養培地が、人工多能性幹細胞の培養のための維持培地であり、該培地が、好ましくは、mTeSR1、StemMACS(商標) iPS-Brew XF、TeSR(商標)-E8、mTeSR(商標)Plus、TeSR(商標)2、mTeSR(商標)1、Corning(登録商標) NutriStem(登録商標) hPSC XF Medium、Essential 8 Medium、StemFlex、StemFit Basic02およびPluriSTEMからなる群より選択される、項目36または37の方法。
39.
細胞培養培地の混合物が、トランスフェクションから約3、4または5日以内、好ましくはトランスフェクションから約4日以内に同じ細胞培養培地の混合物に置き換えられる、項目35~38のいずれかの方法。
40.
細胞培養培地の混合物が、トランスフェクションから約5、6または7日以内、好ましくはトランスフェクションから約6日以内に第2の細胞培養培地に置き換えられる、項目35~39のいずれかの方法。
41.
第2の細胞培養培地が、毎日または2日ごと、3日ごとに、好ましくは2日ごとに交換される、項目40の方法。
42.
人工多能性幹細胞コロニーが、直径が約0.5 mm~約1.5 mmのサイズに達した場合に選択され、選択された人工多能性幹コロニーが、培養および増殖のためのコーティングされた細胞培養容器に移される、項目40または41の方法。
43.
人工多能性幹細胞コロニーが、明視野顕微鏡下で選択される、項目42の方法。
44.
細胞培養培地が、毎日または2日ごとに、好ましくは毎日交換される、項目42または43の方法。
45.
人工多能性幹細胞コロニーが、約50%の集密度に達した場合にコーティングされた細胞培養装置から剥離される、項目43または44の方法。
46.
人工多能性幹細胞コロニーが、解離試薬、ディスパーゼ、またはEDTA溶液からなる群より選択される試薬で剥離される、項目45の方法。
47.
人工多能性幹細胞コロニーから形成された細胞集団が、約60~90%の集密度に達した場合に、好ましくは70~80%の集密度に達した場合に継代される、項目45または46の方法。
48.
人工多能性幹細胞コロニーから形成された細胞集団が、約1:3 (v/v)の比率で継代され、約1:3 (v/v)の比率での継代が、約1体積の解離された人工多能性幹細胞を約2体積の解離された人工多能性幹細胞に分割することによって実施される、項目47の方法。
49.
人工多能性幹細胞コロニーから形成された細胞集団が、継代のために約0.5 mM EDTAで解離される、項目47または48の方法。
50.
人工多能性幹細胞コロニーから形成された継代細胞集団が、人工多能性幹細胞の生存を増強する物質を含む培地中で培養される、項目48または49の方法。
51.
人工多能性幹細胞コロニーの生存を増強する物質が、ROCK阻害剤である、項目50の方法。
52.
項目1~51のいずれかの方法によって得ることができる、人工多能性幹細胞集団。
53.
項目1~51のいずれかの方法によって得られた、人工多能性幹細胞集団。
54.
項目52または53の人工多能性幹細胞を含む、薬学的組成物。
55.
項目52または53の人工多能性幹細胞を標的細胞に分化させる方法であって、該人工多能性幹細胞が、分化に適した条件下で標的細胞に分化される、前記方法。
56.
標的細胞が、ドーパミン作動性ニューロン細胞、オリゴデントロサイト、肝細胞、心筋細胞、造血前駆細胞、血液細胞、神経細胞、運動ニューロン、軟骨細胞、筋肉細胞、骨細胞、歯細胞、毛包細胞、内耳有毛細胞、皮膚細胞、メラノサイト、免疫細胞、星状細胞、生殖細胞、角膜細胞、腸細胞、肺細胞、腎臓細胞、胃細胞、腸間膜細胞および脂肪細胞からなる群より選択される、項目55の方法。
57.
免疫細胞が、Tリンパ球、Bリンパ球、ミクログリア、およびナチュラルキラー細胞からなる群より選択される、項目56の方法。
58.
人工多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞の増殖およびドーパミン作動性ニューロン細胞への分化に適合された培地中で培養される、項目56の方法。
59.
人工多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞の増殖および肝細胞への分化に適合された培地中で培養される、項目56の方法。
60.
人工多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞の増殖および心筋細胞への分化に適合された培地中で培養される、項目56の方法。
61.
人工多能性幹細胞が、人工多能性幹細胞の増殖およびオリゴデントロサイトへの分化に適合された培地中で培養される、項目60の方法。
62.
項目56~61のいずれかの方法によって得られた分化した人工多能性幹細胞を含む、薬学的組成物。
63.
非経口適用のために適合されている、項目62の薬学的組成物。
64.
項目56~61のいずれかの方法によって多能性幹細胞から分化させた標的細胞を対象に投与する段階
を含む、対象における先天性または後天性の変性障害を処置する方法。
65.
障害が神経障害である、項目64の方法。
66.
疾患が、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症およびバッテン病からなる群より選択される神経障害である、項目65の方法。
67.
障害が肝障害である、項目64の方法。
68.
項目52もしくは53の人工多能性幹細胞集団により産生されるか、または項目52もしくは53の人工多能性幹細胞の分化によって得られた細胞により産生される、細胞外膜小胞。
69.
小胞がエキソソームである、項目68の細胞外膜小胞。
70.
治療剤の送達担体としての項目68または69の細胞外膜小胞の使用。
71.
乳腺上皮基礎培地MCDB 170、EpiLife培地、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、F12(ハムF12培地)、およびFBS(ウシ胎仔血清)を含む、細胞培養培地。
72.
約10~約30% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約20~約40% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約5~約15% (v/v)の最終濃度のF12、約30~約45% (v/v)の最終濃度のDMEM、および約0.1~2% (v/v)の最終濃度のFBSを含む、項目71の細胞培養培地。
73.
約15~約25% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約25~約35% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約7.5~約13% (v/v)の最終濃度のF12、約35~約40 % (v/v)の最終濃度のDMEM、および約0.5~1.5 % (v/v)の最終濃度のFBSを含む、項目72の細胞培養培地。
74.
約20% (v/v)の最終濃度の乳腺上皮基礎培地MCDB 170、約30% (v/v)の最終濃度のEpiLife培地、約12.5 (v/v)の最終濃度のF12、約37.5% (v/v)の最終濃度のDMEM、および約1.0% (v/v)の最終濃度のFBSを含む、項目73の細胞培養培地。
75.
最終体積1000 mlの培養培地を得るために、
200 mlの乳腺上皮基礎培地MCDB 170、
300 mlのEpiLife培地、
250 mlのDMEM、
250 mlのDMEM/F12、および
1%のウシ胎仔血清
を混合することによって得られる、項目71~74のいずれかの細胞培養培地。
76.
約1~約7.5 μg/mlの最終濃度のインスリンを含む、項目71~75のいずれかの細胞培養培地。
77.
約1~約15 ng/mlの最終濃度のヒト上皮成長因子(EGF)を含む、項目71~76のいずれかの細胞培養培地。
78.
トランスフェクトされた、臍帯の羊膜の上皮幹細胞の回復に適した培地が、以下のサプリメント: アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)のうちの少なくとも1つを含む、項目71~77のいずれかの細胞培養培地。
79.
アデニン、ヒドロコルチゾン、および3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)の3つ全てを含む、項目78の細胞培養培地。
80.
約0.05~約0.1 mMアデニンの最終濃度のアデニン、約0.1~0.5 μMヒドロコルチゾンの最終濃度のヒドロコルチゾン、および/または約0.1~約5 ng/mlの最終濃度の3,3',5-トリヨード-L-チロニンナトリウム塩(T3)を含む、項目79の細胞培養培地。
81.
1つまたは複数の形質転換成長因子(TGF)を含む、項目71~80のいずれかの細胞培養培地。
82.
約0.1~約5 ng/mlの最終濃度の形質転換成長因子β1(TGF-β1)および/または約1.0~約10 ng/mlの最終濃度の形質転換成長因子α(TGF-α)を含む、項目81の細胞培養培地。
83.
約1×10-11 M~約1×10-10 Mの最終濃度のコレラ菌由来のコレラ毒素を含む、項目71~82のいずれかの培地。
【配列表】
【国際調査報告】