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特表2025-507294EGFR結合ドメインとマスキングドメインとを含む融合タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-18
(54)【発明の名称】EGFR結合ドメインとマスキングドメインとを含む融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20250311BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250311BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250311BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20250311BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20250311BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20250311BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K45/00
A61P35/00
A61K47/68
C07K14/195
C07K14/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546086
(86)(22)【出願日】2023-02-06
(85)【翻訳文提出日】2024-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2023052882
(87)【国際公開番号】W WO2023148388
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】2250114-2
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523140072
【氏名又は名称】ザイトックス セラピューティクス アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストール、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ダールソン レイタオ、チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】レフブロム、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】メストレ ボラス、アンナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA17
4C084NA06
4C084NA07
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA41
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA11
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
EGFR結合ドメインと、マスキングドメインと、マスキングドメインをEGFR結合ドメインに連結するリンカーとを含む融合タンパク質が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EGFR結合ドメインと、マスキングドメインと、マスキングドメインをEGFR結合ドメインに連結するリンカーとを含む融合タンパク質であって、
マスキングドメインが、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み、
互いに独立して、
10が、R、K、M、NまたはQであり、
12が、Aまたは置換であり、
13が、Eまたは非存在であり、
14が、TまたはSであり、
15が、Eまたは置換であり、
16が、Iまたは置換であり、
19が、L、置換または非存在であり、
20が、P、置換または非存在であり、
21が、N、置換または非存在であり、
22が、L、置換または非存在であり、
23が、Tまたは置換であり、
24が、A、F、I、K、L、M、TまたはYであり、
25が、D、G、IまたはWであり、
26が、Qまたは置換であり、
28が、W、A、F、I、L、M、Q、R、S、TまたはVであり、
29が、Aまたは置換であり、
30が、Fまたは置換であり、
31が、IまたはLであり、
33が、Kまたは置換であり、かつ
34が、Lまたは置換であり、
ただし、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの6つ以下が置換であり、X19~X22のうちの2つ以下が非存在であり、並びに
EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EXAXEIX1011LPNLNX1718QX2021AFIX25SLX28Dを含み、
互いに独立して、
が、M、F、V、L、IまたはSであり、
が、W、D、EまたはLであり、
が、I、V、G、S、M、L、A、T、N、DまたはWであり、
が、W、V、L、I、MまたはSであり、
が、D、E、NまたはKであり、
10が、R、G、HまたはKであり、
11が、D、N、E、YまたはSであり、
17が、G、WまたはAであり、
18が、W、GまたはAであり、
20が、M、L、F、AまたはEであり、
21が、T、D、N、AまたはQであり、
25が、A、S、N、GまたはLであり、かつ
28が、L、W、V、FまたはAである、
融合タンパク質。
【請求項2】
マスキングドメインでは、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの4つ以下が置換であり、ならびに/またはX19~X22のうちの1つ以下が非存在である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
マスキングドメインでは、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの2つ以下が置換であり、ならびに/またはX19~X22がいずれも非存在でない、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
マスキングドメインでは、X10がRであり、X13が非存在であり、X14がTであり、X24がAであり、X25がDであり、X28がWであり、および/またはX31がIである、請求項1~3のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
マスキングドメインが、アミノ酸配列IRSX12TX1516WWX1920212223ADX26KWX2930IYX3334Vを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
マスキングドメインが、アミノ酸配列IRSATEIWWLPNLTADQKWAFIYKLV(配列番号1)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
EGFR結合ドメインでは、XがWであり、XがVもしくはWであり、X10がRもしくはGであり、X17がWもしくはGであり、X18がWもしくはGであり、および/またはX21がTもしくはDである、請求項1~6のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EXWXAWXEIRX11LPNLNGWQX20TAFIX25SLX28Dを含み、
互いに独立して、
が、M、V、LまたはIであり、
が、I、V、G、S、M、L、A、T、NまたはDであり、
が、D、E、NまたはKであり、
11が、D、N、E、YまたはSであり、
20が、M、LまたはFであり、
25が、A、SまたはGであり、かつ
28が、LまたはVである、請求項1~7のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項9】
EGFR結合ドメインでは、XがMであり、XがI、V、GもしくはSであり、X11がD、NもしくはEであり、X20がMであり、X25がAもしくはSであり、および/またはX28がLである、請求項1~8のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLD(配列番号2)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
Fc結合領域またはアルブミン結合領域(ABR)などの半減期延長領域をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
リンカーがプロテアーゼ切断可能リンカーである、請求項1~11のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
プロテアーゼ切断可能リンカーが、GFLG(配列番号11)、グルタミン酸-バリン-シトルリン、GILGVP(配列番号13)、GPLGIAGQ(配列番号14)、VHMPLGFLGP(配列番号15)、SGGPGPAGMKGLPGS(配列番号16)、PLGLAG(配列番号17)、LALGPG(配列番号18)、KRALGLPG(配列番号19)、GGGRR(配列番号20)、LSGRSDNH(配列番号21)、PMAKK(配列番号22)、RQARVVNG(配列番号23)、HSSKLQL(配列番号24)およびRRSSYYSG(配列番号25)からなる群から選択される配列を含む、請求項12に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の融合タンパク質と、細胞傷害性分子、細胞傷害性ペプチド、細胞傷害性タンパク質または細胞傷害性放射性核種などの細胞傷害剤とを含む治療用コンジュゲート。
【請求項15】
がんに罹患している対象の治療的処置方法に使用するための、請求項14に記載の治療用コンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腫瘍細胞上に発現されるEGFRの選択的標的化に関する。
【背景技術】
【0002】
癌(がん)では、発癌性受容体の過剰発現は一般的であり、腫瘍選択的薬物を設計する機会をもたらす。しかし、多くの場合、これらの受容体はまた、健康な組織内で豊富に発現されることが多いため、安全性および有効性の観点から治療の可能性が制限される。上皮増殖因子受容体(EGFRまたはErbB-1)は、多くの癌の腫瘍形成に関与するチロシンキナーゼ受容体であり、多くの場合、過剰発現に起因する。この受容体の治療標的化は、その豊富な内因性発現に起因する全身毒性という課題を特徴とする。腫瘍微小環境内では活性が高く、循環中および健康な組織内では活性が低い薬物を設計することは、毒性プロファイルおよび有効性を顕著に改善する可能性を有し、普通であれば全身毒性によって制限される、侵襲性の高い処置を選択することを可能にする。
【発明の概要】
【0003】
アフィボディ分子は、小さな(58アミノ酸残基、6.5kDa)3つのヘリカルな親和性タンパク質であり、効率的な組織浸透、高い安定性、機能的ドメインの単純なモジュール性、および原核生物宿主内での産生の容易さのために、抗体に基づく薬物の有望な代替物である。新規な結合特異性は、アフィボディ分子のヘリックス1および2上の表面露出残基のランダム化によって、大きなコンビナトリアルライブラリーから生じる(図1)。一般的な選択プラットフォームにはファージおよび細胞表面提示が含まれ、細胞表面提示は、蛍光支援細胞選別(fluorescence-assisted cell sorting)(FACS)を使用して結合集団を単離し、密接に関連する親和性を区別する可能性を提供する。グラム陽性スタフィロコッカス・カルノーサス(Staphylococcus carnosus)上に提示される、10バリアントのサイズを有するアフィボディライブラリー(Lofblom et al.Appl.Microbiol.Biotechnol.2017,101(23-24),8293-8307)は、新規なアフィボディバインダーを生成するために以前に使用されている。該ライブラリーは、配列バイアスを回避するトリヌクレオチドコドンと、終止コドンとを使用して合成された。この系は、ブドウ球菌プロテインAに由来するXM細胞壁固定配列を利用してアフィボディライブラリーを提示する。アフィボディバリアントを提示する細胞は、可溶性の蛍光標識された目的の標的とともにインキュベートされ、続いて、蛍光シグナルに基づいてFACSを使用して選別される。示差的に標識された蛍光アルブミンを使用して細胞表面アフィボディ発現を正規化するために、提示されたタンパク質構築物には2つのアルブミン結合ドメインが含まれて、親和性と蛍光シグナルとの間の線形相関を提供する。結合アフィボディバリアントを提示する細胞を捕捉するために固定化標的を有する磁気ビーズを使用するライブラリーの複雑さを低減するための前濃縮工程として、FACSの前に磁気支援細胞選別(magnetic-assisted cell sorting)(MACS)を使用することができる。
【0004】
本開示は、EGFRを標的とする、条件付き活性化アフィボディに基づくプロドラッグの開発に基づく。条件付き活性化を達成するために、スタフィロコッカス・カルノーサス(Staphylococcus carnosus)細胞表面提示を使用して、既存のEGFR標的化アフィボディ分子の結合界面をマスクする抗イディオタイプアフィボディ分子を選択した(ZEGFR:2377、Friedman et al.,J.Mol.Biol.2008,376(5),1388-1402;Tolmachev et al.Eur.J.Nucl.Med.Mol.Imaging 2010,37(3),613-622および国際公開第2007/065635号を参照)。ZEGFR:2377を以下「ZEGFR」と呼ぶ。
【0005】
S.カルノーサス(S.carnosus)の表面上でフローサイトメトリー(FC)において高い結合傾向を示すマスキングドメイン(「ZB05」)を単離した。ZB05アフィボディを可溶性単量体として生成し、ZEGFRへの結合、および熱安定性に関して特性評価した。SPRを使用した速度論的評価から、マスキングドメインの有用性にとって好ましい迅速な会合速度および解離速度が観察された。さらに、該タンパク質は、高い熱安定性(T 64.1°C)と、単量体アフィボディ分子に見られる一般的な形質である、熱変性後のリフォールディング能力とを示した。
【0006】
ZB05の様々な残基の結合寄与を変異によって調査した。変異誘発試験の結果から、保持された結合に関していくつかのランダム化された位置の残基の柔軟性および互換性が明らかにされた(図10を参照)。
【0007】
マスキングドメインとしてのZB05の可能性をさらに調査するために、TEV切断可能リンカーを使用してZB05をZEGFR-ABP(ABPは「アルブミン結合タンパク質」を意味する)に融合した概念実証プロアフィボディ(proof-of-concept pro-affibody)(POC-PA)構築物を設計した。蛍光標識された可溶性EGFRの存在下で、ブドウ球菌細胞上の提示されたタンパク質として、FCを使用して、EGFR結合をマスクする能力を最初に分析した。インタクトなタンパク質を提示する細胞ではEGFRへの結合を観察することはできなかったが、TEV-プロテアーゼによって細胞を処理した後、EGFRへの結合は回復した。
【0008】
該構築物を可溶性分子として生成し、TEVプロテアーゼによる切断について評価した。TEVプロテアーゼとの1時間のインキュベーション後、タンパク質は完全に消化され、SDS-pageゲル上に正しいサイズの明確なバンドが示された。表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた組換え固定化EGFRへの結合は、インタクトなPOC-PAについてはZB05によって同様にマスクされ、切断されたPOC-PAについては回復した。ヒト血清アルブミンを用いて固定化された別個の表面を使用して、インタクトなPOC-PAおよび切断されたPOC-PAの等しい注入量を確認した。
【0009】
内因的に発現されるEGFRへの結合について、それぞれ中程度から高レベルのEGFRを発現するH292ヒト粘膜表皮性肺癌細胞およびA431ヒト扁平上皮癌細胞に対して、インタクトなPOC-PAおよび切断されたPOC-PAを試験した。細胞単独に対する結合は、切断されたPOC-PAだけでなく、インタクトなPOC-PAでも観察することができた。それにもかかわらず、切断されたPOC-PAは、両細胞株についてシグナルを増加させ、ZEGFRに対する特異性を有しないダミーマスキングドメインとZB05が交換された構築物POC-PA-DMに匹敵した。
【0010】
放射性標識を使用して、[111In]In-標識プロドラッグと、非切断可能リンカー(「ダミーリンカー」)および非マスク対照を有するそのバリアントが、EGFR発現肝細胞に結合せずにインビボでEGFR発現マトリプターゼ陽性癌細胞を標的とする能力を評価した。111Inを使用した標識では、DOTA-キレート剤のマレイミド誘導体を全構築物のC末端にコンジュゲートした。この部位特異的手法は、放射性標識がZEGFR-ABD035融合の分布を反映することを確実にする。さらに、部位特異的標識は、様々な位置に様々な数のコンジュゲートされたキレート剤を有するタンパク質の混合物ではなく、均一に標識されたタンパク質を提供する。放射性標識された構築物はいずれも、高い放射化学的純度を有し、優れた安定性を示した。インビトロ試験では、両細胞株に対する[111In]In-標識非マスク対照の結合が、非標識ZEGFR-ABD035融合およびセツキシマブを使用した受容体の飽和によって顕著に減少することが実証され、これは、結合が特異的であったことを示す。[111In]In-標識プロドラッグおよびダミーリンカーのインビトロ結合は、はるかに低く、主に非特異的であった。これは、抗イディオタイプマスキングドメインの組込みが、インビトロでのEGFRへのこれらの構築物の結合を効率的に防止することを示唆している。
【0011】
111In]In-標識プロドラッグ、ダミーリンカーおよび非マスク対照の最初のインビボ評価では、血中のこれらすべてのタンパク質の濃度が非ABD035融合111In-ZEGFRの濃度よりもはるかに高く、腎摂取がはるかに低いことが実証された。この現象は、インビボでマウスアルブミンへのABD035の結合が存在することを実証している。これにより、該構築物の糸球体濾過と、近位細管内のそれらの再吸収とが防がれる。したがって、非ABD035融合ZEGFRに基づく標的化構築物よりも、該構築物のバイオアベイラビリティは高く、潜在的な腎毒性は低い。この実験から得られた最も重要な観察結果は、肝摂取に関する。肝臓内の非マスク対照の摂取は高く、注射後4および24時間でそれぞれ17.2±1および12.7±1.8% ID/gであった。これは、肝細胞上のEGFRの顕著な発現と、マウスEGFRに対するZEGFRの高い親和性とに起因して予測される。該プロドラッグおよびダミーリンカーは、はるかに低い肝摂取を有し、これは、マスキングドメインの組込みがその目的を果たしたことを示す。
【0012】
EGFR発現H292異種移植片を有するマウスを対象とした実験のデータから、全構築物の循環における滞留時間の延長と、[111In]In-標識プロドラッグおよびダミーリンカーの低い肝摂取とが確認された。重要なことに、H292異種移植片における[111In]In-プロドラッグの摂取は、EGFR陰性Ramos異種移植片よりも顕著に高かった。これは、イメージング(撮像)実験でも確認された。これにより、H292異種移植片における摂取がEGFR特異的であったことが実証される。別の興味深い知見は、プロドラッグおよびダミーリンカーでは、腫瘍摂取が同等に高かったことである。
【0013】
111In]In-標識プロドラッグの腫瘍摂取に果たすマトリプターゼの役割を解明するために、追加の実験を行った。H292異種移植片およびA431異種移植片を同時に有するマウスを対象として、腫瘍摂取を比較した。この実験の結果から、マトリプターゼ発現が高いH292異種移植片における摂取が、マトリプターゼ発現が低いA431異種移植片における摂取の2倍であることが実証された。同時に、細胞1個当たりのEGFR発現は、A431細胞ではH292細胞の3倍である。まとめると、これらのデータは、マトリプターゼが[111In]In-標識プロドラッグの腫瘍摂取に何らかの役割を果たすことを示唆している。同時に、A431異種移植片における摂取は、EGFR陰性Ramos異種移植片における摂取よりも高く、これは、マトリプターゼ非依存性機構も働いていることを示唆している。
【0014】
結論として、データは、マスクされたEGFRバインダーが非マスクバージョンよりも顕著に低い肝摂取を有し、興味深いことに、マスクされたEGFRバインダーの腫瘍摂取は、プロテアーゼ切断可能リンカーとは無関係に非マスクバージョンのものと同じレベルであったことを示す。このように、マスキングドメインは、腫瘍対肝臓比を顕著に改善する。
【0015】
したがって、本開示の実施形態の以下の項目化された一覧が提供される。
1.EGFR結合ドメインと、マスキングドメインと、マスキングドメインをEGFR結合ドメインに連結するリンカーとを含む融合タンパク質であって、
マスキングドメインが、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み、
互いに独立して、
10が、R、K、M、NまたはQであり、
12が、Aまたは置換であり、
13が、Eまたは非存在であり、
14が、TまたはSであり、
15が、Eまたは置換であり、
16が、Iまたは置換であり、
19が、L、置換または非存在であり、
20が、P、置換または非存在であり、
21が、N、置換または非存在であり、
22が、L、置換または非存在であり、
23が、Tまたは置換であり、
24が、A、F、I、K、L、M、TまたはYであり、
25が、D、G、IまたはWであり、
26が、Qまたは置換であり、
28が、W、A、F、I、L、M、Q、R、S、TまたはVであり、
29が、Aまたは置換であり、
30が、Fまたは置換であり、
31が、IまたはLであり、
33が、Kまたは置換であり、かつ
34が、Lまたは置換であり、
ただし、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの6つ以下が置換であり、X19~X22のうちの2つ以下が非存在であり、並びに
EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EXAXEIX1011LPNLNX1718QX2021AFIX25SLX28Dを含み、
互いに独立して、
が、M、F、V、L、IまたはSであり、
が、W、D、EまたはLであり、
が、I、V、G、S、M、L、A、T、N、DまたはWであり、
が、W、V、L、I、MまたはSであり、
が、D、E、NまたはKであり、
10が、R、G、HまたはKであり、
11が、D、N、E、YまたはSであり、
17が、G、WまたはAであり、
18が、W、GまたはAであり、
20が、M、L、F、AまたはEであり、
21が、T、D、N、AまたはQであり、
25が、A、S、N、GまたはLであり、かつ
28が、L、W、V、FまたはAである、
融合タンパク質。
2.マスキングドメインでは、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの4つ以下が置換であり、ならびに/またはX19~X22のうちの1つ以下が非存在である、項目1の融合タンパク質。
3.マスキングドメインでは、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの2つ以下が置換であり、ならびに/またはX19~X22がいずれも非存在でない、項目2の融合タンパク質。
4.マスキングドメインが、アミノ酸配列XIX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み、
互いに独立して、
が、Yまたは置換であり、
が、Aまたは置換であり、
が、Kまたは置換であり、かつ
が、Eまたは置換であり、
ただし、X~Xのうちの2つ以下が置換である、項目1~3のいずれか1つの融合タンパク質。
5.マスキングドメインが、アミノ酸配列XIX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み、
互いに独立して、
が、Vまたは置換であり、
が、Dまたは置換であり、
が、Aまたは置換であり、
が、Kまたは置換であり、
ただし、X~Xのうちの4つ以下が置換である、項目4の融合タンパク質。
6.マスキングドメインでは、X~Xのうちの2つ以下が置換である、項目5の融合タンパク質。
7.マスキングドメインが、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334VX363738394041424344を含み、
互いに独立して、
36が、Dまたは置換であり、
37が、Dまたは置換であり、
38が、Pまたは置換であり、
39が、Sまたは置換であり、
40が、Qまたは置換であり、
41が、Sまたは置換であり、
42が、Sまたは置換であり、
43が、Eまたは置換であり、
44が、Lまたは置換であり、
ただし、X36~X44のうちの4つ以下が置換である、項目1~6のいずれか1つの融合タンパク質。
8.マスキングドメインでは、X36~X44のうちの2つ以下が置換である、項目1~7のいずれか1つの融合タンパク質。
9.マスキングドメインが、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334VX36373839404142434445464748495051525354を含み、
互いに独立して、
45が、Lまたは置換であり、
46が、Sまたは置換であり、
47が、Eまたは置換であり、
48が、Aまたは置換であり、
49が、Kまたは置換であり、
50が、Kまたは置換であり、
51が、Lまたは置換であり、
52が、Nまたは置換であり、
53が、Dまたは置換であり、
54が、Sまたは置換であり、
ただし、X45~X54のうちの5つ以下が置換である、項目7または8の融合タンパク質。
10.マスキングドメインでは、X36~X54のうちの7つ以下が置換である、項目9の融合タンパク質。
11.マスキングドメインでは、X36~X54のうちの5つ以下が置換である、項目10の融合タンパク質。
12.マスキングドメインが、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334VX3637383940414243444546474849505152535455565758を含み、
互いに独立して、
55が、Qまたは置換であり、
56が、Aまたは置換であり、
57が、Pまたは置換であり、
58が、Kまたは置換であり、
ただし、X55~X58のうちの2つ以下が置換である、項目9~11のいずれか1つの融合タンパク質。
13.マスキングドメインでは、X36~X58のうち7つ以下が置換である、項目12の融合タンパク質。
14.マスキングドメインでは、X36~X58のうち5つ以下が置換である、項目13の融合タンパク質。
15.マスキングドメインでは、X10がRである、項目1~14のいずれか1つの融合タンパク質。
16.マスキングドメインでは、X13が非存在である、項目1~15のいずれか1つの融合タンパク質。
17.マスキングドメインでは、X14がTである、項目1~16のいずれか1つの融合タンパク質。
18.マスキングドメインでは、X24がAである、項目1~17のいずれか1つの融合タンパク質。
19.マスキングドメインでは、X25がDである、項目1~18のいずれか1つの融合タンパク質。
20.マスキングドメインでは、X28がWである、項目1~19のいずれか1つの融合タンパク質。
21.マスキングドメインでは、X31がIである、項目1~20のいずれか1つの融合タンパク質。
22.マスキングドメインが、アミノ酸配列IRSX12TX1516WWX1920212223ADX26KWX2930IYX3334Vを含む、項目1~21のいずれか1つの融合タンパク質。
23.マスキングドメインが、アミノ酸配列IRSATEIWWLPNLTADQKWAFIYKLV(配列番号1)を含む、項目1~22のいずれか1つの融合タンパク質。
24.EGFR結合ドメインでは、XがWである、項目1~23のいずれか1つの融合タンパク質。
25.EGFR結合ドメインでは、XがVまたはWである、項目1~24のいずれか1つの融合タンパク質。
26.EGFR結合ドメインでは、X10がRまたはGである、項目1~25のいずれか1つの融合タンパク質。
27.EGFR結合ドメインでは、X17がWまたはGである、項目1~26のいずれか1つの融合タンパク質。
28.EGFR結合ドメインでは、X18が、WまたはG、好ましくはWである、項目1~27のいずれか1つの融合タンパク質。
29.EGFR結合ドメインでは、X21が、TまたはD、好ましくはTである、項目1~28のいずれか1つの融合タンパク質。
30.EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EXWXAWXEIRX11LPNLNGWQX20TAFIX25SLX28Dを含み、
互いに独立して、
が、M、V、LまたはIであり、
が、I、V、G、S、M、L、A、T、NまたはDであり、
が、D、E、NまたはKであり、
11が、D、N、E、YまたはSであり、
20が、M、LまたはFであり、
25が、A、SまたはGであり、かつ
28が、LまたはVである、項目1~29のいずれか1つの融合タンパク質。
31.EGFR結合ドメインでは、XがMである、項目1~30のいずれか1つの融合タンパク質。
32.EGFR結合ドメインでは、Xが、I、V、GまたはSである、項目1~31のいずれか1つの融合タンパク質。
33.EGFR結合ドメインでは、X11が、D、NまたはEである、項目1~32のいずれか1つの融合タンパク質。
34.EGFR結合ドメインでは、X20がMである、項目1~33のいずれか1つの融合タンパク質。
35.EGFR結合ドメインでは、X25がAまたはSである、項目1~34のいずれか1つの融合タンパク質。
36.EGFR結合ドメインでは、X28がLである、項目1~35のいずれか1つの融合タンパク質。
37.EGFR結合ドメインでは、XがMであり、X20がMであり、X28がLである、項目1~36のいずれか1つの融合タンパク質。
38.EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLD(配列番号2)を含む、項目1~37のいずれか1つの融合タンパク質。
39.EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列VDNKFNKEMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLD(配列番号3)を含む、項目1~38のいずれか1つの融合タンパク質。
40.EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列EMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK(配列番号4)を含む、項目1~39のいずれか1つの融合タンパク質。
41.EGFR結合ドメインが、アミノ酸配列VDNKFNKEMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK(配列番号5)を含む、項目1~40のいずれか1つの融合タンパク質。
42.Fc結合領域またはアルブミン結合領域(ABR)などの半減期延長領域をさらに含む、項目1~41のいずれか1つの融合タンパク質。
43.以下から選択されるアミノ酸配列を含むアルブミン結合領域(ABR)をさらに含む、項目1~42のいずれか1つの融合タンパク質
a)LAXAKXAX10 ELDX14YGVSDX20 YKX23LIX2627AKT VEGVX35ALX383940 ILX43444546(ここで、互いに独立して、
が、E、S、QおよびCから選択され、
が、E、S、VおよびCから選択され、
が、A、LおよびSから選択され、
が、LおよびNから選択され、
10が、A、SおよびRから選択され、
14が、A、S、CおよびKから選択され、
20が、YおよびFから選択され、
23が、N、DおよびRから選択され、
26が、N、DおよびEから選択され、
27が、NおよびKから選択され、
35が、KおよびEから選択され、
38が、IおよびKから選択され、
39が、D、EおよびLから選択され、
40が、A、EおよびHから選択され、
43が、AおよびKから選択され、
44が、A、SおよびEから選択され、
45が、Lまたは非存在であり、
46が、Pまたは非存在である)
ならびにb)a)で定義された配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列。
44.ABRが、アミノ酸配列LAXAKXAX10 ELDX14YGVSDX20 YKX23LIX2627AKT VEGVX35ALX383940 ILAALPを含み、互いに独立して、
が、EおよびSから選択され、
が、EおよびVから選択され、
が、AおよびLから選択され、
が、LおよびNから選択され、
10が、AおよびRから選択され、
14が、A、S、CおよびKから、好ましくはA、SおよびKから選択され、
20が、YおよびFから選択され、
23が、N、DおよびRから選択され、
26が、NおよびDから選択され、
27が、NおよびKから選択され、
35が、KおよびEから選択され、
38が、IおよびKから選択され、
39が、DおよびLから選択され、
40が、A、EおよびHから選択され、
45が、Lまたは非存在であり、
46が、Pまたは非存在である、項目43の融合タンパク質。
45.ABRが、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、項目43による治療用コンジュゲート:
LAEAKVLANR ELDKYGVSDF YKRLINKAKT VEGVEALKLH ILAALP(配列番号6);
LAEAKEAANA ELDSYGVSDF YKRLIDKAKT VEGVEALKDA ILAALP(配列番号7);
GLAEAKEAAN AELDSYGVSD FYKRLIDKAK TVEGVEALKD AILAALP(配列番号8);
LAEAKVLANR ELDKYGVSDY YKNLINNAKT VEGVKALIDE ILAALP(配列番号9);
および
LAEAKVLALR ELDKYGVSDY YKDLIDKAKT VEGVKALIDE ILAALP(配列番号10)。
46.半減期延長領域が、EGFR結合ドメインのC末端側に位置する、項目42~45のいずれか1つの融合タンパク質。
47.リンカーがプロテアーゼ切断可能リンカーである、項目1~46のいずれか1つの融合タンパク質。
48.プロテアーゼ切断可能リンカーが、GFLG(配列番号11)、グルタミン酸-バリン-シトルリン、GILGVP(配列番号13)、GPLGIAGQ(配列番号14)、VHMPLGFLGP(配列番号15)、SGGPGPAGMKGLPGS(配列番号16)、PLGLAG(配列番号17)、LALGPG(配列番号18)、KRALGLPG(配列番号19)、GGGRR(配列番号20)、LSGRSDNH(配列番号21)、PMAKK(配列番号22)、RQARVVNG(配列番号23)、MSGRSANA(配列番号38)、HSSKLQL(配列番号24)およびRRSSYYSG(配列番号25)からなる群から選択される配列を含む、項目47の融合タンパク質。
49.リンカーの長さが、少なくとも12アミノ酸残基、例えば、12~60アミノ酸残基、例えば、20~50アミノ酸残基である、項目1~48のいずれか1つの融合タンパク質。
50.リンカーが、システイン(C)残基を含まない、項目1~49のいずれか1つの融合タンパク質。
51.マスキングドメインが、システイン(C)残基を含まない、項目1~50のいずれか1つの融合タンパク質。
52.EGFR結合ドメインが、システイン(C)残基を含まない、項目1~51のいずれか1つの融合タンパク質。
53.マスキングドメインが、EGFR結合ドメインのN末端側に位置する、項目1~52のいずれか1つの融合タンパク質。
54.項目1~53のいずれか1つの融合タンパク質と、細胞傷害性分子、細胞傷害性ペプチド、細胞傷害性タンパク質または細胞傷害性放射性核種などの細胞傷害剤とを含む治療用コンジュゲート。
55.細胞傷害剤が、177Lu、90Y、188Re;186Re;166Ho、153Sm、67Cu、64Cu、149Tb、161Tb、47Sc;225Ac;212Pb;213Bi、212Bi、227Th、223Ra;58mCo、131I、76As、77Asおよび211Atからなる群から選択される細胞傷害性放射性核種である、項目54による治療用コンジュゲート。
56.細胞傷害剤が、ドキソルビシン(DOX)、デュオカルマイシン(DUO)、ドセタキセル(DTX)、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)、モノメチルオーリスタチンF(MMAF)、パクリタキセル(PTX)、メルタンシン(DM1)、エムタンシン(DM1)、ラブタンシン(DM4)、ソラブタンシン(DM4)、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)およびカリケアマイシンからなる群から選択される細胞傷害性分子である、項目54による治療用コンジュゲート。
57.細胞傷害剤が、緑膿菌(Pseudomonas)外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、リシン毒素A鎖(RTA)およびデボウガニン(deBouganin)からなる群から選択されるタンパク質系毒素である、項目54による治療用コンジュゲート。
58.治療的処置方法に使用するための、項目54~57のいずれか1つによる治療用コンジュゲート。
59.治療的処置方法が、EGFRを過剰発現する癌などの癌(がん)に罹患している対象の処置方法である、項目58による使用のための治療用コンジュゲート。
60.癌(がん)が、肺癌、好ましくは非小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌、結腸および直腸癌、頭頸部癌、胃食道癌(esophagogastric cancer)、肝癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌ならびに膵癌からなる群から選択される、項目59による使用のための治療用コンジュゲート。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アフィボディ分子の概略図である。アフィボディ分子は、ブドウ球菌提示ライブラリーにおいてランダム化された14個の表面露出アミノ酸位置を示す。
【0017】
図2】概念実証プロアフィボディ(POC-PA)構築物の概略図である。POC-PA構築物は、EGFR結合アフィボディ分子に対する特異性を有する抗イディオタイプマスキングドメインと、TEVプロテアーゼ切断可能リンカーと、EGFR結合アフィボディドメインと、アルブミン結合タンパク質とを含む。
【0018】
図3】ZB05アフィボディマスキングドメインの特性評価を示す:(A)ZB05の熱変性後のリフォールディング能力を示す融解曲線(VTM)(左)および円二色性分光法(右);(B)B05と固定化ZEGFR(左)および陰性対照ヒト血清アルブミン(HSA)(右)との結合相互作用を示すSPRセンサーグラム。
【0019】
図4】可溶性単量体として生成したPOC-PAの特性評価を示す:(A)HSA親和性精製後の純度と、TEV-プロテアーゼのサイズと、TEV-プロテアーゼによる処理後の切断生成物のサイズとを示すSDS-page;ならびに(B)SPRを使用した、固定化ヒトEGFRへのPOC-PAのプロテアーゼ依存性結合(上)および固定化HSAへの影響を受けていない結合(下)の分析。
【0020】
図5】インタクトなPOC-PA、およびTEVプロテアーゼによって予め切断したPOC-PAに関するH292細胞およびA431細胞上のEGFR結合のフローサイトメトリー分析を示す。ダミーマスキングドメイン(ZE01)を有する対照構築物(POC-PA-DM)を比較のために含めた。
【0021】
図6】(A)A431細胞および(B)H292細胞における[111In]In-標識プロドラッグ、ダミーリンカーおよび非マスク対照の結合特異性を示す。標識を有しない100倍モル過剰の非マスク対照を用いて、事前飽和の有無にかかわらず放射性標識化合物とともに細胞を室温でインキュベートした。Y軸は、各ウェルに添加した総活性のパーセンテージとしての細胞の測定した総活性に対応する。アスタリスク(*)は、有意差(p<0.05、t検定)に対応する。
【0022】
図7】インビトロでのH292細胞およびA431細胞への[111In]In-標識非マスク対照結合の比較を示す。それぞれ遮断されたまたは遮断されていない、放射性標識または抗EGFR抗体セツキシマブを欠く100倍モル過剰の同じ化合物を用いて、事前飽和の有無にかかわらず、放射性標識化合物(1.64×106 CPM)とともに細胞を室温でインキュベートした。ディッシュの追加のセットを使用して、実験時にディッシュごとに細胞数を計数した。
【0023】
図8】(A)p.i.4時間および(B)p.i.48時間でのH292(EGFR陽性)異種移植片およびRamos(EGFR陰性)異種移植片における[111In]In-プロドラッグ摂取の比較(t検定)を示す;(C)p.i.48時間での同じ動物異種移植片におけるH292(EGFR陽性、マトリプターゼ高レベル)およびA431(EGFR陽性、マトリプターゼ低レベル)における摂取の比較(t検定)を示す。記号(×)は、H292異種移植片における摂取を示す;記号(+)は、Ramos異種移植片における摂取を示す;記号(●)は、A431異種移植片における摂取を示す。
【0024】
図9】(A)p.i.4時間および(C)p.i.48時間での、EGFR陽性H292異種移植片を有するBalb/c nu/nuマウスに[111In]In-標識非マスク対照(左)およびプロドラッグ(右)を使用したマイクロ単一光子放出型コンピュータ断層撮影(Micro-Single-Photon Emission Computed Tomography)/コンピュータ断層撮影(microSPECT/CT)撮像を示す。(B)p.i.4時間および(D)p.i.48時間での、EGFR陰性Ramos異種移植片を有するBalb/c nu/nuマウスに[111In]In-標識プロドラッグを使用したマイクロ単一光子放出型コンピュータ断層撮影(Micro-Single-Photon Emission Computed Tomography)/コンピュータ断層撮影(microSPECT/CT)撮像を示す。Tの矢印は腫瘍を指し示す。Lの矢印は肝臓を指し示す。
【0025】
図10】ZEGFRへの結合を保持するZB05足場の各ランダム化された位置で許容される置換を示す表である。非結合集団内の対応するバリアントについて少なくとも50%の枯渇を有するナイーブライブラリーと比較して、結合集団内の2倍濃縮から、結合を保持した許容される置換を決定した。ZB05配列のランダム化された位置は、矢印によってマークされている。
【0026】
図11】合計253個の異なるバリアントを含有するZB05変異誘発ライブラリーの代表的なFACS選別(左)、および結合集団のフローサイトメトリー分析(右)を示す。
【0027】
図12】例1で調製および試験した概念実証プロアフィボディ(POC-PA)の完全なアミノ酸配列を示す。マスキングドメインZB05では、ZEGFRへの結合に特に関連する部分配列(配列番号1)は灰色で強調されている。TEV切断可能リンカーでは、TEVによって認識される部分配列は灰色で強調されている。ZEGFR(すなわち、EGFR結合ドメイン)では、EGFRへの結合に特に関連する部分配列(配列番号2)は灰色で強調されている。
【0028】
図13】例2で使用した(概念実証)プロドラッグの完全なアミノ酸配列を示す。マスキングドメインZB05では、ZEGFRへの結合に特に関連する部分配列(配列番号1)は灰色で強調されている。マトリプターゼ切断可能リンカーでは、マトリプターゼによって認識される部分配列(配列番号21)は灰色で強調されている。ZEGFR(すなわち、EGFR結合ドメイン)では、EGFRへの結合に特に関連する部分配列(配列番号2)は灰色で強調されている。
【0029】
図14】以下の例3に記載されるPAの切断後のSDS-pageゲルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示の第1の態様として、EGFR結合ドメインと、マスキングドメインと、マスキングドメインをEGFR結合ドメインに連結するリンカーとを含む融合タンパク質が提供される。
【0031】
マスキングドメインは、EGFR結合ドメインに結合し、それによって、特定の条件下でEGFRへの結合を制限する。
【0032】
マスキングドメインは、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み、
互いに独立して、
10は、R、K、M、NまたはQであり、
12は、Aまたは置換であり、
13は、Eまたは非存在であり、
14は、TまたはSであり、
15は、Eまたは置換であり、
16は、Iまたは置換であり、
19は、L、置換または非存在であり、
20は、P、置換または非存在であり、
21は、N、置換または非存在であり、
22は、L、置換または非存在であり、
23は、Tまたは置換であり、
24は、A、F、I、K、L、M、TまたはYであり、
25は、D、G、IまたはWであり、
26は、Qまたは置換であり、
28は、W、A、F、I、L、M、Q、R、S、TまたはVであり、
29は、Aまたは置換であり、
30は、Fまたは置換であり、
31は、IまたはLであり、
33は、Kまたは置換であり、
34は、Lまたは置換である。
【0033】
位置X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のアミノ酸残基は、EGFR結合ドメインと能動的に相互作用する結合部位の一部を形成するとは考えられていない。したがって、これらの位置では、(ZB05と比較して)置換および場合によっては(X19~X22)さらには欠失が許容される。ただし、三次元構造は、それらの全部または大部分が置換または(X19~X22の場合)欠失された場合に結合能力が失われる程度に調整されると考えられる。したがって、第1の態様の融合タンパク質では、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの6つ以下は置換であり得、X19~X22のうちの2つ以下は非存在であり得る。
【0034】
マスキングドメインの一実施形態では、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの4つ以下は置換である。好ましくは、X12、X15、X16、X19、X20、X21、X22、X23、X26、X29、X30、X33およびX34のうちの2つ以下は置換である。
【0035】
代替的または相補的な実施形態では、X19~X22のうちの1つ以下は非存在である。好ましくは、X19~X22はいずれも非存在でない。
【0036】
一実施形態では、マスキングドメインは、N末端にさらなるアミノ酸残基(X~X)を含む。したがって、マスキングドメインは、アミノ酸配列XIX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み得、
互いに独立して、
は、Yまたは置換であり、
は、Aまたは置換であり、
は、Kまたは置換であり、
は、Eまたは置換であり、
ただし、X~Xのうちの2つ以下は置換である。
【0037】
一実施形態では、マスキングドメインは、N末端にさらに別のアミノ酸残基(X~X)を含む。したがって、マスキングドメインは、アミノ酸配列XIX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334Vを含み得、
互いに独立して、
は、Vまたは置換であり、
は、Dまたは置換であり、
は、Aまたは置換であり、
は、Kまたは置換であり、
ただし、X~Xのうちの4つ以下、例えば、2つ以下は置換である。
【0038】
一実施形態では、マスキングドメインは、C末端にさらなるアミノ酸残基(X36~X44)を含む。したがって、マスキングドメインは、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334VX363738394041424344を含み得、
互いに独立して、
36は、Dまたは置換であり、
37は、Dまたは置換であり、
38は、Pまたは置換であり、
39は、Sまたは置換であり、
40は、Qまたは置換であり、
41は、Sまたは置換であり、
42は、Sまたは置換であり、
43は、Eまたは置換であり、
44は、Lまたは置換であり、
ただし、X36~X44のうちの4つ以下、例えば、2つ以下は置換である。
【0039】
一実施形態では、マスキングドメインは、C末端にさらに別のアミノ酸残基(X45~X54)を含む。したがって、マスキングドメインは、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334VX36373839404142434445464748495051525354を含み得、
互いに独立して、
45は、Lまたは置換であり、
46は、Sまたは置換であり、
47は、Eまたは置換であり、
48は、Aまたは置換であり、
49は、Kまたは置換であり、
50は、Kまたは置換であり、
51は、Lまたは置換であり、
52は、Nまたは置換であり、
53は、Dまたは置換であり、
54は、Sまたは置換であり、
ただし、X45~X54のうちの5つ以下、例えば、3つ以下は置換である。
【0040】
マスキングドメインの一実施形態では、X36~X54のうちの7つ以下、例えば、5つ以下は置換である。
【0041】
マスキングドメインは、C末端で別の4つ(X55~X58)のアミノ酸残基にさらに伸長され得る。したがって、マスキングドメインは、アミノ酸配列IX10SX1213141516WWX1920212223242526KX28293031YX3334VX3637383940414243444546474849505152535455565758を含み得、
互いに独立して、
55は、Qまたは置換であり、
56は、Aまたは置換であり、
57は、Pまたは置換であり、
58は、Kまたは置換であり、
ただし、X55~X58のうちの2つ以下は置換である。
【0042】
マスキングドメインの一実施形態では、X36~X58のうちの7つ以下、例えば、5つ以下は置換である。
【0043】
マスキングドメインの好ましい実施形態では、
10はRであり、
13は非存在であり、
14はTであり、
24はAであり、
25はDであり、
28はWであり、および/または
31はIである。
【0044】
したがって、マスキングドメインは、アミノ酸配列IRSX12TX1516WWX1920212223ADX26KWX2930IYX3334Vを含み得る。
【0045】
一実施形態では、マスキングドメインは、システイン(C)残基を含まない。
【0046】
一実施形態では、マスキングドメインは、ZB05と同様に、アミノ酸配列IRSATEIWWLPNLTADQKWAFIYKLV(配列番号1)を含む。
【0047】
一実施形態では、マスキングドメインは、ZB05の配列であるアミノ酸配列VDAKYAKEIRSATEIWWLPNLTADQKWAFIYKLVDDPSQSSELLSEAKKLNDSQAPK(配列番号26)を含む。
【0048】
第1の態様の融合タンパク質のEGFR結合ドメインは、アミノ酸配列EXAXEIX1011LPNLNX1718QX2021AFIX25SLX28Dを含み、
互いに独立して、
は、M、F、V、L、IまたはSであり、
は、W、D、EまたはLであり、
は、I、V、G、S、M、L、A、T、N、DまたはWであり、
は、W、V、L、I、MまたはSであり、
は、D、E、NまたはKであり、
10は、R、G、HまたはKであり、
11は、D、N、E、YまたはSであり、
17は、G、WまたはAであり、
18は、W、GまたはAであり、
20は、M、L、F、AまたはEであり、
21は、T、D、N、AまたはQであり、
25は、A、S、N、GまたはLであり、
28は、L、W、V、FまたはAである。
【0049】
このアミノ酸配列(および以下に提示される実施形態)の背後にある理論的根拠は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/065635号に説明されている。
【0050】
EGFR結合ドメインの好ましい実施形態では、
はWであり、
は、VもしくはWであり、
10は、RもしくはGであり、
17は、WもしくはGであり、
18は、WもしくはG、好ましくはWであり、および/または
21は、TもしくはD、好ましくはTである。
【0051】
一実施形態では、EGFR結合ドメインは、アミノ酸配列EXWXAWXEIRX11LPNLNGWQX20TAFIX25SLX28Dを含み、
互いに独立して、
は、M、V、LまたはI、好ましくはMであり、
は、I、V、G、S、M、L、A、T、NまたはD、好ましくはI、V、GまたはSであり、
は、D、E、NまたはKであり、
11は、D、N、E、YまたはS、好ましくはD、NまたはEであり、
20は、M、LまたはF、好ましくはMであり、
25は、A、SまたはG、好ましくはAまたはSであり、
28は、LまたはV、好ましくはLである。
【0052】
EGFR結合ドメインの好ましい実施形態では、XはMであり、X20はMであり、X28はLである。
【0053】
特に好ましい実施形態では、EGFR結合ドメインは、以下から選択されるアミノ酸配列を含む:
(i)EMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLD(配列番号2);および
(ii)(i)で定義される配列に対して少なくとも90%の同一性、例えば、少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0054】
任意で、EGFR結合ドメインが以下から選択されるアミノ酸配列を含むように、追加のN末端アミノ酸残基が存在する:
(iii)VDNKFNKEMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLD(配列番号3);および
(iv)(iii)で定義される配列に対して少なくとも90%の同一性、例えば、少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0055】
任意で、EGFR結合ドメインが以下から選択されるアミノ酸配列を含むように、追加のC末端アミノ酸残基が存在する:
(v)EMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK(配列番号4);および
(vi)(v)で定義される配列に対して少なくとも90%の同一性、例えば、少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0056】
一実施形態では、EGFR結合ドメインが以下から選択されるアミノ酸配列を含むように、N末端およびC末端に追加のアミノ酸残基が存在する:
(vii)VDNKFNKEMWIAWEEIRDLPNLNGWQMTAFIASLLDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK(配列番号5);および
(viii)(vii)で定義される配列に対して少なくとも90%の同一性、例えば、少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0057】
配列(vii)は、以下の例のセクションで使用されるEGFR結合アフィボディ(ZEGFRとも呼ばれる)の配列である。
【0058】
一実施形態では、EGFR結合ドメインは、システイン(C)残基を含まない。
【0059】
第1の態様の融合タンパク質の一実施形態では、マスキングドメインは、EGFR結合ドメインのN末端側に位置する。したがって、この実施形態では、リンカーは、マスキングドメインのC末端をEGFR結合ドメインのN末端に連結している。
【0060】
第1の態様の融合タンパク質の一実施形態では、リンカーはプロテアーゼ切断可能リンカーである。好ましくは、そのようなリンカーは、以下のプロテアーゼ、すなわち、カテプシンB;MMP-2;MMP-9;MMP-7;ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子;マトリプターゼ;および前立腺特異的抗原(PSA)のうちの1つ以上によって切断可能である。これらのプロテアーゼは、腫瘍微小環境に見出される。
【0061】
上記のプロテアーゼは、以下に列挙される切断部位を認識する
【0062】
カテプシンB
GFLG(配列番号11;参考文献[1]を参照);および
グルタミン酸-バリン-シトルリン(参考文献[2]を参照)。
【0063】
MMP-2/-9
GILGVP(配列番号13;参考文献[1]を参照);
GPLGIAGQ(配列番号14;参考文献[1]を参照);
VHMPLGFLGP(配列番号15;参考文献[3]を参照);
SGGPGPAGMKGLPGS(配列番号16;参考文献[4]を参照);
PLGLAG(配列番号17;参考文献[5]を参照);および
LALGPG(配列番号18;参考文献[5]を参照)。
【0064】
MMP-7:
KRALGLPG(配列番号19;参考文献[1]を参照)
【0065】
ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子
GGGRR(配列番号20;参考文献[1]を参照);および
LSGRSDNH(配列番号21;参考文献[6]を参照)。
【0066】
マトリプターゼ
LSGRSDNH(配列番号21;参考文献[3]および[8]を参照);
PMAKK(配列番号22;参考文献[3]を参照);
RQARVVNG(配列番号23;参考文献[3]を参照);ならびに
MSGRSANA(配列番号38;参考文献[7]を参照)。
【0067】
前立腺特異的抗原(PSA)
HSSKLQL(配列番号24;参考文献[1]を参照);および
RRSSYYSG(配列番号25;参考文献[1]を参照)。
【0068】
その結果、プロテアーゼ切断可能リンカーの一実施形態は、上に列挙したこれらの切断部位配列のうちの少なくとも1つを含む。
【0069】
参考文献(プロテアーゼおよび切断部位)


【0070】
マスキング配列とEGFR結合配列とを互いに結合させるために、リンカーの長さは、典型的には少なくとも12アミノ酸残基、例えば、少なくとも20アミノ酸残基である。最大長は、例えば、50または60アミノ酸残基であり得る。
【0071】
一実施形態では、リンカーは、システイン(C)残基を含まない。
【0072】
第1の態様の融合タンパク質は、Fc結合領域またはアルブミン結合領域(ABR)などの半減期延長領域をさらに含み得る。半減期延長領域は、例えば、EGFR結合ドメインのC末端側に位置し得る。
【0073】
あるいは、半減期延長基は、融合タンパク質による一部ではなく、別の方法で融合タンパク質に接続される。この代替的な実施形態では、融合タンパク質および半減期延長基は、さらなる部分または基を含み得る構築物を一緒に形成する。
【0074】
タンパク質の様々な半減期延長戦略は、Kontermannによる総説論文(EXPERT OPINION ON BIOLOGICAL THERAPY,2016 VOL.16,NO.7,903-915)に記載されている。
【0075】
一実施形態では、第1の態様の融合タンパク質は、以下から選択されるアミノ酸配列を含むABRを含む
a)LAXAKXAX10 ELDX14YGVSDX20 YKX23LIX2627AKT VEGVX35ALX383940 ILX43444546(ここで、互いに独立して、
は、E、S、QおよびCから選択され、
は、E、S、VおよびCから選択され、
は、A、LおよびSから選択され、
は、LおよびNから選択され、
10は、A、SおよびRから選択され、
14は、A、S、CおよびKから選択され、
20は、YおよびFから選択され、
23は、N、DおよびRから選択され、
26は、N、DおよびEから選択され、
27は、NおよびKから選択され、
35は、KおよびEから選択され、
38は、IおよびKから選択され、
39は、D、EおよびLから選択され、
40は、A、EおよびHから選択され、
43は、AおよびKから選択され、
44は、A、SおよびEから選択され、
45は、Lまたは非存在であり、
46は、Pまたは非存在である)
ならびにb)a)で定義された配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列。
【0076】
このABR配列(および以下に記載される実施形態)の背後にある理論的根拠は、国際公開第2021/180727号に説明されている。
【0077】
ABRは、アミノ酸配列LAXAKXAX10 ELDX14YGVSDX20 YKX23LIX2627AKT VEGVX35ALX383940 ILAALPを好ましくは含み、互いに独立して、
は、EおよびSから選択され、
は、EおよびVから選択され、
は、AおよびLから選択され、
は、LおよびNから選択され、
10は、AおよびRから選択され、
14は、A、S、CおよびKから、好ましくはA、SおよびKから選択され、
20は、YおよびFから選択され、
23は、N、DおよびRから選択され、
26は、NおよびDから選択され、
27は、NおよびKから選択され、
35は、KおよびEから選択され、
38は、IおよびKから選択され、
39は、DおよびLから選択され、
40は、A、EおよびHから選択され、
45は、Lまたは非存在であり、
46は、Pまたは非存在である。
【0078】
ABRの一実施形態は、システイン(C)残基を含まない。
【0079】
一実施形態では、ABRは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む:
LAEAKVLANR ELDKYGVSDF YKRLINKAKT VEGVEALKLH ILAALP(配列番号6、ABD035);
LAEAKEAANA ELDSYGVSDF YKRLIDKAKT VEGVEALKDA ILAALP(配列番号7);
GLAEAKEAAN AELDSYGVSD FYKRLIDKAK TVEGVEALKD AILAALP(配列番号8、国際公開第2012004384号のPEP07914);
LAEAKVLANR ELDKYGVSDY YKNLINNAKT VEGVKALIDE ILAALP(配列番号9、ABDwt);
および
LAEAKVLALR ELDKYGVSDY YKDLIDKAKT VEGVKALIDE ILAALP(配列番号10)。
【0080】
本開示の第2の態様として、第1の態様の融合タンパク質と、細胞傷害性分子、細胞傷害性ペプチド、細胞傷害性タンパク質または細胞傷害性放射性核種などの細胞傷害剤とを含む治療用コンジュゲートが提供される。細胞傷害性ペプチドまたは細胞傷害性タンパク質の場合、治療用コンジュゲート全体は融合タンパク質であり得る。
【0081】
細胞傷害性分子は、例えば、ドキソルビシン(DOX)、デュオカルマイシン(DUO)、ドセタキセル(DTX)、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)、モノメチルオーリスタチンF(MMAF)、パクリタキセル(PTX)、メルタンシン(DM1)、エムタンシン(DM1)、ラブタンシン(DM4)、ソラブタンシン(DM4)、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)またはカリケアマイシンであり得る。
【0082】
一実施形態では、細胞傷害性分子は、DM1、MMAE、MMAFまたはDM4である(Tarcsa et al.Drug Discovery Today:Technologies;Volume 37,December 2020,Pages 13-22、およびKhongorzul et al.Mol Cancer Res;18(1)January 2020による概説を参照)。
【0083】
細胞傷害性タンパク質の例には、緑膿菌(Pseudomonas)外毒素(PE)およびその操作されたバリアント、例えば、PE38、ジフテリア毒素(DT)およびデボウガニンがある(Antignani et al,Biomolecules;2020 Sep 17;10(9):1331を参照)。
【0084】
細胞傷害性タンパク質の他の例には、CD3、CD47、PD-1、PD-L1、CTLA-4、4-1BBおよびOX40などの免疫調節標的に対する標的化ドメインがある(Blanco et al.,Clin Cancer Res 2021 Oct 15;27(20):5457-5464による概説を参照)。
【0085】
細胞傷害性放射性核種は、例えば、177Lu、90Y、188Re;186Re;166Ho、153Sm、67Cu、64Cu、149Tb、161Tb、47Sc;225Ac;212Pb;213Bi、212Bi、227Th、223Ra;58mCo、131I、76As、77Asおよび211Atからなる群から選択されてもよい。
【0086】
好ましい細胞傷害性放射性核種は、177Lu、90Yおよび188Reである(Rondon et al.,Cancers(Basel);2021 Nov 7;13(21):5570による概説を参照)。
【0087】
177Lu、90Y、188Re;186Re;166Ho、153Sm、67Cu、64Cu、149Tb、161Tb、47Sc;225Ac;212Pb;213Bi、212Bi、227Th、223Raおよび58mCoは、キレート剤に基づくコンジュゲーションによって融合タンパク質に結合され得る放射性金属である。キレート剤は、好ましくは、任意でチオール反応性リンカーを介して、融合タンパク質のシステイン残基に共有結合している。融合タンパク質のアミノ酸残基のアミンへの結合も可能であるが、一般にあまり好ましくない。
【0088】
キレート剤は、DOTAおよびその誘導体(例えば、DOTAのマレイミド誘導体)、架橋巨大環キレート剤ならびに立体的に制限された非環式キレート剤からなる群から選択され得る。
【0089】
177Lu、90Y、166Ho、153Sm、149Tb、161Tb、47Sc;225Ac;212Pb;213Bi、212Bi、227Thおよび58mCoに特に適したキレート剤は、DOTAおよびその誘導体DOTAGAである。
【0090】
67Cuおよび64Cuでは、CB-TE2Aなどの架橋キレート剤が良好な選択肢である。
【0091】
188Reおよび186Reでは、システイン含有ペプチドまたはメルカプトアセチル含有ペプチドに基づくキレート剤が好ましい。
【0092】
131I、76As、77Asおよび211Atは、共有結合コンジュゲーションによって融合タンパク質に結合され得る非金属放射性核種である。
【0093】
放射ヨウ素標識は、融合タンパク質のシステイン(C)残基に結合することができる((4-ヒドロキシフェニル)エチル)マレイミド(HPEM)を使用して達成され得る。As(III)形態の76Asおよび77As(および74As)は、融合タンパク質のシステイン(C)残基の(新たに)還元されたチオール基に直接カップリングされ得る。
【0094】
211Atのカップリングでは、N-[4-(トリ-n-ブチルスタンニル)フェネチル]-マレイミドをリンカーとして使用することができる。そのような場合、211Atは、4-アスタト-フェネチル-マレイミド(AtPEM)を形成するアスタトデスタニル化によってリンカーに最初にカップリングされ、これが次いで、融合タンパク質のシステイン(C)残基にカップリングされ得る。
【0095】
その結果、細胞傷害性放射性核種は、融合タンパク質のシステイン(C)残基を介して融合タンパク質に好ましくは連結される。交差/副反応を回避するために、そのような場合の融合タンパク質は、1つのシステイン(C)残基のみを好ましくは含む。
【0096】
細胞傷害性放射性核種を融合タンパク質に連結するシステイン(C)残基は、末端位置に配置されてもよい。好ましくは、システイン(C)残基は、融合タンパク質のC末端残基である。一実施形態では、このシステイン(C)残基は、ABRのC末端から伸長するアミノ酸配列のC末端残基である。そのようなアミノ酸配列は、例えば、EEEC(配列番号33)またはGSSC(配列番号34)であり得る。
【0097】
操作されたキメラ抗原受容体(CAR)を発現する免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞およびマクロファージ)の養子移入は、近年、ヒトに対する癌処置では、ずば抜けた可能性を示している。CD19指向性CAR T細胞の養子移入は、難治性および再発性B細胞悪性腫瘍を有する患者に完全かつ持続的な寛解をもたらした。CARの細胞外部分は、腫瘍抗原(TA)に対する親和性タンパク質を含む。親和性タンパク質は、膜貫通ドメインおよび細胞内刺激ドメインに典型的に融合される。癌細胞上のTAに細胞が結合すると、内因性下流シグナル伝達分子が動員されてシグナル伝達し、T細胞活性化と、癌細胞の殺傷とをもたらす。しかし、B細胞悪性腫瘍について観察された並外れた応答にもかかわらず、患者における操作されたT細胞の強力な細胞殺傷および極めて長い血清循環時間(おそらく生涯にわたる)は、健康な器官における毒性と、長期の副作用とを制御することに関する課題をもたらし得る。したがって、この処置は、好都合なTA発現プロファイルを有する癌に対して主に使用される。このため、CAR T細胞の活性を制御するための戦略に、かなりの尽力が集中している(Krug et al.,Cancers(Basel)2021 Dec 30;14(1):183による概説も参照)。
【0098】
第1の態様の融合タンパク質は、プロテアーゼ活性化CAR免疫細胞に使用され得る。そのようなCAR免疫細胞は、プロテアーゼ含有腫瘍では、優先的に活性である可能性を有する。あるいは、規定された時間枠の最中の細胞の活性化のために、CAR免疫細胞の注入とともに、対応するプロテアーゼを同時投与することができる。処置が完了した後、プロテアーゼは患者において利用可能ではなく、該細胞は不活性のままである。両戦略は、毒性と長期の副作用とを低減し、さらに多くの癌形態に対して該処置を利用可能にする可能性を有する。
【0099】
したがって、第2の態様の変形例では、第1の態様の融合タンパク質は、細胞療法に使用するために細胞の表面上に発現される。上記の説明から、細胞は、T細胞、NK細胞またはマクロファージ、特にT細胞またはNK細胞であり得ることになる。
【0100】
本開示の第3の態様として、治療的処置方法に使用するための、第2の態様の治療用コンジュゲートが提供される。
【0101】
治療的処置方法は、典型的には、EGFRを過剰発現する癌などの癌に罹患している対象の処置方法である。EGFRを過剰発現する癌の例には、肺癌(特に非小細胞肺癌)、前立腺癌、乳癌、結腸および直腸癌、頭頸部癌、胃食道癌、肝癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌ならびに膵癌がある。
【0102】
一実施形態では、処置方法は、腫瘍内のEGFR発現の程度を定量する診断工程、および腫瘍内のEGFRの過剰発現の場合には治療用コンジュゲートの投与を含む。
【0103】
EGFR発現の程度の定量は、例えば、撮像に基づくことによって、例えば、第1の態様の融合タンパク質を含む造影剤を使用することによってもよい。そのような造影剤では、融合タンパク質は、撮像に適した放射性核種にカップリングされ得る。撮像に使用される場合、融合タンパク質は、半減期延長領域を典型的に含まない。
【0104】
放射性核種を含む造影剤の投与に続いて、患者は、EGFR発現を検出、可視化および/または定量するために走査される。走査は、典型的には、断層撮影、好ましくは陽電子放射断層撮影(PET)または単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)である。後者の場合、CZTに基づくカメラ技術が使用され得る。
【0105】
一実施形態では、撮像に適した放射性核種は、18F、124I、76Br、68Ga、44Sc、61Cu、64Cu、89Zr、55Co、41Ti、66Ga、86Y、110mIn、123I、131I、99mTc、111Inおよび67Gaからなる群から選択される。好ましい群は、18F、68Ga、99mTcおよび111Inからなる。別の好ましい群は、18F、68Gaおよび111Inからなる。
【0106】
18Fによる放射性標識では、接合団(18Fへの共有結合を形成する)が融合タンパク質にカップリングされ得る。得られる構造の例には、N-(2-(4-[18F]-フルオロベンズアミド)エチル)マレイミド([18F]FBEM)、4-[18F]-フルオロベンズアルデヒド([18F]-FBA)、および[18F]-フルオロフェニルオキサジアゾールメチルスルホン([18F]-FPOS)がある。別の選択肢には、トリアザキレート剤と組み合わせた[18F]一フッ化アルミニウムがある。
【0107】
123I、124I、131Iおよび76Brによる放射性標識の場合にも、接合団が使用されてもよい。得られる構造の例には、ヨード-/ブロモ-ベンゾアート、およびヨード-/ブロモ-ヒドロキシフェニルエチルメアレイミド(hydroxyphenylethyl mealeimide)がある。
【0108】
68Ga、67Ga、66Ga、44Sc、55Co、41Ti、86Y、110mInおよび111Inによる放射性標識では、キレート剤をHBPにカップリングすることが好ましい。キレート剤の例には、DOTA、NOTA、NODAGAおよびDOTAGAならびにそれらの誘導体がある。
【0109】
61Cuおよび64Cuでは、CB-TE2Aなどの架橋キレート剤が良好な選択肢である。
【0110】
99mTcによる放射性標識では、ヘキサヒスチジン(H)、およびシステイン含有ペプチドまたはメルカプトアセチル含有ペプチドに基づくキレート剤などの様々なキレート剤を使用することができる。
【0111】
18F、124I、76Br、68Ga、44Sc、61Cu、64Cu、89Zr、55Co、41Ti、66Ga、86Yまたは110mInの場合、走査技術は、好ましくはPETである。
【0112】
123I、131I、99mTc、111Inまたは67Gaの場合、走査技術は、例えば、CZTに基づくカメラを使用するSPECTを含むことが好ましい。
【0113】
放射性核種は、融合タンパク質の末端、例えば、融合タンパク質のC末端に好ましくはカップリングされる。
【0114】
一実施形態では、融合タンパク質は、放射性核種のためのキレート剤を形成する伸長部を含む。一例として、キレート剤形成部分は、99mTcに結合することができる配列HHHHHH(配列番号35)を含み得る。HHHHHHの代替例はHEHEHE(配列番号30)である。
【0115】
本開示の第4の態様として、第2の態様の治療用コンジュゲートを投与する工程を含む、癌に罹患している対象の処置方法が提供される。
【0116】
本開示の第5の態様として、第2の態様の治療用コンジュゲートと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0117】
組成物は、例えば、静脈内投与に適合させられ得る。したがって、組成物は水性であってよい。水性組成物は、好ましくは緩衝され、例えば、リン酸緩衝される。一例として、組成物は、リン酸緩衝生理食塩水に基づいてもよい。水性組成物は、ヒト血清アルブミン(HSA)を含み得る。HSAは、フリーラジカルを捕捉し、治療用コンジュゲートへの放射線分解損傷を防止する。HSAの量は、10~150mg/ml、例えば、50~100mg/ml、好ましくは75mg/mlであり得る。
【実施例
【0118】
例1
材料および方法
細菌培養およびライブラリー発現
【0119】
10μg/mLクロラムフェニコールを補充したB2培地(1%カゼイン加水分解物、2.5%酵母抽出物、0.5%D-グルコース、2.5%NaCl、0.08%KHPO、pH=7.4)中で、S.カルノーサス(S.carnosus)細胞を一晩増殖させた。バインダーの単離には、表面に10の異なるアフィボディバリアントを発現するコンビナトリアルなS.カルノーサス(S.carnosus)ライブラリーを使用した。
【0120】
標的ビオチン化
【0121】
ZEGFR-His-CysをIMACによって精製し、製造業者の推奨に従ってEZ-Link(商標)Maleimide-PEG2-Biotin(Thermo Scientific)を使用してビオチン化した。製造業者の推奨に従ってBiotin-XX Microscale Protein Labelling Kit(Invitrogen,USA)を使用して、EGFR(Hisタグ)(中国Sino Biological Inc.)をビオチン化した。280nmでの吸光度を使用してタンパク質濃度を決定した。
【0122】
MACSを使用したZEGFRに対するライブラリー選択
【0123】
ストレプトアビジンをコーティングしたDynabeads(Invitrogen,USA)(500μL)を800μLのPBS-P(0.1%Pluronic(登録商標)F108 NF Surfactant、pH7.4;BASF Corporation,USAを補充したリン酸緩衝生理食塩水)を用いて2回洗浄し、穏やかに回転させながら室温で1時間にわたって150nMのビオチン化ZEGFRとインキュベートした。その後、2mMのEDTA(PBSP-E)を補充したPBS-Pを用いて、ZEGFRをコーティングした磁気ビーズを洗浄した。10倍のライブラリーカバレッジに対応する数の細胞(1010細胞)をPBSP-Eを用いて洗浄し、ペレットをPBSP-Eに再懸濁して5・10細胞/mLの最終濃度にした。ZEGFRをコーティングした磁気ビーズ1.25mgとともに、穏やかに回転させながら、細胞を室温で1時間、続いて氷上で5分間インキュベートした。チューブを磁気ラック上に4分間置いてビーズを捕捉し、上清を除去した。次いで、ビーズを30mLの氷冷PBS-Pに再懸濁した。ビーズの捕捉および洗浄を3回繰り返した。最後に、10μg/mLクロラムフェニコールを補充した50mLのB2培地に細胞を再懸濁した。培養物を37°Cおよび150rpmで一晩インキュベートした。磁気選別の前および後に採取した試料の段階希釈を使用して、集団サイズを計算した。最後に、PBS-P中の225nM Alexa Fluor 647-HSAコンジュゲートおよび33.3nMストレプトアビジンR-フィコエリトリンコンジュゲート(SAPE)とともにライブラリーをインキュベートした。細胞を氷冷PBS-Pを用いて2回洗浄し、300μLの氷冷PBS-Pに再懸濁した。Gallios(商標)フローサイトメーター(Beckman Coulter,CA,USA)を使用して細胞を分析した。検出に使用したレーザープロトコルは、Alexa Fluor 647-HSAの検出についてはFL6-660/20nm、SAPEの検出についてはFL2-575/20nmであった。
【0124】
FACSを使用したZEGFRに対するライブラリー選択
【0125】
続いて、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、MACS選択からのアウトプット細胞(ライブラリーサイズ≒10細胞)を選別した。新しいライブラリーサイズの100倍のカバレッジを一晩培養に使用した。細胞を氷冷PBS-Pを用いて2回洗浄し、150nMの濃度でPBS-Pに懸濁したビオチン化ZEGFRと混合した。試料を穏やかに回転させながら室温で1時間インキュベートした。その後、氷冷PBS-Pを使用して細胞を2回洗浄した。FACSによって細胞ライブラリーを可視化し、選別するために、PBS-P上の225nM Alexa Fluor 647-HSAコンジュゲートおよび33.3nM SAPEとともに細胞をインキュベートした。最後に、細胞を氷冷PBS-Pを用いて2回洗浄し、300μLの氷冷PBS-Pに再懸濁した。続いて、Astrios FC細胞選別機(Beckman Coulter,USA)を使用して、細胞を選別した。検出に使用したレーザープロトコルは、SAPEの検出については561-585/40 height-logであり、Alexa Fluor 647-HSAの検出については640-671/30 height-logであった。合計10個の細胞を1.5mLのB2培地に分取し、穏やかに回転させながら37°Cで1時間インキュベートした。その後、細胞を10μg/mLクロラムフェニコールを補充したB2培地と最終容量3mLまで混合し、穏やかに回転させながら37°Cで一晩インキュベートした。最後に、ライブラリーをFCによって試験し、グリセロールストックとして等分して、さらなる実験のために-80°Cで保存した。
【0126】
アフィボディ候補の選択および生成
【0127】
10μg/mLクロラムフェニコールを補充した寒天プレート上にライブラリーを播種し、10μg/mLクロラムフェニコールを補充したTSB-Y培地(Merck,Germany)上で単一コロニーを一晩増殖させることによって、個々のアフィボディ候補を選択した。細胞をFCによって分析し、シーケンシングのために送付した(Microsynth Seqlab,Germany)。制限クローニングによって、選択された候補アフィボディのコード配列をpETb26+細菌発現ベクター(Addgene,USA)にクローニングした。標準的な熱ショック処理によって、先にクローニングしたプラスミドによって大腸菌(Escherichia coli)BL21*細胞を形質転換した。形質転換からの単一コロニーを接種し、50ng/mLのカナマイシンを補充した10mLのTSB-Y培地中で一晩増殖させた。16時間後、一晩培養物を、50ng/mLのカナマイシンを補充したTSB-Yで1:100に希釈して、最終容量を100mLにした。培養物をOD600≒1で1mMの最終濃度までIPTGを用いて誘導し、27°Cおよび200rpmで一晩インキュベートした。16時間後、細胞を5000×gで8分間の遠心分離によって採取し、-20°Cで保存した。1.5分間の超音波処理(1s ON/1s OFF)、続いて4°Cおよび10000xgで20分間の遠心分離によって、細胞を溶解した。上清を濾過し(0.45μm)、目的のタンパク質を固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を使用して精製した。この目的のために、PD-10カラムを3mlのTALON Metal Affinity Resinで充填した。製造業者の推奨に従って(GE Healthcare,Sweden)、洗浄緩衝液(50mM NaHPO、500mM NaCl、15mMイミダゾール、pH8)および溶出緩衝液(50mM NaHPO、500mM NaCl、300mMイミダゾール、pH8)を使用した。最後に、製造業者の推奨に従って(GE Healthcare,Sweden)PD-10脱塩カラムを使用して、緩衝液をPBSに変更した。質量分析(MS)(4800 MALDI TOF/TOF、Applied Biosystems,USA)およびSDS-pageゲル(NuPAGE、Invitrogen,USA)によって、精製したタンパク質を分析した。
【0128】
円二色性を使用したZB05の二次構造、熱安定性およびリフォールディング能力の評価
【0129】
1mmの光路長を有するChirascan分光偏光計(Applied Photophysics,UK)を使用して円二色性分光法を行って、0.4mg/mLの濃度で構築物のアルファ-ヘリカル含有量、熱安定性、およびリフォールディング能力を分析した。20°Cから95°Cに加熱(5°C/分)した際の221nmでの楕円率の変化を測定することによって、熱安定性を評価した。Boltzmann Sigmoidalモデル(GraphPad Prismバージョン7、USA)を使用したカーブフィッティングによって、可変温度測定値(VTM)から取得したデータにより融解温度(Tm)を近似した。熱変性の前および後に20°Cで195~260nmの範囲の波長での測定から得られたスペクトルを比較することによって、リフォールディング能力を評価した。
【0130】
表面プラズモン共鳴による親和性スクリーニング
【0131】
Biacore 8K SPR機器(GE Healthcare,Sweden)を使用して、可溶性ZB05アフィボディマスキング候補およびPOC-PA分子について標的結合を測定した。製造業者の推奨に従って(GE Healthcare,Sweden)、デキストランCM-5センサーチップ上に、アミンカップリングによって約676RUのZEGFRと1000RUのHSAとを固定化した。PBS-T(0.05%Tween20、pH7.4を補充したリン酸緩衝生理食塩水)をランニング緩衝液として使用した。分析物ZB05およびZEGFRを5つの異なる濃度(200、100、50、25および12.5mM)で150秒間注入し、続いて150秒間解離させた。インタクトなPOC-PAおよび切断されたPOC-PAを100nMの濃度で150秒間注入し、続いて150秒間解離させた。実験は、25°C、流速100μL/分で行った。チップは、10mM HClを30秒間注入することによって再生させた。Langmuir 1:1動態モデルを使用してBiacore評価ソフトウェアによって、結合動態を分析した。
【0132】
ZB05マスキング候補の変異誘発試験、および結合分析
【0133】
ZB05配列内の各ランダム化された位置をシステインを除く各アミノ酸に個別に変異させ、合計253個の配列を生成した。各配列のオリゴを合成し、プールした(Twist Bioscience,USA)。NEB Builder(New England Biolabs,USA)を使用して、S.カルノーサス(S.carnosus)提示ベクターpSC2に、プールしたオリゴをクローニングした。得られたプラスミドを増幅のためにStellar(商標)Electrocompetent Cells(Takara Bio,Japan)に形質転換し、Qiagen Maxi prepキット(Qiagen,USA)を使用して抽出した。続いて、標準的なエレクトロポレーションプロトコルに従って、エレクトロコンピテントS.カルノーサス(S.carnosus)TM300細胞に増幅ベクターを形質転換した。
【0134】
10μg/mLクロラムフェニコールを補充したB2培地中で、S.カルノーサス(S.carnosus)細胞を一晩増殖させた。16時間後、細胞をPBS-Pを用いて2回洗浄し、150nMの濃度でPBS-Pに再懸濁したビオチン化ZEGFRと混合した。試料を穏やかに回転させながら室温で1時間インキュベートした。その後、氷冷PBS-Pを使用して細胞を2回洗浄した。FACSによってライブラリーを可視化し、選別するために、PBS-P中の225nM Alexa Fluor 647-HSAコンジュゲートおよび33.3nM SAPEとともに細胞をインキュベートした。最後に、細胞を氷冷PBS-Pを用いて2回洗浄し、300μLの氷冷PBS-Pに再懸濁した。続いて、Astrios FC細胞選別機(Beckman Coulter,USA)を使用して、結合および非結合について細胞を選別した。検出に使用したレーザープロトコルは、SAPEの検出については561-585/40 height-logであり、Alexa Fluor 647-HSAの検出については640-671/30 height-logであった。集団当たり合計10個の細胞を1.5mLのB2培地に分取し、穏やかに回転させながら37°Cで1時間インキュベートした。その後、細胞を10μg/mLクロラムフェニコールを補充したB2培地と最終容量3mLまで混合し、穏やかに回転させながら37°Cで一晩インキュベートした。最後に、選別された結合集団および非結合集団、ならびにナイーブライブラリーをFCを使用して試験し、次世代シーケンシングに使用した。
【0135】
変異誘発試験からのライブラリーのディープシーケンシング
【0136】
10μg/mLクロラムフェニコールを補充したB2培地中で、S.カルノーサス(S.carnosus)細胞を一晩増殖させた。Qiagen Miniprepキットを使用して、製造業者の指示に従って(Qiagen,USA)各ライブラリー集団からプラスミドを精製した。TrueSeqアダプターおよび特異的インデックス(Illumina,USA)を含有するプライマーを用いてプラスミドをPCR増幅することによって、ディープシーケンシングのために試料を調製した。MiSeq 300サイクル機器(Illumina,USA)を使用して、Scilifelab(National Genomics Infrastructure,Sweden)でシーケンシングを行った。Geneiousバージョン2020.1.1(Geneious,New Zealand)によって、アウトプットFASTQファイルを分析した。NGSを使用して、変異ZB05バリアントの結合集団および非結合集団、ならびにナイーブ変異誘発ライブラリーをシーケンシングした。ナイーブライブラリーの各位置におけるアミノ酸の出現率に対してデータを正規化した。非結合集団内の対応するバリアントについて少なくとも50%の枯渇を有するナイーブライブラリーと比較して、結合集団内の2倍濃縮から、ZEGFRへの結合を保持した許容される置換を決定した。
【0137】
ブドウ球菌提示ベクターへのPOC-PAサブクローニング
【0138】
TEVプロテアーゼ基質配列によって分離され、アルブミン結合タンパク質(ABP)に連結されたpSC2ベクターへの制限クローニングによって、EGFR結合アフィボディ分子ZEGFRと抗イディオタイプアフィボディ分子ZB05とをコードする遺伝子をクローニングした。TEVプロテアーゼ基質は、リンカーの長さを伸長するために、GSリピートが隣接する配列ENLYFQG(配列番号36)からなった(TEVプロテアーゼ基質を含むリンカーの正確な配列を図12に示す)。抗ZHER2アフィボディマスキングドメイン(EGFRと結合しない「ZE01」)を含有する構築物をpSC2にクローニングして、対照として使用した。得られたプラスミドをプラスミド増幅のために大腸菌(E.coli)TOP10に形質転換し、続いて、標準的なエレクトロポレーションプロトコルに従ってエレクトロコンピテントS.カルノーサス(S.carnosus)TM300細胞に形質転換した(Lofblom et al.J.Appl.Microbiol.2007,102(3),736-747)。
【0139】
POC-PAプロドラッグの完全なアミノ酸を図12に示す。
【0140】
S.カルノーサス(S.carnosus)細胞表面上のTEVプロテアーゼによるPOC-PA活性化
【0141】
以前に記載された標準的なプロトコルに従って、様々なプロドラッグ構築物を提示するS.カルノーサス(S.carnosus)細胞を一晩増殖させた。約10個の細菌細胞(10μLの一晩培養物)を800μLの1×PBS-Pを用いて2回洗浄し、4°Cおよび6000rpmで6分間遠心分離することによってペレット化した。細胞を、5単位のTEVプロテアーゼを補充したアッセイ緩衝液(50mM Tris-HCl、0.5mM EDTA、1mM DTT、pH8)、またはアッセイ緩衝液のみ(対照)のいずれかに再懸濁し、30°Cで1時間インキュベートした。細菌細胞をPBS-Pを用いて3回洗浄し、穏やかに回転させながら37°Cで45分間、50nMビオチン化EGFR受容体を補充した100μLのPBS-P、またはPBS-Pのみの中でインキュベートした。最後に、細胞をPBS-Pを用いて2回洗浄し、Alexa Fluor 647-HSAおよびストレプトアビジンR-フィコエリトリンコンジュゲートとともにインキュベートして、FCによって分析した。
【0142】
TEVプロテアーゼによる可溶性POC-PA活性化
【0143】
様々なプロドラッグ構築物をpET26b+発現ベクターにクローニングし、大腸菌(E.coli)BL21*細胞内で産生させた。自動精製システム(AKTA、GE Healthcare,Sweden)を使用してタンパク質を精製した。この目的のために、製造業者の指示に従って、10mLのHSA-セファロース、1×TST pH8、5mM、NH4Ac pH5.5、および0.5M HAcを充填したPD-10脱塩カラムを使用した。タンパク質を凍結乾燥し、-20°Cで保存した。33μgのTEVを補充したアッセイ緩衝液(50mM Tris-HCl、0.5mM EDTA、1mM DTT、pH8)に、POC-PA(ZB05-TEV基質-ZEGFR-ABP)タンパク質を30°Cで1時間再懸濁した。製造業者の推奨に従って(GE Healthcare,Sweden)PD-10脱塩カラムを使用して、緩衝液をPBS-0.1%BSAに変更した。
【0144】
哺乳動物細胞培養
【0145】
H292(ヒト粘膜表皮性肺癌)細胞株およびA431(ヒト扁平細胞皮膚癌)(American Type Culture Collection、ATCC、LGC Promochem,Sweden経由)細胞株を細胞傷害性アッセイに使用した。10%ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO.,USA)と、ペニシリン100IU/mLおよび100μg/mLストレプトマイシン(PEST、Biokrom Kg,Berlin,Germany)の混合物とを補充したロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地(Flow laboratories,UK)(H292用)、ならびに10%ウシ胎児血清を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)培地(Flow,Irvine,UK)(A431用)中で細胞を培養した。5%CO雰囲気中、37°Cで細胞を増殖させた。
【0146】
H292細胞およびA431細胞上のEGFR結合のフローサイトメトリー分析
【0147】
製造業者の推奨に従って(ATCC,USA)、上記のようにA431細胞およびH292細胞を培養した。トリプシン処理細胞(5・10)を再懸濁し、500μLのPBS-0.1%BSA中で洗浄した。細胞を、100nMのPOC-PAを補充した100μLのPBS-0.1%BSA(先にTEVプロテアーゼを用いてまたは用いずに処理した)中、室温で1時間インキュベートした。細胞をもう一度洗浄し、PBS-0.1%BSA中の225nM Alexa Fluor 647-HSAとともに氷上で45分間インキュベートした。最終洗浄工程後、細胞を300μLのPBS-0.1%BSAに再懸濁し、Gallios(商標)フローサイトメーター(Beckman Coulter,USA)を使用してFCによって分析した。
【0148】
結果
14個の表面露出残基のランダム化によるブドウ球菌提示を使用して、ZEGFRの結合表面に対する特異性を有する、ZB05と示される抗イディオタイプアフィボディマスキングドメインを首尾よく生成した(図1)。マスキングドメインの目的は、EGFR標的化アフィボディの結合を遮断することである。TEV-プロテアーゼ切断可能リンカーおよびアルブミン結合タンパク質(ABP)を介してEGFR結合アフィボディ分子ZEGFRのN末端に融合したマスキングドメインからなる概念実証プロアフィボディ(POC-PA)分子を構築した(図2および図12)。TEVプロテアーゼの基質配列を選択して初期特性評価を容易にし、精製タグおよび特性評価ツールとしてABPを含めた(ただし、治療用途では、ABPは半減期延長効果を有する)。
【0149】
アフィボディマスキング候補の単離
【0150】
109個というアフィボディバリアントの理論サイズを有するナイーブコンビナトリアルS.カルノーサス(S.carnosus)ライブラリーを使用して、EGFR結合アフィボディ分子ZEGFRの結合表面に対する親和性を有する抗イディオタイプアフィボディを単離した。磁気支援細胞選別(MACS)を最初に2回使用して、数回のFACSの前にライブラリーの複雑さを低減した。2回目のMACS選択ラウンド後の推定最大細胞多様性は、4.8・10バリアントであった。バインダーのライブラリーをさらに濃縮するために、3回のFACS選択を行った。FACSの1回目では、0.42%ゲートを使用して、2回目のMACSのアウトプットから細胞を選別し、ライブラリーF1Aを作成した。FACSの2回目では、3.02%ゲートを使用してF1Aを選別し、F2A1を得た。最後に、集団の12.77%を包含するゲートを用いてF2Aライブラリーに対して3回目のFACSを行い、ライブラリーF3A1.2を得た。各選択ラウンドからのアウトプットをフローサイトメトリー(FC)によって分析して、ZEGFRへの結合の濃縮を確認した。陰性対照を使用してストレプトアビジンバインダーの可能性を排除した(データは示さず)。選別されたアウトプットのフローサイトメトリー分析から分かるように、各選択ラウンド後に推定バインダーの数が増加した。
【0151】
個々のマスキングドメイン候補の親和性試験
【0152】
30を超えるシーケンシングされた候補(反復性および固有の両方)について、FCによって、ZEGFRへの結合を分析した。これらの候補のうちの1つ(ZB05)は、ZEGFRに対する高い結合傾向を示すことが見出され、EGFRを標的とするプロアフィボディの構築のための抗イディオタイプマスキングドメイン候補としてZB05を選択した。ZB05の配列を図10に示す。
【0153】
ZB05マスキング候補の変異誘発試験、および結合分析
【0154】
各ランダム化された位置におけるアミノ酸の結合寄与と、任意の他のアミノ酸への置換がZEGFRへの結合にどのように影響を及ぼすかとを評価するために、ZB05マスキングドメインの変異誘発試験を行った。ZB05の元の配列およびランダム化された位置を図10に示す。FACSを使用して、253個の異なるZB05バリアントを含有する変異誘発ライブラリーの結合集団および非結合集団を選別した。ライブラリーの代表的な選別、および結合集団のその後のフローサイトメトリー分析を図11に示す。NGSを使用して、結合集団および非結合集団、ならびにナイーブ変異誘発ライブラリーをシーケンシングした。結果を図10に要約する。位置13は、元のZB05配列では欠失しているにもかかわらず、変異誘発ライブラリーに含まれていた。データから、結合に重要であると思われる位置を識別することができる。これらには、任意の他のアミノ酸への置換が結合を無効にした位置9、11、17、18、27、32および35のアミノ酸が含まれる。位置14および31では柔軟性が制限されており、それぞれトレオニンからセリン、およびイソロイシンからロイシンへの置換が可能である。位置13は、元のZB05配列では欠失しており、グルタミン酸への置換のみを可能にする。非結合集団の40%が、欠失した位置にアミノ酸を含有し、結合集団ではわずか0.6%であったことから、欠失は結合に有益であると思われる。位置13にアミノ酸を挿入すると、ヘリックス1上の位置14、17および18に、高い見かけの結合寄与を有するアミノ酸の空間的位置がシフトすることから、これは驚くべきことではない。残りの位置(10、24、25および28)は、結合を保持するいくつかの異なるアミノ酸置換によって高度に可変である。
【0155】
抗イディオタイプマスキングドメインZB05の生成および特性評価
【0156】
ZB05マスキング候補をpET26b+ベクターにクローニングし、C末端Hisタグを含有する、7.6kDaの予測分子量を有する可溶性単量体として大腸菌(E.coli)BL21*細胞内で産生させた。タンパク質をIMACによって精製し、続いて、質量分析(MS)およびSDS-pageを用いて分析して、それぞれ質量同一性を確認し、純度を評価した(データは示さず)。円二色性分光法を使用して、二次構造を調査し、熱安定性およびリフォールディング能力を決定した。可変温度測定値(VTM)の結果を図3に示す。融解温度(T)は64.1°Cと計算された。タンパク質は、予測されるアルファ-らせん二次構造含量を示し、熱変性後に完全にリフォールディングすることができた(図3A)。表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくバイオセンサーアッセイを行って、ZEGFRに対するZB05の結合親和性を試験した。固定化ZEGFRを含むセンサーチップ上に、5つの濃度のZB05を注入した。HSAを固定化して、非特異的結合についてスクリーニングした。結果から、陰性対照表面への非特異的結合を伴わない、ZEGFRへのZB05の結合が確認される(図3B)。
【0157】
S.カルノーサス(S.carnosus)細胞表面上のPOC-PA活性の分析
【0158】
概念実証プロアフィボディ(POC-PA)を生成するために、ZB05配列およびZEGFR配列の両方を、TEV基質コード配列およびC末端アルブミン結合タンパク質(ABP)を有するリンカーを含有するブドウ球菌提示ベクターにサブクローニングした。EGFR結合ZEGFR分子とマスキングZB05アフィボディ分子との間の相互作用の初期分析を容易にするために、TEV-プロテアーゼを選択した。後の実験では、プロテアーゼ基質配列を容易に交換して、任意のプロテアーゼ特異性に対応することができた。POC-PA(ZB05-TEV基質-ZEGFR-ABP)をブドウ球菌(staphylococci)上に提示し、TEV-プロテアーゼによる処理の前および後にFCを使用して組換えヒトEGFRへの結合を分析した。この特定の実験ではインタクトなPOC-PAについてEGFRへの結合を検出することができなかったため(データは示さず)、結果から、ZEGFRとその標的との結合相互作用を妨げるZB05のマスキング能力が実証された。ただし、TEV-プロテアーゼによる処理後、EGFRへのZEGFRの結合は回復した(データは示さず)。全体として、結果から、プロテアーゼ切断が、POC-PAが溶液中のEGFRに結合するための要件であることが実証された。さらに、抗ZHER2アフィボディマスキングドメインとZEGFR結合ドメイン(POC-PA-DM)とからなる別の構築物を同じ条件で評価して、ZB05によるマスキングがZEGFRに対する特異性によって付与され、立体障害または非特異的相互作用に起因しないことを検証した(データは示さず)。この結果は、POC-PAの2つのドメイン間の相互作用が、ZEGFRに対するZB05の特異的な抗イディオタイプ結合に起因することを示している。
【0159】
可溶性POC-PAの生成、およびTEV切断の評価
【0160】
精製したタンパク質をMS(データは示さず)およびSDS-pageゲルの両方によって分析して、試料のサイズおよび純度をそれぞれ確認した(図4A)。タンパク質試料をTEVプロテアーゼとのインキュベーションの前および後に分析し、これにより、2つの生成物、ZB05マスキングドメイン(8146Da)、およびABPに融合したZEGFR結合ドメイン(30531Da)へのプロドラッグの切断を確認した(図4A)。SPRを使用して、固定化されたEGFRおよびHSAへのインタクトなPOC-PAおよび切断されたPOC-PAの両方の結合を分析した。センサーグラムを図4Bに示す。結果は、この特定の実験設定ではインタクトなPOC-PAのEGFRとの相互作用を妨げる、ZB05のマスキング能力を実証している。TEV-プロテアーゼによる切断後、POC-PAは、EGFRに高い親和性で結合することができた。HSAへのABPの結合は、ZB05の存在によって、またはTEV-プロテアーゼによる処理によって影響を受けなかった。結果は、FCから得られた結果を裏付け、これにより、ZB05のマスキング能力が確認される。
【0161】
フローサイトメトリーを使用したH292細胞およびA431細胞上のPOC-PAのEGFR結合分析
【0162】
インタクトなPOC-PA、およびTEV-プロテアーゼによって予め切断したPOC-PAの両方について、それぞれ中程度のEGFR発現および高いEGFR発現を有する2つのヒト癌細胞株H292(ヒト粘膜表皮性肺癌)およびA431(ヒト扁平上皮癌)上の天然EGFRへのPOC-PAの結合を分析した(図5)。EGFR特異的アフィボディの結合能力に対する立体障害の影響を評価するために、ダミー(非ZEGFR結合)マスキングアフィボディドメイン(ZE01)を有する構築物POC-PA-DMを含めた。切断されたPOC-PAのシグナルは、両細胞株ではPOC-PA-DMのシグナルと重複し、インタクトな切断されていないPOC-PAとは顕著に異なり、これは、ZB05マスキングドメインによるEGFR結合の特異的遮断と、プロテアーゼ媒介性活性化がZB05の除去によってEGFR結合を改善することとを示す。ただし、図5はまた、切断されていないPOC-PAが癌細胞上のEGFRにうまく結合することを実証しており、EGFR結合ドメインをマスキングドメインに連結するリンカーの切断が、治療用途では必ずしも必要とされないことを示している。
【0163】
例2(ZEGFRに基づくプロドラッグの生体内分布)
このインビボ生体内分布試験で使用したプロドラッグと例1で使用したPOC-PAプロドラッグとの間にはいくつかの相違がある:
・リンカーでは、TEV-基質配列がマトリプターゼ-基質配列に置き換えられる;
・ABPの代わりにABD035がアルブミン結合領域(ABR)に使用される(ABD035の方が、高い親和性を有する小さなドメインである);
・C末端に、トリグルタミル(EEE)リンカー、続いて、放射性金属キレート剤のコンジュゲーションのためのシステイン(配列番号33)が付加される(トリグルタミル(EEE)リンカーは親水性を増加させる);
・N末端HEHEHE-タグが付加される;および
・ZEGFRをABRに連結するスペーサーは、VDLQAC(配列番号28)の代わりにGGGGS(配列番号32)である。
【0164】
例2のプロドラッグの完全なアミノ酸配列(配列番号12)を図13に示す。
【0165】
材料および方法
細胞培養
【0166】
American Type Culture Collection(ATCC、LGC Promochem,Boras,Sweden経由)から、ヒト類表皮癌細胞株A431(EGFR陽性、マトリプターゼ低発現)、肺粘膜類表皮癌(lung mucoepidermoid carcinoma)細胞株H292(EGFR陽性、マトリプターゼ高発現)およびリンパ腫細胞株Ramos(EGFR陰性)を入手した。それらを、10%ウシ胎児血清(FBS)(Sigma-Aldrich)、2mM L-グルタミン、およびペニシリン100IU/mLと100μg/mLストレプトマイシンとの混合物を補充したRPMI-1640培地中で維持した。加湿インキュベーター内、37°C、5%CO雰囲気で細胞を増殖させた。
【0167】
標識化およびインビトロ安定性
【0168】
Curium Pharma(Curium Netherlands B.V.,Petten,The Netherlands)から塩化インジウム[111In]InClを購入した。緩衝液を高品質Milli-Q水中で調製し、Chelex 100樹脂(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA,USA)を使用して金属汚染物から一晩かけて精製し、0.2μm濾過した。3つの化合物を-20°Cで0.2M酢酸アンモニウム、pH6.0中で保存した。
【0169】
化合物(88~97μLの0.2M酢酸アンモニウム、pH6.0中21~25μg)を[111In]InCl(40μLの0.05M HCl中30MBq)と混合することによって放射性標識を行った。混合物を十分にボルテックスし、80°Cで60分間インキュベートした。インキュベーション後、500倍モル過剰のEDTA(16μLの0.2M酢酸アンモニウム、pH6.0中160μg)を添加し、混合物を80°Cで10分間インキュベートした。次いで、予め平衡化し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて溶出したNAP-5サイズ排除カラムを使用して、反応混合物を精製した。0.2Mクエン酸、pH2.0を用いて溶出したiTLCを用いて、化合物の放射化学的収率および放射化学的純度を決定した。この系では、[111In]In-標識化合物は適用点に留まり、遊離[111In]Inは溶媒フロントとともに移動する。ストリップ間の活性の分布を、Storage Phosphor System(CR-35 BIO Plus、Elysia-Raytest,Bietigheim-Bissingen,Germany)を使用して測定し、AIDA Image Analysisソフトウェア(Elysia-Raytest,Bietigheim-Bissingen,Germany)を使用して分析した。
【0170】
1000倍モル過剰のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の存在下、PBS中でインビトロ安定性を評価した。精製後、標識化合物(1~1.6μg、1%BSAのPBS溶液中50μL)の試料をEDTA(20μg、PBS中2μL)と混合し、室温で最大48時間インキュベートした。試料をiTLC分析のために1時間、4時間、24時間および48時間の時点で採取した。
【0171】
インビトロでのEGFR発現細胞における結合特異性
【0172】
以前に記載された方法(Wallberg et al.,Cancer Biother Radiopharm.2008;23(4):435-42)に従って、インビトロ結合特異性試験を行った。要約すると、実験の1日前に、10細胞/ウェルの密度で、EGFR陽性A431細胞およびH292細胞を6ウェルプレートに播種した。実験日の最中に、放射性標識化合物(10nM)の溶液を細胞プレートに添加した。遮断のために、放射性標識化合物の15分前に1000nMの非標識ZEGFR-ABD035-DOTAを添加して、室温で一連の(n=3)ウェル内で受容体を飽和させた。同じ容量の培養培地を別の一連のディッシュに添加して、容量を補った。細胞を37°Cで60分間インキュベートした。その後、培地を除去し、細胞を1mLのPBS洗浄を用いて洗浄した。次いで、細胞をトリプシン-EDTA溶液によって剥離し、回収した。自動化γ-分光計(2480 Wizard;Wallac,Finland)を使用して、細胞関連活性を測定した。
【0173】
追加のインビトロ結合実験を行って、インビトロでのH292およびA431におけるEGFR発現レベルを比較した。上記のように、放射性標識ZEGFR-ABD035-DOTA(10nM)(遮断なし)、およびセツキシマブ(1000nM)または非標識ZEGFR-ABD035-DOTA(1000nM)(遮断あり)とともに細胞をインキュベートした。同じ量の放射能(1.64×10カウント毎分(CPM))を各細胞培養ディッシュに添加した。さらに、各細胞株について追加の培養ディッシュ(n=3)内の細胞を計数した。非遮断細胞のCPM/10細胞から、セツキシマブによって遮断したCPM/10細胞を引いたものとして、特異的細胞結合活性を計算した。
【0174】
動物試験
【0175】
動物実験は、Local Ethics Committee for Animal Research in Uppsalaによって承認された。
【0176】
Scanbur A/S(Karlslunde,Denmark)から雌のNMRIマウスおよびBalb/c nu/nuマウスが供給され、実験手順の開始前に1週間の適応期間を設けた。
【0177】
NMRIマウスにおける生体内分布
【0178】
結合部位のマスキングが肝摂取を防ぐかどうかを試験するために、雌のNMRIマウス24匹を対象として、注射の4時間後および24時間後に生体内分布試験を行った。各時点について、マウス4匹の群に等モル量(133pmol)のそれぞれの化合物:3μgの[111In]In-標識プロドラッグ、3μgの[111In]In-標識ダミーリンカー、または1.8μgの[111In]In-標識非マスク対照を静脈内(i.v.)注射した(マウス1匹当たり100μLの1%BSAのPBS溶液中40kBq)。プロドラッグでは、リンカー(ZB05をZEGFRに連結する)は、GSの反復によって両側に伸長された配列LSGRSDNH(配列番号21)に基づくものであった(このリンカーの正確な配列を図13に示す)。したがって、このリンカーの全長は39アミノ酸残基であった。LSGRSDNHは、例えば、マトリプターゼによって認識されるため、プロテアーゼ切断可能である。その非切断可能なバリアント(すなわち、「ダミーリンカー」)では、リンカーは、代わりに、GGGGS(配列番号32)の3回のリピートによって両側に伸長されたGGGS(配列番号37)の2回のリピートであった。したがって、非切断可能リンカーの全長も39アミノ酸残基であった。
【0179】
マウスを麻酔溶液(体重1グラム当たり30μlの溶液、ケタミン10mg/mLおよびキシラジン1mg/mL)の過剰投与によって安楽死させ、心臓穿刺によって殺処分した。血液、唾液腺、肺、肝臓、脾臓、膵臓、小腸、大腸、腎臓、筋肉、骨を採取し、秤量した。消化管(その内容物を含む)および残りの屠体も採取した。自動化γ-分光計(2480 Wizard;Wallac,Finland)を使用して、臓器の活性、および注入溶液の標準を測定した。試料全体当たりの注射用量のパーセンテージ(%ID)として計算した消化管(その内容物を含む)および残りの屠体を除いて、試料重量1グラム当たりの注射用量のパーセンテージ(%ID/g)として摂取値を計算した。
【0180】
移植
【0181】
H292腫瘍移植のために、雌のBalb/c nu/nuマウスの右後肢に、Matrigelと1:1混合した100μLの培養培地中の10×10個のH292細胞を皮下注射した。移植の13~16日後に実験を行った。Ramos移植のために、雌のBalb/c nu/nuマウスの左後肢に、100μLの培養培地中の5×10個のRamosを皮下注射した。移植の13~15日後に実験を行った。A431腫瘍移植のために、雌のBalb/c nu/nuマウスの左後肢に、100μLの培養培地中の10×10個のA431細胞を皮下注射した。移植の16日後に実験を行った。平均動物体重は、H292群では17.6±1.3g、Ramos群では18.6±1.3g、A431群では17.3±1.8gであった。平均腫瘍重量は、H292異種移植片については0.38±0.23g、Ramos異種移植片については0.19±0.11g、A431異種移植片については0.11±0.06gであった。
【0182】
3つの化合物の生体内分布を経時的に評価するために、H292異種移植片を有するマウス24匹を6群に無作為化した(n=4)。各2群に、133pmolの[111In]In-標識プロドラッグ、[111In]In-標識ダミーリンカーまたは[111In]In-標識非マスク対照(マウス1匹当たり100μLの1%BSAのPBS溶液中40kBq)をそれぞれi.v.注射した。臓器および腫瘍を注射の4時間後および48時間後に採取し、秤量し、上記のように活性について測定した。
【0183】
EGFR結合のインビボ特異性(H292対Ramos 4時間および48時間)
【0184】
インビボ特異性を評価するために、EGFR陽性H292異種移植片を有するマウス8匹、およびEGFR陰性Ramos異種移植片を有するマウス8匹に、133pmolの[111In]In-標識プロドラッグを注射した。臓器および腫瘍をp.i.4時間およびp.i.48時間で採取し、秤量し、上記のように活性について測定した。
【0185】
マトリプターゼ機能のインビボ試験(同一動物におけるH292およびA431、48時間)
【0186】
プロドラッグの腫瘍摂取とマトリプターゼレベルとの関係を試験するために、右後肢にH292異種移植片(EGFR陽性、マトリプターゼ高発現)を、左後肢にA431異種移植片(EGFR陽性、マトリプターゼ低発現)を有するマウス5匹に、133pmolの[111In]In-標識プロドラッグ(マウス1匹当たり100μLの1%BSAのPBS溶液中40kBq)をi.v.注射した。マウスをp.i.48時間で安楽死させ、臓器、肝臓の半分、ならびにA431異種移植片およびH292異種移植片の一部を採取し、秤量し、上記のように活性について測定した。肝臓の別の半分、ならびに部分的にA431異種移植片およびH292異種移植片を採取し、ホルマリン固定し、組織病理学的検査のためにパラフィンに包埋した。
【0187】
撮像(イメージング)(H292およびRamos、4時間48時間)
【0188】
EGFR発現を撮像するために、nanoScan SPECT/CT(Mediso Medical Imaging Systems,Budapest,Hungary)を使用して、全身SPECT/CT走査を行った。H292異種移植片を有するマウス1匹に、[111In]In-標識プロドラッグ(14.7μg、1.9MBq)をi.v.注射した。対照として、H292異種移植片を有するマウス1匹に、[111In]In-標識非マスク対照(8.8μg、1.1MBq)をi.v.注射した。インビボ特異性を明らかにするために、Ramos異種移植片を有するマウス1匹に、[111In]In-標識プロドラッグ(11.2μg、2.9MBq)をi.v.注射した。p.i.4時間およびp.i.48時間でマウスを撮像した。[111In]In-標識化合物の撮像、および画像再構成は、以前に記載されたように行った(Rinne et al.J.Mol Sci.2020 Feb 15;21(4):1312)。
【0189】
統計分析
【0190】
GraphPad Prism(バージョン9.0.0;GraphPad Software,Inc.,La Jolla,CA,USA)を使用して、統計分析を行った。対応のない両側t検定を使用して、インビトロおよびインビボのデータを分析した。p値<0.05を統計学的有意差と考えた。
【0191】
結果
標識および安定性
【0192】
10%~21%の範囲の放射化学的収率で、インジウム-111を用いた3つの化合物の放射性標識を行った。サイズ排除カラム後の精製により、97%を超える純度が得られた(表1)。過剰のEDTAとのインキュベーション中に活性の放出は観察されなかった(表2)。
【0193】
【表1】
【0194】
【表2】
【0195】
インビトロ試験
【0196】
A431細胞株およびH292細胞株を用いて結合特異性試験を行った。両細胞株はEGFRを過剰発現する。両細胞株について、遮断群の非マスク対照では、活性の有意な(p<0.05、t検定)低下が観察された。これにより、A431細胞およびH292細胞への非マスク対照のEGFR媒介性結合が確認された。A431細胞株では、遮断群と非遮断群との間でプロドラッグまたはダミーリンカーについて有意差は観察されなかった(図6A)。しかし、H292細胞株では、遮断群と非遮断群との間で、プロドラッグまたはダミーリンカーについて、小さいが有意な(p<0.05、t検定)差が観察された(図6B)。A431細胞への[111In]In-標識非マスク対照の特異的結合はH292細胞の3倍であり(図7)、これは、この細胞株によるEGFR発現も3倍であることを示唆している。
【0197】
NMRIマウスにおける生体内分布
【0198】
NMRIマウスにおける3つの化合物の生体内分布に関するデータを表3に示す。血液中の活性濃度は、3つの化合物いずれでも、p.i.4時間で15%ID/g超、およびp.i 24時間で6%ID/g超であった。比較のために、非ABD035融合111In-ZEGFRの血中濃度は、4時間および24時間の時点でそれぞれ0.34±0.02および0.12±0.03%ID/gであった(Tolmachev et al.Eur J Nucl Med Mol Imaging.2010 Mar;37(3):613-22)。これは、ABD035への融合が循環時間の延長をもたらすことを示している。[111In]In-標識プロドラッグおよびダミーリンカーの生体内分布は、p.i.4時間での小さいが有意な(P<0.05、t検定)異なる腎摂取、ならびにp.i.24時間での唾液腺摂取および肝摂取の有意差を除いて、極めて類似していた。[111In]In-標識プロドラッグおよびダミーリンカーはいずれも、p.i.4時間およびp.i.24時間で非マスク対照よりも有意に低い肝摂取を有した。
【0199】
【表3-1】

【表3-2】
【0200】
H292異種移植片を有するBalb/c nu/nuマウスにおける生体内分布
【0201】
経時的な腫瘍摂取を評価するために、H292異種移植片を有するマウスに[111In]In-標識化合物を注射した。p.i.4時間およびp.i.48時間での生体内分布に関するデータを表4に示す。3つの化合物について、両時点で等しいレベル(p>0.3、t検定)の腫瘍摂取が観察された。[111In]In-標識プロドラッグおよびダミーリンカーは、p.i.4時間およびp.i.48時間の両時点で、[111In]In-標識非マスク対照よりも有意に(p<0.05、t検定)高い血液活性、肺、腎臓および筋肉などの臓器内での高い摂取、ならびに有意に(p<0.05、t検定)低い肝摂取を有した。
【0202】
【表4-1】

【表4-2】
【0203】
インビボ特異性
【0204】
インビボEGFR結合特異性を決定するために、p.i.4時間およびp.i.48時間で、H292異種移植片およびRamos異種移植片を有するマウスを対象として生体内分布を比較した。両時点で、EGFR陽性H292異種移植片は、EGFR陰性Ramos異種移植片よりも有意に(p<0.05、対応のないt検定)高いプロドラッグ摂取を有する(図8A図8B)。H292異種移植片における摂取は、10±2%ID/gおよび13±2%ID/gであったが、Ramos異種移植片における摂取は、それぞれp.i.4時間およびp.i.48時間で3±1%ID/gおよび2±0%ID/gであった。
【0205】
マトリプターゼの存在下でのプロドラッグの摂取を評価するために、p.i.48時間で、H292異種移植片およびA431異種移植片の両方を有するマウスを対象として生体内分布を比較した。マトリプターゼ陽性H292異種移植片における摂取(11±2%ID/g)は、マトリプターゼ陰性A431異種移植片(6±1%ID/g)よりも有意に(p<0.05、対応のあるt検定)高かった(図8C)。
【0206】
撮像(イメージング)
【0207】
H292異種移植片における[111In]In-標識プロドラッグおよび非マスク対照(図9A図9C)、ならびにRamos異種移植片における[111In]In-標識プロドラッグ(図9B図9D)の実験的microSPECT/CT撮像によって、生体内分布データを確認した。撮像により、p.i.4時間およびp.i.48時間で[111In]In-標識プロドラッグおよび非マスク対照の両方を含むEGFR発現H292異種移植片を明確に可視化することが可能になったが、Ramos異種移植片は、いずれの時点でも[111In]In-標識プロドラッグの注射後に可視ではなかった。
【0208】
例3(ZEGFRに基づくプロドラッグの生体内分布)
マトリプターゼによる切断効率を改善するために、4つの新しいプロアフィボディ(PA)バリアントを設計した。Zymeworks社によって開発された新しいプロテアーゼ認識配列(MSGRSANA、配列番号38、「ZW」)をPA-ZW-(GS)、PA-ZW-(GS)、PA-ZW-(GS)およびPA-ZWに使用し、上記で使用した元のLSGRSDNH配列を置き換えた:
【0209】
PA-ZW-(GS):(HE)-ZB05-(GS)-(ZW)-(GS)-ZEGFR-ABD035-EEEC;
PA-ZW-(GS):(HE)-ZB05-(GS)-(ZW)-(GS)-ZEGFR-ABD035-EEEC;
PA-ZW-(GS):(HE)-ZB05-(GS)-(ZW)-(GS)-ZEGFR-ABD035-EEEC;および
PA-ZW:(HE)-ZB05-ZW-ZEGFR-ABD035-EEEC。
【0210】
したがって、新しいPAでは、ZB05とZEGFRとを相互接続するリンカーは、1~3つのG4S配列に隣接する単一のZW配列、または3つのZW基質配列のコンカテマーを含有する。
【0211】
新しいバリアントを生成し、アフィニティークロマトグラフィーを使用して精製し、凍結乾燥し、PBSに溶解した。各バリアントについて4つの同一の試料を調製した。各試料には、50uLのPBSの総容量中、10uMのPAタンパク質および20nMの組換えヒトマトリプターゼ(cat.Nr.3946-SEB)を含有させた。試料を37°Cで1、3、5または24時間インキュベートした後、-20°Cで凍結した。試料調製に使用したのと同じストック由来のインタクト(int.)な非切断タンパク質を含む凍結試料を解凍し、SDS-PAGEによって分析した。
【0212】
図14に示すように、ZW基質配列を有するバリアントでは、効率的なマトリプターゼ切断が観察された。単一のZW配列を有するバリアントのほぼ完全な切断は、5時間後に見ることができる。ZW配列を含有するコンカテマーの完全な切断は、わずか1時間後に見ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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【国際調査報告】