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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-03-21
(54)【発明の名称】殺菌方法および殺菌システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/08 20060101AFI20250313BHJP
【FI】
A61L2/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024552382
(86)(22)【出願日】2023-03-16
(85)【翻訳文提出日】2024-09-02
(86)【国際出願番号】 IB2023000111
(87)【国際公開番号】W WO2023175394
(87)【国際公開日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】63/320,828
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(71)【出願人】
【識別番号】524327540
【氏名又は名称】シルド エーアイ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真
(72)【発明者】
【氏名】井上 統宏
(72)【発明者】
【氏名】宇野 進吾
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直也
(72)【発明者】
【氏名】若林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】徳田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】東條 公資
(72)【発明者】
【氏名】ノシャド モルテザ
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058CC02
4C058DD13
4C058DD16
4C058KK02
(57)【要約】
安全かつ最適で柔軟性の高い殺菌方法を提供する。
この殺菌方法は、所定のヒト活動領域内での殺菌領域を予め設定する殺菌領域設定ステップと、前記殺菌領域に隣接または近接する周辺領域を予め設定する周辺領域設定ステップと、前記周辺領域から取得される周辺領域情報に基づいて、前記殺菌領域に対する殺菌用電磁波の照射態様を決定する照射態様決定ステップと、前記殺菌領域に前記照射態様で殺菌用電磁波を照射する殺菌用電磁波照射ステップとを有する。
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のヒト活動領域を殺菌する殺菌方法であって、
前記ヒト活動領域内での殺菌領域を設定し、
前記殺菌領域に隣接または近接する周辺領域を設定し、
前記周辺領域に関する情報である周辺領域情報を取得し、
前記周辺領域情報に基づいて、前記殺菌領域に対する殺菌用電磁波の照射態様を決定し、
前記殺菌領域に前記照射態様で殺菌用電磁波を照射することを特徴とする殺菌方法。
【請求項2】
殺菌用電磁波が影響を及ぼしうる影響範囲をさらに取得するものであり、
前記周辺領域は、前記影響範囲に基づいて設定され、
前記影響範囲は、非殺菌用電磁波の前記殺菌領域への照射によって検知または演算される請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項3】
前記周辺領域の設定にあたって、前記影響範囲を表示装置に表示する請求項2に記載の殺菌方法。
【請求項4】
前記周辺領域情報には、前記周辺領域内でのヒトの有無を示すヒト存在情報が含まれ、このヒト存在情報が前記周辺領域でのヒトの存在を示している場合には、ヒトが存在しないと示している場合に比べ、前記殺菌用電磁波の照射態様の一つである照射強度を減少させまたは0にする請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項5】
前記照射態様は、さらに前記殺菌領域から取得される殺菌領域情報に基づいて決定され、
前記殺菌領域情報には、前記殺菌領域の汚染度およびヒト存在情報が含まれており、
前記殺菌領域にヒトが存在する場合には殺菌用電磁波の照射を停止するとともに、殺菌用電磁波照射前の当該殺菌領域での汚染度に応じて、ヒトの退去後の当該殺菌領域に対する殺菌用電磁波の照射態様である照射量、照射強度、照射部位またはこれらの任意の組み合わせを決定する請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項6】
前記汚染度は、殺菌前のヒトの滞在時間によって定められる請求項5に記載の殺菌方法。
【請求項7】
所定のヒト活動領域を殺菌する殺菌システムであって、
殺菌用電磁波を射出する殺菌用電磁波射出デバイスと、
この殺菌用電磁波射出デバイスを制御する制御デバイスとを備え、
この制御デバイスが、
ユーザによる入力に基づいて前記ヒト活動領域内での殺菌領域を設定し、
前記殺菌領域に隣接または近接する周辺領域を設定し、
前記周辺領域に関する情報である周辺領域情報を取得し、
前記周辺領域情報に基づいて、前記殺菌領域に対する殺菌用電磁波の照射態様を決定し、その照射態様となるように前記殺菌用電磁波射出デバイスを制御することを特徴とする殺菌システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線等の殺菌用電磁波を用いて所定の領域を殺菌する殺菌方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
部屋や施設等に設置される従来型のUV殺菌器は、そのまわりに紫外線を無差別に放射して、紫外線の届く領域全体を消毒する。そのため、この種のUV殺菌器は、営業時間後など、ヒトの活動が終わってだれもいない状態のときに、管理者等によって稼働される。
【0003】
近時では、特許文献1に示すように、部屋や施設などにおいて、ヒトをトラッキングし、そのヒトを避けて紫外線を照射することにより殺菌する技術も開発されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許10639390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者の場合、部屋や施設等にヒトがいて活動しているときは殺菌することができない。したがって、そのヒト活動期間においては、菌やウィルスを死滅させることはできず、ヒトへの感染に対応することはできない。
【0006】
後者の場合、ヒトの活動下でも紫外線による殺菌が可能なため、前者のような問題は発生しにくい。しかしながら、ヒトを避けながら紫外線を照射するだけなので、重点的に殺菌したい箇所の設定ができないなど、殺菌効率の最適化に関する視点が欠落しているだけでなく、ヒトが急に走り出すなどといった不測の場合の安全性の確保に関する視点も欠落しており、これらに対する検討が十分になされていない。
【0007】
本発明は、紫外線を含む殺菌用電磁波を用いて部屋等を殺菌する殺菌方法等において、上述した問題点を解決し、ヒトの存在下においても、最適で安全な殺菌をできるようにすべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る殺菌方法は、所定のヒト活動領域内での殺菌領域を予め設定する殺菌領域設定ステップと、前記殺菌領域に隣接または近接する周辺領域を予め設定する周辺領域設定ステップと、前記周辺領域から取得される周辺領域情報に基づいて、前記殺菌領域に対する殺菌用電磁波の照射態様を決定する照射態様決定ステップと、前記殺菌領域に前記照射態様で殺菌用電磁波を照射する殺菌用電磁波照射ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、自律ないし自動での殺菌方式を利用し、ヒトの活動中にも殺菌を行うことができるようにしつつも、例えば、ユーザの判断によって、効果の高い領域に殺菌を集中し、効果の薄い領域には殺菌を行わないように設定することができるため、殺菌の必要性がより高い領域をより短時間でかつ効率的に殺菌することができる。
【0010】
しかも、自律殺菌にあたっては、殺菌領域の例えばヒトの存在有無などを示す情報のみならず、その周辺領域の情報も加味して殺菌用電磁波の照射態様が定められるので、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態における殺菌システムの全体模式図である。
図2】同実施形態における殺菌器とヒト活動領域を示す平面図である。
図3】同実施形態における殺菌器の模式図である。
図4】同実施形態において、ユーザが用いる情報処理端末に表示されるユーザダッシュボードの一例である。
図5】同実施形態における領域設定画面を示す画面図である。
図6】同実施形態における二次紫外線照射領域を示す画面図である。
図7】同実施形態における領域設定画面を示す画面図である。
図8】同実施形態における殺菌システムの動作を示すフローチャートである。
図9】同実施形態における殺菌システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
1.全体構成
本実施形態に係る殺菌システム100は、図1図2に示すように、部屋や施設等のような人が出入りし、あるいは滞在するヒト活動領域Aに設置される1または複数の殺菌器200と、この殺菌器200と通信可能に接続された情報処理端末装置300とを備えたものである。なお、ここでいう殺菌とは、菌のみならず、その他の(有害な)微生物やウィルスを死滅ないし減少させることをいう。
【0014】
2.各部構成
[1]殺菌器200
前記殺菌器200は、図1図2に示すように、前記ヒト活動領域Aの例えば天井に取り付けられた筐体1と、この筐体1内に収容された紫外線射出デバイス2、ヒト認識センサ3、紫外線照射範囲検知機構4(図3に示す。)、人感センサ(図示しない)および制御デバイス5とを備えたものである。
以下に各部構成を、図3等を参照して詳述する。
【0015】
(1―1)筐体1
この筐体1は、メインケーシング11と、このメインケーシング11に自在接手等によって姿勢変更可能に取り付けられた可動ケーシング12と、この可動ケーシング12の姿勢を変更駆動する図示しないモータ等の駆動機構とを備えたものである。
【0016】
(1-2)紫外線射出デバイス2(殺菌用電磁波射出デバイス)
この紫外線射出デバイス2は、ここでは、紫外LEDや水銀ランプ等の第1光源体21とレンズやハーフミラー等の第1投光光学系22とを備えたものであり、前記可動ケーシング12に設けられた射出窓から、当該可動ケーシング12の姿勢方向に合わせて、所定の指向性を有する紫外線(殺菌用電磁波、例えばUV―C)を射出する。
【0017】
(1-3)ヒト認識センサ3
このヒト認識センサ3は、ヒトの存在とその位置とを検知するものであり、ここでは、前記メインケーシング11に保持された可視光カメラ31と、この可視光カメラ31で撮像した可視光画像データからヒトの位置を特定する画像解析ソフトウェアとを備えたものである。
【0018】
前記可視光カメラ31は、前記メインケーシング11の底面に設けられた広角レンズ等を含む受光光学系311と、この受光光学系311から導入され結像した可視光を検出する2次元エリアセンサ312とを備えたものであり、前記ヒト活動領域Aの全域を撮像できる姿勢・方向に設置されている。
【0019】
前記画像解析ソフトウェアは、ここでは、ここでは後述する制御デバイス5に搭載されている。この画像解析ソフトウェアは、AI(Artificial Intelligence)を利用したものであって、前記可視光画像データを解析し、ヒト活動領域Aにおけるヒトの位置を特定して、これを示すヒト位置データを出力する。具体的にこの画像解析ソフトウェアは、予め種々のヒトの画像データを教師データとして与えられてこれを機械学習することにより、前記ヒト活動領域Aの可視光画像データからヒトを判別し、その位置を特定する。機械学習の手法は深層学習が想定されるが、これに限定されない。なお、画像解析ソフトウェアは、AIを用いたもののみならず、画像データ間の差分やエッジ処理を施した画像データに基づいてヒトを認識する非AI型のソフトウェアや、これらの手法とAIとを組み合わせてヒトを認識するようなものでもかまわない。
【0020】
(1-4)紫外線照射範囲検知機構4(殺菌用電磁波照射範囲検知機構)
この紫外線照射範囲検知機構4は、ここでは、赤外線射出デバイス41(非殺菌用電磁波射出デバイス)と、赤外線検知センサ42(非殺菌用電磁波検知センサ)とを備えたものである。
【0021】
前記赤外線射出デバイス41は、赤外LEDやハロゲンランプ等の第2光源体411と、レンズやミラー等の第2投光光学系412とを備えたものであり、前記可動ケーシング12の射出窓から、前記紫外線と実質的に同軸で等しい指向性を有する赤外線(非殺菌用電磁波、例えばIR)を射出するように、すなわち、この赤外線の照射される領域が、前記紫外線の照射される領域と合致するように構成されている。なお、図中では、前記第2投光光学系412は、レンズなど、その一部が第1投光光学系22と共通化されているが、第1投光光学系22とは共通化せず、近接配置するなどしして別体としてもかまわない。
【0022】
赤外線検知センサ42は、ここではヒト活動領域Aを撮像する赤外線カメラである。この赤外線検知センサ42は、メインケーシング11の底面に設けられた広角レンズおよび赤外線透過フィルタを含む第2受光光学系421と、この第2受光光学系421から導入された赤外線を検出する2次元エリアセンサ422とを備えたもので、前記ヒト活動領域Aを撮像して、赤外線が照射された領域が示された赤外線画像データを出力する。
【0023】
しかして、前述したように、赤外線が照射される領域と紫外線が照射される領域とが合致しているために、この赤外線画像データで検出された領域が紫外線照射領域となる。
【0024】
なお、図中、この赤外線検知センサ42における2次元エリアセンサ422およびレンズは、前記可視光カメラ31のものと共通化してあり、図示しないバンドパスフィルタの切り替えによって、可視光画像と赤外線画像とのいずれかを選択的に撮像できるようにしてあるが、この赤外線検知センサ(赤外線カメラ)42と前記可視光カメラ31とを近接配置するなどして別体としてもかまわない。
【0025】
(1-5)人感センサ
前記ヒト認識センサ3とは別に、この実施形態では、前記紫外線射出デバイス2に並列して搭載された人感センサ(TOF型センサ/焦電型センサ、図示しない)が設けられている。この人感センサは、ヒトの有無を検知するもので、ヒト認識センサ3のバックアップ的な役割を担う。
【0026】
(1-6)制御デバイス5
この制御デバイス5は、CPU、メモリ、I/Oインタフェース、通信インタフェースなどを備えたコンピュータであり、前記メモリに格納されたプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協働することによって、前記ヒト認識センサ3や赤外線検知センサ42からの信号を受信してその内容を解析し、前記紫外線射出デバイス2や赤外線射出デバイス41の動作を制御する。
【0027】
[2]情報処理端末装置300
この情報処理端末装置300は、図1に示すように、本殺菌システム100の管理者やオペレータ等(以下では、これらを総称してユーザという。)が用いるもので、CPU、メモリ、I/Oインタフェース、通信インタフェース、ディスプレイ、マウスやキーボードなどの入力機器などを備えたいわゆる汎用コンピュータであり、LANやWANなどの情報通信網や、専用回線などにより、前記制御デバイス5と通信可能に接続されている。
【0028】
3.本殺菌システム100の設定、動作等
次に、本殺菌システム100の設定方法や動作の一例について、図8図9のフローチャートおよび図5図7のヒト活動空間平面図を参照して以下に説明する。
【0029】
[1]初期設定
(1-1)殺菌領域Bの設定(図8:ステップS1)
まず、ユーザによる殺菌領域Bの定義、すなわち、殺菌領域設定ステップが行われる。
【0030】
具体的には、前記情報処理端末装置300が、そのディスプレイ(ユーザダッシュボード)に、前記可視光カメラ31が撮像したヒト活動領域Aの可視光画像(一例を図4に示す)を表示するとともに、ユーザに対し、その可視光画像内で、紫外線を直接照射したい領域である殺菌領域Bの指定入力を促す。なお、ディスプレイには、可視光画像ではなく、図2に示すCAD図などのようなヒト活動領域Aの図面を表示してもかまわない。なお、以下では、図2等の図面がディスプレイに表示される場合について説明する。
【0031】
次に、ユーザが、マウスやタッチパネルなどの入力手段によって、ディスプレイのヒト活動領域画像内に1または複数の殺菌領域Bを、図5に示すように指定入力する。そうすると、制御デバイス5は、各殺菌領域Bを示すデータである殺菌領域データを情報処理端末装置300から受信し、メモリの所定領域に格納する。
【0032】
なお、このとき、前記TOFセンサによってヒト活動領域または殺菌領域の3Dレイアウトを検出し、制御デバイス5において、殺菌領域各部の面方位を演算によって算出する。このことにより、制御デバイス5は、照射される紫外線の方向と殺菌領域各部の面との角度を演算し、その情報を、殺菌に必要な紫外線照射量を確保するための校正データとして用いる。例えば、照射角度が浅い場合、それに応じて照射時間を長くとることで照射量を確保する。
【0033】
(1-2)周辺領域Cの設定(図8:ステップS2)
次に、ユーザによる周辺領域Cの定義、すなわち、周辺領域設定ステップが行われる。
【0034】
具体的には、まず、前記制御デバイス5からの指示によって、前記赤外線射出デバイス41から前記殺菌領域Bに赤外線が照射される。この殺菌領域Bが1回の赤外線の照射領域よりも大きい場合は、赤外線が走査され、殺菌領域全体に隈なく赤外線が照射される。
【0035】
この赤外線照射の間、前記制御デバイス5からの指示によって、赤外線カメラがヒト活動領域Aの赤外線画像を撮像する。このことによって、図6に示すように、前記殺菌領域に直接照射された赤外線のみならず、反射や散乱等によって赤外線が二次的に照射された領域、したがって紫外線が二次的に照射される可能性の高い影響範囲である二次紫外線照射領域Dが検出される。これが影響範囲取得ステップであり、いわば紫外線照射のシミュレーションである。
【0036】
制御デバイス5は、この二次紫外線照射領域を示すデータである二次紫外線照射領域データを情報処理端末装置300に送信する。
【0037】
これを受け取った情報処理端末装置300は、ディスプレイの可視光画像内に、二次紫外線照射領域Dを表示するとともに、ユーザに対し、前記殺菌領域B以外の領域に周辺領域Cの指定入力を促す。
【0038】
周辺領域Cは、紫外線が照射された場合に安全とはいえない領域なので、ユーザは、この二次紫外線照射領域Dを参照しながら、図7に示すように、マウスやタッチパネルなどの入力手段によって各殺菌領域Bに対応する周辺領域Cを指定入力する(ユーザは、二次紫外線照射領域Dをすべて含むように周辺領域Cを指定するであろう。)。
【0039】
そうすると、制御デバイス5は、この周辺領域Cを示すデータである周辺領域データを情報処理端末装置300から受信し、メモリの所定領域に格納する。
【0040】
[2]殺菌領域情報(汚染度)の取得(図8:ステップS3~S5)
次に制御デバイス5は、前記殺菌領域情報の一つである汚染度を取得する。
【0041】
初期設定が終了し、ユーザが本殺菌装置を動作させると、まず、前記ヒト認識センサ3によるヒト認識が行われる。
【0042】
具体的には、ヒト認識センサ3が、前記可視光画像データに基づいて、ヒトの位置を所定のサンプリングタイムごとに特定する。
【0043】
制御デバイス5は、このヒト位置データを逐次取得し、これらに基づいて、ヒト活動領域A内でのヒトの位置・移動軌跡を算出する。そして、ヒト活動領域A内での各場所でのヒトの滞在時間に応じた汚染度を算出し、メモリの所定領域に各殺菌領域の汚染度を示す汚染度データを格納する。
【0044】
この汚染度は、ヒトの滞在時間の増大に応じて増大するが、ヒトの非滞在時間が所定時間以上継続された場合には、汚染度をそれに応じて減少させてもよい。
【0045】
[3]照射ターゲットの設定(図8:ステップS6)
前記殺菌領域Bの汚染度が予め設定された設定閾値を超えた場合には、制御デバイス5は、その殺菌領域Bを照射ターゲットとしてメモリの所定領域に登録する。
【0046】
[4]紫外線照射量の算出(図9:ステップS7)
次に、制御デバイス5は、安全性が確認された照射ターゲット(殺菌領域B)のうちから所定の順序に従って1つの照射ターゲットを選び、当該照射ターゲットでの、前記汚染度に応じた、消毒に必要な紫外線照射量を算出する。このとき、紫外線射出デバイス2から殺菌領域Bまで距離、消毒面の方位に応じて紫外線照射量の校正が行われる。
【0047】
なお、紫外線照射量は、照射強度と照射時間との掛け算に基づいて定まるが、ここでは紫外線の強度を一定にしているので、照射量を増大させる場合は、照射時間を増加させる。照射時間を一定にする場合は、照射強度を増大させる。
【0048】
[5]安全性(ヒトの存在)確認(図9:ステップS8、S9)
次に、制御デバイス5は、前記ヒト認識センサ3によって、前記照射ターゲットとして登録された殺菌領域Bならびにこの殺菌領域Bに付帯する周辺領域Cの情報の一つであるヒトの存在を確認する。
【0049】
また、この時、前記紫外線射出デバイス2に並列して搭載された人感センサによっても、照射方向にヒトが居ないことを再確認(バックアップ)し、安全性を担保する。
【0050】
さらに、制御デバイス5は、前記紫外線照射範囲検知機構4を作動させることにより、紫外線照射に先立って赤外線を照射し、その赤外線画像を取得することにより、紫外線が確かにターゲット位置に向いていることやその反射光等が周辺領域C外にはみ出さないことを確認する。
【0051】
ここで安全確認が出来なかった場合、制御デバイス5は、当該殺菌領域への紫外線照射はひとまず行わず、次の紫外線照射ターゲットの処理へと進む(図9:ステップS13、S14)。
【0052】
[6]紫外線照射(ステップS10)
安全が確認されると制御デバイス5は、紫外線射出デバイス2を制御して、ターゲットである殺菌領域Bに対し、上述のように算出された照射量(ここでは照射時間)となるまで紫外線を照射する。
【0053】
紫外線照射中も前記安全確認ステップS8、S9は継続され、安全条件が破れた場合、直ちに紫外線照射は中断される(図9:ステップS13)。
【0054】
紫外線照射が終了または中断されると、制御デバイス5は、次の紫外線照射ターゲットの処理へと進む(図9:ステップS14)。
【0055】
すべての照射ターゲットでの殺菌が終了すると、殺菌動作の終了指示がない限り(図9:ステップS15)、制御デバイス5は、再度ステップ3に戻り、各殺菌領域Bに対する処理を始める。
【0056】
[7]汚染度の更新(図9:ステップS11)
制御デバイス5は、紫外線照射量に応じて当該殺菌領域Bの汚染度を減じる。具体的には、ここでは、照射時間に応じて汚染度を低減させていく。正常に紫外線照射が終了した時点での汚染度は、当然のことながら設定閾値より低い値となる。
【0057】
他方、何らかの理由で紫外線照射が中断された場合、その時点での汚染度がメモリに保持される。そして、汚染度がまだ設定閾値を超えている場合にはその殺菌領域Bの照射ターゲットへの登録は継続され、安全条件が回復した際に再度、紫外線照射が行われる。
【0058】
[8]殺菌状況の表示
制御デバイス5は、ヒト活動領域Aの殺菌状況を示す状況データを、逐次、情報処置端末装置に送信しており、情報処理端末装置300では、ユーザの操作により、あるいは常時、この殺菌状況をディスプレイに表示させることができるようにしてある。
【0059】
ここでの殺菌状況とは、各殺菌領域Bに対する殺菌処理状況(消毒まち/消毒中/消毒済み)、各殺菌領域Bの汚染度等のことである。このことにより、ユーザは、各殺菌領域Bの状況を確認して使用可能な殺菌領域Bを選択することができる。
【0060】
4.効果
以上の構成によれば、AI等を用いた完全自律ないし自動での殺菌方式を利用し、ヒトの活動中にも殺菌を行うことができるようにしつつも、AIに「お任せ」するのではなく、ユーザの判断によって、効果の高い領域に殺菌を集中し、効果の薄い領域には殺菌を行わないように設定することができるため、本当に殺菌が必要な領域を短時間で効率的に殺菌することができ、「ユーザの意図」を反映した手順の設計と実施が可能となる。
【0061】
しかも、自律殺菌にあたっては、殺菌領域Bの例えばヒトの存在有無などを示す情報のみならず、その周辺領域Cの情報も加味して殺菌用電磁波の照射態様が定められるので、安全性を大きく向上させることができる。
【0062】
5.本殺菌システム100の特徴
以上に述べた本殺菌システム100の特徴をまとめると以下のようになる。
【0063】
(開示1)
所定のヒト活動領域Aを殺菌する殺菌方法であって、
前記ヒト活動領域A内での殺菌領域Bを予め設定する殺菌領域設定ステップと、
前記殺菌領域Bに隣接または近接する周辺領域Cを予め設定する周辺領域設定ステップと、
前記周辺領域Cに関する情報である周辺領域情報を取得する周辺領域情報取得ステップと、
前記周辺領域情報に基づいて、前記殺菌領域Bに対する紫外線(殺菌用電磁波)の照射態様を決定する照射態様決定ステップと、
前記殺菌領域Bに前記照射態様で紫外線(殺菌用電磁波)を照射する紫外線(殺菌用電磁波)照射ステップとを有することを特徴とする殺菌方法。
【0064】
(開示2)
殺菌用電磁波が影響を及ぼしうる影響範囲を取得する影響範囲取得ステップをさらに有し、
前記周辺領域Cは、前記影響範囲に基づいて設定され、
前記影響範囲は、非殺菌用電磁波の前記殺菌領域Bへの照射によって検知または演算されることを特徴とする開示1に記載の殺菌方法。
【0065】
(開示3)
前記周辺領域設定ステップは、前記影響範囲を表示装置に表示する影響範囲表示ステップをさらに有していることを特徴とする開示1または2いずれかに記載の殺菌方法。
【0066】
(開示4)
前記周辺領域情報には、前記周辺領域C内でのヒトの有無を示すヒト存在情報が含まれ、このヒト存在情報が、前記周辺領域Cでのヒトの存在を示している場合には、ヒトの存在を示していない場合に比べ、紫外線(殺菌用電磁波)の照射態様である照射強度を減少させまたは0にすることを特徴とする開示1~3のいずれかに記載の殺菌方法。
【0067】
(開示5)
前記照射態様は、さらに、前記殺菌領域Bから取得される殺菌領域情報に基づいて決定され、
前記殺菌領域情報には、前記殺菌領域Bの汚染度およびヒト存在情報が含まれており、
前記殺菌領域Bにヒトが存在する場合には紫外線(殺菌用電磁波)の照射を停止するとともに、紫外線照射前の当該殺菌領域Bでの汚染度に応じて、ヒトの退去後の当該殺菌領域Bに対する殺菌用電磁波の照射態様である照射量、照射強度、照射部位またはこれらの任意の組み合わせを決定することを特徴とする開示1~4のいずれかに記載の殺菌方法。
【0068】
(開示6)
前記汚染度は、殺菌前のヒトの滞在時間によって定められることを特徴とする開示5に記載の殺菌方法。
【0069】
(開示7)
紫外線(殺菌用電磁波)を射出する紫外線(殺菌用電磁波)射出デバイス2と、
この紫外線(殺菌用電磁波)射出デバイス2を制御する制御デバイス5とを備え、
この制御デバイス5が、ユーザによる入力に基づいて前記ヒト活動領域A内での殺菌領域Bを設定し、
前記殺菌領域Bに隣接または近接する周辺領域Cを設定し、
前記周辺領域Cに関する情報である周辺領域情報を取得し、
前記周辺領域情報に基づいて、前記殺菌領域Bに対する紫外線(殺菌用電磁波)の照射態様を決定し、その照射態様となるように前記紫外線(殺菌用電磁波)射出デバイス2を制御することを特徴とする殺菌システム100。
【0070】
6.その他の実施形態
本発明は前記実施形態に限られない。
前記実施形態では、周辺領域は、ユーザの入力により設定されていたが、制御デバイスが検知された二次紫外線照射領域に基づいて、それを含むように周辺領域を自動で設定してもよい。
【0071】
前記実施形態では、周辺領域情報は、ヒトの存在の有無のみであったが、例えば、ヒトの移動方向や移動速度を含めてもよい、例えばヒトが殺菌領域から離れる方向に移動しているのであれば、周辺領域にヒトが存在しても、紫外線を照射するなどとしてもかまわない。
【0072】
前記実施形態では、殺菌領域情報として、ヒトの滞在時間およびヒトの存在の有無を挙げていたが、ヒトの継続的な非存在時間を含めてもよい。例えばこの非存在時間が長ければ、汚染度を下げるようにしてもかまわない。
【0073】
前記実施形態では、周辺領域にヒトが存在する場合、それに対応する殺菌領域での紫外線照射を停止していたが、照射強度を0にするのではなく、低減させてもかまわない。また、殺菌領域にヒトが立ち入ることなく過ぎ去った場合には、再度照射強度を戻して殺菌領域を殺菌するようにしてもよい。
【0074】
前記実施形態では、ヒトの殺菌領域での滞在時間を、汚染度としてスコアリングし、その値に基づいて殺菌領域に対する殺菌強度を定めていたが、汚染度を定めず、一律に殺菌するようにしてもかまわない。その場合、過去の一定期間における殺菌回数が少ない殺菌領域から順に殺菌を行うことなども考えられる。
【0075】
紫外線のみならず、殺菌できるのであれば、青色光やマイクロ波など、他の電磁波を用いてもよい。その他、前記実施形態での各デバイスやセンサは、同等の機能を発揮するものであれば他の方式でもかまわないなど、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々変形が可能である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】