(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-04-10
(54)【発明の名称】CD277と腫瘍抗原に対する二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20250403BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250403BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250403BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250403BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20250403BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250403BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250403BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
A61K47/65
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024550555
(86)(22)【出願日】2023-02-26
(85)【翻訳文提出日】2024-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2023054762
(87)【国際公開番号】W WO2023161457
(87)【国際公開日】2023-08-31
(32)【優先日】2022-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2023-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】バウマン クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】キューンケル クラウス ペーター
(72)【発明者】
【氏名】オーベルク ハンス ハインリヒ
(72)【発明者】
【氏名】パイップ マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェシュ ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】クマール サンディープ
(72)【発明者】
【氏名】パナヴァス タダス
(72)【発明者】
【氏名】ザバルト ニコラス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF34
4C085AA13
4C085AA14
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、CD277およびヒト腫瘍抗原に結合する二重特異性抗体に関する。本発明はまた、前記二重特異性抗体をコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞に関する。さらに、本発明は、前記抗体を産生する方法、疾患の治療における前記抗体の使用方法およびその治療的使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含み、前記第1の結合部分は完全長の二価抗体であり、前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなり、前記単鎖Fv抗体の各々は、第1の結合部分の各C末端にペプチドリンカーによって連結されていることを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記単鎖Fv抗体の各々は、可変軽鎖のN末端が第1の結合部分の各C末端にペプチドリンカーによって連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
第1の結合部分に、重鎖CDR配列として、配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3、ならびに軽鎖CDR配列として、配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
配列番号44のCDRH2が、配列番号68、配列番号72、または配列番号110で交換されていることを特徴とする、請求項3に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
配列番号6のCDRL1が、配列番号75、配列番号121、配列番号133、配列番号140または配列番号141で交換されていることを特徴とする、請求項3または4に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
重鎖CDR配列として、配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3、ならびに
b)軽鎖CDR配列として、
b1) 配列番号75のCDRL1、配列番号76のCDRL2、および配列番号77のCDRL3、
b2) 配列番号79のCDRL1、配列番号80のCDRL2、および配列番号81のCDRL3、
b3) 配列番号83のCDRL1、配列番号84のCDRL2、および配列番号85のCDRL3、
b4) 配列番号87のCDRL1、配列番号88のCDRL2、および配列番号89のCDRL3、
b5) 配列番号117のCDRL1、配列番号118のCDRL2、および配列番号119のCDRL3、
b6) 配列番号121のCDRL1、配列番号122のCDRL2、および配列番号123のCDRL3、
b7) 配列番号125のCDRL1、配列番号126のCDRL2、および配列番号127のCDRL3、
b8) 配列番号129のCDRL1、配列番号130のCDRL2、および配列番号131のCDRL3、
b9) 配列番号133のCDRL1、配列番号134のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b10) 配列番号137のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号139のCDRL3、
b11) 配列番号133のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号139のCDRL3、
b12) 配列番号140のCDRL1、配列番号134のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b13) 配列番号141のCDRL1、配列番号134のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b14) 配列番号141のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b15) 配列番号151のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b16) 配列番号152のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b17) 配列番号153のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b18) 配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号156のCDRL3、
b19) 配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号157のCDRL3、
b20) 配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号158のCDRL3、
b21) 配列番号154のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b22) 配列番号155のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3。
からなる群より選択されるCDRセット
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の二重特異性抗体、
【請求項7】
前記腫瘍抗原が、CLDN18.2、FOLR1、STEAP1、およびDLL3からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第2の結合部分について、可変軽鎖および重鎖CDRが、以下のものであることを特徴とする、請求項7に記載の二重特異性抗体:
a) 配列番号11のCDRL1、配列番号12のCDRL2、および配列番号13のCDRL3、および重鎖可変領域CDRが腫瘍抗原としてのFOLR1に対する配列番号15のCDRH1、配列番号16のCDRH2、および配列番号17のCDRH3、
b) 配列番号19のCDRL1、配列番号20のCDRL2、および配列番号21のCDRL3、および重鎖可変領域CDRが腫瘍抗原としてのSTEAP1に対する配列番号23のCDRH1、配列番号24のCDRH2、配列番号25のCDRH3、
c) 配列番号27のCDRL1、配列番号28のCDRL2、および配列番号29のCDRL3、および重鎖可変領域CDRが腫瘍抗原としてのDLL3の配列番号31のCDRH1、配列番号32のCDRH2、配列番号33のCDRH3、
d) 配列番号35のCDRL1、配列番号36のCDRL2、および配列番号37のCDRL3、および重鎖可変領域CDRが腫瘍抗原としてのCLDN18.2の配列番号39のCDRH1、配列番号40のCDRH2、配列番号41のCDRH3。
【請求項9】
第1の結合部分について可変重鎖が配列番号42であり、可変軽鎖が配列番号5、配列番号74、配列番号78、配列番号82、配列番号86からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記第2の結合部分について、可変軽鎖が配列番号10であり、可変重鎖が配列番号14であることを特徴とする、請求項9に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
抗体の第1の結合部分が、ヒト化抗体またはCDRグラフト抗体であることを特徴とする、請求項1~10の何れか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記scFvは、ペプチドリンカー1-VL-ペプチドリンカー2-VHの並びで前記C末端に結合していることを特徴とする、請求項1~11の何れか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
前記第1のペプチドリンカーが5~25個のアミノ酸からなり、前記第2のペプチドリンカーが10~25個のアミノ酸からなることを特徴とする、請求項12に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
腫瘍疾患の治療に使用するための、請求項1~13の何れか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
結腸癌、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、膵臓癌、乳癌からなる群から選択される腫瘍疾患の治療に使用するための、請求項1~13の何れか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
請求項1~13の何れか一項に記載の二重特異性抗体を含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~13の何れか一項に記載の二重特異性抗体の有効量を個体に投与することを含む、個体における癌の治療方法。
【請求項18】
請求項1~13の何れか一項に記載の二重特異性抗体をコードする組換え核酸配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願とともに電子的に提出された配列表(名称:Evo-PCT sequence list.xml)の内容は、明細書の一部である。
【0002】
本発明は、ブチロフィリン3ファミリーメンバーCD277(BTN3A)とヒト腫瘍抗原に結合する二重特異性抗体に関する。本発明はまた、前記二重特異性抗体をコードするポリヌクレオチド、および前記ポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞に関する。さらに、本発明は、前記抗体を産生する方法、疾患の治療における前記抗体の使用方法およびその治療的使用に関する。
【背景技術】
【0003】
Vγ9Vδ2 T細胞は末梢血中のγδT細胞の主要なサブセットであり、約60%~95%を占める。大規模なメタゲノムデータセットのバイオインフォマティクス解析により、腫瘍内のVγ9Vδ2 T細胞の相対的な存在量を決定し、これを患者の転帰と相関させた。腫瘍浸潤γδTリンパ球(γδ TIL)は、数は少ないものの、すべての腫瘍組織で認められた。重要なことは、さまざまな癌において、γδTILの相対量と免疫チェックポイント療法に対する良好な反応性との間に相関関係があることが示されたことである。(Gentles, A.J. et al.; Nat.Med.2015, 1-12; Tosolini, M.; et al.; Oncoimmunology 2017, 6, 1-10)。in vivo刺激、あるいはVγ9Vδ2 T細胞の養子T細胞移入に基づく癌治療法は、過去数十年にわたり試験されてきたが、一貫した臨床的有効性を提供することはできなかった。γδキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞やγδT細胞エンゲイジャーなどのさらなるコンセプトは、現在前臨床評価中である(Kuenkele KP., et al.; Cells 2020, 9, 829)。
【0004】
ブチロフィリン3ファミリーメンバーBTN3A(CD277; UniProtKB - O00481 (BT3A1_HUMAN))は、2つの細胞外イムノグロブリン(Ig)様ドメインと細胞内B30.2ドメインを持つ膜貫通型レセプターである。CD277は、T細胞の活性化と適応免疫応答において役割を果たし、活性化T細胞の増殖を制御し、活性化T細胞によるサイトカインとIFNγの放出を制御し、イソペンテニルピロリン酸のような高レベルのリン酸化代謝物を特徴とする感染細胞や形質転換細胞に対するT細胞の応答を媒介する(Afrache, H., et al., Immunogenetics 64, 781-794 (2012))。
【0005】
(E)-4-hydroxy-3-methyl-but-2-enyl pyrophosphate)HMBPPは、イソプレノイド合成のための原核生物の非メバロネート/2-C-メチル-D-エリスリトール4-ホスフェート/1-デオキシ-D-キシルロース5-ホスフェート(MEP)経路の必須中間生成物である。BTN3Aは、TLRがLPSやDNAなどの保存された病原体構造を認識するのと同様に、この病原体由来の分子を認識するように絶妙に調整されている(O’Neill, L.A.J.; et al.;Nat.Rev. Immunol.2013, 13, 453-460; Gu, S.et al.; Front.Immunol.2014, 5, 688; Vavassori, S. et al.; Nat.Immunol.2013, 14, 908-916)。BTN3A1の細胞内ドメインB30.2は、細菌の代謝産物HMBPPと直接相互作用する(Rhodes, D.A.et al.; J. Immunol.2015, 194, 2390-2398; Harly, C.; et al. Blood 2012, 120, 2269-2279; Sandstrom, A.; et al.; Immunity 2014, 40, 490-500)。BTN3A1とHMBPPの相互作用により、BTN3A1はγδTCRを含む免疫学的シナプスの構成要素に結合し、その後Vδ2 T細胞が活性化される。ブチロフィリン3A1は、ヒトVγ9Vδ2 T細胞のプレニルピロリン酸刺激に必須な役割を果たしている(Wang H. et al. J Immunol 2013; 191:1029-1042; Sandstrom A. et al.; Immunity Volume 40, Issue 4, 17 April 2014, Pages 490-500, Janssen O. et al., J Immunol 1991; 146; 35-39)。
【0006】
CD277はあらゆる腫瘍に不可欠な化合物である(Liang, F. et al., Febs Open Bio 2021 11, 2586-2599; Ghigo, C. et al., J Immunother Cancer 2020 8, A3-A3)。Payne KK. et al.; Science 369, 942-949 (2020)は、BTN3A1がαβT細胞とγδT細胞を調整することにより、抗腫瘍応答を支配していることを記述している。De Bruinら(De Bruin RCG. et al.; Oncoimmunology 2018, VOL.7, NO.1, e1375641)は、Vγ9Vδ2 T細胞とEGFRの両方を標的とする二重特異性ナノボディアプローチについて述べており、これはin vitroおよびin vivoのマウス異種移植モデルの両方でVγ9Vδ2-T細胞の活性化とそれに続く腫瘍細胞の溶解を誘導し、Vγ9Vδ2 T細胞の細胞溶解能を実証している。
【0007】
Palakodetiら(Palakodeti A. et al.; JBC 287巻39号32780-32790頁、2012年)は、CD277特異的抗体によるヒトVγ9Vδ2 T細胞応答の調節について述べている。WO2012080769およびWO2020025703は、抗BTN3A1抗体およびその使用に関する。BTN3A1アゴニストは、W02012080769;WO2010106051(US20150353643);WO2011014438;WO2017144668;WO2019211370、WO2011/014438、およびW02012080351にも記載されている。
【0008】
WO2012080351およびWO2012080769は、抗C277抗体(7.2および20.1)に言及している。可能性のある抗体形式としてscFvが挙げられている。当技術分野におけるアゴニスト抗C277抗体は、Vγ9Vδ2 T細胞の細胞溶解機能、サイトカイン産生および増殖を活性化する。De Gassart A. et al., in Science Translational Medicine 13, (2021), (https://doi.org/10.1126/scitranslmed.abj0835)によると、末梢血中のVγ9Vδ2 T細胞の活性化は、枯渇ではなく、輸送と遊走の結果として、循環Vγ9Vδ2 T細胞の一過性の低下を引き起こす。枯渇の関連性は、発明者たちによって初めて認識された。
【0009】
Imbert C.およびOlive D.(A. Birbrair (ed.), Tumor Microenvironment, Advances in Experimental Medicine and Biology 1273 (https://doi.org/10.1007/978-3-030-49270-0_5) および Imbert C. et al.(Advances in Experimental Medicine and Biology, (2020), Springer, Vol. 1273, 91-104)は、Vγ9Vδ2 T細胞の活性化のためにCD277と腫瘍抗原の両方を標的とする二重特異性抗体を示唆している。WO2020025703では、二重特異性分子mAb x mAb、mAb x Fab、Fab x F(ab´)2またはリガンド x Fab融合タンパク質のフォーマットとして、抗CD277抗体のVHとVLを含むFabまたはscFvを含む片腕を含む二重特異性抗体などの多重特異性抗体も提案されている。
【0010】
二重特異性抗体は、多くの様々な形式が知られている(例えば、Brinkmann U.とKontermann E.による総説;MAbs.2017 Feb-Mar; 9(2):182-212;BrinkmannとKontermannの
図2参照)。2019年には、bsAbの作製と開発に20以上の異なる商業化された技術プラットフォームが利用できるようになった(総説:Lanrijn AF et al; Nature Reviews; https://doi.org/10.1038/s41573-019-0028-1)。二重特異性抗体フォーマットは、Coloma M. J. and Morrison S. L., Nat.Biotechnol.15:159-163 (1997)に記載されている; また、Ulrich Brinkmann & Roland E. Kontermann (2017), The making of bispecific antibodies, mAbs, 9:2, 182-212, DOI:10.1080/19420862.2016.1268307も参照。これらの二重特異性分子は、マスターまたは親モジュールと呼ばれるIgG抗体と、重鎖のC末端に結合した特異性の異なるscFvから構成される(IgG-HC-scFv、「モリソン型二重特異性抗体」;
図1参照)。
【0011】
WO2010112193(US009382323;EP2414391B1)は、第一抗原に特異的に結合し、2つの抗体重鎖および2つの抗体軽鎖からなる全長抗体;ならびに1つ以上のさらなる抗原に結合する1つ以上の単鎖Fvフラグメントを含む多重特異性抗体に関し、前記単鎖Fv断片は、前記全長抗体の重鎖または軽鎖のC末端またはN末端のペプチドコネクターを介して前記全長抗体に融合している。
【0012】
Presti et al.(Presti, E. L. et al., Frontiers in immunology 2017, 8, 975-11) は、抗体を用いてγδ T細胞を癌細胞にリダイレクトできると述べている。これは、例えば、一方の結合部位が腫瘍特異的細胞表面分子(例えば、EpCAMやHER2/neu)を認識し、他方の結合部位がCD3やVγ9Vδ2 TCRのVγ9鎖を標的とする二重特異性抗体を使用することで達成できる。このような二重特異性抗体は、前臨床モデルで有効性が実証されている(Hoh A, et al. Liver Int (2013) 33:127-36. doi:10.1111/liv.12011; Oberg HH, et al.; Cell Immunol (2015) 296:41-9)。
【0013】
WO2018041827には、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)で武装したアデノウイルスが記載されており、BiTE中の結合ドメインの1つはBTN3A1のような非TCR活性化タンパク質に特異的であり、結合ドメインの1つは腫瘍抗原に特異的である、例えば、CEA、MUC-1、EpCAM、HER受容体HER1、HER2、HER3、HER4、PEM、A33、G250、糖鎖抗原Ley、Lex、Leb、PSMA、TAG-72、STEAP1、CD166、CD24、CD44、E-カドヘリン、SPARC、ErbB2、ErbB3などである。WO2012080769は、抗CD277抗体(例えばmAb 7.2、mAb 20.1)に関する。一般的には、Fv、Fab、F(ab´)2、Fab´、dsFv、scFv、Sc(Fv)2、ダイアボディなどの抗体断片が挙げられる。
【0014】
WO2020060406は、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫または急性骨髄性白血病の治療に使用するための、ヒトCD1dと結合可能な第1の結合部分と、γδT細胞上のT細胞受容体のVγ9鎖と結合可能な第2の結合部分とを含む抗体を記載している。
【0015】
腫瘍抗原は、例えば腫瘍と正常組織または細胞株におけるそれぞれのmRNAレベルまたはタンパク質発現レベルを比較する研究や、腫瘍と正常細胞の表面上の抗原密度を比較する研究など、様々な研究から知られている。 (Woell, S. et al.,Int. J. Cancer 134, 731-739 (2014); Herlyn, M. et al., PNAS 76, 1438-1442 (1979); Rusnak, D. W. et al., Cell Prolif 580-594 (2007); Karhemo, P.-.R. et al., Frontiers in pharmacology 3, 192 (2012); Imai, K. et al., Clin Cancer Res 14, 6487-6495 (2008); Coto-Llerena, M. et al, Frontiers Oncol 10, 979 (2020); Moreaux J., Biochem Biophys Res Commun 14, 148-155 (2012); Owen, D. H. et al., J Hematol Oncol 12, 61 (2019); Wu, M. et al, Cancer Epidemiology Biomarkers Prev Publ Am Assoc Cancer Res Cosponsored Am Soc Prev Oncol 8, 775-82 (1999); Tarn, C. et al., Proc National Acad Sci 105, 8387-8392 (2008))。Claudin18(CLD18)分子(UniProtKB - P56856 (CLD18_HUMAN))は、分子量約27,9/27,72kDの膜貫通タンパク質である。Claudinは、上皮や内皮のタイトジャンクションに存在する膜タンパク質である。タイトジャンクションは、隣接する細胞間の膜内粒子の相互連結した鎖のネットワークを組織する。タイトジャンクションでは、OccludinとClaudinsが最も顕著な膜貫通タンパク質成分である。その強い細胞間接着特性により、細胞膜は溶質の細胞外輸送を防止・制御する第一のバリアを作り、細胞極性を維持するために膜脂質やタンパク質の横方向への拡散を制限する。タイトジャンクション形成タンパク質は、上皮組織の構造形成に決定的に関与している。このようなタンパク質は、構造の整った上皮ではほとんど抗体にアクセスできないが、腫瘍細胞上では露出することが想定される。Claudin18およびそのスプライスバリアントであるClaudin18.2に対する抗体は、例えばWO2007059997、WO2008145338、US20150374789、WO2013174403、およびUS9770487(US10314890;EP2958945;IMAB362)に記載されている。WO2021024020には、癌治療のための抗Claudin18.2抗体と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法が記載されている。
【0016】
STEAP-1(six-transmembrane epithelial antigen of prostate- 1)は339アミノ酸からなる細胞表面タンパク質で、正常組織では前立腺細胞に主に発現している。STEAP-1タンパク質の発現は、前立腺癌の様々な状態において高レベルで維持されており、STEAP-1は肺癌や結腸癌などの他のヒト癌においても高発現している。正常組織および癌組織におけるSTEAP-1の発現プロファイルから、免疫療法の標的としての可能性が示唆された。WO2008/052187には、抗STEAP-1抗体とその免疫コンジュゲートが報告されている。STEAP-1xCD3二重特異性抗体は、WO2014165818およびWO2017055388に記載されている。
【0017】
FOLR1は、卵巣癌、肺癌、乳癌、腎癌、大腸癌、子宮内膜癌など、様々な起源の上皮性腫瘍細胞に発現している。10.1517/17425247.2012.694863.Epub 2012.WO2012119077にはFOLR1に対する抗体が記載されている。FOLR1とCD3を標的とする二重特異性抗体は、WO2016/079076およびWO2021255143に記載されている。
【0018】
DLL3は、SCLCやLCNECを含む高悪性度の肺神経内分泌腫瘍に選択的に発現している。DLL3の発現増加は、SCLCおよびLCNEC患者由来の異種移植腫瘍で観察され、原発腫瘍でも確認された。Saunders et al ., Sci Translational Medicine 7(302):302ral36 (2015)を参照。DLL3の発現増加は、前立腺神経内分泌癌を含む肺外神経内分泌癌でも観察されている(Puca et al., Sci TranslMed 11(484): pii: eaav0891 (2019))。DLL3はこのような腫瘍細胞の表面に発現しているが、正常組織では発現していない。WO2021007371は抗DLL3抗体に関するもので、ヒト化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体が提案されている。WO2019195409は、NKG2D受容体、CD16および腫瘍抗原に結合する多重特異性タンパク質について言及している。
【発明の概要】
【0019】
当技術分野におけるアゴニスト抗C277抗体は、Vγ9Vδ2 T細胞の細胞溶解機能、サイトカイン産生および増殖を活性化する。当技術分野におけるアゴニスト抗C277抗体は、循環Vγ9Vδ2 T細胞の一過性の減少を誘導するが、これはVγ9Vδ2 T細胞の枯渇ではなく、循環から癌組織を含む組織への輸送の結果であると説明されている。
【0020】
しかしながら、本発明者らは、腫瘍細胞の非存在下において、当技術分野におけるアゴニスト的抗C277抗体によるVγ9Vδ2 T細胞のこのような活性化が、Vγ9Vδ2 T細胞の自己排除を誘導することを認識した。本発明者らは、CD277に特異的かつアゴニスト的に結合する二重特異性抗体(以下、「二重特異性抗CD277抗体」とも称する)であって、ヒト腫瘍抗原(以下、「腫瘍抗原」とも称する)に特異的に結合し、後述するような性質を有する二重特異性抗体が、当該腫瘍抗原を有するヒト腫瘍細胞に対して優れた殺傷効果を示すとともに、非腫瘍細胞の溶解に関して高い安全性を示し、Vγ9Vδ2 T細胞の自己排除を誘導しないことを見出した。
【0021】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む二重特異性抗体を含むことを特徴とし、前記第1の結合部分は完全長の二価抗体であり、前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなり、前記単鎖Fv抗体の各々は、第1の結合部分の各C末端にペプチドリンカーによって連結されていることを特徴とする。
【0022】
一実施形態では、前記各単鎖Fv抗体は、可変軽鎖のそのN末端と第1の結合部分の各C末端とがペプチドリンカーによって連結されている。
【0023】
一実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、第1の結合部分に、重鎖CDR配列として配列番号2のCDRH1配列番号3のCDRH2、および配列番号4のCDRH3、ならびに軽鎖CDR配列として、配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3を含むことを特徴とする。
【0024】
一実施形態において、本発明による抗体は、CDRH2(配列番号44)におけるN5SおよびK10N(N53S、K58N(Kabat)、またはN185S-K190Nとも呼ばれる)の置換を含むことを特徴とする。
【0025】
一実施形態において、本発明による抗体は、前記CDRH2置換に加えて、CDRL1のL8V(L31Vとも呼ばれる)の置換を含むことを特徴とする(配列番号75)。一実施形態において、本発明による抗体は、CDRL1(配列番号140)において付加的置換L8VおよびH1Rを含むことを特徴とする。
【0026】
一実施形態において、本発明による二重特異性抗体は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含むことを特徴とし、前記第1の結合部分は完全長の二価抗体であり、第1の結合部分において、重鎖CDR配列として、配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3、ならびに軽鎖CDR配列として、配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3を含むことを特徴とし、前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなり、前記単鎖Fv抗体の各々は、前記第1の結合部分の各C末端にペプチドリンカーによって連結される。
【0027】
一実施形態において、本発明による二重特異性抗体は、CDRH2が配列番号68、配列番号72、または配列番号110であることを特徴とする。
【0028】
一実施形態において、本発明による二重特異性抗体は、CDRL1が配列番号75、配列番号121、配列番号133、配列番号140または配列番号141であることを特徴とする。
【0029】
一実施形態では、本発明による抗体は、CDRH2(配列番号44)のN5SとK10Nの置換を含むことを特徴とする。
【0030】
一実施形態において、本発明による抗体は、前記CDRH2置換に加えて、CDRL1のL8Vの置換を含むことを特徴とする(配列番号75)。一実施形態において、本発明による抗体は、CDRL1(配列番号140)において付加的置換L8VおよびH1Rを含むことを特徴とする。
【0031】
一実施形態では、本発明による抗体の第1の結合部分は、ヒト抗体、ヒト化抗体またはCDRグラフト抗体である。
【0032】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む二重特異性抗体を含むことを特徴とし、重鎖CDR配列として、配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)および
b) 軽鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDRセット:
b1) 配列番号75のCDRL1、配列番号76のCDRL2、および配列番号77のCDRL3、
b2) 配列番号79のCDRL1、配列番号80のCDRL2、および配列番号81のCDRL3、
b3) 配列番号83のCDRL1、配列番号84のCDRL2、および配列番号85のCDRL3、
b4) 配列番号87のCDRL1、配列番号88のCDRL2、および配列番号89のCDRL3、
b5) 配列番号117のCDRL1、配列番号118のCDRL2、および配列番号119のCDRL3、
b6) 配列番号121のCDRL1、配列番号122のCDRL2、および配列番号123のCDRL3、
b7) 配列番号125のCDRL1、配列番号126のCDRL2、および配列番号127のCDRL3、
b8) 配列番号129のCDRL1、配列番号130のCDRL2、および配列番号131のCDRL3、
b9) 配列番号133のCDRL1、配列番号134のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b10) 配列番号137のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号139のCDRL3、
b11)配列番号133のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号139のCDRL3、
b12) 配列番号140のCDRL1、配列番号134のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b13) 配列番号141のCDRL1、配列番号134のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b14) 配列番号141のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号135のCDRL3、
b15) 配列番号151のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b16) 配列番号152のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b17) 配列番号153のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b18) 配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号156のCDRL3、
b19) 配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号157のCDRL3、
b20) 配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号158のCDRL3、
b21) 配列番号154のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3、
b22) 配列番号155のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3
を含むことを特徴とし、
c)前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなり、各々が第1の結合部分の各C末端に連結されている。
【0033】
一実施形態において、本発明による二重特異性抗体は、第1の結合部分について、可変重鎖が配列番号42であり、可変軽鎖が配列番号5、配列番号65、配列番号74、配列番号78、配列番号82、配列番号86からなる群より選択されることを特徴とする。
【0034】
一実施形態において、本発明による二重特異性抗体は、前記可変鎖のヒト化バージョンを含むことを特徴とする。
【0035】
一実施形態において、本発明による二重特異性抗体は、前記腫瘍抗原が、CLDN18.2(UniProtKB-P56856-2、CLD18_HUMAN)、FOLR1(UniProtKB-P15328、FOLR1_HUMAN)、STEAP1(UniProtKB-Q9UHE8、STEA1_HUMAN)、またはDLL3(UniProtKB-Q9NYJ7、DLL3_HUMAN)からなる群から選択されることを特徴とする。さらに有用な腫瘍抗原は、例えばMiddleburgら, Cancers (2021) 13, 287, pp 4-6に記載されている。
【0036】
一実施形態において、本発明による抗体は、第1の結合部分が、表3の化合物EvB#21~136について示されるCDRの組み合わせ、または表3の化合物EvB#21~136について示される可変軽鎖および可変重鎖の組み合わせからなる群から選択される重鎖および軽鎖CDRの組み合わせを含み、前記第2の結合部分が、腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなることを特徴とする。一実施形態では、本発明による二重特異性抗体はヒト化されていることを特徴とする。
【0037】
一実施形態において、本発明による抗体は、腫瘍抗原としてのFOLR1に対して、第2の結合部分が、軽鎖CDRとして、配列番号11のCDRL1、配列番号12のCDRL2、および配列番号13のCDRL3、並びに重鎖CDRとして、配列番号15のCDRH1、配列番号16のCDRH2、および配列番号17のCDRH3を含むことを特徴とする(FOLR1 CDRセット)。
【0038】
一実施形態では、本発明による抗体は、腫瘍抗原としてのSTEAP1に対して、第2の結合部分に、CDRとして、配列番号19のCDRL1、配列番号20のCDRL2、および配列番号21のCDRL3、並びに配列番号23のCDRH1、配列番号24のCDRH2、および配列番号25のCDRH3を含む(STEAP1 CDRセット)。
【0039】
一実施形態では、本発明による抗体は、腫瘍抗原としてのDLL3に対して、第2の結合部分に、CDRとして、配列番号27のCDRL1、配列番号28のCDRL2、および配列番号29のCDRL3、並びに配列番号31のCDRH1、配列番号32のCDRH2、および配列番号33のCDRH3を含む(DLL3 CDRセット)。
【0040】
一実施形態では、本発明による抗体は、腫瘍抗原としてのCLDN18.2に対して、第2の結合部分が、CDRとして、配列番号35のCDRL1、配列番号36のCDRL2、および配列番号37のCDRL3、並びに配列番号39のCDRH1、配列番号40のCDRH2、および配列番号41のCDRH3を含む(CLDN18.2 CDRセット)。
【0041】
一実施形態において、本発明による抗体は、第2の結合部分に、腫瘍抗原としてのFOLR-1に対する配列番号10および配列番号14の重鎖および軽鎖可変領域の組み合わせを含むことを特徴とする。
【0042】
一実施形態において、本発明による抗体は、第2の結合部分に、腫瘍抗原としてのSTEAP1に対する配列番号18および配列番号22の重鎖および軽鎖可変領域の組み合わせを含むことを特徴とする。
【0043】
一実施形態では、本発明による抗体は、第2の結合部分に、腫瘍抗原としてのDLL3-4に対する配列番号26および配列番号30の重鎖および軽鎖可変領域の組み合わせを含むことを特徴とする。
【0044】
一実施形態において、本発明による抗体は、第2の結合部分に、腫瘍抗原としてのCLDN 18.2に対する配列番号34および配列番号38の重鎖および軽鎖可変領域の組み合わせを含むことを特徴とする。
【0045】
一実施形態において、本発明による抗体は、以下の特徴を有する:
a) 前記二重特異性抗体は、重鎖として配列番号94の重鎖を含み、軽鎖として配列番号93の軽鎖を含む参照抗体による溶解と比較して、第1の腫瘍抗原を有する細胞株の溶解ついて、0.001~0.2のEC50比を示す、
b) 前記二重特異性抗体は、前記腫瘍抗原を持たない第2の細胞株の溶解について、前記参照抗体による溶解と比較して、5~1000のEC50比を示す、
すべては活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球の存在下、E/T比5:1、12.5IU/mL インターロイキン-2の存在下、同条件の同じアッセイで測定した。
【0046】
一実施形態では、二重特異性抗体はMab-scFv形式である。
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分および腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分を含む、Mab-scFv形式の二重特異性抗体を含むことを特徴とし、以下のことを特徴とする:
a)前記第1の結合部分は完全長の二価抗体である、
b)前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合し、重鎖および軽鎖CDRとして、以下からなる群から選択されるCDRセットを含む:
b1) 配列番号11のCDRL1、配列番号12のCDRL2、および配列番号13のCDRL3、並びに腫瘍抗原としてのFOLR1に対する配列番号15のCDRH1、配列番号16のCDRH2、および配列番号17のCDRH3(FOLR1 CDRセット)、
b2) 配列番号19のCDRL1、配列番号20のCDRL2、および配列番号21のCDRL3、並びに腫瘍抗原としてのSTEAP1に対する配列番号23のCDRH1、配列番号24のCDRH2、および配列番号25のCDRH3(STEAP1 CDRセット)、
b3) 配列番号27のCDRL1、配列番号28のCDRL2、および配列番号29のCDRL3、並びに腫瘍抗原としてのDLL3に対する配列番号31のCDRH1、配列番号32のCDRH2、および配列番号33のCDRH3(DLL3 CDRセット)、
b4) 配列番号35のCDRL1、配列番号36のCDRL2、および配列番号37のCDRL3、並びに腫瘍抗原としてのCLDN18.2に対する配列番号39のCDRH1、配列番号40のCDRH2、および配列番号41のCDRH3(CLDN 18.2 CDRセット)、
c) 前記二重特異性抗体は、重鎖として配列番号94の重鎖を含み、軽鎖として配列番号93の軽鎖を含む参照抗体による溶解と比較して、第1の腫瘍抗原を有する細胞株の溶解ついて、0.001~0.2のEC50比を示す、
d) 前記二重特異性抗体は、前記腫瘍抗原を持たない第2の細胞株の溶解について、前記参照抗体による溶解と比較して、5~1000のEC50比を示す、
すべては活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球の存在下、E/T比5:1、12.5IU/mLインターロイキン-2の存在下、同条件の同じアッセイで測定した。
【0047】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号6のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット1)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号47のCDRH1、配列番号48のCDRH2、および配列番号49のCDRH3(CDRHセット2)、
b3) 配列番号51のCDRH1、配列番号52のCDRH2、および配列番号53のCDRH3(CDRHセット3)、
b4) 配列番号55のCDRH1、配列番号56のCDRH2、および配列番号57のCDRH3(CDRHセット4)、
b5)配列番号59のCDRH1、配列番号60のCDRH2、および配列番号61のCDRH3(CDRHセット5)、
b6) 配列番号63のCDRH1、配列番号64のCDRH2、および配列番号65のCDRH3(CDRHセット6)、
b7) 配列番号67のCDRH1、配列番号68のCDRH2、および配列番号69のCDRH3(CDRHセット7)、
b8) 配列番号71のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号73のCDRH3(CDRHセット8)、
b10) 配列番号105のCDRH1、配列番号106のCDRH2、および配列番号107のCDRH3(CDRHセット10)、
b11) 配列番号109のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号111のCDRH3(CDRHセット11)、
b12) 配列番号113のCDRH1、配列番号114のCDRH2、および配列番号115のCDRH3(CDRHセット12)、
b13) 配列番号59のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット14)、
b14) 配列番号59のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット15)、
b15) 配列番号67のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット20)、
b16) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット18)、
b17) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット19)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0048】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号121のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット2)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b3) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)、
b4)配列番号67のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット20)、
b5) 配列番号67のCDRH1、配列番号68のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット7)、
b6) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット18)、
b7) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット19)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0049】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号83のCDRL1、配列番号84のCDRL2、および配列番号85のCDRL3(CDRLセット3)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9)配列番号2のCDRH1、配列番号3のCDRH2、配列番号4のCDRH3(CDRHセット9)、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0050】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号133のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット4)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b3) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)、
b4) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット1)、
b5) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット21)、
b6) 配列番号67のCDRH1、配列番号68のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット7)、
b7) 配列番号67のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット23)、
b8) 配列番号67のCDRH1、配列番号106のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット24)、
b9) 配列番号67のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット25)、
b10) 配列番号105のCDRH1、配列番号114のCDRH2、および配列番号115のCDRH3(CDRHセット26)、
b11) 配列番号105のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット27)、
b12) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号4のCDRH3 (CDRHセット19)
b13) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット18)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0051】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号75のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット5)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b3) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)、
b4) 配列番号67のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット20)、
b5) 配列番号67のCDRH1、配列番号68のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット7)、b2) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット18)、
b6) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号4のCDRH3(CDRHセット19)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0052】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号140のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット6)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b3) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)、
b1) 配列番号67のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット20)、
b2) 配列番号67のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット23)、
b3) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット18)、
b4) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット19)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0053】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号141のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット7)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b3) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)、
b4) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット18)、
b5) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット19)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0054】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号141のCDRL1、配列番号7のCDRL2、および配列番号8のCDRL3(CDRLセット8)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b2) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b3) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)、
b4) 配列番号67のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット20)、
b5) 配列番号67のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット23)、
b6) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット18)、
b7) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット19)
を含むことを特徴とし、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0055】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む二重特異性抗体であって、以下を特徴とする二重特異性抗体を含む:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号133のCDRL1、配列番号138のCDRL2、および配列番号139のCDRL3(CDRセット12)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1) 配列番号67のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット20)、
b2) 配列番号67のCDRH1、配列番号68のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット23)、
b3) 配列番号105のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット18)、
b4) 配列番号105のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット19)、並びに
b5) 配列番号43のCDRH1、配列番号44のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット1)、
b6) 配列番号43のCDRH1、配列番号72のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット21)、
b7) 配列番号43のCDRH1、配列番号110のCDRH2、および配列番号45のCDRH3(CDRHセット22)
を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0056】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号87のCDRL1、配列番号88のCDRL2、および配列番号89のCDRL3(CDRLセット9)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9)CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0057】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、以下のことを特徴とする:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号79のCDRL1、配列番号80のCDRL2、および配列番号81のCDRL3(CDRLセット10)、並びに
b) 重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9)CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0058】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む二重特異性抗体であって、以下を特徴とする二重特異性抗体を含む:
a) 前記第1の結合部分は、全長二価抗体であり、
軽鎖CDR配列として、配列番号75のCDRL1、配列番号76のCDRL2、および配列番号77のCDRL3(CDRLセット11)、並びに
b)重鎖CDR配列として、以下からなる群より選択されるCDR配列:
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9) CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12) CDRHセット12を含み、
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなる。
【0059】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、軽鎖CDR配列としてCDRL1セット1、およびb)重鎖CDR配列として、
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、およびb8)CDRHセット8、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12からなる群から選択されるCDRセットを含むことを特徴とし、
さらに第2の結合部分は、重鎖および軽鎖CDRとして、FOLR1 CDRセット、STEAP1 CDRセット、DLL3 CDRセット、およびCLDN 18.2 CDRセットからなる群から選択されるCDRセットを含む。
【0060】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、軽鎖CDR配列としてCDRL1セット2を含み、重鎖CDR配列として、
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9)CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12からなる群から選択されるCDRセットを含むことを特徴とし、
さらに第2の結合部分は、重鎖および軽鎖CDRとして、FOLR1 CDRセット、STEAP1 CDRセット、DLL3 CDRセット、およびCLDN 18.2 CDRセットからなる群から選択されるCDRセットを含む。
【0061】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、軽鎖CDR配列としてCDRL1セット3を含み、重鎖CDR配列として、
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、およびb8)CDRHセット8、およびb9)CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12からなる群から選択されるCDRセットを含むことを特徴とし、
さらに第2の結合部分は、重鎖および軽鎖CDRとして、FOLR1 CDRセット、STEAP1 CDRセット、DLL3 CDRセット、およびCLDN 18.2 CDRセットからなる群から選択されるCDRセットを含む。
【0062】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、軽鎖CDR配列としてCDRL1セット4を含み、重鎖CDR配列として、
b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9)CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12からなる群から選択されるCDRセットを含むことを特徴とし、
さらに第2の結合部分は、重鎖および軽鎖CDRとして、FOLR1 CDRセット、STEAP1 CDRセット、DLL3 CDRセット、およびCLDN 18.2 CDRセットからなる群から選択されるCDRセットを含む。
【0063】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、軽鎖CDR配列としてCDRL1セット5を含み、重鎖CDR配列として、b1)CDRHセット1、b2)CDRHセット2、b3)CDRHセット3、b4)CDRHセット4、b5)CDRHセット5、b6)CDRHセット6、b7)CDRHセット7、b8)CDRHセット8、およびb9)CDRHセット9、b10)CDRHセット10、b11)CDRHセット11、b12)CDRHセット12からなる群から選択されるCDRセットを含むことを特徴とし、
および、第2の結合部分は、重鎖および軽鎖CDRとして、FOLR1 CDRセット、STEAP1 CDRセット、DLL3 CDRセット、およびCLDN 18.2 CDRセットからなる群から選択されるCDRセットを含む。
【0064】
本発明の1つの実施形態は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体であり、第1の結合部分がヒト化抗体であることを特徴とする。
【0065】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、
可変重鎖として、配列番号42、46、50、54、58、62、66、及び70からなる群から選択される可変重鎖、または前記配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するそれらのヒト化バージョン、および
軽鎖配列として、以下からなる群より選択される配列:
a) 配列番号5、
b) 配列番号74、
c) 配列番号78、
d) 配列番号82、
e) 配列番号86、
または前記配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するそれらのヒト化バージョンを含むことを特徴とし、
並びに、第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなり、前記単鎖Fv抗体の各々は、第1の結合部分の各C末端にペプチドリンカーによって連結される。
【0066】
一実施形態において、第2の結合部分は、重鎖および軽鎖可変領域として、以下からなる群から選択されるセットを含む:
e) 腫瘍抗原としてのFOLR-1について配列番号10および配列番号14、
f) 腫瘍抗原としてのSTEAP1について配列番号18および配列番号22、
g) 腫瘍抗原としてのDLL3-4について配列番号26および配列番号30、並びに
h) 腫瘍抗原としてのCLDN18.2について配列番号34および配列番号38。
【0067】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、第1の結合部分が、可変重鎖として、配列番号1の可変重鎖、または前記配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するそのヒト化バージョン、および軽鎖配列として、
a) 配列番号74、配列番号78、配列番号82、配列番号86、
または前記配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するそれらのヒト化バージョンからなる群から選択される配列を含むことを特徴とし、
並びに、第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなり、前記単鎖Fv抗体の各々は、第1の結合部分の各C末端にペプチドリンカーによって連結される。
【0068】
一実施形態において、第2の結合部分は、重鎖および軽鎖可変領域として、以下からなる群から選択されるセットを含む:
e) 腫瘍抗原としてのFOLR-1について配列番号10および配列番号14、
f) 腫瘍抗原としてのSTEAP1について配列番号18および配列番号22、
g) 腫瘍抗原としてのDLL3-4について配列番号26および配列番号30、並びに
h) 腫瘍抗原としてのCLDN18.2について配列番号34および配列番号38。
【0069】
一実施形態において、本発明は、Mab-scFvフォーマットの本発明による二重特異性抗体を含み、以下を特徴とする:
第1の結合部分が、表3に記載される群から選択される可変軽鎖及び可変重鎖セットを含む、および、第2の結合部分が以下からなる群より選択される可変軽鎖および可変重鎖セットを含む:
a) 腫瘍抗原としてのFOLR1について配列番号10および配列番号14、
b) 腫瘍抗原としてのSTEAP1について配列番号18および配列番号22、
c) 腫瘍抗原としてのDLL3について配列番号26および配列番号30、並びに
d) 腫瘍抗原としてのCLDN18.2について配列番号34および配列番号38。
【0070】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分および腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分を含む、Mab-scFv形式の二重特異性抗体を含むことを特徴とし、以下のことを特徴とする:
a)前記第1の結合部分は完全長の二価抗体である、
b)前記第2の結合部分は、Mab-scFvフォーマットの単鎖Fv抗体(scFv)であり、前記腫瘍抗原に特異的に結合し、重鎖および軽鎖可変領域として、以下からなる群から選択されるセットを含む:
b1)腫瘍抗原としてのFOLR1について配列番号10および配列番号14、
b2)腫瘍抗原としてのSTEAP1について配列番号18および配列番号22、
b3)腫瘍抗原としてのDLL3について配配列番号26および配列番号30、並びに
b4)腫瘍抗原としてのCLDN18.2について配列番号34および配列番号38。
【0071】
a) 前記二重特異性抗体は、重鎖として配列番号94の重鎖を含み、軽鎖として配列番号93の軽鎖を含む参照抗体による溶解と比較して、第1の腫瘍抗原を有する細胞株の溶解ついて、0.001~0.2のEC50比を示す、
b) 前記二重特異性抗体は、前記腫瘍抗原を持たない第2の細胞株の溶解について、前記参照抗体による溶解と比較して、5~1000のEC50比を示す、
すべては活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球の存在下、E/T比5:1、12.5IU/mLインターロイキン-2の存在下、同条件の同じアッセイで測定した。
【0072】
一実施形態において、本発明による抗体は、前記第1の結合部分がCDRグラフト化抗体またはヒト化抗体であることを特徴とする。一実施形態では、ヒトVHフレームワーク(FRH)は、IGHV1-46*01(X92343)またはIGHV4-34*01(AB019439)である。一実施形態では、ヒトVLフレームワーク(FRL)は、IGKV3-11*01 V-KAPPA(X01668)またはIGKV1-12*01 V-KAPPA(V01577)のものである;IMGTレパートリーを参照のこと。一実施形態では、ヒトVH/VLフレームワークの組み合わせは、IGHV1-46*01とIGKV3-11*01、IGHV1-46*01とIGKV1-12*01、IGHV4-34*01とIGKV3-11*01、IGHV4-34*01とIGKV1-12*01である。本発明によれば、フレームワーク配列は4つの部分(FRH1-4およびFRL1-4)からなる。
【0073】
一実施形態において、本発明は、ヒトCD277に特異的かつアゴニスト的に結合する第1の結合部分と、腫瘍抗原に特異的に結合する第2の結合部分とを含む、Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体を含み、
a)前記第1の結合部分は、完全長二価抗体であり、FRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4の形式の可変軽鎖を含み、ここでFRL1は配列番号142であり、FRL2は配列番号143であり、FRL3は配列番号144または145であり、FRL4は配列番号146であり、FRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4のフォーマットの可変重鎖であり、ここで、FRH1は、配列番号147である、FRH2は配列番号148であり、FRH3は配列番号149であり、そしてFRH4は配列番号150であり、表6または7のセットから選択されるCDRH/CDRLセットと組み合わされ、並びに
c) 前記第2の結合部分は、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの単鎖Fv抗体(scFv)からなることを特徴とする。
【0074】
一実施形態において、本発明による抗体は、ヒト化抗体であり、FRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3-CDRL3-FRL4の配列からなる可変軽鎖とFRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4の配列からなる可変重鎖とを含むか、またはFRL1-CDRL1-FRL2-CDRL2-FRL3a-CDRL3-FRL4の配列からなる可変軽鎖とFRH1-CDRH1-FRH2-CDRH2-FRH3-CDRH3-FRH4の配列からなる可変重鎖、および表6または7のセットから選択されるCDRH/CDRLセットとを含むことを特徴とする。
【0075】
一実施形態において、本発明は、前記第2の結合部分が、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体からなることを特徴とする。一実施形態では、前記第2の結合部分が、前記腫瘍抗原に特異的に結合する2つの同一の単鎖Fv抗体(scFv)からなり、各々はそのN末端によって第1の結合部分の各C末端に連結される。したがって、第1の結合部分(全長の単一特異性抗CD277抗体である)のFc部分の各C末端には、1つのscFvのみが連結されている。本明細書では、第1の結合部分として全長二価抗体、および第2の結合部分として前記2つのscFvからなる前記二重特異性抗体のフォーマットを「Mab-scFvフォーマット」と命名する。例示的なMab-scFvのフォーマットを
図1aに示す。
【0076】
一実施形態において、前記scFvの各々は、第1のペプチドリンカー(リンカー1)によって第1の結合部分のC末端の各々に化学的に連結される。
【0077】
一実施形態本発明は、前記scFvが、ペプチドリンカー1-VL-ペプチドリンカー2-VH)の方向で前記C末端に結合していることを特徴とする、本発明による二重特異性抗体を含む。
【0078】
一実施形態において、ペプチドリンカーは、配列番号97、98、99、100、および101のペプチドからなる群より選択される。
【0079】
一実施形態において、本発明は、前記第1のペプチドリンカーが5~25個、一実施形態では10~25個のアミノ酸からなることを特徴とする、本発明による二重特異性抗体を含む。
【0080】
一実施形態において、本発明は、前記第2のペプチドリンカーが10~25個のアミノ酸からなることを特徴とする、本発明による二重特異性抗体を含む。
【0081】
一実施形態では、前記二重特異性抗体は、前記第2の細胞株において、バックグラウンド溶解の10倍以上、一実施形態では5倍以上、一実施形態では2倍以上の有意な溶解を誘導しない。
【0082】
本発明の一実施形態において、前記二重特異性抗体は、前記第1の細胞株の溶解に対して、前記参照抗体による溶解と比較して、一実施形態において0.2以下、一実施形態において0.001~0.2、一実施形態において0.005~0.2、一実施形態において0.01~0.2のEC50比を示す。
【0083】
一実施形態では、前記二重特異性抗体は、前記第2の細胞株の溶解について、前記参照抗体による溶解と比較して、5以上、10以上、5~1000、一実施形態では5~2000、一実施形態では5~5000、一実施形態では10~1000、一実施形態では10~2000、一実施形態では10~5000のEC50比を示す。
【0084】
本発明によるEC50比とは、細胞溶解について測定されたEC50値の比を意味する。例示的な方法を実施例6で説明する。
【0085】
一実施形態では、前記第2の腫瘍抗原陰性細胞株は、腫瘍抗原が不活性化された前記第1の細胞株(ノックアウト細胞株)である。
【0086】
一実施形態において、本発明は、前記抗体が参照抗体と比較して0.5以上、0.8以上、または0.9以上のEmaxを誘導することを特徴とする、本発明による二重特異性抗体を含む。一実施形態では、前記二重特異性抗体は、前記第1の腫瘍抗原陽性細胞株の溶解について、前記参照抗体のEmaxと比較して、0.5~1.5、一実施形態では0.8~1.5、一実施形態では0.9~1.5のEmax比を示す。
【0087】
参照抗体は、全長2価の単一特異性でアゴニスティックな抗CD277抗体であり、重鎖として配列番号94の重鎖、軽鎖として配列番号93の軽鎖を含む。参照抗体は、配列番号1の可変重鎖と、配列番号5の可変軽鎖と、配列番号2、3、4、6、7、8のCDRを含む。
【0088】
一実施形態において、本発明は、前記腫瘍抗原が、本発明の二重特異性抗体を非内在化する腫瘍抗原であることを特徴とする、本発明による二重特異性抗体を含む。
【0089】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による二重特異性抗体をコードする組換え核酸配列である。
【0090】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による二重特異性抗体をコードする組換え核酸配列を含むベクターである。
【0091】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による二重特異性抗体をコードする組換え核酸配列を含むベクターを含む宿主細胞である。
【0092】
一実施形態では、本発明は、腫瘍疾患の治療に使用するための、本発明による二重特異性抗体を含む。
【0093】
一実施形態において、本発明は、腫瘍疾患の治療における使用のための、本発明による二重特異性抗体を含む。
【0094】
一実施形態では、腫瘍疾患は、結腸癌、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、膵臓癌、乳癌からなる群から選択される。
【0095】
本発明のさらなる実施形態は、本発明による前記二重特異性抗体を含む医薬組成物である。
【0096】
一実施形態において、本発明は、有効量の本発明による二重特異性抗体または前記二重特異性抗体を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を治療する方法を含む。
【0097】
本発明によるCD277 Mabsとその特性は、表3および5にさらに記載されている。一実施形態では、CD277 Mabは、第1および第2のサブユニットからなるFcドメインを含む。一実施形態では、CD277 Mabは、第2の抗原に結合する第2の抗原結合ドメインを含む。一実施形態では、第2の結合部分は腫瘍抗原に特異的に結合するscFv分子であり、抗体はMab-scFvフォーマットである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図1a】本発明による二重特異性抗体の構造の一実施形態。
【
図1b】BTN3Aアゴニスト(配列番号94および93のHCおよびLC、「第2の二重特異性抗体」)と腫瘍抗原に対する二重特異性抗体は、同じ配列の単一特異性BTN3A抗体と比較して、腫瘍抗原を有する細胞に対して増強された効力を示すが、腫瘍抗原陰性細胞に対しては、同じBTN3A抗体配列の単一特異性BTN3A抗体と同じ力価で結合している(下図参照)。このような「第2の」二重特異性抗体は、依然として循環中および正常組織中のVγ9Vδ2細胞を非特異的に活性化する。それどころか、本発明の二重特異性抗体は、BTN3Aアゴニストに対する「第2の」二重特異性抗体と比較して、腫瘍抗原陽性細胞では依然として強い効力を示すが、腫瘍抗原陰性細胞ではあまり効力を示さない。従って、予期せぬことに、本発明の二重特異性抗体は治療における副作用が少ない。
【
図2】FOLR1+およびFOLR1-腫瘍細胞に対するEvB#5の活性。10.000 Ovcar-3(FOLR1+)または NCI-H1693(FOLR1-)細胞を完全培地(25mM HEPES、2mM L-グルタミン、100μg/mL ストレプトマイシン、100U/mL ペニシリン、10% ウシ胎児血清を補充した RPMI 1640)で培養した。腫瘍細胞を一晩接着させた後、細胞をさらに完全培地で培養し、表示濃度の抗体と短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞を10IU/mL rIL-2中、E/T比5:1で添加した。腫瘍細胞自体の自然溶解の対照として、Vγ9Vδ2 T細胞も抗体も添加せず、12.5IU/mL rIL-2を添加した培地で、追加ウェル中の腫瘍細胞を培養した(「SL」、自然溶解対照)。最大溶解の対照として、12.5IU/mL rIL-2を添加した培地中で、E/T比5:1で短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞を追加ウェル中の腫瘍細胞と培養したが、最大溶解を達成するためにTriton-X洗剤を添加した(「Triton X 100」対照)。Vγ9Vδ2 T細胞による腫瘍細胞のバックグラウンド溶解の対照として、追加ウェル中の腫瘍細胞を、12.5IU/mL rIL-2添加培地中、E/T比5:1で短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞と培養したが、抗体は添加しなかった(「培地対照」)。その後、セルインデックス(CI)を90時間にわたって3分ごとに測定した。時点txにおける腫瘍細胞の溶解度は、以下の式で計算した:腫瘍細胞溶解(tx)=(CI(tx)-培地対照(tx))/(Triton X100-培地対照(tx))*100曲線フィッティングは、Graphpad Prism 9を用い、シグモイド用量反応関数を用いて行い、参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(tx)のベストフィット値(Top値)を得た。参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(「Top」)に対する腫瘍細胞溶解率%は、以下の式で算出した:「腫瘍細胞溶解率%(tx)=腫瘍細胞溶解率(tx)/Top*100」。
図2aはFOLR1+ Ovcar-3腫瘍細胞の腫瘍細胞溶解率、
図2bはNCI-H1693 WT(FOLR1-)細胞の腫瘍細胞溶解率±24時間時点のSDである。異なるコンストラクトのEC50値を示す。本発明による二重特異性抗体は、0.12 nMの濃度でOvcar-3細胞を50%殺傷した。24時間時点のバックグラウンド溶解±SDは培地対照で示す。
図2cは、本発明によるscFvフォーマットの二重特異性抗体と逆フォーマットの二重特異性抗体についての、Ovcar-3細胞の腫瘍細胞溶解%の比較である。(EvB#1:抗腫瘍抗原抗体の2つのscFvを連結した配列番号1と5のVH/VL結合の全長2価抗体、EvB#8:VH/VLとして配列番号1と5を結合した2つのscFvを連結した同抗腫瘍抗原抗体を結合したVH/VL結合の全長2価抗体。両方のフォーマットを
図2dに示す)。
【
図3】溶解効率の統計的解析。統計解析の結果、濃度0.1nMでは、二重特異性抗体EvB#5は、活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球の存在下、FOLR1を有する細胞株Ovcar-3に、E/T比5:1で48%の溶解を誘導する(
図3a)。一方、当該二重特異性抗体は、FOLR1を有しないNCI-H1693には、同じアッセイおよび同じ条件下で、バックグラウンド溶解(「培地対照」)を有意に上回る溶解を誘導しない(
図3b)。差の有意性は、Graphpad Prism 9ソフトウェアを用いた対応のないt検定により決定し、有意性の程度を示した:ns P>0.05、* P≦0.05、** P≦0.01、*** P≦0.001。したがって、本発明による二重特異性抗体は、FOLR1+ Ovcar-3細胞に対するVγ9Vδ2 T細胞の細胞傷害性を増強し、FOLR1- NCI-H1693細胞に対する細胞傷害性は増強しないが、参照抗体(「Ref.Ab」)は、FOLR1+ Ovcar-3細胞に対するVγ9Vδ2 γδ T細胞の細胞傷害性を増強しない。
【
図4】NCI-H1693sgNT(WT対照)および抗原1をノックアウトしたNCI-H1693sgNT(クローン27)に対するEvB#2の活性。10.000個のNCI-H1693sgNT(WT対照)またはクローン27細胞を完全培地で培養した。腫瘍細胞を一晩接着させた後、細胞を追加完全培地で培養し、指定濃度の抗体と短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞を12.5IU/mL rIL-2中、E/T比5:1で添加した。腫瘍細胞自体の自然溶解の対照として、Vγ9Vδ2 T細胞も抗体も添加せず、12.5IU/mL rIL-2を添加した培地で、追加ウェル中の腫瘍細胞を培養した(「SL」、自然溶解対照)。最大溶解の対照として、12.5 IU/mL rIL-2を添加した培地中で、E/T比5:1で短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞を追加ウェル中の腫瘍細胞と培養したが、最大溶解を達成するためにTriton-X洗剤を添加した(「Triton X 100」対照)。Vγ9Vδ2 T細胞による腫瘍細胞のバックグラウンド溶解の対照として、追加ウェル中の腫瘍細胞を、12.5IU/mL rIL-2添加培地中、E/T比5:1で短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞と培養したが、抗体は添加しなかった(「培地対照」)。その後、セルインデックス(CI)を90時間にわたって3分ごとに測定した。時点txにおける腫瘍細胞の溶解度は、以下の式で計算した:腫瘍細胞溶解(tx)=(CI(tx)-培地対照(tx))/(Triton X100-培地対照(tx))*100曲線フィッティングは、Graphpad Prism 9を用い、シグモイド用量反応関数を用いて行い、参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(tx)のベストフィット値(Top値)を得た。参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(「Top」)に対する腫瘍細胞溶解率%は、以下の式で算出した:腫瘍細胞溶解率(tx)=腫瘍細胞溶解率(tx)/Top*100
図4aは抗原1+ NCI-H1693 sgNT腫瘍細胞の腫瘍細胞溶解率、
図4bは24時間時点における抗原1-クローン27細胞の腫瘍細胞溶解率±SDを示す。異なるコンストラクトのEC50値を示す。本発明による二重特異性抗体は、0.012 nMの濃度でNCI-H1693 sgNT細胞を50%殺傷した。24時間時点のバックグラウンド溶解±SDは培地対照で示す。
【
図5】溶解効率の統計的解析。統計解析によると、二重特異性抗体EvB#2は0.01nMの濃度で、活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球の存在下、抗原1を持つ細胞株NCI-H1693 sgNTをE/T比5:1で61%溶解させた(
図5a)。一方、前記二重特異性抗体は、前記腫瘍抗原を持たないNCI-H1693 ko細胞(クローン27)において、同じアッセイおよび同じ条件下でバックグラウンド溶解を有意に上回る溶解を誘導しない(
図5b)。差の有意性は、Graphpad Prism 9ソフトウェアを用いた対応のないt検定により決定し、有意性の程度を示した:ns P>0.05、* P≦0.05、** P≦0.01、*** P≦0.001。したがって、本発明による二重特異性抗体は、NCI-H1693sgNTに対するVδ2
+ γδ T細胞傷害性を増強し、ko細胞に対しては増強しない。一方で、参照抗体(「参照抗体」)は、腫瘍抗原1を有するNCI-H1693sgNT細胞に対すVδ2
+ γδ T細胞傷害性を増強しない。
【
図6】STEAP1+およびSTEAP1-腫瘍細胞に対するEvB#3の活性。10.000個のUMUC-3(STEAP1+)細胞またはOvcar-3(STEAP1-)細胞
を完全培地で培養した。腫瘍細胞を一晩接着させた後、細胞をさらに完全培地で培養し、表示濃度の抗体と短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞を10IU/mL rIL-2中、E/T比5:1で添加した。腫瘍細胞自体の自然溶解の対照として、Vγ9Vδ2 T細胞も抗体も添加せず、12.5IU/mL rIL-2を添加した培地で、追加ウェル中の腫瘍細胞を培養した(「SL」、自然溶解対照)。最大溶解の対照として、12.5IU/mL rIL-2を添加した培地中で、E/T比5:1で短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞を追加ウェル中の腫瘍細胞と培養したが、最大溶解を達成するためにTriton-X洗剤を添加した(「Triton X 100」対照)。Vγ9Vδ2 T細胞による腫瘍細胞のバックグラウンド溶解の対照として、追加ウェル中の腫瘍細胞を、12.5IU/mL rIL-2添加培地中、E/T比5:1で短期活性化Vγ9Vδ2 T細胞と培養したが、抗体は添加しなかった(「培地対照」)。その後、セルインデックス(CI)を90時間にわたって3分ごとに測定した。時点txにおける腫瘍細胞の溶解度は、以下の式で計算した:腫瘍細胞溶解(tx)=(CI(tx)-培地対照(tx))/(Triton X100-培地対照(tx))*100曲線フィッティングは、Graphpad Prism 9を用い、シグモイド用量反応関数を用いて行い、参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(tx)のベストフィット値(Top値)を得た。参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(「Top」)に対する腫瘍細胞溶解率%は、以下の式で算出した:腫瘍細胞溶解率(tx)=腫瘍細胞溶解率(tx)/Top*100
図6aはSTEAP1+ UMUC-3腫瘍細胞の腫瘍細胞溶解率、
図6bは24時間時点(tx)におけるSTEAP1- Ovcar-3腫瘍細胞の腫瘍細胞溶解率±SDを示す。異なるコンストラクトのEC50値を示す。本発明による二重特異性抗体は、0.17 nMの濃度でUMUC-3細胞を50%殺傷した。24時間時点のバックグラウンド溶解±SDは培地対照で示す。
【
図7】分子のクローニングと腫瘍アンカーカセットの交換。
【
図8】FOLR1+Ovcar-3およびFOL1R-腫瘍細胞の細胞溶解率を示す(
図2の説明を参照)。BTN3Aアゴニスト抗体:参照抗体、EvB#5:CDR変異のない二重特異性抗体、EvB#47およびEvB#52:変異のある二重特異性抗体、例えば表2参照)。
【
図9a】Vγ9Vδ2 T細胞脱顆粒アッセイ。腫瘍抗原陽性細胞非存在下でのVδ2 T細胞の脱顆粒は、細胞表面上のCD107aレベルのFACS分析によってモニターされた。抗体はi.v.投与後の一次分布コンパートメントにおけるより高い薬物濃度を反映するため、有効濃度の10倍の濃度で適用された。上段は、参照抗体20.1で活性化した4つの異なるドナーのVγ9Vδ2 T細胞の有意な脱顆粒を、抗体なしの培地存在下でのCD107a表面レベルと比較して示している。下のパネルは、抗体なしの培地存在下でのCD107a表面レベルと比較した場合、本発明の抗体存在下での4つの異なるドナーからのVγ9Vδ2 T細胞の有意な脱顆粒を示さない。
【
図9b】Vγ9Vδ2 T細胞自己除去アッセイ。腫瘍抗原陽性細胞がない場合のVδ2 T細胞の自己排除は、死細胞をSytoxGreenで染色した後、FACS分析でモニターした。抗体はi.v.投与後の一次分布コンパートメントにおけるより高い薬物濃度を反映するため、有効濃度の10倍の濃度で適用された。上段は、参照抗体20.1による活性化で、4つの異なるドナーのVδ2 T細胞が、抗体を含まない培地存在下で死滅した割合と比較して有意に死滅したことを示している。下側のパネルは、本発明の抗体存在下、4つの異なるドナーから採取したVδ2 T細胞を有意に殺さないことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0099】
本発明者らは、Imbert C.ら、WO2012080351およびWO2012080769に記載のアゴニスト性マウス抗CD277抗体(親抗体、20.1)、ならびに当該抗CD277抗体からなる二重特異性抗体、および当該二重特異性抗体における例示的な腫瘍抗原に対する抗体について、腫瘍抗原陽性細胞および陰性細胞に対する細胞溶解を検討した。
図9に示すように、前記Mab-scFvフォーマットの二重特異性抗体は、それぞれの単一特異性抗CD277抗体よりも優れた腫瘍細胞溶解作用を示す。
【0100】
驚くべきことに、本発明者らは、さらに、CDR重鎖CDRH2(配列番号44)に2つの点変異(N53S、K58N、またはCDRH2で数えるとN5SおよびK10Nとも呼ばれる)を有する前記親抗CD277抗体を含むMab-scFv形式の二重特異性抗体が、これらの変異のない親抗体と抗腫瘍抗原抗体からなる二重特異性抗体と比較して、腫瘍抗原陽性細胞の高い溶解を提供するが、腫瘍抗原陰性細胞の溶解は減少することを見出した。この驚くべき効果は、抗CD277抗体部分の軽鎖CDRL1(例えば 配列番号75、140、141)の付加的な点変異(L31V、CDRL1で数えるとL8V)によってさらに改善される。したがって、本発明はこのような二重特異性抗体およびそのヒト化バージョンを提供する。
【0101】
一実施形態において、本発明による抗体は、前記CDRH2置換に加えて、CDRL1におけるL8Vの置換を含むことを特徴とする。一実施形態において、本発明による抗体は、CDRL1におけるL8VおよびH1Rの付加的置換を含むことを特徴とする。
【0102】
本明細書で使用する場合、本発明による「活性化Vγ9Vδ2 T細胞」という用語は、アミノビスホスホネート(n-BP)ゾレドロン酸による刺激および組換えIL2(rIL2)の添加によってVγ9Vδ2 T細胞が活性化されることを意味する;実施例3を参照のこと。
【0103】
用語「第1の結合部分」は全長抗体を指す。本明細書で使用する「全長抗体」という用語は、2本の同一の軽鎖(L鎖)と2本の同一の重鎖(H鎖)からなるヘテロ4量体の糖タンパク質を指す。全長抗体は単一特異性の二価抗体で、可変ドメインと定常ドメイン、Fc部分を含む。通常、各軽鎖は重鎖と1つの共有結合ジスルフィド結合で結合しているが、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間ではジスルフィド結合の数は異なる。重鎖と軽鎖はそれぞれ、鎖内に規則的な間隔でジスルフィド橋を持つ。各重鎖の一端には可変ドメイン(VH)があり、その後に多数の定常ドメインが続く。各軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)を持ち、他端に定常ドメインを持つ。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列しており、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。全長抗体は、N末端からC末端方向に、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体重鎖定常ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)から構成され、VH-CH1-HR-CH2-CH3と略される。「全長抗体軽鎖」は、N末端からC末端方向に抗体軽鎖可変ドメイン(VL)と抗体軽鎖定常ドメイン(CL)から構成され、VL-CLと略される。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)はκ(kappa)またはλ(lambda)である。特定のアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変ドメイン間の界面を形成していると考えられている[Chothiaら, J. Mol.Biol., 186:651-663 (1985); Novotny and Haber, Proc.Natl. Acad.Sci. USA, 82:4592-4596(1985)。]脊椎動物のどの種の抗体の軽鎖も、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、kappaとlambdaと呼ばれる明確に異なる2つのタイプのいずれかに分類することができる。それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全長抗体を、異なる「クラス」に割り当てることができる。免疫グロブリンには5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、そしてこれらのいくつかは、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2などのサブクラス(アイソタイプ)にさらに分けられる。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、ミューと呼ばれる。
【0104】
本明細書で使用する「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を指す。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量に存在する可能性のある天然由来の変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的で、単一の抗原部位に向けられる。
【0105】
「ヒト化抗体またはそのヒト化バージョン」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親イムノグロブリンと比較して異なる特異性を有するイムノグロブリンのCDRを構成するように改変された抗体を指す。一実施形態では、ヒト抗体のフレームワーク領域にマウスCDRを移植し、「ヒト化抗体またはバージョン 」を調製する。例えば、Riechmann, L ., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照のこと。一実施形態では、ヒトフレームワークは、IGHV1-46*01(X92343)またはIGHV4-34*01(AB019439)、IGKV3-11*01 V-KAPPA(X01668)またはIGKV1-12*01 V-KAPPA(V01577)である。本発明に包含される一実施形態では、定常領域は、特にC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して、本発明による特性を生成するために、元の抗体のものから付加的に修飾または変更されている。
【0106】
本明細書で使用する「可変ドメイン」という用語は、軽鎖および重鎖の可変ドメインの両方において、相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントを含む抗体領域を指す。可変ドメインのより高度に保存された部分はフレームワーク(FR)と呼ばれる。ネイティブの重鎖と軽鎖の可変ドメインは、それぞれ4つのFR領域を含み、大部分がβシート構造をとり、3つのCDRによって連結され、βシート構造をつなぐループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成する。各鎖のCDRはFR領域によって近接して保持され、もう一方の鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1987)を参照)。定常ドメインは、抗体と抗原の結合には直接関与しないが、抗体依存性の細胞毒性に関与するなど、様々なエフェクター機能を示す。
【0107】
本明細書で使用する「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を指す。Fc領域は、ネイティブ配列のFc領域であってもよいし、バリアントFc領域であってもよい。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は異なるかもしれないが、ヒトIgG重鎖のFc領域は通常、一Cys226のアミノ酸残基から、または位置Pro230のアミノ酸残基から、Fc領域のカルボキシル末端まで伸長するように定義される(本明細書では、Kabatら(上掲)による番号付けシステムを使用する)。免疫グロブリンのFc領域は一般に、2つの定常ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、任意でCH4ドメインIgEを含む。
【0108】
本明細書において「Fc領域鎖」とは、Fc領域の2本のポリペプチド鎖のうちの1本を意味する。
【0109】
ヒトIgG Fc領域の「CH2ドメイン」(「Cγ2」ドメインとも呼ばれる)は、通常、おおよそ位置231のアミノ酸残基からおおよそ位置340のアミノ酸残基まで伸びている。CH2ドメインは、他のドメインと密接に対になっていないという点でユニークである。むしろ、2本のN-結合分岐型糖鎖が、インタクトのネイティブIgG分子の2つのCH2ドメインの間に介在している。糖鎖がドメインとドメインのペアリングの代わりとなり、CH2ドメインの安定化に役立っているのではないかと推測されている。Burton, Mol.Immunol .22:161-206 (1985)。本明細書におけるCH2ドメインは、ネイティブ配列CH2ドメインまたはバリアントCH2ドメインであり得る。
【0110】
「CH3ドメイン」は、Fc領域のCH2ドメイン(IgGのおおよそ位置341のアミノ酸残基からおおよそ位置447のアミノ酸残基まで)のC末端の残基のストレッチを含む。本明細書におけるCH3領域は、ネイティブ配列のCH3ドメインまたはバリアントCH3ドメイン(例えば、その一方の鎖に「突起」が導入され、他方の鎖に対応する「空洞」が導入されたCH3ドメイン;米国特許第5,821,333号参照)であってもよい。
【0111】
「ヒンジ領域」とは、一般に、ヒトIgG1の約Glu216、または約Cys226から約Pro230まで伸びる領域と定義される(Burton, Mol.Immunol .22:161-206 (1985))。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間S-S結合を形成する最初と最後のシステイン残基を同じ位置に配置することにより、IgG1配列と整列させることができる。本明細書におけるヒンジ領域は、ネイティブ配列のヒンジ領域であってもよいし、バリアントヒンジ領域であってもよい。バリアントヒンジ領域の2つのポリペプチド鎖は、一般に、ポリペプチド鎖あたり少なくとも1つのシステイン残基を保持しており、そのため、バリアントヒンジ領域の2つのポリペプチド鎖は、2つの鎖の間にジスルフィド結合を形成することができる。本明細書において好ましいヒンジ領域は、ネイティブ配列のヒトヒンジ領域、例えばネイティブ配列のヒトIgG1ヒンジ領域である。
【0112】
「機能的Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域の少なくとも一つの「エフェクター機能」を有する。例示的な「エフェクター機能」には、C1q結合;補体依存性細胞傷害性(CDC);Fcレセプター結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC);食作用;細胞表面レセプター(例えばB細胞レセプター;BCR)のダウンレギュレーションなどが含まれる。このようなエフェクター機能は一般に、Fc領域が結合ドメイン(例えば抗体可変ドメイン)と結合していることを必要とし、このような抗体エフェクター機能を評価するために当技術分野で知られている様々なアッセイを用いて評価することができる。
【0113】
「ネイティブ配列Fc領域」とは、自然界に存在するFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾によってネイティブ配列のFc領域とは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、ネイティブ配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1個のアミノ酸置換、例えば約1個から約10個のアミノ酸置換、好ましくはネイティブ配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域において約1個から約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc領域は、好ましくは、ネイティブ配列Fc領域および/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の配列同一性を有し、最も好ましくは、それと少なくとも約90%の配列同一性を有し、より好ましくは、それと少なくとも約95%の配列同一性を有する。
【0114】
IgG4サブクラスの抗体はFc受容体(FcyRIIIa)との結合が減少しているが、他のIgGサブクラスの抗体は強い結合を示している。しかしながら、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297、Pro329、Leu234、Leu235、Gly236、Gly237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434、およびHis435は、変化した場合、Fe受容体結合を低下させる残基である(Shields, R.L.ら, J. Biol.Chem.276 (2001) 6591-6604; Lund, J., et al., FASEB J.9 (1995) 115-119; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324; EP 0 307 434)。一実施形態では、本発明による抗体は、IgG1抗体と比較して減少したFcγR結合を有し、全長抗体は、IgG4サブクラス、またはS228、L234、L235および/もしくはD265に変異を有するIgG1もしくはIgG2サブクラスであり、かつ/もしくはPVA236変異を含む。一実施形態では、完全長抗体における変異は、S228P、L234A、L235A、L235Eおよび/またはPVA236である。別の実施形態では、完全長抗体の変異はIgG4 S228P、IgG1 L234AおよびL235Aである。
【0115】
さらなる実施形態において、本発明による抗体は、前記全長抗体がヒトIgG1サブクラス、または変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1サブクラスであることを特徴とする。さらなる実施形態において、本発明による抗体は、前記全長抗体がヒトIgG4サブクラス、または追加変異S228Pを有するヒトIgG4サブクラスであることを特徴とする。一実施形態は、IgG4サブクラスの定常重鎖領域におけるS228P(Ser228Pro)、L235E(Leu235Glu)およびP329G(Pro329Gly)、またはS228P(Ser228Pro)およびP329G(Pro329Gly)の変異を含む。
【0116】
「第2の結合部分」という用語は、一本鎖Fv分子を指す。第1の結合部分のFc部分のC末端には、それぞれ同一の一本鎖Fv分子が接続されている。したがって、第2の結合部分は2つの単鎖Fv分子を含む。
【0117】
本明細書において、「単鎖Fv分子(scFv)」という用語は、軽鎖(VL)の可変ドメインが、そのC末端から重鎖(VH)の可変ドメインのN末端までポリペプチド鎖で連結されている分子を指す。あるいは、scFvは、VHのC末端がVLのN末端にポリペプチド鎖で連結されたポリペプチド鎖を含む。
【0118】
本発明で使用される用語「ペプチドリンカー」または「リンカー」は、好ましくは合成由来のアミノ酸配列を有するペプチドを示す。本発明によるペプチドリンカーは、単鎖FabまたはscFv断片を全長抗体のC末端に融合させるために使用される。好ましくは、前記ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長、好ましくは5~30アミノ酸長、より好ましくは10~20アミノ酸長のアミノ酸配列を有するペプチドである。一実施形態では、前記ペプチドコネクターは、(GxS)nまたは(GxS)nGmであり、ここでG=グリシン、S=セリン、および(x=3、n=3、4、5または6、およびm=0、1、2または3)または(x=4、n=2、3、4または5、およびm=0、1、2または3)であり、好ましくはx=4、n=2または3であり、より好ましくはx=4、n=3である。一実施形態では、前記ペプチドコネクターは(G4S)3である。有用なペプチドリンカーは 配列番号97-101にも記載されている。
【0119】
可変領域は、直接連結してもよいし、典型的には、機能的抗原結合部分の形成を可能にするリンカーペプチドを介して連結してもよい。典型的なペプチドリンカーはおおよそを含み、本明細書に記載されているか、または当該技術分野で知られている。
【0120】
scFv分子は、例えばReiterら(Nat.Biotechnol.14, 1239-1245 (1996))に記載のように、重鎖と軽鎖の可変ドメイン間のジスルフィド橋によってさらに安定化される。したがって、一実施形態において、本発明のT細胞活性化二重特異的抗原結合分子は、重鎖可変ドメインのアミノ酸および軽鎖可変ドメインのアミノ酸がシステインで置換され、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとの間にジスルフィド橋が形成され得るscFv分子を含む。具体的な実施形態では、軽鎖可変ドメインの位置44のアミノ酸と重鎖可変ドメインの位置100のアミノ酸がシステインで置換されている(Kabat番号付け)。
【0121】
当技術分野で知られているように、scFvはまた、CDR配列の変異によっても安定化され得るが、これは(Miller et al, Protein Eng Des Sel.2010 Jul;23(7):549-57; Igawa et al, MAbs.2011 May-Jun;3(3):243-5; Perchiacca & Tessier, Annu Rev Chem Biomol Eng.2012;3 :263- 86)に記載されているとおりである。
【0122】
一実施形態では、scFvは生産収率を向上させるために単鎖Fab断片に置き換えることができる。「Fab断片」とは、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体軽鎖定常ドメイン(CL)およびリンカーからなるポリペプチドであり、前記抗体ドメインおよび前記リンカーは、N末端からC末端方向に以下のいずれかの順序を有する:a)VH-CH1-リンカー-VL-CL、b)VL-CL-リンカー-VH-CH1、c)VH-CL-リンカー-VL-CH1またはd)VL-CH1-リンカー-VH-CL;および前記リンカーが少なくとも30アミノ酸、好ましくは32~50アミノ酸のポリペプチドである。前記単鎖Fab断片a) VH-CH1-リンカー-VL-CL、b) VL-CL-リンカー-VH-CH1、c) VH-CL-リンカー-VL-CH1およびd) VL-CH1-リンカー-VH-CLは、CLドメインとCH1ドメインとの間の天然のジスルフィド結合を介して安定化される。用語「N末端」はN末端の最後のアミノ酸を示し、用語「C末端」はC末端の最後のアミノ酸を示す。
【0123】
本明細書に記載の抗原結合構築物は二重特異性であり、一般的な実施形態では、それぞれ2つの異なる抗原に特異的に結合できる少なくとも2つの抗原結合ポリペプチド構築物を含む。第1の結合部分は完全長の二価抗体で、第2の結合部分はFc部分を含まない2つの一価抗体断片からなる。好ましい実施形態では、2つの一価抗体断片はscFv形式(すなわち、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインからなる抗原結合ドメイン)である。一実施形態では、前記scFv分子はヒトである。別の実施形態では、前記第1および第2の結合部分はヒト化されている。
【0124】
好ましいMab-scFvフォーマットを示す例示的な重鎖(
図1aも参照)を配列番号102(DLL3)および配列番号103(CLDN18.2)に示す。
【0125】
「特異的結合」または「選択的結合」とは、結合が抗原に対して選択的であり、不要または非特異的な相互作用から識別できることを意味する。抗原結合部分が特定の抗原決定基と結合する能力は、表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定することができる(BIAcore装置で分析)。一実施形態では、抗原結合部分の無関係なタンパク質への結合の程度は、SPRで測定した抗原結合部分の抗原への結合の約10%未満、好ましくは5%未満である。
【0126】
本発明について用語「EC50比」とは、本発明による二重特異性抗体の値を分子(上)とし、参照抗体の値を分母(下)とする比を意味する。
【0127】
一実施形態では、前記第2の腫瘍抗原陰性細胞株は、腫瘍抗原が不活性化された前記第1の細胞株である(ノックアウト細胞株;ko細胞株)。
【0128】
一実施形態では、前記二重特異性抗体は、前記第1の腫瘍抗原陽性細胞株の溶解について、前記参照抗体のEmaxと比較して0.5~1.5のEmax比を示す。溶血は、腫瘍細胞のインピーダンスをモニターすることによって測定される(実施例6参照)。
【0129】
本明細書で使用する場合、「前記腫瘍抗原を持たないヒト細胞の溶解を誘導しない」という用語は、12.5IU/mLインターロイキン-2の存在下、E/T比5:1の活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球の存在下で測定した、本発明の抗体による腫瘍細胞の溶解であって、バックグラウンドの溶解と有意差のない(p値>0.05)溶解を指す 。バックグラウンド溶解は、同じアッセイで同じ条件で測定されるが、抗体は添加されない(「培地対照」)。
【0130】
本明細書で使用する「CD277結合」とは、BTN3A1、BTN3A2、および/またはBTN3A3への結合を意味する。
【0131】
「親和性」とは、解離定数(kD)で表される分子(例えばCD277)と結合パートナー(例えば抗CD277抗体)の単一の結合部位間の相互作用の強さを指し、解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoffとkon)の比である。したがって、等価な親和性は、速度定数の比が同じである限り、異なる速度定数で構成されていてもよい。親和性は、本明細書に記載されているものを含め、当技術分野で周知の確立された方法によって測定することができる。親和性を測定するための特別な方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0132】
本明細書で使用する「親和性成熟抗体」とは、その1つ以上のCDRに1つ以上の改変があり、その結果、それらの改変を持たない親抗体に比べて抗CD277抗体の親和性が低下している抗体を指す。親和性が低下した好ましい成熟抗体は、CD277に対してナノモルからマイクロモルの範囲の親和性を有する。親和性成熟抗体はアラニンスキャンによって(Tiller KE et al; Front.Immunol., 04 September 2017 https://doi.org/10.3389/fimmu.2017.00986)または当技術分野で公知の他の手順 (参照、例えばTabasinezhada M. et al; Immunology Letters Volume 212, August 2019, Pages 106-113; 1.Georgiev, I. S. et al. J Immunol 192, 1100-1106 (2014))によって産生することができる。
【0133】
本明細書で使用する場合、「アゴニスト」および「アゴニスティック」という用語は、直接的または間接的に、Vγ9Vδ2 T細胞の生物学的活性または活性化を実質的に誘導、促進、または増強する(γδTCRに対する免疫学的シナプスの形成を促進することによって)ことが可能な分子を指すか、または記述する。任意で、「アゴニストCD277抗体」とは、CD277の結合および活性化により、上記のVγ9Vδ2 T細胞の活性化を達成する活性を有する抗体である。好ましくは、アゴニストはヒトおよびカニクイザルVγ9Vδ2 T細胞を活性化できる分子である。さらに好ましくは、アゴニストはCD277に対する抗体であり、当該抗体は抗体20.1よりも5倍低いアゴニスト活性を有する。このような抗体のアゴニスト活性は、実施例6に記載したアッセイで決定することができる。
【0134】
「腫瘍抗原に対する特異的結合」とは、その結合が腫瘍抗原に対して選択的であり、不要または非特異的な相互作用から識別できることを意味する。本発明による二重特異性抗体(または第2の結合部分)が特定の腫瘍抗原に結合する能力は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)または当業者に周知の他の技術、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore装置で分析)(Liljeblad et al, Glyco J 17, 323-329 (2000))、および従来の結合アッセイ(Heeley, Endocr Res 28, 217-229 (2002))によって測定することができる。一実施形態では、無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定される腫瘍抗原への本発明による二重特異性抗体(または第2の結合部分)の結合の約10%未満である。
【0135】
本明細書において、本発明による「CD277に特異的に結合するアゴニスト抗体」という用語は、そのような抗体がVγ9/Vδ2 T細胞の細胞溶解機能、サイトカイン産生および増殖を活性化することを意味する。一実施形態では、無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定される腫瘍抗原への本発明による二重特異性抗体(または第2の結合部分)の結合の約10%未満である。一実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、実施例6に記載されるような細胞溶解アッセイにおいて、前記それぞれの腫瘍抗原を有する腫瘍細胞の非存在下で、Vγ9/Vδ2 T細胞の細胞溶解機能、サイトカイン産生および増殖を、5nM以下、一実施形態では20nM以下の濃度で活性化しない。
【0136】
本明細書において「腫瘍抗原ノックアウト細胞株またはノックアウト細胞株」とは、それぞれの腫瘍抗原を野生型バージョンで保有し、それぞれの腫瘍抗原遺伝子が不活性化された腫瘍細胞株を指す。本発明によれば、CRISPR/Cas9技術を使用して、前記遺伝子の遺伝子変異体を導入し、前記抗原発現を不活性化することができる。
【0137】
「腫瘍抗原」という用語は、腫瘍特異抗原(TSA)および腫瘍関連抗原(TAA)を含む、腫瘍細胞の表面に提示される抗原を意味する。好ましい実施形態では、腫瘍抗原はClaudin18.2、FOLR1、STEAP、またはDLL3である。さらに有用な腫瘍抗原は、例えばMiddleburgら, Cancers (2021) 13, 287, pp 4-6に記載されている。FOLR1のような一部の腫瘍抗原は、葉酸 (Cheung et al., Oncotarget, 7 (32), 2016, pp 52553-32574) や治療用抗体(Paulos et al., Molecular Pharmacology, 66 (6), 2004, pp 1406-1414)のような天然のリガンドと結合した後に内在化する。
【0138】
したがって、Vγ9Vδ2 T細胞のリクルートに関する利用可能性が減少し、本発明による二重特異性抗体が共に内在化され、その逆で細胞表面のCD277受容体が枯渇する可能性がある。このような場合、受容体は免疫細胞のVγ9Vδ2 T細胞受容体と接触して免疫学的シナプスを形成することができなくなる。したがって、本発明によれば、本発明による二重特異性抗体は、それぞれの抗体の結合後に内在化されない腫瘍抗原に結合するか、または細胞表面での(共)内在化後に残存する腫瘍抗原およびCD277レベルがVg9Vd2 T細胞の活性化を誘発するのに十分な程度にのみ結合することが好ましい。
【0139】
好ましくは、本発明による腫瘍抗原は、抗原を有する腫瘍細胞および抗原陰性の細胞の両方を、それぞれの二重特異性抗体または参照抗体で8時間処理したものから選択される。次に、Vγ9Vδ2 T細胞を加え、実施例6に記載したように、表面に露出して活性化されたCD277による腫瘍細胞溶解率を測定する。Emax値は曲線フィッティングにより求め、二重特異性抗体対参照抗体のEmax比を各細胞株についてそれぞれ算出する。抗原を有する腫瘍細胞上のEmax比は、腫瘍抗原を有さない細胞上のEmax比の半分以下であってはならず、腫瘍抗原の存在が、抗原を有する腫瘍細胞上の二重特異性抗体によるCD277の共内在化による活性の50%以上の喪失につながらないことを示している。
【0140】
本明細書で使用する場合、「Emax」という用語は、in vitroまたはin vivoアッセイにおいて、抗体またはその抗原結合部分の任意の濃度によって誘導される応答であって、最大応答であるものを指す。
【0141】
本明細書で使用する場合、「EC50」という用語は、in vitroアッセイで反応を誘導する抗体またはその抗原結合部分の濃度を指し、これは最大反応の50%、すなわち最大反応とベースラインの中間である。
【0142】
本明細書で使用する「KDまたはKD」という用語は、抗体と抗原との結合反応の平衡解離定数を意味する。
【0143】
本発明による抗体は組換え体によって産生される。したがって、本発明の一実施形態は、本発明による抗体をコードする核酸であり、さらなる実施形態は、本発明による抗体をコードする前記核酸を含む細胞である。組換え生産の方法は、当該技術分野において広く知られており、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質の発現と、それに続く抗体の単離、および通常薬学的に許容される純度までの精製を含む。本発明の抗体を宿主細胞で発現させるには、それぞれの修飾軽鎖および重鎖をコードする核酸を標準的な方法で発現ベクターに挿入する。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、または大腸菌細胞のような適切な原核生物または真核生物の宿主細胞で行われ、抗体は細胞(溶解後の上清または細胞)から回収される。抗体の組換え生産のための一般的な方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Makrides, S.C., Protein Expr.Purif.17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr.Purif.8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880.の総説に記載されている。
【0144】
本発明による二重特異性抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順によって培養液から好適に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAとRNAは、通常の手順で容易に単離され、塩基配列が決定される。
【0145】
本出願で使用する「宿主細胞」という用語は、本発明による抗体を生成するように操作できるあらゆる種類の細胞系を示す。一実施形態では、HEK293細胞とCHO細胞が宿主細胞として使用される。
【0146】
本発明の一態様は、本発明による抗体を含む医薬組成物である。本発明の別の態様は、医薬組成物の製造のための本発明による抗体の使用である。本発明のさらなる態様は、本発明による抗体を含む医薬組成物の製造方法である。別の態様において、本発明は、医薬担体とともに製剤化された、本発明による抗体を含む組成物、例えば医薬組成物を提供する。
【0147】
本発明の一実施形態は、癌(腫瘍疾患)の治療に使用するための本発明による二重特異性抗体である。
【0148】
本発明の別の態様は、癌の治療に使用するための医薬組成物である。
【0149】
本発明の別の態様は、癌の治療のための医薬の製造のための本発明による抗体の使用である。
【0150】
本発明の別の態様は、個体における癌の治療方法であって、本発明による二重特異性抗体の有効量を個体に投与することを含む方法である。
【0151】
本発明の別の態様は、本発明による抗体を含む医薬組成物である。
【0152】
本明細書で使用される「医薬担体」には、生理学的に適合するあらゆる溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌・抗真菌剤、等張化剤、吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口投与、脊髄投与、または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適している。
【0153】
本発明の組成物は、当技術分野で公知の様々な方法によって投与することができる。当業者には理解されるように、投与経路および/または投与様式は、所望の結果に応じて変化する。特定の投与経路で本発明の化合物を投与するためには、化合物を不活性化を防ぐ物質でコーティングするか、または化合物を共投与することが必要な場合がある。例えば、化合物は、適切な担体、例えばリポソーム、希釈剤などに入れて対象に投与することができる。薬学的に許容される希釈剤には、生理食塩水や水性緩衝液が含まれる。医薬担体には、無菌水溶液または分散液、および無菌注射液または分散液を即座に調製するための無菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質に対するこのような媒体の使用は、当技術分野で知られている。
【0154】
本明細書で使用される癌という用語は、リンパ腫、リンパ性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、消化器系癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、ホジキン病などの増殖性疾患を指す。
【0155】
ある態様では、前記癌(腫瘍疾患)は、結腸癌、卵巣癌、肺癌、前立腺癌、膵臓癌、および乳癌からなる群から選択される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【0156】
配列表には、各VHまたはVLの後のそれぞれのCDRが記載されている。いくつかのVHとVLは、1つ以上の同一のCDRを含む:
配列番号2は43、59、63、71、109と同じ。
配列番号4は配列番号45、49、53、57、61、65、69、73、107、111、115と同じ。
配列番号7は配列番号80、84、88、118、122、126、130、134と同じ。
配列番号8は配列番号119、89、123、127、131、135、139と同じ。
配列番号44は配列番号64と同じ。
配列番号47は単独配列。
配列番号51は配列番号54と同じ。
配列番号67は単独配列。
配列番号75は配列番号79、87と同じ。
配列番号105は配列番号113と同じ。
配列番号138は単独配列。
【0157】
材料と方法
細胞培養、トランスフェクション、抗体産生、精製:CHO-S細胞(FreeStyleTM、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を、コーニング社製三角フラスコ(125ml、コーニング社製)に入れ、37℃、5%CO2の条件下で、120rpmの一定振とうを行った。細胞は、1%(v/v) GlutaMAX 100x と 1%(v/v) HT Supplement 100x(Thermo Fisher Scientific)を添加したCD CHO増殖培地(Gibco(登録商標)/Thermo Fisher Scientific)で培養した。1日おきに、細胞を0.3x106cells/mlの密度に調整し、指数関数的増殖を維持した。トランスフェクションの1日前に、細胞を2x106 cells/mlの密度で播種し、トランスフェクション当日に4x106 cells/mlの所望の密度になるようにした。トランスフェクションは、MaxCyte STXTM transfection unit(MaxCyte, Inc., Gaithersburg, MD, USA)を使用して生産者の指示書に従って実施した。MaxCyteプロセッシングアセンブリーOC-400と、CHO-S細胞でのタンパク質生産用に最適化されたトランスフェクションプロトコルを使用した。遠心分離により8×108細胞の総量を採取し、8×107個の細胞を10等分した。4mlのエレクトロポレーション(EP)バッファーで2回洗浄した後、細胞をEPバッファーに再懸濁し、8×107細胞/400μlの密度にした。重鎖:軽鎖の比率が1:1、または表面抗原発現用の単一ベクターで、合計300μg/mlのプラスミドDNAを添加した。エレクトロポレーション後、CHO-S細胞を余分な緩衝液や培地を加えることなく培養フラスコに直接播種し、37℃、5%CO2で30分間インキュベートした。トランスフェクション後の培養条件は、タンパク質産生と表面マーカーの一過性発現で異なっていた:
【0158】
表面レセプター発現:細胞をCD CHO増殖培地で48時間培養した後、FACS分析に使用した。
【0159】
抗体産生:150mlの生産培地を加えた(CD OptiCHOTM + 1 % (v/v) GlutaMAX 100x + 1 % (v/v) HT Supplement 100x + 1 % (v/v) PluronicTMF-68 100x, すべて Gibco(登録商標)/Thermo Fisher Scientific)。トランスフェクションの1日後、1mMの酪酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific)を添加し、細胞に3.5%(v/v)のMaxCyte Feed Stock(28 ml Yeastolate Stock Solution 0.5 % + 140 ml CHO CD Efficient Feed A Stock Solution + 7 ml GlutaMAX 100x + 24.8 ml Glucose (450 g/l) Stock Solution, Gibco(登録商標)/Thermo Fisher Scientific)を与えた。残りの生産サイクル(14日間または細胞生存率が50%以下になるまで)は、培養温度を32℃に下げた。生産期間中、細胞密度と生存率を1日おきに測定し、生産が停止されるまでMaxCyte Feed Stock(上記参照)を毎日細胞に与えた。遠心分離によって上清を回収し、細胞残屑を除去するために濾過した(最終容量は約200ml)。第一段階として、CaptureSelectTMCH1 -XL (Hu) Affinity Matrix(Thermo Fisher Scientific)を用いたアフィニティークロマトグラフィーを行った。簡単に言うと、1mlのビーズを加え、4℃で一晩かけてゆっくりと撹拌した。ビーズを10mlのPBSで3回、グラビティフローカラムで洗浄した。タンパク質を5mlの0.1Mグリシン、pH3.0で溶出し、直ちに1mlのTris/HCL pH8.0を加えて中和した。溶出画分を2lのPBSに対して4℃で合計3回透析した。次に、HiLoad 26/600 Superdex 200 pgカラム(GE Healthcare Life Science)を用いて、流速1ml/分でサイズ排除クロマトグラフィー(AKTA Pure 25, GE Healthcare Life Science)を行い(PBS緩衝液)、単量体抗体を分離した。抗体調製物は標準的な手順でSDS-PAGEで分析した。ゲルはクマシーブルーで染色した。精製タンパク質のタンパク質濃度は、製造業者の条件に従ってBCAアッセイ(Pierce)で分析した。
【0160】
フローサイトメトリー:個々の染色反応には0.5x106個の細胞を用いた。細胞を1mlのPBA(PBS、1%BSA、0.05%NaN3)で1回洗浄する。細胞ペレットを、PBAで希釈した50μg/ml濃度の精製組換えタンパク質50μlで再懸濁する。細胞を氷上で30分間インキュベートする。細胞を1mlのPBAで2回洗浄する。その後、細胞ペレットを25μlの1:20希釈抗ヒト-IgGFITC(Jackson Immuno Research, cat no.:109-096-098)に懸濁し、暗所にて氷上で30分間インキュベートする。その後、細胞を1mlのPBAで2回洗浄する。細胞は最終的に500μlのPBAに再懸濁され、直ちにNaviosフローサイトメーター(Beckman Coulter)で分析される。
【実施例】
【0161】
実施例1二重特異性抗体のクローニング(
図5)
二重特異性CD277抗体は以下の手順に従って作製される:
IgG-scFv分子の産生用発現ベクターは、標準的手順により設計した (Kellner, CS.et al.; Methods Mol Biol, 2018.1827: p. 381-397)。pSEC-Tag2-Hygro-Cを哺乳類発現ベクター作製のバックボーンとして使用した。IgG-scFv抗体誘導体は、Coloma, M.J. et al.; Nat Biotechnol, 1997. 15(2): p. 159-63によって最初に報告されたIgG-scFvのプロトタイプを基に、改良されたフォーマットで設計された。
【0162】
軽鎖:軽鎖の設計は、Kellner, CS.ら(上掲)の記述に従って実現した。軽鎖発現カセットのために、分泌リーダー配列(L1; Haryadi, RS. et al; PLoS One, 2015.10(2): p. e0116878)をVL-領域の5´末端に付加した。ヒトC-kappa領域を3´末端で融合し、完全なkappa軽鎖コード配列を形成した。翻訳の最適な開始を可能にするため、開始コドンの上流に最小限のKozak配列を加えた。5´末端と3´末端にそれぞれNheIとPmeIの制限部位を導入した。ベクターバックボーンへのクローニングは標準的な手順に従って行った。
【0163】
重鎖誘導体:重鎖誘導体は、Fcレセプター相互作用を防ぐために、下部ヒンジ領域にL234AおよびL235Aのアミノ酸交換を有するIgG1重鎖をコードしている(Lund, JG. et al.; J Immunol, 1991.147(8): p. 2657-62)。VH領域の5´末端に重鎖分泌リーダーを付加した(H7; Haryadi, RS. et al; PLoS One, 2015.10(2): p. e0116878)。開始コドンの上流に最小限のKozak配列を付加し、最適な翻訳開始を可能にした。IgG重鎖の停止コドンを除去し、15アミノ酸のフレキシブルリンカー(G
4S)
3(配列番号97)をコードする配列を導入した。DNAレベルのフレキシブル・リンカー(GS)の最後の2つのコドンは、BamHI制限部位に続いてPmeI制限部位を持つ。それぞれのscFv断片は、BamHI-PmeIクローニングカセットとしてVL-(G
4S)
4-VHフォーマットでデザインされた。最終的な発現構築物のクローニングは、標準的な手順に従って行った。
重鎖誘導体では、アミノ酸組成に影響を与えない追加的な制限部位を導入し、モジュール設計と分子の特定部分の交換を可能にした:
NheI-PpuMI:VH領域の交換。
PpuMI-BsrGI:CH2ドメインにおけるサイレンシング変異の交換。
BsrGI-BamHI:リンカー配列の交換。
BamHI-PmeI:scFv断片の交換。
【表2-1】
【0164】
【0165】
【0166】
実施例2:ヒト化二重特異性抗体の作製
抗体の親和性成熟は、免疫反応において段階的に進行する。生殖細胞系列と比較してCDR領域にさらなる変異を蓄積し、厳格な選択過程を経ることにより、1988年にRajewskyと共同研究者らによって記載されたように(Allen, D., et al.; EMBO J, 1988. 7(7): p. 1995-2001., Kocks, C. and K. Rajewsky, Proc Natl Acad Sci U S A, 1988. 85(21): p. 8206-10.)抗体親和性は段階的に増加する可能性がある。したがって、軽鎖および重鎖可変領域内の生殖細胞系列の構成を段階的に復元することにより、本発明のヒト化抗体を作製することができる。
【0167】
ヒト化の方法
マウスモノクローナル抗体のヒト化は、標準的なCDRグラフト技術を用いて行われた。この方法の原理は、マウスモノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)のみを含むヒト抗体を再形成することで、ヒトで治療薬として使用する際の免疫原性を低減することを目的としている。CDRグラフトによるヒト化では、マウス抗体の抗原結合残基をヒト化抗体にも保持する必要があるため、これらの残基の同定がプロトコールにおいて重要な役割を果たすことは明らかである。ヒト化プロセスを導き、親であるマウスの残基を保存するか、ヒト生殖細胞系列の残基で置換するかを決定するために、BTN3A1を抗原とするマウスモノクローナル抗体scFvの4F9L X線構造が用いられた。
【0168】
使用されたCDR移植プロトコールは、英国ケンブリッジにあるMedical Research CouncilのGreg Winter氏らによって開拓されたアプローチを現代風にアレンジしたものである。CDRの定義はカバット命名法に基づいている。マウスモノクローナル抗体マウスCDR領域が移植されるヒトフレームワークアクセプター領域の選択は、免疫グロブリンV領域配列の解析を容易にするためにNCBIで開発されたIgBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を用いて、IMGTマウスおよびヒトV遺伝子データベースを、マウスモノクローナル抗体マウス可変領域配列を入力として検索することによって達成された。適用される戦略は、個々のヒト抗体配列に見られる特異的な体細胞変異を含まない天然のヒト生殖細胞系列配列を使用することである。
【0169】
軽鎖のバックミューテーション:親抗体の第1の結合部分から軽鎖の可変領域をマウスの生殖細胞系列レパートリー(IMGTデータベース)と比較し、最も近い相同性を示す生殖細胞系列遺伝子を同定した。これにより、IGKV15-103*01とIGKJ2*01[F]遺伝子が同定され、親VL領域にアライメントされた。生殖細胞系列とは異なる6つのアミノ酸残基が同定された。親抗体の結晶構造中に同定された残基を図示することにより、表面に露出し、抗原相互作用に直接寄与すると考えられるアミノ酸残基が同定された。個々のアミノ酸またはアミノ酸のクラスターを生殖細胞配置に変換し、発現構築物の生成に使用した。
【0170】
重鎖のバックミューテーション:同様の戦略を、重鎖可変領域の潜在的なアミノ酸位置を特定するために適用した。IGHV1S81*02[F]v-遺伝子が最も近い一致遺伝子として同定された。CDR3領域は高度に変異しているようで、対応する遺伝子セグメントの同定が困難であったため、DおよびJセグメントは同定されなかった。VL領域を生殖細胞系列にリセットするために適用された戦略と同様に、重鎖のCDR1およびCDR2領域の変異は、段階的に生殖細胞系列の構成に戻された(単一変異またはクラスター)。CDR3の残基を同定するためには、生殖細胞系列の遺伝子セグメントを同定することができなかったため、別の戦略が適用された。ここで、CDR3領域の表面露出残基は、20.1とBNT3A残基の共結晶構造の解析により同定された(Payne, KK et al.; Science, 2020.369(6506): p. 942-949)。これらの残基のうち3つは潜在的な接触残基として記載されており(Payne, KK et al.;上掲)、したがってアラニンに変換された。アラニン交換が選択されたのは、アラニンスキャニングが抗体/抗原相互作用を破壊することによってエピトープ結合に重要な残基を同定することが報告されているからである(Parhami-Seren, BM. et al; J Immunol, 2001.167(9): p. 5129-35)。個々のアミノ酸またはアミノ酸のクラスターを生殖細胞配置に変換し、発現構築物の生成に使用した。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【0171】
本発明による二重特異性抗体の重および軽可変鎖セットは、表の1行の2つの鎖として定義される。「R162S」とは、位置162のアミノ酸Rがアミノ酸Sで置換されていることを意味し、「N185S」とは、位置185のアスパラギンがセリンで置換されていることを意味する。N185SとK190Nは太字で、配列番号44には下線が引かれている。L31Vは太字で、配列番号75には下線が引かれている。可変鎖の他のアミノ酸のカウントは、N185とL31から始めることができる。
【0172】
実施例3:活性化Vγ9Vδ2 T細胞株の作製と特徴づけ。
拡大γδT細胞株を作製するために、健康な成人血液ドナーの白血球濃縮液(LRS)から106細胞/mLを、50IU/mL rIL-2(Novartis, Basel, Switzerland)を添加した完全培地中、6ウェルプレートで培養し、Vγ9Vδ2発現γδT細胞の選択的な伸長を誘導する2.5μMアミノビスホスホネート(n-BP)ゾレドロン酸(Novartis)で刺激した。安静時、最初に刺激されたγδT細胞はごく少量のIL-2しか産生しないため、50IU/mL(15pg/mL)のrIL2を1日おきに添加した(Obergら、Cancer Res. 2014)。2週間後、94%以上の純度でVδ2鎖を発現するγδT細胞の選択的拡大が観察された。Vδ2 T細胞の活性化は、CD25の発現がわずかに亢進し(Pechhold et al. J Immunol Baltim Md 1950 152, 4984-92 (1994))、活性化マーカーCD69の発現が強く亢進することで示された。さらに、増加したVδ2 T細胞集団は、セントラルメモリー(CM、CD27+ CD45RA-)またはエフェクターメモリー(EM、CD27- CD45RA-)の表現型を示し、これらの拡大したγδT細胞の活性化を示した。
【0173】
実施例4:腫瘍細胞株の選択
多様な抗体コンストラクトを試験するために、それぞれの腫瘍抗原を発現する異なる腫瘍細胞株のパネルが、抗原発現レベルに関する公表情報またはFACS分析に基づいて選択された。簡単に説明すると、表面染色のために、3~5x10
5個の細胞を洗浄バッファー(1% BSA、0.1%NaN
3を含むPBS)で2回洗浄した。その後、製造元に概説された手順に従って、フルオロクロム結合抗体または非結合抗体、アイソタイプコントロールで25分間染色し、2回洗浄した後、PBS緩衝液中の1%PFA(パラホルムアルデヒド)で再懸濁するか、2段階目の抗体で染色した。二段階目の抗体でインキュベートした後、細胞を2回洗浄し、1%PFA緩衝液に再懸濁した。全サンプルはLSR-Fortessaフローサイトメーター(BD Biosciences社製)を用い、Diva 9およびFlowJoソフトウェアを用いて解析した。文献とFACS解析の結果を表4にまとめた。
【表4】
【0174】
実施例5:ノックアウト腫瘍細胞株の作製
RNPトランスフェクションによる腫瘍抗原KO細胞の作製:ガイドRNA(gRNA)は、それぞれのcrRNAとtracrRNAを等モル濃度(100μM)で組み合わせ、95℃で5分間アニーリングし、室温で再アニーティングすることで調製した。その後、gRNAと組換え S.p. Cas9タンパク質をPBS中で結合させ、室温で15分間インキュベートすることにより、RNPを調製した 。SF Cell Line 4D-Nucleofector X Kit S (Lonza; # V4XC-2032)と4D-Nucleofector X unit (Lonza)を用いて、製造者の説明書とプログラムFE-132に従って、RNPを親細胞にエレクトロポレーションした。モノクローナル細胞はその後、FACSソーティング(BD Aria)によって作製され、拡大され、フローサイトメトリー染色とアンプリコンシークエンシング(NGS)によって検証された。
【0175】
レンチウイルストランスフェクションによる腫瘍抗原KO細胞の作製:親細胞をまずCas9-p2A-Blasticidin-レンチウイルスで形質転換し、Cas9の安定発現を達成するためにBlasticidinで選択した。その後、それぞれのガイドRNAをCROP-seq-Guide-Puroプラスミド(Addgene # 86708)にクローニングし、レンチウイルスを作製した。その後、ブラスチジンで選択したCas-9発現細胞を前記レンチウイルスで形質転換し、細胞をピューロマイシンで選択し、拡大し、フローサイトメトリー染色とアンプリコン・シークエンシング(NGS)で検証した。コントロールとして、ノンターゲット ガイドRNA(「sgNT」)を用いて同じトランスフェクションプロトコルを適用し 、それぞれのsgNT細胞株を作製した。FOLR1 KO細胞の作製に適したガイドRNA配列は配列番号96である。
【0176】
実施例6:細胞溶解アッセイ
OVCAR-3(卵巣癌)、NCI-H1693(NSCLC)、またはUM-UC-3(膀胱癌)などの腫瘍細胞株に対する細胞傷害性は、他(Obergら、2014年および2020年)に記載されているように、三重複でReal-Time Cell Analyzer(RTCA, X-Celligence, ACEA Biosciences, San Diego, CA, USA)を用いて測定した。簡単に説明すると、完全培地RPMI 1640(25mMのHEPES、2mMのL-グルタミン、100μg/mLのストレプトマイシン、100U/mLのペニシリン、10%のウシ胎仔血清を補充)に7.5~10×103個の付着性腫瘍細胞/ウェルを96ウェルマイクロE-プレートに加え、5分ごとに電子センサーで腫瘍細胞のインピーダンスを最大24~40時間モニターした。測定された腫瘍細胞のインピーダンスは、セルインデックス(「CI」)と呼ばれる任意の単位で表され、形態学的変化(付着、拡散など)、細胞増殖、細胞溶解などの細胞パラメーターの変化を反映する。異なるウェルにおける腫瘍細胞の初期接着はわずかに異なることがあるため、腫瘍癌細胞が直線成長期に達した後、CIを1に正規化することができる。24~40時間後に直線的増殖速度に達した時点で、E/T比5:1の活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球、および12.5IU/mLのrIL-2、および指示濃度の各種抗体構築物、または各種対照を含む培地を添加した(「実験開始」、t=0h)。対照として、腫瘍細胞を最終濃度1%のTriton X-100で数ウェル処理し、完全溶解の陽性対照とし、他の数ウェルでは活性化Vγ9Vδ2 Tリンパ球(上記と同じ条件)で処理し、バックグラウンド溶解の対照とした。接着した腫瘍細胞の溶解は、異なるタイムポイントで少なくとも3分間、正規化CIを測定することによってモニターされた。
【0177】
RTCAソフトウェア(ACEA Biosciences Inc.)を使用して、生データファイルをMicrosoft ExcelまたはGraph Pad Prismにエクスポートし、さらなる評価を行った。Triton-X-100サンプルおよび抗体無添加のVγ9Vδ2 Tリンパ球の平均CIは、実験開始後の指示された時点で計算され、それぞれ完全溶解(「Triton X 100」)およびバックグラウンド溶解(「培地対照」)と定義された。抗体構築物によって誘導された腫瘍細胞溶解は、腫瘍細胞と同じ時点(「tx」)で各サンプルについて計算した:
溶解(tx)=(CI(tx)-培地対照(tx))/(Triton X100-培地対照(tx))*100
曲線フィッティングは、Graphpad Prism 9を用い、シグモイド用量反応関数を用いて行い、参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(tx)のベストフィット値(Top値)を得た。参照抗体で達成された最大腫瘍細胞溶解(「Top」)に対する腫瘍細胞溶解率%は、以下の式で算出した:
腫瘍細胞溶解率(tx)=腫瘍細胞溶解率(tx)/Top*100
Oberg, H.H.; et al.; Front.Immunol.2014, 5, 643 および Oberg, H.H.; et al.; Methods Enzymol.2020, 631, 429-441.
結果を
図4、6、8に示す。
【0178】
実施例7:SPRアッセイ
SPRアッセイは最新の技術に従って行われた。参照抗体の結果を表5に示す。つまり、組換えCD277は、Biacoreアミンカップリングキットのプロトコールに従って、共有結合EDC/NHSカップリングによってBiacore CM5光センサーチップの表面に固定化された。抗体サンプルは連続希釈で分析対象として適用され、同一の標的分子表面に結合するすべての抗体を標準化して比較することができる。速度論的分析データは、1:1ラングミュア曲線フィッティングモデルと平均ラングミュアオン速度、オフ速度、KD値に基づいている:表5参照。
【表5】
【0179】
実施例8:脱顆粒および細胞死アッセイ
原則:γδT細胞などの細胞傷害性T細胞は、分泌性リソソームにグランザイム、パーフォリン、グラニュライシンなどの細胞傷害性メディエーターを貯蔵する。LAMP-1(CD107a)やLAMP-2(CD107b)などのリソソーム関連膜糖タンパク質(LAMP)は、分泌リソソームの脂質二重膜に埋め込まれている。T細胞の活性化後、分泌型リソソームは細胞膜に向かって移動し、細胞膜と融合することができる。融合後、LAMPはT細胞の細胞表面に一過性に発現し、分泌性リソソームは顆粒内容物を脱顆粒する。
【0180】
方法:短期活性化γδT細胞は、2mM L-グルタミン、25mM Hepes、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、10%子牛胎児血清を添加したRPMI1640培地で、通常の条件下(5% CO2、加湿、37℃)で培養した。12.5U/mLのIL-2を添加したγδT細胞を、培地、300nMピロリン酸ブロモヒドリン、異なる濃度のコンストラクト、またはコントロールコンストラクトAV#75とともに、96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc, Wiesbaden)で6時間培養した。CD107アッセイには、0.5μg/mL PE標識抗CD107a mAbクローンH4A3(Biolegend)および0.5μg/mL PE標識抗CD107b mAbクローンH4B4(Biolegend)または適切なアイソタイプコントロールを96ウェルマイクロタイタープレートに直接添加し、一方、3μMの分泌阻害剤モネンシンを細胞培養の3時間後に添加した。さらに3時間後、γδT細胞を洗浄し、PerCP標識抗CD45 mAb(クローン2D1, BD Biosciences)、AlexaF700標識抗CD3 mAb(クローンSK7, Biolegend)、BV510標識抗CD8 mAb(クローンSK1、BD Biosciences)、PE-Cy7標識抗TCR γδ mAb(クローン11F2、BD Biosciences)およびAPC-Vio770標識抗Vδ2(クローンREA 771、Miltenyi)を添加し、洗浄後、フローサイトメトリー(LSR Fortessa、BD Biosciences)で細胞を分析する前に、PBSでSYTOX
TM Green Dead Cell Stain(1:4000, Thermo Scientific, # S34860)を20分かけて添加した。4つの異なるドナーのγδ T細胞についての結果を
図9に示す。
【表6】
【表7-1】
【表7-2】
【配列表】
【国際調査報告】