(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-04-15
(54)【発明の名称】Siglec-7を標的とする二重特異性ナチュラルキラーエンゲージャー
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20250408BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250408BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250408BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250408BHJP
A61K 40/15 20250101ALI20250408BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250408BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250408BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250408BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250408BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20250408BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250408BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250408BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250408BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20250408BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20250408BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250408BHJP
A61K 40/33 20250101ALI20250408BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
A61K40/15
A61K35/17
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/395 T
A61K39/39
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K48/00
A61P43/00 105
A61P37/06
A61P31/12
A61P31/04
A61K40/33
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024557970
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(85)【翻訳文提出日】2024-11-26
(86)【国際出願番号】 US2023065217
(87)【国際公開番号】W WO2023192992
(87)【国際公開日】2023-10-05
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516142001
【氏名又は名称】ザ ウィスター インスティテュート オブ アナトミー アンド バイオロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ウェイナー
(72)【発明者】
【氏名】デビバシャ ボルドロイ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
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4C084NA05
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4C084ZB081
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4C084ZB262
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4C084ZC75
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4C085BB11
4C085CC03
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4C085EE01
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4C085EE06
4C085FF24
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB65
4C087MA02
4C087MA23
4C087MA38
4C087MA41
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB08
4C087ZB09
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB33
4C087ZB35
4C087ZC41
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、Siglec-7への結合を介してナチュラルキラー細胞を活性化するのに特異的なナチュラルキラーエンゲージャー、及びそれをコードする核酸分子、ならびにそれを使用して疾患若しくは障害を治療又は予防する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の標的細胞に特異的に結合する抗体又はその断片に連結された、Siglec7に特異的に結合する抗体又はその断片を含む、二重特異性ナチュラルキラー細胞エンゲージャー(NKCE)。
【請求項2】
前記目的の標的細胞が腫瘍細胞である、請求項1に記載のNKCE。
【請求項3】
腫瘍抗原に特異的に結合する抗体又はその断片に連結された、シアル酸結合受容体に特異的に結合する抗体又はその断片を含む、請求項2に記載のNKCE。
【請求項4】
前記腫瘍抗原が卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)又はインターロイキン13受容体サブユニットアルファ2(IL13Ra2)である、請求項2に記載のNKCE。
【請求項5】
Siglec7に特異的に結合する前記抗体又はその断片が、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のNKCE:
a)配列番号1~3、配列番号17~19、配列番号33~35、配列番号49~51、配列番号65~67、及び配列番号81~83からなる群から選択されるCDR配列を含む可変重鎖配列;
b)配列番号9~11、配列番号25~27、配列番号41~43、配列番号57~59、配列番号73~75、及び配列番号89~91からなる群から選択されるCDR配列を含む可変軽鎖配列;
c)配列番号4、配列番号20、配列番号36、配列番号52、配列番号68、及び配列番号84のうちの1つ又はそれ以上の可変重鎖配列と少なくとも95%の同一性を有する配列;
d)配列番号12、配列番号28、配列番号44、配列番号60、配列番号76、及び配列番号92のうちの1つ又はそれ以上の可変軽鎖配列と少なくとも95%の同一性を有する配列;
e)配列番号4、配列番号20、配列番号36、配列番号52、配列番号68、及び配列番号84からなる群から選択される可変重鎖配列の全長配列の少なくとも80%を含む断片;及び
f)配列番号12、配列番号28、配列番号44、配列番号60、配列番号76、及び配列番号92からなる群から選択される可変軽鎖配列の全長配列の少なくとも80%を含む断片。
【請求項6】
Siglec7に特異的に結合する前記抗体又はその断片が、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のNKCE:
a)配列番号1~3のCDR配列を含む可変重鎖配列及び配列番号9~11のCDR配列を含む可変軽鎖配列;
b)配列番号17~19のCDR配列を含む可変重鎖配列及び配列番号25~27のCDR配列を含む可変軽鎖配列;
c)配列番号33~35のCDR配列を含む可変重鎖配列及び配列番号41~43のCDR配列を含む可変軽鎖配列;
d)配列番号49~51のCDR配列を含む可変重鎖配列及び配列番号57~59のCDR配列を含む可変軽鎖配列;
e)配列番号65~67のCDR配列を含む可変重鎖配列及び配列番号73~75のCDR配列を含む可変軽鎖配列;及び
f)配列番号81~83のCDR配列を含む可変重鎖配列及び配列番号89~91のCDR配列を含む可変軽鎖配列。
【請求項7】
配列番号98、配列番号100、及び配列番号102からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のNKCE。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のNKCEを含む組成物。
【請求項9】
医薬的に許容し得る賦形剤及びアジュバントからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
PD-(L)1軸阻害剤をさらに含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記NKCEを含む送達ビヒクルを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記送達ビヒクルが脂質ナノ粒子である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載のNKCE又はその断片をコードする1つ又はそれ以上のヌクレオチド配列を含む、核酸分子又は核酸分子の組み合わせ。
【請求項14】
前記核酸分子が以下を含む、請求項13に記載の核酸分子:
a)可変重鎖配列をコードする配列番号5~7を含む第1のヌクレオチド配列、及び可変軽鎖配列をコードする配列番号13~15を含む第2のヌクレオチド配列;
b)可変重鎖配列をコードする配列番号21~23を含む第1のヌクレオチド配列、及び可変軽鎖配列をコードする配列番号29~31を含む第2のヌクレオチド配列;
c)可変重鎖配列をコードする配列番号37~39を含む第1のヌクレオチド配列、及び可変軽鎖配列をコードする配列番号45~47を含む第2のヌクレオチド配列;
d)可変重鎖配列をコードする配列番号53~55を含む第1のヌクレオチド配列、及び可変軽鎖配列をコードする配列番号61~63を含む第2のヌクレオチド配列;
e)可変重鎖配列をコードする配列番号69~71を含む第1のヌクレオチド配列、及び可変軽鎖配列をコードする配列番号77~79を含む第2のヌクレオチド配列;及び
f)可変重鎖配列をコードする配列番号85~87を含む第1のヌクレオチド配列、及び可変軽鎖配列をコードする配列番号93~95を含む第2のヌクレオチド配列。
【請求項15】
前記NKCEをコードする少なくとも2つの核酸分子の組み合わせを含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項16】
前記NKCEをコードする4つの核酸分子の組み合わせを含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項17】
前記NKCEをコードする単一の核酸分子を含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項18】
配列番号98、配列番号100、及び配列番号102からなる群から選択されるNKCEをコードするヌクレオチド配列を含む、請求項17に記載の核酸分子。
【請求項19】
前記核酸分子が配列番号97、配列番号99、及び配列番号101からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項18に記載の核酸分子。
【請求項20】
前記核酸分子が、RNA分子とDNA分子からなる群から選択される、請求項13~19のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項21】
請求項13~20のいずれか1項に記載の核酸分子を含む組成物。
【請求項22】
PD-(L)1軸阻害剤をさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記核酸分子を含む送達ビヒクルを含む、請求項21記載の組成物。
【請求項24】
前記送達ビヒクルが脂質ナノ粒子である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
医薬的に許容し得る賦形剤及びアジュバントからなる群から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項21~24のいずれか1項に記載の組成物
【請求項26】
それを必要とする被験体における疾患又は障害を治療又は予防する方法であって、請求項1~7のいずれか1項に記載のNKCE又は請求項8~12のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法であって、前記疾患又は障害が、細菌感染に関連する疾患又は障害、ウイルス感染に関連する疾患又は障害、自己免疫疾患又は障害、癌、又は癌に関連する疾患又は障害からなる群から選択される方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、前記癌が、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、精巣癌、皮膚癌、及び子宮内膜癌からなる群から選択される方法。
【請求項29】
それを必要とする被験体のナチュラルキラー細胞機能を上昇させる方法であって、請求項1~7のいずれか1項に記載のNKCE又は請求項8~12のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項30】
それを必要とする被験体の標的細胞又は粒子にナチュラルキラー細胞を誘導する方法であって、請求項1~7のいずれか1項に記載のNKCE又は請求項8~12のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法であって、前記標的細胞が、腫瘍細胞、病原体の細胞若しくは粒子、細菌細胞、ウイルス感染細胞、及び自己免疫疾患若しくは障害に関連する抗原を発現する細胞からなる群から選択される方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、前記腫瘍細胞が、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、精巣癌、皮膚癌、及び子宮内膜癌からなる群から選択される癌由来である方法。
【請求項33】
それを必要とする被験体における疾患又は障害を治療又は予防する方法であって、請求項13~20のいずれか1項に記載の核酸分子又は請求項21~25のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、前記疾患若しくは障害が、細菌感染に関連する疾患若しくは障害、ウイルス感染に関連する疾患若しくは障害、自己免疫疾患若しくは障害、癌、又は癌に関連する疾患若しくは障害からなる群から選択される方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法であって、前記癌が、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、精巣癌、及び子宮内膜癌からなる群から選択される方法。
【請求項36】
それを必要とする被験体においてナチュラルキラー細胞機能を上昇させる方法であって、請求項13~20のいずれか1項に記載の核酸分子又は請求項21~25のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項37】
それを必要とする被験体の標的細胞又は粒子にナチュラルキラー細胞を誘導する方法であって、請求項13~20のいずれか1項に記載の核酸分子又は請求項21~25のいずれか1項に記載の組成物を投与することを含む方法。
【請求項39】
請求項38に記載の方法であって、前記標的細胞が、腫瘍細胞、病原体の細胞又は粒子、細菌細胞、ウイルス感染細胞、及び自己免疫疾患若しくは障害に関連する抗原を発現する細胞からなる群から選択される方法。
【請求項40】
請求項38に記載の方法であって、前記腫瘍細胞が、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、精巣癌、皮膚癌、及び子宮内膜癌からなる群から選択される癌由来である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2022年3月31日に出願された米国仮出願第63/325,887号、2022年9月15日に出願された米国仮出願第63/375,784号、及び2023年3月14日に出願された米国仮出願第63/490,156号に対する優先権を主張する。これらの出願は、それぞれその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
卵巣癌(OC)は、最も致命的な婦人科悪性腫瘍である。これは、女性の癌による死亡の5番目の主要な要因であり、女性生殖器系の癌による死亡数の最も多い原因である。アメリカ癌協会(American Cancer Society)によると、2021年に新たに卵巣癌と診断された女性は21,410人、OCが原因で死亡した女性は13,770人と推定されている(Kurnit et al., 2021, Obstet Gynecol 137: 108-21; www_cancer_org)。OCは非常に不均一な癌で、腫瘍の90%が上皮由来である。上皮性卵巣癌(EOC)の最も一般的なサブタイプは、症例の約70~80%を占める高悪性度漿液性癌である。一方、低悪性度漿液性(<5%)、類内膜(10%)、明細胞(10%)、及び粘液性(3%)は、それほど一般的ではないサブタイプである(Barnes et al., 2021, Genome Med 13: 140)。
【0003】
手術と化学療法は、OCの主要な治療法である(Yang et al., 2020, Front Immunol 11: 577869)。残念ながら、これらの治療法は部分的にしか成功しておらず、多くの患者が最初の治療後数年以内に化学療法抵抗性を発症し、こうして病気の再発に直面している(Yang et al., 2020, Front Immunol 11: 577869)。OCの死亡率が高いのは、自覚症状や一次検出のための侵襲性の低い技術が乏しいことが原因であることが多いため、早期発見率が低いことにも関連している。そのため、OCは依然として、改善された新しい治療法がkwnt必要な分野である(Banno et al., 2014, Biomed Res Int 2014: 232817)。卵巣腫瘍細胞と腫瘍微小環境の間には密接な相互作用があるため、腫瘍細胞を標的とするだけでなく、この微小環境で抗腫瘍機能を維持できる治療法の開発が重要である(CSSOCR, 2016)。研究が拡大している分野は、OCに対する免疫ベースの治療法である。このような研究には、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、キメラ抗原受容体(CAR)、及びT細胞受容体(TCR)-工学作成T細胞が含まれる(Yang et al., 2020, Front Immunol 11: 577869)。特に、CAR療法の開発における主な障害は、腫瘍細胞の表面に限定された特定の発現を有する標的を見つけることであり、腫瘍組織外の標的を見つけることではない(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)。卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)は、卵巣顆粒膜細胞で選択的に発現し、卵巣内皮では低いレベルの発現が報告されているそのような標的の1つである。FSHRは漿液性卵巣癌症例の50~70%で発現しており、免疫療法の重要な潜在的標的となっている(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)。
【0004】
mAbは、特定の癌の診断、分類、治療、モニタリングにおける重要なツールである。例としては、乳癌の分類及び治療のための様々な形態の抗HER2抗体(Hayes et al., 2007, N Engl J Med 357: 1496-506; Pegram et al., 1998, J Clin Oncol 16: 2659-71)、リンパ腫の治療のための抗CD20抗体(Maloney et al., 1997, Blood 90: 2188-95)、OCの追跡調査のための抗CA125抗体(Bast et al., 1983, N Engl J Med 309: 883-7)、及び前立腺癌の検出のための抗PSA抗体(Siddall et al., 1986, Clin Chem 32: 2040-3)が挙げられる。抗体治療の分野で最近重要な領域となっているのは、二重特異性T細胞エンゲージャーの研究である(Perales-Puchalt et al., 2019, Mol Ther 27: 314-25)。これらは、T細胞と腫瘍細胞の両方に同時に結合して、特定の腫瘍細胞に対するT細胞の細胞溶解機能を促進する能力を備えた新しいクラスの免疫療法である(Hipp et al., 2017, Leukemia 31: 2278)。
【0005】
OCの場合、特に高悪性度漿液性卵巣癌(HGSOC)や卵巣癌肉腫(OCS)などの極めて悪性度の高い卵巣腫瘍では、治療の選択肢が限られている。これらの腫瘍は既存のICI療法に対する反応が悪く、しばしば免疫学的に「冷たい」腫瘍と呼ばれる(Wu et al., 2021, Front Immunol 12: 672502)。従って、T細胞アプローチだけでは、困難なOC症例の治療に十分な効果が得られない可能性がある。免疫系の追加のエフェクター成分を関与させることが重要になる場合がある。この点で、NKなどの生来のメカニズムとOC腫瘍の影響を関連付ける研究は限られており、OCに対する特定の標的化方法は報告されていない(Hoogstad-van Evert et al., 2020, Gynecol Oncol 157: 810-6)。
【0006】
皮膚癌は、ヒトの癌の中で最も一般的で危険なものの1つである。そのさまざまなサブタイプの中でも、メラニン細胞から発生する黒色腫は特に深刻な疾患である。FDAが承認した新しい免疫療法である免疫チェックポイント阻害(CPI)は、黒色腫の治療に革命をもたらし治療成績を改善した。しかし、黒色腫の40~50%は免疫学的に冷たく、T細胞浸潤が乏しく、CPIへの応答が乏しい傾向がある。このため、追加のアプローチが必要である。
【0007】
当該技術分野では、悪影響を最小限に抑えながら、癌、自己免疫疾患、及び感染症を効果的に治療できる免疫療法が依然として必要とされている。本発明は、この満たされていないニーズを満たすものである。
【発明の概要】
【0008】
1つの実施態様において、本発明は、Siglec-7に特異的に結合する抗体又はその断片と、抗原に特異的に結合する抗体又はその断片とを含む、二重特異性ナチュラルキラーエンゲージャー(NKCE)又はその断片を提供する。
【0009】
1つの実施態様において、抗原は腫瘍抗原である。1つの実施態様において、腫瘍抗原は、卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)又はインターロイキン13受容体サブユニットアルファ2(IL-13Rアルファ2)である。
【0010】
1つの実施態様において、二重特異性NKCEのSiglec-7結合アームは、配列番号1~3、配列番号17~19、配列番号33~35、配列番号49~51、配列番号65~67、又は配列番号81~83のCDR配列を含む可変重鎖配列を含む。
【0011】
1つの実施態様において、二重特異性NKCEのSiglec-7結合アームは、配列番号9~11、配列番号25~27、配列番号41~43、配列番号57~59、配列番号73~75、又は配列番号89~91のCDR配列を含む可変重鎖配列を含む。
【0012】
1つの実施態様において、二重特異性NKCEのSiglec-7結合アームは、配列番号4、配列番号20、配列番号36、配列番号52、配列番号68、又は配列番号84の可変重鎖配列を含む。
【0013】
1つの実施態様において、二重特異性NKCEのSiglec-7結合アームは、配列番号12、配列番号28、配列番号44、配列番号60、配列番号76、又は配列番号92の可変軽鎖配列を含む。
【0014】
1つの実施態様において、二重特異性NKCEは、配列番号98、配列番号100、又は配列番号102のアミノ酸配列を含む。
【0015】
1つの実施態様において、本発明は、Siglec-7に特異的に結合する抗体又はその断片と、抗原に特異的に結合する抗体又はその断片とを含む、二重特異性ナチュラルキラーエンゲージャー(NKCE)又はその断片をコードする核酸分子に関する。
【0016】
1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号5~7、配列番号21~23、配列番号37~39、配列番号53~55、配列番号69~71、又は配列番号85~87の配列をコードする重鎖CDRを含む。1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号13~15、配列番号29~31、配列番号45~47、配列番号61~63、配列番号77~79、又は配列番号93~95の配列をコードする軽鎖CDRを含む。
【0017】
1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号8、配列番号24、配列番号40、配列番号56、配列番号72、若しくは配列番号88の可変重鎖配列をコードするヌクレオチド配列;配列番号16、配列番号32、配列番号48、配列番号64、配列番号80、若しくは配列番号96の可変軽鎖配列をコードするヌクレオチド配列;配列番号8、配列番号24、配列番号40、配列番号56、配列番号72、若しくは配列番号88の可変重鎖配列と少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列;配列番号16、配列番号32、配列番号48、配列番号64、配列番号80、若しくは配列番号96の可変軽鎖配列と少なくとも95%の同一性を有する配列;配列番号8、配列番号24、配列番号40、配列番号56、配列番号72、若しくは配列番号88の可変重鎖配列の全長配列の少なくとも80%を含む断片;又は配列番号16、配列番号32、配列番号48、配列番号64、配列番号80、若しくは配列番号96の可変軽鎖配列の全長の少なくとも80%を含む断片、又はこれらの組み合わせを含む。
【0018】
1つの実施態様において、二重特異性NKCEをコードする核酸分子は、配列番号97、配列番号99、又は配列番号101のヌクレオチド配列を含む。
【0019】
1つの実施態様において、本発明は、本発明の核酸分子を被験体に投与することを含む、それを必要とする被験体の疾患又は障害を治療又は予防する方法を提供する。
【0020】
1つの実施態様において、疾患若しくは障害は、細菌感染症に関連する疾患若しくは障害、ウイルス感染症に関連する疾患若しくは障害、自己免疫疾患若しくは障害、癌、又は癌に関連する疾患若しくは障害からなる群から選択される。
【0021】
1つの実施態様において、癌は、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、精巣癌、皮膚癌、及び子宮内膜癌からなる群から選択される。
【0022】
1つの実施態様において、本発明は、本発明の核酸分子を被験体に投与することを含む、それを必要とする被験体のナチュラルキラー細胞機能を上昇させる方法を提供する。
【0023】
1つの実施態様において、本発明は、本発明の核酸分子を被験体に投与することを含む、ナチュラルキラー細胞を、それを必要とする被験体の標的細胞又は粒子に誘導する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A-1I】
図1A~
図1Iは、抗ヒトFSHR抗体の生成を示す一連の画像を示す。(
図1A)FSHR構造の描写。(
図1B)pBMN-I-GFP発現ベクターへのクローニング戦略。(
図1C)マウス免疫計画。(
図1D)異なる用量のFSHホルモンに対するK562及びK562-FSHRのcAMP応答。(
図1E)1μg/mlのFSHを使用してK562及びK562-FSHR細胞を刺激してから20分後のホスホ-ホスホ-p44/42(Erk1/2)及びp44/42(Erk1/2)のウエスタンブロット。分散分析。
***p<0.001。(
図1F)DDAP(最も強力なダウン選択抗体クローン)で染色、又は一次抗体なしで二次APC標識抗体でl染色したCaOV3、OVCAR3、及びTOV-21Gのフローサイトメトリープロット。(
図1G)TOV-21G親又はFSHRのクリスパーをDDAPで染色した後のフローサイトメトリープロット。(
図1H)DDAPで染色、又は一次抗体なしで二次APC標識抗体で染色したK562、K562-FSHR、及びK562-LHCGR21Gのフローサイトメトリープロット。(
図1I)DDAPで染色したA20(GFP-)/A20-Fhsr(GFP+)及びID8-Defb29/Vegf-a対ID8-Defb29/Vegf-a-Fshr細胞のフローサイトメトリープロット(両方の細胞株はマウスFSHRをトランスフェクションされた)。
【
図2A-2I】
図2A~
図2Iは、免疫組織化学及び免疫細胞化学で、DDAPがFSHRに結合し、抗体依存性細胞毒性を誘発することを示す一連の画像である。(
図2A)DDAPで染色したK562、K562-FSHR、OVCAR3、及びTOV-21G細胞株由来の腫瘍の凍結切片の免疫組織化学画像。40倍、スケールバー50μm。(
図2B)ヒトFSHRでトランスフェクションし、マウス抗ヒトFSHR抗体又はDDAP抗体で染色した後、二次抗マウスIgGで染色した293T細胞の免疫蛍光画像。(
図2C)マウスFSHRでトランスフェクションし、マウス抗マウスFSHR抗体又はDDAP抗体で染色した後、二次抗マウスIgGで染色した293T細胞の免疫蛍光画像。(
図2D)pVax1空ベクターでトランスフェクションし、DDAP抗体で染色した後、二次抗マウスIgGで染色した293T細胞の免疫蛍光画像。B~D:スケールバー10μm。(
図2E)DDAP抗体で実施したアイソタイプELISAの吸光度値。(
図2F)K562-FSHRに対するDDAP又は無関係なマウスIgG2a(C1.18.4)のADCCによる細胞毒性。(
図2G)K562に対するDDAP又は無関係なマウスIgG2a(C1.18.4)のADCCによる細胞毒性。(
図2H)OVCAR3細胞に対するDDAP又は無関係なマウスIgG2a(C1.18.4)のADCCによる細胞毒性。t検定、分散分析。
***p<0.001、ns=有意ではない。(
図2I)異なる濃度(1000ng/ml、500ng/ml、250ng/ml、31.25ng/ml)のDDAP抗FSHR抗体又は培地のみで、PBMCとOVCAR3-FSHR細胞を共培養した結果得られたインビトロ細胞毒性。適度な用量依存性な殺傷が観察されたが、31.25ng/mlでは殺菌効力は完全に失われた。
【
図3A-3I】
図3A~
図3Iは、FSHR TCEの生成、発現、及び抗腫瘍活性を示す一連の画像を示す。(
図3A)FSHRとT細胞受容体(TCR)に関与するTCEの図。GS、グリシン-セリン;VH、重鎖可変領域;VL、軽鎖可変領域。(
図3B)DDAP-TCEをコードするDNA構築物の概略図。(
図3C)Expi293F細胞にトランスフェクションした後のDDAP-TCE又はpVax1空ベクターのインビトロ発現のウェスタンブロット。(
図3D)DDAP-TCEの結合特異性は、FSHRの自然発現を欠くK562細胞を使用して実証された。FSHRを発現しないK562細胞では、DDAP-TCEの結合は観察されなかった。(
図3E)FSHRを過剰発現するK562細胞へのDDAP-TCEの結合。(
図3F)追加のFSHR発現細胞CaOV3を使用して証明されたFSHRへのDDAP-TCEの結合。pVax1及び二次抗体単独と比較したDDAP-TCEのピークのシフトは、それがFSHRに結合していることを示す。(
図3G)FSHRの過剰発現のためにFSHRをコードするpBMN-I-GFPプラスミドを形質導入したOVCAR3細胞を使用して証明されたFSHRへのDDAP-TCEの結合。空のベクター及び二次抗体単独の対照と比較して、FSHRを過剰発現するOVCAR3細胞では、ピークの顕著なシフトがある。(
図3H)DDAP-TCE及び空ベクター対照による一次ヒトT細胞のフロー染色。(
図3I)2つの異なる濃度(31.25ng/ml及び7.81ng/ml)のインビトロで生成されたDDAP-TCE又は培地単独の存在下の、PBMC(エフェクター細胞、E)とOVCAR3-FSHR細胞(標的細胞、T)の共培養から生じるインビトロ細胞毒性。DDAP-TCEによって誘発される非常に強力な殺傷が観察されたが、この濃度ではFSHR抗体だけではOVCAR3-FSHR細胞の殺傷を誘発できできなかったことは、設計されたTCEの効力が強化されていることを示す。
【
図4A-4L】
図4A~
図4Lは、抗Siglec7抗体クローンが標的卵巣癌細胞の特異的殺傷を誘発することを示す一連の画像を示す。非標的ヒト細胞、(
図4A及び
図4B)A549肺腺癌細胞、(
図4C及び
図4D)HaCaTヒトケラチン生成細胞、(
図4E及び
図4F)GMO5389ヒト線維芽細胞]、並びに標的ヒト卵巣癌細胞、(
図4G及び
図4H)OVISE細胞、(
図4I及び
図4J)OVCAR8細胞、(
図4K及び
図4L)SKOV3細胞における、DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7抗Siglec7クローンの細胞毒性作用の評価。インビトロ細胞毒性は、Agilent Technologies, USA製のxCELLigenceリアルタイム細胞分析装置(RTCA)を使用してインピーダンスに基づいて測定した。電気伝導率は、xCELLigenceデバイスによって15分ごとに単位のない細胞指数(CI)パラメータに変換され、画像は1時間間隔でキャプチャーされる。生成されたデータは、エフェクター(E)細胞(PBMC)と抗体が標的(T)細胞に添加された時点で正規化される(すべてE:T=5:1)。データは、RTCA/RTCAProソフトウェアを使用して分析された。A549、HaCaT、及びGMO5389細胞では非特異的な殺傷は得られなかったが、OVISE、OVCAR8、及びSKOV3標的OC細胞では強力な殺傷が観察された。DB-S7-2の特異的殺傷作用が最も高いことがわかった。矢印は、抗体とエフェクター細胞が標的細胞に添加された時点を示す。示されている画像は、エフェクター細胞と抗体を添加してから3日後の死滅を示す。
【
図5A-5J】
図5A~
図5Jは、インビトロのヒトSiglec7 DMAbの設計、発現、及び機能性を示すシリーズを示す。(
図5A)Siglec7 DMAbをコードする二重プラスミドDNA構築物の概略図。(
図5B)Expi293F細胞で発現したSiglec7 DMAbのウェスタンブロット分析。数字は分子量(kDa)を示す。(
図5C)ヒトSiglec7 DMAbをトランスフェクションしたExpi293F上清中のヒトIgGの、ELISAによる定量。(
図5D及び
図5E)OVCAR8細胞、(
図5F)TOV-21G細胞、(
図5G)OVISE細胞、及び(
図5H)PEO-4細胞における完全ヒトSiglec7組み換え抗体によって誘発されるインビトロ細胞毒性。すべての組み換え抗体は、BRCA2変異細胞及びPARPi耐性PEO-4細胞を含む前述のヒト卵巣癌細胞のパネルを効果的に殺傷した。DB-S7-2組み換え抗体は、最も高い殺傷作用を示すことが分かる。DB-S7-2の殺傷能力は、さらに2つの卵巣癌細胞[(
図5I)CaOV3細胞及び(
図5J)OVCAR3細胞]で確認された。矢印は、抗体とエフェクター細胞(ヒトPBMC)が標的細胞に添加された時点を示す(E:T=5:1)。(
図5D)に示される画像は、ヒトPBMCと抗Siglec7抗体を3日間添加した後のOVCAR8標的OC細胞の死滅を示す。
【
図6A-6G】
図6A~
図6Gは、Siglec7 DMAbが体内で発現し、卵巣癌攻撃投与モデルで癌の進行を遅らせ、FcγRの阻害がSiglec7を介するNK細胞毒性を上昇させることを示す一連の画像を示す。(
図6A)Balb/cマウスへのヒトSiglec7 DMAb投与の概略図。マウスのCD4及びCD8T細胞を、最初に抗マウスCD4抗体及び抗マウスCD8抗体(両方ともInVivoMab製)を使用して枯渇させた。次に、マウスに50μgの重鎖+50μgの軽鎖ヒトSiglec7 DMAbを電気穿孔した。マウス血清を、示された時点で収集した。(
図6B)DNA注入及び電気穿孔の14日後にDB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7DMAbで電気穿孔したマウス血清又は投薬未経験血清からのヒトIgGのウエスタンブロット。(
図6C)DNA注入及び電気穿孔の14日後に空ベクター、DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7 DMAbで電気穿孔したマウス血清、又は投薬未経験血清を、無関係な抗体対照及び二次抗体対照のみとともに用いて、ヒトNK細胞を染色。Siglec7 DMAbで免疫したマウスの14日目の血清は陽性で強いNK細胞染色を示したが、空ベクター対照、無関係な抗体対照、又は投薬未経験血清の場合は染色は観察されなかった。(
図6D)OVISEOC細胞を攻撃投与したNSGマウスへのSiglec7 DMAb電気穿孔の概略図(
図6E)。Siglec7 DMAb又は空ベクターで処理したNSGマウスに移植されたOVISE腫瘍の増殖曲線(1群あたりn=5匹のマウス)。(
図6F)Fcブロックの存在下又は非存在下の、DB-S7-2ヒト抗体によるOVCAR3細胞の殺傷のxCELLigenceリアルタイム分析(
図6G)。Fcブロックにより、OVISE細胞におけるSiglec7を介するNK毒性が強化された。画像は、Fcブロックの存在下又は非存在下の、OVISE細胞にエフェクター細胞(E:T=5:1)とDB-S7-2抗体を添加した2日後にキャプチャーされた。
【
図7A-7H】
図7A~
図7Hは、DDAP-NKCEの生成と発現、及びFSHR標的化二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャーのサイトカイン分泌プロフィールと特異性分析を示す一連の画像を示す。(
図7A)DDAP-NKCEをコードするDNA構築物の概略図。GS:グリシン-セリン、ScFV:単鎖可変断片。(
図7B)expi293F細胞にトランスフェクションした後のDDAP-NKCE又はpVax1空ベクターのインビトロ発現のウェスタンブロット。(
図7C)二次抗体のみ、DDAP-TCE、市販のSiglec7抗体、DB-S7-2抗Siglec7抗体、及びDDAP-NKCEで染色したSiglec7過剰発現HEK293T細胞のフローサイトメトリープロット。(
図7D)二次抗体のみ、非FSHR標的化TCE(IL13受容体アルファ2xCD3)、及びDDAP-NKCEで染色したFSHR過剰発現K562細胞のフローサイトメトリープロット。(
図7E)Siglec7を過剰発現するHEK293T細胞におけるDDAP-NKCEのIFA分析。二次抗体のみによる染色は陰性対照として機能した。固定細胞の高分解能共焦点画像は、Leica TCS SP8 WLL走査型レーザー共焦点顕微鏡とLeica LAS-Xソフトウェア(Leica Microsystems,Inc., BuffaloGrove, IL)を使用して取得した。画像の後処理には、デコンボリューション(deconvolution)用のHuygensソフトウェア(Scientific Volume Imaging, Laapersveld, Hilversum, The Netherlands)へのインポートが含まれていた。固定細胞調製物は、63×/1.40油浸対物レンズ、2倍ズーム、及び1AUのピンホールを使用して取得した。細胞は、DAPI(核)、GFP(Siglec7)、テキサスレッド(DDAP-NKCE)で標識し、HyD検出器で順番に取得し、シグナルを最大化し、クロストークを最小にした。スケールバーは20.0ミクロンに相当する。(
図7F)OVCAR3-FSHRとヒトPBMCSの共培養におけるDDAP-NKCE存在下のサイトカイン(sFas及びグラニュライシン)の分泌プロフィール(E:T=5:1)。サイトカイン分泌プロフィールの分析に使用した上清は、OVCAR3-FSHR細胞を標的としてエフェクター細胞とNKCEを添加した48時間後に収集した。2元配置分散分析;
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。(
図7G)FSHR陰性HEK293T細胞におけるT細胞及びNK細胞エンゲージャーを標的とするFSHRの特異性分析。(
図7H)エフェクター細胞(ヒトPBMC;E:T=5:1)及びDDAP-NKCE/DDAP-TCEを添加後3日間にわたってHEK293T細胞に細胞毒性が誘発されていないことを示す画像。
【
図8A-8J】
図8A~
図8Jは、FSHR標的化二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャーがインビトロ及びインビボで卵巣癌の細胞毒性を誘発したことを示す一連の画像を示す。DDAP-TCE/DDAP-NKCEの存在下及び非存在下の、PBMCと(
図8A及び
図8B)OVISE細胞、(
図8C及び
図8D)CaOV3細胞、(
図8E)OVCAR3-FSHR細胞、(
図8F)PEO-4細胞、及び(
図8G)Kuramochi-FSHR細胞の共培養から生じるインビトロ細胞毒性である。リアルタイムのインビトロ細胞毒性分析はxCELLigenceによって実施された。E:Tは10:1(
図8A~
図8D)及び5:1(
図8E~
図8G)である。示されている画像(
図8B及び
図8D)は、標的細胞にヒトPBMC及び二重特異性抗体を添加の3日後にキャプチャーされたものである。(
図8H)抗Fas抗体の存在下及び非存在下のDDAP-NKCEの殺傷効率の比較。抗Fas抗体の存在下では、DDAP-NKCEは標的OVCAR3-FSHR細胞の殺傷を減少させた。赤線:E+T(腫瘍細胞とエフェクター細胞としてのPBMCのみ)、灰色線:腫瘍細胞、PBMC、及び抗Fas抗体、赤紫線:腫瘍細胞、PBMC、及びDDAP-NKCE、並びに紫線:抗Fas抗体の存在下の腫瘍細胞、PBMC、及びDDAP-NKCE。(
図8I)OVCAR3-FSHRを攻撃投与したNSGマウスモデルにおける腫瘍進行に対する二重特異性抗体の効果を評価するための腫瘍試験の概略図。(
図8J)DDAP-NKCE/DDAP-TCE又は空ベクターで処理したNSGマウスに移植されたOVCAR3-FSHR腫瘍の平均増殖曲線(1群あたりn=5匹のマウス)。2元配置分散分析;
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図9A-9D】
図9A~
図9Dは、抗ヒトFSHR抗体のスクリーニングを示す一連の画像を示す。(
図9A)K562及びK562-FSHRを使用するスクリーニングプロセスにおける潜在的な結果を表すフローサイトメトリープロットの概略図。(
図9B)ヒトFSHR又は空ベクターで免疫したマウスの血清(1:1000希釈)及び抗マウスIgG APCで染色したK562(GFP-)/K562-Fhsr(GFP+)細胞のフローサイトメトリープロット。(
図9C)ハイブリドーマからのFSHR結合抗体をK562-FSHR/K562のフロープロット及び平均蛍光強度の倍数として検出するためのフローサイトメトリースクリーニング出力戦略の代表例。(
図9D)倍数MFIK562-FSHR/K562として測定されたハイブリドーマ上清のFSHRへの結合を示すウォーターフォールプロット(Waterfall plot)。最初のスクリーニング実験の後、上位20クローン(赤いバーの左側)を使用して実験を進めた。
【
図10A-10C】
図10A~
図10Cは、抗Siglec7抗体がヒトSiglec7に効率的に結合することを示す一連の画像を示す。(
図10A)DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7抗Siglec7クローン及びアイソタイプ対照(抗Siglec3)で染色した、Siglec7過剰発現HEK293T細胞のフローサイトメトリープロット。(
図10B)DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7抗Siglec7クローン及び抗Siglec9Ab(KB, Biolegend)で染色した、Siglec9過剰発現HEK293T細胞のフローサイトメトリープロット。(
図10C)Siglec7過剰発現HEK293T細胞におけるDB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7抗Siglec7クローンのIFA分析。固定細胞の高分解能共焦点画像はLeica TCS SP8 WLL走査型レーザー共焦点顕微鏡とLeica LAS-Xソフトウェア(Leica Microsystems, Inc., Buffalo Grove, IL)を使用してキャプチャーされた。画像の後処理には、デコンボリューション用のHuygensソフトウェア(Scientific Volume Imaging, Laapersveld, Hilversum, The Netherlands)へのインポートが含まれた。固定細胞調製物は、63×/1.40油浸対物レンズ、2倍ズーム、1AUのピンホールを使用して取得した。細胞は、DAPI(核)、GFP(Siglec7)、テキサスレッド(抗Siglec7)で標識され、HyD検出器で順番に取得され、シグナルを最大化し、クロストークを最小にした。スケールバーは20.0ミクロンに相当する。
【
図11A-11C】
図11A~
図11Cは、Siglec7 DMAbで免疫されたマウスの血清中のヒトIgGの定量を示す一連の画像を示す。Balb/cマウス(CD4及びCD8T細胞が枯渇している)を、50μgの重鎖+50μgの軽鎖ヒトSiglec7 DMAbで電気穿孔した。マウスの血清をさまざまな時点で収集した。(
図11A)DB-S7-1 DMAb、(
図11B)DB-S7-2 DMAb、及び(
図11C)DB-S7-7DMAbで電気穿孔されたマウス血清から、ELISAによって定量されたヒトIgGの発現レベル(1群あたりn=5匹のマウス)。
【
図12】
図12は、免疫細胞に対するFcγRブロッキングと、Siglec7を介する毒性に対するその効果の概略図である。
【
図13A-13D】
図13A~
図13Dは、精製免疫細胞の存在下で、FSHR標的化二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャーは卵巣癌細胞毒性を誘発し、FSHRを標的としないNKCEによる細胞殺傷はないことを示す一連の画像を示す。(
図13A)DDAP-TCEの存在下でT細胞とOVCAR3-FSHR細胞の共培養、(
図13B)DDAP-NKCEの存在下でNK細胞とOVCAR3-FSHR細胞の共培養から生じるインビトロ細胞毒性。リアルタイムのインビトロ細胞毒性分析はxCELLigenceによって実施された;E:T=5:1(
図13B)。FSHRを過剰発現するOVCAR3細胞では、ヒトPBMC存在下の、(
図13C)FSHRを標的としないTCE(IL13Rα2-TCE)及び(
図13D)FSHRを標的としないNKCE(IL13Rα2-NKCE)によって、毒性は誘発されなかった。矢印はエフェクター細胞とTCE/NKCEが添加された時間を示す。
【
図14】
図14は、T細胞とNK細胞の両方を関与(engage)させてKuramochi-FSHR細胞を標的とするための組み合わせ試験を示す画像である。DDAP-NKCEとDDAP-TCEを最適量未満で組み合わせて、組み合わせ効果を評価した。この組み合わせは、FSHR発現Kuramochi細胞に対して相乗効果を示した;緑の線:DDAP-TCEとDDAP-NKCEの両方が添加された。PBMCsはエフェクター細胞として添加された;E:T=5:1。矢印は、エフェクター細胞、及びDDAP-TCE/NKCE/両方が添加された時点を示す。
【
図15】
図15は、IL-13Ra2を標的とするT細胞エンゲージャーの開発を示す画像である。
【
図16】
図16は、IL-13Ra2を標的とするT細胞エンゲージャーによるGBMの処理を示す画像である。
【
図17】
図17は、IL13Ra2とSiglec7を標的とする二重特異性NK細胞エンゲージャーの設計を示す画像である。
【
図18】
図18は、IL13Ra2-NKCEがOVCAR細胞及びOVISE細胞(IL13Ra2を発現しない卵巣癌細胞)の殺傷を誘発しなかったことを示す画像である。
【
図19】
図19は、ヒト黒色腫細胞株上のIL-13Ra2の発現を示す画像である。
【
図20】
図20は、IL13Ra2-NKCEによる黒色腫細胞の細胞毒性を示す画像である。
【
図21A-21C】
図21A~
図21Cは、Siglec-7 MAbの設計とインビトロ発現を示す。(
図21A)Siglec-7 MAbをコードする二重プラスミドDNA構築物の概略図。(
図21B)ウェスタンブロットによるSiglec-7 MAbの発現分析。数字は分子量(kDa)を示す。(
図21C)抗Siglec7をトランスフェクションしたExpi293F上清中のヒトIgGのELISAによる定量。
【
図22A-22E】
図22A~
図22Eは、インビトロのヒトSiglec7 MAbの結合特性解析を示す。(
図22A)ELISAで分析した、組み換えヒトSiglec7へのSiglec7 MAbの結合。ヒトSiglec7へのDB7.1、DB7.2、及びDB7.7の用量依存的な結合が観察されたが、無関係な対照の場合は結合が見られなかった。(
図22B)フローサイトメトリーで分析した、Siglec7発現HEK293T細胞へのヒトSiglec7 MAbの結合。二次抗体対照のみ又は無関係なMAbの場合は結合が観察されない。市販のSiglec-7Ab(F023-420、BD Pharmingen)及びSiglec-7 MAbであるDB7.1、DB7.2、及びDB7.3では結合があり、最も高い結合がDB7.2で観察された。(
図22C)ヒトNK細胞及びT細胞へのDB7.2抗Siglec-7抗体の結合を示す代表的なフロープロット。DB7.2は主にNK細胞に結合する。陽性対照(市販の蛍光色素結合マウス抗ヒトSiglec-7抗体)及び陰性対照(0μg/mlのDB7.2又は二次抗体なし)が示されている(
図22D)。複数のドナー(n=4)のPBMCにおいて分析したさまざまな免疫集団へのDB7.2抗Siglec-7の結合の概要プロット。(
図22E)CD56dim及びCD56brightNK細胞サブセット(n=4)へのDB7.2抗Siglec-7Abの結合分析。
【
図23】
図23は、Siglec-7結合のフローサイトメトリー分析に使用されるゲーティング戦略を示す。NDの代表的な例を示す。最初に最も安定した取得が選択された。次に、単核細胞から生きた単一細胞のみが分析されるように、前方散乱高さ(FSC-H)対前方散乱面積(FSC-A)プロットと側方散乱面積(SSC-A)対FSC-Aプロットを使用して、ダブレットを除外し、シングルレットの小型リンパ球に注目した。死細胞は、生存マーカーであるアクアブルー(Aqua Blue)が陰性でCD45が陽性の細胞をゲーティングすることによって除外された。CD4+及びCD8+Tリンパ球はCD3+細胞内でゲーティングされ、NK細胞はCD19-CD3-集団内のCD56及びCD16発現によって特定された。
【
図24A-24D】
図24A~
図24Dは、Siglec-7 DMAbのヒトSiglec-7タンパク質への結合を示す。(
図24A)ウエスタンブロットで分析したDB7.2 Siglec-7 DMAbのヒトSiglec-7への結合。pVax1の場合、無関係なタンパク質では結合はない。(
図24B)DB7.2のヒトSiglec-7タンパク質に対するSPR分析。DB7.2の強い結合がKD値44pMで観察された。(
図24C)無関係なabのSiglec-7への結合も(
図24D)DB7.2の無関係なタンパク質への結合も観察されず、これはDB7.2がヒトSiglec-7に特異性があることを示す。
【
図25A-25I】
図25A~
図25Iは、ヒトSiglec-7 MAbによって誘発されるインビトロ細胞毒性を示す。非標的(
図25A及びB)HaCaTヒトケラチン生成細胞及び標的OC細胞[(
図25C及びD)OVCAR10、(
図25E)OVISE、(
図25F)PEO-4、及び(
図25G)TOV-21G細胞]におけるヒトSiglec-7 MAbによって誘発されるインビトロ細胞毒性を示す。インビトロ細胞毒性は、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置(RTCA)(Agilent Technologies, USA)を使用して、インピーダンスに基づいて測定された。電気伝導率は、xCELLigenceデバイスによって15分ごとに細胞指数(CI)に変換される。DB7.1、DB7.2、及びDB7.7はHaCaT細胞の殺傷を誘発しなかった。処理2日後にキャプチャーされた画像に示されるように、抗体なしの対照及びDB7.1、DB7.2、及びDB7.7処理ウェルでは殺傷が観察されず、オフターゲット毒性作用がないことを示している。3つのSiglec-7 MAbはすべて、BRCA2変異及びPARPi耐性PEO-4細胞を含む前述のヒトOC細胞パネルを効果的に殺傷した。DB7.2 MAbが最も高い殺傷力を発揮することが分かった。DB7.2の殺傷能力は、さらに2つの添加OC細胞で確認された;(
図25H)CaOV3細胞及び(
図25I)OVCAR3細胞。矢印は、抗体及びエフェクター細胞(ヒトPBMC)が標的細胞に添加された時点を示す;E:T=5:1/10:1。赤:抗体なし(エフェクター細胞+標的細胞のみ)、緑:DB7.1(エフェクター細胞+標的細胞+DB7.1)、青:DB7.2(エフェクター細胞+標的細胞+DB7.2)、及び黄色:DB7.7(エフェクター細胞+標的細胞+DB7.7)。
【
図26A-26C】
図26A~
図26Cは、Siglec-7 MabのFcR結合の除去を示す。(
図26A)免疫細胞に対するFcRブロッキングとSiglec-7を介する細胞殺傷に対するその効果の概略図。(
図26B)Fcブロックの存在下又は非存在下でのDB7.2ヒトMAbによるOVCAR3細胞の殺傷のxCELLigenceリアルタイム分析。(
図26C)Fcブロックは、OVISE細胞におけるDB7.2 Siglec-7 MAbを介するNK毒性を維持した。画像は、Fcブロックの存在下又は非存在下で、エフェクター細胞(E:T=5:1)とDB7.2 MAbをOVISE細胞に添加した2日後にキャプチャーされた。
【
図27A-27I】
図27A~
図27Iは、FcR結合の除去によってSiglec-7 MAbの殺傷能力が維持され、Siglec-7 MAbと抗PD1の組み合わせによってOC細胞殺傷が強化されたことを示す。(
図27A)DB7.2とDB7.2_TM ModによるOVISE細胞殺傷の比較。DB7.2_TM Modは、Fcドメインに3重残基修飾(“TM”;L234F/L235E/P331S)を含み、FcRとC1qの結合を除去するDB7.2DMAbの変異体である。DB7.2_TM Modの殺傷効力はOVISE細胞で維持された。赤:Abなし(エフェクター細胞+標的細胞のみ)、濃い青:DB7.2(エフェクター細胞+標的細胞+DB7.2)、薄い青(エフェクター細胞+標的細胞+DB7.2_TM Mod)。(
図27B)OVISE細胞を標的として、エフェクター細胞とDB7.2/DB7.2_TM Modを使用して処理した24時間後の画像。OVISE細胞とヒトPBMCの共培養72時間後の(
図27C)DB7.2及び(
図27D)DB7.2_TM Modの細胞指数対処理用量の曲線。PEO4細胞とヒトPBMCの共培養72時間後の(
図27E)DB7.2_TM Mod及び(
図27F)抗PD1(ペンブロリズマブ)の細胞指数対処理用量曲線。ヒトPBMC存在下の(
図27G)、DB7.2_TM Mod、(
図27H)抗PD1(ペンブロリズマブ)、及び(
図27I)個別処理とDB7.2_TM Modと抗PD1の組み合わせによる標的PEO4細胞の殺傷(E:T=5:1)。前記組み合わせにより、個別のCPI処理と比較して殺傷が強化された。
【
図28A-28E】
図28A~
図28Eは、Siglec-7 DNA送達MAbがインビボで発現し、卵巣癌攻撃投与モデルで癌の進行を遅らせることを示す。(
図28A)Balb/cマウスへのヒトSiglec-7 DNA送達MAb投与の概略図。マウスのCD4及びCD8T細胞を、まず抗マウスCD4及び抗マウスCD8(両方ともInVivoMab製)抗体を使用して枯渇させた。次に、マウスに50μgの重鎖+50μgの軽鎖ヒトSiglec-7 DMAbを電気穿孔した。マウス血清を、示された時点で収集した。(
図28B)DNA注入及び電気穿孔の14日後に、空ベクター、DB7.1、DB7.2、及びDB7.7を電気穿孔したマウス血清、又は投薬未経験血清で、無関係な対照及び二次Ab対照のみとともに、ヒトNK細胞を染色。Siglec-7 MAbで免疫したマウスの14日目の血清は、陽性で強いNK細胞染色を示したが、空ベクター対照、無関係なMAb、又は投薬未経験血清の場合は染色は観察されなかった。(
図28C)OVISE細胞を攻撃投与したNSG-Kマウスへの、Siglec-7 DNA送達MAb電気穿孔の概略図。(
図28D)DB7.2又は空ベクターで処理したNSG-Kマウスに移植されたOVISE腫瘍の増殖曲線(1群あたりn=5匹のマウス)。(
図28E)空ベクター対照と比較したDB7.2処理マウスの生存率の利点。DB7.2処理群は、pVax1対照群と比較して、腫瘍負荷が大幅に軽減され、生存率が向上した。
【
図29A-29B】
図29A及び
図29Bは、Siglec-7 DMAbが、OVISE攻撃投与マウスモデルで腫瘍増殖に影響を与えたことを示す。(
図29A)DB7.2DMAb又はpVax1空ベクターで処理されたNSG-Kマウスに移植されたOVISE腫瘍の個々の増殖曲線(1群あたりn=5匹のマウス)。(
図29B)37日目の、DB7.2DMAb又はpVax1で処理した卵巣腫瘍担持マウスの代表的な画像。
【
図30A-30K】
図30A~
図30Kは、DB7.2xD2AP11:FSHR標的化二重特異性NK細胞エンゲージャーの生成、発現、結合、及び特異性分析を示す。(
図30A)DB7.2xD2AP11 NKCEをコードするDNA構築物の概略図;GS:グリシン-セリン、ScFV:単鎖可変断片。(
図30B)expi293F細胞へのトランスフェクション後のDB7.2xD2AP11 NKCE又はpVax1空ベクターのインビトロ発現のウェスタンブロット。(
図30C)二次抗体のみ、DB7.2xD2AP11 NKCE、Siglec-7抗体(F023-420/DB7.2)、及びDB7.2xD2AP11 NKCEで染色したSiglec-7過剰発現HEK293T細胞のフローサイトメトリープロット。(
図30D)二次抗体のみ、非FSHR標的化T細胞エンゲージャー(IL13受容体アルファ2xCD3)、D22AP11-TCE(FSHRxCD3)、及びDB7.2xD2AP11 NKCEで染色したFSHR過剰発現K562細胞のフローサイトメトリープロット。(
図30E)Siglec-7過剰発現HEK293T細胞におけるDB7.2xD2AP11 NKCEのIFA。二次抗体のみによる染色は陰性対照として機能した。固定細胞の高分解能共焦点画像は、Leica TCS SP8 WLL走査型レーザー共焦点顕微鏡とLeica LAS-Xソフトウェア(Leica Microsystems, Inc., Buffalo Grove, IL)を使用してキャプチャーされた。画像の後処理には、デコンボリューション用のHuygensソフトウェア(Scientific Volume Imaging, Laapersveld, Hilversum, The Netherlands)へのインポートを含んでいた。固定細胞調製物は、63X/1.40油浸対物レンズ、2倍ズーム、及び1AUのピンホールを使用して取得された。細胞は、DAPI(核)、GFP(Siglec-7)、テキサスレッド(DB7.2xD2AP11 NKCE)で標識され、HyD検出器で順番に取得して、シグナルを最大化し、クロストークを最小にした。スケールバーは20.0ミクロンに相当する。xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを使用して、FSHR陰性(
図30F及びG)HEK293T、(
図30H)GM05389、(
図30I及びJ)AGS、及び(
図30K)WM3743細胞における、DB7.2xD2AP11 NKCEの特異性分析。これらのFSHR非発現細胞のいずれにおいても、細胞殺傷は観察されなかった。画像は、エフェクター細胞(ヒトPBMC;E:T=10:1)及びDB7.2xD2AP11を3日間添加後の、HEK293T(G)及びAGS(J)細胞において細胞毒性が誘発されていないことを示す。赤:抗体なし(エフェクター細胞+標的細胞のみ);紫:DB7.2xD2AP11(エフェクター細胞+標的細胞+DB7.2xD2AP11 NKCE)。
【
図31A-31I】
図31A~
図31Iは、FSHR標的化NK細胞エンゲージャーを示す;DB7.2xD2AP11 NKCEは、インビトロで卵巣癌の細胞毒性を誘発した。(
図31AとB)OVISE細胞、及び(
図31C)OVCAR3-FSHR細胞、(
図31DとE)CaOV3細胞、(
図31F)Kuramochi-FSHR細胞、及び(
図31G)PEO-4細胞において、ヒトPBMCの存在下で、DB7.2xD2AP11 NKCEによって誘発されたインビトロ細胞毒性。リアルタイムのインビトロ細胞毒性分析はxCELLigenceによって実施された。E:Tは10:1(AとB、FとG)及び5:1(C~E)である。示されている画像(BとE)は、標的細胞にヒトPBMCとNKCEを添加してから3日後にキャプチャーされた。(
図31H)ヒトPBMCs存在下でFSHR発現OVISE細胞において、DB7.2xD2AP11 NKCEによって誘発される用量依存性細胞溶解(E:T=5:1)。IC50値は142.87pMで得られ、NKCEの有効性を示す。(
図31I)OVCAR3細胞におけるDB7.2xD2AP11 NKCEの細胞指数対用量曲線。IC50値は236.6pMで得られ、その高い効力を確認した。
【
図32A-32D】
図32A~
図32Dは、FSHR標的化二重特異性NK細胞エンゲージャーの特異性分析を示す。(
図32A)DB7.2xD2AP11 NKCEの存在下の、NK細胞とOVCAR3-FSHR細胞の共培養から生じるインビトロ細胞毒性。(
図32B)抗Siglec-7 MAbによるAGS(FSHR陰性)細胞の殺傷(DB7.2xD2AP11 NKCEはこの細胞株の殺傷を誘発しなかったことから、二重特異性エンゲージャープローチの特異性を示している)。無関係なNKCE(DB7.2xIL13Rα2NKCEは、ヒトPBMCの存在下で、(
図32C)FSHR過剰発現OVCAR3細胞及び(
図32D)OVISE細胞において毒性を誘発しなかった。リアルタイムのインビトロ細胞毒性分析はxCELLigenceによって実施された;E:T=5:1。矢印は、エフェクター細胞とNKCEが添加された時間を示す。
【
図33A-33C】
図33A~
図33Cは、DB7.2xD2AP11 NKCEが、標的FSHRを過剰発現するOVSE細胞において用量依存性細胞毒性を誘発したことを示す。DB7.2xD2AP11 NKCEは、3人の異なる健康なヒトドナー(
図33A)ND578、(
図33B)ND502、(
図33C)ND609から得たヒトPBMCの存在下で、異なる濃度(120、60、30、15、7.5、3.75、及び1.875ng/ml)で分析すると、OVISE-FSHR細胞において用量依存性殺傷を誘発した。赤い線は、抗体なし(エフェクター細胞と標的細胞のみ)を示す。インビトロ細胞毒性は、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置を使用してインピーダンスに基づいて測定された。E:T=5:1;矢印は、エフェクター細胞とNKCEが標的OVISE-FSHR細胞に添加された時間を示す。
【
図34】
図34は、DB7.2xD2AP11 NKCEが、標的OVCAR3細胞において用量依存性の細胞毒性を誘発したことを示す。DB7.2xD2AP11 NKCEは、ヒトPBMCの存在下で、異なる濃度(120、60、30、15、7.5、3.75、及び1.875ng/ml)で分析すると、OVCAR3細胞において用量依存性な細胞死を誘発した。赤い線は、抗体なし(エフェクター細胞と標的細胞のみ)を示す。インビトロ細胞毒性は、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置を使用してインピーダンスに基づいて測定された。E:T=10:1、矢印は、エフェクター細胞とNKCEが標的OVCAR3細胞に添加された時間を示す。
【
図35A-35E】
図35A~
図35Eは、DB7.2xD2AP11 NKCEがサイトカイン/細胞毒性分子の分泌を引き起こし、インビボで卵巣腫瘍の増殖に影響を与えたことを示す。(
図35A)OVCAR3-FSHR細胞は、DB7.2xD2AP11 NKCEの存在下及び非存在下でヒトPBMCと共培養された。(
図35B)上清は72時間後に収集され、サイトカイン/細胞毒性分子の分泌プロフィールが分析された。(
図35C)OVCAR3-FSHRを攻撃投与されたNSG-Kマウスモデルにおける腫瘍の進行に対するDB7.2xD2AP11 NKCEの効果を評価するための腫瘍試験の概略図。(
図35D)DB7.2xD2AP11 NKCE又は空ベクターで処理したNSG-Kマウスに移植されたOVCAR3-FSHR腫瘍の平均増殖曲線(1群あたりn=5匹のマウス)。(
図35E)空ベクター対照と比較したDB7.2xD2AP11 NKCEマウスの生存率の利点。2元配置分散分析;
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本発明は、Siglec7とFSHR(DDAP NKCE)の両方を同時に標的とする、新しいクラスの二重特異性NK細胞エンゲージャー(NKCE)の開発に関する。別の実施態様において、二重特異性NKCEは、Siglec7とIL13Ra2の両方を同時に標的とする。
【0026】
1つの態様において、本発明は、NKCE、その断片、その変種、又はそれをコードする核酸分子を投与することにより、免疫応答を増大又は強化、すなわち、より効果的な免疫応答を生成するために使用することができる組成物に関する。1つの実施態様において、NKCEはSiglec-7を標的とする。
【0027】
1つの態様において、本発明は、シアル酸受容体抗体、又はその断片、又はその変種と、腫瘍抗原への結合に特異的な抗体、又はその断片、又はその変種との組み合わせを含むNKCEに関する。いくつかの実施態様において、本発明は、シアル酸受容体抗体、又はその断片、又はその変種と、腫瘍抗原への結合に特異的な抗体、又はその断片、又はその変種との組み合わせを含むNKCEをコードする核酸分子に関する。
【0028】
1つの態様において、本発明は、それを必要とする被験体における疾患又は障害を治療する方法であって、被験体にNKCE、その断片、その変種、又はこれらをコードする核酸分子を投与することを含む方法に関する。1つの実施態様において、疾患又は障害は癌である。1つの実施態様において、疾患又は障害は感染症である。
【0029】
1つの実施態様において、本発明は、治療を必要とする被験体における癌又はそれに関連する疾患もしくは障害の治療方法に関し、被験体に、シアル酸受容体抗体、又はその断片、又はその変種と、腫瘍抗原、ウイルス糖タンパク質、MHC結合抗体断片への結合に特異的な抗体、又はその断片、又はその変種との組み合わせを含むNKCE、又はこれらをコードする核酸分子を投与することを含む。
【0030】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。本明細書で説明されているものと同様又は同等の方法及び材料はいずれも本発明の実施又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び材料について説明する。
【0031】
本明細書で使用される以下の各用語は、このセクションで関連付けられている意味を有する。
【0032】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、冠詞の文法上の目的語の1つ又はそれ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。例として「ある要素」は、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0033】
量、時間的持続などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される「約」は、開示された方法を実施するために適切な変動として、指定された値から±20%、±10%、±5%、±1%、又は±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0034】
「抗体」は、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEクラスの抗体、又はこれらの断片若しくは誘導体を意味し、Fab、F(ab’)2、Fd、並びに単鎖抗体、及びこれらの誘導体を含む。抗体は、哺乳動物の血清試料から単離された抗体、ポリクローナル抗体、親和性精製抗体、又は所望のエピトープに対する十分な結合特異性を示すこれらの混合物、又はこれらから誘導された配列であり得る。
【0035】
「抗原」は、宿主内で免疫応答を生成する能力を有するタンパク質を指す。抗原は抗体によって認識され結合され得る。抗原は、体内又は外部環境から発生し得る。
【0036】
「CDR」は、抗体の相補性決定領域アミノ酸配列として定義され、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の超可変領域である。例えば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 4th Ed., U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1987)を参照。免疫グロブリンの可変部分には、3つの重鎖CDR(又はCDR領域)と3つの軽鎖CDR(又はCDR領域)がある。従って、ここで使用される「CDR」は、3つの重鎖CDRすべて、又は3つの軽鎖CDRすべて(又は、適切な場合は、すべての重鎖CDRとすべての軽鎖CDRの両方)を指す。抗体の構造とタンパク質の折り畳みにより、他の残基が抗原結合領域の一部であると見なされ、熟練した技術者によってそのように理解される可能性がある。例えば、Chothia et al., (1989) Conformations of immunoglobulin hypervariable regions; Nature 342, p 877-883を参照。
【0037】
「抗体断片」又は「抗体の断片」は、本明細書で互換的に使用される場合、抗原結合部位又は可変領域を含む完全な抗体の一部を指す。この部分は、完全な抗体のFc領域の定常重鎖ドメイン(抗体アイソタイプに応じてCH2、CH3、又はCH4)を含まない。抗体断片の例には、限定されるものではないが、Fab断片、Fab’断片、Fab’-SH断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、ダイアボディ、単鎖Fv(scFv)分子、1つのみの軽鎖可変ドメインを含む単鎖ポリペプチド、軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含む単鎖ポリペプチド、1つのみの重鎖可変領域を含む単鎖ポリペプチド、及び重鎖可変領域の3つのCDRを含む単鎖ポリペプチドが含まれる。
【0038】
本明細書で使用される「アジュバント」は、抗原の免疫原性を上昇させるために本明細書に記載されたワクチンに添加される任意の分子を意味する。
【0039】
本明細書で使用される「コード配列」又は「コード核酸」は、本明細書に記載された抗体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸(RNA又はDNA分子)を指す場合がある。コード配列は、RNA配列をコードするDNA配列を含む場合もある。コード配列には、核酸が投与される個体又は哺乳動物の細胞内での発現を誘発することができるプロモーター及びポリアデニル化シグナルを含む調節要素に作動可能に連結された開始シグナル及び終止シグナルがさらに含まれていてもよい。コード配列には、シグナルペプチドをコードする配列がさらに含まれていてもよい。
【0040】
本明細書で使用されている「相補体」又は「相補的」とは、核酸が、核酸分子のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体の間にワトソン・クリック(例えば、A-T/U及びC-G)又はフーグスティーン(Hoogsteen)塩基対合を有することを意味し得る。
【0041】
「疾患」とは、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善しない場合は動物の健康が悪化し続ける動物の健康状態である。
【0042】
対照的に、動物の「障害」とは、動物が恒常性を維持できるが、動物の健康状態が障害がない場合よりも好ましくない健康状態である。障害を治療せずに放置しても、必ずしも動物の健康状態がさらに悪化するわけではない。
【0043】
疾患又は障害の兆候又は症状の重症度、患者がそのような兆候又は症状を経験する頻度、又はその両方が軽減された場合、疾患又は障害は「緩和」される。
【0044】
「コードする」とは、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチドの特定の配列が、特定のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA、及びmRNA)又は特定のアミノ酸配列と、そこから生じる生物学的特性を有する生物学的プロセスで、他のポリマーや高分子を合成するためのテンプレートとして機能するという固有の特性を指す。従って、遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳によって細胞又は他の生物学的システムでタンパク質が産生される場合、遺伝子はタンパク質をコードしている。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一で、通常は配列リストで提供されるコード鎖と、遺伝子又はcDNAの転写のテンプレートとして使用される非コード鎖の両方が、その遺伝子又はcDNAのタンパク質又はその他の産物をコードしていると言える。
【0045】
化合物の「有効量」とは、化合物が投与される被験体又はシステムに効果をもたらすのに十分な化合物の量である。
【0046】
「発現ベクター」とは、発現されるヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用要素を含む。発現のための他の要素は、宿主細胞又はインビトロ発現システムによって供給することができる。発現ベクターには、当該技術分野で知られているすべてのものが含まれ、例えば、組換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド(例えば、裸の又はリポソームに含まれるもの)、及びウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0047】
本明細書で使用される「フィードバック機構」とは、ソフトウェア又はハードウェア(又はファームウェア)のいずれかによって実行されるプロセスを指す場合があり、このプロセスは、所望の組織のインピーダンス(エネルギーパルスの送達前、送達中、及び/又は送達後)を受信して現在の値(好ましくは電流)と比較し、送達されるエネルギーパルスを調整して、プリセット値を達成する。フィードバック機構は、アナログ閉ループ回路によって実行されてもよい。
【0048】
「断片」とは、機能する、すなわち所望の標的に結合し全長抗体と同じ意図された効果を有することができる抗体のポリペプチド断片を意味し得る。抗体の断片は、N末端及び/又はC末端から少なくとも1つのアミノ酸が欠落していることを除いて全長と100%同一であり、いずれの場合も1位にシグナルペプチド及び/又はメチオニンが有っても無くてもよい。断片は、特定の全長抗体の長さの20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の割合を含み、異種シグナルペプチドは除外される。断片は、抗体と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性があるポリペプチドの断片を含み、さらに、同一性パーセントの計算には含まれないN末端メチオニン又は異種シグナルペプチドを含む。断片は、さらにN末端メチオニン及び/又はシグナルペプチド、例えば免疫グロブリンシグナルペプチド、例えばIgE又はIgGシグナルペプチドを含み得る。N末端メチオニン及び/又はシグナルペプチドは、抗体の断片に連結され得る。
【0049】
抗体をコードする核酸配列の断片は、5’末端及び/又は3’末端から少なくとも1つのヌクレオチドが欠落していることを除いて全長と100%同一であり、いずれの場合も1位にシグナルペプチド及び/又はメチオニンが有っても無くてもよい。断片は、特定の全長コード配列の長さの20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上を含み、添加されたいかなる異種シグナルペプチドも除外される。断片は、抗体と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性があるポリペプチドをコードする断片を含むことができ、さらに任意選択的に、同一性パーセントの計算には含まれないN末端メチオニン又は異種シグナルペプチドをコードする配列を含む。断片は、さらにN末端メチオニン及び/又はシグナルペプチド(例えばIgE又はIgGシグナルペプチドなどの免疫グロブリンシグナルペプチド)のコード配列を含み得る。N末端メチオニン及び/又はシグナルペプチドをコードするコード配列は、コード配列の断片に連結されていてもよい。
【0050】
本明細書で使用される「遺伝子構築物」とは、抗体などのタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むDNA又はRNA分子を指す。遺伝子構築物はまた、RNAを転写するDNA分子を指すこともある。コード配列は、核酸分子が投与される個体の細胞内での発現を誘発することができるプロモーター及びポリアデニル化シグナルを含む調節要素に作動可能に連結された開始シグナル及び終止シグナルを含む。本明細書で使用される「発現可能な形態」という用語は、個体の細胞内に存在するとコード配列が発現されるように、タンパク質をコードするコード配列に作動可能に連結された必要な調節要素を含む遺伝子構築物を指す。
【0051】
「相同的」とは、2つのポリペプチド間又は2つの核酸分子間の配列類似性又は配列同一性を指す。比較される2つの配列の両方の位置が、同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットで占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンで占められている場合、その位置で分子は相同的である。2つの配列間の相同性パーセントは、2つの配列が共有する、一致する、又は相同的な位置の数を、比較される位置の数で割った値に100を掛けた数の関数である。例えば、2つの配列の10の位置のうち6つが一致又は相同的である場合、2つの配列は60%相同的である。例として、DNA配列ATTGCCとTATGGCは50%の相同性を共有している。通常、2つの配列が最大の相同性を与えるように整列されているときに比較が行われる。
【0052】
2つ以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈でここで使用される「同一の」又は「同一性」とは、配列が特定の領域にわたって特定のパーセントの残基が同じであることを意味する。パーセントは、2つの配列を最適に整列させ、特定の領域で2つの配列を比較し、両方の配列で同一の残基が存在する位置の数を決定して一致した位置の数を算出し、一致した位置の数を指定領域内の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性のパーセントを算出することで計算できる。2つの配列の長さが異なる場合、又は整列によって1つ又はそれ以上のずれた末端が生成され、特定された比較領域が1つの配列のみを含む場合、その1つの配列の残基は計算の分母に含まれるが、分子には含まれない。DNAとRNAを比較する場合、チミン(T)とウラシル(U)は同等と見なすことができる。同一性は用手的に行うことも、BLASTやBLAST2.0などのコンピューター配列アルゴリズムを使用して行うこともできる。
【0053】
「単離された」とは、自然の状態から変更又は取り出されたことを意味する。例えば、生きた動物に自然に存在する核酸又はペプチドは「単離」されていないが、同じ核酸又はペプチドがその自然状態の共存物質から部分的又は完全に分離されている場合は「単離」されている。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形で存在することができ、又は例えば宿主細胞などの非天然環境に存在することができる。
【0054】
本発明の文脈において、一般的に存在する核酸塩基について以下の略語が使用される。「A」はアデノシン、「C」はシトシン、「G」はグアノシン、「T」はチミジン、「U」はウリジンを指す。
【0055】
他に明記されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いに縮重したバージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質又はRNAをコードするヌクレオチド配列という語句はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が何らかのバージョンでイントロンを含む可能性がある限り、イントロンを含むことがある。
【0056】
本明細書で使用される「インピーダンス」は、フィードバックメカニズムについて説明するときに使用され、オームの法則に従って電流値に変換できるため、プリセット電流との比較が可能になる。
【0057】
本明細書で使用される「免疫応答」は、1つ又はそれ以上の核酸及び/又はペプチドの導入に応答して、宿主の免疫システム(例えば、哺乳類の免疫システム)が活性化されることを意味する。免疫応答は、細胞応答若しくは体液性応答、又はその両方の形態をとることができる。
【0058】
「患者」、「被験体」、「個体」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、本明細書に記載の方法に適応可能な、インビトロ又はインサイチューの任意の動物又はその細胞を指す。いくつかの実施態様において、患者、被験体、又は個体はヒトである。
【0059】
組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、又は皮内注射、又は注入技術が含まれる。
【0060】
本明細書で使用される「核酸」又は「オリゴヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド」は、少なくとも2つのヌクレオチドが共有結合していることを意味し得る。一本鎖の記載は、相補鎖の配列も規定する。従って、核酸には、記載された一本鎖の相補鎖も含む。核酸の多くの変種は、特定の核酸と同じ目的で使用することができる。従って、核酸はまた、実質的に同一の核酸及びその相補体も含む。一本鎖は、厳密性ハイブリダイゼーション条件下で標的配列にハイブリダイズできるプローブを提供する。従って、核酸は、厳密性ハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするプローブも含む。
【0061】
核酸は一本鎖又は二本鎖であるか、二本鎖と一本鎖の両方の配列の一部を含むことができる。核酸は、DNA(ゲノムDNAとcDNAの両方)、RNA、又はハイブリッドであり、核酸には、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの組み合わせ、及びウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、及びイソグアニンを含む塩基の組み合わせを含み得る。核酸は、化学合成法又は組み換え法によって得られる。
【0062】
ここで使用される「作動可能に連結された」とは、遺伝子の発現が、遺伝子が空間的に接続されたプロモーターの制御下にあることを意味し得る。プロモーターは、その制御下にある遺伝子の5’(上流)又は3’(下流)に配置され得る。プロモーターと遺伝子の間の距離は、プロモーターが由来する遺伝子内でそのプロモーターとそれが制御する遺伝子の間の距離とほぼ同じである。当該技術分野で知られているように、この距離の変化は、プロモーター機能の損失なしに調整することができる。
【0063】
ここで使用される「ペプチド」、「タンパク質」、又は「ポリペプチド」は、アミノ酸の連結された配列を意味し、天然、合成、又は天然と合成の修飾物又は組み合わせであり得る。
【0064】
ここで使用される「プロモーター」は、細胞内の核酸の発現を付与、活性化、又は強化することができる合成又は天然由来の分子を意味し得る。プロモーターは、発現をさらに強化し、及び/又は発現の空間的発現及び/又は時間的発現を変更するために、1つ又はそれ以上の特定の転写調節配列を含み得る。プロモーターはまた、転写の開始部位から数千塩基対も離れた位置にある遠位エンハンサー又はリプレッサー要素も含み得る。プロモーターは、ウイルス、細菌、真菌、植物、昆虫、動物などの供給源から得ることができる。プロモーターは、発現が起こる細胞、組織、若しくは器官に関して、又は発現が起こる発達段階に関して、又は生理学的ストレス、病原体、金属イオン、又は誘発剤などの外部刺激に応答して、遺伝子成分の発現を構成的に又は差別的に制御することができる。プロモーターの代表的な例としては、バクテリオファージT7プロモーター、バクテリオファージT3プロモーター、SP6プロモーター、lacオペレータープロモーター、tacプロモーター、SV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、RSV-LTRプロモーター、CMVIEプロモーター、SV40初期プロモーター、又はSV40後期プロモーター、及びCMVIEプロモーターが含まれる。
【0065】
本明細書で使用される用語「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列に作動可能に連結された遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。場合によっては、この配列はコアプロモーター配列であり、他の場合には、この配列は遺伝子産物の発現に必要なエンハンサー配列及び他の調節要素も含む。プロモーター/調節配列は、例えば組織特異的な方法で遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0066】
「構成性」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は指定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されると、細胞のほとんど又はすべての生理学的条件下で細胞内で遺伝子産物が生成されるヌクレオチド配列である。
【0067】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコード又は指定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されると、プロモーターに対応する誘導因子が細胞内に存在する場合にのみ、実質的に細胞内で遺伝子産物が生成されるヌクレオチド配列である。
【0068】
「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子をコードするか又は遺伝子によって指定されるポリヌクレオチドと作動可能に連結されると、実質的に細胞がプロモーターに対応する組織タイプの細胞である場合にのみ、細胞内で遺伝子産物が生成されるヌクレオチド配列である。
【0069】
「シグナルペプチド」及び「リーダー配列」は、本明細書では互換的に使用され、本明細書に記載のタンパク質のアミノ末端に連結できるアミノ酸配列を指す。シグナルペプチド/リーダー配列は、通常、タンパク質の局在化を指示する。本明細書で使用されるシグナルペプチド/リーダー配列は、タンパク質が生成された細胞からのタンパク質の分泌を促進する可能性がある。シグナルペプチド/リーダー配列は、細胞からの分泌時に、タンパク質の残りの部分(成熟タンパク質と呼ばれることが多い)から切断されることが多い。シグナルペプチド/リーダー配列は、タンパク質のN末端に連結されている。
【0070】
本明細書で使用される「厳密性ハイブリダイゼーション条件」とは、核酸の複雑な混合物などにおいて、第1の核酸配列(例えばプローブ)が第2の核酸配列(例えば標的)にハイブリダイズする条件を意味し得る。厳密性条件は配列に依存し、状況によって異なる。厳密性条件は、規定のイオン強度pHにおける特定の配列の熱融点(Tm)より約5~10℃低くなるように選択することができる。Tmは、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態(標的配列が過剰に存在するため、Tmでは、平衡状態でプローブの50%が占有される)で標的配列にハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH、及び核酸濃度下で)である場合がある。厳密性条件とは、pH7.0~8.3で塩濃度が約1.0Mナトリウムイオン未満、例えば約0.01~1.0Mナトリウムイオン濃度(又は他の塩)であり、温度が短いプローブ(例えば、約10~50ヌクレオチド)の場合は少なくとも約30℃、長いプローブ(例えば、約50ヌクレオチドを超える)の場合は少なくとも約60℃である条件である。厳密性条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することでも達成できる。選択的又は特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドハイブリダイゼーションの少なくとも2~10倍になる。例示的な厳密性ハイブリダイゼーション条件は以下を含む:50%ホルムアミド、5xSSC、及び1%SDS、42℃でインキュベート、又は5xSSC、1%SDS、65℃でインキュベート、0.2xSSC、及び0.1%SDSで65℃で洗浄。
【0071】
ここで使用される「被験体」及び「患者」は、互換的に、限定されるものではないが、哺乳類(例えば、牛、豚、ラクダ、ラマ、馬、ヤギ、ウサギ、羊、ハムスター、モルモット、猫、犬、ネズミ、マウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル、アカゲザル、チンパンジーなどのサル)、及びヒト)を含むあらゆる脊椎動物を指す。いくつかの実施態様において、被験体はヒト又は非ヒトであり得る。被験体又は患者は他の形態の治療を受けている可能性がある。
【0072】
本明細書で使用される「実質的に相補的」とは、第1の配列が、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、又はそれ以上のヌクレオチド又はアミノ酸の領域にわたって、第2の配列の相補体と少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であること、又は2つの配列が厳密性ハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズすることを意味し得る。
【0073】
本明細書で使用される「実質的に同一」とは、第1及び第2の配列が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100個、又はそれ以上のヌクレオチド又はアミノ酸の領域にわたって、又は核酸に関しては、第1の配列が第2の配列の相補体と実質的に相補的である場合、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であることを意味し得る。
【0074】
本明細書で使用される「合成抗体」は、本明細書に記載される組換え核酸配列によってコードされ、被験体内で生成される抗体を指す。
【0075】
本明細書で使用される「治療」又は「治療する」は、疾患を予防、抑制、制圧、又は完全に排除する手段によって、被験体を疾患から防御することを意味し得る。疾患を予防することは、疾患の発症前に被験体に本発明のワクチンを投与することを含む。疾患の抑制には、疾患の誘発後であるが臨床的に現れる前に、本発明のワクチンを被験体に投与することを含む。疾患の制圧には、疾患の臨床的出現後に、本発明のワクチンを被験体に投与することを含む。
【0076】
「治療的」治療とは、疾患又は障害の兆候又は症状を示す被験体に、これらの兆候又は症状の頻度又は重症度を軽減又は排除する目的で施される処置である。
【0077】
本明細書で使用されている「疾患又は障害を治療する」とは、患者が経験する疾患又は障害の少なくとも1つの兆候又は症状の頻度若しくは重症度、又はその両方を軽減することを意味する。
【0078】
本明細書で使用される「治療有効量」という語句は、疾患又は障害を予防又は治療(発症の遅延又は予防、進行の予防、抑制、減少、又は回復)するのに十分又は有効な量を指し、そのような疾患及び障害の兆候及び/又は症状の緩和を含む。
【0079】
本明細書で使用される用語としての疾患又は障害を「治療する」とは、被験体が経験する疾患又は障害の少なくとも1つの兆候又は症状の頻度又は重症度を軽減することを意味する。
【0080】
本明細書で核酸に関して使用される「変種」とは、(i)参照ヌクレオチド配列の一部又は断片、(ii)参照ヌクレオチド配列又はその一部の相補体、(iii)参照核酸又はその相補体と実質的に同一の核酸、又は(iv)参照核酸、その相補体、又はこれらと実質的に同一の配列に、厳密性条件下でハイブリダイズする核酸を意味する。
【0081】
変種は、アミノ酸の挿入、欠失、又は保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1つの生物学的活性を保持するペプチド又はポリペプチドとしてさらに定義することができる。「生物学的活性」の代表的な例には、特定の抗体に結合する能力、又は免疫応答を促進する能力が含まれる。変種はまた、少なくとも1つの生物学的活性を保持するアミノ酸配列を有する参照タンパク質と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を意味することもできる。アミノ酸の保存的置換、すなわち、あるアミノ酸を、類似の特性(例えば、親水性、荷電領域の程度と分布)を有する異なるアミノ酸に置き換えることは、当該技術分野において、通常軽微な変化を伴うものとして認識されている。これらの軽微な変化は、当該技術分野で理解されているように、アミノ酸のハイドロパシー指数を考慮することによって、部分的に同定することができる。Kyte et al., J. Mol. Biol. 157:105-132 (1982)。アミノ酸のハイドロパシー指数は、その疎水性及び電荷の考慮に基づく。当該技術分野では、同様のハイドロパシー指数のアミノ酸を置換しても、タンパク質の機能を保持できることが知られている。1つの態様において、ハイドロパシー指数が±2のアミノ酸が置換される。アミノ酸の親水性はまた、タンパク質が生物学的機能を保持することになる置換を明らかにするためにも使用することができる。ペプチドの文脈におけるアミノ酸の親水性を考慮すると、そのペプチドの最大局所平均親水性を計算することができ、これは抗原性及び免疫原性とよく相関することが報告されている有用な尺度である。類似の親水性値を有するアミノ酸の置換により、当該技術分野で理解されているように、例えば免疫原性などの生物学的活性を保持するペプチドが得られる可能性がある。置換は、互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸で行うことができる。アミノ酸の疎水性指数と親水性値は両方とも、そのアミノ酸の特定の側鎖によって影響を受ける。この観察と一致して、生物学的機能と互換性のあるアミノ酸置換は、アミノ酸の相対的な類似性、特に疎水性、親水性、電荷、サイズ、及びその他の特性によって明らかにされるこれらのアミノ酸の側鎖の類似性に依存すると理解される。
【0082】
変種は、完全な遺伝子配列又はその断片の全長にわたって実質的に同一である核酸配列であり得る。核酸配列は、遺伝子配列又はその断片の全長にわたって、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であり得る。変種は、アミノ酸配列又はその断片の全長にわたって実質的に同一であるアミノ酸配列であり得る。アミノ酸配列は、アミノ酸配列の全長又はその断片にわたって、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であり得る。
【0083】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することができる物質の組成物である。限定されるものではないが、線状ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルスを含む多数のベクターが当該技術分野で知られている。従って「ベクター」という用語には、自律的に複製するプラスミド又はウイルスが含まれる。この用語には、例えばポリリジン化合物、リポソームなどの、核酸の細胞への移入を促進する非プラスミド及び非ウイルス化合物も含まれると解釈されるべきである。ウイルスベクターの例には、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれる。
【0084】
範囲:本開示全体を介して、本発明のさまざまな側面を範囲形式で提示することができる。範囲形式での説明は、単に便宜上及び簡潔にするためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。従って、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、すべての可能な部分範囲を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1から6などの範囲の記述は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6などの部分範囲、及びその範囲内の個々の数値、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6などを具体的に開示しているとみなされるべきである。これは、範囲の広さに関係なく適用される。
【0085】
説明
本明細書では、シアル酸結合受容体、その断片、その変種に特異的に結合するドメインと、さらに、目的の標的細胞によって発現される抗原に特異的に結合するドメインとを含むNKCEと、それをコードする核酸分子とが提供される。1つの実施態様において、シアル酸結合受容体は、シアル酸結合免疫グロブリン型レクチン(Siglec)ポリペプチド又はセレクチンポリペプチドである。1つの実施態様において、NKCEは、NK細胞に直接関与するSiglec-7への結合に特異的であり、病原細胞の殺傷及び除去を指示することができる。
【0086】
1つの実施態様において、本発明は、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子を含む免疫原性組成物を提供する。本発明の免疫原性組成物は、限定されるものではないが、癌及び感染症を含む疾患又は障害から防御するために使用することができる。いくつかの実施態様において、本発明の免疫原性組成物は、癌細胞、自己免疫細胞、又は感染した標的細胞上の糖タンパク質の細胞特異的標的化に使用することができる。
【0087】
従って、いくつかの実施態様において、本発明は、シアル酸結合受容体、その断片、その変種体に特異的に結合するドメインと、さらに、目的の標的細胞によって発現される抗原に特異的に結合するドメインとを含む1つ又はそれ以上のNKCEをコードする核酸分子を含む組成物を提供する。
【0088】
いくつかの実施態様において、本発明は、被験体に、本発明の二重特異性シアル酸結合受容体抗体又はそれをコードする核酸分子を投与することを含む、疾患又は障害を治療又は予防する方法を提供する。
【0089】
いくつかの実施態様において、本発明は、被験体に、シアル酸結合受容体、その断片、その変種に特異的に結合するドメインを含み、さらに癌抗原又はそれをコードする核酸分子に特異的に結合するドメインを含む二重特異性シアル酸結合受容体抗体、その断片、又はその変種、又はそれをコードする核酸分子を投与することを含む、癌を治療又は予防する方法を提供する。
【0090】
抗体組成物
いくつかの実施態様において、本発明は、シアル酸結合受容体への結合に特異的なドメインを含む少なくとも1つのNKCEを含む組成物に関する。1つの実施態様において、シアル酸結合受容体は、Siglecポリペプチド又はセレクチンポリペプチドである。1つの実施態様において、SiglecはSiglec7である。
【0091】
1つの実施態様において、本発明は、少なくとも1つのSiglec7結合ドメイン又はその断片を含むNKCEを含む組成物に関する。1つの実施態様において、二重特異性NKCEのSilgec-7結合ドメイン又はその断片は、配列番号4、配列番号20、配列番号36、配列番号52、配列番号68、又は配列番号84の可変重鎖配列を含む。1つの実施態様において、二重特異性NKCEのSilgec-7結合ドメイン又はその断片は、配列番号12、配列番号28、配列番号44、配列番号60、配列番号76、又は配列番号92の可変軽鎖配列を含む。1つの実施態様において、二重特異性NKCE又はその断片は、配列番号98、配列番号100、又は配列番号102の配列を含む。
【0092】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のアミノ酸配列の変種は、定義されたアミノ酸配列と比較した場合、指定された領域にわたって、少なくとも約60%の同一性、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の同一性を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のアミノ酸配列の変種は、配列番号4、配列番号12、配列番号20、配列番号28、配列番号36、配列番号44、配列番号52、配列番号60、配列番号68、配列番号76、配列番号84、配列番号92、配列番号98、配列番号100、又は配列番号102の少なくとも1つのアミノ酸配列の全長にわたって、少なくとも約60%の同一性、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の同一性を含む。
【0093】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のアミノ酸配列の断片は、定義されたアミノ酸配列の全長配列の、少なくとも約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のアミノ酸配列の断片は、配列番号4、配列番号12、配列番号20、配列番号28、配列番号36、配列番号44、配列番号52、配列番号60、配列番号68、配列番号76、配列番号84、配列番号92、配列番号98、配列番号100、又は配列番号102の少なくとも1つの全長配列の、少なくとも約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。
【0094】
本明細書で使用される「抗体」又は「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのタンパク質(糖タンパク質を含む)を指す。抗体又は免疫グロブリン(Ig)分子は、2つの同一の軽鎖ポリペプチドと2つの同一の重鎖ポリペプチドを含む四量体である場合がある。2つの重鎖はジスルフィド結合によって互いに結合しており、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。各全長Ig分子には、特定の標的又は抗原に対する結合部位が少なくとも2つ含まれている。
【0095】
シアル酸結合受容体抗体、又はその抗原結合断片は、限定されるものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル融合タンパク質、その抗体又は断片、キメラ化又はキメラ融合タンパク質、その抗体又は断片、ヒト化融合タンパク質、その抗体又は断片、脱免疫ヒト化融合タンパク質、その抗体又は断片、完全ヒューマン融合タンパク質、その抗体又は断片、単鎖抗体、単鎖Fv断片(scFv)、Fv、Fd断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、ダイアボディ又はその抗原結合断片、ミニボディ又はその抗原結合断片、トリアボディ又はその抗原結合断片、ドメイン融合タンパク質、その抗体又は断片、ラクダ融合タンパク質、その抗体又は断片、ヒトコブラクダ融合タンパク質、その抗体又は断片、ファージ表示融合タンパク質、その抗体又は断片、又は反復バックボーンアレイ(例えば、反復抗原表示)で特定される抗体又はその抗原結合断片が含まれる。
【0096】
免疫系は、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMを含むいくつかの異なるクラスのIg分子(アイソタイプ)を生成し、それぞれは、存在する特定のクラスの重鎖ポリペプチドによって区別される:IgAにはアルファ(a)、IgDにはデルタ(δ)、IgEにはイプシロン(ε)、IgGにはガンマ(γ)、及びIgMにはミュー(μ)。IgGには、少なくとも5つの異なるγ重鎖ポリペプチド(アイソタイプ)がある。対照的に、軽鎖ポリペプチドは、カッパ(κ)鎖とラムダ(λ)鎖と呼ばれる2つのアイソタイプのみである。抗体アイソタイプの独特の特徴は、重鎖の定常ドメインの配列によって規定される。
【0097】
IgG分子は、ジスルフィド結合によって結合された2つの軽鎖(κ型又はλ型)と2つの重鎖(γ型)を含む。IgG軽鎖のκ型とλ型にはそれぞれ、可変領域(「VL領域」、「Vκ領域」、又は「Vλ領域」とさまざまに呼ばれる)と呼ばれる比較的変化しやすいアミノ酸配列のドメインと、定常領域(CL領域)と呼ばれる比較的保存されたアミノ酸配列のドメインが含まれている。同様に、各IgG重鎖には、可変領域(VH領域)と1つ又はそれ以上の保存領域が含まれている。完全なIgG重鎖には、3つの定常ドメイン(「CH1領域」、「CH2領域」、及び「CH3領域」)とヒンジ領域が含まれている。各VL領域又はVH領域内では、相補性決定領域(「CDR」)とも呼ばれる超可変領域が、比較的保存されたフレームワーク領域(「FR」)の間に散在している。一般に、軽鎖又は重鎖ポリペプチドの可変領域には、ポリペプチドに沿って次の順序で配置された4つのFRと3つのCDRが含まれている。NH2-FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4-COOH。CDRとFRが一緒になってIgG結合部位の3次元構造を決定し、従ってIgG分子が結合する特定の標的タンパク質又は抗原を決定する。各IgG分子は二量体であり、2つの抗原分子に結合できる。二量体IgGをプロテアーゼであるパパインで切断すると、2つの同じ抗原結合断片(「Fab」)と「Fc」断片又はFcドメインが生成される。これは、容易に結晶化されるため、このように呼ばれている。
【0098】
本開示全体を通して使用される「抗体」という用語は、さらに、当該技術分野で知られており、本明細書に記載されている任意のさまざまな方法によって生成される、完全な又は無傷の抗体(例えば、IgM、IgG、IgA、IgD、又はIgE)分子を指す。「抗体」という用語には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ化又はキメラ抗体、ヒト化抗体、脱免疫ヒト抗体、及び完全ヒト抗体が含まれる。抗体は、さまざまな種、例えばヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、チンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、及びマウスなどの哺乳動物などで、作製又は誘導することができる。抗体は、精製抗体又は組み換え抗体であり得る。
【0099】
本明細書で使用されている「エピトープ」という用語は、抗体が結合するタンパク質上の部位を指す。「重複エピトープ」には、少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つ)の共通アミノ酸残基が含まれる。
【0100】
1つの実施態様において、本発明の抗体は、Siglecポリペプチドに特異的に結合する。本明細書で使用される「特異的結合」又は「特異的に結合する」という用語は、生理学的条件下で比較的安定な複合体を形成する2つの分子を指す。通常、結合定数(Ka)が106M-1より高い場合、結合は特異的であると見なされる。従って、抗体は、少なくとも106M-1(又はそれ以上)(例えば、少なくとも107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、又は1015M-1、又はそれ以上(又はそれ以上))のKaで標的に特異的に結合できる。
【0101】
1つの実施態様において、本発明のNKCEは、Siglec-7に特異的に結合するドメインを含む。
【0102】
抗体がタンパク質抗原に結合するかどうか、及び/又はタンパク質抗原に対する抗体の親和性を決定する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、タンパク質抗原に対する抗体の結合は、限定されるものではないが、ウエスタンブロット、ドットブロット、表面プラズモン共鳴法(例えば、BIAcore system; Pharmacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden and Piscataway, N.J.)、又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などのさまざまな技術を使用して検出及び/又は定量することができる。例えば、Harlow and Lane (1988) "Antibodies: A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Benny K. C. Lo (2004) "Antibody Engineering: Methods and Protocols," Humana Press (ISBN: 1588290921);Borrebaek (1992) "Antibody Engineering, A Practical Guide," W.H. Freeman and Co., NY;Borrebaek (1995) "Antibody Engineering," 2nd Edition, Oxford University Press, NY, Oxford;Johne et al. (1993) J. Immunol. Meth. 160: 191-198;Jonsson et al. (1993) Ann. Biol. Clin. 51: 19- 26;及び Jonsson et al. (1991) Biotechniques 11 :620-627を参照されたい)。また、米国特許第6,355,245号も参照されたい。
【0103】
抗体の免疫特異的結合及び交差反応性を分析するために使用することができる免疫測定法には、限定されるものではないが、ウエスタンブロット、RIA、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫沈降測定法、免疫拡散測定法、凝集測定法、補体結合測定法、免疫放射測定測定法、蛍光免疫測定法、及びプロテインA免疫測定法などの技術を使用する競合測定法及び非競合測定法が含まれる。このような測定法は日常的方法であり、当該技術分野でよく知られている。
【0104】
抗体は、抗体とその標的又はエピトープとの相互作用の動力学的パラメータを特徴付けるために、当該技術分野で知られている任意の表面プラズモン共鳴(SPR)ベースの測定法を使用して測定法することもできる。限定されるものではないが、BIAcore機器(Biacore AB; Uppsala, Sweden);lAsys機器(Affinity Sensors; Franklin, Massachusetts);IBISシステム(Windsor Scientific Limited; Berks, UK)、SPR-CELLIAシステム(Nippon Laser and Electronics Lab; Hokkaido, Japan)、及びSPR検出器Spreeta(Texas Instruments; Dallas, Texas)を含む市販されている任意のSPR機器を、本明細書に記載の方法に使用することができる。例えば、Mullett et al. (2000) Methods 22: 77-91;Dong et al. (2002) Reviews in Mol Biotech 82: 303-323;Fivash et al. (1998) Curr Opin Biotechnol 9: 97-101;及び Rich et al. (2000) Curr Opin Biotechnol 11:54-61を参照されたい。
【0105】
抗体及びその断片は、いくつかの実施態様において「キメラ」であり得る。キメラ抗体及びその抗原結合断片は、2つ以上の異なる種(例えば、マウスとヒト)に由来する部分を含む。キメラ抗体は、所望の特異性を有するマウス可変領域をヒト定常ドメイン遺伝子セグメントにスプライスして産生することができる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。このようにして、非ヒト抗体を改変して、ヒトの臨床応用(例えば、ヒト被験体における補体関連疾患の治療又は予防方法)にさらに適したものにすることができる。
【0106】
本開示のモノクローナル抗体には、非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態が含まれる。ヒト化又はCDR移植されたmAbは、マウス抗体ほど急速に循環から除去されず、通常は、有害な免疫反応を誘発しないため、ヒトの治療薬として特に有用である。ヒト化抗体を調製する方法は、一般に当該技術分野でよく知られている。例えば、ヒト化は、基本的にWinterと共同研究者らの方法(例えば、Jones et al. (1986) Nature 321 :522-525;Riechmann et al. (1988) Nature 332:323-327;及び Verhoeyen et al. (1988) Science 239: 1534-1536を参照)に従って、げっ歯類のCDR又はCDR配列をヒト抗体の対応する配列に置き換えることによって実行することができる。また、例えば、Staelens et al. (2006) Mol Immunol 43:1243-1257も参照されたい。いくつかの実施態様において、非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、レシピエント抗体の超可変(CDR)領域残基が、所望の特異性、親和性、及び結合能力を有するマウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)からの超可変領域残基に置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域残基も、対応する非ヒト残基に置き換えられる(いわゆる「逆変異」)。さらに、ファージ表示ライブラリを使用して、抗体配列内の選択された位置のアミノ酸を変化させることができる。ヒト化抗体の特性も、ヒトフレームワークの選択によって影響を受ける。さらに、ヒト化抗体及びキメラ抗体は、例えば親和性又はエフェクター機能などの抗体特性をさらに改善するために、レシピエント抗体又はドナー抗体に見られない残基を含むように改変することができる。
【0107】
完全ヒト抗体も本開示に提供される。用語「ヒト抗体」には、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域(存在する場合)を有する抗体が含まれる。ヒト抗体には、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロのランダム突然変異誘発又は部位特異的突然変異誘発によって、又はインビボの体細胞突然変異によって導入された突然変異)が含まれる場合がある。しかし「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体(すなわち、ヒト化抗体)を含まない。完全ヒト抗体又はヒト抗体は、ヒト抗体遺伝子を有する(可変(V)、多様性(D)、結合(J)、及び定常(C)エクソンを有する)トランスジェニックマウスから、又はヒト細胞から得られる場合がある。例えば、現在では、免疫付与により、内因性免疫グロブリン産生がなくてもヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することが可能である(例えば、Jakobovits et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551:Jakobovits et al. (1993) Nature 362:255-258;Bruggemann et al. (1993) Year in Immunol. 7:33;及び Duchosal et al. (1992) Nature 355:258を参照)。トランスジェニックマウス株は、再構成されていないヒト免疫グロブリン遺伝子の遺伝子配列を含むように操作することができる。ヒト配列は、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の両方をコードし、マウス内で正しく機能し、再構成されてヒトと同様の幅広い抗体レパートリーを提供する。トランスジェニックマウスは、標的タンパク質で免疫される(多様な特定の抗体及びこれらをコードするRNAを作成するため)。そのような抗体の抗体鎖成分をコードする核酸は、次に、動物から表示ベクターにクローニングされ得る。通常、重鎖及び軽鎖配列をコードする核酸の別々の集団がクローニングされ、次に、ベクターへの挿入時に別々の集団が組み合わされ、その結果、ベクターの任意のコピーは、重鎖及び軽鎖のランダムな組み合わせを受け取る。ベクターは抗体鎖を発現するように計画されており、従って、抗体鎖はベクターを含む表示パッケージの外表面に組み立てられ、表示されることができる。例えば、抗体鎖はファージの外表面からのファージコートタンパク質との融合タンパク質として発現され得る。次に、表示パッケージは標的に結合する抗体の表示についてスクリーニングされ得る。
【0108】
従って、いくつかの実施態様において、本開示は、本明細書に記載のマウスモノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)の1つ又はそれ以上を含む、例えばヒト化、脱免疫、又は霊長類化抗体を提供し、マウスモノクローナル抗体の対応物がその抗原に結合する能力(例えば、少なくとも50、60、70、80、90、又は100%、あるいは100%を超える能力)を保持する。
【0109】
さらに、ヒト抗体はファージ表示ライブラリから得ることができる(Hoogenboom et al. (1991) J. Mol. Biol. 227:381;Marks et al. (1991) J. Mol. Biol, 222:581-597;及び Vaughan et al. (1996) Nature Biotech 14:309 (1996))。合成ヒト抗体V領域のランダムな組み合わせを使用する合成ファージライブラリを作成することができる。抗原の選択により、V領域が本質的にヒトに非常に類似した完全ヒト抗体を作成することができる。例えば、米国特許第6,794,132号、第6,680,209号、第4,634,666号、及びOstberg et al. (1983), Hybridoma 2:361- 367を参照されたい。これらの各文献の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0110】
ヒト抗体の生成については、Mendez et al. (1998) Nature Genetics 15: 146-156 及び Green and Jakobovits (1998) J. Exp. Med. 188:483-495も参照されたい。これらの文献の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。ヒト抗体については、米国特許第5,939,598号、第6,673,986号、第6,114,598号、第6,075,181号、第6,162,963号、第6,150,584号、第6,713,610、及び第6,657,103号、ならびに米国特許出願公開番号2003-0229905A1、2004-0010810A1、US2004-0093622A1、2006-0040363A1、2005-0054055A1、2005-0076395A1、及び2005-0287630A1でさらに考察及び詳述されている。また、国際公開番号WO94/02602、WO96/34096、及びWO98/24893、並びに欧州特許番号EP0463151B1も参照されたい。上記の各特許、出願、及び参考文献の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0111】
代替アプローチとして、GenPharm International, Inc.を含む他の企業は、「ミニローカス」アプローチを利用している。ミニローカスアプローチでは、Igローカスの一部(個々の遺伝子)を含めることで、外因性Igローカスを模倣する。従って、1つ又はそれ以上のVH遺伝子、1つ又はそれ以上のDH遺伝子、1つ又はそれ以上のJH遺伝子、μ定常領域、及び第2の定常領域(好ましくは、γ定常領域)が、動物に挿入するための構成物に形成される。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,625,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、第5,661,016号、第5,770,429号、第5,789,650号、及び第5,814,318号、第5,591,669号、第5,612,205号、第5,721,367号、第5,789,215号、第5,643,763号、第5,569,825号、第5,877,397号、第6,300,129号、第5,874,299号、第6,255,458号、及び第7,041,871号に記載されており、これらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。また、欧州特許第0546073Bl号、国際特許公開WO92/03918号、WO92/22645号、WO92/22647号、WO92/22670号、WO93/12227号、WO94/00569号、WO94/25585号、WO96/14436号、WO97/13852号、及びWO98/24884号も参照されたい。これらの各特許の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらに、Taylor et al. (1992) Nucleic Acids Res. 20: 6287;Chen et al. (1993) Int. Immunol. 5: 647;Tuaillon et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 3720-4;Choi et al. (1993) Nature Genetics 4: 1 17;Lonberg et al. (1994) Nature 368: 856-859;Taylor et al. (1994) International Immunology 6: 579-591 ;Tuaillon et al. (1995) J. Immunol. 154: 6453- 65;Fishwild et al. (1996) Nature Biotechnology 14: 845;及び Tuaillon et al. (2000) Eur. J. Immunol. 10: 2998-3005を参照されたい。これらの各文献の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0112】
いくつかの実施態様において、脱免疫抗体又はその抗原結合断片が提供される。脱免疫抗体又はその抗原結合断片は、抗体又はその抗原結合断片が特定の種(例えば、ヒト)に対して非免疫原性又は低免疫原性になるように改変された抗体である。脱免疫は、当業者に公知のさまざまな技術のいずれかを使用して、融合タンパク質、抗体、又はその断片を改変することによって達成することができる(例えば、PCT公開番号WO04/108158及びWO00/34317を参照)。例えば、融合タンパク質、抗体、又はその断片は、融合タンパク質、抗体、又はその断片のアミノ酸配列内の潜在的なT細胞エピトープ及び/又はB細胞エピトープを特定し、例えば組換え技術を使用して、融合タンパク質、抗体、又はその断片から潜在的なT細胞エピトープ及び/又はB細胞エピトープの1つ又はそれ以上を除去することによって脱免疫することができる。次に、改変された抗体又はその抗原結合断片を任意選択的に生成し、試験して、例えば結合親和性などの1つ又はそれ以上の所望の生物学的活性を保持しているが、免疫原性が低下した抗体又はその抗原結合断片を特定することができる。潜在的なT細胞エピトープ及び/又はB細胞エピトープを同定する方法は、当該技術分野で公知の技術、例えば、計算方法(例えば、PCT公開番号WO02/069232を参照)、インビトロ又はインシリコ(in silico)技術、及び生物学的測定法又は物理的方法(例えば、ペプチドのMHC分子への結合の決定、融合タンパク質、抗体、若しくはその断片を受け取る種のT細胞受容体へのペプチド:MHC複合体の結合の決定、抗体又はその抗原結合断片を受け取る種のMHC分子を有するトランスジェニック動物を使用するタンパク質又はそのペプチド部分の試験、又は融合タンパク質、抗体、若しくはその断片を受け取る種の免疫系細胞で再構成されたトランスジェニック動物を使用する試験など)を使用して実行することができる。様々な実施態様において、本明細書に記載の脱免疫抗体には、脱免疫抗原結合断片、Fab、Fv、scFv、Fab’、及びF(ab’)2、モノクローナル抗体、マウス抗体、工学作成抗体(例えば、キメラ抗体、単鎖抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、及び人工的に選択された抗体など)、合成抗体、及び半合成抗体が含まれる。
【0113】
いくつかの実施態様において、本開示は二重特異性抗体も提供する。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体、好ましくはヒト又はヒト化抗体である。例えば、1つの実施態様において、本発明のNKCEは、Siglecタンパク質又はポリペプチドに対する結合特異性を有する1つのドメインと、代替タンパク質又はポリペプチドに対する結合特異性を有する1つのドメインとを含む。1つの実施態様において、本発明のNKCEは、Siglecタンパク質又はポリペプチドに対する結合特異性を有する1つのドメインと、代替Siglecタンパク質又はポリペプチドに対する結合特異性を有する1つのドメインとを含む。
【0114】
NKCEの製造方法は、当業者の知識の範囲内である。従来、二重特異性抗体の組み換え産生は、2つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の共発現に基づいており、ここで、2つの重鎖/軽鎖対は異なる特異性を有する(Milstein and Cuello (1983) Nature 305:537- 539)。所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインは、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合することができる。重鎖可変領域の融合は、好ましくは、ヒンジ、CH2、及びCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、及び所望であれば、免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別々の発現ベクターに挿入され、適切な宿主生物に共トランスフェクションされる。二重特異性抗体を生成するための現在知られている例示的な方法の詳細については、例えば、Suresh et al. (1986) Methods in Enzymology 121 :210;PCT公開番号WO 96/27011;Brennan et al. (1985) Science 229:81;Shalaby et al, J Exp Med (1992) 175:217-225;Kostelny et al. (1992) J Immunol 148(5): 1547-1553;Hollinger et al. (1993) Proc Natl Acad Sci USA 90:6444-6448;Gruber et al. (1994) J Immunol 152:5368;及び Tutt et al. (1991) J Immunol 147:60を参照されたい。二重特異性抗体にはまた、架橋抗体又はヘテロ結合抗体も含まれる。ヘテロ結合抗体は、任意の便利な架橋方法を使用して作製することができる。適切な架橋剤は当該技術分野で公知であり、米国特許第4,676,980号に、多数の架橋技術とともに開示されている。
【0115】
組み換え細胞培養物から直接、二重特異性抗体断片を作製及び単離するためのさまざまな技術も記載されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して作製されている。例えば、Kostelny et al. (1992) J Immunol 148(5): 1547-1553を参照。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドは、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab’部分に連結することができる。抗体ホモダイマーは、ヒンジ領域で還元されてモノマーを形成し、次に再酸化されて抗体ヘテロダイマーを形成することができる。この方法は、抗体ホモダイマーの作製にも利用できる。Hollinger et al. (1993) Proc Natl Acad Sci USA 90:6444-6448に記載された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作成するための代替メカニズムを提供している。断片は、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。従って、1つの断片のVH及びVLドメインは、別の断片の相補的なVL及びVHドメインと対合するように強制され、こうして2つの抗原結合部位が形成される。単鎖Fv(scFv)ダイマーを使用して二重特異性抗体断片を作成する別の戦略も報告されている。例えば、Gruber et al. (1994) J Immunol 152:5368を参照されたい。あるいは、抗体は、例えば、Zapata et al. (1995) Protein Eng. 8(10): 1057-1062に記載されているように「線形抗体」であってもよい。簡単に説明すると、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。線状抗体は、二重特異性又は単一特異性であり得る。
【0116】
3価以上の抗体(例えば、三重特異性抗体)も考慮され、例えばTutt et al. (1991) J Immunol 147:60に記載されている。
【0117】
本開示はまた、Wu et al. (2007) Nat Biotechnol 25(11): 1290-1297に記載されている二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-lg)分子などの多重特異性抗体の変種も含む。DVD-lg分子は、2つの異なる親抗体からの2つの異なる軽鎖可変ドメイン(VL)が、組換えDNA技術によって直接、又は短いリンカーを介してタンデムに連結され、次に軽鎖定常ドメインが続くように設計される。同様に、重鎖はタンデムに連結された2つの異なる重鎖可変ドメイン(VH)と、それに続く定常ドメインCH1及びFc領域とを含む。2つの親抗体からDVD-Ig分子を作成する方法は、例えば、PCT公開番号WO08/024188及びWO07/024715にさらに記載される。
【0118】
本開示はまた、ラクダ科又はヒトコブラクダの抗体(例えば、Camelus bactrianus、Calelus dromaderius、又はlama paccoss由来の抗体)も提供する。このような抗体は、ほとんどの哺乳動物からの典型的な2鎖(断片)又は4鎖(全抗体)抗体とは異なり、一般に軽鎖を欠く。米国特許第5,759,808号;Stijlemans et al. (2004) J Biol Chem 279: 1256-1261;Dumoulin et al. (2003) Nature 424:783-788;及び Pleschberger et al. (2003) Bioconjugate Chem 14:440-448を参照されたい。
【0119】
ラクダ科抗体及び抗体断片の工学作成ライブラリは、例えばAblynx (Ghent, Belgium)から市販されている。非ヒト由来の他の抗体と同様に、ラクダ科抗体のアミノ酸配列は組み換え的に改変して、ヒト配列により厳密に類似した配列を得ることができる。すなわち、ナノボディを「ヒト化」して、抗体の潜在的な免疫原性をさらに低減することができる。
【0120】
いくつかの実施態様において、本開示はまた、本明細書に記載のペプチド、タンパク質、又は抗体の変種である抗体又はその抗原結合断片も提供する。いくつかの実施態様において、このような変異ペプチド、タンパク質、又は抗体は、親ペプチド、タンパク質、又は抗体の結合能力若しくは阻害能力を維持する。既知のタンパク質、ペプチド、又は抗体の変種を調製する方法は、当該技術分野で公知である。いくつかの実施態様において、このような変種は、少なくとも単一のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は他の改変を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の融合タンパク質、抗体、若しくはその断片は、2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又はそれ以上)のアミノ酸修飾(例えば、アミノ酸の置換、欠失、又は付加)を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の融合タンパク質、抗体、又はその断片は、CDRにアミノ酸修飾を含まない。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の融合タンパク質、抗体、又はその断片は、CDRに1つ又はそれ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20)のアミノ酸修飾を含む。
【0121】
本明細書で使用される用語「抗体断片」、「抗原結合断片」、「抗原結合断片」、又は類似の用語は、抗原に結合する能力を保持する抗体の断片を指し、ここで、抗原結合断片には、元の抗体の一部ではない追加の組成物(例えば、異なるフレームワーク領域又は変異)と元の抗体からの断片が任意選択的に含まれてもよい。例としては、限定されるものではないが、単鎖抗体、単鎖Fv断片(scFv)、Fd断片、Fab断片、Fab’断片、又はF(ab’)2断片が含まれる。scFv断片は、scFvの由来となる抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域の両方を含む単一のポリペプチド鎖である。さらに、補体成分タンパク質に結合するダイアボディ(Poljak (1994) Structure 2(12): 1121-1123; Hudson et al. (1999) J. Immunol. Methods 23(1-2): 177-189、これらのそれぞれの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、ミニボディ、トリアボディ(Schoonooghe et al. (2009) BMC Biotechnol 9:70)、及びドメイン抗体(「重鎖免疫グロブリン」とも呼ばれる、又はラクダ科、Holt et al. (2003) Trends Biotechnol 21(1 1):484-490)(これらのそれぞれの開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を組成物に組み込み、本明細書に記載の方法で使用することができる。いくつかの実施態様において、本明細書に記載の抗原結合断片のいずれかは、抗体に関連する断片を指す場合、「その抗原結合断片」又は同等の用語に含まれる場合があり、そのような断片が実際に抗体に由来するものであるか、同じエピトープ若しくは重複エピトープ若しくは抗体のエピトープに含まれるエピトープに結合する抗原結合断片であるかは関係ない。その抗原結合断片には、元の抗体と同じ又は重複する抗原に結合する抗原結合断片が含まれ、ここで、抗原結合断片には元の抗体の断片である部分(例えば、1つ又はそれ以上のCDR、1つ又はそれ以上の可変領域など)が含まれる。
【0122】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の抗体は、親抗体と比較して安定性又は半減期が変化している変更又は変異した配列を含む。これには、例えば、インビトロ又はインビボでの親和性の向上若しくはクリアランス時間の延長のために安定性又は半減期が増加するか、又は親和性の低下若しくは除去の迅速化のために安定性又は半減期が減少することが含まれる。さらに、本明細書に記載の抗体は、例えば、グリコシル化パターンの変化(例えば、1つ又はそれ以上の糖成分の添加、1つ又はそれ以上の糖成分の喪失、又は1つ又はそれ以上の糖成分の組成の変化)を含む翻訳後修飾の変化をもたらす1つ又はそれ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20)のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を含むことができる。
【0123】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の抗体は、低減された(例えば、又は全くない)エフェクター機能を含む。変更されたエフェクター機能には、例えば、抗体依存性細胞毒性(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、アポトーシス、1つ又はそれ以上のFc受容体への結合、及び炎症誘発反応の1つ又はそれ以上の以下の活性の変調が含まれる。変調とは、変更された定常領域を含む対象抗体によって示されるエフェクター機能活性が、変更されていない定常領域の活性と比較して、増加、減少、又は排除されることを指す。特定の実施態様において、変調には、活性が除去されるか完全に存在しない状況が含まれる。
【0124】
変更されたエフェクター機能を有するか又はエフェクター機能のない抗体は、変種定常領域、Fc、又は重鎖領域を有する抗体を工学作成若しくは製造することによって生成することができ、組み換えDNA技術及び/又は細胞培養及び発現条件を使用して、変更された機能及び/又は活性を有する抗体を製造することができる。例えば、組み換えDNA技術を使用して、エフェクター機能を含む抗体機能に影響を及ぼす領域(例えば、Fc領域又は定常領域など)に、1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入を組み込むことができる。あるいは、例えばグリコシル化パターンなどの翻訳後修飾の変更は、抗体が生成される細胞培養及び発現条件を操作することによって達成することができる。抗体のFc領域に1つ又はそれ以上の置換、付加、又は欠失を導入する適切な方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、Sambrook et al. (1989) "Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition," Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Harlow and Lane (1988), 前述;Borrebaek (1992), 前述;Johne et al. (1993), 前述;PCT公開番号WO06/53301及び米国特許第7,704,497号に記載されている標準的なDNA変異誘発技術が含まれる。
【0125】
核酸分子
本明細書では、本発明のNKCE抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドが提供される。いくつかの実施態様において、ポリヌクレオチドはまた、コード配列の5’末端に作動可能に連結されたシグナルペプチドをコードする配列も含む。いくつかの実施態様において、ポリヌクレオチドはまた、リンカー配列をコードする配列も含む。
【0126】
1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号4、配列番号12、配列番号20、配列番号28、配列番号36、配列番号44、配列番号52、配列番号60、配列番号68、配列番号76、配列番号84、又は配列番号92のうち少なくとも1つを含むSiglec-7結合アームを含むNKCEをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0127】
1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号98、配列番号100、又は配列番号102のNKCEをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0128】
1つの実施態様において、核酸分子は、Siglec-7結合アームを含むNKCEをコードする配列番号8、配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号40、配列番号48、配列番号56、配列番号64、配列番号72、配列番号80、配列番号88、又は配列番号96のヌクレオチド配列を含む。
【0129】
1つの実施態様において、核酸分子は、二重特異性NKCEをコードする配列番号97、配列番号99、又は配列番号101のヌクレオチド配列を含む。
【0130】
1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号8、配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号40、配列番号48、配列番号56、配列番号64、配列番号72、配列番号80、配列番号88、配列番号96、配列番号97、配列番号99、又は配列番号101のうちの少なくとも1つのヌクレオチド配列に対応するRNA分子を含む。
【0131】
1つの実施態様において、核酸分子は、配列番号8、配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号40、配列番号48、配列番号56、配列番号64、配列番号72、配列番号80、配列番号88、配列番号96、配列番号97、配列番号99、又は配列番号101のうちの少なくとも1つのヌクレオチド配列に対応するDNA分子を含む。
【0132】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のヌクレオチド配列の変種は、定義されたヌクレオチド配列と比較した場合、指定された領域にわたって、少なくとも約60%の同一性、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の同一性を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のヌクレオチド配列の変種は、配列番号8,配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号40、配列番号48、配列番号56、配列番号64、配列番号72、配列番号80、配列番号88、配列番号96、配列番号97、配列番号99、又は配列番号101のうちの少なくとも1つのヌクレオチド配列の全長にわたって、少なくとも約60%の同一性、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の同一性を含む。
【0133】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のヌクレオチド配列の断片は、定義されたヌクレオチド配列の全長配列の、少なくとも約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のヌクレオチド配列の断片は、配列番号8,配列番号16、配列番号24、配列番号32、配列番号40、配列番号48、配列番号56、配列番号64、配列番号72、配列番号80、配列番号88、配列番号96、配列番号97、配列番号99、又は配列番号101の全長配列の、少なくとも約60%の同一性、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の同一性を含む。
【0134】
単離された核酸は、限定されるものではないが、DNA、cDNA、及びRNAを含む任意のタイプの核酸を含むことができる。1つの実施態様において、組成物は、NKCE又はその機能性断片をコードする単離されたRNA分子を含む。
【0135】
本発明の核酸分子は、安定性を改善するために修飾することができる。修飾は、本発明の核酸分子の安定性、機能性、及び/又は特異性を高めるために、及び免疫刺激特性を最小限に抑えるために加えることができる。例えば、安定性を上昇させるために、3’残基は分解に対して安定化することができ、例えば、これらは、プリンヌクレオチド、特にアデノシン又はグアノシンヌクレオチドからなるように選択してもよい。あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば2’-デオキシチミジンによるウリジンの置換は許容され、分子の機能に影響を与えない。
【0136】
本発明の1つの実施態様において、核酸分子は少なくとも1つの修飾ヌクレオチド類似体を含み得る。例えば、末端は修飾ヌクレオチド類似体を組み込むことによって安定化することができる。
【0137】
ヌクレオチド類似体の非限定的な例には、糖修飾及び/又は骨格修飾骨格リボヌクレオチド(すなわち、リン酸-糖骨格への修飾を含む)が挙げられる。例えば、天然RNAのホスホジエステル結合は、窒素又は硫黄ヘテロ原子の少なくとも1つを含むように修飾され得る。例示的な骨格修飾リボヌクレオチドでは、隣接するリボヌクレオチドに結合しているリン酸エステル基が、例えばホスホチオエート基の修飾された基によって置換されている。
【0138】
他の修飾の例は、核酸塩基修飾リボヌクレオチド、すなわち、天然核酸塩基の代わりに少なくとも1つの非天然核酸塩基を含むリボヌクレオチドである。塩基は、アデノシンデアミナーゼの活性を阻害するように修飾されてもよい。例示的な修飾核酸塩基には、限定されるものではないが、5位で修飾されたウリジン及び/又はシチジン、例えば5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ブロモウリジン;8位で修飾されたアデノシン及び/又はグアノシン、例えば8-ブロモグアノシン;デアザヌクレオチド、例えば7-デアザアデノシン;O-アルキル化及びN-アルキル化ヌクレオチド、例えばN6-メチルアデノシンが適している。上記の修飾は組み合わせることもできる。
【0139】
いくつかの例では、核酸分子は、以下の化学修飾(1つ又はそれ以上のヌクレオチドの2’-H、2’-O-メチル、又は2’-OH修飾)の少なくとも1つを含む。いくつかの実施態様において、本発明の核酸分子は、ヌクレアーゼに対する耐性が強化されている可能性がある。ヌクレアーゼ耐性を上昇させるために、核酸分子には、例えば、2’-修飾リボース単位及び/又はホスホロチオエート結合を含めることができる。例えば、2’ヒドロキシル基(OH)は、いくつかの異なる「オキシ」又は「デオキシ」置換基で修飾又は置換することができる。ヌクレアーゼ耐性を上昇させるために、本発明の核酸分子には、2’-O-メチル、2’-フッ素、2’-O-メトキシエチル、2’-O-アミノプロピル、2’-アミノ、及び/又はホスホロチオエート結合を含めることができる。ロックされた核酸(LNA)、エチレン核酸(ENA)、例えば2’-4’-エチレン架橋核酸、及び特定の核酸塩基修飾、例えば2-アミノ-A、2-チオ(例えば2-チオ-U)、G-クランプ修飾などを含めると、標的への結合親和性も高めることができる。
【0140】
1つの実施態様において、核酸分子は、2’-修飾ヌクレオチド、例えば、2’-デオキシ、2’-デオキシ-2’-フルオロ、2’-O-メチル、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル(2’-O-AP)、2’-O-ジメチルアミノエチル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメチルアミノプロピル(2’-O-DMAP)、2’-O-ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’-O-DMAEOE)、又は2’-O-N-メチルアセトアミド(2’-O-NMA)を含む。1つの実施態様において、核酸分子は、少なくとも1つの2’-O-メチル修飾ヌクレオチドを含み、及びいくつかの実施態様において、核酸分子のヌクレオチドのすべてが2’-O-メチル修飾を含む。
【0141】
本明細書で論じる核酸剤には、本来は修飾されていないRNA及びDNA、並びに、例えば有効性を向上させるために修飾されたRNA及びDNA、及びヌクレオシド代用物のポリマーが含まれる。非修飾RNAとは、核酸の成分、すなわち糖、塩基、及びリン酸部分が、自然に存在するものと、例えば人体に自然に存在するものと同じか又は本質的に同じである分子を指す。当該技術分野では、稀で又は珍しいが自然に存在するRNAを修飾RNAと呼んでおり、例えばLimbach et al. (Nucleic Acids Res., 1994, 22:2183-2196)を参照されたい。このような稀で又は珍しいRNAは、しばしば修飾RNAと呼ばれ、通常は転写後修飾の結果であり、本明細書で使用されている用語「非修飾RNA」の範囲内である。本明細書で使用されている修飾RNAとは、核酸の成分の1つ又はそれ以上、すなわち糖、塩基、及びリン酸部分が、自然界に存在するものと異なり、例えば人体に存在するものと異なる分子を指す。これらは「修飾RNA」と呼ばれているが、修飾されているため、厳密に言えばRNAではない分子も当然含まれる。ヌクレオシド代用物は、リボリン酸骨格が非リボリン酸構築物に置き換えられた分子であり、これにより塩基が正しい空間関係で提示され、ハイブリダイゼーションがリボリン酸骨格で見られるものと実質的に類似したものになる(例えば、リボリン酸骨格の非荷電模倣物)。
【0142】
本発明の核酸の修飾は、リン酸基、糖基、骨格、N末端、C末端、又は核酸塩基の1つ又はそれ以上に存在し得る。
【0143】
本発明はまた、本発明の単離核酸が挿入されたベクターも含む。当該技術分野には、本発明に有用な適切なベクターが豊富に存在する。
【0144】
従って、別の態様において、本発明は、本発明のヌクレオチド配列又は本発明の構築物を含むベクターに関する。ベクターの選択は、次に導入される宿主細胞に依存する。いくつかの実施態様において、本発明のベクターは発現ベクターである。適切な宿主細胞には、多種多様な原核生物及び真核生物の宿主細胞が含まれる。特定の実施態様において、発現ベクターは、ウイルスベクター、細菌ベクター、及び哺乳動物細胞ベクターからなる群から選択される。原核生物及び/又は真核生物ベクターベースのシステムは、本発明でポリヌクレオチド又はその同族ポリペプチドを生成するために使用することができる。そのようなシステムの多くは、市販されており、広く入手可能である。
【0145】
いくつかの実施態様において、タンパク質をコードする合成核酸の発現は、通常、タンパク質又はその一部をコードする核酸をプロモーターに作動可能に連結し、その構築物を発現ベクターに組み込むことによって達成される。使用されるベクターは、真核細胞への複製及び任意選択的に組み込みに適している。典型的なベクターには、転写及び翻訳ターミネーター、開始配列、及び所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターが含まれる。
【0146】
組換え核酸配列構築物は、1つ又はそれ以上の転写終結領域を含むことができる。転写終結領域は、効率的な終結を提供するためにコード配列の下流にあってもよい。転写終結領域は、上記のプロモーターと同じ遺伝子から取得することも、1つ又はそれ以上の異なる遺伝子から取得することもできる。
【0147】
組換え核酸配列構築物は、1つ又はそれ以上の開始コドンを含むことができる。開始コドンは、コード配列の上流にあってもよい。開始コドンは、コード配列とインフレームにあってもよい。開始コドンは、効率的な翻訳開始に必要な1つ又はそれ以上のシグナル、例えば、限定されるものではないが、リボソーム結合部位と関連付けることができる。
【0148】
組換え核酸配列構築物は、1つ又はそれ以上の終止コドン又は停止コドンを含むことができる。終止コドンは、コーディング配列の下流にあってもよい。終止コドンは、コーディング配列とインフレームにあってもよい。終止コドンは、効率的な翻訳終了に必要な1つ又はそれ以上のシグナルと関連付けることができる。
【0149】
組換え核酸配列構築物は、1つ又はそれ以上のポリアデニル化シグナルを含むことができる。ポリアデニル化シグナルは、転写物の効率的なポリアデニル化に必要な1つ又はそれ以上のシグナルを含むことができる。ポリアデニル化シグナルは、コーディング配列の下流に配置することができる。ポリアデニル化シグナルは、SV40ポリアデニル化シグナル、LTRポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモン(bGH)ポリアデニル化シグナル、ヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化シグナル、又はヒトβ-グロビンポリアデニル化シグナルであってもよい。SV40ポリアデニル化シグナルは、pCEP4プラスミド(Invitrogen, San Diego, CA)からのポリアデニル化シグナルであってもよい。
【0150】
組み換え核酸配列構築物は、1つ又はそれ以上のリーダー配列を含むことができる。リーダー配列は、シグナルペプチドをコードし得る。シグナルペプチドは、免疫グロブリン(Ig)シグナルペプチド、限定されるものではないが、例えばIgGシグナルペプチド及びIgEシグナルペプチドであり得る。
【0151】
本発明のベクターは、標準的な遺伝子送達プロトコールを使用して、核酸免疫に使用することもできる。遺伝子送達の方法は、当該技術分野で公知である。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第5,399,346号、第5,580,859号、第5,589,466号を参照されたい。
【0152】
本発明の単離された核酸は、多くのタイプのベクターにクローニングすることができる。例えば核酸は、限定されるものではないが、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルス、及びコスミドを含むベクターにクローニングすることができる。特に興味深いベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、及びシーケンシングベクターが含まれる。
【0153】
さらに、ベクターは、ウイルスベクターの形で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は、当該技術分野で公知であり、例えば、Sambrook et al. (2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York) 及びその他のウイルス学及び分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、限定されるものではないが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、及びレンチウイルスが含まれる。一般に、適切なベクターは、少なくとも1つの生物で機能する複製開始点、プロモーター配列、便利な制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1つ又はそれ以上の選択マーカーを含む(例えば、WO01/96584、WO01/29058、及び米国特許第6,326,193号)。
【0154】
さらに、発現ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は、当該技術分野で公知であり、例えば、Sambrook et al. (2012), and in Ausubel et al. (1997)、並びに他のウイルス学及び分子生物学のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、限定されるものではないが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが含まれる。一般に、適切なベクターには、少なくとも1つの生物において機能する複製開始点、プロモーター配列、便利な制限エンドヌクレアーゼ部位、及び1つ以上の選択マーカーが含まれてい(例えば、WO01/96584、WO01/29058、及び米国特許第6,326,193号を参照)。
【0155】
例として、核酸配列が導入されるベクターはプラスミドでもよく、これは、細胞に導入されたときに、宿主細胞のゲノムに組み込まれるか又は組み込まれない。本発明のヌクレオチド配列又は本発明の遺伝子構築物を挿入することができるベクターの例示的な非限定的な例としては、真核細胞での発現のためのテトオン誘導性ベクター(tet-on inducible vector)が挙げられる。
【0156】
ベクターは、当業者に公知の従来の方法によって得ることができる(Sambrooketal., 2012)。特定の実施態様において、ベクターは、動物細胞を形質転換するのに有用なベクターである。
【0157】
1つの実施態様において、組換え発現ベクターは、本明細書の他の箇所で説明されている本発明のペプチド又はタンパク質をコードする核酸分子も含み得る。
【0158】
哺乳動物細胞への遺伝子導入のために、多数のウイルスベースのシステムが開発されている。例えば、レトロウイルスは、遺伝子送達システムのための便利なプラットフォームを提供する。選択された遺伝子は、当該技術分野で知られている技術を使用してベクターに挿入され、レトロウイルス粒子にパッケージ化され得る。次に、組み換えウイルスを単離し、インビボ又はインビトロで対象の細胞に送達することができる。当該技術分野では、多数のレトロウイルス系が知られている。いくつかの実施態様において、アデノウイルスベクターが使用される。当該技術分野では、多数のアデノウイルスベクターが知られている。1つの実施態様において、レンチウイルスベクターが使用される。
【0159】
例えば、レンチウイルスなどのレトロウイルス由来のベクターは、トランス遺伝子の長期にわたる安定した統合と娘細胞でのその増殖を可能にするため、長期の遺伝子移入を達成するのに適したツールである。レンチウイルスベクターは、マウス白血病ウイルスなどの腫瘍レトロウイルス由来のベクターに比べて、肝細胞などの非増殖細胞を形質導入できるという追加の利点がある。これらはまた、免疫原性が低いという追加の利点もある。1つの実施態様において、組成物にはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のベクターが含まれる。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、さまざまな疾患の治療のための強力な遺伝子送達ツールとなっている。AAVベクターは病原性がなく、免疫原性が最小限で、有糸分裂後の細胞に安定して効率的に形質導入できるなど、遺伝子治療に理想的な多くの特徴を備えている。AAVベクターに含まれる特定の遺伝子の発現は、AAV血清型、プロモーター、及び送達方法の適切な組み合わせを選択することで、1つ又はそれ以上の種類の細胞に特異的に標的化できる。
【0160】
いくつかの実施態様において、ベクターはまた、プラスミドベクターでトランスフェクションされた細胞又は本発明によって生成されたウイルスに感染した細胞における転写、翻訳、及び/又は発現を可能にする方法で、トランス遺伝子に作動可能に連結された従来の制御要素も含む。ここで使用される「作動可能に連結された」配列は、目的の遺伝子に隣接する発現制御配列と、目的の遺伝子を制御するためにトランスで又は離れた場所で作用する発現制御配列の両方を含む。発現制御配列は、適切な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列、及びエンハンサー配列;スプライシングシグナルやポリアデニル化(ポリA)シグナルなどの効率的なRNA処理シグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を上昇させる配列(すなわち、コザックコンセンサス配列);タンパク質の安定性を上昇させる配列;及び必要に応じて、コードされた生成物の分泌を上昇させる配列を含む。未変性の、構成性、誘導性、及び/又は組織特異的なプロモーターを含む多数の発現制御配列が当該技術分野で知られており、利用することができる。
【0161】
プロモーターは、遺伝子又はポリヌクレオチド配列に自然に関連付けられているものであり、コーディングセグメント及び/又はエクソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって取得することができる。このようなプロモーターは、「内因性」と呼ばれることがある。同様に、エンハンサーはポリヌクレオチド配列に自然に関連付けられているものであり、その配列の下流又は上流に位置する。あるいは、コーディングポリヌクレオチドセグメントを、その自然環境では通常ポリヌクレオチド配列に関連付けられないプロモーターを指す組換え又は異種プロモーターの制御下に配置することによって、特定の利点が得られる。組換え又は異種エンハンサーはまた、その自然環境では通常ポリヌクレオチド配列に関連付けられないエンハンサーも指す。このようなプロモーター又はエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーター又はエンハンサー、他の原核生物、ウイルス、又は真核生物細胞から単離されたプロモーター又はエンハンサー、及び「自然に存在する」ものではないプロモーター又はエンハンサー、すなわち、異なる転写調節領域の異なる要素、及び/又は発現を変化させる突然変異が含まれる可能性がある。プロモーター及びエンハンサーの核酸配列を合成的に生成することに加えて、本明細書に開示された組成物に関連して、組み換えクローニング及び/又はPCRを含む核酸増幅技術を使用して配列を生成することもできる(米国特許第4,683,202号、米国特許第5,928,906号)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などの非核器官内の配列の転写及び/又は発現を指示する制御配列も使用することができると考えられる。
【0162】
当然、発現のために選択された細胞タイプ、器官、及び生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーター及び/又はエンハンサーを使用することが重要になるであろう。分子生物学の分野の当業者は、一般に、タンパク質発現のためにプロモーター、エンハンサー、及び細胞タイプの組み合わせを使用する方法を知っている。例えば、Sambrook et al. (2012) を参照されたい。使用されるプロモーターは、構成的、組織特異的、誘導的であり、及び/又は適切な条件下で、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を誘導するのに有用であり、これは組換えタンパク質及び/又はペプチドの大規模生産に有利である。プロモーターは異種又は内因性であり得る。
【0163】
組換え発現ベクターは、形質転換又はトランスフェクションされた宿主細胞の選択を容易にする選択マーカー遺伝子も含み得る。適切な選択マーカー遺伝子は、特定の薬物に対する耐性を付与するG418及びヒグロマイシンなどのタンパク質、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ、又は免疫グロブリン若しくはその一部、例えばIgGなどの免疫グロブリンのFc部分をコードする遺伝子である。選択マーカーは、目的の核酸とは別のベクターに導入され得る。
【0164】
追加のプロモーター要素、例えばエンハンサーは、転写開始の頻度を調節する。通常、これらは開始部位の30~110bp上流の領域にあるが、最近、いくつかのプロモーターが開始部位の下流にも機能要素を含むことが示されている。プロモーター要素間の間隔は柔軟性が高いことが多いため、要素が反転したり、互いに対して移動したりしても、プロモーターの機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、プロモーター要素間の間隔を50bpまで広げると、活性が低下し始める。プロモーターによっては、個々の要素が協力して、又は独立して機能して転写を活性化できるようである。
【0165】
適切なプロモーターの一例は、前初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター配列である。このプロモーター配列は、これに作動可能に連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を駆動できる強力な構成性プロモーター配列である。適切なプロモーターの別の例は、伸長成長因子-1アルファ(EF-1アルファ)である。しかし、他の構成性プロモーター配列も使用することができ、これらには、限定されるものではないが、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長鎖末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、鳥類白血病ウイルスプロモーター、エプスタインバーウイルス前初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、並びにヒト遺伝子プロモーター、例えば、限定されるものではないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、及びクレアチンキナーゼプロモーターが含まれる。さらに、本発明は構成性プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として考慮されている。誘導性プロモーターの使用は、そのような発現が望まれる場合に、作動可能に連結されたポリヌクレオチド配列の発現をオンにし、発現が望まれない場合は発現をオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例には、限定されるものではないが、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、テトラサイクリンプロモーターなどが含まれる。
【0166】
ベクター上に存在するエンハンサー配列も、そこに含まれる遺伝子の発現を制御する。通常、エンハンサーはタンパク質因子と結合して遺伝子の転写を促進する。エンハンサーは、制御する遺伝子の上流又は下流に位置し得る。エンハンサーは、特定の細胞又は組織タイプでの転写を促進するために組織特異的であってもよい。1つの実施態様において、本発明のベクターは、ベクター内に存在する遺伝子の転写を促進する1つ又はそれ以上のエンハンサーを含む。
【0167】
タンパク質阻害剤の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、ウイルスベクターを介してトランスフェクション又は感染させようとする細胞集団から、発現細胞を同定及び選択しやすくするための選択マーカー遺伝子又はレポーター遺伝子のいずれか、又はその両方も含み得る。他の態様において、選択マーカーは別のDNA片に載せられ、共トランスフェクション操作で使用される。選択マーカー及びレポーター遺伝子は両方とも、宿主細胞での発現を可能にするために適切な調節配列に隣接され得る。有用な選択マーカーには、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0168】
レポーター遺伝子は、潜在的にトランスフェクションされた細胞を特定し、調節配列の機能を評価するために使用される。一般に、レポーター遺伝子は、受容生物若しくは組織には存在しないか又は受容生物若しくは組織によって発現されず、その発現が酵素活性などの容易に検出可能な特性によって現れるポリペプチドをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、DNAが受容細胞に導入された後、適切な時点で測定される。適切なレポーター遺伝子には、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌アルカリホスファターゼ、又は緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子が含まれ得る(例えば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479: 79-82)。適切な発現システムはよく知られており、既知の技術を使用して調製するか、又は市販されている。一般に、レポーター遺伝子の発現レベルが最も高い最小限の5’フランキング領域を有する構築物がプロモーターとして特定される。このようなプロモーター領域はレポーター遺伝子に連結されており、プロモーター駆動転写を調節する能力について薬剤を評価するために使用され得る。
【0169】
細胞に遺伝子を導入して発現させる方法は、当該技術分野で公知である。発現ベクターの文脈において、ベクターは、当該技術分野の任意の方法によって、例えば哺乳動物、細菌、酵母、又は昆虫細胞などの宿主細胞に容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的、又は生物学的手段によって宿主細胞に移入することができる。
【0170】
ペプチド又はタンパク質を宿主細胞に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子衝撃、微量注入法などが含まれる。ベクター及び/又は外因性核酸を含む細胞を生成する方法は、当該技術分野でよく知られている。例えば、Sambrook et al. (2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York) を参照されたい。
【0171】
目的のペプチド又はタンパク質を宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNA及びRNAベクターの使用が含まれる。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、遺伝子を哺乳動物、例えばヒト細胞に挿入するための最も広く使用される方法である。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどから得ることができる。例えば、米国特許第5,350,674号及び第5,585,362号を参照されたい。
【0172】
ペプチド又はタンパク質を宿主細胞に導入するための化学的手段には、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、並びに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、及びリポソームを含む脂質ベースのシステムが含まれる。インビトロ及びインビボでの送達ビヒクルとして使用される例示的なコロイドシステムは、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0173】
非ウイルス送達システムが利用される場合、例示的な送達ビヒクルはリポソームである。核酸を宿主細胞に導入するために(インビトロ、エクスビボ、又はインビボ)、脂質製剤の使用が考慮される。別の態様において、核酸は脂質と関連している可能性がある。脂質と関連している核酸は、リポソームの水性内部に封入されるか、リポソームの脂質二重層内に散在するか、リポソームとオリゴヌクレオチドの両方と関連している連結分子を介してリポソームに付着するか、リポソームに閉じ込められるか、リポソームと複合体化されるか、脂質を含む溶液に分散されるか、脂質と混合されるか、脂質と組み合わされるか、脂質中に懸濁液として含まれるか、ミセル又は脂質ナノ粒子に含まれるか、又は他の方法で脂質と関連している可能性がある。脂質、脂質/DNA、又は脂質/発現ベクター関連組成物は、溶液中の特定の構造に限定されない。例えば、これらは二重層構造内、ミセルとして、又は「崩壊した」構造で存在してもよい。また、単に溶液中に散在しているだけの場合もあり、サイズや形状が均一でない凝集体を形成する場合もある。脂質は脂肪性物質であり、天然脂質又は合成脂質であり得る。例えば、脂質には、細胞質に天然に存在する脂肪滴のほか、脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、アルデヒドなどの長鎖脂肪族炭化水素及びその誘導体を含む化合物のクラスが含まれる。
【0174】
使用に適した脂質は、市販の供給元から入手することができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma, St. Louis, MO から入手できる;ジセチルリン酸(「DCP」)は、K & K Laboratories (Plainview, NY) から入手できる;コレステロール(「Choi」)は Calbiochem-Behring から入手できる;ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)及びその他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc.(Birmingham, AL) から入手できる。クロロホルム又はクロロホルム/メタノール中の脂質の保存溶液は、約-20℃で保存できる。クロロホルムはメタノールよりも蒸発しやすいため、唯一の溶媒として使用される。「リポソーム」は、密閉された脂質二重層又は凝集体の生成によって形成されるさまざまな単層及び多層脂質ビヒクルを含む一般的な用語である。リポソームは、リン脂質二重膜と内部水性媒体を備えた小胞構造を有するものとして特徴付けることができる。多層リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。これらは、リン脂質が過剰の水溶液に懸濁されると自然に形成される。脂質成分は、閉じた構造を形成する前に自己再配置を起こし、脂質二重層の間に水と溶解した溶質を閉じ込める(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5: 505-10)。しかし、溶液中で通常の小胞構造とは異なる構造を有する組成物も含まれる。例えば、脂質はミセル構造をとったり、脂質分子の不均一な凝集体として存在したりする。リポフェクタミン-核酸複合体も考慮される。
【0175】
ScFv抗体
1つの実施態様において、抗体断片はscFv断片を含む。1つの実施態様において、ScFv抗体断片は、CH1領域とCL領域のないFab断片に関する。従って、1つの実施態様において、scFv抗体断片はVHとVLを含むFab断片に関連する。1つの実施態様において、scFv抗体断片はVHとVLの間にリンカーを含む。1つの実施態様において、scFv抗体断片は、VH、VL、並びに、CH2及びCH3領域を含む。1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbと比較して、発現、安定性、半減期、抗原結合、重鎖-軽鎖対合、組織浸透、又はこれらの組み合わせが修飾されている。
【0176】
1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbよりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、又は50倍を超える高い発現を有する。
【0177】
1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbよりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍の、又は50倍を超える抗原結合性を有する。
【0178】
1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbよりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍の、又は50倍を超える長い半減期を有する。
【0179】
1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbよりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍の、又は50倍を超える高い安定性を有する。
【0180】
1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbよりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍の、又は50倍を超える組織浸透性を有する。
【0181】
1つの実施態様において、本発明のscFv抗体断片は、親MAbよりも少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍の、又は50倍を超える重鎖-軽鎖対合を有する。
【0182】
送達ビヒクル
1つの実施態様において、本発明は、本明細書に記載のNKCE、その断片、又はそれをコードする核酸分子を含む送達ビヒクルを含む組成物を提供する。1つの実施態様において、NKCEをコードする核酸分子はmRNA分子を含む。
【0183】
例示的な送達ビヒクルは、限定されるものではないが、ミクロスフェア、微粒子、ナノ粒子、ポリマーソーム、リポソーム、及びミセルを含む。例えば、いくつかの実施態様において、送達ビヒクルは、本発明のNKCE又はその断片をコードする核酸分子をロードした脂質ナノ粒子である。1つの実施態様において、NKCEをコードする核酸分子はmRNA分子を含む。
【0184】
いくつかの実施態様において、送達ビヒクルは、その積荷の制御放出、遅延放出、又は連続放出を提供する。いくつかの実施態様において、送達ビヒクルは、送達ビヒクルを治療部位に標的化する標的化部分を含む。
【0185】
場合によっては、コード性mRNAを送達してタンパク質を発現させることは、タンパク質、プラスミドDNA、又はウイルスベクターを使用する方法に比べて多くの利点がある。mRNAトランスフェクション中、所望のタンパク質のコード配列は細胞に送達される唯一の物質であるため、プラスミド骨格、ウイルス遺伝子、及びウイルスタンパク質に関連するすべての副作用を回避することができる。さらに重要なことは、DNAベース及びウイルスベースのベクターとは異なり、mRNAはゲノムに組み込まれるリスクがなく、mRNA送達後すぐにタンパク質の生成が開始されることである。例えば、コード性mRNAのインビボ注入後15~30分以内に、高レベルの循環タンパク質が測定されている。特定の実施態様において、タンパク質ではなくmRNAを使用することにも多くの利点がある。循環中のタンパク質の半減期は短いことが多いため、タンパク質治療には頻繁な投与が必要であるが、mRNAは数日間にわたる継続的なタンパク質生成のテンプレートを提供する。タンパク質の精製は問題が多く、有害作用を引き起こす凝集体やその他の不純物が含む可能性がある(Kromminga and Schellekens, 2005, Ann NY Acad Sci 1050:257-265)。
【0186】
宿主細胞内のmRNA配列の存在を確認するために、さまざまな測定法を実施することができる。このような測定法には、当業者に公知の「分子生物学的」測定法、例えば、ノーザンブロッティングやRT-PCR、「生化学的」測定法、例えば免疫原性手段(ELISAやウエスタンブロット)による、又は本発明の範囲内の薬剤を同定するための本明細書に記載の測定法による、特定のペプチドの有無の検出などが含まれる。
【0187】
CAR分子
1つの実施態様において、本発明は、本発明のNKCEを含む結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。1つの実施態様において、CARは抗原結合ドメインを含む。1つの実施態様において、抗原結合ドメインは標的ドメインであり、ここで、標的ドメインは、CARを発現する細胞をシアル酸結合受容体を発現する細胞又は粒子に誘導する。
【0188】
様々な実施態様において、CARは、「第1世代」、「第2世代」、「第3世代」、「第4世代」、又は「第5世代」のCARであり得る(例えば、Sadelain et al., Cancer Discov. 3(4):388-398 (2013); Jensen et al., Immunol. Rev. 257:127-133 (2014); Sharpe et al., Dis. Model Mech. 8(4):337-350 (2015); Brentjens et al., Clin. Cancer Res. 13:5426-5435 (2007); Gade et al., Cancer Res. 65:9080-9088 (2005); Maher et al., Nat. Biotechnol. 20:70-75 (2002); Kershaw et al., J. Immunol. 173:2143-2150 (2004); Sadelain et al., Curr. Opin. Immunol. (2009); Hollyman et al., J. Immunother. 32:169-180 (2009) 参照)。
【0189】
本発明で使用される「第1世代」CARは、抗原結合ドメイン、例えばT細胞受容体鎖の細胞質/細胞内ドメインに融合された膜貫通ドメインに融合された単鎖可変断片(scFv)を含む。「第1世代」CARは、通常、内因性T細胞受容体(TCR)からのシグナルの主要な伝達物質であるCD3ζ鎖の細胞内ドメインを有する。「第1世代」CARは、HLA媒介抗原提示とは無関係に、単一の融合分子内のCD3ζ鎖シグナル伝達ドメインを介して、新規抗原認識を提供し、CD4+及びCD8+T細胞の両方を活性化することができる。
【0190】
本発明で使用される「第2世代」CARは、抗原結合ドメイン、例えば、T細胞を活性化できる細胞内シグナル伝達ドメインと、T細胞の効力及び持続性を上昇させるように計画された共刺激ドメインと融合した単鎖可変断片(scFv)を含む(Cancer Discov. 3:388-398 (2013))。従って、CAR設計では、生理学的には2つの別個の複合体であるTCRヘテロダイマーとCD3複合体が担う2つの機能である抗原認識とシグナル伝達を組み合わせることができる。「第2世代」CARには、細胞に追加のシグナルを提供するために、CARの細胞質テールに、CD28、4-1BB、ICOS、OX40などのさまざまな共刺激分子の細胞内ドメインが含まれる。
【0191】
「第2世代」CARは、例えばCD28又は4-1BBドメインによる共刺激と、例えばCD3ζシグナル伝達ドメインによる活性化の両方を提供する。前臨床研究では、「第2世代」CARがT細胞の抗腫瘍活性を改善できることが示されている。例えば、「第2世代」CAR改変T細胞の強力な有効性は、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)及び急性リンパ芽球性白血病(ALL)の患者におけるCD19分子を標的とする臨床試験で証明された(Davila et al., Oncoimmunol. 1(9):1577-1583 (2012))。
【0192】
「第3世代」CARは、CD28及び4-1BBドメインの両方を含むことによる複数の共刺激と、CD3ζ活性化ドメインを含むことによる活性化を提供する。
【0193】
「第4世代」CARは、例えばCD28又は4-1BBドメインによる共刺激、及び構成性又は誘導性ケモカイン成分に加えて、例えばCD3ζシグナル伝達ドメインによる活性化を提供する。
【0194】
「第5世代」CARは、例えばCD28又は4-1BBドメインによる共刺激、及び例えばCD3ζシグナル伝達ドメイン、構成性又は誘導性ケモカイン成分、及びサイトカイン受容体の細胞内ドメイン(例えばIL-2Rβ)による活性化を提供する。
【0195】
さまざまな実施態様において、CARは、多価CARシステム(例えば二重CAR又は「タンデムCAR」システム)に含めることができる。多価CARシステムには、複数のCARを含むシステム又は細胞、及び複数の抗原を標的とする二価/二重特異性CARを含むシステム又は細胞が含まれる。
【0196】
本明細書に開示される実施態様において、CARは一般的に、上記のように、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを含む。特定の非限定的な実施態様において、抗原結合ドメインは、シアル酸結合受容体への結合に特異的な二重特異性シアル酸結合受容体抗体又はその変種である。
【0197】
基質
1つの実施態様において、本発明は、NKCE、その断片、又はそれをコードする核酸分子を含む足場、基質、又はデバイスを提供する。例えば、いくつかの実施態様において、本発明は、モジュレーターを含む組織工学足場(限定されるものではないが、ヒドロゲル、電気スピン足場、ポリマーマトリックスなどを含む)を提供する。特定の実施態様において、NKCE、その断片、又はそれをコードする核酸分子は、足場、基質、又はデバイスの表面に沿ってコーティングされてもよい。特定の実施態様において、NKCE、その断片、又はそれをコードする核酸分子は、足場、基質、又はデバイス内に封入される。
【0198】
医薬組成物
本発明はまた、本明細書に記載の組成物の1つ又はそれ以上を含む医薬組成物も提供する。製剤は、従来の賦形剤、すなわち治療部位への投与に適した医薬的に許容し得る有機又は無機の担体物質と混合して使用することができる。医薬組成物は滅菌され、必要に応じて補助剤、例えば滑沢剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧緩衝剤に影響を与える塩、着色剤、及び/又は芳香物質などと混合することができる。また、必要に応じて他の活性剤、例えば他の鎮痛剤と組み合わせることもできる。
【0199】
本発明の組成物の投与は、例えば、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、又は腹腔内注射、又は点滴、又は他の許容し得る全身的方法によって行うことができる。
【0200】
本明細書で使用される「追加成分」には、限定されるものではないが、以下の1つ又はそれ以上が含まれる:賦形剤、界面活性剤。分散剤、不活性希釈剤、造粒剤及び崩壊剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、防腐剤、ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物、水性ビヒクルと溶媒、油性ビヒクルと溶媒、懸濁剤、分散剤又は湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、緩衝剤、塩、増粘剤、充填剤、乳化剤、抗酸化剤、抗生物質、抗真菌剤、安定剤、及び医薬的に許容し得るポリマー又は疎水性材料。本発明の医薬組成物に含まれ得る他の「追加成分」は、当該技術分野で公知であり、例えば、Genaro, ed., 1985, Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0201】
本発明の組成物は、組成物の総重量の約0.005%~2.0%の防腐剤を含んでもよい。防腐剤は、環境中の汚染物質に曝された場合に腐敗を防止するために使用される。本発明に従って有用な防腐剤の例には、限定されるものではないが、ベンジルアルコール、ソルビン酸、パラベン、イミドウレア、及びこれらの組み合わせの群から選択されるものが含まれる。
【0202】
1つの実施態様において、組成物は、抗酸化剤と、組成物の1つ又はそれ以上の成分の分解を抑制するキレート剤とを含む。一部の化合物の抗酸化剤の例としては、BHT、BHA、アルファトコフェロール、及びアスコルビン酸がある。キレート剤の例としては、エデト酸塩(例えば、エデト酸二ナトリウム)及びクエン酸がある。キレート剤は、製剤の保存期間に悪影響を及ぼす可能性がある組成物中の金属イオンをキレート化するのに有用である。BHT及びエデト酸二ナトリウムは、いくつかの化合物に対してそれぞれ抗酸化剤及びキレート剤となり得るが、当業者に知られているように、他の適切かつ同等の抗酸化剤及びキレート剤を代わりに使用してもよい。
【0203】
液体懸濁液は、水性又は油性ビヒクル中の本発明の化合物又は他の組成物の懸濁液を達成するために、従来の方法を使用して調製することができる。水性ビヒクルには、例えば、水及び等張生理食塩水が含まれる。油性ビヒクルには、例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、植物油(例えば、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、又はココナッツ油、分留植物油)、及び鉱油(例えば流動パラフィン)が含まれる。液体懸濁物はさらに、限定されるものではないが、懸濁剤、分散剤又は湿潤剤、乳化剤、粘滑剤、防腐剤、緩衝剤、塩、香味剤、着色剤、及び甘味料を含む1つ又はそれ以上の追加成分を含むことができる。油性懸濁液は、さらに増粘剤を含むことができる。既知の懸濁剤には、限定されるものではないが、ソルビトールシロップ、水素添加食用油脂、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、アカシアゴム、及びセルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。既知の分散剤又は湿潤剤には、限定されるものではないが、レシチンなどの天然リン脂質、脂肪酸との、長鎖脂肪族アルコールとの、脂肪酸とヘキシトールから得られる部分エステルとの、又は脂肪酸とヘキシトール無水物から得られる部分エステルとのアルキレンオキシドの縮合生成物(それぞれ、ポリオキシエチレンステアレート、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が含まれる。既知の乳化剤には、限定されるものではないが、レシチン及びアカシアが含まれる。既知の防腐剤には、限定されるものではないが、メチル、エチル、又はn-プロピルパラヒドロキシベンゾエート、アスコルビン酸、及びソルビン酸が含まれる。
【0204】
経口投与には、錠剤、糖衣錠、液剤、点滴剤、坐薬、又はカプセル、カプレット、及びジェルカプセルが特に適している。経口投与に適したその他の製剤には、限定されるものではないが、粉末又は顆粒製剤、水性又は油性懸濁液、水性又は油性溶液、ペースト、ゲル、歯磨き粉、うがい薬、コーティング剤、口腔洗浄剤、チューインガム、ワニス、シーラント、口腔及び歯の「溶解ストリップ」、又は乳剤が含まれる。経口使用を意図した組成物は、当該技術分野で公知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、錠剤の製造に適した不活性で非毒性の医薬賦形剤からなる群から選択される1つ又はそれ以上の薬剤を含有してもよい。そのような賦形剤には、例えば、ラクトースなどの不活性希釈剤、コーンスターチなどの造粒及び崩壊剤、デンプンなどの結合剤、及びステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤が含まれる。
【0205】
錠剤はコーティングされていないか、又は既知の方法を使用してコーティングされて、被験体の胃腸管内での崩壊を遅らせ、それによって有効成分の持続放出及び吸収を実現することができる。例として、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの物質を使用して錠剤をコーティングすることができる。さらに例として、錠剤は、米国特許第4,256,108号、第4,160,452号、及び第4,265,874号に記載された方法を使用してコーティングすることにより、浸透圧制御放出錠剤を形成することができる。錠剤は、医薬的にエレガントで口当たりの良い製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤、防腐剤、又はこれらの組み合わせをさらに含むことができる。
【0206】
有効成分を含むハードカプセルは、ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物を使用して製造することができる。このようなハードカプセルは有効成分を含み、さらに、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、又はカオリンなどの不活性固体希釈剤を含む追加成分を含むことができる。
【0207】
有効成分を含むソフトゼラチンカプセルは、ゼラチンなどの生理学的に分解可能な組成物を使用して製造することができる。このようなソフトカプセルは、水又は油性媒体(例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、又はオリーブ油)と混合することができる有効成分を含む。
【0208】
経口投与の場合、本発明の組成物は、結合剤、充填剤、滑沢剤、崩壊剤、又は湿潤剤などの医薬的に許容し得る賦形剤を用いる従来の手段で調製された錠剤又はカプセルの形態であってもよい。所望であれば、錠剤は、Colorcon, West Point, Pa. から入手可能なOPADRY(商標)フィルムコーティングシステム(例えば、OPADRY(商標)OYタイプ、OYCタイプ、有機腸溶性OY-Pタイプ、水性腸溶性OY-Aタイプ、OY-PMタイプ、及びOPADRY(商標)White、32K18400)などの適切な方法及びコーティング材料を使用してコーティングすることができる。
【0209】
経口投与用の液体製剤は、溶液、シロップ、又は懸濁液の形態であり得る。液体製剤は、従来の方法で、医薬的に許容し得る添加物、例えば懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、又は水素添加食用油脂)、乳化剤(例えば、レシチン、アカシア)、非水性ビヒクル(例えば、アーモンド油、油性エステル、又はエチルアルコール)、及び防腐剤(例えば、メチル若しくはプロピルp-ヒドロキシ安息香酸又はソルビン酸)を使用して調製することができる。経口投与に適した本発明の医薬組成物の液体製剤は、液体形態で、又は使用前に水又は他の適切なビヒクルで復元することを意図した乾燥製品の形態で、調製、包装、及び販売され得る。
【0210】
有効成分を含む錠剤は、例えば、有効成分を圧縮又は成形することにより、任意選択的に1つ又はそれ以上の添加成分とともに製造され得る。圧縮錠剤は、粉末又は顆粒製剤などの自由流動形態の有効成分を、任意選択的に結合剤、滑沢剤、賦形剤、界面活性剤、及び分散剤の1つ又はそれ以上と混合し、適切な装置で圧縮することにより製造され得る。成形錠剤は、有効成分、医薬的に許容し得る担体、及び混合物を湿らせるために少なくとも十分な液体の混合物を、適切な装置で成形することにより製造され得る。錠剤の製造に使用される医薬的に許容し得る賦形剤には、限定されるものではないが、不活性希釈剤、造粒剤及び崩壊剤、結合剤、及び滑沢剤が含まれる。既知の分散剤には、限定されるものではないが、ジャガイモデンプン及びデンプングリコール酸ナトリウムが含まれる。既知の界面活性剤には、限定されるものではないが、ラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。既知の希釈剤には、限定されるものではないが、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、微結晶セルロース、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、及びリン酸ナトリウムが含まれる。既知の造粒剤及び崩壊剤には、限定されるものではないが、コーンスターチ及びアルギン酸が含まれる。既知の結合剤には、限定されるものではないが、ゼラチン、アカシア、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが含まれる。既知の滑沢剤には、限定されるものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリカ、及びタルクが含まれる。
【0211】
非経口投与に適した医薬組成物の製剤は、有効成分と、滅菌水又は滅菌等張生理食塩水などの医薬的に許容し得る担体とを組み合わせたものである。このような製剤は、ボーラス投与又は連続投与に適した形態で製造、包装、又は販売することができる。注射用製剤は、アンプル又は防腐剤を含む複数回投与容器などの単位剤形で製造、包装、又は販売することができる。非経口投与用の製剤には、限定されるものではないが、懸濁液、溶液、油性又は水性ビヒクル中の乳剤、ペースト、及び移植可能な持続放出又は生分解性製剤が含まれる。このような製剤は、限定されるものではないが、懸濁剤、安定剤、又は分散剤を含む1つ又はそれ以上の追加成分をさらに含んでもよい。非経口投与用製剤の1つの実施態様において、有効成分は、復元された組成物の非経口投与前に、適切なビヒクル(例えば、滅菌発熱物質フリー水)で復元するための乾燥(すなわち、粉末又は顆粒)形態で提供される。
【0212】
医薬組成物は、滅菌された注射用水性又は油性懸濁液若しくは溶液の形態で調製、包装、又は販売されてもよい。この懸濁液又は溶液は、既知の技術に従って調製することができ、有効成分に加えて、本明細書に記載される分散剤、湿潤剤、又は懸濁剤などの追加成分を含んでもよい。このような滅菌された注射用製剤は、例えば水又は1,3-ブタンジオールなどの非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤又は溶媒を使用して調製されてもよい。その他の許容し得る希釈剤及び溶媒には、限定されるものではないが、リンゲル液、等張塩化ナトリウム溶液、合成モノグリセリド又はジグリセリドなどの固定油が含まれる。有用なその他の非経口投与可能な製剤には、有効成分を微結晶形態、リポソーム製剤、又は生分解性ポリマー系の成分として含むものが含まれる。持続放出又は移植用の組成物は、乳剤、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、又は難溶性塩などの医薬的に許容し得るポリマー又は疎水性材料を含み得る。
【0213】
賦形剤及び組成物の他の成分
組成物はさらに、医薬的に許容し得る賦形剤を含み得る。医薬的に許容し得る賦形剤は、ビヒクル、アジュバント、担体、又は希釈剤などの機能性分子であり得る。医薬的に許容し得る賦形剤はトランスフェクション促進剤でもよく、これは界面活性剤を含んでよく、界面活性剤は、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、モノホスホリル脂質Aを含むLPS類似体、ムラミルペプチド、キノン類似体、スクアレン及びスクアレンなどの小胞、ヒアルロン酸、脂質、リポソーム、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、若しくはナノ粒子、又はその他の既知のトランスフェクション促進剤を含んでよい。
【0214】
トランスフェクション促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含む)、又は脂質である。トランスフェクション促進剤はポリ-L-グルタミン酸であり、ポリ-L-グルタミン酸は、組成物中に6mg/ml未満の濃度で存在することができる。トランスフェクション促進剤はまた、界面活性剤、例えば免疫刺激複合体(ISCOMS)、フロイント不完全アジュバント、モノホスホリル脂質Aを含むLPS類似体、ムラミルペプチド、キノン類似体、スクアレン及びスクアレンなどの小胞も含んでよく、そしてヒアルロン酸も組成物と併用して投与され得る。組成物はまた、トランスフェクション促進剤、例えば、脂質、DNA-リポソーム混合物(例えば、WO9324640を参照)としてリポソーム(レシチンリポソーム又は当該技術分野で公知の他のリポソームを含む)、カルシウムイオン、ウイルスタンパク質、ポリアニオン、ポリカチオン、若しくはナノ粒子、又は他の既知のトランスフェクション促進剤も含み得る。トランスフェクション促進剤は、ポリアニオン、ポリカチオン(ポリ-L-グルタミン酸(LGS)を含む)、又は脂質である。組成物中のトランスフェクション剤の濃度は、4mg/ml未満、2mg/ml未満、1mg/ml未満、0.750mg/ml未満、0.500mg/ml未満、0.250mg/ml未満、0.100mg/ml未満、0.050mg/ml未満、又は0.010mg/ml未満である。
【0215】
医薬的に許容し得る賦形剤は、本発明のチェックポイント阻害抗体に加えてアジュバントであってもよい。追加のアジュバントは、代替プラスミドで発現されるか、又は組成物中の上記プラスミドと組み合わせてタンパク質として送達される他の遺伝子であってもよい。アジュバントは、以下からなる群から選択される:アルファインターフェロン(IFN-α)、β-インターフェロン(IFN-β)、γ-インターフェロン、血小板由来成長因子(PDGF)、TNFα、TNFβ、GM-CSF、上皮成長因子(EGF)、皮膚T細胞誘引ケモカイン(CTACK)、上皮胸腺発現ケモカイン(TECK)、粘膜関連上皮ケモカイン(MEC)、IL-12、IL-15、MHC、CD80、CD86(シグナル配列が削除され、任意選択的にIgEからのシグナルペプチドを含むIL-15を含む)。アジュバントは、IL-12、IL-15、IL-28、CTACK、TECK、血小板由来成長因子(PDGF)、TNFα、TNFβ、GM-CSF、上皮成長因子(EGF)、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、PD-1、IL-10、IL-12、IL-18、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0216】
本発明の抗体に加えてアジュバントとして有用であり得る他の遺伝子としては、以下をコードする遺伝子が挙げられる:MCP-1、MIP-1a、MIP-1p、IL-8、RANTES、L-セレクチン、P-セレクチン、E-セレクチン、CD34、GlyCAM-1、MadCAM-1、LFA-1、VLA-1、Mac-1、p150.95、PECAM、ICAM-1、ICAM-2、ICAM-3、CD2、LFA-3、M-CSF、G-CSF、IL-4、IL-18の変異体形態、CD40、CD40L、血管成長因子、線維芽細胞成長因子、IL-7、IL-22、神経成長因子、血管内皮成長因子、Fas、TNF受容体、Flt、Apo-1、p55、WSL-1、DR3、TRAMP、Apo-3、AIR、LARD、NGRF、DR4、DR5、KILLER、TRAIL-R2、TRICK2、DR6、カスパーゼICE、Fos、c-jun、Sp-1、Ap-1、Ap-2、p38、p65Rel、MyD88、IRAK、TRAF6、IkB、不活性NIK、SAPK、SAP-1、JNK、インターフェロン応答遺伝子、NFkB、Bax、TRAIL、TRAILrec、TRAILrecDRC5、TRAIL-R3、TRAIL-R4、RANK、RANKリガンド、Ox40、Ox40リガンド、NKG2D、MICA、MICB、NKG2A、NKG2B、NKG2C、NKG2E、NKG2F、TAP1、TAP2、及びこれらの機能性断片。
【0217】
組成物は、1994年4月1日に出願された米国特許出願第021,579号に記載されている遺伝子促進剤をさらに含み得る。この特許出願は、参照により完全に組み入れられる。
【0218】
組成物は、約1ナノグラム~100ミリグラム、約1マイクログラム~約10ミリグラム、又は好ましくは約0.1マイクログラム~約10ミリグラム、又はより好ましくは約1ミリグラム~約2ミリグラムの量のDNAを含み得る。いくつかの好ましい実施態様において、本発明による組成物は、約5ナノグラム~約1000マイクログラムのDNAを含む。いくつかの好ましい実施態様において、組成物は、約10ナノグラム~約800マイクログラムのDNAを含むことができる。いくつかの好ましい実施態様において、組成物は、約0.1マイクログラム~約500マイクログラムのDNAを含むことができる。いくつかの好ましい実施態様において、組成物は、約1マイクログラム~約350マイクログラムのDNAを含むことができる。いくつかの好ましい実施態様において、組成物は、約25~約250マイクログラム、約100~約200マイクログラム、約1ナノグラム~100ミリグラム、約1マイクログラム~約10ミリグラム、約0.1マイクログラム~約10ミリグラム、約1ミリグラム~約2ミリグラム、約5ナノグラム~約1000マイクログラム、約10ナノグラム~約800マイクログラム、約0.1~約500マイクログラム、約1~約350マイクログラム、約25~約250マイクログラム、約100~約200マイクログラムのDNAを含むことができる。
【0219】
組成物は、使用される投与方法に応じて調製することができる。注射用医薬組成物は、無菌、発熱物質フリー、微粒子フリーとすることができる。等張性製剤又は等張性溶液が使用可能である。等張性のための添加剤としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、及びラクトースが挙げられる。組成物は、血管収縮剤を含むことができる。等張性溶液としては、リン酸緩衝化生理食塩水が挙げられる。組成物は、ゼラチン及びアルブミンを含む安定剤をさらに含むことができる。安定剤は、LGS又はポリカチオン又はポリアニオンを含む製剤を、室温又は周囲温度で長期間安定にすることができる。
【0220】
工学作成免疫細胞を使用する送達方法
1つの実施態様において、本発明は、二重特異性シアル酸結合受容体抗体を標的細胞に送達する方法を提供し、二重特異性シアル酸結合受容体抗体を発現する工学作成免疫細胞を提供する。1つの実施態様において、この免疫細胞は、本発明の二重特異性シアル酸結合受容体抗体の内因性分泌のために工学作成される。
【0221】
様々な実施態様において、本発明は、腫瘍細胞を標的とする二重特異性抗シアル酸結合受容体抗体の発現又は内因性分泌のために工学作成された免疫細胞を含む組成物に関する。本発明の二重特異性シアル酸結合受容体抗体の発現又は分泌のために工学作成され得る免疫細胞の例としては、限定されるものではないが、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、又はマクロファージが挙げられる。いくつかの実施態様において、免疫細胞はキメラ抗原受容体(CAR)をさらに含む。従って、いくつかの実施態様において、本発明は本発明の二重特異性シアル酸結合受容体抗体の発現又は送達のためのCAR T細胞の使用に関する。
【0222】
投与方法
本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞の機能又は活性を上昇させる方法を提供する。これは、例えば、標準的なNK細胞又はT細胞ベースの細胞毒性測定法で測定することができ、ここで、Siglec陽性リンパ球によるシアル酸リガンド陽性細胞の殺傷を刺激する治療化合物の能力が測定される。1つの実施態様において、抗体調製物は、Siglec制限リンパ球の細胞毒性の少なくとも10%の強化、任意選択的にリンパ球細胞毒性の少なくとも40%又は50%の強化、又は任意選択的にNK細胞毒性において、及び記載された細胞毒性測定法に関して、少なくとも70%の強化を引き起こす。1つの実施態様において、抗体調製物は、Siglec制限リンパ球によるサイトカイン放出の少なくとも10%の強化、任意選択的にサイトカイン放出の少なくとも40%又は50%の強化、又は任意選択的にサイトカイン放出において、及び記載された細胞毒性測定法に関して、少なくとも70%の強化を引き起こす。1つの実施態様において、抗体調製物は、Siglec制限リンパ球による細胞毒性マーカー(例えば、CD107及び/又はCD137)の細胞表面発現の少なくとも10%の強化、任意選択的に少なくとも40%又は50%の強化、又は任意選択的に細胞毒性マーカー(例えば、CD107及び/又はCD137)の細胞表面発現の少なくとも70%の強化を引き起こす。
【0223】
本発明は、被験体における免疫応答を上昇させる方法にも関する。免疫応答の上昇は、被験体における疾患の治療及び/又は予防に使用することができる。この方法には、本明細書に開示されたワクチンを被験体に投与することを含み得る。ワクチンを投与された被験体は、抗原のみを投与された被験体と比較して、免疫応答が上昇又は強化される可能性がある。いくつかの実施態様において、免疫応答は、約0.5倍~約15倍、約0.5倍~約10倍、又は約0.5倍~約8倍上昇され得る。あるいは、ワクチンを投与された被験体における免疫応答は、少なくとも約0.5倍、少なくとも約1.0倍、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2.0倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3.0倍、少なくとも約3.5倍、少なくとも約4.0倍、少なくとも約4.5倍、少なくとも約5.0倍、少なくとも約5.5倍、少なくとも約6.0倍、少なくとも約6.5倍、少なくとも約7.0倍、少なくとも約7.5倍、少なくとも約8.0倍、少なくとも約8.5倍、少なくとも約9.0倍、少なくとも約9.5倍、少なくとも約10.0倍、少なくとも約10.5倍、少なくとも約11.0倍、少なくとも約11.5倍、少なくとも約12.0倍、少なくとも約12.5倍、少なくとも約13.0倍、少なくとも約13.5倍、少なくとも約14.0倍、少なくとも約14.5倍、又は少なくとも約15.0倍上昇され得る。
【0224】
さらに別の代替実施態様において、ワクチンを投与された被験体における免疫応答は、約50%~約1500%、約50%~約1000%、又は約50%~約800%上昇され得る。別の実施態様において、ワクチンを投与された被験体における免疫応答は、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約550%、少なくとも約600%、少なくとも約650%、少なくとも約700%、少なくとも約750%、少なくとも約800%、少なくとも約850%、少なくとも約900%、少なくとも約950%、少なくとも約1000%、少なくとも約1050%、少なくとも約1100%、少なくとも約1150%、少なくとも約1200%、少なくとも約1250%、少なくとも約1300%、少なくとも約1350%、少なくとも約1450%、又は少なくとも約1500%上昇され得る。
【0225】
ワクチンの投与量は、1μg~10mg有効成分/kg体重/回、及び20μg~10mg成分/kg体重/回とすることができる。ワクチンは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、又は31日ごとに投与することができる。効果的な治療のためのワクチン投与回数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10回とすることができる。
【0226】
ワクチン
1つの実施態様において、本発明は、シアル酸受容体抗体、又はその断片、又はその変種と、腫瘍抗原への結合に特異的な抗体との組み合わせを含む二重特異性抗体を、又はシアル酸受容体抗体、又はその断片、又はその変種と、腫瘍抗原への結合に特異的な抗体との組み合わせを含む二重特異性抗体をコードする核酸分子の投与に関する。免疫原性組成物は、腫瘍抗原を発現する標的細胞の殺傷を上昇させるために使用することができる。
【0227】
免疫原性組成物は、DNAワクチン、ペプチドワクチン、又はDNAとペプチドワクチンの組み合わせであり得る。DNAワクチンは、腫瘍抗原をコードする核酸配列を含み得る。核酸配列は、DNA、RNA、cDNA、これらの変種、これらの断片、又はこれらの組み合わせであり得る。核酸配列はまた、本発明の二重特異性抗体をコードする配列にペプチド結合によって連結されるリンカー、リーダー、又はタグ配列をコードする追加の配列も含み得る。
【0228】
ワクチンによって誘発される腫瘍細胞殺傷には、ワクチンを投与された被験体における標的腫瘍抗原を発現する細胞の殺傷レベルが、ワクチンを投与されなかった被験体と比較して、上昇していることが含まれる。ワクチンを投与された被験体における腫瘍細胞殺傷レベルは、ワクチンを投与されなかった被験体と比較して、約1.5倍~約16倍、約2倍~約12倍、又は約3倍~約10倍上昇し得る。ワクチンを投与された被験体における腫瘍細胞殺傷レベルは、ワクチンを投与されなかった被験体と比較して、少なくとも約1.5倍、少なくとも約2.0倍、少なくとも約2.5倍、少なくとも約3.0倍、少なくとも約3.5倍、少なくとも約4.0倍、少なくとも約4.5倍、少なくとも約5.0倍、少なくとも約5.5倍、少なくとも約6.0倍、少なくとも約6.5倍、少なくとも約7.0倍、少なくとも約7.5倍、少なくとも約8.0倍、少なくとも約8.5倍、少なくとも約9.0倍、少なくとも約9.5倍、少なくとも約10.0倍、少なくとも約10.5倍、少なくとも約11.0倍、少なくとも約11.5倍、少なくとも約12.0倍、少なくとも約12.5倍、少なくとも約13.0倍、少なくとも約13.5倍、少なくとも約14.0倍、少なくとも約14.5倍、少なくとも約15.0倍、少なくとも約15.5倍、又は少なくとも約16.0倍上昇し得る。
【0229】
本発明のワクチンは、ワクチン自体が病気や死亡を引き起こさないように安全であること、標的抗原を発現する細胞の存在に起因する病気に対して防御的であること、投与が容易であること、副作用が少ないこと、生物学的安定性があること、及び投与量あたりのコストが低いことなどの、有効なワクチンに求められる特徴を有することができる。
【0230】
いくつかの実施態様において、NKCEは病原体関連抗原又はウイルス抗原に向けられており、これを使用してNK細胞を病原体又はウイルスに感染した細胞に向けることができる。いくつかの実施態様において、抗原は、限定されるものではないが、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)、インフルエンザウイルス、ジカウイルス、エボラウイルス、日本脳炎ウイルス、おたふく風邪ウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス(HHV-4)、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)及び単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、JCウイルス、アルボウイルス、エンテロウイルス、西ナイルウイルス、デングウイルス、ポリオウイルス、及び水痘帯状疱疹ウイルスの抗原を含む。いくつかの実施態様において、抗原は、細菌抗原を含み、これには、限定されるものではないが、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、B群溶血性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)、及び大腸菌(Escherichia coli)の抗原が含まれる。いくつかの実施態様において、抗原は、真菌又は原生動物の抗原を含み、これには、限定されるものではないが、カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコッカス症、及びトキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)の抗原が含まれる。
【0231】
自己抗原
本発明のNKCEは、自己抗原に結合することに特異的であり得る。いくつかの実施態様において、自己抗原は、自己免疫疾患又は障害に関連する抗原である。いくつかの実施態様において、自己抗原は腫瘍抗原である。
【0232】
従って、いくつかの実施態様において、本発明は、ナチュラルキラー細胞を腫瘍細胞に誘導するための組成物を含む。いくつかの実施態様において、腫瘍細胞は、本発明のNKCEによって標的とされる抗原を発現する。非限定例として、1つの実施態様において、本発明は、ナチュラルキラー細胞をFSHRを発現する腫瘍細胞に誘導する二重特異性FSHR-Siglec7NKCEを提供する。FSHRを発現する腫瘍細胞の例には、限定されるものではないが、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌、結腸直腸癌、胃癌、肺癌、精巣癌、子宮内膜癌、及び甲状腺癌の腫瘍細胞が含まれる。
【0233】
1つの実施態様において、本発明のNKCEが標的とする抗原は、腫瘍関連表面抗原である。腫瘍関連表面抗原の具体例は、CD10、CD19、CD20、CD22、CD33、Fms様チロシンキナーゼ3(FLT-3、CD135)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(CSPG4、黒色腫関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、上皮成長因子受容体(EGFR)、Her2neu、Her3、IGFR、CD133、IL3R、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、CDCP1、Derlin1、テネイシン、フリズルド1-10、血管抗原VEGFR2(KDR/FLK1)、VEGFR3(FLT4、CD309)、PDGFR-アルファ(CD140a)、PDGFR-β、(CD140b)エンドグリン、CLEC14、Tem1-8、及びTie2である。さらなる例としては、A33、CAMPATH-1(CDw52)、癌胎児性抗原(CEA)、カルボアンヒドラーゼIX(MN/CAIX)、CD21、CD25、CD30、CD34、CD37、CD44v6、CD45、CD133、de2-7EGFR、EGFRvIII、EpCAM、Ep-CAM、葉酸結合タンパク質、G250、Fms様チロシンキナーゼ3(FLT-3、CD135)、c-Kit(CD117)、CSF1R(CD115)、HLA-DR、IGFR、IL-2受容体、IL3R、MCSP(黒色腫関連細胞表面コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、Muc-1、前立腺特異膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異抗原(PSA)、及びTAG-72が含まれ得る。
【0234】
本発明の文脈において、「腫瘍抗原」又は「過剰増殖性疾患抗原」又は「過剰増殖性疾患に関連する抗原」は、癌などの特定の過剰増殖性疾患に共通する抗原を指す。本明細書で論じられる抗原は、単に例として挙げられている。このリストは限定的であることを意図したものではなく、さらなる例が当業者には容易に明らかであろう。
【0235】
腫瘍抗原は、本発明のNKCEによって標的とされ得る腫瘍細胞によって生成されるタンパク質である。本発明のNKCEの抗原結合部分の選択は、治療される癌の特定のタイプに依存する。腫瘍抗原は当該技術分野で公知であり、例えば、神経膠腫関連抗原、癌胎児性抗原(CEA)、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、チログロブリン、RAGE-1、MN-CAIX、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2(AS)、腸カルボキシルエステラーゼ、muthsp70-2、M-CSF、プロスターゼ、前立腺特異抗原(PSA)、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、p53、プロステイン、PSMA、Her2/neu、サバイビン及びテロメラーゼ、前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1)、MAGE、ELF2M、好中球エラスターゼ、エフリンB2、CD22、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体、及びメソテリンが含まれる。
【0236】
1つの実施態様において、腫瘍抗原は、悪性腫瘍に関連する1つ又はそれ以上の抗原性癌エピトープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃の標的抗原として機能できる多数のタンパク質を発現する。これらの分子には、限定されるものではないが、黒色腫におけるMART-1、チロシナーゼ、及びGP100、並びに前立腺癌における前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)及び前立腺特異抗原(PSA)などの組織特異的抗原が含まれる。他の標的分子は、癌遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子のグループに属する。さらに別の標的抗原のグループは、癌胎児性抗原(CEA)などの癌胎児性抗原である。B細胞リンパ腫では、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンが、個々の腫瘍に固有の真に腫瘍特異的な免疫グロブリン抗原を構成する。CD19、CD20、及びCD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫における標的抗原のその他の候補である。これらの抗原の一部(CEA、HER-2、CD19、CD20、イディオタイプ)は、モノクローナル抗体による受動免疫療法の標的として使用されてきたが、成功は限定的であった。
【0237】
本発明で言及されている腫瘍抗原の種類は、腫瘍特異抗原(TSA)又は腫瘍関連抗原(TAA)であり得る。TSAは腫瘍細胞に特有であり、体内の他の細胞には存在しない。TAA関連抗原は腫瘍細胞に特有ではなく、抗原に対する免疫学的寛容状態を誘発できない条件下では正常細胞にも発現する。腫瘍での抗原の発現は、免疫系が抗原に反応できる条件下で発生し得る。TAAは、免疫系が未熟で反応できない胎児の発育中に正常細胞で発現する抗原である場合もあれば、正常細胞では通常極めて低レベルで存在するが、腫瘍細胞では非常に高いレベルで発現する抗原である場合もある。
【0238】
TSA又はTAA抗原の非限定的な例としては以下が含まれる:分化抗原、例えばMART-1/MelanA(MART-I)、gp100(Pmel17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2、及び腫瘍特異的多系統抗原、例えばMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15;過剰発現胚抗原、例えばCEA;過剰発現癌遺伝子及び変異腫瘍抑制遺伝子、例えばp53、Ras、HER-2/neu;染色体転座に起因する固有の腫瘍抗原、例えばBCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RAR;及びウイルス抗原、例えばエプスタイン・バーウイルス抗原EBVA及びヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6及びE7。その他の大きなタンパク質ベースの抗原には、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA19-9、CA72-4、CAM17.1、NuMa、K-ras、beta-Catenin、CDK4、Mum-1、p15、p16、43-9F、5T4、791Tgp72、アルファフェトプロテイン、ベータ-HCG、BCA225、BTAA、CA125、CA15-3\CA27.29\BCAA、CA195、CA242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029などがある。FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、及びTPSが含まれる。
【0239】
1つの実施態様において、本発明は、抗Siglec7抗FSHRNKCEを提供する。
1つの実施態様において、本発明は、抗Siglec7抗IL13Ra2NKCEを提供する。
【0240】
組み合わせワクチン
1つの実施態様において、本発明は、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子をPD-(L)1軸阻害剤と組み合わせて投与することに関する。腫瘍に対する免疫応答を上昇させるために、免疫原性組成物を使用することができる。
【0241】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子は、PD-(L)1軸阻害剤の投与と同時に投与される。
【0242】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子は、PD-(L)1軸阻害剤の投与前に投与される。
【0243】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子は、PD-(L)1軸阻害剤の投与後に投与される。
【0244】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子は、PD-(L)1軸阻害剤の投与の約1、2、5、10、30、又は60分又は数時間前、例えば約2、4、6、10、12、24、又は36時間前、又は例えば約2、4、7、14、21、28、35、42、49、56日、又はそれ以上前に投与される。従って、いくつかの実施態様において、PD-(L)1軸阻害剤は、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子を以前に投与された被験体に投与される。
【0245】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子は、PD-(L)1軸阻害剤の投与の約1、2、5、10、30、又は60分又は数時間後、例えば約2、4、6、10、12、24、又は36時間後、又は例えば約2、4、7、14、21、28、35、42、49、56日、又はそれ以上後に投与される。従って、いくつかの実施態様において、Siglec-7抗体又はそれをコードする核酸分子は、PD-(L)1軸阻害剤を以前に投与された被験体に投与される。
【0246】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子とPD-(L)1軸阻害剤との組み合わせは、1つ又はそれ以上の追加の抗癌剤の投与前に投与される。
【0247】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子とPD-(L)1軸阻害剤との組み合わせは、1つ又はそれ以上の追加の抗癌剤の投与後に投与される。
【0248】
いくつかの実施態様において、本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子とPD-(L)1軸阻害剤との組み合わせは、1つ又はそれ以上の追加の抗癌剤の投与と同時に投与される。
【0249】
本発明のNKCE又はそれをコードする核酸分子とPD-(L)1軸阻害剤又は1つ又はそれ以上の追加の抗癌剤の投与間の時間の長さは、数分、例えば約1、2、5、10、30、若しくは60分、又は数時間、例えば約2、4、6、10、12、24、若しくは36時間、又は例えば約2、4、7、14、21、28、35、42、49、56日間、又はそれ以上であってもよい。
【0250】
本発明の1つ又はそれ以上のNKCE、又はそれをコードする核酸分子、PD-(L)1軸阻害剤、又は追加の抗癌剤は、医薬的に許容し得る担体中で投与することができる。「担体」とは、本発明の抗体とともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。このようなビヒクルは、液体、例えば水及び油でもよく、石油、動物、植物、又は合成起源の油、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む。例えば、0.4%生理食塩水及び0.3%グリシンを使用して、二重特異性抗EGFR/c-Met抗体を調製することができる。これらの溶液は無菌であり、一般に粒子状物質を含まない。これらは、従来のよく知られた滅菌技術(例えば濾過)によって滅菌することができる。粉末、カプセル、錠剤などの固形経口調製物の場合、適切な担体及び添加物には、デンプン、糖、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などが含まれる。固形経口調製物はまた、主要な吸収部位を調節するために、糖などの物質でコーティングしたり、腸溶性コーティングしたりすることもできる。非経口投与の場合、担体は無菌水を含み、及び溶解性又は保存性を上昇させるために他の賦形剤を加えることもできる。注射用懸濁液又は溶液も、水性担体を適切な添加物とともに使用して調製することができる。他のヒトタンパク質、例えばヒト血清アルブミンを含む適切なビヒクル及び配合物は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, Troy, D.B. ed., Lipincott Williams and Wilkins, Philadelphia, PA 2006, Part 5, Pharmaceutical Manufacturing pp 691-1092, See especially pp. 958-989 に記載されている。
【0251】
組成物には、生理学的条件に近づけるために必要な医薬的に許容し得る補助物質、例えば、pH調整剤、緩衝剤、安定剤、増粘剤、滑沢剤、着色剤などが含まれていてもよい。医薬製剤中の本発明のNKCE、又はそれをコードする核酸分子、及びPD-(L)1軸阻害剤の濃度は、約0.5重量%未満から、通常は少なくとも約1重量%から最大15重量%、20重量%、30重量%、40重量%、又は50重量%まで変化し、選択された特定の投与方法に応じて、主に必要な用量、流体量、粘度などに基づいて選択されてもよい。固形形態を含む医薬組成物は、約0.1mg~約2000mg、例えば約1mg、約5mg、約10mg、約25mg、約50mg、約100mg、約150mg、約200mg、約300mg、約500mg、約600mg、又は約1000mgの有効成分を含有し得る。
【0252】
本発明の治療組成物は、治療組成物自体が病気や死亡を引き起こさないような安全性、投与の容易さ、副作用の少なさ、生物学的安定性、及び投与量あたりの低コストなどの、有効な治療薬に求められる特徴を有することができる。
【0253】
PD-(L)1軸阻害剤
いくつかの実施態様において、本発明は、本発明の二重特異性NKCEとPD-(L)1軸阻害剤との組み合わせを提供する。さまざまな実施態様において、組成物は、PD-(L)1軸中に1つ又はそれ以上の遺伝子又はタンパク質の阻害剤を含む。様々な実施態様において、本発明は、PD-(L)1軸中の1つ又はそれ以上の遺伝子又はタンパク質のレベル又は活性を低下させる組成物及び方法を含む。
【0254】
当業者は、本明細書に提供された開示に基づいて、PD-(L)1軸における1つ又はそれ以上の遺伝子又はタンパク質のレベル又は活性の低下には、転写、翻訳、又はその両方を含むバイオマーカーの発現の低下が含まれることを理解するであろう。当業者はまた、本発明の教示を理解すれば、PD-(L)1軸における1つ又はそれ以上の遺伝子又はタンパク質のレベル又は活性の低下には、ポリペプチド量の減少、mRNA量の減少、転写の減少、翻訳の減少、又はこれらの組み合わせが含まれ、PD-(L)1軸における1つ又はそれ以上の遺伝子又はタンパク質の任意の活性の低下も含まれることを理解するであろう。
【0255】
例示的なPD-(L)1軸の阻害剤には、限定されるものではないが、小干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、トランスドミナントネガティブ変異体をコードする発現ベクター、抗体、抗体の断片、融合タンパク質、アプタマー、ペプチド、及び小分子が含まれる。
【0256】
当業者であれば、本明細書に提供された開示に基づいて、細胞内の1つ又はそれ以上のPD-(L)1軸タンパク質のmRNA及び/又はタンパク質レベルを低下させる1つの方法は、PD-(L)1軸タンパク質をコードする核酸の発現を低下又は阻害することであることを理解するであろう。従って、細胞内のPD-(L)1軸タンパク質のタンパク質レベルは、例えばsiRNA、アンチセンス分子、又はリボザイムなどの遺伝子発現を阻害又は低下させる分子又は化合物を使用して低下させることができる。しかし、本発明はこれらの例に限定されない。
【0257】
1つの実施態様において、PD-(L)1軸タンパク質のレベル又は活性を低下させるためにRNAiが使用される。RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNA(dsRNA)を多様な生物及び細胞タイプに導入すると、相補的なmRNAが分解される現象である。細胞内では、長いdsRNAは、ダイサーと知られているリボヌクレアーゼによって、21~25ヌクレオチドの短い低分子干渉RNA(すなわち、siRNA)に切断される。次に、siRNAはタンパク質成分とともにRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み立てられ、その過程でほどけていく。次に、活性化されたRISCは、siRNAアンチセンス鎖とmRNA間の塩基対対合相互作用によって相補転写物に結合する。結合したmRNAは切断され、mRNAの配列特異的分解によって遺伝子サイレンシングが起きる。siRNAの化学修飾は、静脈内全身送達に役立つ。siRNAを最適化するには、全体的なG/C含有量、末端のC/T含有量、Tm、及び3’オーバーハングのヌクレオチド含有量を考慮する必要がある。従って、本発明はまた、RNAi技術を使用して1つ又はそれ以上のPD-(L)1軸タンパク質のレベルを低下させる方法も含む。
【0258】
いくつかの実施態様において、本発明は、プロモーター/調節配列を含む核酸に作動可能に連結されたタンパク質、抗体、siRNA、又はアンチセンス分子などの阻害剤をコードする単離核酸を含み、その結果、核酸は好ましくは、核酸によってコードされる阻害剤の発現を指示することができる。従って、本発明は、細胞に外因性DNAを導入し、同時に細胞内で外因性DNAを発現させるための発現ベクター及び方法を包含する。
【0259】
阻害剤の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターはまた、ウイルスベクターを介してトランスフェクション又は感染させようとする細胞集団から発現細胞を特定及び選択することを容易にするために、選択マーカー遺伝子又はレポーター遺伝子のいずれか、又はその両方を含むこともできる。他の実施態様において、選択マーカーは、別のDNA片上に保持され、共トランスフェクション操作で使用されてもよい。選択マーカー及びレポーター遺伝子の両方は、宿主細胞内での発現を可能にするために、適切な調節配列で挟まれてもよい。有用な選択マーカーは当業界で知られており、例えば、ネオマイシンなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0260】
本発明の阻害剤が小分子である場合、当業者に公知の標準的な方法を使用して、小分子拮抗薬を得ることができる。このような方法には、化学的有機合成又は生物学的手段が含まれる。生物学的手段には、当業界で周知の方法を使用する生物供給源からの精製、組み換え合成、及びインビトロ翻訳システムが含まれる。
【0261】
様々な疾患及び状態の治療に潜在的に有用な分子的に多様な化合物のコンビナトリアルライブラリは、ライブラリの作成方法と同様に当業界でよく知られている。この方法は、固相合成、溶液法、単一化合物の並列合成、化学混合物の合成、剛性コア構造、柔軟な線形配列、デコンボリューション戦略、タグ付け技術、及びリード発見のための偏りのない分子ランドスケープとリード開発のための偏りのある構造の生成を含む、当業者に周知されている様々な技術を使用することができる。
【0262】
小規模ライブラリ合成の一般的な方法では、活性化されたコア分子が多数の構成要素と凝縮され、共有結合したコア-構成要素アンサンブルの組み合わせライブラリが得られる。コアの形状と剛性によって、形状空間における構成要素の方向が決まる。ライブラリは、コア、結合、又は構成要素を変更して、特徴付けられた生物学的構造を標的にすることでバイアスをかけることができ(「指向型ライブラリー(focused libraries)」)、又は柔軟なコアを使用して少ない構造バイアスで合成することができる。
【0263】
本発明の別の態様において、PD-(L)1軸の1つ又はそれ以上のタンパク質は、タンパク質を不活性化及び/又は隔離することによって阻害することができる。このように、PD-(L)1軸の1つ又はそれ以上のタンパク質の効果を阻害することは、トランスドミナントネガティブ変異体を使用することによって達成することができる。
【0264】
1つの実施態様において、PD-(L)1軸の1つ又はそれ以上のタンパク質に特異的な抗体を使用することができる。当業者であれば理解できるように、目的の抗原を認識して結合できる任意の抗体が本発明において有用である。抗体の作製方法及び使用方法は、当該技術分野で周知されている。例えば、本発明で有用なポリクローナル抗体は、当該技術分野で周知されている標準的な免疫学的技術に従って、ウサギを免疫することによって生成される。このような技術には、マルトース結合タンパク質又はグルタチオン(GSH)タグポリペプチド部分などの別のタンパク質の一部、及び/又は目的の抗原タンパク質が免疫原性となるような部分(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合した目的の抗原)と、それぞれの抗原性タンパク質アミノ酸残基を含む部分とを含むキメラタンパク質で動物を免疫することが含まれる。キメラタンパク質は、マーカータンパク質をコードする適切な核酸を、限定されるものではないが、pMAL-2やpCMXなどのこの目的に適したプラスミドベクターにクローニングすることによって生成される。
【0265】
抗PD-(L)1軸抗体の例には、限定されるものではないが、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標))、ペンブロリムマブ(KEYTRUDA(登録商標))、シンチリマブ、セミプリマブ(LIBTAYO(登録商標))、トリポリバマブ、ティスレリズマブ、スパルタリズマブ、カムレリズマブ、ドストラリマブ、ジェノリムズマブ、若しくはセトレリマブが含まれるか、又はPD-L1に結合する抗体(PD-L1抗体)は、エンバフォリマブ、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標))、デュルバルマブ(IMFINZI(登録商標))、アベルマブ(BAVENCIO(登録商標))、REGN2810、ピディリズマブ、MEDI0680、PDR001、PF-06801591、BGB-A317、TSR-042、SHR-1210)である。
【0266】
組成物の送達方法
本発明は、必要とする被験体に組成物を送達する方法にも関する。送達方法には、被験体に組成物を投与することが含まれる。いくつかの実施態様において、本発明は、本発明のNKCE、又はその断片、又はそれをコードする核酸分子の投与に関する。いくつかの実施態様において、核酸分子はDNA分子である。いくつかの実施態様において、核酸分子はRNA分子である。いくつかの実施態様において、核酸分子はmRNA分子である。
【0267】
投与には、限定されるものではないが、抗体の静脈内送達、DNA注入、リポソーム媒介送達、及びナノ粒子促進送達が含まれる。
【0268】
組成物の送達を受ける哺乳動物は、ヒト、霊長類、非ヒト霊長類、乳牛、食用牛、ヒツジ、ヤギ、アンテロープ、バイソン、水牛、バイソン、ウシ科動物、シカ、ハリネズミ、ゾウ、ラマ、アルパカ、マウス、ラット、及びニワトリであり得る。
【0269】
組成物は、経口、非経口、舌下、経皮、直腸、経粘膜、局所、吸入、頬内投与、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、髄腔内、関節内、又はこれらの組み合わせを含む、さまざまな経路で投与することができる。獣医学的使用の場合、組成物は、通常の獣医診療に従って、適切に許容し得る製剤として投与することができる。獣医師は、特定の動物に最も適した投与計画及び投与経路を容易に決定することができる。
【0270】
治療方法
1つの実施態様において、本発明は、NK細胞の機能又は活性の増大から利益を得るであろう疾患又は障害の治療又は予防の方法を提供する。本発明の組成物及び方法を使用して治療することができる例示的な疾患及び障害には、限定されるものではないが、癌及び感染症が含まれる。
【0271】
以下は、開示された方法及び組成物によって診断又は治療することができる癌の非限定的な例である:急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、虫垂癌、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳及び脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、乳癌、気管支腫瘍、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、中枢神経系非定型奇形腫様/横紋筋肉腫様腫瘍、中枢神経系胎児性腫瘍、中枢神経系リンパ腫、小脳星細胞腫、脳星細胞腫/悪性神経膠腫、脳星細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸癌、小児視覚経路腫瘍、脊索腫、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性障害、大腸癌、結腸直腸癌、頭蓋咽頭腫、皮膚癌、皮膚T細胞リンパ腫、子宮内膜癌、上衣芽腫、上衣腫、食道癌、ユーイング腫瘍ファミリー、頭蓋外癌、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、肝外癌、眼癌、息肉腫、胆嚢癌、胃癌、消化管癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、妊娠癌、妊娠性絨毛性腫瘍、神経膠芽腫、神経膠腫、有毛細胞白血病、頭頸部癌、肝細胞癌、組織球症、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、視床下部及び視覚経路神経膠腫、視床下部腫瘍、眼内(眼)癌、眼内悪性黒色腫、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓(腎細胞)癌、ランゲルハンス細胞癌、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭癌、白血病、口唇及び口腔癌、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、マクログロブリン血症、骨の悪性線維性組織球腫及び骨肉腫、髄芽腫、髄上皮腫、黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫、原発不明転移性扁平上皮頸部癌、口腔癌、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫、真菌症、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病(myelogenous leukemia)、骨髄性白血病(myeloid leukemia)、骨髄腫、骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、口腔癌(oral cancer)、口腔癌(oral cavity cancer)、中咽頭癌、骨肉腫及び悪性線維性組織球腫、骨の骨肉腫及び悪性線維性組織球腫、卵巣、卵巣癌、卵巣上皮癌、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、乳頭腫症、傍神経節腫、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、褐色細胞腫、中間分化の松果体実質腫瘍、松果体芽細胞腫及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体腫瘍、形質細胞腫瘍、形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系癌、原発性中枢神経系リンパ腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞(腎臓)癌、腎盂及び尿管癌、染色体15のnut遺伝子に関連する呼吸器癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫、セザリー症候群、皮膚癌(黒色腫)、皮膚癌(非黒色腫)、皮膚癌、小細胞肺癌、小腸癌、軟部組織癌、軟部組織肉腫、扁平上皮癌、扁平上皮頸部癌、胃癌、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、テント上原始神経外胚葉性腫瘍及び松果体芽腫、T細胞リンパ腫、精巣癌、咽頭癌、胸腺腫及び胸腺癌、甲状腺癌、移行細胞癌、腎盂及び尿管の移行上皮癌、絨毛性腫瘍、尿道癌、子宮癌、子宮肉腫、膣癌、視経路及び視床下部神経膠腫、外陰癌、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍。
【0272】
1つの実施態様において、組成物は、高レベルのシアル酸を有する癌を治療するために使用される。高レベルのシアル酸に関連する癌には、限定されるものではないが、卵巣癌、黒色腫、腎細胞癌、前立腺癌、結腸癌、乳癌、頭頸部扁平上皮癌、及び口腔癌が含まれる。
【0273】
癌治療
1つの実施態様において、本発明は、癌を治療又は予防する方法、又は腫瘍の増殖又は転移を治療及び予防する方法を提供する。本発明に例示される関連する態様は、個体における過形成細胞又は腫瘍細胞の転移を予防し、予防を補助し、及び/又は軽減する方法を提供する。
【0274】
1つの実施態様において、組成物は、限定されるものではないが、卵巣癌、黒色腫、腎細胞癌、前立腺癌、結腸癌、乳癌、頭頸部扁平上皮癌、皮膚癌、及び口腔癌を含む、高レベルのシアル酸を有する癌の治療に使用される。
【0275】
本発明の1つの態様は、治療を必要とする個体における転移を阻害する方法を提供し、この方法は、治療対象となる癌に特異的な本発明の多価抗体をコードする核酸分子の有効量を個体に投与することを含む。本発明はさらに、治療を必要とする個体における転移を阻害する方法を提供し、この方法は、治療対象となる癌に特異的な本発明の多価抗体をコードする核酸分子の有効な転移阻害量を個体に投与することを含む。
【0276】
治療を必要とする個体における癌の治療又は予防、又は腫瘍の転移の治療及び予防のいくつかの実施態様において、抗腫瘍剤などの第2の薬剤が個体に投与される。いくつかの実施態様において、第2の薬剤は、プラスミノーゲン拮抗薬又はアデノシンデアミナーゼ拮抗薬などの第2の転移阻害剤を含む。他の実施態様において、第2の薬剤は血管新生阻害剤である。
【0277】
本発明の組成物は、ヒト及び動物の癌を予防、軽減、最小化、制御、及び/又は軽減するために使用することができる。本発明の組成物はまた、原発性腫瘍の増殖速度を遅らせるためにも使用することができる。本発明の組成物は、治療を必要とする被験体に投与すると、癌細胞の拡散を止めるために使用することができる。従って、本発明の多価抗体をコードする核酸分子の有効量(多価抗体は治療する癌に特異的である)は、1つ又はそれ以上の薬剤又は他の医薬品との併用療法の一部として投与することができる。併用療法の一部として使用する場合、本発明の組成物によってもたらされる転移の減少及び原発性腫瘍の増殖の低下により、患者の治療に使用されているあらゆる薬剤又は薬物療法をより効果的かつ効率的に使用することが可能になる。さらに、本発明の組成物による転移の制御により、被験体は病気を1つの場所に集中させる能力が高まる。
【0278】
1つの実施態様において、本発明は、本発明の組成物による治療の前、治療と同時、又は治療後に、手術、化学療法、化学療法剤、放射線療法、若しくはホルモン療法、又はこれらの組み合わせなどの癌に対する補完療法で被験体を治療することを含む、癌転移を治療する方法を提供する。
【0279】
化学療法剤には、細胞毒性剤(例えば、5-フルオロウラシル、シスプラチン、カルボプラチン、メトトレキサート、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、オキソルビシン、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、シタラビンUSP、シクロホスファミド、エストラムシンリン酸ナトリウム、アルトレタミン、ヒドロキシ尿素、イホスファミド、プロカルバジン、マイトマイシン、ブスルファン、シクロホスファミド、ミトキサントロン、カルボプラチン、シスプラチン、インターフェロンアルファ2a組換え体、パクリタキセル、テニポシド、ストレプトゾシン)、細胞毒性アルキル化剤(例えば、ブスルファン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、エチルスルホン酸)、アルキル化剤(例えば、アサレー、AZQ、BCNU、ブスルファン、ビスルファン、カルボキシフタラトプラチナ、CBDCA、CCNU、CHIP、クロラムブシル、クロロゾトシン、シスプラチナ、クロメソン、シアノモルフォリノドキソルビシン、シクロジゾン、シクロホスファミド、ジアンヒドロガラクチトール、フルオロドパン、ヘプスルファム、ヒカントン、イホスファミド、メルファラン、メチルCCNU、マイトマイシンC、ミトゾラミド、ナイトロジェンマスタード、PCNU、ピペラジン、ピペラジンジオン、ピポブロマン、ポルフィロマイシン、スピロヒダントインマスタード、ストレプトゾトシン、テロキシロン、テトラプラチン、チオテパ、トリエチレンメラミン、ウラシルナイトロジェンマスタード、及びヨシ864)、抗有糸分裂剤(例えば、アロコルヒチン、ハリコンドリンM、コルヒチン、コルヒチン誘導体、ドラスタチン10、メイタンシン、リゾキシン、パクリタキセル誘導体、パクリタキセル、チオコルヒチン、トリチルシステイン、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩)、植物アルカロイド(アクチノマイシンD、ブレオマイシン、L-アスパラギナーゼ、イダルビシン、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ミトラマイシン、マイトマイシン、ダウノルビシン、VP-16-213、VM-26、ナベルビン、及びタキソテール)、生物学的製剤(例えば、アルファインターフェロン、BCG、G-CSF、GM-CSF、インターロイキン2)、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、カンプトテシン、カンプトテシン誘導体、及びモルフォリノドキソルビシン)、トポイソメラーゼII阻害剤(例えば、ミトキサントロン、アモナフィド、m-AMSA、アントラピラゾール誘導体、ピラゾロアクリジン、ビサントレンHCL、ダウノルビシン、デオキシドキソルビシン、メノガリル、N,N-ジベンジルダウノマイシン、オキサントラゾール、ルビダゾン、VM-26、及びVP-16)、及び合成阻害剤(例えば、ヒドロキシ尿素、プロカルバジン、o,p’-DDD、ダカルバジン、CCNU、BCNU、シス-ジアミンジクロロプラチナム、ミトキサントロン、CBDCA、レバミゾール、ヘキサメチルメラミン、オールトランスレチノイン酸、グリアデル、及びポルフィマーナトリウム)が含まれる。
【0280】
抗増殖剤は、細胞の増殖を減少させる化合物である。抗増殖剤には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、酵素、生物学的応答修飾剤、雑多な薬剤、ホルモン及び拮抗剤、アンドロゲン阻害剤(例えば、フルタミド及び酢酸ロイプロリド)、抗エストロゲン剤(例えば、クエン酸タモキシフェン及びその類似体、トレミフェン、ドロロキシフェン、及びロロキシフェン)が含まれる。特定の抗増殖剤のさらなる例には、限定されるものではないが、レバミゾール、硝酸ガリウム、グラニセトロン、サルグラモスチムストロンチウム-89塩化物、フィルグラスチム、ピロカルピン、デクスラゾキサン、及びオンダンセトロンが含まれる。
【0281】
本発明の化合物は、単独で、又は細胞毒性/抗腫瘍剤及び抗血管新生剤を含む他の抗腫瘍剤と組み合わせて投与することができる。細胞毒性/抗腫瘍剤は、癌細胞を攻撃して殺傷する薬剤として定義される。一部の細胞毒性/抗腫瘍剤はアルキル化剤であり、腫瘍細胞内の遺伝物質をアルキル化する。例としては、シスプラチン、シクロホスファミド、ナイトロジェンマスタード、トリメチレンチオホスホラミド、カルムスチン、ブスルファン、クロラムブシル、ベルスチン、ウラシルマスタード、クロマファジン、ダカバジンがある。その他の細胞毒性/抗腫瘍剤は、腫瘍細胞の代謝拮抗剤であり、例としては、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトピリン、アザチオプライム、及びプロカルバジンがある。その他の細胞毒性/抗腫瘍剤としては、抗生物質、例えばドキソルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、マイトマイシンC、及びダウノマイシンがある。これらの化合物については、多数のリポソーム製剤が市販されている。さらにその他の細胞毒性/抗腫瘍剤としては、有糸分裂阻害剤(ビンカアルカロイド)がある。これらには、ビンクリスチン、ビンブラスチン、及びエトポシドが含まれる。その他の細胞毒性/抗腫瘍剤としては、タキソール及びその誘導体、L-アスパラギナーゼ、抗腫瘍抗体、ダカルバジン、アザシチジン、アムサクリン、メルファラン、VM-26、イホスファミド、ミトキサントロン、及びビンデシンが含まれる。
【0282】
抗血管新生剤は、当業者によく知られている。本発明の方法及び組成物で使用するのに適した抗血管新生剤としては、ヒト化抗体及びキメラ抗体を含む抗VEGF抗体、抗VEGFアプタマー、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。血管新生の他の既知の阻害剤としては、アンジオスタチン、エンドスタチン、インターフェロン、インターロイキン1(アルファ及びベータを含む)、インターロイキン12、レチノイン酸、ならびにメタロプロテイナーゼ-1及び-2の組織阻害剤(TIMP-1及び-2)が含まれる。抗血管新生活性を有するトポイソメラーゼII阻害剤であるラゾキサンなどのトポイソメラーゼを含む小分子も使用することができる。
【0283】
本発明の組成物と組み合わせて使用することができる他の抗癌剤には、限定されるものではないが、以下が含まれる:アシビシン、アクラルビシン、塩酸アコダゾール、アクロニン、アドゼレシン、アルデスロイキン、アルトレタミン、アンボマイシン、酢酸アメタントロン、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナストロゾール、アントラマイシン、アスパラギナーゼ、アスペルリン、アザシチジン、アゼテパ、アゾトマイシン、バチマスタット、ベンゾデパ、ビカルタミド、塩酸ビスサントレン、ジメシル酸ビスナフィド、ビゼレシン、硫酸ブレオマイシン、ブレキナルナトリウム、ブロピリミン、ブスルファン、カクチノマイシン、カルストロン、カラセミド、カルベチマー、カルボプラチン、カルムスチン、塩酸カルビシン、カルゼレシン、セデフィンゴール、クロラムブシル、シロレマイシン、シスプラチン、クラドリビン、メシル酸クリスナトール、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、塩酸ダウノルビシン、デシタビン、デキソルマプラチン、デザグアニン、メシル酸デザグアニン、ジアジコン、ドセタキセル、ドキソルビシン、塩酸ドキソルビシン、ドロロキシフェン、クエン酸ドロロキシフェン、ドロモスタノロンプロピオン酸エステル、デュアゾマイシン、エダトレキサート、塩酸エフロルニチン、エルサミトルシン、エンロプラチン、エンプロマート、エピプロピジン、塩酸エピルビシン、エルブロゾール、塩酸エソルビシン、エストラムスチン、エストラムスチンリン酸ナトリウム、エタニダゾール、エトポシド、エトポシドリン酸エステル、エトプリン、塩酸ファドロゾール、ファザラビン、フェンレチニド、フロクスウリジン、リン酸フルダラビン、フルオロウラシル、フルオロシタビン、ホスキドン、ホストリエシンナトリウム、ゲムシタビン、塩酸ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、塩酸イダルビシン、イホスファミド、イルモホシン、インターロイキンII(組み換えインターロイキンIIすなわちrIL2を含む)、インターフェロンアルファ2a、インターフェロンアルファ2b、インターフェロンアルファn1、インターフェロンアルファn3、インターフェロンベータ-Ia、インターフェロンガンマ-Ib、イプロプラチン、塩酸イリノテカン、酢酸ランレオチド、レトロゾール、酢酸ロイプロリド、塩酸リアロゾール、ロメトレキソールナトリウム、ロムスチン、塩酸ロソキサントロン、マソプロコール、メイタンシン、塩酸メクロレタミン、酢酸メゲストロール、酢酸メレンゲストロール、メルファラン、メノガリル、メルカプトプリン、メトトレキサート、メトトレキサートナトリウム、メトプリン、メトゥレデパ、ミチンドミド、マイトカルシン、ミトクロミン、ミトギリン、ミトマルシン、マイトマイシン、ミトスパー、ミトタン、塩酸ミトキサントロン、ミコフェノール酸、ノコダゾール、ノガラマイシン、オルマプラチン、オキシスラン、パクリタキセル、ペガスパルガーゼ、ペリオマイシン、ペンタムスチン、硫酸ペプロマイシン、ペルホスファミド、ピポブロマン、ピポスルファン、塩酸ピロキサントロン、プリカマイシン、プロメスタン、ポルフィマーナトリウム、ポルフィロマイシン、プレドニムスチン、塩酸プロカルバジン、ピューロマイシン、塩酸ピューロマイシン、ピラゾフリン、リボプリン、ログレチミド、サフィンゴール、塩酸サフィンゴール、セムスチン、シムトラゼン、スパルホサートナトリウム、スパルソマイシン、塩酸スピロゲルマニウム、スピロムスチン、スピロプラチン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、スロフェヌール、タリソマイシン、テコガランナトリウム、テガフール、塩酸テロキサントロン、テモポルフィン、テニポシド、テロキシロン、テストラクトン、チアミプリン、チオグアニン、チオテパ、チアゾフリン、チラパザミン、クエン酸トレミフェン、酢酸トレストロン、トリシリビンリン酸エステル、トリメトレキサート、トリメトレキサートグルクロン酸エステル、トリプトレリン、塩酸ツブロゾール、ウラシルマスタード、ウレデパ、バプレオチド、ベルテポルフィン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ビンデシン、硫酸ビンデシン、硫酸ビネピジン、硫酸ビングリシン、硫酸ビンロイロシン、酒石酸ビノレルビン、硫酸ビンロシジン、硫酸ビンゾリジン、ボロゾール、ゼニプラチン、ジノスタチン、塩酸ゾルビシン。その他の抗癌剤には、限定されるものではないが、以下が含まれる:20-エピ-1,25-ジヒドロキシビタミンD3、5-エチニルウラシル、アビラテロン、アクラルビシン、アシルフルベン、アデシペノール、アドゼレシン、アルデスロイキン、ALL-TK拮抗薬、アルトレタミン、アンバムスチン、アミドックス、アミフォスチン、アミノレブリン酸、アムルビシン、アムサクリン、アナグレリド、アナストロゾール、アンドログラフォリド、血管新生阻害剤、拮抗薬D、拮抗薬G、アンタレリクス、抗背側形成タンパク質-1、抗アンドロゲン、前立腺癌、抗エストロゲン、抗新生物薬、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アフィジコリングリシネート、アポトーシス遺伝子調節薬、アポトーシス制御薬、アプリン酸、ara-CDP-DL-PTBA、アルギニンデアミナーゼ、アスラクリン、アタメスタン、アトリムスチン、アキシナスタチン1、アキシナスタチン2、アキシナスタチン3、アザセトロン、アザトキシン、アザチロシン、バッカチンIII誘導体、バラノール、バチマスタット、BCR/ABL拮抗薬、ベンゾクロリン、ベンゾイルスタウロスポリン、ベータラクタム誘導体、ベータアレチン、ベータクラマイシンB、ベツリン酸、bFGF阻害剤、ビカルタミド、ビサントレン、ビスアジリジニルスペルミン、ビスナフィド、ビストラテンA、ビゼレシン、ブレフレート、ブロピリミン、ブドチタン、ブチオニンスルホキシミン、カルシポトリオール、カルホスチンC、カンプトテシン誘導体、カナリア痘IL-2、カペシタビン、カルボキサミドアミノトリアゾール、カルボキシアミドトリアゾール、CaRestM3、CARN700、軟骨由来阻害剤、カルゼレシン、カゼインキナーゼ阻害剤(ICOS)、カスタノスペルミン、セクロピンB、セトロレリックス、クロリン、クロロキノキサリンスルホンアミド、シカプロスト、シス-ポルフィリン、クラドリビン、クロミフェン類似体、クロトリマゾール、コリスマイシンA、コリスマイシンB、コンブレタスタチンA4、コンブレタスタチン類似体、コナゲニン、クランベシジン816、クリスナトール、クリプトフィシン8、クリプトフィシンA誘導体、キュラシンA、シクロペンタントラキノン、シクロプラタム、シペマイシン、シタラビンオクホスフェート、細胞溶解因子、サイトスタチン、ダクリキシマブ、デシタビン、デヒドロジデムニンB、デスロレリン、デキサメタゾン、デキシホスファミド、デクスラゾキサン、デクスベラパミル、ジアジコン、ジデムニンB、ジドックス、ジエチルノルスペルミン、ジヒドロ-5-アザシチジン、ジヒドロタキソール(9-)、ジオキサマイシン、ジフェニルスピロムスチン、ドセタキセル、ドコサノール、ドラセトロン、ドキシフルリジン、ドロロキシフェン、ドロナビノール、デュオカルマイシンSA、エブセレン、エコムスチン、エデルホシン、エドレコロマブ、エフロルニチン、エレメン、エミテフル、エピルビシン、エプリステリド、エストラムスチン類似体、エストロゲン作動薬、エストロゲン拮抗薬、エタニダゾール、エトポシドリン酸、エキセメスタン、ファドロゾール、ファザラビン、フェンレチニド、フィルグラスチム、フィナステリド、フラボピリドール、フレゼラスチン、フルアステロン、フルダラビン、塩酸フルオロダウノルニシン、フォルフェニメクス、フォルメスタン、ホストリエシン、フォテムスチン、ガドリニウムテキサフィリン、硝酸ガリウム、ガロシタビン、ガニレリクス、ゼラチナーゼ阻害剤、ゲムシタビン、グルタチオン阻害剤、ヘプスルファム、ヘレグリン、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ヒペリシン、イバンドロン酸、イダルビシン、イドキシフェン、イドラマントン、イルモホシン、イロマスタット、イミダゾアクリドン、イミキモド、免疫刺激ペプチド、インスリン様成長因子-1受容体阻害剤、インターフェロン作動薬、インターフェロン、インターロイキン、イオベングアン、ヨードドキソルビシン、イポメアノール(4-)、イロプラクト、イルソグラジン、イソベンガゾール、イソホモハリコンドリンB、イタセトロン、ジャスプラキノリド、カハラリドF、ラメラリン-Nトリアセテート、ランレオチド、レイナマイシン、レノグラスチム、硫酸レンチナン、レプトルスタチン、レトロゾール、白血病抑制因子、白血球アルファインターフェロン、ロイプロリド+エストロゲン+プロゲステロン、ロイプロレリン、レバミゾール、リアロゾール、直鎖ポリアミン類似体、親油性二糖ペプチド、親油性白金化合物、リソクリナミド7、ロバプラチン、ロンブリシン、ロメトレキソール、ロニダミン、ロソキサントロン、ロバスタチン、ロキソリビン、ルルトテカン、ルテチウムテキサフィリン、リソフィリン、溶解ペプチド、マイタンシン、マンノスタチンA、マリマスタット、マソプロコール、マスピン、マトリライシン阻害剤、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤、メノガリル、メルバロン、メテレリン、メチオニナーゼ、メトクロプラミド、MIF阻害剤、ミフェプリストン、ミルテホシン、ミリモスチム、不一致二本鎖RNA、ミトグアゾン、ミトラクトール、マイトマイシン類似体、ミトナフィド、マイトトキシン線維芽細胞増殖因子サポリン、ミトキサントロン、モファロテン、モルグラモスチム、モノクローナル抗体、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、モノホスホリル脂質A+ミオバクテリウム細胞壁sk、モピダモール、多剤耐性遺伝子阻害剤、多発性腫瘍抑制因子1に基づく療法、マスタード抗癌剤、マイカペルオキシドB、結核菌細胞壁抽出物、ミリアポロン、N-アセチルジナリン、N-置換ベンズアミド、ナファレリン、ナグレスチップ、ナロキソン+ペンタゾシン、ナパビン、ナフテルピン、ナルトグラスチム、ネダプラチン、ネモルビシン、ネリドロン酸、中性エンドペプチダーゼ、ニルタミド、ニサマイシン、一酸化窒素調節剤、ニトロキシド抗酸化剤、ニトルリン、O6-ベンジルグアニン、オクトレオチド、オキセノン、オリゴヌクレオチド、オナプリストン、オンダンセトロン、オラシン、経口サイトカイン誘導剤、オルマプラチン、オサテロン、オキサリプラチン、オキサウノマイシン、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、パクリタキセル誘導体、パラウアミン、パルミトイルリゾキシン、パミドロン酸、パナキシトリオール、パノミフェン、パラバクチン、パゼリプチン、ペガスパルガーゼ、ペルデシン、ペントサンポリ硫酸ナトリウム、ペントスタチン、ペントロゾール、パーフルブロン、パーホスファミド、ペリリルアルコール、フェナジノマイシン、フェニル酢酸、ホスファターゼ阻害剤、ピシバニル、塩酸ピロカルピン、ピラルビシン、ピリトレキシム、プラセチンA、プラセチンB、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤、白金錯体、白金化合物、白金トリアミン錯体、ポルフィマーナトリウム、ポルフィロマイシン、プレドニゾン、プロピルビスアクリドン、プロスタグランジンJ2、プロテアソーム阻害剤、プロテインAベースの免疫調節剤、プロテインキナーゼC阻害剤、微細藻類由来タンパク質キナーゼC阻害剤、プロテインチロシンホスファターゼ阻害剤、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ阻害剤、プルプリン、ピラゾロアクリジン、ピリドキシル化ヘモグロビンポリオキシエチレン複合体、raf拮抗薬、ラルチトレキセド、ラモセトロン、rasファルネシルタンパク質転移酵素阻害剤、ras阻害剤、ras-GAP阻害剤、脱メチル化レテリプチン、レニウムRe186エチドロン酸、リゾキシン、リボザイム、RIIレチナミド、ログレチミド、ロヒツカイン、ロムルチド、ロキニメクス、ルビジノンB1、ルボキシル、サフィンゴール、サントピン、SarCNU、サルコフィトールA、サルグラモスチム、Sdi1模倣物、セムスチン、老化誘導阻害剤1、センスオリゴヌクレ
オチド、シグナル伝達阻害剤、シグナル伝達調節剤、単鎖抗原結合タンパク質、シゾフラン、ソブゾキサン、ボロカプテートナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、ソルベロール、ソマトメジン結合タンパク質、ソネルミン、スパルフォス酸、スピカマイシンD、スピロムスチン、スプレノペンチン、スポンジスタチン1、スクアラミン、幹細胞阻害剤、幹細胞分裂阻害剤、スティピアミド、ストロメリシン阻害剤、スルフィノシン、超活性血管作動性腸管ペプチド拮抗薬、スラジスタ、スラミン、スワインソニン、合成グリコサミノグリカン、タリムスチン、タモキシフェンメチオジド、タウロムスチン、タザロテン、テコガランナトリウム、テガフール、テルラピリリウム、テロメラーゼ阻害剤、テモポルフィン、テモゾロミド、テニポシド、テトラクロロデカオキシド、テトラゾミン、タリブスチン、チオコラリン、トロンボポエチン、トロンボポエチン模倣物、チマルファシン、チモポエチン受容体作動薬、チモトリナン、甲状腺刺激ホルモン、スズエチルエチオプルプリン、チラパザミン、二塩化チタノセン、トプセンチン、トレミフェン、全能性幹細胞因子、翻訳阻害剤、トレチノイン、トリアセチルウリジン、トリシリビン、トリメトレキサート、トリプトレリン、トロピセトロン、ツロステリド、チロシンキナーゼ阻害剤、チルホスチン、UBC阻害剤、ウベニメクス、尿生殖洞由来増殖阻害因子、ウロキナーゼ受容体拮抗薬、バプレオチド、バリオリンB、ベクターシステム、赤血球遺伝子治療、ベラレゾール、ベラミン、ベルジン、ベルテポルフィン、ビノレルビン、ビンキサルチン、ビタキシン、ボロゾール、ザノテロン、ゼニプラチン、ジラスコルブ、及びジノスタチンスティマラマーが含まれる。1つの実施態様において、抗癌剤は、5-フルオロウラシル、タキソール、又はロイコボリンである。
【0284】
本発明は、以下の実施例でさらに説明される。これらの実施例は、本発明の例示的な実施態様を示すが、例示のみを目的としていることを理解されたい。上記の説明及びこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的な特徴を確認することができ、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明をさまざまな用途及び条件に適合させるために、本発明にさまざまな変更及び修正を加えることができる。従って、本明細書に示され、記載されたものに加えて、本発明のさまざまな修正は、前述の説明から当業者には明らかであろう。このような修正も、添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0285】
実験例
本発明は、以下の実験例を参照してさらに詳細に説明される。これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、他に明記されない限り、限定を意図するものではない。従って、本発明は、決して以下の実施例に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになるあらゆる変形を包含するものと解釈されるべきである。
【0286】
さらなる説明がなくても、当業者であれば、前述の説明及び以下の例示的な実施例を使用して、本発明を実施及び利用し、請求された方法を実施できると考えられる。従って、以下の実施例は、開示の残りの部分をいかなる形でも制限するものと解釈されるべきではない。
【0287】
実施例1:先天性免疫及び獲得免疫を介するFSHRを標的とする卵巣癌の免疫療法
FSHRに対するモノクローナル抗体が開発され、これらの試薬の中で最も強力なものに注目した実験が計画された。抗FSHR抗体は、複数のFSHRを発現する卵巣漿液性及び明細胞腺癌細胞に結合し、その特異性を確立した。これをツールとして利用して、FSHRを標的とする二重特異性T細胞エンゲージャー(DDAP TCE)を開発し、卵巣癌(OC)の治療のための治療モデルにおいてこの二重特異性エンゲージャーを評価する実験が計画された。ヒトPBMCの存在下のDDAP TCEは、FSHR陽性卵巣腫瘍株の殺傷に対して極めて特異性が高かった。免疫系の先天性構成要素を関与させることは、潜在的に腫瘍の制御を強化する可能性があると考えられる。OCがナチュラルキラー(NK)細胞の攻撃を受けやすいことを示唆する証拠が増えているため、ヒトNK細胞に存在する阻害性受容体であるヒトSiglec7に対する抗体が開発され、NK細胞へのこれらの結合が証明された。これらを使用して、Siglec7とFSHRの両方(DDAP NKCE)を同時に標的とする新しいクラスの二重特異性NK細胞エンゲージャー(NKCE)を作成する実験が計画された。このNKCEは、インビトロ及びインビボアッセイでFSHR陽性OC標的を強力に殺傷した。これらの試験は、OCの主要なサブセットに対してFSHRを標的とすることの有用性、FSHRとCD3に注目した二重特異性ツールが非常に免疫力が高いこと、OC又はヒト腫瘍、及び多様なOC集団に対する二重特異性エンゲージャーによるNK細胞活性化の新しい標的に対するSiglec7抗体のインビボの影響を初めて証明している。T細胞とNK細胞の両方を関与させる組み合わせ試験は、OCの治療のための新しいツールとして興味深いと思われる。
【0288】
方法と材料についてここで説明する。
【0289】
細胞株と動物
ID8-Defb29/Vegf-a-Fshr、ID8-Defb29/Vegf-a、OVCAR3、CaOV3、TOV-21G、及びSKOV3細胞は、J.R. Conejo-Garcia (Department of Immunology, Moffitt Cancer Center, Tampa, Florida) から提供された。OVISE、OVCAR8、OVCAR10、PEO-4、及びKuramochi細胞は、R. Zhang (The Wistar Institute) から提供された。HaCaTヒトケラチン生成細胞は、M. Herlyn (The Wistar Institute) から提供された。ヒト胎児腎臓293T、Expi293F、及びマウス骨髄腫細胞株Sp2.0/0は、ATCCから入手した。293T細胞はSiglec7を発現するように、レトロウイルスで形質導入した。OVCAR3細胞とKuramochi細胞は、既に説明されているように(Perales-Puchalt et al., 2019, JCI Insight 4)、FSHRを発現するようにヒトFSHRをレトロウイルスで形質導入した。K562とA20もATCCから購入し、それぞれヒト及びマウスFSHRを発現するように、レトロウイルスで形質導入した。発現ベクターpBMN-I-GFP(Nolan Lab製)はAddgeneから購入した。
【0290】
トランスジェニックH2L2マウスはHarbor Biomedから入手した。Balb/cマウスは The Jackson Laboratory から購入した。NSGマウスは The Wistar Institute Animal Facility から購入した。
【0291】
マウスの免疫、ハイブリドーマの生成、及びDNAにコードされたmAbの生成
ヒトFSHR(Uniprot P23945)は、マウスでの発現用にRNAとコドンを最適化し、改変されたpVax1ベクター(Genscript)にクローニングした。FSHRハイブリドーマの生成のために、Balb/cマウスに、30μlの水に再懸濁した25μgのDNAを前脛骨筋に注入し、続いてCELLECTRAデバイス(Inovio Pharmaceuticals)で電気穿孔して免疫しした。50%ポリエチレングリコール1500(Roche)を使用して、マウス骨髄腫細胞株Sp2.0/0を脾臓細胞と融合してハイブリドーマを生成した。
【0292】
ヒトSiglec7に対するいくつかのヒト化抗体がH2L2マウスで生成された。これらのmAbはSiglec7に結合し、NK細胞を染色することができた。これらのハイブリドーマは配列決定され、インビトロ発現のツールとしてSiglec7 DNAでコードされたモノクローナル抗体(DMAb)の開発に使用された(Patel et al., 2018, Cell Rep 25: 1982-93 e4)。最終的なヒトIgG1 HC及びLCは、記載されているように(Patel et al., 2018, Cell Rep 25: 1982-93 e4)、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーター及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリAシグナルの制御下で、pVax1プラスミド発現ベクターに挿入された。次に、プラスミドをExpifectamine 293 発現キット(Thermo Fisher Scientific)を使用してExpi293F細胞にトランスフェクションし、組み換え抗体を生成した。組み換え抗体の純度と見かけの分子量は、SDS-PAGE分析によって評価された。
【0293】
FSHRxCD3 TCE及びFSHRxSiglec7 NKCEの設計
FSHR MAb(DDAP)のコドン最適化scFvに続いてIgEリーダー配列を追加した改変UCHT1抗ヒトCD3抗体のscFvをコード化することにより、FSHRxCD3 DNAでコードされた二重特異性T細胞エンゲージャー(TCE)を設計するように、実験を組み立てた。Siglec7 MAb(DB-S7-2)のコドン最適化scFvを、次に強化性最適化IgEリーダー配列を追加されたFSHR抗体(DDAP)のscFvをコード化することにより、FSHRxSiglec7ナチュラルキラー細胞エンゲージャー(NKCE)を設計した。両方の構築物を、改変pVax1発現ベクターにサブクローニングした(Perales-Puchalt et al., 2019, Mol Ther 27: 314-25)。FSHRxCD3 TCE及びFSHRxSiglec7 NKCEは、以下、それぞれDDAP-TCE及びDDAP-NKCEと表記する。
【0294】
フローサイトメトリー
細胞の染色にはBD LSRIIフローサイトメーターを使用した。Siglec7/FSHRを安定発現している細胞の選別には、BD FACS Aria セルソーター(BD Biosciences)を使用した。使用した抗ヒト抗体は、直接蛍光色素が結合したものである。使用した抗体は、抗Siglec7(F023-420、BD Pharmingen)、抗Siglec3(6C5/2、R&D Systems)、抗Siglec9(KB, Biolegend)である。非結合一次抗体には、PE-二次抗ヒト(H+L)(Invitrogen)、PE/AF647-二次抗ヒトF(ab’)2(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)、及びAPC-二次抗マウスIgG(Poly4053、BioLegend)を使用した。死細胞を分析から除外するために、Live/Dead Violet生存率キット(Invitrogen)を使用した。
【0295】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
DDAPのアイソタイプ型判定には、ELISAプレートをPBS中のDDAPで一晩コーティングした。次に、プレートをブロッキングし、以下のHRP結合抗体を加えた:抗マウスIgA、抗マウスIgM、抗マウスIgG1、抗マウスIgG2a、抗マウスIgG2b、抗マウスIgG3、抗マウスカッパ軽鎖(すべてBethyl製)。
【0296】
Siglec7 DMAbをトランスフェクションしたexpi293F並びにSiglec7 DMAbを電気穿孔したマウス血清中のヒトIgGの定量のため、MaxiSorpプレートを10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG Fc(Bethyl)で4℃で一晩コーティングした。プレートを洗浄し、5%ミルクを含むPBS-T(PBSに0.05%ツイーン20を含む)で室温で2時間ブロッキングした。プレートを洗浄し、0.2%ツイーン20を含有するPBSに1%NCSで希釈した試料を加え、37℃で2時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、HRP結合ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体(Bethyl)の1:10,000希釈液で室温で1時間インキュベートした。プレートをSigmaFast OPDで5~10分間発色させ、OD450シグナルを測定した。
【0297】
サイクリックAMPの測定
25,000個のK562又はK562-hFSHR細胞を96ウェルプレートに播種した。細胞を温かいPBSで2回洗浄し、次にDDAP抗体有り又は無しで0.5mMのIBMX(Cayman chemicals)を含む100μlの無血清RPMIに再懸濁した。37℃で30分間インキュベートした後、FSH(50ng/ml又は1μg/ml)又はPBSを加えた。1時間後、細胞を氷冷PBSで洗浄し、溶解し、製造業者の説明書(Cell Signaling)に従ってサイクリックAMPの測定を実施した。
【0298】
免疫ブロッティング
タンパク質抽出、変性、及びウェスタンブロッティングを、前述のとおりに実施した(Tesoneetal., 2016)。膜を、以下の抗体を用いてブロットした:抗ホスホ-p44/42MAPK(Erk1/2)(Thr202/Tyr204)(#9101、Cell Signaling)、抗p44/42MAPK(Erk1/2)(クローン137F5、Cell Signaling)、抗LHCGR(クローン8G9A2、Abcam)、及び抗β-アクチン(A5441、Sigma-Aldrich)。画像を、ImageQuantLAS 4000(GE Healthcare Life Sciences)でキャプチャーした。
【0299】
ルシフェラーゼ発現の測定によるインビトロ細胞毒性分析
ウェルあたり10,000個のOVCAR3細胞を96ウェルプレートに播種し、18時間後、一次末梢血単核細胞(PBMC)を加えた。4時間の共インキュベーション後、細胞を7AAD(Invitrogen)、アネキシンV(Biolegend)、及び抗ヒトCD45(Biolegend)で染色し、次に、既に説明したようにフローサイトメトリーベースの細胞毒性測定法を実施した(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)。ホタルルシフェラーゼでK562及びK562-FSHRを安定的にトランスフェクションする実験を実施した。ルシフェラーゼを発現する20,000個のK562及びK562-FSHRを96ウェルプレートに播種し、PBMCと5時間共インキュベートした。インキュベーション後、細胞を溶解し、CytoTox Glo(Promega)を使用して、前述のとおりルシフェラーゼ発現を測定した(Zhang et al., 2009, Cancer Res 69: 6506-14)。細胞毒性は、(最大生存率対照-個々のウェル)/(最大生存率対照-最大死亡対照)×100として計算され、パーセント又は対照(マウスIgG2aアイソタイプ対照C1.18.4を含むPBMC)に対する相対値として計算された。
【0300】
xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを使用するインビトロ細胞毒性分析
xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置(RTCA)(Agilent Technologies, USA)を使用して、インピーダンスに基づいてインビトロ細胞毒性測定法を実施した。インピーダンスは、細胞指数と呼ばれる任意の単位で表される(Durdagi et al., 2021, Mol Ther 30:963-974)。標的細胞は、xCELLigenceRTCA装置の使い捨て無菌96ウェルEプレートに、ウェルあたり1×104~2×104細胞の最終細胞濃度で播種した。実験中、装置をCO2インキュベーター内に配置し、制御ユニットに接続されたケーブルによって制御した。96ウェルEプレートはxCELLigenceRTCA装置に配置し、18~24時間インキュベートした。次に、エフェクター細胞(ヒトPBMC;E(エフェクター):T(標的)比=5:1/10:1)及び処理物(抗体/TCE/NKCE)を添加した。リアルタイム分析は3~7日間実施した。電気伝導率は、xCELLigence装置によって15分ごとに単位のない細胞指数(CI)パラメータに変換し、画像は1時間間隔でキャプチャーした。生成されたデータは、エフェクター細胞と抗体/TCE/NKCEを標的細胞に添加した時点に基づいて正規化し、RTCA/RTCA Proソフトウェアを使用して分析した。
【0301】
免疫組織化学及び免疫細胞化学
マウスの腫瘍をOCT(TissueTek)で凍結し、凍結切片を切断した。293Tをポリ-L-リジンでコーティングされたカバースライド(Sigma)上で増殖させ、ヒト又はマウスのFSHR発現ベクターを使用してトランスフェクションした。次に、スライドを4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中の0.5%トリトンX-100で透過処理した。切片を5%の正常ヤギ血清を使用してブロッキングし、DDAP抗体で染色し、次にヒト又はマウスIgGに特異的なAF647結合二次抗体(Invitrogen)で染色した。スライドは、Leica TCS SP-5共焦点顕微鏡とLeica LAS-Xソフトウェア(免疫組織化学)、又はNikon ECLIPSE 80i顕微鏡とNIS-Element Imaging(免疫組織化学)を使用して表示した。
【0302】
ウェスタンブロット分析
Siglec7 DMAbのインビトロ及びインビボ発現を実証するために、抗体をコードするDNAをExpi293F細胞にトランスフェクションした後に収集した上清、又はSiglec7 DMAbで免疫したマウスから収集した血清を、熱不活化し、還元し、Odyssey タンパク質分子量(LI-COR)とともにロードした。電気泳動後、試料をiBlot-2システム(Thermo Fisher Scientific)を介してポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写し、Odyssey ブロッキング緩衝液(LI-COR)を使用してブロッキングした。重鎖と軽鎖は、ヤギ抗ヒト二次抗体(LI-COR)を使用して検出した。二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャーの発現は、ヤギ抗ヒトIgGF(ab’)2(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)とそれに続くロバ抗ヤギ抗体(LICOR)を使用して検出した。
【0303】
免疫蛍光(IFA)分析:
Siglec7を形質導入したHEK293T細胞を2ウェルチャンバースライドに播種し、細胞を一晩接着させた。細胞をPBS中の0.5%トリトン100を使用して透過処理し、続いて5%ヤギ血清を使用してブロッキングした。次に、一次抗体(二重特異性)を添加し、4℃で一晩インキュベートした。次に、スライドをヤギ抗ヒトH+L(テキサスレッド結合)二次抗体とともにインキュベートした。核染色は4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を使用して実施した。試料をFluoroshield封入剤(Invitrogen)を使用してガラススライドにマウントし、Leica TCS SP8 WLL走査型レーザー共焦点顕微鏡を使用して観察した。
【0304】
サイトカイン分泌プロフィール分析:
OVCAR3-FSHR(標的)細胞を1×104細胞/ウェルの密度で播種した。一晩インキュベートした後、PBMC(エフェクター細胞;E:T=5:1)とDDAP-NKCE又はpVax1を標的細胞に加えた。48時間後、上清を収集し、製造業者のプロトコールに従ってLEGENDplex(商標)ヒトCD8/NKPanel(13重)多重ビーズベースの測定法(Biolegend)で分泌されたサイトカインを分析した。
【0305】
腫瘍の攻撃投与:
NOD/SCID-γ(NSG)マウスに、OVISE細胞とOVCAR3-FSHR細胞を攻撃投与した。0.8×106個のOVISE細胞(PBS及びマトリゲル中;1:1)を右脇腹に皮下注射した。腫瘍移植の7日後、腫瘍が触知できるようになった時点で、マウスをpVax1(100μg)又はSiglec7 DMAb(50μgHC+50μgLC)で処理した。発現ベクターを投与した同じ日に、7×106個のPBMCを各マウスの腹腔内に注入した。マウスに1週間空けて3回接種した。腫瘍の大きさをノギス測定により定期的に追跡した。移植片対宿主病(GVHD)の兆候が現れた時点でマウスを安楽死させた。腫瘍の体積(V)は、V=[(長さ×幅2)]/2という式で計算した。幅は測定値の小さい方である。
【0306】
OVCAR3-FSHR攻撃投与モデルでは、NSGマウスの右脇腹に、FSHRを発現する3×106個のOVCAR3又はOVCAR3-FSHR細胞を皮下注射した。腫瘍が触知可能になった3日後、マウスにpVax1(100μg)又はDDAP-TCE(100μg)又はDDAP-NKCE(100μg)を接種した。発現ベクターを投与した同じ日に、10×106個のPBMCを各マウスの腹腔内に注射した。マウスは1週間空けて2回接種し、それ以降は上記と同じ操作を続けた。動物実験は、ウィスター研究所の動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee at The Wistar Institute)によって承認された。健康なドナーからのヒトPBMCは、ペンシルバニア大学のヒト免疫学コア(Human Immunology Core)から提供された。
【0307】
統計解析
すべての統計解析は、Graph Pad Prismを使用して実施した。p値<0.05は統計的に有意であると見なした。実験群の平均値間の差は、3つ以上の定量的変数が測定された対応のない両側スチューデントt検定又は一元配置分散分析を使用して計算した。エラーバーは平均値の標準誤差を表す。各時点の腫瘍サイズの比較は、フィッシャーの最小有意差(LSD)検定を用いる2元配置分散分析を使用して行った。
【0308】
ここで、結果を説明する。
【0309】
抗ヒトFSHR抗体の生成とフローサイトメトリースクリーニング
卵胞刺激ホルモン受容体(FSHR)は、卵巣癌(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)、前立腺癌(Mariani et al., 2006, J Urol 175: 2072-7)、及び癌の80%の新生血管(Radu et al., 2010, N Engl J Med 363: 1621-30)に存在する腫瘍関連抗原である。FSHRは、7つの膜貫通ドメインを有するGタンパク質共役型受容体である(Fan and Hendrickson, 2005, Nature 433: 269-77)。この複雑な構造は、従来の抗原タンパク質アプローチにとって難しい課題となる。直接のインビボ免疫化のために、ヒトFSHRのコドン最適化配列を生成した(
図1A)。FSHR cDNAを、pBMN-I-GFP発現ベクターにサブクローニングし(
図1B)、DNA注入とそれに続くインビボ電気穿孔によってマウスに接種した。マウスを2週間ごとに免疫し、各免疫の1週間後に抗体レベルの分析のために血清を採取した(
図1C)。
【0310】
細胞膜に発現された未変性のFSHRに結合する抗FSHR抗体を検出するために、安定的に形質導入されたK562細胞が生成してヒトFSHR(K562-FSHR)が過剰発現させた。組み換えFSHRの正しい折り畳みと機能を実証するために、卵胞刺激ホルモン(FSH)に対するK562-FSHR細胞の応答を試験する実験を行った。K562-FSHRは、FSH刺激によりサイクリックAMPの産生とERKリン酸化を増加させたが、親K562では応答が見られなかった(
図1D及び
図1E)。
【0311】
免疫血清のFSHRへの結合能力を追跡するために、K562(GFP-)細胞とK562-FSHR(GFP+)細胞を等しい比率で混合し、1:1000まで希釈した血清を加え、続いて抗マウスIgG APC結合二次抗体を加え(
図9A及び9B)、野生型K562と比較してK562-FSHRの平均蛍光強度(MFI)倍数を測定した。1:1000希釈血清がMFIの20倍を超えた場合、前回の免疫から3週間後に、FSHR過剰発現A20細胞で追加免疫することにより最後の免疫を行った。追加免疫されたマウスを、記載されているように(Bordoloi et al., 2021, ACS Pharmacol Transl Sci 4: 1349-61; Choi et al., 2020, Hum Vaccin Immunother 16: 907-18)、4日後にハイブリドーマ生成のために殺処分した。
【0312】
融合から2週間後、15枚の96ウェルプレートからの上清をフローサイトメトリーでスクリーニングして、潜在的なハイブリドーマを分析した(
図9C)。MFI倍数に基づく上位20クローンを、さらなる分析のために増殖させた(
図9D)。高い結合特異性に基づいて、非常に強力なクローンが選択された。
【0313】
抗FSHR抗体は高い特異性でFSHRに結合する
DDAPは、FSHRを自発的に発現する卵巣癌細胞株に結合する(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53; Zhang et al., 2009, Cancer Res 69: 6506-14)。細胞株(CAOV3、OVCAR3、及びTOV-21G)はすべて、DDAP染色によってFSHRの予想される発現を示した(
図1F)。DDAPによって誘発されたシグナルがFSHRに対応していることをさらに確認するために、TOV-21G細胞株におけるFSHRのクリスパーによる欠失を実施した。DDAP抗体によるフローサイトメトリー染色は、FSHRノックアウト後のTOV-21G細胞株への結合が存在しないことが示した(
図1G)。FSHRの相同タンパク質であるLHCGR(配列相同性は、ECDで約46%及び7TMDで約72%)(Ulloa-Aguirre et al., 2018, Front Endocrinol (Lausanne) 9: 707)でトランスフェクションしたK562細胞が、フローサイトメトリー分析で交差反応を示さなかった(
図1H)ため、前記クローンはFSHRに対して極めて特異的であった。マウス疾患モデルは新しい治療法のインビボ有効性や安全性を研究するために重要であるため、DDAPがマウスFSHRにも結合できるかどうかをさらに試験するための実験を行った。マウスFSHRはマウス腫瘍株A20及びID8-Defb29/Vegf-aで発現され、トランスフェクション細胞と非トランスフェクション細胞へのDDAPの結合が、再度フローサイトメトリーによって試験された。DDAPはヒトFSHRと同様にマウスFSHRにうまく結合することが観察された(
図1I)。
【0314】
FSHR
+腫瘍細胞を検出するための抗FSHR抗体
生物学的試料からのタンパク質の免疫組織化学検出は、腫瘍やその他の標本からのタンパク質発現を判定し、予後又は治療目的でこれらをより適切に分類するための一般的な方法である。DDAPが免疫組織化学でFSHRを検出するかどうかを調べるために、NSG免疫不全マウスで固形腫瘍を生成した。腫瘍を生成するために、500万個のK562、K562-FSHR、OVCAR-3、又はTOV-21Gを、50%PBS/マトリゲル(Corning)中でNSGマウスの腋窩に注入した。DDAPは凍結腫瘍切片からFHSRを検出した(
図2A)。さらに、この抗体は免疫細胞化学分析でFSHRを染色するのに有用である。ヒト又はマウスのFSHR形質導入293T細胞をDDAPで染色した。DDAPは、ポリクローナル抗ヒト抗体と同様にヒト及びマウスのFSHRの両方に結合できたが、この活性を確認する模擬トランスフェクション293T細胞には結合できなかった(
図2B~D)。
【0315】
抗FSHR抗体は抗体依存性細胞毒性(ADCC)を誘発する
DDAPのアイソタイプを決定するために、ELISAを実施し、DDAPが、ADCCを誘発できるアイソタイプであるIgG2a(
図2E)であることが分かった(Akiyama et al., 1984, Cancer Res 44: 5127-31)。K562を用いてADCC能力を、FSHR有り又は無しで試験した。DDAPは、K562-FSHRに対してPBMCの細胞毒性を上昇させることができたが、K562に対しては上昇させることができなかった(
図2F及びG)。未改変のFSHR
+卵巣癌細胞株に対するADCCを誘発する能力を調べるために、DDAP又は無関係なIgG2a抗体の存在下で、OVCAR3細胞をPBMCと共培養した。卵巣癌細胞におけるFSHRの生理的発現レベルは、抗体の用量を増加させてDDAP媒介細胞毒性の標的となるのに十分であることが分かった(
図2H)。OVCAR3-FSHR細胞の殺傷活性もxCelligence測定法で評価され、FSHR過剰発現OVCAR3細胞の用量依存的殺傷を誘導することが分かった(
図2I)。従って、DDAPは、標的のFSHR
+細胞に対して中程度の活性で選択的に細胞毒性を誘発するために使用することができる。
【0316】
DDAP-TCEの生成、発現、及び細胞毒性
二重特異性T細胞エンゲージャーは、モノクローナル技術の分野における最近の重要な進歩を表している。DDAP抗FSHR抗体は初期レベルのADCCを示したため、この可能性を向上させるための実験が計画された。FSHRを標的とするTCE(DDAP-TCE)が計画された(Gary et al., 2021, iScience 24: 102699; Patel et al., 2018, Cell Rep 25: 1982-93 e4; Perales-Puchalt et al., 2019, Mol Ther 27: 314-25)。実験は、FSHR mAbのscFvを遺伝的に最適化し、抗CD3(改変UCHT1)をコードする最適化された配列のscFvと融合するように計画された(
図3A及びB)。DDAP-TCEは、DNAをExpi293F細胞にトランスフェクションすると、インビトロで効率的に発現された(
図3C)。この新しい二重特異性抗体は、天然のFSHR発現を持たないK562細胞への非特異的結合を示さず(
図3D)、K562-FSHR細胞への結合を維持した(
図3E)。FSHRへの結合は、CaOV3(
図3F)及びOVCAR3-FSHR細胞(
図3G)でさらに確認された。DDAP-TCE二重特異性抗体のCD3結合は、ヒト一次T細胞を用いて確認された(
図3H)。インビトロで発現したこの新しい二重特異性抗体の機能性を判定するために、DDAP-TCE上清又はOVCAR3-FSHROC細胞を含む培地のみを、インビトロでヒトPBMCと共培養し、腫瘍細胞クリアランスに対するリアルタイムxCELLigenceベースの殺傷測定法を使用して定量的に分析した。免疫細胞+DDAP-TCEとのインキュベーションは、OVCAR3-FSHR細胞に対する非常に強力な細胞毒性作用をもたらした。DDAP-TCE又はエフェクター細胞が存在しない場合、細胞毒性は見られなかった(
図3I)。
【0317】
抗ヒトSiglec7抗体の生成とスクリーニング
細胞株で発現されるヒトSiglec7と特異的に反応するmAbを産生するハイブリドーマを生成しスクリーニングした。Siglec7を標的とする3つのmAbを配列決定し、さらに詳しく調べた。DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7は強い細胞結合を示したが、抗Siglec3(6C5/2、R&D Systems)の場合は結合が見られなかった(
図10A)。これら3つの抗Siglec7抗体の特異性を実証するために、これらをSiglec9を過剰発現している293T細胞(293T-Siglec9)への結合について確認した。Siglec-9もSiglec-3/CD-33関連Siglecに属し、Siglec7と相同性(84%の類似性)を示す(Angata and Varki, 2000, J Biol Chem 275: 22127-35)。市販の抗Siglec9抗体(クローンK8, Biolegend)は、予想どおり293T-Siglec9細胞への結合を示したが、DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7抗Siglec7抗体クローンでは結合が見られず、抗Siglec7抗体の特異性が確認された(
図10B)。抗Siglec7抗体のヒトSiglec7への結合をさらに視覚化するために、293T-Siglec7固定細胞の高分解能共焦点イメージングを実施した。細胞を、DAPI(核)、GFP(Siglec7)、及びテキサスレッド(抗Siglec7)で標識した。
図10Cに示されるように、DB-S7-2はSiglec7に強く結合した;DB-S7-1とDB-S7-7もヒトSiglec7への結合を示したが、二次抗体対照のみでは結合は観察されなかった。
【0318】
ヒト抗Siglec7抗体の細胞毒性試験
抗Siglec7抗体がNK細胞の活性化によって細胞毒性を誘発する能力を確認するために、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置を使用してインピーダンスに基づくインビトロ細胞毒性測定法を実施した。標的細胞(A549、HaCaT、GMO5389、OVISE、OVCAR8、及びSKOV3)をxCELLigenceRTCAデバイスに配置し、18~24時間インキュベートした後、ヒトPBMCと抗Siglec7抗体を加えた。A549(肺腺癌細胞)、HaCaT(ヒトケラチン生成細胞)、及びGMO5389(ヒト線維芽細胞)のリアルタイム解析は、エフェクター細胞と抗体の添加後3日まで培養した場合、抗Siglec7抗体DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7の存在によって細胞毒性が誘発されないことが示された(
図4A、4C、及び4E)。エフェクター細胞と抗体を標的細胞に加えてから3日後にキャプチャーされた画像では、抗体なしの対照ウェルと比較して、抗体の存在下では殺傷が見られない(
図4B、4D、及び4F)。さまざまなヒトOC細胞で細胞毒性を評価すると、DB-S7-2は顕著な腫瘍細胞殺傷を誘発することができる。OVISE細胞及びSKOV3細胞の場合、抗体及びエフェクター細胞による処理から24時間以内に殺傷が観察されたのに対し、OVCAR8細胞の場合、DB-S7-2による殺傷は約30時間後に現れる。DB-S7-1及びDB-S7-7もOVISE、OVCAR8、及びSKOV3ヒト卵巣癌細胞の殺傷を誘発できたが、これらの試薬による殺傷作用はDB-S7-2ほど強力ではなかった(
図4G、4I、及び4K)。画像に示されるように、エフェクター細胞を添加してDB-S7-2で処理してから3日後、処理されたウェルに付着した腫瘍細胞は観察されなかった。クローンDB-S7-1及びDB-S7-7の場合、対照ウェルと比較して同様に殺傷が観察された(
図4H、4J、及び4L)。
【0319】
Siglec7 DMAbのインビトロ発現と腫瘍細胞殺傷
抗Siglec7 DMAbをインビボで迅速に評価するために、直接送達用のDNAベクターとして発現カセットを開発した。実験は、DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7の重鎖と軽鎖のコドンとRNA最適化配列をpVax1プラスミド発現ベクターに、二重プラスミドとしてコードするように計画した(
図5A)。抗体発現は、合成ヒトSiglec7 DNAベクターをexpi293F細胞にトランスフェクションし、トランスフェクションの5日後にウェスタンブロット分析によって、インビトロで試験した。ヒトSiglec7 DMAbをトランスフェクションしたExpi293F上清中の重鎖及び軽鎖抗体に対応するバンドは明確に特定できたが、空の因子をトランスフェクションした対照ウェルでは特定できなかった(
図5B)。DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7は、それぞれインビトロで7.5μg/ml、4.297μg/ml、及び7.824μg/mlで発現された(
図5C)。生成された完全ヒト組み換え抗体は、次にOC細胞(OVCAR10(
図5D及びE)、TOV-21G細胞(
図5F)、OVISE細胞(
図5G)、及びPEO-4細胞(
図5H)細胞)における殺傷誘発能力についてさらに評価された。3つのクローンすべてがOC細胞の殺傷を誘発していたが、クローンDB-S7-2が最も高い効力を示した。DB-S7-2によって誘発される細胞毒性はまた、2つの追加のOC株(CaOV3細胞(
図5I)及びOVCAR3細胞(
図5J))でも評価された。DB-S7-2は、両方のOC細胞でも効果的な殺傷能力を保持しており、この抗Siglec7mAbクローンの効力の高さを示している。
【0320】
Siglec7 DNA送達MAbのインビボ発現と卵巣癌攻撃投与モデルにおける腫瘍進行への影響
インビトロ発現を確認した後、DMAbクローンDB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7のインビボ発現を試験した。これらの試験では、抗Siglec7クローンごとに50μg+50μg(HC+LC)を、EPを使用してDNAを直接注入する方法(Duperret et al., 2018, Cancer Res 78: 6363-70; Patel et al., 2018, Cell Rep 25: 1982-93 e4)で説明されているように注入し、マウスの前脛骨筋へのトランスフェクション効率を高めた(
図6A)。DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7 Siglec7 DMAbを注入したマウスの血清中のヒトIgGの存在は有意であったが、対照(データは示していない)や事前採血したマウスの血清では有意ではなかった(
図6B、
図11)。DB-S7-1 DMAbは最も高いインビボ発現を示し、マウス血清で50μg/mlという高いレベルを示した(
図11)。さらに、ヒトNK細胞は、DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7DMAbで免疫したマウスから得た14日目の血清(DMAbは14日目に最も高い発現を示した)と空ベクター対照で染色された。3つの群すべてからの14日目の血清はヒトNK細胞を陽性染色したが、pVax1又は無関係な抗体対照の場合は染色は観察されなかった(
図6C)。
【0321】
インビボのSiglec7 DNA送達の抗腫瘍作用を判定するために、次にNOD/SCID-γ(NSG)マウスにOVISEヒト卵巣癌細胞株(0.8×10
6個の細胞/マウス)を攻撃投与した。腫瘍が平均サイズ50mm
3を超えたときに、50μg+50μg(HC+LC)のDB-S7-1若しくはDB-S7-2 DMAb又はpVax1空ベクターを電気穿孔法で筋肉内に送達した(
図6D)。特に、DB-S7-1及びDB-S7-2Siglec7(
図6E)DMAbを投与された群は、空ベクター対照と比較して顕著な腫瘍負荷の減少/腫瘍増殖の遅延を示し、インビボでSiglec7抗体が卵巣腫瘍の増殖に影響を与える可能性があることを示した。
【0322】
Fcブロッキングは抗Siglec7抗体による殺傷効率を強化した
Fcガンマ受容体(FcγR)は、主に顆粒球、マクロファージ、NK細胞などのリンパ系細胞及び骨髄系細胞の表面に発現している。しかし、これらは各細胞タイプに固有に割り当てられている;FcγRIIbはB細胞によってのみ発現され、FcγRIIIaはNK細胞によってのみ発現されるが、さまざまなFcγRの組み合わせはさまざまな他の免疫細胞によって発現され、バランスの取れた抗体媒介細胞応答を可能にする(Bournazos et al., 2020, Nat Rev Immunol 20: 633-43; Romain et al., 2014, Blood 124: 3241-9; van der Poel and Carroll, 2017, Nat Immunol 18: 874-5)。未変性のヒトmAbと同様に、DB-S7-2抗Siglec7抗体は、免疫細胞上に存在するSiglec7に結合する可変ドメインを一方の端に発現し、それによって抗原と他の糖タンパク質との相互作用を潜在的に阻害する。しかし、抗体のもう一方の端には、さまざまなFc受容体に結合して免疫系の固有のアームと関与する定常Fc領域がある(Sanseviero, 2019, J Clin Med 8)。抗Siglec7抗体が、FcγRとの連結によってFab領域だけでなくFc領域を介して免疫細胞に結合すると、Siglec7を介する細胞毒性が妨げられ、1つの免疫細胞が別の免疫細胞に再標的化される可能性がある(
図12)。Fcブロッカー(Biolegend)を使用して免疫細胞上に存在するFcγRをブロックすることにより、この問題を予備的に評価するための実験が計画された。
図6Fに示されるように、免疫細胞上のFcγRをブロッキングした後、FcγRをブロッキングしなかった場合と比較して、殺傷作用の強化が観察された。FcγRブロックを行った場合、OVCAR3細胞の殺傷はより早い時点で発生することが観察された。
図6Gに示される画像は、OVISE細胞でFcγRをブロックすると殺傷作用が強化されることを示す。FcγRブロッキングは、より多くの免疫細胞がSiglec7介在シグナル伝達を介してOC細胞を標的とする細胞傷害に関与できるようにすることで、免疫細胞に介在される抗体依存性細胞毒性の質と量の両方を向上させるようである。
【0323】
DDAP-NKCE DNAでコードされた二重特異性NKエンゲージャーの生成と発現
NK細胞エンゲージャー(NKCE)は、免疫腫瘍学の分野で有望な自然免疫様式として浮上している。現在、NK細胞上のCD16及び目的の腫瘍抗原を特異的に標的とする能力を有する単鎖可変断片(scFv)組換え試薬の開発が、臨床での使用について評価中である(Gleason et al., 2014, Blood 123: 3016-26; Ibarlucea-Benitez et al., 2021, Proc Natl Acad Sci U S A 118)。上記の予備データに基づくと、Siglec7を標的とする二重活性化NKCEの潜在的な関与は、腫瘍標的化のための追加の免疫ツールを提供する可能性があり、従ってOCにおける有望な治療戦略となる可能性がある。
【0324】
従って、潜在的なFc媒介作用を排除し、NK細胞をより直接的に関与させ、標的化の可能性を向上させるために、Siglec7ベースの二重特異性NKCEを開発するための実験が計画された。これは、2つの連結された抗体結合断片(scFv)として構築され、こうして、1つが標的の腫瘍抗原FSHRと関与し、一方、2つ目がNK細胞に高度に発現しているSiglec7への結合を介して自然免疫系に関与する。DB-S7-2抗Siglec7抗体のscFvがコードする最適化された配列と、抗FSHR(クローンDDAP)のscFvをコードする最適化された配列(
図7A)とを、GS(グリシン-セリン)柔軟性リンカーを使用して融合した(Perales-Puchalt et al., 2019, Mol Ther 27: 314-25)。このDDAP-NKCEは、Expi293F細胞のトランスフェクションで試験されたように、約55KDaの分子としてインビトロで効率的に発現された(
図7B)。DDAP-NKCEの結合は、それぞれSiglec7又はFSHRを過剰発現しているHEK293T(
図7C)又はK562(
図7D)細胞のフロー染色によって、両方の細胞標的に結合することが確認された。この新しい二重特異性NKCEのヒトSiglec7への結合を視覚化するために、293T-Siglec7固定細胞の高分解能共焦点イメージングを実施した。細胞をDAPI(核)、GFP(Siglec7)、及びテキサスレッド(DDAP-NKCE)で標識した。DDAP-NKCEは、ヒトSiglec7を発現するGFP+細胞に明確な表面結合を示すことが観察されている(
図7E)。
【0325】
FSHRを標的とする新しいNK細胞エンゲージャーのサイトカイン分泌プロフィール
サイトカインは、リンパ球の増殖、生存、分化、及び活性化の促進に関与している(Romain et al., 2014, Blood 124: 3241-9)。サイトカイン産生はNK細胞機能の重要な構成要素であるため(Gleason et al., 2012, Mol Cancer Ther 11: 2674-84)、新しいDDAP-NKCEのサイトカイン分泌プロフィールを調べるための実験を計画した。Gauthierのグループが最近実施した研究は、ヒトNK細胞上に存在する他の2つの受容体であるNKp46とCD16を標的とするCD20-NK細胞エンゲージャーが、ほとんど検出できないサイトカイン放出を誘発するが、高い抗腫瘍能を示し、このようなNKCEの重要なプロフィールを証明していることを報告した(Gauthier et al., 2019, Cell 177: 1701-13 e16)。DDAP-NKCE処理群では、空ベクター対照群と比較して、sFasとグラニュリシン(Granulysin)の産生増加が観察された(
図7F)。FSHRと主にNK免疫細胞を関与させるDDAP-NKCEには、炎症性サイトカインの誘導が減少していることを示しており、これは臨床開発において重要である可能性があり、他のNKCEとは異なるこれらの免疫プロフィールは、Siglec7NK二重特異性エンゲージャーの独自性を確認している。
【0326】
FSHRを標的とする新しい二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャーは、複数の卵巣腫瘍株で強力な殺傷を誘発し、インビボで腫瘍負荷を減少させた
DDAP-NKCEの機能性を判断するために、xCELLigenceリアルタイム殺傷測定法を実施し、DDAP-NKCEがヒト卵巣腫瘍株のパネルの殺傷を誘発する可能性を評価した。インビボで送達されたDDAP-NKCEは、インビトロの腫瘍殺傷誘発についてDDAP-TCEと比較された。エフェクター細胞(PBMC/T/NK細胞)及びTCE/NKCEは、標的OC細胞の播種の1日後に添加された。HEK293T細胞は、対照(FSHR陰性細胞株)として使用された(Urbanska et al., 2015, Cancer Immunol Res 3: 1130-7)。注目すべきことに、FSHR陰性293T細胞における非特異的なオフ標的殺傷は観察されなかった(
図7G及びH)。DDAP-TCEとDDAP-NKCEは、それぞれ精製ヒトT細胞とNK細胞のみの存在下でOVCAR3-FSHR細胞を効果的に殺傷した(
図13Aと13B)。FSHRを発現するさまざまな卵巣腫瘍細胞をさらに評価したところ、T細胞とNK細胞の供給源としてヒトPBMCが存在する場合、DDAP-NKCEは、OVISE(
図8AとB)、CaOV3(
図8CとD)、OVCAR3-FSHR(
図8E)、PEO-4細胞(
図8F)、及びKuramochi-FSHR細胞(
図8G)を非常に効率的に殺傷することが証明された。重要なことは、KuramochiとPEO-4はBRCA2変異を有し、後者はまたPARP阻害剤に対する耐性も示す(Sakai et al., 2009, Cancer Res 69: 6381-6)が、DDAP-NKCEによる殺傷からは逃れられないことである。同様に、DDAP-TCEは、DDAP-NKCE二重特異性抗体として強力な殺傷作用を発揮することがわかった。しかし、PEO-4細胞では両方の有効性が変化する。これらの違いは、さらに進展しており、さらなる調査を必要とする潜在的に補完的である重要な意味を示唆しる。さらに、FSHRを標的としないNKCE(IL13Rα2-NKCE)及びTCE(IL13Rα2-TCE)は、FSHR発現OVCAR3細胞において毒性を誘発しなかった(
図13C及び13D)。さらに、DDAP-NKCEのsFas媒介殺傷を実証するために、この新規NKCEの殺傷作用が抗Fas抗体の存在下と非存在下で比較された。Fas(CD95、アポトーシス抗原1)は、TNF受容体スーパーファミリーの死滅受容体サブファミリーのメンバーである。Fas/FasL結合は、外因性アポトーシス経路を誘導することが知られている。抗Fas抗体の存在下では、DDAP-NKCEによるOVCAR3-FSHR細胞の殺傷が減少することが観察された。これは、Fasの関与によるDDAP-NKCEの新しい殺傷メカニズムを示唆している。
【0327】
DDAP-NKCE及びDDAP-TCEのインビボ抗腫瘍作用をさらに評価するために、NSGマウスにOVCAR3-FSHR細胞を攻撃投与した。NSGマウスにOVCAR3-FSHR細胞を投与し、腫瘍移植の4日後に、DDAP-TCE、DDAP-NKCE、又は空ベクターを1週間空けて2回投与した。4日目に、マウスにヒトPBMCも接種し、腫瘍体積を定期的に測定した(
図8H)。両方の二重特異性抗体を用いる処理により、OVCAR3-FSHR腫瘍担持マウスの腫瘍負荷が大幅に減少したが、対照処理群ではそのような影響は見られず(
図8I)、これは、このアプローチの潜在的な相乗作用を裏付けている(
図14)。
【0328】
卵巣癌免疫療法のためにFSHRを工学操作して自然免疫又は獲得免疫を関与させる
OC治療法の分野では重要な進歩が見られるものの、再発性OCは依然として予後が極めて悪く、致死率の高い癌種の前兆となる(Izar et al., 2020, Nat Med 26: 1271-9; Kurnit et al., 2021, Obstet Gynecol 137: 108-21; Hamanishi et al., 2016, Int Immunol 28: 339-48)。卵巣癌細胞は癌特異的抗原を発現し、これらは、免疫療法後に抗腫瘍免疫応答を誘発することができるため、OCが免疫療法による治療に良好に反応すると考えられる理由は複数あるが、OC患者における免疫療法奏効率は依然としてかなり控えめである(Coleman, 2016, Nat Rev Clin Oncol 13: 71-2)。特に、標的化療法の開発における主な障害は、健康な組織ではなく腫瘍細胞の表面に限定された特異的発現を有する標的を見つけることである(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)。FSHRは、卵巣顆粒膜細胞で選択的に発現するそのような標的の1つである(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)ため、OCにおける潜在的な標的としての検討を研究するための実験が計画された。卵胞刺激ホルモンは、FSHRとの結合を介して機能する、重要な卵巣上皮細胞増殖誘導因子である。FSHRの過剰発現は、発癌経路のアップレギュレーションとEOC増殖の増加の原因となる。従って、FSHRは、OCに対してT細胞を誘導するための重要な治療標的として利用できる可能性がある(Perales-Puchalt et al., 2017, Clin Cancer Res 23: 441-53)。最近、免疫適格マウスモデルにおいて、免疫によるFSHR標的化の腫瘍の影響、耐容性、安全性の可能性が報告された(Perales-Puchalt et al., 2019, JCI Insight 4)。最適化されたDNA配列を注入し、次に電気穿孔法を行うと、強力な免疫細胞性及び体液性応答を誘発できる天然構造のタンパク質の過剰発現が付与される(Tebas et al., 2017, N Engl J Med; Yan et al., 2013, Cancer Immunol Res 1: 179-89)。ここでは、実験を拡張して抗FSHRモノクローナル抗体を生成し、この試薬を使用して新しい生物製剤を開発した。ここで提示された結果は、強力な抗FSHR抗体の生成と特性解析、及びOCの免疫療法のツールとしてのその応用を示す。いくつかの個別のクローン(クローンDDAPを含む)が、その効力と反応性に基づいて添加試験のために選択された。MAbは、フローサイトメトリー、ELISA、及び免疫細胞化学を含む複数の方法による試料内のFSHR発現の検出をサポートする。これにより、その潜在的な影響が臨床にまで広がり、個別化医療アプローチのための患者試料のFSHR状態を判断するのに役立つ可能性がある。
【0329】
癌治療のための抗体技術の分野における最近の重要なツールは、二重特異性T細胞エンゲージャープローチである。これらのほとんどは前臨床及び初期臨床研究段階であるが、承認済みの癌二重特異性製品ビーリンサイト(Blincynto)(ブリナツモマブ(blinatumomab))があり、それは、B細胞上のCD19を標的とし、連結された抗CD3結合を介してT細胞を関与させる急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療薬として使用されている(Sheridan, 2021, Nat Biotechnol 39: 251-4)。二重特異性T細胞エンゲージャーは、腫瘍細胞を殺傷するためにCD4T細胞とCD8T細胞の両方を方向修正することができ、T細胞による内因性抗原特異的TCR認識とは無関係である(Dao et al., 2015, Nat Biotechnol 33: 1079-86)。高い抗腫瘍効力を示すにもかかわらず、いくつかの要因(腫瘍抗原の特異性、腫瘍外活性、特異的サイトカイン放出の問題、及び短い処理半減期を含む)により、これらのツールの進捗率は期待よりも遅くなっている(Perales-Puchalt et al., 2019, Mol Ther 27: 314-25)。DDAP抗FSHRクローンの特異性に基づいて、これは研究の重要な標的になる可能性があると考えられた。OCモデルでこれらの新しい潜在的ツールを迅速に評価するために、DNAの直接インビボ送達が使用された。DDAP-TCEは、FSHRとCD3末端の両方に結合し、ヒトPBMCの存在下でナノグラムレベル(7.81ng/ml)で強力な殺傷作用が観察された。このDDAP-TCEは、DDAP親抗体よりも特異的腫瘍殺傷力が顕著に優れていた。
【0330】
HGSOCやOCSなどの一部の悪性度の高いOCタイプは「冷たい」腫瘍("Cold" tumor)と呼ばれ、治療アプローチが限られており、TIL浸潤が低いため反応性が低く、致死率が高くなる(Wu et al., 2021, Front Immunol 12: 672502)。従って、T細胞アプローチやNKなどの自然エフェクター細胞は、研究の重要なツールとなる可能性がある(Hoogstad-van Evert et al., 2020, Gynecol Oncol 157: 810-6)。NK細胞は、腫瘍免疫監視の第一線の防御として機能する(Wiernik et al., 2013, Clin Cancer Res 19: 3844-55)。最近の限られたデータでは、OCがNK細胞の攻撃に応答する可能性があることが示唆されている(Hoogstad-van Evert et al., 2020, Gynecol Oncol 157: 810-6)。初期のNK二重特異性研究は、NK細胞関連受容体に注目してきた。NK細胞は、自然細胞毒性の調節に関連するNKG2D及び自然細胞毒性受容体の関与を介して、免疫標的を見つることができる。さらに、特定のIgアイソタイプに強力に結合する活性化受容体CD16(FcγRIII)は、局所腫瘍環境に抗体が輸送された結果として、NK駆動型ADCCを促進する(Wiernik et al., 2013, Clin Cancer Res 19: 3844-55)。従って、NK細胞によって誘発される免疫応答は、NK細胞上に存在する受容体間の相互作用、その部位での腫瘍の直接認識、又はNK細胞を関与させる標的細胞リガンドに対する宿主の体液性応答に依存する(Wiernik et al., 2013, Clin Cancer Res 19: 3844-55)。
【0331】
前述のように、NK細胞は腫瘍細胞を溶解できるため、腫瘍の免疫監視において役割を果たすが、腫瘍細胞はしばしば免疫回避戦略を利用してこの免疫機能から逃れる。免疫回避に関連する最近の重要な領域は、NK攻撃に対する免疫静的デコイとして、表面のシアル酸グリコシル化の増加を示す腫瘍を介するものである。NK細胞はSiglec7を表示し、これは、腫瘍関連を介してヒトNK細胞の表面で関与すると、NKを介する標的殺傷を阻害することができる(Prescher et al., 2017, J Med Chem 60: 941-56)。Siglecは最近、糖免疫チェックポイントとして指定されているが、この研究の多くは初期段階である。癌細胞で過剰発現しているシアル化グリカンリガンドとの相互作用を介して、阻害性Siglecは防御的な抗腫瘍免疫に影響を与える可能性がある(Hong et al., 2021, ACS Cent Sci 7: 1338-46)。従って、Siglec7を標的とすることは、OCにおける抗腫瘍免疫応答を強化する有望な治療戦略となる(Ibarlucea-Benitez et al., 2021, Proc Natl Acad Sci U S A 118)。これを実現するために、トランスジェニックヒト化マウスを使用するSiglec7に対するいくつかのヒト様抗体が開発され(Bordoloi et al., 2021, ACS Pharmacol Transl Sci 4: 1349-61; Perales-Puchalt et al., 2019, Mol Ther 27: 314-25)、これらは、ヒトV遺伝子系統に由来するV領域のため、研究と迅速な応用という利点を提供する(Tu and Zheng, 2016, Methods Mol Biol 1371: 157-76)。いくつかの重要なクローンが開発され、組み換えヒトSiglec7(Siglec7は細胞及びヒトNK細胞で発現される)に高い結合性を有する3つの非常に強力なクローン(DB-S7-1、DB-S7-2、及びDB-S7-7)を使って実験を進めるように計画された。抗体は、細胞標的を非特異的に殺傷することなく、標的OC細胞の特異的殺傷を促進する腫瘍標的細胞の存在下で、NK細胞の機能を駆動することができることが観察された。これらは、さらなる評価のための重要なツールである。
【0332】
ここでは、DDAP-NKCEのさらなる特性解析を示す。これは、Siglec7ベースの二重特異性NK細胞エンゲージャーの最初の報告であると考えられる。最も高い効力を示したDB-S7-2の配列を使用して、この新しい二重特異性ヒトNKCEを設計し、抗FSHRと関連させた。このDDAP-NKCEは、ヒト卵巣腫瘍細胞のパネルを使用して評価したところ、腫瘍特異的細胞の殺傷において非常に強力であった。標的にはBRCA遺伝子に変異を有する細胞株や、化学療法又はポリADPリボースポリメラーゼ阻害剤(PARPi)に耐性を示す細胞株が含まれた。散発性の高悪性度漿液性OC及びBRCA関連OCの場合に素晴らしい活性を示すにもかかわらず、残念ながら、古典的な化学療法と同様に、多くの患者が最終的にPARPi治療に対する抵抗性を獲得すると報告されおり(Franzese et al., 2019, Cancer Treat Rev 73: 1-9; Liu et al., 2014, Gynecol Oncol 133: 362-9; McMullen et al., 2020, Cancers (Basel) 12; Yang et al., 2020, Front Immunol 11: 577869)、このようなOC腫瘍を標的とする新しいアプローチが重要であることをサポートしている。FSHR標的化を使用して、DDAP-TCEとDDAP-NKCEの両方(二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャー)によって示された高い効力は有望である。特に、FSHRを標的とするNKとT細胞エンゲージャーの両方が、卵巣腫瘍担持マウスモデルにおいて、インビボの腫瘍負荷/腫瘍進行を軽減する効力が同等であることが見いだされた。
【0333】
FSHR標的化二重特異性抗体であるDDAP-TCEとDDAP-NKCEの両方に違いが見られた。どちらもインビトロ及びインビボで腫瘍に影響を与える非常に強力なアプローチである。DDAP-NKCEは、サイトカイン産生表現型が減少した状態で強力な殺傷力を発揮する。これらの試験は、OCの主要サブセットに対するFSHRを標的とする有用性、FSHRとCD3に注目した二重特異性ツールが非常に免疫力が高いこと、Siglec7mAbがNK細胞を関与させて活性化すること、そして最後にSiglec7 NKCEがOCを標的とする強力なツールであり、インビボで腫瘍の増殖に影響を与える可能性があること、及びこれら2つのアプローチを組み合わせることでさらなる利点が得られる可能性があることを、初めて証明している。ここで提示された結果は、二重特異性エンゲージャーによるNK細胞活性化の新しい標的を初めて示しており、多様なOC集団がこれらの治療法の潜在的目標であると考えられる。これらはOCの研究と診断に直接応用することができる。FSHRを発現する卵巣癌やその他の癌に対するこれらのアプローチの応用の進展のために、これらの重要なツールをさらに調査するためのさらなる努力が必要である。SiglecNKCEは、他の固形腫瘍及び液性腫瘍標的との関連で、さらに研究する必要がある。
【0334】
実施例2:二重特異性NK細胞エンゲージャーを標的とする設計されたIL13Ra2とSiglec7を標的とする(IL13Ra2-NKCE)
図17は、二重特異性NK細胞エンゲージャーを標的とする設計されたIL13Ra2とSiglec7を標的とする(IL13Ra2-NKCE)の概略図を示す。IL13Ra2-NKCEは、抗原陽性黒色腫細胞を殺傷する強力な活性を示した(
図20)。
【0335】
実施例3:Siglec-7糖免疫チェックポイントMAbとNK細胞エンゲージャー生物製剤は、卵巣癌に対する強力な抗腫瘍免疫を誘導する
HGSCや卵巣癌肉腫(OCS)などの侵襲型OCは、組織浸潤リンパ球(TIL)浸潤が少なく、治療応答が悪いことから「冷たい」腫瘍と呼ばれる(Wu et al., 2021, Front Immunol 12, 672502, Hoogstad-van Evert et al., 2020, Gynecol Oncol 157, 810-816)。従って、追加の手段で免疫反応に関与することは、冷たい腫瘍の免疫標的化にとって非常に重要である(Pugh-Toole et al., 2022, Curr Treat Options Oncol 23, 210-226)。NK細胞は腫瘍免疫監視の第一防衛線として機能するため、自然免疫エフェクターシステムを考慮することは重要である(Wiernik et al., 2013, Clin Cancer Res 19, 3844-3855)。腫瘍は、MHCダウンモジュレーションやT細胞枯渇プログラムのアップレギュレーションなどの複数のメカニズムを介してT細胞応答を回避する(Vinay et al., 2015, Semin Cancer Biol 35 Suppl, S185-S198)。同様に、癌は宿主システムを利用して免疫回避戦略(NK活性化受容体の可溶性リガンドの放出、阻害性サイトカインの放出、HLA分子のアップレギュレーションを含む)により、NK細胞の監視機能を回避し、こうしてNK免疫機能から逃れることができる(Sabry et al., 2013, Front Immunol 4, 408)。しかし、NKの非応答性は、追加のNK制御経路によっても媒介される可能性がある。最近の研究では、多くの腫瘍がその表面のシアル酸レベルの増加を示すことが特定されており、これはおそらくNK細胞への負のシグナルとして機能し、腫瘍がNK免疫監視を回避できるようにするものと考えられる(Dobie et al., 2021, Br J Cancer 124, 76-90)。このような超シアル化腫瘍に対するNK活性化を強化するためのアプローチの1つは、Siglec-7のリガンドを発現する標的細胞の脱シアル化である(Jandus et al., 2014, J Clin Invest 124, 1810-1820)。NK細胞は、異なるシアログリカン決定因子の受容体/センサーであるSiglec-7を表示し、これは、腫瘍との関連を介してヒトNK細胞の表面で関与すると、NKを介する標的殺傷を阻害することができる(Prescher et al., 2017, J Med Chem 60, 941-956; Fong et al., 2018, Proc Natl Acad Sci U S A 115, 10410-10415; Meril et al., 2020, Mol Carcinog 59, 713-723)。これらは、シアログリカン腫瘍シールドによる制御性の負のシグナルを示す可能性がある。ごく最近の研究では、一部のSiglecが、MHCに依存しない方法でNKを介する抗腫瘍免疫を阻害する糖免疫チェックポイント分子として機能する可能性があることが示唆されている(Hong et al., 2021, ACS Cent Sci 7, 1338-1346)。この研究では、腫瘍免疫調節のためにSiglec7を標的とするモノクローナル抗体と誘導体の使用が検討され、そのような糖-CPI機能を確認し、おそらく克服して、腫瘍制御に影響を与える能力を改善した。
【0336】
これらの研究の焦点は、攻撃的な治療が困難な表現型のヒトOC(19)に対する抗腫瘍免疫応答であった。このグループは、トランスジェニックヒト化マウスモデルを用いて、Siglec-7に対するいくつかの抗体を開発した(Bordoloi et al., 2022, JCI Insight 7; Perales-Puchalt et al., 2019, JCI Insight 4; Bordoloi et al., 2021, Genes Cancer 12, 51-64)。本試験では、3つの非常に強力なSiglec-7結合クローンに注目した。これらの抗体はヒトIgG1として工学作成され、免疫細胞への結合が試験された。NK細胞に対する抗Siglec-7抗体の強い染色が観察され、明るいNKサブセットと暗いNKサブセットの両方が含まれ、これはバルクのエフェクターNK集団への結合能があることを示唆している。さらに、発現によりNK細胞が活性化され、活性化されたこれらの細胞がいくつかの腫瘍株に存在する場合、以前は難治性であったOC標的に対してNK媒介殺傷が起こる可能性がある。これらのヒトSiglec-7抗体は、多様なOC腫瘍標的細胞の存在下でNK免疫機能を駆動し、標的OC細胞の特異的殺傷を促進する。重要なことは、このアプローチが腫瘍変異に比較的寛容なはずであるということである。OC株は、特にBRCA1、BRCA2、AKT2、TP53、SPOP、STAT3、MTOR、MEK1、MEK2、BRAFを含む複数の遺伝子変異を用いて試験され(表1)、すべての変異がNK細胞標的の抗Siglec-7抗体活性化の標的であることが観察された。
【表1-1】
【表1-2】
【0337】
これらのMabはPD-1 CPIと組み合わせて試験された。この二重治療は相乗効果があることが分かった。しかし、Siglec-7抗体の効力は、試験された抗PD1抗体ペンブロリズマブの10倍であることが観察され、この複合NK T細胞抗枯渇パネルの潜在的価値を示唆している。次に、ヒトPBMCを移植したヒト化NSGマウスモデルが使用され、DNAでコードされたDB7.2 Siglec-7 MAbの単回投与により、OVISEヒト卵巣腫瘍を有するマウスの腫瘍が著しく抑制され、生存期間の中央値が上昇することが観察された。数か月にわたって移植片対宿主病を発症するというNSGモデルの限界(Wunderlich et al., 2014, Blood 123, e134-144)のため、抗Siglec-7は単回投与のみであったが、それでも非常に効果的であった。これは、現在のCPI(Hirsch et al., 2022, Nat Med 28, 2236-2237)が利用されているように、長期間にわたって複数回投与すると追加のメリットが得られる可能性が高いことを示唆している。注目すべきは、これは、OC又は任意のヒト腫瘍を標的とするSiglec-7標的化MAb単独及び抗PD1(NK細胞及びT細胞CPI)との組み合わせの影響を初めて証明したものであり、このような組み合わせの潜在的な付加価値についてさらに研究する必要があること、又はCPI難治性腫瘍を検討する必要があることを示唆している。これらの研究は、現在の免疫療法戦略を強化する可能性のある新しい非T細胞CPIアプローチの可能性をサポートする腫瘍治療に重要な意味を有する。
【0338】
次に、標的化OC療法についてNK細胞のSiglec-7の結合と活性化の効力を評価した。理論に拘束されるものではないが、Siglec-7への結合によりNK細胞が直接関与し、NK細胞が効率的に細胞標的に引き寄せられる可能性があるという仮説を立てた。FSHRを標的とするMAbと強力な抗Siglec-7 MAbとの二重特異性融合体を作成することにより、新しいタイプのNK細胞エンゲージャーを開発した。NKCEは、免疫腫瘍学の分野で興味深い自然免疫概念として浮上してきた。現在、臨床に導入されている二重特異性抗体が1つある;AML及びCD33+悪性腫瘍に対して、CD16a-IL-15/CD33が関与するGTB-3550である(Gleason et al., et al., 2014, Blood 123, 3016-3026; Ibarlucea-Benitez et al., 2021, Proc Natl Acad Sci U S A 118; Demaria et al., 2021, Eur J Immunol 51, 1934-1942)。前臨床研究されているその他のNK標的には、NKG2D、NKp30、及びNKp46がある。本来は腫瘍シアログリカンクロークによって悪影響を受けるであろうNK細胞の結合と活性化の抗Siglec-7 MAbについて示された表現型は、Siglec-7が特異的腫瘍-NK活性化と関与のための独自の免疫ツールとなり得ることを示唆している。ここで開発された二重特異性抗体DB7.2×D2AP1は、NK細胞と卵巣癌細胞の両方への強力な結合を示した。これは、多様なOC表現型に対する殺傷作用(pMレベル)を示す。これは、免疫エンゲージャーとしてのSiglecファミリーのメンバーの開発の、又はSiglec-7二重特異性NK細胞エンゲージャーの開発に対するこのようなアプローチの使用の最初の報告である。このNKCEは、さまざまなヒト卵巣腫瘍株のパネルを使用して評価したところ、標的細胞に特異的で、腫瘍細胞の殺傷力が強力であった。FSHR陰性細胞は殺傷されなかったため、標的におけるFSHR発現はNK殺傷活性の必須要件であった。興味深いことに、DB7.2×D2AP11はサイトカインと細胞毒性分子の産生を減少させ、これは、サイトカイン放出症候群(CRS)の潜在的リスクが限定された殺傷ツールを研究することが重要であることを示唆している(Pinto et al., 2022, Trends Immunol 43, 932-946)。
【0339】
これらの研究中に、OC療法にとって特に問題となる変異を発現するOC細胞に注目された。これには、PARPi耐性OC細胞と多様な薬剤標的に対する耐性を示すOCが含まれており、薬剤標的には、具体的にはHDAC(ダシノスタット、エンチノスタット、ベリノスタット)、PI3K(ダクトリシブ、ブパルリシブ)、mTORC(オミパリシブ)、Wee1(CHEK1)、TOP1(ガリビスコキナゾール、ミトキサントロン、イリノテカン)、DNAアルキル化剤(オキサリプラチン、シスプラチン)、及び微小管安定剤(ドセタキセル)(表1)が含まれる(Ai et al., 2021, Oncogene 40, 2496-2508; Diaz Osterman et al., 2019, Elife 8; Estep et al., 2007, PLoS One 2, e1279; Kapoor et al., 2018, Biochim Biophys Acta Mol Cell Res 1865, 392-405; Ayestaran et al., 2020, Patterns (N Y) 1, 100065)。これらの研究には、OC癌患者コホートにおける主要なリスクであるBRCA(BRCA1及び2)変異を含むOC株が含まれていた。HGSCの約50%は、生殖細胞系列若しくは体細胞変異又は経路メンバーのエピジェネティックサイレンシングを介して、破壊されたBRCA経路を示す(Vaughan et al., 2011, Nat Rev Cancer 11, 719-725)。PARP阻害はDNA損傷修復の重要な経路であるため、PARPiはBRCA1/2の破壊的変異を伴う腫瘍の治療に大きな期待が寄せられている。しかし、PARPiに対する耐性は、耐性OC患者の治療において問題になると報告されている(Noordermeer et al., 2019, Trends Cell Biol 29, 820-834)。NKCPIとして使用してのSiglec-7 MAb並びに二重特異性Siglec-7NKエンゲージャーをインビトロ及びインビボで使用して、FSHR+腫瘍を殺傷する効力と一貫性は、反応の乏しいOCを治療するための追加のツールをもたらす可能性を示唆している。
【0340】
要約すると、この研究では、NK細胞を関与させて活性化し、OCに対するPD-1免疫療法をさらに補完できる強力なSiglec-7 MAbについて説明しており、これが、この場合NK細胞に対する追加クラスのCPIである可能性を表している。さらに、データは、Siglec-7は新しいNKCEを構築するのに使用でき、インビトロ及びインビボで顕著な抗腫瘍応答を引き起こす受容体陽性OCを標的とする強力なツールとして機能することができることを示す。これらの研究はOCの追加のツールを設計するために重要であるが、追加の困難な癌に対するこのような生物学的製剤の有用性を調べるには、他の研究が必要である。
【0341】
材料と方法について以下に説明する。
【0342】
細胞と動物
実験に使用された細胞株には、OVCAR3、CaOV3、TOV-21G、OVISE、OVCAR10、PEO-4、Kuramochi細胞、HaCaTヒトケラチン生成細胞、WM3743黒色腫細胞、ヒト胎児腎臓293T、Expi293F、AGS胃癌、及びGM05389ヒト線維芽細胞が含まれる。293T細胞は、Siglec-7を発現するようにレトロウイルスで形質導入された。OVCAR3、OVISE、及びKuramochi細胞は、既に記載されているように(46)、レトロウイルスでヒトFSHRを形質導入してFSHRを発現した。K562細胞はATCCから購入し、レトロウイルスで形質導入してFSHRを発現した。
【0343】
DNAにコードされたMAbの生成
ヒトSiglec-7に対するいくつかのヒト化抗体が生成された。これらのMAbはSiglec-7に結合し、NK細胞を染色することができた。ここで、これらのハイブリドーマは配列決定され、インビトロ発現のツールとしてSiglec-7 DNAでコードされたモノクローナル抗体(DMAb)の開発に使用された(Patel et al., 2018, Cell Rep 25, 1982-1993 e1984)。最終的なヒトIgG1 HC及びLCは、記載されているように、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーター及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリAシグナルの制御下で、pVax1プラスミド発現ベクターに挿入された(Patel et al., 2018, Cell Rep 25, 1982-1993 e1984)。次に、プラスミドをExpifectamine 293 発現キット(Thermo Fisher Scientific)を使用してExpi293F細胞にトランスフェクションし、組み換え抗体を生成した。組み換え抗体の純度と見かけの分子量は、SDS-PAGE分析によって評価された。
【0344】
FSHRxSiglec7 NKCEの設計
FSHRxSiglec7ナチュラルキラー細胞エンゲージャー(NKCE)は、Siglec-7 MAb(DB-S7-2)のコドン最適化scFvをコード化し、続いて、強化性最適化IgEリーダー配列を添加されたFSHR抗体(D2AP11)のscFvをコード化して設計された。両方の構築物は、改変されたpVax1発現ベクターにサブクローニングされた(Perales-Puchalt et al., 2019, JCI Insight 4)。FSHRxSiglec7 NKCEはDB7.2×D2AP11と指定されている。
【0345】
フローサイトメトリー
細胞の染色にはBD LSRIIフローサイトメーターを使用した。Siglec-7/FSHRを安定的に発現する細胞の選別には、BD FACS Ariaセルソーター(BD Biosciences)を使用した。使用した抗ヒト抗体は、直接蛍光色素が結合されていた。使用した抗体:抗Siglec-7(F023-420、BD Pharmingen)、抗Siglec3(6C5/2、R&D Systems)。非結合一次抗体には、PE-二次抗ヒト(H+L)(Invitrogen)及びPE/AF647-二次抗ヒトF(ab’)2(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)が使用された。死細胞を分析から除外するために、Live/Dead Violet生存率キット(Invitrogen)を使用した。PBMCの蛍光サイトメトリー染色には、以下の抗体を使用した:BiolegendのCD69 PE-Cy5(クローンFN50)、PD-1 BV421(クローンEH12.2H7)、CCR7 APC-Cy7(G043H7)、CD19 BV785(クローンHIB19)、CD27 BV650(クローン0323)、CD56 BV570(クローンHCD56)、CD16 BV711(クローン3G8)、CD21 PE-Cy7(クローンBU32)、及びSiglec-7(クローン6-434);BD BiosciencesのCD11c BUV395(クローンB-ly6)、CXCR5 BV750(クローンRF8B2)、CD3 BUV805(UCHT1)、CD45 AF700(クローンHI30)、CD127 PE-CF594(クローンHIL-7RM21)、CD25 BUV737(クローン2A3)、CD8 BUV496(クローンRPA-T8)、HLA-DR BV605(クローンG46-6)、CD38 BUV661(クローンHIT2)、CD14 BV480(クローンMP9)、CD45RA BUV563(HI100)、CD4 BB790(クローンSK3)、CD15 FITC(クローンHI98)、CD103 BB700(クローンBer-ACT8)、CD161 APC(クローンDX12)。簡単に説明すると、凍結保存したPBMCを解凍し、10U/ml DNAseI(Roche Life Sciences)を含む完全R10培地(10%FBS、2mM L-グルタミン、100U/mlペニシリン、100mg/mlストレプトマイシンを補足したRPMI)で37℃、5%CO2で2時間静置した。細胞をPBSで洗浄し、蛍光活性化細胞選別(FACS)緩衝液で希釈した0、1、又は10μg/mlのDB7.2 Siglec-7抗体とともに20分間インキュベートした。FACS緩衝液で洗浄した後、細胞を、FACS緩衝液で希釈したマウス抗ヒトIgGFab二次抗体PE(Invitrogen)とともに20分間インキュベートした。細胞をFACS緩衝液で洗浄し、PBSに再懸濁し、ケモカイン受容体CCR7及びCXCR5で、37℃、5%CO2で10分間、予備染色した。次に、Live/Dead Fixable Aqua(Invitrogen)を使用して細胞を10分間染色し、次に、等量の蛍光活性化細胞選別(FACS)緩衝液(0.1%アジ化ナトリウムと1%ウシ血清アルブミンを含むPBS)とブリリアント染色緩衝液(BD Biosciences)とで希釈した直接結合したモノクローナル抗体のパネルとHuman Trustain FcX(Biolegend)とともに20分間インキュベートした。染色された細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)を含むPBSで固定した。試料はFACS Symphony A5サイトメーターを使用して取得し、Flowjoソフトウェア10.8.1(Tree Star Inc.)により分析した。
【0346】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
Siglec-7 MAb及びSiglec-7 DMAbを電気穿孔されたマウス血清中のヒトIgGの定量化のために、MaxiSorpプレートを10μg/mLのヤギ抗ヒトIgG Fc(Bethyl)で4℃で一晩コーティングした。プレートを洗浄し、PBS-T(PBS中の0.05%ツイーン20)中の5%ミルクで室温で2時間ブロッキングした。プレートを洗浄し、0.2%ツイーン20を含むPBS中の1%NCSで希釈した試料を加え、37℃で2時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、HRP結合ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体(Bethyl)の1:10,000希釈液で室温で1時間インキュベートした。プレートをSigmaFast OPDで5~10分間発色させ、OD450シグナルを測定した。
【0347】
xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを使用したインビトロ細胞毒性分析
インビトロ細胞毒性測定を、xCELLigenceリアルタイム細胞分析装置(RTCA)(Agilent Technologies, USA)を使用してインピーダンスに基づいて実施した。インピーダンスは、細胞指数と呼ばれる任意の単位で表される。標的細胞を、xCELLigenceRTCAデバイスの使い捨て無菌96ウェルEプレートに、ウェルあたり1×104~2×104個の細胞の最終細胞濃度で播種した。実験中、この装置はCO2インキュベーター内に置き、対照ユニットに接続されたケーブルによって制御した。96ウェルEプレートはxCELLigenceRTCAデバイス内に置き、18~24時間インキュベートした。次に、エフェクター細胞(ヒトPBMC/NK、E(エフェクター):T(標的)比=5:1/10:1)と治療物(Siglec-7 MAb/NKCE)を添加した。リアルタイム分析を3~7日間実施した。電気伝導率はxCELLigenceデバイスによって15分ごとに単位のない細胞指数(CI)パラメータに変換し、画像は1時間間隔でキャプチャーした。生成されたデータは、エフェクター細胞とMAb/NKCEが標的細胞に添加された時点に基づいて正規化し、RTCA/RTCA Proソフトウェアを使用して分析した。
【0348】
ウェスタンブロット分析
Siglec-7 MAbのインビトロ及びインビボ発現を実証するために、抗体をコードするDNAでExpi293F細胞をトランスフェクションした後に収集した上清、又はSiglec-7 DMAbで免疫したマウスから収集した血清を、熱不活化し、還元し、Odyssey タンパク質分子量(LI-COR)をロードした。電気泳動後、試料をiBlot-2システム(Thermo Fisher Scientific)を介してポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写し、Odysseyブロッキング緩衝液(LI-COR)を使用してブロッキングした。重鎖と軽鎖は、ヤギ抗ヒト二次抗体(LI-COR)を使用して検出された。二重特異性T細胞及びNK細胞エンゲージャーの発現を、ヤギ抗ヒトIgGF(ab’)2(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)を使用して、次にロバ抗ヤギ抗体(LICOR)を使用して検出した。
【0349】
免疫蛍光(IFA)分析
Siglec-7を形質導入したHEK293T細胞を2ウェルチャンバースライドに播種し、細胞を一晩接着させた。細胞をPBS中の0.5%トリトン100を使用して透過処理し、続いて5%ヤギ血清を使用してブロッキングした。次に、二重特異性NKCEを添加し、4℃で一晩インキュベートした。次に、スライドをヤギ抗ヒトH+L(テキサスレッド結合)二次抗体とともにインキュベートした。核染色を4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を使用して実施した。試料をFluoroshield封入剤(Invitrogen)を使用してガラススライドにマウントし、Leica TCS SP8 WLL走査型レーザー共焦点顕微鏡を使用して観察した。
【0350】
腫瘍の攻撃投与
NOD/SCID-γ(NSG)マウスにOVCAR3-FSHR細胞を攻撃投与した。NSGマウスの右脇腹に、3×106個のFSHR発現OVCAR3細胞又はOVCAR3-FSHR細胞を皮下注射した。3日後、腫瘍が触知可能になった時点で、マウスにpVax1(100μg)又はDDAP-NKCE(100μg)を接種した。発現ベクターを投与した同じ日に、10×106個のPBMCを各マウスの腹腔内に注射した。マウスにDNAを1週間空けて2回接種し、腫瘍サイズを定期的に追跡した。移植片対宿主病(GVHD)の兆候が現れた時点でマウスを安楽死させた。腫瘍体積(V)を、式V=[(長さ×幅2)]/2に従って計算した(幅は測定値の小さい方である)。Siglec-7 DMAb攻撃投与のために、NOD/SCID-γ(NSG)マウスにOVISE細胞(0.8×106個)を攻撃投与した。10日後、腫瘍が触知可能になった時点で、マウスにDB7.2 DMAb(50μg+50μg;HC+LC)又はpVax1(100μg)を接種し、続いて、各マウスに10×106個のPBMCを腹腔内注射した。以後、同じ操作を行った。動物実験は、ウィスター研究所の動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee at The Wistar Institute)によって承認された。
【0351】
統計解析
すべての統計解析は、Graph Pad Prismを使用して行った。p値<0.05は統計的に有意であると見なした。実験群の平均間の差は、3つ以上の定量的変数が測定された対応のない両側スチューデントt検定又は一元配置分散分析を使用して計算した。エラーバーは平均値の標準誤差を表す。各時点の腫瘍サイズの比較は、フィッシャーの最小有意差(LSD)検定を用いる2元配置分散分析を使用して行った。次に、実験結果について説明する。
【0352】
Siglec-7 MAbのインビトロ発現と特異性評価
NK細胞活性化戦略としてSiglec-7阻害の可能性を評価するために、ヒトSiglec-7に特異的なMAbが最近生成され、その生物学的活性がインビトロで研究された。ここでは、強力なSiglec-7結合剤のコドンとRNAが最適化された抗体発現カセットを生成し、ヒトIgG1の発現に最適化されたDNAベクターに組み立てた。これらのHCとLCの個々の組み合わせは、それぞれDB7.1(DB-S7-1)、DB7.2(DB-S7-2)、及びDB7.7(DB-S7-7)と指定される(
図21A)。発現は、インビトロで合成ヒトSiglec-7 DNAベクターでexpi293F細胞にトランスフェクションして、ウェスタンブロット分析によって試験した。これらの試験では、トランスフェクションされたExpi293F上清中に発現した抗体の重鎖と軽鎖に対応するバンドが特定されたが、空のベクターをトランスフェクションした対照ウェルにはバンドがなかった(
図21B)。DB7.1、DB7.2、及びDB7.7のインビトロ発現は、ELISA定量によってさらに確認された(
図21C)。DB7.1、DB7.2、及びDB7.7 Siglec-7 MAbは、組み換えヒトSiglec-7に特異的かつ用量依存性に結合することがELISAによって分析された(
図22A)。HEK293T細胞はSiglec-7発現のために安定に形質導入され、これらの細胞(HEK293T-Siglec7細胞)はSiglec-7 MAbによる結合の評価に使用された。
図22Bに示されるように、DB7.1、DB7.2、及びDB7.7はHEK293T-Siglec-7細胞への特異的結合を示した。最も強力な結合剤DB7.2は、複数のドナー(n=4)からのPBMC中の結合についてさらに分析された(
図23)。DB7.2は主にヒトNK細胞に結合したが(約90%)、CD8+T細胞及びCD4+T細胞の場合は低レベルの結合が観察された(
図22C及びD)。CD4+Tヘルパー1(TH1)、TH2、及びTH17細胞の自然対応物と考えられる自然リンパ球(ILC)へのDB7.2の結合(約9%)が観察された(Eberl et al., 2015, Science 348, aaa6566)。さらに、DB7.2は粘膜関連不変T(MAIT)細胞への25%を超える結合率を示し、これは粘膜バリアにおける微生物感染に対する免疫防御に重要な役割を果たし、炎症やウイルス感染の生来のセンサーとして機能する(Parrot et al., 2020, Sci Immunol 5; Legoux et al., 2020, Immunity 53, 710-723)。Siglec-7を発現するマイナーT細胞集団の追加の試験は、今後の研究にとって重要である。興味深いことに、DB7.2 MAbはCD56
dimとCD56
brightの両方のNK細胞サブセットを染色し、ヒトNK集団の大部分に結合する能力があることを示唆している(
図22E)。DB7.2はまた、ウェスタンブロット(
図24A)で並びに表面プラズモン共鳴(SPR)分析でその結合を分析すると、ヒトSiglec7タンパク質への強い結合も示した。DB7.2抗Siglec7抗体は、抗Siglec7の指定濃度の力価測定を使用して決定されたKD値が44pMで、センサーグラム上の最大ポイントは組み換えヒトSiglec7タンパク質の飽和を示す。高い親和性に加えて、表面プラズモン共鳴(SPR)測定法では、DB7.2(K
off:10
-M)の高い特異性も観察された(
図24B~D)。
【0353】
Siglec7 MAbはインビトロで標的卵巣癌細胞の強力かつ特異的殺傷を誘発した
Siglec7遺伝子最適化MAbが、ヒト癌細胞株に対してヒト末梢血NK細胞を活性化する能力を評価するために、HaCaT(ヒトケラチン生成細胞)をSiglec7陰性対照として使用して、多様なヒト卵巣癌細胞パネルを組み立てた(表1)(Bordoloi et al., 2022, JCI Insight 7)。重要なのは、DB7.1、DB7.2、及びDB7.7が、HaCaT細胞の殺傷を誘発しなかったことである(
図25A及びB)。次に、MAbが明確なヒトOC細胞(OVISE、TOV-21G、OVCAR3、CaOV3、OVCAR10、及びPEO-4)の殺傷を誘発する能力を、ヒトPBMC/NK細胞の存在下で、さまざまな疾患表現型及び変異(表1)を用いて調べた。3つのクローンすべてが4つのOC標的すべての殺傷を誘発したが(
図25C~G)、クローンDB7.2はこれらの測定法で最も高い効力を示した。DB7.2は、さらに2つのOC株、CaOV3(
図25H)とOVCAR3(
図25I)細胞に対して強化された殺傷誘発を示した。Siglec-7 MAb活性がFc受容体結合に依存しないことを確認するために、(
図26A)DB7.2の効力はFc阻害の存在下で維持されることが分かった(
図26B及びC)。次に、抗体のFc残基の修飾を行って、Fc関与と潜在的なオフ標的作用を排除した。Fcドメインに複数の残基修飾(「TM」、L234F/L235E/P331S)を含むDB7.2の変種を設計して、FcRと補体(C1q)の結合を排除し(Oganesyan et al., 2008, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 64, 700-704; Parzych et al., 2022, Nat Commun 13, 5886)、これをDB7.2_TM Modと命名した。DB7.2_TM Modの殺菌効力はOVISE細胞で維持された(
図27A)。24時間後に、ヒトPBMCsの存在下でOVISE細胞にDB7.2_TM Modを添加すると、標的細胞が強力に殺傷されたが、対照細胞(
図27B)標的に対しては効果がなかった。DB7.2とDB7.2_TM Modは、OVISE細胞でそれぞれ82.67nMと192nMという同等のIC50値を示した(
図27CとD)。まとめると、これらの試験は、Siglec-7 MAbの免疫殺傷の活性化に対する特異性とOC細胞を標的とする能力を示している。
【0354】
xCELLigence測定法を使用すると、抗PD-1とDB7.2 MAbの組み合わせはOC殺傷の強化を証明する
OCは、既存の免疫チェックポイント阻害療法に対する応答が中程度で、客観的奏効率(ORR)が約8~9%の癌のサブセットの1つである。チェックポイント阻害剤(CPI)を投与されているOC患者は、持続的な応答がまれであると報告しており、これまでのところOCの管理に対してFDA承認のCPIはない(Farkkila et al., 2020, Nat Commun 11, 2543)。しかし、免疫療法に対するEOC患者の応答を最適化するために組み合わせ方法が重要であることが判明する可能性があることを示す証拠がある。理論に拘束されるものではないが、T細胞活性化PD-1とSiglec-7 MAbによるNK細胞の活性化を組み合わせると、相乗的に腫瘍をより効率的に標的化できるという仮説を立てた。T細胞とNK免疫経路関与についてPD-1の同時標的化に関するこの仮説を検定するために、OC腫瘍を標的とするxCELLigence測定法で、DB7.2と抗PD1(ペンブロリズマブ)の抗体組み合わせを試験した。DB7.2は、BRCA2変異細胞とPARPi耐性PEO4細胞の両方に対して、EC50が68.87nM(
図27E及びG)で殺傷をシミュレートする能力を示したが、抗PD1を標的とするPEO4細胞は、xCELLigenceベースのインビトロ殺傷測定法で10倍低いEC50の680nM(
図27F及びH)を有した。抗PD-1とDB7.2の組み合わせは、ヒトPBMCの存在下でPEO4細胞殺傷のさらなる強化を示した(
図27I)。これらのデータは、Siglec-7 MAbと抗PD1の組み合わせ(NK及びT細胞CPI)が抗腫瘍免疫を強化することを示す。
【0355】
Siglec-7 MAbのインビボ発現は、卵巣癌攻撃投与モデルで腫瘍の進行を低下させる
次に、Siglec-7 MAbクローンのインビボ発現を、DNA送達インビボアプローチを用いて調べた。そのために、マウスにMAbのDNA発現カセット(Patel et al., 2018, Cell Rep 25, 1982-1993 e1984)を、各抗Siglec-7クローン(DB7.1、DB7.2、及びDB7.7)について2プラスミドシステムで50μg+50μg(HC+LC)の用量で空ベクター対照(pVax1)とともに注入して、インビボでのmAbの生物学的抗体産生を可能にした。注射は、既に記載されているように(Parzych et al., 2022, Nat Commun 13, 5886; Patel et al., 2018, Cell Rep 25, 1982-1993 e1984)、0日目にマウスの前脛骨筋に実施した(
図28A)。DB7.1、DB7.2、及びDB7.7 Siglec-7 MAbを注射したマウスの血清中にヒトIgGの存在が観察されたが、対照動物又は事前採血したマウスの血清では発現は検出されなかった。インビボで生成された抗体の特異性を確認するために、DB7.1、DB7.2、及びDB7.7のいずれかを接種したマウスから得た14日目の血清と、空のベクターを投与した対照動物の血清を使用して、ヒトNK細胞を染色した。3つの群すべての14日目の血清はヒトNK細胞を陽性染色したが、pVax1又は無関係な抗体対照の場合には染色は観察されなかった(
図28B)。動物におけるSiglec-7 MAb送達の潜在的な抗腫瘍効力を調べるために、NSG-K(NOD/SCID-γ-MHCI/IIダブルノックアウト変異体)マウス腫瘍攻撃投与モデルを使用し、OVISEヒト卵巣癌細胞(0.8×10
6個の細胞/マウス)を注入して、腫瘍の増殖を前向き試験で追跡した。腫瘍の平均サイズが50mm
3を超えたとき、記載されているように(Parzych et al., 2022, Nat Commun 13, 5886; Patel et al., 2018, Cell Rep 25, 1982-1993 e1984)、マウス1匹あたり1,000万個のヒトPBMCとともに、50μg+50μg(HC+LC)のDB7.2又はpVax1ベクター対照が筋肉内に投与された(
図28C)。DB7.2 Siglec-7 MAbを投与されているマウスは、ベクター対照と比較して、腫瘍負荷の大幅な減少/腫瘍増殖の遅延を示した(
図28D、
図29)。特に、Siglec-7 MAbは、腫瘍担持マウスの平均生存率を大幅に向上させた(
図28E)。これらのデータは、ヒト卵巣癌の直接治療のためのSiglec-7抗体の可能性を示す最初のインビボデータを提供している。
【0356】
DB7.2×D2AP11 DNAでコードされた二重特異性NK細胞エンゲージャーの生成と発現
NKエンゲージャーは、腫瘍細胞を標的とする上で重要な新たな関心点である(Gleason et al., et al., 2014, Blood 123, 3016-3026; Ibarlucea-Benitez et al., 2021, Proc Natl Acad Sci U S A 118; Demaria et al., 2021, Eur J Immunol 51, 1934-1942)。上記のように、OCに対するNK活性を強化する抗Siglec-7 MAbの効力に基づいて、この標的の可能性は新しい標的化NKCEアプローチであると考えられた。理論に拘束されるものではないが、このアプローチはNK細胞の特異的標的化を可能にするだけでなく、負のTMEシグナルの受信を阻止し、新しいNKCEをもたらすという仮説を立てた。従って、NK細胞特異的Siglec-7の関与を使用して腫瘍の標的化を強化するために、NKCEを、最近報告されたように(Bordoloi et al., 2022, JCI Insight 7)OC抗原FSHRに結合するように構成された、抗Siglec-7FVに連結された2つの連結抗体結合断片(scFV)の形式で構築された。
GS(グリシン-セリン)柔軟性リンカー(Perales-Puchalt et al., 2019, JCI Insight 4; Pratik et al., 2022, Molecular therapy Oncolytics)を取り込んでいる抗FSHRのscFV(クローンD2AP11)(Bordoloi et al., 2022, JCI Insight 7)(
図30A)とともに、DB7.2抗Siglec-7抗体のscFVをコードするNKCE融合配列が設計された。インビトロ分析は、Expi293F細胞のトランスフェクションを介するように、DB7.2×D2AP11 NKCEが効率的に発現されたことを示し、予想された約55KDa分子の生成が観察された(
図30B)。このNKCEは、それぞれSiglec-7又はFSHR過剰発現HEK293T(
図30C)細胞又はK562(
図30D)細胞でフロー染色することにより、両方の細胞標的に結合する。ヒトSiglec-7への結合を視覚化するために、293T-Siglec-7固定細胞の高分解能共焦点イメージングを実施した。細胞は、DAPI(核)、GFP(Siglec-7)、及びテキサスレッド(DB7.2×D2AP11)で標識された。DB7.2×D2AP11 NKCEは、ヒトSiglec-7を発現するGFP+細胞への明確な表面結合を示したが、二次抗体対照では結合は示されなかった(
図30E)。
【0357】
FSHRを標的とする新しいNK細胞エンゲージャーは、複数の卵巣腫瘍株で強力な殺傷作用を誘発し、インビボで腫瘍負荷を減少させる
次に、xCelligenceRTCA測定フォーマットを使用して、インビトロの腫瘍殺傷の誘発について、DB7.2×D2AP11 NK細胞エンゲージャー(NKCE)を評価した。エフェクター細胞は、PBMCとNK細胞を直接試験することを含む。NKCEを、標的OC細胞のプレーティングの翌日に添加した。対照として、HEK293T細胞(Urbanska et al., 2015, Cancer Immunol Res 3, 1130-1137)、AGSヒト胃癌細胞、GM05389ヒト線維芽細胞、及びWM3743ヒト黒色腫細胞を含む、4つのFSHR陰性細胞株を試験した。無関係な癌細胞を含むこれらのFSHR陰性細胞(
図30F~K)に対して、オフ標的殺傷は観察されなかった。
図30G及びJに示されるように、HEK293T細胞及びAGS細胞は、ヒトPMBC存在下のDB7.2×D2AP11 NKCEによる3日間の処理を通して、健全かつ接着性のままであった。対照的に、複数のFSHR発現卵巣腫瘍株OVISE、OVCAR3-FSHR、CaOV3、Kuramochi-FSHR、及びPEO-4(
図31A~G)は、DB7.2×D2AP11 NKCE存在下でヒトPBMCによって効率的に殺傷された。追加の特異性対照として、精製されたヒトNK細胞をエフェクター細胞として直接使用した。ヒトNK細胞と共インキュベートされたDB7.2×D2AP11 NKCEも、OVCAR3-FSHR細胞を効果的に殺傷した(
図32A)。この二重特異性エンゲージングアプローチの特異性は、FSHR陰性AGS細胞で確認された。ここで、抗Siglec-7抗体はAGS細胞を殺傷したが(
図32B)、DB7.2×D2AP11 NKCEはそうではなかった(
図30I)。さらなる特異性対照として、FSHRを標的としないNKCE(IL13Rα2-NKCE)が開発され、これは、OVCAR3を過剰発現するFSHR又はOVISE細胞に対して毒性をもたらさないことが観察された(
図32C及びD)。DB7.2×D2AP11 NKCEは、OVISE-FSHR(3人の異なるヒトドナーからのPBMCsを使用した別々の実験)とOVCAR3細胞の両方で濃度依存的な細胞溶解を誘発し、EC50値がそれぞれ142.87pMと236.6pMを示し、このエンゲージャーツールが新しいNKCEとして病原性細胞を標的化する顕著な効力を裏付けている(
図31H及びI、
図33及び
図34)。OC-NKCEのサイトカイン/細胞毒性分子分泌プロフィールを調べた。OVCAR3-FSHR細胞とヒトPBMC及びDB7.2×D2AP11 NKCEの共培養(
図35A)では、特異的免疫活性化の一環として可溶性Fas(sFas)及びグランザイムAの産生が強化され、抗体なし対照又は空ベクター対照群と比較してIL-10レベルの低下が観察され(
図35B)、よりエフェクターベースの活性化を裏付けている。DB7.2×D2AP11 NKCEのインビボ抗腫瘍作用を直接評価するために、NSGKマウスにOVCAR3-FSHR細胞を攻撃投与した。NSG-Kマウスに300万個のOVCAR3-FSHR細胞を投与し、腫瘍移植の7日後に、これらを核酸でコードされたDB7.2×D2AP11(100μg)又は空ベクターpVax1(100μg)を使用して、2週間空けて2回、インビボ発現のために処理した。7日目には、これらに1,000万個のヒトPBMCも接種し、腫瘍の体積を定期的に測定した(
図35C)。NKCEによる治療により、OVCAR3-FSHR腫瘍担持マウスの腫瘍負荷が顕著に減少したが、対照処理群ではそのような影響は見られなかった(
図35D)。さらに、DB7.2×D2AP11 NKCE治療により生存率が向上し(
図35E)、このアプローチのさらなる試験がサポートしていた。
【0358】
実施例4:Siglec-7抗体クローンの配列(CDR配列には下線が引かれている)
【0359】
【0360】
【0361】
【0362】
【0363】
【0364】
【0365】
【0366】
【0367】
【0368】
【0369】
【0370】
【0371】
【0372】
【0373】
【0374】
【0375】
【0376】
【0377】
【0378】
【0379】
【0380】
【0381】
【0382】
DB-S7-8軽鎖
配列番号96
【化24】
【表2】
【0383】
DDAP-NKCE(ヌクレオチド配列)
配列番号97
【化25】
【0384】
DDAP-NKCE(タンパク質配列)
配列番号98
【化26】
【0385】
IL13Ra2-Siglec7NK細胞エンゲージャー(核酸配列)(hisタグなし)
配列番号99
【化27】
【0386】
IL13Ra2-Siglec7NK細胞エンゲージャー(タンパク質配列)(Hisタグなし)
配列番号100
【化28】
【0387】
IL13Ra2-Siglec7NK細胞エンゲージャー(核酸配列)(Hisタグ)
配列番号101
【化29】
【0388】
IL13Ra2-Siglec7NK細胞エンゲージャー(タンパク質配列)(Hisタグ)
配列番号102
【化30】
【0389】
本明細書で引用した各特許、特許出願、及び刊行物の開示内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本発明は特定の実施態様を参照して開示されているが、本発明の他の実施態様及び変形が、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の請求項は、そのような実施態様及び同等の変形をすべて含むものと解釈されるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】