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特表2025-511278多孔性構造のマグネシウムの製造方法、前記製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウム及び前記多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵物質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-04-15
(54)【発明の名称】多孔性構造のマグネシウムの製造方法、前記製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウム及び前記多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵物質
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/08 20060101AFI20250408BHJP
   C22B 26/22 20060101ALI20250408BHJP
   C22B 5/00 20060101ALI20250408BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
C22C1/08 Z
C22B26/22
C22B5/00
B01J20/04 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024558236
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(85)【翻訳文提出日】2024-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2022008307
(87)【国際公開番号】W WO2023191186
(87)【国際公開日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】10-2022-0040637
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514291196
【氏名又は名称】コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】316017181
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Saudi Arabian Oil Company
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】チョ ウンソン
(72)【発明者】
【氏名】キム ヘソン
(72)【発明者】
【氏名】ジャマール,アキル
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンジ
【テーマコード(参考)】
4G066
4K001
【Fターム(参考)】
4G066AA02B
4G066AA02D
4G066AA13B
4G066AA23D
4G066AA27D
4G066BA09
4G066BA22
4G066BA26
4G066BA38
4G066CA38
4G066GA01
4K001AA38
4K001BA08
4K001HA06
(57)【要約】
本発明は、マグネシウム前駆体を還元剤溶液に添加して反応させる簡単な溶液工程の多孔性構造のマグネシウムの製造方法、前記製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウム及び前記多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵物質を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム前駆体を還元剤溶液に添加するステップを含む多孔性構造のマグネシウムの製造方法。
【請求項2】
前記マグネシウム前駆体は、マグネシウムを含む塩を溶解して製造された化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の多孔性構造のマグネシウムの製造方法。
【請求項3】
前記マグネシウムを含む塩は、MgCl2を含むことを特徴とする、請求項2に記載の多孔性構造のマグネシウムの製造方法。
【請求項4】
前記還元剤溶液は、リチウム系還元剤溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔性構造のマグネシウムの製造方法。
【請求項5】
前記マグネシウム前駆体は、マグネシウムを含む塩と遷移金属化合物を一緒に溶解して製造された混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の多孔性構造のマグネシウムの製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属化合物は、Ni、Co、Tiを含む塩またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項5に記載の多孔性構造のマグネシウムの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウム。
【請求項8】
前記多孔性構造のマグネシウムは、10m2/g以下のBET表面積を有することを特徴とする、請求項7に記載の多孔性構造のマグネシウム。
【請求項9】
前記多孔性構造のマグネシウムは多数の空隙を有し、前記空隙の平均幅が50nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の多孔性構造のマグネシウム。
【請求項10】
前記多孔性構造のマグネシウムは、遷移金属がドープされたことを特徴とする、請求項7に記載の多孔性構造のマグネシウム。
【請求項11】
前記遷移金属は、Co、Ni、Tiまたはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項10に記載の多孔性構造のマグネシウム。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか一項に記載の多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵物質として活用可能な多孔性構造のマグネシウムの製造方法、前記製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウム、及び前記多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵物質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、エネルギー源として最も多く使用されている化石燃料は、二酸化炭素などの温室効果ガスや微細粉塵などの大気汚染物質を発生させるため、今後、化石燃料の依存度を下げるための新再生可能エネルギーの開発が必須である。
【0003】
新再生可能エネルギー資源の一つである水素は、燃焼時に大気汚染物質が発生しない環境にやさしいエネルギー資源であり、家庭用および産業用燃料電池を含め、エネルギーシステムのほぼすべての分野に多方面に適用可能である。
【0004】
しかし、従来の高圧水素貯蔵タンクを用いた圧縮ガス形態の水素貯蔵方式は、爆発の危険が常に存在するなど、水素を安全に貯蔵することが難しく、最近では、従来の高圧水素貯蔵タンクを代替できる固体形態の材料ベースの貯蔵方式が研究されている。
【0005】
水素貯蔵材料としては、高い水素貯蔵容量を有しながら、従来の物理的水素貯蔵方法とは異なり、100bar以下の比較的低い水素分圧でも貯蔵が可能な金属水素化物が知られている。
【0006】
前記金属水素化物の水素貯蔵性能を向上させるために、重量が軽い炭素ベースの多孔性マトリックス内部に金属水素化物を浸透させて複合化する試みがあったが、従来の炭素多孔性マトリックスは水素貯蔵容量が低いという問題があった。また、炭素ベースの多孔性マトリックス物質として以前から多くの研究が行われたカーボンナノチューブの場合、細孔サイズを一定に維持するために純度を高める別の分離過程が必要であるため、価格競争力に劣るという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一実施態様は、溶液ベースで容易にワンポット合成(one-pot synthesis)が可能な多孔性構造のマグネシウムの製造方法を提供することである。
【0008】
他の一実施態様は、前記多孔性構造のマグネシウムの製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウムを提供することである。
【0009】
他の一実施態様は、前記多孔性構造のマグネシウムを活用して、水素吸収と放出過程の動力学的改善と比較的低圧での水素貯蔵を可能にする水素貯蔵物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施態様によれば、マグネシウム前駆体を還元剤溶液に添加するステップを含む多孔性構造のマグネシウムの製造方法を提供する。
【0011】
前記マグネシウム前駆体は、マグネシウムを含む塩を溶解して製造された化合物を含んでもよい。
【0012】
前記マグネシウムを含む塩は、MgCl2を含んでもよい。
【0013】
前記還元剤溶液は、リチウム系還元剤溶液であってもよい。
【0014】
前記マグネシウム前駆体は、マグネシウムを含む塩および遷移金属化合物を一緒に溶解して製造された混合物を含んでもよい。
【0015】
前記遷移金属化合物は、Ni、Co、Tiを含む塩またはそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0016】
他の一実施態様によれば、前記製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウムを提供する。
【0017】
前記多孔性構造のマグネシウムは、10m2/g以下のBET表面積を有してもよい。
【0018】
前記多孔性構造のマグネシウムは多数の空隙を有し、前記空隙の平均幅は50nm以下であってもよい。
【0019】
前記多孔性構造のマグネシウムは、遷移金属がドープされたものであってもよい。
【0020】
前記遷移金属は、Co、Ni、Tiまたはそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0021】
他の一実施態様は、前記多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵材料を提供する。
【発明の効果】
【0022】
一実施態様によれば、従来の多孔性構造の合成法であるテンプレート法(template)、脱成分法(Dealloying)、PVD法などとは異なり、マグネシウム前駆体を強い還元剤溶液に添加する単なる工程だけで容易に多孔性構造のマグネシウムを得ることができる方法を提供し、前記方法により製造されたマグネシウムは、従来の多孔性構造の金属とは異なり、水素貯蔵能力が非常に優れており、新たな水素貯蔵媒体として非常に有用に使用することができる。また、一実施態様による製造方法は、従来の製造方法とは異なり、非常に簡単であって、実験室レベルではなく、産業的レベルの大量生産工程に適用するのに非常に容易である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】非多孔性構造のバルク(bulk)マグネシウムに水素ガスが吸着される様子を示す図である。
【0024】
図2】一実施態様による多孔性構造のマグネシウムに水素ガスが吸着される様子を示す図である。
【0025】
図3】マグネシウム前駆体であるMgCl2を強い還元剤溶液であるリチウムナフタレニド(Lithium Naphthalenide)に添加し、前記MgCl2が多孔性構造のマグネシウムに還元される様子を示す図である。
【0026】
図4】マグネシウム前駆体であるMgCl2を強い還元剤溶液であるリチウムナフタレニド(Lithium Naphthalenide)に添加して還元反応が進行している写真である。
【0027】
図5】還元反応終了後に生成された多孔性構造のマグネシウムのTEM写真である。
【0028】
図6-7】それぞれ独立して、還元反応終了後に生成された多孔性構造のマグネシウムのTEM及びSEM写真である。
【0029】
図8】非多孔性構造(左)と多孔性構造(右)のマグネシウムのそれぞれに水素ガスが吸着される様子を比較した図である。
【0030】
図9】一実施態様による多孔性構造のマグネシウムに水素ガスが吸着される様子を順次示す図である。
【0031】
図10-11】それぞれ独立して、一実施態様による多孔性構造のマグネシウムに対する水素吸着性能を示すグラフである。
【0032】
図12-13】それぞれ独立して、一実施態様による多孔性構造のマグネシウムに対する水素脱着性能を示すグラフである。
【0033】
図14】一実施態様による多孔性構造のマグネシウム合成直後の構造(水素吸着前の構造)を示すXRDグラフである。
【0034】
図15】一実施態様による多孔性構造のマグネシウムに水素が脱着された後の構造を示すXRDグラフである。
【0035】
図16】一実施態様による多孔性構造のマグネシウムに水素が脱着された後の構造を示すTEM写真である。
【0036】
図17-18】それぞれ独立して、一実施態様によるNiがドープされた多孔性構造のマグネシウムに対する水素吸着性能を示すグラフである。
【0037】
図19-20】それぞれ独立して、一実施態様によるNiがドープされた多孔性構造のマグネシウムに対する水素脱着性能を示すグラフである。
【0038】
図21-22】それぞれ独立して、一実施態様によるCoがドープされた多孔性構造のマグネシウムに対する水素吸着性能を示すグラフである。
【0039】
図23-24】それぞれ独立して、一実施態様によるCoがドープされた多孔性構造のマグネシウムに対する水素脱着性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施態様について、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実施することができ、ここで説明する実施態様に限定されない。
本明細書は、実施例のすべての要素を説明するものではなく、本発明が属する技術分野における一般的な内容または実施例間において重なる内容は省略する。
【0041】
また、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要件を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含めることができることを意味する。
単数形の表現は、文脈上明らかな例外がない限り、複数形の表現を含む。
【0042】
本明細書において、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるという場合、これは、他の部分の「すぐ上に」ある場合だけでなく、その中間に別の部分がある場合も含む。逆に、ある部分が他の部分の「すぐ上に」あるという場合には、中間に他の部分がないことを意味する。
【0043】
以下、一実施態様による多孔性構造のマグネシウムの製造方法について説明する。
【0044】
水素はすべての物質の中で最も高い重量比エネルギー密度を有する。(水素の低位発熱量(LHV; lower heating value)は120kJ/g以下である)。地球上で非常に豊富でありながら、石油エネルギー源を代替できる次世代の環境にやさしいエネルギー源であり、水素を用いて電気を生産したり、淡水化を進めようとする試みなどが現在、世界各地で同時多発的に行われている。(近くは、水素を移動手段に適用して、タクシーやバスなどの商用車を開発しようとする試みから、遠くは海水を淡水化させようとする試みまで、水素は次世代のエネルギー源として最も脚光を浴びており、これについては反論の余地がないと言える)。
【0045】
ただし、このような水素をエネルギー源として用いるためには、まず水素を貯蔵できる水素貯蔵システムが必要だが、従来の物理的な水素貯蔵システムは高い圧力を必要とし(350~700bar)、零下252.8℃以下の極低温極限環境が必要であり、体積に対するエネルギー密度が低いという問題がある。また、爆発の危険性があり、安定性の懸念が常に存在し、このように保存される水素は価格が高いため、経済性がないという問題もある。
【0046】
このため、水素を貯蔵する新たなシステムを開発するために様々な試みなどが行われてきたが、まだ満足できるレベルの水素貯蔵媒体を開発できていない。
【0047】
本発明の発明者らは、前記のような背景及び現在までの問題点とその限界を正確に認識した後、長年にわたり世界各地の資料を探しながら研究を重ねた結果、最終的にマグネシウムを多孔性構造、具体的にはナノ多孔性構造に改質することにより、低圧でも水素貯蔵を容易にすることができ、安全かつ効率的な水素貯蔵システムを構築できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0048】
理論的にマグネシウムは7.6重量%の高い水素貯蔵容量を有しながらも、軽い金属に属するため、高い重量エネルギー密度を有する。そして、地球上に豊富に存在する元素であるため、価格面でも有利であり、水素に対する適度な平衡圧力を有し、100bar以下の比較的低い水素圧力でも水素貯蔵が可能であり、また、9MJ/kgの高い可逆的エネルギー密度(reversible energy density)を有するなど、様々な利点がある。
【0049】
ただし、水素吸収/脱着速度が遅すぎて動力学的(kinetics)な面で不利であり、水素放出過程で330℃以上の高温が必要であり、何よりもマグネシウムの内部まで完全な水素化することが難しいという致命的な欠点がある。さらに、マグネシウムは反応性の高い元素であるため、空気中で容易に酸化されてしまう。マグネシウムは前述のような利点にもかかわらず、このような致命的な欠点のために、これまでマグネシウムは水素貯蔵媒体として使用できなかった。
【0050】
しかしながら、一実施態様によれば、前記マグネシウム(bulk Mg)をナノ多孔性構造、より具体的には遷移金属がドープされたナノ多孔性構造に改質することにより、前述した欠点を全て克服し、従来にはなかった非常に優れたレベルの水素貯蔵媒体を提供する。
【0051】
より正確に言えば、一実施態様は、前記マグネシウム(bulk Mg)を改質したものではなく、最初からマグネシウム前駆体を用いて、溶液上のワンポット工程で非常に容易にナノ多孔性構造のマグネシウムを合成できる方法を提供する。
【0052】
すなわち、一実施態様は、マグネシウム前駆体を還元剤溶液に添加して多孔性構造のマグネシウムを製造する方法を提供する。
【0053】
一実施態様による製造方法により製造されたマグネシウムは、ナノ多孔性構造を有するため、水素吸着/脱着性能を大幅に向上させることができる。
【0054】
具体的には、水素の吸収/放出を繰り返すたびに発生する体積膨張により、マグネシウムの構造的崩壊が起こる可能性があるが、一実施態様による製造方法により製造されたマグネシウムは、ナノ多孔性構造を有するため、i) 前記のような構造的崩壊のリスクを大幅に緩和することができ、ii) Mg ligament sizeを減らすことができ、水素がマグネシウムと反応するために移動する距離を減らし、動力学的な面で有利であり、iii) 水素と反応できる表面積が増加し、平衡圧力(Equilibrium Pressure;Peq)が減少し、iv) 内部に反応できないマグネシウムの量を減らし、水素化の進行レベルを大幅に高めることができ、v) 水素放出時にも高い温度を必要としないことができる。
【0055】
よって、一実施態様による製造方法を用いれば、ナノ多孔性構造のマグネシウムを容易に得ることができるが、これは低圧でも水素貯蔵を容易にし、安全かつ効率的な水素貯蔵システムを構築するための重要な媒体となり得る。
【0056】
すなわち、一実施態様には、これまでほとんど研究されなかった多孔性構造のマグネシウムがナノ多孔性構造を有するようにして、新たな固体水素貯蔵物質を提供し、溶液ベースのワンポット合成で容易に大量生産できるようにし、新たな固体水素貯蔵物質の新たな製造方法を提供する。(従来の多孔性構造合成方法はテンプレート法(template)、脱成分法(Dealloying)などがあるが、これらはいずれも溶液ベースの合成方法ではないため、ワンポット合成が不可能であり、最終的に製造される多孔性構造の品質も固体水素を低圧で安全かつ効率的に貯蔵するのに適していない)。
【0057】
例えば、前記マグネシウム前駆体は、マグネシウムを含む塩を溶解して製造された化合物を含んでもよい。
【0058】
例えば、前記マグネシウムを含む塩は、MgCl2を含んでもよい。
【0059】
前記マグネシウムを含む塩であるMgCl2を還元剤溶液に添加すると、下記反応式1のような反応が起こる。
[反応式1]
MgCl2+2e-→Mg+2Cl-
【0060】
つまり、MgCl2を還元剤溶液に添加した場合、MgCl2と純マグネシウムのモル当たりの体積変化を活用して、化学還元により多孔性構造を容易に合成することができる。
【0061】
例えば、前記還元剤溶液は、リチウム系還元剤溶液であってもよい。
【0062】
前記還元剤溶液としてリチウム系還元剤溶液を使用する場合、還元電位差によりMgCl2がMgに容易に還元される可能性がある。
【0063】
例えば、前記リチウム系還元剤溶液として、リチウムナフタレニド(Lithium Naphthalenide)などを使用することができ、前記リチウムナフタレニドは強力な還元剤であり、還元反応により発生したリチウムイオンが反応中に使用されるTHF溶液によく溶出される可能性がある。しかし、前記リチウム系還元剤溶液の種類が必ずしもこれに限定されず、金属とラジカルアニオンの様々な組み合わせなどを前記還元剤溶液としていくらでも使用してもよい。
【0064】
前記マグネシウム前駆体を還元剤溶液に添加して多孔性構造のマグネシウムを製造することは、初めて試みられた非常に簡単な多孔性マグネシウムの合成法であり、前記合成法により製造された多孔性構造は、約50nm以下の幅を持つ空隙を有するため、低圧で固体水素を安全かつ効果的に貯蔵及び放出するのに非常に有利である。
【0065】
例えば、前記マグネシウム前駆体は、マグネシウムを含む塩および遷移金属化合物を一緒に溶解して製造された混合物を含んでもよい。
【0066】
すなわち、一実施態様による製造方法によれば、前記マグネシウムを含む塩及び遷移金属化合物を一緒に溶解して製造された混合物を含むマグネシウム前駆体を前記還元剤溶液に添加してもよく、この場合、前記遷移金属ドープにより、多孔性構造を有するバイメタリク(bimetallic)マグネシウムを合成することができ、前記遷移金属ドープ前と比較して、水素吸着/脱着速度がさらに向上することができる。(kinetic改善)つまり、前記遷移金属ドープがナノ多孔性構造を有するマグネシウムの水素吸着/脱着性能に対する触媒として作用することができる。
【0067】
例えば、前記遷移金属は、Ni、Co、Ti、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0068】
一方、一実施態様では、マグネシウム前駆体を用いて多孔性構造のマグネシウムを製造する方法を請求しているが、マグネシウム以外の高反応性金属の場合にも一実施態様と同じ方法を適用して多孔性構造の金属製造が可能である。
【0069】
他の一実施態様によれば、前記製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウムを提供する。
【0070】
例えば、多孔性構造の利点により、一実施態様による多孔性構造のマグネシウムは、かなりの量の水素と反応可能であり、水素の吸収と放出の過程で改善されたキネティック(kinetic)を示すので、一実施態様による製造方法により製造された多孔性構造のマグネシウムは、水素を貯蔵して再び利用できる貯蔵媒体として非常に効果的であることが分かる。
【0071】
例えば、前記多孔性構造のマグネシウムは多数の空隙を有し、前記空隙の平均幅は50nm以下であってもよい。(図5参照)
【0072】
例えば、前記多孔性構造のマグネシウムは、遷移金属がドープされたものであってもよい。
【0073】
例えば、前記遷移金属は、Co、Ni、Ti、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。
【0074】
他の一実施態様は、前記多孔性構造のマグネシウムに担持された水素を含む水素貯蔵材料を提供する。
【0075】
以下、実施例を通じて、前述した本発明の実施態様をより詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、単に説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0076】
ナノ多孔性構造のマグネシウムの製造
図8に示すように、MgCl2を含むマグネシウム前駆体をリチウムナフタレニド(Lithium Naphthalenide)還元剤溶液に添加した後、リチウム塩を除去(dissolution)してナノ多孔性構造のマグネシウムを合成した。
【0077】
評価1
前記で合成されたナノ多孔性マグネシウムのSEM写真及びTEM写真を撮影し、その結果を図5図7に示した。前記図5図7から分かるように、前記合成されたナノ多孔性マグネシウムは、50nm以下の幅を有する空隙を含むことが確認できる。
【0078】
ナノ多孔性構造のマグネシウムへの水素吸着
図10に示すように、前記で合成したナノ多孔性マグネシウムに水素ガスを吸着させた。具体的には、(1) 前記ナノ多孔性マグネシウムの表面に水素ガスを吸着(transport)させ、(2) 前記ナノ多孔性マグネシウムの表面から水素ガス(H2)が2つの水素原子に分離(dissociation)されるようにし、(3) 水素原子の化学的吸着(chemisorption)が行われるようにした。続いて、(4) 前記ナノ多孔性マグネシウムの表面からその中心部に水素原子が移動し(diffusion)、(5) 最後に核生成(nucleation)及びMgH2に成長させて(hydride formation)、前記ナノ多孔性マグネシウムを水素貯蔵物質とした。
【0079】
-ナノ多孔性Mg水素吸着/脱着性能の分析
図11図14から、水素の吸着/脱着サイクルが進むにつれて、その速度がさらに速くなり、貯蔵容量が増加することが確認できる。このことから、一実施態様によるナノ多孔性マグネシウムは、非多孔性マグネシウムに対するエネルギー障壁がはるかに低いことが分かる。
【0080】
-水素吸着/脱着サイクリング前後の構造の分析(XRD、TEM分析)
図15図18から、水素貯蔵前の(002)ピークが非常に高いのに対し、サイクリング(cycling)後の(002)ピークが著しく低くなったことが分かり、このことから、水素サイクリング過程中にMg crystalline stateが平衡状態に徐々に回復し、水素貯蔵性能が向上したことが推測できる。
【0081】
-Mg/Ni Bimetal及びMg/Co Bimetalの水素貯蔵性能及び活性化エネルギー(Activation Energy)
図19図26から、遷移金属であるNi及びCoを少量導入すると、水素吸収/放出キネティック(Kinetic)が著しく速くなり、必要な活性化過程が短くなることが確認できる。(これは、サイクリング前にも低い(002)ピークを示すMg/Ni、Mg/CoのXRD結果と一致するものである)。そして、活性化エネルギー計算の結果、水素吸着/脱着におけるエネルギー障壁も遷移金属がドープされていない多孔性マグネシウムよりも低く測定されたことが分かる。(特に水素脱着におけるエネルギー障壁が非常に低い。)一般的に、マグネシウムに遷移金属を導入すると水素貯蔵容量が低くなるのに対し、前記ナノ多孔性マグネシウムに遷移金属を導入(ドープ)する場合、(水素貯蔵容量が低くなることなく)水素貯蔵容量を高く維持しながらキネティック(Kinetic)をさらに向上させることができることが分かる。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されず、以下の特許請求の範囲に定義されている本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【国際調査報告】