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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-04-16
(54)【発明の名称】ITGB2媒介薬物伝達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20250408BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250408BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250408BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20250408BHJP
   A61K 31/537 20060101ALI20250408BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20250408BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20250408BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250408BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20250408BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20250408BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250408BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20250408BHJP
   C07K 14/52 20060101ALN20250408BHJP
   C07K 14/575 20060101ALN20250408BHJP
   C12N 7/00 20060101ALN20250408BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K45/00
A61P35/00
A61K47/54
A61K31/537
A61K38/07
A61K38/10
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C07K16/28 ZNA
C12N15/115 Z
C07K14/52
C07K14/575
C12N7/00
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024559502
(86)(22)【出願日】2023-04-06
(85)【翻訳文提出日】2024-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2023004678
(87)【国際公開番号】W WO2023195805
(87)【国際公開日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】10-2022-0043200
(32)【優先日】2022-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0043573
(32)【優先日】2022-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522189872
【氏名又は名称】ツインピッグ バイオラブ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Twinpig Biolab,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】べ,ヒョンス
(72)【発明者】
【氏名】ハン,イク-ファン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ムンキュ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ヒキョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジョンユン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,イルソプ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジュウォン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ホンソ
(72)【発明者】
【氏名】シン,ジン ソン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B065
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045DA36
2G045FB03
4B065AA95X
4B065BD25
4B065BD35
4B065BD39
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA17
4C084BA10
4C084BA16
4C084BA18
4C084BA23
4C084DA32
4C084DC50
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA54
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、M2腫瘍関連マクロファージのITGB2に特異的に結合する薬物伝達システムに関するものであって、本発明のITGB2(Integrin beta 2)に特異的に結合するITGB2結合部分を含む薬物伝達システムは、M2腫瘍関連マクロファージにのみ選択的に(または特異的に)作用することによって、薬物副作用は、軽減され、薬物の薬効は増大させることができる効果を有するため、細胞死誘導剤、抗癌剤、造影剤などの薬物送達システムとして有用に用いられることができる。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ITGB2結合部分;およびこれと結合された薬物を含む、薬物伝達システム。
【請求項2】
ITGB2結合部分は、ITGB2と特異的に結合する小分子、ウィルス、抗体、抗体断片、アプタマー、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、サイトカインの一部領域であるペプチドまたはリガンドの一部領域のペプチドである、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項3】
ITGB2結合部分は、CD18が拡張された(extended)活性型構造(Active conformation)に特異的に結合する、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項4】
ITGB2は、配列番号7または8のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項5】
ITGB2結合部分は、ITGB2の449~617のアミノ酸に結合する、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項6】
ITGB2結合部分は、配列番号1または2のアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の薬物伝達システム。
【請求項7】
配列番号5または6のアミノ酸配列を含むペプチドを含む、請求項5に記載の薬物伝達システム。
【請求項8】
ITGB2結合部分は、ITGB2の449~617のアミノ酸に結合する、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項9】
ITGB2結合部分は、ITGB2の732~748のアミノ酸、504~508のアミノ酸、534~546のアミノ酸、449~617のアミノ酸、または23~700のアミノ酸に結合する、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項10】
ITGB2結合部分は、抗-CD18抗体またはその免疫学的活性を有する断片を含む、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項11】
免疫学的活性を有する断片は、Fab、Fd、Fab’、dAb、F(ab’)、F(ab’)、scFv(single chain fragment variable)、Fv、単鎖抗体、Fv二量体、相補性決定領域断片、ヒト化抗体、キメラ抗体およびジアボディ(diabody)からなる群から選択されるいずれか一つである、請求項10に記載の薬物伝達システム。
【請求項12】
薬物は、化合物、RNA、DNA、抗体、エフェクター、プロドラッグ、毒素、ペプチドまたは放射性核種である、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項13】
薬物は、免疫原性細胞死誘導剤、プロアポトシース(pro-apoptotic)ペプチド、マイクロチューブリン(microtubulin)構造形成抑制剤、有糸分裂(meiosis)抑制剤、トポイソメラーゼ(topoisomerase)抑制剤、DNAインターカレーター(DNA intercalators)、毒素(toxin)または抗癌剤である、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項14】
プロアポトシースペプチドは、KLA、アルファ-ディフェンシン-1(alpha-defensin-1)、BMAP-28、Brevenin-2R、ブフォリンIIb(Buforin IIb)、セクロピンA-マガイニン2(cecropin A-Magainin 2、CA-MA-2)、セクロピンA(Cecropin A)、セクロピンB(Cecropin B)、クリソフィシン-1(chrysophsin-1)、D-K6L9、ゴメシン(Gomesin)、ラクトフェリシンB(Lactoferricin B)、LLL27、LTX-315、マガイニン2(Magainin 2)、マガイニンII-ボンベシン結合体(Magainin II-bombesin conjugate、MG2B)、パルダキシン(Pardaxin)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の薬物伝達システム。
【請求項15】
免疫原性細胞死誘導剤は、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、抗-EGFR抗体、BKチャンネルアゴニスト、ボルテゾミブ(Bortezomib)、強心配糖体(cardiac glycoside)、シクロホスファミド系抗癌剤、GADD34/PP1阻害剤、LV-tSMAC、Measlesウィルス、ブレオマイシン(bleomycin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、オキサリプラチン(oxaliplatin)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の薬物伝達システム。
【請求項16】
抗癌剤は、SN-38(7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン、7-Ethyl-10-hydroxy-camptothecin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、イダルビシン(idarubicin)、ピクサントロン(pixantrone)、サバルビシン(sabarubicin)、バルルビシン(valrubicin)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、メクロレタミン(mechloethamine)、クロラムブシル(chlorambucil)、フェニルアラニン(phenylalanine)、マスタード(mustard)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、カルムスチン(carmustine:BCNU)、ロムスチン(lomustine:CCNU)、ストレプトゾトシン(streptozotocin)、ブスルファン(busulfan)、チオテパ(thiotepa)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、ダクチノマイシン(dactinomycin:actinomycin D)、プリカマイシン(plicamycin)、マイトマイシンC(mitomycin C)、ビンクリスチン(vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、イリノテカン(iridotecan)、ウラムスチン(uramustine)、メルファラン(melphalan)、ベンダムスチン(bendamustine)、ダカルバジン(dacarbazine)、テモゾロミド(temozolomide)、アルトレタミン(altretamine)、デュオカルマイシン(duocarmycin)、ネダプラチン(nedaplatin)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、サトラプラチン(satraplatin)、トリプラチンテトラナイトレート(triplatin tetranitrate)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine)、カペシタビン(capecitabine)、クラドリビン(cladribine)、クロファラビン(clofarabine)、シスタルビン(cystarbine)、フロクスウリジン(floxuridine)、フルダラビン(fludarabine)、ゲムシタビン(gemcitabine)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、メトトレキサート(methotrexate)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ペントスタチン(pentostatin)、チオグアニン(thioguanine)、エトポシド(etoposide)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、イキサベピロン(izabepilone)、ビンデシン(vindesine)、ビノレルビン(vinorelbine)、エストラムスチン(estramustine)、メイタンシン(maytansine)、DM1(mertansine、メルタンシン)、DM4、ドラスタチン(dolastatin)、アウリスタチンE(auristatin E)、アウリスタチンF(auristatin F)、モノメチルアウリスタチンE(monomethyl auristatin E、MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(monomethyl auristatin F)およびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項13に記載の薬物伝達システム。
【請求項17】
薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達する、請求項1に記載の薬物伝達システム。
【請求項18】
メリチン、その変異体またはこれらの類似体を含むITGB2結合部分;およびこれと結合された薬物を含むペプチド-薬物複合体(peptide-drug conjugate、PDC)。
【請求項19】
ITGB2の466~565のアミノ酸と結合する、請求項18に記載のペプチド-薬物複合体。
【請求項20】
ITGB2のLEU(528)、THR(538)、LEU(556)、CYS(557)、PHE(558)、GLU(466)、ILE(469)、CYS(470)またはARG(471)と結合する、請求項18に記載のペプチド-薬物複合体。
【請求項21】
ITGB2に結合する抗体またはその免疫学的活性を有する断片;およびこれと結合された薬物を含む抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate、ADC)。
【請求項22】
ITGB2の732~748のアミノ酸を含むエピトープ、504~508のアミノ酸を含むエピトープ、534~546のアミノ酸を含むエピトープ、449~617のアミノ酸を含むエピトープ、または23~700のアミノ酸を含むエピトープに結合する、請求項21に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項23】
抗体-薬物複合体リンカーをさらに含む、請求項21に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項24】
ADCリンカーは、6-マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドプロパノイル(MP)、バリン-シトルリン(val-cit)、アラニン-フェニルアラニン(ala-phe)、p-アミノベンジルオキシカルボニル(PAB)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1カルボキシレート(SMCC)、バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(val-cit-PAB)またはN-スクシンイミジル(4-ヨード-アセチル)アミノベンゾエート(SIAB)である、請求項23に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項25】
請求項1に記載の薬物伝達システム、請求項18に記載のペプチド-薬物複合体または請求項21に記載の抗体-薬物複合体を有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項26】
M0マクロファージおよびM1マクロファージに比べて、M2マクロファージにおいて、ITGB2の発現が上方制御された患者を対象に投与するものである、請求項25に記載の癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項27】
ITGB2(Integrin beta 2)に候補物質を処理する段階;およびITGB2と結合する候補物質を選別する段階を含む、薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達する物質をスクリーニングする方法。
【請求項28】
拡張された(extended)活性型構造(Active conformation)のCD18に特異的に結合する候補物質を選別する、請求項27に記載の薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達する物質をスクリーニングする方法。
【請求項29】
分離された試料においてITGB2の発現量を確認する段階を含むM2マクロファージを標的化する抗癌剤に対する反応性を有する患者を選別する方法。
【請求項30】
M2マクロファージにおいて、ITGB2の発現量がM0マクロファージおよびM1マクロファージに比べて高い場合、M2マクロファージを標的化する抗癌剤に対する反応性を有する患者として判別する段階をさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1に記載の薬物伝達システム、請求項18に記載のペプチド-薬物複合体または請求項21に記載の抗体-薬物複合体を薬学的に有効な量で癌に罹患したオブジェクトに投与する段階を含む、癌の治療方法。
【請求項32】
癌の予防および治療用薬学的組成物の製造に用いるための、薬物伝達システムの用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITGB2に特異的に結合する薬物伝達システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存の抗癌治療は、癌細胞を直接攻撃したり、癌細胞を攻撃する体内の免疫細胞の活性を強化させる方向で研究されてきた。しかし、このような抗癌剤は、癌細胞以外の他の正常な細胞もまた攻撃し、脱毛、吐き気、嘔吐などの多くの副作用をもたらし、免疫細胞の過度な増加による付加的な反応をもたらす。既存の化学的療法や放射線療法に比べて副作用を最小化することができる抗癌免疫療法は、体内の免疫システムを用いて癌を治療する方法であり、このような抗癌免疫療法の中には、治療用免疫細胞であるT細胞(CAR-T含む)、樹状細胞(Dendritic Cells)、ナチュラルキラー細胞(Natural Killer Cells)などを体外で活性化させた後に体内に直接注入する細胞療法と癌抗原と免疫活性化物質を体内に注入することによって、体内に存在する免疫細胞を直接活性化することによって抗癌効能を高める抗癌ワクチンに対する方法などが活発に進められている。しかし、このような細胞治療剤や癌ワクチンは、主に血液癌関連の疾患に主に用いられており、固形癌ではほとんどがその治療効能が極めて低いという短所を有している。このような理由のうちの一つは、固形癌の周囲で免疫機能を抑制する微小環境要因に起因する。実際、腫瘍微小環境において、免疫細胞の機能を低下させる細胞(MDSC:myeoloid-derived stromal cells、Treg:regulatory T cell、TAM:tumor-assocaited macrophages)や免疫抑制誘発サイトカイン、代謝物などが活発に作用することによって、免疫活性化物質と治療用免疫細胞の活性を急激に低下させるものである。したがって、腫瘍細胞および免疫細胞に直接的な影響なしに腫瘍細胞の周囲の微小環境のみを調節して腫瘍細胞への影響分を供給し、腫瘍細胞周囲の血管新生などを遮断し、抗癌効果を有する治療剤の開発が重要となっている。腫瘍微小環境は、悪性細胞の増殖および生存、血管新生、転移、異常な適応免疫、ホルモン、および化学療法剤に対する反応減少に寄与し、治療目標として大いに考慮されている。
【0003】
腫瘍周囲の微小環境(microenvironment)は、内皮細胞、炎症性細胞および線維芽細胞から構成されており、1970年代に腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage、TAM)が腫瘍の成長において重要な役割を果たすことが明らかになった。腫瘍関連マクロファージは、癌の成長、転移などの全般的な腫瘍微小環境と関連し、重要な役割を担っており、腫瘍抑制M1型マクロファージまたは腫瘍支持M2型マクロファージの二つの表現型に分類される。M1型マクロファージは、抗原を提示する強力な能力を有し、一般にインターフェロン-γ、リポ多糖(LPS)、腫瘍壊死因子(TNF)-αによって活性化され、炎症誘発性作用および殺菌作用をする。M2型マクロファージは、多様な細胞外マトリックス成分、血管新生および走化性因子を放出することによって、免疫抑制、腫瘍形成および血管形成を促進するものとして知られている。一般に、IL-4とIL-13によって誘導され、アルギナーゼ-1、mannose(MMR、CD206)、スカベンジャー受容体(SR-A、CD204)、CD163、IL-10などのようなマーカーを発現することにより、M1型腫瘍関連マクロファージと区別される。腫瘍周囲に存在する腫瘍関連マクロファージは、腫瘍細胞の成長、転移と密接に関連しており、癌患者において、多数のM2型腫瘍関連マクロファージが腫瘍周囲に存在すると、患者の予後および生存率が良くないことが報告されている。M2型マクロファージは、癌の成長を促進するIL-10、TGFβおよびCCL18のようなサイトカインを生成し、M2型腫瘍関連マクロファージの表面に存在するPDL1およびB7-1/2のような受容体は、T細胞、NK細胞の抗腫瘍活性を抑制することが報告されている。M2型腫瘍関連マクロファージが多量に存在する微小環境では、腫瘍の成長、分化および転移が活発になされるので、M2型腫瘍関連マクロファージを標的とする標的治療剤の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、M2マクロファージを標的化する薬物伝達システムを提供することである。
【0005】
また、本発明の目的は、癌の予防または治療用薬学的組成物を提供することである。
【0006】
また、本発明の目的は、薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達する物質をスクリーニングする方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の目的は、M2マクロファージを標的化する抗癌剤に対する反応性を有する患者を選別する方法を提供することである。
【0008】
また、本発明の目的は、癌の治療方法を提供することである。
【0009】
併せて、本発明の目的は、薬物伝達システムを癌の予防および治療用薬学的組成物の製造に用いるための用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、ITGB2結合部分;およびこれと結合された薬物を含む薬物伝達システムを提供する。
【0011】
また、本発明は、癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達する物質をスクリーニングする方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、M2マクロファージを標的化する抗癌剤に対する反応性を有する患者を選別する方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、本発明の薬物伝達システムを薬学的に有効な量で癌に罹患したオブジェクトに投与する段階を含む癌の治療方法を提供する。
【0015】
併せて、本発明は、本発明の薬物伝達システムを癌の予防および治療用薬学的組成物の製造に用いるための用途を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、ITGB2がM2マクロファージ媒介癌に特異的なマーカーであることを確認し、本発明のITGB2(Integrin beta 2)に特異的に結合するITGB2結合部分を含む薬物伝達システムは、M2腫瘍関連マクロファージにのみ選択的に(または特異的に)作用することによって、薬物副作用は軽減され、薬物の薬効は増大され得る効果を有するので、細胞死誘導剤、抗癌剤、造影剤などの薬物送達システムとして有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1a】TAMpepのM2マクロファージに対する親和度をフローサイトメトリーにより確認した図である。
図1b】TAMpepのM2マクロファージに対する親和度を定量化したグラフである(*P<0.05 versus the M0.)。
図2a】M2/M0およびM1/M0の比率のベンダイアグラム解析によりM2マクロファージにおいて、TAMpepと結合するタンパク質を識別した図である。
図2b】M2/M0の比率のスキャッタープロット(scatter plots)分析によりM2マクロファージにおいて、TAMpepと結合するタンパク質を識別した図である。
図2c】M1/M0の比率のスキャッタープロット分析によりM2マクロファージにおいて、TAMpepと結合するタンパク質を識別した図である。
図2d】M2/M1の比率のスキャッタープロット分析によりM2マクロファージにおいて、TAMpepと結合するタンパク質を識別した図である。
図3】M0、M1およびM2マクロファージにおいて、それぞれ抽出した細胞膜タンパク質とTAMpep826-ビオチンを反応させて得たLC-MSクロマトグラムデータを示す図である。
図4】LC-MS/MSプロテオミックスを用いてTAMpep826のターゲットタンパク質を同定した図である。
図5】Quantitative RT-PCR条件を示す図である。
図6】M2マクロファージにおいて、ITGB2mRNA発現を確認した図である。
図7】M2マクロファージにおいて、ITGB2タンパク質発現を確認した図である。
図8】免疫蛍光分析によりM2マクロファージにおいて、ITGB2タンパク質の発現を確認した図である。
図9】M2マクロファージの細胞膜において、ITGB2の発現を確認した図である。
図10】M2マクロファージにおいて、TAMpep826およびITGB2の相互作用をプルダウンアッセイ(Pull-down assay)で確認した図である。
図11】免疫蛍光分析によりM2マクロファージにおいて、TAMpep826およびITGB2の相互作用を確認した図である。
図12】TB511とITGB2の結合部位をドッキングシミュレーションで確認した図である。
図13】TB511とITGB2の結合部位をドッキングシミュレーションで確認した図である。
図14】本発明のITGB2結合ADC作製に用いられた抗-CD18抗体がCD18のM2TAMにおける活性型構造(Extended-open form)に特異的に結合することを示す模式図である。
図15】センサーチップ表面にITGB2を固定化して確認した図である。
図16】抗-ITGB2抗体とITGB2タンパク質の結合力をSPRで確認した図である。
図17】Melittin-dKLAとITGB2タンパク質の結合力をSPRで確認した図である。
図18】M2マクロファージにおいて、Crispr/cas9により確立したITGB2発現抑制細胞モデルにおけるITGB2のmRNA発現を確認した図である。
図19】M2マクロファージにおいて、ITGB2発現抑制によるMelittin-dKLAの細胞死滅の減少効果を確認した図である。
図20】M2マクロファージにおいて、ITGB2発現抑制によるTB511(TAMpep826-dKLA)の細胞死滅誘導減少効果を確認した図である。
図21】M2マクロファージにおいて、ITGB2抗体によるTB511の細胞死滅誘導減少効果を確認した図である。
図22】乳癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図23】乳癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図24】肺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図25】肺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図26】肺癌3DオルガノイドにおけるM-DM1の効果を確認した図である。
図27】抗癌剤耐性肺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図28】抗癌剤耐性肺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図29】抗癌剤耐性前立腺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図30】抗癌剤耐性前立腺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果を確認した図である。
図31】乳癌3DオルガノイドにおけるCD18-DM1の効果を確認した図である。
図32】乳癌3DオルガノイドにおけるCD18-MMAEの効果を確認した図である。
図33】肺癌3DオルガノイドにおけるADC(CD18-DM1およびCD18-MMAE)の効果を確認した図である。
図34】肺癌3DオルガノイドにおけるADC(CD18-DM1およびCD18-MMAE)の効果を確認した図である。
図35】抗癌剤耐性肺癌3DオルガノイドにおけるADC(CD18-DM1およびCD18-MMAE)の効果を確認した図である。
図36】抗癌剤耐性肺癌3DオルガノイドにおけるADC(CD18-DM1およびCD18-MMAE)の効果を確認した図である。
図37】抗癌剤耐性前立腺癌3DオルガノイドにおけるADC(CD18-DM1およびCD18-MMAE)の効果を確認した図である。
図38】抗癌剤耐性前立腺癌3DオルガノイドにおけるADC(CD18-DM1およびCD18-MMAE)の効果を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付された図面を参照して本発明の具現例でもって本発明を詳細に説明する。但し、下記の具現例は、本発明に対する例示として提示されるものであり、当業者に周知著名な技術または構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不要に曖昧にするおそれがあると判断された場合には、その詳細な説明を省略することができ、これによって本発明が制限されるものではない。本発明は後述する特許請求の範囲の記載およびそれより解釈される均等範疇内で多様な変形及び応用が可能である。
【0019】
また、本明細書にて使用される用語(terminology)は、本発明の好ましい実施例を適切に表現するために使用された用語であって、これは使用者、運用者の意図または本発明が属する分野の慣例などによって異なり得る。したがって、本用語に対する定義は、本明細書の全般にわたった内容に基づいて下されるべきである。明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とした時、これは特に相反する記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0020】
本発明にて使用される全ての技術用語は、特に断りがない限り、本発明の関連分野における通常の当業者が一般に理解されることと同様の意味で使用される。また、本明細書には好適な方法または試料が記載されるが、これと類似または同等のものも本発明の範疇に含まれる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の内容は、本発明に組み込まれる。
【0021】
本明細書の全般を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字および3文字のコードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソ酪酸)、Sar(N-methylglycine)などのような他のアミノ酸に対して一般的に許容される3文字のコードが使用される。また、本発明において、略語として言及されたアミノ酸は、次のようにIUPAC-IUB命名法に基づいて記載された:
アラニン:A、アルギニン:R、アスパラギン:N、アスパラギン酸:D、システイン:C、グルタミン酸:E、グルタミン:Q、グリシン:G、ヒスチジン:H、イソロイシン:I、ロイシン:L、リジン:K、メチオニン:M、フェニルアラニン:F、プロリン:P、セリン:S、トレオニン:T、トリプトファン:W、チロシン:Yおよびバリン:V。
【0022】
一側面において、本発明は、ITGB2(Integrin beta 2)結合部分;およびこれと結合された薬物を含む薬物伝達システムに関するものである。
【0023】
一具現例において、ITGB2は、配列番号7または8のアミノ酸配列を含むことができる。
【0024】
一具現例において、ITGB2結合部分は、M2腫瘍関連マクロファージの細胞膜に存在するITGB2タンパク質に特異的に結合することができ、ITGB2と特異的に結合する小分子、ウィルス、抗体、抗体断片、アプタマー、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、リガンド、サイトカインの一部領域であるペプチドまたはリガンドの一部領域であるペプチドを含むことができる。
【0025】
一具現例において、前記結合部分に半減期または安定性を増加させるための 特定の目的のために設計された標的化配列、タグ、標識された残基またはアミノ酸配列をさらに含むことができる。
【0026】
一具現例において、前記ITGB2結合部分は、CD18が拡張された(extended)活性型構造(Active conformation)に特異的に結合することができる。
【0027】
一具現例において、ITGB2結合部分は、ITGB2の449~617のアミノ酸と結合することができる。
【0028】
一具現例において、前記ITGB2結合部分は、ITGB2の466~565のアミノ酸と結合することができる。
【0029】
一具現例において、前記ITGB2結合部分は、メリチン、その変異体またはこれらの類似体を含むことができ、配列番号1または2のアミノ酸配列を含むことができる。
【0030】
一具現例において、前記薬物伝達システムは、配列番号3~6のアミノ酸配列からなる群から選択されるいずれか一つ以上を含むことができる。
【0031】
一具現例において、前記薬物伝達システムは、ペプチド-薬物複合体(peptide-drug conjugate、PDC)であってもよく、配列番号5のアミノ酸配列を含むMelittin-dKLAであってもよく、配列番号6のアミノ酸配列を含むTB511であってもよく、マレイミド-修飾されたメリチンに薬物DM1がコンジュゲートされたM-DM1であってもよい。
【0032】
一具現例において、TB511は、ITGB2の466~565のアミノ酸と結合することができ、TB511のLEU(6)は、ITGB2のLEU(528)、THR(538)、LEU(556)、CYS(557)およびPHE(558)部位と結合(bindin)することができ、TB511のTRP(12)は、ITGB2のGLU(466)、ILE(469)、CYS(470)およびARG(471)と結合することができる。
【0033】
一具現例において、前記ITGB2結合部分は、ITGB2(CD18)の732~748のアミノ酸を含むエピトープ(配列番号9)、504~508のアミノ酸を含むエピトープ、534~546のアミノ酸を含むエピトープ、449~617のアミノ酸を含むエピトープ、または23~700(Gln23-Asn700)のアミノ酸を含むエピトープに結合することができる。
【0034】
一具現例において、前記ITGB2結合部分は、前記エピトープに結合する抗体またはその免疫学的活性を有する断片であってもよい。
【0035】
一具現例において、前記免疫学的活性を有する断片は、Fab、Fd、Fab’、dAb、F(ab’)、F(ab’)、scFv(single chain fragment variable)、Fv、単鎖抗体、Fv二量体、相補性決定領域断片、ヒト化抗体、キメラ抗体およびジアボディ(diabody)からなる群から選択されるいずれか一つであってもよい。
【0036】
一具現例において、前記薬物伝達システムは、抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate、ADC)であってもよい。
【0037】
一具現例において、薬物伝達システムのITGB2結合部分と薬物は、リンカーを媒介に共有結合するか、またはリンカーの媒介なしに非共有結合することができる。
【0038】
一具現例において、薬物伝達システムのITGB2結合部分と薬物は、リンカーを媒介に連結/結合されることができ、リンカーは、ペプチドやリガンド、抗体、抗体断片などのタンパク質のアミン基(amine group)、カルボキシ基(carboxyl group)またはスルフドリル基(sulfhydryl group)やアプタマーなどの核酸のリン酸基(phosphate group、ヒドロキシ基(hydroxyl group)を介して結合することができる作用基を有する任意のリンカーを用いることができる。
【0039】
一具現例において、前記リンカーは、薬物に応じて適切なものを選択して用いることができる。例えば、薬物に、アルデヒド反応基を有するリンカーを連結し、薬物伝達システムのITGB2結合部分である抗体(細胞標的化領域)のN末端のアミノ基に結合させることができる。
【0040】
このようなリンカーの作用基は、イソチオシアネート(isothiocyanate)、イソシアネート(isocyanates)、アシルアジド(acyl azide)、NHSエステル(NHS ester)、スルホニルクロリド(sulfonyl chloride)、アルデヒド(aldehyde)、グリオキサール(glyoxal)、エポキシド(epoxide)、オキシラン(oxirane)、カーボネート(carbonate)、アリールハライド(arylhalide)、イミドエステル(imidoester)、カルボジイミド(carbodiimide)、アンハイドリド(anhydride)、フルオロフェニルエステル(fluorophenyl ester)、ヒドロキシメチルホスフィン(hydroxymethyl phosphine)、マレイミド(maleimide)、ハロアセチル(haloacetyl)、ピリジルジスルフィド(pyridyldisulfide)、チオスルホネート(thiosulfonate)、またはビニルスルホン(vinylsulfone)などであってもよい。リンカーは、プロテアーゼによって切断可能であるか、酸や塩基条件で切断可能であるか、または高温や光照射によって切断可能であるか、または還元または酸化条件で切断可能なリンカーであってもよく、またはこのような条件で切断可能でないリンカーであってもよい。切断可能なリンカーとしては、例えば、酸性条件で切断されるヒドラゾン(hydrazone)リンカー、プロテアーゼによって切断されるペプチドリンカー、還元条件で切断されるジスルフィド(disulfide)作用基を有するリンカーなどが挙げられ、切断可能でないリンカーとしては、MCC(Maleimidomethyl cyclohexane-1-carboxylate)リンカー、MC(maleimidocaproyl)リンカー、またはその誘導体としてスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sMCC)リンカーやスルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(sulfo-sMCC)が挙げられる。
【0041】
また、リンカーは、自己犠牲リンカー(self-immolative linker)または切断後のトレースレスリンカー(traceless linker)であってもよい。自己犠牲リンカーは、例えば、発明の名称が「Hydrophilic self-immolative linkers and conjugates thereof」である米国特許第9089614号に開示されたリンカー、名称が「SELF-IMMOLATIVE LINKERS CONTAINING MANDELIC ACID DERIVATIVES、DRUG-LIGAND CONJUGATES FOR TARGETED THERAPIES AND USES THEREOF」である国際公開第WO2015038426号に開示されたリンカーが挙げられており、切断後のトレースレスリンカーとしては、フェニルヒドラジドリンカー、アリール-トリアゼンリンカー、文献[Blaney、et al.、「Traceless solid-phase organic synthesis、」Chem Rev.102:2607-2024(2002)]に開示されたリンカーなどであってもよい。
【0042】
当業界では、前記例示したところのリンカー以外にも本発明に適用可能な数多くのリンカーが相当の数の文献を通じて公知されている。そのような文献として、具体的には、文献[Castaneda、et al、「Acid-cleavable thiomaleamic acid linker for homogeneous antibodydrug conjugation、」Chem Commun.49:8187-8189(2013)]、文献[Lyon、et al、「Self-hydrolyzing maleimides improve the stability and pharmacological properties of antibody-drug conjugates、」Nat Biotechnol.32(10):1059-1062(2014)]、文献[Dawson、et al 「Synthesis of proteins by native chemical ligation、」Science 1994、266、776-779]、文献[Dawson、et al 「Modulation of Reactivity in Native Chemical Ligation through the Use of Thiol Additives、」J Am Chem Soc.1997、119、4325-4329]文献[HackenG、et al 「Protein synthesis by native chemical ligation:Expanded scope by using straightforward methodology、」Proc Natl Acad Sci USA 1999、96、10068-10073]、文献[Wu、et al 「Building complex glycopeptides:Development of a cysteine-free native chemical ligation protocol、」Angew Chem Int Ed 2006、45、4116-4125]、文献[Geiser et al 「Automation of solid-phase peptide synthesis」in Macromolecular Sequencing and Synthesis、Alan R Liss、Inc、1988、pp 199-218]、文献[Fields、G and Noble、R(1990)「Solid phase peptide synthesis utilizing 9-fluoroenylmethoxycarbonyl amino acids」、Int J Peptide Protein Res 35:161-214]などであるが、米国特許第6884869号明細書、米国特許第7498298号明細書、米国特許第8288352号明細書、米国特許第8609105号明細書、米国特許第8697688号明細書、米国特許出願公開第2014/0127239号明細書、米国特許出願公開第2013/028919号明細書、米国特許出願公開第2014/286970号明細書、米国特許出願公開第2013/0309256号明細書、米国特許出願公開第2015/037360号明細書、米国特許出願公開第2014/0294851号明細書、国際公開第2015/057699号、国際公開第2014/080251号、国際公開第2014/197854号、国際公開第2014/145090号、国際公開第2014/177042号などを参照することができる。
【0043】
本発明における薬物伝達システムのITGB2結合部分と薬物は、生体適合性高分子を媒介にまたはキャリアを介して結合されることもできる。生体適合性高分子は、生体組織または血液と接触し、組織を壊死させたり、血液を凝固させない組織適合性(tissue compatibility)および抗血栓性(blood compatibility)を有する高分子を意味する。
【0044】
前記生体適合性高分子としての合成重合体は、ポリエステル、ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)、ポリ(α-ヒドロキシアシッド)、ポリ(β-ヒドロキシアシッド)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート;PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシプロプリオネート;PHP)、ポリ(3-ヒドロキシヘキサノエート;PHH)、ポリ(4-ヒドロキシアシッド)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシバレレート)、ポリ(4-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(エステルアミド)、ポリカプロラクトン、ポリラクタイド、ポリグリコライド、ポリ(ラクタイド-co-グリコライド;PLGA)、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド、ポリ(グリコール酸-co-トリメチレンカーボネート)、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリ(タイロシンカーボネート)、ポリカーボネート、ポリ(タイロシンアリレート)、ポリアルキレンオキサレート、ポリホスファゼン、PHA-PEG、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレンとエチレン-アルファオレフィン共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体、アクリル重合体および共重合体、ビニルハライド重合体および共重合体、ポリビニルクロリド、ポリビニルエーテル、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニリデンハライド、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニリデンクロリド、ポリフルオロアルケン、ポリパーフルオロアルケン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリビニルアロマティックス、ポリスチレン、ポリビニルエステル、ポリビニルアセテート、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ABS樹脂とエチレン-ビニルアセテート共重合体、ポリアミド、アルキド樹脂、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸-co-マレイン酸またはポリアミノアミンであり、天然重合体は、キトサン、デキストラン、セルロース、ヘパリン、ヒアルロン酸、アルギネート、イヌリン、澱粉またはグリコゲンである。
【0045】
ITGB2結合部分と薬物の結合に用いられるリンカーは、標的細胞の外で安定的であるため、切断されず、標的細胞内の酸性条件であるエンドソームやリゾソームでも切断されないリンカーであることが好ましい。このようなリンカーは、標的細胞の外で安定的であるため、切断されないことによって薬物が細胞内に移動されるようにし、酸性条件であるエンドソームやリゾゾームで切断されないことによって、エンドソームやリゾソームで細胞質へ移動されるようにすることができる。
【0046】
本発明の薬物伝達システムにおいて、薬物は、ITGB2結合部分に非共有結合することもできる。例えば、核酸にインターカレーション(intercalation)されて効果を発揮する、抗癌剤の1種であるドキソルビシンのようなインターカレーター(intercalator agents)は、薬物伝達システムの細胞標的化領域としてアプタマーを使用する場合にアプタマーに非共有的にインターカレーション(intercalation)方式で結合され得る。アプタマーは、オリゴヌクレオチド分子であるため、ヌクレオチド塩基の塩基スタッキング(base stacking)があり、この塩基スタッキング間に薬物がインターカレーション(intercalation)方式で結合できるようになる。
【0047】
一具現例において、前記ITGB2結合部分にRNA、DNA、抗体、エフェクター、薬物、プロドラッグ、毒素、ペプチドまたは伝達分子がさらにコンジュゲート(conjugate)され得る(Shoari et al.、Pharmaceutics 13:1391、pp.1-32(2021)参照)。
【0048】
本発明における薬物伝達システムにおいて、薬物は、それが細胞内に移動して効果を発揮することができる薬物であれば、特に制限されない。そのような薬物は、細胞毒性抗癌剤などの任意の低分子化合物からなる薬物、組換えタンパク質、siRNAなどの任意のバイオ医薬品であってもよい。また、薬物は、効能面において、抗炎症剤、鎮痛剤、抗関節炎剤、鎮痙剤、抗憂鬱症剤、抗精神病薬、神経安定剤、抗不安剤、麻薬拮抗剤、抗パーキンソン病薬、コリン性アゴニスト、抗癌剤、血管新生抑制剤、免疫抑制剤、免疫促進剤、抗ウイルス剤、抗生剤、食欲抑制剤、鎮痛剤、抗コリン剤、抗ヒスタミン剤、抗片頭痛剤、ホルモン剤、冠状血管、血管拡張剤、避姙薬、抗血栓剤、利尿剤、抗高血圧剤、心血管疾患治療剤、造影剤などの診断剤などであってもよい。
【0049】
一具現例において、前記薬物は、化合物、RNA、DNA、抗体、エフェクター、プロドラッグ、毒素、ペプチドまたは放射性核種であってもよい。
【0050】
一具現例において、前記薬物は、免疫原性細胞死誘導剤、プロアポトシース(pro-apoptotic)ペプチド、マイクロチューブリン(microtubulin)構造形成抑制剤、有糸分裂(meiosis)抑制剤、トポイソメラーゼ(topoisomerase)抑制剤、DNAインターカレーター(DNA intercalators)、毒素(toxin)または抗癌剤であってもよい。
【0051】
一具現例において、前記プロアポトシースペプチドは、KLA、アルファ-ディフェンシン-1(alpha-defensin-1)、BMAP-28、Brevenin-2R、ブフォリンIIb(Buforin IIb)、セクロピンA-マガイニン2(cecropin A-Magainin 2、CA-MA-2)、セクロピンA(Cecropin A)、セクロピンB(Cecropin B)、クリソフィシン-1(chrysophsin-1)、D-K6L9、ゴメシン(Gomesin)、ラクトフェリシンB(Lactoferricin B)、LLL27、LTX-315、マガイニン2(Magainin 2)、マガイニンII-ボンベシン結合体(Magainin II-bombesin conjugate、MG2B)、パルダキシン(Pardaxin)およびこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。
【0052】
一具現例において、前記免疫原性細胞死誘導剤は、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、抗-EGFR抗体、BKチャンネルアゴニスト、ボルテゾミブ(Bortezomib)、強心配糖体(cardiac glycoside)、シクロホスファミド系抗癌剤、GADD34/PP1阻害剤、LV-tSMAC、Measlesウィルス、ブレオマイシン(bleomycin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、オキサリプラチン(oxaliplatin)およびこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。
【0053】
一具現例において、前記抗癌剤は、SN-38(7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン、7-Ethyl-10-hydroxy-camptothecin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、イダルビシン(idarubicin)、ピクサントロン(pixantrone)、サバルビシン(sabarubicin)、バルルビシン(valrubicin)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、メクロレタミン(mechloethamine)、クロラムブシル(chlorambucil)、フェニルアラニン(phenylalanine)、マスタード(mustard)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、カルムスチン(carmustine:BCNU)、ロムスチン(lomustine:CCNU)、ストレプトゾトシン(streptozotocin)、ブスルファン(busulfan)、チオテパ(thiotepa)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、ダクチノマイシン(dactinomycin:actinomycin D)、プリカマイシン(plicamycin)、マイトマイシンC(mitomycin C)、ビンクリスチン(vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、イリノテカン(iridotecan)、ウラムスチン(uramustine)、メルファラン(melphalan)、ベンダムスチン(bendamustine)、ダカルバジン(dacarbazine)、テモゾロミド(temozolomide)、アルトレタミン(altretamine)、デュオカルマイシン(duocarmycin)、ネダプラチン(nedaplatin)、オキサリプラチン(oxaliplatin)、サトラプラチン(satraplatin)、トリプラチンテトラナイトレート(triplatin tetranitrate)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine)、カペシタビン(capecitabine)、クラドリビン(cladribine)、クロファラビン(clofarabine)、シスタルビン(cystarbine)、フロクスウリジン(floxuridine)、フルダラビン(fludarabine)、ゲムシタビン(gemcitabine)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、メトトレキサート(methotrexate)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ペントスタチン(pentostatin)、チオグアニン(thioguanine)、エトポシド(etoposide)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、イキサベピロン(izabepilone)、ビンデシン(vindesine)、ビノレルビン(vinorelbine)、エストラムスチン(estramustine)、メイタンシン(maytansine)、DM1(mertansine、メルタンシン)、DM4、ドラスタチン(dolastatin)、アウリスタチンE(auristatin E)、アウリスタチンF(auristatin F)、モノメチルアウリスタチンE(monomethyl auristatin E、MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(monomethyl auristatin F)およびこれらの誘導体からなる群から選択されることができ、DM1またはMMAEであってもよい。
【0054】
本発明において、薬物は、好ましくは、細胞毒性抗癌剤である。細胞毒性抗癌剤は、代謝拮抗剤(Antimetabolites)、微小管(microtubulin)標的化剤(Tubulin polymerase inhibitorおよびTubulin depolymerisation)、アルキル化剤(Alkylating agents)、有糸分裂抑制剤(Antimitotic Agents)、DNA切断剤(DNA cleavage agent)、DNA架橋剤(DNA cross-linker agent)、DNAインターカレーター剤(DNA intercalator agents)、DNAトポイソメラーゼ抑制剤(DNA topoisomerase inhibitor)などに大別することができるが、代謝拮抗剤としては、メトトレキサート(Methotrexate)などの葉酸(Folic acid)誘導体、クラドリビン(Cladribine)などのプリン(Purine)誘導体、アザシチジン(Azacitidine)などのピリミジン(pyrimidine)誘導体、ドキシフルリジン(Doxifluridine)、フルオロウラシル(Fluorouracil)などが当業界に公知されており、微小管標的化剤としては、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、ドラスタチンなどのアウリスタチン系の薬物、メイタンシン(Maytansines)などが当業界に公知されており、アルキル化剤としては、ブスルファン(Busulfan)、トレオスルファン(Treosulfan)などのアルキルスルホネート(Alkyl Sulfonate)製剤、ベンダムスチン(Bendamustine)などのナイトロジェンマスタード(Nitrogen Mustard)誘導体、シスプラチン(Cisplatin)、ヘプタプラチン(Heptaplatin)などのプラチナ(Platinum)製剤などが当業界に公知されている。また、有糸分裂抑制剤(Antimitotic Agents)としては、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)などのタキサン(Taxane)製剤、ビンフルニン(Vinflunine)などのビンカアルカロイド(Vinca alkalids)、エトポシド(Etoposide)などのポドフィロトキシン(Podophyllotoxin)誘導体などが当業界に公知されており、DNA切断剤(DNA cleavage agent)としては、カリケアミシン(Calicheamicins)などが公知されており、DNA架橋剤(DNA cross-linker agent)としては、PBD二量体などが公知されている。また、DNAインターカレーターとしては、ドキソルビシンなどが当業界に公知されており、DNAトポイソメラーゼ抑制剤としては、SN-28などが当業界に公知されている。
【0055】
また、薬物は、遺伝子、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ペプチド、リボザイム、ウィルス粒子、免疫調節剤、タンパク質、造影剤などであってもよい。より具体的に薬物は、網膜芽細胞腫腫瘍サプレッサー遺伝子の変異体であるRb94をコードする遺伝子、腫瘍細胞でのみアポトシースを誘導するアポプチンをコードする遺伝子であってもよく、治療標的となるHER-2などに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列:5’-TCC ATG GTG CTC ACT-3’)であってもよく、MRI造影剤であるGd-DTPA物質などの診断造影剤であってもよい。
【0056】
本発明の薬物伝達システムと薬物の複合体は、薬剤学的に許容される担体を含んで当業界に公知された通常の方法により投与経路に従って経口用剤形または非経口用剤形の薬剤学的組成物で製造されることができる。ここで「薬学的に許容可能な担体」は、生物体を刺激することなく、投与化合物の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤を指す。液状溶液で製剤化する組成物において、許容される薬学的担体としては、滅菌および生体に適するものとして、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射用液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールおよびこれらの成分中、1成分以上を混合して用いることができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。
【0057】
一具現例において、本発明の薬物伝達システムは、前記薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達することができる。
【0058】
本発明において、ITGB2結合部分は、標的細胞であるM2腫瘍関連マクロファージのITGB2との結合により選択的な結合を可能にすることによって、標的機能を提供する。このITGB2結合部分は、標的細胞の表面に存在するITGB2と特異的に結合し、エンドサイトーシス(endocytosis)を誘導することによって、これと結合する薬物の細胞内への移動を可能にする。
【0059】
本発明において、抗体、アプタマー、特定の細胞から分泌され、標的細胞である他の細胞の表面受容体に作用することによって、細胞間におけるシグナル伝達の役割をするホルモン(例えば、erythropoietin hormone)、サイトカインやケモカイン(例えば、IL13)、標的細胞表面受容体と結合するVEGF(Vascular endothelial growth factor)、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)などの生体分子であるリガンド、受容体との特異的結合能を保有したこれら因子の一部領域であるペプチドなどがこのようなITGB2結合部分として用いられることができる。代表的に抗体またはアプタマーが用いられることができ、ITGB2結合部分としての抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のみならず、多重特異的抗体(すなわち、2つ以上の抗原または2つ以上のエピトープを認識する抗体であって、二重特異的抗体などをさす)であるか、ITGB2と特異的に結合することができる能力を保有する限り、抗体の断片、化学的に修飾された抗体、キメラ抗体(ヒトとマウスのキメラ抗体、ヒトとサルキメラ抗体など)、免疫原性を低下させたヒト化抗体やヒト抗体などの任意の抗体であってもよい。また、抗体断片、化学的修飾された抗体の多様な形態が当業界に公知されており、例えば、Fab、Fd、Fab’、dAb、F(ab’)、F(ab’)、scFv(single chain fragment variable)、Fv、単鎖抗体、Fv二量体、相補性決定領域断片、ヒト化抗体、キメラ抗体およびジアボディ(diabody)などや抗体をタンパク質切断酵素、いわゆる、パパイン、ペプシンで処理して得られた抗体断片などが挙げられる。
【0060】
抗体の製造方法、天然抗体に人為的な変形を加えて標的抗原に対する特異性を向上させるか、または免疫原性を改善させた抗体などと関連しては、当業界に公知された多様な文献、例えば、米国特許第4444887号明細書、米国特許第4716111号明細書、米国特許第5545806号明細書、米国特許第5814318号明細書、国際公開第98/46645号、国際公開第98/50433号、国際公開第98/24893号、国際公開第98/16654号、国際公開第96/34096号、国際公開第96/33735号、文献[Protein Eng 1994、7(6):805-814]、文献[Proc Natl Acad Sci USA 1994、91:969-973]などを参照することができる。
【0061】
細胞標的化領域としてのアプタマーは、単鎖DNAアプタマーまたは単鎖RNAアプタマーであってもよい。アプタマーは、抗体と同様に標的抗原など の標的分子に特異的に結合することができる核酸リガンドを意味するが、標的分子と特異的に結合することができれば、アプタマーは、二本鎖DNAまたはRNAアプタマーであってもよい。このような標的分子と特異的に結合することができるアプタマーの製造、選別方法などは、いずれも当業界に公知されている。アプタマーの選別のための具体的な方法や適切な試薬、材料などの使用については、文献[Methods Enzymol 267:275-301、1996]、文献[Methods Enzymol 318:193-214、2000]などを参照することができる。アプタマーは、生体内半減期向上のために、糖、フォスフェートおよび/または塩基で修飾されたものであってもよい。これらの糖、フォスフェートおよび/または塩基で修飾されたヌクレオチドは、当業界にその製造方法を含んで具体的に公知されている。例えば、糖で修飾されたヌクレオチドは、その糖のヒドロキシル基(OH group)がハロゲン基、脂肪族基、エーテル基、アミン基などで修飾されたもの、糖であるリボースまたはデオキシリボース自体がこれを代替できる糖類似体α-アノマー糖(α-anomeric sugars)、アラビノース(arabinose)、キシロース(xyloses)またはリキソース(lyxoses)のようなエピマー糖(epimeric sugars)、ピラノース糖(pyranose sugars)、フラノース糖(furanose sugars)などで置換されたものが挙げられる。また、例えば、フォスフェートにおける修飾は、フォスフェートがP(O)S(thioate)、P(S)S(dithioate)、P(O)NR2(amidate)、P(O)R、P(O)OR’、COまたはCH2(formacetal)への修飾されたものなどが挙げられる。ここで、前記RまたはR’は、Hまたは置換または非置換のアルキルなどであり、フォスフェートで修飾される場合、その連結基は-O-、-N-、-S-または-C-となり、このような連結基を介して隣接ヌクレオチドが互いに結合するようになる。
【0062】
本発明における薬物伝達システムは、M2腫瘍関連マクロファージの細胞膜に発現されたITGB2、特に、M2TAMにおける活性型構造(Active conformation)のITGB2(CD18)に特異的に直接結合するため、薬物効果が非選択的に示される副作用なしに標的分子であるITGB2が発現され、活性化されたM2腫瘍関連マクロファージについてのみ選択的に薬物効果が示されることを可能にする。
【0063】
一側面において、本発明は、メリチン、その変異体またはこれらの類似体を含むITGB2結合部分;およびこれと結合された薬物を含むペプチド-薬物複合体(peptide-drug conjugate、PDC)に関するものである。
【0064】
一具現例において、前記PDCは、ITGB2の466~565のアミノ酸と結合することができ、ITGB2のLEU(528)、THR(538)、LEU(556)、CYS(557)、PHE(558)、GLU(466)、ILE(469)、CYS(470)またはARG(471)と結合することができる。
【0065】
一具現例において、前記PDCは、配列番号5のアミノ酸配列を含むMelittin-dKLAであってもよく、配列番号6のアミノ酸配列を含むTB511であってもよく、マレイミド-修飾されたメリチンに薬物DM1がコンジュゲートされたM-DM1であってもよい。
【0066】
一具現例において、TB511は、ITGB2の466~565のアミノ酸と結合することができ、TB511のLEU(6)は、ITGB2のLEU(528)、THR(538)、LEU(556)、CYS(557)およびPHE(558)部位と結合(bindin)することができ、TB511のTRP(12)は、ITGB2のGLU(466)、ILE(469)、CYS(470)およびARG(471)と結合することができる。
【0067】
一側面において、本発明は、ITGB2に結合する抗体またはその免疫学的活性を有する断片;およびこれと結合された薬物を含む抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate、ADC)に関するものである。
【0068】
一具現例において、前記ADCは、ITGB2の732~748のアミノ酸を含むエピトープ、504~508のアミノ酸を含むエピトープ、534~546のアミノ酸を含むエピトープ、449~617のアミノ酸を含むエピトープ、または23~700のアミノ酸を含むエピトープに結合することができる。
【0069】
一具現例において、前記ADCは、抗体-薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate、ADC)リンカーをさらに含むことができ、ADCリンカーは、6-マレイミドカプロイル(MC)、マレイミドプロパノイル(MP)、バリン-シトルリン(val-cit)、アラニン-フェニルアラニン(ala-phe)、p-アミノベンジルオキシカルボニル(PAB)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1カルボキシレート(SMCC)、バリン-シトルリン-p-アミノベンジルオキシカルボニル(val-cit-PAB)またはN-スクシンイミジル(4-ヨード-アセチル)アミノベンゾエート(SIAB)であってもよい。
【0070】
一具現例において、前記抗体-薬物複合体は、ADCリンカーを介して抗-CD18抗体またはその免疫学的活性を有する断片が薬物と複合体を形成することができる。
【0071】
前記抗体は、全(whole)抗体形態のみならず、抗体分子の機能的な断片を含む。全抗体は、2個の全長軽鎖(light chain)および2個の全長重鎖(heavy chain)を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合(disulfide bond)で連結されている。抗体分子の機能的な断片とは、抗原結合機能を保有している断片を意味し、抗体断片の例としては、(i)軽鎖の可変領域(VL)および重鎖の可変領域(VH)と軽鎖の不変領域(CL)および重鎖の第一不変領域(CH1)からなるFab断片;(ii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iii)単一な抗体のVLおよびVHドメインからなるFv断片;(iv)VHドメインからなるdAb断片(Ward ES et al.、Nature 341:544-546(1989)];(v)分離されたCDR領域;(vi)2個の連結されたFab断片を含む2価断片であるF(ab’)2断片;(vii)VHドメインおよびVLドメインが抗原結合部位を形成するように結合させるペプチドリンカーにより結合された単鎖Fv分子(scFv);(viii)二重特異的な単鎖Fv二量体(PCT/US92/09965)および(ix)遺伝子融合により作製された多価または多特異的な断片であるジアボディ(diabody)WO94/13804)などを含む。
【0072】
本発明の抗体またはその免疫学的活性を有する断片は、動物に由来の抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、およびこれらの免疫学的活性を有する断片からなる群から選択されるものであってもよい。前記抗体は、組換え的または合成的に生産されたものであってもよい。
【0073】
所望の抗原を被免疫動物に免疫させて生産する動物に由来の抗体は、一般的に治療目的でヒトに投与した際、免疫拒否反応が起こり得、このような免疫拒否反応を抑制すべくキメラ抗体(chimeric antibody)が開発された。キメラ抗体は、遺伝光学的方法を用いて抗-アイソタイプ(anti-isotype)反応の原因となる動物に由来の抗体の不変領域をヒト抗体の不変領域に置換するものである。キメラ抗体は、動物に由来の抗体に比べて抗-アイソタイプ反応において、相当部分が改善されたが、依然として動物に由来のアミノ酸が可変領域に存在しているため、潜在的な抗-イディオタイプ(anti-idiotypic)反応に対する副作用を内包している。このような副作用を改善すべく開発されたものがヒト化抗体(humanized antibody)である。これはキメラ抗体の可変領域中、抗原の結合に重要な役割をするCDR(complementaritiy determining regions)部位をヒト抗体骨格(framework)に移植して作製される。
【0074】
ヒト化抗体を作製するためのCDR移植(grafting)技術において、最も重要なことは、動物に由来の抗体のCDR部位を最もよく受け入れられる最適化されたヒト抗体を選定することであり、これのために抗体データベースの活用、結晶構造(crystal structure)の分析、分子モデリング技術などが活用される。しかし、最適化されたヒト抗体骨格に動物に由来の抗体のCDR部位を移植しても動物に由来の抗体の骨格に位置しながら抗原結合に影響を及ぼすアミノ酸が存在する場合があるため、抗原結合が保存できない場合が相当の数存在するため、抗原結合力を復元するためのさらなる抗体工学技術の適用は必須であるといえる。
【0075】
前記抗体またはその免疫学的活性を有する断片は、生体から分離された(生体に存在しない)ものまたは非自然的に生産(non-naturally occurring)されたものであってもよく、いわゆる、合成的または組換え的に生産されたものであってもよい。
【0076】
本発明において、「抗体」とは、免疫系内で抗原の刺激によって作られる物質を意味するものであって、その種類は、特に制限されず、自然的または非自然的(いわゆる、合成的または組換え的)に得られる。抗体は、生体外だけでなく、生体内でも非常に安定して半減期が長いことから、大量発現および生産に有利である。また、抗体は、本質的にダイマー(dimer)構造を有するので、アビディティー(avidity)が非常に高い。完全な抗体は、2個の全長(full length)軽鎖および2個の全長重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖と二硫化結合で連結されている。抗体の不変領域は、重鎖不変領域と軽鎖不変領域に分けられ、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)およびイプシロン(ε)型を有し、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)およびアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)型を有する。
本発明において、用語「重鎖(heavy chain)」は、抗原に特異性を付与するために十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVおよび3個の不変領域ドメインCH1、CH2およびCH3とヒンジ(hinge)を含む全長重鎖およびその断片を全部含む意味として解釈される。また、用語「軽鎖(light chain」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVおよび不変領域ドメインCを含む全長軽鎖およびその断片を全部含む意味として解釈される。
【0077】
本発明において、用語「可変領域(variable region)または可変部位(variable domain」は、抗原と特異的に結合する機能を行いながら、配列上の多くの変異を示す抗体分子の部分を意味し、可変領域には、相補性決定領域であるCDR1、CDR2およびCDR3が存在する。前記CDR間には、フレームワーク領域(framework region、FR)部分が存在し、CDR環を支持する役割をする。前記「相補性決定領域」は、抗原の認識に関与する環状の部位であって、この部位の配列が変化するにつれて抗体の抗原に対する特異性が決定される。
【0078】
本発明において、用語「scFv(single chain fragment variable」は、遺伝子組換えを通じて抗体の可変領域のみを発現させて作った単鎖抗体を指し、抗体のVH領域とVL領域を短いペプチド鎖で連結した単鎖形態の抗体を指す。前記用語「scFv」は、特に明示されていなかったり、文脈上、異に理解されるものでなければ、抗原結合断片をはじめとするscFv断片を含むものとする。これは、通常の技術者にとって自明なことである。
【0079】
本発明において、用語「相補性決定領域(complementarity determining region、CDR」は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の高可変領域(hypervariable region)のアミノ酸配列を意味する。重鎖および軽鎖は、それぞれ3個のCDRを含むことができる(CDRH1、CDRH2、CDRH3およびCDRL1、CDRL2、CDRL3)。前記CDRは、抗体が抗原または抗原決定部位に結合するにおいて、主要な接触残基を提供することができる。
【0080】
本発明において、用語「特異的に結合」または「特異的に認識」は、当業者に通常公知されている意味と同一のものであって、抗原および抗体が特異的に相互作用し、免疫学的反応をすることを意味する。
【0081】
本発明において、用語「抗原結合断片」は、免疫グロブリン全体構造に対するその断片であって、抗原が結合することができる部分を含むポリペプチドの一部を意味する。例えば、scFv、(scFv)2、scFv-Fc、Fab、Fab’またはF(ab’)2であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記抗原結合断片中、Fabは、軽鎖および重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域および重鎖の第一不変領域(CH1)を有する構造として1個の抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC-末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと差がある。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしながら生成される。Fvは、重鎖可変領域および軽鎖可変部位のみを有する最小の抗体片でFv断片を生成する組換え技術は、当業界に広く公知されている。二重鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合により重鎖可変部位と軽鎖可変部位が連結されており、単鎖Fv(single-chain Fv)は、一般的にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と単鎖の可変領域が共有結合により連結されるか、またはC-末端にて直に連結されているため、二重鎖Fvのようにダイマーのような構造をなすことができる。前記リンカーは、1~100個または2~50個の任意のアミノ酸からなるペプチドリンカーであってもよく、当業界に適切な配列が知られている。前記抗原結合断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全抗体をパパインで制限切断すると、Fabを得ることができ、ペプシンで切断すると、F(ab’)2断片が得られる)、遺伝子組換え技術を通じて作製することができる。
【0082】
本発明において、用語「ヒンジ領域(hunge region)」は、抗体の重鎖に含まれている領域であって、CH1およびCH2領域間に存在しており、抗体内抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能をする領域を意味する。いわゆる、前記ヒンジは、ヒト抗体に由来するものであってもよく、具体的には、IgA、IgE、またはIgG、いわゆる、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4に由来するものであってもよい。
【0083】
本発明の抗体またはその免疫学的活性を有する断片は、当該技術分野に公知された任意の方法により製造されることができる。本発明の抗体またはその免疫学的活性を有する断片のポリペプチド配列をコーディングした後、所望の場合、宿主細胞内にクローニングされ、発現および検定される核酸形成に用いられる。これのための多様な方法が文献(Molecular Cloning-A Laboratory Manual、3rd Ed.、Maniatis、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、2001;Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons)に記載されている。
【0084】
本発明の抗体またはその免疫学的活性を有する断片をコードする核酸は、タンパク質発現のために、発現ベクターに挿入されることができる。発現ベクターは、通常調節または制御(regulatory)配列、選別マーカー、任意の融合パートナー、および/または追加的要素と作動可能に連結された、すなわち、機能的関係におかれたタンパク質を含む。適切な状態で、核酸で形質転換された宿主細胞、好ましくは、本発明の抗体またはその免疫学的活性を有する断片をコードする核酸含有発現ベクターを培養し、タンパク質発現を誘導する方法により本発明による抗体またはその免疫学的活性を有する断片が生産されることができる。哺乳類細胞、バクテリア、昆虫細胞、および酵母を含む多様な適切な宿主細胞が使用されることができるが、これに制限されるものではない。外因性核酸を宿主細胞に導入する方法は、当該技術分野に公知されており、用いられる宿主細胞によって異なり得る。好ましくは、生産コストが低廉で、産業的利用価値の高い大腸菌を宿主細胞とし、本発明による抗体またはその免疫学的活性を有する断片を生産する。
【0085】
一側面において、本発明は、本発明のITGB2に結合する抗体またはその免疫学的活性を有する断片を抗原結合ドメインとして含むキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor:CAR)に関するものである。
【0086】
一側面において、本発明は、前記キメラ抗原受容体を暗号化する遺伝子を含む組換えベクターに関するものである。
【0087】
一側面において、本発明は、前記組換えベクターで形質転換されたキメラ抗原受容体発現細胞に関するものである。
【0088】
一具現例において、キメラ抗原受容体発現細胞は、キメラ抗原受容体発現マクロファージ(CAR-macrophage)、キメラ抗原受容体発現T(CAR-T)細胞、キメラ抗原受容体発現-ガンマ-デルタT(CAR-Gamma-delta T)細胞またはナチュラルキラー(CAR-NK)細胞であってもよい。
【0089】
本発明において、用語「CAR(chimeric antigen receptor)」は、免疫エフェクター細胞に特定の抗原に対する特異性を付与することができる、自然的に存在しない受容体を意味する。通常、前記CARは、T細胞に単クローン抗体の特異性を移植するために用いられる受容体を指す。CARは、大概、細胞外ドメイン(Ectodomain)、膜透過性ドメイン(transmembrane domain)および細胞内ドメイン(Ectodomain)から構成される。
【0090】
前記細胞外ドメインは、抗原結合部位(antigen recognition region)を含み、CARの膜貫通ドメインは、細胞外ドメインと連結された形態で、自然的または合成されたものに由来するものであってもよい。自然的に存在するものに由来する場合、膜結合または膜透過性タンパク質に由来するものであってもよく、T細胞受容体のアルファ、ベータまたはゼータチェーン、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CDS、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154またはCD8などの多様なタンパク質の膜透過性領域に由来の部分であってもよい。このような膜貫通ドメインの配列は、膜透過性タンパク質の膜透過性領域部分を公知している通常の技術分野に公知された文献などから得ることができるが、これらに制限されるものではない。
【0091】
また、前記膜貫通ドメインが合成されたものである場合、これはロイシンおよびバリンのような疎水性アミノ酸残基を主に含むことができ、その例として、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレット(triplet)が合成された膜貫通ドメインに存在することができるが、これに制限されるものではない。このような膜貫通ドメインに対する配列情報は、合成された膜貫通ドメインに対する通常の技術分野に公知された文献から得ることができるが、これに制限されるものではない。
【0092】
本発明のCARにおいて、前記細胞内ドメインは、細胞内に存在するCARのドメインの一部であって、膜貫通ドメインと連結された形態である。本発明の前記細胞内ドメインは、CARの抗原結合部位に抗原が結合すると、T細胞活性化、好ましくは、T細胞増殖をもたらすことが特徴である、細胞内シグナル伝達ドメインを含むことができる。前記細胞内シグナル伝達ドメインは、細胞外に存在する抗原結合部位に抗体が結合すると、T細胞活性化をもたらすことができるシグナルを伝達する部分であれば、特にその種類に制限されず、多様な種類の細胞内シグナル伝達ドメインが用いられることができ、その例として、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(tyrosine-based activation motif)またはITAMであってもよく、前記ITAMは、CD3ゼータ(ξ、zeta)、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CDS、CD22、CD79a、CD79b、CD66dまたはFcεRIγに由来するものを含むが、これらに制限されるものではない。
【0093】
CARは、T-細胞シグナル化分子の細胞質ドメインにヒンジおよび膜貫通領域を介してカップリングされる腫瘍関連抗原(TAA)に特異的な抗体の単鎖断片可変部(scFv)を含む。ほとんどの通常のリンパ球活性化部分は、T-細胞触発(例えば、CD3ζ)部分を有するタンデム(tandem)において、T-細胞共刺激(例えば、CD28、CD137、OX40、ICOS、およびCD27)ドメインを含む。CAR-媒介養子免疫療法は、CAR-移植された細胞が非-HLA-制限方式で標的腫瘍細胞上のTAAを直接認識するようになる。
【0094】
本発明において、用語「キメラ抗原受容体発現T(CAR-T)細胞」は、CARを発現するT細胞を意味する。前記キメラ抗原受容体発現T(CAR-T)細胞は、i)HLA(human leukocyte antigen)に非依存的な方式で癌抗原を認知するため、細胞表面にHLA発現を減少させ、抗癌剤の作用を回避する癌を治療することができる利点があり、ii)HLAタイプと無関係なため、患者のHLAタイプに関係なく、治療に用いることができ、iii)短時間内に多くの量の癌特異的T細胞を作り出すことができるため、優れた抗癌効果を示すことができる利点を有する。
【0095】
前記T細胞は、CD4 T細胞(ヘルパーT細胞、TH細胞)、CD8 T細胞(細胞毒性T細胞、CTL)、記憶T細胞、調節T細胞(Treg細胞)ナチュラルキラーT細胞などがあり、本発明において、CARが導入されるT細胞は、好ましくは、CD8 T細胞であるが、これらに制限されるものではない。
【0096】
一具現例において、本発明は、ITGB2に結合する抗体またはその免疫学的活性を有する断片を含むT細胞エンゲージャー(T-cell engager)に関するものである。
【0097】
一具現例において、前記T細胞エンゲージャーは、例えば、二重-特異的 T-細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager、BiTE)であってもよい。前記BiTEは、人工二重特異的モノクローナル抗体の部類であって、約55キロダルトンの単一のペプチド鎖上に4個の異なる遺伝子からアミノ酸配列または異なる抗体の2個の単鎖可変部断片(scFv)から構成される融合タンパク質である。scFv中の一つは、CD3受容体を介してT細胞に結合し、もう一つは、腫瘍特異的な分子を通じて腫瘍細胞に結合する。他の二重特異的抗体と類似に、そして通常のモノクローナル抗体とは異なり、BiTEは、T細胞と腫瘍細胞の間で連結を形成する。これはパーフォリンおよびグランザイムのようなタンパク質を生産することによって、MHC Iまたは共刺激分子の存在とは独立してT細胞が腫瘍細胞上で細胞毒性活性を発揮するようにする。これらのタンパク質は、腫瘍細胞に侵入し、細胞の細胞死滅を開始する。
【0098】
一側面において、本発明は、本発明の薬物伝達システム、ペプチド-薬物複合体または抗体-薬物複合体を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学的組成物に関するものである。
【0099】
一具現例において、本発明の薬物伝達システム、ペプチド-薬物複合体または抗体-薬物複合体を有効成分として含む免疫抗癌剤に関するものである。
【0100】
一具現例において、前記癌は、M2腫瘍関連マクロファージ媒介癌であってもよい。
【0101】
一具現例において、前記組成物は、M0マクロファージおよびM1マクロファージに比べて、M2マクロファージにおけるITGB2の発現が上方制御された患者を対象に投与されることができる。
【0102】
一具現例において、癌は、脳腫瘍、黒色腫、骨髄腫、非小細胞性肺癌、口腔癌、肝臓癌、胃癌、結腸癌、乳癌、三重陰性乳癌(Triple Negative Breast Cancer、TNBC)、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部または頸部癌、子宮頸部癌、卵巣癌、大腸癌、小腸癌、直腸癌、卵管癌、肛門癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰癌、ホジキン病(Hodgkin’s disease)、食道癌、リンパ腺癌、膀胱癌、胆嚢癌、内分泌腺癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、リンパ球リンパ腫、腎臓または尿管癌、腎細胞癌、腎臓骨盤癌、中枢神経系腫瘍、一次中枢神経系リンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫および下垂体腺腫からなる群から選択されるいずれか一つであってもよく、抗癌剤耐性癌であってもよい。
【0103】
本発明の薬学的組成物は、単独の療法で用いられることができるが、他の通常の生物学的療法、化学療法または放射療法と共に用いられることもでき、このような並行療法を実施する場合には、より効果的に癌を治療することができる。本発明を癌の予防および治療に用いる場合、前記組成物と共に用いられることができる化学療法剤は、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、プロカルバジン(procarbazine)、メクロレタミン(mechlorethamine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ブスルファン(bisulfan)、ニトロソウレア(nitrosourea)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、ブレオマイシン(bleomycin)、プリカマイシン(plicomycin)、マイトマイシン(mitomycin)、エトポシド(etoposide)、タモキシフェン(tamoxifen)、タキソール(taxol)、トランスプラチナ(transplatinum)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、ビンクリスチン(vincristin)、ビンブラスチン(vinblastin)およびメトトレキサート(methotrexate)などを含む。本発明の組成物と共に用いられることができる放射療法は、X-線照射およびγ-線照射などである。
【0104】
本発明において、用語「予防」とは、本発明による組成物の投与により癌の発生、拡散および再発を抑制または遅延させるあらゆる行為を意味する。
【0105】
本発明の組成物の治療的に有効な量は、多様な要素、例えば、投与方法、目的部位、患者の状態などによって異なり得る。したがって、人体に使用時の投与量は、安全性および効率性を共に考慮し、適正量で決定されるべきである。動物実験を通じて決定した有効量からヒトに使用される量を推定することも可能である。有効な量を決定する際に、考慮すべきこのような事項は、例えば、Hardman and Limbird、eds.、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、10th ed.(2001)、Pergamon Press;およびE.W.Martin ed.、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th ed.(1990)、Mack Publishing Co.に記述されている。
【0106】
本発明における薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明にて使される用語、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスク比で疾患を治療するのに十分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味し、有効用量レベルは患者の健康状態、疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与方法、投与時間、投与経路および排出率、治療期間、配合または同時に使用される薬物を含む要素およびその他の医学分野で公知の要素によって決定されることができる。本発明の組成物は、個別の治療剤として投与するか、または他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤と順次または同時に投与することができ、単回または複数回投与することができる。前記した要素を全て考慮して、副作用なく最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定され得る。
【0107】
本発明における薬学的組成物は、生物学的製剤に通常使用される担体、希釈剤、賦形剤または二つ以上のこれらの組み合わせを含むことができる。本発明にて使用される用語、「薬学的に許容可能な」とは、前記組成物に露出される正常な細胞やヒトに毒性のない特性を示すことを意味する。前記担体は、組成物を生体内送達に適したものであれば、特に制限されず、例えば、Merck Index、13th ed.、Merck & Co.Inc.に記載された化合物、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、およびこれらの成分中、1成分以上を混合して用いることができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。さらに、当分野の適正な方法によりまたはRemington’s Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company、Easton PA、18th、1990)に開示されている方法を用いて各疾患に応じてまたは成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0108】
一具現例において、前記薬学組成物は、経口型剤形、外用剤、坐剤、滅菌注射溶液および噴霧剤を含む群から選択される一つ以上の剤形であってもよい。
【0109】
本発明における組成物はまた、生物学的製剤に通常使用される担体、希釈剤、賦形剤または二つ以上のこれらの組み合わせを含むことができる。薬学的に許容可能な担体は、組成物を生体内送達に適したものであれば、特に制限されず、例えば、Merck Index、13th ed.、Merck & Co.Inc.に記載された化合物、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノールおよびこれらの成分中、1成分以上を混合して用いることができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用製剤、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。さらに当分野の適正な方法によりまたはRemington’s Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company、Easton PA、18th、1990)に開示されている方法を用いて各疾患に応じてまたは成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0110】
本発明における組成物にさらに同一または類似する機能を示す有効成分を1種以上含有することができる。本発明における組成物は、組成物の総重量に対して前記タンパク質を0.0001~10重量%、好ましくは0.001~1重量%を含む。
【0111】
本発明における薬学的組成物は、薬剤学的に許容可能な添加剤をさらに含むことができ、このとき、薬剤学的に許容可能な添加剤としては、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアゴム、アルファ化デンプン、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、デンプングリコール酸ナトリウム、カルナウバロウ、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、デキストロース、ソルビトールおよびタルクなどが用いられることができる。本発明による薬剤学的に許容可能な添加剤は、前記組成物に対して0.1重量部~90重量部含まれることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0112】
本発明における組成物は、目的とする方法に従って、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)するか、経口投与することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などによってその範囲が多様である。本発明による組成物の一日の投与量は、0.0001~10mg/mlであり、好ましくは0.0001~5mg/mlであり、一日に1回~数回に分けて投与することがより好ましい。
【0113】
本発明における組成物の経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内服液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、通常使用される単純な希釈剤である水、液体パラフィン以外に多様な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが共に含まれることができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれる。
【0114】
一側面において、本発明は、ITGB2(Integrin beta 2)に候補物質を処理する段階;およびITGB2と結合する候補物質を選別する段階を含む、薬物をM2腫瘍関連マクロファージに特異的に伝達する物質をスクリーニングする方法に関するものである。
【0115】
一具現例において、前記方法は、拡張された(extended)活性型構造(Active conformation)のCD18に特異的に結合する候補物質を選別することができる。
【0116】
一側面において、本発明は、分離された試料においてITGB2の発現量を確認する段階を含むM2マクロファージを標的化する抗癌剤に対する反応性を有する患者を選別する方法に関するものである。
【0117】
一具現例において、前記方法は、M2マクロファージにおいて、ITGB2の発現量がM0マクロファージおよびM1マクロファージに比べて高い場合、M2マクロファージを標的化する抗癌剤に対する反応性を有する患者として判別する段階をさらに含むことができる。
【0118】
一側面において、本発明は、ITGB2遺伝子または前記遺伝子から発現されたタンパク質を含む固形癌診断用マーカーに関するものである。
【0119】
一側面において、本発明は、ITGB2の発現量をmRNAまたはタンパク質レベルで測定する製剤を含む、固形癌診断用組成物に関するものである。
【0120】
一具現例において、mRNAレベルで測定する製剤は、前記遺伝子の核酸配列、前記核酸配列に相補的な核酸配列、前記核酸配列および相補的な配列の断片を特異的に認識するプライマー対、プローブ、またはプライマー対およびプローブであってもよく、前記測定は、重合酵素連鎖反応、リアルタイムRT-PCR(Real-time RT-PCR)、逆転写重合酵素連鎖反応、競争的重合酵素連鎖反応(Competitive RT-PCR)、Nuclease保護アッセイ(RNase、S1 nuclease assay)、in situ交雑法、核酸マイクロアレイ、ノーザンブロット、DNAチップ、multiplex PCRまたはddPCRからなる群から選択される一つ以上の方法により行われることができる。
【0121】
一具現例において、タンパク質レベルで測定する製剤は、前記遺伝子のタンパク質全長またはその断片を特異的に認識する抗体、抗体断片、アプタマー(aptamer)、アビマー(avidity multimer)またはペプチド模倣体(peptidomimetics)であってもよく、前記測定は、ウェスタンブロット、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射線免疫分析(RIA:Radioimmunoassay)、放射免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、免疫電気泳動、組織免疫染色、免疫沈降分析法(Immunoprecipitation assay)、補体結合分析法(Complement Fixation Assay)、FACS、質量分析またはタンパク質マイクロアレイからなる群から選択される一つ以上の方法により行うことができる。
【0122】
本発明において、使用された用語「検出」または「測定」は、検出または測定された対象の濃度を定量することを意味する。
【0123】
本発明において、使用された用語「プライマー」は、短い遊離3末端水酸化基(free 3 hydroxyl group)を有する核酸配列に相補的なテンプレート(template)と塩基対(base pair)を形成することができ、テンプレート鎖複製のための開始時点として機能をする短い核酸配列を意味する。プライマーは、適切な緩衝溶液および温度で重合反応(すなわち、DNA重合酵素または逆転写酵素)のための試薬および異なる4種類のヌクレオシドトリフォスフェートの存在下でDNA合成を開示することができる。
【0124】
本発明において、使用された用語「プローブ」とは、mRNAと特異的結合をなすことができる短くて数個の塩基ないし長くて数百個の塩基に該当するRNAまたはDNAなどの核酸断片を意味し、ラベルリングされているので、特定のmRNAの存在有無を確認することができる。プローブは、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)プローブ、単鎖DNA(single stranded DNA)プローブ、二重鎖DNA(double stranded DNA)プローブ、RNAプローブなどの形態で作製することができる。本発明では、前記ITGB2と相補的なプローブを用いて混成化を実施し、混成化可否を通じて前記遺伝子発現程度を診断することができる。適当なプローブの選択および混成化条件は、通常の技術分野に公知されたものを基に修飾することができるため、本発明では、これについて特に限定されない。
【0125】
本発明のプライマーまたはプローブは、ホスホロアミダイト固体支持体方法、またはその他の広く公知された方法を用いて、化学的に合成することができる。このような核酸配列はまた、当該分野に公知された多くの手段を用いて修飾させることができる。このような修飾の非-制限的な例としては、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチドのうちの一つ以上の同族体への置換およびヌクレオチド間の修飾、例えば、荷電しない連結体(例:メチルホスホネート、ホスフォトリエステル、ホスホロアミダート、カルバメートなど)または荷電した連結体(例:ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)への修飾がある。
【0126】
本発明において、プローブをcDNA分子と混成化させる適合する条件は、最適化手続きにより一連の過程で決定されることができる。このような手続きは、研究室で使用するためのプロトコルを樹立するために当業者によって一連の過程で実施される。例えば、温度、成分の濃度、混成化および洗浄時間、緩衝液成分およびこれらのpHおよびイオン強度などの条件は、プローブの長さおよびGC量およびターゲットヌクレオチド配列などの多様な因子に依存する。混成化のための詳細な条件は、Joseph Sambrook、et al.、Molecular CloninG、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2001);およびM.L.M.Anderson、NucleicAcidHybridization、Springer-Verlag New York Inc.N.Y.(1999)にて確認することができる。例えば、前記ストリンジェンシー条件の中から高いストリンジェンシー条件は、0.5 M NaHPO4、7%のSDS(sodium dodecyl sulfate)、1mM EDTAにおいて、65℃条件で混成化し、0.1 x SSC(standard saline citrate)/0.1%のSDSにおいて、68℃条件で洗浄することを意味する。または、高いストリンジェンシー条件は、6xSSC/0.05%のナトリウムパイロフォスフェートにおいて、48℃の条件で洗浄することを意味する。低いストリンジェンシー条件は、例えば、0.2xSSC/0.1%のSDSにおいて、42℃条件で洗浄することを意味する。
【0127】
一側面において、本発明は、本発明の免疫抗癌剤を処理した試料において、ITGB2の発現量を確認する段階を含む、M2マクロファージを標的化する免疫抗癌剤に対する反応性予測または予後診断方法に関するものである。
【0128】
一具現例において、免疫抗癌剤処理後の試料において、ITGB2タンパク質の発現量が減少した場合、免疫抗癌剤に対する反応性が良いものと判断する段階をさらに含むことができる。
【0129】
一具現例において、前記試料は、血液、血清、血漿、羊水、唾液、腹水、骨髄、涙液、胆汁、肺洗浄液、脳脊髄液、胸水、滑液、リンパ、精液、尿、または組織生検または細胞からタンパク質を抽出した溶液であってもよい。
【0130】
一側面において、本発明は、対象から分離された試料において、ITGB2の発現量を確認する段階;対照群とITGB2の発現量を比較する段階;およびITGB2が対照群に比べて、過発現された対象を分類する段階を含む、癌の診断に必要な情報を提供する方法に関するものである。
【0131】
一具現例において、ITGB2が対照群に比べて過発現された対象を癌に罹患した可能性が高いものと判断する段階をさらに含むことができる。
【0132】
一側面において、本発明は、本発明の薬物伝達システムを薬学的に有効な量で癌に罹患したオブジェクトに投与する段階を含む癌の治療方法に関するものである。
【0133】
一具現例において、前記オブジェクトは、M0マクロファージおよびM1マクロファージに比べて、M2マクロファージにおいて、ITGB2の発現が上方制御された患者であってもよい。
【0134】
一側面において、本発明は、本発明の薬物伝達システムを癌の予防および治療用薬学的組成物の製造に用いるための用途に関するものである。
【0135】
下記の実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。しかし、下記実施例は、本発明の内容を具体化するためのものに過ぎず、これにより本発明が限定されるものではない。
【0136】
実施例1.M2腫瘍関連マクロファージ(M2TAM)標的化ペプチドの合成
下記表1のメリチン(Melittin)およびTAMpep826をGenScript(Piscataway、NJ、USA)に合成依頼して供給を受け、その後、実験にてD-PBSに5mg/mlで溶かし、用いられた。
【0137】
【表1】
【0138】
実施例2.M2TAM標的化の分析
2-1.メリチンのM2TAMに対する親和度(Affinity)の確認
前記実施例1にて作製したメリチンがM2腫瘍関連マクロファージ(M2TAM)に特異的に結合するか否かを確認するため、ヒト単球細胞株THP-1をM0、M1、およびM2マクロファージに分化させ、FITCコンジュゲートされたメリチンを処理し、フローサイトメトリーにより確認した。具体的に、THP-1細胞は、100nMのPMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)を37℃で24時間処理し(M0マクロファージ)、分化されたM0マクロファージを100nMのLPSおよび20ng/mlのIFN-γと37℃で72時間培養し、M1マクロファージ(M1)に分化させ、20ng/mlのIL-4およびIL-13と37℃で72時間培養し、M2マクロファージ(M2)に分化させた。分化された細胞にFITCコンジュゲートされたメリチン50nMを1時間処理し、BD FACS CantoII instruments(BD biosciences、San Jose、CA、USA)で細胞を検出し、FlowJosoftware(BDbiosciences)により分析した。
【0139】
その結果、FITC陽性細胞は、M0およびM2マクロファージに比べて、M2マクロファージにおいて、著しく増加した(図1aおよびb)。これを通じて、メリチンがM2マクロファージに優先的に結合することが確認された。
【0140】
2-2.メリチンのM2TAM結合標的タンパク質の識別
M2マクロファージのあるタンパク質がメリチンとM2マクロファージの特異的結合に関連しているか否かを確認するため、ビオチン-コンジュゲートされたメリチン(メリチン-biotin)を合成した。THP-1細胞(5 Х 10 cells)をM0、M1およびM2マクロファージに分化させた後、スクレーパーを用いて細胞を集めて、遠心分離(300 Х g、5分)を通じて細胞を洗浄し、細胞膜タンパク質抽出キット(membrane protein extraction kit)(Thermo Fisher scientific)を用いてマクロファージの細胞膜タンパク質を得た。メリチンにビオチン(biotin)が結合されたメリチン-ビオチン(200μg)と常温(20~24℃)で1時間反応させた後、ストレプトアビジン・レジン(streptavidin resin)(Thermo Fisher scientific)を用いてメリチンと結合したタンパク質を得た。塩を除去するため、100%のメタノール、0.1%のギ酸および80%のCANをそれぞれ100μlずつ18 Micro Spin-Columnに添加して用意し、用意したカラムに試料をロードし、50μlの0.1%のギ酸を添加し、不要な物質を除去した。その後、80%のCAN 100μlを添加し、ペプチドを溶離させた。脱塩が終わると、Speed-vacで乾燥させ、溶液を全部除去し、下記表2の条件でUPLC-Exactive equipment(Thermo Fisher Scientific)を用いてLC-MS/MSにより分析した。MaxQuantおよびMPP(Mass Profiler Professional)を用いてM0マクロファージに比べてM1およびM2マクロファージにおいて、上方制御されたタンパク質に対してデータを分析した。データを分析するために、各指標別にLC-MS/MSデータを、Proteome Discovererを用いて分析し、データベースは、Uniprotのhuman databaseを用いて、LFQ(Label-Free Quantification)により進めた。Modificaitonは、Oxidation(M)、Carbamyl(N-term)、Carbamidomethyl(C)を追加し、Baseline optionは、noneとした。
【0141】
【表2】
【0142】
その結果、M2/M0にて53個のタンパク質が、M1/M0にて123個のタンパク質が上方制御された(図2a)。M2マクロファージよりもより多くの上方制御されたタンパク質がM1マクロファージと相互作用したが、細胞膜に存在するタンパク質はその限りでない。膜タンパク質中、ITGB2がM2マクロファージにおいて、上方制御されることが示された(図2b)。また、M1マクロファージのマーカーとして知られたIL-10およびCXCL10のようなサイトカインがM1マクロファージにおいて、上方制御された(図2v)。また、タンパク質がM1に比べてM2にて上方制御されたタンパク質が確認されたが、膜タンパク質中、ITGB2のみがM2マクロファージにおいて、上方制御されることが確認された(図2d)。これを通じて、メリチンがM2マクロファージの膜タンパク質ITGB2と相互作用し、結合することが確認された。
【0143】
2-3.TAMpep826のM2TAM結合標的タンパク質の識別
前記実施例2-2からみられるように、M0、M1およびM2マクロファージからそれぞれ抽出した細胞膜タンパク質とTAMpep826-ビオチンを反応させて、LC-MS/MS proteomicsを通じてターゲットタンパク質を確認した。
【0144】
その結果,細胞膜タンパク質中、ITGB2がM0およびM1マクロファージに比べて、M2マクロファージにおいて、より高いレベルで発現されることが示され(図4)、TAMpep826のM2マクロファージ結合標的タンパク質として選別された。
【0145】
実施例3.M2マクロファージのITGB2発現の確認
3-1.ITGB2mRNA発現の確認
M0、M1、M2マクロファージおよびTAMsにおいて、ITGB2のmRNA発現レベルを評価するために、リアルタイム重合酵素連鎖反応を行った。具体的には、M0、M1またはM2マクロファージに分化された細胞において、easy-BLUE total RNA Extraction Kit(iNtRON)を用いてRNAを抽出し、CycleScript-Reverse Transcriptase (Bioneer)を用いてcDNAで合成した。ActinまたはITGB2遺伝子のプライマー(表3)を用い、図5の条件でreal-time PCR(CFX96、Bio-rad)を進め、Actinに比べて各遺伝子の発現量を相対定量(Relative quantification)により比較および分析した。
【0146】
【表3】
【0147】
その結果、ITGB2のmRNA発現は、M0およびM1に比べてM2マクロファージおよびTAMにおいて、有意に増加したことが示された(図6)。
【0148】
3-2.ITGB2タンパク質発現の確認
M0、M1、M2マクロファージおよびTAMsにおいて、ITGB2のタンパク質発現レベルを評価するために、ウェスタンブロット解析を行った。具体的には、M0、M1およびM2マクロファージに分化されたそれぞれの細胞において、Proprep solution(iNtRON)を用いてタンパク質を抽出し、電気泳動法によりメンブレンにタンパク質をトランスファーした。メンブレンを5%のBSAに浸してブロックした後、1次抗体(ITGB2)を24時間4℃で処理し、2次抗体を1時間常温で処理した後、D-Plus(商標出願)ECL Pico System(Doning LS)を処理し、Davinch-Chemi(商標出願)imaging system(Intoxia)でタンパク質バンド写真を撮影した。
【0149】
その結果、ITGB2のタンパク質発現は、M0およびM1に比べてM2マクロファージおよびTAMにおいて、有意に増加したことが示された(図7)。
【0150】
3-3.免疫蛍光法によるITGB2タンパク質発現の確認
M0、M1、M2マクロファージおよびTAMsにおいて、ITGB2のタンパク質発現レベルを評価するために、免疫蛍光分析を行った。具体的には、M0、M1およびM2マクロファージに分化されたそれぞれの細胞を4%のホルマリンで固定させた後、PBSで洗浄し、5%のBSAに浸してブロックした後、1次抗体(ITGB2)を24時間4℃で処理し、2次抗体を2時間常温で処理し、染色を行った。染色した細胞は、DAPI mounting後、LSM800(Zeiss)で蛍光写真を撮影した。
【0151】
その結果、ITGB2のタンパク質は、M0およびM1に比べてM2マクロファージおよびTAMにて高い発現レベルを示した(図8)。
【0152】
実施例4.M2TAM標的化ペプチドとITGB2の相互作用の確認
4-1.M2マクロファージ細胞膜におけるITGB2の発現の確認
ITGB2がM2マクロファージの細胞膜にて発現されるか否かを確認するため、M2マクロファージから細胞膜タンパク質およびサイトゾル(cytosol)タンパク質をそれぞれ分離抽出し、ビオチン化されたTAMpep826と反応させてITGB2の発現をウェスタンブロット解析により評価した。その結果、ITGB2タンパク質は、M2マクロファージの細胞膜にて発現されることが示された(図9)。
【0153】
4-2.TAMpep826およびITGB2の相互作用の確認
M2マクロファージにおいて、TAMpep826がITGB2と相互作用するか否かを確認するために、TAMpep826およびビオチン化されたTAMpep826の競争的な反応を通じてITGB2の発現を評価した。具体的には、M2マクロファージに分化された細胞をスクレーパーで集めて、遠心分離(300 Х g、5分)により細胞を洗浄し、細胞膜タンパク質抽出キット(Thermo Fisher scientific)を用いて、マクロファージの細胞膜タンパク質を得た。TAMpep826またはscrambleペプチドを濃度別(0.001、0.01、0.1、1および10μg)に1時間前処理した後、タンパク質にビオチンが結合されたTAMpep826(200μg)と常温(20~24℃)で1時間反応させた後、Dynabeads(商標出願)M-280 Streptavidin(Thermo Fisher scientific)を用いて、TAMpep826と結合したタンパク質を得た。タンパク質をウェスタンブロット解析し、ITGB2の発現を確認した。
【0154】
その結果、scrambledペプチドを前処理したとき、ビオチン化されたTAMpep826と結合されたITGB2の発現は、影響がないことが示されたのに対し、TAMpep826で前処理したときは、濃度によってITGB2発現が抑制されることが示された(図10)。このことから、TAMpep826がM2マクロファージの細胞膜にてITGB2と相互作用することを確認することができた。
【0155】
4-3.免疫蛍光法を用いたTAMpep826およびITGB2の相互作用の確認
M2マクロファージの細胞膜にて、ITGB2およびTAMpep826がco-localizationするか否かを確認するために、FITCが結合されたTAMpep826を用いて免疫蛍光分析を行った。その結果、TAMpep826とITGB2は、M2マクロファージの細胞膜に集中的に分布されていることが示された(図11)。
【0156】
4-4.TB511とITGB2の結合部位の確認
CD18(ITGB2)のシステイン(cysteine)rich部分の配列を基に(uniport_p05107、Cystein-rich tandem repeats region:449-617)、trRosettaアルゴリズム(algorithm)を用いて、3次構造(teritiary structure)を構成した(https://yanglab.nankai.edu.cn/trRosetta/)。その後、TB511とCD18のドッキングシミュレーション(Docking simulation)は、trRosettaで作ったCD18 PDBファイルとTB511のアミノ酸配列を有し、CABS-dock serverを通じて行われた(http://biocomp.chem.uw.edu.pl/CABSdock/)。ドッキングシミュレーションの結果、作られた10個のモデルのうち、TB511配列のアラニン置換の結果を基に代表モデルを選定した(図12)。
【0157】
その結果、TB511のLEU(6)は、CD18のLEU(528)、THR(538)、LEU(556)、CYS(557)およびPHE(558)部位と結合(bindin)することが予測され、TB511のTRP(12)は、CD18のGLU(466)、ILE(469)、CYS(470)およびARG(471)と結合することが予測された。また、TB511のLEU(6)およびTRP(12)をそれぞれアラニンで置換し、CD18との結合をシミュレーションすると、2つの部位全部CD18のどの配列とも結合しないことが示された。したがって、TB511のLEU(6)およびTRP(12)は、TB511とCD18間のドッキングにおいて核心的な部分であり、TB511は、CD18の466~565に結合することが予測され得る(図13)。
【0158】
実施例5.ITGB2結合部分の合成
5-1.ITGB2結合PDC(peptide-drug conjugate)の合成
下記表4のMelittin-dKLAおよびTB511ペプチドをGenScript(Piscataway、NJ、USA)に合成依頼して供給を受け、その後、実験にてD-PBSに5mg/mlで溶かし、用いられた。dKLAは、ペプチド間アミド結合を通じて連結しており、メリチンまたはTAMpep826とdKLA間の相互作用および折り畳みを最小化するため、真ん中に4個のグリシンおよび1個のセリンで構成されたリンカーを配置し、両端を区分し、KLAは、体内の分解を最小化するために、L型でないD型異性体を用いた。また、M-DM1を作製するために、25mMのホウ酸ナトリウム緩衝液(25mM NaCl、1mM EDTA、pH 8.0)に溶かしたマレイミド(Maleimide)-修飾されたメリチン(GenScript、BeijinG、China)(100μM、1mL、0.1mmoL)にDM1(Mertansine)(MedChem Express、Princeton)(1.1当量、DMF中10mM)およびDMF(Dimethylformamide)を添加し、37℃で1時間反応させた後、生成物ををDulbeccoのリン酸緩衝食塩水(DPBS;Welgene)で限外濾過により3回濾過することによって、マレイミド(Maleimide)-修飾されたメリチンMのN-末端にDM1を結合させてPDCを作製し、M-DM1として命名した。作製したM-DM1は、Poroshell 120 C18 column(2.7μm、3 × 50mm、Agilent、Santa Clara、CA、USA)にて逆相高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)を5μL、0.5mL/分の速度で注入し、特性を分析した。
【0159】
【表4】
【0160】
5-2.ITGB2結合ADC(Antibody-drug conjugate)の合成
5-2-1.抗-CD18抗体およびDM1のADCの作製
マクロファージ-1抗原(Macrophage-1 antigen、Mac-1)のうちの一つである、CD18のM2TAMにおける活性型構造(Active conformation)に特異的に結合する抗体(図14)を作製するために、抗-CD18抗体を分泌するハイブリドーマ(MM18/2.a.8)細胞の培養液を集めて、2,500rpm、4℃で10分間遠心分離し、上澄み液を得た後、タンパク質G-セファロースカラムクロマトグラフィー方法により精製した。PBSで予め平衡化させたタンパク質G-セファロースカラム(Pharmacia、スウェーデン)に抗体溶液をゆっくりと通過させ、カラムをペリスタルティックポンプ(peristatic pump)に連結し、PBSで十分に洗浄した。洗浄完了後、0.2Mのグリシン(glycin)-HCl(pH2.7)で抗体を溶出した。このとき、予め用意した1MのTris(pH9.0)を含むチューブに前記溶出液を緩衝させた。この抗体をPBSに透析(dialysis)した後、用いた。BCAタンパク質分析キット(BCA(商標出願)Protein Assay Kit、Pierce)を用いて精製された抗体量を測定し、Flow cytometry分析を通じて、抗体の結合能を確認した。精製した抗-CD18抗体をPBS(pH7.4)にバッファー交換し、抗-CD18抗体(1mg/ml、6.67μM)にDMSOに溶かしたSMCC-DM1(mertansine、120μM)(MedChemExpress)を1:18の 比率で混ぜ、常温で4~20時間反応させた。未反応のDM1を除去するため、10KDa cutoff centrifugal filterを用いて、CD18-DM1をPBS(pH7.4)にバッファー交換し、0.2μmシリンジフィルターでろ過した。UV-Vis spectroscopyを用いて、抗-CD18抗体(280nm)に結合されたDM1(252nm)の量を測定し、DM1と抗-CD18抗体の比率(drug antibody ratio、DAR)を計算し、DAR値は、5.8として示された。このように作製された抗-CD18抗体とDM1が結合されたADCをCD18-DM1として命名した。
【0161】
5-2-2.抗-CD18抗体およびMMAE(Monomethyl auristatin E)のADCの作製
前記実施例にて精製した抗-CD18抗体をPBS(pH7.4)にバッファー交換し、CD18抗体の二硫化結合(disulfide bond)を部分的に還元するために、抗-CD18抗体(1mg/ml、6.67μM)に1mM DTT(66.7μM)を1:10の比率で混ぜ、37℃で1~2時間反応させ、PBS(pH7.4)にバッファー交換した。部分的に還元された抗-CD18抗体(1mg/ml、6.67μM)に10mM Suo-Val-Cit-PAB-MMAE(MedChemExpress)を1:20~1:40の比率で混ぜ、4℃で12時間反応させ、PBS(pH7.4)にバッファー交換した。UV-Vis spectroscopyを用いて抗-CD18抗体(280nm)に結合されたvc-MMAE(248nm)の量を測定し、vc-MMAEと抗-CD18抗体の比率(drug antibody ratio、DAR)を計算し、DAR値は、2.8~5.4として示された。このように作製された抗-CD18抗体とMMAEが結合されたADCをCD18-MMAEとして命名した。
【0162】
実施例6.ITGB2結合PDCのM2TAM結合の確認
ITGB2およびMelittin-dKLAの結合力を確認するために、ITGB2タンパク質を金薄膜センサーチップ上にコーティングした後、陽性対照群としてITGB2抗体およびMelittin-dKLAをそれぞれ流し、反射光を測定し、表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance、SPR)分析を行った。具体的には、センサーチップ表面にITGB2を固定させた後、アミンカップリング(amine coupling)を用いて下記表5の条件で固定化(immobilization)を行った(図15)。その後、ITGB2がコーティングされたセンサチップに多様な濃度のITGB2抗体およびMelittin-dKLAを流し、結合(association)および解離(dissociation)区間を観察し、センサーグラムを通じて下記表6の分子間結合速度定数分析(kinetic evoluation)条件で分子間結合速度定数(kinetic prarmeter)を計算した。
【0163】
【表5】
【0164】
【表6】
【0165】
その結果、陽性対照群であるITGB2抗体の二つの分子間の結合力を評価する解離速度定数(kd;dissociation rate constant)を結合速度定数(ka;association rate constant)に分けて得る平衡解離定数(KD;equilibrium dissociation constant)が1.14-8で、Melittin-dKLAの平衡解離定数は、7.86-8で示された(図16および17)。したがって、Melittin-dKLAがITGB2と結合力を有していることが確認された。
【0166】
実施例7.PDCのITGB2によるM2TAM細胞死滅効果の確認
7-1.ITGB2の発現抑制細胞モデルの作製
M2マクロファージにおいて、ITGB2を通じて細胞死滅を誘導するか否かを確認することに使用するための細胞モデルとして、Crispr/cas9を用い、M2マクロファージにてITGB2の発現が抑制された細胞モデルを作製した。具体的には、M2マクロファージに分化された細胞をOpti-MEM培地で培養した。Crispr/cas9は、CRISPRMAX(商標出願)Reagent kit(Thermo Fisher scientific)のCas9 protein V2(Thermo Fisher scientific)とgRNA(Genscript;ITGB2;表7)をCas9 Plus(商標出願)Reagent(Thermo Fisher scientific)と共に混ぜ、CRISPRMAX(商標出願)ReagentをOpti-MEM培地に希釈した後、全部混ぜて5~10分間反応させた後、M2マクロファージに分化された細胞に添加し、37℃で2~3日間培養した。その後、ITGB2のmRNA発現レベルを確認した。
【0167】
【表7】
【0168】
その結果、ITGB2sgRNAを注入したM2マクロファージは、ITGB2の発現が対照群に比べて、有意に減少することが示された(図18)。
【0169】
7-2.Melittin-dKLAのITGB2によるM2TAM細胞死滅の確認
Melittin-dKLAがM2マクロファージにおいて、ITGB2に結合し、細胞アポトーシス(apoptosis)を誘導するか否かを確認するために、前記実施例7-1にて作製したCrispr/cas9によりITGB2発現が抑制されたM2マクロファージにMelittin-dKLA(1μM)を24時間処理し、CCK-8分析方法を用いて細胞生存率を分析した。具体的には、前記実施例7-1にて作製したITGB2ロックダウンされたマクロファージにMelittin-dKLA(1μM)を1時間反応させた。反応後、培地を交換し、37℃で24時間培養した。細胞生存能を確認するために、CCK-8 reagent(Enzo Life Sciences)を培地の1/10入れ、37℃で3時間反応させた。吸光度は、microplate leader(Molecular Devices)で450nmにて測定した。
【0170】
その結果、対照群M2マクロファージにおいて、Melittin-dKLAにより細胞生存率が著しく減少したが、ITGB2がロックダウンされたM2マクロファージでは、Melittin-dKLAによる細胞生存率の減少が抑制されることが示された(図19)。したがって、これを通じて、Melittin-dKLAがM2マクロファージのITGB2と特異的に結合することによって、M2マクロファージの細胞アポトシースを誘導することを確認することができた。
【0171】
7-3.TB511のITGB2によるM2TAM細胞死滅の確認
TB511(TAMpep826-dKLA)がM2マクロファージにおいて、ITGB2により細胞死滅を誘導するか否かを確認するために、前記実施例7-1にて作製したCrispr/cas9によりITGB2発現が抑制されたM2マクロファージにTB511を反応させた。その結果、M2マクロファージは、TB511により50%程度の細胞生存能を示したが、ITGB2発現が抑制された細胞からは細胞生存能が有意に増加することが示された(図20)。
【0172】
7-4.ITGB2抗体によるTB511の細胞死滅誘導減少の確認
TB511がM2マクロファージにおいて、ITGB2により細胞死滅を誘導するか否かを確認するために、前記実施例7-1にて作製したITGB2発現が抑制されたM2マクロファージに抗-ITGB2抗体(Polyclonal Rabbit anti-Human ITGB2/CD18抗体)(LS-C312785;LS Bio)(1μg)を1時間前処理した後、TB511(1μM)を1時間反応させた後,細胞死滅誘発するか否かをCCK-8分析を用いた細胞生存能分析により、細胞死滅マーカーであるcaspase-3のタンパク質発現をウェスタンブロット解析により、caspase-3、caspase-8、caspase-9の遺伝子発現をReal-time PCRにより、およびcaspase-3のタンパク質発現誘導を免疫蛍光法により確認した。
【0173】
その結果、M2マクロファージは、ITGB2抗体によっては細胞生存能には影響がなく、TB511によっては細胞生存能が有意に減少した。その反面、ITGB2抗体を前処理したM2マクロファージでは、TB511による細胞生存能が有意に増加したことが示された(図21)。また、M2マクロファージは、TB511によりcaspase-3発現が有意に増加するのに対し、ITGB2抗体を前処理したM2マクロファージでは、TB511によるcaspase-3発現が有意に減少した(図21)。また、M2マクロファージは、TB511によりcaspase-3、caspase-8およびcaspase-9の発現が有意に増加するのに対し、ITGB2抗体を前処理したM2マクロファージでは、TB511によるcaspase-3、caspase-8およびcaspase-9の発現が有意に減少した(図21)。M2マクロファージは、TB511によりcaspase-3発現が増加するのに対し、ITGB2抗体を前処理したM2マクロファージでは、TB511によるcaspase-3発現が減少した(図21)。さらに、TB511のミトコンドリア標的化を確認した結果、ITGB2抗体を前処理したM2マクロファージは、ITGB2前処理していない細胞に比べて、ミトコンドリアとTB511のco-localizationが減少した(図21)。
【0174】
実施例8.3D癌オルガノイドにおけるPDCの効能の確認
8-1.乳癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果の確認
in vitroでの限界点を補完し、in vivoを代替すべく乳癌の癌微小環境(Tumor microenvironment;TME)を模擬した3Dオルガノイドを作製し、これに対するTB511の効果を確認した。具体的には、RPMI-1640培養液にマトリゲル(matrigel)が3%となるように混合し、MDA-MB-231ヒト乳癌細胞、CAF(Cancer-associated Fibroblast)およびIncucyte Nuclight Lentivirus Reagents(Sartorius)を用いて、GFPが発現されるように作製したTHP-1細胞を計数し、5:1:1の比率で200μlとなるように96u-bottom 3-Dcultue plate(Sbio)に分注した。培養後、1200rpmで3分間遠心分離し、細胞を集めた後、37℃のインキュベーターで48時間培養し、スフェロイド(spheroid)を形成した。スフェロイド形成2日目からTB511を1μM、2μM、4μMおよび8μMの濃度で3日毎にそれぞれ処理し、蛍光顕微鏡で画像を撮影し、Bright-field画像を撮影した後、ペレットの直径を測定方法により、スフェロイド領域(spheroid area)を測定した。また、平均腫瘍回転楕円体直径は、オープンソースを用いて、スフェロイド当たり平均3個の直径を測定し、ImageJ(software version1.47m)によりサイズを分析し、スフェロイドの大きさは、Bright-field画像を撮影した後、(20X)、平均腫瘍回転楕円体直径をスフェロイド当たり平均3個ずつ測定し、ImageJ(software version 1.47m)により分析した。併せて、薬物処理10日目にスフェロイドを固定し、腫瘍増殖因子であるki-67に対する抗体(abcam)を反応させて免疫蛍光染色を行った(対照染色:DAPI)。THP-1の場合、別途の染色を進めず、細胞内に発現するGFP蛍光を共焦点顕微鏡で画像を撮影し、蛍光を発現する細胞の数を測定した。
【0175】
その結果、薬物を処理していない群は、時間が経つにつれてスフェロイドの大きさがだんだん大きくなり、単球(monocyte)であるTHP-1細胞が癌細胞およびCAFと共培養時、癌細胞およびTMEによってTAMに分化され、腫瘍成長を促進することが示された。その反面、TB511を処理した群では、10日目に1μMの濃度で濃度依存的にスフェロイドの大きさが減少することが確認され(図22)、GFP蛍光を発現するTHP-1細胞の数が薬物無処理群に比べて濃度依存的に著しく減少することが示された(***p<0.001)(図23)。したがって、ITGB2結合PDCであるTB511がTHP-1細胞に選択的に結合し、MDA-MB-231ヒト乳癌の細胞死滅を誘導することが確認された。
【0176】
8-2.肺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果の確認
前記実施例8-1の方法によりA549ヒト肺癌細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、肺癌3Dスフェロイドを作製した後、TB511を1μM、2μMおよび4μMの濃度でそれぞれ処理し、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。スフェロイド作製時、癌細胞単独または癌細胞+CAF細胞のみを混合して、3Dスフェロイドも作製し、スフェロイドの大きさを比較した。
【0177】
その結果、A549細胞単独またはA549+CAF細胞のみでスフェロイドを形成したときよりもA549+CAF+THP-1細胞でスフェロイドを形成したときのスフェロイドの大きさが著しく増加することが示された。また、TB511を処理していない群に比べて、TB511を処理した群において、スフェロイドの大きさがTB511の濃度依存的に著しく減少することが示された(***p<0.001)(図24)。また、薬物を処理してから10日目にスフェロイドを蛍光染色し、関連マーカーを確認した結果、TB511を処理していない群に比べて、THP-1細胞の数が濃度依存的に著しく減少しており、腫瘍増殖因子ki-67も濃度依存的に減少することが示された(***p<0.001)(図25)。
【0178】
8-3.肺癌3DオルガノイドにおけるM-DM1の効果の確認
肺癌に対するM-DM1(Mel-DM1)の効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりA549ヒト肺癌細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合して、肺癌3Dスフェロイドを作製した後、M-DM1を1μM、2μMおよび4μMの濃度でそれぞれ処理し、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0179】
その結果、M-DM1を処理していない群に比べて、M-DM1を処理した群において、濃度依存的にスフェロイドの大きさが減少することが示された(***p<0.001)(図26)。
【0180】
実施例9.抗癌剤耐性3D癌オルガノイドにおけるPDCの効能の確認
9-1.抗癌剤耐性肺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果の確認
カルボプラチン(Carboplatin)耐性肺癌に対するTB511の効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりカルボプラチン耐性A549細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、3D-スフェロイドを形成し、TB511を1μM、2μMおよび4μMの濃度でそれぞれ処理した後、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0181】
その結果、A549耐性細胞単独またはA549+CAF細胞のみでスフェロイドを形成したときよりも、A549+CAF+THP-1細胞でスフェロイドを形成したときのスフェロイドの大きさが著しく増加することが示され、TB511を処理していない群に比べて、TB511を処理した群において、スフェロイドの大きさがTB511濃度依存的に著しく減少することが示された(***p<0.001)(図27)。また、薬物を処理してから10日目にスフェロイドを免疫蛍光染色し、関連マーカーを確認した結果、TB511無処理群に比べて、TB511を処理した群において、THP-1細胞の数が濃度依存的に著しく減少しており、腫瘍増殖因子ki-67も2μMから有意的に減少したことが示された(***p<0.001)(図28)。
【0182】
9-2.抗癌剤耐性前立腺癌3DオルガノイドにおけるTB511の効果の確認
ドセタキセル(Docetaxel)耐性前立腺癌に対するTB511の効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりドセタキセル耐性PC3前立腺癌細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、3D-スフェロイドを形成し、TB511を1μM、2μMまたは4μMの濃度でそれぞれ処理した後、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0183】
その結果、PC3耐性細胞単独またはPC3+CAF細胞のみでスフェロイドを形成したときよりも、PC3+CAF+THP-1細胞でスフェロイドを形成したとき、その大きさが著しく増加しており、TB511を処理していない群に比べて、TB511を処理した群において、スフェロイドの大きさがTB511濃度依存的に著しく減少することが示された(***p<0.001)(図29)。また、薬物を処理してから10日目にスフェロイドを免疫蛍光染色し、関連マーカーを確認した結果、TB511無処理群に比べて、TB511を処理した群において、THP-1細胞の数が濃度依存的に著しく減少しており、腫瘍増殖因子ki-67も減少する傾向を示した(**p<0.01、***p<0.001)(図30)。
【0184】
実施例10.3D癌オルガノイドにおけるADCの効能の確認
10-1.乳癌3DオルガノイドにおけるADCの効果の確認
乳癌に対するITGB2結合ADC(Antibody-drug conjugate)の効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりMDA-MB-231ヒト乳癌細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、3D-スフェロイドを形成し、本発明のADCであるCD18-DM1またはCD18-MMAEを10μgおよび20μgの濃度でそれぞれ処理した後、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0185】
その結果、ADCを処理していない群は、時間が経つにつれて乳癌スフェロイドの大きさがだんだん大きくなったが、ADCを処理した群では、8日目にスフェロイドの大きさが減少することが示された(図31および32)。また、ADCを処理していない群において、GFP陽性THP-1細胞が強く増加したが、CD18-DM1またはCD18-MMAE処理群では、濃度依存的に減少することが示された(***p<0.001)(図31および32)。
【0186】
10-2.肺癌3DオルガノイドにおけるADCの効果の確認
肺癌に対するADCの効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりA549ヒト肺癌細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、3D-スフェロイドを形成し、本発明のADCであるCD18-DM1またはCD18-MMAEを10μgの濃度でそれぞれ処理した後、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0187】
その結果、ADCを処理していない群は、時間が経つにつれてスフェロイドの大きさがだんだん大きくなるのに対し、CD18-DM1またはCD18-MMAEを処理した群では、8日目にスフェロイドの大きさが減少することが示された(図33)。また、薬物を処理してから8日目にスフェロイドを免疫蛍光染色し、関連マーカーを確認した結果、ADCを処理していない群において、THP-1細胞が強く増加するのに対し、ADC処理群では、著しく減少することが示された(***p<0.001)(図34)。
【0188】
実施例11.抗癌剤耐性3D癌オルガノイドにおけるADCの効能の確認
11-1.抗癌剤耐性肺癌3DオルガノイドにおけるADCの効果の確認
カルボプラチン耐性肺癌に対するADCの効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりカルボプラチン耐性A549細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、3D-スフェロイドを形成し、CD18-DM1またはCD18-MMAEをそれぞれ10μgの濃度で処理した後、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0189】
その結果、ADCを処理していない群は、時間が経つにつれてスフェロイドの大きさがだんだん大きくなるのに対し、CD18-DM1またはCD18-MMAEを処理した群では、8日目にスフェロイドの大きさが減少することが示された(図35)。また、薬物を処理してから8日目にスフェロイドを免疫蛍光染色し、関連マーカーを確認した結果、ADCを処理していない群に比べて、CD18-DM1またはCD18-MMAEを処理した群において、THP-1細胞の数が有意に減少し、腫瘍増殖因子ki-67も減少することが示された(***p<0.001)(図36)。
【0190】
11-2.抗癌剤耐性前立腺癌3DオルガノイドにおけるADCの効果の確認
ドセタキセル耐性前立腺癌に対するADCの効能を確認するため、前記実施例8-1の方法によりドセタキセル耐性PC3前立腺癌細胞、CAFおよびTHP-1細胞を混合し、3D-スフェロイドを形成し、CD18-DM1またはCD18-MMAEをそれぞれ10μgの濃度で処理した後、その効果を前記実施例8-1と同様に分析した。
【0191】
その結果、ADCを処理していない群は、時間が経つにつれてスフェロイドの大きさがだんだん大きくなるのに対し、CD18-DM1またはCD18-MMAEを処理した群では、8日目にスフェロイドの大きさが減少することが示された(図37)。また、薬物を処理してから8日目にスフェロイドを免疫蛍光染色し、関連マーカーを確認した結果、ADCを処理していない群では、蛍光が強く増加するのに対し、CD18-DM1またはCD18-MMAEを処理した群では、THP-1細胞の数が著しく減少しており、腫瘍増殖因子ki-67も減少することが示された(***p<0.001)(図38)。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図2d
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
【配列表】
2025511909000001.xml
【国際調査報告】