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2025-512323速硬化性水性コーティング組成物及びそれを用いた基材のコーティング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-04-17
(54)【発明の名称】速硬化性水性コーティング組成物及びそれを用いた基材のコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20250410BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20250410BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20250410BHJP
   C09D 175/10 20060101ALI20250410BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20250410BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20250410BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20250410BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D175/06
C09D175/08
C09D175/10
C09D5/02
B32B27/40
C08J7/04 A CER
C08J7/04 CEZ
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024559444
(86)(22)【出願日】2023-04-03
(85)【翻訳文提出日】2024-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2023058628
(87)【国際公開番号】W WO2023194282
(87)【国際公開日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】22166883.3
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】グローセ-ドレンクポール,マッティアス
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァインス,シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】リュンペル,イェンス-ヘンニンク
(72)【発明者】
【氏名】ロイター,カトリン
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA17
4F006AA37
4F006AB37
4F006BA01
4F006BA02
4F006BA03
4F006BA05
4F006BA11
4F100AK15A
4F100AK45B
4F100AK51B
4F100AK54B
4F100AL01B
4F100AL09A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100EH46B
4F100JA05B
4F100YY00B
4J038DG111
4J038DG121
4J038DG131
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA15
4J038NA12
4J038NA24
4J038PA06
4J038PA18
4J038PB02
4J038PC07
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、3つの異なる水性分散体を含む水性コーティング組成物に関し、各水性分散体は、異なるポリウレタン樹脂、及び架橋剤を含む。本発明の水性コーティング組成物は、該組成物中に存在する水の量が多いにもかかわらず、室温で速い硬化時間をもたらすので、速硬化性水性コーティング組成物の使用が必要な基材をコーティングして、安全及び環境基準だけでなく製造プロセス内の要件にも適合することが可能となる。さらに、本発明は、本発明のコーティング組成物を使用して基材をコーティングする方法、及び本発明の方法により製造されたコーティングに関する。最後に、本発明は、本発明の方法により製造されたコーティングを有する基材に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
(a) DIN EN ISO11357-2-2020-08に従い測定して-30℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する第1のポリウレタン樹脂P1を含む、少なくとも1つの水性分散体D1、
(b) DIN53504:2017-03に従い測定して少なくとも1MPaの100%弾性率を有する、前記第1のポリウレタン樹脂P1とは異なる第2のポリウレタン樹脂P2を含む、少なくとも1つの水性分散体D2、
(c) DIN EN ISO11357-2-2020-08に従い測定して-40℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する、前記第1のポリウレタン樹脂P1及び前記第2のポリウレタン樹脂P2とは異なる第3のポリウレタン樹脂P3を含む、少なくとも1つの水性分散体D3、及び
(d) 少なくとも1つの架橋剤
を含む、水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記第1のポリウレタン樹脂P1が、-30~-50℃、好ましくは-35℃~-45℃、非常に好ましくは-38℃~-42℃のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項3】
前記第1のポリウレタン樹脂P1が脂肪族ポリエステルベースのポリウレタン樹脂である、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項4】
前記水性分散体D1を、各場合に前記水性コーティング組成物の総質量に対して、5~60質量%、好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは15~25質量%の総量で含む、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項5】
前記第2のポリウレタン樹脂P2が、DIN53504:2017-03に従い測定して、1~6MPa、好ましくは1~4MPa、非常に好ましくは1.4~1.9MPaの100%弾性率を有する、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記第2のポリウレタン樹脂P2が、DIN53504:2017-03に従い測定して、10~50MPa、好ましくは15~40MPa、非常に好ましくは22~28MPaの引張強さを有する、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項7】
前記第2のポリウレタン樹脂P2が脂肪族ポリカーボネート-ポリエーテルベースのポリウレタン樹脂である、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項8】
前記水性分散体D2を、各場合に前記水性コーティング組成物の総質量に対して、5~60質量%、好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは20~35質量%の総量で含む、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項9】
前記第3のポリウレタン樹脂P3が、-40~-80℃、好ましくは-40℃~-60℃、非常に好ましくは-42℃~-55℃のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項10】
前記第3のポリウレタン樹脂P3が脂肪族ポリカーボネート-ポリエステルベースのポリウレタン樹脂である、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項11】
前記水性分散体D3を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、1~40質量%、好ましくは5~30質量%、非常に好ましくは8~20質量%の総量で含む、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項12】
10~100g/L、好ましくは10~60g/LのVOCを含む、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項13】
基材(S)上にコーティング(C)を製造する方法であって、請求項1に記載の水性コーティング組成物を該基材(S)に適用し、そして適用したコーティング組成物を硬化させる工程を含む、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法によって製造されたコーティング。
【請求項15】
請求項14に記載のコーティング(C)を有する基材(S)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3つの異なる水性分散体を含む水性コーティング組成物に関するものであり、各水性分散体は、異なるポリウレタン樹脂、及び架橋剤を含む。本発明の水性コーティング組成物は、該組成物中に存在する水の量が多いにもかかわらず、室温で速い硬化時間をもたらすので、速硬化性水性コーティング組成物の使用が必要な基材をコーティングして、安全及び環境基準だけでなく製造プロセス内の要件にも適合することが可能となる。さらに、本発明は、本発明のコーティング組成物を使用して基材をコーティングする方法、及び本発明の方法により製造されたコーティングに関する。最後に、本発明は、本発明の方法により製造されたコーティングを有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
子供の玩具の歴史は古代にまでさかのぼる。プラスチック玩具は通常、溶融ポリマー又はプラスチックペレットを、所望の形状を有する型キャビティに注入することにより製造される。着色された玩具を得るために、型キャビティに導入する前に、顔料をポリマー溶融物に組み込むことがある。冷却後、固形玩具又は玩具の一部を取り出し、そして任意にさらに硬化させる。玩具が異なるピースから製造される場合には、当該ピースを組み立てて玩具を得る。
【0003】
ポリマー溶融物中の顔料の使用又は顔料ペレットの使用によって、着色された玩具又は玩具部品を得ることができる一方で、前記射出成形プロセスは、単一の均一な色を有する玩具及び玩具部品をもたらし、そして特定の領域が少なくとも1つの異なる色で着色された玩具及び玩具部品、例えば、本物の動物を模したプラスチック製の動物玩具を製造することはできない。
【0004】
玩具及び玩具部品の柔軟な着色を達成するために、コーティング組成物は、玩具及び玩具部品をその製造後にコーティングするために使用されて所望の外観を提供する。これらのコーティング組成物を、射出成形後に得られる玩具及び玩具部品上に適用して所望の外観を得る。
玩具物品に使用されるコーティングの種類にかかわらず、そのようなコーティングが子供にとって安全であることが不可欠であることに変わりはない。安全性への懸念が高まるにつれ、安全性要件は年々進化してきた。一般的に、安全要件は、玩具に使用されるいかなる材料組成物も、無臭であり、皮膚又は眼などに対して非刺激性であり、且つ摂取しても無毒であることを義務付けている。玩具物品のコーティング又は塗装に使用される組成物には、剥離しないことが求められ、コーティング又は塗装が玩具に粘り強く接着し、薄片化又は剥離せず、且つ子供の使用者が摂取する可能性がないことが要求される。そしてさらに、コーティングは、玩具の使用中に生じる物理的影響に耐えることができて、コーティングされた表面の外観が維持されなければならない。そして何よりも、塗料又はコーティング組成物は、望ましくない揮発性有機溶媒の使用を避けなければならない。なぜなら、コーティング中に前記溶媒が残留すると、或る特定の芳香族及び塩素化炭化水素溶媒の毒性作用により危険となり得るからである。
【0005】
特に玩具の製造においては、射出成形部品にコーティング組成物を適用する際の自動化の程度は非常に低く、例えばコーティングの適用などの多くの手作業プロセスが依然として使用されている。このことから、形成されたコーティング層を損傷したり汚したりすることなく、(部分的に)塗装された玩具及び玩具部品の迅速な処理を確保するために、室温で短い硬化時間を可能にするコーティング組成物を使用することが極めて重要である。このような速い硬化時間は、室温での有機溶媒の蒸発が速いので、現在、溶媒ベースのコーティング組成物の使用によって確保されることがほとんどである。
【0006】
有機溶媒の使用における環境、健康及び安全上の懸念の観点から、議論の余地の少ない溶媒、例えば水を含む玩具用塗料又は玩具用コーティング組成物が望ましい。しかしながら、水は室温で長時間にわたり比較的ゆっくりと蒸発するため、不均一で不安定なコーティングとなり、これらのコーティングは、他の悪影響の中でも特に剥離及び割れを発生させる使用要因に対して脆弱となる。さらに、高温を使用して水性コーティング組成物の硬化を促進することは、玩具又は玩具部品のプラスチックがこれらの高温で変形及び溶融しやすく、コーティングされた玩具又は玩具部品の外観の破壊又は少なくとも悪影響をもたらすため、実行不可能である。
【0007】
よって、コーティングされたプラスチック部品の迅速な処理を可能にするために、特に室温で短い硬化時間を有する水性コーティング組成物が必要とされている。水の量が多いにもかかわらず、コーティング組成物は良好な適用特性を有し、そして高い膜厚で適用した後でさえ流れが生じず、コーティングされた基材の外観への悪影響を避けるべきである。得られるコーティング層は、様々な基材、特にプラスチック基材に対する優れた接着性を有し、コーティングされた基材の使用中の剥離又は割れを回避し、且つ基材の再コーティングを避けるために十分な隠蔽力を有するべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、室温で優れた硬化時間を有し、そして様々な基材、特にプラスチック基材に対する優れた接着性を示し、且つ良好な光学特性を示すコーティング層をもたらす、水性コーティング組成物を提供することである。短い硬化時間にもかかわらず、形成されたコーティング層は、機械的応力の際に剥離又は割れを生じず、そして溶媒及びUV照射のような環境影響に対して高い耐性を有するべきである。さらに、水性コーティング組成物は、様々な手動及び自動の適用方法に適用可能であるべきであり、そして高いぬれ膜厚で適用されたとしても、流れの形成が生じないものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、特許請求の範囲に記載された主題によって、及び以下の説明に記載するその主題の好ましい実施形態によって達成される。
【0010】
従って本発明の第1の主題は、以下の成分:
(a) DIN EN ISO11357-2-2020-08に従い測定して-30℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する第1のポリウレタン樹脂P1を含む、少なくとも1つの水性分散体D1、
(b) DIN53504:2017-03に従い測定して少なくとも1MPaの100%弾性率を有する、第1のポリウレタン樹脂P1とは異なる第2のポリウレタン樹脂P2を含む、少なくとも1つの水性分散体D2、
(c) DIN EN ISO11357-2-2020-08に従い測定して-40℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する、第1のポリウレタン樹脂P1及び第2のポリウレタン樹脂P2とは異なる第3のポリウレタン樹脂P3を含む、少なくとも1つの水性分散体D3、及び
(d) 少なくとも1つの架橋剤
を含む水性コーティング組成物である。
【0011】
上記に特定した水性コーティング組成物は、以下に本発明の水性コーティング組成物とも呼ばれ、よって本発明の主題である。本発明の水性コーティング組成物の好ましい実施形態は、以下の記載及び従属クレームからも明らかである。
【0012】
先行技術に照らして、本発明の基礎となる目的が、3つの異なるポリウレタン樹脂P1~P3及び少なくとも1つの架橋剤を含む水性コーティング組成物によって達成できたことは、当業者にとって驚くべきことであり、予見できなかったことである。前記水性コーティング組成物は、60μm以下のぬれ膜厚で適用した場合、室温で1分未満という極めて速い硬化時間をもたらす。得られたコーティング層は、様々なプラスチック基材、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)、TPE(熱可塑性エラストマー)、TPU(熱可塑性ポリウレタン)、eTPU(膨張した及び膨張性熱可塑性ポリウレタン)、PA(ポリアミド)及びPU(ポリウレタン)だけでなく、天然基材、例えば木材に対しても、優れた接着性を示す。硬化時間が短いにもかかわらず、形成されたコーティング層は、機械的応力の際、又はさらなる環境影響、例えば溶媒及びUV照射に曝されても、剥離、割れ、又は変色しない。さらに、水性コーティング組成物は、様々な手動の適用方法、例えば浸漬及び刷毛適用、及び自動適用方法、例えばスプレー適用で適用可能であり、且つ高いぬれ膜厚で適用されても、流れの形成をもたらさない。さらに、水性コーティング組成物は、良好な光学特性、例えば良好な隠蔽力を有するコーティング層をもたらし、よって所望の光学的外観を達成するための基材の再コーティングを回避することができる。
【0013】
本発明のさらなる主題は、コーティング(C)を基材(S)上に製造する方法であり、前記方法は、本発明の水性コーティング組成物を基材(S)に適用する工程と、適用したコーティング組成物を硬化させる工程とを含む方法である。
【0014】
本発明のさらなる主題は、本発明の方法により製造されるコーティングである。
【0015】
本発明の最終的な主題は、本発明のコーティング(C)を有する基材(S)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義:
まず最初に、本発明の文脈で使用されるいくつかの用語について説明する。
【0017】
本明細書で使用される文法的冠詞「a」、「an」、及び「the」は、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」が或る特定の例で明示的に使用される場合であっても、別段の指示がない限り、「少なくとも1つ」又は「1つ以上」を含むことが意図される。よって、本明細書において、これらの冠詞は、冠詞の文法的対象の1つ以上(すなわち、「少なくとも1つ」)を指すために使用される。例として、限定するものではないが、「成分」とは、1つ又は複数の成分を意味し、よって、場合によっては、1つを超える成分が企図され、そして記載された実施形態の実装において採用又は使用され得る。さらに、用途の文脈で別段の要求がある場合を除き、単数形の名詞の使用は複数形を含み、そして複数形の名詞の使用は単数形を含む。
【0018】
本発明の記載において、便宜上、「ポリマー」及び「樹脂」は、樹脂、オリゴマー、及びポリマー(重合体、高分子)を包含するものとして互換的に使用する。
【0019】
本発明の文脈において、及びDIN EN ISO4618:2007-03に従って、「バインダー」とは、顔料及び充填剤を含まない、コーティング組成物の不揮発性成分である。しかしながら、以下では、この表現は主として特定の物理的及び/又は化学的に硬化可能なポリマーに関連して使用され、その例としてはポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレア、ポリアクリレート、ポリシロキサン及び/又は前記ポリマーのコポリマーが挙げられる。不揮発性画分は、DIN EN ISO3251:2018-07に従い、1.0gの開始質量を用いて130℃で60分間測定される。
【0020】
本明細書で使用される「水性コーティング組成物」という用語は、各場合にコーティング組成物の総質量に対して、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも30質量%の水画分を含むコーティング組成物を指す。水画分は、各場合にコーティング組成物の総質量に対して、好ましくは25~60質量%、より詳細には30~70質量%、非常に好ましくは30~60質量%である。対照的に、用語「溶媒系コーティング組成物」は、各場合にコーティング組成物の総質量に対して、少なくとも20質量%、好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも45質量%の有機溶媒の画分を含むコーティング組成物を指す。有機溶媒の画分は、各場合にコーティング組成物の総質量に対して、好ましくは40~70質量%、より詳細には45~65質量%、非常に好ましくは50~60質量%である。
【0021】
「室温」とは、15~25℃の温度を指す。
本明細書で使用される適用されたコーティング組成物の「乾燥」という用語は、適用されたコーティング組成物からの溶媒の蒸発を指す。乾燥は、常温で、又は上昇させた温度を用いて行うことができる。しかしながら、乾燥後のコーティング膜はまだ柔らかい又は粘着性であるので、乾燥によってコーティング膜が使用可能な状態になる、すなわち後述する硬化コーティング膜になるわけではない。
【0022】
よって、適用されたコーティング組成物、又は適用されたコーティング組成物を乾燥させて得られたコーティング膜の「硬化」とは、このような組成物又は膜を使用可能な状態、すなわち、それぞれのコーティング層が提供された基材を輸送、保管、及び意図したとおりに使用できる状態に変換することを指す。より詳細には、硬化コーティング層は、もはや柔らかくなく、又は粘着性でもないが、硬化条件にさらに曝されても、その特性、例えば硬度又は基材への接着性に、如何なるさらなる大きな変化も生じない固体コーティング層として調整されている。硬化は、適用されたコーティング組成物の乾燥に使用されたものよりも高い温度及び/又は長い時間行うことができる。
【0023】
或る特定の特性変数を決定するために本発明の文脈において使用される測定方法は、実施例のセクションに見出すことができる。特に明記しない限り、これらの測定方法は、それぞれの特性変数を決定するために使用される。本発明の文脈において、公式の有効期間の表示なく公式の規格への言及がなされる場合、その言及は、暗黙のうちに、出願日に有効である当該規格の版への言及、又は、その時点で有効な版がない場合は、最新の有効な版への言及である。
【0024】
本発明の文脈において報告されるあらゆる膜厚は、別段の記載がある場合を除き、乾燥膜厚として理解されるべきである。従ってこれは、各場合とも硬化した膜の厚さである。よってコーティング材料が特定の膜厚で適用されることが報告される場合、これは、コーティング材料の適用を、硬化後に記載の膜厚になるように行うことを意味する。
【0025】
本発明の文脈において明らかにされるあらゆる温度は、基材又はコーティングされた基材が位置する空間の温度として理解されるべきである。従って、基材自体が当該温度を有することが要求されることを意味するものではない。
【0026】
本発明の水性コーティング組成物
第1のポリウレタン樹脂P1を含む水性分散体D1:
本発明の水性コーティング組成物は、第1の必須成分として、第1のポリウレタン樹脂P1を含む少なくとも1つの水性分散体D1を含む。第1のポリウレタン樹脂P1は、-30℃以下のガラス転移温度(以下、Tとも表記する)を有する。ガラス転移温度は、DIN EN ISO11357-2-2020-08に従いDSCを用いて決定することができる。水性分散体D1、特に以下に概説する水性分散体D1の好ましい実施形態を、水性分散体D2及びD3と組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物の室温での極めて速い硬化時間が確保され、それと同時に、様々なプラスチック基材に対する優れた接着性だけでなく、優れた光学特性及び環境影響に対する耐性も得られる。
【0027】
好ましい実施形態において、第1のポリウレタン樹脂P1は、-30~-50℃、好ましくは-35℃~-45℃、非常に好ましくは-38℃~-42℃のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0028】
第1のポリウレタン樹脂P1は、好ましくはアニオン性ポリウレタン樹脂である。用語「アニオン性ポリウレタン樹脂」は、例えば好適な塩基を用いた中和によって、アニオン性基及び/又はアニオン性基に変換することができる基(潜在的にアニオン性基)を含有するポリウレタン樹脂を指す。前記アニオン性基は、水性媒体中での親水性安定化又は分散性向上を提供することができる。好適なアニオン性基又は潜在的アニオン性基には、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基、又はカルボキシレート基、スルホネート基及び/又はホスホネート基が含まれる。好ましくは、アニオン性ポリウレタン樹脂は、カルボン酸基又はカルボキシレート基を含有する。アニオン性修飾は、アニオン性基又は潜在的にアニオン性基、及びイソシアネート基に対して反応性の少なくとも1つの基、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル基を含有するモノマーによって、ポリウレタン樹脂に導入することができる。アニオン性ポリウレタン樹脂P1は、好適な中和剤、例えば無機塩基及び有機塩基(アミノアルコールを含む)で中和することができる。
【0029】
特に好ましくは、第1のポリウレタン樹脂P1は、脂肪族ポリエステルベースのポリウレタン樹脂である。用語「ポリエステルベースのポリウレタン樹脂」とは、ポリエステル単位、すなわち少なくとも2つのエステル基を含む単位を含むポリウレタン樹脂を指す。好ましくは、ポリエステルベースのポリウレタン樹脂は、主成分としてポリエステル単位を含む、すなわち、ポリエステルベースのポリウレタン樹脂は、少なくとも1つのポリエステルポリオールをポリイソシアネート化合物と反応させることによって得られる。ポリエステルポリオールは、例えば、少なくとも1つのポリオール、例えばジオールと、少なくとも1つの酸、例えば後述するポリカルボン酸とを反応させることによって得られる。
【0030】
第1のポリウレタン樹脂P1は、好ましくは5~100mgKOH/g固形分、好ましくは10~50mgKOH/g固形分、非常に好ましくは15~30mgKOH/g固形分の酸価を有する。酸価は、DIN EN ISO2114:2002-06(手順A)に記載されている滴定法によって測定することができる。酸官能性の導入により、第1のポリウレタン樹脂P1の水分散性を向上させて、この樹脂を、有機溶媒の使用を必要とすることなく、水性コーティング組成物に安定に導入することができる。
【0031】
一実施形態において、第1のポリウレタン樹脂P1は、1~150mgKOH/g固形分、好ましくは2~100mgKOH/g固形分、より好ましくは5~70mgKOH/g固形分、非常に好ましくは10~25mgKOH/g固形分のヒドロキシル価を有する。ヒドロキシル価は、DIN EN ISO2114:2002-06(手順A)に記載されている滴定法によって測定することができる。従って、第1のポリウレタン樹脂P1は、好ましくはヒドロキシ官能性であり、そして一般的に知られているポリイソシアネート架橋剤を使用して硬化させることができる。
【0032】
第1のポリウレタン樹脂P1は、好ましくは、750~2,000,000g/mol、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは2,000~500,000、非常に好ましくは5,000~10,000g/molの数平均分子量Mを有する。数平均分子量Mは、例えば、ポリスチレンを内部標準とするGPCを用いて測定することができる。
【0033】
第1のポリウレタン樹脂P1は、好ましくは、例えば公開されているDE199 21 457A1に記載のように、NCO-官能性プレポリマーを少なくとも1つのポリオールと反応させることによって得られる。用語「NCO-官能性」とは、遊離NCO-基を含む化合物、又は少なくとも1つのブロックされたNCO-基を含む化合物を指し、このNCO-基は、当技術分野で既知のブロック剤でブロックされ、例えば熱を用いて脱ブロックして遊離NCO-基を生成することができる。用語「ポリオール」とは、少なくとも2つのヒドロキシ基を含む化合物を指す。
【0034】
NCO官能性プレポリマーと少なくとも1つのポリオールとの反応は、慣用の既知の有機溶媒の存在下で行うことができる。この場合の有機溶媒の量は広い範囲内で変化させてよく、好適な粘度を有するプレポリマー溶液を形成するのに十分でなければならない。一般的には、固形分含量に対して70質量%以下、好ましくは5~50質量%、及びより好ましくは20質量%未満の溶媒が使用される。よって、例えば、反応は非常に特に好ましくは、固形分含量に対して10~15質量%の溶媒含量で行ってよい。成分の反応は、任意に、触媒、例えば有機スズ化合物及び/又は第3級アミンの存在下で行ってよい。有機溶媒は、後述する第1のポリウレタン樹脂P1の形成後に除去され、水性分散体D1が得られる。
【0035】
ポリオールの活性水素とNCO官能性プレポリマーのNCO基との間の好適な当量比には、2:1~1:2、好ましくは1.1:1~1:1.1が含まれる。
【0036】
少なくとも1つのポリオールは、改質剤又は鎖延長剤の役割を果たす。この場合の改質剤は、好ましくは、鎖延長があり、それ故分子量が増加するような量で加える。使用することができるポリオールの例は、トリメチロールプロパン、1,3,4-ブタントリオール、グリセロール、エリスリトール、メソエリスリトール、アラビトール、アドニトール等である。脂肪族モノマーポリオール、及びより好ましくは、少なくとも3個のヒドロキシル基を含む脂肪族モノマーポリオールを使用することが好ましい。「脂肪族ポリオール」とは、芳香族ではないポリオールを指す。脂肪族ポリオールは飽和でも不飽和でもよく、そしてヘテロ原子(例えば、酸素、窒素、硫黄)が含まれてよい。ヘテロ原子は、架橋基(例えばエーテル結合、エステル結合、尿素結合)内に存在してよく、及び/又はヘテロ原子を含有する官能基(例えばヒドロキシ基、アミン基など)内に存在してもよい。「モノマー(単量体)」とは、少なくとも2つのモノマー化合物を互いに反応させることによって形成されない化合物、すなわちポリマー化合物ではない化合物を指す。特に好ましくは、ポリオールはトリメチロールプロパンである。
【0037】
NCO官能性プレポリマーは、好ましくは、以下:
・ 40~100mgKOH/g固形分のOH価及び1,000~3,000g/molの数平均分子量Mnを有する、少なくとも1つの脂肪族ポリエステルポリオール、
・ 少なくとも1つの酸基及びNCO基と反応可能な少なくとも1つの基を含む、少なくとも1つの化合物、
・ 60~400g/molの平均分子量Mwを有する、少なくとも1つのポリオール、及び
・ 少なくとも1つのポリイソシアネート
を反応させることにより得られる。
【0038】
反応は、150℃以下、好ましくは50~130℃の温度で、イソシアネートと反応することができない有機溶媒中で行ってよい。NCO基のOH基に対する好適な当量比は、2.0:1.0及び>1.0:1.0の間、好ましくは1.4:1及び1.1:1の間である。
【0039】
高い柔軟性を有するNCOプレポリマーを得るためには、好ましくは、30~150mgKOH/gの好ましいOH価を有する主に直鎖状のポリエステルポリオールを高画分で使用する。全ポリエステルポリオールの97質量%以下は、400~5,000g/molの数平均分子量Mを有する飽和及び不飽和ポリエステルからなっていてよい。好適なポリエステルジオールは、有機ジカルボン酸又はその無水物と有機ジオールとのエステル化によって調製することができ、又はヒドロキシカルボン酸又はラクトンから誘導されてよい。特に好ましくは、脂肪族ポリエステルポリオール、特に脂肪族直鎖ポリエステルポリオールは、ダイマー脂肪酸を芳香族ジカルボン酸及びジオールと反応させることによって得られる。ダイマー脂肪酸(ダイマー脂肪酸又はダイマー脂肪酸としても古くから知られる)は、一般に、及び特に本発明の文脈において、不飽和脂肪酸のオリゴマー化により調製される混合物である。それらは、例えば、不飽和植物脂肪酸の触媒二量化により調製可能であり、より詳細には、用いられる出発材料は不飽和C12~C22脂肪酸である。結合は主にディールス・アルダー型によるものであり、その結果、ダイマー脂肪酸の調製に使用される脂肪酸中の二重結合の数と位置に応じて、カルボキシル基の間にシクロ脂肪族、直鎖脂肪族、分岐脂肪族、さらにC芳香族炭化水素基を有する、主に二量体生成物の混合物が得られる。機構及び/又は任意にその後の水素化に応じて、脂肪族ラジカルは飽和又は不飽和でよく、そして芳香族基の画分もまた変化させてよい。そしてカルボン酸基間のラジカルは、例えば24~44個の炭素原子を含有する。調製には、18個の炭素原子を有する脂肪酸が好ましくは使用されるので、二量体生成物は36個の炭素原子を有する。ダイマー脂肪酸のカルボキシル基に結合するラジカルは、好ましくは不飽和結合及び芳香族炭化水素ラジカルを有しない。好ましいダイマー脂肪酸は、C18脂肪酸、例えばリノレン酸、リノール酸及び/又はオレイン酸を出発物質として使用して得られるダイマー脂肪酸である。
【0040】
ポリエステルポリオールの他に、少なくとも1つの酸基と、NCO官能性プレポリマーのNCO基と反応することができる少なくとも1つの基とを含む少なくとも1つの化合物が使用される。このような化合物には、3~8個の炭素原子及び2個のヒドロキシ基を有するアルカン酸が含まれる。これらの化合物は、好ましくは、NCO官能性プレポリマー中のポリオール構成成分全体の3~100質量%、より好ましくは5~50質量%までを占める。特に好ましい化合物はジメチロールプロピオン酸である。塩の形態でカルボキシル基の中和によって利用できるイオン化可能なカルボキシル基の量は、NCO官能性プレポリマーの固形分に対して、少なくとも0.4質量%、好ましくは少なくとも0.7質量%である。中和されていないプレポリマー中のジヒドロキシアルカン酸は、好ましくは、前述の酸価になる量で使用される。
【0041】
60~400g/molの平均分子量Mを有するポリオールは、好ましくは、3~10個の炭素原子及び2個のヒドロキシ基を有する脂肪族ポリオールから選択される。前記ポリオールは、好ましくは、カルボキシル基、スルホン酸基及び/又はホスホン酸基を含有せず、そして好ましくは式(1)
【化1】
のジオールから選択され、
式中、R及びRは、同一又は異なるラジカルをそれぞれ表し、そして1~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、アリールラジカル又はシクロ脂肪族ラジカルである。式(1)の特に好ましいジオールは、R及びRがそれぞれメチルラジカル(すなわちネオペンチルグリコール)であるジオールである。式(1)のジオールは、各場合にNCO官能性プレポリマーを調製するために使用される成分の総質量に対して、0.1~15質量%、好ましくは0.5~5質量%の量で慣例的に使用される。
【0042】
NCO官能性プレポリマーの調製に用いられる典型的な多官能性イソシアネートは、1分子当たり少なくとも2個のイソシアネート基を有する脂肪族、シクロ脂肪族及び/又は芳香族ポリイソシアネート、特にシクロ脂肪族ポリイソシアネートである。有機ジイソシアネートの異性体又は異性体混合物が好ましい。紫外線に対する安定性が高いことから、(シクロ)脂肪族ジイソシアネートからは、黄変傾向がほとんどない生成物が得られる。NCO官能性プレポリマーを形成するために用いられるポリイソシアネート成分には、如何なるゲル化も引き起こさない限り、より官能性の高いポリイソシアネートの画分が含まれてよい。確立されたトリイソシアネートは、ジイソシアネートの三量化又はオリゴマー化によって、又はジイソシアネートとOH基又はNH基を含有する多官能性化合物との反応によって形成される生成物である。平均官能価10は、モノイソシアネートの添加によって任意に低下し得る。
【0043】
使用することができるポリイソシアネートの例として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビスフェニレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロブタンジイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート.メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、エチルエチレンジイソシアネート、及びトリメチルヘキサンジイソシアネートが挙げられる。
【0044】
高固形分、アニオン性安定化水性分散体D1を製造するために、特に一般式(2)
【化2】
のジイソシアネートが用いられ、
式中、Xは二価の環状及び任意に芳香族炭化水素ラジカル、好ましくは任意にハロゲン置換、メチル又はメトキシ置換されたジシクロヘキシルメチル、ナフチレン、ジフェニレン又は1,2-、1,3-又は1,4-フェニレンラジカル、より好ましくはジシクロヘキシルメチルラジカルである。本発明の文脈において特に好ましく用いられる式(2)のジイソシアネートの1つは、4,4’-メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(H12MDIとも称される)である。
【0045】
NCO官能性プレポリマーは、固形分に対して、少なくとも0.5質量%のイソシアネート基、好ましくは少なくとも1質量%のイソシアネート基を含有する。上限は、15質量%、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%のイソシアネート基である。
【0046】
特に好ましくは、NCOプレポリマーは、以下、
I. 化合物(I)~(IV)の総質量に対して55~70質量%の、40~100mgKOH/g固形分のOH価及び1,000~3,000g/molの数平均分子量Mを有する少なくとも1つのポリエステルポリオール、特にダイマー脂肪酸と芳香族ジカルボン酸及びジオールとの反応により調製されるポリエステルポリオール、
II. 化合物(I)~(IV)の総質量に対して3~7質量%の、3~8個の炭素原子を有し、且つアルファ炭素原子上に2個のヒドロキシ基を有する少なくとも1つのアルカン酸、特にジメチロールプロピオン酸、
III. 化合物(I)~(IV)の総質量に対して0.5~3質量%の、R=R=メチルである式(1)の少なくとも1つのポリオール、及び
IV. 化合物(I)~(IV)の総質量に対して25~30質量%の、X=ジシクロヘキシルメチルラジカルである式(2)の少なくとも1つのジイソシアネート
の反応によって得ることができる。
【0047】
ポリウレタン樹脂P1の合成に使用される有機溶媒を、好ましくは、減圧下で水を添加した後に除去して、水性分散体D1を得る。アニオン的に安定化されたポリウレタン樹脂P1は、塩基、好ましくは有機塩基、より詳細にはN,N’-ジメチルエタノールアミンで好ましくは中和され、塩基は、50%~100%、好ましくは60%~80%の中和度が達成されるような量で添加される。塩基の添加の結果、分散体は7~8のpHを有する。
【0048】
部分的に中和されたアニオン的に安定化されたポリウレタン樹脂P1が水中で分散するのを促進するために、アルキレングリコール、好ましくは、800~1,500g/molの平均モル質量Mを有するプロピレングリコールを加える。アルキレングリコールを除けば、水性分散体D1は、好ましくは、水及び第1のポリウレタン樹脂P1のみを含み、すなわち、第1の水性分散体D1は、好ましくは、有機溶媒を含まない(すなわち、分散体D1中の有機溶媒の総量は、分散体D1の総質量に対して1質量%未満である)。
【0049】
水性分散体D1は、好ましくは、光子相関分光法により測定して30~200nm、好ましくは40~100nm、非常に好ましくは45~60nmの平均粒子径(z平均)を有する。
【0050】
水性分散体D1は、好ましくは、各場合に水性分散体D1の総質量に対して、10~60質量%、好ましくは15~50質量%、より好ましくは20~40質量%、非常に好ましくは25~35質量%の総量の第1のポリウレタン樹脂P1を含む。固形分量が多いにもかかわらず低い粘度を有する高固形分水性分散体の使用は、室温での水性コーティング組成物の極めて速い硬化時間の達成に関して好ましい。
【0051】
実施形態において、水性コーティング組成物は、水性分散体D1を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して5~60質量%、好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは15~25質量%の総量で含む。前述の量の水性分散体D1を、水性分散体D2及びD3と組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物の室温での極めて速い硬化時間が確保され、それと同時に、様々なプラスチック基材に対する優れた接着性だけでなく、優れた光学特性及び環境影響、例えば溶媒、摩耗及びUV照射に対する耐性も得られる。
【0052】
第2のポリウレタン樹脂P2を含む水性分散体D2:
第2の必須材料成分として、水性コーティング組成物は、第2のポリウレタン樹脂P2を含む水性分散体D2を含む。第2のポリウレタン樹脂P2は、上記で詳述した第1のポリウレタン樹脂P1とは異なり、そしてDIN53504:2017-03に従い測定して少なくとも1MPaの100%弾性率を有する。「弾性率(モジュラス)」という用語は、特定の伸び値における力を指し、そして典型的には、平方インチ(psi)当たりのポンド又はメガパスカル(MPa)で表される。「100%弾性率」という用語は、100%伸長時の弾性率を指す。水性分散体D2を、水性分散体D1及びD3と組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物の室温での極めて速い硬化時間が確保され、それと同時に、様々なプラスチック基材に対する優れた接着性だけでなく、優れた光学特性及び環境影響に対する耐性も得られる。
【0053】
好ましい実施形態によれば、第2のポリウレタン樹脂P2は、DIN53504:2017-03に従い測定して、1~6MPa、好ましくは1~4MPa、非常に好ましくは1.4~1.9MPaの100%弾性率を有する。
【0054】
第2のポリウレタン樹脂P2は、好ましくは、DIN53504:2017-03に従い測定して、10~50MPa、好ましくは15~40MPa、非常に好ましくは22~28MPaの引張強さを有する。
【0055】
好適な第2のポリウレタン樹脂P2には、DIN53504:2017-03に従い測定して、400~1,500%、好ましくは600~900%、非常に好ましくは720~780%の破断伸びを有するポリウレタン樹脂が含まれる。
【0056】
実施形態において、第2のポリウレタン樹脂P2は、150~300℃、好ましくは190~230℃の溶融範囲を有する。「溶融範囲」とは、結晶が最初に液化し始める点からサンプル全体が液体である点までの温度のスパンを指す。溶融範囲は、好ましくはKofler加熱テーブルを用いて測定される。
【0057】
ポリウレタン樹脂P2の100%弾性率、引張強さ、破断伸び及び溶融範囲は、2%Borchi(登録商標)Gel ALA(OMG Borchers社提供)で増粘した前記ポリマーの約0.1mmの透明フィルムを用いて測定することができる。
【0058】
第2のポリウレタン樹脂P2は、好ましくはアニオン性ポリウレタン樹脂である。アニオン性樹脂は、水への分散を容易にするために、有機塩基、例えば先に記載した有機塩基で中和されていてもよい。
【0059】
第2のポリウレタン樹脂P2は、好ましくは脂肪族ポリカーボネート-ポリエーテルベースのポリウレタン樹脂である。「ポリカーボネート-ポリエーテルベースのポリウレタン樹脂」という用語は、ポリカーボネート単位だけでなくポリエーテル単位も含むポリウレタン樹脂を指す。ポリカーボネート単位は、その構造中に少なくとも2個のカーボネート基を含む単位である。このような基は、例えば、ジオールとホスゲンなどのカーボネート前駆体との縮合重合によって形成することができる。ポリエーテル単位は、少なくとも2個のエーテル基を含む単位であり、そして、例えば、エポキシドの触媒重合によって形成することができる。アニオン性ポリカーボネート-ポリエーテルベースのポリウレタン樹脂の使用は、より高い水分散性をもたらし、よって望ましくない有機溶媒を追加的に使用することなく、前記ポリウレタン樹脂P2を水性分散体に組み込むことを可能にする。好適な水性分散体には、Covestro Deutschland AG社から入手可能な市販のアニオン性脂肪族ポリカーボネート-ポリエステルベースのポリウレタン分散体Impranil DLV/1が含まれる。
水性分散体D2は、好ましくは、各場合に水性分散体D2の総質量に対して、10~70質量%、好ましくは15~60質量%、より好ましくは25~50質量%、非常に好ましくは35~45質量%の総量の第2のポリウレタン樹脂P2を含む。固形分量が多いにもかかわらず低い粘度を有する高固形分水性分散体の使用は、室温で水性コーティング組成物の極めて速い硬化時間を達成することに関して好ましい。
【0060】
一実施形態において、水性コーティング組成物は、水性分散体D2を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、5~60質量%、好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは20~35質量%の総量で含む。前述の量の分散体D2を、水性分散体D1及びD3と組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物の室温での極めて速い硬化時間が確保され、それと同時に、様々なプラスチック基材に対する優れた接着性だけでなく、優れた光学特性及び環境影響に対する耐性も得られる。
【0061】
第3のポリウレタン樹脂P3を含む水性分散体D3:
第3の必須材料成分として、水性コーティング組成物は、第3のポリウレタン樹脂P3を含む水性分散体D3を含む。第3のポリウレタン樹脂P3は、上記で詳述した第1のポリウレタン樹脂P1及び第2のポリウレタン樹脂P2とは異なり、そして-40℃未満のガラス転移温度(Tg)を有する。水性分散体D3を、水性分散体D1及びD2と組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物の室温での極めて速い硬化時間が確保され、それと同時に、様々なプラスチック基材に対する優れた接着性だけでなく、優れた光学特性及び環境影響に対する耐性も得られる。
【0062】
好ましい第3のポリウレタン樹脂P3は、-40~-80℃、好ましくは-40℃~-60℃、非常に好ましくは-42℃~-55℃のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0063】
第3のポリウレタン樹脂P3は、好ましくはアニオン性ポリウレタン樹脂である。アニオン性樹脂は、ポリウレタン樹脂の水への分散を容易にするために、有機塩基、例えば先に記載した有機塩基で中和されていてもよい。特に好ましくは、第3のポリウレタン樹脂P3は、脂肪族ポリカーボネート-ポリエステルベースのポリウレタン樹脂である。「ポリカーボネート-ポリエステルベースのポリウレタン樹脂」という用語は、ポリカーボネート単位だけでなくポリエステル単位も含むポリウレタン樹脂を指す。ポリカーボネート単位は、その構造中に少なくとも2個のカーボネート基を含む単位である。このような基は、例えば、ジオールとホスゲンなどのカーボネート前駆体との縮合重合によって形成することができる。ポリエステル単位は、少なくとも2個のエステル基を含む単位であり、そして、例えば、ポリオール、例えばジオールと、多酸、例えばジカルボン酸との反応によって形成することができる。アニオン性ポリカーボネート-ポリエステルベースのポリウレタン樹脂の使用は、より高い水分散性をもたらし、よって望ましくない有機溶媒を追加的に使用することなく、前記ポリウレタン樹脂P3を水性分散体に組み込むことを可能にする。
【0064】
一実施形態において、水性分散体D3は、光子相関分光法により測定して20~200nm、好ましくは30~100nm、非常に好ましくは40~80nmの平均粒子径(z平均)を有する。好適な水性分散体には、Covestro Deutschland AG社から入手可能な市販のアニオン性脂肪族ポリカーボネート-ポリエーテルベースのポリウレタン分散体Bayhydrol UH2648/1が含まれる。
【0065】
水性分散体D3は、各場合に水性分散体D3の総質量に対して、10~60質量%、好ましくは20~50質量%、非常に好ましくは30~40質量%の総量の第3のポリウレタン樹脂P3を含む。固形分量が多いにもかかわらず低い粘度を有する高固形分水性分散体の使用は、室温で水性コーティング組成物の極めて速い硬化時間を達成することに関して好ましい。
【0066】
実施形態において、水性コーティング組成物は、水性分散体D3を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、1~40質量%、好ましくは5~30質量%、非常に好ましくは8~20質量%の総量で含む。前述の量の分散体D3を、水性分散体D1及びD2と組み合わせて使用することにより、本発明の水性コーティング組成物の室温での極めて速い硬化時間が確保され、それと同時に、様々なプラスチック基材に対する優れた接着性だけでなく、優れた光学特性及び環境影響に対する耐性も得られる。
【0067】
架橋剤:
第4の必須材料成分として、水性コーティング組成物は、少なくとも1つの架橋剤を含む。「架橋剤」とは、第1のポリウレタン樹脂P1及び/又は第2のポリウレタン樹脂P2及び/又は第3のポリウレタン樹脂P3中に存在する反応性官能基と相補的な反応性官能基を含有する化合物、特に有機化合物を指す。ポリウレタン樹脂P1~P3を少なくとも1つの架橋剤で架橋することにより、様々なプラスチック基材に対する高い接着性を有する硬化コーティング層が得られるので、硬化コーティング層がプラスチック基材から使用時に剥離する及び割れることが回避される。さらに、架橋により、形成されたコーティング層からの、物質、例えば顔料の放出が防止されるので、前記放出された物質から生じる健康への悪影響が回避される。
【0068】
架橋剤は、好ましくは、アミノ樹脂、脱ブロックポリイソシアネート、少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート、ポリカルボジイミド及びそれらの混合物から選択される。脱ブロックポリイソシアネートとは、遊離のNCO基を含有するポリイソシアネートを指し、一方で「ブロックされたポリイソシアネート」という用語は、当技術分野で一般的に使用されるブロック剤でブロックされた少なくとも1つのNCO基を含むポリイソシアネートを指す。NCO基(単数又は複数)の脱ブロックは、例えば硬化プロセス中にコーティング組成物を加熱することによって、促進することができる。
【0069】
特に好ましくは、少なくとも1つの架橋剤は、脱ブロックポリイソシアネートから選択される。脱ブロックポリイソシアネートは、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、テトラデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート、テトラ-メチルヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2-イソシアナトプロピルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロ-ヘキシルメタン2,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシル-メタン4,4’-ジイソシアネート、1,4-又は1,3-ビス(イソシアナト-メチル)シクロヘキサン、1,4-又は1,3-又は1,2-ジイソシアナト-シクロヘキサン、及び2,4-又は2,6-ジイソシアナト-1-メチル-シクロ-ヘキサン、それらの二量体、三量体及び四量体、及びこれらポリイソシアネートの混合物から選択される。特に好ましくは、ポリイソシアネートは、脂肪族及び/又はシクロ脂肪族、非常に好ましくは脂肪族ポリイソシアネートを含む。前述のオリゴマー、より詳細には前述の三量体又は四量体のジイソシアネートベースとして役立つのは、非常に好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はイソホロンジイソシアネート、及び特に好ましくはヘキサメチレンジイソシアネートのみである。
【0070】
この文脈では、ポリイソシアネートが2.4超~5、好ましくは2.6~4、より好ましくは2.8~3.6のNCO基官能価を有する場合が特に好ましい。
【0071】
本発明の文脈において特に好ましく使用されるのは、少なくとも1つのイソシアヌレート環又は少なくとも1つのイミノオキサジアジンジオン環を含むポリイソシアネートである。
【0072】
互いに異なる少なくとも2つのポリイソシアネートを架橋剤として使用し、第1のポリイソシアネートが少なくとも1つのイソシアヌレート環を含み、そして第2のポリイソシアネートが少なくとも1つのイミノオキサジアジンジオン環を含むことが好ましい場合がある。前記架橋剤の混合物を使用すると、様々なプラスチック基材に対する硬化コーティング層の高い接着性が得られるので、コーティングされた基材の使用中に硬化コーティング層が剥離する及び割れることが回避される。
【0073】
一実施形態において、水性コーティング組成物は、少なくとも1つの架橋剤を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、1質量%~40質量%固形分、好ましくは2~30質量%固形分、より詳細には6~12質量%又は15~25質量%固形分の総量で含む。前記量を使用することにより、硬化中にコーティング層が十分に架橋され、その結果、様々なプラスチック基材上で優れた接着性だけでなく、硬化コーティング層の良好な耐摩耗性を得ることができる。
【0074】
本発明の組成物中に存在する架橋剤(単数又は複数)に応じて、本発明の組成物は、1成分系として構成されるか、又は2つの成分(2成分系)又はそれ以上の成分(多成分系)を混合することによって得ることができる。熱化学的に硬化可能な1成分系では、架橋される成分、言い換えればポリウレタン樹脂P1~P3及び任意にさらなるバインダー及び架橋剤(単数又は複数)は、互いに共に存在する、言い換えれば1成分中に存在する。このための条件は、架橋されるべき成分が、例えば100℃を超える比較的高い温度でのみ互いに効果的に反応し、早期の少なくとも比例的な熱化学的硬化を防止することである。このような組み合わせは、架橋剤としてメラミン樹脂及び/又はブロックされたポリイソシアネートを有するヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタンによって例示される。
【0075】
熱化学的に硬化可能な2成分系又は多成分系では、架橋されるべき成分、言い換えればポリウレタン樹脂P1~P3及び任意にさらなるバインダー及び架橋剤(単数又は複数)は、少なくとも2つの成分中で互いに別々に存在し、適用の直前まで組み合わされない。この形態は、架橋されるべき成分が、周囲温度又は例えば40~90℃の僅かに上昇した温度においても、互いに効果的に反応する場合に選択される。このような組み合わせは、架橋剤として遊離ポリイソシアネートを有するヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はポリウレタン及び/又はポリ(メタ)アクリレートによって例示される。本発明の好ましい実施形態によれば、水性コーティング組成物は、2成分又は多成分水性コーティング組成物として配合され、そして水性分散体D1~D3及び任意に後述のさらなる材料成分を含むベース成分と、少なくとも1つの溶媒に溶解した架橋剤及び任意にベースカラー成分を含む硬化剤成分とを混合することによって調製される。本発明の文脈における「硬化剤成分」とは、ポリウレタン樹脂P1~P3及び任意にベース成分のさらなるポリマー中に存在する官能性化学基と反応することができる少なくとも1つの架橋成分を含む材料である。適用前の前記成分の混合は、一般的に知られている混合方法を用いて行ってよい。
【0076】
本発明の組成物が2つの成分を混合することによって得ることができる場合、水性分散体D1~D3及び任意に以下に列挙するさらなる材料成分を含むベース成分の、少なくとも1つの架橋剤を含む硬化剤成分に対する質量比は、好ましくは100:1~100:50、より好ましくは100:2~100:30、より詳細には100:3~100:7である。上記の混合比を使用することにより、硬化時に水性コーティング組成物の十分な架橋が確保され、そしてプラスチック基材の表面に対する高い接着性が得られる。
【0077】
さらなる材料成分:
上記の必須材料成分とは別に、水性コーティング組成物は追加的な材料成分をさらに含むことができる。好適なさらなる材料成分には、ポリウレタン樹脂P1~P3とは異なる少なくともポリマー、色及び/又は効果顔料(単数又は複数)、艶消し剤、増粘剤、分散剤、レベリング剤、pH調整剤、消泡剤、殺生物剤、UV吸収剤、架橋触媒、及びそれらの混合物が含まれる。
【0078】
さらなるポリマーの例には、ポリウレタン樹脂P1~P3とは異なるさらなるポリウレタン樹脂が含まれる。
【0079】
本発明の水性コーティング組成物は、着色コーティング層を達成するために、少なくとも1つの色及び/又は効果顔料をさらに含むことができる。色及び/又は効果顔料は、水性分散体D1~D3及び任意にさらなる材料成分を、少なくとも1つのカラーベース成分と混合することによって、水性コーティング組成物に導入することができる。ここで「カラーベース成分」という用語は、正確に定義された色を有する着色剤組成物を意味する。少なくとも1つのカラーベース成分を使用することにより、高い色の精度を有する着色コーティング層を達成することができる、すなわち、得られるコーティング層の色は、それぞれのカラーベース成分(単数又は複数)を使用することから予想される色と一致する。さらに、カラーベース成分は多種多様な色で存在し、そしてさらなる色調を得るために前記カラーベース成分を互いに混合することができるので、高い色多様性が可能である。
【0080】
少なくとも1つのカラーベース成分は、少なくとも1つの効果顔料及び/又は少なくとも1つの着色顔料を含む。
【0081】
効果顔料は、コーティングに装飾効果をもたらし、そしてさらに、限定されないが、着色効果をもたらすことができる顔料である。効果顔料は、特に板状構造で注目される。好ましい効果顔料は、例えば、板形状の金属効果顔料、例えば板形状のアルミニウム顔料、金ブロンズ、酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄-アルミニウム顔料、真珠光沢顔料及び/又は金属酸化物-雲母顔料、及び/又は他の効果顔料、例えば板形状のグラファイト、板形状の酸化鉄、PVD膜から構成される多層効果顔料、及び/又は液晶ポリマー顔料である。特に好ましいのは、板形状金属効果顔料、より詳細には板形状アルミニウム顔料及び/又はコーティングされた金属酸化物-雲母顔料及び/又は金属酸化物でコーティングされたホウケイ酸塩である。
【0082】
無機着色顔料の例は、白色顔料、例えば二酸化チタン、黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガンブラック又はスピネルブラック、有彩顔料、例えばウルトラマリングリーン、ウルトラマリンブルー又はマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット又はマンガンバイオレット、酸化鉄レッド、モリブデートレッド又はウルトラマリンレッド、酸化鉄ブラウン、混合ブラウン、スピネル及びコランダムの相、又は酸化鉄イエロー又はビスマスバナデートである。好適な有機着色顔料の例は、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料又はアニリンブラックである。
少なくとも1つの効果顔料及び/又は少なくとも1つの着色顔料は、好ましくは、カラーベース成分の総質量に対して0.5~70質量%の総量で存在する。
【0083】
カラーベース成分は、少なくとも1つのバインダーを含んでもよい。このバインダーは、顔料を安定に分散させる役割を果たし、そしてそのようにしてカラーベース成分の高い色強度及び高い色均一性を確保する。好適なバインダーには、ポリウレタンポリマー、より詳細にはアニオン的に安定化されたポリウレタンポリマー、例えばアニオン性の第1のポリウレタン樹脂P1が含まれる。カラーベース成分内でポリウレタン樹脂P1及び/又はP2及び/又はP3、例えば第1のポリウレタン樹脂P1を使用することにより、カラーベース成分を水性コーティング組成物のさらなる成分と混合する際の不適合が回避される。少なくとも1つのバインダー、より詳細には前述のアニオン的に安定化されたポリウレタン樹脂P1は、カラーベース成分の総質量に対して、好ましくは10~80質量%の量で存在する。
【0084】
カラーベース成分は、少なくとも1つの溶媒を含んでもよい。使用することができる溶媒は、水、一般に知られている有機溶媒及びそれらの混合物である。特に好ましく使用されるのは、水とブチルグリコール及び/又はメチルエチルケトンとの混合物である。
【0085】
好ましいカラーベース成分はそれぞれ、その総質量に対して、
・ 0.5~70質量%の少なくとも1つの効果顔料及び/又は少なくとも1つの着色顔料、
・ 10~80質量%の、ポリウレタンポリマー、アミノ樹脂ポリマー、ポリアクリレートポリマー、ポリエステルポリマー、及びそれらの混合物の群から選択される少なくとも1つのバインダー、より詳細には上記アニオン的に安定化されたポリウレタン樹脂P1、及び
・ 少なくとも1つの有機溶媒
を含む。
【0086】
特に好ましくは、カラーベース成分は多量の有機溶媒を含有しない、すなわち250g/L未満のVOCを有する低VOCカラーベース成分である。本発明内で使用するのに好適な低VOCカラーベース成分には、公開出願WO2021/018595A1及びWO2021/018594A1に開示されているカラーベース成分が含まれる。
【0087】
好適な艶消し剤は、例えば二酸化ケイ素であり、これは対応するコーティングに必要な粒子径に調整される。あるいは、ポリアミド-12をベースにした尿素-メタナール縮合物又は混合物も使用することができる。
【0088】
好適な増粘剤には、無機増粘剤及び/又は有機増粘剤が含まれる。無機増粘剤の例として、フィロケイ酸塩、例えばリチウムアルミニウムマグネシウムケイ酸塩の群からの無機増粘剤が挙げられる。有機増粘剤は、好ましくは、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤からなる群から選択されるもの、例えば、市販製品Rheovis(登録商標)AS1130(BASF SE社)、及びポリウレタン増粘剤からなる群から選択されるもの、例えば、BASF SE社による市販製品のRheovis(登録商標)PU1250である。(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸だけでなく、1つ以上のアクリル酸エスエル(すなわち、アクリレート)及び/又は1つ以上のメタクリル酸エステル(すなわち、メタクリレート)も共重合形態で含有するものである。(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤に共通した特徴は、アルカリ性媒体において、換言するとpHレベルが>7、より詳細には>7.5において、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の塩の形成によって、換言するとカルボキシレート基の形成によって、強い粘度増加を示すことである。(メタ)アクリル酸及びC~Cアルカノールから形成される(メタ)アクリル酸エスエルが使用される場合、生成物は、本質的に非会合性の(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤、例えば上述のRheovis(登録商標)AS1130である。本質的に非会合性の(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤は、文献においてASE増粘剤(「アルカリ可溶性/膨張性エマルション」又は分散体)とも呼ばれる。しかし、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤として使用することも可能なものは、HASE増粘剤(「疎水性修飾アニオン性可溶性エマルション」又は分散体)として既知のものである。これらは、アルカノールとして、C~Cアルカノールに代えて、又はそれらに加えて、より多数の炭素原子、例えば7~30個又は8~20個の炭素原子を有するものを使用することによって得られる。HASE増粘剤は、本質的に会合性増粘剤効果を有する。使用することができる(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤は、その増粘特性から、バインダー樹脂として好適ではなく、よって、バインダーとして識別される物理的、熱的、又は熱的及び化学線的の両方で硬化可能なバインダーの部類に入らず、従って、本発明のベースコート材料成分に用いることができるポリ(メタ)アクリレートベースのバインダーとは明確に異なる。ポリウレタン増粘剤は、文献においてHEUR(「疎水性修飾酸化エチレンウレタンレオロジー改質剤」)として識別されている会合性増粘剤である。化学的には、これらは、ウレタン結合により互いに連結し且つ8~30個の炭素原子を有する末端長鎖アルキル又はアルキレン基を有するポリエチレンオキシド鎖(ポリプロピレンオキシド鎖の場合もある)から構成される、非イオン性で分岐又は非分岐のブロックコポリマーである。典型的なアルキル基は、例えば、ドデシル又はステアリル基であり、典型的なアルケニル基は、例えばオレイル基であり、典型的なアリール基は、フェニル基であり、典型的なアルキル化アリール基は、例えばノニルフェニル基である。ポリウレタン増粘剤は、その増粘特性及び構造から、物理的、熱的、又は熱的及び物理的の両方で硬化可能なバインダー樹脂として好適ではない。従ってこれらは、本発明のベースコート材料成分におけるバインダーとして使用することができるポリウレタンとは明確に異なる。
【0089】
少なくとも1つの添加剤は、好ましくは、水性コーティング組成物の総質量に対して0質量%~10質量%の総量で存在する。
【0090】
本発明の水性コーティング組成物の特性:
水性コーティング組成物は、好ましくは、十分に硬化したコーティング層を室温で達成するのに必要な硬化時間を短縮するために、高い固形分含量を有する。好ましい固形分含量には、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、10~70質量%、好ましくは20~65質量%、特に35~55質量%が含まれる。
【0091】
高固形分にもかかわらず、水性コーティング組成物は、好ましくは、一般に知られている適用方法を用いて水性コーティング組成物を適用できるように低粘度を有する。好ましくは、水性コーティング組成物は、DIN EN ISO3219-1994-10に従い測定して、10~1,000mPa*s、好ましくは40~600mPa*s、特に100~250mPa*sの粘度を有する。
【0092】
水性コーティング組成物は、好ましくは、10~100g/L、好ましくは10~60g/LのVOCを含む。VOC値は次のように定義される:VOC(g/L)=(揮発性成分の総質量(g)-水の総質量(g))/(コーティング剤の体積(L)-水の体積(L))。揮発性成分とは、処理温度、特に20℃において10パスカル超の蒸気圧を有する化合物である(第31回BImSchV及び対応するEUのVOC指令及びVOC規制参照)。さらに、揮発性成分とは、101.3kPaの標準圧力で250℃以下の初期沸点を有する有機化合物であると理解される(欧州議会及び理事会指令2004/42/EC参照)。有機溶媒の量が少ないため、本発明の水性コーティング組成物は、玩具に関連する厳しい安全要件を満たし、よって前記水性コーティング組成物を玩具及び玩具部品のコーティングに特に好適とする。
【0093】
本発明の水性コーティング組成物の調製方法:
本発明の水性コーティング組成物は、あらゆる材料成分をそれぞれの容器に導入し、そして一般に知られている混合装置を用いて材料成分を混合することにより、調製することができる。水性コーティング組成物が上記の2Kコーティング組成物である場合、水性分散体D1~D3及び任意に前述のさらなる材料成分(単数又は複数)を含むベース成分、及び少なくとも1つの架橋剤を含む硬化剤成分は、別々に調製され、そして基材上に適用する直前に混合される。
【0094】
好ましい実施形態によれば、水性コーティング組成物は3K組成物であり、そして上記の水性分散体D1~D3及び任意にさらなる材料成分(単数又は複数)を含むベース成分を、少なくとも1つのベースカラー色成分及び硬化剤成分と混合することによって調製される。ベース成分対ベースカラー成分(単数又は複数)対硬化剤成分の好適な質量比には、100:1:1~1:100:50、又は80:80:2~20:80:20、又は60:60:4~40:40:10が含まれる。1つを超えるカラーベース成分が使用される場合、前記質量比は、本発明の水性コーティング組成物の製造中に使用されるあらゆるカラーベース成分の合計を指す。
【0095】
成分の混合は手動で行ってよく、適量のベース成分を容器に導入し、対応する量のベースカラー成分及び硬化剤成分と混合する。容器内への成分の導入の順序は変更することもでき、例えば、ベース成分及びベースカラー成分を容器内に導入し、そして対応する量の硬化剤成分と混合してもよい。しかしながら、2つ以上の成分の混合は、自動混合システムによって自動的に行うこともできる。このような自動混合システムは、混合ユニット、より詳細にはスタティックミキサー、及びベース成分を含有するポリウレタン樹脂、カラーベース成分及び硬化剤成分を含有する架橋剤を供給するための少なくとも3つの装置、より詳細にはギアポンプ及び/又は圧力弁を備えることができる。手動混合の場合及び自動混合のための成分の供給の場合の両方で、別々の成分は、好ましくは、15~70℃、より好ましくは15~40℃、より詳細には20~30℃の温度をそれぞれ有する。
【0096】
本発明のコーティング方法
本発明の方法によれば、本発明の水性コーティング組成物を基材(S)に適用し、そして適用したコーティング組成物を硬化させてコーティング(C)を形成することによって、前記基材(S)上にコーティング(C)が製造される。
【0097】
基材は、金属基材、プラスチック基材、金属及びプラスチック部分、木材又は紙を含む基材から選択される。特に好ましくは、基材はプラスチック基材から選択される。
【0098】
好適なプラスチック基材には、(i)熱可塑性プラスチック、例えばポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ゴム(TPE)、ポリ(メタ)アクリレート(PA)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ乳酸(PLA)、PET(ポリエチレンテレフタレート)のような飽和ポリエステル、エチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン(ABS)、PVC以外のハロゲン化ポリマーから選択されるビニルポリマー、(ii)熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン基を有する樹脂、尿素基を有する樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂(PU)、(iii)前述の熱可塑性プラスチック及び熱硬化性樹脂の混合物、(iv)上記の熱可塑性プラスチック又は熱硬化性樹脂から誘導される繊維強化ポリマー又は複合材料が含まれる。特に好ましくは、基材は熱可塑性ゴム基材、例えば成形熱可塑性プラスチック玩具又はその部品である。
【0099】
本発明の水性コーティング組成物の基材への適用:
本発明の方法の第1工程において、本発明の水性コーティング組成物を基材、特に基材の表面の少なくとも一部に適用する。水性コーティング組成物を基材の表面の少なくとも一部に適用することは、次のように理解される:問題の水性コーティング組成物は、前記組成物から生成されるコーティング膜が基材の表面の少なくとも一部に配置されるように適用されるが、必ずしも基材の表面と直接接触する必要はない。例えば、コーティング膜と基材の表面との間に、他のコーティングが配置されてもよい。好ましくは、本発明の水性コーティング組成物は、第1工程で基材の表面の少なくとも一部に直接適用され、これは、本発明の水性コーティング組成物を適用することによって生成されるコーティング膜が基材の表面と直接接触することを意味する。
【0100】
本発明の水性コーティング組成物は、当業者に既知の液体コーティング材料を適用する方法によって、例えば浸漬、ナイフコーティング、噴霧、ローリング、刷毛塗りなどによって適用してよい。スプレー適用法、例えば、圧縮空気スプレー(空気圧適用)、無気スプレー、高速回転、静電スプレー適用(ESTA)などを、任意に高温スプレー適用、例えば熱風(高温スプレー)又は刷毛塗りと組み合わせて用いることが好ましい。本発明の放射線硬化性コーティング組成物は、空気圧スプレー適用又は刷毛塗りを介して適用することが非常に好ましい。
【0101】
本発明のコーティング組成物の性質が水性であるにもかかわらず、前記コーティング組成物は高いぬれ膜厚で適用することができ、望ましくない光学的外観をもたらす望ましくない流れが形成されることはない。さらに、高いぬれ膜厚により、硬化コーティング層の良好な隠蔽力を達成することができるので、硬化コーティング層を通して下にある基材の色が依然として見えるのを避けるための、コーティングされた基材の再塗装を回避することができる。
【0102】
適用された水性コーティング組成物の硬化:
本発明の方法の第2工程において、適用した水性コーティング組成物を硬化させる。水性コーティング組成物は、室温で非常に短い硬化時間を有する。好ましくは、水性コーティング組成物は、60μm以下のぬれ厚さで基材(S)上に適用された場合、18~25℃の温度で、1分未満、好ましくは10~40秒以内に硬化コーティング層を形成する。これらの短い硬化時間により、コーティングされた基材の極めて速いさらなる処理、例えば、コーティング層でまだコーティングされていない基材の部分にさらなるコーティング層を適用することが可能となる。このように、室温での本発明の水性コーティング組成物の短い硬化時間は、プラスチック基材の極めて効率的なコーティングプロセスを可能とする。
【0103】
一例では、適用した水性コーティング組成物を、3分未満、特に10秒~2分の時間、18~40℃、好ましくは18~25℃の温度で硬化させる。このような硬化時間は、水性コーティング組成物が60μm以下のぬれ膜厚で適用される場合に好ましい。
【0104】
別の例では、適用したコーティング組成物を、10~50分間、特に10~35分の時間、18~40℃、好ましくは18~25℃の温度で硬化させる。このような硬化時間は、水性コーティング組成物が、得られるコーティング層の高い隠蔽力を達成するために、例えば刷毛塗りにより、60μmを超えるぬれ膜厚で適用される場合に好ましい。
【0105】
硬化後に得られる硬化コーティング層の乾燥膜厚は、多様であってよく、主に基材の表面粗さ及び/又は形状に依存する。その膜厚は、例えば、5~200μm、好ましくは5~80μmの範囲である。
【0106】
さらなる方法工程:
本発明の方法は、さらなるコーティング組成物、例えば如何なる顔料も含まない本発明の水性コーティング組成物、すなわちクリアコート組成物を、硬化コーティング層上に適用する工程をさらに含んでよい。さらなる水性コーティング組成物は、先に記載のように適用し、そして硬化させることができる。さらなる本発明の水性コーティング組成物の適用は、コーティングされた基材の特定の光学的外観、例えば高光沢又は艶消し仕上げが達成されるべき場合に有益である。
【0107】
本発明の水性コーティング組成物について述べたことは、本発明の方法のさらに好ましい実施形態に関しても準用される。
【0108】
本発明のコーティング
本発明の方法の終了後、結果として本発明のコーティングが得られる。本発明のコーティングは、種々のプラスチック基材、例えば成形されたTPE及びPVC玩具及び玩具部品などに対する高い接着性を示し、よって基材の使用中のコーティングの割れ及び剥離を防止する。
【0109】
本発明の水性コーティング組成物及び本発明の方法について述べたことは、本発明のコーティングのさらに好ましい実施形態に関しても準用される。
【0110】
本発明のコーティングされた基材
本発明の最後の主題は、本発明のコーティング(C)を有する基材(S)である。本発明のコーティングは、先に述べた本発明の方法によって製造することができ、そしてプライマー層を使用することなく、下にある基材に対して高い接着性を示す。本発明のコーティングを調製するために使用される水性コーティング組成物は、低量の有機溶媒しか含有せず、且つ室温で極めて速い硬化時間を可能にするので、使用される成分に対して厳格な安全規制が適用されるプラスチック基材、例えば成形TPE及びPVC玩具及びそれらの部品に特に好適である。
【0111】
本発明の水性コーティング組成物、本発明の方法及び本発明のコーティングについて述べたことは、本発明のコーティングされた基材のさらに好ましい実施形態に関しても準用される。
【0112】
本発明を、特に以下の条項により記載する:
1. 以下の成分:
(a) DIN EN ISO11357-2-2020-08に従い測定して-30℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する第1のポリウレタン樹脂P1を含む、少なくとも1つの水性分散体D1、
(b) DIN53504:2017-03に従い測定して少なくとも1MPaの100%弾性率を有する、第1のポリウレタン樹脂P1とは異なる第2のポリウレタン樹脂P2を含む、少なくとも1つの水性分散体D2、
(c) DIN EN ISO11357-2-2020-08に従い測定して-40℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する、第1のポリウレタン樹脂P1及び第2のポリウレタン樹脂P2とは異なる第3のポリウレタン樹脂P3を含む、少なくとも1つの水性分散体D3、及び
(d) 少なくとも1つの架橋剤
を含む、水性コーティング組成物。
【0113】
2. 第1のポリウレタン樹脂P1が、-30~-50℃、好ましくは-35℃~-45℃、非常に好ましくは-38℃~-42℃のガラス転移温度(Tg)を有する、条項1に記載の水性コーティング組成物。
【0114】
3. 第1のポリウレタン樹脂P1がアニオン性ポリウレタン樹脂である、条項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【0115】
4. 第1のポリウレタン樹脂P1が脂肪族ポリエステルベースのポリウレタン樹脂である、条項1から3のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0116】
5. 第1のポリウレタン樹脂P1が、5~100mgKOH/g固形分、好ましくは10~50mgKOH/g固形分、非常に好ましくは15~30mgKOH/g固形分の酸価を有する、条項1から4のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0117】
6. 第1のポリウレタン樹脂P1が、1~150mgKOH/g固形分、好ましくは2~100mgKOH/g固形分、より好ましくは5~70mgKOH/g固形分、非常に好ましくは10~25mgKOH/g固形分のヒドロキシル価を有する、条項1から5のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0118】
7. 第1のポリウレタン樹脂P1が、750~2,000,000g/mol、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは2,000~500,000、非常に好ましくは5,000~10,000g/molの数平均分子量Mを有する、条項1から6のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0119】
8. 第1のポリウレタン樹脂P1が、NCO-官能性プレポリマーを少なくとも1つのポリオールと反応させることによって得られる、条項1から7のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0120】
9. ポリオールの活性水素とNCO官能性プレポリマーのNCO基との間の好適な当量比が、2:1~1:2、好ましくは1.1:1~1:1.1である、条項8に記載の水性コーティング組成物。
【0121】
10. ポリオールが、脂肪族モノマーポリオール、好ましくは、少なくとも3個のヒドロキシル基を含む脂肪族モノマーポリオール、特にトリメチロールプロパンである、条項8又は9に記載の水性コーティング組成物。
【0122】
11. NCO官能性プレポリマーが、以下:
- 40~100mgKOH/g固形分のOH価及び1,000~3,000g/molの数平均分子量Mを有する、少なくとも1つの脂肪族ポリエステルポリオール、
- 少なくとも1つの酸基及びNCO基と反応可能な少なくとも1つの基を含む、少なくとも1つの化合物、
- 60~400g/molの平均分子量Mを有する、少なくとも1つのポリオール、及び
- 少なくとも1つのポリイソシアネート
を反応させることにより得られる、条項8から10のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0123】
12. 脂肪族ポリエステルポリオールが、ダイマー脂肪酸を芳香族ジカルボン酸及びジオールと反応させることによって得られる、条項11に記載の水性コーティング組成物。
【0124】
13. 少なくとも1つの酸基と、NCO基と反応することができる少なくとも1つの基とを含む少なくとも1つの化合物が、3~8個の炭素原子及び2個のヒドロキシ基を有するアルカン酸から、特にジメチロールプロピオン酸から選択される、条項11又は12に記載の水性コーティング組成物。
【0125】
14. 60~400g/molの平均分子量Mを有する少なくとも1つのポリオールが、3~10個の炭素原子及び2個のヒドロキシ基を有する脂肪族ポリオール、特にネオペンチルグリコールである、条項11から13のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0126】
15. ポリイソシアネートが、脂肪族、シクロ脂肪族、芳香脂肪族及び/又は芳香族ポリイソシアネート、特にシクロ脂肪族ポリイソシアネートから選択される、条項11から14のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0127】
16. 水性分散体D1が、光子相関分光法により測定して30~200nm、好ましくは40~100nm、非常に好ましくは45~60nmの平均粒子径(z平均)を有する、条項11から15のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0128】
17. 水性分散体D1が、各場合に水性分散体D1の総質量に対して、10~60質量%、好ましくは15~50質量%、より好ましくは20~40質量%、非常に好ましくは25~35質量%の総量の第1のポリウレタン樹脂P1を含む、条項11から16のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0129】
18. 水性分散体D1を、各場合に前記水性コーティング組成物の総質量に対して、5~60質量%、好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは15~25質量%の総量で含む、条項11から17のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0130】
19. 第2のポリウレタン樹脂P2が、DIN53504:2017-03に従い測定して、1~6MPa、好ましくは1~4MPa、非常に好ましくは1.4~1.9MPaの100%弾性率を有する、条項1から18のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0131】
20. 第2のポリウレタン樹脂P2が、DIN53504:2017-03に従い測定して、10~50MPa、好ましくは15~40MPa、非常に好ましくは22~28MPaの引張強さを有する、条項1から19のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0132】
21. 第2のポリウレタン樹脂P2が、DIN53504:2017-03に従い測定して、400~1,500%、好ましくは600~900%、非常に好ましくは720~780%の破断伸びを有する、条項1から20のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0133】
22. 第2のポリウレタン樹脂P2が、150~300℃、好ましくは190~230℃の溶融範囲を有する、条項1から21のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0134】
23. 第2のポリウレタン樹脂P2がアニオン性ポリウレタン樹脂である、条項1から22のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0135】
24. 第2のポリウレタン樹脂P2が脂肪族ポリカーボネート-ポリエーテルベースのポリウレタン樹脂である、条項1から23のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0136】
25. 水性分散体D2が、各場合に水性分散体D2の総質量に対して、10~70質量%、好ましくは15~60質量%、より好ましくは25~50質量%、非常に好ましくは35~45質量%の総量の第2のポリウレタン樹脂P2を含む、条項1から24のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0137】
26. 水性コーティング組成物が、水性分散体D2を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、5~60質量%、好ましくは10~50質量%、非常に好ましくは20~35質量%の総量で含む、条項1から25のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0138】
27. 第3のポリウレタン樹脂P3が、-40~-80℃、好ましくは-40℃~-60℃、非常に好ましくは-42℃~-55℃のガラス転移温度(Tg)を有する、条項1から26のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0139】
28. 第3のポリウレタン樹脂P3がアニオン性ポリウレタン樹脂である、条項1から27のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0140】
29. 第3のポリウレタン樹脂P3が脂肪族ポリカーボネート-ポリエステルベースのポリウレタン樹脂である、条項1から28のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0141】
30. 水性分散体D3が、光子相関分光法により測定して20~200nm、好ましくは30~100nm、非常に好ましくは40~80nmの平均粒子径(z平均)を有する、条項1から29のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0142】
31. 水性分散体D3が、各場合に水性分散体D3の総質量に対して、10~60質量%、好ましくは20~50質量%、非常に好ましくは30~40質量%の総量の第3のポリウレタン樹脂P3を含む、条項1から30のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0143】
32. 水性分散体D3を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、1~40質量%、好ましくは5~30質量%、非常に好ましくは8~20質量%の総量で含む、条項1から31のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0144】
33. 架橋剤が、アミノ樹脂、脱ブロックポリイソシアネート、少なくとも部分的にブロックされたポリイソシアネート、ポリカルボジイミド及びそれらの混合物、特に脱ブロックポリイソシアネートから選択される、条項1から32のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0145】
34. 脱ブロックポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、テトラデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート、テトラ-メチルヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2-イソシアナトプロピルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロ-ヘキシルメタン2,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシル-メタン4,4’-ジイソシアネート、1,4-又は1,3-ビス(イソシアナト-メチル)-シクロヘキサン、1,4-又は1,3-又は1,2-ジイソシアナト-シクロヘキサン、及び2,4-又は2,6-ジイソシアナト-1-メチル-シクロ-ヘキサン、それらの二量体及び三量体、及びこれらポリイソシアネートの混合物から選択される、条項33に記載の水性コーティング組成物。
【0146】
35. 少なくとも1つの架橋剤を、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、1質量%~40質量%固形分、好ましくは2~30質量%固形分、より詳細には6~12質量%又は15~25質量%固形分の総量で含む、条項1から34のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0147】
36. ポリウレタン樹脂P1~P3とは異なる少なくともポリマー、色及び/又は効果顔料(単数又は複数)、艶消し剤、増粘剤、分散剤、レベリング剤、pH調整剤、消泡剤、殺生物剤、UV吸収剤、架橋触媒、及びそれらの混合物をさらに含む、条項1から35のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物。
【0148】
37. 条項1から36のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物であって、各場合に水性コーティング組成物の総質量に対して、10~70質量%、好ましくは20~65質量%、特に35~55質量%固形分含量を有する、水性コーティング組成物。
【0149】
38. 条項1から37のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物であって、DIN EN ISO3219-1994-10に従い測定して、10~1,000mPa*s、好ましくは40~600mPa*s、特に100~250mPa*sの粘度を有する、水性コーティング組成物。
【0150】
39. 条項1から38のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物であって、10~100g/L、好ましくは10~60g/LのVOCを含む、水性コーティング組成物。
【0151】
40. 基材(S)上にコーティング(C)を製造する方法であって、条項1から39のいずれか1つに記載の水性コーティング組成物を基材(S)に適用し、そして適用したコーティング組成物を硬化させる工程を含む、方法。
【0152】
41. 基材が、金属基材、プラスチック基材、金属及びプラスチック部分、木材又は紙を含む基材から、特にプラスチック基材から選択される、条項40に記載の方法。
【0153】
42. プラスチック基材が、(i)熱可塑性プラスチック、例えばポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ゴム(TPE)、ポリ(メタ)アクリレート(PA)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ乳酸(PLA)、PET(ポリエチレンテレフタレート)のような飽和ポリエステル、エチレン-プロピレン-ジエン(EPDM)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン(ABS)、PVC以外のハロゲン化ポリマーから選択されるビニルポリマー、(ii)熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン基を有する樹脂、尿素基を有する樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂(PU)、(iii)前述の熱可塑性プラスチック及び熱硬化性樹脂の混合物、(iv)上記の熱可塑性プラスチック又は熱硬化性樹脂から誘導される繊維強化ポリマー又は複合材料から、特に熱可塑性ゴム(TPE)から選択される、条項41に記載の方法。
【0154】
43. 水性コーティング組成物が、60μm以下のぬれ厚さで基材(S)上に適用された場合、18~25℃の温度で、1分未満、好ましくは10~40秒以内に硬化コーティング層を形成する、条項40から42のいずれか1つに記載の方法。
【0155】
44. 適用したコーティング組成物を3分未満、特に10秒~2分の時間硬化させる、又は適用したコーティング組成物を10~50分間、特に10~35分の時間、18~40℃、好ましくは18~25℃の温度で硬化させる、条項40から43のいずれか1つに記載の方法。
【0156】
45. 条項40から44のいずれか1つに記載の方法によって製造されたコーティング。
【0157】
46. 条項45に記載のコーティング(C)を有する基材(S)。
【実施例
【0158】
以下に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に決して限定されるものではない。さらに、実施例における「部」、「%」及び「比率」という用語は、特に指示がない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」及び「質量比」を意味する。
【0159】
1.測定の方法:
1.1 固形分含量(固形分、不揮発性画分)
別段の記載がない限り、固形分含量(固形分の割合、固体状態の含量、不揮発分の割合とも呼ばれる)は、DIN EN ISO3251:2018-07に従い、130℃で60分間、開始質量を1.0gとして測定した。
【0160】
1.2 クロスハッチ接着性試験
基材上の硬化コーティング層の接着性を、クロスハッチ接着性試験により測定した。前記試験は、2Dプレート上で、DIN EN ISO2409:2020-12に従って行い評価した。
【0161】
1.3 水に対する安定性
コーティングされた基材の安定性は、コーティングされた基材を水道水に室温で24時間の間完全に浸すことで測定した。24時間後にコーティングの視覚的変化が検出されない場合、コーティングされた基材は「合格」と評価した。そうでない場合、コーティングされた基材は「不合格」と評価した。
【0162】
1.4 摩耗試験
基材上のコーティング層の耐摩耗性は、DIN EN ISO20566:2021-06に従って測定した。
【0163】
1.5 UV試験
コーティングされた基材の耐UV性は、DIN EN ISO4892-2:2021-11に従って、コーティングされた基材にUV光を72時間照射することによって測定した。耐UV性は、UV光を照射したコーティングされた物体と、照射していないコーティングされた物体とを、色の変化に関して目視で比較することによって評価した。
【0164】
2. 様々な本発明の水性コーティング組成物の調製
2.1 ベース成分の調製
表1に示す材料成分を混合することにより、2つの異なるベース成分BC1及びBC2を調製した。
【0165】
【表1】
【0166】
1) 固形分含量=25%、-40℃のTg(DIN EN ISO11357-2-2020-08)を有するポリウレタン樹脂P1を含有する;WO92/15405A1、第14~15頁、ポイント1.1及び1.2に従って調製した;
2) 固形分含量=40%、アニオン性脂肪族ポリカーボネートエステル-ポリエーテルポリウレタン樹脂の水性分散体、アニオン性脂肪族ポリカーボネートエステル-ポリエーテルポリウレタンは、1.7MPaの100%弾性率(DIN53504:2017-03)を有する(Covestro Deutschland AG社供給);
3)固形分含量=34~36%、アニオン性脂肪族ポリエステル-ポリカーボネートベースのポリウレタン樹脂の水性分散体、アニオン性脂肪族ポリカーボネート-ポリエーテルポリウレタンは、-45℃~-51℃のTg(DIN EN ISO11357-2-2020-08)を有する(Covestro Deutschland AG社供給);
4)VOC及び溶媒を含まない湿潤及び分散剤(BYK Chemie GmbH社供給);
5)固形分含量=41%、EP1 861 469B1の実施例1、段落[0057]に従い調製した;
6)艶消し剤として使用される高気孔率の合成非晶質シリカ(W.R.Grace&Co社-Conn.供給;)
7)疎水性フュームドシリカの水性分散体(Evonik Operations GmbH社供給);
8)ヒドロキシ官能性ポリウレタン分散体(Allnex社供給);
9)アニオン性ポリウレタンの水性分散体(BASF SE社供給);
10)水性コーティング用シリコーン界面活性剤(BYK Chemie GmbH社供給);
11)Laponite-RD(合成シートケイ酸塩、BYK Chemie GmbH社供給);
12)BASF SE社供給。
【0167】
2.2 水性コーティング組成物AC1~AC12の調製
本発明の水性コーティング組成物AC1~AC12は、ベース成分、任意に250g/L未満のVOCを有するベースカラー成分(BCC)及び硬化剤成分それぞれを、表3に示す混合比(質量比)で組み合わせることにより調製した。
【0168】
【表2】
【0169】
1)白色顔料ペースト100-B005(BASF Coatings GmbH社供給)
2) 黄色顔料ペースト100-B135(BASF Coatings GmbH社供給)
3) 黄色顔料ペースト100-B136(BASF Coatings GmbH社供給)
4) 黄色顔料ペースト100-B160(BASF Coatings GmbH社供給)
5) 黄色顔料ペースト100-B165(BASF Coatings GmbH社供給)
6) オレンジ顔料ペースト100-B220(BASF Coatings GmbH社供給)
7) オレンジ顔料ペースト100-B235(BASF Coatings GmbH社供給)
8) 赤色顔料ペースト100-B336(BASF Coatings GmbH社供給)
9) 赤色顔料ペースト100-B385(BASF Coatings GmbH社供給)
10) バイオレット顔料ペースト100-B434(BASF Coatings GmbH社供給)
11) 青色顔料ペースト100-B560(BASF Coatings GmbH社供給)
13) 緑色顔料ペースト100-B610(BASF Coatings GmbH社供給)
12) 緑色顔料ペースト100-B655(BASF Coatings GmbH社供給)
14) 茶色顔料ペースト100-B880(BASF Coatings GmbH社供給)
15) 黒色顔料ペースト100-B955(BASF Coatings GmbH社供給)
16) 黒色顔料ペースト100-B994(BASF Coatings GmbH社供給)
17)100-IC550硬化剤成分(有機溶媒中の脂肪族ポリイソシアネートの混合物を含有する)
【0170】
3. コーティングされた基材の製造
3.1 基材
成形された熱可塑性ゴム基材(TPE基材)及びPVC基材は、溶融した熱可塑性ゴム又はPVCを2D型(板形状)及び3D型(各種動物形状)に注入し、そして注入されたゴム又はPVCを硬化させることにより製造した。成形されたTPE基材及びPVC基材は、洗浄液(Lavamatic liquid、DTL-Detergentes Tecnicos,Unipessoal,Lda社供給)で3~4分間、工業用洗濯機を用いて洗浄した。その後、洗浄した基材を乾燥させた。
【0171】
3.2 基材のコーティング
3.2.1 空気圧スプレー適用
水性コーティング組成物AC1~AC12それぞれを、ポイント3.1で調製した洗浄済みのTPE及びPVC基材の一部に、1コート系(空気圧手動コーティング)で、ぬれ膜厚15~25マイクロメートルでそれぞれ直接適用し、そして18~25℃で10~40秒間硬化させた。その後、TPE及びPVC基材の残りの部分を、前述のようにそれぞれのコーティング組成物でコーティングした。膜厚(硬化)は、各場合とも6~16マイクロメートルであった。
【0172】
3.2.2 刷毛塗り適用
水性コーティング組成物AC1~AC12それぞれを、ポイント3.1で調製した洗浄済みのTPE及びPVC基材の一部に、刷毛を用いて、ぬれ膜厚15~25マイクロメートル又はぬれ膜厚60超~70マイクロメートルでそれぞれ直接適用した。適用したコーティング組成物それぞれを、適用した水性コーティング組成物AC1~AC12の適用ぬれ膜厚に応じて、18~25℃で1~2分間又は15~30分間硬化させた。
【0173】
3.2.3 浸漬適用
ポイント3.1で調製した洗浄済みのTPE及びPVC基材を、水性コーティング組成物AC1~AC12それぞれの水との1:1又は1:2(v/v)希釈液を含有する浴に浸漬した。コーティングされた基材をバッチから取り出した後、過剰のコーティング組成物を排出し、そしてコーティングされた基材を18~25℃で1~2分間硬化させた。
【0174】
4. 結果
4.1 目視評価
水性コーティング組成物AC1~AC12を、高いぬれ膜厚で刷毛塗りを用いてTPE及びPVC基材上に適用しても、コーティング組成物の性質が水性であるにもかかわらず、流れは検出されなかった。さらに、室温での極めて速い硬化時間により、垂直方向に配向した基材領域において、適用した水性コーティング組成物AC1~AC12の流れが回避された。結論として、あらゆるコーティングされた基材は、コーティングされた玩具及び玩具部品に要求される外観品質を満たした。
【0175】
4.2 クロスハッチ接着性試験
クロスハッチ接着性試験において、TPE及びPVCプレート基材上の水性コーティング組成物AC1~AC12から形成されたコーティング層の剥離又は割れは検出されなかった。よって、本発明の水性コーティング組成物から形成されたコーティング層は、その性質が水性であり、硬化時間が極めて短く、基材上に接着促進層がないにもかかわらず、前記プラスチック基材上で高い接着性を示した。
【0176】
4.3 水に対する安定性
コーティングしたTPE及びPVC基材を水道水に24時間完全に浸しても、視覚的欠陥は検出されなかった。よって、水性コーティング組成物から形成されたコーティング層は、溶解に対して十分な安定性を有し、コーティングされた基材の使用中に望ましくない視覚的悪影響及びコーティング層物質の放出を回避した。よってあらゆるコーティングされたTPE及びPVC基材は「合格」と評価された。
【0177】
4.4 耐摩耗性
あらゆるコーティングされたTPE基材及びPVC基材は、摩耗がわずかである又は摩耗が全くないことを示し、よって、接着促進層がないにもかかわらず、TPE基材及びPVC基材上のコーティング層の高い接着性を示し、コーティングされた基材の使用中の視覚的外観への悪影響及びコーティング層物質の放出を回避した。
【0178】
4.5 UV安定性
あらゆるコーティングされたTPE及びPVC基材は、UV劣化に対して十分な安定性を示した。よって形成されたコーティング層は、UV光の曝露時に望ましくない視覚的色変化を示さなかったので、良好なUV光安定性を示した。これにより、コーティング層の経時的な色の劣化が回避され、コーティングされた基材の視覚的外観が不快になることがない。
【0179】
5.結果の考察
実施例は、水性コーティング組成物は、その性質が水性であるにもかかわらず、薄いぬれ膜厚で適用した場合、室温での硬化時間が極めて短いことを実証している。このことから、既存の安全規制又は環境規制のために水性コーティング材料の使用が必要とされるコーティングプロセスにおいて、溶媒系コーティング材料と比較して室温での硬化時間を大幅に延長することなく、水性コーティング材料を使用することが可能となる。形成されたコーティング層は、接着促進層がないにもかかわらず、様々な基材上で優れた接着性だけでなく、良好なUV安定性も示す。さらに、水性コーティング組成物は、コーティングされた基材の視覚的外観を損なう流れの形成なしに、高いぬれ膜厚で適用することができる。室温での硬化時間が極めて速いため、垂直方向に配向した基材領域にも流れの形成なく適用することができ、基材上の配向に関係なく、それぞれの対象領域を正確にコーティングすることができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-12-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項13
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項13】
基材(S)上にコーティング(C)を製造する方法であって、請求項1に記載の水性コーティング組成物を該基材(S)に適用する工程および前記適用したコーティング組成物を硬化させる工程を含む、方法。
【国際調査報告】