(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-05-02
(54)【発明の名称】ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl)からの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の合成方法
(51)【国際特許分類】
C07H 19/04 20060101AFI20250424BHJP
【FI】
C07H19/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024564830
(86)(22)【出願日】2023-03-03
(85)【翻訳文提出日】2024-11-01
(86)【国際出願番号】 EP2023055401
(87)【国際公開番号】W WO2023166160
(87)【国際公開日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】202221011812
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523416058
【氏名又は名称】ボーハン アンド カンパニー エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルカンナガリ,ラマニ
(72)【発明者】
【氏名】ガンダプネニ,ラーガバ ラオ
(72)【発明者】
【氏名】ボーハン,フロード
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA30
4C057BB02
4C057DD01
4C057LL03
4C057LL18
(57)【要約】
本発明は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の新規な合成プロセスを開示する。より具体的には、本発明は、費用対効果が高く、収率及び純度が良好な、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl)からの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の合成であって、a)非塩素化非プロトン性有機溶媒及び還元剤の存在下で、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl)を還元して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A)を得る工程と、b)1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRHA)を塩基の存在下で脱アセチル化して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を得る工程と、を含む、合成を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)非塩素化非プロトン性有機溶媒及び還元剤の存在下で、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl)を還元して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A)を得る工程と、
b)塩基の存在下で、前記1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A)を脱アセチル化して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)を得る工程と、
を含む、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH)の調製方法。
【請求項2】
前記還元剤が、亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)又は二酸化チオ尿素(TDO)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤が二酸化チオ尿素(TDO)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非塩素化非プロトン性有機溶媒が、環状エーテル及び非環状エーテル、エステル、C1~C10環状アルカン、C1~C10非環状アルカン、並びに芳香族炭化水素からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記環状エーテル及び非環状エーテルが、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、THF、2-メチルテトラヒドロフラン、並びにt-ブチルメチルエーテル(TBME)及びシクロペンチルメチルエーテルからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エステルが、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルなどのC1~C6カルボン酸のC1~C6アルキルエステルからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記C1~C10環状アルカンが、シクロヘキサン、シクロヘプタンから選択され、C1~C10非環状アルカンが、n-ヘキサン及びn-ヘプタンから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族炭化水素が、ベンゼン、トルエン、キシレン及びトリメチルベンゼンから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
NRH-Aの脱アセチル化のための前記塩基が、MeOH中0.1%のNaOH、MeOH中0.1%のNaOMe、メタノール中1mol%のK
2CO
3、7%のメタノール性NH
3、及び10%のNH
3水溶液、又はメタノール、エタノール及びイソプロパノールなどのプロトン性溶媒中のN,N-ジメチルアミン、N,N-ジエチルアミン若しくはN,N-ジブチルアミンなどのジアルキルアミン、若しくはピロリジン、モルホリン及びピペリジンなどの環状二級アミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記還元反応が、室温から、使用する溶媒の還流温度まで、適切に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記還元反応を、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、t-ブチルメチルエーテル(TBME)、酢酸エチル(EtOAc)、シクロヘキサン、及びトルエンからなる群から選択される非塩素化有機溶媒中で実施する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記非塩素化有機溶媒が、2-メチルTHF又は酢酸エチルから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記塩基が、メタノール中0.1%のナトリウムメトキシドである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記還元反応を、NaHCO、NH
3水溶液;アルコールNH3溶液;K
2HPO
4及びK
3PO
4からなる群から選択される塩基の存在下で実施する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記還元反応を、NaHCO
3の飽和溶液の存在下で実施する、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)の新規な合成方法に関する。より具体的には、本発明は、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl:Nicotinamide-beta-riboside triacetate chloride)からの1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)の良好な収率及び純度での費用対効果の高い合成に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドリボシド、並びにニコチン酸リボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチド及びニコチン酸モノヌクレオチドを含めたその誘導体は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の代謝産物である。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)及びその還元型である1,4-ジヒドロニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)は、電子伝達によるエネルギー代謝及びミトコンドリア機能において重要な分子である。このため、細胞内NAD+濃度を増大させることができる薬理作用物質への関心が、ニコチンアミドリボシド(NR:nicotinamide riboside)及びニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN:nicotinamide mononucleotide)の研究を刺激してきた。しかしながら、NR及びNMNは、細胞内NAD+濃度を増大させるのに大量投与を必要とする。Sauveらは、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)を合成し、NRHがインビトロ条件下及びインビボ条件下の両方で、NAD+濃度を強力に増大させることを明らかにし、さらに、NRHがわずか1時間で哺乳動物細胞内のNAD+濃度を対照値の2.5~10倍増大させることを報告している。Sauveらはまた、NRHの使用がNR又はNMNのいずれか一方よりも有効であることも明らかにしている。
【0003】
その後、Cantoらが、NR経路とは対照的に、NRHが異なる段階及び酵素を利用してNAD+を合成することを発見し、さらに、NRHがNAD+前駆体として経口的に生体利用可能であることを明らかにしている。
【0004】
NRHは、NR又はNMNよりも重要性が増していることから、この分子の工業的に有用な合成も研究団体の注目を集めている。
【0005】
NRHの調製方法に関して利用可能な文献が十分にある。
【0006】
N.J.Oppenheimerらは、アルカリホスファターゼの存在下での5’-リン酸エステルの加水分解によるジヒドロニコチンアミドモノヌクレオチド(NMNH:dihydronicotinamide mononucleotide)からのNRHの合成を報告している。しかしながら、この方法は時間がかかり、酵素を必要とするため、費用対効果の高いものではない。したがって、Oppenheimerの方法は、NRHの工業的生産に適したものではない(非特許文献1)。
【0007】
M.V.Makarovら(非特許文献2)は、トリアセチル化ニコチンアミドリボシドトリフレートを出発物質に使用することによるNRH合成のための、2段階からなる方法を報告している。第1の工程では、Na2S2O4による還元によって、トリアセチル化NRをトリアセチル化NRHに変換する。第2の工程では、ボールミルで粉砕しながらトリアセチル化NRHのメタノリシスを実施することにより、NRHを生成する。この方法は、NRHの良好な収率をもたらすため有望なものであるが、トリフレートアニオンの存在により高価で非食品等級である物質、トリアセチル化ニコチンアミドリボシドトリフレートの使用により、この方法の規模拡大性が制限される。M.V.Makarovらによって報告された方法を以下のスキーム1に示す。
【0008】
【0009】
Y.Yangらは、還元剤としてのジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)及びリン酸水素カリウムの存在下でのNRトリフレートの還元によるNRHの別の合成方法を報告している(非特許文献3)。NRHは、周囲条件下で加水分解及び酸化の両方を受けやすいため、このようにして得られた粗NRHは、C18樹脂カラムを用いてHPLCで直ちに精製する。Yangらによって報告された方法では、NRHが70%の収率で得られる。この方法を以下のスキーム2に示す。
【0010】
【0011】
上記の方法に伴う欠点には、
a)前駆体であるニコチンアミドリボシドトリフレートは、高価であるだけでなく、吸湿性が高く、したがって、不活性雰囲気下で約-20℃で保管しなければならず、これにより、製造の追加コストが増大すること、及び
b)ニコチンアミドリボシドトリフレートは、トリフレートアニオンが存在するため食品等級ではなく、したがって、トリフレートアニオンを完全に除去するのにNRHのカラム精製が必要となり、したがって、製造プロセスのコストが増大すること、
がある。
【0012】
Amin Zareiら(非特許文献4)は、市販のβ-NRClを使用することによるNRHの規模拡大可能な合成のための直接的方法を報告している。この方法では、窒素雰囲気下、NaHCO3とNa2S2O4の水溶液中でβ-NRClを還元する。しかしながら、この方法には、収率55%及び純度96%で生成物を得るために、生じた生成物であるNRHをカラムクロマトグラフィーにより反応混合物から精製する必要があるという欠点がある。さらに、NRClは、高温に曝されると分解し、慎重な保管及び取扱いを必要とする、不安定な分子であることが報告されている。この論文で報告されている合成を以下のスキーム3に示す。
【0013】
【0014】
特許文献1には、トリアセチル化NRトリフレートと亜ジチオン酸ナトリウムとを反応させてトリアセチル化NRHを得、これをMeOH中のナトリウムメトキシドなどの塩基で処理することにより脱アセチル化して、NRHを得ることが開示されている。特許文献1に報告されているプロセスはまた、トリアセチル化NRトリフレートが高価であり、且つ、トリフレートイオンが原因で食品等級ではなく、したがって、このようにして得られたNRHには、トリフレートアニオンを含まないよう大規模な精製が必要であるため、工業的には適していない。この合成を以下のスキーム4に示す。
【0015】
【0016】
特許文献2の実施例1A及び実施例1Cには、トリアセチル化NRトリフレート又はトリベンゾイル化NRトリフレートと亜ジチオン酸ナトリウムとを反応させて、トリアセチル化NRHを得ることが開示されている。特許文献2の実施例2には、以下のスキーム5に示すように、メカノケミカルプロセスでMeOH中の水酸化ナトリウムなどの塩基を用いてトリアセチル化NRH/トリベンゾイル化NRHを脱保護することが開示されている。このプロセスもまた、追加の設備及びカラムクロマトグラフィー精製を必要とし、したがって、工業規模に拡大可能なものではない。
【0017】
【0018】
以上のことを踏まえると、NRHを少なくとも85~99%の収率で、且つ少なくとも98%以上の純度で調製するプロセスを費用対効果の高い方法で提供することが当技術分野で依然として必要とされており、したがって、商業規模に拡大可能であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第2017/079195号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2015/014722号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】N.J.Oppenheimerら、「Biochemistry」、1976年、第15巻、p.3981-3989
【非特許文献2】M.V.Makarovら、「Organic and Biomolecular Chemistry」、2019年、第17巻、p.8716-8720
【非特許文献3】Y.Yangら、「Journal of Biological Chemistry」、2019年、第294巻、p.9295-9307
【非特許文献4】Amin Zareiら、[online]、インターネット<DOI:https://doi.org/10.1039/D1RA02062E>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の目的は、費用対効果の高い出発物質であるニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl:Nicotinamide-beta-riboside triacetate chloride)を用いた1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)の調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の目的に沿って、本発明は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)の調製方法であって、
a)非塩素化非プロトン性有機溶媒(1又は複数)及び還元剤の存在下でニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl:Nicotinamide-beta-riboside triacetate chloride)を還元して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A:1,4-dihydronicotinamide riboside triacetate)を得る工程と、
b)1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A:1,4-dihydronicotinamide riboside triacetate)を塩基の存在下で脱アセチル化して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)を得る工程と、
を含む、方法を提供する。
【0023】
一態様では、還元剤は、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)又は二酸化チオ尿素(TDO:Thiourea dioxide)からなる群から選択され得る。
【0024】
NRA-Clを還元するための非塩素化非プロトン性有機溶媒は、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF:2-methyltetrahydrofuran)、t-ブチルメチルエーテル(TBME:t-butylmethyl ether)、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどの環状エーテル及び非環状エーテル、酢酸エチル(EtOAc)、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル、並びにシクロヘキサン、シクロヘプタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン及びトルエンなどの環状炭化水素溶媒及び非環状炭化水素溶媒からなる群から選択され得る。特に、非水溶性溶媒は、反応が二相溶媒系で起こるため好ましい。
【0025】
MeOH中0.1%のNaOH、MeOH中0.1%のNaOMe、メタノール中1mol%のK2CO3、7%のメタノール性NH3 及び10%のNH3水溶液、又はN,N-ジメチルアミン若しくはN,N-ジエチルアミン若しくはN,N-ジブチルアミンなどのジアルキルアミン、又はメタノール、エタノール及びイソプロパノールなどのプロトン性溶媒中のピロリジン、モルホリン及びピペリジンなどの環状二級アミンからなる群から選択される、NRH-Aisの脱アセチル化に使用し得る塩基。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例2に従って調製したNRH-OAcの1HNMRを示す図である。
【
図2】実施例2に従って調製した13C NMR-NRH-OAcを示す図である。
【
図3】実施例3に従って調製したNRHの1H NMRを示す図である。
【
図4】実施例3に従って調製した13C NMR-NRHを示す図である。
【
図5】実施例3に従って調製したNRHのHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図6】実施例3に従って調製したNRHの質量スペクトルを示す図である。
【
図7】実施例3に従って調製したNRHのPXRDを示す図であり、化合物の非晶質性を示している。
【
図8】実施例3に従って調製したNRHのHRMSを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明を特定の好ましい実施形態及び任意選択の実施形態に関連して詳細に説明し、それにより、その様々な態様が完全に理解され認識され得る。
【0028】
したがって、本発明は、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)の調製方法であって、
a)非塩素化非プロトン性有機溶媒(1又は複数)及び還元剤の存在下でニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl:Nicotinamide-beta-riboside triacetate chloride)を還元して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A:1,4-dihydronicotinamide riboside triacetate)を得る工程と、
b)1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A:1,4-dihydronicotinamide riboside triacetate)を塩基の存在下で脱アセチル化して、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシド(NRH:1,4-dihydronicotinamide riboside)を得る工程と、
を含む、方法を提供する。
【0029】
一実施形態によれば、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl:Nicotinamide-beta-riboside triacetate chloride)の還元を窒素雰囲気下、適切な非塩素化有機溶媒の存在下で、NaHCO3の飽和溶液の存在下、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)を用いて実施した。
【0030】
NRA-Clを還元するための非塩素化非プロトン性有機溶媒は、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF:2-methyltetrahydrofuran)、t-ブチルメチルエーテル(TBME:t-butylmethyl ether)、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテルなどの環状エーテル及び非環状エーテル、酢酸エチル(EtOAc)、酢酸メチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル、並びにシクロヘキサン、シクロヘプタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン及びトルエンなどの環状炭化水素溶媒及び非環状炭化水素溶媒からなる群から選択され得る。
【0031】
より詳細には、この反応のための非塩素化有機溶媒は、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF:2-methyltetrahydrofuran)、t-ブチルメチルエーテル(TBME:t-butylmethyl ether)、酢酸エチル(EtOAc)、シクロヘキサン及びトルエンからなる群から選択され得る。還元反応は、室温から、使用する溶媒の還流温度まで、適切に実施され得る。好ましくは、還元反応を撹拌しながら室温で4~5時間実施した。反応終了後、有機相から生成物である1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテート(NRH-A:1,4-dihydronicotinamide riboside triacetate)を回収した。
【0032】
好ましい態様の1つでは、適切な非塩素化有機溶媒は、2-メチルTHF又は酢酸エチルから選択される。2-メチルTHFは、様々なエーテルの中でも特に有用な溶媒であり、これは、緑色の溶媒であり、また回収可能、且つ再使用可能であり、さらに、同溶媒により生成物が優れた純度にて定量的収率で得られた。したがって、本発明により、DCM及びDCEなどの塩素化溶媒を使用しなくてもNRA-ClがNRH-Aに変換されることが明らかになった。
【0033】
ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリドの還元は、トルエン中で70%以上、ジエチルエーテル中で75%以上、tert-ブチルメチルエーテル中で80%以上、酢酸エチル中で95%以上、又は2-メチルTHF中で90%以上の収率で起こり得る。ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリドの還元により、トルエン中で85%以上、シクロヘキサン中で90%以上、2-メチルTHF中又は酢酸エチル中で98%以上の純度で、1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテートを生成し得る。さらに、このようにして得られたNRH-Aを適当な塩基の存在下、室温で脱アセチル化した。TLC(MeOH:DCMが2:8)によって出発物質の完全な消失が示されてから、溶媒を蒸発させ、このようにして得られた粘稠な塊をアセトンで2回洗浄し、次いで、真空下で1~2時間にわたって乾燥させて、淡黄色の固体であるNRHを得た。この脱アセチル化反応のための塩基は、MeOH中0.1%のNaOH、MeOH中0.1%のNaOMe、メタノール中1mol%のK2CO3、7%のメタノール性NH3及び10%のNH3水溶液からなる群から選択され得る。
【0034】
好ましい実施形態の1つでは、塩基は、メタノール中0.1%のナトリウムメトキシドである。
【0035】
1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテートの脱アセチル化は、メタノール中のアンモニアによって80%以上、メタノール中のK2CO3によって85%以上、メタノール中のNaOHによって90%以上、又はメタノール中の96%NaOMe以上の収率で起こり得る。1,4-ジヒドロニコチンアミドリボシドトリアセテートの脱アセチル化により、K2CO3によって90%以上、95%NaOMe以上、98%NaOH以上の純度であるNRHwithを生成し得る。
【0036】
別の好ましい実施形態では、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリド(NRA-Cl:Nicotinamide-beta-riboside triacetate chloride)の還元を適切な非塩素化非プロトン性有機溶媒の存在下、飽和された状態で、二酸化チオ尿素を用いて実施した。窒素雰囲気下、塩基としてのNaHCO3の溶液。還元反応は、室温から、使用する溶媒の還流温度まで、適切に実施され得るが、還元反応は、好ましくは、撹拌しながら室温で6~8時間実施された。反応終了後、有機相から生成物であるNRH-Aを回収した。環状エーテル及び非環状エーテル、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、THF、2-メチルテトラヒドロフラン、及びt-ブチルメチルエーテル(TBME:t-butylmethyl ether);シクロペンチルメチルエーテル;
エステル、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルなどのC1~C6カルボン酸のC1~C6アルキルエステル;
C1~C10環状アルカン;例えば、シクロヘキサン、シクロヘプタン
C1~C10非環状アルカン;例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、並びに
芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びトリメチルベンゼン
を含めた、この反応に使用され得る非塩素化非プロトン性有機溶媒。
【0037】
様々な実施形態では、ニコチンアミド-β-リボシドトリアセテートクロリドの還元に使用され得る例示的な非ハロゲン化非プロトン性有機溶媒としては、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF:2-methyltetrahydrofuran)、t-ブチルメチルエーテル(TBME:t-butylmethyl ether)、酢酸エチル(EtOAc)、シクロヘキサン及びトルエンが挙げられる。
【0038】
二酸化チオ尿素は、極めて穏やかな条件下でのNRA-Clの選択的な1,4-還元のために容易に入手できる還元試薬である。好ましい実施形態の1つでは、反応を2-メチルTHF溶媒中で実施し、これにより、生成物が優れた純度にて良好な収率で得られた。
【0039】
さらに、このようにして得られたNRH-Aを適当な塩基の存在下、室温で脱アセチル化した。TLC(MeOH:DCMが2:8)によって出発物質の完全な消失が示されてから、溶媒を蒸発させ、粘稠な塊をアセトンで2回洗浄し、次いで、真空下で1~2時間にわたって乾燥させて、淡黄色の固体であるNRHを得た。この脱アセチル化反応に使用され得る塩基は、MeOH中0.1%のNaOH、MeOH中0.1%のNaOMe、メタノール中1mol%のK2CO3、7%のメタノール性NH3、10%のNH3水溶液及びメタノール中の無水HClからなる群から選択される。
【0040】
好ましい実施形態の1つでは、塩基は、メタノール中0.1%のナトリウムメトキシドである。
【0041】
本発明でNRHの合成に使用する出発物質であるβ-NRCl-OAcは、室温で安定であり、したがって、この物質の取扱いはより容易であり、保管に特別な条件を必要としない。さらに、β-NRCl-OAcの使用により、報告されているプロセスと比較して、NRH-Aが85~95%の収率で、NRHが90~95%の収率及び90~98%の純度で得られる。本発明のプロセスでは、先行技術の教示とは異なり、カラムクロマトグラフィー精製に供しなくても、溶媒の慎重な選択を利用することにより、中間体のNRH-A及び最終生成物のNRHを有機相から容易に分離することできる。さらに、プロセス全体を室温で実施することが可能であり、それにより、追加のエネルギー源の必要性が回避される。したがって、NRHの合成のための本発明のプロセスは、費用対効果が高く、したがって、工業規模に拡大可能である。
【0042】
ここで、実施例を用いて本発明を説明する。前述の実施形態及び後述の実施例は、例示を目的とするものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者には、前述の実施形態及び後述の実施例の様々な修正形態が容易にわかる。
【実施例】
【0043】
実施例1
2-メチルTHF中のNa
2S
2O
4を用いたNRA-ClからのNRH-Aの合成方法
段階1:
亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)を用いたNRA-Clの還元
【化6】
【0044】
窒素パージした40mLの2-メチルTHFにN2雰囲気下で溶解させたNRA-Cl(2.8g、7.4mmol)に、飽和NaHCO3溶液(13mL)及び固体の亜ジチオン酸ナトリウム(4.17g、24mmol)の溶液、次いで水5mLを25℃で加えた。得られた混合物を同じ温度で4~5時間にわたって撹拌した。酢酸エチル中1%のメタノール又はDCM中1%のメタノールを移動相に用いるTLCにより進行をモニターし、アニスアルデヒド溶液によりTLCスポットを可視化した。有機相を分離し、水相を40mLの2-メチルTHFで抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮して、淡黄色の固体(NRH-A)を収率90%にて純度98%以上で得た。
【0045】
実施例2
酢酸エチル中のNa
2S
2O
4を用いたNRH-AからのNRHの合成方法
段階1:
亜ジチオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)を用いたNRA-Clの還元
【化7】
【0046】
マグネチックスターラを装備した3Lの三つ口RBフラスコに酢酸エチル(1400mL)を入れ、窒素を30分間パージし、NRA-Cl(100g)を加え、内容物を10分間撹拌した。25℃で撹拌しながら、この溶液に飽和重炭酸ナトリウム溶液(464mL)を加え(RMが淡黄色に変わる)、次いで、亜ジチオン酸ナトリウム(固体、148.9g)をゆっくり加えた(反応混合物が淡黄色の濁った溶液に変わる)。DM水(250mL)をゆっくり加えて透明な溶液を得て、内容物を室温で2時間撹拌し、TLC(5%のメタノール:95%のDCMによりモニターし、TLCスポットをアニスアルデヒド溶液又は10%のH2SO4メタノール溶液によって可視化した。反応完了後、有機層を分離し、飽和食塩水(500mL)で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させ、浴温度を39~40℃未満に維持しながら減圧下で有機層を留去して、淡黄色の固体生成物88gを得た(収率95.8%)。
【0047】
NRH-OAcの
1HNMR及び
13C NMRをそれぞれ
図1及び
図2に示す。
【0048】
同様に、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)を用いたNRA-Clの還元をt-ブチルメチルエーテル(TBME)、シクロヘキサン及びトルエンなどの他の様々な溶媒中で実施した。以下の表1に示す通り、亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)を用いたNRA-Clの還元は、2-メチルTHF中で収率が90%、酢酸エチル中で収率が95.8%、t-ブチルメチルエーテル(TBME)中で75%、シクロヘキサン中で70%、トルエン中で65%で得られる。さらに、これらの溶媒ではいずれも、生成物であるNRA-Hが85%~98%の純度で得られる。また、25~30℃の温度で反応を実施する。
【0049】
【0050】
これらの溶媒はいずれも、良好な収率でNRH-Aが得られたことから、適切なものであることが明らかになり、したがって、NRH-Aの工業的製造に有用である。
【0051】
段階2:
メタノール中のナトリウムメトキシドを用いたNRH-A(2)の脱アセチル化
【化8】
【0052】
上記の実施例1及び実施例2のプロセスによって得られた2(80gm)をメタノール(400mL)に入れた撹拌溶液に、ナトリウムメトキシド(1.15g)を25℃で加えた。得られた溶液を同じ温度で3~4時間にわたって撹拌した。TLC(MeOH:DCMが2:8)によって示される出発物質の完全な消失時。浴温度を39~40℃未満に維持しながら減圧下で有機層を蒸留して、淡黄色の固体生成物52gを得た(収率97%)。
【0053】
精製:
淡黄色の固体生成物であるNRH(50g)をアセトン500mLに溶解し、30分間激しく撹拌した。30分後、生成物を厳密な窒素雰囲気下で濾過し、アセトン250mLで洗浄した。濾過した生成物を窒素雰囲気下で乾燥させて、非晶質の粉末を得た。
純度:Lab solutionsソフトウェアを用いた島津HPLCで99.97%
【0054】
NRHの1H NMR、13CNMR、HPLCクロマトグラム、マススペクトル、PXRD及びHRMSをそれぞれ
図3~
図8に示す。
【0055】
同様に、MeOH中0.1%のNaOH、メタノール中1mol%のK2CO3、7%のメタノール性NH3及び10%のNH3水溶液などの異なる塩基を用いた脱アセチル化反応も実施し、生成物であるNRHが極めて良好な収率で得られたことから、これらの塩基が反応の工業規模への拡大性に適していることが示された。
【0056】
実施例3:
2-MeTHF中の二酸化チオ尿素(TDO)を用いたNRA-ClからのNRHの合成方法
段階1:
TDOを用いたNRA-Clの還元
【化9】
【0057】
窒素パージした40mLの2-メチルTHFにN2雰囲気下で溶解させたNRA-Cl(2.8g、7.4mmol)に、NaHCO3の飽和溶液(13mL)及び固体のTDO(1.59g、14.8mmol)を25℃で加えた。得られた混合物を同じ温度で6~8時間にわたって撹拌した。有機相を分離し、水相を40mLの2-メチルTHFで抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させ、減圧下で濃縮して、淡黄色の固体(NRH-A)を収率82%にて純度98%以上で得た。
【0058】
同様に、二酸化チオ尿素(TDO:Thiourea dioxide)を用いたNRA-Clの還元を、t-ブチルメチルエーテル(TBME:t-butylmethyl ether)中で75%、酢酸エチル(EtOAc)中で80%、シクロヘキサン中で70%、トルエン中で65%の収率が得られる様々な溶媒中で実施した。これらの溶媒はいずれも、良好な収率及び純度でNRH-Aが得られた(表1)ことから、NRH-Aの工業的製造に適したものであることが明らかになった。
【0059】
同様に、異なる塩基を用いて還元反応を実施し、NH3 水溶液によって85%、アルコール性NH3 によって80%、K2HPO4 によって65%、及びK3PO4によって60%の収率でNRH-Aが得られる。しかしながら、NH3 水溶液又はアルコール性NH3 では、同時に酢酸エステルの加水分解も観察された。NH3 水溶液又はアルコール性NH3 は、NRA-Clを還元するとともに、アセテート基を脱保護する。
【0060】
段階2:
ナトリウムメトキシドを用いたNRH-A(2)の脱アセチル化
【化10】
【0061】
2(80g)をメタノール(400mL)に入れた撹拌溶液にナトリウムメトキシド(1.15g)を25℃で加えた。得られた溶液を同じ温度で3~4時間にわたって撹拌した。TLC(MeOH:DCMが2:8)によって出発物質の完全な消失が示されてから、浴温度を39~40℃未満に維持しながら減圧下で有機層を蒸留して、淡黄色の固体生成物52gを得た(収率97%)。
【0062】
精製:
淡黄色の固体生成物であるNRH(50g)をアセトン500mL(10体積)に溶解し、30分間激しく撹拌した。30分後、生成物を厳密な窒素雰囲気下で濾過し、アセトン250mL(5体積)で洗浄した。濾過した生成物を窒素雰囲気下で乾燥させ、火炎乾燥して窒素をフラッシュしたバイアルに移す。
純度:Lab solutionsソフトウェアを用いた島津HPLCで99.97%
【0063】
同様に、異なる塩基を用いて脱アセチル化反応を実施し、MeOH中0.1%のNaOH又はNaOMeによって95%超、メタノール中1mol%のK2CO3によって85%、7%のメタノール性NH3によって90%、及び10%のNH3水溶液によって87%の収率でNRHが得られ、これらの塩基が適切であること、及びこの反応の拡大可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
出発物質であるβ-NRCl-OAcは室温で安定であり、したがって、この物質の取扱いはより容易であり、保管に特別な条件を必要としない。
【0065】
さらに、β-NRCl-OAcの使用により、報告されているプロセスと比較して、NRH-A及びNRHが良好な収率及び純度で得られる。
【0066】
本発明のプロセスでは、先行技術の教示とは異なり、カラムクロマトグラフィー精製に供しなくても、溶媒の慎重な選択を利用することにより、中間体のNRH-A及び最終生成物のNRHを有機相から容易に分離することできる。このプロセスは、室温及び室内圧力で実施する可能であり、したがって、反応を実施するためのエネルギー源の必要性が回避される。本発明のプロセスによって得られるNRHは、本質的に非晶質であり、高純度(HPLCで99.97%超)である。
【0067】
したがって、NRHの合成のための本発明のプロセスは、費用対効果が高く、したがって、工業規模に拡大可能である。
【国際調査報告】