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特表2025-517307歯科用組成物並びにその作製及び使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-06-05
(54)【発明の名称】歯科用組成物並びにその作製及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/889 20200101AFI20250529BHJP
   A61K 6/851 20200101ALI20250529BHJP
   A61K 6/853 20200101ALI20250529BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20250529BHJP
   A61K 6/833 20200101ALI20250529BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20250529BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/851
A61K6/853
A61K6/831
A61K6/833
A61K6/887
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024566744
(86)(22)【出願日】2023-05-22
(85)【翻訳文提出日】2024-11-12
(86)【国際出願番号】 IB2023055248
(87)【国際公開番号】W WO2023228049
(87)【国際公開日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】63/365,356
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062087
【氏名又は名称】ソルベンタム インテレクチュアル プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】イーチョン ワン
(72)【発明者】
【氏名】アフシーン ファルサフィ
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル ディー.オクスマン
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA05
4C089BA12
4C089BA16
4C089BC06
4C089BC08
4C089BC12
4C089BC13
4C089BD01
4C089BD02
4C089BE02
4C089CA03
4C089CA08
(57)【要約】
多成分系固化性歯科用組成物。第1の成分は、1つ以上のエチレン性不飽和基を有する単官能性及び/又は多官能性構成成分と、酸反応性ガラス粒子と、酸化剤とを含む。第2の成分は、1つ以上のエチレン性不飽和基を有する単官能性及び/又は多官能性構成成分と、水混和性ポリ酸と、芳香族第三級アミンを含む還元剤と、カルボン酸のpKaよりも低いpKaを有する酸と、非反応性充填剤とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多成分系固化性歯科用組成物であって、
1つ以上のエチレン性不飽和基を有する単官能性及び/又は多官能性構成成分と、
酸反応性ガラス粒子と、
酸化剤とを含む、第1の成分と、
1つ以上のエチレン性不飽和基を有する単官能性及び/又は多官能性構成成分と、
水混和性ポリ酸と、
芳香族第三級アミンを含む還元剤と、
カルボン酸のpKaよりも低いpKaを有する酸と、
非反応性充填剤とを含む、第2の成分とを含む、多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項2】
前記酸化剤が、過酸化物を含む、請求項1に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項3】
前記酸化剤が、過硫酸塩を含む、請求項1又は2に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項4】
前記酸化剤が、過硫酸カリウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項5】
前記酸化剤が、前記第1の成分の総重量に基づいて、0.1~4.0重量%の量で前記第1の成分中に存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項6】
前記酸反応性ガラスが、フルオロアルミノシリケート(FAS)ガラスを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項7】
前記酸反応性ガラスが、前記第1の成分の総重量に基づいて、3~60重量%の量で前記第1の成分中に存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項8】
前記ポリ酸が、式:
B(X)(Y)
(式中、Bは炭化水素主鎖であり、Xは-COOHであり、Yはエチレン性不飽和基であり、mは少なくとも2であり、nは少なくとも1であり、Yはアミド結合を介してBに結合している)のポリ酸である、請求項1~7のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項9】
前記ポリ酸が、(i)ポリアクリル酸、アクリル酸とイタコン酸とのコポリマー、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸とのコポリマー、エチレンと無水マレイン酸又はマレイン酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸又はマレイン酸とのコポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーと、(ii)塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、ビニルアザラクトン、アリルイソシアネート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、及び2-イソシアナトエチルメタクリレートからなる群から選択されるカップリング化合物との反応生成物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項10】
前記ポリ酸が、前記第2の成分の総重量に基づいて、5~35重量%の量で前記第2の成分中に存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項11】
前記芳香族第三級アミンが、以下の構造式:
【化1】
(式中、R1、R2、及びR3は、独立して、(i)水素原子、あるいは(ii)炭素原子数1~8の、アルキル基、アルキルアルコール基、エステル若しくはアミド結合を含むアルキル基、エステル基、アミド基、又はウレタン基である)を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項12】
前記芳香族第三級アミンが、前記第2の成分の総重量に基づいて、0.25~5.0重量%の量で前記第2の成分中に存在する、請求項1~11のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項13】
前記酸が、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、又は1つ以上のリン酸基を含有する1つ以上のモノマーを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項14】
水が、前記第2の成分の総重量に基づいて、2~30重量%の量で前記第2の成分中に存在する、請求項1~13のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項15】
前記第1の成分、前記第2の成分、又は前記第1の成分と前記第2の成分の両方が、非反応性充填剤を含む成分の総重量に基づいて、1~40重量%の量の前記非反応性充填剤を含み、前記非反応性充填剤が、無機材料、架橋有機材料、及びこれらの組み合わせを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項16】
前記第2の成分が、前記第2の成分の総重量に基づいて、30~40重量パーセントの量の前記非反応性充填剤を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項17】
前記第1の成分及び前記第2の成分の前記単官能性及び/又は多官能性構成成分が、室温で液体であり、水混和性である、請求項1~16のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項18】
前記第1の成分が、エチレン性不飽和基を有する、単官能性構成成分と多官能性構成成分の両方を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項19】
前記第1の成分及び前記第2の成分の、前記エチレン性不飽和基を有する単官能性及び多官能性構成成分が、独立して、それぞれの成分の総重量に基づいて、3~40重量%の量でそれぞれの成分中に存在する、請求項1~18のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項20】
前記第2の成分が、酸官能性構成成分を更に含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項21】
前記第1の成分又は前記第2の成分の、前記エチレン性不飽和基を有する単官能性及び多官能性構成成分が、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、又は糖メタクリレートを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項22】
ライナー材料、合着材料、修復材料、歯内治療材料、及びシーリング材料からなる群から選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項23】
前記第1の成分及び前記第2の成分のいずれか又は両方が、ペースト状である、請求項1~22のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項24】
前記第1の成分が、前記第1の成分の総重量に基づいて、5重量%未満、1重量%未満、又は0.5重量%未満の量の水を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物を使用する方法であって、
請求項1~24のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物を使用して、歯科用物品を歯若しくは骨に接着させること、又は
請求項1~24のいずれか一項に記載の多成分系固化性歯科用組成物で、少なくとも部分的に、歯の窩洞に詰め物をすることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
2成分系歯科用セメントは、例えば、米国特許第6,982,288号、国際公開第2020/075007号、及び国際公開第2011/081975号に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0002】
2成分系グラスアイオノマーセメントは、以前から歯科用途に使用されてきた。このような材料は、イオン性ポリマー構成成分及び反応性ガラス構成成分から構成され、これらの構成成分を水の存在下で混ぜ合わせると、セメント硬化反応が起こる。これらの歯科材料は、長期のフッ化物放出、水分及び唾液に対する耐性、良好な機械的特性、並びにコンディショナー又は接着剤などの前処理なしでの歯の硬組織への優れた接着性を含む、いくつかの望ましい属性をもたらす。粉末-液体、粉末-ペースト、ペースト-ペースト、ペースト-液体、及び液体-液体の2成分系セメントが報告されている。
【0003】
既知の材料及び方法には、例えば、機械的強度のばらつき、様々な粘稠度、不十分な作用時間又は硬化時間、塗布当たりのコスト、複数回の分注及び混合ステップ、機械的混合装置、並びに有効期間を含む様々な欠点があることが明らかになっている。
【0004】
上記の材料は、多成分系として、典型的には2成分系において利用可能である。これらは、粉末、液体、又はペーストの任意の組み合わせであり得る。材料の有効期間(典型的には2~4年)中に粘度、色、又は任意の他の特性の変化が起こらないように、個々の成分の貯蔵安定性は非常に重要である。使用時には、これらの成分を混ぜ合わせ、次いで塗布する。処置が患者にとってもオペレータにとっても不快とならないように、セッティングは短時間で起こるべきである。セッティング特性は、材料を混合し、口腔内の所定の位置にある支台歯及び/又は歯科補綴装置若しくは歯科矯正装置に塗布するのに十分な時間を可能にすべきである。
【0005】
従来の多成分系グラスアイオノマーセメントシステムでは、還元剤(芳香族第三級アミンなど)が、1つの成分中で酸化剤(過酸化物など)と対になっている。このようなシステムでは、還元剤の電子リッチ構造により、比較的短い保存期間に、反応性モノマー及びポリマーを含むレジンの望ましくない自己硬化が起こることがある。その結果、グラスアイオノマーセメント及び関連材料をより安定的に送達するための代替的な方法及び組成物への関心は高まり続けている。
【0006】
定義
「水溶性」という用語は、部分的又は完全に水溶性であり、25℃の水1リットル当たり少なくとも5gの量で水に単独で溶解するモノマーなどの材料を指す。
【0007】
「含む(comprising)」という用語及びその変形(例えば、含む(comprises)、含む(includes)など)は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲に現れる場合、限定的な意味を有するものではない。
【0008】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」、及び「1つ以上の」は、文脈上別段の指示が明確にない限り、互換的に使用される。
【0009】
また、本明細書において、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、粘度比1:0.06~1:13の範囲は、1:0.06~1:13、1:0.1~1:13、1:0.25~1:13、1:0.5~1:13、1:0.6~1:13、1:1~1:13、1:0.06~1:10、1:0.06~1:7.5、1:0.06~1:5、1:0.06~1:3.5、1:0.06~1:1、1:0.1~1:10、1:0.25~1:7.5、1:0.5~1:5、1:0.6~1:3.5、1:0.75~1:2、1:0.9~1:1.1などを含む)。
【0010】
いくつかの実施形態において、本開示は、多成分系(例えば、2成分系)固化性歯科用組成物(例えば、グラスアイオノマーセメント)を対象とし、第1の成分は、(i)液体(室温で)単官能性及び/又は多官能性モノマー、オリゴマー、又はポリマーと、(ii)酸化剤と、(iii)酸反応性ガラスとを含み、第1の成分は水を含まないか、又は実質的に含まず、第2の成分は、(i)液体単官能性及び/又は多官能性モノマー、オリゴマー、又はポリマーと、(ii)還元剤と、(iii)強酸と、(iv)重合性側鎖基を有するか又は有さないポリ酸と、(v)水と、を含む。
【0011】
驚くべきことに、イオン性レドックス重合系の構成成分(すなわち、還元剤及び酸化剤)を異なる成分中に分離させることによって、より信頼性のある2成分系セメントシステムを得ることができることが発見された。すなわち、還元剤とポリ酸とを第2の成分中で対にすること(及び第2の成分中の還元剤を別の強酸と対にして潜在性触媒を形成すること)により、並びに第1の成分(酸化剤を含む)に水を含めない(又は少なくとも測定可能な量の水を含めない)ことにより、既知の2成分系セメント組成物の全ての利点を有し、向上した安定性(例えば、有効期間安定性、例えば、取り扱い上のエラー(例えば、キャップの閉め方が緩いこと又はキャップと容器を適時に再び合わせるのを怠ることにより起こり得る水の損失)を受けた場合であっても)を有する組成物を得ることができることが発見された。
【0012】
いくつかの実施形態において、多成分系固化性組成物の第1の成分は、(i)エチレン性不飽和基を有する液体(室温で)単官能性及び/又は多官能性構成成分(本明細書では「レジン系」と称されることもある)と、(ii)酸化剤と、(iii)酸反応性ガラスとを含み得る。いくつかの実施形態において、第1の成分は、少量以下の水を含んでもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、第1の成分はペースト状であり得る。すなわち、粉末でも液体でもなく、概ね均一な組成を有する、液体と非溶解性の粉末/固体構成成分との混合物である。
【0014】
いくつかの実施形態において、第1の成分は、エチレン性不飽和基を有する、液体単官能性構成成分及び液体多官能性(例えば、二官能性)構成成分のいずれか又は両方を含み得る。液体単官能性又は多官能性構成成分は、モノマー、オリゴマー、又はポリマーを含み得る。いくつかの実施形態において、液体単官能性又は多官能性構成成分は、水溶性であってもよい。液体単官能性又は多官能性構成成分はまた、固化性組成物の他の構成成分と混和性となるように選択されてもよい。すなわち、これらの構成成分は、少なくとも、組成物の他の成分と組み合わされたときに実質的に沈降しないほど十分に混和性であり得る。いくつかの実施形態において、第1の成分は、エチレン性不飽和基を有する、液体単官能性構成成分と液体多官能性(例えば、二官能性)構成成分の両方を含んでもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、好適なエチレン性不飽和基としては、アリル、ビニル、アクリレート、及びメタクリレート基が挙げられる。いくつかの実施形態において、このようなモノマー(又はオリゴマー若しくはポリマー)は、比較的低い分子量を有し、モノマー分子当たり1つのみのエチレン性不飽和基を含む。いくつかの実施形態において、このようなモノマーの分子量は、約100~約1000である。モノマー分子当たり1つのエチレン性不飽和基を有する水溶性液体単官能性モノマーを含む、上記の実施形態のいずれか1つを含むいくつかの実施形態において、水溶性液体モノマーは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、糖メタクリレート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0016】
また、上記のように、本明細書に記載される多成分系固化性組成物はまた、特定の実施形態において、固化されたときに組成物中にいくらかの架橋をもたらす、モノマー分子当たり少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する構成成分を含んでもよい。いくつかの実施形態において、このモノマーは、ビスフェノールA-グリシジルメタクリレート(bisphenol A-glycidyl methacrylate、Bis-GMA)よりも低い粘度、又はBis-GMAの50パーセント以下の粘度を有し得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、好適な二官能性モノマーとしては、グリセロールジメタクリレートを挙げることができる。あるいは、又は加えて、水溶性モノマーが使用される。好適な水溶性(ジメタ)アクリレートとしては、重量平均分子量がおよそ400~1000の範囲である様々な分子量のポリエチレングリコール(ジメタ)アクリレートが挙げられる。
【0018】
レジン系の構成成分は、固化性組成物の他の構成成分と混和性となるように選択することができる。すなわち、レジン系の構成成分は、少なくとも、組成物の他の原料(例えば、還元剤及び酸化剤)と組み合わされたときに実質的に沈降しないほど十分に混和性であり得る。いくつかの実施形態において、レジン系の構成成分は水と混和性である。レジン系の構成成分は、モノマー、オリゴマー、ポリマー、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0019】
いくつかの実施形態において、エチレン性不飽和基を有する液体単官能性及び多官能性(例えば、二官能性)構成成分は、第1の成分の総重量に基づいて、1~50重量%、3~40重量%、又は5~30重量%の量で第1の成分中に存在し得る。
【0020】
いくつかの実施形態において、好適な酸化剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム及び過硫酸アルキルアンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、tert-アミルヒドロペルオキシド、及び2,5-ジヒドロペルオキシ-2,5-ジメチルヘキサンなどのヒドロペルオキシド、銅(II)及び鉄(III)の塩、ヒドロキシルアミン、過ホウ酸及びその塩、過マンガン酸アニオンの塩、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。過酸化水素も使用することができるが、光開始剤が存在するとき、場合によっては光開始剤に干渉することがある。いくつかの実施形態において、酸化剤は、過硫酸カリウム(例えば、ミリングされた過硫酸カリウム)を含んでもよい。酸化剤は、任意選択で、米国特許第5,154,762号に記載されるようなカプセル化形態で提供されてもよい。酸化剤は、組成物中で混和性及び/又は水中で混和性となるように選択され得る。
【0021】
いくつかの実施形態において、酸化剤は、第1の成分の総重量に基づいて、0.01~10重量%、0.1~4.0重量%、又は0.5~2.0重量%の量で第1の成分中に存在し得る。
【0022】
いくつかの実施形態において、第1の成分は、酸反応性ガラスを含み得る。好適な酸反応性ガラスとしては、例えば、米国特許第3,655,605号、同第3,814,717号、同第4,143,018号、同第4,209,434号、同第4,360,605号及び同第4,376,835号に記載されているようなイオン浸出性ガラスを挙げることができる。いくつかの実施形態において、酸反応性ガラスは、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス及びフルオロアルミノシリケートガラスから選択され得る。いくつかの実施形態において、酸反応性ガラスとしては、フルオロアルミノシリケート(fluoroaluminosilicate、FAS)ガラスを挙げることができる。
【0023】
FASガラスを含む実施形態において、FASガラスは、ガラスが固化性組成物の構成成分と混合されたときに固化された歯科用組成物が形成されるように、十分な溶出性カチオンを含み得る。また、ガラスは、固化された組成物が抗う蝕特性を有するように、十分な溶出性フッ化物イオンを含み得る。ガラスは、FASガラス作製分野の当業者によく知られている技術を使用して、フッ化物、アルミナ、及び他のガラス形成原料を含有する溶融物から作製することができる。FASガラスは、他のセメント構成成分と都合よく混合することができ、得られた混合物が口内で使用されるときに良好に機能するように、十分に細かく分割された粒子の形態であってもよい。
【0024】
いくつかの実施形態において、FASガラスの平均粒径(平均最長寸法-典型的には直径)は、例えば沈降分析器を使用して測定した場合、10マイクロメートル以下、又は5マイクロメートル以下である。好適なFASガラスは、当業者によく知られており、多種多様な商業的供給源から入手可能であり、多くは、VITREMER、VITREBOND、RELY X LUTING CEMENT及びKETAC-FIL(3M ESPE Dental Products,St.Paul,MN)、FUJI II、GC FUJI LC及びFUJI IX(而至歯科工業株式会社、東京、日本)並びにCHEMFIL Superior(Dentsply International,York,PA)の商品名で市販されているものなどの、現在入手可能なグラスアイオノマーセメントに見出される。所望であれば、充填剤の混合物を使用することができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、FASガラスに表面処理を施すことができる。好適な表面処理としては、酸洗浄(例えば、リン酸による処理)、ホスフェートによる処理、酒石酸などのキレート剤による処理、及びシラン又は酸性若しくは塩基性シラノール溶液による処理が挙げられる。望ましくは、処理溶液又は処理されたガラスのpHは、固化性組成物の保存安定性を増加させることができるため、中性又はほぼ中性に調整される。
【0026】
いくつかの実施形態において、上述の酸反応性ガラス粒子のいずれに対しても、表面処理を施すことができる。好適な表面処理としては、酸洗浄、ホスフェートによる処理、酒石酸などのキレート剤による処理、シラン又はシラノールカップリング剤による処理が挙げられる。いくつかの実施形態において、酸反応性ガラス粒子は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,332,429号に記載されているような、シラノール処理されたフルオロアルミノシリケートガラス粒子であってもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、酸反応性ガラスは、第1の成分の総重量に基づいて、1~80重量%、3~60重量%、又は5~40重量%の量で第1の成分中に存在し得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、第1の成分は水を含まなくても、水を実質的に含まなくてもよい。これに関して、いくつかの実施形態において、第1の成分は、第1の成分の総重量に基づいて、5重量%未満、1重量%未満、又は0.5重量%未満の量の水を含んでもよい。
【0029】
いくつかの実施形態において、多成分系固化性組成物の第2の成分は、(i)液体単官能性及び/又は多官能性モノマー、オリゴマー、又はポリマーと、(ii)重合性側鎖基を有するか又は有さないポリ酸と、(iii)還元剤と、(iv)強酸と、(v)水と、を含み得る。第1の成分と同様に、いくつかの実施形態において、第2の成分はペースト状であり得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、第2の成分は、エチレン性不飽和基を有する、液体単官能性構成成分及び液体多官能性(例えば、二官能性)構成成分のいずれか又は両方を含み得る。液体単官能性又は多官能性構成成分は、モノマー、オリゴマー、又はポリマーを含み得る。概して(しかし独立して)、第2の成分の液体単官能性及び多官能性(例えば、二官能性)構成成分は、第1の成分に関して論じたものと同じタイプのものであってもよい。
【0031】
加えて、いくつかの実施形態において、第2の成分のレジン系は、1つ以上の酸官能性モノマー、オリゴマー、又はポリマー(本明細書では酸官能性構成成分とも称される)を含んでもよい。このような構成成分は、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物であり得、炭素、リン、硫黄、及びホウ素化合物のオキシ酸官能性誘導体を含んでもよく、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,156,911号、第6~7欄に記載されているものから選択され得る。いくつかの実施形態において、酸官能性構成成分は、アクリル酸、2-クロロアクリル酸、2-シアノアクリル酸、アコニット酸、シトラコン酸、フマル酸、グルタコン酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、メタクリル酸、及びチグリン酸などのアルケン酸のホモポリマー及びコポリマー(すなわち、2種以上の異なるモノマーのポリマー)を含むポリマーを含み得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、エチレン性不飽和基を有する液体単官能性及び多官能性(例えば、二官能性)構成成分は、第2の成分の総重量に基づいて、1~50重量%、3~40重量%、又は5~30重量%の量で第2の成分中に存在し得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、第2の成分は、ポリ酸を含み得る。いくつかの実施形態において、ポリ酸は水混和性であり得る。好適な水混和性ポリ酸としては、不飽和モノ、ジ、及びトリカルボン酸のホモ又はコポリマー、例えば、アクリル酸、イタコン酸、及びマレイン酸のホモポリマー又はコポリマーを挙げることができる。いくつかの実施形態において、水混和性ポリ酸としては、反応性ガラス及び水の存在下で硬化反応するのに十分なペンダントイオン基と、得られた混合物がレドックス硬化機構によって及び/又は放射エネルギーへの曝露によって硬化することを可能にするのに十分なペンダント非イオン重合性基とを有するポリマーを挙げることができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、ポリ酸は、官能性酸性(コ)ポリマー(ポリ酸とカップリング剤との反応生成物)であり得る。いくつかの実施形態において、ポリ酸は、ポリアクリル酸、アクリル酸とイタコン酸とのコポリマー、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸又はマレイン酸とのコポリマー、エチレンと無水マレイン酸又はマレイン酸とのコポリマー、スチレンと無水マレイン酸又はマレイン酸とのコポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーと、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、ビニルアザラクトン(vinyl azalactone)、アリルイソシアネート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、及び2-イソシアナトエチルメタクリレートからなる群から選択されるカップリング化合物との反応生成物であり得る。いくつかの実施形態において、ポリ酸は、2-イソシアナトエチルメタクリレートと、米国特許第5,130,347号の実施例11に記載されているように調製されたアクリル酸とイタコン酸とのコポリマー(ペンダントメタクリレート側基を有するアクリル-イタコン酸コポリマー)との反応生成物であり得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、ポリ酸は、式I:
B(X)(Y)
(式中、Bは有機主鎖であり、各Xは独立して、水及び酸反応性ガラス粒子の存在下で硬化反応することができるイオン基であり、各Yは独立して、非イオン重合性基であり、mは少なくとも2であり、nは少なくとも1である)を有し得る。いくつかの実施形態において、Xは-COOHであり、Yはエチレン性不飽和基である。いくつかの実施形態において、主鎖Bは、酸素、窒素又は硫黄ヘテロ原子などの非干渉性置換基を任意選択で含有する、炭素-炭素結合のオリゴマー又はポリマー主鎖である。「非干渉性」という用語は、イオン重合反応にも非イオン重合反応にも過度に干渉しない置換基又は結合基を指す。いくつかの実施形態において、Bは炭化水素主鎖である。X及びY基は、主鎖Bに直接、又は置換若しくは非置換の、アルキレン基、アルキレンオキシアルキレン基、アリーレン基、アリーレンオキシアルキレン基、アルキレンオキシアリーレン基、アリーレンアルキレン基、若しくはアルキレンアリーレン基などの任意の非干渉性結合基によって結合され得る。アルキレン及びアリーレンは、それぞれ、アルキル及びアリールの2価の形態を指す。結合基はまた、-OC(=O)-、-C(=O)NH-、-NH-C(=O)O-、-O-など、及びこれらの組み合わせなどの結合を含んでもよく、これらの各結合はいずれの方向に使用されてもよい。いくつかの実施形態において、Yはアミド結合を介してBに結合している。いくつかの実施形態において、Yは、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、アクリルアミド、又はメタクリルアミド基である。
【0036】
式Iのポリ酸は、これらに限定されないが、(1)式B(X)m+nのポリマーのn個のX基を好適な化合物と反応させて、n個のペンダントY基を形成すること、(2)式B(X)のポリマーの、X基以外の部位を好適な化合物と反応させて、n個のペンダントY基を形成すること、(3)式B(Y)m+n又はB(Y)のポリマーのY基又は他の部位を好適な化合物と反応させて、m個のペンダントX基を形成すること、及び(4)適切なモノマー、例えば、1つ以上のペンダントX基を含有するモノマーと、1つ以上のペンダントY基を含有するモノマーとを共重合することを含む、様々な合成経路に従って調製することができる。上記の合成経路(1)が好ましい。このような基は、「カップリング化合物」、すなわち、Y基、及びポリマーのX基と反応することができる反応性基の両方を含有する化合物の使用によって反応させることができ、それによって主鎖BにY基をペンダント状に共有結合させることができる。好適なカップリング化合物は、Y基と反応性基との間に非干渉性置換基及び/又は非干渉性結合基を任意選択で含有する有機化合物である。
【0037】
上記のように、本明細書で使用するポリ酸を調製するのに好適なカップリング化合物としては、Xと反応して共有結合を形成することができる少なくとも1つの基と、少なくとも1つの重合性エチレン性不飽和基とを含有する化合物が挙げられる。Xがカルボキシルである場合、求電子基と求核基の両方を含む多くの基がXと反応することができる。このような基の例としては、ヒドロキシル、アミノ、イソシアナト、ハロ、カルボキシル、及びオキシラニルが挙げられる。好適なカップリング化合物の例としては、これらに限定されないが、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、ビニルアザラクトン、アリルイソシアネート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、及び2-イソシアナトエチルメタクリレートが挙げられる。好適なカップリング化合物の他の例としては、それらの開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,035,321号及び同第5,814,682号に記載されているものが挙げられる。
【0038】
いくつかの実施形態において、ポリ酸は、第2の成分の総重量に基づいて、2~50重量%、5~35重量%、又は10~15重量%の量で第2の成分中に存在し得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、好適な還元剤としては、アスコルビン酸、金属錯体アスコルビン酸、芳香族アミン、例えば、ジメチルアミノフェネタノール及びジヒドロキシエチル-p-トルジン(dihydroxyethyl-p-toludine)、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、シュウ酸、チオ尿素、アルキルチオ尿素及び亜ジチオン酸の塩、1-アリル-2-チオ尿素、チオサルフェート、芳香族スルフィン酸塩、例えば、ベンゼンスルフィン酸塩及びp-トルエンスルフィン酸塩、亜硫酸アニオン、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0040】
いくつかの実施形態において、還元剤は、第三級芳香族アミンを含み得る。いくつかの実施形態において、第三級芳香族アミンは、以下の構造式:
【0041】
【化1】
(式中、R1、R2、R3は、独立して、水素原子、あるいは炭素原子数1~8、1~6、又は1~4の、アルキル基、アルキルアルコール基、エステル若しくはアミド結合を含むアルキル基、エステル基、アミド基、又はウテタン(utethane)基である)を有し得る。いくつかの実施形態において、第三級芳香族アミンは、以下:
【0042】
【化2】
又はこのような第三級芳香族アミンの任意の誘導体から選択され得る。
【0043】
いくつかの実施形態において、還元剤(例えば、第三級芳香族アミン)は、第2の成分の総重量に基づいて、0.1~8.0重量%、0.25~5.0重量%、又は0.5~3.0重量%の量で第2の成分中に存在してもよい。
【0044】
前に論じたように、第2の成分は、多成分系固化性組成物のための潜在性触媒を形成するために、還元剤に加えて強酸を含み得る。概して、強酸は還元剤の反応性を抑制するように作用することができる。より具体的には、強酸は、水中で還元剤(例えば、芳香族第三級アミン)と反応して塩(例えば、アミン塩)を形成し、プロトンへの結合を有する窒素原子の電子密度を劇的に低下させ、それによって、芳香族第三級アミンの、フリーラジカルを形成する還元能を低下させることができる。これにより、第2の成分の望ましくない/早期の自己硬化が回避される。いくつかの実施形態において、好適な強酸は、カルボン酸よりも強い酸(すなわち、カルボン酸のpKaよりも低いpKaを有する酸)であり得る。いくつかの実施形態において、好適な強酸としては、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、及び1つ以上のリン酸基を含有するモノマー、例えば、メタクリロイルオキシデシルジハイドロゲンホスフェート(methacryloyloxydecyl dihydrogen phosphate、MDP)又はメタクリロイルオキシヘシルジハイドロゲンホスフェート(methacryloyloxyhecyl dihydrogen phosphate、MHP)を挙げることができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、第1の成分と第2の成分との混合後、強酸と反応して塩を形成した還元剤を再生することができることを理解されたい。すなわち、混合後、第2の成分の水性レジン系及びポリ酸は、第1の成分のレジン系及び酸化剤と対になり、酸化剤は、第2の成分の水に溶解されてもよく、(還元剤として第三級芳香族アミンを用いる実施形態において)(第2の成分の)芳香族第三級アミンリン酸塩は、第1の成分中の酸反応性充填剤及び任意の他の構成成分と混合後、芳香族第三級アミンに変換され得る。次いで、再生された芳香族第三級アミンは、水/レジン溶液に溶解して、通常の過酸化物/アミンレドックス対を形成し、フリーラジカルを形成して、多成分系固化性組成物の硬化を開始させることができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、第2の成分は、水を含んでもよい。水は、第2の成分の総重量に基づいて、1~40重量%、2~30重量%、又は5~20重量%の量で第2の成分中に存在し得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、粘度を制御するために、及び他の理由、例えば、所望の外観を得るため、所望の強度特性を付与するため、放射線不透過性を付与するためなどの理由のために、非反応性充填剤もまた本明細書に記載される組成物中に含まれ得る。上記実施形態のいずれか1つを含むいくつかの実施形態において、第1の成分、第2の成分、又はその両方は、それぞれの成分の総重量に基づいて、5~60重量%、10~50重量%、又は15~40重量%の量の非反応性充填剤を更に含み得る。
【0048】
いくつかの実施形態において、非反応性充填剤は、歯科修復組成物などに現在使用されている充填剤などの、医療用途に使用される組成物に組み込むのに好適な1種以上の材料から選択され得る。いくつかの実施形態において、充填剤は、50マイクロメートル未満の最大粒子径及び約10マイクロメートル未満の平均粒子径を有し得る。充填剤は、単峰性又は多峰性(例えば、二峰性)粒径分布を有することができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、非反応性充填剤は、無機材料、架橋有機材料、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。好適な架橋有機材料は、組成物に不溶であり、任意選択で、無機充填剤で充填されている。充填剤は、非毒性かつ口内での使用に好適であるべきである。充填剤は、放射線不透過性、放射線透過性又は非放射線不透過性であり得る。
【0050】
好適な非反応性無機充填剤の例は、天然に存在するか又は合成の材料、例えば、石英、窒化物(例えば、窒化ケイ素)、例えばCe、Sb、Sn、Zr、Sr、Ba及びAlから誘導されたガラス、コロイダルシリカ、コロイダルジルコニア、長石、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、チタニア、及び亜鉛ガラス;米国特許第4,695,251号に記載されているものなどのモース硬度の低い充填剤;並びにサブミクロンシリカ粒子(例えば、Degussaによって販売されている「Aerosil」シリーズ「OX50」、「130」、「150」及び「200」シリカ並びにCabot Corp.によって販売されている「Cab-O-Sil M5」シリカなどの焼成シリカ);米国特許第5,084,491号に開示されているもの、特に第2欄52~65行に開示されているものなどの金属粉末;並びにこれらの組み合わせである。
【0051】
好適な非反応性有機充填剤粒子の例としては、充填又は未充填の粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。好ましい非反応性充填剤粒子は、石英、サブミクロンシリカ及びジルコニア、並びに米国特許第4,503,169号に記載されているタイプの非ガラス質マイクロ粒子である。これらの非反応性充填剤の混合物、並びに有機材料及び無機材料から作製された組み合わせ充填剤もまた企図される。
【0052】
非反応性充填剤を含むいくつかの実施形態において、非反応性充填剤は、ヒュームドシリカ、ジルコニアシリカ、石英、非焼成シリカ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0053】
いくつかの実施形態において、組成物が固化されたときの充填剤と重合性構成成分との間の結合を強化するために、非反応性充填剤粒子の表面をカップリング剤により処理してもよい。好適なカップリング剤の使用には、ガンマ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ガンマ-アミノプロピルトリメトキシシラン、SILQUEST A-1230(Momentive Performance Chemicals)などが含まれる。
【0054】
本明細書に記載される多成分系固化性組成物(のいずれか又は両方の成分)には、口腔内環境での使用に好適な追加の構成成分が任意選択で使用されてもよい。一例において、このような構成成分としては、溶媒、共溶媒(例えば、アルコール)又は希釈剤が挙げられる。別の例において、指示薬、色素、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、酒石酸、キレート剤、界面活性剤、緩衝剤、安定剤(フリーラジカル安定剤を含む)、サブミクロンシリカ粒子、蛍光性及び/又は乳光性を付与する添加剤、作用時間を延長する改質剤、並びに当業者に明らかな他の材料を使用することができる。加えて、薬剤又は他の治療物質を任意選択で組成物に添加することができる。例としては、歯科用組成物においても使用され得るタイプの、美白剤、呼気清涼化剤、香味剤、香料、抗う蝕剤(例えば、キシリトール)、フッ化物源、再石灰化剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤、化学療法剤、免疫応答調節剤、チキソトロピー剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、口腔乾燥症治療剤、知覚鈍麻剤などが挙げられる。上記添加剤のいずれの組み合わせも、本明細書に記載される組成物に使用することができる。いずれか1種のこのような添加剤の選択及び量は、所望の結果に応じて当業者が決定することができる。
【0055】
修復物における硬化反応の開始と、修復物の表面に対してその後の臨床処置を行うことを可能にするのに十分な固化が起こった時間との間の時間を延長し得る改質剤としては、例えば、アルカノールアミン、例えば、エタノールアミン及びトリエタノールアミン、並びにリン酸水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、及びリン酸水素三ナトリウムが挙げられる。改質剤は、成分A又は成分Bのいずれかに添加され得る。使用される場合、改質剤は、組成物の総重量に基づいて、約0.1~10重量パーセントの濃度で存在する。
【0056】
特定の安定剤は、色安定性をもたらす。このような安定剤としては、シュウ酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、メタリン酸、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0057】
フリーラジカル安定剤は、早期重合を防止するため、又はフリーラジカルで開始した組成物の作用時間を調整するために、光開始剤と共に使用することができる。フリーラジカル安定剤の好適な例としては、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene、BHT)及びメチルエチルヒドロキノン(methyl ethyl hydroquinone、MEHQ)が挙げられる。
【0058】
粘度調整剤としては、増粘剤が挙げられる。好適な増粘剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びその様々な塩、例えばナトリウム、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0059】
いくつかの実施形態において、第1の成分及び第2の成分のいずれか又は両方は、光開始剤を含み得る。いくつかの実施形態において、光電子放出体(photoemitter)は、硬化を可能にする主要なものとしてではなく、むしろ、施術者が使用中に固化性組成物の過剰部分(例えば、準備された歯に歯科クラウンが載せられた後に存在する過剰量の材料)を迅速に硬化させることを可能にするために存在してもよい。
【0060】
一般に、光開始剤は、熱又は光によって活性化されたときにフリーラジカル源として機能し得る。このような開始剤は、単独で、又は1種以上の促進剤及び/若しくは増感剤と組み合わせて使用することができる。好適な光開始剤(すなわち、1種以上の化合物を含む光開始剤系)としては、二元系及び三元系光開始剤が挙げられる。一例において、三元系光開始剤は、米国特許第5,545,676号(Palazzotto et al.)に記載されているように、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物を含み得る。ヨードニウム塩の例としては、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、及びトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが挙げられる。光増感剤の例としては、約400ナノメートル~520ナノメートル、好ましくは450~500ナノメートルの範囲内における一部の光を吸収するモノケトン及びジケトンが挙げられる。これらの範囲内の光を吸収するアルファ-ジケトンが好ましい。このような光増感剤の例としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン、及び他の1-アリール-1-アルキル-1,2-エタンジオン、並びに環状アルファ-ジケトンが挙げられる。カンファーキノンが最も好ましい。好ましい電子供与体化合物としては、置換アミン、例えばジメチルアミノ安息香酸エチルが挙げられる。
【0061】
光開始剤は、利用される場合、所望の重合速度をもたらすのに十分な量で存在すべきである。この量は、部分的には、光源、放射エネルギーに曝露される層の厚さ、及び光開始剤の吸光係数に依存する。
【0062】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される多成分系固化性歯科用組成物の各成分は、組成物の他の成分に対してバランスのとれた粘度を有し得る。上記の実施形態のいずれか1つを含むいくつかの実施形態において、第1の成分及び第2の成分は、それぞれ独立して、6パスカル秒(Pa・s)以上かつ100Pa・s以下の粘度を有し得る。いくつかの実施形態において、第2の成分と第1の成分の粘度の比は、1:0.06~1:13、1:0.6~1:3.5、又は1:0.9~1:1.6である。
【0063】
本開示の目的のために、粘度は、室温において、20/sのせん断速度で、単純せん断法を用いて、TA機器(AR G2)で測定された粘度である。
【0064】
いくつかの実施形態において、第1の成分と第2の成分とを混合すると、固化性歯科用組成物は、10分未満、7分未満、又は5分未満の硬化時間を有し得る。本明細書で使用される場合、「硬化時間」は、室温において熱又は光活性化なしで、本質的に組成物の最終的な硬化状態の特性が得られるような十分な硬化が起こった時間を指す。
【0065】
本開示の多成分系固化性組成物は、第1の成分と第2の成分とを組み合わせることによって形成することができる。任意の従来の混合又は組み合わせ技術を用いることができる。例えば、第1の成分及び第2の成分をミックスパッド上に分注し、手で混合することも、オートミックスチップを使用して混合することも、回転器具によって混合することもできる。
【0066】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法、装置、及び組成物は、例えば、補綴装置(例えば、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー、ポスト、アバットメント、ベニア、人工歯など)を口腔内の所定の位置に固定又は保持するために使用される合着用セメント;例えば、窩洞に詰め物をするために使用される修復材料又は充填材料;例えば、象牙質及びエナメル質のライナー又はエナメル質のシーラント若しくはシーリング材料として使用される薄膜;歯科矯正ブラケット接着剤;バンドセメントなどの、多くの歯科用途によく適している。いくつかの実施形態において、多成分系固化性歯科用組成物は、ライナー材料、合着材料、修復材料、歯内治療材料、及びシーリング材料からなる群から選択される。上記の実施形態のいずれか1つを含む特定の実施形態において、多成分系固化性歯科用組成物は、歯科矯正ブラケット接着材料又はバンドセメントである。
【0067】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載される多成分系固化性組成物を作製及び使用する方法を提供する。例えば、本開示の固化性組成物(混合後)は、歯科用物品(例えば、クラウン、ブリッジ、歯科矯正器具)を歯又は骨に(口腔内又は口腔外のいずれかで)接着又はセメント固定する方法、及び歯に詰め物をする方法において使用することができる。
【0068】
本開示の目的及び利点は、以下の実施例によって更に説明されるが、これらの実施例に列挙される特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本開示を過度に限定すると解釈されるべきではない。
【実施例
【0069】
【表1】
【0070】
レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)歯科用組成物のための「ペーストB」調製
レジン添加型グラスアイオノマー(Resin-Modified Glass Ionomer、RMGI)セメントは、2成分系であり、2つの成分が組み合わされると、反応して固化(硬化)する。以下のRMGIの例は、ペースト-ペースト型RMGI、すなわち(ペースト「A」及びペースト「B」)2成分反応系として調製した。
【0071】
比較例CEx.B1及びCEx.B2は、強酸を含んでいなかったため、最初の混合時には溶液であったにもかかわらず、一晩静置後にはゲルを形成した。したがって、CEx.B1及びCEx.B2は、RMGI組成物においてペースト「B」として使用することが許容されなかった。
【0072】
【表2】
「あり」=一晩でゲルが形成された;RMGI用ペースト「B」として許容されない。
「なし」=一晩でゲルが形成されず、RMGI用ペースト「B」として許容される。
【0073】
【表3】
「なし」=一晩でゲルが形成されず、RMGI用ペースト「B」として許容される。
【0074】
レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)歯科用組成物のための「ペーストA」調製
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)セメントの実施例の調製
上記の実施例ペースト「A」及びとペースト「B」を使用して、2成分系レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)セメントを調製した。選択したペースト「A」及びペースト「B」試料を、歯科用スパチュラを使用して、ミキシングパッド上において成分比6:5(それぞれA:B)で、20秒間手で混合した。次いで、混合した実施例を37℃のオーブンに入れて、硬化及び固化(セット)させた。混合物をスパチュラで叩いて、セットしたことを確認し、硬化時間を記録し、以下の表8に報告する。
【0080】
【表8】
【0081】
高温で経時的に保存したペーストA及びペーストB構成成分を用いて調製したレジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)セメントの安定性。
第1の安定性実験を行って、ポリプロピレンシリンジクリッカーにおいて45℃で26日間保存した、選択した実施例ペーストBの安定性を試験した。市販の3M製品RelyX(商標)Luting Plus Cement Clicker(商標)ディスペンサーを空にし、選択した実施例ペーストBの保存容器として使用した。クリッカーの1つのシリンダーに実験ペーストBを充填し、45℃で26日間保存した。保存期間後、実施例ペーストBをシリンジ及びディスペンサーの先端から押し出して、ペーストBが依然として押し出し可能であることを確認し、早期自己硬化の任意の兆候について目視で評価した。結果を表9に報告する。
【0082】
加えて、45℃で26日間保存した各実施例ペーストBを、次いで実施例ペーストEXA6ペーストA6と混合して、レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)を形成した。ペーストAとペーストBとを、歯科用スパチュラを使用して、ミキシングパッド上において成分比6:5(それぞれA:B;ペーストA 0.42グラムとペーストB 0.35グラムを混合)で、20秒間手で混合した。次いで、混合した実施例を37℃のオーブンに入れて、硬化及び固化(セット)させた。混合物をスパチュラで叩いて、反応及びセットしたことを確認した。RMGIの各実施例の硬化時間を記録し、以下の表9に報告する。
【0083】
【表9】
【0084】
第2の安定性実験を行って、ポリプロピレンシリンジクリッカーにおいて45℃で2ヶ月間保存した、選択した実施例ペーストBの安定性を試験した。市販の3M製品RelyX(商標)Luting Plus Cement Clicker(商標)ディスペンサーを空にし、選択した実施例ペーストBの保存容器として使用した。クリッカーの1つのシリンダーに実験ペーストBを充填し、45℃で2ヶ月間保存した。保存期間後、実施例ペーストBをシリンジ及びディスペンサーの先端から押し出して、ペーストBが依然として押し出し可能であることを確認し、早期自己硬化の任意の兆候について目視で評価した。結果を表10に報告する。
【0085】
加えて、45℃で2ヶ月間保存した各実施例ペーストBを、次いで、室温(周囲実験室条件)で32ヶ月間保存した実施例EXA7ペーストA7と混合して、レジン添加型グラスアイオノマー(RMGI)を形成した。このエージングした実施例EXA7ペーストA7と各ペーストBとを、歯科用スパチュラを使用して、ミキシングパッド上において成分比6:5(それぞれA:B;ペーストA 0.42グラムとペーストB 0.35グラムを混合)で、20秒間手で混合した。次いで、混合した実施例を37℃のオーブンに入れて、硬化及び固化(セット)させた。混合物をスパチュラで叩いて、反応及びセットしたことを確認した。各実施例の硬化時間を記録し、表10に報告する。
【0086】
【表10】
RTで32ヶ月間保存したEXA7ペーストA7
【0087】
第3の安定性実験を、45℃で1ヶ月間保存したEXA5ペーストA5と45℃で2ヶ月間保存したEXB13ペーストB13とを使用したことを除き、上述のRMGIの実施例EX-RMGI-28-32と同様の方法で行った。結果を表11に報告する。
【0088】
【表11】
45℃で1ヶ月間保存したEXA5ペーストA5
【国際調査報告】