(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-06-17
(54)【発明の名称】HER2-GST-SN-38複合体およびそれを含む増殖性疾患の予防または治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20250610BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250610BHJP
A61K 38/45 20060101ALI20250610BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20250610BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250610BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250610BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250610BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20250610BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20250610BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20250610BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250610BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20250610BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250610BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61K38/45
A61K31/4745
A61K9/14
A61P35/00
A61K47/68
C07K16/28
C07K14/47
C12N9/10
C12N15/62 Z
C12N15/54
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024568557
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(85)【翻訳文提出日】2024-11-15
(86)【国際出願番号】 KR2023006685
(87)【国際公開番号】W WO2023224385
(87)【国際公開日】2023-11-23
(31)【優先権主張番号】10-2022-0061077
(32)【優先日】2022-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0063650
(32)【優先日】2023-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524422731
【氏名又は名称】ケーエムディー バイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KMD BIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】キム ミュンフン
(72)【発明者】
【氏名】ロ ジョンクク
(72)【発明者】
【氏名】ビュン スーンミン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ ヒョジン
(72)【発明者】
【氏名】リー キョンヒー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA07
4C084DC25
4C084MA41
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4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085CC22
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
グルタチオン-S-転移酵素および標的細胞または標的タンパク質結合能を有するタンパク質を含む融合タンパク質およびその薬物複合体および医薬組成物としての使用に関するもので、一態様による融合タンパク質およびそれを含む薬物複合体によれば、生体内残存時間を持続させることができるだけでなく、標的細胞への標的能が向上し、標的とする細胞に効果的に送達できるので、標的治療薬として有用に使用できる効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、
HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、
前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および
前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン分子を含む薬物複合体。
【請求項2】
前記7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン分子は下記式で表される、請求項1に記載の薬物複合体。
【化1】
【請求項3】
前記アフィボディは、配列番号14のHER2特異的アフィボディである、請求項1に記載の薬物複合体。
【請求項4】
前記リンカーは、プロテアーゼが結合しない、請求項1に記載の薬物複合体。
【請求項5】
前記7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン分子は、ナノ粒子に担持されているものである、請求項1に記載の薬物複合体。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、多孔質シリカナノ粒子(mesoporous silica nanoparticle, MSN)、金ナノ粒子、磁性ナノ粒子、核酸金属有機構造体ナノ粒子(Nucleic acid-Metal Organic Framework nanoparticle)および高分子ナノ粒子(polymer nanoparticle)からなる群から選択されるいずれかである、請求項5に記載の薬物複合体。
【請求項7】
グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、
HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、
前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および
前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン分子を含む薬物複合体を有効成分として含む増殖性疾患の予防または治療用医薬組成物。
【請求項8】
前記7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン分子は、下記式で表される、請求項7に記載の医薬組成物。
【化2】
【請求項9】
前記増殖性疾患は、がん、良性新生物、および血管新生からなる群から選択されるいずれかである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記がんは、乳がん、大腸がん、頭頸部がん、肺がん、胃がん、脳がん、皮膚がん、結腸がん、前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、直腸がん、甲状腺がん、肝がん、子宮頸がん、直腸がん、肛門がん、尿道がん、卵巣がん、食道がんおよび膵臓がんからなる群から選択されるいずれかである、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンは、ナノ粒子に担持されているものである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ナノ粒子は、多孔質シリカナノ粒子(mesoporous silica nanoparticle, MSN)、金ナノ粒子、磁性ナノ粒子、核酸金属有機構造体ナノ粒子(Nucleic acid-Metal Organic Framework nanoparticle)および高分子ナノ粒子(polymer nanoparticle)からなる群から選択されるいずれかである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
有効量の請求項1の複合体を、それを必要とする個体に投与するステップを含む増殖性疾患を予防または治療する方法。
【請求項14】
増殖性疾患の予防または治療用医薬製剤の製造のための請求項1の複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グルタチオン-S-転移酵素および標的細胞または標的タンパク質結合能を有するタンパク質を含む融合タンパク質およびその薬物送達体、薬物複合体および医薬組成物としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子は生物学的分布能に優れ、薬物放出の程度を調節することができ、イメージング装置や標的治療薬などの分野で有用なツールとして使用されている。典型的には、ナノ粒子は、200nmの直径を有する場合、腫瘍の周りの血管の近くに流出する可能性があり、腫瘍の周囲ではリンパ管が形成されず、圧力が低いため、流出したナノ粒子は腫瘍組織内に残り続けることができることが知られている。この過程はEPR効果(enhanced permeability and retention effect)と呼ばれ、これにより薬物送達体の透過性および残存性を改善することができる。
【0003】
現在市販されているナノ粒子として、アブラキサン(Abraxane)およびドキシル(Doxil)が代表的な例である。しかしながら、これらは腫瘍ごとに血管の透過性が様々であり、ナノ粒子を静脈投与したとき、単核貪食細胞系(mononuclear phagocyte system、MPS)がこれを除去するために肝臓や脾臓などの細網内皮器官(reticuloendothelial organ)に急速に蓄積するという制限があり得る。これにより、ナノ粒子を適用する標的治療薬は治療効果が低減され得、ナノ粒子の毒性による副作用を示し得る。
【0004】
このような欠点を克服するために、ポリエチレングリコール化(poly(ethylene glycol) ylation, PEGylation)して、ナノ粒子を囲む方法が開発された。このような方法を使用した場合、生体内循環器でナノ粒子が循環できる時間が長くなるという利点があるが、逆に標的細胞に流入する可能性が減少し、非特異的な結合を通じて標的細胞以外の細胞を標的にすることがあり、これも治療効率が低下する可能性がある。
【0005】
ナノ粒子を薬物送達体として使用する際に、薬物送達のための標的能と共にEPR効果を促進するために、ナノ粒子の構造的変化を誘導しようとする戦略が提示されている。具体的には、ナノ粒子の表面にがん細胞で過剰発現する受容体と結合することができる抗体、タンパク質またはペプチドでコーティングするなどの構造的変化を誘導して薬物送達体の標的能を向上させようとする試みが続けられた。しかしながら、これらの方法によっても腫瘍標的効率が効果的に増加せず、むしろMPSを介した体内免疫反応によりナノ粒子をより迅速に除去できるターゲットリガンドを提供することになり、全体的な腫瘍治療効果の面で有意な治療効果を示さないという限界がある。
【0006】
理論的には、生理的環境に暴露されたとき、エントロピーに応じた水分子の配置、パーティクル表面の電荷補償(charge compensation)や疎水性部分が露出する点などが複合的に作用して表面エネルギーを下げる方向にナノ粒子の表面は自然に他の生物分子によって囲まれる。このとき、ナノ粒子の表面の表面に様々な生物分子が非特異的に吸着されるが、このような形態をタンパク質コロナ(protein corona)という。タンパク質コロナは他の分子に囲まれ、本来の分子的特徴が変化し、標的細胞または器官への標的能とナノ粒子が示す様々な生物学的機能が遮断される。そのため、ナノ粒子を標的治療薬として臨床レベルで適用できるようにタンパク質コロナを調節しようとする研究が進められている。
【0007】
したがって、ナノ粒子に基づく標的治療薬を製造する過程で、ナノ粒子の表面にタンパク質コロナを先に形成してそれを調節する方法が開発された。このために、タンパク質コロナによる標的能の遮断を避けるために、ナノ粒子の表面を双性イオン(zwitterionic)、PEG、炭水化物残基などに変更して血清中のタンパク質との相互作用を最小限に抑える方法が知られている。加えて、ナノ粒子をdysopsonicタンパク質で事前にコーティングして、血漿中の所望のタンパク質の循環を通じてタンパク質コロナを調節することができる。これにより、タンパク質コロナで事前にコーティングされたナノ粒子は、コロイド状態の安定性が増加し、MPSによって除去されずに血液中で循環時間を持続することができる効果を有する。しかしながら、このような方法によっても標的への標的能を制限する可能性があり、事前のコーティングに使用されるタンパク質とナノ粒子との間の生物学的相互作用による生物化学的作用が知られていないという点で臨床への適用に制限がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一態様は、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む薬物複合体を提供する。
【0009】
他の態様は、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGST(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む増殖性疾患の予防または治療用医薬組成物を提供することである。
【0010】
他の態様は、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む薬物複合体を有効量でそれを必要とする個体に投与するステップを含む増殖性疾患を予防または治療する方法を提供することである。
【0011】
他の態様は、増殖性疾患の予防または治療用医薬製剤の製造のためのグルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase,GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む薬物複合体の使用を提供することである。
【発明を解決するための手段】
【0012】
一態様は、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む薬物複合体を提供することである。
【0013】
本明細書で使用される「抗体(antibody)」という用語は、当技術分野で知られている用語として抗原性部位に対して指向される特異的なタンパク質分子を意味する。本明細書の目的のために、抗体は、標的細胞または標的細胞で発現する受容体に対して特異的に結合する抗体を意味し、このような抗体は、各遺伝子を従来の方法に従って発現ベクターにクローニングし、前記マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質を得て、得られたタンパク質から従来の方法で製造することができる。これには、前記タンパク質で作られる部分ペプチドも含まれ、本発明の部分ペプチドとしては、少なくとも7つのアミノ酸、好ましくは9つのアミノ酸、さらに好ましくは12個以上のアミノ酸を含む。本明細書の抗体の形態は特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、または抗原結合性を有するものであればその一部である抗原結合断片も本明細書の抗体に含まれ、全ての免疫グロブリン抗体が含めることができる。
【0014】
本明細書で使用される「アフィボディ分子(affibody molecule)」という用語は、特定の標的タンパク質(受容体)に結合できる、抗体模倣体を意味し得る。一般に、アフィボディ分子は、20~150のアミノ酸残基から構成され、2~10個のアルファヘリックスからなるものであり得る。より詳細には、前記アフィボディ分子は、抗ErbBアフィボディ分子(ab31889)、HER2特異的アフィボディ分子(ZHER2:342)、抗EGFRアフィボディ分子(ZEGFR:2377)などを含み得る。さらに、これに限定されず、細胞の特定の受容体または標的タンパク質を認識できるアフィボディ分子をすべて含む。前記アフィボディ分子が認識できる標的受容体または標的タンパク質の例は、アミロイドβペプチド、シヌクレイン(例えば、α-シヌクレイン)、アポリポプロテイン(例えば、アポリポプロテインA1)、補体因子(Complement factor)(例えば、C5)、炭酸脱水酵素(Carbonic anhydrase)(例えば、CAIX)、インターロイキン-2受容体α鎖(IL2RA;CD25)、細胞表面のCD抗原(例えば、CD28)、またはc-Jun、Factor VIII、フィブリノーゲン、GP120、H-Ras、Her2、Her3、HPV16 E7、IAPP(Human islet amyloidpolypeptide)、免疫グロブリンA(IgA)、IgE、IgM、インターロイキン(例えば、IL-1、IL-6、IL-8、IL-17)、インスリン、ブドウ球菌プロテインAドメイン(Staphylococcal protein A domain)、Raf-1、LOVドメイン(Light-oxygen-voltage-sensing domain)、またはRSV Gタンパク質であり得る。前記アフィボディに関する情報は、Stefan Stahl et al., Affibody Molecules in Biotechnological and Medical Applications, Trends inBiotechnology, August 2017, Vol 35, No 8に記載されており、前記文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
本明細書で使用される「リンカー(linker)」という用語は、2つ以上の化学構造を連結する分子を意味する。具体的には、前記リンカーは、1~400個、1~200個、または2~200個の任意のアミノ酸からなるポリペプチドであり得る。前記ペプチドリンカーは、Gly、AsnおよびSer残基を含み得、ThrおよびAlaなどの中性アミノ酸も含まれ得る。ペプチドリンカーに適したアミノ酸配列は当技術分野で知られている。さらに、機能的部分間の適切な分離を達成するために、または本質的な内部部分(inter-moiety)の相互作用を維持するためのリンカーの最適化を考慮してコピー数「n」を調節することができる。
【0016】
一実施形態では、前記ペプチドリンカーはプロテアーゼ耐性を有するリンカーであり得る。耐性があるということは、具体的には、プロテアーゼによって結合せず、および/または、プロテアーゼによって切断されず、および/または、プロテアーゼと接触すると安定に維持および/またはその活性を維持することを意味する。
【0017】
一実施形態では、前記ペプチドリンカーは、G、S、および/またはT残基を含む柔軟性リンカーであり得る。当技術分野では他の可撓性リンカーが知られており、例えば水溶性を向上させるために極性アミノ酸残基を追加するだけでなく、柔軟性を維持するためにTおよびAなどのアミノ酸残基を追加したGおよびSリンカーがあり得る。具体的には、前記リンカーは、(GpSs)nおよび(SpGs)nから選択される一般式を有し得、この場合、独立して、pは1~10の整数であり、sは0~10の0または整数であり、p+sは20以下の整数であり、およびnは1~20の整数である。リンカーの例は、(GGGGS)n(配列番号2)、(SGGGG)n(配列番号3)、(SRSSG)n(配列番号4)、(SGSSC)n(配列番号5)、(GKSSGSGSESKS)n(配列番号6)、(RPPPPC)n(配列番号7)、(SSPPPPC)n(配列番号8)、(GSTSGSGKSSEGKG)n(配列番号9)、(GSTSGSGKSSEGSGSTKG)n(配列番号10)、(GSTSGSGKPGSGEGSTKG)n(配列番号11)、または(EGKSSGSGSESKEF)n(配列番号12)であり、前記nは1~20、または1~10の整数である。
【0018】
他の態様は、前記GST分子とHER2に結合能を有する抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体分子が結合された融合タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドを提供する。
【0019】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」という用語は、一本鎖または二本鎖の形態で存在するデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの高分子を意味する。RNAゲノム配列、DNA(gDNAおよびcDNA)およびこれから転写されるRNA配列を包含し、特に明記しない限り、天然のポリヌクレオチドだけでなく、糖または塩基部位が修飾されたその類似体(analogue)も含む。一実施形態では、前記ポリヌクレオチドは短鎖ポリヌクレオチドである。
【0020】
他の態様は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0021】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、適切な宿主細胞で目的タンパク質を発現することができるベクターであり、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された調節要素を含む遺伝子構築物を指す。一実施形態によるベクターは、プロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、および/またはエンハンサーなどの発現調節要素を含み得、ベクターのプロモーターは構成的または誘導性であり得る。また、前記ベクターは、宿主細胞内で前記融合タンパク質を安定的に発現させることができる、発現用ベクターであり得る。前記発現ベクターは、当技術分野において植物、動物または微生物において外来タンパク質を発現するために使用される通常のものを使用することができる。前記組換えベクターは、当技術分野で知られている様々な方法によって構築することができる。例えば、前記ベクターは、前記ベクターを含む宿主細胞を選択するための選択性マーカーを含み、複製可能なベクターである場合、複製起点を含み得る。さらに、ベクターは自己複製または宿主DNAに導入することができ、前記ベクターはプラスミド、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、単純ヘルペスウイルス、およびワクシニアウイルスからなる群から選択されるものであり得る。
【0022】
前記ベクターは、動物細胞、例えば、哺乳動物細胞で作動可能なプロモーターを含む。一実施形態による適切なプロモーターは、哺乳動物ウイルスに由来するプロモーターおよび哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーターを含み、例えば、CMV(Cytomegalovirus)プロモーター、U6プロモーターおよびH1プロモーター、MLV(Murine Leukemia Virus)LTR(Long terminal repeat)プロモーター、アデノウイルス初期プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSVのtkプロモーター、RSVプロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオニンプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトIL-2遺伝子のプロモーター、ヒトIFN遺伝子のプロモーター、ヒトIL-4遺伝子のプロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子のプロモーター、ヒトGM-CSF遺伝子のプロモーター、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、マウスホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターおよびサバイビン(Survivin)プロモーターを含み得る。
【0023】
さらに、前記ベクターにおいて、上述した融合タンパク質はプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。本明細書で使用される「作動可能に連結された」という用語は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、または転写調節因子結合部位のアレイ)と他の核酸配列との間の機能的結合を意味し、これにより前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写および/または翻訳を調節する。
【0024】
他の態様は、前記融合タンパク質、ポリヌクレオチド、またはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0025】
前記細胞、例えば、真核細胞は、酵母、カビ、原生動物(protozoa)、植物、高等植物および昆虫、または両生類の細胞、またはCHO、HeLa、HEK293、およびCOS-1などの哺乳動物の細胞である得、例えば、当技術分野で一般的に使用されている培養細胞(インビトロ)、移植細胞(graft cell)および一次細胞培養(インビトロおよびエクスビボ(ex vivo))、およびインビボ(in vivo)細胞、および/またはヒトを含む哺乳動物の細胞(mammalian cell)であり得る。さらに、前記生物は酵母、カビ、原生動物、植物、高等植物および昆虫、両生類、または哺乳動物であり得る。さらに、前記細胞は動物細胞または植物細胞であり得る。
【0026】
薬物送達体を使用して個体に送達できる薬学的活性成分の種類は、抗がん剤、造影剤(染料)、ホルモン剤、抗ホルモン剤、ビタミン剤、カルシウム剤、無機製剤、糖類剤、有機酸製剤、タンパク質アミノ酸製剤、解毒剤、酵素製剤、代謝性製剤、糖尿病併用剤、組織再生薬、クロロフィル製剤、色素製剤、腫瘍薬、腫瘍治療薬、放射性医薬品、組織細胞診断薬、組織細胞治療薬、抗生物質製剤、抗ウイルス剤、複合抗生物質製剤、化学療法剤、ワクチン、毒素、トキソイド、抗毒素、レプトスピラ血清、血液製剤、生物製剤、鎮痛剤、免疫原性分子、抗ヒスタミン剤、アレルギー用薬、非特異性免疫原製剤、麻酔薬、覚醒剤、精神神経用剤、低分子化合物、核酸、アプタマー、アンチセンス核酸、オリゴヌクレオチド、ペプチド、siRNAおよびマイクロRNAなどを含み得る。
【0027】
SN-38は抗がん剤であり得、その薬学的に許容される塩を含み得る。「SN-38(7-ethyl-10-hydroxycamptothecin)」はイリノテカン(Irinotecan)(別名「CPT-11」とも呼ばれる)の活性成分であり、I型DNAトポイソメラーゼ(topoisomerase)活性を阻害することにより抗腫瘍作用を示す。イリノテカンよりも生体外で各種がん細胞に抗して1,000倍以上まで強力な細胞毒性活性を示すことができる。
【0028】
本発明において、グルタチオン-S-転移酵素とSN-38(7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン)との結合は、GSH(Glutathione)によるものであり得る。すなわち、前記SN-38は、GSHが結合したSN-38であり得る。GSHはグルタチオン-S-転移酵素の結合部位として機能し、SN-38とグルタチオン-S-転移酵素を連結することができる。
【0029】
前記SN-38分子は、SN-38が担持されているか、またはSN-38を担持することができるナノ粒子であり得る。ナノ粒子は、従来の技術に従って薬物送達体として適用できるナノ粒子であれば制限なく適用することができる。具体的には、メソポーラスシリカナノ粒子((mesoporous silica nanoparticle, MSN)、金ナノ粒子(gold nanoparticle)、磁性ナノ粒子(magnetic nanoparticle)、核酸金属有機構造体ナノ粒子(Nucleic acid-Metal Organic Framework nanoparticle)および高分子ナノ粒子(polymer nanoparticle)からなる群から選択されるいずれかであり得る。また、前記ナノ粒子にGSH(Glutathione)が結合したものであってもよい。これにより、前記ナノ粒子は、GSTを含む融合タンパク質と結合することができる。
【0030】
一実施形態では、前記SN-38分子は下記式1で表される。
【化1】
【0031】
他の態様は、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGST(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む増殖性疾患の予防または治療用医薬組成物を提供することである。
【0032】
他の態様は、グルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase、GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む薬物複合体を有効量でそれを必要とする個体に投与するステップを含む増殖性疾患を予防または治療する方法を提供することである。
【0033】
他の態様は、増殖性疾患の予防または治療用医薬製剤の製造のためのグルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase,GST)分子、HER2(human epidermal growth factor receptor2)に結合能を有する抗体、アフィボディ(affibody)または二重特異性抗体(diabody)分子、前記グルタチオン-S-転移酵素と前記抗体、アフィボディまたは二重特異性抗体を連結するリンカー、および前記グルタチオン-S-転移酵素とGSH(Glutathione)分子によって結合された7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシンを含む薬物複合体の使用を提供することである。
【0034】
本明細書で使用される「増殖性疾患」という用語は、細胞の増大による異常な拡張によって引き起こされる疾患を指す。増殖性疾患は、以下に関連し得る:1)正常な休止期細胞の病理学的増殖、2)正常位置からの細胞の病理学的移動(例えば、新生物細胞の転移)、3)マトリックスメタロプロテイナーゼ(例えば、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼおよびエラスターゼ)などのタンパク質分解酵素の病理学的発現、4)増殖性網膜症や腫瘍転移などの病理学的血管新生、または5)宿主免疫監視および新生物細胞除去の回避。
【0035】
前記増殖性疾患には、がん(すなわち、悪性新生物)、良性新生物、および血管新生が含まれる。
【0036】
一実施形態では、前記がんは血液がんまたは固形がんであり得る。
【0037】
前記血液がんは、急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia)、急性リンパ性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia)、慢性骨髄性白血病(Chronic Myelogenous Leukemia)、多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)およびリンパ腫(Lymphoma)からなる群から選択されるものであり得るが、これに限定されるものではない。
【0038】
前記固形がんは乳がん、大腸がん、頭頸部がん、肺がん、胃がん、脳がん、皮膚がん、結腸がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がん、直腸がん、甲状腺がん、肝がん、子宮頸がん、直腸がん、肛門がん、尿道がん、卵巣がん、食道がん、および膵臓がんからなる群から選択されるものであり得るが、これに限定されるものではない。さらに、前記がんは、抗がん剤に対する耐性(例えば、多剤耐性)を有する胃がん、乳がん、肺がん、肝がん、食道がんおよび前立腺がんからなる群から選択されるいずれか1つ以上であり得る。また、前記がんは、最初に発生した部位から分離されたがん細胞が血液、リンパ管などを介して他の部位に転移して増殖する転移がんであり得る。
【0039】
一実施形態では、前記良性新生物は、腺腫、線維腫、血管腫、結節性硬化症、および脂肪腫を含み得る。
【0040】
本明細書で使用される「治療薬」または「医薬組成物」という用語は、対象への投与時にいくつかの有利な効果を与える分子または化合物を指す。有利な効果は診断的決定を可能にすること、疾患、症状、障害または病態の改善、疾患、症状、障害または病の発症の減少または予防、および一般に、疾患、症状、障害または病態の対応を含む。
【0041】
本明細書で使用される「治療」または「治療する」または「緩和する」または「改善する」という用語は互換的に使用される。これらの用語は、治療上の利益および/または予防上の利益を含むが、これらに限定されない有利なまたは所望の結果を得る方法を指す。治療上の利益は、治療下の1つ以上の疾患、病または症状の任意の治療的に有意な改善またはその効果を意味する。予防上の利益において、組成物は、特定の疾患、病または症状が発生する危険性がある対象に、または疾患、病または症状がまだ現れていない場合でも、疾患の1つ以上の生理学的症状を報告する対象に投与することができる。
【0042】
本明細書で使用される「有効量」または「治療的有効量」という用語は、有利なまたは所望の結果をもたらすのに十分な作用剤の量を指す。治療的有効量は、治療される対象および病態、対象の体重および年齢、病態の重症度、投与様式などのうち1つ以上によって変わり得、これは当業者によって容易に決定されることができる。さらに、前記用語は、本明細書に記載の映像化方法のいずれかによる検出のための画像を提供する容量に適用される。特定の用量は、選択された特定の作用剤、それに続く投与療法、それが他の化合物と併用して投与されるかどうか、投与のタイミング、映像化される組織、およびそれを運ぶ体の送達システムの1つ以上によって変わることがあり得る。
【0043】
前記医薬組成物は臨床投与時に非経口投与することができ、一般的な医薬品製剤の形態で使用することができる。非経口投与は、直腸、静脈、腹膜、筋肉、動脈、経皮、鼻腔(Nasal)、吸入、眼球および皮下などの経口以外の投与経路を介した投与を意味することができる。本発明の前記医薬組成物を医薬品として使用する場合、さらに同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含有することができる。
【0044】
前記医薬組成物を製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製される。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(Propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射用エステルなどを使用することができる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(Witepsol)、マクロゴール、ツイン(Tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを使用することができる。
【0045】
さらに、前記医薬組成物は、生理食塩水または有機溶媒などの薬剤として許容されるいくつかの送達体(Carrier)と組み合わせて使用することができ、安定性または吸収性を高めるためにグルコース、スクロースまたはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(Ascorbic acid)またはグルタチオン(Glutathione)などの抗酸化剤(Antioxidants)、キレート剤(Chelating agents)、低分子タンパク質または他の安定剤(Stabilizers)を薬剤として使用することができる。
【0046】
前記医薬組成物の有効用量は0.01~100mg/kg、好ましくは0.1~10mg/kgであり、1日1回~3回投与することができる。
【0047】
本明細書で使用される「対象」、「個体」および「患者」という用語は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指すために本明細書で互換的に使用される。哺乳動物には、ネズミ科、猿、ヒト、農場動物、スポーツ動物、およびペットが含まれるが、これらに限定されるものではない。生体内で得られた、または試験管内で培養された生物学的エンティティ(entity)の組織、細胞、およびそれらの子孫も含まれる。
【0048】
他の態様は、以下の構成を含むタンパク質コロナ外層(protein corona shield)を有するナノ粒子(protein corona shield nanoparticle, PCSN)を提供する。
【0049】
a)薬物を担持できるナノ粒子、b)ナノ粒子の表面に結合したグルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase, GST)を含む融合タンパク質。
【0050】
また、本発明は、前記ナノ粒子の内部に薬物が担持された、タンパク質コロナ外層を有するナノ粒子薬物送達体または薬物複合体を提供する。
【0051】
さらに、本発明は、以下のi)~iii)ステップを含む、タンパク質コロナ外層を有するナノ粒子薬物送達体または薬物複合体の製造方法を提供する。
【0052】
i)ナノ粒子表面にリンカー(例えば、GSH)を結合させるステップ、ii)前記ステップi)において、リンカーと結合したナノ粒子の内部または表面に薬物を担持させるステップ、iii)前記ステップii)において薬物を担持したナノ粒子表面にGST融合タンパク質をコーティングしてタンパク質コロナ外層(PCS)を形成させるステップ。
【0053】
前記タンパク質コロナ外層(protein corona shield)を有するナノ粒子は、融合タンパク質で表面が事前にコーティングされたタンパク質コロナ外層を先に生成したため、体内環境で血清タンパク質によって囲まれたコロナ層が形成されず、大食細胞の免疫反応を回避することができ、ステルス効果(stealth effect)を有意に有することができる。したがって、前記タンパク質コロナ外層を有するナノ粒子(PCSN)は、生体内の残存時間を持続させることができるだけでなく、標的細胞への標的能が向上し、標的とする細胞に効果的に送達することができるので、標的治療薬として有用に使用することができる。
【発明の効果】
【0054】
一態様による融合タンパク質およびそれを含む薬物送達体または薬物複合体によれば、生体内残存時間を持続させることができるだけでなく、標的細胞への標的能が向上し、標的とする細胞に効果的に送達することができるので、標的治療薬として有用に使用することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】GST-HER2 AfbのSDS-PAGE分析結果を示すグラフである。
【
図2】HER2陽性乳がん細胞株SK-BR3、胃がん細胞株NCI-N87、HER2陰性乳がん細胞株MDA-MB231のHER2発現量を確認した画像である。
【
図3】HER2陽性乳がん細胞株SK-BR3、胃がん細胞株NCI-N87、MKN45、HER2陰性乳がん細胞株MDA-MB231にKMD111を処理した後の細胞生存率を示すグラフである。
【
図4】胃がん細胞株であるMKN45を移植したマウス動物モデルにおいて、KMD111投与量による体重変化を示す結果グラフである。
【
図5】胃がん細胞株であるMKN45を移植したマウス動物モデルにおいて、KMD111投与量による抗腫瘍効果を確認した結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施形態を提示する。しかしながら、以下の実施形態は本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、以下の実施形態によって本発明の内容が限定されるものではない。実施形態は様々な変換を加えることができるが、実施形態は以下に開示される実施形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。
【0057】
実施形態1.アフィボディおよびグルタチオン-S-転移酵素(glutathione-S-transferase, GST)融合タンパク質の調製
【0058】
本発明では、薬物送達体として使用するためのナノ粒子の表面にタンパク質コロナの外層を形成させ、生体内環境でも安定性および標的能が向上した薬物送達体を製造しようとした。この目的のために、まずタンパク質コロナ外層を構成することができる融合タンパク質(fusion protein)を調製した。融合タンパク質は、がん細胞表面の受容体に特異的に結合できるアフィボディ(affibody、Afb)とGSTが結合した形態となるように発現した。
【0059】
具体的には、本発明では、AfbとしてHER2に特異的に結合するHER2 Afbを使用した。GSTタンパク質は配列番号13のヒトGSTA1(P08263)を導入し、GSTのC末端(terminal)末端にリンカー配列SGGGSGGGSGGSGGGSGGGSGG(配列番号1)を結合させた後、配列番号14のHER2-アフィボディ(affibody、ZHER2:342)を導入した。配列番号15のHER2-affibody-GST融合タンパク質のアミノ酸配列に基づいて大腸菌で発現を誘導するためのコドン最適化(codon optimization)を行った後、Invitrogen GeneArt遺伝子合成(ThermoFisher)により暗号化された遺伝子(配列番号16)を合成し、タンパク質発現プラスミドであるpET151/D-TOPOに挿入した。
【0060】
前記構築したプラスミドを大腸菌(E. Coli)BL21(DE3)株に挿入(transformation)して培養した。融合タンパク質は、培養液にIPTGを処理して発現を誘導し、30℃で16時間培養し、細胞を遠心分離して得た。得られた培養細胞を50mM PBSに懸濁した後、高圧細胞破砕機を用いて細胞を破砕した。破砕後、遠心分離して融合タンパク質を含む上清を分離回収し、次いでFPLC装置を用いてNI-NTAアフィニティクロマトグラフィー(affinity chromatography)によりHER2-affibody-GSTを精製した。精製されたタンパク質は、SDS-PAGE分析によってタンパク質の純度および分子量を分析した。
【0061】
図1は、HER2-affibody-GSTのSDS-PAGE分析結果を示すグラフである。
【0062】
表1は、HER2-affibody-GSTのSDS-PAGE分析によりタンパク質純度を定量的に数値化した結果を示す。
【0063】
【0064】
図1および表1に示すように、純度99.5%のHER2-affibody-GSTタンパク質を精製した。
【0065】
実施形態2.タンパク質コロナ外層(PCS)を有する薬物送達体の調製
【0066】
<2-1>多孔質シリカナノ粒子の準備
【0067】
薬物送達体の基本構造として、多孔質シリカナノ粒子(mesoporous silica nanoparticle、MSN)を用意した。
【0068】
まず、直径50nm以下のMSNを準備するために、1.53gのCTABおよび0.3gの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(Tetraethylammonium hodioxide、TEAH)を100gの脱イオン水に加えた後、80℃で1時間攪拌してこれを溶解した。CTABおよびTEAHが完全に溶解したら、14.45gのTEOSを加え、2時間800rpmでさらに撹拌した。撹拌液が白色の固相を示す場合、それを真空フィルターで濾過し、次いで脱イオン水で洗浄し、70℃の空気中で乾燥して乾燥物を得た。得られた乾燥物をメノウ乳鉢(agate mortar)で均質化した後、550℃で5時間か焼(calcine)して最終的に多孔質シリカナノ粒子(MSN)を得た。
【0069】
<2-2>GSHを表面結合させたナノ粒子の製造
【0070】
本発明のタンパク質コロナ外層を有するナノ粒子を製造するための過程として、表面にグルタチオン(glutathione, GSH)をチオール-エンクリックケミストリー(thiol-ene click chemistry)で結合させたナノ粒子(GSH-modified particle, MMSN)を調製した。
【0071】
上記実施形態<2-1>で調製したMSN100mgおよび1mlの3-(トリメトキシシリル)アクリル酸プロピル(3-(trimethoxysilyl)propyl acrylate)を18mlのトルエンに混合した。混合された混合液を60℃で24時間撹拌して反応させた。反応後、エタノールと脱イオン水で反応したMSNを洗浄し、次いで16mlのDMFに加えてMSNを用意した。外層を形成するためのGSHは、100mgのGSHを2mlの脱イオン水に溶解して用意した。次いで、前記用意したMSN含有溶液とGSH水溶液とを混合し、40μlのピリジンを加えてボルテックスして撹拌した。撹拌後、混合液を室温で72時間放置して反応を誘導した。反応終了後、ナノ粒子をエタノールで3回洗浄し、室温で真空乾燥して、GSHが表面に結合したナノ粒子(MMSN)を最終的に得た。
【0072】
<2-3>薬物を担持したナノ粒子の製造
【0073】
本発明において薬物送達体として使用しようとする、タンパク質コロナ外層を有するナノ粒子(protein corona shield nanoparticle、PCSN)を製造するために、タンパク質コロナ外層としてGST-Afbを適用したナノ粒子を製造した。MSNは内部および表面に化学官能基を介して物質を担持できる送達体として使用されるため、本発明ではMSN表面にGSHを結合してMMSNを製造し、これにGSTを介して結合されたタンパク質コロナ外層を形成してPCSNを製造した。
【0074】
具体的には、上記実施形態<2-2>で製造したGSH-MSNに薬物を担持するために5mgのGSH-MSNを1mlのDMSOに分散させた後、SN-38が溶けているDMSO溶液(10mg/ml)1mlにゆっくり加え、室温で12時間撹拌した。撹拌後、SN-38を担持したGSH-SN-38 MSNを遠心分離して回収し、DI水で3回洗浄後、真空乾燥した。薬物が担持された割合は下記式で計算した。
[数1]
薬物担持容量(%)=GSH-MSN中の薬物量/GSH-MSNの量×100
【0075】
次に、タンパク質コロナ外層を有するナノ粒子(PCSN)を調製するために、HER2-affibody-GSTタンパク質1mgを用意し、2mlのPBSに溶解して用意した。SN-38を担持したGSH-SN-38 MSN1mgを3mlのPBSに分散させた後、用意したタンパク質溶液を4℃で撹拌しながら一滴ずつゆっくり加えて混合し、2時間さらに撹拌した。攪拌後遠心分離して未結合タンパク質を除去し、PBSで3回洗浄し、最終的にHER2-affibody-GST-SN-38 MSNであるPCSN(KMD111)を得、PBSに保存しながら下記の有効性評価実験に使用した。
【0076】
実験例1.各細胞におけるHER2発現量の確認
【0077】
上記実施形態2で調製したKMD111の細胞毒性を確認する前に、まず各細胞株のHER2発現量を確認した。HER2受容体はERBB/HER成長因子群(growth factor superfamily)に属する細胞膜受容体であり、HER2遺伝子は周知の原発がん遺伝子である。KMD111候補物質はHER2を特異的に標的とするAffibodyをDNA複製を抑制するトポイソメラーゼ(Topoisomerase)系であるSN-38を搭載したナノ粒子に結合させた標的指向型薬物送達体(Targeted Drug Delivery System)で、HER2発現レベルが高いほどアポトーシス効果が大きいと期待した。
【0078】
実験に使用した細胞は、韓国細胞株銀行から購入したヒト乳がん細胞株であるSKBR3、MDA-MB231とヒト胃がん細胞株であるNCI-N87、MKN4を用いた。10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum)(FBS, Hyclone, Logan, UT, USA)、1%ペニシリンーストレプトマイシン(stereptomycin-peniciline)(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を添加したRPMI-1640(Thermo fisher scientific, USA)培地を使用して37℃、5%CO2インキュベーター(incubator)で培養した。各実験で使用した細胞は、80%~90%程度の密度で成長したときに継代培養した。
【0079】
具体的には、実験に使用した細胞株のHER2発現量はウェスタンブロット(Western blot)で確認した。前記細胞株が培養皿に80%~90%程度の密度に成長したとき、プロテアーゼ/ホスファターゼインヒビター(Protease/Phosphatase Inhibitor)を添加したRIPAバッファーで細胞を破砕した後、遠心分離して細胞溶解液(cell lysate)を得た。Nu-PAGE 4-12% Bis-Tris gelに各ウェル(well)あたり10ugのタンパク質をロードして展開した後、PVDF膜(membrane)に転写(transfer)した後、タンパク質が転写されたPVDF膜をブロッキング(blocking)し、1次抗体、2次抗体、HRPの基質順に反応してシグナルを得、その結果を
図2に示す。
【0080】
図2に示すように、HER2陰性の乳がん細胞株であるMDA-MB231ではHER2発現量が非常に低いが、HER2陽性乳がん細胞株であるSKBR3および胃がん細胞株NCI-N87はHER2を多量発現していることを確認した。
【0081】
実験例2.HER2-affibody-GST-SN-38(KMD111)の標的細胞に対する細胞毒性の確認
【0082】
上記実施形態2で調製したKMD111の標的細胞への薬物送達能を確認するために、標的細胞に対する細胞毒性を確認した。
【0083】
具体的には、正常対照群として使用するためのHER2陰性であるヒト乳がん細胞株であるMDA-MB231細胞とHER2 Afbが認識する受容体を過剰発現する乳がん細胞株であるSK-BR3細胞、胃がん細胞株であるNCI-N87、MKN-45を96ウェルプレート(well plate)に1×10
4cell/wellで分注し、24時間培養した後、KMD111を濃度別に処理して72時間培養した。SN-38の濃度基準、3.1、6.2、12.5、25、50、100、200ng/mLの濃度で各細胞に処理した。培養プレートにcck-8(Dojindo、Japan)を10μLずつ96ウェルで処理した後、1時間培養した。このとき、水溶性の高いテトラゾリウム塩WST-8は細胞の脱水素酵素活性により減少して組織培養培地に溶解する黄色ホルマザン染料を生成するため、吸光度を測定した値は生存細胞数に比例する。マイクロプレートリーダー(Microplate reader)(Multiskan SkyHigh Microplate Spectrophotometer、Thermo fisher scientific、USA)で450nmで吸光度を測定し、対照群と比較して細胞生存率を示し、その結果を
図3に示す。
【0084】
図3に示すように、KMD111はHER2を発現しないMDA-MB231細胞に対しては細胞毒性が30%以内で現れ、HER2発現の高い乳がん細胞株であるSKBR3細胞で80%以上、胃がん細胞株であるNCI-N87で70%のアポトーシス効能を確認した。これにより、HER2陽性がん細胞に対して特異的にアポトーシス効果を示すことができ、薬物送達体として使用したときに有意な抗がん効果を示すことができることを確認した。
【0085】
実験例3.HER2-affibody-GST-SN-38 MSN(KMD111)を用いたin vivo有効性評価
【0086】
KMD111の標的腫瘍細胞に対する抗がん効果を確認するために、ヒト胃がんMKN45細胞株を移植したマウス動物モデル(mouse xenograft model)を用いて生体内(in vivo)環境で評価を行った。
【0087】
具体的には、抗がん効果評価のために6週齢NIG(NOD/SCID、ジエイチバイオ(株))マウスを購入して飼料および飲水を自由に給与できる環境で飼育しながら10日以上浄化した後、腫瘍細胞を移植した。腫瘍細胞はHER2陽性胃がんMKN45細胞を個体別に5×106cells/100μLで左脇腹部分の一定の位置に皮下投与し、1週経過以降から試験物質投与開始まで腫瘍測定を行い、腫瘍の大きさが約150mm3に到達した個体を選択して各試験群にランダムに分配した後、投与を開始した。
【0088】
試験群は、対照群PBS投与群と試験物質KMD111をSN-38基準で3mg/kg、6mg/kg、12mg/kg投与群にそれぞれ3匹ずつ分け、21日間3日1回、合計8回静脈投与(Intravenous Injection、IV)し、がん細胞移植(0日)後11日目から終了日(32日間)まで腫瘍大きさおよび体重を測定した。腫瘍の大きさ、相対腫瘍体積(Relative tumor volume、RTV)および腫瘍増殖抑制率(Tumor growth inhibition%、TGI%)は、腫瘍の長軸および短軸長を測定して下記式で算出した。
[数2]
腫瘍大きさ(mm3)=(長軸長×短軸長2)/2
[数3]
相対腫瘍体積(RTV)=(終了日の腫瘍大きさ)/(初日の腫瘍大きさ)
[数4]
腫瘍増殖抑制率(TGI)%=[1-(試験群のRTV)/(対照群のRTV)]×100(%)
【0089】
各試験動物の体重をチェックした結果を
図4に示し、腫瘍大きさを分析した結果を
図5に示す。
【0090】
図4に示すように、全ての群において週齢による体重増加はなく、KMD111投与群で体重減少が確認されたが、特別な臨床症状を示さず、状態が良好であった。
【0091】
図5に示すように、腫瘍大きさを分析したとき、PBS投与群と比較してKMD111投与群において濃度依存的に腫瘍大きさが大幅に減少した。KMD111投与群は、対照群PBS投与群対比KMD111-3mg/kg、KMD111-6mg/kg、そしてKMD111-12mg/kg投与群の腫瘍増殖抑制率(TGI%)がそれぞれ79.5%、83.5%、92.5%で腫瘍の進行が抑制されることが確認できた。これは、MKN45細胞株を移植した異種移植マウスモデル(xenograft mouse model)において、KMD111がすべての濃度で腫瘍増殖を抑制し、KMD111はMKN45腫瘍に明確な抗がん効果を有することを意味する。
【0092】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるだろう。したがって、上記で説明した実施形態はすべての点で例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】