(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-06-26
(54)【発明の名称】アクリル酸製造からの重質副生成物をバッチ式で回収する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/09 20060101AFI20250619BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20250619BHJP
C07C 57/04 20060101ALI20250619BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C51/347
C07C57/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024571822
(86)(22)【出願日】2023-06-20
(85)【翻訳文提出日】2025-02-04
(86)【国際出願番号】 FR2023050912
(87)【国際公開番号】W WO2023247884
(87)【国際公開日】2023-12-28
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エシュ, マルク
(72)【発明者】
【氏名】サンドレ, フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ダントン, ファニー
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC26
4H006AC46
4H006BA90
4H006BA94
4H006BC10
4H006BC11
4H006BS10
(57)【要約】
本発明は、アクリル酸(AA)生成ユニットからの重質副生成物(AAHPと呼ばれる残留物)からサーマルクラッキングによって、アクリル酸(AA)を再生する方法に関し、アクリル酸生成プラントで当該アクリル酸をリサイクルすることが意図されている。このプロセスは、バッチ式で行われる2つの工程からなり、クラッキングプラントの現在の性能が改善される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸生成ユニットからの重質副生成物(AAHP)を再生する方法であって、以下の工程:
i.当該重質副生成物を水とともに加水分解器内に導入し、これらをバッチ式加水分解に、1~10時間にわたり、好ましくは1~5時間にわたり、0.1から1.3の範囲にある水:AAHPの比率で供し、加水分解された生成物の混合物が得られる工程、
ii.加水分解された生成物の当該混合物を反応器内に注入し、これをバッチ式のサーマルクラッキングに供して、アクリル酸及び水を含有する気体状頂部流と、重質生成物が濃縮された底部流(残留物)とを生成する工程、
iii.方法中の様々な箇所でリサイクル可能な、AAが豊富な軽質画分及び水を回収する工程、
iv.除去処理の目的で、当該残留物を回収する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程i)が、0.1~2MPaの間の圧力、好ましくは0.5~1.5Mpaの間の圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加水分解温度が、80~200℃の間、好ましくは150~200℃の間にある、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
クラッキング温度が、140~260℃の間、好ましくは160~210℃の間にある、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
クラッキング反応器における反応混合物の滞留時間が、0.5~10時間の間、好ましくは1~2時間の間にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
サーマルクラッキング稼働の終了時に得られる、反応器からの底部流(残留物)は、100℃で測定して、動的粘度が1Pa.s未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アクリル酸及び水を含有する当該気体状頂部流を、凝縮器内に注入する工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの重合禁止剤が、当該凝縮器にて導入される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
サーマルクラッキング反応が、触媒の不在下で起こる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸(AA)生成ユニットからの重質副生成物(AAHPと呼ばれる残留物)からサーマルクラッキング(thermal cracking)によって、アクリル酸を再生する方法に関し、アクリル酸生成プラントにて当該重質副生成物をリサイクルすることが意図されている。このプロセスは、バッチ式で行われる2つの工程:加水分解及びクラッキングからなり、クラッキングプラントの現在の性能が改善される。
【背景技術】
【0002】
蒸留工程の間の温度作用のもと、アクリル酸の製造は、重質化合物(マイケル反応による、不飽和カルボニル含有モノマーの二重結合に求核特性を有する化合物の付加による誘導体)の形成を伴う。製造されたアクリルモノマーよりも沸点が高い化合物は、「重質」化合物と呼ばれる。
【0003】
AA生成ユニットの場合、基本的には、以下のものが存在する:
・アクリル酸が、別のアクリル酸分子の二重結合に付加した誘導体:3-アクリル酸オキシプロピオン酸、「アクリル酸二量体」又は「AA二量体」とも呼ばれる;
・アクリル酸が、AA二量体分子上の二重結合に付加して「AA三量体」を形成する誘導体、及びアクリル酸が、上記AAオリゴマーの二重結合に連続的に付加することによって形成される他のオリゴマー;並びに
・アクリル酸の副生成物として形成されるカルボン酸付加物の誘導体、又は水をAAの二重結合、若しくは上記オリゴマーの二重結合に付加した誘導体。
【0004】
アップグレード可能なモノマーを、重質マイケル誘導体化合物から回収することは、AA生成ユニットに由来する重質生成物の場合、困難である。具体的には、蒸留され、アップグレードされたアクリル酸を再生するサーマルクラッキングプロセスの間に残留物が残り、当該残留物の粘度は、高いクラッキング効率が求められると大幅に増加して、クラッキング反応器から抽出できなくなってしまう。
【0005】
AAプラントからの重質物流に含まれる、マイケル反応に由来する化合物の再生効率を制限する主な要因は、アクリルモノマーが豊富な画分を蒸発させたときに、クラッカー(分解装置)の底部で得られる重質残留物の粘度増加である。
【0006】
クラッキングの間に軽質化合物が蒸発すると、残留物の流れに重質生成物が濃縮され、この流れの粘度が増加する。しかしながら、残留物は冷却後も充分に流動性を保って輸送しなければならず、その後、残留物を破壊するために処理しなければならない。
【0007】
AA生成ユニットの近くで軽質エステル(アクリル酸メチル(MA)又はアクリル酸エチル(EA))が生成される場合、それぞれの重質生成物を一緒にクラッキング(co-cracking)することにより状況を改善することができ、これによってクラッキング残留物がより流動的になる。提案された解決策では、別の生成ユニットに依存することなく、形成された残留物の粘度を管理しながら、クラッキング稼働ごとに最大量のAAを回収することが可能になる。
【0008】
そこで、欧州特許第717031号(EP 717 031)では、クラッキングがAA生成ユニットとアクリル酸エステル(EA)生成ユニットとに由来する重質生成物の混合物で行われれば、これらのユニットからの重質物流を個別にクラッキングする場合と比べて、これらのアップグレード可能な貴重な生成物の回収効率を改善可能であることが示されている。エステルユニット由来の重質生成物(EAHP)を、AAユニット由来の重質生成物(AAHP)に加えると、最終的な残留物の粘度を低下させる効果がある。クラッキング反応は、AA重質生成物/エステル重質生成物の比率が9/1~1/9の混合物で、180℃~220℃の温度で、大気圧下、0.5~3時間の滞留時間で行われる。このプロセスでは、生じた軽質化合物のクラッキング及び蒸発が反応器内で行われ、その後、生じた気体流が蒸留塔に送られ、最後に、蒸留塔からの底部流が、反応器へとリサイクルされる。その一方、クラッキングにより得られる軽質画分は主に、特に重合に敏感なAA及びエステルアクリルモノマーからなるため、塔内でのポリマー形成を防ぐために、蒸留段階は必ず減圧下で行い、温度を下げる必要がある。さらに、蒸留塔の精留プレートによって、気体混合物に同伴された重合禁止剤が効率的に分離され、当該気体混合物は塔底部へと逆流するので、塔の上部でポリマーが形成されるのを防ぐために、塔頂部で新たな重合禁止剤を導入する必要がある。
【0009】
このため、反応段階(高圧下で行われる)と、蒸留段階(減圧下で行われる)とを、分離する必要がある。よって、プロセスを行うための設備には、反応器及び上部凝縮器(これらは同じ圧力で稼働される)、並びに減圧で稼働される蒸留塔(凝縮生成物が供給される)が備えられ、底部にボイラー、上部に凝縮器、還流装置部材、及び禁止剤の供給部を備えている必要がある。このような配置構成は、複雑であり、高価である。
【0010】
さらに、AA重質生成物とEA重質生成物とを混合状態で一緒にクラッキングすると、稼働上の制約につながる。具体的には、エステルユニットがシャットダウンしているときには、クラッキング稼働をシャットダウンする必要がある。これは経済的損失につながる。
【0011】
他のシナリオでは、AA重質生成物が、エステル重質生成物を添加せずにバッチごとにサーマルクラッキングされ、極めて粘稠な残留物が生じ、当該残留物により、このクラッキングの性能が制限され、残留物の保管及び移動の点で問題が起こる。
【0012】
粘度に関する問題を克服するために、AA重質生成物のクラッキング残留物に溶媒を添加することも知られている。
【0013】
欧州特許出願公開第3255030号(EP 3255030)には、残留物が開裂している間に高級アルコールを添加して、残留物中に存在する無水マレイン酸を、重合感受性の低いマレイン酸エステルに変換することが教示されている。
【0014】
米国特許第6414183号(US 6414183)には、排出された残留物を、溶媒(例えば酢酸、水、メタノール)により希釈する方法が教示されている。
【0015】
国際公開第2021/224044号(WO 2021/224044)には、溶媒1(1013hPaで沸点が少なくとも170℃であり、25℃での水への溶解度が水100gあたり少なくとも20gのもの)で希釈することによって、アクリル酸のマイケル付加物を分解するプロセスが記載されており、当該溶媒は、アルコール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及び2-エトキシエタノール)、カルボキサミド(例えばN,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、及びN,N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えばジメチルスルホキシド)、スルホン(例えばスルホラン)から選択される。
【0016】
しかしながら、この解決策には、内部流ではない場合、燃焼させるべき廃棄物の発生、又は混合を行うための追加装置の用意といった、いくつかの欠点がある。さらに、これらの溶媒のほとんどは、燃焼させると、窒素又は硫黄を含有する誘導体が生じる。
【0017】
よって、AAユニットのみに由来する重質化合物を、サーマルクラッキングによって再生する効率を向上させる必要がある。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、アクリル酸生成ユニットからの重質副生成物(AAHP)を再生する方法に関し、当該方法は、以下の工程:
i.当該重質副生成物を水とともに加水分解器内に導入し、これらをバッチ式加水分解に、1~10時間にわたり、好ましくは1~5時間にわたり、0.1から1.3の範囲にある水:AAHPの比率で供し、加水分解された生成物の混合物が得られる工程、
ii.加水分解された生成物の当該混合物を反応器内に注入し、これをバッチ式のサーマルクラッキングに供して、アクリル酸及び水を含有する気体状塔頂流と、重質生成物が濃縮された塔底流(残留物)とを生成する工程、
iii.方法中の様々な箇所でリサイクル可能な、AAが豊富な軽質画分及び水を回収する工程、
iv.除去処理の目的で、当該残留物を回収する工程
を含む。
【0019】
様々な実施態様によれば、本方法は、適切に組み合わせた場合、以下の特性を含む。
【0020】
1つの実施態様によれば、加水分解器内の圧力が、0.1~2MPaの間、好ましくは0.5~1.5MPaの間で変わる。
【0021】
1つの実施態様によれば、加水分解器内の温度が、80℃~200℃の間で変わり、好ましくは150℃~200℃の間で変わる。
【0022】
1つの実施態様によれば、クラッキング温度が、140℃~260℃の間、好ましくは160℃~210℃の間にある。
【0023】
1つの実施態様によれば、クラッキング反応器内の反応混合物の滞留時間が、0.5時間~10時間の間、好ましくは1時間~2時間の間にある。
【0024】
1つの実施態様によれば、サーマルクラッキング反応が、大気圧、又はわずかな圧力(最大0.2MPa)で行われる。
【0025】
1つの実施態様によれば、アクリル酸及び水を含有する当該気体状塔頂流が、凝縮器内に注入される。
【0026】
1つの実施態様によれば、サーマルクラッキング稼働の終了時に得られた、反応器からの底部流(残留物)は、例えばコーン/プレート型のブルックフィールド粘度計「CAP 1000+」を使用して、100℃の温度で測定して、動的粘度が1Pa.s未満である。
【0027】
1つの実施態様によれば、サーマルクラッキング反応が、触媒の不在下で行われる。
【0028】
本発明により、従来技術の欠点を克服することが可能になる。本発明により、形成された残留物の粘度を、別の生成ユニットに依存することなく管理しつつ、クラッキング稼働ごとにAAの最大量を回収することが可能になる。これは、アクリル酸生成ユニットからの重質副生成物を加水分解する工程と、加水分解された生成物のサーマルクラッキング工程とを組み合わせることによって、達成される。
【0029】
本発明による方法の主な利点は、以下のとおりである:
・実際に、投資の点で安価で、単純なプロセス:クラッキング工程単独と比較して、追加の設備(加水分解器)が1つしか必要にならない;
・クラッキング残留物の量を減らすことにより、排出物の削減を可能にするプロセス;
・加水分解工程なしでのクラッキングと比較して、残留物の粘性が低い;
・クラッキング工程は、他のユニット(特にエステルユニット)に依存しない;
・残留物の排出を確実にするために、残留物の特別な処理(例えば溶媒の添加、例えば残留物を流動化させるため)を回避することも、加水分解によって可能になる;
・クラッキング反応がさらに促進されることによって、AAプラントからの重質生成物流に存在するマイケル誘導体生成物から貴重な生成物を回収する効率が増加し、残留物の粘度限界に到達するのは、加水分解のない解決策と比べて、遅くなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明による設備の実施形態を模式的に表す。
【発明を実施する形態】
【0031】
本発明について、以下の説明でより詳細に、非限定的に説明する。
【0032】
「アクリル酸生成のためのユニットに由来する重質副生成物」という用語は、
・アクリル酸が、別のアクリル酸分子の二重結合に付加した誘導体:3-アクリロイルオキシプロピオン酸、「アクリル酸二量体」又は「AA二量体」とも呼ばれる;
・アクリル酸が、AA二量体分子上の二重結合に付加して、「AA三量体」を形成する誘導体、及びアクリル酸が上記AAオリゴマーの二重結合に連続的に付加することによって形成される他のオリゴマー;
・アクリル酸(例えば酢酸)又は水の副生成物として形成されたカルボン酸が、AA又は上記オリゴマーの二重結合に付加した誘導体
を含む。
【0033】
「加水分解器」という用語は、水とAA重質生成物との混合物の加水分解反応を行うことが可能な反応器を指す。この反応器は、加熱可能であり、圧力を維持することができる。後者は、従来の撹拌式反応器であってよく、又は熱交換器内にあり得る。
【0034】
本発明は、AA生成ユニットからの重質副生成物に対して事前にバッチ式加水分解稼働を行うことを伴う、バッチ式サーマルクラッキングプロセスに基づいている。
【0035】
マイケル付加誘導体に関与するアクリルモノマーは、熱処理工程の前にオリゴマーを加水分解することによって、再生され得る。この加水分解反応によってヒドロキシプロピオン酸(HPA)が形成され、これをサーマルクラッキングしてアクリル酸が得られる。加水分解により、オリゴマー鎖を還元することが可能になり、残留物の粘性が低下する。
【0036】
バッチ式モードでの加水分解は、0.1~2MPaの範囲の圧力下で行われる。
【0037】
再生効率(クラッキング効率として表される)は、基本的に以下のものに依存する:
・a.加水分解パラメータ:温度と圧力、加水分解滞留時間、及び水/AA重質生成物の比率、並びに
・b.クラッキングのパラメータ:熱処理の温度及び滞留時間。
【0038】
これらのうち最後の2つのパラメータ(b.)を増大させると、再生効率が向上する傾向があるものの、これはクラッキング残留物の粘度増加と引き換えに起こる。
【0039】
クラッキング性能は、以下の2つの値によって特徴づけられる:
・URR又は有用な回収率(useful recovery rate):これは、クラッキング後に回収されるアクリル酸の量と、クラッカーに供給されるAA重質生成物の量との比率である。
URR=AAの回収質量/クラッカーフィード中のAA重質生成物の質量
・クラッキング率又は効率:クラッキング後に回収されるアクリル酸の量と、クラッカーフィード(アクリル酸(AA)、アクリル酸二量体(AA2)、及びヒドロキシプロピオン酸(HPA))中のアップグレード可能な化合物)の合計との比率。
【0040】
図1に示すプロセスの実施形態によれば、アクリル酸生成プラント(AAHP)からの当該重質副生成物を含む流れ、及び水が、一緒に又は別々に、反応器R1内に導入される。AAHP流には、アクリル酸の合成及び精製工程の間に生じる重質マイケル付加誘導体化合物が豊富であり、このAAHP流は、合成及び精製プロセスの間に蓄積される他の重質化合物、特に重合禁止剤も含む。重質アクリル酸化合物及び水を含有する混合物(1)を、マイケル付加誘導体を加水分解するのに必要な温度まで加熱して、比較的軽質な化合物を得る。流れ(2)は、加水分解工程の完了後に回収される。流れ(2)はその後、第2の反応器R2内に導入され、ここでこの流れは、マイケル付加誘導体をクラッキングしてより軽質な化合物を得るのに必要な温度まで加熱され、当該軽質化合物は、反応器の上部で気体混合物(3)の形で抽出される。
【0041】
アクリル酸が豊富で、低濃度の禁止剤を含むいくつかの重質化合物を含むこの蒸気流は、有利なことに、蒸気の形で直接、又は凝縮器E1で流れ(4)として全体的に凝縮した後、アクリル酸生産プロセスにリサイクルされる。
【0042】
1つの実施形態によれば、少なくとも1つの重合禁止剤が、凝縮器E1内に導入される。これらの禁止剤は、当業者に知られた重合禁止剤から選択される:フェノール誘導体、例えばハイドロキノン及びその誘導体、例えばハイドロキノンメチルエーテル、2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)及び2,4-ジメチル-6-(tert-ブチル)フェノール(トパノールA)、フェノチアジン及びその誘導体、マンガン塩、例えば酢酸マンガン、チオカルバミン酸又はジチオカルバミン酸の塩、例えば金属チオカルバメート及び金属ジチオカルバメート、例えば銅ジ(n-ブチル)ジチオカルバメート、N-オキシル化合物、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンオキシル(4-OH-TEMPO)、ニトロソ基を有する化合物、例えばN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン及びそのアンモニウム塩、アミン化合物、例えばパラフェニレンジアミン誘導体、又はこれらの禁止剤の混合物。
【0043】
反応器底部(5)で回収された残留物流は冷却され、その後、適度な粘度の液体の形で除去されるため、例えば貯蔵タンク又は焼却ユニットまで、ポンプによって難なく輸送することができる。
【0044】
実施例
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【0045】
枯渇率は、留出物の質量/重質生成物の質量の比率によって規定される。水を添加する場合、この比率は、留出物の量からこの水の質量を引くことにより、「修正枯渇率」になる。
【0046】
例1:バッチ式の加水分解及びクラッキング(本発明による)
加水分解稼働に使用されるアセンブリは、HC 276製のAmAr実験室用オートクレーブ反応器(温度250℃で80barの最大圧力を維持可能であって、内部撹拌機、圧力計、窒素入口、温度浸漬プローブ、及び調整された外部電気加熱マントルを備えるもの)から構成される。使用可能な体積は、450mlである。加水分解すべき混合物を反応器内に導入し、その後、反応器を密閉するためのジョー・システムを使用して反応器を閉じる。反応器と接続する窒素管によって、温度を上昇させる前に、反応器を6バールの圧力下にすることが可能になる。その後、混合物を150℃の温度に1時間、加熱する。圧力計の読み取り圧力を、12バールに増加させる。加水分解が完了したら、室温まで冷却した後、底部バルブを介して、混合物を排出する。
【0047】
クラッキング稼働に使用されるアセンブリは、攪拌機を備えた500mlのジャケット付きガラス反応器、液相に浸漬された温度プローブ、上部の垂直管(蒸気を抽出するため)、及び凝縮器から構成される。事前に加水分解された混合物を反応器内に導入し、その後、所望の温度に加熱する。液体(留出物)が、受入フラスコで回収され、分析される。加水分解されたAA重質生成物は、反応器内に直接、導入される。
【0048】
試験時間:2時間17分
加水分解:T=150℃、滞留時間:1時間、P=1.2MPa、水/AA重質生成物の比率=0.5
クラッキング:T>185℃、大気圧、滞留時間:1時間17分、水/重質生成物の比率=0.5
URR=41%
クラッキング率=55%
修正枯渇率=43.9%
粘度=0.123Pa.s
【0049】
例2:バッチ式の加水分解及びクラッキング(本発明による)
例1と同じ稼働手順。
【0050】
加水分解:T=150℃、滞留時間:2時間、P=1.2MPa、水/AA重質生成物の比率=0.5
クラッキング:T>180℃、大気圧、滞留時間:1時間41分、水/重質生成物の比率=0.5
URR=40.9%
クラッキング率=55%
修正枯渇率=42.9%
粘度=0.172Pa.s
【0051】
例3:バッチ式の加水分解及びクラッキング(本発明による)
例1と同じ稼働手順。
【0052】
加水分解:T=150℃、滞留時間:1時間、P=1.2MPa、水/AA重質生成物の比率=0.2
クラッキング:T>195℃、大気圧、滞留時間:1時間41分、水/AA重質生成物の比率=0.2
URR=40.0%
クラッキング率=54%
修正枯渇率=43.2%
粘度=0.253Pa.s
修正枯渇率は、
(蒸留された質量-導入された水の質量)/加水分解器内に導入された重質生成物の質量
に相当する。
【0053】
例4:バッチ式の加水分解及びクラッキング(本発明による)
例1と同じ稼働手順。
【0054】
加水分解:T=150℃、滞留時間:1時間、P=1.2MPa、水/AA重質生成物の比率=0.5
クラッキング:T>191℃、大気圧、滞留時間:3時間、水/AA重質生成物の比率=0.5
URR=54.5%
クラッキング率=82%
修正枯渇率=56%
粘度=1.169Pa.s
【0055】
例5(比較):事前の加水分解なしのクラッキング
この場合、既知質量のAA重質生成物が、総体積500cm3のガラス反応器に直接導入され、ガラス反応器の二重壁を通じて油を再循環させることによって加熱される。
【0056】
この反応器には、攪拌機、液相に浸漬された温度プローブ、上部の垂直管(蒸気を抽出するため)、及び凝縮器が備えられている。液体(留出物)が、受入フラスコで回収され、分析される。
【0057】
クラッキング:T=197℃、大気圧、滞留時間:1時間13分、水/AA重質生成物の比率=0.5
URR=39.4%
クラッキング率=59%
粘度=0.657Pa.s
枯渇率=43.7%
【0058】
例6(比較):事前の加水分解なしのクラッキング
クラッキング:T=199℃、大気圧、滞留時間:2時間47分、水/AA重質生成物の比率=0.5
URR=38.9%
クラッキング率=52%
粘度=1.029Pa.s
枯渇率=43.1%
【0059】
同等の枯渇率で、本発明による方法により、はるかに低い粘度で類似の性能が可能になる(例6と比較して例1、2及び3)。加水分解工程により、同等の粘度でクラッキング性能が向上する(より良好なURR)(例4と例6との比較)。
【0060】
得られた結果を以下の表1に示す。
【0061】
【国際調査報告】