IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エーエムペーアー アイトゲネッシーシェ マテリアールプリューフングス− ウント フォルシュングスアンシュタルトの特許一覧

特表2025-520723多セルモノリシック薄膜電池及びその製造方法
<>
  • 特表-多セルモノリシック薄膜電池及びその製造方法 図1
  • 特表-多セルモノリシック薄膜電池及びその製造方法 図2
  • 特表-多セルモノリシック薄膜電池及びその製造方法 図3
  • 特表-多セルモノリシック薄膜電池及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-03
(54)【発明の名称】多セルモノリシック薄膜電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20250626BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250626BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250626BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024575603
(86)(22)【出願日】2023-06-09
(85)【翻訳文提出日】2025-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2023065443
(87)【国際公開番号】W WO2023247206
(87)【国際公開日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】22181068.2
(32)【優先日】2022-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514034618
【氏名又は名称】エーエムペーアー アイトゲネッシーシェ マテリアールプリューフングス- ウント フォルシュングスアンシュタルト
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ、フチャー
(72)【発明者】
【氏名】リュック、ブリンクマン
(72)【発明者】
【氏名】アブデサレム、アリビア
(72)【発明者】
【氏名】ヤロスラフ、ロマニュク
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ、ミュラー
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM12
5H029BJ04
5H029HJ04
(57)【要約】
開示された発明は、1個の単層の基板(1)上に、カソード集電体(20)、カソード電極層(21)、固体電解質層(22)及びアノード集電体(23)を備える2個以上のモノリシック電池セルが互いに積層された、多セルモノリシック薄膜電池(0)からなり、モノリシック電池セル(2、2’)の全てが、10nm以上20μm以下の厚さを有し、アノード層を用いない薄膜技術によって製造されることからモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)と称されるものであり、特性が改善され、複数のセルを接合して積層型薄膜電池とするための実施可能な方法に基づいている。開示された発明は、得られる多セルモノリシック薄膜電池(0)の層を全て単層の基板(1)上において互いの上端の上に重ねて積層して作製し、電子及びイオンを遮断する材料の層として遮断層を、隣接する各モノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)のカソード集電体(20)とアノード集電体(23)との間に積層し、遮断層の積層厚さを5nm以上1μm以下とし、直前のモノリシックアノードフリー電池セル(2)の最後の層の上に、次の隣接するモノリシックアノードフリー電池セル(2’)の最初の層を積層することによって達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個の単層の基板(1)上に、カソード集電体(20)、カソード電極層(21)、固体電解質層(22)及びアノード集電体(23)を備える2個以上のモノリシック電池セルが互いに積層された、多セルモノリシック薄膜電池(0)であって、
前記モノリシック電池セル(2、2’)の全てが、10nm以上20μm以下の厚さを有し、アノード層を用いない薄膜技術によって製造されることからモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)と称されるものであり、
前記単層の基板(1)上において、前記多セルモノリシック薄膜電池(0)の全ての層が、互いの上端の上に作製されており、
隣接する前記モノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)の前記カソード集電体(20)と前記アノード集電体(23)との間に、電子及びイオンを遮断する材料層として遮断層(B)が積層されており、
積層されている前記遮断層(B)の積層厚さが5nm以上1μm以下であり、
直前のモノリシックアノードフリー電池セル(2)の最後の層の上に、次の隣接するモノリシックアノードフリー電池セル(2’)の最初の層が積層されている、多セルモノリシック薄膜電池。
【請求項2】
隣接する個々のモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)のいずれかの隣接層間に、前記遮断層(B)が積層されている、請求項1に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0’)。
【請求項3】
中間層としての前記遮断層(B)が金属酸化物を含む、請求項1又は2に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0’)。
【請求項4】
各モノリシックアノードフリー電池セル(2)の前記固体電解質層(22)と前記アノード集電体(23)との間に、均一なLi金属めっき及び剥離のための核形成部位の数を増加させるシード層(S)が積層されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0’’、0’’’)。
【請求項5】
前記シード層(S)の積層厚さが1nm以上500nm以下であり、最も好ましくは10nm以上100nm以下である、請求項4に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0’)。
【請求項6】
前記シード層(S)の材料が、Au、Ag、Zn、Mg、Pt、Al及びCからなる群から選択される原子を含み、最も好ましくはAu、Ag及び/又はCを含む、請求項4又は5に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0’)。
【請求項7】
前記固体電解質層(22)の材料が、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、硫化物、ハロゲン化物、水素化物、及びポリマーからなる群から選択される1つ以上を含み、厚さ0.1μm以上5μm以下の薄膜として積層されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0)。
【請求項8】
前記アノード集電体(23)が、Cu、Ni、Ti、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される1つ以上を含み、50nm以上1μm以下の厚さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0)。
【請求項9】
前記カソード集電体(20)がAlを含み、50nm以上1μm以下の厚さを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の多セルモノリシック薄膜電池(0)。
【請求項10】
単層の基板(1)上に、2個以上のモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)を備える、多セルモノリシック薄膜電池(0)の製造方法であって、
PVD、CVD、ALD、ディップコーティング、スピンコーティング又はスクリーン印刷により、後続の薄膜を積層する工程で、前記基板(1)上にモノリシックアノードフリー電池セル(2)を、5nm以上20μm以下の厚さで層状に積層し、
各電池セル(2、2’)が、カソード集電体(20)、カソード電極層(21)、固体電解質層(22)及びアノード集電体(23)からなり、
アノード層を作製せず、
直前の前記モノリシックアノードフリー電池セル(2)の最後の層の上に、次の隣接する前記モノリシックアノードフリー電池セル(2’)の最初の層を積層する前に、隣接する各モノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)の前記カソード集電体(20)と前記アノード集電体(23)との間に、電子及びイオンを遮断する材料の層として遮断層(B)を積層し、
前記遮断層(B)の積層厚さが5nm以上1μm以下である、製造方法。
【請求項11】
各モノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)の前記固体電解質層(22)と隣接する前記アノード集電体(23)との間に、PVD、CVD、ALD、ディップコーティング、スピンコーティング又はスクリーン印刷による薄膜技術で、均一なLi金属めっき及び剥離のための核形成部位の数を増加させるシード層(S)を積層する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
個々のモノリシックアノードフリー電池セル(2)の2つの隣接層間に、PVD、CVD、ALD、ディップコーティング、スピンコーティング又はスクリーン印刷による薄膜技術で、前記遮断層(B)を積層する、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
2個の隣接するモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)の間において、PVD、CVD、ALD、ディップコーティング、スピンコーティング又はスクリーン印刷による薄膜技術で、隣接するモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)の前記カソード集電体(20)と前記アノード集電体(23)との間に、前記遮断層(B)を積層する、請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記遮断層(B)を、シャドウマスクを使用して選択的に積層するか、又はプラズマエッチングによって選択的に除去することにより、2個の隣接するモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)間の接触領域を正確に決める、請求項10~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1個の基板を備え、その上にカソード集電体、カソード電極層、固体電解質層及びアノード集電体を含む2個以上のモノリシック電池セルが互いに積層された、多セルモノリシック薄膜電池と、その製造方法とを説明する。
【背景技術】
【0002】
環境に優しく持続可能なエネルギー源を効率的に利用するためのエネルギー貯蔵技術に対する需要が高まっている。不燃性又は難燃性の固体電解質をベースとする固体リチウムイオン電池は、従来のLiイオン電池に比べて安全性が向上しているため、大きな注目を集めている。「全固体リチウムイオン及びリチウム金属電池-大規模生産への道を開く、Journal of Power Sources、382巻、2018年4月1日、160~175ページ」に記載されているように、Li金属をベースとする薄膜多セル電池も従来技術として知られている。
【0003】
現在、Li金属ベースの固体セル及び固体電池は、Li金属箔又はPVD蒸着Li金属を使用して作製されている。しかしながら、固体電池にLi金属を使用することは作製の観点から非現実的であり、最終的な商業化を妨げる可能性がある。特にLi箔については、乾燥した室内でもLi金属の表面に不動態膜が形成されるため、取り扱いが難しく、高い界面抵抗を避ける目的でアルゴン雰囲気が必要となる。アノードフリー固体電池は、製造工程からアノードを除去することで、この問題を解決する。しかしながら、単セル電池であっても、集電体と固体電解質との界面においてLi金属が不均一に成長することは、こうしたアノードフリー電池における大きな課題の1つである。
【0004】
多数の電池セルを備える多セルモノリシック薄膜電池を製造するために、いくつかの取り組みがなされてきた。安定したモノリシック電池セルでは、アノード電極層と、固体電解質層と、カソード電極層とを使用して、基板上に層状に積層できるが、個々のセルをモノリシックに接合したり、このような多セル積層体を安定的に作動させたりすることは、困難であることが分かっている。
【0005】
米国特許出願公開第2012/270114号が知られており、アノード層を備えた薄膜電池が開示されている。基板は任意であると考えられており、米国特許出願公開第2012/270114号のセルを積層することについては単に推測可能なだけである。例えば[0045]には、「基板200を任意で用意する」と記載されている。しかしながら、基板は電池の機能にとって重要な要素である。また、隣接する2個のセルの間には導電バリア250が配置されるが、これが真の導電バリアである場合、電池は機能しない。米国特許出願公開第2012/270114号には、アノード層を使用するという事実以外に、個々のセルをモノリシックに接合する実施可能な方法は示されておらず、この方法はセルの機能にとって非常に重要である。
【0006】
欧州特許第3261157号においても、アノードフリーセルも、個々のセルを十分に安定且つ丈夫にモノリシックに接合することも、紹介されていない。
【0007】
米国特許第9543564号ではアノードフリーセルが紹介され、セルの作製中においてアノード層を作製しないため、米国特許第9543564号は最も近い最先端技術を示している。しかしながら、個々のセルを安定的に接合する問題は十分に解決できていなかった。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、複数のセルを接合して積層型薄膜電池とするための実施可能な方法に基づいて、特性が改善され、機械的及び電子的に安定した多セルモノリシック薄膜電池を創造することであり、接合及び積層の形成は多セルモノリシック薄膜電池の機能にとって重要である。
【0009】
本発明の目的は、特注のフォームファクタを備え、放電容量が改善され、充放電時間が極めて短く、放電容量が大きく、冷却が不要である等で熱管理が改善され、サイクル寿命がより長く、高電圧デバイスに適するように安定性が改善され、より経済的且つ簡便に作製可能な、多セルモノリシック薄膜電池を提供することである。
【0010】
本発明のデバイス製造方法及びその後に構成されるデバイスは、アノードフリーの多セルモノリシック薄膜電池の設計を提供することで従来技術を改善し、その結果、放電容量が改善された高電圧のデバイスとなり、作製されるセルに負極層/アノード層が存在しないため製造工程の簡素化が実現される。
【0011】
作製される各セルの製造方法は、薄膜作製技術を使用するGen4電池やGen5電池を専門とする電池メーカーにとって、興味深いものである。Gen4電池やGen5電池の潜在的な用途には、ドローン、ロボット、eVTOL、航空宇宙、都市交通、医療機器、ウェアラブル等の、高性能のモバイル用途が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1a】2個以上のモノリシック積層アノードフリー電池セルを備える多セルモノリシック薄膜電池の概略図を示す。
図1b】第1及び第2のモノリシックアノードフリー電池セルの間に遮断層を備える多セルモノリシック薄膜電池を示す。
図1c】各セルの固体電解質層とアノード集電体との間にシード層を備える別の2セルモノリシック薄膜電池を示す。
図1d】第1及び第2のモノリシックアノードフリー薄膜電池セルの間に遮断層を備え、全てのセルが直列に接合された、図1cによる電池を示す。
図2a】1個の基板上に2個のモノリシックセルを備える2セルモノリシック薄膜電池のSEM断面を示す。
図2b図2aによる2セルモノリシック薄膜電池の充放電曲線を示す。
図3】並列に接合された多数のn個のセルを示す。
図4】各セルの固体電解質層とアノード集電体との間に所望のシード層を備える2セルモノリシック薄膜電池のSEM断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に簡単に説明する関連の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照することによって、本発明の様々な態様をさらに理解することができる。
【0014】
なお、異なる説明がなされている実施形態において、同じ部分には同一符号又は同一名称が付されており、説明全体に含まれる開示において同一符号又は同一名称が付された同じ部分に同様に適用することができる。
【0015】
本発明の主題の好ましい典型的実施形態を、添付の図面と併せて以下に説明する。
【0016】
本発明は、1個の単層の基板1上に積層された2個以上のモノリシック積層アノードフリー電池セル2、2’を備える、多セルモノリシック薄膜電池0について説明する。モノリシック積層電池では、単層の基板1上において、電池の全ての層が互いの上端の上に作製される。
【0017】
1個の基板1の層をベースとし、カソード集電体20、カソード電極層21、固体電解質層22及びアノード集電体23を少なくとも備え、アノード層を備えない2個以上のモノリシックアノードフリー電池セル2、2’を、積層する。薄膜技術を使用して、5nm以上20μm以下という薄膜技術の既知の厚さの範囲内で、全ての層を積層する。
【0018】
アノードフリーの多セルモノリシック薄膜電池0は、作製中にアノードが存在しない電池である。多セルモノリシック薄膜電池0を充電すると、アノード集電体23と固体電解質層22との界面がLiイオンでめっきされ、Li金属アノードが形成される。アノードフリーの多セルモノリシック薄膜電池0の場合、作製中にアノードが存在しない。
【0019】
個々のセルが電気的に直列に接合されている場合の、層20~23の積層の順序と、1個のモノリシックアノードフリー電池セル2のアノード集電体23層及び次に隣接するモノリシックアノードフリー電池セル2’の間の界面と、を図1aの概略図に示す。
【0020】
図1bによる2個以上の隣接するモノリシックアノードフリー電池セル2、2’を備える多セルモノリシック薄膜電池0’の別の実施形態では、隣接するモノリシックアノードフリー電池セル(2、2’)のカソード集電体(20)とアノード集電体(23)との間に、所望の遮断層Bを積層する。
【0021】
遮断層Bは、電子抵抗、イオン抵抗、又はその両方を変更でき、機械的特性を改善し、特定の場所で取り除いたり特定の場所のみに積層したりして、電池セル2、2’間における直接の電子及び/又はイオンの接触を調整できる。
遮断層Bは、いずれかの2つの隣接層間に設けて層間の望ましくない反応を防ぐ材料の薄層として定義される。遮断層Bは、イオン、電子、又はその両方を遮断するように設計でき、望ましくない反応を防いで電池性能を向上させる。最も好ましい遮断層Bは、電子及びイオンの両方を遮断するので、次いで遮断層Bを部分的に除去し、隣接層間でイオン又は電子の接触を作り出す必要がある。
【0022】
遮断層Bは、隣接する個々のモノリシックアノードフリー電池セルの間に積層することもでき、モノリシックに積層された複数の電池セルの間のみに繰り返して設けることもできる。
【0023】
セル2、2’間の中間層としての遮断層Bは、1つ以上の遷移金属酸化物を含む。遮断層Bの厚さは5nm以上1μm以下であり、遷移金属酸化物を含む。
【0024】
遮断層の目的は、個々の多セルモノリシックアノードフリー電池セル2、2’間の電子抵抗及び/又はイオン抵抗を変更する中間層を導入することである。この層は、個々のモノリシックアノードフリー電池セル2、2’間の接触領域を正確に決めるため、光リソグラフィーと同様に、シャドウマスクを使用して選択的に積層することもでき、プラズマエッチングによって選択的に除去することもできる。これにより、複雑な製造工程の使用を他に要する多セルモノリシックアノードフリー電池の製造を簡素化できる。
【0025】
最も好ましいのは、PVDによって積層された遮断層Bか、個々の電池セル2、2’間の電子抵抗及び/又はイオン抵抗を増加させる化学蒸着法(CVD)の一種である原子層積層法(ALD)によって積層された遮断層Bであり、平坦化層として機能して潜在的な不均一性を排除し、充放電サイクルで発生し得る機械的応力を相殺できる。
【0026】
個々のモノリシックアノードフリー電池セル2、2’間の中間層として遮断層Bを追加することに加えて、個々のモノリシックアノードフリー電池セルのいずれかの隣接層間の中間層として遮断層を導入し、電子抵抗及び/又はイオン抵抗を変更することもできる。
【0027】
また、正確に決めた層を備え、アノード層を備えない多セルモノリシック薄膜電池0’’では、各モノリシックアノードフリー電池セル2、2’の固体電解質層22とアノード集電体23との間に所望のシード層Sを導入することでも、結果が改善する。他の層と同じ薄膜積層技術の1つにより、この所望のシード層Sを積層する。シード層Sは、均一なLi金属めっき及び剥離のため、アノード集電体23と固体電解質層22との界面におけるLi金属めっきの核生成部位の数を増加させる。
シード層Sは、電池の充電中にLi金属が成長するための基盤として機能する。シード層Sは、カソード電極層21とカソード集電体20との間で、接着性を向上させて抵抗を低減することもできる。
【0028】
所望のシード層Sは、1nm以上500nm以下の厚さで固体電解質層22とアノード集電体23との間に積層するものであり、100nm未満の厚さを有することが最も好ましい。
【0029】
シード層Sは、Mg、Ca、Sr、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Ti、C、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi、S、Se、Teからなる群から選択される元素又はこれらの元素を含有する化合物の1つ以上を含むか、これらの元素にH、B、N、O、F、Cl、Br、Iからなる元素又は化合物の1つ以上を加えた化合物を含む。
【0030】
シード層Sは、Au、Ag、Zn、Mg、Pt、Al及びCからなる群から選択される1つ以上の原子を含むことが最も好ましく、Au、Ag及び/又はCを含むことが最も好ましい。
シード層Sは、個々のアノードフリーセル2、2’、2’’間の平坦な界面を確保するものであり、モノリシックに積層された薄膜電池0という状況下では従来使用されていなかった。
【0031】
固体電解質層22とアノード集電体23との間のシード層によって核形成部位の数を増やすことに加えて、アノードフリー電池セル内のLi金属めっきの核形成部位の数は、プレサイクリング中における高電流密度の短パルスや、電池又はセルの充放電中に短電流パルスの電流密度を上昇させることによって、増やすことができる。
【0032】
前述したことに加え、図1b及び1cの実施形態の組み合わせを実施し、これも良好で安定した結果を示した。モノリシックアノードフリー電池セル2、2’の固体電解質層22とアノード集電体23との間にシード層Sを備える各セル2、2’の間には、遮断層Bを積層する。
【0033】
薄膜電池又はセル内のLi金属は、通常、PVDプロセスによって積層する。PVDプロセスによって積層したLi金属は一般に不均一であるため、複数の薄膜電池又はセルを互いの上端の上に積層することはできない。リチウム金属アノードを備えないことにより、単一のモノリシックアノードフリー電池セル2、2’を、機械的且つ電子的に安定した再現可能な方法で積層できる。
【0034】
図1aの概略図による多セルモノリシックアノードフリー薄膜電池0の実施形態のSEM画像を図2aに示し、このようなデバイスの電子的効果を充放電曲線の形式で図2bに示す。このことが証明されたのは初めてである。
【0035】
図3に示すように、個々のモノリシック薄膜電池セル2~2’を積層する工程を実施して層を並列に接合することもでき、その場合、隣接する電池セルはカソード集電体20又はアノード集電体23を共有する。個々のアノード集電体23及びカソード集電体20は、例えばタブを介して接合され、個々の電池セルを電気的に並列に接合する。シード層S及び遮断層Bはここでは示していないが、上記のように積層する。隣接する固体電解質層22及びアノード集電体23の間のシード層Sと、遮断層Bとは、個々のモノリシックアノードフリー電池セルの隣接層間の中間層、具体的には個々の多セルモノリシックアノードフリー電池セル2、2’間の中間層として、導入できる。
【0036】
2セル2、2’電池0’’のSEM断面において、各セル2、2’の固体電解質層22とアノード集電体23との間にシード層Sを配置する。
【0037】
後者の多セルモノリシック薄膜電池0は、各セル2の層の直列接合と並列接合との組み合わせによって作製することもできる。
【0038】
使用する基板1は、剛性又は柔軟性を有していてもよく、金属、ポリマー又はガラス質材料からなり、最も好ましくはガラス/TiN又はSi/TiN等のガラス材料である。
【0039】
カソード集電体20は、Al、Au、ステンレス鋼又はそれらの合金からなる群から選択される1つ以上を含む。カソード集電体20の最も好ましい材料はアルミニウムであり、厚さは50nm以上1μm以下が最も好ましい。1nm/分以上10nm/分以下の速度でAlペレットを室温で蒸発させる。
【0040】
カソード電極層21は、
LCO(コバルト酸リチウム)、
NMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸化物)、
NCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム)、
NMA(ニッケル・マンガン・アルミニウム)、
LFP(リン酸鉄リチウム)、
LMO(二酸化マンガンリチウム)、
LMNO(マンガン・ニッケル酸リチウム)、
VO(酸化バナジウム)、
カルコゲン、カルコゲニド、ハロゲン、及びハロゲン化金属からなる群から選択される1つ以上を含む。
カソード電極層21は、100nm以上20μm以下の厚さの薄膜として積層するか、複合マトリックスに埋め込まれた0.01μm以上2μm以下の大きさの粒子の形式で積層し、イオン伝導性及び/又は電子伝導性並びに機械的特性を改善して、充放電サイクル中の膨張及び収縮による機械的変形を相殺する。
【0041】
カソード電極層21に最も好ましい材料はLCO又はNMCであり、厚さは100nm以上5μm以下であることが最も好ましい。LiCoOのRFスパッタリングでは、電力:5~15W/cm、ガス流量:Ar 24~60sccm、O 0.5~1sscm、圧力:3mTorr、速度:室温で3~10nm/分、を適用する。
【0042】
固体電解質層22は、亜硝酸塩、酸化物、硫化物、ハロゲン化物、リン酸塩、ホウ酸塩、水素化物及びポリマーからなる群から選択される1つ以上を含む。このような固体電解質層22を、0.1μm以上5μm以下の厚さの薄膜として積層する。
固体電解質層22に最も好ましい材料は、電解質材料として知られる非晶質ガラス材料であるLiPON、即ち窒化リン酸リチウムであり、その厚さは300nm以上2μm以下であり、最も好ましくは約1000nm±10%である。LiO及びLiPOがターゲットのRF共スパッタリングでは、電力:5~10W/cm(LiPO)、5~10W/cm(LiO)、ガス流量:25~50sccm(N)、圧力:3mTorr、速度:室温で1~2.5nm/分、を適用する。
【0043】
各アノード集電体23は、Cu、Ni、Ti、ステンレス鋼及びそれらの合金からなる群から選択される1つ以上を含む。アノード集電体23の最も好ましい厚さは50nm以上1μm以下である。Cuを使用する場合、厚さは約100nm±10%とすべきである。
【0044】
個々の層を、説明した順序で基板1に連続的に塗布する。個々の層は全て、PVD、CVD、ディップコーティング、スピンコーティング又はスクリーン印刷等の薄膜技術によって積層する。
【0045】
カソード電極層21、固体電解質層22、シード層S、遮断層Bの積層後、1個のモノリシック薄膜電池の積層後、又は2個以上の多セルモノリシック薄膜電池の積層後に、所望により、アルゴン、窒素、酸素雰囲気中又は真空中で、材料温度40℃以上1000℃以下で個々の層を結晶化できる。
【0046】
図面に開示及び記載されているように、多セルモノリシック薄膜電池0、0’、0’’、0’’’は1個の基板1を備え、その上に、カソード集電体20、カソード電極層21、固体電解質層22及びアノード集電体23を順に備える2個以上のモノリシック電池セル2、2’、2’’を積層する。層の順序が異なり逆になってもよいが、本明細書では詳細に示していない。
【符号の説明】
【0047】
0 多セルモノリシック薄膜電池
(1個超のセルを直列、並列、又はその両方の組み合わせで接合)
1 基板(多セルモノリシック薄膜電池ごとに1個)
2、2’、2’’ モノリシックアノードフリー電池セル
20 カソード集電体
21 カソード電極層
22 固体電解質層
S 所望のシード層(リスト)
23 アノード集電体
B 所望の遮断層(中間層)
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】