(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-08
(54)【発明の名称】精神的デジタルツイン
(51)【国際特許分類】
G16H 20/70 20180101AFI20250701BHJP
【FI】
G16H20/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024571862
(86)(22)【出願日】2023-06-08
(85)【翻訳文提出日】2025-01-06
(86)【国際出願番号】 EP2023065424
(87)【国際公開番号】W WO2023237705
(87)【国際公開日】2023-12-14
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524446472
【氏名又は名称】ツェントラールインスティテュト フュア ゼーリシェ ゲズントハイト
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー‐リンデンベルク、 アンドレアス
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
本文書は、人間の心の精神状態をシミュレーションするコンピュータ実行システムを教示する。
本システムは、複数の指令を記憶している記憶領域、仮想データ格納領域および人間の精神データ格納領域を含むメモリを備える。
精神データ格納領域が、人間の心の精神状態に関する精神データを格納する。
プロセッサが、記憶領域に記憶されている複数の指令のうちの1つを実行することで少なくとも人間の心のデジタルツインを生成可能である。
デジタルツインが、人間の精神データに基づく人間の心の1つ以上のモデルを含む。
心の1つ以上のモデルが、仮想データ格納領域に格納されて仮想データ格納領域内でプロセッサによる人間の心の分析を可能にする。
デジタルツインが、精神データ格納領域と仮想データ格納領域との間のリンクを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の心の精神状態をシミュレーションするコンピュータ実行システム(10)であって、
複数の指令を記憶している記憶領域(23)、仮想データ格納領域(25)および精神データ格納領域(27)を含み、前記精神データ格納領域(27)が前記人間の心の精神状態に関する人間の精神データを格納する、メモリ(20)と、
前記記憶領域(23)に記憶されている複数の指令のうちの1つを実行することで前記人間の心のデジタルツイン(40)を生成する、プロセッサ(30)と、を備え、
前記デジタルツイン(40)が、精神データに基づく前記人間の心の1つ以上のモデル(50)を含み、
該1つ以上のモデル(50)が、仮想データ格納領域(25)に格納されて該仮想データ格納領域(25)内で前記プロセッサ(30)による前記人間の心の分析を可能にし、
前記デジタルツイン(40)が、前記精神データ格納領域(27)と前記仮想データ格納領域(25)との間のリンクを含む、コンピュータ実行システム(10)。
【請求項2】
前記デジタルツイン(40)からの出力に基づいて、前記人間の精神データを視覚化し、前記人間の精神データへのアクセスを提供するグラフィカルユーザーインタフェース(60)をさらに備えている、請求項1に記載されたコンピュータ実行システム(10)。
【請求項3】
前記デジタルツイン(40)からの通知を実行させる通知装置(70)をさらに備えている、請求項1又は請求項2に記載されたコンピュータ実行システム(10)。
【請求項4】
前記人間の心の精神状態を予測する予測装置(80)をさらに備えている、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載されたコンピュータ実行システム(10)。
【請求項5】
アバターを生成するグラフィックエンジン(62)をさらに備え、
該グラフィックエンジン(62)が、前記デジタルツイン(40)に接続されていることで前記人間の心の精神状態を表すアバターの生成を可能にする、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載されたコンピュータ実行システム(10)。
【請求項6】
人間の心の精神状態をシミュレーションするコンピュータ実行方法であって、
デジタルツイン(40)に1つ以上のシミュレーションパラメータ(43)を適用すること(210)を含み、
前記デジタルツイン(40)が、前記人間の前記心をシミュレーションし、
前記1つ以上のシミュレーションパラメータ(43)が、前記人間の心の挙動をシミュレーションするデジタルツイン出力(45)を、前記1つ以上のシミュレーションパラメータ(43)に応じて前記デジタルツイン(40)に生成させる(220)、コンピュータ実行方法。
【請求項7】
前記デジタルツイン出力(45)が、メンタルヘルスの予測を含む、請求項6に記載されたコンピュータ実行方法。
【請求項8】
前記デジタルツイン出力(45)を健康な人間の反応と比較すること(225)をさらに含む、請求項6または請求項7に記載されたコンピュータ実行方法。
【請求項9】
前記デジタルツイン出力(45)に関する通知を生成することをさらに含む、請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載されたコンピュータ実行方法。
【請求項10】
前記デジタルツイン(40)内のデータに基づいてアバターを生成することをさらに含む、請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載されたコンピュータ実行方法。
【請求項11】
メモリ(20)に格納されているコンピュータプログラム製品であって、
プロセッサが請求項6乃至請求項10のいずれか1項に記載されたコンピュータ実行方法を実行できるようにする複数の指令を記憶している記憶領域(23)を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項12】
ニューラルネットワークをトレーニングしてデジタルツイン(40)を作成する方法であって、
ニューラルネットワークに、人間の精神状態の特徴を示す1つ以上のデータセットを入力することと、
前記1つ以上のデータセットを用いて前記ニューラルネットワークをトレーニングすることと、
を含む、ニューラルネットワークをトレーニングしてデジタルツイン(40)を作成する方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第63/350,115の出願日の利益を主張するものであり、その開示内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の分野】
【0002】
本発明は、人間の心の状態の定期的に更新される表現を作成、維持、更新、予測およびその他の方法で利用する方法並びにコンピュータ実行システムに関する。
【背景技術】
【0003】
デジタルツインは、オブジェクトまたはプロセスの仮想表現であり、オブジェクトの環境およびオブジェクト自体からの情報によって更新されることにより、オブジェクトまたはプロセスの状態を反映する、リアルタイムのデジタル複写物として機能する。
「デジタルツイン」の概念は、工学科学に由来しており、治療と予防措置に対する概念的かつ倫理的な影響を提供すると共に、データ駆動型の健康管理を実践するフレームワークを提供するものである。
人間に対して用いる場合、デジタルツインの現在の概念は、人間の身体とその生理学的状態とを動的に反映する、コンピュータシミュレーションによる個人の表現を構築するものである。
デジタルツインの概念は、健康管理業界で徐々に存在感を示しつつある(非特許文献1で概説)。
【0004】
特許文献1は、プロセッサ装置とプロセッサ装置の制御下にある通信モジュールとを含むコンピュータシステムを用いて、人間の解剖学的構造の少なくとも一部の擬人化デジタルモデル(またはデジタルツイン)を開発する方法を教示している。
この方法は、前記プロセッサ装置を用いて、通信モジュールを用いて人間の解剖学的構造の少なくとも一部の実際の身体状態に関連する入力データを受信すること、前記解剖学的構造の少なくとも一部の異なる身体状態をモデル化しているデジタルモデルのデータベースを検索すること、および、受信した入力データの少なくとも一部に基づいて人間の解剖学的構造の少なくとも一部の実際の身体状態に最もよく一致するデジタルモデルを前記データベースから選択することを含む。
選択されたデジタルモデルは、受信した入力データに基づいて、選択されたデジタルモデルのモデル化された身体状態を、選択されたデジタルモデルに関連付けられている生理学的発達モデルを用いて開発処理される。
このように開発されてモデル化された身体状態は、前記入力データに従って、前記実際の身体状態にさらに近いものになっている。
【0005】
個々の患者に関連する健康情報に基づいて個々の患者のデジタルツインを使用する、健康データ管理のためのコンピュータ化された方法が、特許文献2から公知になっている。
この特許公報は、個々の患者のデジタルツインが個々の患者の少なくとも1つの健康状態のデジタル表現であり、健康データシステムのコンピューティング装置を用いて、患者集団に関連する健康情報に基づいて患者集団のデジタルツインを形成することを教示している。
この出願に記載されているデジタルツインは、人間の患者の薬剤使用プロファイルが、規制薬物を誤って服用している可能性を示しているかどうかを判断するのに使用可能である。
さらに、規制薬物を誤って服用している可能性があると判断した場合、この方法は、患者の誤服用の可能性を示す通知を送信することを含んでいる。
しかし、この出願では、患者の精神状態は、考慮されていない。
【0006】
人体のストレスレベルおよびメンタルヘルスを管理するシステムが、特許文献3から公知になっている。
この出願のシステムは、1つ以上の身体センサーと人工知能システムを実行する一次処理ユニットとを有する。
身体センサーは、人体の生理学的パラメータ、人体の身体動作、または、人体の熱消費量、または、それらの組み合わせのうちの少なくとも1つを測定し、身体データを定期的にまたはリアルタイムで生成するように構成されている。
一次処理ユニットが、身体データを受信して処理するように構成されており、人体の健康およびストレスレベルの少なくとも1つを決定するように構成されている。
一次処理ユニットは、治療を提供し、CBD、瞑想、およびマインドフルネスを含む心理療法の有効性に関する洞察を定量的に提供するように構成されている。
従来技術では、人体の物理的パラメータを記述するデジタルツインまたはシミュレーションが開示されている。
人間の精神状態を評価し予測するために、人間の心をシミュレーションして継続的に表現をすることが役に立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第2020/203020号
【特許文献2】米国特許出願第2020/303047号
【特許文献3】国際公開第2019/012471号
【非特許文献1】Bruynseels K,Santoni de Sio F,van den Hoven J. Digital twins in Health Care: Ethical Implications of an Emerging Engineering Paradigm. Front Genet. 2018 Feb 13;9:31. doi: 10.3389/fgene.2018.00031. PMID: 29487613; PMCID: PMC5816748
【非特許文献2】Reichert M,Gan G,Renz M et al. (2021) Ambulatory assessment for precision psychiatry: Foundations, current developments and future avenues. Experimental neurology:113807
【発明の概要】
【0008】
本発明は、人間の心の精神状態をシミュレーションする、コンピュータ実行システムである。
このコンピュータ実行システムは、複数の指令を記憶している記憶領域、仮想データ格納領域および精神データ格納領域を含むメモリを備える。
精神データ格納領域が、コンピュータ実行システムによって表現されている人間の心の精神状態に関するユーザーデータを格納する。
少なくとも1つのプロセッサが、記憶領域に記憶されている複数の指令のうちの1つを実行することで少なくとも人間の心のデジタルツインを生成可能である。
デジタルツインが、精神データに基づく人間の心の1つ以上のモデルを含む。
心の1つ以上のモデルが、仮想データ格納領域で格納および更新され、仮想データ格納領域内で少なくとも1つのプロセッサによる人間の心の分析を可能にする。
デジタルツインが、精神データ格納領域と仮想データ格納領域との間のリンクを含む。
【0009】
さらなる態様では、コンピュータ実行システムは、システム外部のユーザーが利用可能な精神状態の表現を作成するインターフェースを備える。
これには、デジタルツインからの出力に基づいて、人間の精神データを視覚化し、人間の精神データへのアクセスを提供するグラフィカルユーザーインターフェースが含まれていてもよい。
これには、そのようなデータを他のソフトウェアまたはプラットフォームのユーザーが利用できるようにする、アプリケーションインターフェースも含まれていてもよい。
さらに、コンピュータ実行システムは、デジタルツインからの通知を実行させる1つ以上の通知装置と、人間の精神状態を予測する予測装置と、を備えていてもよい。
【0010】
人間の心の精神状態をシミュレーションするコンピュータ実行方法も開示されている。
この方法は、デジタルツインに1つ以上のシミュレーションパラメータを適用することを含み、デジタルツインが、人間の心の1つ以上のモデルを含む。
デジタルツインが、人間の心をシミュレーションすることを可能にする。
1つ以上のシミュレーションパラメータが、人間の心の挙動を、例えば、心の1つ以上の後続状態を、シミュレーションするデジタルツイン出力を、デジタルツインに生成させる。
1つ以上のシミュレーションパラメータをデジタルツインに適用することが、1つ以上のシミュレーションパラメータを1つ以上の心のモデルに入力することを含んでいてもよい。
人間の心の精神状態をシミュレーションすることが、状態空間(または位相空間)における人間の心の精神状態の軌跡を計算することを含んでいてもよい。
状態空間(または位相空間)における人間の心の精神状態の軌跡が、人間の心のデジタルツインに入力されているシミュレーションパラメータに依存してもよい。
コンピュータ実行システムは、センサー、ユーザー、または外部データソースから、他の人の存在、場所、心拍数などの心の状態を変える情報を受信し、更新可能である。
【0011】
デジタルツインの出力が、例えば、精神状態のグラフィカルな描写、メンタルヘルスの予測、またはアバタージェネレータへの接続を含む。
【0012】
さらなる態様では、この方法は、デジタルツインの出力を別の人間の応答または精神デジタルツインの集合と比較することを可能にしている。
【0013】
本発明の他の態様、特徴および利点が、以下の詳細な説明から、実施形態および実施を単に例示するだけで容易に明らかになる。
本発明は、他の異なる実施形態をとることも可能であり、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、その詳細の一部を、様々な点で明白に変更可能である。
したがって、図面および説明は、本質的に例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
本発明の追加の目的および利点は、以下の詳細な説明で部分的に記載されており、その一部は詳細な説明から明白であるか、または本発明を実行することによって理解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明およびその利点をより完全に理解するために、以下の詳細な説明および添付の図面を参照されたい。
【0015】
【0016】
【0017】
【
図3】研究の開始時に使用する基本質問票の概念である。
【0018】
【
図4】
図3の上記研究中に収集された人口統計学的特性、心理学的特性、生態学的瞬間評価および神経画像データである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を図面に基づいて説明する。
本明細書に記載された本発明の実施形態および態様は、単なる例示であり、特許請求の範囲の保護範囲を何ら限定するものではない。
本発明は、特許請求の範囲およびその均等のものによって定義される。
本発明の一態様や一実施形態の特徴は、本発明の別の態様および/または実施形態の特徴と組み合わせ可能である。
【0020】
図1は、人間の心の精神状態をシミュレーションするコンピュータ実行システム10の概要を示す。
コンピュータ実行システム10は、複数の指令を記憶している記憶領域23、仮想データ格納領域25および精神データ格納領域27を含むメモリ20を備えている。
コンピュータ実行システム10は、後述するように、記憶領域に記憶されている複数の指令23のうちの1つを実行することで人間の心のデジタルツイン40を生成可能な、少なくとも1つのプロセッサ30を有している。
仮想データ格納領域25は、プロセッサ30によって使用されてデジタルツイン40を生成する。
精神データ格納領域27は、人間の精神状態に関する精神データを格納している。
【0021】
本開示の一態様では、精神データ格納領域27は、健康な人間の、ならびに/または、精神疾患および/もしくは身体疾患を患っている人間の、精神データを含む、他の人間の精神状態に関する集団精神データを格納可能である。
別の態様では、人間の精神状態に関する(例えば、人間の精神状態を表している)精神データを使用可能であり、例えば、精神疾患または精神障害の発症または進行のモニタリング状況次第で、その精神データを定義および/または修正可能である。
精神データの定義および/または修正は、精神データの更新を含んでいる。
精神データの更新は、例えば、シミュレーションされる人間の精神状態および新たに収集された精神データの利用可能性次第で、毎日または毎時間精神データを更新することを含んでいてもよい。
更新は、所定の時間に行われてもよいし、人間や出来事によって促されてもよい。
精神データの定義および/または修正は、人間次第で、および/または人間の精神状態次第で、実行されてもよい。
さらなる態様では、精神データは、人間の気分、感情、覚醒、注意力、エネルギーレベル、飢餓、渇き、攻撃性、または恐怖のレベルのうちの1つ以上に関連していてもよいし、これらに限定されていなくてもよい。
【0022】
さらに別の態様では、精神データ格納領域27は、生理学的データ、環境(または、状況)データ、および/または個人データのうちの1つ以上を、さらに含んでいてもよい。
生理学的データは、睡眠の質、身体活動、身体運動、皮膚電気活動、心電図、心拍変動および/または神経画像に関するデータを含んでいてもよい。
環境(または状況)データは、位置データ(例えば、GPSデータ)や、電子メール、テキストメッセージ、ソーシャルメディア投稿、ボイスメール、通話、気象条件、音声パターン、動作パターンなどの社会的交流に関するデータを含んでいてもよい。
個人データは、睡眠時間、歩数、屋外で過ごした時間、緑地で過ごした時間、運動に費やした時間、行動療法または投薬に関するデータなどの(例えば、電子健康記録からの)医療データを含んでいてもよい。
人間の精神状態は、生理学的データ、環境(または状況)データ、および/または個人データに直接的または間接的にリンクされていてもよい。
【0023】
一態様では、精神データ、生理学的データ、環境(または状況)データ、および/または個人データの一部は、センサー80、90が収集する客観的データ(例えば、運動パターンからのエネルギーレベル)やユーザーの反応から測定や推測がなされてもよい。
データは、生態学的経時的評価(EMA)の手法を用いて収集されてもよい(非特許文献2を参照)。
EMAは、モーションセンサー90、位置データ(例えばGPS)、(例えば、ログイン回数または使用されたデジタルアプリの部分に基づく)デジタルアプリの使用に関するデータを使用することを含んでいてもよい。
【0024】
デジタルツイン40は、人間の心の1つ以上のモデル50を含み、プロセッサ30によって仮想データ格納領域25内に作成される。
デジタルツイン40は、精神データ格納領域27と仮想データ格納領域25との間のリンクも含んでおり、これにより、デジタルツイン40は、仮想データ格納領域25内に人間の心のシミュレーションを作成することができる。
【0025】
コンピュータ実行システム10は、例えば、コンピュータ画面、タブレット、または、スマートフォンに表示されるグラフィカルユーザーインターフェース60も有している。
グラフィカルユーザーインターフェース60は、精神データ格納領域27に保存されてデジタルツイン40から出力されるデータに基づいてシミュレーションされた精神状態を視覚化する。
グラフィカルユーザーインターフェース60によって、医療従事者などのコンピュータ実行システム10のユーザーが、デジタルツイン40と相互作用することも可能になる。
例えば、ユーザーは、コンピュータ実行システム10にデータを入力して、それが人間の精神状態にどのような影響を与えるかを理解したい場合がある。
デジタルツイン40は、患者の反応をシミュレーション可能である。
【0026】
コンピュータ実行システム10は、外部のアプリケーションまたはプラットフォームに接続することもできる。
一つの例は、メタバース内でアバターを作成するグラフィックエンジン62である。
アバターは、人間の1つ以上のグラフィック表現を含んでおり、人間または生物の形態をとることができる。
グラフィックエンジン62は、人間のアバターを作成するジェネレータを含んでおり、デジタルツイン40からパラメータを供給されることで、メタバース内でのアバターの反応をより良くすることができる。
例えば、このパラメータは、アバターの表情やボディランゲージに影響を与えてもよい。
別の例として、精神状態に関する情報を外部から利用できるようにして、気分に適したサービスや製品を提案したり、セラピストに電話したりすることができる。
【0027】
生理学的データが、生活している人間に取り付けられている少なくとも1つの生理学的センサー80から収集されてもよい。
この生理学的データは、コンピュータ実行システム10に供給され、精神データ格納領域27に格納されてもよい。
生理学的データをデジタルツイン40に適用することで、人間の反応をシミュレーションしてもよい。
少なくとも1つの生理学的センサー80が、例えば、心拍数、血圧、心拍変動、皮膚伝導、瞳孔反応、音声活動、身体運動、眼球運動などを測定する。
【0028】
少なくとも1つの環境センサー90が、コンピュータ実行システム10に接続されていてもよい。
この少なくとも1つの環境センサー90は、例えば、光の強度、温度、気圧、湿度、他の人間との近さ、または他の人間が装着しているデバイスとの近さを測定する。
【0029】
一態様では、スマートフォンなどのモバイルデバイスが、少なくとも1つの生理学的センサー80および/または少なくとも1つの環境センサー90を備えていてもよい。
このモバイルデバイスは、少なくとも1つの生理学的センサー80からの生理学的データの一部、少なくとも1つの環境センサー90からの環境(または状況)データの一部、および/または個人データの生成に使用されてもよい。
モバイルデバイスは、このモバイルデバイスを携帯する人間が歩いた距離を、GPSを使用して記録可能である。
モバイルデバイスは、他の人間が携帯する別のモバイルデバイスと相互作用することで、他の人間との交流をさらに検出可能である。
これらの交流は、交流時間の長さおよび交流時刻を示すタイムスタンプとともに記録される。
モバイルデバイスは、人間の健康状態を判断するために人間に質問し、質問に対する回答を記録することもできる。
質問は、別の人間が尋ねることもできる。
モバイルデバイスが収集した生理学的データ、環境データ、および/または個人データは、精神データ格納領域27に保存される。
開示されている別の態様では、モバイルデバイスは、スマートウォッチ、スマートバンド、スマートリング、スマートチェストストラップ、および/またはXRゴーグルなどのウェアラブルデバイスを含んでいる。
【0030】
モバイルデバイスが記録可能なその他の個人データおよび/または環境データは、歩行速度や加速度などの歩行データや地理的位置を含んでいてもよいが、これらに限定されない。
【0031】
デジタルツイン40は、仮想データ格納領域25内、およびローカルプロセッサを有しているデバイス(ユーザーのスマートフォンなど)内に格納される。
表現は、人間の行動に応じて精神状態を特徴付けている一連のデータセットを用いて事前トレーニングされている、リカレントニューラルネットワーク(RNN)によって実行される。
このリカレントニューラルネットワーク(RNN)は、例えば、ディープリカレントニューラルネットワーク(ディープRNN)および/または区分線形リカレントニューラルネットワーク(PLRNN)である。
上述のトレーニングは、MATLABまたは他のコーディング言語で記述されているコードを使用して行われる。
例えば、定期的に評価されるユーザーの健康状態と(例えば、継続的または定期的な)動き測定とを組み合わせて、活動が気分に良い影響を与えることを実証するデータセットを構築したり、衛星画像を基にした緑地情報とGPSを基にした地理位置情報とを組み合わせて、ユーザーが都市環境で緑地を発見したときに気分が改善されることを示すデータセットを構築したりする。
【0032】
このディープニューラルネットワークへの入力は、ユーザー入力、センサーデータ、およびそれらの情報にリンクされている外部データセット(例えば、センサーから提供されたユーザーの現在位置に基づく地理情報から抽出された、ローカル環境の種類についての情報)である。
【0033】
トレーニングされたニューラルネットワークは、一連の精神パラメータを出力する。
ニューラルネットワークのトレーニングは、仮想データ格納領域25内で実行される。
このようにトレーニングされたニューラルネットワークは、精神状態の表現を更新し、デジタルツイン40を形成する。
この表現は、ユーザー入力、センサーおよび環境データが利用可能になるたびに更新される。
発明者による以前の研究で公開されているように、ネットワークトレーニングは、新しいトレーニングを使用しており、このトレーニングは、ネットワークに基づいて人間の心を最適に再構築および予測する、動的システムである。
これは、トレーニング後にネットワークが精神状態を根本的に再生成することを意味し、以下に説明するように、ネットワークが、予測に利用可能な機能的な反映体になっていることを意味する。
【0034】
トレーニングされたRNNモデルは、離散時間動的システムxt=Fθ(xt-1,ut)を使用する。
ここで、xtは、パラメータθのベクトルによってパラメータ化されている再帰マップFθに従って時間とともに発展する(人間の脳などの)動的システムの状態を表し、utは、コンピュータ実行システム10への外部入力(入力変数)の時系列を示す。
また、従来の統計では、Fθは、通常線形であり、自己回帰移動平均(ARMA)モデルの重要なクラスとなっているが、RNNの場合、Fθは、(高度に)非線形である。
RNNをトレーニングする時間シーケンスの最大長Tが既知の値で固定されている場合、Fθは、時間的に「解明」されており、「通時的誤差逆伝搬(BPTT)」と呼ばれる手法をトレーニング[20、182]に採用してもよい。
RNNの重要な特性は、時系列分析および予測ツールとして使用可能であることだけでなく、RNNがシーケンスと時間的動作とを自律的に生成可能であるため、目標指向の動作及び計画が必要な状況でも、強力なAIデバイスとして機能することである。
動的システムを用いることで、安定状態、振動(制限的循環)、または、無秩序状態に基づいて、RNNにおける活動の発展を脳のプロセスに関連付け可能である。
動的システムが分岐した結果、人間の精神状態が望ましい状態または望ましくない状態に遷移することに関連付けられてもよい。
精神状態が望ましくない状態へ遷移している場合、コンピュータ実行システム10および/またはデジタルツイン40は、警告を発してもよい。
警告は、例えば、グラフィカルユーザーインターフェース60に表示されてもよい。
警告は、例えば、通知64の形式でセラピストに送信するために、アプリケーションインターフェースに提供されてもよい(以下を参照)。
【0035】
RNNは、精神データ、生理学的データ、環境(または状況データ)、および/または個人データから推定可能である。
特に、この方法は、精神データ、生理学的データ、環境(または状況データ)、および/または個人データの時系列を収集することを含み、これは、マルチモーダル経験的観察時系列(複数の形式を経験的に観察する時系列)と呼ばれることがある。
RNNは、最尤推定またはベイズ推定を使用して、マルチモーダル経験的観察時系列から推定可能である。
推定は、モデルp(yt|θ)に基づいていてもよく、ここで、ytは、精神データ、生理データ、環境(または、状況)データ、および/または個人データの測定された時系列であり、θは、xtによって表される動的システムの進化を表す再帰マップFθを定義しているパラメータのベクトルである。
推論では、積分の計算を近似するために、変分下限(ELBO)を採用してもよい。
【0036】
RNNのトレーニングに用いるマルチモーダル経験的観察時系列の一例を、以下で説明する。
18歳から28歳までの健康な参加者356名が募集された。
参加者全員が、加速度計および研究用スマートフォンを装着し、追加の基本質問票(
図3の表1を参照)に回答した。
参加者は、
図3に詳しく記載されているように、社会人口学的情報、身長と体重、およびいくつかの心理学的評価を含む質問票に回答した。
確立された手順に従って、次の基準に当てはまる参加者を除外した。
(i)測定が途中で終了するなど加速度計に重大な技術的問題がある(N=28)、(ii)電子日記の遵守率が30%未満である(N=2)、または(iii)質問票データが欠落している(N=9)。
最終的なサンプルは、平均年齢23.08歳(SD=2.83、
図4の表2を参照)の317名の健康な参加者(57.09%が女性)で構成されていた。
【0037】
表2は、「フルサンプル」、「fMRIサンプル」、「COVID-19サンプル」という3つのサンプルの結果を示している。
図4に示す表2では、サンプルサイズnの列は、対応する変数の情報が利用可能な個人の数を示している。
SDは、標準偏差を意味する。
世帯収入は、税引き後の月間世帯収入として、1)500ユーロ未満、2)500~749ユーロ、3)750~999ユーロ、4)1000~1249ユーロ、5)1250~1499ユーロ、6)1500~1749ユーロ、7)1750~1999ユーロ、8)2000~2249ユーロ、9)2250~2499ユーロ、10)2500~2999ユーロ、11)3000~3999ユーロ、12)4000~4999ユーロ、13)5000ユーロ超、の13の等級に分類して評価された。
この表のサンプルを記述的に比較するため、個人にカテゴリ平均を割り当てた。
例えば、第2のカテゴリに属する参加者には、624.5ユーロという値を割り当てた。
運動加速強度の値が、それぞれ参加者全体と研究週全体で平均化された。
感情価については、級内相関係数(ICC)を使用して結果変数の分散推定値を計算した。
この研究では、感情価の分散の35.0%が被験者内変動によるものと考えられる。
【0038】
参加者は、研究について説明を受け、書面による同意を提出し、研究終了時に参加に対する金銭的報酬を受け取った。
参加者は、テストを含む広範な技術説明を対面形式で受け、その後、研究用のスマートフォンおよび加速度計を日常生活の中で連続7日間携帯した。
1週間後、参加者は、デバイスを返却し、訪れた最も重要な場所について報告した。
参加者の記憶を強化するために、一日再現法1(Day Reconstruction Method 1)に類似している確立された手順を適用した。
簡単に説明すると、訪問したすべての地理的位置と(スマートフォンで追跡することで)カバーされたルートとを示すタイムスタンプ付きデジタルマップ(movisens Geocoder)を使用した。
参加者は、すべての状況(自宅、職場、友人と外出中など)を遡ってラベル付けするように求められた。
これらの場所ラベルは、後に状況を表す3つのカテゴリ、「自宅」、「職場」、「その他」に割り当てられた。
これらの手順の前に、参加者は、
図3に詳述されているように、社会人口学的情報、身長と体重、および、いくつかの心理学的評価を含む一連の質問票を記入した。
【0039】
身体活動を評価するために、参加者は、起きている時間に右腰に3軸加速度計(Move IIまたはMove III、movisens GmbH、ドイツ)を7日間連続して装着した。
加速度計は、12ビットの分解能と64Hzのサンプリング周波数で最大±8gの動きを捕捉し、人間の身体活動を適切に評価する。
運動加速強度、すなわち、3つのセンサー軸で評価された加速度のベクトル振幅(ミリグラム単位[(g)/1000])を計算するために、movisens GmbHのソフトウェアDataAnalyzer(バージョン1.6.12129)を使用した。
つまり、重力成分は、ハイパスフィルター(0.25Hz)によって除去され、人為的要素(例えば、荒れた路面でのサイクリング時の振動やセンサーの衝撃)は、ローパスフィルター(11Hz)によって除去された。
軽い身体活動を区別するために、作業代謝量(MET)を計算した。
これは、エネルギー消費の尺度であり、作業時の代謝率と標準安静時の代謝率1.0(4.184kJ)*kg-1*h-1の比率として定義され、1METは、静かに座っている間の安静時の代謝率を表す。
METに基づいて、活動を、例えば、軽度身体活動(1.6~2.9MET)に分類可能である。
METは、ソフトウェアDataAnalyzer(movisens GmbH、ドイツ)を使用して計算した。
METの計算の前に、重力成分がハイパスフィルター(0.25Hz)によって除去され、人為的要素(例えば、荒れた路面でのサイクリング時の振動やセンサーの衝撃)がローパスフィルター(11Hz)によって除去された。
METは、2つの手順で計算された。
まず、加速度および気圧信号に基づいて活動クラスを推定した。
検出されたクラスに基づいて、MET計算用のモデルを選択し、移動加速度、気圧データから抽出された高度変化、年齢、性別、体重および身長に基づいてMET値を計算し、本明細書の他の箇所で記載した手順を確立した。
【0040】
電子日記とサンプリングとを用いる手法が、生態学的瞬間評価ソフトウェアmovisensXS、バージョン0.6.3658(movisensXS12)を用いて実行された。
徹底した指導の後、参加者は、スマートフォン(Motorola Moto G、Motorol aMobility)を7日間連続で携帯し、1日に複数回電子日記に記入するよう、音声、視覚、および振動信号によって促された。
この促しは、5分、10分、または15分延期可能であった。
促しは、時間と場所とを併用したサンプリング方式に基づいて実行された。
この方式は、従来の(間隔が長く忘れられやすい)時間基準のサンプリング方式よりも優れており、個人の関心が分散される。
研究を実施している週の日ごとに、電子日記の促しが、午前7時30分から午後10時30分の間に実行され、その促し同士の時間間隔は、最小40分、最大100分だった。
その結果、1日あたり合計9~23回、電子日記の記入が促された。
位置基準の促し実行アルゴリズムでは、参加者の現在の位置と以前の位置との間の距離を継続的に監視された。
距離が500メートルを超えると、促しが実行された。
さらに、参加者は、毎日2つの固定時刻(午前8時と午後10時20分)に促しが実行された。
【0041】
感情価を評価するために、研究では、被験者内の気分変動の測定に適切な信頼性と感度とを備えている、確立された2つの項目の短縮スケールを使用した。
これらの2つの項目は、コンピュータ上の2つの視覚アナログスケールにおいて、0から100の点数範囲で、昇順降順を逆にした(「満足」から「不満」、ドイツ語で「zufrieden」から「unzufrieden」、「非良好」から「良好」、ドイツ語で「unwohl」から「wohl」)双極性スケールとして提示された。
2つの項目のスコアは、後に修正され、平均化され、複数段階分析の従属変数として使用された。
電子日記の促し時の実際の社会的接触が、参加者に他の人と一緒にいるかどうかを尋ねる確立されたバイナリスケールによって評価された。
【0042】
トレーニングされたニューラルネットワークは、(個人のスマートフォンなどの)ローカルプロセッサ上、および/または仮想データ格納領域25内の両方で維持可能である。
モデルが(も)ローカルで維持される場合、定期的に仮想格納領域に転送され、更新されたデジタルマインドツイン40が、ローカルと仮想空間の両方で提供される。
【0043】
人間の心の精神状態をシミュレーションするコンピュータ実行方法のフロー図を
図2に示す。
このコンピュータ実行方法は、ステップ200で開始し、ステップ210で1つ以上のシミュレーションパラメータをデジタルツイン40に適用することを含んでいる。
デジタルツイン40は、上述のように事前プログラムされている。
シミュレーションパラメータ43は、複数の生理学的センサー80からの1つ以上の読み取り値、および/または環境センサー90からの1つ以上の読み取り値とすることができる。
【0044】
ステップ215で、デジタルツイン40は、人間の心をシミュレーションし、ステップ220で、1つ以上のシミュレーションパラメータ43により、デジタルツイン40は、1つ以上のシミュレーションパラメータ43とステップ230で送信された通知とに応答して、人間の心の挙動をシミュレーションするデジタルツイン出力45を生成する。
【0045】
デジタルツイン出力45の例には、アルコール乱用の再発を予測するなどのメンタルヘルス問題の初期兆候を指示または予測すること、気分と身体活動または社会的交流のレベルとの関係をユーザーにグラフィカルに表示してメンタルヘルス行動を促進すること、そのような行動をさらに促進すること、または、メタバース内で人間のユーザーを表すアバターの顔や体の表情を知らせる精神状態パラメータを出力すること、が含まれる。
【0046】
一態様では、精神データ格納領域27は、健康な人間に関するデータを含んでいてもよく、この方法は、ステップ225で、デジタルツイン出力45を健康な人間の反応と比較することを含んでいる。
この比較は、メンタルヘルスの問題の兆候/予測を改善するために使用可能である。
ステップ230の通知64によって、テキストメッセージまたは電話が人間および/または医師もしくは介護者になされることで、それらの人間が介入可能になる。
別の態様では、デジタルツイン出力45を、外部のアプリケーションまたはプラットフォームに転送することができる。
これは、人間のアバター上で感情にリンクされた表現を生成するグラフィックエンジン62であったり、出力された精神状態パラメータを用いて治療介入を目標にしたりサービスや製品を提案したりするアプリケーションであったりしてもよい。
【0047】
さらに、デジタルツイン40は、精神状態パラメータを表す訓練されたニューラルネットワークの予測特性に基づいて、心理療法的な仲介および他の形態の社会的交流のシミュレーションに用いられることで、人間の治療計画を支援可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 ・・・コンピュータ実行システム
20 ・・・メモリ
23 ・・・複数の指令
25 ・・・仮想データ格納領域
27 ・・・精神データ格納領域
30 ・・・プロセッサ
40 ・・・デジタルツイン
43 ・・・刺激パラメータ
45 ・・・デジタルツイン出力
50 ・・・モデル
60 ・・・グラフィカルユーザーインターフェース
62 ・・・グラフィックエンジン
64 ・・・通知
70 ・・・通知装置
80 ・・・生理学的センサー
90 ・・・環境センサー
【国際調査報告】