(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-10
(54)【発明の名称】多孔質ポリマー基材にグラフトされたブロックコポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 265/10 20060101AFI20250703BHJP
C08F 293/00 20060101ALI20250703BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20250703BHJP
B01D 61/18 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/78 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20250703BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20250703BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20250703BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20250703BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20250703BHJP
B01D 69/06 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
C08F265/10
C08F293/00
C08J9/36 CER
C08J9/36 CEZ
B01D61/18
B01D71/78
B01D71/40
B01D71/52
B01D39/16 C
B01D39/16 A
B01D39/16 B
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024571310
(86)(22)【出願日】2023-05-10
(85)【翻訳文提出日】2024-12-04
(86)【国際出願番号】 IB2023054840
(87)【国際公開番号】W WO2023248020
(87)【国際公開日】2023-12-28
(32)【優先日】2022-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2023-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062087
【氏名又は名称】ソルベンタム インテレクチュアル プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ダブリュ.ベイル
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド ケー.ラスムッセン
(72)【発明者】
【氏名】ナレンドラナート ボキシャム
【テーマコード(参考)】
4D006
4D019
4F074
4J026
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA09
4D006MA10
4D006MB09
4D006MB19
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4J026HB12
4J026HB35
4J026HB38
4J026HB45
4J026HE02
(57)【要約】
異なるサイズを有し、任意選択的に、異なるイオン性基を有する材料を含有する複合試料の分離に有用である分離物品が提供される。分離物品は、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して固体ポリマー基材にグラフトされた複数のブロックコポリマーを含む。ブロックコポリマーは、固体多孔質ポリマー基材の表面から延びている。ブロックは、サイズ排除又は立体排除を実現する外側ブロック(すなわち、第2のポリマーブロック)と、相補的な基を有する化合物と結合することができ、かつサイズ排除又は立体排除の第2のポリマーブロックを通過できるほど十分に小さい、酸性基若しくはその塩、塩基性基若しくはその塩、又はそれらの組み合わせを有する内側ブロック(すなわち、第1のポリマーブロック)と、を有する。分離物品は、例えば、試料中の生体材料の分離に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料である多孔質ポリマー基材と、
前記固体多孔質ポリマー基材にグラフトされ、前記固体多孔質ポリマー基材の表面から延びている複数のブロックコポリマー鎖であって、
a)前記固体多孔質ポリマー基材に共有結合で結合している第1のポリマーブロックであって、酸性基若しくはその塩を含む酸性モノマー単位、塩基性基若しくはその塩を含む塩基性モノマー単位、又はそれらの組み合わせを含む、第1のポリマーブロックと、
b)前記第1のポリマーブロックに共有結合で結びついている第2のポリマーブロックであって、
前記第1のポリマーブロックは前記第2のポリマーブロックと前記固体多孔質ポリマー基材との間に位置しており、前記第2のポリマーブロックはポリエーテル含有モノマー単位を含む、第2のポリマーブロックと、を含む複数のブロックコポリマー鎖と、を含む、分離物品。
【請求項2】
前記第1のポリマーブロックが、前記固体多孔質ポリマー基材の炭素原子に直接に共有結合で結合している、請求項1に記載の分離物品。
【請求項3】
前記酸モノマー及び/又は前記塩基性モノマーが、式(IV)
CH
2=CR
21-C(=O)-X
1-R
22-[Z-R
22]
n-L
(IV)
[式中、
R
21は水素又はメチルであり、
各R
22は、独立して、(ヘテロ)ヒドロカルビレンであり、
X
1は、-O-又は-NR
23-(式中、R
23は水素又はヒドロカルビルである)であり、
Zは、少なくとも1つの水素結合供与体、少なくとも1つの水素結合受容体、又はそれらの組み合わせを含むヘテロヒドロカルビレンであり、
nは0又は1の整数であり、
Lは、酸性基、塩基性基又はそれらの塩である、配位子官能基である]のもの又はその塩である、請求項1又は2に記載の分離物品。
【請求項4】
前記多孔質ポリマー基材が、粒子、繊維、フィルム、不織布ウェブ、膜、スポンジ、又はシートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の分離物品。
【請求項5】
前記多孔質ポリマー基材が、不織布ウェブ又は膜を含む、請求項4に記載の分離物品。
【請求項6】
前記第2のポリマーブロックが親水性又は水膨潤性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の分離物品。
【請求項7】
固体多孔質ポリマー基材と、前記固体ポリマー基材にグラフトされ、前記固体多孔質ポリマー基材の表面から延びている複数のブロックコポリマーと、を含む分離物品を作製する方法であって、
前記固体多孔質ポリマー基材を用意することと、
可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して、複数の第1のポリマーブロックを前記固体多孔質ポリマー基材にグラフトすることであって、前記第1のポリマーブロックは前記固体多孔質ポリマー基材に共有結合で結びつき、前記第1のポリマーブロックは、
1)エチレン性不飽和基と酸基若しくはその塩とを含む酸性モノマー、及び/又は
2)エチレン性不飽和基と塩基性基若しくはその塩とを含む塩基性モノマーを含む第1の重合性組成物の反応生成物である、グラフトすることと、
複数の第2のポリマーブロックを形成することであって、前記第2のポリマーブロックは、前記可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して前記第1のポリマーブロックに共有結合で結びつき、前記第1のポリマーブロックは、前記固体多孔質ポリマー基材と前記第2のポリマーブロックとの間に位置し、前記第2のポリマーブロックは、
1)少なくとも1つのエチレン性不飽和基とポリエーテル基とを含むポリエーテルモノマーを含む第2の重合性組成物の反応生成物である、形成することと、を含む、方法。
【請求項8】
前記可逆的不活性化ラジカル重合プロセスが、可逆的付加開裂連鎖移動重合プロセスである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記可逆的不活性化ラジカル重合プロセスが、チオカルボニルチオ含有化合物を重合制御剤として使用することを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記チオカルボニルチオ含有化合物が、式-S-C(=S)-R
1のチオカルボニルチオ含有基を有し、式中、
R
1は、アルコキシ、アラルキルオキシ、アルケニルオキシ又は-N(R
4)
2であり、
各R
4は、アルキルであるか、又は2つの隣接するR
4基は、それらが両方とも結合している窒素と組み合わされて、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する第1の複素環であって、飽和若しくは不飽和であり、任意選択的に、炭素環若しくは複素環である1つ以上の第2の環に縮合している、第1の複素環を形成する、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ブロックコポリマーが、前記固体多孔質ポリマー基材の炭素原子に直接に共有結合で結びつく、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のポリマーブロックを形成する前、前記第1のポリマーブロックが末端チオカルボニルチオ含有基又はセミピナコール基を有する、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
異なるサイズの、及び任意選択的に、異なるイオン含有量の材料の混合物を分離する方法であって、
固体多孔質ポリマー基材と、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して前記固体多孔質ポリマー基材にグラフトされた複数のブロックコポリマーであって、前記固体多孔質ポリマー基材の表面から延びており、
a)前記多孔質ポリマー基材に共有結合で結合した第1のポリマーブロックであって、相補的な基を有する材料と相互作用するための、酸基、塩基性基又はそれらの塩である、結合基を有する第1のモノマー単位を含む、第1のポリマーブロックと、
b)前記第1のポリマーブロックに共有結合で結びついた第2のポリマーブロックであって、前記第1のポリマーブロックは前記第2のポリマーブロックと前記固体多孔質ポリマー基材との間に位置しており、前記第2のポリマーブロックはポリエーテル含有モノマー単位を含む、第2のポリマーブロックと、を含む、複数のブロックコポリマーと、を含む分離物品を調製又は用意することと、
前記材料の混合物を前記分離物品に通すことであって、前記第2のポリマーブロックは、サイズ排除又は立体排除に基づいて前記材料の混合物を分離し、前記材料の一部分のみが前記第1のポリマーブロックの酸基、塩基性基、又はそれらの塩と接触することを可能にする、通すことと、を含む、方法。
【請求項14】
前記材料の混合物が生体材料を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分離物品、分離物品を作製する方法、及び様々な材料(例えば、生体材料)を分離する方法が提供される。分離物品は、固体である多孔質ポリマー基材にグラフトされたブロックコポリマーを含む。ブロックコポリマーは、サイズ排除を実現する第2のポリマーブロックと、第2のポリマーブロックによって排除されない生体材料上の酸性基又は塩基性基に結合することができる第1のポリマーブロックと、を有する。
【0002】
第1の態様では、(1)固体である多孔質ポリマー基材と、(2)この固体多孔質ポリマー基材にグラフトされ、固体多孔質ポリマー基材の表面から延びている複数のブロックコポリマー鎖と、を含む分離物品が提供される。ブロックコポリマー鎖は、(a)多孔質ポリマー基材に共有結合で結合している第1のポリマーブロックと、(b)第1のポリマーブロックに共有結合で結びついている第2のポリマーブロックであって、第1のポリマーブロックは第2のポリマーブロックと多孔質ポリマー基材との間に位置している、第2のポリマーブロックと、を含む。第1のポリマーブロックは、酸性基若しくはその塩を含む酸性モノマー単位、塩基性基若しくはその塩を含む塩基性モノマー単位、又はそれらの組み合わせである第1のモノマー単位を含む。第2のポリマーブロックは、ポリエーテル含有モノマー単位を含む。
【0003】
第2の態様では、分離物品を作製する方法が提供される。分離物品は、固体である多孔質ポリマー基材と、この多孔質ポリマー基材にグラフトされ、多孔質ポリマー基材の表面から延びている複数のブロックコポリマーと、を含む。本方法は、多孔質ポリマー基材を用意することと、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して、複数の第1のポリマーブロックを多孔質ポリマー基材にグラフトすることであって、第1のポリマーブロックは多孔質ポリマー基材に共有結合で結びつく、グラフトすることと、を含む。第1ポリマーブロックは、1)エチレン性不飽和基と酸基若しくはその塩とを含む酸性モノマー、2)エチレン性不飽和基と塩基性基若しくはその塩とを含む塩基性モノマー、又は3)それらの組み合わせを含む第1の重合性組成物の反応生成物である。本方法は、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して複数の第2ポリマーブロックを形成することであって、第2のポリマーブロックは、第1のポリマーブロックに共有結合で結びつき、第1のポリマーブロックは、多孔質ポリマー基材と第2のポリマーブロックとの間に位置する、形成することを更に含む。第2のポリマーブロックは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とポリエーテル基とを含むポリエーテル含有モノマーを含む第2の重合性組成物の反応生成物である。
【0004】
第3の態様では、異なるサイズ、及び任意選択的に、異なるイオン電荷を有する材料の混合物の分離方法が提供される。本方法は、固体である多孔質ポリマー基材と、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用してこの多孔質ポリマー基材にグラフトされた複数のブロックコポリマーであって、多孔質ポリマー基材の表面から延びている、複数のブロックコポリマーと、を含む分離物品を調製又は用意することを含む。ブロックコポリマーは、(1)固体多孔質ポリマー基材に共有結合で結合した第1のポリマーブロックと、(2)第1のポリマーブロックに共有結合で結びついた第2のポリマーブロックであって、第1のポリマーブロックは第2のポリマーブロックと多孔質ポリマー基材との間に位置している、第2のポリマーブロックと、を含む。第1のポリマーブロックは、相補的な基を有する材料と相互作用するための、酸基若しくはその塩、塩基性基若しくはその塩、又はそれらの組み合わせである結合基を有する第1のモノマー単位を含む。第2のポリマーブロックは、ポリエーテル含有モノマー単位を含む。本方法は、材料の混合物を分離物品に通すことであって、第2のポリマーブロックは、サイズ排除又は立体排除に基づいて材料の混合物を分離し、材料の一部分のみが第1のポリマーブロックの酸基、塩基性基、又はそれらの塩と接触することを可能にする、通すことを更に含む。
【発明を実施するための形態】
【0005】
異なるサイズ、及び任意選択的に、異なるイオン電荷を有する材料の混合物を含有する複合試料の分離に有用である分離物品が提供される。分離物品は、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して固体である多孔質ポリマー基材にグラフトされた複数のブロックコポリマーを含む。ブロックコポリマーは、多孔質ポリマー基材の表面から延びている。ブロックコポリマーは、サイズ排除又は立体排除を実現する外側ポリマーブロック(すなわち、第2のポリマーブロック)と、相補的な基を有する材料と結合することができ、かつサイズ排除又は立体排除の第2のポリマーブロックを通過できるほど十分に小さい、酸性基若しくはその塩、塩基性基若しくはその塩、又はそれらの組み合わせを有する内側ポリマーブロック(すなわち、第1のポリマーブロック)と、を有する。分離物品は、例えば、試料中の生体材料の分離に使用することができる。
【0006】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1つ」という用語は、互換的に使用される。
【0007】
「及び/又は」という用語は、いずれか又は両方を意味する。例えば、「A及び/又はB」は、A単独、B単独、又はA及びBの両方を意味する。
【0008】
「アルキル」という用語は、アルカンのラジカルである一価の基を指す。アルキル基は、1~32個の炭素原子、1~20個の炭素原子、1~12個の炭素原子、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を有することができる。アルキルは、直鎖、分岐鎖、環状、又はそれらの組み合わせであることができる。直鎖アルキルは少なくとも1個の炭素原子を有する一方、環状アルキルは少なくとも3個の炭素原子を有し、分岐鎖アルキルは少なくとも2個の炭素原子を有する。
【0009】
「アルキレン」という用語は、アルカンのラジカルである二価の基を指す。アルキレン基は、1~32個の炭素原子、1~20個の炭素原子、1~12個の炭素原子、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を有することができる。アルキレンは、直鎖、分岐鎖、環状、又はそれらの組み合わせであることができる。直鎖アルキレンは少なくとも1個の炭素原子を有するが、環状アルキレンは少なくとも3個の炭素原子を有し、分岐鎖アルキレンは少なくとも2個の炭素原子を有する。
【0010】
「アルコキシ」という用語は、式-ORa(式中、Raは、上で定義したアルキルである)の一価の基を指す。
【0011】
「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する炭化水素化合物であるアルケンのラジカルである一価の基を指す。いくつかの実施形態では、アルケニルは、単一の炭素-炭素二重結合を有する。いくつかのより具体的な実施形態では、アルケニルは、エチレン性不飽和基を有する(炭素-炭素二重結合は、鎖中の最後の2個の炭素原子の間にある)。アルケニルは、直鎖、分岐鎖、又は環状であることができる。アルケニルは、多くの場合、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、又は少なくとも5個の炭素原子を有し、最大32個の炭素原子、最大24個の炭素原子、最大20個の炭素原子、最大12個の炭素原子、最大10個の炭素原子、又は最大5個の炭素原子を有することができる。
【0012】
「アルケニルオキシ」という用語は、式-ORb(式中、Rbは、上で定義したアルケニルである)の一価の基を指す。
【0013】
「アリール」という用語は、芳香族炭素環式化合物のラジカルである一価の基を指す。アリール基は、少なくとも1つの芳香族炭素環を有し、芳香族炭素環に結合又は縮合している1~3つの任意選択の環を有することができる。追加の環は、芳香族、脂肪族、又はそれらの組み合わせであることができる。アリール基は、通常、5~20個の炭素原子又は6~10個の炭素原子を有する。
【0014】
「アリーレン」という用語は、芳香族炭素環式化合物のラジカルである二価の基を指す。アリーレン基は、少なくとも1つの芳香族炭素環を有し、芳香族炭素環に結合又は縮合している1~3つの任意選択の環を有することができる。追加の環は、芳香族、脂肪族、又はそれらの組み合わせであることができる。アリーレン基は、通常、5~20個の炭素原子又は6~10個の炭素原子を有する。
【0015】
「アラルキル」という用語は、少なくとも1つのアリール基で置換されたアルキル基を指す。すなわち、アラルキル基は、式-Rd-Ar(式中、Rdはアルキレンであり、Arは上で定義したアリールである)で表される。アラルキル基は、6~40個の炭素原子を含有する。アラルキル基は、多くの場合、1~20個の炭素原子又は1~10個の炭素原子を有するアルキレン基と、5~20個の炭素原子又は6~10個の炭素原子を有するアリール基とを含有する。
【0016】
「アラルキレン」という用語は、少なくとも1つのアリール基で置換されたアルキレン基を指す。
【0017】
「アラルキルオキシ」という用語は、式-O-Rd-Ar(式中、Rd及びArは、アラルキルについて上で定義したものと同じである)で表される一価の基を指す。
【0018】
「アルカリール」という用語は、少なくとも1つのアルキル基で置換されたアリール基を指す。すなわち、アルカリール基は、式-Ar1-Ra(式中、Ar1はアリーレンであり、Raはアルキルである)で表される。アルカリール基は、6~40個の炭素原子を含有する。アルカリール基は、多くの場合、5~20個の炭素原子又は6~10個の炭素原子を有するアリーレン基と、1~20個の炭素原子又は1~10個の炭素原子を有するアルキル基とを含有する。
【0019】
「ボロン酸基」及び「ボロナート」という用語は、式-B(OH)2の基を指すために互換的に使用される。ボロン酸基は、カチオン性対イオンを有する塩の形態で存在することができる。
【0020】
「カルボン酸基」及び「カルボキシ」という用語は、式-C(=O)-OHの基を指すために互換的に使用される。カルボン酸基は、カチオン性対イオンを有する塩の形態で存在することができる。
【0021】
「イニファータ」という用語は、適切な条件下で、フリーラジカル開始剤として、連鎖移動剤として、又はフリーラジカル連鎖停止剤として機能することができる基を指すために使用される。UV線によって活性化されるイニファータは、「光イニファータ」と呼ぶことができる。本明細書に記載されるイニファータは、典型的には、可逆的付加開裂連鎖移動(reversible addition-fragmentation chain transfer、RAFT)重合プロセスでの使用に好適であり、RAFT剤と呼ばれる場合がある。
【0022】
「ヒドロカルビル」という用語は、炭化水素の一価ラジカルを指す。ヒドロカルビルは、飽和、部分不飽和、又は不飽和であることができ、最大20個の炭素原子、最大10個の炭素原子、最大6個の炭素原子、又は最大4個の炭素原子を有することができる。それは、多くの場合、少なくとも1個の炭素原子又は少なくとも2個の炭素原子を有する。ヒドロカルビルは、多くの場合、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリールである。
【0023】
「ヒドロカルビレン」という用語は、炭化水素の二価ラジカルを指す。ヒドロカルビレンは、飽和、部分不飽和、又は不飽和であることができ、最大40個の炭素原子、最大20個の炭素原子、最大10個の炭素原子、最大6個の炭素原子、又は最大4個の炭素原子を有することができる。それは、多くの場合、少なくとも1個の炭素原子又は少なくとも2個の炭素原子を有する。ヒドロカルビルは、多くの場合、アルキレン、アリーレン、アラルキレン、又はアルカリーレンである。
【0024】
「鎖状連結原子(catenated atom)」という用語は、(鎖置換基の原子ではなく)鎖内原子を指す。
【0025】
「鎖状連結ヘテロ原子」という用語は、炭素鎖中の1つ以上の炭素原子がヘテロ原子に置き換えられていることを意味する。ヘテロ原子は、典型的には、酸素、硫黄、又は窒素である。
【0026】
「流体」という用語は、液体及び/又は気体を指す。
【0027】
「グラフト密度」という用語は、基材にグラフトされたモノマー単位の1グラム当たりのミリモルを指す。ミリモルは、質量増加をモノマーの分子量で割り、1000を掛けることによって計算される。この値は、次いで、基材の元の質量(グラム)で割ることによって正規化される。グラフト密度は、基材1グラム当たりのグラフトされたモノマー単位のミリモル(ミリモル/グラム)として表される。明確にするために、グラフトされる材料は、典型的には、複数のモノマー単位を含有するポリマー材料である。
【0028】
「ヘテロ原子」という用語は、炭素又は水素以外の原子を意味する。ヘテロ原子は、典型的には、硫黄、窒素、又は酸素である。
【0029】
「ヘテロヒドロカルビル」という用語は、全てではないが少なくとも1個の鎖状連結炭素原子が、酸素(-O-)、硫黄(-S-)、及び窒素(例えば、-NH-)から選択されるヘテロ原子で置き換えられたヒドロカルビルを指す。
【0030】
「(ヘテロ)ヒドロカルビル」という用語は、ヒドロカルビル、ヘテロヒドロカルビル、又はその両方を指す。
【0031】
「ヘテロヒドロカルビレン」という用語は、全てではないが少なくとも1個の鎖状連結炭素原子が、酸素(-O-)、硫黄(-S-)、及び窒素(例えば、-NH-)から選択されるヘテロ原子で置き換えられたヒドロカルビレンを指す。
【0032】
「(ヘテロ)ヒドロカルビレン」という用語は、ヒドロカルビレン、ヘテロヒドロカルビレン、又はその両方を指す。
【0033】
「ヘテロアラルキレン」という用語は、アリール基中にヘテロ原子を有するアラルキレンを指す。別の言い方をすれば、それは、ヘテロアリールに結合したアルキレンであり、ここで、ヘテロアリールは、環炭素原子の1つが酸素(-O-)、硫黄(-S-)、及び窒素(例えば、-NH-)から選択されるヘテロ原子で置き換えられたアリールである。
【0034】
「水素結合受容体」という用語は、孤立電子対を有する酸素、窒素、及び硫黄から選択されるヘテロ原子を指す。水素結合受容体は、多くの場合、カルボニル、カルボニルオキシ、又はエーテル酸素である。
【0035】
「水素結合供与体」という用語は、酸素、窒素、及び硫黄から選択されるヘテロ原子に共有結合で結びついた水素原子からなる部分を指す。水素結合供与体は、多くの場合、イミノ、チオ、又はヒドロキシである。
【0036】
「水素結合部分」という用語は、少なくとも1つの水素結合供与体と少なくとも1つの水素結合受容体とを含む部分を意味する。
【0037】
「イミノカルボニルイミノ」という用語は、式
-N(Re)-C(=O)-N(Re)-[式中、各Reは、独立して、水素、アルキル(例えば、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される)、又はアリールである]の二価の基又は部分を意味する。多くの場合、一方又は両方のRe基は水素である。
【0038】
「イミノチオカルボニルイミノ」という用語は、式
-N(Re)-C(=S)-N(Re)-[式中、各Reは、独立して、水素、アルキル(例えば、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される)、又はアリールである]の二価の基又は部分を意味する。多くの場合、一方又は両方のRe基は水素である。
【0039】
「イソシアナト」という用語は、式-N=C=Oの基を意味する。
【0040】
「改質基材」という用語は、共有結合で結合した複数のチオカルボニルチオ含有基又はセミピナコール含有基を有するポリマー基材(例えば、多孔質ポリマー基材)を指す。
【0041】
「オキシカルボニルイミノ」という用語は、式
-O-C(=O)-N(Re)-[式中、Reは、水素、アルキル(例えば、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される)、又はアリールである]の二価の基又は部分を意味する。多くの場合、Re基は水素である。
【0042】
「オキシチオカルボニルイミノ」という用語は、式
-O-C(=S)-N(Re)-[式中、Reは、水素、アルキル(例えば、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される)、又はアリールである]の二価の基又は部分を意味する。多くの場合、Re基は水素である。
【0043】
「エチレン性不飽和」という用語は、式-CY=CH2[式中、Yは水素又はヒドロカルビル(例えば、アルキル又はアリール)である]の基を意味する。
【0044】
「ホスホン酸基」及び「ホスホノ」という用語は、式-PO3H2の基を互換的に指し、この基は、酸素原子に結合していない(それは、通常、炭素原子に結合している)。ホスホン酸基は、カチオン性対イオンを有する塩として存在することができる。
【0045】
「リン酸基」及び「ホスファト」という用語は、式-OPO3H2の基を互換的に指す。リン酸基は、カチオン性対イオンを有する塩として存在することができる。
【0046】
「ポリマー」及び「ポリマー材料」という用語は、互換的に使用され、1つ以上のモノマーを反応させることによって形成される材料を指す。これらの用語は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどを含む。同様に、「重合する(polymerize)」及び「重合すること(polymerizing)」という用語は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどであり得るポリマー材料を作製するプロセスを指す。
【0047】
「可逆的不活性化ラジカル重合」又は「RDRP(reversible deactivation radical polymerization)」という用語は、成長鎖が迅速かつ可逆的に活性化及び不活性化される重合プロセスを指す。複数のRDRP技術が利用可能であるが、これらのうち最も一般的なものは、a)安定なラジカル媒介重合(例えば、ニトロキシド媒介重合又はNMP(nitroxide mediated polymerization))、b)原子移動ラジカル重合(又はATRP(atom transfer radical polymerization))、及びc)可逆的付加開裂連鎖移動重合(又はRAFT)である。これらのプロセスの工業的利用の概説については、M.Destarac,Polymer Chemistry,2018,Vol.9,Issue 40,pp.4947-4967を参照されたい。本明細書で使用される場合、セミピナコール含有基によって媒介されるプロセスは、RDRP重合プロセスであると考えられる。
【0048】
「セミピナコール」という用語は、基材に共有結合で結合している一価の基を指す。セミピナコール基は、多くの場合、炭素原子を介して結合した2つの芳香環を有し、この炭素原子はまた、基材及びヒドロキシ基にも結合している。セミピナコール基は、多くの場合、式(A)又は式(B)で表される。
【0049】
【0050】
各Rx及びRyは、水素、アルキル、例えば、1~4個の炭素原子を有するアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、例えば、1~4個の炭素原子を有するアルコキシ、ハロ、スルホ、又はスルホアルキレンオキシ、例えば、1~4個の炭素原子を有するスルホアルキレンオキシである。基Xは、単結合、1~3個の炭素原子を有するアルキレン、又は-O-若しくは-S-などのヘテロ原子である。アスタリスク(*)は、セミピナコール基の基材への結合部位を示す。セミピナコール基は、典型的には、基材から水素を引き抜くことによってセミピナコールラジカルを形成して、処理された基材ラジカルを形成するII型光開始剤のUV励起によって形成される。次いで、これらの2つのラジカルが組み合わされて、セミピナコール基が基材に共有結合で結合する。
【0051】
「スルホン酸基」及び「スルホノ」という用語は、式-SO3Hの基を互換的に指し、この基は、酸素原子に結合していない(それは、通常、炭素原子に結合している)。スルホン酸基は、カチオン性対イオンを有する塩として存在することができる。
【0052】
「硫酸基」及び「スルファト」という用語は、式-OSO3Hの基を互換的に指す。硫酸基は、カチオン性対イオンを有する塩として存在することができる。
【0053】
「チオカルボニルイミノ」という用語は、式-C(=S)NRe-[式中、Reは、水素、アルキル(例えば、1~4個の炭素原子を有するアルキル基から選択される)、又はアリールである]の二価の基又は部分を意味する。基Reは、多くの場合、水素である。
【0054】
「チオカルボニルチオ」という用語は、二価の基-S-C(=S)-を指す。
【0055】
「処理された基材」という用語は、チオカルボニルチオ含有化合物又はセミピナコールラジカルなどの別の化合物との反応に利用可能な複数のフリーラジカルを有するポリマー基材を指す。
【0056】
「の範囲(in a range of)」又は「の範囲内(in the range of)」という用語は、範囲内の全ての値と範囲の終点とを指すために互換的に使用される。
【0057】
分離物品は、固体である多孔質ポリマー基材と、この多孔質ポリマー基材にグラフトされ、多孔質ポリマー基材の表面から延びている複数のブロックコポリマーと、を含む。ブロックコポリマーは、典型的には、多孔質ポリマー基材に共有結合で結合している第1のポリマーブロックと、第1のポリマーブロックに共有結合で結合している第2のポリマーブロックであって、第1のポリマーブロックは多孔質ポリマー基材と第2のポリマーブロックとの間に位置している、第2のポリマーブロックと、を含む。第1のポリマーブロックは、複数の酸性モノマー単位若しくはその塩、塩基性モノマー単位若しくはその塩、又はそれらの組み合わせを有し、第2のポリマーブロックは、任意選択的に架橋することができる複数のポリエーテル含有モノマー単位を有する。
【0058】
分離物品は、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して、複数の第1のポリマーブロックを、固体である多孔質ポリマー基材にグラフトすることであって、第1のポリマーブロックは多孔質ポリマー基材に共有結合で結びつく、グラフトすることによって調製することができる。ほとんどの実施形態では、第1のポリマーブロックは、多孔質ポリマー基材のポリマー材料の主鎖中の炭素原子に直接に結合する。第1ポリマーブロックは、1)エチレン性不飽和基と酸基若しくはその塩とを含む酸性モノマー、2)エチレン性不飽和基と塩基性基若しくはその塩とを含む塩基性モノマー、又は3)それらの組み合わせを含む第1の重合性組成物の反応生成物である。複数の第2のポリマーブロックは、可逆的不活性化ラジカル重合プロセスを使用して第1のポリマーブロックに共有結合で結びつく。第2のポリマーブロックは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とポリエーテル基とを含むポリエーテル含有モノマーを含む第2の重合性組成物の反応生成物である。第1のポリマーブロックは、第2のポリマーブロックと固体多孔質ポリマー基材との間に位置する。追加のポリマーブロックを第2のポリマーブロックに共有結合で結合させることができるが、分離物品は、典型的には、複数の結合されたジブロックコポリマーを有する。
【0059】
多孔質ポリマー基材
分離物品は、固体である多孔質ポリマー基材を有する。多孔質ポリマー基材に関する「固体」という用語は、基材が液体ではなく、溶液に溶解していないことを意味する。多孔質ポリマー基材の細孔は、任意の所望の平均サイズを有することができる。いくつかの実施形態では、細孔は、マクロ多孔質、メソ多孔質、ミクロ多孔質、又はそれらの混合である。本明細書で使用される場合、「マクロ多孔質」という用語は、50ナノメートルを超える直径の細孔を有するポリマー基材を指し、「メソ多孔質」という用語は、2ナノメートル~50ナノメートルの範囲の直径の細孔を有するポリマー基材を指し、「ミクロ多孔質」という用語は、2ナノメートル未満の直径の細孔を有する材料を指す。
【0060】
「固体多孔質ポリマー基材」、「多孔質ポリマー基材」、「ポリマー基材」、「基材」という用語、及び同様のバリエーションは、本明細書において互換的に使用することができる。
【0061】
多孔質ポリマー基材は、任意の所望のサイズ、形状、及び形態を有することができる。例えば、多孔質ポリマー基材は、粒子、繊維、フィルム、不織布ウェブ、織布ウェブ、膜、スポンジ、又はシートの形態であることができる。いくつかの例では、ポリマー基材は、多孔質膜又は多孔質不織布ウェブである。大きな分離物品又は多くの分離物品を調製するために、また製造を容易にするために、ポリマー基材は、フィルム、不織布ウェブ、織布ウェブ、膜、スポンジ、又はシートのロールなどのロールの形態であることができるか、又はロールから形成することができる。これにより、ロールツーロール処理を使用して分離物品を調製することが可能になる。多孔質ポリマー基材は、同じか又は異なるポリマー材料の単一層又は複数の層を含むことができる。
【0062】
多孔質ポリマー基材は、多くの場合、熱可塑性材料から形成される。好適な熱可塑性物としては、ポリオレフィン、ポリ(イソプレン)、ポリ(ブタジエン)、フッ素化ポリマー、塩素化ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(スルホン)、ポリ(酢酸ビニル)及びそのコポリマー、例えばポリ(エチレン)-co-ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(乳酸)などのポリエステル、ポリ(ビニルアルコール)及びそのコポリマー、例えばポリ(エチレン)-co-ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(カーボネート)、ポリウレタン、ポリ((メタ)アクリレート)及びそのコポリマー、並びにそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
多孔質ポリマー基材に好適なポリオレフィンとしては、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(1-ブテン)、エチレンとプロピレンとのコポリマー、アルファオレフィンコポリマー(例えば、エチレン又はプロピレンと、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び1-デセンとのコポリマー)、ポリ(エチレン-co-1-ブテン)、ポリ(エチレン-co-1-ブテン-co-1-ヘキセン)、ポリ(ブタジエン)及びそのコポリマー、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
多孔質ポリマー基材に好適なフッ素化ポリマーとしては、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンのコポリマー(例えば、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン))、クロロトリフルオロエチレンのコポリマー(例えば、ポリ(エチレン-co-クロロトリフルオロエチレン))、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
多孔質ポリマー基材に好適なポリアミドとしては、様々なナイロン組成物、例えば、ポリ(イミノアジポイルイミノヘキサメチレン)、ポリ(イミノアジポイルイミノデカメチレン)、ポリカプロラクタム、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。好適なポリイミドとしては、ポリ(ピロメリットイミド)、及びその組み合わせが挙げられる。
【0066】
多孔質ポリマー基材に好適なポリ(エーテルスルホン)としては、ポリ(ジフェニルエーテルスルホン)、ポリ(ジフェニルスルホン-co-ジフェニレンオキシドスルホン)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0067】
多孔質ポリマー基材に好適な酢酸ビニルのコポリマーとしては、エチレンと酢酸ビニルとのコポリマー、及び酢酸ビニルと、ビニルアルコールと、エチレンとのターポリマーが挙げられる。
【0068】
いくつかの実施形態では、多孔質ポリマー基材は、サイズ排除分離を最小化し、拡散制約を最小化し、表面積及び分離を最大化するために、多くの場合0.1マイクロメートルを超える平均孔径(細孔の平均最長径)を有する多孔質膜である。概して、平均孔径は、0.1~10マイクロメートルの範囲内であることができる。例えば、平均孔径は、少なくとも0.2マイクロメートル、少なくとも0.4マイクロメートル、少なくとも0.6マイクロメートル、又は少なくとも0.8マイクロメートル、かつ最大8マイクロメートル、最大6マイクロメートル、最大4マイクロメートル、又は最大2マイクロメートルである。
【0069】
多孔質ポリマー基材は、熱誘起相分離(thermally induced phase separation、TIPS)膜などのマクロ多孔質膜であることができる。TIPS膜は、多くの場合、熱可塑性材料と、熱可塑性材料の融点を超える第2の材料との溶液を形成することによって調製される。冷却すると、熱可塑性材料は結晶化し、第2の材料から相分離する。結晶化した材料は、多くの場合、延伸される。第2の材料は、延伸の前又は後のいずれかで任意選択的に除去される。マクロ多孔質膜は、米国特許第4,539,256号(Shipman)、同第4,726,989号(Mrozinski)、同第4,867,881号(Kinzer)、同第5,120,594号(Mrozinski)、同第5,260,360号(Mrozinski)、及び同第5,962,544号(Waller,Jr.)に更に記載されている。いくつかの例示的なTIPS膜は、ポリ(フッ化ビニリデン)(poly(vinylidene fluoride)、PVDF)、ポリ(エチレン)又はポリ(プロピレン)などのポリオレフィン、ビニル含有ポリマー又はコポリマー、例えばエチレン-ビニルアルコールコポリマー及びブタジエン含有ポリマー又はコポリマー、並びに(メタ)アクリレート含有ポリマー又はコポリマーを含む。PVDFを含むTIPS膜は、米国特許第7,338,692号(Smithら)に更に記載されている。
【0070】
いくつかの実施形態では、多孔質ポリマー基材としては、ナイロンマクロ多孔質フィルム又はシート(例えば、マクロ多孔質膜)、例えば、米国特許第6,056,529号(Meyeringら)、同第6,267,916号(Meyeringら)、同第6,413,070号(Meyeringら)、同第6,776,940号(Meyeringら)、同第3,876,738号(Marinaccioら)、同第3,928,517号(Knightら)、同第4,707,265号(Barnes,Jr.ら)、及び同第5,458,782号(Houら)に記載されているものを挙げることができる。
【0071】
他の実施形態では、多孔質ポリマー基材は、不織布ウェブを製作するための一般的に知られている方法のいずれかによって製造された不織布ウェブを含むことができる不織布ウェブであることができる。本明細書で使用される場合、「不織布ウェブ」という用語は、マット様にランダムに及び/又は一方向に交互配置されている個々の繊維又はフィラメントの構造を有する布を指す。
【0072】
例えば、繊維性不織布ウェブは、ウェットレイド、カード、エアレイド、スパンレース、スパンボンド、若しくはメルトブローイング技術、又はそれらの組み合わせによって作製することができる。スパンボンド繊維は、典型的には、溶融した熱可塑性ポリマーをフィラメントとして、紡糸口金の複数の微細な、通常は円形のキャピラリーから押し出すことによって形成される小径繊維であり、その押し出された繊維の直径は急速に小さくなる。メルトブローン繊維は、典型的には、溶融した熱可塑性材料を、複数の微細な、通常は円形のダイキャピラリーを通して、溶融した糸又はフィラメントとして、高速の、通常は加熱されたガス(例えば、空気)流中に押し出すことによって形成され、これにより溶融した熱可塑性材料のフィラメントは細くなり、直径は小さくなる。その後、メルトブローン繊維は、高速ガス流によって運ばれ、捕集面上に堆積されて、ランダムに分散されたメルトブローン繊維のウェブを形成する。不織布ウェブのいずれも、単一の種類の繊維から、又は熱可塑性ポリマーの種類及び/若しくは厚さが異なる2種以上の繊維から作製することができる。
【0073】
有用な不織布ウェブの製造方法に関する更なる詳細は、Wenteの「Superfine Thermoplastic Fibers,」Indus.Eng.Chem.,48,1342(1956)及びWenteらの「Manufacture of Superfine Organic Fibers,」Naval Research Laboratories Report No.4364(1954)に記載されている。
【0074】
不織布ウェブ基材は、任意選択的に、1つ以上のスクリム層を更に含んでもよい。例えば、不織布ウェブの主表面のいずれか又は両方は、各々任意選択的に、スクリム層を更に含んでもよい。典型的には繊維から作製された織布又は不織布補強層であるスクリムは、不織布ウェブに強度を提供するために含まれる。好適なスクリム材料としては、ナイロン、ポリエステル、繊維ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。スクリムの平均厚さは、様々であり得るが、多くの場合、約25~約100マイクロメートル、好ましくは約25~約50マイクロメートルの範囲である。スクリム層は、任意選択的に、不織布物品に結合してもよい。スクリムを不織布に結合させるために、様々な接着材料を使用することができる。あるいは、スクリムは不織布ウェブに熱結合され得る。
【0075】
不織布基材の多孔性は、典型的には、孔径ではなく、繊維径、又は基本重量、又はソリディティなどの特性によって特徴付けられる。不織布基材の繊維は、典型的には、Davies,C.N.,「The Separation of Airborne Dust and Particles,」Institution of Mechanical Engineers,London,Proceedings 1B,1952に記載されている方法に従って計算する場合、少なくとも0.5、1、2、又は更には4マイクロメートル、かつ最高でも15、10、8、又は更には6マイクロメートルの有効繊維径を有するマイクロファイバーである。不織布基材は、好ましくは、少なくとも5、10、20、又は更には50g/m2、かつ最高でも800、600、400、200、又は更には100g/m2の範囲内の基本重量を有する。不織布ウェブの最小引張強度は、約4.0ニュートンである。クロスウェブ方向におけるより良好な繊維結合及び交絡のために、機械方向の不織布基材の引張強度は、クロスウェブ方向よりも低いことが一般に認識されている。不織布ウェブロフトは、ウェブの体積中の固体分率を定義するパラメータであるソリディティによって測定される。より低いソリディティ値は、より大きいウェブロフトを示す。ソリディティ(α)は、α=mf÷ρf×L不織布(式中、mfは試料表面積当たりの繊維質量であり、ρfは繊維密度であり、L不織布は不織布厚さである)によって典型的に表される単位のない分率である。ソリディティは、本明細書では、不織布基材自体を指すために使用され、官能化不織布基材を指すためには使用されない。不織布基材が2種類以上の繊維の混合物を含有する場合、個々のソリディティは、同じL不織布を使用して各種類の繊維について決定され、これらの個々のソリディティは、ウェブのソリディティαを得るために一緒に合計される。
【0076】
第1のポリマーブロックの多孔質ポリマー基材へのグラフト
複数のブロックコポリマーは、制御ラジカル重合とも呼ばれる場合がある可逆的不活性化ラジカル重合(RDRP)を使用して多孔質ポリマー基材の表面にグラフトされる。この重合法では、例えばProgress in Polymer Science,2020,111,101311におけるN.Corriganらの論文に記載されているような、停止反応が最小限に抑えられるという意味でリビング重合法を模倣する条件下で、フリーラジカル重合を行うことができる。RDRPを使用して、ポリマーアーキテクチャ、微細構造、分子量、及び分子量分布は、典型的には、溶液重合反応のために制御することができる。
【0077】
RDRPプロセスは、多孔質基材を共有結合的に改質するために利用することができる。RDRP開始剤の基材への結合は、表面開始RDRP(surface-initiated RDRP、SI-RDRP)、又は基材の表面からのグラフト重合を行うことを可能にする(上記のProgress in Polymer Scienceの論文を参照されたい)。RDRP開始剤の多孔質ポリマー基材への結合は、多くの場合、非常に困難であり、複数の合成工程を必要とし、基材に非常に依存する可能性がある。多孔質ポリマー基材は、典型的には、通常は縮合反応を介して、RDRP開始剤が共有結合で結合することができる官能基を有していなければならない。例えば、カルボン酸含有RDRP剤は、セルロースヒドロキシル基へのエステル化によってセルロース膜又は繊維に共有結合で結合することができる。適切な官能基が利用可能でない場合は、官能基を導入するために、最初に基材を化学的に改質しなければならない。
【0078】
化学的改質を必要とせずに、RDRP剤を固体ポリマー基材に直接に結合させるための単純で工業的に実現可能な方法は、米国特許出願公開第2021/0095088号(Rasmussenら)に記載された。より具体的には、複数のチオカルボニルチオ含有基は、固体多孔質ポリマー基材に直接に共有結合で結びつくことができる。チオカルボニルチオ含有基は、典型的には、ポリマー基材中のポリマー材料の主鎖中の炭素原子に直接に共有結合で結合する。直接に結合したRDRP剤(例えば、チオカルボニルチオ含有基)を有するこれらの改質基材は、RDRP開始剤又は光イニファータとして使用することができる。このアプローチは、米国特許出願公開第2020/0368694号(Rasmussenら)に示されているように、様々なフリーラジカル重合性モノマーの基材へのグラフトを可能にする。このアプローチを、本明細書では「グラフト法1」と呼び、以下で更に説明する。
【0079】
別の単純で工業的に実現可能な方法では、RDRP剤を溶液中でモノマーと組み合わせる。グラフト法1とは異なり、モノマーの重合前に行われる、直接に共有結合で結合した複数のチオカルボニルチオ含有基を有する改質基材を形成する別個の工程はない。むしろ、チオカルボニルチオ含有化合物及びII型光開始剤を、溶液中でモノマーと組み合わせる。溶液を基材にコーティングし、次いで、コーティングされた基材を化学線照射(例えば、UV照射)に供する。光活性基材を使用する場合、II型光開始剤は任意選択である。この方法を、本明細書では「グラフト法2」と呼び、以下で更に説明する。
【0080】
「グラフト法2」の改質では、基材をe-ビーム照射によって処理された基材に変換し、次いで、処理された基材を、モノマー及びRDRP剤を含む溶液と組み合わせる。
【0081】
チオカルボニルチオ含有化合物及びチオカルボニルチオ含有基は、RAFT剤として有用であることが知られているもののいずれか、例えば、Moad et al.,Aust.J.Chem,2005,58,279-410に記載されているものであることができる。この参考文献において、好適なRAFT剤は、式R-S-C(=S)-Z(式中、Zは、チオカルボニル二重結合を活性化又は不活性化して、中間体ラジカルの安定性を調整するように選択され、Rは、フリーラジカル脱離基である)のものであると記載されている。この参考文献は、RAFT剤は反応性C=S二重結合を有するべきであり、S-R結合は容易に開裂すべきであり(すなわち、この結合は弱くあるべきであり)、副反応を引き起こすべきではなく、放出されたラジカル(R*)は重合を効率的に再開すべきであることを教示している。
【0082】
Moadらによる上記参考文献に記載されているものの全てを含む任意の既知のRAFT剤を本明細書において、特にグラフト法2に関して使用することができるが、式-S-C(=S)-R1のチオカルボニルチオ基を有するRAFT剤を選択することが有利であり得る。このチオカルボニルチオ含有基中の基R1は、典型的には、アルコキシ、アラルキルオキシ、アルケニルオキシ又は-N(R4)2であるように選択される。各R4は、アルキルであるか、又は2つの隣接するR4基は、それらが両方とも結合している窒素と組み合わされて、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する第1の複素環であって、飽和若しくは不飽和であり、任意選択的に、炭素環若しくは複素環である1つ以上の第2の環に縮合している、第1の複素環を形成する。そのようなチオカルボニルチオ含有化合物は、グラフト法1又はグラフト法2のいずれを使用する場合にも有利であり得るが、これらの化合物は、グラフト法1を使用する場合に特に有利である。グラフト法1で使用するために選択されるチオカルボニル含有基は、多くの場合、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合反応のための典型的な薬剤ではない。
【0083】
R1に好適なアルコキシ基は、典型的には、少なくとも1個の炭素原子、少なくとも2個の炭素原子、少なくとも3個の炭素原子、又は少なくとも4個の炭素原子を有し、最大20個の炭素原子、最大18個の炭素原子、最大16個の炭素原子、最大12個の炭素原子、又は最大10個の炭素原子を有することができる。いくつかの例示的なアルコキシ基は、1~20個の炭素原子、1~10個の炭素原子、2~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、2~6個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を有する。
【0084】
R1に好適なアルケニルオキシ基は、典型的には、少なくとも2個の炭素原子、少なくとも3個の炭素原子、又は少なくとも4個の炭素原子を有し、最大20個の炭素原子、最大18個の炭素原子、最大16個の炭素原子、最大12個の炭素原子、又は最大10個の炭素原子を有することができる。いくつかの例示的なアルケニルオキシ基は、2~20個の炭素原子、2~10個の炭素原子、2~6個の炭素原子、又は2~4個の炭素原子を有する。
【0085】
R1に好適なアラルキルオキシ基は、典型的には、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を有するアルキレン基と、5~12個の炭素原子、6~12個の炭素原子、又は6~10個の炭素原子を有するアリール基とを含有する。アラルキルオキシ基中のアリール基は、多くの場合、フェニルである。
【0086】
チオカルボニルチオ含有基のいくつかの実施形態では、R1は、式-N(R4)2[式中、各R4は、アルキルであるか、又は2つの隣接するR4基は、それらが両方とも結合している窒素と組み合わされて、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子と2~5個の炭素原子とを有する第1の複素環であって、飽和若しくは不飽和(例えば、部分若しくは完全不飽和)であり、任意選択的に、炭素環若しくは複素環である1つ以上の第2の環に縮合している、第1の複素環を形成する]で表される。
【0087】
好適なアルキルR4基は、典型的には、少なくとも1個の炭素原子、少なくとも2個の炭素原子、少なくとも3個の炭素原子、又は少なくとも4個の炭素原子を有し、最大20個の炭素原子、最大18個の炭素原子、最大16個の炭素原子、最大12個の炭素原子、又は最大10個の炭素原子を有することができる。いくつかの例示的なアルキル基は、1~20個の炭素原子、1~10個の炭素原子、2~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、2~6個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を有する。
【0088】
式-N(R4)2が第1の複素環を形成する場合、複素環は、典型的には、5~7個の環員又は5~6個の環員を有し、環中に1~3個のヘテロ原子又は1~2個のヘテロ原子を有する第1の環構造を有する。ヘテロ原子ではない環員は炭素である。第1の環構造中に1個のヘテロ原子が存在する場合、そのヘテロ原子は窒素である。第1の環構造中に2個又は3個のヘテロ原子が存在する場合、1個のヘテロ原子は窒素であり、任意の更なるヘテロ原子は、窒素、酸素、及び硫黄から選択される。第1の環は任意選択的に、複素環又は炭素環かつ飽和又は不飽和(例えば、部分又は完全不飽和)である1つ以上の第2の環構造に縮合していてもよい。第2の環構造が複素環である場合、それは、典型的には、5~7個又は5~6個の環員と、窒素、酸素及び硫黄から選択される1、2又は3個のヘテロ原子とを有する。第2の環構造が炭素環である場合、それは、多くの場合、ベンゼン、又は5個若しくは6個の環員を有する飽和環である。多くの実施形態では、複素環は、5個又は6個の環員を有し、環中に1個又は2個のヘテロ原子を有する単環構造を有する。複素環の例としては、モルホリノ、チオモルホリノ、ピロリジニル、ピペリジニル、ホモ-ピペリジニル、インドリル、カルバゾリル、イミダゾリル、及びピラゾリルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
チオカルボニルチオ含有化合物は、多くの場合、一般式Q-S-C(=S)-R1(式中、Qは化合物の残部である)で表される。チオカルボニルチオ含有化合物が式-S-C(=S)-R1の第2の基(又は更には第3の基)を2つ以上を含有する場合、基Qはそのような基を含むことができる。基R1は、上で定義したものと同じである。これらのチオカルボニルチオ含有化合物は、RAFT剤又はイニファータ(例えば、光イニファータ)と互換的に呼ぶことができる。
【0090】
一般式Q-S-C(=S)-R1のいくつかの例示的なチオカルボニルチオ含有化合物は、式(I)の対称化合物である。
R1-C(=S)-S-S-C(=S)-R1
(I)
【0091】
チオカルボニルチオ含有基中の基R1は、典型的には、アルコキシ、アラルキルオキシ、アルケニルオキシ又は-N(R4)2であるように選択される。各R4は、アルキルであるか、又は2つの隣接するR4基は、それらが両方とも結合している窒素と組み合わされて、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する第1の複素環であって、飽和若しくは不飽和であり、任意選択的に、炭素環若しくは複素環である1つ以上の第2の環に縮合している、第1の複素環を形成する。
【0092】
式(I)のチオカルボニルチオ含有化合物の例としては、ジキサントゲン(式中、R1はエトキシである)及びテトラエチルチウラムジスルフィド(式中、R1は式-N(R4)2で表され、各R4はエチルである)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
一般式Q-S-C(=S)-R1の他の例示的なチオカルボニルチオ含有化合物は、式(II)で表される。
【0094】
【0095】
式(II)において、各R1は、アルコキシ、アラルキルオキシ、アルケニルオキシ、又は-N(R4)2である。R1に好適なアルコキシ、アラルキルオキシ、アルケニルオキシ、及び-N(R4)2基は、チオカルボニルチオ含有基について上で記載したものと同じである。基R2は、式-(OR5)q-OR6又は式
-C(=O)-X-R7で表される。基R3は、水素、アルキル、アリール、置換アリール(すなわち、少なくとも1つのアルキル、アルコキシ、又はハロで置換されたアリール)、アルカリール、式-C(=O)-OR8の基、又は式
-C(=O)-N(R9)2の基である。基R5はアルキレンであり、基R6はアルキルであり、qは少なくとも0に等しい整数である。基R7は、水素、アルキル、アリール、アラルキル、又は置換アリール(すなわち、少なくとも1つのアルキル、アルコキシ、又はハロで置換されたアリール)である。基R8及びR9は、各々独立して、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリールである。基Xは、単結合、オキシ、又は-NR10である。基R10は、水素、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリールである。式(II)の化合物は、米国特許出願公開第2021/0095088号(Rasmussenら)に記載されている方法などの任意の好適な方法を使用して形成することができる。
【0096】
式(II)のチオカルボニルチオ含有化合物の例としては、1,1-ビス(10-ウンデセニルオキシカルボチオイルスルファニル)メチルエーテル、メチル2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)-2-メトキシ-アセテート、1,1-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)メチルメチルエーテル、1,1-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)メチルブチルエーテル、1,1-ビス(エトキシカルボチオイルスルファニル)メチルブチルエーテル、2-エチルヘキシル2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)アセテート、メチル2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)アセテート、tert-ブチル2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)アセテート、1,1-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)-2-プロパノン、2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)-1-フェニルエタノン、及び2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)-1-(4-ブロモフェニル)エテノン、フェニル2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)アセテート、N,N-ジブチル-2,2-ビス(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)アセトアミド、1,1-ビス(ジエチルカルバモチオイルスルファニル)メチルブチルエーテル、1,1-ビス(ジエチルカルバモチオイルスルファニル)メチルメチルエーテル、2-エチルヘキシル2,2-ビス(ジエチルカルバモチオイルスルファニル)アセテート、メチル2,2-ビス(ジエチルカルバモチオイルスルファニル)アセテート、及びオクチル2,2-ビス(ジエチルカルバモチオイルスルファニル)アセテートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
一般式Q-S-C(=S)-R1の他の例示的なチオカルボニルチオ含有化合物は、式(III)で表される。
R1-C(=S)-S-CH2-R12
(III)
【0098】
基R1は、チオカルボニルチオ含有基について上で定義したものと同じである。R12は、式-C(=O)-OR13(式中、各R13は、水素、アルキル、アリール、アラルキル又はアルカリールである)の基、-C(=O)-R14(式中、各R14は、独立して、アルキル、アリール、アラルキル又はアルカリールである)の基、式-OR15(式中、R15は、アルキル、アリール、アラルキル又はアルカリールである)の基、又は式-C(=O)-N(R16)2(式中、R16は、各々独立して、水素又はアルキルである)の基である。R13が水素である場合、R12基は、式-C(=O)-O-M+(式中、M+は、アルカリ金属イオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオン、又はジアルキルアンモニウムイオンである)の基となるように中和されてもよい。
【0099】
式(III)のチオカルボニルチオ含有化合物の具体例としては、メチル2-エトキシカルボチオイルスルファニルアセテート、O-エチル-(2-アミノ-2-オキソ-エチル)スルファニルメタンチオエート、(イソプロポキシカルボチオイルスルファニル)メチルオクチルエーテル、2-エトキシカルボチオイルスルファニルアセテート、ナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。これらの化合物の調製は、米国特許出願公開第2021/0095088号(Rasmussenら)に記載されている。
【0100】
グラフト法1を使用して、チオカルボニルチオ含有基を多孔質ポリマー基材の表面にグラフトして、改質基材を形成する。ポリマー基材自体は、典型的には、チオカルボニルチオ含有基を含まない。すなわち、ポリマー基材は、チオカルボニルチオ含有基を有するポリマー材料(例えば、ペンダントチオカルボニルチオ含有基を有する(メタ)アクリレートポリマー)を含まない、及び/又はチオカルボニルチオ含有基を有するポリマー材料を含むコーティング層を含まない。あるいは、追加のチオカルボニル含有基を、ポリマー基材、又はチオカルボニルチオ含有基を含有するコーティング層にグラフトすることができる。グラフトすることで、ポリマー基材の表面上のチオカルボニルチオ含有基の密度を実質的に増加させることができる。
【0101】
改質基材は、多孔質ポリマー基材の表面に直接に共有結合で結合した複数のチオカルボニルチオ含有基を有する。チオカルボニルチオ含有基は、典型的には、多孔質ポリマー基材のポリマー主鎖の炭素原子に共有結合で結合する。チオカルボニルチオ含有基は、多孔質ポリマー基材の表面上のフリーラジカルと反応することによって共有結合で結合する。様々な方法を使用して、この表面上にフリーラジカルを生成することができる。更なる反応に利用可能なフリーラジカルを有するポリマー基材を「処理された基材」と呼ぶ。
【0102】
処理された基材を形成する第1の方法では、吸収溶液が調製される。吸収溶液は、溶媒に溶解したII型光開始剤を含有する。溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を挙げることができる。吸収溶液は、コーティング層として、多孔質ポリマー基材の表面に適用される。次いで、コーティング層は、典型的には電磁スペクトルの紫外領域にある化学線に曝露される。化学線に曝露されると、II型光開始剤は、多孔質ポリマー基材から水素を引き抜き、その結果、その表面上にフリーラジカルが生成し、処理された基材が形成される。
【0103】
吸収溶液に含まれるII型光開始剤は、典型的には、芳香族ケトン化合物である。例としては、ベンゾフェノン、カルボキシベンゾフェノン(例えば、3-カルボキシベンゾフェノン)、4-(3-スルホプロピルオキシ)ベンゾフェノンナトリウム塩、ミヒラーケトン、ベンジル、アントラキノン、5,12-ナフタセンキノン、アセアントラセンキノン、ベンズ(A)アントラセン-7,12-ジオン、1,4-クリセンキノン、6,13-ペンタセンキノン、5,7,12,14-ペンタセンテトロン、9-フルオレノン、アントロン、キサントン、チオキサントン、2-(3-スルホプロピルオキシ)チオキサンテン-9-オン、アクリドン、ジベンゾスベロン、アセトフェノン、及びクロモンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
吸収溶液は、任意の好適な量のII型光開始剤を含有することができる。濃度は、多くの場合、II型光開始剤及び溶媒の総重量に基づいて0.1~20重量パーセントの範囲である。例えば、濃度は、少なくとも0.2重量パーセント、少なくとも0.5重量パーセント、少なくとも1重量パーセント、少なくとも2重量パーセント、又は少なくとも5重量パーセントであることができ、溶媒への溶解度に応じて、最大20重量パーセント、最大16重量パーセント、最大12重量パーセント、最大10重量パーセント、最大8重量パーセント、最大6重量パーセント、又は最大5重量パーセントであることができる。
【0105】
吸収溶液に使用するのに好適な溶媒は、典型的には有機溶媒であるが、水(II型光開始剤が水溶性である場合)又は水と有機溶媒との混合物であってもよい。好適な非プロトン性極性有機溶媒としては、エステル(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル)、酢酸アルコキシアルキル(例えば、酢酸メトキシエチル、酢酸エトキシエチル、酢酸プロポキシエチル、及び酢酸ブトキシエチル)、リン酸トリアルキル、例えばリン酸トリエチル、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、及びメチルイソブチルケトン)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なプロトン性極性有機溶媒としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、及びtert-ブチルアルコール)、グリコール(例えば、エチレングリコール及びプロピレングリコール)、グリコールエーテル(例えば、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、メチルカルビトール及びエチルカルビトール)、及びそれらの混合物が挙げられる。溶媒は、水であり得る(例えば、II型光開始剤が水に溶解する場合)か、又は所望であれば、水と混合した有機溶媒であり得る。好適な非極性有機溶媒としては、アルカン(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、及びデカン)、芳香族溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレン)、及びエーテル(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン)が挙げられる。それらは場合によっては有用であり得るが、ほとんどのアルコール及びエーテルは、水素引抜き反応を妨害する傾向があるため、溶媒として好ましくない。
【0106】
吸収溶液を適用する任意の方法を使用することができる。多くの方法では、吸収溶液は、コーティング層としてポリマー基材に適用される。処理された基材を化学線に曝露する前に、気泡及び過剰な吸収溶液を除去するために、任意選択的に圧力を加えることができる。例えば、化学線に対して透明なカバーフィルムを、吸収コーティング層がポリマー基材とカバーフィルムとの間に位置するように適用することができる。吸収コーティングの反対側のカバーフィルムの表面に圧力を加えることができる。
【0107】
化学線源は、多くの場合、紫外線(ultraviolet、UV)光源である。UV光は、様々な光源、例えば、発光ダイオード(light emitting diode、LED)、ブラックライト、中圧水銀ランプなど、又はそれらの組み合わせによって提供することができる。化学線は、より高い強度の光源、例えば、Fusion UV Systems Inc.から入手可能な光源を使用して提供することもできる。紫外線光源は、280~400ナノメートルの波長範囲にわたって、一般に10mW/cm2以下(例えば、Electronic Instrumentation & Technology,Inc.(Sterling,VA)が製造したUVIMAP(商標)UM365L-S放射計を使用して、米国国立標準技術研究所が承認した手順に従って測定される)を提供するブラックライトなどの比較的低い強度の光源であることができる。あるいは、一般に10mW/cm2より大きい、好ましくは15~450mW/cm2の強度を提供する中圧水銀ランプなどの比較的高い強度の光源を使用することができる。曝露時間は、最大約30分又は更にはそれ以上であり得る。
【0108】
いくつかの実施形態では、電磁スペクトルの紫外領域の狭いスペクトルの光を放射する光を使用することが好ましい。LED及びレーザーを含むこれらの光源は、フリーラジカル生成の速度を高めることができるか、又はその後のモノマーグラフト工程においてポリマー材料の反応性を維持しながら重合の速度を高めることができる。
【0109】
チオカルボニルチオ含有化合物は、フリーラジカルが固体ポリマー基材の表面上で生成される場合に存在することができるか、又はフリーラジカルの生成後に導入することができる。チオカルボニルチオ含有化合物がフリーラジカル生成中に存在する場合、チオカルボニルチオ含有化合物は、典型的には、II型光開始剤と共に吸収溶液に溶解される。チオカルボニルチオ含有化合物がフリーラジカル生成中に存在しない場合、水素引抜きを介してII型光開始剤から誘導される中間体セミピナコールラジカルは、典型的には、基材の表面上のラジカルとカップリングしてセミピナコール基を形成する。チオカルボニルチオ含有化合物は、第2のコーティング層として、セミピナコール基を含む固体ポリマー基材に適用することができる。コーティングされた基材は、再び化学線に曝露されて、基材ラジカルを再び生成し、チオカルボニルチオ含有基を基材の表面に移動させる。
【0110】
ポリマー基材の表面上にフリーラジカルを生成するのに有用な別の方法では、基材自体が光活性であり、II型光開始剤は必要とされない。溶媒に溶解したチオカルボニルチオ含有化合物を含有する吸収溶液が調製される。吸収溶液は、コーティング層として、ポリマー基材の表面に適用される。次いで、コーティング層は、典型的には電磁スペクトルの紫外領域にある化学線に曝露される。化学線に曝露されると、ポリマー基材は、その共有結合のいくつかが破壊されるのに十分なエネルギーを吸収し、その結果、その表面上にフリーラジカルが生成し、処理された基材が形成される。その後、チオカルボニルチオ含有基は基材に移動する。光活性ポリマー基材の例としては、ポリスルホン及びポリ(エーテルスルホン)が挙げられる。他の光活性ポリマー基材は、多くの場合、例えば、ポリ(メチルフェニルシラン)、及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物に基づく様々なポリイミドのホモポリマー及びブロックコポリマーなどの芳香族基を含有する。
【0111】
ポリマー基材の表面上にフリーラジカルを生成するための他の方法では、II型光開始剤ではなく電離放射線が使用される。本明細書で使用される場合、「電離放射線」という用語は、ポリマー基材の表面上及び/又はバルク中にフリーラジカル反応部位を形成するのに十分な線量及びエネルギーの放射線を指す。放射線は、ポリマー基材によって吸収され、基材中の化学結合の開裂及びフリーラジカルの形成をもたらす場合、十分なエネルギーを有する。電離放射線は、多くの場合、ベータ放射線、ガンマ放射線、電子ビーム放射線、X線放射線、プラズマ放射線、又は他の好適な種類の電磁放射線である。好ましくは、電離放射線は、酸素がラジカルと反応するのを防ぐために不活性環境中で行われる。
【0112】
この方法の多くの実施形態では、電離放射線は、好適な生成装置を容易に利用できることから、電子ビーム放射線、ガンマ線放射線、X線放射線、又はプラズマ放射線である。電子ビーム生成装置は、例えば、Energy Sciences,Inc.(Wilmington,MA,USA)のESI ELECTROCURE EB SYSTEM及びE-beam Technologies(Davenport,IA,USA)のBROADBEAM EB PROCESSORなどが市販されている。ガンマ線放射線生成装置は、コバルト60高エネルギー源を使用するMDS Nordionから市販されている。
【0113】
任意の所与の種類の電離放射線について、送達された線量は、ASTM International(West Conshohocken,PA)によるISO/ASTM52628-13,「Standard Practice for Dosimetry in Radiation Processing」に従って測定することができる。抽出器グリッド電圧、ビーム径、曝露時間、及び照射源からの距離を変更することによって、様々な線量率を得ることができる。
【0114】
電離放射線が使用される場合、フリーラジカルは、典型的には、チオカルボニルチオ含有化合物と接触する前にポリマー基材の表面上に形成される。すなわち、固体ポリマー基材の表面上にフリーラジカルを生成して、処理された基材を形成する第1の工程と、チオカルボニルチオ含有化合物のコーティング層を処理された基材に適用する第2の工程とがある。チオカルボニルチオ含有化合物とフリーラジカルを有するポリマー基材(すなわち、処理された基材)とが反応して、チオカルボニルチオ含有基がポリマー基材に共有結合で結合し、改質基材が形成される。
【0115】
チオカルボニルチオ含有基は、典型的には、改質基材中のポリマー基材に結合(例えば、グラフト)する。ほとんどの場合、チオカルボニルチオ含有基は、多孔質ポリマー基材を形成するために使用されるポリマー材料の主鎖中の炭素原子に直接に結合する。典型的には、ポリマー基材とチオカルボニル含有基との間に、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、シロキサン結合などの介在連結基(intervening linking group)は存在しない。
【0116】
グラフト法1が使用される場合、チオカルボニルチオ含有化合物は、反応スキームAに示されるように多孔質ポリマー基材(porous polymeric substrate、PPS)と反応する。
【0117】
【0118】
反応スキームAにおいて、フリーラジカル部位は、反応Iにおいて多孔質ポリマー基材(PPS)上に最初に生成されて、PPS*を形成する。PPS*は、フリーラジカルを有する多孔質ポリマー基材(すなわち、処理された基材)(1)を表す。反応IIにおいてチオカルボニルチオ含有化合物(2)がフリーラジカル(1)を有する多孔質ポリマー基材と接触すると、基-S-C(=S)-R1は、後にラジカルQ*(5)を放出する中間体硫黄安定化ラジカル(3)を介して多孔質ポリマー基材に移動する。これは、基材の表面からチオカルボニルチオ含有化合物の基Qへのラジカル移動をもたらす。反応(II)は可逆的であると示されているが、反応は、正反応が起こり得る場合、必ずしも可逆的ではない。改質基材は、PPS-S-C(=S)-R1(4)である。反応スキームAは、簡単のために、多孔質ポリマー基材に結合した-S-C(=S)-R1基を1つだけ示しているが、改質基材上にはそのような結合した基が複数存在する。
【0119】
チオカルボニルチオ含有化合物中の基Qは、反応スキームAに示される移動プロセス中にフリーラジカルになる。この基は、S-Q結合が副反応なしに均一開裂を可能にするほど十分に弱くなるように選択することができる。典型的なRAFT重合反応とは対照的に、グラフト法1を使用する場合、チオカルボニルチオ含有基が多孔質ポリマー基材に共有結合で結合する時点ではモノマーが存在しないため、放出されたラジカル(Q*)は、フリーラジカル重合反応を開始できるように選択される必要はない。これにより、典型的なRAFT制御ラジカル重合反応では通常使用されないチオカルボニルチオ含有化合物の使用が可能になる。
【0120】
したがって、放出されたラジカル(Q*)は、典型的なRAFT重合で使用される第二級又は第三級ラジカルとは対照的に、第一級ラジカルであり得る。放出されたラジカルは、移動反応の逆転を引き起こす場合がある(すなわち、反応スキームAの第2の工程に示される反応が可逆的である場合、共有結合で結合した基-S-C(=S)-R1は、放出されたラジカル(Q*)と結合してQ-S-C(=S)-R1を再形成し、その結果、基材の表面上でラジカルの再形成をもたらすことができる)。あるいは、放出されたラジカル(Q*)は、当該技術分野において周知のラジカル停止プロセスにおいて、例えばカップリングしてQ-Qを形成することによって、不活性化され得る。
【0121】
ポリマー基材に結合したチオカルボニルチオ含有基の量は、典型的には、改質基材1グラム当たり0.1~100マイクロモル(すなわち、改質基材1グラム当たりのマイクロモル)の範囲である。量は、多くの場合、1グラム当たり少なくとも0.2、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも5、又は少なくとも10マイクロモルであり、多くの場合、1グラム当たり最大100、最大80、最大60、最大40、最大30、又は最大20マイクロモルである。
【0122】
グラフト法1では、改質基材PPS-S-C(=S)-R1は、上記のように調製される。ポリマー基材の表面に共有結合で結合した式-S-C(=S)-R1の複数のチオカルボニルチオ基を有する改質基材は、第1の重合性組成物と接触させて配置されて、第1の反応混合物を形成する。第1の反応混合物が紫外線などの化学線に曝露されると、チオカルボニルチオ含有基がRAFT剤(例えば、イニファータ又は光イニファータ)として機能する、第1の重合性組成物内のモノマーのRDRP重合が起こり得る。重合プロセスを、反応スキームBに概略的に示す。
【0123】
【0124】
反応スキームBにおいて、第1の反応混合物の化学線(例えば、紫外線)への曝露は、反応Iに示されるように、多孔質ポリマー基材表面上のラジカル(11)及びチオカルボニルチオ含有基のラジカル(12)の形成をもたらす。第1のモノマー(簡単のために、反応スキームBではCH2=CRxRy(13)として示す)は、基材表面上のラジカル(11)と反応し、その結果、別のモノマーと反応することができる第2のラジカルが生成される。(n+1)モルの第1モノマーの重合は、反応IIにおいてラジカル(14)として示される。このプロセスの任意の時点で、成長ラジカル(14)は、チオカルボニルチオラジカル(12)と再結合して、反応IIIにおいて生成物(15)として示されるような末端鎖を形成し得る。化学線への曝露を続けると、ラジカル(14)及びチオカルボニルチオラジカル(12)は、生成物(15)から再び形成することができる。より多くのモノマーが存在する場合、再び生成されたラジカル(14)は、更なる重合を受けることができる。最終的に、このラジカルは、チオカルボニルチオラジカル(12)と結合する。重合反応は、化学線への曝露が停止されるか、又はもはやモノマーが存在しなくなると停止する。生成物は、ポリマー基材にグラフトされた複数の第1のポリマーブロックを含有する。第1のポリマーブロックの少なくともいくつかは、チオカルボニルチオ含有基で終端される。多くの場合、チオカルボニルチオ含有基は、反応IIIの生成物(15)に示されるように、式-S-C(=S)-R1で表される。第1のポリマーブロックのほとんどがチオカルボニルチオ含有基で終端されることを確実にするために、基材が結合されたチオカルボニルチオ含有基を有する場合であっても、チオカルボニルチオ含有化合物は、多くの場合、第1の反応混合物に添加される。
【0125】
エチレン性不飽和基などのラジカル重合性基を有するモノマーは、チオカルボニルチオ含有化合物がグラフト法1を使用して処理された基材と反応する場合、存在しない。これは、チオカルボニルチオ基が処理された基材に移動する可能性を高める傾向があり、したがって、ポリマー基材の表面上のチオカルボニルチオ含有基の密度を増加させることができる。これはまた、共有結合で結合したチオカルボニルチオ含有基を有する改質基材の、競合する重合又はグラフト反応の非存在下における調製及び単離を可能にし、その後の企図されるグラフト(重合)反応に対するより良好な制御を可能にし得る。改質基材の形成と同時に溶液中で形成されるポリマー材料は存在しない。
【0126】
反応スキームBの生成物は、共有結合で結合した第1のポリマーブロックを有する中間物品である。第1のポリマーブロックは、多孔質ポリマー基材に結合(例えば、グラフト)される。ほとんどの場合、第1のポリマーブロックは、多孔質ポリマー基材の炭素原子に直接に共有結合で結合する。典型的には、ポリマー基材と第1のポリマーブロックとの間に、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、シロキサン結合などの介在連結基は存在しない。第1のポリマーブロックの少なくともいくつかは、チオカルボニルチオ含有基で終端される。
【0127】
あるいは、グラフト法2を使用することができる。グラフト法2は、多孔質ポリマー基材に共有結合で結合したチオカルボニルチオ含有基を有する改質基材を形成するための別個の工程がない点で、グラフト法1とは異なる。むしろ、第1の反応混合物は、第1のポリマーブロックを形成するためのモノマー、チオカルボニルチオ含有化合物、及び任意選択のII型光開始剤を含む。II型光開始剤は、ポリマー基材が光活性である場合には必要とされないが、光活性ではないポリマー基材には使用される。グラフト法2を使用する利点は、第1のポリマーブロックを多孔質ポリマー基材上にグラフトするのに必要な工程がより少ない点である。
【0128】
グラフト法2では、第1の反応混合物を化学線(例えば、紫外線)に曝露すると、多孔質ポリマー基材表面上にラジカルが形成される(PPS*)。このラジカルは、チオカルボニルチオ含有化合物Q-S-C(=S)-R1又はモノマー(CH2=CRxRy)のいずれかと反応することができる。モノマーは典型的にはチオカルボニルチオ含有化合物よりも高い濃度で存在するので、生成物は、多くの場合、反応スキームBに示されるラジカル(14)のものと同様である。反応スキームBにおけるように、ラジカル(14)は、更なるモノマーが存在する場合、成長し続けることができる。最終的に、ラジカルは、チオカルボニルチオ含有化合物のラジカル(12)と結合することによって停止され、ポリマー生成物(15)を形成する。化学線への曝露を続けると、ラジカル(14)及びチオカルボニルチオラジカル(12)は、生成物(15)から再び形成することができる。より多くのモノマーが存在する場合、再び生成されたラジカル(14)は、更なる重合を受けることができる。最終的に、このラジカルは、チオカルボニルチオラジカル(12)と結合する。重合反応は、化学線への曝露が停止されるか、又はもはやモノマーが存在しなくなると停止する。生成物は、ポリマー基材にグラフトされた複数の第1のポリマーブロックを含有する。第1のポリマーブロックのうちの少なくともいくつかは、反応スキームBの反応IIIの生成物(15)に示されるように、チオカルボニルチオ含有基で終端される。
【0129】
分離物品は、有利には、式(I)、(II)、又は(III)のものなどのチオカルボニルチオ含有化合物を用いるグラフト法1又はグラフト法2を使用して形成されるが、分離物品を形成する他の方法が使用されてもよい。例えば、分離物品は、代替的な可逆的不活性化ラジカル重合(RDRP)開始剤を使用して調製することも、代替的な方法を使用してRDRP開始剤を用いて調製することもできる。
【0130】
チオカルボニルチオ含有化合物を含まない1つの代替的な方法では、II型光開始剤を含有する吸収溶液が、多孔質ポリマー基材表面にコーティングされ、次いで化学線に曝露される。化学線に曝露されると、II型光開始剤は、多孔質ポリマー基材から水素を引き抜き、その結果、その表面上にフリーラジカルが生成し、処理された基材が形成される。水素引抜きを介してII型光開始剤から誘導される中間体セミピナコールラジカルは、典型的には、基材の表面上のラジカルとカップリングしてセミピナコール基を形成する。例えば、H.Ma,et al.,Macromolecules,2000,33,331の論文に記載されているように、結合したセミピナコール基を有するこの基材は、RDRP開始剤として機能することができる。したがって、結合したセミピナコール基を有する基材を、第1のモノマー溶液でコーティングし、次いで、化学線に曝露して、第1のモノマーを基材にグラフト重合させ、その結果、セミピナコール基で終端された、共有結合でグラフトされたポリマー鎖を得ることができる。基材表面上にセミピナコール基を形成させた後に、第1のモノマー溶液を添加するこの方法を、グラフト法3と呼ぶ。
【0131】
チオカルボニルチオ含有化合物を含まない別の代替的な方法では、第1のモノマーとII型光開始剤とを含有する吸収溶液が、多孔質ポリマー基材表面にコーティングされ、次いで化学線に曝露される。化学線に曝露されると、II型光開始剤は、多孔質ポリマー基材から水素を引き抜き、その結果、その表面上にフリーラジカルが生成し、処理された基材が形成される。次いで、処理された基材は、第1のモノマーと相互作用して、基材に共有結合で結合した、グラフトされたポリマー鎖を形成する。最後に、Yang and Ranby,Macromolecules,1996,29,3308の論文に記載されているように、水素引抜きを介してII型光開始剤から誘導されるセミピナコールラジカルは、ポリマー鎖末端上のラジカルとカップリングして、セミピナコール鎖末端を有するグラフトされたポリマー鎖を形成する。このグラフトされた基材は、第2のブロックの重合を開始するために使用することができる。第1のモノマーがII型光開始剤と同時に存在するこの方法を、グラフト法4と呼ぶ。
【0132】
更に他の代替的な方法では、表面上にヒドロキシ基又はアミノ基を有する多孔質ポリマー基材が、カルボン酸基又は酸ハライド基を含有するRDRP開始剤と反応して、エステル結合又はアミド結合を介してRDRP開始剤と共有結合で結合してもよい。そのような反応を、原子移動ラジカル重合(ATRP)開始剤の結合に関する以下の反応スキームCに示す。
【0133】
【0134】
この反応スキームにおいて、X3は-O-又は-NH-であり、PPSは多孔質基材を指す。処理された基材PPS-X3-(C=O-C(CH3)2-Brは、イオン交換官能基をセルロース膜にグラフトするために使用されている(Bhut et al.,J.Membr.Sci.,325(2008),176-183)。同様に、RAFT及びNMP開始剤は多孔質ポリマー基材に結合される。総説(Peng Liu,e-Polymers,2007,No.062)には、RDRP開始剤を表面に結合させるための多種多様な方法が記載されている。これらの方法は、一般に、RDRP制御剤を基材に結合させるためのバッチ化学プロセスを含むため、これらは、分離物品を形成するための現在の方法で使用するには好ましい方法ではない。しかしながら、RDRP改質基材は、本明細書に記載される結合したブロックコポリマーを有する分離物品の生成のための出発材料として有用であり得る。
【0135】
ブロックコポリマーの第1のブロックを多孔質ポリマー基材に結合させる方法にかかわらず、第1の重合性組成物は、酸性モノマー、塩基性モノマー、又はそれらの塩である少なくとも1種の第1のモノマーを含有する。第1のモノマーは、中性状態であることができるが、いくつかのpH条件下では、負に帯電(酸性の場合)又は正に帯電(塩基性の場合)することができる。第1のモノマーは、永久的に帯電することができる(例えば、配位子官能基が第四級アンモニウム塩の形態である場合)。酸性基及び塩基性基は、ポリペプチドでもタンパク質でもない。本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、4つを超えるアミノ酸単位を含有する化合物を指す。
【0136】
第1のモノマーは、単一のエチレン性不飽和基、又は性質が同じであっても異なっていてもよい(好ましくは同じである)複数のエチレン性不飽和基(例えば、2つ若しくは3つ、又は最大6つまで)を含むことができる。第1のモノマーは、多くの場合、エチレン性不飽和基を1つだけ有する。
【0137】
第1のモノマーの好適な酸性基としては、少なくともある程度の酸性度(比較的弱い酸性度から比較的強い酸性度までの範囲であり得る)を示すもの、及びその塩が挙げられる。そのような酸性基又はその塩としては、イオン交換又は金属キレート型配位子として一般に利用されるものが挙げられる。酸基は、多くの場合、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ボロン酸基、及びそれらの塩から選択される。酸性基が塩である場合、対イオンは、多くの場合、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム又はカルシウム)、アンモニウム、及びテトラアルキルアンモニウムなど、並びにそれらの組み合わせから選択される。
【0138】
好適な酸性モノマーとしては、例えば、様々なスルホン酸、例えば、N-アクリルアミドメタンスルホン酸、2-アクリルアミドエタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、及び4-スチレンスルホン酸;(メタ)アクリルアミドホスホン酸、例えば、(メタ)アクリルアミドアルキルホスホン酸、例えば、2-(メタ)アクリルアミドエチルホスホン酸及び3-(メタ)アクリルアミドプロピルホスホン酸;(メタ)アクリル酸;並びにカルボキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及び3-カルボキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。更に他の好適な酸性モノマーとしては、米国特許第4,157,418号(Heilmann)に記載されているものなどの(メタ)アクリロイルアミノ酸が挙げられる。例示的な(メタ)アクリロイルアミノ酸としては、N-アクリロイルグリシン、N-アクリロイルアスパラギン酸、N-アクリロイル-β-アラニン、及び2-アクリルアミドグリコール酸が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酸性モノマーのいずれかの塩も使用することができる。
【0139】
第1のモノマーの好適な塩基性基としては、少なくともある程度の塩基性度(比較的弱い塩基性度から比較的強い塩基性度までの範囲であり得る)を示すもの、及びその塩が挙げられる。そのような塩基性基又はその塩としては、イオン交換又は金属キレート型配位子として一般に利用されるものが挙げられる。塩基性基は、多くの場合、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第四級アミノ基、グアニジニウム基、ビグアニジニウム基、又はそれらの塩である。塩基性基が塩である場合、対イオンは、多くの場合、ハロゲン化物(例えば、塩化物又は臭化物)、カルボキシレート(例えば、アセテート)、ニトレート、ホスフェート、ビサルフェート、メチルサルフェート、水酸化物イオンなど、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0140】
好適な塩基性モノマーとしては、例えば、アミノアクリレート、アミノ(メタ)アクリルアミド、及び第四級アンモニウム基を有する様々なモノマーが挙げられる。例示的なアミノアクリレートとしては、N,N-ジアルキルアミノアルキルアクリレート、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアシレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N-tert-ブチルアミノプロピルメタクリレート、N-tert-ブチルアミノプロピルアクリレートなどが挙げられる。例示的なアミノ(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド、N-(3-アミノプロピル)アクリルアミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N-(3-イミダゾリルプロピル)メタクリルアミド、N-(3-イミダゾリルプロピル)アクリルアミド、N-(2-イミダゾリルエチル)メタクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-3-イミダゾイルプロピル)メタクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-3-イミダゾイルプロピル)アクリルアミド、N-(3-ベンゾイミダゾリルプロピル)アクリルアミド、及びN-(3-ベンゾイミダゾリルプロピル)メタクリルアミドが挙げられる。
【0141】
第四級アンモニウム基を有する例示的なモノマーとしては、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、3-メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド及び3-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド)、及び(メタ)アクリルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2-メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、及び2-アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
いくつかの実施形態では、エチレン性不飽和基と、酸性基又は塩基性基のいずれかとの間に、より長い鎖長を有する酸性又は塩基性モノマーを使用することは、有利である。酸性基又は塩基性基は「官能基」と呼ぶことができ、エチレン性不飽和基と、酸性基又は塩基性基との間の介在基は、「スペーサー基」と呼ぶことができる。いくつかの実施形態では、鎖状連結原子の数は、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも18、又は少なくとも20、かつ最大30、最大28、最大26、最大24、最大22、最大20、最大18、最大16、最大14、又は最大12である。モノマーが(メタ)アクリロイル基を有する場合、この基のカルボニルは、スペーサー基の一部として数えられる。
【0143】
理論に束縛されることを望むものではないが、スペーサーの長さは、(モノマー重合によって形成される)ポリマー主鎖が螺旋又は部分螺旋構造をとることに寄与し得る。スペーサーが比較的短い場合(例えば、6個未満の鎖状連結原子)、酸性基間又は塩基性基間のイオン反発によって、ポリマー主鎖は、強制的にランダムコイル型構造になり得る。スペーサー鎖の長さが増加するにつれて、螺旋構造をとることが可能になり、約8~約14個の鎖状連結原子のスペーサー鎖長にて最大となり得る。基材にグラフトされたポリマーの螺旋構造は、ウイルス及び他の微生物、タンパク質、細胞、内毒素、酸性炭水化物、核酸などの標的生体材料との相互作用のための、酸性基、塩基性基、又はそれらの塩の提示を容易にし得る。
【0144】
ある特定の実施形態では、スペーサー基は、少なくとも1つの水素結合供与体と少なくとも1つの水素結合受容体と(その両方がヘテロ原子を含有する)を含む部分として上で定義されている少なくとも1つの水素結合部分を含む。例示的な水素供与体は、イミノ、チオ、及びヒドロキシ基である。例示的な水素受容体は、カルボニル、カルボニルオキシ、又はエーテル酸素である。より好ましいスペーサー基は、少なくとも2つの水素結合部分を含むか、又は少なくとも1つの水素結合部分と、水素結合部分とは異なる(水素結合部分の一部ではない)少なくとも1つの水素結合受容体とを含む。
【0145】
ある特定の実施形態では、水素結合部分としては、少なくとも2つの水素結合供与体(例えば、イミノ、チオ、又はヒドロキシなどの供与体)、少なくとも2つの水素結合受容体(例えば、カルボニル、カルボニルオキシ、又はエーテル酸素の形態の受容体)、又はその両方を含むものが挙げられる。例えば、イミノカルボニルイミノ部分(2つのN-H供与体と、カルボニル上の2つの孤立電子対の形態の少なくとも2つの受容体とを有する)は、場合により、単一のイミノカルボニル部分よりも好ましい可能性がある。ある特定の実施形態では、スペーサー基としては、少なくとも1つのイミノカルボニルイミノ部分(より好ましくは、カルボニルオキシなどの少なくとも1つの受容体との組み合わせ)、少なくとも2つのイミノカルボニル部分、又はそれらの組み合わせを含むものが挙げられる。
【0146】
水素結合部分の水素結合供与体及び水素結合受容体は、互いに隣接(直接に結合)していても、隣接していなくてもよい(好ましくは、隣接しているか、又は4個以下の鎖状連結原子の鎖によって分離されており、より好ましくは、隣接している)。水素結合供与体及び/又は水素結合受容体のヘテロ原子は、スペーサー基の鎖状連結原子の鎖内に位置することができるか、又は代替的に鎖置換基内に位置することができる。
【0147】
水素結合供与体は(供与体のヘテロ原子の孤立電子対を介して)水素結合受容体としても機能することができるが、水素結合部分は、好ましくは別々の供与体部分及び受容体部分を含む。これにより、分子内(モノマー間)水素結合形成が促進される。理論に束縛されることを望むものではないが、ポリマー分子中の隣接するモノマー間又は近接する繰り返し単位間のそのような分子内水素結合は、少なくともある程度のスペーサー基の硬化に寄与し得る。これは、標的生体材料との相互作用のための、酸性基、塩基性基、又はそれらの塩の提示を容易にし得る。
【0148】
ある特定の実施形態では、水素結合部分としては、カルボニルイミノ、チオカルボニルイミノ、イミノカルボニルイミノ、イミノチオカルボニルイミノ、オキシカルボニルイミノ、オキシチオカルボニルイミノなど、及びそれらの組み合わせが挙げられる。ある特定の実施形態では、水素結合部分としては、カルボニルイミノ、イミノカルボニルイミノ、オキシカルボニルイミノ、及びそれらの組み合わせ(より好ましくは、カルボニルイミノ、イミノカルボニルイミノ、及びそれらの組み合わせ)が挙げられる。ある特定の実施形態では、スペーサー基としては、二価、三価、又は四価(より好ましくは二価又は三価、更により好ましくは二価)であるものが挙げられる。
【0149】
少なくとも6個の鎖状連結原子を有するスペーサー基を有する有用な第1のモノマーのクラスは、式(IV)のものである。
CH2=CR21-C(=O)-X1-R22-[Z1-R22]n-L
(IV)
【0150】
式(IV)において、基R21は水素又はメチルから選択される。各基R22は、独立して、(ヘテロ)ヒドロカルビレンである。基X1は、-O-又は-NR23-(式中、R23は、水素又はヒドロカルビルから選択される)である。基Z1は、少なくとも1つの水素結合供与体、少なくとも1つの水素結合受容体、又はそれらの組み合わせを有するヘテロヒドロカルビレンである。変数nは0又は1の整数である。基Lは、酸性基、塩基性基又はそれらの塩である、配位子官能基である。所望であれば、式(IV)の異なる化合物を組み合わせて使用することができる。異なる化合物は、両方とも酸性モノマー又はその塩であっても、両方とも塩基性モノマー又はその塩であっても、酸モノマー及び塩基性モノマー又ははそれらの塩の組み合わせであってもよい。更に、式(IV)のモノマーは、式(IV)のものではない他の酸性及び/又は塩基性モノマーと組み合わせて使用することができる。
【0151】
式(IV)のモノマーは、式CH2=CR21-(式中、R21は水素又はメチルである)のエチレン性不飽和基を有する。
【0152】
各R22は、独立して、(ヘテロ)ヒドロカルビレンである。例示的なヒドロカルビレンとしては、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、及びアルカリーレン基が挙げられる。例示的なヘテロヒドロカルビレンとしては、ヘテロアラルキレン、ヒドロキシ置換アルキレン、及びヒドロキシ置換アラルキレンが挙げられる。ある特定の実施形態では、各R22は、独立して、ヒドロカルビレンである。例えば、各R22は、独立して、アルキレンである。
【0153】
基X1は、-O-(オキシ)又は-NR23-である。基R23は、水素又はヒドロカルビルである。ヒドロカルビルは、アルキル又はアリールであることができる。多くの例において、R23は水素である。
【0154】
基Z1は、少なくとも1つの水素結合供与体、少なくとも1つの水素結合受容体、又はそれらの組み合わせを含むヘテロヒドロカルビレンである。水素供与体は、典型的には、イミノ、チオ、又はヒドロキシなどの供与体である。水素受容体は、典型的には、カルボニル、カルボニルオキシ、又はエーテル酸素である。したがって、基Z1は、多くの場合、水素結合部分、例えば、カルボニルイミノ、チオカルボニルイミノ、イミノカルボニルイミノ、イミノチオカルボニルイミノ、オキシカルボニルイミノ、オキシチオカルボニルイミノなど、及びそれらの組み合わせである。ある特定の実施形態では、水素結合部分としては、カルボニルイミノ、イミノカルボニルイミノ、オキシカルボニルイミノ、及びそれらの組み合わせ(より好ましくは、カルボニルイミノ、イミノカルボニルイミノ、及びそれらの組み合わせ)が挙げられる。
【0155】
変数nは、式(IV)のモノマーにおいて、多くの場合1の整数である。
【0156】
基Lは、カルボキシ、ホスホノ、ホスファト、スルホノ、スルファト、ボロナート、及びそれらの組み合わせから選択される(より好ましくは、カルボキシ、ホスホノ、スルホノ、及びそれらの組み合わせから選択される)少なくとも1つの酸性基又はその塩を含む配位子官能基である。他の実施形態では、Lは、少なくとも1つの塩基性基又はその塩を含む官能基である。塩基性基は、典型的には、第三級アミノ基、第四級アミノ基、グアニジノ基、又はビグアニジノ基である。いくつかの実施形態では、Lは、カルボキシ、グアニジノ、又はそれらの塩である。
【0157】
そのようなモノマーは、既知の合成方法によって、又は既知の合成方法に類似する方法によって、調製することができる。例えば、アミノ基含有カルボン酸、アミノ基含有スルホン酸、又はアミノ基含有ホスホン酸は、アミノ基と反応性である少なくとも1つの基を含むエチレン性不飽和化合物と反応させることができる。同様に、ヒドロキシ基も含有する酸性基含有化合物は、任意選択的に触媒の存在下で、ヒドロキシ基と反応性である少なくとも1つの基を含むエチレン性不飽和化合物と反応させることができる。
【0158】
好ましいモノマーは、(メタ)アクリロイル含有モノマーであり、これはアクリロイル含有モノマー及び/又はメタクリロイル含有モノマーを指す。同様に、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート及び/又はメタクリレートモノマーを指す。そのようなモノマーでは、カルボニル基はスペーサー基の一部である。
【0159】
式(IV)の有用なモノマーの代表例は、式(V)のアルケニルアズラクトン
【0160】
【化6】
を、式(VI)
H-X
2-R
22-L
(VI)
の化合物(又はその塩)と反応させることによって調製することができる。
【0161】
基R21、R22、及びLは、式(IV)におけるように定義される。基X2は、オキシ又は-NR23-[式中、R23は水素又はヒドロカルビル(例えば、アルキル又はアリール)である]である。得られた化合物は、式(IV-1)で表される。
CH2=CR21-C(=O)-NH-R22-C(=O)-X2-R22-L
(IV-1)
【0162】
これらの化合物は、式(IV)(式中、X1は-NH-であり、変数nは1に等しく、Z1は-C(=O)-X2-に等しい)で表される。
【0163】
式(V)の有用なアルケニルアズラクトンの代表例としては、4,4-ジメチル-2-ビニル-4H-オキサゾール-5-オン(ビニルジメチルアズラクトン、VDM)、2-イソプロペニル-4H-オキサゾール-5-オン、4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-4H-オキサゾール-5-オン、2-ビニル-4,5-ジヒドロ-[1,3]オキサジン-6-オン、4,4-ジメチル-2-ビニル-4,5-ジヒドロ-[1,3]オキサジン-6-オン、4,5-ジメチル-2-ビニル-4,5-ジヒドロ-[1,3]オキサジン-6-オンなど、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0164】
式(IV)の有用なモノマーの他の代表例は、式(VII)の(メタ)アクリロイルイソシアネートモノマー
CH2=CR21-C(=O)-X1-R22-N=C=O
(VII)
を、上記の式(VI)の化合物(又はその塩)と反応させることによって調製することができる。得られたモノマーは、式(IV-2)で表される。
CH2=CR21-C(=O)-X1-R22-NH-C(=O)-X2-R22-L
(IV-2)
【0165】
これらのモノマーは、式(IV)(式中、変数nは1に等しく、Z1は
-NH-C(=O)-X2-に等しい)で表される。基R21、R22、X1、X2、及びLは、上で定義したものと同じである。
【0166】
式(VII)のエチレン性不飽和イソシアネートの代表例としては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート(IEM又はIEA)、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトシクロヘキシル(メタ)アクリレートなど、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0167】
酸性L基(又はその塩)を提供することができる式(VI)の有用な化合物の代表例としては、アミノ基含有カルボン酸、アミノ基含有スルホン酸、アミノ基含有ボロン酸、及びアミノ基含有ホスホン酸、並びにそれらの組み合わせ及び/又はそれらの塩が挙げられる。有用なアミノカルボン酸としては、α-アミノ酸(L-、D-、又はDL-α-アミノ酸)、例えば、グリシン、アラニン、バリン、プロリン、セリン、フェニルアラニン、ヒスチジン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、N-ベンジルグリシン、N-フェニルグリシン、サルコシンなど;β-アミノ酸、例えば、β-アラニン、ホモロイシン、ホモグルタミン、ホモフェニルアラニンなど;他のα,ω-アミノ酸、例えば、γ-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸、11-アミノウンデカン酸など;及びそれらの組み合わせが挙げられる。有用なアミノスルホン酸としては、アミノメタンスルホン酸、2-アミノエタンスルホン酸(タウリン)、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸、6-アミノ-1-ヘキサンスルホン酸など、及びそれらの組み合わせが挙げられる。有用なアミノボロン酸としては、m-アミノフェニルボロン酸、p-アミノフェニルボロン酸など、及びそれらの組み合わせが挙げられる。有用なアミノホスホン酸としては、1-アミノメチルホスホン酸、2-アミノエチルホスホン酸、3-アミノプロピルホスホン酸など、並びにそれらの組み合わせ及び/又は塩が挙げられる。
【0168】
酸性L基(又はその塩)を有する式(VI)の他の有用な化合物の代表例としては、ヒドロキシ基及び酸性基を含む化合物が挙げられる。具体例としては、グリコール酸、乳酸、6-ヒドロキシヘキサン酸、クエン酸、2-ヒドロキシエチルスルホン酸、2-ヒドロキシエチルホスホン酸など、並びにそれらの組み合わせ及び/又は塩が挙げられる。
【0169】
酸性L基(又はその塩)を有する式(VI)の更に他の代表的な化合物は、アスパラギン酸、グルタミン酸、α-アミノアジピン酸、イミノ二酢酸、Nα,Nα-ビス(カルボキシメチル)リジン、システイン酸、N-ホスホノメチルグリシンなど、並びにそれらの組み合わせ及び/又は塩を含む2つ以上の酸性基を含有するものである。
【0170】
酸性L基(又はその塩)を有する上記の式(VI)の化合物の多くは市販されている。更に他の有用な酸性基含有化合物は、一般的な合成手順によって調製することができる。例えば、様々なジアミン又はアミノアルコールを、1当量の環状無水物と反応させて、カルボキシル基とアミノ基又はヒドロキシ基とを含む中間体酸性基含有化合物を生成することができる。
【0171】
更に、酸性基を有する有用なモノマーは、ヒドロキシ又はアミン含有(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミドモノマーを環状無水物と反応させて、カルボキシル基含有モノマーを生成することによって、調製することができる。
【0172】
ある特定の実施形態では、酸性基(又はその塩)であるL基を有する式(IV)の有用なモノマーは、アルケニルアズラクトンとアミノカルボン酸との反応から調製されてもよく、アルケニルアズラクトンとアミノスルホン酸との反応から調製されたモノマー、エチレン性不飽和イソシアネートとアミノカルボン酸との反応から調製されたモノマー、エチレン性不飽和イソシアネートとアミノスルホン酸との反応から調製されたモノマー、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0173】
酸性基又はその塩である式(IV)中の基Lを有するいくつかの例示的なモノマーは、米国特許第10,352,835号(Rasmussenら)に更に記載されており、以下のものを挙げることができる(これらの多くは酸として示されるが、このような酸の塩も使用され得る):
VDM-4-アミノメチル-シクロヘキサンカルボン酸
【0174】
【化7】
VDM-2-ヒドロキシ-4-アミノブタン酸
【0175】
【化8】
VDM-2-アミノ-3-ヒドロキシプロパン酸(VDM-セリン)
【0176】
【化9】
VDM-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸(VDM-チロシン)
【0177】
【化10】
VDM-(2S)-2-アミノ-3-(1H-インドール-3-イル)プロパン酸(VDM-トリプトファン)
【0178】
【0179】
【化12】
VDM-2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロパン酸(VDM-ヒスチジン)
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【化16】
VDM-2-(ヒドロキシエチル)ホスホン酸
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【化24】
IEM-4-アミノブタン酸(IEM-GABA)
【0192】
【0193】
【0194】
塩基性L基を提供することができる式(VI)の有用な化合物の代表例は、多くの場合、少なくとも1つのアミノ基又はヒドロキシ基と、少なくとも1つの塩基性基、例えば、第三級又は第四級アミノ基とを含有する。具体例としては、2-(ジメチルアミノ)エチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、6-(ジメチルアミノ)ヘキシルアミン、2-アミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド、3-アミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2-(ジメチルアミノ)エタノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、6-(ジメチルアミノ)-1-ヘキサノール、1-(2-アミノエチル)ピロリジン、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、ヒスタミン、2-アミノメチルピリジン、4-アミノメチルピリジン、4-アミノエチルピリジンなど、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0195】
第三級又は第四級アミノ基などの塩基性基である式(IV)中の基Lを有するいくつかの例示的なモノマーとしては、以下のものがある:
VDM-2-アミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド
【0196】
【0197】
【化28】
IEM-ジイソプロピルアミノエチルアミン
【0198】
【化29】
IEM-2-アミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド
【0199】
【化30】
ジメチルアミノアルカノールのVDM付加体
【0200】
【0201】
式(IV)のいくつかのモノマーは、グアニジノ基又はビグアニジノ基であるL基を有する。すなわち、Lは、式-NR24-[C(=NR24-NR24]mR25(式中、mは1又は2である)で表される。mが1に等しい場合、基Lはグアニジノ基であり、mが2に等しい場合、基Lはビグアニジノ基である。基R24は水素又はヒドロカルビルであり、基R25は水素、ヒドロカルビル、又は-N(R24)2である。R24及びR25に好適なヒドロカルビル基は、多くの場合、アリール基又はアルキル基である。多くの実施形態では、R24及び/又はR25は水素である。そのようなモノマーは、PCT特許出願国際公開第2014/204763号(Rasmussenら)及び同第2013/184366号(Bothofら)に記載されているように調製することができる。
【0202】
グアニジノ基又はビグアニジノ基を有するモノマーは、例えば、(メタ)アクリロイルハライド(例えば、(メタ)アクリロイルクロリド)、(メタ)アクリロイルイソシアネート(上記式(VI)におけるような)、又はアルケニルアズラクトン(上記式(V)におけるような)と式(VIII)の化合物との反応によって調製することができる。
HNR23-R22-NR24-[C(=NR24-NR24]mR25
(VIII)
【0203】
式(VIII)の化合物は、式(VI)(式中、X2は-NR23-であり、Lは-NR24-[C(=NR24)-NR24]mR25である)の化合物に対応する。これらの化合物は、例えば、PCT特許出願国際公開第2014/204763号(Rasmussenら)に記載されているように、ジアミンとグアニル化剤との反応によって形成させることができる。基R22、R23、R24、及びR25、並びに変数mは、上で記載したものと同じである。式(VIII)のいくつかの化合物、例えば、4-アミノブチルグアニジン(アグマチン)は、商業的に入手可能である。
【0204】
式(VIII)の化合物をアルケニルアズラクトンと反応させると、式(IV-3)のモノマーが形成される。
CH2=CR21-C(=O)-NH-R22-C(=O)-NR23-R22-NR24-[C(=NR24)-NR24]mR25
(IV-3)
【0205】
このモノマーは、式(IV)(式中、nは1に等しく、Z1は-C(=O)-NR23-であり、X1は-NH-である)で表される。基R21、R22、R23、R24、及びR25、並びに変数mは、上で記載したものと同じである。
【0206】
式(VIII)の化合物を(メタ)アクリロイルイソシアネートと反応させると、式(IV-4)のモノマーが形成される。
CH2=CR21-C(=O)-X1-R22-NH-C(=O)-NR23-R22-NR24-[C(=NR24)-NR24]mR25
(IV-4)
【0207】
このモノマーは、式(IV)(式中、nは1に等しく、Z1は-NH-C(=O)-NR23-であり、Lは式
-NR24-[C(=NR24)-NR24]mR25で表される)で表される。基R21、R22、R23、R24、及びR25、並びに変数mは、上で記載したものと同じである。
【0208】
Lとしてグアニジノ基を有する第1のモノマーのいくつかの具体例を以下に示す。構造は、簡単のために中性化合物として示されるが、例えば、塩化物塩又は硫酸塩などの様々な塩として存在してもよい:
2-({[(4-[アミノ(イミノ)メチル]アミノブチル)アミノ]カルボニル}-アミノ)エチルメタクリレート
【0209】
【化32】
N
2-アクリロイル-N
1-(4-{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}ブチル)-2-メチルアラニンアミド
【0210】
【化33】
N
2-アクリロイル-N
1-(6-{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}ヘキシル)-2-メチルアラニンアミド
【0211】
【化34】
2-({[N-(2-[アミノ(イミノ)メチル]アミノエチル)-N-ベンジルアミノ]カルボニル}-アミノ)エチルメタクリレート
【0212】
【0213】
上記の第1のモノマーを単独重合して、第1のポリマーブロックを提供することができる。他の実施形態では、様々な第1のモノマーを組み合わせて共重合することができる。更に他の実施形態では、他の種類のモノマーを第1のモノマーと組み合わせて共重合することができる。
【0214】
第1のポリマーブロックは、多くの場合、捕捉したい材料に対して高い結合能を有するブロックコポリマーを調製するために、酸性モノマー又は塩基性モノマーのホモポリマーである。すなわち、第1のポリマーブロックは、最大100重量パーセントの、酸性モノマー単位若しくはその塩、塩基性モノマー単位若しくはその塩、又はそれらの組み合わせ(混合物)であることができる。いくつかの実施形態では、第1のポリマーブロックの結合能を調整する、及び/又は他の所望の特性を達成するために、他のモノマー(第2のモノマー)を第1のモノマーと共重合させる。任意の好適な第2のモノマーを使用することができる。
【0215】
酸性基又は塩基性基を有する第1のモノマーの量は、例えば、第1のポリマーブロック中のモノマー単位の総重量に基づいて、50~100重量パーセントの酸性又は塩基性モノマー単位の範囲であり得る。その量は、第1のポリマーブロック中のモノマー単位の総重量に基づいて、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、又は少なくとも95、かつ最大100、最大99、最大98、最大97、最大95、最大90、最大85、最大80、又は最大75重量パーセントであり得る。第1のモノマーの量が多いほど、生体材料などの様々な標的化合物に対する結合能が増加する傾向がある。多くの実施形態では、酸性基、塩基性基、又はそれらの塩である第1のモノマーの量は、モノマー単位の総重量に基づいて、80~100、85~100、90~100、又は95~100重量パーセントの範囲である。
【0216】
第1のポリマーブロック中の第2のモノマーは、例えば、基材に付与される親水性の程度を調整するために、親水性モノマーであることができる。親水性モノマーは、エチレン性不飽和基と、親水性基、例えば、ヒドロキシル基又はアミド基などとを有する。好適な親水性モノマーとしては、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドンなど、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0217】
第1のポリマーブロック中の他の第2のモノマーとしては、2つ以上のエチレン性不飽和基を有するものが挙げられる。この種類の第2のモノマーは、典型的には、得られるコポリマーにある程度の分岐及び/又は比較的軽度の架橋を付与するために、比較的少量のみで使用される。例えば、3つ以上のエチレン性不飽和基を有するこれらの多官能性モノマーの量は、第1の重合性組成物中のモノマーの総重量に基づいて、0.1~5重量パーセントの範囲の量で存在し得る。その量は、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.5、又は少なくとも1.0重量パーセント、かつ最大5、最大4、最大3、最大2、又は最大1重量パーセントであり得る。より多い量を、ある特定の用途に使用することができるが、量が多くなると、様々な生体材料に対する結合能は低下し得る。
【0218】
第2のモノマーの総量は、第1のポリマーブロックを形成するために使用されるモノマーの最大50重量パーセントであり得る。第2のモノマーの量が少ないほど、典型的には、生体材料などの様々な標的化合物に対する結合能は増強される。存在する場合、その量は、通常、100から、第1の重合性組成物中のモノマーの総重量に基づく第1のモノマーの重量パーセントを引いたものに等しい。
【0219】
第1のポリマーブロックは、多くの場合、約0.02~約3ミリモル/グラム又は更にはそれ以上のグラフト密度を有する。グラフト密度は、少なくとも0.02、少なくとも0.05、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.5、又は少なくとも1ミリモル/グラム、かつ最大3、最大2.5、最大2、最大1.5、最大1、最大0.8、最大0.7、又は最大0.5ミリモル/グラムであり得る。これは、1~85パーセント又はそれ以上の重量増加に相当する。重量増加は、式[100(重量2-重量1)÷重量1](式中、重量1は基材の重量であり、重量2は、グラフトされたポリマーが結合した基材の重量である)から計算される。重量増加は、1~85重量パーセントの範囲又は更にはそれ以上であり得る。その量は、例えば、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、又は少なくとも50重量パーセント、かつ最大85、最大80、最大75、最大70、最大65、最大60、最大55、最大50、最大45、最大40、最大35、又は最大30重量パーセントであり得る。
【0220】
第1のポリマーブロックを形成するためにグラフト法1又はグラフト法2のいずれを用いるかに関係なく、チオカルボニルチオ含有化合物は、通常、第1の反応混合物に添加される。その添加は任意選択であるが、チオカルボニルチオ含有化合物の存在により、第1のポリマーブロックの末端基がチオカルボニルチオ含有基となる可能性を高めることができる。この基の存在は、第2のポリマーブロックの形成を開始するために必要である。チオカルボニルチオ含有化合物の量は、グラフト法1では0~20重量パーセント、グラフト法2では0.5~20重量パーセントの範囲であり得る。グラフト法1での量は、多くの場合、少なくとも0、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、又は少なくとも5重量パーセント、かつ最大20、最大15、最大10、最大8、最大6、最大5、最大4、最大3、又は最大2重量パーセントである。グラフト法2での量は、多くの場合、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、又は少なくとも5重量パーセント、かつ最大20、最大15、最大10、最大8、最大6、最大5、最大4、最大3、又は最大2重量パーセントである。チオカルボニル-チオ化合物がグラフト法1で添加される場合、それは、改質基材を形成するためにポリマー基材の表面に結びついたチオカルボニルチオ含有化合物と同じであっても異なっていてもよい。
【0221】
反応混合物中にチオカルボニルチオ含有化合物が存在すると、基材に結合していないポリマーの形成が開始される可能性がある。基材に結びついていないこれらのポリマーは、典型的には、物品の形成後に除去され、その結果、残っているポリマーは、多孔質ポリマー基材に共有結合で結合しているポリマーのみとなる。
【0222】
上記のように、いくつかの代替的なグラフト法では、チオカルボニルチオ含有化合物は存在せず、共有結合で結合した第1のポリマーブロックは、セミピナコール基で終端される。これらの代替形態では、末端セミピナコール基は、第2のポリマーブロックの形成を開始するRDRP基として機能する。
【0223】
第1のポリマーブロックに結合される第2のポリマーブロックの形成
第1のポリマーブロックに共有結合で結合する第2のポリマーブロックが形成され、第1のポリマーブロックは、第2のポリマーブロックと多孔質ポリマー基材との間に位置する。得られたブロックコポリマーは、多孔質ポリマー基材の表面から延びている。追加のポリマーブロックを付加することができるが、グラフトされるブロックコポリマーは、典型的にはジブロックポリマーである。
【0224】
第1のポリマーブロックを形成するために使用される方法にかかわらず、そのブロックの鎖末端の少なくともいくつかは、例えば、チオカルボニルチオ含有基又はセミピナコール基などのRDRP剤で終端される。したがって、第1のポリマーブロックの鎖末端は、第2のポリマーブロックの開始剤として機能することができる。典型的には、グラフトされた第1のポリマーブロックを含む基材は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とポリエーテル基とを有するポリエーテルモノマーを含む第2の重合性組成物でコーティングされる。次いで、RDRP剤は、例えば、化学線によって活性化されて、フリーラジカル鎖末端と、RDRP剤から誘導されるラジカルとを再び生成する。次いで、ラジカル鎖末端は、第2のモノマー組成物の重合を開始し、第2のポリマーブロックを形成する。最後に、停止は、RDRP剤から誘導されるラジカルとの再結合によって、又は他の周知のラジカル停止機構のいずれかによって起こり得る。
【0225】
第2のポリマーブロックは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とポリエーテル基とを有するポリエーテルモノマーを含む第2の重合性組成物の反応生成物である。ポリエーテルモノマーは、典型的には、親水性又は水膨潤性であるように選択される。好適なポリエーテルモノマーは、エチレン性不飽和基の数にかかわらず、通常、複数のエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、又はそれらの混合物を含有する。エチレン性不飽和基の数は、通常、1~4、例えば、1~3又は1~2の範囲である。
【0226】
第2のポリマーブロックは、試料中の材料をサイズ効果又は立体効果に基づいて分離するために使用することができる多孔質ポリマーネットワークを提供するように形成される。すなわち、第2のポリマーブロックは、第1のポリマーブロックの酸性基及び/又は塩基性基と相互作用し得るより大きな材料の数を抑制又は低減することができる。ほとんどの実施形態では、第2のポリマーブロックは架橋される。しかしながら、ポリエーテル基が十分に長い、及び/又は絡み合っている場合、架橋は任意選択であり得る。
【0227】
任意の好適なアプローチを使用して、第2のポリマーブロックを架橋することができる。いくつかの実施形態では、架橋は、第2の重合組成物中の複数のエチレン性不飽和基を有するポリエーテルモノマーを使用することによって行われる。第2のポリマーブロックに所望される多孔性を得るために、任意の量のこれらのポリエーテルモノマーを使用することができる。
【0228】
いくつかの実施形態では、第2の重合性組成物中の全てのポリエーテルモノマーは、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を有する。全てのこれらのポリエーテルモノマーは、同じ重量平均分子量及び同じ数のエチレン性不飽和基を有することができるか、又は異なる重量平均分子量及び/若しくは異なる数のエチレン性不飽和基を有する異なるポリエーテルモノマーの混合物であることができる。
【0229】
他の実施形態では、第2の重合性組成物は、単一のエチレン性不飽和基を有するポリエーテルモノマーと、複数のエチレン性不飽和基を有するポリエーテルモノマーとの混合物を含む。混合物中のポリエーテルモノマーのサイズは、同じであっても異なっていてもよい。複数のエチレン性不飽和基を有するポリエーテルモノマーの量は、ポリマーネットワークの所望の多孔性を得るために変化させることができる。
【0230】
更に他の実施形態では、第2の重合性組成物は、ポリエーテルモノマーではない架橋モノマーを更に含む。架橋モノマーは、水溶性であるように選択され、単一のエチレン性不飽和基、複数のエチレン性不飽和基、又はそれらの混合物を有するポリエーテルモノマーと組み合わせることができる。架橋モノマーの量は、ポリマーネットワークの所望の多孔性を得るために変化させることができる。
【0231】
ポリエーテルモノマーの重量平均分子量は、多くの場合、250~20,000ダルトンの範囲である。重量平均分子量は、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも1000、少なくとも2000、少なくとも5000、かつ最大20,000、最大10,000、最大5000、最大2000、又は最大1000ダルトンであり得る。
【0232】
1つ以上のエチレン性不飽和基を有する好適なポリエーテルモノマーは、Aldrich Chemical(Milwaukee,WI,USA)から市販されており、例えば、302、575、2000、6000、及び10,000ダルトンの数平均分子量を有するポリエチレングリコールジアクリレート(polyethylene glycol diacrylate、PEGDA)、並びに200、400、及び2000ダルトンの数平均分子量を有するポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(poly(ethylene glycol)methyl ether methacrylate、PEGMA)などである。他の好適なポリエーテルモノマーは、Sartomer(Exton,PA,USA)から市販されており、例えば、商品名SR415(エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート)、SR610(平均分子量600Daのポリエチレングリコールジアクリレート)、SR9035(エトキシ化(15)トリメチロールプロパントリアクリレート)、及びSR9038(エトキシ化(30)ビスフェノールAジアクリレート)を有するものなどである。
【0233】
ポリエーテルモノマーではない架橋モノマーを使用する場合、重量平均分子量は、多くの場合、100~500ダルトンの範囲である。重量平均分子量は、少なくとも100、少なくとも150、又は少なくとも200、かつ最大500、最大450、最大400、最大350、又は最大300ダルトンであり得る。例としては、メチレンビスアクリルアミド、3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、ジアクリロイルピペラジン、及び1,2-エチレンビスアクリルアミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0234】
第2のポリマーブロックは、多くの場合、約0.01~約1ミリモル/グラムの範囲又は更にはそれ以上のグラフト密度を有する。グラフト密度は、少なくとも0.01、少なくとも0.02、少なくとも0.05、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.3、又は少なくとも0.5ミリモル/グラム、かつ最大1若しくは更にはそれ以上、最大0.8、最大0.7、最大0.6、最大0.5、又は最大0.4ミリモル/グラムであり得る。これは、0.2~90パーセント又は更にはそれ以上の重量増加に相当する。重量増加は、式[100(重量3-重量2)÷重量2][式中、重量2は、基材と、結合した第1のポリマーブロックとを足した重量であり、重量3は、結合したブロックコポリマー(第1のポリマーブロック及び第2のポリマーブロックの両方)を有する基材の重量である]から計算される。重量は、0.2~90重量パーセントの範囲又は更にはそれ以上であり得る。その量は、例えば、少なくとも0.2、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、又は少なくとも50重量パーセント、かつ最大90、最大85、最大80、最大75、最大70、最大65、最大60、最大55、最大50、最大45、最大40、最大35、又は最大30重量パーセントであり得る。
【0235】
材料の混合物を分離する方法
分離物品は、例えば、生体材料の混合物などの材料の様々な混合物を分離するために使用することができる。上記のように、分離物品は、多孔質ポリマー基材にグラフトされたブロックコポリマーを有する。ブロックコポリマーは、様々な生体材料に結合することができる、酸性モノマー単位、塩基性モノマー単位、又はそれらの組み合わせを有する第1のポリマーブロックを含有する。これらのモノマー単位は、pHに応じて塩の形態であることができる。ブロックコポリマーは、サイズ又は立体パラメータに基づいて生体材料を分離することができる第2のポリマーブロックを更に含有する。分離方法は、上記のような分離物品を調製し、次いで、材料の混合物を分離物品に通すことであって、第2のポリマーブロックは、混合物中の材料の一部分のみが第1のポリマーブロック中の酸基若しくはその塩、塩基基若しくはその塩、又はそれらの組み合わせと接触することを可能にする、通すことを含む。
【0236】
本明細書で使用される場合、「一部分」という用語は、混合物の成分(すなわち、材料)の一部が、第2のブロックの存在によって、第1のブロックにアクセスすることが制限されるという事実を指す。このアクセスの制限は、第2のブロックを付加した際の、成分の結合能の低下として観察することができる。典型的には、混合物のより大きな成分は最も制限される成分であり、より小さな成分は依然として第2のブロックを通って拡散し、第1のブロックに結合することができ、したがって、大きな成分と小さな成分の選択的分離が可能になる。分離は、100%選択的であることができ、例えば、混合物のより小さな成分は、第1のポリマーブロックによって完全に捕捉され、分離デバイスによって除去することができるが、より大きな成分は、デバイスを通って流れ(例えば、第1のポリマーブロックによって捕捉されないように第2のポリマーブロックによって排除され)、100パーセントの純度及び収率で回収される。あるいは、分離は、100パーセント未満で選択的であり、混合物からの成分(単数又は複数)を部分的に除去するのみであってもよい。典型的なクロマトグラフィー操作、例えば、緩衝液及びpH調整、流量、滞留時間などは、分離の選択性を最適化するために使用され得る。
【0237】
一部分は、任意の好適な量であることができる。いくつかの実施形態では、第2のポリマーブロックを通過して第1のポリマーブロックに到達する材料の一部分は、分離される材料の総重量に基づいて、少なくとも1重量パーセントである。その量は、分離される材料の総重量に基づいて、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、若しくは少なくとも90重量パーセント、又は更にはそれ以上であり得る。
【0238】
理論に束縛されることを望むものではないが、分離物品の選択的分離を実現する能力は、(a)第2のポリマーブロックの孔径の操作、(b)第2のポリマーブロック中のポリエーテル鎖の存在に由来する立体排除、又は(c)その両方の組み合わせのうちの少なくとも1つに基づくと考えられる。
【0239】
Engberg,et al.,Biomed.Mater.,6(2011),055006では、架橋ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)ヒドロゲル中のタンパク質の拡散係数は、架橋反応が開始されるときのPEGDAの濃度に反比例することが報告されている。濃度を増加させると、より密に架橋したヒドロゲルが得られ、したがって孔径が減少し、タンパク質拡散が遅くなる。あるいは、PEGDAの分子量を増加させると、架橋間の距離が増加し、したがって、ヒドロゲルの孔径が増加する。その結果、本明細書に記載される分離物品では、材料の第1のポリマーブロックへのアクセスは、ポリエーテルモノマーの分子量及びその第2のポリマーブロックの形成中の濃度の操作によって最適化することができる。
【0240】
親水性ポリマー、例えば、ポリエーテル含有モノマーから誘導される親水性ポリマーを表面に結合させて、表面を防汚性又はタンパク質忌避性にすることは周知である。この現象は、少なくとも部分的には、ポリエーテル基の存在によりタンパク質が優先的に水和され、2つの種の間で相互反発が生じる立体排除によるものである。この反発相互作用は、ポリエーテルモノマーの分子量の増加と共に増加することが知られている(Bhat,et al.,Protein Science,1(1992),pp.1133-1143を参照されたい)。水和殻の厚さはいくらかタンパク質に依存するが、これはタンパク質の有効サイズ及びそのヒドロゲルへの浸透能に影響を及ぼす可能性がある。したがって、立体排除効果は、第2のポリマーブロックに使用されるポリエーテルモノマーの選択によって調節され得る。
【0241】
ポリエーテルモノマーの選択及びその第2のポリマーブロック中の濃度に加えて、第1及び第2のポリマーブロックのグラフト密度は、分離物品の分離選択性を最適化するように変更することができる。第1のポリマーブロックのグラフト密度を増加させると、典型的には、そのブロックの結合能が増加する。第2のポリマーブロックのグラフト密度を増加、したがってその厚さを増加させると、典型的には、ブロックコポリマーの選択性が改善される。最後に、全体的なグラフト密度を制御すると、分離物品の流動特性を制御することができる。
【0242】
上記したように、分離物品は、有利には、RDRP剤としてチオカルボニルチオ含有化合物を使用して調製される。場合によっては、これらの薬剤は、例えばセミピナコール含有剤などの他のRDRP剤を使用した場合に達成され得るよりも良好な、選択的分離に対する制御をもたらし得る。言い換えれば、チオカルボニルチオ含有RDRP剤を使用して、サイズ選択性に対するより微細な制御が達成され得ることが見出された。チオカルボニルチオ含有RDRP剤を使用するいくつかの実施形態では、14.3kDのタンパク質であるリゾチームなどの小さな生体分子を捕捉する一方で、150kDのタンパク質であるIgGなどのより大きなタンパク質を完全に又はほぼ完全に排除する分離物品を調製することができる。これにより、小さなタンパク質及び大きなタンパク質の両方が中性pHで正に帯電している場合であっても、小さなタンパク質を大きなタンパク質から分離することが可能になる。この選択性が有利となり得る1つの例は、フロースルー分離デバイスにおけるモノクローナル抗体精製である。
【0243】
例えばセミピナコール含有RDRP剤を使用することによる他の実施形態では、大きなタンパク質と小さなタンパク質との間の選択性は、チオカルボニルチオ含有RDRP剤を使用することほど良好ではない場合がある。しかしながら、ウイルス様粒子又はウイルスベクターなどのより大きなバイオ治療薬を、宿主細胞タンパク質などのより小さな生体材料から分離する場合、分離物品は、有利には、チオカルボニルチオ含有RDRP剤よりもいくらか単純で安価なセミピナコール含有RDRP剤を使用して調製されてもよい。この選択性が有利となる一例は、フロースルー分離デバイス中のウイルスベクター又はウイルス様粒子の産生ストリームからタンパク質不純物を捕捉又は除去する場合である。
【0244】
分離物品は、例えば生体材料の混合物などの材料の様々な混合物の分離に使用することができる。生体材料に関して行われ得る例示的な分離としては、以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されない:(1)モノクローナル抗体(mAb)の宿主細胞タンパク質(host cell protein、HCP)不純物からの分離、(2)mAbの抗体フラグメントからの分離、(3)mAbのより高分子量の抗体凝集体からの分離、(4)二重特異性抗体(biAb)の抗体フラグメントからの分離、(5)抗体-薬物コンジュゲート(antibody-drug conjugate、ADC)の非コンジュゲート薬物からの分離、(6)Fc融合タンパク質のFc融合タンパク質フラグメントからの分離、(7)IVIG抗体(ガンマグロブリン)のより小さな血漿タンパク質からの分離、(8)サイズ及び/又は電荷に基づく乳タンパク質、例えば、ラクトフェリン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンの分離、(9)ウイルスベクター、ウイルス、又はウイルス様粒子のHCP及び核酸などの宿主細胞不純物からの分離、並びに(10)核酸の他の核酸又は他の不純物からの(例えば、mRNAのそのプラスミドDNA鋳型からの、mRNAのDNA断片からの、又はプラスミドDNAの酵素、DNAフラグメント、及び他の不純物からの)分離。
【0245】
上記したように、分離物品は、サイズ又は立体パラメータに基づいて生体材料などの様々な材料を分離するために使用することができる。例えば、第1のポリマーブロックによって捕捉される生体材料は、概して、第2のポリマーブロックによって排除される生体材料よりもサイズが小さく、したがって、第2のポリマーブロックを通って拡散して、第1のポリマーブロックと相互作用し、それに結合する。第1のポリマーブロックに結合した生体材料は、典型的には、第1のポリマーブロックのイオン電荷と反対のイオン電荷を有し、結果として、結合相互作用はイオン交換型の相互作用となる。結合相互作用は、排他的にイオン交換型であっても、第1のポリマーブロックを形成するために使用されるモノマーの構造に応じて、水素結合型、疎水性型、又は金属親和性型相互作用などの他の二次的な相互作用型によって増強されてもよい。結合した生体材料は、それらが第2のポリマーブロックによって分離した生体材料と同様の正味電荷又は反対の正味電荷を有し得る。明らかに、分離方法は、同様の電荷特性を有する材料を分離するために使用される場合に最も有利である。結合した生体材料は、混合物から除去されることが望ましい不純物であり得る。あるいは、それらは精製の対象であってもよく、ここにおいて、結合すると、不純物は洗い流されてもよく、次いで、緩衝液条件(pH、伝導率など)は、結合した生体材料を精製された形態で溶出させるように変更されてもよい。
【実施例】
【0246】
【0247】
試験方法
官能化基材のタンパク質結合能に関する方法
以下の実施例に記載されるように調製された第1のグラフトされた基材及び第2のグラフトされた基材を、基材の1つのディスクを試験分析物(適切な結合緩衝液に溶解したタンパク質)の溶液中で一晩インキュベートすることにより、タンパク質結合能について分析した。ディスクは、グラフトされた基材のシートから直径18mmのディスクを打ち抜くことによって調製した。各ディスクを、4.5mLの試験分析物溶液と共に、5mL遠心管に入れた。管に蓋をし、回転ミキサー(VWR International(Eagan,MN)から入手したBARNSTEAD/THERMOLYN LABQUAKE Tube Shaker;Thermo Scientific(Waltham,MA)から入手したThermo Scientific Tube Revolver Rotator)上で一晩(典型的には14時間)混転させた。上清溶液を廃棄し、管を結合緩衝液で満たし、15~30分間混転させて、過剰なタンパク質溶液を洗い流した。上清溶液を廃棄し、緩衝液洗浄を更に2回繰り返した。1M NaClを含有する結合緩衝液4.5mLを添加し、1時間混転させることによって、結合したタンパク質を溶出させた。溶出した上清溶液を、280nmにてUV-VIS分光計(Agilent8453、Agilent Technologies(Santa Clara,CA))を使用して(325nmでバックグラウンド補正を適用)、又はNANODROP OneCMicrovolume UV-VIS分光光度計(Thermo Scientific(Waltham,MA))を使用して、分析した。各基材の結合能を、供給業者によって提供されたUV吸光度及びタンパク質吸光係数から決定した。結果を、3回反復の平均としてmg/mL(基材体積1mL当たりの結合したタンパク質のmg)で報告する。
【0248】
【0249】
グラフト密度
基材(膜、不織布ウェブ、又は第1のグラフトされた基材)を、グラフトする前に、20~25パーセント(%)の相対湿度(RH)の低湿チャンバ(Sanpia Dry Keeper、Sanplatec Corporation、VWR Internationalから入手可能)内で、最低18時間平衡化した。基材を低湿チャンバから取り出し、直ちに秤量し、次いで、以下に記載するようにフリーラジカルグラフト反応(すなわち、グラフト手順)に供した。洗浄及び乾燥プロセス(以下に記載)後、基材を、再び低湿チャンバ内で最低18時間平衡化し、チャンバから取り出し、直ちに再秤量して、グラフト反応中の質量増加の測定値を得た。その後、質量増加を利用して、質量増加をモノマーの分子量で割ることによって、基材にグラフトされたモノマー単位のミリモル数を推定した。次いで、グラフト密度を、基材の元の質量で割ることによって正規化し、基材1グラム当たりのグラフトされたモノマー単位のミリモル(mmol/g)で表した。
【0250】
膜コーティング手順
モノマーを含むコーティング溶液を、以下に記載するように調製した。各コーティング溶液について、膜基材をポリエステルフィルムのシート上に置き、十分なコーティング溶液を基材の上面にピペットで滴下して、膜基材を完全に湿らせた。第1のグラフトされた基材(すなわち、基材にグラフトされた第1のポリマーブロック)を形成するためのコーティング溶液は、以下の手順A~Eに記載する。各コーティング溶液を膜基材に約1分間しみ込ませ、次いでポリエステルフィルムの第2のシートを基材の上に置いた。得られた3層サンドイッチの上で2.28kgの円筒形の重りを転がして、過剰なコーティング溶液を絞り出した。第2のグラフトされた基材を形成するためのコーティング溶液は、個々の実施例に記載する。
【0251】
不織布コーティング手順
モノマーを含むコーティング溶液を、以下に記載するように調製した。各コーティング溶液について、不織布シートをクロージャ付きプラスチックバッグの中に入れ、十分なコーティング溶液を不織布基材の上面にピペットで滴下して、不織布基材を完全に湿らせた。バッグの上で円筒形の重り(2.28kg)を転がして、ウェブ(すなわち、不織布基材)全体に流体を分布させた。プラスチックバッグを窒素ガスで10秒間パージし、充填されたプラスチックバッグを閉じて、コーティングされたウェブが酸素のない環境下にあることを確実にした。プラスチックバッグをわずかに開け、直ちに円筒形の重りを転がしてバッグからガスを排気し、プラスチックバッグを平らにし、過剰なコーティング溶液を絞り出した。第1のグラフトされた基材(すなわち、基材にグラフトされた第1のポリマーブロック)を形成するためのコーティング溶液は、以下の手順F~Gに記載する。第2のグラフトされた基材を形成するためのコーティング溶液は、個々の実施例に記載する。
【0252】
紫外線(UV)開始グラフト手順
紫外線(UV)開始グラフトは、18個の電球(Sylvania RG2 40W F40/350BL/ECO、基材の上に10個及び下に8個、長さ1.17メートル(46インチ)、中心間の間隔5.1cm(2インチ))を備えたUVスタンド(Classic Manufacturing,Inc.(Oakdale,MN))を使用して、以下の手順A~G及び実施例1~60に示す照射時間で、ポリエステルフィルムサンドイッチ中のコーティングされた膜又はクロージャ付きプラスチックバッグ中のコーティングされた不織布を照射することによって行った。膜又は不織布シートを取り出し、得られた第1のグラフトされた基材を、以下に記載するように洗浄するためにポリエチレンボトルに入れた。洗浄及び乾燥後、第1のグラフトされた基材を、グラフト密度及びタンパク質結合能について試験した。
【0253】
以下に別途記載がない限り、これらの同じ条件を使用して、第2のグラフトされた基材を形成し、特性評価した。
【0254】
第1のグラフトされた基材(すなわち、基材にグラフトされた第1のポリマーブロック)の形成
手順A
メタノール中に0.5M、0.75M、1.0M、1.25M、又は1.5M AMPS、3-カルボキシベンゾフェノンのナトリウム塩(Aldrich Chemical(Milwaukee,WI))(0.033g/mL水溶液2.0mL)、及びDEX(140μL)を含有する、総容量20mLのコーティング溶液を調製した。その溶液を、ナイロン膜シート(8インチ×8インチ)にコーティングし、上記UV開始グラフト手順によって15又は30分間UVグラフトして、AMPSから誘導され、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された、グラフトされた第1のカチオン交換ポリマーブロックを生成した。シートを、0.9%生理食塩水、メタノール、0.9%生理食塩水、メタノール(更に2回)で各30分間洗浄し、乾燥させた後、質量増加を測定して、グラフト密度を決定した(表1)。その後、各シートの切片を、評価のために又は第2のポリマーブロックのグラフトのために切断した。
【0255】
【0256】
手順B
コーティング溶液を、AMPS(10.35グラム)、ベンゾフェノン(Aldrich Chemical(Milwaukee,WI))のメタノール(12mL)中1重量/重量%溶液、DEX(280μL)、メタノール(17.65mL)、及び脱イオン水(3mL)を混合することによって調製した。この溶液は、AMPS中およそ1.16Mであった。それを、2枚のナイロン膜シート(8インチ×8インチ)にコーティングし、上記UV開始グラフト手順によって30分間UV照射して、AMPSから誘導され、エトキシチオカルボニルチオ基で終端されたモノマー単位を有する第1のポリマーブロックでグラフトされた膜を生成した。手順Aに記載したように洗浄し、乾燥させた後、膜B1及びB2は、それぞれ0.21及び0.25mmol/gのグラフト密度に相当するそれぞれ4.9及び5.7%の質量増加を有した。
【0257】
手順C
表1の膜A4に使用したものと同一のコーティング溶液を調製し、これを使用して、2枚のナイロン膜シート(8インチ×8インチ)をグラフトし、上記UV開始グラフト手順によって30分間UV照射して、AMPSから誘導され、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された、グラフトされた第1のポリマーを有する膜を生成した。その膜を、脱イオン水のみで3回洗浄し、乾燥させて、0.40及び0.38mmol/gのグラフト密度に相当するそれぞれ9.2及び8.7%の質量増加を有する膜C1及びC2を得た。
【0258】
手順D
1.0M AMPS、DEX(140μL)、及び3-カルボキシベンゾフェノンのナトリウム塩(0.033g/mL水溶液を、それぞれ、D1は1.0mL、D2は0.5mL、及びD3は0.25mL)を含有する、メタノール中の総容量20mLの3つのコーティング溶液を調製した。その溶液を、ナイロン膜シート(8インチ×8インチ)にコーティングし、上記UV開始グラフト手順によって15分間UVグラフトして、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された、グラフトされた第1のカチオン交換ポリマーブロックを生成した。シートを、0.9%生理食塩水、メタノール、0.9%生理食塩水、メタノール(更に2回)で各30分間洗浄し、乾燥させた後、質量増加を測定して、グラフト密度を決定した。D1、D2、及びD3のグラフト密度は、それぞれ0.16mmol/g、0.08mmol/g、及び0.05mmol/gであった。
【0259】
手順E
アセトン中に1重量%のベンゾフェノン及び2.5重量%のメチルエチルキサントイルアセテート(MEX)を含有するコーティング溶液を、1.125グラムのMEX及び0.5グラムのベンゾフェノンを秤量し、その混合物をアセトンで合計45グラムに希釈することによって調製した。その溶液を、ナイロン膜シート(8インチ×8インチ)にコーティングし、上記UV開始グラフト手順によって30分間UV照射して、エトキシチオカルボニルチオ基で官能化された膜を生成した。その膜を、アセトンで3回洗浄し、その後のグラフトのために乾燥させた。
【0260】
手順F
0.25M AMPS、DEX(560uL)、及び3-カルボキシベンゾフェノンのナトリウム塩ナトリウム塩(0.033g/mL水溶液4mL)を含有する、メタノール中の総容量40mLのコーティング溶液を調製した。その溶液(約10mL)を、クロージャ付きプラスチックバッグの中にあるナイロンブローンマイクロファイバーウェブ(125グラム/平方メートル、13.9%ソリディティ、及び5.9マイクロメートル有効繊維径)シート(3インチ×4インチ)にコーティングした。2枚のシートを別個のバッグで調製した。コーティングされたウェブを、上記UV開始グラフト手順によって30分間UV照射して、AMPSから誘導され、エトキシチオカルボニルチオ基で終端されたポリマーでグラフトされた不織布を生成した。グラフトされた基材をメタノールのみで3回、各30分間洗浄し、ウェブを乾燥させた後、質量増加を測定して、グラフト密度を決定した。第1のグラフトされた基材F1及びF2のグラフト密度は、それぞれ、0.70mmol/g及び0.69mmol/gであった。
【0261】
手順G
0.375M IEM/アグマチン、EXA(100uLの17.9%水溶液)、及び3-カルボキシベンゾフェノンのナトリウム塩ナトリウム塩(0.033g/mL水溶液0.5mL)を含有する、水中の総容量10mLのコーティング溶液を調製した。その溶液を、クロージャ付きプラスチックバッグの中にあるナイロン(Nylon6)ブローンマイクロファイバーウェブ(125グラム/平方メートル、13.9%ソリディティ、及び5.9マイクロメートル有効繊維径)シート(3インチ×4インチ)にコーティングした。コーティングされたウェブを、上記UV開始グラフト手順によって30分間UV照射して、IEM/アグマチンから誘導され、エトキシチオカルボニルチオ基で終端されたポリマーでグラフトされた不織布を生成した。グラフトされた基材を0.9%生理食塩水(1回)及び水(2回)で各30分間洗浄し、ウェブを乾燥させた後、質量増加を測定して、グラフト密度を決定した。第1のグラフトされた基材G1のグラフト密度は、2.1mmol/g(85%の質量増加)であった。
【0262】
基材にグラフトされたジブロックコポリマーの形成
実施例1~16
グラフトされた第1のポリマーブロックを含有する、上記手順Aによって調製された第1のグラフトされた基材を、脱イオン水中の様々な濃度のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)でコーティングし、次いで、上記のUV開始グラフト手順によって15又は30分間UVグラフトして、グラフトされたジブロックコポリマーを有する膜(第2のグラフトされた基材)を調製した。グラフト密度を表2に記載する。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を表3に記載し、ここで、対照は、第1のポリマーブロックのみがグラフトされた対応する膜(すなわち、第1のグラフトされた基材)である。
【0263】
【0264】
【表5】
<LOD-NanoDrop装置の検出限界未満
【0265】
実施例16の評価:25mmフィルタハウジングを使用する動的結合実験
緩衝タンパク質溶液を使用して、以下のように、公称直径25mmのアクリルフィルタハウジングを使用して、膜媒体に対して動的結合能試験を行った。機能性膜媒体の直径25mmのディスクを、上記の乾燥媒体試料A6及び実施例16からダイカットした。各試験媒体について、機能性膜媒体の5つのディスクを、アクリルフィルタハウジングの底部に置いた。次いで、アクリルハウジングを組み立てた。アクリルハウジングは、チャレンジ流体が、ハウジングの入口に流入し、次いで機能性膜媒体の5つの層を通って、次いでハウジングの出口から流出するように、Oリングによって媒体の周縁にエッジシールを施し、2.84平方センチメートル(cm2)の有効濾過面積(effective filtration area、EFA)を画定するように構成された。流体入口付近に位置する排気弁により、試験前にハウジング内の空気を排出することが可能であった。
【0266】
AKTA Avant150システム(Cytiva(Marlborough,MA))を製造業者の指示に従って使用して、動的結合能(dynamic binding capacity、DBC)を試験した。各試験の前に、フィルタハウジングを最初に排気し、1mL/分の流量で、5mLの結合緩衝液、5mLの溶出緩衝液、次いで10mLの結合緩衝液でフラッシュした。結合緩衝液及び溶出緩衝液は、以下の表4に示す。次いで、結合緩衝液を試験分析物溶液(適切な結合緩衝液に溶解したタンパク質)に交換し、1mL/分の流量で試験を開始した。フィルタ試験中、溶出液の280nmでのUV吸光度は、膜にチャレンジ流体中のタンパク質が負荷されるにつれて増加した。フィルタは、吸光度が濾液における試験分析物溶液最大吸光度の10%に達するまで、負荷された。負荷後、フィルタを10mLの結合緩衝液で洗浄して、未結合タンパク質を洗い流した。2つの異なる溶出プロセスを行って、結合したタンパク質を溶出させた。第1の溶出プロセスでは、10mLの100%溶出緩衝液を使用した。第2の溶出プロセスでは、15mLにわたる最大100%の溶出緩衝液の溶出緩衝液勾配を、勾配の最後に保持した5mLと共に使用した(20mLの総溶出容量)。溶出後、10mLの結合緩衝液をフィルタに流した。
【0267】
Cytivaの評価ソフトウェア(Unicorn)により、溶出ピークのピーク面積を積分し、膜から溶出したタンパクの吸光係数に基づいてタンパク質濃度を計算した。動的結合能を、計算された膜の体積当たりに結合したタンパク質の量によって決定した。次いで、フィルタハウジングを、10mLの結合緩衝液、10mLの溶出緩衝液で洗浄し、次の試験のために10mLの結合緩衝液で再び平衡化した。0.28mg/mLのリゾチーム及び0.25mg/mLのモノクローナル抗体(mAb;IgG1)の試験分析物溶液を、結合緩衝液の各々で調製した。使用した緩衝液を表4に記載する。
【0268】
【0269】
DBC試験を、ランニング緩衝液の各々で膜A6及び実施例16に対して行った。結果を表5に記載する。
【0270】
【0271】
この実施例は、実施例16におけるPEGDAブロックの付加は流動条件下でのリゾチームの結合を妨げなかったが、mAbの結合は減少し、緩衝液条件の調整によって調節され得ることを示す。したがって、小さなタンパク質を大きなタンパク質から除去することは、それらの電荷が同様であっても可能であるはずである。
【0272】
実施例17~21
上記手順Bによって調製された第1のグラフトされた基材を、脱イオン水中の様々な濃度のPEGモノマーでコーティングし、次いで、上記のUV開始グラフト手順によって15又は30分間UVグラフトして、グラフトされたジブロックコポリマーを有する膜である第2のグラフトされた基材を調製した。グラフト密度を表6に記載する。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を表7に記載し、ここで、対照は、グラフトされた第1のポリマーブロックを有する膜である第1のグラフトされた基材である。
【0273】
【0274】
【0275】
これらの実施例は、多種多様な多官能性PEGモノマーが良好なタンパク質選択性を提供することを示す。
【0276】
実施例22~25
第1のグラフトされた基材C1の切片を、脱イオン水中の様々なモル比のPEG575モノマー及びHEMAモノマー(総モノマー濃度0.1M)でコーティングし、次いで、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトして、グラフトされたジブロックコポリマーを有する膜を調製した。質量増加を表6に記載する。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を表8に記載し、ここで、対照は、第1のグラフトされた基材である。
【0277】
【0278】
これらの実施例は、タンパク質に対する選択性は小さなコモノマーを含めることによって調節できること、及び100%が小さなコモノマーのブロック(CE25)は選択性を提供しないことを示す。
【0279】
実施例26~28
第1のグラフトされた基材D1の切片を、脱イオン水中の様々な濃度のPEGMA2000、又はPEGMA2000及びMBAでコーティングし、15分間のUV照射によってグラフトし、脱イオン水で3回洗浄し、乾燥させた。グラフト密度は、非常に低かったが、上記手順によって決定されたIgG結合能を表9に記載し、ここで、対照は、第1のグラフトされた基材である。
【0280】
【0281】
これらの実施例は、単官能性PEGがIgGのような大きなタンパク質に対する結合能をいくらか低下させること、及び架橋剤を含めるとその低下が改善されることを示す。
【0282】
実施例29~31
第1のグラフトされた基材A2の切片を、PEGDA575又はPEGDA575と追加の架橋剤MBA若しくはAOHPMAとを用いて、30分間UVグラフトした。コーティング溶液の組成、質量増加、及びタンパク質結合を表10に記載し、ここで、対照は、第1のポリマーブロックのみがグラフトされた膜である。
【0283】
【0284】
これらの実施例は、短鎖架橋剤の添加によりタンパク質選択性を調節できることを示す。
【0285】
実施例32~34
第1のグラフトされた基材C2の切片を、脱イオン水中の様々な濃度の高分子量PEGDAモノマーで30分間UVグラフトした。膜を脱イオン水で3回洗浄し、乾燥させた。表11に、モノマー、濃度、質量増加、及びタンパク質結合能を記載する。
【0286】
【0287】
実施例35~36
実施例35では2.324mL、実施例36では2.905mLのMAPTAC溶液(水中50重量/重量%)を、0.5mLの3-カルボキシベンゾフェノンナトリウム塩溶液(0.033g/mL水溶液)及び35μLのジエチルビスキサンテートと混合し、その混合物をメタノールで合計5mLに希釈することによって、コーティング溶液を調製した。これにより、それぞれMAPTAC中1.0及び1.25Mの溶液を得た。これらの溶液を、ナイロン膜にコーティングし、30分間UVグラフトし、メタノールで3回洗浄し、乾燥させて、それぞれ0.25及び0.78mmol/gのグラフト密度を有する、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された第1のアニオン交換ポリマーブロックを有する膜(第1のグラフトされた基材)を生成した。その後、各膜を、脱イオン水中0.1M PEGDA575でグラフトし、30分間UVし、洗浄し、乾燥させて、それぞれ10.5及び10.8%の質量増加を有する第2のポリマーブロックを有する膜(第2のグラフトされた基材)を得た。
【0288】
これらの膜を、β-ラクトグロブリン(直径3.5nmのタンパク質)、ウシ血清アルブミン(BSA、直径7.1nmのタンパク質)、及びphi6(直径75~85nmのバクテリオファージ)に対する結合能について試験した。タンパク質のための結合緩衝液は50mM HEPES、pH7であり、phi6のための結合緩衝液は25mMトリス、pH8であった。結果を、MAPTACのみの対照に対するブロックコポリマー膜の結合の減少%として表12に記載する。減少%は、以下のように計算される:
100-100(ブロックコポリマーによる結合/対照による結合)。
【0289】
【0290】
これらの実験は、ウイルス又はウイルス様粒子が貫流して精製される一方で、清澄化された細胞培養物中に存在する宿主細胞タンパク質不純物を捕捉することが可能であるはずであることを示す。
【0291】
実施例37~39
上記手順Eによって調製された6インチ×8インチの官能化膜を、IEM/アグマチン(脱イオン水中0.2M)でコーティングし、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトして、0.29mmol/gの配位子密度を有する、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された第1のアニオン交換ポリマーブロックを有する膜を生成した。膜を4片に切断し、そのうちの3片を脱イオン水中のPEGDA575でコーティングし、30分間UVし、洗浄し、乾燥させて、第2のポリマーブロックを有する膜を得た。その膜を、β-ラクトグロブリン及びBSAに対するタンパク質結合能について試験した。結果を表13に記載する。
【0292】
【0293】
これらの実験は、第2のポリマーブロックの質量増加の最適化が重要であり得ることを示す。グラフトされる量が少なすぎる場合は、相違点が観察されず、グラフトされる量が多すぎる場合は、より小さなタンパク質がより大きなタンパク質とほぼ同程度に排除され始め、グラフトされる量が適切である場合は、大きなタンパク質の結合の減少が観察され、小さなタンパク質に対する影響は最小限である。
【0294】
実施例40~42
上記手順Eによって調製された6インチ×8インチの官能化膜を、IEM/GABA(脱イオン水中0.5M)でコーティングし、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトして、0.33mmol/gの配位子密度を有する、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された第1のカチオン交換ポリマーブロックを有する膜(第1のグラフトされた基材)を生成した。第2のポリマーブロックを、脱イオン水中の様々な濃度のPEGDA575を使用し、水溶性キサンテート、EXAの添加の存在下又は非存在下で、15分のUVグラフト時間で、グラフトした。結果を表14に示す。
【0295】
【0296】
実施例43~45
上記手順Eによって調製された6インチ×8インチの官能化膜を、IEM/GABA(脱イオン水中の0.7M及び0.004M EXA)でコーティングし、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトして、0.61mmol/gの配位子密度を有する、エトキシチオカルボニルチオ基で終端された第1のカチオン交換ポリマーブロックを有する膜(第1のグラフトされた基材)を生成した。第2のポリマーブロックを、脱イオン水中の様々な濃度のPEGDA575を使用し、水溶性キサンテート、EXAの添加の存在下又は非存在下で、30分のUVグラフト時間で、グラフトした。リゾチーム及びIgGに対するタンパク質結合能を測定した。結果を表15に示す。
【0297】
【0298】
これらの実施例は、IgG結合が第2のポリマーブロックの適切な調整によって、リゾチーム結合に対していかなる影響も及ぼさずに減少し得ることを示す。
【0299】
実施例46~47
ポリエーテルスルホン膜基材(MicroPES 8F、公称孔径0.8μm、3M Separation and Purification Sciences(St.Paul,MN)から入手)を、脱イオン水中0.2及び0.4Mモノマー濃度のVDM/GABAでグラフトした(15分のUV)。グラフト溶液は、それぞれ0.004及び0.008M EXAも含有した。これにより、チオカルボニルチオ基で終端された第1のカルボキシレート官能性ブロック(第1のグラフトされた基材)を得た。洗浄及び乾燥後、脱イオン水中0.2M濃度のPEG575を用いて、30分のUV照射時間でグラフトすることによって、第2のポリマーブロックを膜に付加して、第2のグラフトされた基材を形成した。第1及び第2のグラフトされた基材を、リゾチーム及びIgG結合能について試験した。結果を、VDM/GABAのみの対照に対するブロックコポリマー膜の結合の減少%として表16に記載する。
【0300】
【0301】
これらの実施例は、ブロックコポリマーが、より大きなタンパク質であるIgGよりも、より小さなタンパク質であるリゾチームに対して選択的であることを示す。グラフトプロセスの最適化は、選択性を改善することができた。
【0302】
実施例48~50
上記手順Eによって調製された6インチ×8インチの官能化膜を、IEM/グリシン(脱イオン水中0.5M及び0.004M EXA)でコーティングし、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトして、0.41mmol/gの配位子密度を有する、エトキシチオカルボニルチオ基によって終端された第1のカチオン交換ポリマーブロックを有する膜(第1のグラフトされた基材)を生成した。第2のポリマーブロックを、脱イオン水中の様々なPEGモノメタクリレート、PEGMA200、PEGMA400、及びPEGMA2000をそれぞれ使用して、30分のUVグラフト時間で、グラフトした。リゾチーム及びIgGに対するタンパク質結合能を測定した。結果を表17に示す。
【0303】
【0304】
これらの実施例は、IgG結合がPEGモノメタクリレートの第2のポリマーブロックによって、おそらくは立体排除により、リゾチーム結合のいかなる損失も伴わずに減少し得ることを示す。
【0305】
実施例51
上記手順Fによって調製された第1のグラフトされた基材F2を、クロージャ付きプラスチックバッグ内で、脱イオン水中0.1M EGDA(10mL)でコーティングし、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトした。ウェブを、0.9%生理食塩水で1回、脱イオン水で2回(各30分間)洗浄し、次いで乾燥させた。第2のポリマーブロックの測定されたグラフト密度は、F3-0.13mmol/gであった。厚さを乾燥後に測定し、0.79mmであると決定した。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を、以下の変更を加えて測定し、以下の表18に記載した:50mM HEPES緩衝液(pH7)中3mg/mLリゾチームを、10mM MOPS緩衝液(pH7)中3.5mg/mLリゾチームの代わりに使用した。
【0306】
【0307】
この実施例は、不織布基材にグラフトされたブロックコポリマーについて、リゾチーム結合の減少はないが、より大きなタンパク質であるIgGの結合の減少はいくらかあることを示す。
【0308】
実施例52
上記手順Gによって調製された第1のグラフトされた基材G1を、半分(2インチ×3インチ)に切断し、1片を、クロージャ付きプラスチックバッグ内で、EXA(17.9%水溶液50uL)を含む脱イオン水中0.15M PEGDA(5mL)でコーティングした。コーティングされた不織布シートを、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトした。不織布シートG1及びG2の両方を、0.9%生理食塩水で1回、脱イオン水で2回(各30分間)洗浄し、次いで乾燥させた。第2のポリマーブロックの測定されたグラフト密度は、G2-0.42mmol/gであった。厚さを乾燥後に測定し、0.79mmであると決定した。
【0309】
タンパク質結合能を、上記のプロトコルに比べて変更されたプロトコルを用いて決定した。基材のシートから直径18mmのディスクを打ち抜くことによって、G1及びG2それぞれの3つのディスクを調製した。各ディスクを、100mM NaClを含有する25mM Tris-HCl(pH7.6)中5mg/mL BSA4.5mLと共に、5mL遠心管に入れた。管に蓋をし、一晩混転させた。上清溶液を廃棄し、管を、100mM NaClを含有する25mM Tris-HCl、pH7.6で満たし、15~30分間混転させて、過剰なタンパク質溶液を洗い流した。上清溶液を廃棄し、緩衝液洗浄を更に2回繰り返した。1M NaClを含有する25mM Tris-HCl(pH7.6)3mLを添加し、30分間混転させることによって、結合したBSAを溶出させた。溶出液中のタンパク質濃度を、NANODROP UV-VIS分光光度計を使用して分析した。溶出液を廃棄し、次いで、別の1M NaClを含有する25mM Tris-HCl(pH7.6)3mLで、混転させながら30分間ストリッピングした。ストリップ溶液を廃棄し、管を、100mM NaClを含有する25mM Tris-HCl、pH7.6で満たし、15~30分間混転させて、ディスクを洗浄し、平衡化した。上清溶液を廃棄し、緩衝液洗浄を更に2回繰り返した。ディスク中の過剰な溶液を穏やかに絞り出し、廃棄した。G1及びG2の洗浄したディスクを含む5mL管に、100mM NaClを含有する25mM Tris-HCl(pH7.6)中5mg/mLベータ-ラクトグロブリン4.5mLを、各管に添加した。管に蓋をし、一晩混転させた。上清溶液を廃棄し、管を、100mM NaClを含有する25mM Tris-HCl、pH7.6で満たし、15~30分間混転させて、過剰なタンパク質溶液を洗い流した。上清溶液を廃棄し、緩衝液洗浄を更に2回繰り返した。1M NaClを含有する25mM Tris-HCl(pH7.6)3mLを添加し、30分間混転させることによって、結合したβ-ラクトグロブリンを溶出させた。溶出液中のタンパク質濃度を、NANODROP UV-VIS分光光度計を使用して分析した。各基材の結合能を、供給業者によって提供されたUV吸光度及びタンパク質吸光係数から決定した。結果を、3回の反復の平均としてmg/mL(不織布体積1mL当たりの結合したタンパク質のmg)で報告する。
【0310】
【0311】
この実施例は、不織布基材にグラフトされたブロックコポリマーについて、β-ラクトグロブリン結合の減少はなく、より大きなタンパク質であるBSAの減少はあることを示す。
【0312】
実施例53~54
メタノール中に1.5M AMPS及び3-カルボキシベンゾフェノンのナトリウム塩(Aldrich Chemical(Milwaukee,WI))(0.033g/mL水溶液2.0mL)を含有する、総容量20mLのコーティング溶液を調製した。その溶液を、ナイロン膜シート(8インチ×8インチ)にコーティングし、上記UV開始グラフト手順によって15分間UVグラフトして、AMPSから誘導され、セミピナコール含有基で終端された、グラフトされた第1のカチオン交換ポリマーブロックを生成した。シートを、0.9%生理食塩水、メタノール、0.9%生理食塩水、メタノール(更に2回)で各30分間洗浄し、乾燥させた後、質量増加を測定して、グラフト密度が1.25mmol/gであると決定した。この第1のグラフトされた基材の一部を、脱イオン水中0.1M(実施例53)又は0.2M(実施例54)濃度のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA575)でコーティングし、次いで、上記のUV開始グラフト手順によって15分間UVグラフトして、グラフトされたジブロックコポリマーを有する実施例53及び54の膜(第2のグラフトされた基材)を調製した。これらの第2のグラフトされた基材のグラフト密度は、それぞれ0.22及び0.40mmol/gであった。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を表20に記載し、ここで、対照は、第1のポリマーブロックのみがグラフトされた対応する膜(すなわち、第1のグラフトされた基材)である。
【0313】
【0314】
実施例55~56
AMPS濃度が0.75Mであったことを除いては実施例53~54について上で記載した手順と同様の手順によって第1のグラフトされた基材を調製し、その結果、0.54mmol/gのグラフト密度を有し、グラフト鎖の少なくともいくつかがセミピナコール基で終端された、グラフトされたナイロン膜を得た。この第1のグラフトされた基材の一部を、脱イオン水中0.1M(実施例55)又は0.2M(実施例56)濃度のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA575)でコーティングし、次いで、上記のUV開始グラフト手順によって15分間UVグラフトして、グラフトされたジブロックコポリマーを有する実施例55及び56の膜(第2のグラフトされた基材)を調製した。これらの第2のグラフトされた基材のグラフト密度は、それぞれ0.17及び0.39mmol/gであった。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を表21に記載し、ここで、対照は、第1のポリマーブロックのみがグラフトされた対応する膜(すなわち、第1のグラフトされた基材)である。
【0315】
【0316】
実施例57~58
AMPS濃度が0.5Mであり、II型光開始剤が1.0mLのカルボキシベンゾフェノンナトリウム開始剤溶液であったことを除いては実施例53~54について上で記載した手順と同様の手順によって第1のグラフトされた基材を調製し、その結果、更により低い0.30mmol/gのグラフト密度を有し、グラフト鎖の少なくともいくつかがセミピナコール基で終端された、グラフトされたナイロン膜を得た。この第1のグラフトされた基材の一部を、脱イオン水中0.1M(実施例57)又は0.2M(実施例58)濃度のポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA575)でコーティングし、次いで、上記のUV開始グラフト手順によって15分間UVグラフトして、グラフトされたジブロックコポリマーを有する実施例57及び58の膜(第2のグラフトされた基材)を調製した。これらの第2のグラフトされた基材のグラフト密度は、それぞれ0.09及び0.31mmol/gであった。上記手順によって決定されたタンパク質結合能を表22に記載し、ここで、対照は、第1のポリマーブロックのみがグラフトされた対応する膜(すなわち、第1のグラフトされた基材)である。
【0317】
【0318】
実施例59~60
アセトン中に1重量%のベンゾフェノンを含有するコーティング溶液を、ナイロン膜シート(6インチ×8インチ)にコーティングし、上記UV開始グラフト手順によって30分間UV照射して、セミピナコール含有基で官能化された膜を生成した。その膜を、アセトンで3回洗浄し、その後のグラフトのために乾燥させた。
【0319】
この膜を、IEM/GABA(脱イオン水中0.4M)でコーティングし、上記のUV開始グラフト手順によって30分間UVグラフトして、0.38mmol/gの配位子密度を有する、セミピナコール基で終端された第1のカチオン交換ポリマーブロックを有する膜(第1のグラフトされた基材)を生成した。第2のポリマーブロックを、脱イオン水中の様々な濃度のPEGDA575を使用し、30分のUVグラフト時間で、このグラフトされた膜の一部にグラフトした。リゾチーム及びIgGに対するタンパク質結合能を測定した。結果を表23に示す。
【0320】
【国際調査報告】