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2025-521854睡眠呼吸障害を改善するためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-10
(54)【発明の名称】睡眠呼吸障害を改善するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20250703BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/05
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024577383
(86)(22)【出願日】2023-06-30
(85)【翻訳文提出日】2025-02-28
(86)【国際出願番号】 US2023026741
(87)【国際公開番号】W WO2024006529
(87)【国際公開日】2024-01-04
(31)【優先権主張番号】63/357,137
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501271033
【氏名又は名称】バンダービルト・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】VANDERBILT UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100128347
【弁理士】
【氏名又は名称】西内 盛二
(72)【発明者】
【氏名】ケント,デイビッド,ティー.
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053CC10
4C053JJ02
4C053JJ03
4C053JJ04
4C053JJ27
(57)【要約】
【課題】本発明は、睡眠呼吸障害を改善するためのシステムと方法を提供する。
【解決手段】当該システムと方法は、刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する頚神経ワナの活性化を刺激することを含む。遮断用神経調節信号を頚神経ワナに送達することにより、1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断可能である。遮断用神経調節信号は、1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減可能である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠呼吸障害を改善するための神経調節システムであって、
プロセッサと、
前記プロセッサの実行可能な指令が記憶される非一時的コンピュータ可読媒体とを備え、
前記実行可能な指令が前記プロセッサで実行されることにより、
刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する前記頚神経ワナの活性化を刺激することと、
1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記頚神経ワナへの送達を誘導することにより、前記1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することとは、実施されることを特徴とする神経調節システム。
【請求項2】
刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項3】
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項4】
刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項5】
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項6】
刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、オトガイ舌筋を刺激し、且つ、
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌下神経への送達を誘導することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項7】
刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激し、且つ、
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項8】
刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激し、
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌下神経への送達を誘導することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断し、
刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激し、且つ、
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項9】
刺激用神経調節信号の神経部位への送達を誘導することにより、口蓋舌筋、口蓋咽頭筋又はこの両者の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項10】
刺激用神経調節信号の横隔神経への送達を誘導することにより、横隔膜の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項11】
睡眠呼吸障害を患っている患者の睡眠呼吸障害を改善するための方法であって、
刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する前記頚神経ワナの活性化を刺激することと、
1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記頚神経ワナへの送達を誘導することにより、前記1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することとを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
刺激用神経調節信号を舌下神経に送達することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項12】
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を回避する遮断用神経調節信号を舌下神経に送達することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
刺激用神経調節信号を舌咽神経に送達することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
不所望の感覚効果を回避する遮断用神経調節信号を舌咽神経に送達することにより、舌咽の求心性繊維の活性化を遮断することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
刺激用神経調節信号を舌下神経に送達することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激することと、
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号を前記舌下神経に送達することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することとを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
刺激用神経調節信号を舌咽神経に送達することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激することと、
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号を前記舌咽神経に送達することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断することとを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項17】
刺激用神経調節信号を舌下神経に送達することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激することと、
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号を前記舌下神経に送達することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することと、
刺激用神経調節信号を舌咽神経に送達することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激することと、
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号を前記舌咽神経に送達することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断することとを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項18】
刺激用神経調節信号を神経部位に送達することにより、口蓋舌筋、口蓋咽頭筋又はこの両者の活性化を刺激することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項19】
刺激用神経調節信号を横隔神経を送達することにより、横隔膜の活性化を刺激することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願)
本願は、2022年6月30日に出願された米国仮出願第63/357、137号の優先権を主張し、この出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、遮断用神経調節信号と刺激用神経調節信号との組み合わせを利用し、神経調節を介して睡眠呼吸障害を改善するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
睡眠呼吸障害(SDB)は、一晩中何度も起こる呼吸の部分的又は完全な停止があるときに起こる。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、呼吸努力の存在下での気流の停止又は大幅な減少を伴うSDBの1種である。OSAは、最も一般的なタイプのSDBであり、睡眠中に上気道萎縮が繰り返して発症し、これが、呼吸が繰り返して停止した後、血中酸素飽和度又は神経学的覚醒が低下することを引き起こすことを特徴とする。OSAの病態生理学には、頭蓋面解剖学的構造、気道萎縮及び上気道拡張筋システムの神経筋制御などの要因が関係する可能性がある。筋電図の研究では、咽頭気道拡張筋(オトガイ舌筋など)の強直性及び相性の活動が覚醒から眼球の非高速運動、高速運動へと徐々に低下することが示されている。
【0004】
持続陽圧通気(CPAP)療法は、OSAの最前線の治療である。CPAP療法、通常OSA患者の気道を継続的に開いた状態に保つために、一定の空気圧の流れを搬送するように設計されたフロージェネレーター、チューブ及びマスクを含む機器を利用する。ただし、CPAP療法の成功は、コンプライアンスに制限され、報告された比率範囲は50%から70%である。舌下神経刺激(HNS)は、気道陽圧通気に耐えられない閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)患者に対する効果的な療法として確立されている。この療法は、舌の筋肉を突出させて硬化させることで、咽頭気道を拡張して機能する。しかし、ごく一部のOSA患者は舌下神経刺激療法に適する解剖学的構造を持ち、多くの患者は舌下神経筋システムの刺激下でも気道萎縮を受け続けるためである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、刺激用神経調節信号と遮断用神経調節信号との各種の組み合わせを各種の神経標的部位に応用することでSDBを改善する神経調節システム及び方法を提供する。一態様において、睡眠呼吸障害を改善するための神経調節システムは、プロセッサと、プロセッサの実行可能な指令が記憶される非一時的コンピュータ可読媒体とを備えてもよい。このような実行可能な指令は、刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する頚神経ワナの活性化を刺激することと、1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することとを含んでもよい。
【0006】
別の態様において、本発明は、SDBを患っている患者のSDBを改善するための方法を提供する。このような方法は、刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する頚神経ワナの活性化を刺激することを含んでもよい。当該方法は、1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することを更に含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一態様による神経調節システムの例示的な構成要素を示すブロック図である。
図2】本発明の一態様による神経調節システムの例示的な構成要素を示すブロック図である。
図3】SDBを患っている患者のSDBを改善する方法の例示的なステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、SDBを改善するための神経調節システム及び方法に関する。特に、システム及び方法は、神経標的部位を活性化する神経調節信号を送達することと、神経標的部位を遮断する神経調節信号を送達することとを含む。神経標的部位を遮断することは、ニューロンの動作電位を抑制することを指す。例えば、本発明は、頚神経ワナ、舌下神経、舌咽神経、咽頭神経叢及び/又はそれらの分岐、又はそれらの適切な組み合わせを刺激することで所望の目標肌肉を活性化するシステム及び方法を提供する。また、本発明は、頚神経ワナの不所望の運動目標、舌下神経の運動目標、舌咽神経の求心性感覚成分又は其適切な組み合わせを遮断するシステム及び方法を提供する。SDBの非限定的な例は、上気道の抵抗を増加することであり、いびき、上気道抵抗症候群(UARS)、睡眠時無呼吸及びそれらの組み合わせを含む。睡眠時無呼吸は、OSA、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)及び混合性睡眠時無呼吸を含み得る。患者のSDBの「改善」への言及には、SDBの、SDBの症状の軽減、SDBの緩和又はSDBの予防が含まれる。特定の側面では、患者のSDBを改善するシステム及び方法は、本質的に反作用的ではなく、予防的である。換言すれば、特定の側面に従って患者のSDBを改善するシステム及び方法には、例えば無呼吸又は低呼吸のイベントを検知してそのような検知されたイベントに応答することではなく、SDBを予防することが含まれる。SDBを予防することにより、治療システム及び方法は、文書化されたイベントに応答するのではなく、気道萎縮の可能性を減らすことができる。SDBを患っている患者には、人間などの哺乳類が含まれる。記載された要素に関して本明細書で使用される場合、特に明記しない限り、用語「1つ/1種」及び「当該」は、記載された要素のうちの少なくとも1つ又は複数を含む。さらに、特に明記しない限り、用語「又は」及び「及び」は、「及び/又は」及びそれらの組み合わせを指す。本明細書で使用されるように、「患者」は、人間のような哺乳類を含む。「機械学習」という用語は、明示的にプログラムされずに特定のタスクのパフォーマンスを徐々に向上させるための1つ又は複数の統計技術(又はアルゴリズム)を指すことができる。プロセッサの実行可能な指令は、同じプロセッサ又は複数のプロセッサによって実行され得る。
【0009】
図1を参照すると、一態様では、患者SBDを改善するための神経調節システムが提供される。当該神経調節システムは、患者の体内に移植又は位置決めされた少なくとも1つの電気接点を有する少なくとも1つの神経調節装置を有する。システム10は、プロセッサ12と、コンピュータ可読指令16が記憶される非一時的なメモリ14とを含んでもよい。コンピュータ可読指令16がプロセッサ12によって実行されたとき、少なくとも1つの神経調節装置に各種の機能を実行させる。コンピュータ可読指令は、機能を実行するアルゴリズムを含んでもよく、且つ、機械学習18を利用可能である。指令は、刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する頚神経ワナの活性化を刺激することを含んでもよい。当該送達は、例えば、頚神経ワナの上根と下根とのうちの一方又は両方に誘導されてもよく、且つ遠心性/運動繊維を活性化することで1つ又は複数の舌骨下筋を活性化してもよい。特定の作用メカニズムに拘束されることは望ましくないが、舌骨下筋の活性化(例えば、これらの筋肉を引き締める)は、甲状軟骨及び/又は舌骨をそれぞれの咽頭筋付着物と一緒に尾部へ引っ張ることによって、上気道順応性(例えば、上気道を硬くする)を低下させることができる。上気道順応性は、気道陥没の可能性を示し、SDBの治療に関連する可能性がある。プロセッサは、刺激用神経調節信号の送達を誘導することにより、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、肩甲舌骨筋、甲状舌骨筋又はそれらの適切な組み合わせを含む1つ又は複数の舌骨下筋を活性化することができる。
【0010】
指令は、舌骨及び甲状軟骨を前方及び/又は上方へ引っ張る1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減するために、遮断用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することを含んでもよい。当該送達は、例えば頚神経ワナの上根へ誘導されてもよい。幾つかの態様では、指令は、遮断用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、オトガイ舌骨筋を支配する遠心性繊維の活性化をを遮断することを含む。これは、1つ又は複数の舌骨上の筋肉の不所望の逆行性遠心性活性化を軽減することは有利である。なぜなら、それらの収縮は、舌骨下の筋肉の活性化によって達成される甲状軟骨及び/又は舌骨の所望の尾部運動を抑制又は相殺することができるからである
【0011】
プロセッサは、更に、指令を実行することにより、刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導してオトガイ舌筋を刺激してもよい。特に、刺激用神経調節信号は、舌下神経の遠心性/運動繊維を活性化してオトガイ舌筋を活性化することができる。舌下神経の活性化は、舌を前方に移動させることによって舌根後部の陥没による咽頭閉塞を低減又は除去するために、所望の舌筋組織の収縮を引き起こすことができる。この閉塞は頚神経ワナを刺激するだけでは治療できない可能性がある。
【0012】
幾つかの態様では、プロセッサは、指令を実行することにより、遮断用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導して、茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断してもよい。当該遮断用神経調節信号は、茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減可能である。茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減することは、有利である可能性がある。それは、舌を後咽頭壁に後退させ、所望の前方シフトを相殺するからである。
【0013】
プロセッサは、更に、指令を実行することにより、刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導して、舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激してもよい。このような遠心性繊維は、1つ又は複数の咽頭収縮筋又は茎突咽頭筋を支配可能であり、それによって1つ又は複数の咽頭収縮筋、茎突咽頭筋又はこの両者を活性化する。例えば、プロセッサは、刺激用神経調節信号の咽頭神経叢又はその分岐への送達を誘導してもよい。活性化されると、このような1つ又は複数の咽頭収縮筋は、咽頭壁を強化することによって咽頭筋張力を増加させ、それによって咽頭気道陥没を減少させることができる。咽頭壁を強化して完全に収縮しないと、頚神経ワナと舌下神経を刺激するのにより効果的になる可能性がある。茎突咽頭筋については、活性化されると、茎突咽頭筋は咽頭壁を横方向に移動することができ、気道口径を増加させることができ、筋肉活性化が最初の咽頭壁硬化を超える場合に発生しうる収縮筋活性化の咽頭狭窄成分を相殺することもできる。
【0014】
幾つかの態様では、プロセッサは、指令を実行することにより、遮断用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導して舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断してもよい。遮断用神経調節信号は、不所望の求心性/感覚効果を軽減可能である。不所望の求心性活性化を軽減することは、有利である。それは、中枢神経系受容体に対すス求心性活性化は、睡眠中の神経覚醒を引き起こす可能性があるか、あるいは求心性/遠心性反射弧によって咽頭嘔吐反射などの望ましくない筋肉活性化をもたらす可能性があるからである。
【0015】
幾つかの態様では、プロセッサは、指令を実行することにより、咽頭神経叢又はその分岐のような神経部位への刺激用神経調節信号の送達を誘導して、口蓋舌筋、口蓋咽頭筋又はこの両者の活性化を刺激してもよい。睡眠中に口蓋舌筋及び/又は口蓋咽頭筋を支配する神経部位を電気刺激することにより口蓋後隙間を拡張することができ、それにより患者の上気道を開放し、睡眠覚醒を引き起こすことはない。このシステムは、孤立性口蓋陥没患者に使用されてもよく、又はOSAのようなSDBの多層気道治療の一環として、舌下神経刺激、頸下神経刺激横隔神経刺激及び他の神経調節システムと組み合わせて使用されてもよい。
【0016】
幾つかの態様では、プロセッサは、指令を実行することにより、刺激用神経調節信号の横隔神経への送達を誘導して、横隔神経の活性化を刺激して横隔膜を活性化してもよい。横隔膜神経刺激は、上気道の陥没に影響するか、中枢性睡眠時無呼吸の治療に用いることができる。横隔膜神経を単独で刺激することは、気道陥没を予防するのではなく、気道陥没を引き起こす可能性がある。それは、横隔膜低下が本質的に咽頭腔内に負圧勾配を生じるため、安定効果を実現する前に陥没を引き起こす可能性があるからである。頚神経ワナと横隔膜神経を刺激することは、呼吸周期中に尾部牽引と胸部拡張を個性的に制御することにより、気道陥没をより大きく制御することができる。
【0017】
幾つかの態様では、プロセッサは、指令を実行することにより、適切な神経調節パラメータを利用して上述した刺激用神経調節信号及び/又は遮断用信号の如何なる適切な組み合わせの送達を誘導してもよい。神経調節パラメータの非限定的な例としては、神経調節装置のどの(1つ以上の)電気接触が刺激的な神経調節信号を提供するか、どの(複数の)電気接触が遮断的な神経調節信号を提供するか、刺激モード、信号パルス波形、信号パルス幅、信号パルス周波数、信号パルス位相、信号パルス極性、信号パルス振幅、信号パルス強度、信号パルス持続時間、デューティ比、及びそれらの組み合わせなどの電気接触選択が挙げられる。この過程は、副作用が最小となるように治療効果を達成するまで持続することができる。
【0018】
このプロセスは、機械学習18によっても支援され得る。機械学習18には、神経調節信号の送達から特定の効果を認識するために訓練できるアルゴリズムが含まれることができる。機械学習18は、神経調節信号の神経調節パラメータを積極的に調整し、最小限の副作用で治療効果を提供することができる。機械学習は、例えば、意思決定ツリー学習、関連ルール学習、人工ニューラルネットワーク、ディープラーニング、帰納論理プログラミング、サポートベクトルマシン、クラスタリング、ベイエスネットワーク、強化学習、表現学習、類似性及びメトリック学習、スパース辞書学習、遺伝学アルゴリズム、ルールベースの機械学習、学習分類システム、特徴選択など、1つ又は複数の機械アルゴリズムを採用してもよい。
【0019】
本明細書で提供されるシステムの具体的な詳細については、プロセッサは、適切なソフトウェアプログラム制御の下に1つ又は複数のマイクロプロセッサを含むことができる。プロセッサは、刺激モード、電気接触選択、信号パルス波形、信号パルス幅、信号パルス周波数、信号パルス位相、信号パルス極性、信号パルス振幅、信号パルス強度、信号パルス持続時間、デューティ比、及びこれらの組み合わせなど、神経調節装置の様々な神経調節パラメータを制御することができる。プロセッサは、神経、ニューロン、又は神経繊維などの神経標的部位の活動を調節するために、様々な電流及び電圧を電気接点に伝達するようにプログラムすることができる。プロセッサは、必要に応じて独立して、又は様々な組み合わせで複数の電気接点を制御して、神経調節治療を提供するようにプログラムすることができる。
【0020】
電気神経制御信号は、一定的であってもよく、間欠的であってもよく、変化してもよく、又は、電流、電圧、パルス幅、波形、デューティ比、周波数、振幅などに対して調節可能である。波形は、正弦波、方波、三角波などであってもよい。神経調節のタイプは、異なる可能性があり、異なる波形に関連している。最適な刺激パターンは、他の電気接点を活性化する前に、1つの電気接触の活性化を遅らせるか、又は調整可能な方法で電気接点の同時活性化又はインタリーブ活性化に関係なく、患者のSDBを改善するために、別の調節可能な方法で活性化を遅らせる必要がある可能性がある。刺激用信号の場合、当該信号は、例えば、約0.1mA~約5mAの振幅、約30μs~約250μsのパルス幅、約30Hz~約50Hzのパルス周波数、約0.1s~約5sのシーケンス長、及び約0.1s~約5sの時間に符号化されたシーケンス長又はシーケンス長のパーセンテージに符号化されたシーケンス間隔を有することができる。遮断用信号の場合、信号は、例えば、約0.1mA~約5mAの振幅、約100μs~1000μsのパルス幅、約1Hz~約60kHzの周波数、及び1μs~250μsの時間パラメータを有して、遮断用信号を同じ標的神経に同時に伝達される相補刺激信号の適切な位相に同期させることができる。
【0021】
神経調節システムは、密封されたハウジングに閉じ込められ、神経調節装置に結合された神経調節信号、例えばカフ電極、導電線、又は他の形状因子を有する電気接触を有する神経調節装置を遠心性するための1つ又は複数の電子回路などの電子回路を含むことができる。図2は、本発明の一態様による神経調節システム20のブロック図である。神経調節システム20は、プロセッサ24と関連するメモリ26、遠隔測定モジュール28、及び神経調節装置の電気接点32A及び32Bと電気的に通信するパルス発生器30を閉じるハウジング22を含むことができる。神経調節システム20は、電源34を含んでもよい。
【0022】
神経調節装置は、注射式マイクロ刺激器、ニューラルジャケット電極、円筒状ワイヤ、パドル状ワイヤ、又は経皮パッチなどの異なる形状因子を有することができる。また、上述したように、同じ神経調節装置によって複数の標的部位を刺激してもよいし、単一の神経調節装置によって単一の標的部位を刺激してもよい。神経調節は、これらの神経標的部位の片側神経調節及び両側神経調節であってもよい。
【0023】
神経調節装置の電気接点32はハウジング22の外面に沿って位置決めすることができ、絶縁フィードスルー又は他の接続部を介してパルス発生器30に結合することができる。他の実施形態では、電気接点32は、密封ハウジングを通過する適切な絶縁フィードスルー又は他の電気接続を介してプロセッサに電気的に結合された導線又は絶縁ケーブルである神経調節装置によって担持されてもよい。他の実施形態では、電気接点は、外部露出された表面が神経標的部位に近い標的部位の近くに動作可能に位置決めされ、プロセッサに電気的に結合されるように構成されたハウジングに組み込むことができる。電気接点は、電圧、周波数、振幅、波形、パルス幅、電流、強度、デューティ比、極性、持続時間、及びそれらの組み合わせなどの変化可能な電気信号を提供するために制御可能であることができる。電気接触子はまた、電気接触子から正電流と負電流を供給してもよく、あるいは電気接触子から電流が流出するのを止めたり、電気接触子から電流が流出する方向を変えたりすることができる。
【0024】
上述したように、ニューラルジャケット電極などの神経調節装置は、同じ標的部位又は異なる標的部位に配置することができる。例えば、標的部位が2つの別々の神経又は神経セグメントを含む場合、それぞれの神経ジャケット電極は独自の陰極と陽極を有するが、同一の処理器に接続されている、又は別々の神経ジャケット電極は同一のプロセッサに接続されているが、一方の神経ジャケット電極は陰極として機能し、他方の神経ジャケット電極は陽極として機能し、生成された電界は2つの神経又は神経セグメントを捕捉する。幾つかの実施形態では、神経又は神経セグメントを刺激するように構成された神経調節装置は、別の神経又は神経節を刺激するように構成された神経調節装置と組み合わされてもよい。代替的に、神経又は神経セグメントを刺激するように構成された神経調節装置は、別の神経又は神経セグメントを刺激するように構成された神経調節装置から分離されたデバイスの一部であってもよい。
【0025】
プロセッサは、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、又は等価なディスクリート論理回路又は集積論理回路のいずれか1つ又は複数を含むことができる。幾つかの例では、プロセッサは、1つ又は複数のマイクロプロセッサ、1つ又は複数のコントローラ、1つ又は複数のDSP、1つ又は複数のASIC、又は1つ又は複数のFPGAの任意の組み合わせ、及び他のディスクリート又は集積論理回路などの複数のコンポーネントを含んでもよい。本明細書でプロセッサに起因する機能は、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はそれらの任意の組合せとして具現化することができる。プロセッサは、様々な特性を有する電気信号を伝達するようにプログラムすることができる。上述したように、電気信号は、一定的であってもよく、間欠的であってもよく、変化してもよく、又は、電流、電圧、パルス幅、波形、周期、周波数、振幅などに対して調節可能である。波形は正弦波、方波などであってもよい。刺激のタイプは異なる可能性があり、異なる波形に関連している。最適な活性化モードは、別の電極を活性化する前に、又は別の協調的な方法で1つの電極を遅延させ、同時に活性化するか、協調的で調整可能な方法でインタリーブ活性化するかにかかわらず、気道を最適に開く必要があるかもしれない。
【0026】
神経調節信号を遮断する非限定的な例としては、直流(DC)遮断、キロヘルツ周波数交流遮断(kHFACb)、陽極遮断、衝突遮断、準台形刺激、低周波交流遮断(LFACb)が挙げられる。直流遮断の場合、ランプ又は直流電流は遮断電気接点を通過する。しかし、この方法は有毒な電気化学的副生成物を生成する可能性があり、神経を損なう可能性がある。代替的に又はそれに加えて、kHFACbは、送信可能な約1 kHz~約40 kHzの周波数範囲を有する正弦波充電平衡波形を使用する方法である。波形がゼロ平均であるため、周期の持続時間が短いため、電荷は自ら反転し、神経損傷の可能性を回避するために純粋に電荷を蓄積していない。直流ブロックとkHFACbの影響を軽減するために、2つのブロックを組み合わせたブロック波形を生成することができる。充電平衡直流(CBDC)軸受ブロックは、長いが等しい充放電段階によって電荷平衡を実現するランプ直流パルス又は台形パルスを用いてブロックを実現する起動活性を軽減する方法である。さらに、白金ブラックなどの高容量材料を用いて反応性種の発生を防止することができる。LFACbはkHFACbの純音正弦波形修正であり、その振幅と周波数によって区別される。動作電位の位相遮断は、正弦波形の周波数を約10Hz未満に低減することにより実現でき、総電流輸送はkHFACbに必要な電流輸送よりも少ない。
【0027】
プロセッサは、必要に応じて独立して、又は様々な組み合わせで複数の電気接点を制御して、神経調節を提供するようにプログラムすることができる。一例において、患者におけるSDBを改善するための神経調節治療プロトコルは、プログラムプロトコルに従ってパルス発生器が電気接触を介して治療を伝達するようにプロセッサによって実行されるメモリ内の指令として記憶又は符号化することができる。したがって、神経刺激装置は、必要な刺激パラメータを事前にプログラムすることができる。プロセッサは、図2において神経調節装置の内部に位置するものとして示されているが、代わりに、所望の設定に遠隔に調節されるように、外部コントローラであってもよい。
【0028】
メモリ26は、コンピュータ読み取り可能な指令を含み、プロセッサ24により実行されるとき、コンピュータ読み取り可能な指令は、神経調節装置に本発明を通して神経調節装置に属する様々な機能を実行させる。コンピュータ読み取り可能な指令は、メモリ26内に符号化することができる。当該メモリは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的に消去可能なプログラマブルROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、又は一時的な伝搬信号を除くその他のデジタルメディアなどの任意の揮発性、不揮発性、磁気、光学、又は電気媒体を含む非一時的なコンピュータ可読記憶媒体を含むことができる。
【0029】
遠隔測定モジュール28及び関連するアンテナ36は、患者プログラマ及び/又は医師プログラマを含む外部装置との双方向通信を確立するために提供され得る。神経調節システム及び外部デバイスによって使用される通信技術の例には、低周波また無線周波数(RF)遠隔測定が含まれ、それは、例えばブルートゥース(登録商標)、WiFi又はMICSを介して確立されたRFリンクであってもよい。アンテナ36はハウジング22内に位置し、ハウジングに沿って又はハウジングから外へ延在してもよい。
【0030】
電源46は、バッテリ又は他の電源であってもよい。電池は誘導結合によって充電することができる。電源は、神経調節装置の内部(図2に示すように)、患者の身体内又は患者の身体上の遠位部位、又は患者の身体から離れた遠隔位置に存在してもよい。体から離れた位置にある場合、神経刺激装置は、患者の体の外部の電源を患者の皮膚に接触させることによって、又は患者の体から離れた場所(例えば、最初に別の媒体を介して電気エネルギーを輸送する場所)で電力を供給することができる。神経調節装置が外部給電装置として構成される場合、電源は、睡眠中に患者によって装着されて刺激パルスを発生させるために必要な電力を提供してもよく、又は患者に隣接していてもよい(例えば、患者のベッド、患者の枕の下、患者の寝台など)。例えば、電源は、神経調節装置に含まれる2次コイルに電力誘導を伝達するための1次コイルを含む電池給電装置であってもよい。電源は、1つ又は複数の元のバッテリ又は充電可能なバッテリを含むことができ、したがって、標準110V又は220Vウォールマウントソケットで再充電するための電源アダプタ及びプラグを含むことができる。幾つかの実施形態では、神経調節装置が再充電可能又は外部給電デバイスとして実装されるとき、神経調節装置に電力を送信し、治療送達を制御するために神経調節装置をプログラムするために必要な機能を単一の外部デバイスに実装することができる。
【0031】
神経調節システムは、アナログフロントエンド又はA/Dコンバータ、マルチプレクサ、及び他のコンポーネントなどの他の部品を含んでもよい。
【0032】
別の態様では、神経調節システムは、開ループ又は閉ループ制御を可能にするために、1つ又は複数のセンサ(図示せず)を含むことができる。例えば、開ループシステムでは、当該システムは、患者が1つ又は複数のセンサからのフィードバック(例えば、検出された信号)に基づき(例えば、予防的に)SDBの改善を管理できるように、1つ又は複数のセンサを含む。そのような検出された信号は、筋肉又は神経の電気的活動の変化、舌の位置、中咽頭の気流などのSDBの発症を示すことができる。1つ又は複数の信号に気づくと、患者は、神経調節装置をトリガー又は活性化することができ、SDBを予防又は軽減する。
【0033】
別の態様では、神経調節システムは、例えば感知された生理パラメータ又は関連する症状又は予兆に応答して自動的に応答することにより(例えば神経調節装置の活性化により)閉ループ制御を可能にする1つ又は複数のセンサを含むことができ、関連する症状又は予兆は、SDBの度合い及び/又は存在を示す。生理パラメータは、筋肉又は神経電気活動の変化、舌の位置、心拍数又は血圧の変化、呼吸努力に応じた圧力の変化、口腔咽頭の気流などを含む。閉ループ又は開ループシステムの一部として用いられるセンサは、皮膚表面、口腔、鼻腔、粘膜表面、又は皮下位置を含む患者の体の任意の適切な解剖学的位置に配置することができる。
【0034】
図3を参照すると、一態様では、SDBを患っている患者のSDBを治療する方法100は、刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋102を支配する頚神経ワナの活性化を刺激することと、遮断用神経調節信号を頚神経ワナに送達することにより、1つ又は複数の舌骨上筋104を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することとを含む。遮断用神経調節信号は、1つ又は複数の舌骨上筋(例えば、オトガイ舌骨筋を含む)の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減可能である。
【0035】
刺激用神経調節信号に関し、このような信号を送達することで頚神経ワナの運動繊維の活性化を刺激して、例えば胸骨甲状筋を活性化可能である。刺激用神経調節信号は、胸骨舌骨筋の一部又は全部を活性化するために、胸骨舌骨筋の上腹部及び/又は胸骨舌骨筋の下腹部を支配する頚神経ワナにも伝達され得る。例えば、刺激用神経調節信号を送達するための例示的な標的部位は、頚神経ワナの上根であってもよく、又は胸骨舌骨筋を支配する上根に近い分岐点、又は、胸骨舌骨筋及び胸骨甲状筋を活性化させるために胸骨舌骨筋を支配する上根の分岐点であってもよい。幾つかの態様では、刺激用神経調節信号は、肩甲舌骨筋の一部又は全部を活性化するために頸部アンペアの上根又は上根に近接して送達されてもよい。
【0036】
幾つかの態様では、刺激用神経調節信号は、頚神経ワナの上根及び下根からの支配的胸骨甲状筋及び胸骨舌骨筋及び肩甲舌骨筋の神経分岐を刺激するために同時に頚神経ワナに伝達することができる。幾つかの態様では、刺激用神経調節信号を標的部位(例えば、共通主幹神経の分岐点に近いか、又は共通主幹神経の分岐点にあるか、又は上根と下根からの神経繊維を結合し、少なくとも胸骨舌骨筋と可変的に胸骨舌筋と肩甲舌骨筋を供給する頚神経ワナから生成される神経)に送ることにより、少なくとも胸骨舌骨筋を活性化することができ、幾つかの態様では胸骨舌骨筋を活性化し、場合によっては肩甲舌骨筋を活性化する。幾つかの態様では、刺激用神経調節信号を標的部位(例えば、頚神経ワナの共通主幹神経又は胸骨甲状筋神経に近接するか位置する分岐点)に送ることは、胸骨甲状筋を活性化することができる。胸骨甲状筋の分岐は1本の神経繊維であってもよいし、何本かの緊密に配列された神経繊維であってもよい。上述の標的部位は単なる例示であり、神経調節装置はその分岐を含む子宮頸筋の他の部位に配置することができることに留意すべきである。また、刺激は上記部位と分岐の任意の組み合わせに適用することができる。例えば、神経刺激装置を肩甲舌骨筋分岐の近位端又は遠位端に配置することができ、これにより刺激は胸骨甲状腺繊維/胸骨舌骨繊維のみを捕捉する。別の例として、1つ又は複数のカフ電極は、胸骨甲状腺様筋を支配する単一の繊維又は複数の繊維を取り囲むことができる。
【0037】
遮断用神経調節信号については、例えば、舌骨下筋の活性化のみが必要な場合、この信号を頚神経ワナの上根に伝達して、舌骨上筋の目標の逆行運動の遠心性活性化を低減又は除去することができる。
【0038】
幾つかの態様では、SDBを改善する方法は、オトガイ舌筋を活性化するためにオトガイ舌筋を支配する舌下神経に近接する標的部位に電気信号を追加的に伝達することを含む。標的部位は舌下神経に近づくことができるため、電気信号を伝達して舌下神経の運動繊維を活性化させてオトガイ舌筋を活性化させることができる。幾つかの態様では、電気信号は、その分岐点付近の舌下神経に伝達されない。なぜなら、頚神経ワナと舌下神経に異なる強度又は時間の刺激を潜在的に提供するために別の神経調節装置が必要となる可能性があるからである。他の態様では、舌下神経は、茎突舌筋及び/又は舌骨舌筋の後筋分岐の分岐点の近位端又は遠位端に刺激を受けることができる。舌下神経の活性化により、舌の筋肉組織が硬くなり、舌根後部の陥没による咽頭閉塞を減少又は除去することができ、例えば、頚神経ワナによって治療できない可能性がある。
【0039】
幾つかの態様では、方法は、遮断用神経調節信号を舌下神経に送達することにより、茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することを更に含む。この遮断用神経調節信号は、茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を回避可能である。上流の電気接点が複数の遠心性運動目標を活性化する場合、不所望の運動遠心性を遮断する必要がある場合がある。
【0040】
幾つかの態様では、刺激用神経調節信号を1つ又は複数の咽頭収縮筋又は茎突咽頭筋の舌咽神経を支配する遠心性繊維に別途送達することにより、1つ又は複数の咽頭収縮筋又は茎突咽頭筋を活性化することを含む。例示として、神経標的部位は、咽頭神経叢又はその分岐を含んでもよい。活性化されると、この1つ又は複数の咽頭収縮筋は咽頭筋張力を増加させ、咽頭気道の陥没を減少させることができる。活性化されると、茎突咽頭筋は、咽頭壁を横方向に移動することができる。
【0041】
咽頭の側壁は咽頭縮筋で構成され、咽頭縮筋は咽頭神経叢で支配され、咽頭神経叢は頭蓋神経IXとXからの繊維を含む。これらの筋肉を支配する神経は咽頭縮筋の外面に神経叢を形成し、その後、咽頭縮筋を貫通して口蓋舌筋と口蓋咽頭筋に達する。頭蓋神経IXの運動分岐は収縮筋の呼吸制御を担う可能性があり、茎突咽頭筋の領域で認識される可能性がある。呼吸中の収縮筋張力の増加は、咽頭壁を強化することによって咽頭陥没を減少させることができる。咽頭壁を強化して完全に収縮しないと、頚神経ワナと舌下神経を刺激するのにより効果的になる可能性があります。茎突咽頭筋に対する刺激は、咽頭壁を横方向に移動することで気道口径を増加させることができ、且つ、筋肉活性化が最初の咽頭壁硬化を超える場合に発生し得る収縮筋活性化の咽頭狭窄成分を相殺することもできる。
【0042】
1つ又は複数の咽頭収縮筋又は茎突咽頭筋を支配する舌咽神経の遠心性繊維を刺激することは、本明細書で説明する他の神経標的部位を刺激することと結合することができる。頚神経ワナに対する刺激は、甲状軟骨と舌骨の上向き運動を阻止することによって咽頭部の下端をアンカーすることができ、これによって咽頭収縮筋と口蓋咽頭筋の収縮を移動の挿入点ではなく固体アンカーに対抗させることができる。このように、頚神経ワナと舌咽神経の遠心性繊維の刺激又は口蓋咽頭筋の刺激の共同刺激の有効性を高めることができる。
【0043】
幾つかの実施形態では、方法は、神経調節信号を舌咽神経の遠心性繊維に送達することを含む。当該神経調節信号は、気道に関する神経筋肉状態について検出又は感知された感覚又は入力信号と独立する。例えば、電気信号は、緊張に基づいて、又は検出された又は検出された気道神経筋肉状態に関する感覚又は入力信号とは無関係なデューティ比で伝達されてもよい。換言すれば、気道の神経筋肉状態に関する感覚又は入力信号を測定することができても、幾つかの実施形態では、これらの感覚情報は、標的部位に伝達される電気信号の刺激パラメータを決定できない可能性がある。幾つかの態様では、電気信号は、咽頭壁の粘膜層を支配する感覚繊維に伝達されない。
【0044】
幾つかの態様では、方法は、遮断用神経調節信号を舌咽神経に送達することにより、舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断することを含む。遮断用神経調節信号は、不所望の感覚効果を回避可能である。例えば、遮断用神経調節信号は、主舌咽神経の上流に送達されてもよい。
【0045】
幾つかの態様では、SDBを改善する方法は、神経調節信号を口蓋筋(例えば、口蓋舌筋、口蓋咽頭筋又はこの両者)を支配する神経を追加的に送達することにより、SDBを患っている患者のSDBを改善することを含む。口蓋舌筋と口蓋咽頭筋は軟口蓋の筋肉(「口蓋筋」とも呼ばれる)である。口蓋舌筋は硬口蓋後部の口蓋腱膜に由来する。それは下の外側に下がって、舌の後の外側の表面に挿入されます。口腔後部を通過する過程で粘膜で内側に覆われ、口蓋舌弓を形成する。口蓋舌筋の機能は、後舌を持ち上げ、軟口蓋を下に引っ張ることによって口腔と口蓋を閉鎖することである。この筋肉は咽頭神経叢の1つの分岐によって支配され、その機能は舌下神経とその他の内外舌筋組織とは独立している。口蓋咽頭筋は口蓋咽頭弓を形成する。硬口蓋と口蓋腱膜の上方に付着し、咽頭側壁と甲状軟骨の下方に付着している。その作用は嚥下中に軟口蓋を引き締め、上、前、内に咽頭壁を引っ張り、効果的に鼻咽頭と口咽頭を分離することである。
【0046】
このような口蓋筋を支配する神経に電気信号を伝達してSDBを改善する方法は、経皮電気ペーシングなどの筋肉刺激とは異なる間接的な方法であり、後者は不一致が発見され、睡眠患者の耐性が悪い。フィラメント電極配置又は他の技術による直接筋肉内刺激は、筋肉組織に入るために毎日不快に皮膚又は口腔内壁を穿刺する必要があるため、日常的な使用にとって非現実的である。睡眠中に口蓋舌筋及び/又は口蓋咽頭筋を支配する神経を電気刺激することにより口蓋後隙間を拡張することができ、それにより患者の上気道を開放し、睡眠覚醒を引き起こすことはない。この方法は孤立性口蓋麻痺患者に使用することができ、あるいは、OSAのSDBの多層気道治療の一環として、舌下神経刺激、頚神経ワナ刺激及び/又は横隔神経刺激と組み合わせて使用することができる。
【0047】
幾つかの実施形態では、口蓋舌筋及び/又は口蓋咽頭筋を支配する神経の標的部位は、咽頭神経叢又はその分岐である。好ましくは、口蓋舌筋及び/又は口蓋咽頭筋の神経を支配する標的部位に伝達される電気信号は、患者の口蓋の咽頭神経叢を支配する運動繊維を刺激する。
【0048】
幾つかの実施形態では、刺激する標的部位は、副神経を標的とする頭蓋骨根又は迷走神経の根がびまん性、非特異的刺激をもたらすため、患者の副神経の頭蓋根ではない。例えば、迷走神経根の活性化は、口蓋帆挙筋を同時に活性化することができ、これは口蓋舌筋と口蓋咽頭筋の作用とは反対である。脊髄副神経を刺激する頭蓋根も同様に咽頭神経叢筋組織の非特異的活性化を引き起こす可能性がある。また、すべての患者の副神経頭蓋根が迷走神経につながっているわけではない。副神経の頭蓋根が咽頭神経叢に接続されていなければ、副神経の脊根に残る。そのため、副神経を刺激する頭蓋根は副神経脊根の意図しない刺激を招き、これは胸鎖乳突筋と斜方筋の不所望の活性化を招く。
【0049】
幾つかの態様では、SDBを改善する方法は、頚神経ワナを刺激することで1つ又は複数の舌骨下帯肌を活性化するとともに、同時刺激横隔神経を刺激することで横隔膜を活性化することを含む。横隔膜神経の刺激は、上気道の陥没に影響する。横隔膜神経を単独で刺激することは、気道陥没を予防するのではなく、横隔膜低下は本質的に咽頭腔内に負圧勾配を生じるため、安定効果を実現する前に陥没を引き起こす可能性がある。頚神経ワナと横隔膜神経を刺激することは、呼吸周期中に尾部牽引と胸部拡張を個性的に制御することにより、気道陥没をより大きく制御することができる。
【0050】
神経調節信号を上記の標的部位のいずれか1つ又は複数に伝達することは、1つ又は複数の電気接点を標的部位の近くに配置することによって達成することができる。電気接点は、経皮、経皮、皮下、筋肉内、管腔内、経血管、血管内、又は直接開放手術によるインプラントなど、標的部位の近くに様々な方法で配置することができる。神経調節(刺激及び/又は遮断)は、片側神経調節又は両側神経調節であってもよい。
【0051】
幾つかの態様では、遮断用神経調節信号を上述の神経標的部位に送達する代わりに、これらの神経の任意の所望の運動標的の一部の刺激強度を低下させて、所望の筋肉中の比率をより良くバランスさせたり、所望の筋肉中での補充比率を変化させたりすることができる。
【0052】
本明細書で開示される方法は、(以下でより詳細に説明するように)閉ループシステムの一部として使用することができる。この方法は、SDBに関連する生理パラメータを感知し、生理パラメータに基づいてセンサ信号を生成し、センサ信号調整に応答して標的部位に電気信号を印加するために電極を活性化することにより、患者のSDBを改善することを含むことができる。
【0053】
本発明の開示された態様及び実施形態のそれぞれは、個別に、又は本開示の他の態様、実施形態、及び変形例と組み合わせて考慮され得る。 特に明記しない限り、本開示の方法のいずれのステップも、特定の実行順序に限定されない。さらに、上記は電気刺激に関して説明されていたが、例えば、超音波、磁気又は光エネルギーなどの他の形態のエネルギーを使用することができる。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2025-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
睡眠呼吸障害を改善するための神経調節システムであって、
プロセッサと、
前記プロセッサの実行可能な指令が記憶される非一時的コンピュータ可読媒体とを備え、
前記実行可能な指令が前記プロセッサで実行されることにより、
刺激用神経調節信号の頚神経ワナへの送達を誘導することにより、1つ又は複数の舌骨下筋を支配する前記頚神経ワナの活性化を刺激することと、
1つ又は複数の舌骨上筋の不所望の逆行性の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記頚神経ワナへの送達を誘導することにより、前記1つ又は複数の舌骨上筋を支配する遠心性繊維の活性化を遮断することとは、実施されることを特徴とする神経調節システム。
【請求項2】
刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項3】
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項4】
刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項5】
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項6】
刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、オトガイ舌筋を刺激し、且つ、
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌下神経への送達を誘導することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項7】
刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激し、且つ、
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項8】
刺激用神経調節信号の舌下神経への送達を誘導することにより、オトガイ舌筋の活性化を刺激し、
茎突舌筋、舌骨舌筋又はこの両者の不所望の遠心性活性化を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌下神経への送達を誘導することにより、前記茎突舌筋、前記舌骨舌筋又はこの両者を支配する遠心性繊維の活性化を遮断し、
刺激用神経調節信号の舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の遠心性繊維の活性化を刺激し、且つ、
不所望の感覚効果を軽減する遮断用神経調節信号の前記舌咽神経への送達を誘導することにより、前記舌咽神経の求心性繊維の活性化を遮断する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項9】
刺激用神経調節信号の神経部位への送達を誘導することにより、口蓋舌筋、口蓋咽頭筋又はこの両者の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【請求項10】
刺激用神経調節信号の横隔神経への送達を誘導することにより、横隔膜の活性化を刺激する指令を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の神経調節システム。
【国際調査報告】