(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-10
(54)【発明の名称】キノロン化合物を含む過敏性腸症候群用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4709 20060101AFI20250703BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025501389
(86)(22)【出願日】2023-07-11
(85)【翻訳文提出日】2025-03-06
(86)【国際出願番号】 CN2023106675
(87)【国際公開番号】W WO2024012421
(87)【国際公開日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2022/104866
(32)【優先日】2022-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シメイ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジェイ フェイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ,フェンジュ
(72)【発明者】
【氏名】フー,ウェイ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC29
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA66
(57)【要約】
本発明は、過敏性腸症候群のためのキノロン化合物を含む医薬組成物に関するもので、具体的にはヒトまたは動物の過敏性腸症候群を予防または治療するための、キノロン化合物、特に1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸もしくは薬理学的に許容される塩、その水和物、溶媒和物、または重水素化物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体を含む、IBSを治療および/または予防するための医薬。
【請求項2】
前記代謝体が、(2S,3S,4S,5R,6R)-6-((7-アミノ-5-シアノピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボニル)オキソ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸、7-(6-アミノ-5-カルバモイルピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸、または7-(6-アミノ-5-シアノピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸エチルである、請求項1の医薬。
【請求項3】
経口投与用である、請求項1または2の医薬。
【請求項4】
有効成分の1日投与量が、7.5mg~24000mgである、請求項1~3のいずれかの医薬。
【請求項5】
IBSがIBS-Dである、請求項1~4のいずれかの医薬。
【請求項6】
有効成分として1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体の治療上の有効量を、必要な患者に投与することを特徴とする、IBSの治療および/または予防のための方法。
【請求項7】
IBSがIBS-Dである、請求項6の方法。
【請求項8】
IBSを治療および/または予防するための医薬の製造における、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体の使用。
【請求項9】
IBSがIBS-Dである、請求項8の使用。
【請求項10】
IBSの治療および/または予防に使用するための、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体。
【請求項11】
IBSがIBS-Dである、請求項10の1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に属し、特に低吸収キノロン化合物またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する過敏性腸症候群の予防または治療のための薬物に関する。
【背景技術】
【0002】
IBS(過敏性腸症候群)は、便の形態や回数の変化を伴う腹痛などの症状を伴う機能性胃腸障害であるが、現在の通常の診断ツールで検出できる構造的異常や生化学的異常とは関連していない。この状態は、ある時点において健康な人の5%~10%に影響を及ぼし、ほとんどの人は再発と寛解を繰り返す。ローマ分類によれば、IBSは下痢型(IBS-D)、便秘型(IBS-C)、混合型(IBS-M)、不明型(IBS-U)の4つのカテゴリーに分類できる。中国では、IBS人口は1.4~11.5%の範囲にあり、大多数は下痢型(IBS-D)が主体である。治療を求めて病院を訪れた患者はわずか25%であった。
【0003】
現在、IBSの治療方法はない。主な治療法としては、症状についての患者教育、食生活の改善、水溶性食物繊維、および鎮痙薬が挙げられる。その他の治療方法は、重篤な症状のある人に限定される傾向にあるが、中枢神経調節薬、腸分泌促進薬、オピオイドまたは5-HT受容体に作用する薬、または吸収の少ない抗生物質、ならびに心理療法が挙げられる。例えば、三環系抗うつ薬はIBS-Dの治療に効果的であるが、睡眠、便秘、喉の渇きなどの多くの副作用がある。同様に、5HTアンタゴニストはこの領域に適応されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの薬剤を使用してもIBS-Dの完全な治療は期待できず、したがって既存の薬剤よりもさらに強力な薬剤の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、腸管内に生息するクロストリディオイデス(クロストリジウム)ディフィシル[Clostridioides (Clostridium) difficile]に対して抗菌活性を示す特定のキノロン系抗菌剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ford et al, Functional Gastrointestinal Disorders. 2020, 396, 1675-1688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、既存の薬剤よりも効果的な、過敏性腸症候群(IBS)、特にIBS-Dを治療および/または予防するための新規医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、公知のキノロン系抗菌剤である1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸が、過敏性腸症候群の特徴である拘束ラットの排便量を改善し、過敏性腸症候群の治療に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の項1~11に記載されるように、IBS、特にIBS-Dを予防または治療するためのキノロン化合物の使用を提供する。
【0010】
[項1]
有効成分として、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体を含む、IBSを治療および/または予防するための医薬。
【0011】
[項2]
前記代謝体が、(2S,3S,4S,5R,6R)-6-((7-アミノ-5-シアノピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボニル)オキソ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸、7-(6-アミノ-5-カルバモイルピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸、または7-(6-アミノ-5-シアノピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸エチルである、項1の医薬。
【0012】
[項3]
経口投与用である、項1または2の医薬。
【0013】
[項4]
有効成分の1日投与量が、7.5mg~24000mgである、項1~3のいずれかの医薬。
【0014】
[項5]
IBSがIBS-Dである、項1~4のいずれかの医薬。
【0015】
[項6]
有効成分として1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体の治療上の有効量を、必要な患者に投与することを特徴とする、IBSの治療および/または予防のための方法。
【0016】
[項7]
IBSがIBS-Dである、項6の方法。
【0017】
[項8]
IBSを治療および/または予防するための医薬の製造における、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体の使用。
【0018】
[項9]
IBSがIBS-Dである、項8の使用。
【0019】
[項10]
IBSの治療および/または予防に使用するための、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体。
【0020】
[項11]
IBSがIBS-Dである、項10の1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸、またはそれの医薬的に許容される塩、前駆体もしくは代謝体、水和物、溶媒和物、または重水素体。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、拘束ストレスRS-IBSモデルにおけるラットの体重に対する化合物OPS-2071の効果を示す。
【
図2】
図2は、RS-IBSモデルにおけるラットの体重変化(BWC)%に対する化合物OPS-2071の効果を示す。
【
図3】
図3は、RS-IBSモデルにおけるラットの1日2時間の間に排泄される便に対する化合物OPS-2071の効果を示す。
【
図4】
図4は、対照群とRS群との間で化合物処置を記録した1日前である3日目のRS-IBSモデルにおける内臓運動反応を示す。
【
図5】
図5は、RS-IBSモデルにおける7日目の大腸膨張に対する内臓運動反応(mmHg)に対する化合物OPS-2071の効果を示す。
【
図6】
図6は、RS-IBSモデルにおける7日目の尿中のヒスタミンレベルに対する化合物OPS-2071の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
式(1)の構造を有する本発明化合物、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸は、WO2013/029548に化合物2-18として開示され、WO2013/029548に従って合成することができる。
【化1】
【0023】
本発明化合物は、化合物の前駆体または代謝体、例えば、下記の式(2)~(4)のそれぞれの構造を有する(2S,3S,4S,5R,6R)-6-((7-アミノ-5-シアノピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボニル)オキソ)-3,4,5-トリヒドロキシテトラヒドロ-2H-ピラン-2-カルボン酸、7-(6-アミノ-5-カルバモイルピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸、および7-(6-アミノ-5-シアノピリジン-3-イル)-1-シクロプロピル-6-フルオロ-8-メチル-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸エチルも含み得る。
【化2】
【化3】
【化4】
【0024】
本発明化合物は水和物および/または溶媒和物を形成していてもよく、よって本発明化合物にはその水和物および/または溶媒和物も包含する。また、1つ以上の任意の1H原子が2H(D)原子で置換された本発明の化合物も本発明の範囲内である。本発明化合物またはその医薬的に許容される塩の結晶には多形が存在する場合があるが、かかる結晶多形も本発明の範囲内である。
【0025】
「医薬的に許容される塩」としては、酸付加塩として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸との塩;シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、プトルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸との塩;およびグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩などのアミノ酸との塩;並びに塩基との塩として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;およびアンモニウム塩が挙げられる。
【0026】
本発明化合物およびその医薬組成物は、通常、通常の医薬製剤の形態で使用される。医薬製剤は、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤および滑沢剤などの従来の医薬的に許容される希釈剤または担体と混合して調製することができる。医薬製剤としては、疾患の治療に適した各種製剤、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、液剤や懸濁剤等の注射剤等が挙げられる。錠剤の製造においては、慣用の担体、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸塩等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、シェラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天粉末、ラミナラン粉末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白砂糖、ステアリン、カカオバター、硬化油等の崩壊阻害剤、四級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の湿潤剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸塩等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸粉末およびポリエチレングリコール等の滑沢剤などが使用され得る。錠剤はまた、慣用のコーティング剤でコーティングされていてもよく、例えば、糖衣錠、ゼラチンコーティング錠、腸溶コーティング錠、フィルムコーティング錠、または二層もしくは多層錠の形態であってもよい。丸剤の調製においては、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアガム粉末、トラガカント粉末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤、ラミナラン、寒天などの崩壊剤などの慣用の担体を使用することができる。坐剤の調製においては、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールエステル、ゼラチン、半合成グリセリド等の慣用の担体を使用することができる。注射剤の調製において、化合物の溶液、乳濁液または懸濁液は滅菌され、好ましくは体液と等張にされる。これらの溶液、乳濁液および懸濁液は、活性化合物を、水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコールまたはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの慣用の希釈剤と混合することによって調製される。製剤には、体液と等張にするのに十分な量の塩化ナトリウム、ブドウ糖、またはグリセリンを配合することもできる。製剤にはまた、慣用の可溶化剤、緩衝剤、麻酔剤、さらに着色剤、保存剤、香料、香味、甘味剤、および他の薬剤を配合することもできる。ペースト、クリーム、ゲル状の製剤は、白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト等を希釈剤として用いて調製することができる。有効成分の化合物が注射剤中で沈殿する場合、注射剤を安定な溶液で保存するために、必要に応じて、例えばメタンスルホン酸、プロピオン酸、塩酸、コハク酸、乳酸などの酸を注射剤に添加してもよい。
【0027】
本発明の化合物は、製剤中にどのような量で含有されてもよいが、通常、製剤全重量に対して1~70重量%含有される。
【0028】
本発明の医薬組成物は、任意の方法で投与することができる。適当な投与方法は、製剤形態、患者の年齢、性別、疾患の重症度等に応じて選択すればよい。例えば、錠剤、丸剤、溶液、懸濁液、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤は、経口経路で投与される。注射剤の場合は、単独で、あるいはブドウ糖やアミノ液などの補助液とともに静脈内投与される。注射剤はまた、筋肉内、皮内、皮下、または腹腔内の経路で投与されてもよい。坐剤は直腸内経路で投与される。医薬組成物は、眼科用、軟膏、貼付剤、吸入剤の形態であってもよい。
【0029】
本発明の組成物の投与量は、投与方法、患者の年齢及び性別、疾患の重症度等により変動し得る。例えば、経口投与の場合、通常、ヒトまたは哺乳動物の体重1kgあたり、約0.125mg~約400mg、好ましくは約0.25mg~約200mg、より好ましくは約0.5mg~約100mg、さらに好ましくは約1mg~約50mgの用量で、1~数回に分けて投与され得る。例えば、ヒトの1日用量としては、約7.5mg~約24000mg、好ましくは約15mg~約12000mg、より好ましくは約30mg~約6000mg、さらにより好ましくは約60mg~約3000mgが挙げられる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例、実験例および製造例によって説明する。なお、本発明はこれらの実施例、実験例、調製例に限定されるものではなく、本発明の範囲や要旨を逸脱しない範囲において種々の変更や修正が可能である。
【0031】
以下の実施例で使用される拘束ストレス(RS)モデルは、IBSに対する薬効を試験する際に使用される一般的なモデルであり、Williams et al.、Gatroenterology 1988, 94: 611.に最初に提案されている。RSモデルは、潰瘍を形成することなく腸内輸送の阻害と排便回数の増加を示すため、構造的または生化学的異常を伴わない腸疾患を示すIBSを模倣すると考えられている。現在では、Wang et al.、Int. J. Gastroenterol. Disord. Ther. 2017、4: 131.に以前記載されているような、改良された拘束ストレスモデルが広く使用されている。内臓過敏症およびヒスタミンに関する参考文献は、例えば、Christine West, Karen-Anne McVey Neufeld, "Animal models of visceral pain and the role of the microbiome. Neurobiology of Pain" 10 (2021) 100064; Giada De PalmaChiko ShimboriDavid E. ReedYang YuVirginia RabbiaJun LuNestor Jimenez-VargasJessica SessenweinCintya Lopez-LopezMarc PigrauJosue Jaramillo-PolancoYong ZhangLauren BaergAhmad ManzarJulien PujoXiaopeng BaiMaria Ines Pinto-SanchezAlberto CamineroKaren MadsenMichael G. SuretteMichael BeyakAlan E. LomaxElena F. VerduStephen M. CollinsStephen J. VannerPremysl Bercikである。腸内微生物叢によるヒスタミン産生は、マウスのヒスタミン4受容体シグナル伝達を介して内臓痛覚過敏を誘発する(Sci. Transl. Med., 14 (655), eabj1895)。
【0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで使用した本発明化合物(以下、「被験物質」という。)及び参照薬剤は以下のようにして得た。
【0033】
被験物質
OPS-2071として示される1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリン-カルボン酸は、大塚製薬株式会社で合成された。
【0034】
実験例1:拘束ストレス(RS)ラットモデルにおける被験物質の糞便量に及ぼす影響
(動物)
体重200~250gの雄のSprague-Dawley(SD)ラットを、チャールズ・リバー・ラボラトリーズ北京から購入し、OSRIのSPFグレード動物施設の個別換気ケージ(IVC)で1ケージあたり3匹ずつ飼育した。すべての動物は12時間の明暗サイクルで維持され、げっ歯類の餌と水は自由に摂取できた。すべての動物研究手順は動物福祉規則に従い、OSRIの施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認された。
【0035】
(試薬)
アラビアガム(AG)はSigma(CAT#: G9752-500G)から購入した。
【0036】
(拘束ストレスラットモデルの確立)
表1に示すように、SDラットを体重に基づいて3つの群にランダムに登録し、1群あたり6匹のラットを割り当てた。ラット(群2および群3)を、連続10日間(D1からD10)の間、プラスチックシリンダー内で毎日午後に、2時間拘束した。対照群(群1)のラットは、実験期間中、邪魔されることなく、それぞれのケージに留まった。D4からD10までRSモデリングを3日間繰り返した後、群2と群3のラットを、朝(午後拘束の4時間前)に連続7日間、ビヒクル(5% AG)および試験物質(2.5mg/kg)でそれぞれ処置した。糞便ペレットの排出量を使用して、検証済みの指標として遠位結腸の運動性を推定した(Hong S et al.、Gut 2009、58: 202-210)。2時間の拘束時間中、同じ2時間の模擬観察期間中の対照群のラットと同様に、ラットの糞便排出量が収集されカウントされた。
【0037】
(結果)
ラットの行動を毎日観察し、すべての指標は正常であった。
図1および2に示すように、OPS-2071の処置により拘束ストレスによる体重減少が改善された。1日2時間のRSモデリングを7日間実施すると、非RS対照ラットで観察された体重増加が遅くなった(群2対群1)。しかし、OPS-2071を2.5mg/kgで7日間処置すると、その影響はある程度緩和された(群3対群2)。
食物摂取量を、処置開始後3日目(RS適用後6日目)からモニタリングした。OPS-2071処置は、RS対照群で観察された食欲低下に対する保護効果を示した(群3対群2)。
拘束ストレスを与えると排便量の変化が観察された。ストレスによりRS群の糞便量が増加した(群2対群1)。4日目に、試験群を2.5mg/kgのOPS-2071で処置し、
図3に示すように、糞便ペレット排出量の減少が観察された(群3対群2)。
【0038】
実験例2:拘束ストレス(RS)モデルにおける内臓過敏症およびヒスタミンレベルにおけるOPS-2071の有効性の評価
(拘束ストレスラットRSモデルの確立)
上述のように、Sprague Dawley ラットを、7日間連続して毎日2時間プラスチックシリンダー内で拘束した。対照群では、ラットは実験期間中、邪魔されることなく、個別のケージに入れられていた。
【0039】
(3日目と7日目の結腸直腸膨張に対する内臓運動反応)
結腸拡張-ポリエチレンバルーン(長さ 3 cm、最大直径 1.5 cm)を血圧計に取り付けられたチューブに固定し、結腸拡張をするのに使用した。バルーンに潤滑油を塗り、バルーンの先端が肛門の近位2cmになるようにラットの遠位結腸に挿入した。血圧計拡張装置を使用して、ラットをプラスチック製の封じ込め装置に拘束し、試験前に10分間馴化させた。睾丸、尾、または腹筋組織の最初の収縮が起こるまで、ラットに結腸の段階的拡張(0~100 mmHg、5 mmHgずつ上昇)を与えた。この視覚化は3人の独立したオブザーバーによって行われた。内臓痛の閾値指標は、前述のように最初の侵害受容反応として定義された(T. J. Ness; G. F. Gebhart, 「Colorectal distension as a noxious visceral stimulus: physiologic and pharmacologic characterization of pseudaffective reflexes in the rat」, Brain Research, Vol. 450, Issues 1-2, pages 153-169, May 21, 1988; Wesselmann, U.; Lai, J., 「Mechanisums of referred viiceral pain: uterine inflammation in the adult virgin rat results in neurogenic plasma extravasation in the skin」, Pain Vol. 73, Issue 3, pages 309-317, 1997)。本研究で用いた急速膨張プロトコールでは、結腸のコンプライアンスは測定しなかった。結腸の拡張を5分間の刺激間隔で3回繰り返し、侵害受容閾値での平均圧力を各ラットについて記録した。
【0040】
(処置)
OPS-2071(2071):週に1回、5% AG(アラビアガム)で調製、アラビアガムはSigmaから購入したアカシアの木由来のアラビアガム(CAT#: G9752-500G)、表2に示すように、4日目から7日目まで処置を開始した。
【0041】
サンプリング
7日目に採尿:
尿サンプルは拘束後毎日採取された。
拘束チューブの下にプラスチック皿を置き、尿サンプルを採取した。それをすぐにチューブに移し、さらに分析するまで-80℃で保存する。ヒスタミンは、ヒスタミンELISAキット(CAT#:D751012、BBI)を用いて、製造業者の指示に従って以下のように測定した。
【0042】
手順:
1.事前に必要なスラットの枚数を計算し、試験の30分前にキットを取り出し、室温に戻す。
2.各反応ホールに標準液と検体を50μLずつ加える。標準液は再度穴あけが必要である。ビオチン標識ヒスタミン抗体検体液50μLを各反応ウェルに直ちに添加し、プレートをシールして37℃で45分間インキュベートした。
3.洗浄:液を捨て、振って乾かす。350μLの洗浄液を各反応ホールに加え、1~2分間浸し、振って乾かすことを4回繰り返す。
4.HRP標識ストレプトアビジン検体液100μLを各反応ウェルに加え、プレートを密封し、37℃で30分間インキュベートする。
5.洗浄:各反応ホールに洗浄液を300μL加え、30秒間隔で乾燥させる。これを4回繰り返す。
6.各反応ホールに90μLの発色現像液(撥光液)を加え、プレートシール後、37℃で15分間発色現像する。
7.各反応ウェルに50μLの反応終了液を添加し、直ちに酵素標識装置の波長450nmでOD値を測定する(5分以内)。
8.OD値は酵素標識装置の波長450nmで測定した。
9.標準物質の濃度を横軸、吸光度を縦軸として標準曲線を描く。
10.統計的有意性は、両側T検定(3日目の内臓感受性)またはDunnettの多重比較を用いた一元配置分散分析により算出した。P<0.05を統計的に有意とみなした。
【0043】
(結果)
図4および
図5は、結腸直腸膨張に対する内臓運動反応(mmHg)を示し、
図4は、対照群とRS群との間で化合物処置を記録した1日前である3日目の内臓運動反応を、
図5は、7日目の内臓運動反応を示している。
図4に示すように、3日目にはRS群ラットの内臓感受性が対照群と比較して増加した(内臓感受性レベルは有意差を示した(p<0.01)-対照群対RS群)。
2.5mg/kgのOPS-2071を投与された処置群では、
図5に示すように、7日目に内臓感受性の低下が観察された(すなわち、OPS-2071投与の4日後、内臓感受性レベルは有意差を示した(p<0.05)-処置群(2.5mg/kg)対RS群)。
図6は、OPS-2071化合物処置の4日後である7日目に、ELISAによって定量化された尿中のヒスタミンレベルを示す。
7日目、
図6に示すように、RS群ラットの尿中ヒスタミン濃度は対照群よりも高かったが、2.5mg/kg化合物処置群で観察された尿中ヒスタミン値は減少した(尿中ヒスタミン値は対照群とRS群の間で高度な有意差(p<0.01)を示し、尿中ヒスタミンレベルは処置群(2.5mg/kg)とRS群の間で高度に有意差(p<0.01)を示した)。
【国際調査報告】