(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-25
(54)【発明の名称】電池材料およびその製造方法、ならびに二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20250717BHJP
C01B 25/37 20060101ALI20250717BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20250717BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20250717BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/37 Z
C01B33/20
H01B1/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025504392
(86)(22)【出願日】2023-08-07
(85)【翻訳文提出日】2025-01-24
(86)【国際出願番号】 CN2023111477
(87)【国際公開番号】W WO2024032550
(87)【国際公開日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】202210959434.9
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BYD Company Limited
【住所又は居所原語表記】No. 3009, BYD Road, Pingshan, Shenzhen, Guangdong 518118, P. R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ヤートン
(72)【発明者】
【氏名】チン、リーナー
(72)【発明者】
【氏名】リー、シアンユイ
(72)【発明者】
【氏名】イン、シアオチアン
【テーマコード(参考)】
4G073
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA05
4G073BA20
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5H050AA02
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5H050HA20
(57)【要約】
電池材料およびその製造方法、ならびに二次電池。電池材料の分子一般式は、A3V2-xEx(P1-yLyO4)3を備え、式中、元素Eは、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの少なくとも1つを備え、元素Lは、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを備え、元素Aは、アルカリ金属元素を表し、0≦x≦1および0<y≦1/3であり、元素Lが元素Bである場合、xは0ではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池材料であって、前記電池材料の一般分子式がA
3V
2-xE
x(P
1-yL
yO
4)
3を備え、式中、元素Eが、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの少なくとも1つを備え、元素Lが、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを備え、元素Aが、アルカリ金属元素を表し、0≦x≦1、および0<y≦1/3であり、前記元素Lが元素Bである場合、xは0ではない、電池材料。
【請求項2】
前記元素Lが、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電池材料。
【請求項3】
前記遷移金属元素が、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、およびZrのうちの少なくとも1つを含み、前記希土類元素が、LaおよびCeのうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の電池材料。
【請求項4】
xの値の範囲が0.1≦x≦1である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電池材料。
【請求項5】
yの値の範囲が1/18≦y≦1/3である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電池材料。
【請求項6】
製造される電池材料の一般分子式A
3V
2-xE
x(P
1-yL
yO
4)
3に従って、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源を秤量し、前記源を混合処理して前駆体材料を得ることであって、式中、元素Eが、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの少なくとも1つを備え、元素Lが、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを備え、元素Aが、アルカリ金属元素を表し、0≦x≦1、および0<y≦1/3であり、前記元素Lが元素Bである場合、xは0ではない、前駆体材料を得ることと、
前記前駆体材料を焼成して前記電池材料を得ることと、
を備える、電池材料のための製造方法。
【請求項7】
前記焼成の条件が、前記前駆体材料を不活性ガス雰囲気下で、400℃~900℃で10時間~30時間焼成することを含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガスが、アルゴン、窒素、およびヘリウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合処理が、固相混合法またはゾル-ゲル法を含む、請求項6から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記元素Lが、Si、Ge、Snのうちの少なくとも1つを含む、請求項6から9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属元素が、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、およびZrのうちの少なくとも1つを含み、前記希土類元素が、LaおよびCeのうちの少なくとも1つを含む、請求項6から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
xの値の範囲が0.1≦x≦1である、請求項6から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
yの値の範囲が1/18≦y≦1/3である、請求項6から12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1から5のいずれか一項に記載の電池材料を備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2022年8月10日に出願された中国特許出願第202210959434.9号の優先権および利益を主張する。上記で参照された出願の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、電池技術分野に関し、詳細には、電池材料およびその製造方法、ならびに二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
電極材料および固体電解質材料などの電池材料は、電池の重要な構成要素であり、電池性能に大きな影響を与える。ナトリウムイオン電池を例として使用すると、3次元イオンチャネル用の高速イオン伝導体材料であるNa3V2(PO4)3材料は、安定した結晶構造、調整可能な動作電圧、および高い理論比容量などのその潜在的な利点を有するため、正極材料または固体電解質として使用されることが多い。しかしながら、このような材料には、電子伝導度が低く、充放電電圧プラトーが低いなどの問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、一般に、ドーピングおよび改質によって材料の問題を解決している。しかしながら、業界で現在一般的なドーピング方式では、材料の電気化学的性能を向上させる効果は限られる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
それゆえに、本開示は電池材料を提供する。本材料は、アルカリ金属のリン酸バナジウムの陰イオンリンサイトをドープすることによって、材料の充放電電圧および電子伝導度を効果的に向上させることができる。
【0006】
本開示の第1の態様は、電池材料を提供し、本電池材料の一般分子式はA3V2-xEx(P1-yLyO4)3を含み、式中、元素Eは、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、MgおよびSrのうちの1つまたは複数を含み、元素Lは、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、GeおよびSnのうちの1つまたは複数を含み、元素Aは、アルカリ金属元素を表し、xおよびyは、ドーピング元素によって置換された元素Vのモル百分率およびドーピング元素によって置換された元素Pのモル百分率をそれぞれ表し、0≦x≦1、0<y≦1/3であり、元素Lが元素Bである場合、xは0ではない。
【0007】
各元素Lの電気陰性度は、元素Pの電気陰性度よりも小さく、元素Pの一部を置換した後、ドーピング元素Lは、元素Pに元々結合されていたO原子の原子価状態の変化を引き起こすことができ、その結果、LおよびO原子によって形成されるポリアニオン基LO4
m-(ここで、m-は、ポリアニオン基の全電荷であり、m>0である)の構造が収縮する。したがって、化合物A3V2(P1-yLyO4)3の単位格子構造が収縮し、単位格子構造の総エネルギーが減少し、その結果、材料の動作電圧が高められる可能性がある。加えて、単位格子構造の収縮は、材料の構造安定性を向上させるのに有益であり、材料のサイクル性能を向上させるのにも有益である。加えて、リンサイトへの元素Lのドーピングは、元素Vを励起して、高電位で酸化還元反応を受けるように誘導することができ、それによって、材料の動作電圧をさらに高め、材料のエネルギー密度を増加させる。加えて、リンサイトへの元素Lのドーピングは、化合物A3V2(P1-yLyO4)3のバンドギャップ値を下げ、材料の電子伝導度を向上させることができる。加えて、元素Lのドーピング量を適切な範囲内に制御することにより、材料の良好な構造安定性を確保しながら、材料が高い充放電電圧プラトーおよび良好な電子伝導度を有することを可能にすることができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、元素Lは、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、遷移金属元素は、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、およびZrのうちの少なくとも1つを含み、希土類元素は、LaおよびCeのうちの少なくとも1つを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、xの値の範囲は、0.1≦x≦1である。
【0011】
いくつかの実施形態では、yの値の範囲は、1/18≦y≦1/3である。
【0012】
本開示の第2の態様は、電池材料の製造方法を提供し、本方法は、
製造される電池材料の一般分子式A3V2-xEx(P1-yLyO4)3に従って、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源を秤量し、これらの源を混合処理して前駆体材料を得ることであって、式中、元素Eが、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの1つまたは複数を含み、元素Lが、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの1つまたは複数を含み、元素Aが、アルカリ金属元素を表し、0≦x≦1、および0<y≦1/3であり、元素Lが元素Bである場合、xは0ではない、前駆体材料を得ることと、
前駆体材料を焼成して電池材料を得ることと、
を含む。
【0013】
本製造方法は、プロセスが簡単で、制御性が高いという利点を有し、大規模な工業生産を実現することができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、焼成の条件は、前駆体材料を不活性ガス雰囲気下、400℃~900℃で10時間~30時間焼成することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、不活性ガスは、アルゴン、窒素、およびヘリウムのうちの少なくとも1つを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、混合処理は、固相混合法またはゾル-ゲル法を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、元素Lは、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、遷移金属元素は、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、およびZrのうちの少なくとも1つを含み、希土類元素は、LaおよびCeのうちの少なくとも1つを含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、xの値の範囲は、0.1≦x≦1である。
【0020】
いくつかの実施形態では、yの値の範囲は、1/18≦y≦1/3である。
【0021】
本開示の第3の態様は、本開示の第1の態様による電池材料を含む二次電池を提供する。
【0022】
この二次電池は、高いエネルギー密度、および比較的良好なレート性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の実施例1~3および比較例1の電池材料のX線回折(XRD)パターンである。
【
図2】サイクル数の関数としての、本開示の実施例1~3および比較例1の電池材料から製造された電池の比容量の曲線である。
【
図3】サイクル数の関数としての、本開示の実施例1~3および比較例1の電池材料から製造された電池の充放電電圧プラトーの曲線である。
【
図4】サイクル数の関数としての、本開示の実施例1~3および比較例1の電池材料から製造された電池の比容量の曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
NASICON化合物は、Goodenough教授によって提案された3次元イオンチャネルを有する高速イオン伝導体材料であり、電極材料および固体電解質材料の両方として使用されることがある。本開示の有益な効果をより明確に説明するために、Na3V2(PO4)3(略してNVP)を例として使用することによって、NASICON化合物の結晶構造が以下に簡単に記載される。
【0025】
NVP材料の各構造要素は、3つのPO4四面体および2つのVO6八面体を含み、これらは、共有の頂点酸素原子によって結合されて、2種類の異なる酸素環境に適応することができるアルカリ金属イオン(具体的にはナトリウムイオン)を形成し、ナトリウムイオンを形成する。ナトリウムイオンはNa(1)位置およびNa(2)位置をそれぞれ占める。一般に、Na(2)位置のナトリウムイオンのみが、充放電中にデインターカレートまたはインターカレートされることができ、こうして、ナトリウムが欠損したNa3V2(PO4)3と完全に充電されたNaV2(PO4)3との間の格子構造の変換を完了することが可能と考えられている。しかしながら、充放電サイクル中の結晶形態の変換は、充放電中に材料の構造安定性が徐々に低下し、電池の正常な性能に影響を与える。加えて、上記材料は、電子伝導度が低く、充放電電圧プラトーが低いなどの問題もある。
【0026】
上記の問題を解決するために、本開示の実施形態は、電池材料を提供する。電池材料の一般分子式は、A3V2-xEx(P1-yLyO4)3を含み、式中、元素Eは、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの1つまたは複数を含み、元素Lは、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの1つまたは複数を含み、元素Aは、アルカリ金属元素を表し、xおよびyは、それぞれ、ドーピング元素のモル百分率を表し、0≦x≦1、0<y≦1/3であり、元素Lが元素Bである場合、xは0ではない。
【0027】
元素Lの電気陰性度は、元素Pの電気陰性度よりも小さく、0<y≦1/3であり、すなわち、L原子は、一部の構造要素における一部のPO4四面体内のP原子を置換し、その結果、元のPO4四面体の酸素原子の周囲の電荷の数が変更され、酸素原子の一部のイオン半径を収縮させることができる。化合物A3V2(P1-yLyO4)3は骨格構造の材料であるため、A3V2(P1-yLyO4)3の単位格子の体積は収縮し、その結果、A3V2(P1-yLyO4)3の単位格子構造の総エネルギーが低減され、それによって、材料の動作電圧を高め、材料の構造安定性を向上させる。加えて、A3V2(P1-yLyO4)3は、充放電中の体積の変動が小さく、高い電子伝導度を維持しながら、高い構造安定性が維持されることができる。加えて、PO4四面体とVO6八面体は、共有の頂点酸素原子によって結合されているため、元素Lのドーピングは、その周囲のO原子の電荷の変化を引き起こし、V原子の周囲の電荷環境を強制的に変化させ、高電位での元素Vの酸化還元反応を誘発する。そのため、材料の動作電圧が高められ、それによって、材料のエネルギー密度を向上させることができる。加えて、ドーピング元素Lは、元の材料A3V2(PO4)3のバンドギャップ値を大幅に減少させて、より多くの電子をフェルミ面の近くに蓄積させることもでき、それによって、材料の電子伝導度を向上させ、材料の充放電中の電気化学反応速度を向上させ、この材料を使用した二次電池のレート性能をさらに向上させる。加えて、元素Lのドーピング量を上記範囲内に制御することにより、材料の良好な構造安定性を確保しながら、材料が高い充放電電圧プラトーおよび良好な電子伝導度を有することを可能にすることができる。
【0028】
さらに、A3V2(P1-yLyO4)3のVサイトにドープするために、適量の元素Eがさらに使用されると、元素EのVサイトへのドーピングと元素LのPサイトへのドーピングとの相乗効果によって、得られたダブルドープ材料の充放電電圧プラトーがシングルドープのA3V2(P1-yLyO4)3と比べてさらに高められる可能性がある。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態では、元素Aは、Li、Na、またはKのうちの1つまたは複数を含むが、これらに限定されない。元素Aは、二次電池の具体的な種類に応じて選択されてもよい。例えば、電池用材料A3V2-xEx(P1-yLyO4)3をナトリウム二次電池で用いる場合、元素AはNaであってもよい。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態では、元素Lは、Si、Ge、およびSnのうちの1つまたは複数を含むが、これらに限定されない。上記元素をリンサイトのドーピングに使用することは、製造プロセスをより制御可能にし、製品の収率を向上させ、製造された電池材料の性能をより安定にする。
【0031】
本開示のいくつかの実施形態において、元素Lは、元素Siおよび/または元素Bである。一般に、材料の理論比容量Cは、以下の式、すなわち、C=(F×n×m)/(t×M)に従って計算され、式中、Fは、ファラデー定数であり、nは、活物質A3V2-xEx(P1-yLyO4)3(式中、xは0であってもよい)が充電中にAV2-xEx(P1-yLyO4)3(式中、xは0であってもよい)に変換されるときに失われる電子の数であり、mは、完全に充電された活物質A3V2-xEx(P1-yLyO4)3の質量であり、tは、時間であり、Mは、A3V2-xEx(P1-yLyO4)3のモル質量である。活物質A3V2-xEx(P1-yLyO4)3のモル質量Mが減少すると、理論比容量Cが増加することが分かる。元素Siの原子質量および元素Bの原子質量は、元素Pの原子質量よりも小さいため、元素Pの一部をSiおよびBで置換することにより、材料の理論比容量を増加させることができ、それによって、材料のエネルギー密度をさらに向上させることができる。
【0032】
本開示のいくつかの実施形態では、yの値の範囲は、1/18≦y≦1/6である。元素Lのドーピング量を上記範囲内に制御することにより、元素Lのドーピングによって引き起こされる元の化合物A3V2(PO4)3の単位格子構造が過度に変化するリスクを十分に低減することができ、製造を容易にする。さらに、充放電プロセスにおけるAイオンのインターカレーション/デインターカレーションによる、元素Lでドープされた材料A3V2-xEx(P1-yLyO4)3(式中、xは0であってもよい)とその対応する完全に充電された化合物との間の結晶構造変換中の格子定数(単位格子体積を含む)の変化は小さく、元素Lでドープされた材料の構造崩壊のリスクが充放電サイクルにおいて小さく、その結果、材料の良好な伝導度を達成しながら、材料の良好なサイクル性能を確保することができる。
【0033】
本開示の他のいくつかの実施形態では、yの値の範囲は、1/6≦y≦1/3である。元素Lのドーピング量を上記範囲内に制御することによって、動作電圧がより大幅に高められる可能性がある。さらに、材料の良好な伝導度が達成される可能性がある。
【0034】
本開示のいくつかの実施形態において、yは1/18である。この場合、材料A3V2-xEx(P1-yLyO4)3(式中、xは0であってもよい)材料は、非常に高い結晶性を有する。他のいくつかの実施形態では、yは1/6である。この場合、材料A3V2-xEx(P1-yLyO4)3は、高い動作電圧、良好な構造安定性、および良好な電子伝導度を有する。他のいくつか実施形態では、yは1/3である。この場合、材料A3V2-xEx(P1-yLyO4)3(式中、xは0であってもよい)は、最も高い動作電圧および良好な電子伝導度を有する。
【0035】
本開示のいくつかの実施形態において、遷移金属元素は、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、Zrのうちの1つまたは複数を含むが、これらに限定されない。
【0036】
本開示のいくつかの実施形態において、希土類元素は、Laおよび/またはCeを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態において、元素Eは、Mg、Sr、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、Mo、Nb、およびZrのうちの1つまたは複数を含む。これらの元素のコストは、ランタニド元素LaおよびCeのコストよりも低い。Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnのイオン半径は、Vイオンのイオン半径よりもわずかに小さく、このような元素でドープすると、A3V2(PO4)3の単位格子体積を減少させることができ、それによって、材料の構造安定性をさらに向上させることができる。本開示の他のいくつかの実施形態では、元素Eのコストと材料の動作電圧への影響をよりよくバランスさせるために、元素Eは、Ti、Cr、Mn、およびFeのうちの1つまたは複数であってもよい。これらの元素は、ドープされた材料の動作電圧を高めるのにも役立つ。Feは、最も低いコストを有し、Mnは、材料の充放電電圧を高めることにより寄与する。
【0038】
いくつかの特定の実施形態では、元素EはMnであり、元素LはSiである。A3V2-xMnx(P1-ySiyO4)3の収率は高く、製造された材料は高い動作電圧を有し、したがって高いエネルギー密度を有する。
【0039】
本開示のいくつかの実施形態では、xは、好ましくは0.1≦x≦1の範囲にある。元素Eのドーピング量を上記範囲内に制御することにより、Eの過剰なドーピング量によって引き起こされるA3V2-xEx(P1-yLyO4)3の電気化学的活性の損失を回避することができ、元素Eのドーピングが材料の電気化学的性能を向上させることができることを確実にすることができる。
【0040】
本開示の実施形態は、電池材料の製造方法を提供し、本方法は、
製造される電池材料の一般分子式A3V2-xEx(P1-yLyO4)3に従って、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源を秤量し、これらの源を混合処理して前駆体材料を得ることであって、元素Eが元素Vを置換するドーピング元素を表し、前記元素Eが遷移金属元素、Mg、およびSrのうちの1つまたは複数を含み、元素Lが元素Pを置換するドーピング元素を表し、元素LがB、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの1つまたは複数を含み、元素Aがアルカリ金属元素を表し、xおよびyが、それぞれ、ドーピング元素によって置換された元素Vのモル百分率およびドーピング元素によって置換された元素Pのモル百分率を表し、0≦x≦1、0<y≦1/3であり、元素Lが元素Bである場合、xは0ではない、前駆体材料を得ることと、
不活性ガス雰囲気下で前駆体材料を焼成して電池材料を得ることと、を含む。
【0041】
上記の製造方法によると、本開示の実施形態による電池材料は、原料を所定の割合に従って混合処理して前駆体材料を得た後、混合された原料を焼成することによって得られてもよい。本製造方法は、操作が簡単で、プロセスの制御性が高く、大規模な工業的製造を実現できるという利点を有する。
【0042】
本開示のいくつかの実施形態では、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源は、A:V:E:P:L=3:(2-x):x:(3-3y):3yのモル比に従って秤量され、混合処理される。いくつかの実施形態では、製造プロセス中のアルカリ金属元素Aの損失を補うために、元素Aは10%過剰であってもよい。
【0043】
本開示のいくつかの実施形態において、混合処理は、固相混合法またはゾル-ゲル法を含むが、これらに限定されない。
【0044】
具体的には、固相混合法は、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源を所定の割合で、ボールミル中で混合処理して、前駆体材料を得ることであってもよい。
【0045】
具体的には、ゾル-ゲル法は、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源を所定の割合で溶媒に添加し、混合物を加熱し、十分に撹拌してゲルを生成し、ゲルを加熱および撹拌し続けて溶媒を蒸発させて、前駆体材料を得ることであってもよい。加熱および撹拌は、30℃~200℃で、300rpm~900rpmの撹拌速度で、1時間~6時間行われる。
【0046】
本開示において、溶媒は揮発性溶媒であり、具体的には、水、エタノール、アセトンのうちの1つまたは複数であってもよい。
【0047】
本開示のいくつかの実施形態において、焼成の条件は、前駆体材料を不活性ガス雰囲気下で、400℃~900℃で10時間~30時間焼成することを含む。
【0048】
本開示において、不活性ガスは、具体的には、アルゴン、窒素、またはヘリウムのうちの少なくとも1つである。
【0049】
本開示において、A源(元素Aは、Li、Na、およびKのうちの少なくとも1つである)は、元素Aの硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、およびアセチルアセトン塩のうちの少なくとも1つであってもよい。例えば、元素AがNaのみである場合、Na源は、硝酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびアセチルアセトン酸ナトリウムのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0050】
本開示において、バナジウム源は、バナジウム元素が化合物中で三価、四価、または五価であるバナジウム源のうちの少なくとも1つを含むが、これらに限定されない。例えば、バナジウム源は、五酸化バナジウム、四酸化バナジウム、三酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、アセチルアセトンバナジウム、アセチルアセトンバナジルなどのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0051】
本開示において、E源は、当業者によく知られている化合物である。例えば、E源は、元素Eに対応する特定の元素の有機金属塩、金属酸塩、および金属酸化物のうちの少なくとも1つである。例えば、元素Eが元素Tiである場合、E源は、酸化チタン、チタンテトラブチル、チタンテトライソプロポキシド、チタンエトキシドなどのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0052】
本開示において、リン源は、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸アンモニウムなどのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0053】
本開示では、L源は、元素Lに対応する特定のドーピング元素の酸、エステル、または塩のうちの少なくとも1つであってもよい。例えば、元素Lが元素Siである場合、L源は、ケイ酸テトラエチル、ケイ酸ナトリウムなどであってもよい。
【0054】
本開示の実施形態は、電極を提供する。電極は、上述された電池材料を含む。
【0055】
この電極は、高いエネルギー密度および良好なレート特性などの優れた電気化学的性能を有する二次電池を提供するために使用されてもよい。
【0056】
本開示のいくつかの実施形態では、電極は正極である。正極は、一般に、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面に配置された正極活物質層とを含む。正極活物質層は、上述された正極活物質を含む。加えて、正極活物質層は、結合剤、および任意選択で導電剤をさらに含んでもよい。結合剤および導電剤は、電池の分野における従来通りの選択肢であってもよい。
【0057】
正極集電体は、正極の集電体としての使用に適した様々な材料であってもよく、金属元素箔、合金箔、金属めっきされた高分子フィルム、またはこれらの表面に炭素がコーティングされた上記の材料のいずれかなどを含むが、これらに限定されない。金属元素箔は、アルミニウム箔であってもよい。合金箔は、アルミニウム合金箔であってもよい。高分子フィルムの表面にめっきされた金属は、アルミニウム元素層またはアルミニウム合金層であってもよい。
【0058】
本開示の実施形態は、二次電池をさらに提供する。二次電池は、上述された電極または電池材料を含む。具体的には、二次電池は、リチウム二次電池、ナトリウム二次電池、またはカリウム二次電池であってもよい。この二次電池は、上述されたAV2-xEx(P1-yLyO4)3を含んでいるため、高いエネルギー密度、良好なレート特性、および良好なサイクル特性などを有する。二次電池は、3C電子製品(例えば、携帯電話、タブレットコンピュータなど)、車両(例えば、自動車、船など)、または他の電気機器に使用されて、電気機器の性能および市場競争力を向上させることができる。
【0059】
二次電池は、液体電解質を用いた液体電池であってもよく、または半固体状態または固体状態の電解質を用いた半固体状態または固体状態の電池であってもよい。いくつかの実施形態では、二次電池は、上述された正極と、負極と、正極と負極との間のセパレータおよび電解液とを含んでもよい。他のいくつかの実施形態では、二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間の半固体または固体の電解質とを含んでもよい。特に、本開示の実施形態によって提供される電池材料は、半固体または固体の電解質として使用されてもよい。加えて、半固体または固体の電解質が使用される場合、正極および負極は、半固体の電解質材料または固体の電解質材料をさらに含むことができる。
【0060】
本開示の技術的解決策は、複数の実施例を通して以下でさらに詳細に説明される。
【0061】
(実施例1)
以下の操作に従って、電池材料を製造した。
【0062】
ナトリウム源としての硝酸ナトリウム、バナジウム源としての五酸化バナジウム、リン源としてのリン酸、Si源としてのテトラエチルシリケートをモル比でNa:V:P:Si=3:2:2.84:0.17となるように秤量し、溶媒としてのエタノールに添加した。この混合物を、80℃で加熱および撹拌し、溶媒を蒸発させて、前駆体材料を得た。
【0063】
前駆体材料を、保護窒素雰囲気下で、800℃で12時間焼成して、電池材料Na3V2(P17/18Si1/18O4)3を得た。
【0064】
(実施例2)
本実施例は、ケイ素源の含有量を微調整した以外は、実施例1と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V2(P5/6Si1/6O4)3であった。
【0065】
(実施例3)
本実施例は、ケイ素源の含有量を微調整した以外は、実施例1と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V2(P2/3Si1/3O4)3であった。
【0066】
(実施例4)
本実施例は、ケイ素源の含有量を微調整した以外は、実施例1と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V2(P0.97Si0.03O4)3であった。
【0067】
(実施例5)
本実施例は、ケイ素源を二酸化ゲルマニウムであるGe源で置き換え、製造プロセスが微調整された以外は、実施例1と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V2(P17/18Ge1/18O4)3であった。
【0068】
(実施例6)
本実施例は、ケイ素源を酸化スズであるSn源に置き換え、製造プロセスが微調整された以外は、実施例1と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V2(P17/18Sn1/18O4)3であった。
【0069】
(実施例7)
(1)ナトリウム源としての硝酸ナトリウム、バナジウム源としての五酸化バナジウム、Mn源としての二酸化マンガン、リン源としてのリン酸、Si源としてのテトラエチルシリケートを、Na:V:Mn:P:Si=3:1.5:0.5:2.84:0.17のモル比となるように秤量し、ボールミルに供給して混合し、前駆体材料を得た。
【0070】
(2)前駆体材料を、保護窒素雰囲気下で、800℃で12時間焼成して、電池材料Na3V1.5Mn0.5(P17/18Si1/18O4)3を得た。
【0071】
(実施例8)
本実施例は、Mn源の含有量を微調整し、製造された電池材料の一般分子式がNa3V1.8Mn0.2(P17/18Si1/18O4)3であったこと以外は、実施例6と同じであった。
【0072】
(実施例9)
本実施例は、Mn源を酸化鉄であるFe源に置き換えて、製造プロセスを微調整した以外は、実施例6と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V1.5Fe0.5(P17/18Si1/18O4)3であった。
【0073】
(実施例10)
本実施例は、Mn源を酸化チタンであるTi源に置き換え、製造プロセスを微調整した以外は、実施例6と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V1.5Ti0.5(P17/18Si1/18O4)3であった。
【0074】
(実施例11)
本実施例は、Mn源を酸化クロムであるCr源に置き換え、製造プロセスを微調整した以外は、実施例6と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V1.5Cr0.5(P17/18Si1/18O4)3であった。
【0075】
(実施例12)
本実施例は、Si源を四ホウ酸ナトリウムであるB源に置き換え、Na源の含有量およびその後の製造プロセスを微調整した以外は、実施例6と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na3V1.5Mn0.5(P17/18B1/18O4)3であった。
【0076】
(実施例13)
本実施例は、カリウム源として硝酸カリウムをさらに添加し、Na源の含有量およびその後の製造プロセスを微調整した以外は、実施例6と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Na2K1V1.5Mn0.5(P17/18Si1/18O4)3であった。
【0077】
(実施例14)
本実施例は、Na源が硝酸リチウムであるLi源に置き換えられた以外は、実施例1と同じであった。製造された電池材料の一般分子式は、Li3V2(P17/18Si1/18O4)3であった。
【0078】
(比較例1)
電池材料を製造した。電池材料の一般分子式はNa3V2(PO4)3であった。
【0079】
(比較例2)
電池材料を製造した。電池材料の一般分子式は、Na3V1.5Fe0.5(PO4)3であった。
【0080】
(比較例3)
電池材料を製造した。電池材料の一般分子式は、Na3V2(P17/18B1/18O4)3であった。
【0081】
性能試験
(1)材料の結晶構造の特性評価:実施例1~3および比較例1の電池材料をXRDによって特性評価した。結果は
図1に示す通りである。
【0082】
(2)実施例および比較例の電池材料の電子伝導度:試験する粉末を粉末抵抗率試験機に入れた。50MPaの圧力を加え、10秒間保持した。粉末抵抗率を4探針法で測定し、電子伝導度に換算することができた(電子伝導度は抵抗率の逆数である)。
【0083】
(3)本開示の実施形態の有益な効果をさらに強く裏付けるために、実施例および比較例の材料を電池に作製し、電気化学的性能試験を行った。関連する結果を表2に示す。
【0084】
電池の製造プロセスは以下の通りである。(1)正極の製造:各実施例または比較例の電池材料と、導電剤としてのアセチレンブラック導電剤と、結合材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、88:6:6の質量比で、溶媒としてのNMP(N-メチルピロリドン)に添加し、均一に撹拌して、正極スラリーを得た。正極スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔上にコーティングし、乾燥、圧延、裁断して正極を得た。(2)負極の製造:負極活物質(具体的には黒鉛)と、結合剤(具体的にはスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチル・セルロース・ナトリウム(CMC-Na)とを質量比2:3で混合したもの)とを、95:5の質量比でイオン水に混合し、均一に撹拌して、負極スラリーを得た。負極スラリーを負極集電体である銅箔上にコーティングし、乾燥、圧延、裁断して負極を得た。(3)電池組立:正極、セパレータ、および負極を交互に積層して、電池コアを得た。電池コアを巻回し、アルミニウム・プラスチック・フィルムである外装ホイルに入れ、電解液を注入し、続いて真空包装、静置、化成、成形などのプロセスを行われ、ナトリウム電池の製造を完了させた。実施例および比較例の電池材料から製造されたナトリウム二次電池を、S1~S14およびDS1~DS3とそれぞれ表記した。
【0085】
電池S1~S14およびDS1~DS3を電気化学的性能について試験した。
【0086】
1)サイクル性能:各電池について、25℃で0.5Cの電流で充放電サイクル試験を行い、電圧範囲は2.5V~4.3Vであった。充電中、電池を、まず0.5Cの定電流でカットオフ電圧4.3Vまで充電し、次いでカットオフ電流0.05Cまで定電圧で充電した。放電中、電池を、0.5Cの定電流で2.5Vまで放電した。各電池の初回サイクルの比放電容量と50サイクル後の容量保持率を記録した。初回サイクルの比放電容量は、各ボタン電池の初回サイクルの放電容量と電池内の正極活物質の質量との比に等しい。50サイクル後の容量保持率は、50サイクル後の放電容量と初回サイクルの放電容量との比に等しい。
【0087】
加えて、各電池を0.5Cの定電流で充放電して得られた充放電曲線に対して、放電曲線が積分され、初回サイクルの放電容量で除され、各電池の平均電圧、すなわち充放電プラトー電圧を得た。
【0088】
関連する結果を表2にまとめ、一部の実施例および比較例のサイクル曲線を
図2にまとめた。
【0089】
2)レート性能:0.1C、2C、5C、および15Cなどの異なるレートでの各電池の放電グラム容量のサイクル数に伴う変化を25℃で試験し、電圧範囲は2.5V~4.3Vであった。一部の実施例および比較例のレート性能曲線は、
図4に示す通りである。グラム容量の計算には、ある電流密度での放電容量と正極活物質の質量との比を、その電流密度における放電グラム容量として使用する。表2は、各電池の15Cでの初回サイクルの比放電容量、および15Cでの初回サイクルの放電容量と0.1Cでの初回サイクルの放電容量との比を示す。
【表1】
【表2】
【0090】
まず、Na
3V
2(PO
4)
3のPサイトにドープした後、電池材料が放出した最大比容量は、ドープされていない材料よりも大幅に高く、容量保持率も改善され、良好なサイクル性能を示すことが
図2~
図4から明らかに分かる。加えて、実施例1~3の充放電電圧プラトーも、比較例1に比べて大幅に改善された。リンサイトのみにドープした場合、ドーピング量が多いほど(yが1/3以下)、電池の充放電プラトー電圧が高くなることが分かる。加えて、高い電流密度(5Cおよび15C)での実施例1~3の電池容量は、比較例1よりも大幅に高く、ドープされていない材料は、電流密度が徐々に増加するにつれて、深刻な容量減少を示した。対照的に、Pサイトにドープした材料は、良好なレート性能を示した。
【0091】
同じ元素Lのドーピングについては、リンサイトのドーピング量が多いほど、材料の充放電電圧プラトーが高くなることが表2のデータから分かる。比較例1の電池と比較して、リンサイトにドープした材料のレート性能、電池の比容量、およびサイクル容量保持率は、Na3V2(PO4)3よりも大幅に高かったことが分かる。リンサイトのドーピングに基づいてバナジウムサイトにドーピングを導入することにより、材料の充放電電圧プラトーをさらに高めることができるが、ドーピング効果は異なる元素Eによってわずかに変化する。
【0092】
本開示の例示的な実施形態を上に述べたが、本開示はこれらに限定されない。本開示の技術的原理から逸脱することなく、当業者によっていくつかの改善および修正が行われてもよく、それらも本開示の範囲内にあると考えられることを理解されたい。
【手続補正書】
【提出日】2025-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池材料であって、前記電池材料の一般分子式がA
3V
2-xE
x(P
1-yL
yO
4)
3を備え、式中、元素Eが、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの少なくとも1つを備え、元素Lが、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを備え、元素Aが、アルカリ金属元素を表し、0≦x≦1、および0<y≦1/3であり、前記元素Lが元素Bである場合、xは0ではない、電池材料。
【請求項2】
前記元素Lが、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電池材料。
【請求項3】
前記遷移金属元素が、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、およびZrのうちの少なくとも1つを含み、前記希土類元素が、LaおよびCeのうちの少なくとも1つを含む、請求項
1に記載の電池材料。
【請求項4】
xの値の範囲が0.1≦x≦1である、請求項
1に記載の電池材料。
【請求項5】
yの値の範囲が1/18≦y≦1/3である、請求項
1に記載の電池材料。
【請求項6】
製造される電池材料の一般分子式A
3V
2-xE
x(P
1-yL
yO
4)
3に従って、A源、バナジウム源、E源、リン源、およびL源を秤量し、前記源を混合処理して前駆体材料を得ることであって、式中、元素Eが、元素Vを置換するドーピング元素を表し、遷移金属元素、希土類元素、Mg、およびSrのうちの少なくとも1つを備え、元素Lが、元素Pを置換するドーピング元素を表し、B、Al、Ga、Si、Ge、およびSnのうちの少なくとも1つを備え、元素Aが、アルカリ金属元素を表し、0≦x≦1、および0<y≦1/3であり、前記元素Lが元素Bである場合、xは0ではない、前駆体材料を得ることと、
前記前駆体材料を焼成して前記電池材料を得ることと、
を備える、電池材料のための製造方法。
【請求項7】
前記焼成の条件が、前記前駆体材料を不活性ガス雰囲気下で、400℃~900℃で10時間~30時間焼成することを含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記不活性ガスが、アルゴン、窒素、およびヘリウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合処理が、固相混合法またはゾル-ゲル法を含む、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記元素Lが、Si、Ge、Snのうちの少なくとも1つを含む、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属元素が、Fe、Cr、Mn、Co、Ti、Ni、Cu、Zn、Mo、Nb、およびZrのうちの少なくとも1つを含み、前記希土類元素が、LaおよびCeのうちの少なくとも1つを含む、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項12】
xの値の範囲が0.1≦x≦1である、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項13】
yの値の範囲が1/18≦y≦1/3である、請求項6
または7に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1から5のいずれか一項に記載の電池材料を備える、二次電池。
【国際調査報告】