(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-25
(54)【発明の名称】微生物の増殖が抑制された飲料
(51)【国際特許分類】
A23B 70/10 20250101AFI20250717BHJP
A23B 2/746 20250101ALI20250717BHJP
A23B 2/754 20250101ALI20250717BHJP
【FI】
A23B70/10
A23B2/746
A23B2/754
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025530965
(86)(22)【出願日】2023-07-31
(85)【翻訳文提出日】2024-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2023030627
(87)【国際公開番号】W WO2024029635
(87)【国際公開日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022125749
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 敦
(72)【発明者】
【氏名】村田 将一
(72)【発明者】
【氏名】横尾 芳明
(72)【発明者】
【氏名】榊原 裕
(72)【発明者】
【氏名】沼田 淳
【テーマコード(参考)】
4B021
4B117
【Fターム(参考)】
4B021LA33
4B021LW06
4B021MC01
4B021MC02
4B021MK05
4B021MK06
4B021MK17
4B021MK20
4B021MP01
4B117LC15
4B117LG02
4B117LG03
4B117LG05
4B117LG24
4B117LK06
4B117LL07
4B117LP01
(57)【要約】
明細書に記載の式1~6で表される6種類の天然物由来の化合物又はその塩のうちの1種以上を含有する飲料。これらの化合物は、安息香酸ナトリウムやソルビン酸カリウムといった既存の飲料用の保存料と同じかより低い濃度で飲料中で微生物の増殖を抑制する効果を示し得る。これらの化合物は、飲料の商品価値を低減しにくい傾向がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を含む、飲料:
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を合計で0.1~250ppmの濃度で含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
微生物を添加して室温で2週間保管した際に、式1~6で表される化合物又はその塩を含有しない以外は同じ組成である飲料に比べて、微生物の増殖が抑制されている、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
微生物が、酵母及び/又はカビである、請求項3に記載の飲料。
【請求項5】
微生物が、Zygosaccharomyces属、Saccharomyces属、Brettanomyces属、及びNeosartorya属のうちのいずれか一種以上である、請求項3に記載の飲料。
【請求項6】
式1~6で表される化合物又はその塩を含有しない以外は同じ組成である飲料に比べて、Alicyclobacillus属の微生物の増殖が抑制されている、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項7】
式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を添加することを含む、請求項1又は2に記載の飲料の製造方法。
【請求項8】
式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を合計で0.1~250ppmの濃度で添加することを含む、請求項7に記載の飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、特定の化合物を1種以上含有する飲料に関する。より詳細には、天然物由来の特定の化合物の1種以上を含有することにより、微生物の増殖が抑制された飲料に関する。さらに詳細には外観安定性などの飲料製品の商品価値を有する微生物の増殖が抑制された飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]保存料は、飲食品の腐敗や変敗の原因となる微生物の増殖を抑制し、保存性を高める添加物である。飲料用の保存料としては、安息香酸ナトリウムやソルビン酸カリウムといった合成保存料または合成抗菌剤が通常使われている。しかし、合成保存料は、腸内細菌叢への影響が近年示されており、健康への影響が懸念されている。また、安息香酸ナトリウムは、ビタミンCと反応することにより、発がん性のベンゼンを生成するリスクがあると言われている。健康への影響の他にも、安息香酸ナトリウムには独特の収斂味があり(特許文献1)、飲料の風味に影響する可能性がある。また、ソルビン酸カリウムは特定の微生物の増殖抑制効果が低い上に、独特の臭いがあるという問題がある。
【0003】
[0003]このような合成保存料の使用を減らすために、天然物由来の保存料についての検討がされている(特許文献2、特許文献3)。キトサンなどの天然物由来の化合物は、抗菌性があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-171301号公報
【特許文献2】特開平5-7482号公報
【特許文献3】特開平2-211856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005]天然物由来の保存料についての検討事例は存在するが、飲料において微生物の増殖が実際に抑制されることを確認した例は少ない。また、外観安定性や味などの飲料の商品価値も損なわれないことを確認した例はさらに少ない。近年の消費者の嗜好の多様化に伴い、飲料製品の種類も多様化しており、多様な飲料製品の様々な性質や風味に対応できるように、飲料に使用するのに適した新たな天然物由来の保存料を探索することは望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006]本発明者らは、飲料製品の保存料(微生物の増殖抑制剤)として使用するのに適した天然物由来の化合物について探索を行った結果、6種類の化合物を発見した。これらの化合物を実際に市販の飲料中に添加して微生物増殖性を確認する試験を行ったところ、これらの化合物に微生物の増殖抑制効果があることを見出した。また、これらの化合物は、飲料製品に必要とされる外観安定性(経時で外観の変化が生じにくい性質)を有し、飲料の本来の色及び/又は味に影響しにくいことを見出し、本発明に至った。より具体的には、6種類の化合物は、以下の「発明を実施するための形態」の欄で説明する式1~6で表される化合物である。
【0007】
[0007]本発明は、式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を含む飲料に関する。また、本発明は、式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を合計で0.1~250ppmの濃度で含む飲料に関する。また、本発明は、微生物を飲料に添加して室温で2週間保管した際に、式1~6で表される化合物又はその塩を含有しない以外は同じ組成である飲料に比べて、微生物の増殖が抑制されている上記飲料に関する。微生物は、好ましくは酵母及び/又はカビであり、さらに好ましくは、Zygosaccharomyces属、Saccharomyces属、Brettanomyces属、Neosartorya属のうちのいずれか一種以上である。また、本発明は、式1~6で表される化合物又はその塩を含有しない以外は同じ組成である飲料に比べて、Alicyclobacillus属の微生物の増殖が抑制されている上記飲料に関する。本発明は、式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を添加することを含む、飲料の製造方法に関する。また、本発明は、式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を合計で0.1~250ppmの濃度で添加することを含む、飲料の製造方法に関する。式1~6で表される化合物はいずれも天然物から得られた化合物であるが、これらの化合物を実際に飲料製品に添加し、微生物の増殖抑制効果と飲料の商品価値とを確認した例は、本発明者らが知る限り、これまでに報告されていない。
【発明の効果】
【0008】
[0008]本発明の飲料は、式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を含有することにより、飲料中での微生物の増殖が抑制され、高い保存性を有する。式1~6で表される化合物はいずれも天然物を由来とする化合物である。式1~6で表される化合物のいずれか一種以上を含有する本発明の飲料は、安息香酸ナトリウムやソルビン酸カリウム等の合成保存料を使わなければいけなかった飲料において、これらの合成保存料を使用せずに、又はこれらの合成保存料の使用量を低減させて、微生物の増殖抑制効果を得ることができるという利点がある。合成保存料を使用する場合、合成保存料は通常、飲料に200~400ppm程度添加されるが、式1~6で表される化合物又はその塩は、合成保存料と同程度か又はそれより低い濃度においても微生物の増殖抑制効果を有する。式1~6で表される化合物又はその塩のうちの一種を飲料に添加してもよいし、それらの2種以上を組み合わせて飲料に添加してもよい。飲料の種類や風味に応じて、使用する化合物を選択すればよい。
【0009】
[0009]式1~6で表される化合物は、飲料に添加した際に、飲料の商品価値(例えば、外観安定性、色、味)を低減させないという利点を有する。キトサンは、例えば、天然物由来の抗菌性物質として知られているが、キトサンは飲料の種類によっては経時で濁りが生じやすい(すなわち、キトサンはやや低い外観安定性を有する)。式1~6の化合物は、抗菌効果が得られる濃度で用いた際、同濃度のキトサンを用いた場合と同程度またはそれよりも高い外観安定性を示す場合がある。また、式1~6の化合物は、抗菌効果が得られる濃度で用いた際に、飲料の本来の色に影響しにくく(着色性が少なく)、また、味にも影響しにくい傾向がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0010]本発明は、式1~6で表される化合物又はその塩のいずれか一種以上を含む飲料に関する。以下、式1で表される化合物を「化合物1」、式2で表される化合物を「化合物2」というように略称する。化合物1~6は、いずれも天然物から得られた化合物である。
【0011】
[0011]化合物1(CAS No.867578-35-6)、化合物2(CAS No.1427039-33-5)、及び化合物3(CAS No.1427028-86-1)は、それぞれ以下の式1~3を有する化合物であり、トウモロコシなどにつくカビの一種であるUstilago maydisの培養液から抽出された化合物である。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
[0012]化合物4(C51H82O21)(CAS No.68124-04-9)は、以下の式4を有する化合物であり、メキシコヤム芋(Dioscorea mexicana)の根から抽出された化合物である。
【0016】
【0017】
[0013]化合物5(C46H74O16)(CAS No.30994-75-3)は、以下の式5を有する化合物であり、Securinega leucopyrusの葉から抽出された化合物である。
【0018】
【0019】
[0014]化合物6(CAS No.168778-19-6)は、以下の式6を有する化合物であり、アガベ・アメリカーナ(Agave americana)の根から抽出された化合物である。
【0020】
【0021】
[0015]化合物1~6は、上述した微生物の培養液または植物から、抽出及び精製することにより得ることができる。また、それぞれの化合物の市販品を用いて本発明の飲料に含有させてもよい。あるいは、任意の方法で合成により各化合物を得てもよい。
【0022】
「0016]化合物1~6は、飲料中で任意の塩の形態であってもよい。
[0017](飲料)
本発明の飲料は、上記の化合物1~6又はその塩のうちのいずれか1種以上を含有する。飲料の種類や目的とする微生物増殖抑制の効果の程度に応じて、また、飲料の風味への影響を考慮して、化合物1~6又はその塩のうちの1種を用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
[0018]飲料中での各化合物の使用量は、その飲料において微生物の増殖抑制効果が得られる量であればよく、特に限定されない。例えば、下限値としては、化合物1~6又はその塩の合計の濃度として、0.1ppm以上が好ましく、0.5ppm以上がさらに好ましく、1.0ppm以上がさらに好ましく、10ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上がさらに好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。飲料の風味や外観への影響を最小限とするためには、飲料中での化合物1~6の使用量を所望の効果が得られる範囲内でできるだけ少なく設定することは好ましい。例えば、上限値としては、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がさらに好ましく、250ppm以下がさらに好ましく、125ppm以下がさらに好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。
【0024】
[0019]後述する通り、本発明の飲料は、ready-to-drink飲料であってもよいし、希釈して飲用するための濃縮飲料であってもよい。濃縮飲料である場合は、保管時の濃縮された状態での微生物増殖抑制効果を得るために、濃縮飲料において上記の含有量を満たす化合物1~6又はその塩を用いてもよい。あるいは、濃縮飲料を希釈した状態での保管時の微生物増殖抑制効果を得るために、濃縮飲料の所定の希釈度に応じて、希釈された状態で上記の含有量を満たすように、濃縮飲料において上記の含有量に飲料の所定の希釈度を乗じた量の化合物1~6又はその塩を含有させてもよい。
【0025】
[0020]従来の安息香酸ナトリウムやソルビン酸カリウムといった合成保存料は、飲料中で通常200~400ppm程度の濃度で用いられる。化合物1~6又はその塩は、飲料中で、従来の合成保存料の濃度と同程度か又はそれよりも低い濃度において微生物の増殖抑制効果を達成する場合がある。また、化合物1~6は、天然物由来の抗菌物質として知られているキトサンに比べて、同程度か又はそれよりも低い濃度において微生物の増殖抑制効果を示し、また、化合物1~6は、外観安定性などの飲料製品の商品価値を損ねにくい。
【0026】
[0021]飲料中の各化合物の含有量の測定方法は、特に限定されない。例えば、各化合物の標品を準備し、HPLC等を用いて、飲料の種類に応じて条件を設定して含有量を測定することができる。
【0027】
[0022]化合物1~6又はその塩の1種以上を含有させる飲料の種類は特に限定されない。例えば、炭酸飲料、果汁飲料、野菜汁飲料、コーヒー飲料、茶飲料、ココア飲料、ゼリー飲料、乳性飲料、プロバイオティクス飲料、豆乳、エナジードリンク、スポーツ飲料、アルコール飲料、希釈して飲用される濃縮飲料を例示することができる。中でも、pHが2~5(好ましくはpH2.5~4.5)である酸性飲料は、合成保存料が頻繁に用いられてきた飲料であるため、化合物1~6又はその塩の1種以上を含有させる飲料として好ましい。酸性飲料としては、例えば、炭酸飲料、果汁飲料、野菜汁飲料、プロバイオティクス飲料、エナジードリンク、スポーツ飲料が挙げられる。飲料は、ready-to-drink飲料であってもよいし、希釈して飲用するための濃縮飲料であってもよい。果汁の種類は特に限定されず、例えば、柑橘果実の果汁(レモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジ、マンダリンオレンジ、温州ミカン、タンゴール、なつみかん、甘夏、はっさく、ひゅうがなつ、シークヮーサー、すだち、ゆず、かぼす、だいだい、いよかん、ぽんかん、きんかん、さんぼうかん、オロブランコ、ぶんたん)、カシス果汁、リンゴ果汁、ブドウ果汁、モモ果汁、熱帯果実の果汁(パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ライチ等)、ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、ベリー果汁、キウイフルーツ果汁、サクランンボ果汁、クリ果汁、スイカ果汁、トマト果汁、ニンジン果汁、イチゴ果汁、メロン果汁が挙げられる。
【0028】
[0023]本発明の飲料は好ましくは、従来、飲料に用いられてきた合成保存料の全部または一部の代わりに、化合物1~6又はその塩のいずれか一種以上を用いた飲料である。化合物1~6又はその塩は、好ましくは、飲料の通常の成分とは別に、飲料における微生物増殖抑制効果を高める目的で意図的に添加される。
【0029】
[0024]通常、飲料は多様な組成を有するものであるから、培地で培養した微生物に対する増殖抑制効果が一般に知られている物質であっても、必ずしも、飲料内において同等の効果を発揮するとは限らない。例えば、飲料に溶解しにくい物質や、飲料中の他の成分と反応する物質などは、培地中の微生物に対して効果があったとしても、飲料中で微生物の増殖を抑制できるとは限らない。また、例えば果汁等に含まれるペクチンや多糖類などは、共存する化合物を包摂するなどして抗菌効果を減ずる可能性がある。これに対し、後述する本願の実施例では、既存の炭酸飲料及び果汁飲料を用いて、化合物1~6の各種微生物に対する増殖抑制効果を実際に確認した。
【0030】
[0025]本発明の飲料は、微生物を添加して室温で2週間保管した後に、化合物1~6又はその塩を含有しない以外は同じ組成である飲料(比較の飲料)に比べて、微生物の増殖が抑制されている飲料である。ここで、微生物は、飲料の変敗と腐敗の原因となるような微生物であり、酵母やカビが例示される。変敗と腐敗の原因となる酵母やカビの典型的な例として、Zygosaccharomyces属、Saccharomyces属、またはBrettanomyces属の酵母や、Neosartorya属のカビなどが挙げられる。本発明の飲料は、好ましくは、上記の比較の飲料に比べて、これらの微生物のうちの一種以上の増殖が抑制されたものである。また、飲料の変敗や腐敗の原因となる微生物としては、強酸性域において高い耐熱性を有する好熱性好酸性菌(例えばAlicyclobacillus属)が知られている。好ましくは、本発明の飲料は、上記の比較の飲料に比べて、好熱性好酸性菌の増殖が抑制されたものである。
【0031】
[0026]比較の飲料に比べて「微生物の増殖が抑制されている」とは、上記のような飲料を変敗および腐敗させるような微生物の増殖が、上記の比較の飲料に対して少ないことを意味する。微生物を添加して室温で2週間保管した際に、比較の飲料に対して微生物の増殖が少ないことは、飲料中に化合物1~6又はその塩が存在することにより、添加された微生物の増殖が抑制されたことを示す。なお、「微生物を添加して室温で2週間保管」の手順は、本発明の飲料における微生物の増殖性を試験する目的で行われるもの(微生物増殖性確認試験)である。当然ながら、通常の製品として出荷する飲料に対してはこのような微生物の添加を行うものではない。微生物増殖性確認試験における微生物の添加量は、酵母である場合にはおよそ10000cfu/mlであり、カビである場合にはおよそ15~70cfu/mlである。室温とは、10~30℃、好ましくは25~28℃程度である。微生物の種類によっては、室温以外の温度を試験に用いることが望ましい場合もある。微生物増殖性試験の具体的な方法の例としては、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。
【0032】
[0027]本発明の飲料は、好ましくは、微生物を添加して室温で2週間保管した際に、微生物の増殖が非常に少ないため、変敗または腐敗が見られない飲料である。本発明の飲料は、さらに好ましくは、上記のような条件下で微生物が増殖しない飲料である。
【0033】
[0028]本発明の飲料はまた、好ましくは、飲料の商品価値が損なわれない程度の外観安定性を有する。外観安定性とは、飲料の外観が経時で変化しにくいことをいう。例えば、開栓した飲料を室温で2週間程度保存した際の飲料の外観の変化が少ないことをいう。本発明の飲料はまた、好ましくは、化合物1~6又はその塩を含有しながらも、飲料の本来の色や味(化合物1~6又はその塩を含有しない以外は同じ組成である飲料の色や味)からの変化が少ない。
【0034】
[0029](製造方法)
本発明は、化合物1~6又はその塩のいずれか一種以上を添加することを含む、飲料の製造方法も提供する。本発明の方法は、飲料の通常の製造工程中に、化合物1~6又はその塩のいずれか一種以上を添加する工程を含む。各化合物の添加タイミングは特に限定されず、飲料の製造工程のいずれの段階において添加してもよい。例えば、飲料の通常の材料の添加及び混合時に、化合物1~6又はその塩を添加及び混合してもよいし、通常の材料を混合した後に、化合物1~6又はその塩を添加及び混合してもよい。添加する化合物1~6又はその塩は、上述した天然物(植物または微生物の培養液)から抽出及び精製することにより得たものであることが好ましい。あるいは、それぞれの化合物の市販品を用いてもよい。また、それぞれの化合物は、任意の方法で合成により得たものであってもよい。添加する化合物1~6又はその塩は、粉末状などの固体の形状であってもよいし、あるいは溶媒に溶解または懸濁させた液体状であってもよい。また、各化合物の添加方法も特に限定されず、飲料の通常の製造における材料の添加及び混合方法を用いればよい。
【0035】
[0030]化合物1~6又はその塩の添加量は、製造する飲料において微生物の増殖抑制効果が得られる量であればよく、特に限定されない。例えば、下限値としては、化合物1~6又はその塩の合計の濃度として、0.1ppm以上が好ましく、0.5ppm以上がさらに好ましく、1.0ppm以上がさらに好ましく、10ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上がさらに好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。また、上述したように、上限値としては、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がさらに好ましく、250ppm以下がさらに好ましく、125ppm以下がさらに好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。
【0036】
[0031]飲料の種類は特に限定されない。飲料の例は上述した通りである。上述した通り、上記の含有量は、ready-to-drink飲料であるか又は濃縮飲料であるかに応じて、また、濃縮飲料である場合、濃縮状態での微生物増殖抑制効果を意図するか又は希釈した状態での微生物増殖抑制効果を意図するかに応じて、調整してもよい。
【実施例】
【0037】
[0032]以下、実験例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0038】
[0033](酵母増殖性試験1)
市販のレモン果汁1%入り炭酸飲料(糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)、レモン果汁、炭酸、香料、ビタミンC、酸味料、ベニバナ色素、パントテン酸カルシウム、ビタミンB6、カロチン色素含有)及び市販のオレンジ果汁12%入り炭酸飲料(果実(オレンジ、レモン、マンダリンオレンジ、グレープフルーツ)、糖類(砂糖、果糖ぶどう糖液糖)、果実繊維、オレンジピールエキス、炭酸、香料、酸化防止剤(ビタミンC)含有)を用い、化合物1~6及び比較としてのキトサンの各飲料中での各種酵母に対する増殖抑制効果を確認した。具体的な手順は以下の通りである。
【0039】
[0034]上記の各飲料を開栓し、炭酸飲料は炭酸ガスが抜けるまで放置した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて飲料のpHを3.3に調整した。化合物1~6のそれぞれをジメチルスルホキシド(DMSO)中に20mg/mLの濃度となるように溶解し、得られた各化合物の溶液を、飲料中に各化合物の濃度が260.3ppmとなるように添加した。比較として、キトサン20mg/mL及びアスコルビン酸20mg/mLを含む水溶液を飲料中のキトサンの濃度が260.3ppmとなるように飲料に添加したものを用意した。96ウェルマイクロプレートを用意し、前記の化合物1~6のぞれぞれを添加した飲料と前記キトサンを添加した飲料とのそれぞれを、1ウェルにつき240μLずつ分注した。
【0040】
[0035]3種類の酵母(Zygosaccharomyces sp.、Saccharomyces sp.、Brettanomyces sp.)のそれぞれ10000cfu/mLの菌液を用意した。
【0041】
[0036]化合物1~6又はキトサンを含有する飲料を添加した3つのウェルに対し、各酵母の菌液をそれぞれ1ウェルにつき10μLずつ添加した(すなわち、1化合物1酵母につき3ウェルの試験区を用意した)。また、ブランクとして、化合物1~6又はキトサンを含有する飲料を添加したウェルのうち3ウェルに生理食塩水を10μLずつ添加した。これにより各ウェルにおける化合物1~6及びキトサンの終濃度は250ppmとなる。また、化合物無添加区として、化合物1~6もキトサンも添加していない飲料240μLに、各酵母の菌液をそれぞれ10μLずつ添加した区も用意した。
【0042】
[0037]上記の通り準備したマイクロプレートを28℃で2週間保管した。保管後、化合物無添加区において酵母が増殖していることを確認した上で、各化合物を添加した飲料において、ブランクと比較し、酵母の増殖を目視で確認した。具体的には、酵母による沈殿の有無を目視で確認し、沈殿が確認できたものは増殖性ありとした。各化合物及び各酵母について、3ウェルのうち酵母が増殖したウェルの数を表1に示す。
【0043】
【0044】
[0038]表1の結果より、化合物1~6は抗菌性が既知であるキトサンと同様に、酵母の増殖を抑制する効果を示すことがわかる。
[0039](酵母増殖性試験2)
化合物1~3を用い、各ウェルにおける各化合物の終濃度を表2に記載の濃度とした以外は酵母増殖性試験1と同様にして、酵母の増殖を目視で確認した。各化合物及び各酵母について、3ウェルのうち酵母が増殖したウェルの数を表2に示す。
【0045】
【0046】
[0040]表2の結果より、化合物1~3は、飲料の種類によっては、より低い濃度で酵母の増殖を抑制する効果を示すことがわかる。
[0041](カビ増殖性試験1)
市販のリンゴ果汁20%入り飲料(りんご、糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)、酸味料、香料含有)及び市販のオレンジ果汁30%入り飲料(果実(オレンジ、マンダリンオレンジ)、糖類(果糖ぶどう糖液糖、砂糖)、酸味料、香料、ビタミンC含有)を用いた。各飲料中での、化合物1~6ならびに比較としてのキトサン及びソルビン酸カリウムのカビに対する増殖抑制効果を確認した。具体的な手順は以下の通りである。
【0047】
[0042]上記飲料を開栓し、水酸化ナトリウム水溶液を用いて飲料のpHを3.5となるように調整した。化合物1~6のそれぞれをDMSO中に20mg/mLの濃度となるように溶解し、得られた各化合物の溶液を、飲料中に各化合物の濃度が250ppmとなるように添加した。また、比較として、キトサン20mg/mL及びアスコルビン酸20mg/mLを含む水溶液を飲料中にキトサンの濃度が250ppmとなるように添加したものを用意した。同様に、比較として、飲料中のソルビン酸カリウムの濃度が250ppmとなるように添加したものも用意した。前記の化合物1~6のそれぞれを添加した飲料及び前記キトサン又はソルビン酸カリウムを添加した飲料のそれぞれを、容量15mLの遠沈管に3mLずつ分注した。
【0048】
[0043]各遠沈管に、カビ(Neosartorya sp.)の胞子懸濁液を、それぞれ50~200cfu/本となるように添加した。
[0044]上記とは別に、胞子懸濁液を添加しないブランクを用意した。また、化合物無添加区として、化合物1~6もキトサンもソルビン酸カリウムも添加していない飲料3mLに対し、カビの胞子懸濁液をそれぞれ50~200cfu/本となるように添加した区も用意した。
【0049】
[0045]上記の通り準備した各遠沈管を28℃で8週間保管した。保管後、化合物無添加区においてカビの菌糸の伸長がみられることを確認した上で、各化合物を添加した飲料において、ブランクと比較し、カビの増殖を目視で確認した。具体的には、カビの菌糸の伸長の有無を目視で確認し、菌糸の伸長が確認できたものは増殖性あり(+)、菌糸が確認されないものを増殖性なし(-)とした。結果を表3に示す。
【0050】
【0051】
[0046]キトサンは、28℃で2週間経過した時点でカビの増殖が確認された。また、ソルビン酸カリウムは4週間経過した時点でカビの増殖が確認された。これに対し、化合物1~6は28℃で8週間経過した際にもカビの増殖が確認されなかった。この結果は、化合物1~6は抗菌性が既知であるキトサンや既存の合成抗菌剤であるソルビン酸カリウムに比べて、カビの増殖抑制効果が高いことを示す。
【0052】
[0047](カビ増殖性試験2)
各飲料に添加する濃度を表4に記載の濃度とした以外はカビ増殖性試験1と同様にして、28℃で8週間経過した際のカビの増殖を目視で確認した。結果を表4に示す。
【0053】
【0054】
[0048]表4の結果は、飲料の種類によっては、化合物1~6は、より低い濃度で用いられた場合であっても、カビの増殖を抑制する効果を有することを示す。
[0049](好熱性好酸性菌増殖性試験)
市販のぶどう果汁入り飲料(果汁(ぶどう、レモン)、糖類(果糖、砂糖)、食塩、レモンエキス、シークワーサーエキス、うんしゅうみかんエキス、ゆずピール、ドライトマトエキス、香料、乳酸、塩化カリウム、酸化防止剤(ビタミンC)含有)を用い、化合物1~6及び比較としての安息香酸ナトリウムの飲料中での好熱性好酸性菌に対する増殖抑制効果を確認した。具体的な手順は以下の通りである。
【0055】
[0050]上記飲料を開栓し、水酸化ナトリウム水溶液を用いて飲料のpHを3.3に調整した。化合物1~6のそれぞれをDMSO中に溶解し、得られた各化合物の溶液を、飲料中に最終的に表5に記載の濃度となるように添加した。比較として、安息香酸ナトリウムを表5に記載の濃度となるように添加した飲料を用意した。前記の化合物1~6のそれぞれを添加した飲料及び前記安息香酸ナトリウムを添加した飲料を、試験管に3mLずつ分注した。
【0056】
[0051]好熱性好酸性菌(Alicyclobacillus acidocaldarius)の400000cfu/mLの菌液を用意した。
[0052]化合物1~6又は安息香酸ナトリウムを含有する飲料を添加した試験管に対し、菌液を1試験管につき10μLずつ添加した。また、化合物無添加区として、化合物1~6も安息香酸ナトリウムも添加していないものに菌液を添加した区も用意した。
【0057】
上記の通り準備した各試験管を45℃で2週間保管した。保管後、各試験管から100μLずつ飲料を抜き取り、YSGA培地に塗抹した後、55℃で3日間培養した。培養後、培地上のコロニーの数を計測した。コロニーの数をもとに菌数を計算した。植菌数と比べて菌数が10倍以上に増加したものを増殖あり(+)、植菌数からの菌数の増加が10倍未満だったものを増殖なし(-)とした。結果を表5に示す。
【0058】
【0059】
表5に示される通り、少なくとも化合物1~3及び5は、好熱性好酸性菌に対して増殖抑制効果を示すことがわかった。これらの化合物の好熱性好酸性菌に対する増殖抑制効果は、既存の合成抗菌剤である安息香酸ナトリウムよりも高いものである。
【0060】
[0054](外観安定性試験1)
酵母増殖性試験1で用いた2種類の市販の飲料及びカビ増殖性試験1で用いた2種類の市販の飲料を用い、化合物1~6及び比較としてのキトサンの外観安定性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0061】
[0055]上記の各飲料を開栓した。レモン炭酸飲料とオレンジ炭酸飲料は炭酸ガスが抜けるまで放置した後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて飲料のpHを3.3に調整した。化合物1~6のそれぞれをDMSO中に20mg/mLの濃度で溶解し、得られた各化合物の溶液を、飲料中に各化合物の濃度が250ppmとなるように添加した。比較として、キトサン20mg/mL及びアスコルビン酸20mg/mLを含む水溶液を飲料中のキトサンの濃度が250ppmとなるように添加した飲料を用意した。前記の化合物1~6を添加した飲料及び前記キトサンを添加した飲料のそれぞれを、96ウェルマイクロプレートに240μLずつ分注した。リンゴ果汁飲料とオレンジ果汁飲料は、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを3.5に調整した。炭酸飲料の場合と同様に、それぞれの飲料に飲料中の各化合物の濃度が250ppmとなるように化合物1~6のそれぞれを添加した。比較として、250ppmのキトサンを含有する飲料を用意した。前記の化合物1~6を添加した飲料及び前記キトサンを添加した飲料のそれぞれを、容量15mLの遠沈管に3mLずつ分注した。
【0062】
[0056]上記とは別に、化合物1~6もキトサンも添加していない飲料を化合物無添加区として用意した。
[0057]上記の通り準備したマイクロプレートを28℃で2週間、遠沈管を28℃で8週間保管した。保管後、化合物1~6又はキトサンを添加した飲料の外観を、化合物無添加区の飲料の外観と比較して以下の基準で点数を付けた。
0点:化合物無添加区と比較して外観に差がない
1点:化合物無添加区と比較して外観に少し違いがある
2点:化合物無添加区と比較して外観に違いがある
3点:化合物無添加区と比較して外観に著しく違いがあり飲料製品としての商品価値がない
[0058]上記基準において、0~2点は飲料製品に必要な品質を有する(飲料商品価値がある)ことを意味し、3点は飲料製品に必要な品質がない(飲料商品価値がない)ことを意味する。結果を表6に示す。
【0063】
【0064】
[0059]表6の結果は、化合物1~6は、飲料の種類によっては、250ppmの濃度で用いた場合でも、飲料の商品価値を損ねない外観安定性を保持することを示す。
[0060](外観安定性試験2)
化合物1~3と、レモン炭酸飲料及びオレンジ炭酸飲料を用い、各飲料における各化合物の終濃度を表7に記載の濃度とした以外は外観安定性試験1と同様にして、飲料の外観を評価した。結果を表7に示す。
【0065】
【0066】
[0061]表2に示されるように、化合物1~3は31ppmの濃度でレモン炭酸飲料に対して酵母の増殖抑制効果を示す。表7の結果は、化合物1~3は、そのような濃度でレモン炭酸飲料に用いた場合、飲料の商品価値を損ねない外観安定性を保持することを示す。
【0067】
[0062]また、表1及び表2に示されるように、化合物1~3は31ppmの濃度で、また化合物2は250ppmの濃度でオレンジ炭酸飲料に対して酵母の増殖抑制効果を示す。表6及び表7の結果は、化合物1~3は、そのような濃度でオレンジ炭酸飲料に用いた場合、飲料の商品価値を損ねない外観安定性を保持することを示す。
【0068】
[0063](外観安定性試験3)
化合物1~3と、リンゴ飲料及びオレンジ飲料を用い、各飲料における各化合物の終濃度を表8に記載の濃度とした以外は外観安定性試験1と同様にして、飲料の外観を評価した。結果を表8に示す。
【0069】
【0070】
表4に示されるように、化合物1~3はリンゴ飲料及びオレンジ飲料に対して31ppmの濃度でカビの増殖抑制効果を示す。表8の結果は、化合物1~3は、そのような濃度でリンゴ飲料及びオレンジ飲料に用いた場合、飲料の商品価値を損ねない外観安定性を保持することを意味する。
【国際調査報告】