(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-09-29
(54)【発明の名称】皮膚損傷外用薬の調製における絹フィブロイン融合タンパク質の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/18 20060101AFI20250919BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20250919BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250919BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20250919BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20250919BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20250919BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20250919BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20250919BHJP
【FI】
A61K38/18
A61K38/17
A61P17/00
A61P17/02
A61L27/22
A61K47/64
C07K14/435 ZNA
C07K19/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024559937
(86)(22)【出願日】2024-03-20
(85)【翻訳文提出日】2024-10-09
(86)【国際出願番号】 CN2024082568
(87)【国際公開番号】W WO2025044167
(87)【国際公開日】2025-03-06
(31)【優先権主張番号】202311095532.3
(32)【優先日】2023-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511128206
【氏名又は名称】南通大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】劉 炎
(72)【発明者】
【氏名】厳 瑩瑩
(72)【発明者】
【氏名】劉 梅
(72)【発明者】
【氏名】管 徒晨
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁松
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076CC18
4C076CC41
4C076EE59
4C081AA12
4C081CD27
4C081CD33
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA49
4C084DB52
4C084NA14
4C084ZA891
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA51
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA01
(57)【要約】
【課題】皮膚損傷外用薬の調製における絹フィブロイン融合タンパク質の使用を提供することを課題とする。
【解決手段】前記絹フィブロイン融合タンパク質は、柔軟なリンカー鎖を介して神経栄養因子NT-3と結合させた絹フィブロイン軽鎖からなり、絹フィブロインと自己組織化して、安定作用を長時間発揮して皮膚損傷を修復できる新型材料を形成し、この材料は炎症を抑制し、III型コラーゲンの沈着を促進し、毛包再生を促進し、瘢痕なき創傷治癒を可能にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚損傷外用薬の調製における絹フィブロイン融合タンパク質の使用であって、前記絹フィブロイン融合タンパク質は、
MHHHHHHAPSVTINQYSDNEIPRDIDDGKASSVISRAWDYVDDTDKSIAILNVQEILKDMASQGDYASQASAVAQTAGIIAHLSAGIPGDACAAANVINSYTDGVRSGNFAGFRQSLGPFFGHVGQNLNLINQLVINPGQLRYSVGPALGCAGGGRIYDFEAAWDAILASSDSSFLNEEYCIVKRLYNSRNSQSNNIAAYITAHLLPPVAQVFHQSAGSITDLLRGVGNGNDATGLVANAQRYIAQAASQVHVGGGGSGGGGSYAEHKSHRGEYSVCDSESLWVTDKSSAIDIRGHQVTVLGEIKTGNSPVKQYFYETRCKEARPVKNGCRGIDDKHWNSQCKTSQTYVRALTSENNKLVGWRWIRIDTSCVCALSRKIGRTで表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記皮膚損傷外用薬は、再生絹フィブロインをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記再生絹フィブロインの調製方法は、
蚕糸を0.5% NaHCO
3溶液に取り、煮沸してセリシンを除去する工程1、及び
セリシンが除去された蚕糸繊維を水洗した後、CaCl
2、H
2O及びC
2H
5OHの混合溶液(モル比1:8:2)に溶解させ、その後蒸留水で透析(透析バッグの分子量カットオフ:12000~14000Da)し、凍結乾燥した後で再生絹フィブロインを得る工程2
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
外用製剤であって、絹フィブロイン融合タンパク質及び再生絹フィブロインを含み、前記絹フィブロイン融合タンパク質は、
MHHHHHHAPSVTINQYSDNEIPRDIDDGKASSVISRAWDYVDDTDKSIAILNVQEILKDMASQGDYASQASAVAQTAGIIAHLSAGIPGDACAAANVINSYTDGVRSGNFAGFRQSLGPFFGHVGQNLNLINQLVINPGQLRYSVGPALGCAGGGRIYDFEAAWDAILASSDSSFLNEEYCIVKRLYNSRNSQSNNIAAYITAHLLPPVAQVFHQSAGSITDLLRGVGNGNDATGLVANAQRYIAQAASQVHVGGGGSGGGGSYAEHKSHRGEYSVCDSESLWVTDKSSAIDIRGHQVTVLGEIKTGNSPVKQYFYETRCKEARPVKNGCRGIDDKHWNSQCKTSQTYVRALTSENNKLVGWRWIRIDTSCVCALSRKIGRTで表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、外用製剤。
【請求項5】
前記絹フィブロイン融合タンパク質は、再生絹フィブロインとの自己組織化により再生絹フィブロイン上に固定されることを特徴とする、請求項4に記載の外用製剤。
【請求項6】
瘢痕なき皮膚創傷治癒促進剤の調製における請求項4に記載の外用製剤の使用。
【請求項7】
皮膚創傷炎症抑制剤の調製における請求項4に記載の外用製剤の使用。
【請求項8】
毛包再生促進剤の調製における請求項4に記載の外用製剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学材料分野に関し、特に、NT3活性を有する絹フィブロイン融合タンパク質及び皮膚損傷修復における絹フィブロイン融合タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学、生体材料学などの新興分野の発展に伴い、益々多くの生体材料が皮膚損傷に使用されている。皮膚損傷の修復に適した生体材料は、創傷治癒を促進し、瘢痕形成を軽減する必要がある。現在、ヒドロゲル、無機複合微小球、及び機能性ナノファイバー膜を含む多くの創傷被覆材が創傷治癒への使用に設計されている。しかし、創傷治癒は非常に時間がかかり、痛み及びさらなる損傷を引き起こす可能性があり、創部の痛みを軽減し、創傷治癒過程を短縮するには、革新的な生物活性材料を設計する必要がある。キトサン、コラーゲン、ゼラチン、絹フィブロインなどの天然生体材料は、細胞外マトリックスに似た構造を持ち、細胞毒性が低く、細胞適合性に優れているだけでなく、抗原性も低い。天然生体材料は、細胞の増殖、遊走及び分化の誘導に有益であり、また細胞表面受容体に対する特異的な認識部位を持っているため、免疫拒絶を起こす可能性が低くなる。絹フィブロインは、生物医学用途において優れた生体適合性を有する不溶性の生体タンパク質であり、ヒトの医用生体材料として米国食品医薬品局(FDA)により承認されている。現在、絹フィブロインは、その生体適合性及び遅い生分解性により、組織工学のステントに広く使用されている。また、絹フィブロインはコラーゲンの再構成を促進することにより、創傷治癒を促進させることもできる。
【0003】
神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、及び神経栄養因子-3(NT-3)を含む神経成長因子ファミリーは、心血管の発達において重要な役割を果たすことが証明されている。文献には、NT-3の筋肉内注射が虚血肢の筋肉における血管新生を著しく促進できるという報告がある。血管新生は、創傷治癒を促進するための重要なプロセスである。
【0004】
しかしながら、NT-3は、損傷部位で急速に拡散するため、NT-3を適切な濃度に維持する効果的な方法を見つけることが重要である。また体内の栄養因子の不安定性と限られる供給源により、栄養因子の使用は大きく制限されている。NT-3に関する研究の多くは、神経軸索の再生に対する影響、脊髄損傷又は坐骨損傷の回復促進に焦点を当てているが、皮膚損傷については滅多に報告されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、柔軟なリンカー鎖を介して神経栄養因子NT-3を絹フィブロイン軽鎖と結合させて組換えタンパク質を形成し、この組換えタンパク質が絹フィブロインと自己組織化して、安定作用を長時間発揮して皮膚損傷を修復できる新型材料を形成し、この材料が炎症を抑制し、III型コラーゲンの沈着を促進し、毛包再生を促進し、瘢痕なき創傷治癒を可能にする、絹フィブロイン融合タンパク質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段、すなわち、
絹フィブロイン融合タンパク質であって、
MHHHHHHAPSVTINQYSDNEIPRDIDDGKASSVISRAWDYVDDTDKSIAILNVQEILKDMASQGDYASQASAVAQTAGIIAHLSAGIPGDACAAANVINSYTDGVRSGNFAGFRQSLGPFFGHVGQNLNLINQLVINPGQLRYSVGPALGCAGGGRIYDFEAAWDAILASSDSSFLNEEYCIVKRLYNSRNSQSNNIAAYITAHLLPPVAQVFHQSAGSITDLLRGVGNGNDATGLVANAQRYIAQAASQVHVGGGGSGGGGSYAEHKSHRGEYSVCDSESLWVTDKSSAIDIRGHQVTVLGEIKTGNSPVKQYFYETRCKEARPVKNGCRGIDDKHWNSQCKTSQTYVRALTSENNKLVGWRWIRIDTSCVCALSRKIGRTで表されるアミノ酸配列からなる絹フィブロイン融合タンパク質を採用する。
【0007】
本発明において、上記タンパク質の調製方法は、
(1)組換え発現ベクターの構築:絹フィブロイン軽鎖及びNT-3を含む遺伝子断片を合成し、pET-30発現ベクターに連結し、組換え発現ベクターの構築を完了する工程、及び
(2)組換えタンパク質の発現及び精製:工程(1)で得られた組換え発現ベクターをBL21大腸菌に形質転換し、小さな試験管内で37℃にて発現を誘導して同定し、次に発現を増幅して細胞を収集し、超音波にて細胞を破砕し、Ni-NTAを使用して組換えタンパク質を精製して同定と検出する工程を含む。
【0008】
外用薬の調製における上記絹フィブロイン融合タンパク質の使用。
【0009】
また、前記外用薬は、再生絹フィブロインをさらに含む。
【0010】
本発明において、前記再生絹フィブロインの調製方法は、
蚕糸を0.5% NaHCO3溶液に取り、煮沸してセリシンを除去する工程1、及び
セリシンが除去された蚕糸繊維を水洗した後、CaCl2、H2O及びC2H5OHの混合溶液(モル比1:8:2)に溶解させ、その後蒸留水で透析(透析バッグの分子量カットオフ:12000~14000Da)し、凍結乾燥した後で再生絹フィブロインを得る工程2を含む。
【0011】
上記絹フィブロイン融合タンパク質及び再生絹フィブロインを含む、外用製剤。
【0012】
また、前記外用製剤において、絹フィブロイン融合タンパク質は、再生絹フィブロインとの自己組織化により再生絹フィブロイン上に固定される。
【0013】
また、前記外用製剤において、再生絹フィブロインと絹フィブロイン融合タンパク質との配合比は、0.2g/mLの再生絹フィブロイン溶液1mLに対し、100μg/mLの絹フィブロイン融合タンパク質溶液2μLを加える。
【0014】
瘢痕なき皮膚創傷治癒促進剤の調製における上記外用製剤の使用。
【0015】
皮膚創傷炎症抑制剤の調製における上記外用製剤の使用。
【0016】
毛包再生促進剤の調製における上記外用製剤の使用。
【0017】
本発明の前記絹フィブロイン融合タンパク質及び再生絹フィブロインは、溶液にしてそのまま塗るか、又は皮膚損傷によく使用される被覆材と混合して皮膚損傷を治療することができ、また混合溶液を4℃の冷蔵庫で乾燥させて成膜してNT-3活性を有する絹フィブロイン膜を得、その後創傷治療用のガーゼ或いは絆創膏に加工することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明で使用される主な材料は、絹フィブロイン、及びNT-3を融合した絹フィブロイン軽鎖で、調製過程では架橋剤、界面活性剤などの毒性物質、副作用物質が加えられないため、良好な生体適合性を有する。
【0019】
本発明により提供される皮膚損傷修復材料は、NT-3を融合した絹フィブロイン軽鎖を導入し、軽鎖のジスルフィド結合を保持し、NT3と軽鎖との間に柔軟なリンカー鎖を付加する。絹フィブロイン溶液中では絹フィブロインは自己組織化され、NT-3はジスルフィド結合を保持する絹フィブロイン軽鎖とともに絹フィブロインに固定され、且つFIBL-Linker-NT3の柔軟な鎖は、NT3と他のNT3を異なる方向に結合することに役立つ。
【0020】
皮膚損傷の修復過程において、創傷回復状態の観察、絹フィブロイン及びNT-3を融合した絹フィブロイン軽鎖の処理を経た後、創傷回復を顕著に促進し、創部の炎症を抑制し、III型コラーゲン沈着を促進し、血管面積、上皮の長さ及び再生する毛包の数を増加させ、瘢痕なき皮膚創傷治癒を促進する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】組換えタンパク質FIBL-Linker-NT3の模式図及びWestern blot検証結果を示す図である。
【
図2】左図は絹フィブロイン(SF)及び絹フィブロイン重鎖(SFH)の銀染色の結果を示す図で、右図がSFH-FIBL-Linker-NT3のWestern blotの結果を示す図である。
【
図3】実施例2における組換えタンパク質がマウスの皮膚損傷の回復を促進する実験結果を示す図である。
【
図4】実施例3におけるマウスの皮膚創傷の炎症の実験結果を示す図である。
【
図5】実施例4におけるマウスの皮膚創傷のIII型コラーゲン沈着の実験結果を示す図である。
【
図6】実施例5におけるマウスの皮膚創傷の血管新生、再生上皮の長さ及び再生する毛包の数の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明する。以下の実施例は例示のみを目的とし、本発明の範囲を限定する意図で用いられるものではないことを理解されたい。当業者は、本発明の趣旨及び精神から逸脱することなく、本発明に様々な修正及び置換を加えることができる。
【0023】
下記実施例で使用した実験方法は、特に断らない限り従来の方法による。
【0024】
下記実施例で使用した材料、試薬等は、特に断らない限り、商業的に入手することができる。
【0025】
(実施例)
(実施例1)
一、FIBL-Linker-NT3組換えタンパク質の発現及び検証
(1)組換え発現ベクターを構築し、絹フィブロイン軽鎖及びNT3活性ペプチドのコドンを最適化し、途中に柔軟なリンカー鎖を加えて遺伝子を合成し、酵素消化・ライゲーションにより合成された遺伝子をベクターpET-30aに構築し、配列決定により組換え発現ベクターpET-FIBL-Linker-NT3の構築に成功したことを検証した。
【0026】
(2)組換えベクターをBL21大腸菌に形質転換して発現菌株を構築し、単一クローンを1mL LB液体培地に採取し、37℃、150rpmで一晩培養し、発現を同定して発現菌株を保存する。翌日、培養液を50mLに増量し、菌液のOD600が約1.0になるまで37℃のシェーカーで振盪し、最終濃度1mMのIPTGを加え、37℃で16時間発現誘導した。
【0027】
(3)遠心分離により細菌沈殿物を回収し、超音波破砕後、Ni-NTAを用いてHisタグ付き標的タンパク質を分離精製し、SDS-PAGE及びWestern blotにより標的タンパク質FIBL-Linker-NT3の発現を同定した。
【0028】
結果を
図1に示す。融合タンパク質FIBL-Linker-NT3の構築、発現が成功したことを示している。
【0029】
二、絹フィブロインは、FIBL-Linker-NT3と自己組織化できる
(1)絹フィブロイン0.1gを2mL、pH7.4のPBS(0.1M)に溶解させ、100μLDTT(1M)を加えて密栓し、4℃で6時間反応させた。溶液をセルロースチューブ(分子カットオフ値100kDa)に入れ、蒸留水に3日間浸漬した。脱イオン水を8~10時間程に1回交換した。セルロースチューブ内の絹フィブロイン重鎖(SFH)を回収し、元の絹フィブロインとともに銀染色により絹フィブロイン重鎖(SFH)の分離が成功したことを検証した。
【0030】
(2)100μLの絹フィブロイン重鎖SFH(7.5μg/μL)を9.9mL、pH7.4のPBS(0.1M)に加え、次に180μLの組換えタンパク質FIBL-Linker-NT3(100μg/mL)を加えて自己組織化させ、100kDaセルロースチューブに入れて3日間透析した。セルロースチューブ内のSFH-FIBL-Linker-NT3は、更なるWestern blot分析のために確保し、NT3抗体で検出したところ、自己組織化したSFH-FIBL-Linker-NT3の分子バンドが100kDa以上であることが分かり、自己組織化が成功したことを証明し、結果を
図2に示す。
【0031】
(実施例2)
<SF+FIBL-Linker-NT3組換えタンパク質溶液がマウスの皮膚損傷の回復を促進>
(1)ブランク群:8週齢の雄成体のマウスを南通大学実験動物センターから購入し、3%ペントバルビタールナトリウム溶液の腹腔内注射により麻酔した。滅菌パンチを使用して、各マウスの背中に直径10mmの円形の傷を作成した。pH7.4のPBS(0.1M)100μLを毎日滴下した。
【0032】
(2)桑蚕生糸50gを2Lの0.5% NaHCO3沸騰溶液に入れ、30分間煮沸した後、水を捨て、セリシンを除去し、三次蒸留水で3回洗い、合計3回繰り返し、クリーンベンチに入れて送風乾燥することで、外側のセリシンが除去された絹フィブロイン繊維を得た。
【0033】
(3)実験群1:得られた絹フィブロイン纖維20gをCaCl2/H2O/C2H5OH(モル比1:8:2)の三元共重合体溶媒系に溶解させ、その後、得られた絹フィブロイン溶液を三次蒸留水で透析し、透析バッグの分子量カットオフは12000~14000Daの範囲であった。4℃で3日間透析した後、凍結乾燥機上で凍結乾燥し、再生絹フィブロインを得た。再生絹フィブロイン0.2gを量り取り、1mL、pH7.4のPBS(0.1M)に溶解して、20%の絹フィブロイン溶液を得た。ブランク群の方法を参照してマウスの皮膚損傷モデルを得、100μLの絹フィブロイン溶液(SF)を毎日滴下した。
【0034】
(4)実験群2:20μLの組換えタンパク質FIBL-Linker-NT3(100μg/mL)を、1mL、pH7.4のPBS(0.1M)に加え、ブランク群の方法を参照してマウスの皮膚損傷モデルを得、100μLのFIBL-Linker-NT3組換えタンパク質溶液を毎日滴下した。
【0035】
(5)実験群3:再生絹フィブロイン0.2g及び組換えタンパク質FIBL-Linker-NT3(100μg/mL)2μLを量り取り、1mL、pH7.4のPBS(0.1M)に加え、ブランク群の方法を参照してマウスの皮膚損傷モデルを得、100μLのSF+FIBL-Linker-NT3組換えタンパク質溶液を毎日滴下した。
【0036】
(6)皮膚損傷後の0日目、5日目、10日目にマウスの背中の皮膚損傷を写真撮影して観察し、
図3に示すように、SF+FIBL-Linker-NT3はマウスの背中の皮膚損傷の回復に役立った。
【0037】
(実施例3)
<SF+FIBL-Linker-NT3組換えタンパク質薄膜がマウスの皮膚損傷の回復を促進>
(1)桑蚕生糸50gを2Lの0.5% NaHCO3沸騰溶液に入れ、30分間煮沸した後、水を捨て、セリシンを除去し、三次蒸留水で3回洗い、合計3回繰り返し、クリーンベンチに入れて送風乾燥することで、外側のセリシンが除去された絹フィブロイン繊維を得た。
【0038】
(2)対照群:得られた絹フィブロイン纖維20gをCaCl2/H2O/C2H5OH(モル比1:8:2)の三元共重合体溶媒系に溶解させ、その後、得られた絹フィブロイン溶液を三次蒸留水で透析し、透析バッグの分子量カットオフは12000~14000Daの範囲であった。4℃で3日間透析した後、凍結乾燥機上で凍結乾燥し、再生絹フィブロインを得た。再生絹フィブロイン0.2gを量り取り、1mL、pH7.4のPBS(0.1M)に溶解して、20%の絹フィブロイン溶液を得た。直径14mmの滅菌した小さな丸形スライドグラスを24ウェルプレートに置き、100μLの絹フィブロイン溶液を小さな丸形スライドグラスに滴下し、4℃の冷蔵庫に入れて一晩乾燥させて成膜させた。8週齢の雄成体のマウスを南通大学実験動物センターから購入し、3%ペントバルビタールナトリウム溶液の腹腔内注射により麻酔した。滅菌パンチを使用して、各マウスの背中に直径10mmの円形の傷を作成した。絹フィブロイン薄膜を創傷に覆い、ガーゼで包んだ。
【0039】
(3)実験群:再生絹フィブロイン0.2g及び組換えタンパク質FIBL-Linker-NT3(100μg/mL)2μLを量り取り、1mL、pH7.4のPBS(0.1M)に加え、マウスの皮膚損傷モデルを作製した後、SF+FIBL-Linker-NT3薄膜を創傷に覆い、ガーゼで包んだ。
【0040】
(4)皮膚損傷後の0日目、5日目、10日目にマウスの背中の皮膚損傷を写真撮影して観察し、結果はSF+FIBL-Linker-NT3薄膜は単一絹フィブロイン薄膜よりもマウスの背中の皮膚損傷後の回復に役立つことを示している。
【0041】
(実施例4)
<SF+FIBL-Linker-NT3はマウスの創傷炎症を軽減>
(1)実施例2を参照し、マウスの背中の皮膚損傷モデルを作製した。
【0042】
(2)皮膚損傷から5日後にマウスの背中の皮膚組織を採取し、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、24時間後に30%スクロースで脱水し、その後切片厚12μmで凍結切片を作製した。
【0043】
(3)切片作製後、免疫蛍光染色を行い、iNOSを用いて炎症細胞を標識し、蛍光顕微鏡で写真を撮って損傷部位の炎症状態を観察した。
【0044】
(4)結果を
図4に示す。SF群及びSF+FIBL-Linker-NT3群の炎症はPBS及びPBS+FIBL-Linker-NT3群よりも有意に軽減し、絹フィブロインが創部の炎症を抑制できることを示している。
【0045】
(実施例5)
<SF+FIBL-Linker-NT3群は、III型コラーゲン沈着を著しく促進>
(1)実施例2を参照し、マウスの背中の皮膚損傷モデルを作製した。
【0046】
(2)皮膚損傷から5日後にマウスの背中の皮膚組織を採取し、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、24時間後に30%スクロースで脱水し、その後切片厚12μmで凍結切片を作製した。
【0047】
(3)切片作製後、免疫蛍光染色を行い、Col3を用いてIII型コラーゲンを標識し、蛍光顕微鏡で写真を撮ってIII型コラーゲン沈着状態を観察した。
【0048】
(4)結果を
図5に示す。SF+FIBL-Linker-NT3群のIII型コラーゲン沈着は、他の3群よりも有意に多く、絹フィブロイン及びFIBL-Linker-NT3が存在するとき、III型コラーゲン沈着を著しく促進し、瘢痕形成を減らすことができることを示している。
【0049】
(実施例6)
<SF+FIBL-Linker-NT3群は、血管新生、再生上皮の長さ及び再生する毛包の数を著しく促進>
(1)実施例2を参照し、マウスの背中の皮膚損傷モデルを作製した。
【0050】
(2)皮膚損傷から5日後にマウスの背中の皮膚組織を採取し、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、24時間後に30%スクロースで脱水し、その後切片厚12μmで凍結切片を作製した。
【0051】
(3)切片作製後、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色を行い、ヘマトキシリン染色液はアルカリ性で、主に核内のクロマチンと細胞質内のリボソームを紫青色に着色させるものであり、エオシンは酸性色素であり、主に細胞質及び細胞外マトリックス内の成分を赤色に着色させるものである。結果を
図6に示す。SF+FIBL-Linker-NT3群は、血管新生を効果的に促進し、再生上皮の長さ及び再生する毛包の数を増加させることができることを示している。
【0052】
(付記)
(付記1)
皮膚損傷外用薬の調製における絹フィブロイン融合タンパク質の使用であって、前記絹フィブロイン融合タンパク質は、
MHHHHHHAPSVTINQYSDNEIPRDIDDGKASSVISRAWDYVDDTDKSIAILNVQEILKDMASQGDYASQASAVAQTAGIIAHLSAGIPGDACAAANVINSYTDGVRSGNFAGFRQSLGPFFGHVGQNLNLINQLVINPGQLRYSVGPALGCAGGGRIYDFEAAWDAILASSDSSFLNEEYCIVKRLYNSRNSQSNNIAAYITAHLLPPVAQVFHQSAGSITDLLRGVGNGNDATGLVANAQRYIAQAASQVHVGGGGSGGGGSYAEHKSHRGEYSVCDSESLWVTDKSSAIDIRGHQVTVLGEIKTGNSPVKQYFYETRCKEARPVKNGCRGIDDKHWNSQCKTSQTYVRALTSENNKLVGWRWIRIDTSCVCALSRKIGRTで表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、使用。
【0053】
(付記2)
前記皮膚損傷外用薬は、再生絹フィブロインをさらに含むことを特徴とする、付記1に記載の使用。
【0054】
(付記3)
前記再生絹フィブロインの調製方法は、
蚕糸を0.5% NaHCO3溶液に取り、煮沸してセリシンを除去する工程1、及び
セリシンが除去された蚕糸繊維を水洗した後、CaCl2、H2O及びC2H5OHの混合溶液(モル比1:8:2)に溶解させ、その後蒸留水で透析(透析バッグの分子量カットオフ:12000~14000Da)し、凍結乾燥した後で再生絹フィブロインを得る工程2
を含むことを特徴とする、付記1に記載の使用。
【0055】
(付記4)
外用製剤であって、絹フィブロイン融合タンパク質及び再生絹フィブロインを含み、前記絹フィブロイン融合タンパク質は、
MHHHHHHAPSVTINQYSDNEIPRDIDDGKASSVISRAWDYVDDTDKSIAILNVQEILKDMASQGDYASQASAVAQTAGIIAHLSAGIPGDACAAANVINSYTDGVRSGNFAGFRQSLGPFFGHVGQNLNLINQLVINPGQLRYSVGPALGCAGGGRIYDFEAAWDAILASSDSSFLNEEYCIVKRLYNSRNSQSNNIAAYITAHLLPPVAQVFHQSAGSITDLLRGVGNGNDATGLVANAQRYIAQAASQVHVGGGGSGGGGSYAEHKSHRGEYSVCDSESLWVTDKSSAIDIRGHQVTVLGEIKTGNSPVKQYFYETRCKEARPVKNGCRGIDDKHWNSQCKTSQTYVRALTSENNKLVGWRWIRIDTSCVCALSRKIGRTで表されるアミノ酸配列からなることを特徴とする、外用製剤。
【0056】
(付記5)
前記絹フィブロイン融合タンパク質は、再生絹フィブロインとの自己組織化により再生絹フィブロイン上に固定されることを特徴とする、付記4に記載の外用製剤。
【0057】
(付記6)
瘢痕なき皮膚創傷治癒促進剤の調製における付記4に記載の外用製剤の使用。
【0058】
(付記7)
皮膚創傷炎症抑制剤の調製における付記4に記載の外用製剤の使用。
【0059】
(付記8)
毛包再生促進剤の調製における付記4に記載の外用製剤の使用。
【配列表】
【国際調査報告】