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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-09-29
(54)【発明の名称】脳血管活動を画像化するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025519910
(86)(22)【出願日】2023-10-04
(85)【翻訳文提出日】2025-04-03
(86)【国際出願番号】 EP2023077393
(87)【国際公開番号】W WO2024074529
(87)【国際公開日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】22306482.5
(32)【優先日】2022-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】525125857
【氏名又は名称】イコヌース
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】515185843
【氏名又は名称】エコール・シュペリュール・ドゥ・フィシック・エ・ドゥ・シミー・アンデュストリエル・ドゥ・ラ・ヴィル・ドゥ・パリ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ-フェリクス・オスマンスキー
(72)【発明者】
【氏名】トマ・デフュー
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・タンター
(72)【発明者】
【氏名】アナトール・ヒメネス
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ガベレル
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601DD03
4C601DD04
4C601DD11
4C601DD19
4C601DE03
4C601DE04
4C601DE05
4C601EE09
4C601JC05
4C601JC06
4C601JC37
(57)【要約】
外傷性脳損傷および動脈瘤関連出血は、ヒトおよび動物の被験体の死亡および重度の障害の大きい原因となっている。より具体的には、脳病変は、昏睡状態の被験体において、二次性虚血性損傷により顕著に生じる。本開示は、ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を監視するための信頼性の高い方法を提案し、この方法は、当該ヒトまたは動物の穿頭孔(BH)を通して埋め込まれた超音波プローブ(4)を用いて、当該領域における当該脳の3Dドップラースキャンの時系列を取得するステップと、当該時系列の当該3Dドップラースキャンに基づいて、当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化(21、22、23)を計算するステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を画像化するための方法であって、
(a)少なくとも1つの超音波トランスデューサのアレイ(6)を有する超音波プローブ(4)を用いて実行された前記領域の超音波測定に基づいて、前記領域における前記脳の3次元3Dドップラースキャンの時系列を取得するステップであり、前記超音波プローブ(4)が、前記ヒトまたは動物の穿頭孔(BH)を通して埋め込まれている、取得するステップと、
(b)前記時系列の前記3Dドップラースキャンに基づいて、前記領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化(21、22、23)を計算するステップと
を含む方法。
【請求項2】
(a1)前記超音波プローブ(4)を用いて実行された前記領域の追加の超音波測定に基づいて、前記領域における前記脳の追加の画像の追加の時系列を取得するステップと、
(b1)前記追加の時系列の前記追加の画像に基づいて、前記領域の少なくとも1つの血管パラメータの追加の時間的変化(21、22、23)を計算するステップと
をさらに含み、
前記追加の画像が、Bモード超音波画像、エラストグラフィ画像、およびそれらの任意の組合せを含むグループから選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(c)前記少なくとも1つの血管パラメータの前記時間的変化の変動がしきい値(τ123)を超えたことに基づいて、アラート(A2)をトリガするステップ
をさらに含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、前記少なくとも1つの血管パラメータのベースラインを取得するステップをさらに含み、前記少なくとも1つの血管パラメータの前記時間的変化の前記変動の計算が前記ベースラインに依存する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
(d)前記超音波プローブ(4)を用いて実行された前記領域の第1の追加の超音波測定に基づいて、前記領域における前記脳の少なくとも第1の超音波位置特定顕微鏡画像を取得するステップ
をさらに含む請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記トリガされたアラート(A2)に基づいて、前記方法が、
(e)前記超音波プローブ(4)を用いて実行された前記領域の第2の追加の超音波測定に基づいて、前記領域における前記脳の少なくとも第2の超音波位置特定顕微鏡画像を取得するステップと、
(f)前記少なくとも第2の超音波位置特定顕微鏡画像を、前記少なくとも第1の超音波位置特定顕微鏡画像と比較するステップと
をさらに含む、請求項3および4のいずれかと組み合わせて採用された、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの血管パラメータが、血流、血流速度、血液量、動脈抵抗指数、およびそれらの任意の組合せを含むグループから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記時系列の少なくとも1つの3Dドップラースキャンが、脳アトラス、前記脳のコンピュータ断層撮影スキャン、前記脳の磁気共鳴画像スキャン、およびそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1つに登録される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記領域における前記脳の3Dドップラースキャンの前記時系列が、関心エリア(AOI1、AOI2、AOI3)に分割され、前記方法が、各関心エリア(AOI1、AOI2、AOI3)について、
(b1)前記時系列の前記3Dドップラースキャンに基づいて、前記関心エリアの少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化(21、22、23)を計算するステップ
をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記超音波プローブ(4)が、前記ヒトまたは動物の動きを検出するように構成された加速度計(7)に結合され、前記動きの前記検出に基づいて前記アラート(A2)がトリガされる、請求項2と組み合わせて採用された、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記超音波プローブ(4)が、前記時系列の少なくとも3Dドップラースキャンを取得するために、測定の間に回転される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記超音波プローブ(4)の2つの連続する回転の間に一時停止が観察される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を画像化するための装置(1)であって、
(a)少なくとも1つの超音波トランスデューサのアレイ(6)を有する超音波プローブ(4)を用いて前記領域の超音波測定を実行するように適応された超音波測定デバイスであり、前記超音波プローブ(4)が、前記ヒトまたは動物の穿頭孔(BH)を通して埋め込み可能である、超音波測定デバイスと、
(b)コンピューティングモジュール(3)であり、
-前記超音波測定値から、前記領域の3次元3Dドップラースキャンの時系列を計算し、
-前記時系列の前記3Dドップラースキャンに基づいて、前記領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化(21、22、23)を計算する
ように適応されたコンピューティングモジュール(3)と
を含む装置(1)。
【請求項14】
前記コンピューティングモジュール(3)が、前記領域の前記少なくとも1つの血管パラメータの前記時間的変化(21、22、23)に基づいて、発作および/または遅発性虚血、血管攣縮、出血、低灌流、過灌流、または浮腫を検出するように適応されている、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
プロセッサによって実行されると、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法の少なくとも一部を実施するための命令を含むコンピュータソフトウェア。
【請求項16】
プロセッサによって実行されると、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を実施するためのソフトウェアが登録されているコンピュータ可読非一時的記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒトまたは動物の脳血管活動を画像化するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外傷性脳損傷および動脈瘤関連出血は、ヒトおよび動物の被験体の死亡および重度の障害の大きい原因となっている。より具体的には、脳病変は、昏睡状態の被験体において、二次性虚血性損傷により顕著に生じる。昏睡状態の被験体の脳血液供給を維持することは、神経集中治療の要である。したがって、脳血管活動の監視、特に早期の二次性虚血を画像化するための信頼性の高い方法は、適切な神経集中治療にとって極めて重要である。
【0003】
残念なことに、既存の画像診断法はこのタスクを満たすことができない。たとえば、経頭蓋ドップラー画像診断法は、空間的な範囲によって制限される。したがって、経頭蓋ドップラー画像診断法では、空間的な範囲外の脳血管活動を観察することができず、制限された空間的な範囲外の早期の二次性虚血の画像化が妨げられる。さらに、経頭蓋ドップラー画像診断法は、脳血管活動を監視するように適応されていない。同様に、コンピュータ断層撮影(CT)灌流画像診断法も磁気共鳴(MR)灌流画像診断法も、脳血管活動の監視には適していない。一方、頭蓋内圧モニタリング法は脳血管活動の監視を可能にする。それにもかかわらず、頭蓋内圧モニタリング法では、早期の二次性虚血を画像化することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、ヒトまたは動物の脳血管活動を確実に監視する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のために、本開示は、ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を画像化するための方法を提案し、この方法は、
(a)少なくとも1つの超音波トランスデューサのアレイを有する超音波プローブを用いて実行された当該領域の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の3次元3Dドップラースキャンの時系列を取得するステップであり、超音波プローブが、当該ヒトまたは動物の穿頭孔を通じて埋め込まれている、取得するステップと、
(b)当該時系列の当該3Dドップラースキャンに基づいて、当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化を計算するステップと
を含む。
【0006】
提案された方法は、実施形態に応じて、脳血管活動を監視することを有利に可能にする。計算された、そしていくつかの実施形態では連続的な、領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化により、領域において発生する虚血、特に早期の二次性虚血が検出され得る。
【0007】
とりわけ、いくつかの実施形態では、本発明者らはブタの脳の80%をカバーする領域における血管活動の画像化を達成した。すなわち、本開示の方法によって、ブタの脳の4分の1のいずれにおいても発生する虚血、特に早期の二次性虚血が検出され得る。
【0008】
さらに、いくつかの実施形態では、超音波プローブは、1時間から数日の間に含まれる持続時間の間、穿頭孔を通じて埋め込まれている可能性があり、当該持続時間の間、脳の活動を監視することができる。
【0009】
以下の特徴は、別個に、または他の特徴と組み合わせて、任意選択で実装することができる。
【0010】
1つまたは複数の実施形態では、方法は、
(a1)当該超音波プローブを用いて実行された当該領域の追加の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の追加の画像の追加の時系列を取得するステップと、
(b1)当該追加の時系列の当該追加の画像に基づいて、当該領域の少なくとも1つの追加の血管パラメータの追加の時間的変化を計算するステップとをさらに含み、
追加の画像が、Bモード超音波画像、エラストグラフィ画像、およびそれらの任意の組合せを含むグループから選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、追加の時系列は、3Dドップラースキャンの時系列と並行して取得されることがある。すなわち、3Dドップラースキャンの時系列ではいくつかの時点について、さらにはいくつかの実施形態では各時点について、当該領域における当該脳の追加の画像を取得することができる。追加の画像は、2Dまたは3Dの画像であり得る。Bモード超音波画像を取得することにより、当該領域の少なくとも1つの追加の血管パラメータの追加の時間的変化を計算することによって、領域に関する情報を充実させることができ得る。追加の血管パラメータは、当該領域における心室のサイズであってもよい。エラストグラフィ画像を取得することにより、当該領域の少なくとも1つの追加の血管パラメータの追加の時間的変化を計算することによって、領域に関する情報を充実させることができ得る。追加の血管パラメータは、当該領域における頭蓋内圧であってもよい。
【0012】
1つまたは複数の実施形態では、方法は、
(c)少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動がしきい値を超えたことに基づいて、アラートをトリガするステップ
をさらに含む。
【0013】
したがって、いくつかの実施形態では、異常な脳血液供給の変動が自動的に検出され得る。たとえば、血管パラメータの値の減少を検出することによって、虚血を検出でき得る。代わりに、または組み合わせて、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化におけるスパイクを検出することによって、血管の閉塞およびその結果生じる虚血に先立つ血栓の移動を検出することができ得る。
【0014】
1つまたは複数の実施形態では、アラートのトリガは、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動の持続時間がしきい値を超えることに基づく。
【0015】
たとえば、アラートは少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動が1秒から10時間の間に含まれる持続時間の間、しきい値を超えたときにトリガされ得る。使用可能な持続時間の一例は1分である。したがって、人為的な変動によってアラートがトリガされない可能性があり、方法の信頼性が強化される。
【0016】
1つまたは複数の実施形態では、方法は、少なくとも1つの血管パラメータのベースラインを取得するステップをさらに含み、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動はベースラインに依存する。
【0017】
ベースラインは、領域における少なくとも1つの血管パラメータの基準として選択され得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動は、ベースラインに対する血管パラメータの値の相対的変動として計算され得る。いくつかの実施形態では、領域内の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動のしきい値は、ベースラインに基づいて定義され得る。たとえば、しきい値は、ベースラインに対する相対的変動の割合であってもよい。割合は-100%から+500%の間に含まれ得、好ましくは-50%であり得る。すなわち、血管のパラメータおよび/または領域に対して異なるしきい値が設定され得る。さらに、したがって異なる被験体に対して異なるしきい値が設定され得る。したがって、いくつかの実施形態では、被験体、血管パラメータ、および脳の領域ごとに異なるしきい値を設定することができ、血管活動の変動の検出感度を高めることができる。
【0018】
1つまたは複数の実施形態では、方法は、
(d)当該超音波プローブを用いて実行された当該領域の第1の追加の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の少なくとも第1の超音波位置特定顕微鏡画像を取得するステップ
をさらに含む。
【0019】
1つまたは複数の実施形態では、3Dドップラースキャンは、超高速超音波画像に基づいて計算され得る。少なくとも1つの追加の超音波位置特定顕微鏡画像を取得することによって、少なくとも領域のより高い解像度の画像を取得することができ、領域に関する情報が充実し得る。さらに、3Dドップラースキャンの取得と同じ超音波プローブを使用して、少なくとも1つの追加の画像が取得され得る。したがって、同じプローブによって、3Dドップラースキャンを介して領域の血管活動を監視し、異常な変動を検出し、高解像度の画像化を介して領域の活動におけるより深い洞察を得ることができ得る。
【0020】
1つまたは複数の実施形態では、方法は、トリガされたアラートに基づいて、
(e)当該超音波プローブを用いて実行された当該領域の第2の追加の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の少なくとも第2の超音波位置特定顕微鏡画像を取得するステップと、
(f)当該少なくとも第2の超音波位置特定顕微鏡画像を、当該少なくとも第1の超音波位置特定顕微鏡画像と比較するステップと
をさらに含む。
【0021】
有利なことに、追加のベースラインは、血管パラメータの変動の評価における精度を向上させることを可能にする追加の第1のULM画像に基づき得る。たとえば、3Dドップラースキャンの時系列の取得の前に、第1のULM画像が取得され得る。すなわち、3Dドップラースキャンの時系列を取得する前に、より高い解像度の追加のベースラインが取得され得る。次いで、特にアラートがトリガされたとき、トリガされたアラートに基づいて、第2のULM画像が取得され得る。当該第2のULM画像が、当該第1のULM画像と比較され得る。特に、第2のULM画像における当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの値が、第1のULM画像における当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの値と比較され得る。したがって、トリガされたアラートの前後のULM画像間の比較によって、ミクロンスケールまでの分解能で、トリガされたアラートによる血管活動の変化を定量化することが可能となり得る。
【0022】
1つまたは複数の実施形態では、少なくとも1つの血管パラメータは、血流、血流速度、血液量、動脈抵抗指数、およびそれらの任意の組合せを含むグループから選択される。
【0023】
血流、血流速度、血液量、動脈抵抗指数、およびそれらの任意の組合せの中からパラメータを計算することによって、血管ネットワークの少なくとも1つの領域の挙動を導出することができ得る。したがって、異なるタイプからの大量の情報を必要とすることなく、少なくとも1つの領域の血管活動を定量化することができる。
【0024】
1つまたは複数の実施形態では、当該時系列の少なくとも1つの3Dドップラースキャンが、脳アトラス、当該脳のコンピュータ断層撮影スキャン、当該脳の磁気共鳴画像スキャン、およびそれらの任意の組合せのうちの少なくとも1つに登録される。
【0025】
少なくとも1つのドップラースキャンを、脳アトラス、当該脳のCTスキャン、当該脳のMRIスキャン、およびそれらの任意の組合せのうちの1つに登録することによって、解剖学的情報および生理学的情報など、被験体の補完的情報を組み合わせることができ得る。特に、脳アトラスは、構造脳アトラス、血管脳アトラス、または機能脳アトラスであり得る。少なくとも1つの3Dドップラースキャンを脳アトラスに登録することによって、穿頭孔の位置が常に同じとは限らない異なる被験体間での血管活動を比較することがさらに可能になり得る。
【0026】
1つまたは複数の実施形態では、当該領域における当該脳の3Dドップラースキャンの当該時系列が、関心エリアに分割され、方法が、各関心エリアについて、
(b1)当該時系列の当該3Dドップラースキャンに基づいて、当該関心エリアの少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化を計算するステップ
をさらに含む。
【0027】
当該領域を関心エリアに分割することによって、計算された時間的変化の粒度を高めることができ得る。したがって、領域の関心エリアにおける異なる挙動が観察され得る。すなわち、関心エリアにおける追加の局所情報とともに、脳の画像化された領域の全体的な視野が取得される可能性があり、観察の感度が向上する。
【0028】
1つまたは複数の実施形態では、超音波プローブが、当該ヒトまたは動物の動きを検出するように構成された加速度計に結合され、当該動きの当該検出に基づいてアラートがトリガされる。
【0029】
当該ヒトまたは動物の動き、特に当該ヒトまたは動物の頭部の動きを検出することによって、偽陽性のアラートを区別することができ得る。より正確には、被験体が動いたり操作されたりすることで、画像化された領域における血管活動が一時的に変化する可能性があり得る。この場合、血管活動の変化は病的なものではなく、アラートがトリガされない可能性がある。
【0030】
1つまたは複数の実施形態では、超音波プローブは、当該時系列の少なくとも3Dドップラースキャンを取得するために、測定の間に回転される。
【0031】
測定間に超音波プローブを回転させることによって、2D画像化に適合した超音波プローブで3Dドップラースキャンを取得することができ得る。さらに、異なる回転角度で取得された2Dドップラー画像は、同じパターンの探査用超音波ビームで取得され得、3Dドップラースキャンの取得における均一性が提供される。代わりに、マトリックスアレイプローブを使用して3Dドップラースキャンを取得することもできる。
【0032】
1つまたは複数の実施形態では、超音波プローブの2つの連続する回転の間に一時停止が観察される。
【0033】
脳の領域の深部画像化には、高出力の送信が必要になる場合がある。さらに、超音波プローブは、特に、超音波プローブが穿頭孔に収まるように構成されているので、小さい開口を有する場合がある。その結果、超音波プローブの2つの連続する回転の間に一時停止が観察されない場合、プローブの加熱安全限界を超える可能性がある。したがって、超音波プローブの2つの連続する回転の間に一時停止を実施することによって、プローブの加熱安全限界を超えないようにすることができ得る。
【0034】
本開示はまた、ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を画像化するための装置に関し、当該装置は、
(a)少なくとも1つの超音波トランスデューサのアレイを有する超音波プローブを用いて当該領域の超音波測定を実行するように適応された超音波測定デバイスであり、超音波プローブが、穿頭孔を通じて埋め込み可能である、超音波測定デバイスと、
(b)
-当該超音波測定値から、当該領域の3次元3Dドップラースキャンの時系列を計算し、
-当該時系列の当該3Dドップラースキャンに基づいて、当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化を計算する
ように適応されたコンピューティングモジュールと
を含む。
【0035】
本装置の実施形態では、コンピューティングモジュールが、当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化に基づいて、発作および/または遅発性虚血、血管攣縮、出血、低灌流、過灌流、または浮腫を検出するように適応されている。
【0036】
別の態様では、プロセッサによって実行されると、ここで定義される方法の少なくとも一部を実施するための命令を含むコンピュータソフトウェアが提案される。別の態様では、プロセッサによって実行されると、ここで定義される方法を実施するためのソフトウェアが登録されているコンピュータ可読非一時的記録媒体が提案される。
【0037】
別の態様では、ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を画像化するための方法が提案され、この方法は、
-当該ヒトまたは動物の頭蓋骨に1つの穿頭孔を設けるステップと、
-当該穿頭孔を通じて、少なくとも1つの超音波トランスデューサのアレイを有する埋め込み型超音波プローブを埋め込むステップと、
-当該埋め込み型超音波プローブを用いて実行された当該領域の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の3次元3Dドップラースキャンの時系列を取得するステップと、
-当該時系列の当該3Dドップラースキャンに基づいて、当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化を計算するステップと
を含む。
【0038】
他の特徴、詳細、および利点については、以下の詳細な説明および図に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本開示による装置の一実施形態を示すブロック図である。
図2図1の装置を用いて一連の3Dドップラースキャンを取得する可能な方法を示す図である。
図3】特定の一実施形態において使用されている装置の一部を示す図である。
図4】特定の一実施形態において使用されている装置の一部を示す図である。
図5(a)】本開示の方法によって取得された脳の領域の2Dドップラー画像を示す図である。
図5(b)】本開示の方法によって取得された、図5(a)と同じ脳の領域のULM画像の図である。
図5(c)】図5(b)のULM画像のズームを示す図である。
図6(a)】本開示の方法によって取得された脳卒中前後の3Dドップラースキャンの一例を示す図である。
図6(b)】脳卒中前後の灌流CT画像の一例を示す図である。
図7(a)】本開示の方法によって取得された、脳卒中確立中の2Dドップラー画像の一例を示す図である。
図7(b)】本開示の方法によって取得された、脳卒中確立中の少なくとも1つの血管パラメータの変化の測定の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
様々な図において、同じ参照番号は同一または類似の要素を示す。
【0041】
本開示は、ヒトまたは動物の脳の少なくとも1つの領域における血管活動を、当該領域における当該脳の3次元3Dドップラースキャンの時系列を取得することによって画像化するための方法および装置を提案する。3Dドップラースキャンは、穿頭孔を通じて埋め込まれた超音波プローブを用いて取得される。3Dドップラースキャンの時系列によって、当該領域の少なくとも1つの関心エリアにおける少なくとも1つの血管パラメータの値を取得できる。3Dドップラースキャンの時系列からの少なくとも1つの血管パラメータの値に基づいて、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の測定値が計算され得る。
【0042】
脳の領域は、脳の25%から100%の間をカバーすることができる。
【0043】
本開示による方法を実行する際に使用可能な血管活動を画像化するための装置1(VA APP)の一例を図1に示す。
【0044】
装置1は、プロセッサ2(PROC)、たとえばコンピュータまたはコンピュータ群、場合によってはサーバを含むコンピュータ群によって制御される特殊な信号処理デバイスを含み得る。
【0045】
プロセッサ2は、コンピューティングモジュール3(COMP)を含み得、その動作については後述する。
【0046】
プロセッサ2は、プローブ4(PRB)を制御することができる。
【0047】
プローブ4は、ここで検討した例では、たとえば超音波プローブであってもよい。
【0048】
プローブ4は、超音波トランスデューサのアレイ6(ARR)を含み得る。アレイは、画像化される領域のスライスの2D画像を生成するように適応された線形アレイであってもよく、または領域の3D画像を生成するように適応された2Dアレイであってもよい。アレイが2Dアレイであるとき、当技術分野で知られているように、トランスデューサの疎行列である可能性がある。
【0049】
典型的なトランスデューサのアレイは、数百から数千のトランスデューサを含み得る。アレイは、いくつかの例では、トランスデューサから深さ方向に、領域の1本の線のみを画像化するように適応された単一のトランスデューサ、またはトランスデューサから深さ方向に、領域の線をそれぞれ画像化するように適応されたいくつかのトランスデューサに限定されることもある。
【0050】
以下の詳細な説明は、装置が画素(より一般的にはドップラーサンプル)を有するドップラー画像(より一般的には超音波測定値)を生成するように、線形または2Dアレイの場合について行われる。アレイが単一のトランスデューサまたは少数のトランスデューサを含む場合、装置は、深さ方向において1本の線(超音波測定)または数本の線に限定された画像を生成し、その線は画素(ドップラーサンプル)を有し、プロセスは、異なる傾斜角の傾斜平面波を必要とせず、異なる仮想ソースからの平行発散波を必要としない超音波測定の生成を除いて類似している。
【0051】
トランスデューサは、たとえば0.5から100MHzの間、たとえば1から20MHzの間を含む中心周波数を有する超音波を送受信するように適応され得る。使用可能な中心周波数の一例は5MHzである。
【0052】
特定の実施形態では、プローブ4は、アレイ6を位置決めするように適応されたモータリゼーション5(MOT)をさらに含み得る。
【0053】
次に、3Dドップラースキャン取得の方法の一例を図2に関して説明する。
【0054】
トランスデューサのアレイ6は、たとえば6kHz(パルス繰り返し周波数PRF)のレートで、すなわち約0.2msごとに、画像化される領域において発散超音波を送信し、結果として生じる後方散乱超音波を受信するように、プロセッサ2によって制御され得る。より一般的には、パルス繰り返し周波数PRFは、500Hzを超える場合がある。受信信号は、送信された発散超音波ごとに生データのセットとして登録される。連続的に送信される発散波は、画像化される領域の幅方向(αimaging)、すなわちアレイ6の横方向
【0055】
【数1】
【0056】
に関して一定の間隔で配置されたN個の仮想ソース(VS)によって送信される。たとえば、k番目の仮想ソース(1≦k≦N)の位置は以下の座標で定義され得る。
【0057】
【数2】
【0058】
式中、Lは、たとえばL=9.1mmなど、プローブの横方向の開口部であり、
αminは、たとえばαmin=10°など、仮想ソースとプローブの端との間の最小角度であり、
αimagingは、たとえばαimaging=90°など、画像幅である。
【0059】
領域の各画像について、N個の発散超音波がN個の仮想ソース(VS)によって連続的に送信され、極座標グリッド上に再構成された同位相直交(IQ)画像である領域の当該画像が合成されるように、Nセットの生データが処理される。極座標グリッドは、(仰角,半径)=(0.5°,0.15mm)とすることができる。
【0060】
図示のN=12およびPRF=6kHzの場合、領域の合成画像のレート(フレームレート)は、したがって約500Hzとなる。Nは12と異なる場合があり、その場合、複合画像のフレームレートが異なる。たとえば、N=5を使用することができる。
【0061】
代わりに、トランスデューサのアレイ6は、たとえば5.5kHz(パルス繰り返し周波数PRF)のレートで、すなわち約18msごとに、画像化される領域において平面超音波を送信し、結果として生じる後方散乱超音波を受信するように、プロセッサ2によって制御され得る。より一般的には、パルス繰り返し周波数PRFは500Hzを超える場合がある。受信信号は、送信された平面超音波ごとに生データのセットとして登録される。連続的に送信される平面波は、画像化される領域の深さ方向に対して、すなわちアレイ6に垂直な方向に対して、連続的に変化する角度に傾斜した伝搬方向を有する。領域の各画像について、N個の平面超音波が異なる角度で連続的に送信され、Nセットの生データがコヒーレントに追加されて、領域の当該画像が合成され、複合画像となる。たとえば、Nは11であり得、角度は-10度から+10度まで2度ずつ変化する。N=11およびPRF=5.5kHzの場合、領域の複合画像のレート(フレームレート)は、したがって約500Hzとなる。Nは11と異なる場合があり、その場合、複合画像のフレームレートが異なる。たとえば、N=5を使用することができる。
【0062】
いずれの場合も、領域の合成画像に基づいて、次いで、領域のドップラー画像がコンピューティングモジュール3によって計算される。たとえば、各ドップラー画像には500枚の連続する合成画像が使用される。この場合、ドップラー画像のレートは、したがって1Hzである。各ドップラー画像に異なる数の連続する複合画像を使用してもよく、その場合、ドップラー画像のレートは異なる。たとえば、各ドップラー画像に50枚の連続する合成画像を使用することができ、その場合、ここで検討した例では、ドップラー画像のレートは10Hzとなる。一般に、ドップラー画像のレートは、少なくとも2Hzである。
【0063】
血管パラメータは、たとえば、特異値分解(SVD)に基づく時空間フィルタリングを使用して、連続する合成画像から計算することができる。連続する合成画像は2乗され、最終的な超高感度ドップラー画像に平均される。画像の取得フレームレートが高いため、脳領域に高エネルギーの超音波を送信することなく、超音波信号の感度を高めることが可能である。
【0064】
より一般的には、ドップラー画像は、超高感度ドップラー、パワードップラー、マイクロドップラー、スペクトルドップラーを含む任意のドップラー技術によって計算され得る。当該ドップラー画像を構成するドップラー信号は、たとえば、パワードップラー、カラードップラー、スペクトルドップラー、血管抵抗率指数、またはそれらの任意の組合せであり得る。ドップラー信号の血流速度に対する感度を評価するために、当該ドップラー信号を異なるドップラー周波数帯域幅でフィルタリングしてもよい。
【0065】
図2の例では、プロセッサ2は、アレイ6を回転させて、異なる回転角度でドップラー画像を取得することによって、領域の3次元3Dドップラースキャンが取得される。たとえば、アレイ6は、2°の回転ステップ(θ_motor)で180°の範囲にわたって回転される。すなわち、各3Dドップラースキャンには89枚のドップラー画像が使用される。ドップラースキャンごとに異なる回転ステップ(θ_motor)が使用される場合があり、その場合、空間解像度が異なる。特に、いくつかの実施形態では、回転ステップ(θ_motor)は、ドップラー画像の仰角(elslice)に依存し得る。たとえば、ドップラー画像の仰角(elslice)が大きいほど、回転ステップ(θ_motor)は小さくなる。
【0066】
3Dドップラースキャンは、ドップラー画像を直交座標グリッド上で補間することによって異なる回転角のドップラー画像から再構成することができる。ドップラー画像は、深度減衰補正で補正され得る。(補正された)ドップラー画像は、回転(方位角,仰角,半径)=(θmotorimaging,Rimaging)=(2°,0.5°,0.15mm)の極座標グリッドから直交座標グリッド(横方向,仰角,深度)=(x,y,z)=(0.25,0.25,0.25)mm3に補間され得る。(補正された)ドップラー画像を補間するためにドロネー三角形分割が使用されることがある。
【0067】
図3は、脳の領域における血管活動を画像化するために装置1をどのように使用するかを概略的に示している。超音波プローブ4は、穿頭孔(BH)を通じて埋め込まれている。穿頭孔BHは、皮膚10および骨11に開けられた穴である。穿頭孔BHは、髄膜で覆われている脳15へのアクセスを開く。髄膜には特に3つの層(硬膜12、くも膜13、軟膜14)がある。穿頭孔BHは、10mmから20mmの間に含まれ得、好ましくは15mm程度であり得る直径を有する。
【0068】
一実施形態では、患者の脳の領域における血管活動を埋め込み画像化するための方法は、
-当該ヒトまたは動物の頭蓋骨に1つの穿頭孔を設けるステップと、
-穿頭孔を通じて埋め込み型超音波プローブを埋め込むステップと、
-当該埋め込み型超音波プローブを用いて実行された当該領域の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の3次元3Dドップラースキャンの時系列を取得するステップと、
-当該時系列の当該3Dドップラースキャンに基づいて、当該領域の少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化を計算するステップと
を含む。
【0069】
手術は、全身麻酔で行われる。
【0070】
プローブの位置は、たとえば脳ナビゲーションシステムによって、穿孔前に監視される脳領域に基づいて臨床医が決定することができる。
【0071】
皮膚の消毒後、頭蓋骨を露出させるために頭蓋骨に4cmの直線状の皮膚切開を行い得る。機械ドリルで穿頭孔を開ける。プローブは、保存しなければならない硬膜の外側の穿頭孔に位置決めされる。
【0072】
埋め込み型超音波プローブは、穿頭孔を通じて位置決めされ、埋め込み型プローブが穿頭孔内の骨に対して固定されるように、任意の適切な固定手段によって骨に固定される。
【0073】
一実施形態では、埋め込み型超音波プローブは、頭蓋骨の外部にある分析システムに接続されている。たとえば、接続ケーブルは、最初の切開部から離れた位置に出るように、およそ5cm、皮膚の下にトンネル状に通される。
【0074】
次いで、皮膚切開部を2層で縫合する。監視期間中、滅菌包帯が毎日行われる。
【0075】
監視期間の終了時に、皮膚消毒後、以前に作成された切開部を再度開く。プローブを骨に固定するための手段が取り除かれ、プローブとそのケーブルの取り外しが可能になる。切開部が2層で閉じられる。
【0076】
超音波プローブ4は、穿頭孔BHに収まるように構成されている。図3の例では、超音波プローブ4は円形の活性面を有し、その直径は穿頭孔BHの直径よりも小さい。たとえば、超音波プローブ4の直径は、穿頭孔BHの直径に応じて、6mmから16mmの間に含まれ、好ましくは11mmであり得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、穿頭孔BHは、脳組織が血液などの流体によって圧迫されたときに脳への圧力を軽減する、および/または頭蓋内圧(ICP)を監視するのを助けるために、以前にドリルで開けられている可能性がある。代わりに、穿頭孔BHは、超音波プローブ4を挿入するためにドリルで開けられてもよい。
【0078】
モータリゼーション5は、3Dドップラースキャンのドップラー画像を取得するために、穿頭孔BH内でアレイ6を回転させる。プロセッサ2は、モータリゼーション5を制御するように適応されている。
【0079】
いくつかの実施形態では、プロセッサ2は、当該超音波プローブ4を用いて実行された当該領域の追加の超音波測定に基づいて、当該領域における当該脳の追加の画像の追加の時系列を取得するように構成され得る。ドップラー画像の各取得後に、超音波プローブ4によって追加の画像が取得され得る。追加の画像は、Bモード超音波画像および/またはエラストグラフィ画像であってもよい。
【0080】
プロセッサ2は、アレイ6の2つの連続する回転の間の一時停止を観察するようにモータリゼーション5を制御するように構成され得る。たとえば、一時停止持続時間は8秒を超え、好ましくは約10秒であり得る。使用可能な一時停止持続時間の一例は11秒である。図2の例で説明したように、一時停止持続時間が11秒であり、1Hzのレートで89枚のドップラー画像を取得した例示的なケースでは、3Dドップラースキャンを取得するための総持続時間は、したがって約18分となる。
【0081】
変形例では、超音波プローブ4は、温度センサー(図示せず)にさらに結合され得る。コンピューティングモジュール3は、温度測定値に応じて、2つの連続する回転の間の一時停止持続時間を選択するように適応され得る。一時停止持続時間は、埋め込まれた超音波プローブ4内の温度の上昇がしきい値を超えないように、ドップラー画像の各取得後に計算され得る。しきい値は、埋め込み型デバイスの安全加熱限界に従って2℃に設定することができる。
【0082】
領域の監視を達成するために、プロセッサ2は、3Dドップラースキャンを連続的に取得するようにプローブ4を制御するように構成され得る。すなわち、時系列の2つの連続する3Dドップラースキャンについて、前者の3Dドップラースキャンの最後のドップラー画像の取得は、超音波プローブ4の2つの連続する回転の間に観察される一時停止持続時間、すなわち2つの連続するドップラー画像の取得の間に観察される一時停止持続時間だけ、後者の3Dドップラースキャンの最初のドップラー画像の取得から分離され得る。代わりに、プロセッサ2は、たとえば0から60分の間に含まれる持続時間、たとえば1から20分の間に含まれる持続時間の時系列の2つの連続する3Dドップラースキャンの間の一時停止を観察するように、プローブ4を制御するように構成されてもよい。使用可能な一時停止の一例は10分である。そのような値によって、3Dスキャンの時系列の高時間解像度と、埋め込まれた超音波プローブ4内の許容可能な温度上昇の両方を達成することができる。
【0083】
第1の実施形態では、前者の3Dドップラースキャンの最後のドップラー画像の角度位置(θlast/former)は、θlast/formerfirst/former+180°-θmotorに対応する可能性があり、式中、θfirst/formerは、前者の3Dドップラースキャンの最初のドップラー画像の角度位置(θfirst/former)に対応する。後者の3Dドップラースキャンの最初のドップラー画像の角度位置(θfirst/latter)は、θfirst/latterlast/formermotorfirst/former mod(180°)に対応し得、式中、mod(180°)は係数である。この第1の実施形態では、アレイ6は、角度位置を回転ステップ(θ_motor)だけ増分することによって回転され得る。代わりに、第2の実施形態では、後者の3Dドップラースキャンの第1のドップラー画像の角度位置(θfirst/latter)はθfirst/latterlast/formermotorに対応し得る。この第2の実施形態では、アレイ6は、角度位置を回転ステップ(θ_motor)だけ減分することによって回転され得る。いくつかの実施形態では、2つの連続する3Dドップラースキャンの間でアレイ6の1回転を節約するために、第1および第2の実施形態を交互に行うことができる。
【0084】
図4は、脳の既存の地図である既知の脳アトラスへの3Dドップラースキャンの登録を示す。そのようなマップは、ヒトの脳、およびたとえばブタなど一部の動物の脳で利用可能である。いくつかの変形例では、3Dドップラースキャンは、代わりに、または組み合わせて、被験体の脳のCTスキャンおよび/またはMRスキャンに登録され得る。
【0085】
コンピューティングモジュール3は、3Dドップラースキャンの関心エリアを選択するように適応されている。関心エリアは、画像化された領域と等しくてもよい。代わりに、関心エリアは、画像化された領域よりも小さくてもよい。関心エリアは、血管領域に基づいて選択され得る。たとえば、関心エリアは、血管脳アトラスに基づいて選択することができる。代わりに、または組み合わせて、関心エリアは、被験体の脳のCTスキャンおよび/またはMRスキャンに基づいて選択することができる。実施形態によっては、関心エリアは、画像化された領域全体をカバーする場合もあれば、カバーしない場合もある。
【0086】
関心エリアが決定されると、コンピューティングモジュール3は、3Dドップラースキャンを通じて関心エリア上のドップラー信号を平均化し、関心エリアにおける血管パラメータの時間的変化を取得することができる。加えて、追加の時系列が取得されると、Bモード超音波信号および/またはエラストグラフィ信号は、追加の画像を通じて関心エリア上で平均化され得、したがって、関心エリアにおける追加の血管パラメータの時間的変化が取得される。3Dドップラースキャンに基づく血管パラメータについて以下に説明することは、ドップラー診断法に固有の特徴を除いて、追加の血管パラメータにも適用できる。
【0087】
図4の例では、3つの関心エリア(AOI1、AOI2、AOI3)、および横軸に時間(T)、縦軸に血管パラメータ(VP)の値を表す、関連する時間的変化(21、22、23)の曲線が表されている。
【0088】
示された関心エリアAOI1、AOI2、AOI3は、それぞれ内大脳静脈(ICV)、横静脈洞(TS)、および視床線条体静脈(TsS)に対応する。
【0089】
関心エリアにおける血管パラメータの時間的変化は、遅発性虚血、血管攣縮、出血、低灌流、過灌流、または浮腫など、脳血管活動に関連する特定の健康障害の信頼できるバイオマーカーとして使用され得る。たとえば、関心エリアにおける血管パラメータの値の減少は、関心エリアにおける虚血に対応する可能性がある。
【0090】
このために、コンピューティングモジュール3は、3Dドップラースキャンの時系列から少なくとも1つの血管パラメータを計算するように適応され得、当該少なくとも1つのパラメータは、血流、血液速度、特に収縮期速度、ならびに/または拡張期速度、血液量、および動脈抵抗率指数からなるグループから選択される。
【0091】
いくつかの実施形態では、相対的な3Dドップラースキャンが計算される。したがって、少なくとも1つの血管パラメータは、2つの3Dドップラースキャンで観察された値間の差である可能性がある。
【0092】
血管パラメータの時間的変化が正常であるかどうかを判定するために、コンピューティングモジュール3は、当該変化をしきい値と比較することができる。しきい値は、医師などの専門家によって設定されてもよい。
【0093】
一変形例では、血管パラメータのベースラインが取得され、しきい値はベースラインに基づく。たとえば、しきい値は、ベースラインに対する割合であってもよい。割合は-100%から+500%の間に含まれ得、好ましくは-50%であり得る。たとえば、血管パラメータが血液量であるとき、-100%から-10%の間に含まれる割合、好ましくは-50%の割合が選択され得る。したがって、しきい値によって、おそらく虚血による血液量の減少を検出することができ得る。別の例では、血管パラメータが血流であるとき、+10%から+500%の間に含まれる割合、好ましくは+50%の割合が選択され得る。したがって、しきい値によって、おそらく初期の血管攣縮による血流量の増加を検出することができ得る。
【0094】
一変形例では、ベースラインは、3Dドップラースキャンの時系列の最初の3Dドップラースキャンから導出される。たとえば、ベースラインは、3Dドップラースキャンの時系列のうちの1つの3Dドップラースキャンにおける血管パラメータの値である。
【0095】
代わりに、または組み合わせて、一変形例では、追加のベースラインが、当該領域における当該脳の第1の超音波位置特定顕微鏡(ULM)画像から導出される。たとえば、追加のベースラインは、第1のULM画像における血管パラメータの値である。第1のULM画像は、当該領域における当該脳の2D画像または3D画像であり得、好ましくは、当該領域における当該脳の3D画像である。追加のベースラインに使用される第1のULM画像は、3Dドップラースキャンの時系列を取得する前に取得され得る。追加のベースラインおよび3Dドップラースキャンに使用される第1のULM画像は、同じプローブ4を使用して取得され得る。追加のベースラインに使用される第1のULM画像は、3Dドップラースキャンと同じパラメータを使用して取得され得る。特に、同じ回転ステップθ_motorが使用されてもよい。
【0096】
別の変形例では、しきい値は、関心エリアにおける血管の直径に依存する。たとえば、しきい値は、血管の直径の割合によって考慮することができる。別の変形例では、しきい値は、関心エリアにおける血管の弾力性に依存する。たとえば、しきい値は、血管の弾力性の割合によって考慮することができる。これらの変形例は、別個に、または他のものと組み合わせて実装することができる。
【0097】
図4の例では、異なる関心エリアに異なるしきい値(τ123)が設定されている。時刻tA2に関心エリアAOI2における血管パラメータがしきい値τ2を超えたことに基づいて、アラートA2がトリガされる。
【0098】
プロセッサ2はさらに、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動の持続時間がしきい値を超えたことに基づいて、アラートをトリガするように構成されてもよい。たとえば、アラートは少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動が1秒から10時間の間に含まれる持続時間の間、好ましくは1分間にわたってしきい値を超えたときにトリガされ得る。したがって、しきい値を超える時間的変化の孤立した瞬間的な変動は、血管パラメータの異常な変動とは解釈されないことがある。
【0099】
上述の装置1は、超音波プローブ4に結合された加速度計7も含むことができる。加速度計は、脳が画像化されているヒトまたは動物の動きを検出することができる。アラートは、当該動きの当該検出に基づいてトリガされることがある。たとえば、加速度計が、身体の動き/操作などの外的原因による当該ヒトまたは動物の動きを検出したとき、血管パラメータがしきい値を超えたとしても、アラートがトリガされないことがある。特に、この場合、上記で説明したように、血管パラメータが所定の持続時間にわたってしきい値を超えた場合にのみアラートがトリガされ得る。
【0100】
装置1は、アラートがトリガされた関心エリアにおける脳の追加の第2の超音波位置特定顕微鏡画像を取得するようにさらに構成されてもよい。追加の第2の画像は、2Dまたは3Dの画像であり得る。
【0101】
図5(a)の例では、脳のある領域の2Dドップラー画像が、図2を参照して説明した方法で取得されている。図5(b)の追加の第2の画像は、脳の同じ領域の超音波位置特定顕微鏡(ULM)画像である。図5(c)は、図5(b)の破線の部分領域の拡大図である。図5(b)および図5(c)の第2のULM画像は、サブ波長解像度に達している。図5(b)および図5(c)の第2のULM画像は、血管パラメータを正確に定量化するために使用することができる。特に、血流の速度および方向が正確に定量化され得る。
【0102】
一変形例では、追加のベースラインが当該領域における当該脳の第1のULM画像から導出されると、当該領域における当該脳の第2のULM画像が、第1のULM画像および/または追加のベースラインと比較され得る。
【0103】
特に、一変形例では、第1のステップにおいて、追加のベースラインが、当該領域における当該脳の第1のULM画像から導出される。第2のステップにおいて、3Dドップラースキャンの時系列が取得され、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化が本開示の方法によって計算される。上述したように、少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化の変動がしきい値を超えたことに基づいて、アラートがトリガされ得る。アラートは、少なくとも1つの血管パラメータのベースラインに依存し得る。当該ベースラインは、3Dドップラースキャン、たとえば、時系列の最初の3Dドップラースキャンに基づいて取得されている可能性がある。当該アラートに基づいて、当該領域における当該脳の少なくとも第2のULM画像が、第1のULM画像および時系列の3Dドップラースキャンと同じプローブ4を用いて取得され得る。第2のULM画像は、第1のULM画像および/または第1のULM画像から導出された追加のベースラインと比較され得る。すなわち、3Dドップラースキャンの時系列と、その結果得られる少なくとも1つの血管パラメータの時間的変化によって、その領域における脳を監視して、異常な活動を検出し、アラートをトリガすることができ得る。3Dドップラースキャンの時系列の前に取得された第1のULM画像、およびアラートのトリガ時に取得された第2のULM画像のおかげで、その領域の血管活動の変化を顕微鏡的な解像度で定量化することが可能であり得る。したがって、3Dドップラースキャンによる血管活動の継続的な監視、およびULM画像によるアラート検出時の血管活動の変化の正確な定量化が、本開示の方法により達成され得る。
【0104】
図6(a)に示されるように、虚血後の脳卒中検出が本開示の方法により達成され得る。特に、図6(a)の例では、脳卒中後の3Dドップラースキャンの輪郭が示された虚血コア(図6(a)の右側)には、脳卒中前の3Dドップラースキャンの輪郭が示された虚血コア(図6(b)の左側)よりも観察される血管の数が少ない。さらに、脳卒中前の3Dドップラースキャンと脳卒中後の3Dドップラースキャンとの間で、虚血コアにおけるドップラー信号の25%の減少(0.161から0.105に正規化されたドップラー信号)が観察された。
【0105】
図6(b)に示されるコンピュータ断層撮影(CT)画像化実験では、脳卒中後の虚血コアの形成が確認されている。図6(b)の灌流コンピュータ断層撮影スキャンは、矢状面ビューでの血液量を示している。脳卒中前に取得されたCTスキャン(図6(b)の左側)と脳卒中後に取得されたCTスキャン(図6(b)の右側)との間で、虚血コアの破線の領域において、灌流の約60%の低下(14.0から4.9a.u.のCTの血液量)が観察される。
【0106】
図7(a)は、図6(a)および図6(b)で評価された脳卒中確立中に取得された脳の同じ領域の2Dドップラー画像を示す。2Dドップラー画像は、本開示の方法により取得される。たとえば、虚血コアが観察された3Dドップラースキャンの時系列に基づいて、異なる時間における虚血コアの領域に対応する(それに基づいて3Dドップラースキャンが構築された)2Dドップラー画像を取り出すことができる。
【0107】
図7(b)は、図7(a)の2Dドップラー画像を含む2Dドップラー画像の取得に沿った虚血コアにおけるドップラー信号の変化の測定の一例を示す。図7(a)(2)では大きいドップラースパイクが検出され、これは図7(a)(1)で取得されたベースラインに続き、図7(a)(3)から図7(a)(5)で観察される有意な減少(血流は約38%減少)に先立つ。大きいドップラースパイクおよびそれに続く有意な減少は、おそらく血管の閉塞に先立って血栓が移動したことによるものであり得る。したがって、ドップラー信号の変化の測定は、虚血コア形成の信頼性の高いバイオマーカーとして使用され得る。
【0108】
上記で説明したことは、被験体が2つ以上の穿頭孔を有するときにも繰り返される可能性ある。この場合、コンピューティングモジュール3は、前述の方法の少なくとも一部を実施するために、2つ以上の穿頭孔にそれぞれ挿入された2つ以上の超音波プローブ4を並行して制御することができる。したがって、脳のより広い領域を画像化することができる。さらに、より高い空間解像度を達成するために、2つ以上の超音波プローブ4によって取得された情報が集められてもよい。
【0109】
とりわけ、上述の装置1は、手術中の脳灌流を監視するためにも使用することができる。特に、装置1は、心臓手術のような数時間に及ぶ長時間の手術中に、脳全体にわたる脳血流の信頼性の高い測定を提供するために使用することができる。したがって、手術中の血管事故の早期検出が可能になる。
【符号の説明】
【0110】
1 装置
2 プロセッサ
3 コンピューティングモジュール
4 プローブ
5 モータリゼーション
6 アレイ
7 加速度計
10 皮膚
11 骨
12 硬膜
13 くも膜
14 軟膜
15 脳
21 時間的変化
22 時間的変化
23 時間的変化
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】