(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-01
(54)【発明の名称】遺伝子改変非ヒト動物及び重鎖抗体の産生方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/0275 20240101AFI20250924BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250924BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20250924BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20250924BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250924BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20250924BHJP
【FI】
A01K67/0275 ZNA
C12N5/10
C12P21/08
C12N5/0735
C12N15/13
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025515863
(86)(22)【出願日】2023-09-15
(85)【翻訳文提出日】2025-04-02
(86)【国際出願番号】 CN2023118958
(87)【国際公開番号】W WO2024056044
(87)【国際公開日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2022/119188
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2022/136246
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521213200
【氏名又は名称】バイオサイトジェン ファーマシューティカルズ (ベイジン) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フー イーチン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チー
(72)【発明者】
【氏名】チャン リーチュン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ヤーポー
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ホイチェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤオ チアウェイ
(72)【発明者】
【氏名】シェン ユエレイ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
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4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、遺伝子改変動物及び重鎖抗体を産生するための方法に関する。一態様では、遺伝子改変非ヒト動物は改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含み、上記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座はIgG定常領域遺伝子を含み、上記IgG定常領域遺伝子はCH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域をコードし、上記遺伝子改変非ヒト動物は重鎖抗体を発現する。本明細書では、抗TFR1抗体、抗原結合断片、及びそれらの使用も開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含む遺伝子改変非ヒト動物であって、前記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座がIgG定常領域遺伝子を含み、前記IgG定常領域遺伝子がCH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域をコードし、前記遺伝子改変非ヒト動物が重鎖抗体を発現する、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物が正確に1つのIgG定常領域遺伝子を含む、請求項1に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項3】
前記IgG重鎖定常領域遺伝子がIGHG1である、請求項1又は2に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項4】
前記IgG重鎖定常領域が、CH2ドメイン及びCH3ドメイン、並びに任意選択でヒンジ領域を含むか、又はそれらからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項5】
ゲノムが、IGHG3、IGHG2b、及びIGHG2c遺伝子の欠失と、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHG1遺伝子のCH1エクソンの欠失とを含む生殖細胞系遺伝子改変を含む、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項6】
前記生殖細胞系遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性IGHE遺伝子の欠失をさらに含む、請求項5に記載の動物。
【請求項7】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ2b、Sγ2c、及びSεスイッチ領域の欠失をさらに含む、請求項5又は6に記載の動物。
【請求項8】
前記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子を含み、前記改変IGHG1遺伝子が、配列番号1と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の動物。
【請求項9】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ3スイッチ領域の欠失をさらに含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の動物。
【請求項10】
前記動物のゲノムが、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変げっ歯類IGHG1遺伝子、及び内因性IGHM、IGHδ、IGHA遺伝子を含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の動物。
【請求項11】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性IGHM遺伝子及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の動物。
【請求項12】
前記動物ゲノムが、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く前記改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む、請求項5~9及び11のいずれか1項に記載の動物。
【請求項13】
前記Sμ及びSγ1スイッチ領域が、配列番号8と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結されている、請求項12に記載の動物。
【請求項14】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1コード配列の欠失をさらに含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の動物。
【請求項15】
前記動物のゲノムが、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変内因性IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く前記改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHδ、IGHA遺伝子を含む、請求項5~9及び14のいずれか1項に記載の動物。
【請求項16】
前記Sμスイッチ領域及び前記改変IGHM遺伝子が、配列番号10と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結される、請求項15に記載の動物。
【請求項17】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子の前記CH1エクソンの欠失及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の動物。
【請求項18】
前記動物のゲノムが、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く前記改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む、請求項5~9及び17のいずれか1項に記載の動物。
【請求項19】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子の前記CH1エクソンの欠失及びIGHδ遺伝子のCH1コード配列の欠失をさらに含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の動物。
【請求項20】
前記動物のゲノムが、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHδ遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く前記改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む、請求項5~9及び19のいずれか1項に記載の動物。
【請求項21】
前記改変IGHM遺伝子が、配列番号10と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結され、前記改変IGHδ遺伝子が、配列番号41と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む、請求項19又は20に記載の動物。
【請求項22】
前記改変IGHM遺伝子が、配列番号13と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む、請求項14~21のいずれか1項に記載の動物。
【請求項23】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ1スイッチ領域の欠失をさらに含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の動物。
【請求項24】
前記動物のゲノムが、内因性Sμ、Sγ3、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く前記改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHM、IGHδ、IGHA遺伝子を含む、請求項5~8及び23のいずれか1項に記載の動物。
【請求項25】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ3スイッチ領域の欠失をさらに含む、請求項5~8及び23のいずれか1項に記載の動物。
【請求項26】
前記遺伝子改変が、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性IGHM及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む、請求項5~8、23及び25のいずれか1項に記載の動物。
【請求項27】
前記動物のゲノムが、内因性Sμ、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く前記改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む、請求項5~8、23、25又は26のいずれか1項に記載の動物。
【請求項28】
前記Sμスイッチ領域及び前記改変IGHG1遺伝子が、配列番号9と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結される、請求項27に記載の動物。
【請求項29】
前記改変ゲノムが機能的IGHM遺伝子を含む、請求項5~10、23及び24のいずれか1項に記載の動物。
【請求項30】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項31】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項30に記載の動物。
【請求項32】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ3スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項33】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ3スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項32に記載の動物。
【請求項34】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項35】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項34に記載の動物。
【請求項36】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項37】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項36に記載の動物。
【請求項38】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項39】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項38に記載の動物。
【請求項40】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項41】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項40に記載の動物。
【請求項42】
ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含み、前記要素が作動可能に連結されている、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項43】
前記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座が、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる、請求項42に記載の動物。
【請求項44】
前記動物が、CH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域を含む重鎖抗体を発現する、請求項1~43のいずれか1項に記載の動物。
【請求項45】
前記重鎖抗体が、10
-7M未満、10
-8M未満、又は10
-9M未満のKDで標的抗原に結合する、請求項44に記載の動物。
【請求項46】
前記重鎖抗体が、可変領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むか、又はそれらからなる、請求項44又は45に記載の動物。
【請求項47】
前記重鎖抗体が、膜貫通ドメイン及び/又は細胞質ドメインをさらに含む、請求項44~46のいずれか1項に記載の動物。
【請求項48】
前記遺伝子改変非ヒト動物が、軽鎖を含むIgG抗体を発現しない、請求項1~47のいずれか1項に記載の動物。
【請求項49】
前記動物が、IgM、IgD、及び/又はIgA(例えば、機能的IgM、IgD、及び/又はIgA)を発現する、請求項1~48のいずれか1項に記載の動物。
【請求項50】
前記動物が、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、1つ以上のヒトIGHV遺伝子、1つ以上のヒトIGHD遺伝子、及び1つ以上のヒトIGHJ遺伝子を含み、ここで、前記ヒトIGHV遺伝子、前記ヒトIGHD遺伝子、及び前記ヒトIGHJ遺伝子が作動可能に連結されており、VDJ再配列を受けることができる、請求項1~49のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項51】
前記動物が、表1から選択される少なくとも150個のヒトIGHV遺伝子、表2から選択される少なくとも20個のヒトIGHD遺伝子、及び表3から選択される少なくとも5個のヒトIGHJ遺伝子を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項52】
前記動物が、ヒト対象のヒト第14染色体の前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、全てのヒトIGHV遺伝子、全てのヒトIGHD遺伝子、及び全てのヒトIGHJ遺伝子を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項53】
前記動物が、ヒト細胞のヒト第14染色体の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、全てのヒトIGHV遺伝子、全てのヒトIGHD遺伝子、及び全てのヒトIGHJ遺伝子を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項54】
前記動物がマウスであり、前記動物の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における前記遺伝子改変が、表4の1つ以上のマウスIGHV遺伝子、表5の1つ以上のマウスIGHD遺伝子、及び/又は表6の1つ以上のマウスIGHJ遺伝子の欠失を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項55】
前記動物がマウスであり、前記動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座における前記遺伝子改変が、マウスIGHV1-85遺伝子からマウスIGHJ4遺伝子までの連続配列の欠失を含む、請求項54に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項56】
前記動物が、ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含み、ここで、前記未改変ヒト配列が少なくとも800kbである、請求項50のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項57】
前記動物が、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV1-2までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項58】
前記動物が、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV6-1までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項59】
前記動物が、ヒトIGHD1-1からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項60】
前記動物が、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む、請求項50に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項61】
ゲノムが、前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、1つ以上のヒトIGHV、ヒトIGHD、及びヒトIGHJ遺伝子による1つ以上の内因性IGHV、内因性IGHD、及び内因性IGHJ遺伝子の置換を含み、ここで、ヒトIGHV、ヒトIGHD、及びヒトIGHJ遺伝子が、内因性IGHM、IGHδ、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1、及びIGHA遺伝子の1つ以上に作動可能に連結されている、請求項1~49のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項62】
1つ以上の内因性IGHV遺伝子、内因性IGHD遺伝子、及び内因性IGHJ遺伝子が、表1の少なくとも150個のヒトIGHV遺伝子、表2の少なくとも20個のヒトIGHD遺伝子、及び表3の少なくとも5個のヒトIGHJ遺伝子で置き換えられている、請求項61に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項63】
前記動物がマウスであり、表4の少なくとも180個のマウスIGHV遺伝子、表5の全てのマウスIGHD遺伝子、及び表6の全てのマウスIGHJ遺伝子が置き換えられている、請求項61又は62に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項64】
前記動物が前記免疫グロブリン重鎖遺伝子座に関してホモ接合性である、請求項1~63のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項65】
前記動物が前記免疫グロブリン重鎖遺伝子座に関してヘテロ接合性である、請求項1~63のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項66】
前記動物が内因性軽鎖免疫グロブリン遺伝子座を含む、請求項1~65のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項67】
前記動物が前記内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座に破壊を含む、請求項1~65のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項68】
前記動物が、内因性重鎖可変ドメインをコードする核酸配列を再配列及び形成することが可能な内因性免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座を欠いている、請求項1~67のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項69】
前記動物がヒト化抗体を産生することができる、請求項1~68のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項70】
前記動物が哺乳動物である、請求項1~53、56~62、及び64~69のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項71】
前記動物がげっ歯類である、請求項11~53、56~62、及び64~70に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項72】
前記動物がマウスである、請求項1~53、56~62、及び64~71に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項73】
前記動物が実質的に正常なB細胞の発達及び成熟を有する、請求項1~72のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項74】
請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物から得られた、細胞。
【請求項75】
前記細胞が、1つ以上のヒトIGHV遺伝子、1つ以上のヒトIGHD遺伝子、及び1つ以上のヒトIGHJ遺伝子の再配列に由来する免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含むキメラ免疫グロブリン重鎖を発現するB細胞であり、ここで、前記免疫グロブリン重鎖可変ドメインが、非ヒト重鎖定常領域に作動可能に連結されている、請求項74に記載の細胞。
【請求項76】
前記細胞が胚性幹(ES)細胞である、請求項74又は75に記載の細胞。
【請求項77】
抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法であって、
a)請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物を前記抗原に曝露することと、
b)前記動物から採取した細胞からハイブリドーマを作製することと、
c)前記ハイブリドーマによって産生された重鎖抗体を採取することと、
を含む、方法。
【請求項78】
前記方法が、前記ハイブリドーマのゲノムを配列決定することをさらに含む、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法であって、
a)請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物を前記抗原に曝露することと、
b)前記抗原に特異的に結合する重鎖抗体を発現する細胞内でヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸を配列決定することと、
c)細胞内で、前記ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする前記核酸を、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域をコードする核酸と作動可能に連結することと、
を含む、方法。
【請求項80】
抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法であって、
a)前記抗原に特異的に結合する重鎖抗体を発現する細胞内でヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸配列を得ることであって、前記細胞が、請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物を前記抗原に曝露することによって得られたものであり、
b)前記ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする前記核酸を、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域をコードする核酸と作動可能に連結することと、
c)細胞内で核酸を発現させ、それによって前記抗体を得ることと、
を含む、方法。
【請求項81】
抗原に特異的に結合する抗体結合ドメインをコードする核酸を得る方法であって、
a)請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物を前記抗原に曝露することと、
b)前記抗原に特異的に結合する重鎖抗体を発現する細胞内でヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸を配列決定することと、
を含む、方法。
【請求項82】
抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法であって、
a)請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物を前記抗原に曝露することと、
b)前記動物の免疫細胞(例えば、脾臓細胞)から調製したRNAを使用してファージプラスミドライブラリを構築することと、
c)前記ファージプラスミドライブラリをスクリーニングすることと、
d)前記抗原に特異的に結合する重鎖抗体をコードするファージプラスミドから、ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸を配列決定することと、
を含む、方法。
【請求項83】
前記スクリーニングが、前記抗原に対する結合親和性に基づいて免疫グロブリン重鎖可変領域を発現するファージを単離することを含む、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
サンプルを取得する方法であって、
a)請求項1~73のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物を前記抗原に曝露することと、
b)前記動物からサンプルを採取することと、
を含む、方法。
【請求項85】
前記サンプルが免疫細胞、リンパ組織、脾臓組織、脾臓細胞、又はB細胞である、請求項84に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2022年9月16日に提出されたPCT/CN2022/119188及び2022年12月2日に提出されたPCT/CN2022/136246に対する優先権を主張する。上述の内容全体が参照により、本明細書に組み込まれている。
【0002】
技術分野
本開示は、遺伝子改変動物及び重鎖抗体を産生するための方法に関する。本開示は、抗TFR1抗体、抗原結合断片、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
治療用抗体は、最も急速に成長しているクラスの治療用化合物の1つであり、低分子医薬品の成長を急速に上回っている。例えば、モノクローナル抗体は癌治療に革命をもたらした。しかし、従来の抗体はサイズが大きいため、インビボでの腫瘍細胞への送達が妨げられている。従来の抗体の最小標的認識モジュールは、非共有結合した2つの可変ドメイン(VHとVL)で構成されている。VHドメインとVLドメインの固有の疎水性相互作用により、操作された抗体の安定性と溶解性が制限され、多くの場合、Vドメインの凝集及び/又は誤対合が発生する。
【0004】
重鎖抗体の発見により、癌治療に影響を与える前例のない機会をもたらされた。これらの独特な形態のラクダ科動物由来の抗体には、軽鎖全体とCH1ドメインが欠かれており、VHHと呼ばれる単一の可変ドメインのみで構成されている。組換えVHHは小さく(15~20kDa)、厳密に単量体である。それらは、nMの親和性のみならず広いpH範囲と温度範囲で安定な状態でそれらの標的に結合する。分子操作はVHHでもより容易であり、これにより、凝集や親和性の低下により問題となる従来の組換え抗体とそれらの断片と比較して、多価形式のモノクローナル抗体の産生が容易になる。さらに、VHHは、従来の抗体に対して免疫原性が低いエピトープに結合することがよくある。
【0005】
通常、治療用抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。ヒト抗体又はヒト化抗体は、げっ歯類抗体(例えば、マウス抗体)のヒト化によって、又はファージライブラリを使用することによって生成できる。しかし、これらの動物やファージライブラリは通常、重鎖抗体を産生できない。代わりに、重鎖抗体はしばしばラクダ科動物の重鎖抗体から得られる。これらのラクダ科動物の重鎖抗体はヒト化する必要がある。ヒト化プロセスは結合親和性に悪影響を及ぼし、抗体に免疫原性エピトープを導入する可能性がある。これらの抗体の特性を改善するには、反復的で時間のかかる実験がしばしば必要とされる。また、場合によっては、これらの抗体が患者において免疫原性を示すこともあり、時間の経過と共にそれらの有効性の減弱をもたらす。したがって、ヒト又はヒト化重鎖抗体及びナノボディを産生するための効率的かつ信頼できるプラットフォームが必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ヒト化免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座及び切断免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座を有する遺伝子改変動物及び細胞に関する。例えば、IGHG1遺伝子内のCH1コード領域をノックアウトして、発現したIgGにCH1ドメインが含まれないようにすることができる。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン軽鎖(例えば、κ及びλ)遺伝子座もノックアウトされる。免疫付与すると、動物は高い親和性/多様性を持つ重鎖抗体を産生できる。いくつかの実施形態において、重鎖抗体をさらに処理してナノボディを生成することができる。
【0007】
一態様では、本開示は、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含む遺伝子改変非ヒト動物に関し、いくつかの実施形態において、上記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座はIgG定常領域遺伝子を含み、いくつかの実施形態において、上記IgG定常領域遺伝子はCH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域をコードし、いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変非ヒト動物は重鎖抗体を発現する。いくつかの実施形態において、上記動物は正確に1つのIgG定常領域遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記IgG重鎖定常領域遺伝子はIGHG1である。いくつかの実施形態において、上記IgG重鎖定常領域は、CH2ドメイン及びCH3ドメイン、並びに任意選択でヒンジ領域を含むか、又はそれらからなる。
【0008】
一態様では、本開示は、ゲノムが、IGHG3、IGHG2b、及びIGHG2c遺伝子の欠失と、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHG1遺伝子のCH1エクソンの欠失とを含む生殖細胞系遺伝子改変を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、上記生殖細胞系遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性IGHE遺伝子の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ2b、Sγ2c、及びSεスイッチ領域の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子を含み、いくつかの実施形態において、上記改変IGHG1遺伝子は、配列番号1と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ3スイッチ領域の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物のゲノムは、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHM、IGHδ、IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性IGHM遺伝子及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物ゲノムは、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記Sμ及びSγ1スイッチ領域は、配列番号8と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結されている。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1コード配列の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物のゲノムは、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHδ、IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記Sμスイッチ領域及び上記改変IGHM遺伝子は、配列番号10と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結されている。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1エクソンの欠失及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物のゲノムは、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1エクソンの欠失及びIGHδ遺伝子のCH1コード配列の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物のゲノムは、内因性Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHδ遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記改変IGHM遺伝子は、配列番号10と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結されており、上記改変IGHδ遺伝子は、配列番号41と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む。いくつかの実施形態において、上記改変IGHM遺伝子は、配列番号13と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ1スイッチ領域の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物のゲノムは、内因性Sμ、Sγ3、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び内因性IGHM、IGHδ、IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性Sγ3スイッチ領域の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変は、上記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における内因性IGHM遺伝子及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記動物のゲノムは、内因性Sμ、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及び上記内因性IGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記Sμスイッチ領域及び上記改変IGHG1遺伝子は、配列番号9と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結される。いくつかの実施形態において、改変ゲノムは機能的IGHM遺伝子を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、ゲノム内の配列が同じ配列又は同じ動物からの配列で置き換えられる場合でも、動物は依然として内因性配列を有することができる。
【0010】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0011】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ3スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、IGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ3スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0012】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0013】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0014】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、IGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0015】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0016】
一態様では、本開示は、ゲノムが、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、5’から3’の順序で、以下の要素:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、を含む遺伝子改変非ヒト動物に関する。いくつかの実施形態において、要素は作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下の機能遺伝子及びスイッチ領域:Sμスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHδ遺伝子、Sγ1スイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1遺伝子、Sαスイッチ領域、及びIGHA遺伝子、からなる。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記動物は、CH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域を含む重鎖抗体を発現する。いくつかの実施形態において、上記重鎖抗体は、10-7M未満、10-8M未満、又は10-9M未満のKDで標的抗原に結合する。いくつかの実施形態において、上記重鎖抗体は、可変領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むか、又はそれらからなる。いくつかの実施形態において、上記重鎖抗体は、膜貫通ドメイン及び/又は細胞質ドメインをさらに含む。いくつかの実施形態において、上記遺伝子改変非ヒト動物は、軽鎖を含むIgG抗体を発現しない。いくつかの実施形態において、上記動物は、IgM、IgD、及び/又はIgA(例えば、機能的IgM、IgD、及び/又はIgA)を発現する。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記動物は、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、1つ以上のヒトIGHV遺伝子、1つ以上のヒトIGHD遺伝子、及び1つ以上のヒトIGHJ遺伝子を含み、いくつかの実施形態において、上記ヒトIGHV遺伝子、上記ヒトIGHD遺伝子、及び上記ヒトIGHJ遺伝子は作動可能に連結されており、VDJ再配列を受けることができる。いくつかの実施形態において、上記動物は、表1から選択される少なくとも150個のヒトIGHV遺伝子、表2から選択される少なくとも20個のヒトIGHD遺伝子、及び表3から選択される少なくとも5個のヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒト対象のヒト第14染色体の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、全てのヒトIGHV遺伝子、全てのヒトIGHD遺伝子、及び全てのヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒト細胞のヒト第14染色体の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、全てのヒトIGHV遺伝子、全てのヒトIGHD遺伝子、及び全てのヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記動物の内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座における前記遺伝子改変は、表4の1つ以上のマウスIGHV遺伝子、表5の1つ以上のマウスIGHD遺伝子、及び/又は表6の1つ以上のマウスIGHJ遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、上記動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座における遺伝子改変は、マウスIGHV1-85遺伝子からマウスIGHJ4遺伝子までの連続配列の欠失を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含み、いくつかの実施形態において、上記未改変ヒト配列は少なくとも800kbである。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV1-2までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV6-1までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒトIGHD1-1からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変ヒト配列を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物は、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座において、1つ以上のヒトIGHV、ヒトIGHD、及びヒトIGHJ遺伝子による1つ以上の内因性IGHV、内因性IGHD、及び内因性IGHJ遺伝子の置換を含むゲノムを有し、いくつかの実施形態において、ヒトIGHV、ヒトIGHD、及びヒトIGHJ遺伝子が、内因性IGHM、IGHδ、CH1ドメインをコードする配列を欠くIGHG1、及びIGHA遺伝子の1つ以上に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、1つ以上の内因性IGHV、内因性IGHD、及び内因性IGHJ遺伝子が、表1の少なくとも150個のヒトIGHV遺伝子、表2の少なくとも20個のヒトIGHD遺伝子、及び表3の少なくとも5個のヒトIGHJ遺伝子で置き換えられる。いくつかの実施形態において、上記動物はマウスであり、表4の少なくとも180個のマウスIGHV遺伝子、表5の全てのマウスIGHD遺伝子、及び表6の全てのマウスIGHJ遺伝子が置き換えられる。いくつかの実施形態において、上記動物は免疫グロブリン重鎖遺伝子座に関してホモ接合性である。いくつかの実施形態において、上記動物は免疫グロブリン重鎖遺伝子座に関してヘテロ接合性である。いくつかの実施形態において、上記動物は内因性軽鎖免疫グロブリン遺伝子座を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、内因性免疫グロブリン軽鎖遺伝子座に破壊を含む。いくつかの実施形態において、上記動物は、内因性重鎖可変ドメインをコードする核酸配列を再配列及び形成することが可能な内因性免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座を欠いている。いくつかの実施形態において、上記動物はヒト化抗体を産生することができる。いくつかの実施形態において、上記動物は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、上記動物はげっ歯類である。いくつかの実施形態において、動物はマウスである。いくつかの実施形態において、上記動物は実質的に正常なB細胞の発達及び成熟を有する。
【0020】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物から得られた細胞に関する。いくつかの実施形態において、上記細胞は、1つ以上のヒトIGHV遺伝子、1つ以上のヒトIGHD遺伝子、及び1つ以上のヒトIGHJ遺伝子の再配列に由来する免疫グロブリン重鎖可変ドメインを含むキメラ免疫グロブリン重鎖を発現するB細胞であり、いくつかの実施形態において、上記免疫グロブリン重鎖可変ドメインは、非ヒト重鎖定常領域に作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、上記細胞は胚性幹(ES)細胞である。
【0021】
一態様では、本開示は、抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法に関し、上記方法は、a)本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を上記抗原に曝露することと、b)上記動物から採取した細胞からハイブリドーマを作製することと、c)上記ハイブリドーマによって産生された重鎖抗体を採取することと、を含む。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記ハイブリドーマのゲノムを配列決定することをさらに含む。
【0022】
一態様では、本開示は、抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法に関し、上記方法は、a)本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を上記抗原に曝露することと、b)上記抗原に特異的に結合する重鎖抗体を発現する細胞内でヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸を配列決定することと、c)細胞内で、上記ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする上記核酸を、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域をコードする核酸と作動可能に連結することと、を含む。
【0023】
一態様では、本開示は、抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法に関し、上記方法は、a)上記抗原に特異的に結合する重鎖抗体を発現する細胞内でヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸配列を得ることであって、いくつかの実施形態において、上記細胞は、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を上記抗原に曝露することによって得られたものであり、b)上記ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする上記核酸を、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域をコードする核酸と作動可能に連結することと、c)細胞内で核酸を発現させ、それによって上記抗体を得ることと、を含む。
【0024】
一態様では、本開示は、抗原に特異的に結合する抗体結合ドメインをコードする核酸を取得する方法に関し、上記方法は、a)本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を上記抗原に曝露することと、b)上記抗原に特異的に結合する重鎖抗体を発現する細胞内でヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸を配列決定することと、を含む。
【0025】
一態様では、本開示は、抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法に関し、上記方法は、a)本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を上記抗原に曝露することと、b)上記動物の免疫細胞(例えば、脾臓細胞)から調製したRNAを使用してファージプラスミドライブラリを構築することと、c)ファージプラスミドライブラリをスクリーニングすることと、d)上記抗原に特異的に結合する重鎖抗体をコードするファージプラスミドから、ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域をコードする核酸を配列決定することと、を含む。いくつかの実施形態において、スクリーニングは、上記抗原に対する結合親和性に基づいて免疫グロブリン重鎖可変領域を発現するファージを単離することを含む。
【0026】
一態様では、本開示は、サンプルを取得する方法に関し、上記方法は、a)本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を上記抗原に曝露することと、b)上記動物から上記サンプルを採取することと、を含む。いくつかの実施形態において、上記サンプルは免疫細胞、リンパ組織、脾臓組織、脾臓細胞、又はB細胞である。
【0027】
一態様では、本開示は、相補性決定領域(CDR)1、2、及び3を含む重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含む、トランスフェリン受容体1(TFR1)に結合する抗体又はその抗原結合断片に関し、いくつかの実施形態において、VHH CDR1領域は、選択されたVHH CDR1アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、VHH CDR2領域は、選択されたVHH CDR2アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、かつVHH CDR3領域は、選択されたVHH CDR3アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含み、いくつかの実施形態において、選択されたVHH CDR1、2、及び3アミノ酸配列は、以下の1つである:
(1)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号42、43、及び44に示され、
(2)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号45、46、及び47に示され、
(3)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号48、49、及び50に示され、
(4)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号51、52、及び53に示され、
(5)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号54、55、及び56に示され、
(6)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号57、58、及び59に示され、
(7)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号60、61、及び62に示され、並びに
(8)選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列は、それぞれ配列番号63、64、及び65に示される。
【0028】
いくつかの実施形態において、VHHは、それぞれ配列番号42、43、及び44に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む。いくつかの実施形態において、VHHは、それぞれ配列番号45、46、及び47に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む。いくつかの実施形態において、VHHは、それぞれ配列番号48、49、及び50に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む。いくつかの実施形態において、VHHは、それぞれ配列番号51、52、及び53に示されるアミノ酸配列を有するCDR1、2、3を含む。
【0029】
一態様では、本開示は、選択されたVHH配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖単一可変領域(VHH)を含む、TFR1に結合する抗体又はその抗原結合断片に関し、いくつかの実施形態において、選択されたVHH配列は、配列番号66、67、68、及び69からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、VHHは配列番号66の配列を含む。いくつかの実施形態において、VHHは配列番号67の配列を含む。いくつかの実施形態において、VHHは配列番号68の配列を含む。いくつかの実施形態において、VHHは配列番号69の配列を含む。いくつかの実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、ヒトTFR1、サルTFR1、マウスTFR1、又はキメラTFR1に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、ヒト又はヒト化抗体若しくはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。
【0030】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片のVHH CDR1、2、3を含む抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0031】
いくつかの実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、ヒトIgG Fc(例えば、ヒトIgG1 Fc)を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG Fcは、EU番号付けによる位置297に非アスパラギン残基(例えば、アラニン)を含む。いくつかの実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、2つ以上の重鎖単一可変ドメインを含む。
【0032】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを含む核酸に関する。いくつかの実施形態において、核酸はcDNAである。
【0033】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される核酸の1つ以上を含むベクターに関する。
【0034】
一態様では、本開示は、本明細書に記載されるベクターを含む細胞に関する。いくつかの実施形態において、細胞はCHO細胞である。一態様では、本開示は、本明細書に記載される核酸の1つ以上を含む細胞に関する。
【0035】
一態様では、本開示は、抗体又はその抗原結合断片の産生方法に関し、上記方法は、(a)本明細書に記載される細胞を、当該細胞が、抗体又はその抗原結合断片を産生するのに十分な条件下で培養することと、(b)上記細胞により産生される抗体又はその抗原結合断片を収集することと、を含む。
【0036】
一態様では、本開示は、治療剤に共有結合した、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片を含む、抗体薬物コンジュゲートに関する。いくつかの実施形態において、治療剤は、細胞毒性剤又は細胞増殖抑制剤である。
【0037】
一態様では、本開示は、脳疾患(例えば、脳癌)を有する対象の治療方法に関し、上記方法は、治療有効量の、本明細書に記載される、抗体若しくはその抗原結合断片を含む組成物、又は抗体薬物コンジュゲートを、上記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、抗体若しくはその抗原結合断片、又は抗体薬物コンジュゲートは、対象の血液脳関門(BBB)を通過することができる。
【0038】
一態様では、本開示は、癌を有する対象の治療方法に関し、上記方法は、治療有効量の、本明細書に記載される、抗体若しくはその抗原結合断片を含む組成物、又は抗体薬物コンジュゲートを、上記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、癌は、脳癌、肺癌、胃癌、結腸直腸癌、肝臓癌、卵巣癌、前立腺癌、白血病、又は乳癌である。一態様では、本開示は、対象が脳疾患(例えば、脳癌)を有すると同定する方法に関し、上記方法は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片によって、上記対象から採取されたサンプルから脳疾患を有するものを検出し、それによって上記対象を脳疾患を有すると同定することを含む。いくつかの実施形態において、サンプルは対象からの脳実質サンプルである。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される対象はヒト対象である。
【0039】
一態様では、本開示は、血液脳関門を通過するように薬剤を送達する方法に関し、上記方法は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片に共有結合した薬剤を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、薬剤は抗体又は抗体薬物コンジュゲートである。いくつかの実施形態において、薬剤は抗アミロイド抗体である。
【0040】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物に関する。一態様では、本開示は、本明細書に記載される抗体薬物コンジュゲートと、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物に関する。
【0041】
一態様では、本開示は、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片と交差競合する、抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0042】
一態様では、本開示は、抗原に特異的に結合する抗体を作製する方法を提供する。上記方法は、本明細書に記載される動物を上記抗原に曝露することと、上記抗原に特異的に結合するキメラ重鎖抗体を発現する細胞内でヒト重鎖免疫グロブリン可変領域をコードする核酸の配列を取得することと(例えば、配列決定により)、細胞内で、上記ヒト重鎖免疫グロブリン可変領域をコードする上記核酸を、ヒト重鎖免疫グロブリン定常領域をコードする核酸と作動可能に連結することと、を含む。
【0043】
本開示は、非ヒト哺乳動物の子孫にも関する。いくつかの実施形態において、非ヒト哺乳動物はげっ歯類である。いくつかの実施形態において、非ヒト哺乳動物はマウスである。
【0044】
本開示は、本明細書に記載されるターゲティングベクターを含む細胞もまた提供する。本開示はまた、非ヒト哺乳動物又はその子孫に由来する細胞(例えば、幹細胞、胚性幹細胞、免疫細胞、B細胞、T細胞、又はハイブリドーマ)又は細胞株、又はその一次細胞培養物に関する。本開示はさらに、非ヒト哺乳動物又はその子孫に由来する組織、器官、又はその培養物に関する。
【0045】
本開示はさらに、免疫付与プロセスに関連する製品の開発、ヒト抗体の製造、又は薬理学、免疫学、微生物学、及び医学の研究のためのモデルシステムにおける、非ヒト哺乳動物又はその子孫、本明細書に記載される方法によって生成された動物モデルの使用に関する。
【0046】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明で使用するための方法及び材料が、本明細書に記載され、他の好適な、当該技術分野において周知の方法及び材料もまた使用することができる。材料、方法、及び例は、例示に過ぎず、限定的であることは意図されない。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ、及び他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれている。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が優先する。
【0047】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図2】IgM、IgD、IgG、IgE、及びIgA免疫グロブリンアイソタイプの概略構造を示す。マウスとヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座遺伝子が整列され、対応する名前で標識される。
【
図3】マウス免疫グロブリン重鎖遺伝子座の定常領域遺伝子を示す概略図である。エクソンCH1、H、CH2、CH3、M1、及びM2を含むCγ1遺伝子構造を示す。
【
図4】マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座における遺伝子改変後の変異対立遺伝子を示す。
【
図5】Cγ1ΔCH1の遺伝子構造を示す。CH1コード領域は、欠落しているか(左)、又はNeoカセットで置き換えられている(右)。
【
図6】ターゲティングベクターV1を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座におけるSγ3からCεまでの100883bpの配列を、マウスSγ1及びCγ1ΔCH1ノックイン配列を含む16076bpの配列で1回のステップで置き換えて、変異対立遺伝子1を生成した。
【
図7】ターゲティングベクターV2を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座におけるCγ3からCεまでの92859bpの配列を、Cγ1ΔCH1ノックイン配列を含む配列で1回のステップで置き換えて、変異対立遺伝子1’を生成した。
【
図8】ターゲティングベクターV3を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。CμとCδを含む16434bpの配列を変異対立遺伝子1からノックアウトして、変異対立遺伝子2を生成した。
【
図9】ターゲティングベクターV4を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。SμとCγ1ΔCH1’が直接接続するように、Cμ、Cδ、Sγ1を含む配列を変異対立遺伝子1からノックアウトし、変異対立遺伝子2’を生成した。
【
図10】ターゲティングベクターV5を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。Cμ中のCH1コード配列を変異対立遺伝子1からノックアウトして、変異対立遺伝子3を生成した。
【
図11】ターゲティングベクターV6を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。Cμ中のCH1コード配列とCδ全体を変異対立遺伝子1からノックアウトして、変異対立遺伝子4を生成した。
【
図12】ターゲティングベクターV7を使用した遺伝子改変のワークフローを示す(実施例3)。Cμ中のCH1コード配列とCδ中のCH1コード配列を変異対立遺伝子1からノックアウトして、変異対立遺伝子5を生成した。
【
図13】変異対立遺伝子1の遺伝子型を検証するためにそれぞれプライマーペアL-GT-F1/L-GT-R1及びR-GT-F2/R-GT-R2を使用したPCRアッセイの結果を示す。WTは野生型対照である。H2Oはブランク対照である。Mはマーカーである。
【
図14】(A)BclIで消化され、LRプローブとハイブリダイズされた変異対立遺伝子1陽性クローンのサザンブロット結果を示す。Mはマーカーである。WTは野生型である。(B)ScaIで消化され、3’プローブとハイブリダイズされた変異対立遺伝子1陽性クローンのサザンブロット結果を示す。Mはマーカーである。WTは野生型である。(C)XmnIで消化され、Aプローブとハイブリダイズされた変異対立遺伝子1陽性クローンのサザンブロット結果を示す。Mはマーカーである。WTは野生型である。(D)BglIIで消化され、5’プローブとハイブリダイズされた変異対立遺伝子1陽性クローンのサザンブロット結果を示す。Mはマーカーである。WTは野生型である。
【
図15】変異対立遺伝子2におけるCμからCδまでの配列のノックアウトを検証するためにプライマーDE-F1及びDE-R1を使用したPCRアッセイの結果を示す。
【
図16】変異対立遺伝子2’におけるCμからSγ1までの配列のノックアウトを検証するためにプライマーGT-Mut-F、GT-Mut-R及びGT-WT-Rを使用したPCRアッセイの結果を示す。
【
図17】変異対立遺伝子3におけるCμのCH1コード配列のノックアウトを検証するためにプライマーGT-3F及びGT-3Rを使用したPCRアッセイの結果を示す。
【
図18A】変異対立遺伝子4におけるCμΔCH1の配列を検証するためにプライマーMut-F及びMut-Rを使用したPCRアッセイの結果を示す。WTは野生型対照である。H2Oはブランク対照である。
【
図18B】変異対立遺伝子4におけるCδの非存在を検証するためにプライマーF4及びR4を使用したPCRアッセイの結果を示す。
【
図19】変異対立遺伝子5におけるCμΔCH1とCδΔCH1の配列を検証するためにプライマーペアMut-F/Mut-RとF3/R3を使用したPCRアッセイの結果を示す。WTは野生型対照である。H2Oはブランク対照である。
【
図20】ヒト免疫グロブリン遺伝子をマウスゲノムに導入する方法の例示的なフローチャートである。
【
図21】マウス免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座配列をヒト免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座配列で置き換えることの概要である。
【
図22】ヘテロ接合Mut3マウスを抗原Aで免疫化することにより産生された抗体の重鎖可変領域におけるCDR3の長さ分布を示す。
【
図23】重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてヘテロ接合性であるマウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図24】抗原Aに対するヘテロ接合Mut3マウス(H/-)で産生された抗体のKD値分布を示す。
【
図25】抗原Aに対するホモ接合Mut2マウスで産生された抗体のKD値分布を示す。
【
図26】ホモ接合Mut2マウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図27】染色体14(14q32.33)上のヒト免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子座を示す概略図である。
【
図28-1】マウス(Mus musculus)の第12染色体(12F2)上のIGH遺伝子座(株C57BL/6)を示す概略図である。
【
図29-1】ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座(IGH)のIMGTレパートリーを列挙する。
【
図30-1】マウスIGHのIMGTレパートリーを列挙する。
【
図32】それぞれ変異対立遺伝子2’、変異対立遺伝子3、及び変異対立遺伝子4遺伝子型を有するマウスにおける血清IgGレベルのウェスタンブロット結果を示す。Biot.Ladderはタンパク質マーカーである。WTは野生型マウスを表す。
【
図33】ヘテロ接合Mut3マウスをヒト4-1BBで免疫化することにより産生された抗体の重鎖可変領域におけるCDR3の長さ分布を示す。
【
図34】重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性であるマウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図35】ヘテロ接合Mut3マウスをヒトCD3ED及びカニクイザルCD3EDで免疫化することにより産生された抗体の重鎖可変領域におけるCDR3の長さ分布を示す。
【
図36】重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性であるマウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図37】Kabat番号付けによる抗TFR1抗体の重鎖可変領域のCDR配列を列挙する。
【
図38】IMGT番号付けによる抗TFR1抗体の重鎖可変領域のCDR配列を列挙する。
【
図39】抗TFR1抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を列挙する。
【
図40A】hIgG1(G1)、JR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、24G5-N(G5)、又は24C9-N(G6)の静脈内(i.v.)投与の72時間以内にhTFR1マウスの全脳タンパク質中の抗体濃度を示す。
【
図40B】hIgG1(G1)、JR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、24G5-N(G5)、又は24C9-N(G6)の静脈内(i.v.)投与の72時間以内にhTFR1マウスの脳総タンパク質中の抗体濃度と血清抗体濃度との比を示す。
【
図40C】hIgG1(G1)、JR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、24G5-N(G5)、又は24C9-N(G6)の静脈内(i.v.)投与の72時間以内にhTFR1マウスの脳実質中の抗体濃度を示す。
【
図40D】hIgG1(G1)、JR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、24G5-N(G5)、又は24C9-N(G6)の静脈内(i.v.)投与の72時間以内にhTFR1マウスの脳実質中の抗体濃度と血清抗体濃度との比を示す。
【
図41】(A)hIgG1(G1)、JR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、又は24G5-N(G5)の静脈内(i.v.)投与の24時間後の脳実質中の抗体濃度試験の結果を示す。(B)hIgG1(G1)、JR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、又は24G5-N(G5)の静脈内(i.v.)投与の24時間後の脳総タンパク質(全脳)中の抗体濃度試験の結果を示す。
【
図42】JR141-N(G2~G4)又は24G5-N(G5~G7)の静脈内(i.v.)投与の6時間又は24時間後の抗体濃度の結果を示す。hIgG1は陰性対照として使用した。
【
図43】重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性であるマウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図44】ヘテロ接合Mut2’マウス(H/-)における可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図45】ヒト血清アルブミンに対するヘテロ接合Mut2’マウス(H/-)で産生された抗体のKD値分布を示す。
【
図46】重鎖変異対立遺伝子4遺伝子型についてホモ接合性であるマウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【
図47】重鎖変異対立遺伝子5遺伝子型についてホモ接合性であるマウスにおける可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本開示は、遺伝子改変動物及び重鎖抗体を産生するための方法に関する。
【0050】
重鎖抗体(又は重鎖のみの抗体)は、重鎖(一般に2つの重鎖)のみを有し、抗体に通常見られる2つの軽鎖を欠いている抗体である。天然に存在する重鎖抗体は、軟骨魚類(サメなど)及びラクダ科動物(ラマなど)で発見されている。例えば、軟骨魚類では、免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR)は重鎖抗体である。IgNARは、他の抗体とは構造的に大きな違いがある。これは、1本の鎖に通常の3つの代わりに5つの定常ドメイン(CH)があり、通常とは異なる位置にいくつかのジスルフィド結合があり、相補性決定領域3(CDR3)は他の抗体の軽鎖に結合する部位をカバーする延長ループを形成する。これらの違いは、軟骨魚類の系統発生年代と組み合わせて、IgNARが哺乳動物の免疫グロブリンよりも原始的な抗原結合タンパク質に密接に関連している可能性があるという仮説につながる。
【0051】
重鎖(IgG様)抗体を有する唯一の哺乳動物は、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマ及びアルパカなどのラクダ科動物である。全ての哺乳動物と同様に、ラクダ科動物(ラマなど)は、ジスルフィド結合でY字型に結合した2つの重鎖と2つの軽鎖からなる従来の抗体(IgG1など)を産生できる。しかし、それらはまた、IgG2とIgG3というIgGの2つの独特なサブクラス(重鎖IgGとも呼ばれる)を産生する。これらの抗体は、CH1領域を欠いているものの、依然としてそれらのN末端に抗原結合ドメイン(例えば、VHH)を有する2つの重鎖のみで構成されている。従来のIgでは、抗原抗体相互作用の高い多様性を可能にするために、重鎖と軽鎖の両方の可変領域の組み合わせが必要である。単独の重鎖と軽鎖は依然としてこの能力を示すが、ペアになった重鎖と軽鎖と比較すると、非常に低い親和性を示す。重鎖IgGの独特な特徴は、それらのモノマー抗原結合領域が、別の領域と対になる必要がなく、従来の抗体に匹敵する特異性、親和性、及び特に多様性で抗原に結合する能力である。この特徴は主に、2つの重鎖の可変領域のアミノ酸配列内のいくつかの主要な変異によるもので、従来のIgと比較すると大きな構造変化を引き起こす。可変領域における主要な置換により、軽鎖が重鎖に結合することが防止されるだけでなく、結合していない重鎖が免疫グロブリン結合タンパク質によってリサイクルされることも防止される。
【0052】
これらの重鎖抗体の単一可変ドメイン(VHH、sdAb、又はナノボディと指定する)は、適応免疫系によって生成される最小の抗原結合ドメインである。これらの抗体の可変領域の相補性決定領域3(CDR3)は、従来の抗体の2倍の長さであることがよく知られている。その結果、抗原との相互作用面が拡大し、抗原-抗体相互作用の多様性も増加し、軽鎖の欠如を補うことになる。長い相補性決定領域3(CDR3)により、VHHは、酵素の活性部位やウイルス表面上の受容体結合キャニオンなどの、機能的に興味深い部位を含む、従来の抗体にアクセスできないタンパク質上の隙間まで拡張できる。さらに、システイン残基を追加することで構造がより安定し、したがって相互作用の強度が高まる。
【0053】
VHHは、従来の抗体の可変ドメイン(VH及びVL)を持つ従来の抗体と比較して、より高い安定性、溶解性、発現収量、及びリフォールディング能力、並びにより良好なインビボ組織浸透を含む、数多くの他の利点を提供する。さらに、従来の抗体のVHドメインとは対照的に、VHHは軽鎖に結合する本質的な傾向を示さない。これにより、機能的な軽鎖遺伝子座の存在下で重鎖抗体の誘導が促進される。さらに、VHHはVLドメインに結合しないため、従来のVH-VLペア、又はVHドメインに基づく単一ドメインを含有するコンストラクトよりも、VHHを二重特異性抗体コンストラクトに再フォーマットする方がはるかに簡単である。
【0054】
ラクダ科動物VHHとヒトVHドメインとの間の顕著な違いは、CDR3ループの長さと配向である。CDR3は、B細胞の発達中に新たに生成されるDNA要素によってコードされる抗体分子の独特な領域に対応する。遺伝子組換えの結果、D要素と隣接するV要素及びJ要素が融合する。組換えの際には、接合部におけるヌクレオチドの追加及び/又は削除によってさらなる遺伝的多様性が生成される。これにより、CDR3ループは抗体の多様性と特異性に主要な寄与を提供する。一部の初期のトランスジェニック重鎖抗体動物では可変領域遺伝子(IGHV、IGHD、及びIGHJ)の数が限られているため、野生型動物による強力な抗原応答にもかかわらず、これらの動物では一部の抗原が認識されない(Janssens,Rick,etal. “Generation of heavy-chain-only antibodies in mice.” Proceedings of the National Academy of Sciences 103.41(2006):15130-15135)。本開示は、完全なヒト重鎖抗体レパートリーを有する遺伝子改変動物を提供する。したがって、これらの動物によって生成された可変ドメインは、ヒト重鎖可変ドメインに対して最大の可能な多様性を持つことができ、それによって完全にヒト化された重鎖抗体を取得する可能性が最大化される。
【0055】
さらに、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全配列が動物ゲノムに導入されるため(改変なし又は限定的な改変のみ)、これらの遺伝子は、ヒトで起こるものと非常に似た方法でV(D)J組換えを受けることができ、ヒトの免疫系で認識できる新しい免疫原性エピトープが生成されるリスクが軽減され、それによって免疫原性が低下する。免疫原性により抗薬物抗体が生成され、有効性を含む可能性がある。ここでは、内因性IGHV、IGHD、及びIGHJ遺伝子が効果的に削除されている。抗体レパートリーによって生成された抗体がヒトにおいて免疫原性を持つ可能性は低い。さらに、抗体の産生は非常に効率的であってもよく、かつ効率的なV(D)J組換えにより、通常の産生速度と同様の産生速度を有する。したがって、この抗体はヒトの治療薬としてより適している。したがって、遺伝子改変動物は、ヒト化重鎖抗体を産生するための有利なプラットフォームを提供する。
【0056】
さらに、IgG1は血清中に最も多く存在する抗体サブタイプであり、血清半減期が長く、FcγR親和性が強く、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(CDC)活性などを有している。IgG1は抗体医薬品開発の分野で独特な利点を持っている。したがって、一態様では、本開示は特に、IgG1サブタイプの重鎖抗体を産生することができるヒト化マウスの調製に関する。その間に、他の全てのIgGサブタイプのコード配列を削除することができる。これにより、動物内で重鎖抗体を作成するための効率的かつ信頼できるプラットフォームが作成される。
【0057】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、少なくとも1つ(例えば、1、2、3、4、5、又は6つ)の相補性決定領域(CDR)(例えば、免疫グロブリン軽鎖由来の3つのCDRのいずれか、又は、免疫グロブリン重鎖由来の3つのCDRのいずれか)を含有し、エピトープに特異的に結合可能な、任意の抗原結合分子を意味する。抗体の非限定例としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一本鎖抗体、重鎖抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、及びヒト化抗体が挙げられる。いくつかの実施形態において、抗体は、ヒト抗体のFc領域を含有することができる。抗体という用語は、誘導体、例えば、抗体断片から形成される、二重特異性抗体、一本鎖抗体、ダイアボディ、線状抗体、及び多重特異性抗体もまた含む。
【0058】
本明細書で使用される場合、「抗原結合断片」という用語は、全長抗体の一部を意味し、当該部分は、抗原に特異的に結合可能である。いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、少なくとも1つの可変ドメイン(例えば、重鎖の可変ドメイン、又は、軽鎖の可変ドメイン)を含有する。抗体断片の非限定例としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片が挙げられる。
【0059】
本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒトに存在する核酸(例えば、再配列されたヒト免疫グロブリン重鎖又は軽鎖遺伝子座)によりコードされる抗体を意味する。いくつかの実施形態において、ヒト抗体は、ヒトから回収されるか、又は、ヒト細胞培養液中(例えば、ヒトハイブリドーマ細胞内)で産生される。いくつかの実施形態において、ヒト抗体は、非ヒト細胞(例えば、マウス又はハムスター細胞株)内で産生される。いくつかの実施形態において、ヒト抗体は、細菌細胞又は酵母菌細胞内で産生される。いくつかの実施形態において、ヒト抗体は、再配列されていない、又は、再配列されたヒト免疫グロブリン遺伝子座(例えば、重鎖又は軽鎖ヒト免疫グロブリン遺伝子座)を含有するトランスジェニック非ヒト動物(例えば、マウス)で産生される。
【0060】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」という用語は、少なくとも2つの異なる抗体に存在する配列を含有する抗体(例えば、ヒト及びマウス抗体など、2つの異なる哺乳動物種由来の抗体)を意味する。キメラ抗体の非限定例としては、ヒト抗体の、可変ドメイン配列(例えば、軽鎖及び/又は重鎖可変ドメイン配列の全て又は一部)、並びに、非ヒト抗体の定常ドメインを含有する抗体が挙げられる。キメラ抗体の更なる例は、本明細書に記載され、当該技術分野において周知である。
【0061】
本明細書で使用される場合、「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト(例えば、マウス)免疫グロブリンに由来する配列を含有し、かつ、ヒト免疫グロブリンに由来する配列を含有する、非ヒト抗体を意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「一本鎖抗体」という用語は、抗原に特異的に結合可能な、少なくとも2つの免疫グロブリン可変ドメイン(例えば、哺乳動物免疫グロブリン重鎖又は軽鎖の可変ドメイン)を含有する、単一のポリペプチドを意味する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「重鎖抗体」という用語は、重鎖(通常2つ)のみで構成され、かついかなる軽鎖を有していない抗体分子を意味する。
【0064】
本明細書で使用される場合、「VHH」という用語は、重鎖抗体に由来する可変ドメインを意味する。VHHは、VLと対になる必要がなく、抗原を特異的に認識できる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるVHH(sdAb又はナノボディとも呼ばれる)は、本明細書に記載されるヒト化重鎖抗体のいずれかに由来する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるVHH、sdAb、又はナノボディは、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物のいずれかによって産生される重鎖抗体に由来する。
【0065】
本明細書で使用される場合、「対象」及び「患者」という用語は、本明細書全体を通じて互換的に使用され、動物、ヒト、又は非ヒトを表す。獣医学的及び非獣医学的用途が、本開示により想到される。ヒト患者は、成人のヒト又は若年のヒト(例えば、18歳未満のヒト)であることができる。ヒトに加えて、患者としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、フェレット、ネコ、イヌ、及び霊長類が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、非ヒト霊長類(例えば、サル、チンパンジー、ゴリラなど)、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、スナネズミ、ハムスター、フェレット、ウサギ)、ウサギ科動物、ブタ科動物(例えば、ブタ、ミニブタ)、ウマ科動物、イヌ科動物、ネコ科動物、ウシ科動物、並びに、他の家庭用、家畜用、及び動物園用動物が挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される場合、抗体を言及する際に、「特異的に結合」、及び「特異的に結合する」という語句は、相互作用が、標的分子に特定の構造(即ち、抗原決定基又はエピトープ)が存在することに依存するために、換言すれば、試薬が、一般的に、全分子よりも、特定の構造を含む分子を認識し、これに結合するために、抗体が、好ましくは他の分子よりも、その標的分子と相互作用することを意味する。標的分子に特異的に結合する抗体は、標的特異性抗体と呼ばれることも可能である。
【0067】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、同じ意味で用いられ、少なくとも2つのアミノ酸の、任意の長さのアミノ酸のポリマーを意味する。
【0068】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」、「核酸分子」、及び「核酸配列」という用語は、本明細書では同じ意味で用いられ、少なくとも2つのヌクレオチドの、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味し、限定されるものではないが、DNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、及びこれらの改変物が挙げられる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「未改変ヒト配列」という用語は、ヒト対象、ヒト細胞、培養されたヒト細胞又はヒト細胞株に由来する配列を意味し、その配列はヒト対象、ヒト細胞、培養されたヒト細胞又はヒト細胞株の遺伝子配列と同一である。
【0070】
免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座
重鎖免疫グロブリン遺伝子座(IGH又は免疫グロブリン重鎖遺伝子座とも呼ばれる)は、抗体(又は免疫グロブリン)の重鎖の遺伝子を含む染色体(例えば、マウス第12染色体)上の領域である。これには、重鎖可変領域と重鎖定常領域をコードする配列が含まれる。
【0071】
図2に示すように、マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子には、(以下の順序で示すように)免疫グロブリン重定常μ(IGHM、又はCμ)、免疫グロブリン重定常δ(IGHδ、又はCδ)、免疫グロブリン重定常γ3(IGHG3、又はCγ3)、免疫グロブリン重定常γ1(IGHG1、又はCγ1)、免疫グロブリン重定常γ2b(IGHG2b、又はCγ2b)、免疫グロブリン重定常γ2c(IGHG2c、又はCγ2c)、免疫グロブリン重定常ε(IGHE、又はCε)、及び免疫グロブリン重定常α(IGHA、又はCα)遺伝子が含まれる。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン重定常γ2a(IGHG2a)はIGHG2cの位置にある。対照的に、ヒト免疫グロブリン定常領域遺伝子には、(以下の順序で示すように)免疫グロブリン重定常μ(IGHM、又はCμ)、免疫グロブリン重定常δ(IGHδ、Cδ)、免疫グロブリン重定常γ3(IGHG3、又はCγ3)、免疫グロブリン重定常γ1(IGHG1、又はCγ1)、免疫グロブリン重定常εP1(偽遺伝子)(IGHEP1、又はψCε)、免疫グロブリン重定常α1(IGHA1、又はCα1)、免疫グロブリン重定常γP(非機能的)(IGHGP、又はCγP、図示せず)、免疫グロブリン重定常γ2(IGHG2、又はCγ2)、免疫グロブリン重定常γ4(IGHG4、Cγ4)、免疫グロブリン重定常ε(IGHE、又はCε)、及び免疫グロブリン重定常α2(IGHA2、又はCα2)遺伝子が含まれる。
【0072】
免疫グロブリンクラススイッチ(又はアイソタイプスイッチ、又はアイソタイプ交換、又はクラススイッチ組換え(CSR))は、B細胞の抗体産生をあるクラスから別のクラス(例えば、アイソタイプIgMからアイソタイプIgG)に変更する生物学的メカニズムである。このプロセスの間、抗体重鎖の定常領域部分は変化するが、重鎖の可変領域は同じままである。可変領域は変化しないため、クラススイッチは抗原特異性に影響を与えない。代わりに、抗体は同じ抗原に対する親和性を保持しながら、異なるエフェクター分子と相互作用することができる。これにより、同じ活性化B細胞からの異なる娘細胞が異なるアイソタイプ又はサブタイプ(例えば、IgG1、IgG2など)の抗体を産生できるようになる。クラススイッチは、クラススイッチ組換え(CSR)結合と呼ばれるメカニズムによって発生する。クラススイッチ組換えは、アイソタイプスイッチ又はクラススイッチと呼ばれるプロセス中に、活性化B細胞によって産生される抗体のクラスを変更できるようにする生物学的メカニズムである。CSRでは、抗体重鎖遺伝子座の一部が染色体から除去され、削除された部分を囲む遺伝子セグメントが再結合され、異なるアイソタイプの抗体を産生する機能的な抗体遺伝子が保持される。二本鎖切断は、抗体重鎖の定常領域をコードする遺伝子セグメントの上流にある、スイッチ(S)領域と呼ばれる保存されたヌクレオチドモチーフでDNAに生成され、これらは、Cδを除く全ての重鎖定常領域遺伝子に隣接して発生する。DNAは、活性化誘導(シチジン)デアミナーゼ(AID)、ウラシルDNAグリコシラーゼ、及びアピリミジン/アプリン(AP)エンドヌクレアーゼを含む一連の酵素の活性によって、2つの選択されたスイッチ領域でニックされ、破壊される。その後、スイッチ領域間の介在DNAは染色体から削除され、例えば、不要なCμ又はCδ重鎖定常領域配列が除去され、Cγ、Cα、又はCε定常領域遺伝子セグメントの置換が可能になる。DNAの遊離末端は、可変ドメインエクソンを抗体重鎖の目的の下流定常ドメインエクソンに連結するために、非相同末端結合(NHEJ)と呼ばれるプロセスによって再結合される。非相同末端結合の非存在下では、DNAの遊離末端は、マイクロホモロジー結合に偏った代替経路によって再結合され得る。Cμ遺伝子とCδ遺伝子を除いて、1つの抗体クラスのみが、任意の時点でB細胞によって発現される。
図3は、マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座における各スイッチ領域(例えば、Sμ、Sγ3、Sγ1、Sγ2b、Sγ2c、Sε、及びSα)の位置を示す。具体的には、Cγ1遺伝子は、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、及び2つの膜貫通ドメインをコードするエクソンを含む。エクソンはそれぞれCH1、H、CH2、CH3、M1、及びM2で標識される。
【0073】
免疫グロブリンの5つの主なクラスは、IgM、IgD、IgG、IgE、及びIgAであり、これらのそれぞれが膜貫通抗原受容体又は分泌抗体として存在する。ヒトでは、IgGは、4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)に分かれており、血清中のそれらの存在量が多い順に命名され、IgA抗体は2つのサブクラス(IgA1とIgA2)に分かれている。これらのクラスを定義する異なる重鎖はアイソタイプと呼ばれ、それぞれ小文字のギリシャ文字μ(IgM)、δ(IgD)、γ(IgG)、ε(IgE)、及びα(IgA)で指定される。
【0074】
IgG1~IgG4ではジスルフィド結合の位置と数は異なるが、4つのIgGサブタイプの構造は非常に似ている。実際、血漿中に最も多く存在するIgGサブタイプとして、IgG1は、組換え治療用抗体の作製に広く使用されている。対照的に、IgG3は、FcRnへの結合親和性が弱く、半減期が短い(約9日)であるため、抗体薬物の開発にはほとんど使用されない。したがって、IgG3ベースの抗体薬物は、薬物動態上の理由から、より頻繁に投与する必要がある。さらに、異なるサブタイプの抗体レベルは身体の発達中に変化する可能性があり、これは例えば、Elena Blanco et al., “Age-associated distribution of normal B-cell and plasma cell subsets in peripheral blood,” Journal of Allergy and Clinical Immunology,Volume 141,Issue 6(2018)に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。IgG1は血清中に最も多く存在する抗体サブタイプであり、血清半減期が長く、FcγR親和性が強く、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(CDC)活性などを有している。IgG1は抗体医薬品開発の分野で独特な利点を持っている。したがって、一態様では、本開示は、IgG1サブタイプの重鎖抗体を産生することができるヒト化マウスの調製に関する。一態様では、本開示は特に、IgG1サブタイプの重鎖抗体を産生することができるヒト化マウスの調製に関する。いくつかの実施形態において、重鎖抗体をさらに処理してナノボディを生成することができる。
【0075】
一態様では、本開示は、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含む遺伝子改変非ヒト動物に関し、ここで、上記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座はIgG定常領域遺伝子を含み、上記IgG定常領域遺伝子はCH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域をコードし、上記遺伝子改変非ヒト動物は重鎖抗体を発現する。
【0076】
いくつかの実施形態において、IgG定常領域遺伝子は、IGHG3、IGHG1、IGHG2a、IGHG2b、及びIGHG2cのうちの1つである。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つのIgG定常領域遺伝子を有し、そのうちのいずれもCH1ドメインをコードしない。いくつかの実施形態において、1つ、2つ、又は3つのIGHG遺伝子のみがCH1ドメインをコードせず、少なくとも1つ、2つ、又は3つの残りのIGHG遺伝子がCH1ドメインをコードできる。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、1つだけ(例えば、正確に1つ)のIgG定常領域遺伝子、例えばIGHG1有する。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座には、IGHG3、IGHG2a、IGHG2b、及び/又はIGHG2c遺伝子が含まれない。
【0077】
いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、1つだけのIGHG遺伝子(例えば、IGHG3、IGHG1、IGHG2a、IGHG2b、又はIGHG2c)を有し、IGHG内のCH1ドメインをコードする配列が欠失している。いくつかの実施形態において、IGHG遺伝子は、Sγ3、Sγ1、Sγ2a、Sγ2b、又はSγ2c(例えば、Sγ3又はSγ1)に作動可能に連結される。
【0078】
いくつかの実施形態において、IGHMはインタクトな機能的内因性IGHM遺伝子である。いくつかの実施形態において、IGHM内のCH1ドメインをコードする配列が欠失している。いくつかの実施形態において、IGHMが欠失している。いくつかの実施形態において、IGHδはインタクトな機能的内因性IGHδ遺伝子である。いくつかの実施形態において、IGHδ内のCH1ドメインをコードする配列が欠失している。いくつかの実施形態において、IGHδが欠失している。いくつかの実施形態において、IGHMとIGHδの両方が削除される。
【0079】
いくつかの実施形態において、IGHEはインタクトな機能的内因性IGHE遺伝子である。いくつかの実施形態において、IGHE内のCH1ドメインをコードする配列が欠失している。いくつかの実施形態において、IGHEが欠失している。
【0080】
いくつかの実施形態において、IGHAはインタクトな機能的内因性IGHA遺伝子である。いくつかの実施形態において、IGHA内のCH1ドメインをコードする配列が欠失している。いくつかの実施形態において、IGHAが欠失している。
【0081】
様々な実施形態において、ヒト化重鎖抗体は、少なくともCH1ドメインを欠く独特な免疫グロブリン定常領域(Fc)を含む。いくつかの実施形態において、ヒトFcのヒンジ領域も欠いている。いくつかの実施形態において、重鎖抗体は、免疫グロブリンG(IgG)重鎖定常領域のCH2領域及びCH3領域を含む。いくつかの実施形態において、重鎖抗体の定常領域には、IgG重鎖Fcのヒンジ、CH2及びCH3領域が含まれる。
【0082】
いくつかの実施形態において、B細胞の発達中に提示された場合に選択を効果的に生き残ることができる適切な数の再配列された重鎖可変領域が必要である。一態様では、本開示は、IgGのCH1ドメインをコードするヌクレオチド配列の欠失を含む生殖細胞系遺伝子改変を含むトランスジェニック動物を提供し、ここで、上記動物は機能的IgMを発現し、かつ上記動物は血清中にIgG重鎖抗体(例えば、IgG1重鎖CH2及びCH3ドメインを含む)を発現する。いくつかの実施形態において、IgMは2つの重鎖を含み、それらは2つのλ又はκ軽鎖と結合して抗原を認識する。いくつかの実施形態において、機能的IgMにはCH1ドメインが含まれる。いくつかの実施形態において、機能的IgMにはCH1ドメインが含まれない。いかなる理論にも縛られるつもりはないが、内因性IGHM遺伝子からCH1ドメインをコードする配列を削除しても、IgM機能は実質的に変化しないと考えられる。
【0083】
いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座には、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHδ遺伝子が含まれる。いくつかの実施形態において、改変IGHδは機能的IgDを発現する。いかなる理論にも縛られるつもりはないが、内因性IGHδ遺伝子からCH1ドメインをコードする配列を削除しても、IgD機能は実質的に変化しないと考えられる。
【0084】
免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座
ヒト化重鎖抗体(HCAb)を産生するには、動物の重鎖免疫グロブリン可変領域遺伝子座をヒト化することができる。この重鎖免疫グロブリン可変領域は、重鎖遺伝子座の生殖細胞系組織を表す。遺伝子座には、V(可変)、D(多様性)、J(結合)、及びC(定数)セグメントが含まれる。V領域中の遺伝子は、V遺伝子クラスター(IGHV遺伝子クラスターとも呼ばれる)を形成する。D領域中の遺伝子は、D遺伝子クラスター(IGHD遺伝子クラスターとも呼ばれる)を形成する。J領域中の遺伝子は、J遺伝子クラスター(IGHJ遺伝子クラスターとも呼ばれる)を形成する。
【0085】
B細胞の発達中に、DNAレベルでの組換えイベントにより、単一のDセグメント(IGHD遺伝子とも呼ばれる)がJセグメント(IGHJ遺伝子とも呼ばれる)に結合され、その後、この部分的に再配列されたD-J領域の融合されたD-JエクソンがVセグメント(IGHV遺伝子とも呼ばれる)に結合される。融合されたV-D-Jエクソンを含む再配列されたV-D-J領域は、その後転写され、RNAレベルでIGHM定常領域に融合され、この転写物は、μ重鎖をコードする。発達の後期に、B細胞はV-D-J-Cμ-CδプレメッセンジャーRNAを生成し、これが選択的にスプライシングされて、μ重鎖又はδ重鎖のいずれかをコードする。リンパ節の成熟B細胞はスイッチ組換えを受け、それによって融合されたV-D-J遺伝子セグメントがIGHG、IGHA、又はIGHE遺伝子セグメントのうちの1つに近接し、各細胞がγ、α、又はε重鎖のいずれかを発現する。多くの異なるIGHV遺伝子といくつかのIGHJ遺伝子との潜在的な組換えは、広範囲の抗原認識を提供する。さらなる多様性は、末端デオキシヌクレオチド転移酵素によるヌクレオチドのランダムな付加から生じる接合部の多様性と、脾臓とリンパ節におけるB細胞の成熟中に起こる体細胞超変異によって達成される。いくつかのV、D、J、及びCセグメントは、タンパク質をコードできないことが知られており、疑似遺伝子セグメント(単に偽遺伝子と呼ばれることが多い)と見なされる。
【0086】
ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座はヒト第14染色体上に位置する(
図27及び
図29)。表1には、この遺伝子座におけるIGHV遺伝子とその相対順序が列挙されている。
【0087】
【0088】
RPS8P1、ADAM6、及びKIAA0125もこの遺伝子座に位置する。RPS8P1の相対順序は160、ADAM6の相対順序は161、KIAA0125の相対順序は164である。表2には、ヒト第14染色体上の全てのIGHD遺伝子とその相対順序が列挙されている。表3には、ヒト第14染色体上の全てのIGHJ遺伝子とその相対順序が列挙されている。免疫グロブリン定常ドメインの遺伝子は、IGHV、IGHD、及びIGHJ遺伝子の後に位置する。これらの遺伝子には、(以下の順序で示すように)免疫グロブリン重定常μ(IGHM)、免疫グロブリン重定常δ(IGH δ)、免疫グロブリン重定常γ3(IGHG3)、免疫グロブリン重定常γ1(IGHG1)、免疫グロブリン重定常εP1(偽遺伝子)(IGHEP1)、免疫グロブリン重定常α1(IGHA1)、免疫グロブリン重定常γP(非機能的)(IGHGP)、免疫グロブリン重定常γ2(IGHG2)、免疫グロブリン重定常γ4(IGHG4)、免疫グロブリン重定常ε(IGHE)、及び免疫グロブリン重定常α2(IGHA2)が含まれる。これらの遺伝子及びこれらの遺伝子の順序は、
図27及び
図29にも示されている。
【0089】
【0090】
【0091】
マウス重鎖免疫グロブリン遺伝子座はマウス第12染色体上に位置する(
図28及び
図30)。表4には、この遺伝子座におけるIGHV遺伝子とその相対順序が列挙されている。
【0092】
【0093】
表5には、マウス第12染色体上の全てのIGHD遺伝子とその相対順序が列挙されている。表6には、マウス第12染色体上の全てのIGHJ遺伝子とその相対順序が列挙されている。免疫グロブリン定常ドメインの遺伝子は、IGHV、IGHD、及びIGHJ遺伝子の後にある。これらの遺伝子には、(以下の順序で示すように)免疫グロブリン重定常μ(IGHM)、免疫グロブリン重定常δ(IGHδ)、免疫グロブリン重定常γ3(IGHG3)、免疫グロブリン重定常γ1(IGHG1)、免疫グロブリン重定常γ2b(IGHG2b)、免疫グロブリン重定常γ2c(IGHG2c)、免疫グロブリン重定常ε(IGHE)、及び免疫グロブリン重定常α(IGHA)遺伝子が含まれる。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン重定常γ2a(IGHG2a)はIGHG2cの位置にある。これらの遺伝子及びこれらの遺伝子の順序は、
図28及び
図30にも示されている。
【0094】
【0095】
【0096】
本開示は、1つ以上のヒトIGHV遺伝子、1つ以上のヒトIGHD遺伝子、及び/又は1つ以上のヒトIGHJ遺伝子を含む遺伝子改変された非ヒト動物を提供する。いくつかの実施形態において、ヒトIGHV遺伝子、ヒトIGHD遺伝子、及びヒトIGHJ遺伝子は、作動可能に連結されており、VDJ再配列を受けることができる。いくつかの実施形態において、ヒトIGHV遺伝子、ヒトIGHD遺伝子、及びヒトIGHJ遺伝子は、内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座にある。
【0097】
いくつかの実施形態において、動物は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、若しくは161個のヒトIGHV遺伝子(例えば、表1に示される遺伝子)を含む。
【0098】
いくつかの実施形態において、動物は、表1から選択される約又は少なくとも150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、若しくは161個のヒトIGHV遺伝子、表2から選択される約又は少なくとも20、21、22、23、24、25、26、若しくは27個のヒトIGHD遺伝子、及び表3から選択される約又は少なくとも5、6、7、8、若しくは9個のヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、動物は、IGHV2-10、IGHV3-9、及びIGHV1-8を除く表1の全てのヒトIGHV遺伝子、表2の全てのヒトIGHD遺伝子、並びに表3の全てのヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、動物は、IGHV5-10-1及びIGHV3-64Dを除く表1の全てのヒトIGHV遺伝子、表2の全てのヒトIGHD遺伝子、並びに表3の全てのヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、動物は、ヒト対象のヒト第14染色体の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座に、全てのヒトIGHV遺伝子、全てのヒトIGHD遺伝子、及び全てのヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、動物は、ヒト細胞(例えば、体細胞、培養細胞、非免疫細胞、いかなるV(D)J再配列のない細胞)のヒト第14染色体の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座に、全てのヒトIGHV遺伝子、全てのヒトIGHD遺伝子、及び全てのヒトIGHJ遺伝子を含む。
【0099】
いくつかの実施形態において、動物は、IGHV(III)-82、IGHV7-81、IGHV4-80、IGHV3-79、IGHV(II)-78-1、IGHV5-78、IGHV7-77、IGHV(III)-76-1、IGHV3-76、及びIGHV3-75から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の遺伝子を含む。
【0100】
いくつかの実施形態において、動物は、IGHV(III)-5-2、IGHV(III)-5-1、IGHV2-5、IGHV7-4-1、IGHV4-4、IGHV1-3、IGHV(III)-2-1、IGHV1-2、IGHV(II)-1-1、及びIGHV6-1から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の遺伝子を含む。
【0101】
いくつかの実施形態において、動物は、IGHV(III)-82、IGHV7-81、IGHV4-80、IGHV3-79、IGHV(II)-78-1、IGHV5-78、IGHV7-77、IGHV(III)-76-1、IGHV3-76、及びIGHV3-75から選択される遺伝子から始まり、かつIGHV(III)-5-2、IGHV(III)-5-1、IGHV2-5、IGHV7-4-1、IGHV4-4、IGHV1-3、IGHV(III)-2-1、IGHV1-2、IGHV(II)-1-1、及びIGHV6-1から選択される遺伝子で終わる配列を含む、未改変ヒト配列を含む。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV1-2までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV(II)-1-1までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHV-6-1までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。
【0102】
いくつかの実施形態において、動物は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、若しくは27個のヒトIGHD遺伝子(例えば、表2に示される遺伝子)を含む。いくつかの実施形態において、動物は、IGHD1-1、IGHD2-2、IGHD3-3、IGHD4-4、IGHD5-5、IGHD4-23、IGHD5-24、IGHD6-25、IGHD1-26、及びIGHD7-27から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の遺伝子を含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、動物は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは9個のヒトIGHJ遺伝子(例えば、表3に示される遺伝子)を含む。いくつかの実施形態において、動物は、IGHJ1P、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ2P、IGHJ3、IGHJ4、IGHJ5、IGHJ3P、及びIGHJ6から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、又は9個のヒトIGHJ遺伝子を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、動物は、IGHD1-1、IGHD2-2、IGHD3-3、IGHD4-4、IGHD5-5、IGHD4-23、IGHD5-24、IGHD6-25、IGHD1-26、及びIGHD7-27から選択される遺伝子から始まり、IGHJ1P、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ2P、IGHJ3、IGHJ4、IGHJ5、IGHJ3P、及びIGHJ6から選択される遺伝子で終わる配列を含む、未改変ヒト配列を含む。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHD1-1からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。
【0105】
いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHD1-1からヒトIGHD7-27までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。
【0106】
いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHJ1PからヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHJ1からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。
【0107】
いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV(III)-82からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。
【0108】
いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV1-2からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV(II)-1-1からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列は、ヒトIGHV6-1からヒトIGHJ6までのヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する。
【0109】
いくつかの実施形態において、動物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の未改変ヒト配列を有し得る。いくつかの実施形態において、未改変ヒト配列の長さは、約又は少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、若しくは1000kbである。
【0110】
いくつかの態様では、本開示は、内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座に、1つ以上のヒトIGHV遺伝子を含む第1の配列、内因性配列を含む第2の配列、及び1つ以上のヒトIGHD遺伝子と1つ以上のヒトIGHJ遺伝子を含む第3の配列を含み、ここで、上記第1の配列、第2の配列、及び第3の配列が作動可能に連結されている、遺伝子改変動物に関する。
【0111】
いくつかの実施形態において、第1の配列は、表1から選択される約又は少なくとも150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、若しくは161個のヒトIGHV遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、第1の配列は、表2から選択される約又は少なくとも20、21、22、23、24、25、26、若しくは27個のヒトIGHD遺伝子を含む。
【0112】
いくつかの実施形態において、第1の配列は、ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座に由来する未改変配列である。いくつかの実施形態において、第1の配列は、約又は少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、若しくは1000kbである。
【0113】
いくつかの実施形態において、第2の配列は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、若しくは20kbの内因性配列を含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、第3の配列は、表2から選択される約又は少なくとも20、21、22、23、24、25、26、若しくは27個のヒトIGHD遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、第3の配列は、表3から選択される約又は少なくとも5、6、7、8、若しくは9個のヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、第3の配列は、表2の全てのヒトIGHD遺伝子と、表3の全てのヒトIGHJ遺伝子とを含む。
【0115】
いくつかの実施形態において、動物は、免疫グロブリン重定常μ(IGHM)、免疫グロブリン重定常δ(IGHδ)、免疫グロブリン重定常γ3(IGHG3)、免疫グロブリン重定常γ1(IGHG1)、免疫グロブリン重定常γ2b(IGHG2b)、免疫グロブリン重定常γ2c(IGHG2c)、免疫グロブリン重定常ε(IGHE)、及び免疫グロブリン重定常α(IGHA)遺伝子からなる群から選択される1つ以上の内因性遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン重定常γ2a(IGHG2a)はIGHG2cの位置にある。いくつかの実施形態において、これらの内因性遺伝子は作動可能に連結される。いくつかの実施形態において、これらの内因性遺伝子は野生型動物と同じ順序を有する。いくつかの実施形態において、動物においてアイソタイプスイッチ(免疫グロブリンクラススイッチ)が発生する可能性がある。
【0116】
いくつかの実施形態において、IGHV遺伝子、IGHD遺伝子、及び/又はIGHJ遺伝子は、作動可能に連結される。VDJ組換えは、これらの遺伝子間で起こり得、機能的な抗体を産生し得る。いくつかの実施形態において、これらの遺伝子は、ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座の順序と同様の順序で配置される。この配置には様々な利点があり、例えば、これらの遺伝子の配置により、ヒトの重鎖可変ドメインの多様性に非常に類似した多様性を持つ重鎖可変ドメインの産生が可能になる。VDJ組換え中にいくつかのランダムな配列が配列に挿入される可能性があるため、いくつかの実施形態において、改変なし又は最小限の改変を有する完全なヒト抗体レパートリーにより、VDJ組換え中に非ヒト配列が挿入される可能性を低減することができる。
【0117】
いくつかの実施形態において、IGHV遺伝子、IGHD遺伝子、及び/又はIGHJ遺伝子は、IGHM、IGHδ、IGHG3、IGHG1、IGHG2a、IGHG2b、IGHG2c、IGHE、及びIGHA遺伝子から選択される1つ以上の遺伝子(例えば、全ての遺伝子)に作動可能に連結される。
【0118】
いくつかの実施形態において、動物は、動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座に破壊を含む。いくつかの実施形態において、動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、1つ以上の内因性IGHV遺伝子、1つ以上の内因性IGHD遺伝子、及び1つ以上の内因性IGHJ遺伝子の欠失を含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、動物はマウスである。動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、若しくは182個のマウスIGHV遺伝子(例えば、表4に示される遺伝子)の欠失を含む。いくつかの実施形態において、破壊は、IGHV1-86、IGHV1-85、IGHV1-84、IGHV1-83、IGHV1-82、IGHV1-81、IGHV1-80、IGHV1-79、IGHV1-78、及びIGHV1-77から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGHV遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGHV1-86、IGHV1-85、IGHV1-84、IGHV1-83、IGHV1-82、IGHV1-81、IGHV1-80、IGHV1-79、IGHV1-78、及びIGHV1-77(例えば、IGHV1-86)から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGHV遺伝子を依然として含む。
【0120】
いくつかの実施形態において、破壊は、IGHV5-6、IGHV5-5、IGHV2-3、IGHV6-1、IGHV5-4、IGHV5-3、IGHV2-2、IGHV5-2、IGHV2-1、及びIGHV5-1から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGHV遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGHV5-6、IGHV5-5、IGHV2-3、IGHV6-1、IGHV5-4、IGHV5-3、IGHV2-2、IGHV5-2、IGHV2-1、及びIGHV5-1から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGHV遺伝子の欠失を依然として含む。
【0121】
いくつかの実施形態において、動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、若しくは20個のマウスIGHD遺伝子(例えば、表5に示される遺伝子)の欠失を含む。いくつかの実施形態において、破壊は、IGHD5-1、IGHD3-1、IGHD1-1、IGHD6-1、IGHD2-3、IGHD2-7、IGHD2-8、IGHD5-6、IGHD3-2、及びIGHD4-1から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGHD遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGHD5-1、IGHD3-1、IGHD1-1、IGHD6-1、IGHD2-3、IGHD2-7、IGHD2-8、IGHD5-6、IGHD3-2、及びIGHD4-1から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGHD遺伝子を依然として含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、破壊は、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ3、及びIGHJ4から選択される約又は少なくとも1、2、3、若しくは4個のマウスIGHJ遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGHJ1、IGHJ2、IGHJ3、及びIGHJ4から選択される約又は少なくとも1、2、3、若しくは4個のマウスIGHJ遺伝子を依然として含む。
【0123】
いくつかの実施形態において、動物の内因性重鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、内因性配列の約又は少なくとも500kb、600kb、700kb、800kb、900kb、1000kb、1500kb、2000kb、2500kb、若しくは3000kbの欠失を含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、欠失配列は、IGHV1-86からIGHJ4まで、IGHV1-85からIGHJ4まで、IGHV1-84からIGHJ4まで、IGHV1-83からIGHJ4まで、又はIGHV1-82からIGHJ4まで(例えば、IGHV1-85からIGHJ4まで)である。
【0125】
いくつかの実施形態において、動物は、ヒト重鎖免疫グロブリン遺伝子座における配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個の配列を含む。いくつかの実施形態において、配列の長さは、約又は少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000若しくは3500kbである。いくつかの実施形態において、配列はヒトIGHV(III)-82からIGHV1-2までである。いくつかの実施形態において、配列はヒトIGHV7-81からIGHV1-2までである。いくつかの実施形態において、配列はヒトIGHV(II)-1-1からIGHJ6までである。いくつかの実施形態において、配列はヒトIGHV6-1からIGHJ6までである。
【0126】
ヒトIGHV遺伝子、ヒトIGHD遺伝子、及びヒトIGHJ遺伝子は作動可能に連結されており、VDJ再配列を受けることができる。いくつかの実施形態において、改変マウスは完全なヒトIGHV、IGHD、及びIGHJ遺伝子レパートリー(例えば、全ての非擬似ヒトIGHV、IGHD、及びIGHJ遺伝子を含む)を有する。したがって、改変マウスは完全なヒト抗体レパートリーを産生することができる。いくつかの実施形態において、VDJ組換え後、1つのIGHV遺伝子(例えば、IGHV3-21又はIGHV3-74)が抗体重鎖可変領域をコードする配列に寄与する。1つのIGHD遺伝子は、抗体重鎖可変領域をコードする配列に寄与する。そして、1つのIGHJ遺伝子は、抗体重鎖可変領域をコードする配列に寄与する。いくつかの実施形態において、IGHV遺伝子はIGHV3-21又はIGHV3-74である。
【0127】
いくつかの実施形態において、1つのIGHV遺伝子(例えば、IGHV3-30、IGHV3-33、IGHV4-39、又はIGHV4-34)は、抗体重鎖可変領域をコードする配列に寄与する。1つのIGHD遺伝子(例えば、IGHD6-19)は、抗体重鎖可変領域をコードする配列に寄与する。また、1つのIGHJ遺伝子(例えば、IGHJ4又はIGHJ6)は、抗体重鎖可変領域をコードする配列に寄与する。
【0128】
さらに、場合によっては、マウスのIGHV遺伝子、IGHD遺伝子、及びIGHJ遺伝子全体(例えば、全ての非擬似遺伝子を含む)がノックアウトされ、重鎖可変領域にはマウス由来の配列によってコードされる配列が含まれなくなり、それによってヒトにおける免疫原性を最小限にする。
【0129】
いくつかの実施形態において、遺伝子座は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、若しくは40個の非ヒト外因性IGHV遺伝子(例えば、ラクダ科動物由来)を有し得る。いくつかの実施形態において、遺伝子座は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、若しくは40個の非ヒト外因性IGHD遺伝子(例えば、ラクダ科動物由来)を有し得る。いくつかの実施形態において、遺伝子座は、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、若しくは40個の非ヒト外因性IGHJ遺伝子(例えば、ラクダ科動物由来)を有し得る。これらの非ヒト外因性遺伝子は、VHHドメインの多様性を改善するのに役立ち得る。
【0130】
重鎖免疫グロブリン遺伝子座上の様々な改変は、例えば、WO2020169022A1に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0131】
免疫グロブリン軽鎖遺伝子座
いくつかの実施形態において、動物は、インタクトなκ鎖及び/又はλ鎖免疫グロブリン遺伝子座を有する。いくつかの実施形態において、動物は、破壊されたκ鎖及び/又はλ鎖免疫グロブリン遺伝子座を有する。
【0132】
κ鎖免疫グロブリン遺伝子座(IGK又は免疫グロブリンκ遺伝子座とも呼ばれる)は、ヒト抗体(又は免疫グロブリン)の軽鎖の遺伝子を含む染色体(例えば、第6染色体)上の領域である。同様に、免疫グロブリン軽鎖遺伝子はまた、成熟した免疫グロブリン軽鎖核酸(例えば、κ鎖)の産生をもたらす一連の再配列を受けることができる。
【0133】
Vセグメント(IGKV遺伝子とも呼ばれる)とJセグメント(IGKJ遺伝子とも呼ばれる)との結合は、軽鎖可変ドメイン全体をコードする連続したエクソン生み出す。再配列されていないDNAでは、V遺伝子セグメント(又はIGKV遺伝子クラスター)はC領域から比較的離れた位置にある。J遺伝子セグメント(又はIGKJ遺伝子クラスター)はC領域の近くに位置する。J遺伝子セグメントへのVセグメントの結合はまた、V遺伝子をC領域配列に近づける。再配列されたV領域のJ遺伝子セグメントは、イントロンのみによってC領域配列から分離される。完全な免疫グロブリン軽鎖メッセンジャーRNAを作製するために、転写後にRNAスプライシングによってV領域エクソンをC領域配列に結合する。
【0134】
いくつかの実施形態において、動物は、動物の内因性軽鎖免疫グロブリン遺伝子座に破壊を含む。いくつかの実施形態において、動物の内因性軽鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、1つ以上の内因性IGKV遺伝子及び1つ以上の内因性IGKJ遺伝子の欠失を含む。
【0135】
いくつかの実施形態において、動物はマウスである。動物の内因性κ鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、若しくは163個のマウスIGKV遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、破壊は、IGKV2-137、IGKV1-136、IGKV1-135、IGKV14-134-1、IGKV17-134、IGKV1-133、IGKV1-132、IGKV1-131、IGKV14-130、及びIGKV9-129から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGKV遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGKV2-137、IGKV1-136、IGKV1-135、IGKV14-134-1、IGKV17-134、IGKV1-133、IGKV1-132、IGKV1-131、IGKV14-130、及びIGKV9-129から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGKV遺伝子を依然として含む。
【0136】
いくつかの実施形態において、破壊は、IGKV3-10、IGKV3-9、IGKV3-8、IGKV3-7、IGKV3-6、IGKV3-5、IGKV3-4、IGKV3-3、IGKV3-2、及びIGKV3-1から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGKV遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGKV3-10、IGKV3-9、IGKV3-8、IGKV3-7、IGKV3-6、IGKV3-5、IGKV3-4、IGKV3-3、IGKV3-2、及びIGKV3-1から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のマウスIGKV遺伝子を依然として含む。
【0137】
いくつかの実施形態において、破壊は、IGKJ1、IGKJ2、IGKJ3、IGKJ4、及びIGKJ5から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、若しくは5個のマウスIGKJ遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、マウスは、IGKJ1、IGKJ2、IGKJ3、IGKJ4、及びIGKJ5(例えば、IGKJ5)から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、若しくは5個のマウスIGKJ遺伝子を依然として含む。
【0138】
いくつかの実施形態において、動物の内因性κ軽鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、内因性配列の約又は少なくとも500kb、600kb、700kb、800kb、900kb、1000kb、1500kb、2000kb、2500kb、3000kb若しくは3500kbの欠失を含む。
【0139】
いくつかの実施形態において、削除された配列は、IGKV2-137からIGKJ4まで、IGKV1-136からIGKJ4まで、IGKV1-135からIGKJ4まで、IGKV2-137からIGKJ5まで、IGKV1-136からIGKJ5まで、又はIGKV1-135からIGKJ5まで(例えば、IGKV2-137からIGKJ5まで)である。
【0140】
いくつかの実施形態において、動物は、動物の内因性λ軽鎖免疫グロブリン遺伝子座に破壊を含む。いくつかの実施形態において、動物の内因性軽鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、1つ以上の内因性IGLV遺伝子、1つ以上の内因性IGLJ遺伝子、及び/又は1つ以上の免疫グロブリンλ定常(IGLC)遺伝子(例えば、IGLC1、IGLC2、IGLC3、及びIGLC4)の欠失を含む。
【0141】
動物の内因性λ軽鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、少なくとも又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは12個のマウスIGLV、IGLJ、及びIGLC遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、欠失は、IGLC1、IGLC2、IGLC3、及びIGLC4から選択される約又は少なくとも1、2、3、若しくは4個のマウスIGLC遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、破壊は、IGLV1、IGLV2、及びIGLV3から選択される約又は少なくとも1、2、若しくは3個のマウスIGLV遺伝子の欠失を含む。いくつかの実施形態において、破壊は、IGLJ1、IGLJ2、IGLJ3、IGLJ3P、及びIGLJ4から選択される約又は少なくとも1、2、3、4、若しくは5個のマウスIGLJ遺伝子の欠失を含む。
【0142】
いくつかの実施形態において、動物の内因性λ軽鎖免疫グロブリン遺伝子座における破壊は、約又は少なくとも10kb、20kb、30kb、40kb、50kb、60kb、70kb、80kb、90kb、100kb、110kb、120kb、130kb、140kb、150kb、160kb、170kb、180kb、190kb、200kb、210kb、220kb、230kb、240kb、250kb、260kb、270kb、280kb、290kb、300kb、350kb、400kb、450kb、500kb、若しくは1000kbのヌクレオチドの欠失を含む。いくつかの実施形態において、動物の内因性λ軽鎖免疫グロブリン遺伝子に破壊はない。
【0143】
いくつかの実施形態において、削除された配列は、IGLV2からIGLC1まで、IGLV3からIGLC1まで、又はIGLJ2からIGLC1までである。
【0144】
軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の様々な改変は、例えば、WO2020169022A1に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0145】
遺伝子改変動物
本出願は、重鎖のみの抗体、即ち軽鎖を欠く抗体を産生する遺伝子改変非ヒト動物を提供する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、軽鎖を含むIgG(例えば、IgG1)分子を産生しない。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、いかなる従来のIgG分子、即ち、2つの重鎖と2つの軽鎖を有するIgG抗体を産生しない。
【0146】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、完全に機能的な内因性軽鎖遺伝子座を有する。いくつかの実施形態において、動物の免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、完全に機能的IGHM、IGHδ、及び/又はIGHA遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、動物のゲノムは、内因性免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座内に外因性配列(例えば、ヒト免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子)を含まない。
【0147】
いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性IGHG遺伝子(例えば、IGHG1遺伝子)のCH1エクソンを欠いている。いくつかの実施形態において、動物の免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、IGHG1遺伝子の完全に機能的なH、CH2、CH3、M1、及び/又はM2エクソンを含む。
【0148】
いくつかの実施形態において、動物の免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性IGHG1遺伝子のCH1エクソンにのみ組換えを有する。いくつかの実施形態において、改変は、IgG1のヒンジ領域をコードする遺伝子の欠失又は機能喪失変異などの変異を含まない。いくつかの実施形態において、改変は、IGHG1遺伝子のCH2又はCH3エクソンに対する欠失又は機能喪失変異などの変異を含まない。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、IGHM遺伝子のCH1エクソンに変異又は組換えを有していない。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、内因性IGHM遺伝子座にIgMのCH1ドメインをコードする機能遺伝子セグメントを有する。
【0149】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、IgM、IgD、及び/又はIgAなどの他の重鎖定常アイソタイプをコードする完全に機能的な遺伝子を有する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、完全に機能的IGHM、IGHδ及び/又はIGHA遺伝子を有する。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、野生型IGHM、IGHδ、及び/又はIGHA遺伝子を有する。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性IGHM、IGHδ、及び/又はIGHA遺伝子に対するいかなる変異も含まない。いくつかの実施形態において、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、インタクトな内因性IGHM、IGHδ、又はIGHA遺伝子を有する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、野生型IgM、IgD、及び/又はIgAタンパク質を発現する。
【0150】
いくつかの実施形態において、免疫グロブリン重鎖遺伝子座には、IGHM及び/又はIGHδ遺伝子のCH1エクソンへの変異(例えば、欠失)又は組換えが含まれる。いくつかの実施形態において、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、改変IGHM遺伝子及び/又は改変IGHδ遺伝子を有する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、野生型IgM及び/又はIgDを発現しない。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、CH1ドメインを欠くIgM及び/又はCH1ドメインを欠くIgDを発現する。
【0151】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物における内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座への改変の導入により、実質的に正常なB細胞の発達及び成熟を含む、動物の健康が維持される。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物における内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座への改変の導入により、外因性配列の免疫原性が低減又は回避される。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物における内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座への最小限の変化の導入により、V-D-J組換え、クラススイッチ組換え、及び体細胞超変異を含む、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の正常な機能が維持される。
【0152】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、1つ以上の完全に機能的な軽鎖遺伝子座、例えば、λ軽鎖遺伝子座、及び/又はκ軽鎖遺伝子座を有する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、変化していない内因性軽鎖遺伝子座を有する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物の内因性軽鎖遺伝子座に変異は導入されない。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物のλ及び/又はκ軽鎖可変領域遺伝子座は機能的であり、サイレンシングされていない。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、野生型λ軽鎖及び/又は野生型κ軽鎖を発現する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、軽鎖を含む機能的IgM分子を発現する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、軽鎖を含む機能的IgA、IgD、及び/又はIgM分子を発現する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、外因性軽鎖遺伝子又は遺伝子クラスターを有していない。例えば、遺伝子改変非ヒト動物のλ及び/又はκ軽鎖可変領域遺伝子座をノックアウトすることができる。
【0153】
いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、再配列された遺伝子(例えば、再配列されたIGHV、IGHD、及び/又はIGHJ遺伝子)を含まない。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、再配列されていないヒトIGHV、IGHD、及びIGHJ遺伝子の完全なセットを含む。
【0154】
いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性IGHG1遺伝子のCH1エクソンの直後に機能的なスプライス部位を含む。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、内因性IGHG1遺伝子のCH1エクソンの直後に野生型スプライス部位を含む。
【0155】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される動物は、CH1ドメインを欠く膜結合IgG1を発現する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される動物は、CH1ドメインを欠く可溶性IgG1を発現する。
【0156】
一態様では、本開示は、ヒト化重鎖免疫グロブリン遺伝子座を含む遺伝子改変された非ヒト動物を提供する。いくつかの実施形態において、動物は、1つ以上のヒトIGHV遺伝子、1つ以上のヒトIGHD遺伝子、及び/又は1つ以上のヒトIGHJ遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、これらの遺伝子は内因性免疫グロブリン遺伝子座にある。
【0157】
いくつかの実施形態において、動物は内因性κ鎖又はλ鎖免疫グロブリン遺伝子座を含む。いくつかの実施形態において、動物は内因性κ鎖又はλ鎖免疫グロブリン遺伝子座を含まない。いくつかの実施形態において、動物は、動物の内因性κ又はλ軽鎖免疫グロブリン遺伝子座に破壊を含む。いくつかの実施形態において、動物は、動物の内因性κ又はλ軽鎖免疫グロブリン遺伝子座に破壊を有していない。
【0158】
遺伝子改変非ヒト動物は、様々な動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ科の動物(例えば、ウシ、雄牛、バッファロー)、シカ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)であることができる。好適な、遺伝子改変可能な胚性幹(ES)細胞が速やかに入手できない非ヒト動物に関しては、他の方法を用いて、遺伝子改変を含む非ヒト動物を作製する。このような方法としては、例えば、非ES細胞ゲノム(例えば、線維芽細胞又は人工多能性細胞)を改変し、核移植を用いて改変ゲノムを好適な細胞、例えば卵母細胞に移すこと、及び、好適な条件下で、非ヒト動物にて改変細胞(例えば、改変卵母細胞)を妊娠させて胚を形成することが挙げられる。これらの方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、A.Nagy,et al., “Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual(Third Edition),” Cold Spring Harbor Laboratory Press,2003に記載されており、本明細書中に、その全体が参照により組み込まれている。したがって、様々な実施形態において、ヒトV、D、及び/又はJセグメントは、非ヒト動物(例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ハムスター)の定常領域遺伝子配列に作動可能に連結することができる。B細胞の発達中に、これらの再配列されたヒトV、D、及び/又はJセグメントは、非ヒト動物の免疫グロブリン定常領域に連結される。
【0159】
一態様では、動物は哺乳動物、例えば、トビネズミ上科又はネズミ上科のスーパーファミリーである。いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物はげっ歯類である。げっ歯類は、マウス、ラット、及びハムスターから選択することができる。いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物は、カンガルーハムスター科(例えば、カンガルーハムスター)、キヌゲネズミ科(例えば、ハムスター、新世界ラット及びマウス、野ネズミ)、ネズミ科(トゥルーマウス及びラット、アレチネズミ、トゲマウス、クレステッドラット)、アシナガマウス科(クライミングマウス、ロックマウス、オジロネズミ、マラガシーラット及びマウス)、トゲヤマネ科(例えば、トゲヤマネ)、並びに、メクラネズミ類(例えば、モグラネズミ、タケネズミ、及びゾコール)から選択されるファミリーに由来する。いくつかの実施形態において、遺伝子改変げっ歯類は、トゥルーマウス又はラット(ネズミ科ファミリー)、アレチネズミ、トゲマウス、及びクレステッドラットから選択される。いくつかの実施形態において、非ヒト動物はマウスである。
【0160】
いくつかの実施形態において、動物は、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、及びC57BL/Olaから選択されるC57BL株のマウスである。いくつかの実施形態において、マウスは、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2である株からなる群から選択される129株である。これらのマウスは、例えば、Festing et al.,Revised nomenclature for strain 129 mice,Mammalian Genome 10:836(1999);Auerbach et al.,Establishment and Chimera Analysis of 129/SvEv-and C57BL/6-Derived Mouse Embryonic Stem Cell Lines(2000)に記載されており、これらは共に、その全体が、参照により本明細書に組み込まれている。いくつかの実施形態において、遺伝子改変マウスは、129株とC57BL/6株とのミックスである。いくつかの実施形態において、マウスは、129株のミックス、又は、BL/6株のミックスである。いくつかの実施形態において、マウスは、BALB株、例えば、BALB/c株である。いくつかの実施形態において、マウスは、BALB株と別の株とのミックスである。いくつかの実施形態において、マウスは、ハイブリッド株(例えば、50%のBALB/c-50%の12954/Sv;又は、50%のC57BL/6-50%の129)に由来する。いくつかの実施形態において、非ヒト動物はげっ歯類である。いくつかの実施形態において、非ヒト動物は、BALB/c、A、A/He、A/J、A/WySN、AKR、AKR/A、AKR/J、AKR/N、TA1、TA2、RF、SWR、C3H、C57BR、SJL、C57L、DBA/2、KM、NIH、ICR、CFW、FACA、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、 C57BL/10ScSn、C57BL(C57BL/10Cr、及びC57BL/Ola)、C58、CBA/Br、CBA/Ca、CBA/J、CBA/st、又はCBA/Hバックグラウンドを有するマウスである。
【0161】
異なる動物は、それらの内因性免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子座において異なる生殖細胞系組織と遺伝子を有する。多くの種のIgH遺伝子座が配列決定されている。マウス、ラット、ウサギのIgH遺伝子座の遺伝子位置及びエクソン/イントロン構成は、例えば、IMGTレパートリー及びNCBIデータベースに見出すことができ、これらは全体として参照により本明細書に組み込まれている。
【0162】
いくつかの実施形態において、動物はラットである。ラットは、ウィスターラット、LEA株、Sprague Dawley株、フィッシャー(Fischer)株、F344、F6、及びDark Agoutiから選択することができる。いくつかの実施形態において、ラット株は、ウィスター、LEA、Sprague Dawley、フィッシャー、F344、F6、及びDark Agoutiからなる群から選択される2つ以上の株のミックスである。
【0163】
動物は、ヒト化動物が作製される特定目的に好適な、1つ以上の他の遺伝子改変、及び/又は他の改変を有することができる。
【0164】
内因性非ヒト免疫グロブリン遺伝子座の改変を含む遺伝子改変非ヒト動物。いくつかの実施形態において、改変は、ヒトタンパク質の少なくとも一部をコードするヒト核酸配列(例えば、ヒト重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメイン配列と少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である)を含むことができる。本明細書に記載される改変を含むことができる遺伝子改変細胞(例えば、ES細胞、体細胞)もまた提供するが、多くの実施形態において、遺伝子改変非ヒト動物は、動物の生殖細胞系における、内因性遺伝子座の改変を含む。
【0165】
遺伝子改変動物は、内因性マウス遺伝子座からヒト化抗体及び/又はキメラ抗体を発現することができ、ここで、1つ以上の内因性マウス免疫グロブリン遺伝子は、ヒト免疫グロブリン遺伝子、及び/又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列(例えば、IGHV、IGHD、IGHJ、IGKV及び/又はIGKJ遺伝子)と少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるヌクレオチド配列で置き換えられる。様々な実施形態において、内因性非ヒト免疫グロブリン遺伝子座は、ヒト核酸配列を含むように全体的又は部分的に改変される。
【0166】
上述の非ヒト哺乳動物の遺伝、分子、及び挙動分析を実施することができる。本開示は、同一又は他の遺伝子型と交配された、本開示で提供される非ヒト哺乳動物により産生される子孫にもまた関する。非ヒト哺乳動物は、当該技術分野において周知の任意の非ヒト動物であることができ、これを、本明細書に記載される方法で使用することができる。好ましい非ヒト哺乳動物は哺乳類(例えば、げっ歯類)である。いくつかの実施形態において、非ヒト哺乳動物はマウスである。
【0167】
本開示は、非ヒト哺乳動物又はその子孫に由来する、細胞株又は初代細胞培養物もまた提供する。細胞培養に基づくモデルは、例えば、以下の方法により調製することができる。細胞培養物は、非ヒト哺乳動物からの単離によって入手することができ、或いは、細胞は、同じコンストラクト、及び標準的な細胞トランスフェクション技術を用いて確立された細胞培養物から入手することができる。ヒト又はヒト化免疫グロブリンをコードするDNA配列を含有する遺伝子コンストラクトの組込みは、様々な方法で検出することができる。
【0168】
(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)又はサザンブロッティング、及びin situハイブリダイゼーションを用いる、mRNA定量化アプローチを含む)核酸レベルでの方法、並びに、(組織化学、イムノブロット分析、及びインビトロ結合研究を含む)タンパク質レベルでの方法を含む、外来性DNA又はゲノムDNA上の改変を検出するために使用可能な多くの分析法が存在する。さらに、対象となる遺伝子の発現レベルを、当業者に周知のELISA技術により定量化することができる。多くの標準的な分析法を用いて定量的測定を完了することができる。例えば、RNase保護、サザンブロット分析、RNAドット分析(RNAdot分析)を含む、RT-PCR及びハイブリダイゼーション法を用いて、転写レベルを測定することができる。免疫組織化学染色、フローサイトメトリー、ウェスタンブロット分析もまた用いて、ヒト又はヒト化タンパク質の存在を評価することができる。
【0169】
抗体及び抗原結合断片
本開示は、本明細書に記載される方法によって産生される抗体及びその抗原結合断片(例えば、重鎖抗体、ヒト化重鎖抗体、又は多重特異性抗体)を提供する。
【0170】
一般に、従来の抗体は、2種類のポリペプチド鎖、軽鎖及び重鎖で構成されている。本開示の非限定的な抗体は、2つの重鎖と2つの軽鎖とを含む、インタクトな4つの免疫グロブリン鎖抗体であることができる。抗体の重鎖は、IgM、IgG、IgE、IgA、若しくはIgDを含む任意のアイソタイプ、又は、IgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE1、IgE2などを含むサブクラスであることができる。軽鎖は、κ軽鎖又はλ軽鎖であることができる。抗体は、2つの同一のコピーの軽鎖、及び、2つの同一のコピーの重鎖を含むことができる。それぞれが、1つの可変ドメイン(又は、可変領域、VH)、及び、複数の定常ドメイン(又は、定常領域)を含有する重鎖は、それらの定常ドメイン内で、ジスルフィド結合を介して互いに結合し、抗体の「幹」を形成する。それぞれが、1つの可変ドメイン(又は、可変領域、VL)、及び、1つの定常ドメイン(又は、定常領域)を含有する軽鎖は、それぞれ、ジスルフィド結合を介して、1つの重鎖に結合する。各軽鎖の可変領域を、それが結合する重鎖の可変領域とアラインする。軽鎖及び重鎖の両方の可変領域は、より保存されたフレームワーク領域(FR)どうしの間に挟まされた、3つの超可変領域を含有する。
【0171】
相補性決定領域(CDR)として知られる超可変領域は、抗体の原理抗原結合表面を含むループを形成する。4つのフレームワーク領域は、βシート構造にほとんど適応し、CDRは、連結するループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成する。各鎖のCDRはフレームワーク領域に近接して保持され、かつ、他の鎖のCDRと共に、抗原結合領域の形成に寄与している。
【0172】
抗体のアミノ酸配列を分析することにより、抗体のCDR領域を識別する方法は周知であり、いくつかのCDRの定義が、一般的に用いられる。Kabatの定義は配列の変動性に基づき、Chothiaの定義は、構造ループ領域の位置に基づく。これらの方法及び定義は、例えば、Martin, “Protein sequence and structure analysis of antibody variable domains,” Antibody engineering,Springer Berlin Heidelberg,2001.422-439;Abhinandan,et al. “Analysis and improvements to Kabat and structurally correct numbering of antibody variable domains,” Molecular immunology 45.14(2008):3832-3839;Wu,T.T.and Kabat,E.A.(1970)J.Exp.Med.132:211-250;Martin et al.,Methods Enzymol.203:121-53(1991);Morea et al.,Biophys Chem.68(1-3):9-16(Oct.1997);Morea et al.,J Mol Biol.275(2):269-94(Jan.1998);Chothia et al.,Nature 342(6252):877-83(Dec.1989);Ponomarenko and Bourne,BMC Structural Biology 7:64(2007)、に記載されており、これらそれぞれの全体が、参照により本明細書に組み込まれている。
【0173】
CDRは、抗原のエピトープを認識するのに重要である。本明細書で使用される場合、「エピトープ」とは、抗体の抗原結合ドメインにより、特異的に結合されることが可能な、標的分子の最小部分である。エピトープの最小サイズは、約3、4、5、6、又は7個のアミノ酸であり得るが、エピトープは、抗原の二次及び三次構造に基づいて、抗原の3次元構造に依存し得るため、これらのアミノ酸は、抗原の一次構造の、連続した直鎖状配列にある必要はない。
【0174】
いくつかの実施形態において、抗体は、インタクトな免疫グロブリン分子(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3、IgG4、IgM、IgD、IgE、IgA)である。IgGサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)は、高度に保存されており、その定常領域、特に、ヒンジ及び上部CH2ドメインが異なっている。IgGサブクラスの配列及び違いは、当該技術分野において周知であり、例えば、Vidarsson,et al, “IgG subclasses and allotypes:from structure to effector functions.” Frontiers in immunology 5(2014);Irani,et al. “Molecular properties of human IgG subclasses and their implications for designing therapeutic monoclonal antibodies against infectious diseases.” Molecular immunology 67.2(2015):171-182;Shakib,Farouk,ed.The human IgG subclasses:molecular analysis of structure,function and regulation.Elsevier,2016、に記載されており、これらそれぞれの全体が、参照により本明細書に組み込まれている。重鎖抗体の重鎖定常領域は、本明細書に記載される任意の免疫グロブリン分子(例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3、IgG4、IgM、IgD、IgE、IgA)に由来することができる。
【0175】
抗体はまた、任意の種(例えば、ヒト、げっ歯類、マウス、ラット、ラクダ科動物)に由来する免疫グロブリン分子であることもできる。本明細書で開示される抗体としては、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多重特異性抗体、及び、別のポリペプチドに融合した免疫グロブリン結合ドメインを含むキメラ抗体が挙げられるが、これらに限定されない。「抗原結合ドメイン」又は「抗原結合断片」という用語は、インタクトな抗体の特異的結合活性を保持する抗体の一部、即ち、インタクトな抗体の標的分子上のエピトープに特異的に結合可能な抗体の、任意の部分である。これは、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びこれらの断片の変異体を含む。したがって、いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、例えば、scFv、Fv、Fd、dAb、二重特異性抗体、二重特異性scFv、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子、抗体断片から形成される多重特異性抗体、及び、抗体結合ドメインである結合ドメイン、又はこれと相同である結合ドメインを含む、任意のポリペプチドであってもよい。抗原結合ドメインの非限定例としては、例えば、インタクトな抗体の重鎖及び/若しくは軽鎖CDR、インタクトな抗体の重鎖及び/若しくは軽鎖可変領域、インタクトな抗体の全長重鎖若しくは軽鎖、又は、インタクトな抗体の重鎖若しくは軽鎖のいずれかに由来する個別のCDRが挙げられる。
【0176】
いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、キメラ抗原受容体(CAR)の一部を形成することができる。いくつかの実施形態において、キメラ抗原受容体は、CD3-ζ膜貫通ドメイン及びエンドドメインに融合した、本明細書に記載されるVHHの融合体である。
【0177】
本明細書に記載される方法によって産生される抗体及びその抗原結合断片(例えば、ヒト化抗体又はキメラ抗体)には、様々な利点がある。いくつかの実施形態において、所望の特性(例えば、結合親和性、熱安定性、及び/又は制限された凝集)を得るためにさらなる最適化は必要とされない。
【0178】
いくつかの実施形態において、抗体(又はその抗原結合断片)は、0.1s-1未満、0.01s-1未満、0.001s-1未満、0.0001s-1未満、又は0.00001s-1未満の解離速度(koff)で標的に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、解離速度(koff)は、0.01s-1超、0.001s-1超、0.0001s-1超、0.00001s-1超、又は、0.000001s-1超である。
【0179】
いくつかの実施形態において、動力学的会合速度(kon)は、1×102/Ms超、1×103/Ms超、1×104/Ms超、1×105/Ms超、又は、1×106/Ms超である。いくつかの実施形態において、動力学的会合速度(kon)は、1×105/Ms未満、1×106/Ms未満、又は、1×107/Ms未満である。
【0180】
親和性を、動力学的速度定数の商から推定することができる(KD=koff/kon)。いくつかの実施形態において、KDは、1×10-6M未満、1×10-7M未満、1×10-8M未満、1×10-9M未満、又は、1×10-10M未満である。いくつかの実施形態において、KDは、50nM、40nM、30nM、20nM、15nM、10nM、9nM、8nM、7nM、6nM、5nM、4nM、3nM、2nM、又は1nM未満である。いくつかの実施形態において、KDは、1×10-7M超、1×10-8M超、1×10-9M超、1×10-10M超、1×10-11M超、又は1×10-12M超である。いくつかの実施形態において、抗体は、約0.9nM、0.8nM、0.7nM、0.6nM、0.5nM、0.4nM、0.3nM、0.2nM、又は0.1nM以下のKDで標的に結合する。
【0181】
いくつかの実施形態において、熱安定性が測定される。本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、又は95℃を超えるTmを有し得る。
【0182】
様々な実施形態において、置換は、変異重鎖抗体を作製するために親重鎖抗体配列に対して行われる。一般に、親重鎖抗体の重鎖抗体変異体は、特定の抗原に対する親重鎖抗体の結合親和性の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも100%(例えば、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、又は最大で少なくとも10,000%)の抗原結合親和性を有する。いくつかの実施形態において、変異重鎖抗体は、親重鎖抗体と比較して単一の置換を含む。しかし、他の実施形態において、特定の位置で同一性を共有する他のヒト重鎖配列に由来する親重鎖抗体配列と比較して、いくつかのアミノ酸、例えば最大約5個又は10個以上が置換される。様々な実施形態において、得られた変異重鎖抗体を試験して、所望の結合親和性及び/又は特異性が置換残基によって著しく低下していないことを確認する。いくつかの実施形態において、改良された変異重鎖抗体は、異なるヒト重鎖配列からのアミノ酸の置換によって産生される。様々な実施形態において、VHHは、親VHHと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である。
【0183】
本明細書に記載されるVHHは、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を作製するために使用できる。一態様では、本開示は、第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分を含む多重特異性抗体を提供する。いくつかの実施形態において、第1の抗原結合部分は、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、ここで、上記VH及びVLは一緒になって、第1のエピトープに特異的に結合する抗原結合部位を形成する。いくつかの実施形態において、第1の抗原結合部分は、第1のエピトープに特異的に結合するVHHを含む。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分は、第2のエピトープに特異的に結合するVHHを含む。いくつかの実施形態において、第1のエピトープと第2のエピトープは同じ抗原からのものである。いくつかの実施形態において、第1のエピトープと第2のエピトープは異なる抗原からのものである。
【0184】
いくつかの実施形態において、第1の抗原結合部分は、2つの重鎖と2つの軽鎖からなる全長抗体である。いくつかの実施形態において、第1の抗原結合部分は、VHを含む重鎖及びVLを含む軽鎖を含む抗体断片である。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分は単一のポリペプチド鎖を含む。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分のC末端は、第1の抗原結合部分の少なくとも1つの重鎖のN末端に融合される。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分のC末端は、第1の抗原結合部分の少なくとも1つの軽鎖のN末端に融合される。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分のN末端は、第1の抗原結合部分の少なくとも1つの重鎖のC末端に融合される。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分のN末端は、第1の抗原結合部分の少なくとも1つの軽鎖のC末端に融合される。いくつかの実施形態において、第2の抗原結合部分は、CH1ドメインに融合された第1のVHHを含む第1のポリペプチド鎖と、CLドメインに融合された第2のVHHを含む第2のポリペプチド鎖とを含むFab様ドメインである。
【0185】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は三重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、三重特異性抗体は三重特異性VHH-Fcである。いくつかの実施形態において、三重特異性抗体は同じVHHを含む。いくつかの実施形態において、三重特異性抗体は異なるVHHを含む。いくつかの実施形態において、VHHは同じエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、VHHは異なるエピトープに結合する。
【0186】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、4つ以上のVHHを有する。いくつかの実施形態において、開発可能性を高めるために、IgG Fcドメインを追加せずに少なくとも4つのVHHを組み合わせて、テトラ特異性VHHを構築する。これらの分子は、Fcエフェクター機能が欠けているにもかかわらず、二重特異性及び三重特異性VHH-Fcと比較して、抗原に対する親和性と結合力が向上するという追加の利点がある。
【0187】
いくつかの実施形態において、これらの抗体又はその抗原結合断片(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は10個超を含む)は、機能的Fcを有する。
【0188】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物によって産生される重鎖抗体は、CDR1、CDR2及びCDR3を含むVHHドメインを有する。いくつかの実施形態において、CDR3の長さは6~23であり、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、又は23である。いくつかの実施形態において、CDR3の長さは、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、又は少なくとも23である。
【0189】
遺伝子改変動物の作製方法
遺伝子改変動物は、免疫グロブリン遺伝子座を改変することによって作製することができる。
図6~12は、それぞれターゲティングベクターV1~V7を使用した遺伝子改変のワークフローを示す。
図20は、ヒト化動物の作製方法を示す。いくつかの実施形態において、方法は、まず、ヒト染色体上のヒト免疫グロブリン遺伝子座を改変することを含む。次に、改変ヒト染色体をマウス受容細胞に導入する。次に、ヒト免疫グロブリン可変領域を、直接置換によってマウスゲノムの対応する領域に導入する。次に、受容細胞をスクリーニングする。いくつかの実施形態において、細胞にはヒト染色体が含まれない。その後、細胞を胚盤胞に注入してキメラマウスを作製する。その後の繁殖を実施して、インタクトなヒト化免疫グロブリン遺伝子座を含むマウスを得ることができる。
【0190】
遺伝子改変動物の作製には、非相同末端結合(NHEJ)、相同組換え(HR)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターベースのヌクレアーゼ(TALEN)、及びクラスター化規則的間隔の短い回文反復(CRISPR)-Casシステムなどを含む、他のいくつかの技術も使用できる。いくつかの実施形態において、相同組換えを用いる。いくつかの実施形態において、CRISPR-Cas9ゲノム編集を用いて遺伝子改変動物を生成する。これらのゲノム編集技術の多くは当該技術分野において周知であり、例えば、Yin et al., “Delivery technologies for genome editing,” Nature Reviews Drug Discovery 16.6(2017):387-399に記載されており、その全体が参照により組み込まれている。多くの他の方法もまた提供し、これらを、ゲノム編集、例えば、遺伝子改変核の、除核した卵母細胞へのマイクロインジェクション、及び、除核した卵母細胞の、別の遺伝子改変細胞との融合で用いることができる。
【0191】
遺伝子改変プロセスには、相同組換えによって内因性配列をヒト配列で置き換えることが含まれる場合がある。いくつかの実施形態において、(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、又はCRISPRにより)標的部位の上流及び下流において切断を行うことで、DNA二本鎖の破壊をもたらすことができ、相同組換えを用いて、内因性配列をヒト配列で置き換える。
【0192】
いくつかの実施形態において、IGHG遺伝子内のCH1配列を削除する方法は、以下の方法の1つ又は組み合わせを含む。これらの改変は様々な細胞で実行できる。いくつかの実施形態において、細胞は幹細胞、胚性幹細胞、又は受精卵細胞である。
【0193】
いくつかの実施形態において、Sγ3スイッチ領域からCεまでの配列がノックアウトされ、その後、Sγ1スイッチ領域とCH1のないCγ1配列(略してCγ1ΔCH1)とを含む配列が挿入される。その結果、Cγ1ΔCH1はSγ1と作動可能に連結される。
【0194】
いくつかの実施形態において、Sγ1スイッチ領域とCH1のないCγ1配列(略してCγ1ΔCH1)とを含む配列を使用して、Sγ3スイッチ領域からCεまでの全ての配列を直接置き換える(
図6)。その結果、Cγ1ΔCH1はSγ1と作動可能に連結される。
【0195】
いくつかの実施形態において、まずSγ3スイッチ領域及びCγ3配列がノックアウトされ、次にCH1のないCγ1配列(Cγ1ΔCH1と略記)を使用してCγ1からCεまでの全ての配列を置き換える。その結果、Cγ1ΔCH1はSγ1と作動可能に連結される。
【0196】
いくつかの実施形態において、CH1のないCγ1配列(Cγ1ΔCH1と略記)を使用して、Cγ3からCεまでの全ての配列を直接置き換える(
図7)。その結果、Cγ1ΔCH1はSγ3と作動可能に連結される。
【0197】
いくつかの実施形態において、
図6に示される対立遺伝子に基づいて、Cμ及びCδを含む配列がノックアウトされる(
図8)。その結果、IGHM遺伝子とIGHδ遺伝子の両方がノックアウトされ、Cγ1ΔCH1がSγ1と作動可能に連結される。
【0198】
いくつかの実施形態において、
図6に示される対立遺伝子に基づいて、Cμ、Cδ、及びSγ1を含む配列がノックアウトされる(
図9)。その結果、IGHM遺伝子とIGHδ遺伝子の両方がノックアウトされ、Cγ1ΔCH1’がSμと作動可能に連結される。
【0199】
いくつかの実施形態において、
図6に示される対立遺伝子に基づいて、CμのCH1コード領域がノックアウトされる(
図10)。その結果、改変遺伝子座には、CH1ドメインを欠くIgM、IgD、及びCH1ドメインを欠くIgG1をコードする配列が含まれる。さらに、Cγ1ΔCH1はSγ1と作動可能に連結される。
【0200】
いくつかの実施形態において、
図6に示される対立遺伝子に基づいて、CH1コード領域のないCμ配列(CμΔCH1と略記)を使用して、Cμ及びCδを含む配列を直接置き換える(
図11)。その結果、改変遺伝子座には、CH1ドメインを欠くIgMと、CH1ドメインを欠くIgG1をコードする配列が含まれる。さらに、Cγ1ΔCH1はSγ1と作動可能に連結される。
【0201】
いくつかの実施形態において、
図6に示される対立遺伝子に基づいて、CμΔCH1とCH1コード領域のないCδ(CδΔCH1と略記)とを含む配列を使用して、Cμ及びCδを含む配列を直接置き換える(
図12)。その結果、改変遺伝子座には、CH1ドメインを欠くIgM、CH1ドメインを欠くIgD、及びCH1ドメインを欠くIgG1をコードする配列が含まれる。さらに、Cγ1ΔCH1はSγ1と作動可能に連結される。
【0202】
いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座を含む遺伝子改変非ヒト動物が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、改変免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、Cγ1ΔCH1、Cγ1ΔCH1’、CμΔCH1、又はCδΔCH1の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一である配列を含む。いくつかの実施形態において、Cγ1ΔCH1’の配列は、Cγ1ΔCH1(配列番号1)の配列の5’末端に少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、又は少なくとも4個のヌクレオチドの欠失を含む。
【0203】
本開示はまた、核酸配列を含む遺伝子改変非ヒト動物に関し、ここで、上記核酸配列は以下からなる群から選択することができる:
a)配列番号1、8、9、10、13、又は41に示される核酸配列;
b)低ストリンジェンシー条件、又は厳密なストリンジェンシーの条件下で、配列番号1、8、9、10、13、又は41に示されるヌクレオチド配列にハイブリダイズすることができる核酸配列;
c)配列番号1、8、9、10、13、又は41に示されるヌクレオチド配列と、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の相同性を有するか、又は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である核酸配列;及び
d)アミノ酸配列をコードする核酸配列であって、ここで、上記アミノ酸配列が内因性IgG、IgM、IgD、又はIgAのアミノ酸配列と、少なくとも90%の相同性を有するか、又は少なくとも90%同一である核酸配列。
【0204】
この方法はさらに、遺伝子改変細胞を、レシピエントであるメス非ヒト哺乳動物の卵管又は子宮に移植し、メス非ヒト哺乳動物の子宮内で細胞を成長させるようにすることを含む。いくつかの実施形態において、遺伝子改変遺伝子の子孫における生殖細胞系伝達を識別するための実験が実行される。
【0205】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変されたヒト化動物を作製する方法には、内因性遺伝子座(又は部位)で核酸(例えば、V、D、J領域、又はV、J領域)をヒト配列の対応する領域で置き換えるステップも含まれる場合がある。配列には、IGHV、IGHD、IGHJ、IGKV、及び/又はIGKJ遺伝子の領域(例えば、一部又は全体の領域)が含まれる場合がある。いくつかの実施形態において、置換は相同組換えによって媒介される。いくつかの実施形態において、置換はCreリコンビナーゼによって媒介される。
【0206】
5’末端相同アーム及び/又は3’末端相同アームは、相同組換えを容易にするために所望の長さを有することができる。いくつかの実施形態において、相同アームは、約又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、若しくは50kb(例えば、約3kb)である。いくつかの実施形態において、相同アームは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、又は50kb未満である。
【0207】
いくつかの実施形態において、ベクターには、必要に応じて、レポータータンパク質、例えば、ルシフェラーゼ(例えば、Gluc)又は蛍光タンパク質(例えば、EGFP、BFPなど)も含まれ得る。
【0208】
これらの改変は様々な細胞で実行できる。いくつかの実施形態において、細胞は幹細胞、胚性幹細胞、又は受精卵細胞である。
【0209】
本開示は、
(a)本明細書に記載される方法に基づき、細胞(例えば、受精卵細胞)を提供するステップと、
(b)液体培地内で細胞を培養するステップと、
(c)培養した細胞を、レシピエントであるメス非ヒト哺乳動物の卵管又は子宮に移植し、メス非ヒト哺乳動物の子宮内で細胞を成長させるようにするステップと、
(d)ステップ(c)における妊娠したメスの、子孫の遺伝子改変ヒト化非ヒト哺乳動物において生殖細胞系伝達を同定するステップと、
を含む、ヒト化動物モデルを確立するための方法をさらに提供する。
【0210】
いくつかの実施形態において、前述の方法における非ヒト哺乳動物はマウス(例えば、C57マウス、BALB/cマウス、又はC57BL/6マウス)である。
【0211】
いくつかの実施形態において、ステップ(c)における非ヒト哺乳動物は、偽妊娠(又は想像妊娠)したメスである。
【0212】
いくつかの実施形態において、上述の方法のための受精卵は、C57BL/6受精卵である。本明細書に記載される方法で用いることができる他の受精卵としては、FVB/N受精卵、BALB/c受精卵、DBA/1受精卵、及びDBA/2受精卵が挙げられるが、これらに限定されない。
【0213】
受精卵は、任意の非ヒト動物、例えば、本明細書に記載される任意の非ヒト動物に由来することができる。いくつかの実施形態において、受精卵細胞はげっ歯類に由来する。遺伝子コンストラクトを、DNAのマイクロインジェクションにより受精卵に導入することができる。例えば、マイクロインジェクション後に受精卵を培養することで、培養受精卵を偽妊娠非ヒト動物に移し、この後非ヒト哺乳動物が生まれることで、上述の方法で言及した非ヒト哺乳動物を生成することができる。
【0214】
本明細書に記載されるヌクレオチド配列を含む細胞、組織、及び動物(例えば、マウス)、加えて、内因性非ヒト遺伝子座由来のヒト化又はキメラ抗体を発現する細胞、組織、及び動物(例えば、マウス)もまた、提供される。
【0215】
本開示は、様々なターゲティングベクター(例えば、遺伝子改変動物を作製するために有用なベクター)もまた提供する。いくつかの実施形態において、ベクターは、a)変更される領域の5’末端に相同なDNA断片(5’相同アーム)、b)所望の遺伝要素(例えば、LoxP認識部位、薬剤耐性遺伝子、及び/又はレポーター遺伝子など)を含む配列、及びc)変更される領域の3’末端に相同な第2のDNA断片(3’相同アーム)、を含むことができる。本開示はまた、本明細書に記載されるターゲティングベクターを含む細胞に関する。
【0216】
いくつかの実施形態において、細胞内の遺伝子はヘテロ接合性である。いくつかの実施形態において、細胞内の遺伝子はホモ接合性である。
【0217】
いくつかの実施形態において、非ヒト哺乳動物細胞はマウス細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は受精卵細胞である。
【0218】
本開示は、本明細書に記載される任意のヌクレオチド配列と、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一である核酸配列、及び、本明細書に記載される任意のアミノ酸配列と、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列もまた提供する。
【0219】
いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載される任意のペプチドをコードするヌクレオチド配列、又は、本明細書に記載される任意のヌクレオチド配列によりコードされる任意のアミノ酸配列に関する。いくつかの実施形態において、核酸配列は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、150、200、250、300、350、400、500、又は600ヌクレオチド未満である。いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、又は400アミノ酸残基未満である。
【0220】
いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、(i)アミノ酸配列を含み;又は、(ii)アミノ酸配列からなり、ここで、上記アミノ酸配列は、本明細書に記載される配列のいずれか1つである。
【0221】
いくつかの実施形態において、核酸配列は、(i)核酸配列を含み;又は、(ii)核酸配列からなり、ここで、上記核酸配列は、本明細書に記載される配列のいずれか1つである。
【0222】
2つのアミノ酸配列、又は、2つの核酸配列の同一性パーセントを測定するために、最適に比較するために配列をアライメントする(例えば、比較するために、最適にアライメントするように第1及び第2のアミノ酸又は核酸配列の1つ又は両方にギャップを導入してもよく、非相同配列を無視してもよい)。続いて、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1の配列の位置が第2の配列の対応する位置のアミノ酸残基又はヌクレオチドと同じものによって占められている場合、分子はその位置で同一であるとする(本明細書で使用されるように、アミノ酸又は核酸の「同一性」はアミノ酸又は核酸の「相同性」に相当する)。2つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列を最適にアライメントするために導入される必要のあるギャップの数及び各ギャップの長さを考慮して、配列に共有される同一の位置の数の関数である。例示の目的で、2つの配列間の配列比較及び同一性パーセントの測定は、適切な場合、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、及び、フレームシフトギャップペナルティ5の、Blossum62スコアリングマトリックスを用いて実施することができる。
【0223】
同様の物理化学的特性(相同性パーセント)が保存されている残基、例えば、ロイシン及びイソロイシンの割合もまた使用して、配列類似性を測定することができる。同様の物理化学的特性を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において定義されている。これらのファミリーとしては、例えば、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。多くの場合、相同性割合は、同一性割合よりも高くなる。したがって、本開示は、本明細書に記載される任意のアミノ酸配列に対して少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の相同性パーセンテージを有するアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列をコードする核酸もまた提供する。
【0224】
遺伝子改変動物の使用方法
遺伝子改変動物は、標的に特異的に結合できる重鎖抗体を生成するために使用できる。いくつかの実施形態において、標的(例えば、タンパク質又はタンパク質の断片)を免疫原として使用し、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の調製のための標準的な技術を使用してこれらの動物で抗体を生成することができる。いくつかの実施形態において、遺伝子改変動物は、動物が抗原に特異的な抗体を産生することを可能にする時間及び条件下で、選択された抗原に曝露される。
【0225】
ポリクローナル抗体は、抗原ペプチド又はタンパク質を複数回注射(例えば、皮下又は腹腔内注射)することにより、動物で生じさせることができる。いくつかの実施形態において、抗原ペプチド又はタンパク質は、少なくとも1つのアジュバントと共に注射される。いくつかの実施形態において、抗原ペプチド又はタンパク質は、免疫化される種において免疫原性である薬剤とコンジュゲートすることができる。動物には、抗原ペプチド又はタンパク質を2回以上(例えば、2回、3回、又は4回)注射することができる。
【0226】
全長ポリペプチド又はタンパク質を用いることができるか、或いは、その抗原ペプチド断片を、免疫原として用いることができる。タンパク質の抗原ペプチドは、アミノ酸配列の、少なくとも8(例えば、少なくとも10、15、20、又は30)個のアミノ酸残基を含み、ペプチドに対して生成された抗体が、タンパク質との特異的な免疫複合体を形成するように、タンパク質のエピトープを包含する。
【0227】
免疫原は典型的には、適切な対象(例えば、本明細書に記載される遺伝子改変動物)を免疫することにより抗体を調製するために使用される。適切な免疫原性調製物は、例えば、組換えにより発現された、又は、化学的に合成されたポリペプチド(例えば、タンパク質の断片)を含有することができる。調製物は、フロイント完全若しくは不完全アジュバントなどのアジュバント、又は、同様の免疫刺激剤をさらに含むことができる。
【0228】
不動化されたポリペプチド又はペプチドを用いる、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの標準的な技術により、免疫付与された対象における抗体力価を、経時的にモニタリングすることができる。所望する場合、抗体分子を哺乳動物から(例えば、血液から)単離し、タンパク質G又はプロテインAクロマトグラフィーなど、周知の技術によりさらに精製して、IgG画分を入手することができる。免疫付与後の適切な時期、例えば、特異性抗体の力価が最大となる時期において、抗体産生細胞を対象から取得し、これを用いて、Kohler et al.(Nature 256:495-497,1975)により元々記載されているハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al.,Immunol.Today 4:72,1983)、EBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.,pp.77-96,1985)、又はトリオーマ技術などの、標準的な技術により、モノクローナル抗体を調製することができる。ハイブリドーマを産生する技術は周知である(一般的には、Current Protocols in Immunology,1994,Coligan et al.(Eds.),John Wiley&Sons,Inc.,New York,NY)を参照されたい)。例えば、標準的なELISAアッセイを用い、対象となるポリペプチド又はエピトープに結合する抗体用のハイブリドーマ培養上清液をスクリーニングすることにより、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞が検出される。
【0229】
一態様では、本開示は、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座の改変を含むマウスを提供し、上記マウスは、重鎖定常領域遺伝子配列に作動可能に連結される再配列された免疫グロブリン配列を含むB細胞を産生する。いくつかの実施形態において、重鎖定常領域遺伝子配列に作動可能に連結された再配列された免疫グロブリン配列は、ヒト重鎖V、D、及び/又はJ配列を含む。いくつかの実施形態において、重鎖定常領域遺伝子配列は、CH1、ヒンジ、CH2、CH3、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるヒト又はマウスの重鎖配列を含む。
【0230】
一態様では、本開示は、動物において体細胞変異した重鎖抗体を作製するための方法に関する。この方法は、動物を抗原で免疫し、抗原に対する免疫応答を開始するのに十分な条件下で動物を維持することと、ヒト又は内因性の重鎖免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含む体細胞変異重鎖抗体を動物から単離することであって、体細胞変異重鎖抗体が抗原に特異的に結合することと、を含む。いくつかの実施形態において、動物は、再配列されていないヒト又は内因性重鎖免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントを含み、ここで、上記動物は、機能的IgG CH1ドメインをコードする少なくとも1つの対立遺伝子のヌクレオチド配列を欠いており、かつ上記動物は、CH1ドメインを含むIgMを発現する。
【0231】
B細胞又は脾臓細胞は、例えばマウス免疫グロブリン定常領域遺伝子に作動可能に連結された、再配列された非マウス免疫グロブリン可変遺伝子配列を含むことができる。ヒト重鎖可変領域をコードする配列を決定する。配列は、例えば、目的のハイブリドーマ又はB細胞を配列決定することによって決定できる。いくつかの実施形態において、単一のB細胞スクリーニングが使用される。それは、ハイブリドーマ融合やコンビナトリアルディスプレイを必要とせずに、天然抗体レパートリーをスクリーニングできる。例えば、B細胞をDNAバーコード化抗原のパネルと混合すると、個々のB細胞の抗原バーコードとB細胞受容体(BCR)配列の両方が単一細胞シーケンシングプロトコルによって回復される。
【0232】
抗体は、例えば、ヒト重鎖可変領域をコードする配列を、ヒト重鎖定常領域をコードする配列に作動可能に連結することにより、さらに改変されてヒト化抗体又はヒト抗体を得ることができる。
【0233】
いくつかの実施形態において、マウスが目的の抗原に非常に類似したタンパク質を発現する場合、マウス内で免疫応答を誘発することが困難である可能性がある。これは、免疫細胞の発達中に、自己起源のペプチドに結合したMHC分子を認識するB細胞とT細胞が免疫細胞のレパートリーから削除されるためである。そのような場合、ヒト化マウスをさらに改変することができる。マウス内の対応する遺伝子をノックアウトすることができ、その後、マウスを目的の抗原に曝露する。マウスは遺伝子産物に対するネガティブ選択を受けないため、標的に特異的に結合できる抗体を容易に生成することができる。
【0234】
本開示は、抗体、核酸、細胞、組織(例えば、脾臓組織)を作製する方法も提供する。いくつかの実施形態において、方法は、本明細書に記載される動物を抗原に曝露することを含む。抗体(例えば、ハイブリッド抗体)、抗体をコードする核酸、細胞、及び/又は組織(例えば、脾臓組織)を動物から得ることができる。いくつかの実施形態において、可変領域をコードする核酸は、例えば配列決定によって決定される。いくつかの実施形態において、ヒト重鎖免疫グロブリン可変領域をコードする核酸は、ヒト重鎖免疫グロブリン定常領域をコードする核酸と作動可能に連結され得る。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される核酸を含む細胞を培養し、抗体を収集する。
【0235】
いくつかの実施形態において、重鎖可変領域配列に寄与するマウス免疫グロブリンV、D、J遺伝子(例えば、マウスIGHV、IGHD、IGHJ、IGKV、又はIGKJ遺伝子)はない。いくつかの実施形態において、動物によって産生される重鎖可変領域配列は完全にヒトのものであり、ヒト免疫グロブリンV、D、J遺伝子(例えば、ヒトIGHV、IGHD、IGHJ、IGKV、及びIGKJ遺伝子)によって完全に寄与される。いくつかの実施形態において、再配列されたVDJ配列は、さらに体細胞超変異を受ける可能性がある。
【0236】
適切なヌクレオチドの変化を、ヒト、ヒト化、若しくはキメラ抗体、又は、本明細書に記載される抗体若しくはその抗原結合断片をコードするDNAに導入することにより、或いは、ペプチド合成により本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片の変異体を調製することができる。このような変異体としては、例えば、抗体の抗原結合部位又は抗原結合ドメインを製造する配列のアミノ酸内での、残基の欠失、挿入、又は置換が挙げられる。このような変異体の集団において、抗体又は抗原結合断片の中には、標的タンパク質対する親和性が増大するものもある。欠失、挿入、及び/又は組み合わせの任意の組み合わせを、標的に対して結合親和性が増大した、抗体又はその抗原結合断片において実現することができる。グリコシル化部位の数の変化(例えば、増加若しくは減少)、グリコシル化部位の種類の変化(例えば、異なる糖が、細胞内に存在する酵素により結合されるように、アミノ酸配列を変化させること)、又は、新規のグリコシル化部位を導入することなどの、抗体又は抗原結合断片に導入したアミノ酸の変化によって、抗体又は抗原結合断片を変化させる、又は、抗体又は抗原結合断片に、新規の翻訳後改変を導入することができる。
【0237】
本明細書で開示される抗体は、哺乳動物を含む、動物の任意の種に由来することができる。天然抗体の非限定例としては、ヒト、霊長類、例えば、サル及び類人猿、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ラクダ科動物(例えば、ラクダ及びラマ)、ニワトリ、ヤギ、並びに、ヒト抗体を産生するように遺伝子組換えされたトランスジェニックげっ歯類を含む、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、ハムスター、及びウサギ)に由来する抗体が挙げられる。
【0238】
ヒト及びヒト化抗体としては、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する(又は、これに由来するものと同じアミノ酸配列を有する)可変及び定常領域を有する抗体が挙げられる。ヒト抗体としては、例えばCDR内に、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的突然変異誘発、又はインビボでの体細胞突然変異により導入された変異)によりコードされないアミノ酸残基を挙げることができる。
【0239】
抗体又は抗原結合断片に追加の改変を加えることができる。例えば、システイン残基をFc領域に導入して、この領域内での、鎖間ジスルフィド結合形成を可能にすることができる。このように生成されたホモ二量体抗体は、任意の、増大したインビトロ及び/又はインビボでの半減期を有し得る。例えば、Wolff et al.(Cancer Res.53:2560-2565,1993)に記載されている、ヘテロ二官能性架橋剤を用いて、インビトロ及び/又はインビボでの半減期が増大したホモ二量体抗体を調製することもできる。或いは、二重Fc領域を有する抗体を組換えることができる(例えば、Stevenson et al.,Anti-Cancer Drug Design 3:219-230,1989を参照されたい)。
【0240】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片に、共有結合改変を加えることができる。これらの共有結合改変は、化学若しくは酵素合成により、又は、酵素又は化学切断により加えることができる。抗体又は抗体断片の、他の種類の共有結合改変を、抗体又は断片の標的とされたアミノ酸残基を、選択された側鎖、又は、N若しくはC末端残基と反応可能な、有機誘導体化剤と反応させることにより、分子に導入する。
【0241】
トランスフェリン受容体1(TFR1)
分化クラスター71(CD71)としても知られているTFR1は広範にわたり発現し、高い親和性でトランスフェリン(Tf)に結合することができる。ヒトTFR1は、細胞表面でジスルフィド結合により結合される、二量体(180kDa)として発見される760個のアミノ酸からなる、90kDaのII型膜貫通糖タンパク質である。TFR1モノマーは、Tf結合部位、膜貫通ドメイン(28個のアミノ酸)、及び、細胞内N末端ドメイン(61個のアミノ酸)を含有する、671個のアミノ酸の、大型の細胞外C末端ドメインで構成される。C末端細胞外ドメインは、アスパラギン残基251、317、及び727における3つのN結合グリコシル化部位、並びに、トレオニン104における1つのO結合グリコシル化部位を含有し、これらは全て、受容体の十分な機能に必要なものである。
【0242】
トランスフェリン(Tf)は、短いリンカー配列により分離されているN-及びC-lobeとして知られている、40kDaのサブユニット2つで構成される、80kDaの糖タンパク質である。各サブユニットは、1個の遊離第二鉄イオン(Fe3+)に結合することができるが故、Tfは、結合した鉄の原子を最大2つ有し得る。鉄遊離形態にあるTf、即ちアポTfは、血液中にて高効率でFe3+に結合し、Fe3+を、TFR1との相互作用により、内在化のために細胞表面まで輸送する。鉄輸入を制御する膜タンパク質として、TFR1は、Fe3+に結合したトランスフェリン(Tf)にナノモル親和性を示す、TFRファミリーのメンバーである。Tf-TFR1の錯体は、クラスリンが媒介するエンドサイトーシスにより内在化し、pHが5.5まで低下したときにFe3+はTfから解離する。このpHでは、アポTf及びTFR1は依然として会合しており、生理的pHで細胞表面までリサイクルされ、アポTfが放出される。
【0243】
トランスフェリン受容体による鉄の取り込みは、癌細胞が鉄を吸収するための重要な方法であるため、腫瘍の開始及び進行に関与したTFR1、及びその発現が、多くの癌において著しく調節不全に陥ったことが、蓄積した証拠により証明されている。TFR1と癌の関係が明らかになっており、TFR1が、癌に介入するための貴重な薬学的標的となっている。
【0244】
血液脳関門の内皮細胞で発現するTFR1を前臨床研究でもまた用いることで、抗体を含む巨大分子を脳に送達させることが可能となる。TFR1を標的とする抗体は、鉄の取り込みに干渉することなく、血液脳関門を通過することができる。
【0245】
TFR1、Tf、及びそれらの機能の詳細な説明は、例えば、Candelaria,P.V.,et al. “Antibodies targeting the transferrin receptor 1(TfR1)as direct anti-cancer agents.” Frontiers in Immunology 12(2021):607692;and Shen,Y.,et al. “Transferrin receptor 1 in cancer: a new sight for cancer therapy.” American Journal of Cancer Research 8.6(2018):916、に見出すことができ、これらそれぞれの全体が、参照により組み込まれている。
【0246】
重鎖単一可変ドメイン(VHH)抗体
モノクローナル抗体と組換え抗体は、医学とバイオテクノロジーにおける重要なツールである。全ての哺乳動物と同様に、ラクダ科動物(ラマなど)は、ジスルフィド結合でY字型に結合した2つの重鎖と2つの軽鎖からなる従来の抗体(IgG1など)を産生できる。しかし、それらはまた、IgG2とIgG3というIgGの2つの独特なサブクラス(重鎖IgGとも呼ばれる)を産生する。これらの抗体は、CH1領域を欠いているものの、依然としてそれらのN末端にVHH(又はナノボディ)と呼ばれる抗原結合ドメインを有する2つの重鎖のみで構成されている。従来のIgでは、抗原抗体相互作用の高い多様性を可能にするために、重鎖と軽鎖の両方の可変領域の組み合わせが必要である。単独の重鎖と軽鎖は依然としてこの能力を示すが、ペアになった重鎖と軽鎖と比較すると、非常に低い親和性を示す。重鎖IgGの独特な特徴は、それらのモノマー抗原結合領域が、別の領域と対になる必要がなく、従来の抗体に匹敵する特異性、親和性、及び特に多様性で抗原に結合する能力である。この特徴は主に、2つの重鎖の可変領域のアミノ酸配列内のいくつかの主要な変異によるもので、従来のIgと比較すると大きな構造変化を引き起こす。可変領域における主要な置換は、軽鎖が重鎖に結合するのを防ぐが、結合していない重鎖が免疫グロブリン結合タンパク質によってリサイクルされるのも防ぐ。
【0247】
これらの抗体の単一可変ドメイン(VHH、sdAb、又はナノボディと指定する)は、適応免疫系によって生成される最小の抗原結合ドメインである。これらの抗体の可変領域の第3の相補性決定領域(CDR3)は、従来の抗体の2倍の長さであることがよく知られている。その結果、抗原との相互作用面が拡大し、抗原-抗体相互作用の多様性も増加し、軽鎖の欠如を補うことになる。長い相補性決定領域3(CDR3)により、VHHは、酵素の活性部位やウイルス表面上の受容体結合キャニオンなどの、機能的に興味深い部位を含む、従来の抗体にアクセスできないタンパク質上の隙間まで拡張できる。
【0248】
VHHは、従来の抗体の可変ドメイン(VH及びVL)を持つ従来の抗体と比較して、より高い安定性、溶解性、発現収量、及びリフォールディング能力、並びにより良好なインビボ組織への浸透と内部化を含む、数多くの他の利点を提供する。さらに、従来の抗体のVHドメインとは対照的に、VHHは軽鎖に結合する本質的な傾向を示さない。VHHはVLドメインに結合しないため、従来のVH-VLペア、又はVHドメインに基づく単一ドメインを含有するコンストラクトよりも、VHHを多重特異性(例えば、二重特異性抗体)コンストラクトに再フォーマットする方がはるかに簡単である。
【0249】
本開示は、例えば、抗TFR1抗体、その改変抗体、そのキメラ抗体、及びそのヒト化抗体を提供する。
【0250】
23B8及び23B8由来の抗体(例えば、ヒト化抗体)のCDR配列には、Kabat番号付けによって定義される、それぞれ配列番号42、43、及び44に示されるVHHドメインのCDRが含まれる。CDRは、IMGTシステムによってもまた定義することができる。IMGT番号付けでは、VHHドメインのCDRはそれぞれ配列番号54、55、及び56に示される。
【0251】
24A1及び24A1由来の抗体(例えば、ヒト化抗体)のCDR配列には、Kabat番号付けによって定義される、それぞれ配列番号45、46、及び47に示されるVHHドメインのCDRが含まれる。CDRは、IMGTシステムによってもまた定義することができる。IMGT番号付けでは、VHHドメインのCDRはそれぞれ配列番号57、58、及び59に示される。
【0252】
24C9及び24C9由来の抗体(例えば、ヒト化抗体)のCDR配列には、Kabat番号付けによって定義される、それぞれ配列番号48、49、及び50に示されるVHHドメインのCDRが含まれる。CDRは、IMGTシステムによってもまた定義することができる。IMGT番号付けでは、VHHドメインのCDRはそれぞれ配列番号60、61、及び62に示される。
【0253】
24G5及び24G5由来の抗体(例えば、ヒト化抗体)のCDR配列には、Kabat番号付けによって定義される、それぞれ配列番号51、52、及び53に示されるVHHドメインのCDRが含まれる。CDRは、IMGTシステムによってもまた定義することができる。IMGT番号付けでは、VHHドメインのCDRはそれぞれ配列番号63、64、及び65に示される。
【0254】
23B8抗体のVHHドメインのアミノ酸配列は配列番号66に示される。24A1抗体のVHHドメインのアミノ酸配列は配列番号67に示される。24C9抗体のVHHドメインのアミノ酸配列は配列番号68に示される。24G5抗体のVHHドメインのアミノ酸配列は配列番号69に示される。
【0255】
様々な改変又はヒト化VHHのアミノ酸配列も提供される。重鎖抗体を改変又はヒト化するための異なる方法が存在するため(例えば、配列を異なるアミノ酸置換で改変できる)、重鎖抗体のVHHドメインには、ヒト化配列の複数のバージョンが存在する可能性がある。いくつかの実施形態において、ヒト化VHHドメインは、配列番号66~69の任意の配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である。
【0256】
さらに、いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、配列番号42~44、配列番号45~47、配列番号48~50、配列番号51~53、配列番号54~56、配列番号57~59、配列番号60~62、及び配列番号63~65からなる群から選択される1つ、2つ、又は3つのVHHドメインCDRもまた含有することができる。
【0257】
いくつかの実施形態において、抗体は、相補性決定領域(CDR)1、2、3を含む重鎖単一可変ドメイン(VHH)を有することができ、上記CDR1領域は、選択されたVHH CDR1アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなり、上記CDR2領域は、選択されたVHH CDR2アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなり、上記CDR3領域は、選択されたVHH CDR3アミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。選択されたVHH CDR1、2、3アミノ酸配列を
図37及び
図38に示す。
【0258】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1、又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有するVHH CDR1、0、1、又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有するVHH CDR2、0、1、又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有するVHH CDR3のうちの1つ、2つ、又は3つを含む重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含むことができ、ここで、VHH CDR1、VHH CDR2、及びVHH CDR3は、
図39のCDRから選択される。
【0259】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号42、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号43、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号44のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0260】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号45、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号46、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号47のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0261】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号48、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号49、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号50のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0262】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号51、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号52、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号53のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0263】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号54、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号55、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号56のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0264】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号57、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号58、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号59のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0265】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号60、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号61、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号62のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0266】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号63、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号64、0、1又は2個のアミノ酸挿入、欠失、又は置換を有する配列番号65のCDRの、1つ、2つ、又は3つを含有する重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含有することができる。
【0267】
挿入、欠失、及び置換は、CDR配列内、又は、CDR配列の片方若しくは両方の末端に存在することができる。いくつかの実施形態において、CDRは、Kabatの番号付けスキームに基づき決定される。いくつかの実施形態において、CDRは、Chothiaの番号付けスキームに基づき決定される。いくつかの実施形態において、CDRは、組み合わせの番号付けスキームに基づき決定される。いくつかの実施形態において、CDRは、IMGTの番号付けスキームに基づき決定される。
【0268】
本開示は、TFR1(ヒトTFR1)に結合する抗体又はその抗原結合断片もまた提供する。抗体又はその抗原結合断片には、選択されたVHH配列と少なくとも80%、85%、90%、又は95%同一であるアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる重鎖単一可変領域(VHH)が含まれる。いくつかの実施形態において、選択されたVHH配列は配列番号66である。いくつかの実施形態において、選択されたVHH配列は配列番号67である。いくつかの実施形態において、選択されたVHH配列は配列番号68である。いくつかの実施形態において、選択されたVHH配列は配列番号69である。
【0269】
2つのアミノ酸配列、又は、2つの核酸配列の同一性パーセントを測定するために、最適に比較するために配列をアライメントする(例えば、比較するために、最適にアライメントするように第1及び第2のアミノ酸又は核酸配列の1つ又は両方にギャップを導入してもよく、非相同配列を無視してもよい)。続いて、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置にあるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1の配列の位置が第2の配列の対応する位置のアミノ酸残基又はヌクレオチドと同じものによって占められている場合、分子はその位置で同一である。2つの配列間の同一性パーセントは、2つの配列を最適にアライメントするために導入される必要のあるギャップの数及び各ギャップの長さを考慮して、配列に共有される同一の位置の数の関数である。例示の目的で、2つの配列間の配列比較及び同一性パーセントの測定は、例えば、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、及び、フレームシフトギャップペナルティ5の、Blossum62スコアリングマトリックスを用いて実施することができる。
【0270】
本開示は、免疫グロブリン重鎖単一可変ドメイン(VHH)を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸もまた提供する。VHHは、
図37及び
図38に示すようなCDRを含むか、又は
図39に示すような配列を有する。
【0271】
抗体及び抗原結合断片はまた、抗体又は抗体断片の抗体変異体(誘導体及びコンジュゲートを含む)、並びに、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体又は抗体断片であることも可能である。本明細書により提供される追加の抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性(多量体、例えば、二重特異性)、ヒト抗体、キメラ抗体(例えば、ヒト-マウスキメラ)、一本鎖抗体、細胞内で製造された抗体(即ち、イントラボディ)、及び、それらの抗原結合断片である。
【0272】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、様々なタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、又はサブクラスに由来し得るFcドメインを含む。いくつかの実施形態において、FcドメインはIgG抗体又はその抗原結合断片に由来する。いくつかの実施形態において、Fcドメインは、1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の重鎖定常領域を含む。
【0273】
本開示は、本明細書に記載される任意の抗体又は抗原結合断片と交差競合する、抗体又はその抗原結合断片もまた提供する。交差競合アッセイは、当該技術分野において周知であり、例えば、Moore et al., “Antibody cross-competition analysis of the human immunodeficiency virus type 1 gp120 exterior envelope glycoprotein.” Journal of virology 70.3(1996):1863-1872に記載されており、その全体が、参照により本明細書に組み込まれている。一態様では、本開示は、本明細書に記載される任意の抗体又は抗原結合断片と同じエピトープ又は領域に結合する、抗体又はその抗原結合断片もまた提供する。エピトープ結合アッセイは、当該技術分野において周知であり、例えば、Estep et al. “High throughput solution-based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning.” MAbs.Vol.5.No.2.Taylor & Francis,2013に記載されており、その全体が、参照により本明細書に組み込まれている。
【0274】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号42、45、48、51、54、57、60、及び63から選択される重鎖単一可変ドメイン(VHH)CDR1を含む。
【0275】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号43、46、49、52、55、58、61、及び64から選択される重鎖単一可変ドメイン(VHH)CDR2を含む。
【0276】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号44、47、50、53、56、59、62、及び65から選択される重鎖単一可変ドメイン(VHH)CDR3を含む。
【0277】
抗体の特性
TFR1は、鉄結合TFとの相互作用を通じて、細胞の鉄の取り込みにおいて重要な役割を果たす。鉄は複数の細胞プロセスに必要であり、DNA合成、ひいては細胞増殖に不可欠である。癌細胞病理学におけるその中心的な役割のため、悪性細胞はTFR1を過剰発現することが多く、この発現の増加は異なる種類の癌の予後不良と関連する可能性がある。悪性細胞におけるTfR1発現レベルの上昇、細胞外アクセス可能性、内在化能力、及び癌細胞病理学における中心的な役割により、この受容体は抗体媒介療法の魅力的なターゲットとなっている。
【0278】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、TFR1とTFとの間の結合をブロッキングすることができない。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、TFR1とTFとの間の結合をブロッキングすることができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、受容体媒介エンドサイトーシスによって内在化される抗癌剤にコンジュゲートすることができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、受容体の機能を破壊することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は、Fcエフェクター機能を誘導することができず、したがって正常細胞に対するそれらの悪影響を防止又は改善する。
【0279】
本開示は、ヒトFcドメインを含む抗体又はその抗原結合断片を提供し、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片が存在しないときと比較して、それはFc依存性エフェクター機能を少なくとも又は約少なくとも又は約1倍、少なくとも又は約2倍、少なくとも又は約3倍、少なくとも又は約4倍、少なくとも又は約5倍、少なくとも又は約6倍、少なくとも又は約7倍、少なくとも又は約8倍、少なくとも又は約9倍、少なくとも又は約10倍、少なくとも又は約20倍、少なくとも又は約30倍、少なくとも又は約40倍、少なくとも又は約50倍、或いは少なくとも又は約100倍誘導する。
【0280】
本開示は、ヒトFcドメインを含む抗体又はその抗原結合断片を提供し、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片が存在しないときと比較して、それは宿主免疫応答を少なくとも又は約少なくとも又は約1倍、少なくとも又は約2倍、少なくとも又は約3倍、少なくとも又は約4倍、少なくとも又は約5倍、少なくとも又は約6倍、少なくとも又は約7倍、少なくとも又は約8倍、少なくとも又は約9倍、少なくとも又は約10倍、少なくとも又は約20倍、少なくとも又は約30倍、少なくとも又は約40倍、少なくとも又は約50倍、或いは少なくとも又は約100倍誘導する。
【0281】
本開示は、エンドサイトーシス率が少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である、ヒト脳細胞(例えば、皮質微小血管内皮細胞)に内在化することができる抗体又はその抗原結合断片を提供する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片のエンドサイトーシス率は、アイソタイプ対照抗体と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、50倍、100倍、500倍、又は1000倍である。
【0282】
いくつかの実施形態において、単一の重鎖を含む抗体又はその抗原結合断片が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、一対の重鎖を含む抗体又はその抗原結合断片が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、重鎖対はジスルフィド結合によって連結される。いくつかの実施形態において、重鎖対はノブ-イン-ホール改変を含む。いくつかの実施形態において、重鎖はヒトIgG Fcドメインを含む。いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、各重鎖に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10つのVHHドメインを含む。いくつかの実施形態において、各重鎖のVHHドメインは同じエピトープに特異的に結合する。いくつかの実施形態において、各重鎖のVHHドメインは異なるエピトープに特異的に結合する。いくつかの実施形態において、各重鎖のVHHドメインは、少なくとも1、2、3、4、又は5つの異なるエピトープに結合する。
【0283】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、二重特異性抗体、又は三重特異性抗体である。いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも4、5、又は6個の抗原に特異的に結合することができる。
【0284】
いくつかの実施形態において、抗体(又はその抗原結合断片)は、0.1s-1未満、0.01s-1未満、0.001s-1未満、0.0001s-1未満、又は0.00001s-1未満の解離速度(koff)でTFR1に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、解離速度(koff)は、0.01s-1超、0.001s-1超、0.0001s-1超、0.00001s-1超、又は、0.000001s-1超である。
【0285】
いくつかの実施形態において、動力学的会合速度(kon)は、1×102/Ms超、1×103/Ms超、1×104/Ms超、1×105/Ms超、又は、1×106/Ms超である。いくつかの実施形態において、動力学的会合速度(kon)は、1×105/Ms未満、1×106/Ms未満、又は、1×107/Ms未満である。
【0286】
親和性を、動力学的速度定数の商から推定することができる(KD=koff/kon)。いくつかの実施形態において、KDは、1×10-6M未満、1×10-7M未満、1×10-8M未満、1×10-9M未満、又は、1×10-10M未満である。いくつかの実施形態において、KDは、50nM、30nM、20nM、15nM、10nM、9nM、8nM、7nM、6nM、5nM、4nM、3nM、2nM、又は1nM未満である。いくつかの実施形態において、KDは、1×10-7M超、1×10-8M超、1×10-9M超、1×10-10M超、1×10-11M超、又は、1×10-12M超である。
【0287】
抗原に対する抗体の親和性を測定する一般的な技術としては、例えば、ELISA、RIA、及び表面プラズモン共鳴(SPR)が挙げられる。いくつかの実施形態において、抗体はヒトTFR1、サルTFR1、マウスTFR1、又はキメラTFR1に結合する。いくつかの実施形態において、抗体はヒトTFR1、サルTFR1、マウスTFR1、又はキメラTFR1に結合しない。
【0288】
いくつかの実施形態において、熱安定性が測定される。本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、又は95℃を超えるTm(融解温度)を有し得る。いくつかの実施形態において、Tmは、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、又は95℃未満である。本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片は、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、又は95℃を超えるTagg(凝集温度、例えば、266nmでのTagg(Tagg266)又は473nmでのTagg(Tagg473))を有し得る。いくつかの実施形態において、Taggは、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、又は95℃未満である。
【0289】
いくつかの実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、又はヒトIgG4である。
【0290】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、機能的Fc領域を有する。いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1 Fc領域を含む。いくつかの実施形態において、ヒトIgG1 Fc領域は、配列番号75と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0291】
いくつかの実施形態において、抗体又は抗原結合断片は、Fc領域を有していない。例えば、抗体(又はその抗原結合断片)は、リンカーペプチドによって相互接続された1つ以上のVHHドメインを含むポリペプチドである。いくつかの実施形態において、抗体は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10つのVHHドメインを含む。いくつかの実施形態において、VHHドメインは同じエピトープに特異的に結合する。いくつかの実施形態において、VHHドメインは異なるエピトープに結合する。いくつかの実施形態において、VHHドメインは、少なくとも1、2、3、4、又は5つの異なるエピトープに結合する。
【0292】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、機能的Fc領域を有していない。いくつかの実施形態において、Fc領域は、LALA変異(EUの番号付けにおけるL234A及びL235A変異)、又は、LALA-PG変異(EUの番号付けにおけるL234A、L235A、P329G変異)を有する。いくつかの実施形態において、Fc領域は、EU番号付けによる位置297(例えば、N297A)に変異を有する。いくつかの実施形態において、変異したヒトIgG1 Fc領域は、配列番号76と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0293】
いくつかの実施形態において、対象に投与されてから6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、60時間、又は72時間後に、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片の脳(例えば、全脳又は実質)における濃度は、投与直後(例えば、0.5時間)のその濃度の10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%を超える可能性がある。いくつかの実施形態において、対象に投与されてから6時間、12時間、24時間、36時間、48時間、60時間、又は72時間後に、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片の脳(例えば、全脳又は実質)における濃度は、対照抗体(例えば、hIgG1又はJR141-N)の濃度、又は対象の血清中の濃度の少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、1000倍、2000倍、5000倍、又は10000倍であり得る。
【0294】
抗TFR1抗体の作製方法
適切なヌクレオチドの変化を、ヒト、ヒト化、若しくはキメラ抗体、又は、本明細書に記載される抗体若しくはその抗原結合断片をコードするDNAに導入することにより、或いは、ペプチド合成により本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片の変異体を調製することができる。このような変異体としては、例えば、抗体の抗原結合部位又は抗原結合ドメインを製造する配列のアミノ酸内での、残基の欠失、挿入、又は置換が挙げられる。このような変異体の集団において、一部の抗体又は抗原結合断片は、標的タンパク質、例えば、TFR1に対する親和性が増大する。欠失、挿入、及び/又は組み合わせの任意の組み合わせを、標的に対して結合親和性が増大した、抗体又はその抗原結合断片において実現することができる。グリコシル化部位の数の変化(例えば、増加若しくは減少)、グリコシル化部位の種類の変化(例えば、異なる糖が、細胞内に存在する酵素により結合されるように、アミノ酸配列を変化させること)、又は、新規のグリコシル化部位を導入することなどの、抗体又は抗原結合断片に導入したアミノ酸の変化によって、抗体又は抗原結合断片を変化させる、又は、抗体又は抗原結合断片に、新規の翻訳後改変を導入することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される重鎖抗体又はその抗原結合断片は、本明細書に記載される遺伝子改変動物(例えば、重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性であるマウス)のいずれかを免疫化することによって得られる。
【0295】
ヒト化抗体には、ヒト免疫グロブリンスキャフォールド配列のヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する(又は、由来するものと同じアミノ酸配列を有する)可変領域及び定常領域を有する抗体が含まれる。ヒト化抗体には、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的な変異誘発によって、又はインビボでの体細胞変異によって導入された変異)によってコードされていないアミノ酸残基が含まれる場合がある。したがって、「ヒト化」抗体は、非ヒト種由来の配列が対応するヒト配列によって置換されたキメラ抗体である。
【0296】
通常、ヒト、ヒト化、又はキメラ抗TFR1抗体のアミノ酸配列変異体は、元の抗体のVHHドメインに存在する配列と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性パーセントを有するアミノ酸配列を含有する。
【0297】
元の配列に対する同一性又は相同性とは、通常、配列をアラインして、必要な場合、ギャップを導入し、最大のパーセント配列同一性を達成した後に、配列同一性の一部としての保存的置換を考慮しない、ヒト、ヒト化、又はキメラ抗TFR1抗体又は断片内に存在する配列と同一である候補配列内に存在する、アミノ酸残基の割合である。
【0298】
抗TFR1抗体又は抗原結合断片に、更なる改変を加えることができる。例えば、システイン残基をFc領域に導入して、この領域内での、鎖間ジスルフィド結合形成を可能にすることができる。このように生成されたホモ二量体抗体は、任意の、増大したインビトロ及び/又はインビボでの半減期を有し得る。例えば、Wolff et al.Wolff et al.(“Monoclonal antibody homodimers:enhanced antitumor activity in nude mice.” Cancer research 53.11(1993):2560-2565)に記載されている、ヘテロ二官能性架橋剤を用いて、インビトロ及び/又はインビボでの半減期が増大したホモ二量体抗体を調製することもできる。或いは、二重Fc領域を有する抗体を組換えることができる。
【0299】
いくつかの実施形態において、抗TFR1抗体又はその抗原結合断片に、共有結合改変を加えることができる。これらの共有結合改変は、化学若しくは酵素合成により、又は、酵素又は化学切断により加えることができる。抗体又は抗体断片の、他の種類の共有結合改変を、抗体又は断片の標的とされたアミノ酸残基を、選択された側鎖、又は、N若しくはC末端残基と反応可能な、有機誘導体化剤と反応させることにより、分子に導入する。
【0300】
いくつかの実施形態において、Fc領域に(直接又は間接的に)結合したフコースを欠く炭水化物構造を有する抗体変異体を提供する。例えば、このような抗体組成物中のフコースの量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%、又は20%~40%であり得る。フコースの量は、例えば、WO 2008/077546に記載のMALDI-TOF質量分析によって測定される、Asn297に結合した全ての糖構造(例えば、複合体、ハイブリッド、及び高マンノース構造)の合計に対する、Asn297での糖鎖内のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域内の位置297(Fc領域残基のEuの番号付け、又は、Kabatの番号付けにおける位置314)に位置するアスパラギン残基を指し、しかし、Asn297はまた、抗体における微小な配列変動に起因して、位置297から約±3アミノ酸の上流又は下流、即ち、位置294~位置300の間に位置してもよい。そのようなフコシル化変異体は、改善されたADCC機能を有し得る。いくつかの実施形態において、グリカンの不均質性を低減するために、抗体のFc領域をさらに組換え、位置297におけるアスパラギンをアラニンで置き換えることができる(N297A)。
【0301】
本開示はまた、本明細書で開示される単離ポリヌクレオチド(例えば、本明細書で開示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)を含む組換えベクター(例えば、発現ベクター)、組換えベクターが導入された宿主細胞(即ち、当該宿主細胞が、ポリヌクレオチド、及び/又は、ポリヌクレオチドを含むベクターを含有するように)、並びに、組換え技術による、組換え抗体ポリペプチド又はその断片の産生を提供する。
【0302】
本明細書で使用される場合、「ベクター」とは、ベクターが宿主細胞に導入されたときに、宿主細胞に、対象となる1つ以上のポリヌクレオチドを送達することができる、任意のコンストラクトである。「発現ベクター」は、対象となる1つ以上のポリヌクレオチドを、発現ベクターが導入されている宿主細胞内で、コードされたポリペプチドとして送達し、発現することが可能である。したがって、発現ベクター内では、対象となるポリヌクレオチドが、発現ベクターと共に導入された宿主細胞内で翻訳されるように、対象となるポリヌクレオチドの組み込み部位において、又はこの付近で、又はこれに隣接して、ベクター内、又は宿主細胞のゲノムのいずれかにて、プロモーター、エンハンサー、及び/又はポリAテールなどの制御エレメントと作動可能に結合されることにより、ベクター内での発現のために、対象となるポリヌクレオチドが配置される。
【0303】
当該技術分野において周知の方法、例えば、電気穿孔法、化学トランスフェクション(例えば、DEAE-デキストラン)、形質転換、トランスフェクション、並びに、感染及び/又は形質導入(例えば、組換えウイルスによる)により、ベクターを宿主細胞に導入することができる。したがって、ベクターの非限定例としては、ウイルスベクター(組換えウイルスを生成するために使用可能なもの)、ネイキッドDNA又はRNA、プラスミド、コスミド、ファージベクター、及び、カチオン性縮合剤と会合したDNA又はRNA発現ベクターが挙げられる。
【0304】
いくつかの実施態様において、本明細書で開示されるポリヌクレオチド(例えば、本明細書で開示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)を、ウイルス発現系(例えば、痘疹若しくは他のポックスウイルス、レトロウイルス、又はアデノウイルス)を用いて導入し、これには、非病原性(欠損型)の複製可能なウイルスの使用を伴う場合があるか、又は、複製不能ウイルスを用いる場合がある。後者の場合、ウイルス増殖は一般的に、補完的なウイルスパッケージング細胞においてのみ生じる。好適なシステムは、例えば、Fisher-Hoch et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:317-321;Flexner et al.,1989,Ann.N.Y.Acad Sci.569:86-103;Flexner et al.,1990,Vaccine,8:17-21;米国特許第4,603,112号、同第4,769,330号、及び同第5,017,487号;WO 89/01973;米国特許第4,777,127号;GB 2,200,651;EP 0,345,242;WO 91/02805;Berkner-Biotechniques,6:616-627,1988;Rosenfeld et al.,1991,Science,252:431-434;Kolls et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:215-219;Kass-Eisler et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:11498-11502;Guzman et al.,1993,Circulation,88:2838-2848;並びにGuzman et al.,1993,Cir.Res.,73:1202-1207において開示されている。DNAを、このような発現系に組み込む技術は、当業者に周知である。DNAはまた、例えば、Ulmer et al.,1993,Science,259:1745-1749,及びCohen,1993,Science,259:1691-1692に記載されているように、「ネイキッド」であってもよい。DNAを、細胞に効率的に輸送される生分解性ビーズにコーティングすることにより、ネイキッドDNAの取り込みを増大させることができる。
【0305】
発現のために、本明細書で開示されている、抗体をコードする、又は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むDNAインサートを、適切なプロモーター(例えば、異種プロモーター)に作動可能に連結することができる。いくつかの例を挙げると、ファージλPLプロモーター、大腸菌lac、trp及びtacプロモーター、SV40初期及び後期プロモーター、並びに、レトロウイルス型LTRのプロモーターなどである。他の好適なプロモーターが、当業者には既知である。いくつかの実施形態において、プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターである。発現コンストラクトはさらに、転写開始及び終了のための部位、並びに、転写領域内に、翻訳のためのリボソーム結合部位を含有することができる。コンストラクトにより発現した成熟転写物のコード部分は、先頭に翻訳開始、及び翻訳されるポリペプチドの末端部におおよそ配置される終止コドン(UAA、UGA又はUAG)を含むことができる。
【0306】
示したように、発現ベクターは、少なくとも1つの選択可能なマーカーを含むことができる。このようなマーカーとしては、真核細胞培養のためのジヒドロ葉酸レダクターゼ、又はネオマイシン耐性、並びに大腸菌及び他の細菌培養のためのテトラサイクリン又はアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。適切な宿主の代表例としては、大腸菌、ストレプトミセス、及びネズミチフス菌細胞などの細菌細胞、酵母細胞などの真菌細胞、ショウジョウバエS2及びハスモンヨトウSf9細胞などの昆虫細胞、CHO、COS、Bowes黒色腫、及びHK 293細胞などの動物細胞、並びに、植物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載される宿主細胞に対する、適切な培養培地及び条件は、当該技術分野において周知である。
【0307】
細菌で用いるための非限定的なベクターとしては、Qiagenから入手可能なpQE70、pQE60及びpQE-9、Stratageneから入手可能なpBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A、及び、Pharmaciaから入手可能なptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5が挙げられる。非限定的な真核細胞ベクターとしては、Stratageneから入手可能なpWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、及びpSG、並びに、Pharmaciaから入手可能なpSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVLが挙げられる。他の好適なベクターは、当業者には容易に明らかであろう。
【0308】
使用に好適な、非限定的な細菌プロモーターとしては、大腸菌lacI及びlacZプロモーター、T3及びT7プロモーター、gptプロモーター、λPR及びPLプロモーター、並びにtrpプロモーターが挙げられる。好適な真核細胞プロモーターとしては、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のものなどの、レトロウイルス型LTRのプロモーター、及び、マウスメタロチオネイン-Iプロモーターなどのメタロチオネインプロモーターが挙げられる。
【0309】
酵母菌サッカロマイセス・セレヴィシエにおいて、アルファ因子、アルコールオキシダーゼ、及びPGHなどの、体質性又は誘導性プロモーターを含有する、いくつかのベクターを使用することができる。
【0310】
コンストラクトの宿主細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、カチオン性脂質媒介性トランスフェクション、電気穿孔法、形質導入、感染、又は他の方法により行うことができる。このような方法は、Davis et al.,Basic Methods In Molecular Biology(1986)などの、多くの標準的な実験室用マニュアルに記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0311】
より多くの真核生物による、本開示の抗体をコードするDNAの転写は、エンハンサー配列をベクターに挿入することで増大させることができる。エンハンサーは、通常、所与の宿主細胞型において、プロモーターの転写活性を増大させる役割を果たす、約10~300bpの、DNAのcis作用型エレメントである。エンハンサーの例としては、塩基対100~270において、複製起点の後ろ側に位置する、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後ろ側のポリオーマエンハンサー、及び、アデノウィルスエンハンサーが挙げられる。
【0312】
翻訳されたタンパク質を、小胞体の内腔、ペリプラズム空間、又は、細胞外環境に分泌させるために、適切な分泌シグナルを、発現したポリペプチドに組み込むことができる。シグナルは、ポリペプチドに対して内因性であることができる、又は、シグナルは、異種シグナルであることができる。
【0313】
ポリペプチド(例えば、抗体)は、融合タンパク質(例えば、GST融合物)などの改変形態で、又は、ヒスチジンタグにより発現することができ、分泌シグナルだけでなく、追加の異種機能領域もまた含むことができる。例えば、追加のアミノ酸、特に、荷電アミノ酸の領域を、ポリペプチドのN末端に付加して、精製中に、又は、その後の取り扱い及び貯蔵の間に、宿主細胞での安定性及び耐久力を改善することができる。また、ペプチド部分をポリペプチドに付加して、精製を促進することができる。このような領域は、ポリペプチドの最終調製前に取り除くことができる。ペプチド部分をポリペプチドに付加して、とりわけ、分泌又は排泄を生じさせ、安定性を改善し、精製を促進することは、周知かつ日常的な当該技術である。
【0314】
本開示は、本明細書に記載される任意のヌクレオチド配列と、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一である核酸配列、及び、本明細書に記載される任意のアミノ酸配列と、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列もまた提供する。いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載される任意のペプチドをコードするヌクレオチド配列、又は、本明細書に記載される任意のヌクレオチド配列によりコードされる任意のアミノ酸配列に関する。いくつかの実施形態において、核酸配列は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、150、200、250、300、350、400、500、又は600ヌクレオチド未満である。いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200アミノ酸残基未満である。
【0315】
いくつかの実施形態において、アミノ酸配列は、(i)アミノ酸配列を含み;又は、(ii)アミノ酸配列からなり、ここで、上記アミノ酸配列は、本明細書に記載される配列のいずれか1つである。
【0316】
いくつかの実施形態において、核酸配列は、(i)核酸配列を含み;又は、(ii)核酸配列からなり、ここで、上記核酸配列は、本明細書に記載される配列のいずれか1つである。
【0317】
いくつかの実施形態において、抗体又はその抗原結合断片は、酵母、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞)で発現される。
【0318】
治療と診断の方法
本開示の抗TFR1抗体、又は抗体若しくはその抗原結合断片は、様々な治療目的に使用することができる。一態様では、本開示は、対象の脳疾患(例えば、脳癌、認知症、又はアルツハイマー病)を治療するための方法、脳疾患(例えば、脳癌、認知症、又はアルツハイマー病)を有する対象を同定する方法、脳疾患を発症するリスクを低減する方法、又は対象において追加の症状を発症するリスクを低減する方法を提供する。いくつかの実施形態において、治療により、脳疾患(例えば、脳癌、認知症、又はアルツハイマー病)の進行を停止する、遅らせる、遅延させる、又は阻害することができる。いくつかの実施形態において、治療により、対象における脳疾患(例えば、脳癌、認知症、又はアルツハイマー病)の1つ以上の症状の数、重症度、及び/又は持続期間が軽減され得る。
【0319】
一態様では、本開示は、治療有効量の本明細書で開示される抗体又はその抗原結合断片を、それを必要とする対象(例えば、脳疾患を有する、又は脳疾患を有すると同定又は診断された対象)に投与することを含む方法を特徴とする。
【0320】
一態様では、本開示は、血液脳関門を通過するように治療剤を運ぶ方法を特徴とする。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片は治療剤に連結される。いくつかの実施形態において、治療剤は抗体、その抗原結合断片、小分子、又は抗体薬物コンジュゲートである。
【0321】
いくつかの実施形態において、本明細書で開示される組成物及び方法は、脳疾患(例えば、脳癌、認知症、又はアルツハイマー病)のリスクがある患者の治療に使用することができる。脳疾患(例えば、脳癌、認知症、又はアルツハイマー病)の患者は、当該技術分野で周知の様々な方法によって同定することができる。
【0322】
いくつかの実施形態において、脳疾患は脳癌である。
【0323】
一態様では、本開示は、腫瘍増殖速度を低減する方法であって、腫瘍細胞を、有効量の、本明細書に記載される抗体若しくはその抗原結合断片を含む組成物、又は抗体薬物コンジュゲートと接触させることを含む、方法に関する。一態様では、本開示は、腫瘍細胞の殺傷方法であって、腫瘍細胞を、有効量の、本明細書に記載される抗体若しくはその抗原結合断片を含む組成物、又は抗体薬物コンジュゲートと接触させることを含む、方法に関する。
【0324】
本明細書で使用される場合、「有効量」とは、疾患、例えば、癌の進行を停止する、遅らせる、遅延させる、又は阻害することを含む、有益な、又は所望の結果をもたらすのに十分な量又は用量を意味する。有効量は、例えば、抗体、抗原結合断片、抗体をコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含むベクター、及び/又はその組成物が投与される対象の年齢及び体重、症状の重症度、並びに投与経路に応じて変化し、故に、投与は、個別に決定することができる。
【0325】
有効量は、1回以上の投与で投与することができる。一例として、抗体又はその抗原結合断片の有効量は、患者の疾患の進行を改善する、停止する、安定化する、逆転する、阻害する、遅らせる及び/又は遅延させるのに十分な量である。当該技術分野において理解されるように、有効量の抗体又は抗原結合断片は、とりわけ、患者の病歴、加えて、用いた抗体の種類(及び/又は用量)などの、他の因子に応じて変化する場合がある。
【0326】
本明細書で開示される抗体、抗体をコードするポリヌクレオチド、及び/又は組成物を投与するための有効量及びスケジュールは、実験によって決定することができ、このような決定を行うことは、当業者の範囲内である。当業者は、投与される必要がある用量は、例えば、本明細書で開示される抗体、抗体をコードするポリヌクレオチド、及び/若しくは組成物を受ける哺乳動物、投与経路、抗体の具体的な種類、抗体をコードするポリヌクレオチド、抗原結合断片、並びに/又は、使用される、本明細書で開示される組成物、及び、哺乳動物に投与される他の薬剤に応じて変化することを理解するであろう。抗体又は抗原結合断片に対して適切な用量を選択する手引きは、抗体及び抗原結合断片の治療のための使用に関する文献、例えば、Handbook of Monoclonal Antibodies,Ferrone et al.,eds.,Noges Publications,Park Ridge,N.J.,1985,ch.22 and pp.303-357;Smith et al.,Antibodies in Human Diagnosis and Therapy,Haber et al.,eds.,Raven Press,New York,1977,pp.365-389に見出すことができる。
【0327】
有効量の抗体の、典型的な日用量は、0.01mg/kg~100mg/kgである。いくつかの実施形態において、用量は、100mg/kg、10mg/kg、9mg/kg、8mg/kg、7mg/kg、6mg/kg、5mg/kg、4mg/kg、3mg/kg、2mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、又は0.1mg/kg未満であることができる。いくつかの実施形態において、用量は、10mg/kg、9mg/kg、8mg/kg、7mg/kg、6mg/kg、5mg/kg、4mg/kg、3mg/kg、2mg/kg、1mg/kg、0.5mg/kg、0.1mg/kg、0.05mg/kg、又は0.01mg/kg超であることができる。いくつかの実施形態において、用量は、約10mg/kg、9mg/kg、8mg/kg、7mg/kg、6mg/kg、5mg/kg、4mg/kg、3mg/kg、2mg/kg、1mg/kg、0.9mg/kg、0.8mg/kg、0.7mg/kg、0.6mg/kg、0.5mg/kg、0.4mg/kg、0.3mg/kg、0.2mg/kg、又は0.1mg/kgである。
【0328】
本明細書に記載される方法のいずれかでは、少なくとも1つの抗体、その抗原結合断片、又は医薬組成物(例えば、本明細書に記載される抗体、抗原結合断片、又は医薬組成物のいずれか)、並びに、任意選択的に、少なくとも1つの追加の治療剤を、対象に、少なくとも週に1回(例えば、週に1回、週に2回、週に3回、週に4回、1日1回、1日2回、又は1日3回)投与することができる。いくつかの実施形態において、少なくとも2つの異なる抗体及び/又は抗原結合断片は、同じ組成物(例えば、液体組成物)として投与される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの抗体又は抗原結合断片、及び、少なくとも1つの追加の治療剤は、同じ組成物(例えば、液体組成物)として投与される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの抗体又は抗原結合断片、及び、少なくとも1つの追加の治療剤は、2つの異なる組成物(例えば、少なくとも1つの抗体又は抗原結合断片を含有する液体組成物、及び、少なくとも1つの追加の治療剤を含有する固体口腔用組成物)として投与される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの追加の治療剤は、丸薬、錠剤、又はカプセルとして投与される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの追加の治療剤は、徐放性経口製剤として投与される。
【0329】
いくつかの実施形態において、1つ以上の追加の治療剤を、少なくとも1つの抗体、抗原結合抗体断片、又は医薬組成物(例えば、本明細書に記載される抗体、抗原結合抗体断片、又は医薬組成物のいずれか)を投与する前、又は、投与した後に、対象に投与することができる。いくつかの実施形態において、1つ以上の追加の治療剤、及び、少なくとも1つの抗体、抗原結合抗体断片、又は医薬組成物(例えば、本明細書に記載される抗体、抗原結合抗体断片、又は医薬組成物のいずれか)は、対象内で、1つ以上の追加の治療剤の生物活性期間と、少なくとも1つの抗体又は抗原結合断片(例えば、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片のいずれか)の生物活性期間に、重なりが生じるように、対象に投与される。
【0330】
いくつかの実施形態において、長期間にわたり(例えば、少なくとも1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、1年、2年、3年、4年、又は5年の期間にわたり)、少なくとも1つの抗体、抗原結合抗体断片、又は医薬組成物(例えば、本明細書に記載される抗体、抗原結合抗体断片、又は医薬組成物のいずれか)を、対象に投与することができる。熟練した医療専門家は、治療の有効性を診断する、又は追跡する(例えば、疾患の少なくとも1つの症状を観察する)ために、本明細書に記載される方法のいずれかを用いて治療期間の長さを決定することができる。本明細書に記載されるように、熟練した医療専門家はまた、対象に投与される抗体若しくは抗原結合抗体断片(及び/又は、1つ以上の追加の治療剤)の同一性及び数を変化させる(例えば、増加又は減少させる)ことができ、また、(例えば、本明細書に記載の、及び、当該技術分野において周知の方法のいずれかを用いる)治療の有効性の評価に基づき、対象への、少なくとも1つの抗体若しくは抗原結合抗体断片(及び/又は、1つ以上の追加の治療剤)の投与用量又は頻度を調整する(例えば、増加又は減少させる)ことができる。
【0331】
いくつかの実施形態において、1つ以上の追加の治療剤を、対象に投与することができる。追加の治療剤は、B-Rafの阻害剤、EGFR阻害剤、MEKの阻害剤、ERKの阻害剤、K-Rasの阻害剤、c-Metの阻害剤、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の阻害剤、ホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3K)の阻害剤、Aktの阻害剤、mTORの阻害剤、二重PI3K/mTOR阻害剤、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害剤、並びに、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)及び/又はイソクエン酸デヒドロゲナーゼ2(IDH2)の阻害剤からなる群から選択される1つ以上の阻害剤を含むことができる。
【0332】
いくつかの実施形態において、追加の治療剤は、HER3の阻害剤、LSD1の阻害剤、MDM2の阻害剤、BCL2の阻害剤、CHK1の阻害剤、活性化ヘッジホッグシグナル伝達経路の阻害剤、及び、エストロゲン受容体を選択的に分解する薬剤からなる群から選択される1つ以上の阻害剤を含むことができる。
【0333】
いくつかの実施形態において、追加の治療剤は、トラベクテジン、nab-パクリタキセル、トレバナニブ、パゾパニブ、セディラニブ、パルボシクリブ、エベロリムス、フルオロピリミジン、IFL、レゴラフェニブ、レオリシン、アリムタ、ジカイダ、スーテント、テムシロリムス、アキシチニブ、エベロリムス、ソラフェニブ、ヴォトリエント、パゾパニブ、IMA-901、AGS-003、カボザンチニブ、ビンフルニン、Hsp90阻害剤、Ad-GM-CSF、テモゾロミド、IL-2、IFNa、ビンブラスチン、サロミド、ダカルバジン、シクロホスファミド、レナリドマイド、アザシチジン、レナリドマイド、ボルテゾミブ、アムルビシン、カルフィルゾミブ、プララトレキサート、及びエンザスタウリンからなる群から選択される1つ以上の治療剤を含むことができる。
【0334】
いくつかの実施形態において、追加の治療剤は、アジュバント、TLRアゴニスト、腫瘍壊死因子(TNF)α、IL-1、HMGB1、IL-10アンタゴニスト、IL-4アンタゴニスト、IL-13アンタゴニスト、IL-17アンタゴニスト、HVEMアンタゴニスト、ICOSアゴニスト、CX3CL1を標的とする治療、CXCL9を標的とする治療、CXCL10を標的とする治療、CCL5を標的とする治療、LFA-1アゴニスト、ICAM1アゴニスト、及びセレクチンアゴニストからなる群から選択される1つ以上の治療剤を含むことができる。
【0335】
いくつかの実施形態において、カルボプラチン、nab-パクリタキセル、パクリタキセル、シスプラチン、ペメトレキセド、ゲムシタビン、FOLFOX、又はFOLFIRIが、対象に投与される。
【0336】
いくつかの実施形態において、追加の治療剤は、抗PD1抗体、抗PD-L1抗体、抗LAG-3抗体、抗TIGIT抗体、抗BTLA抗体、抗CTLA-4抗体、又は抗GITR抗体である。
【0337】
医薬組成物及び投与経路
本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片の少なくとも1つ(例えば、1、2、3、又は4つ)を含有する医薬組成物もまた、本明細書で提供する。本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片のいずれかの、2つ以上(例えば、2、3、又は4つ)が、任意の組み合わせで、医薬組成物に存在することができる。医薬組成物は、当該技術分野において周知の任意の様式で、製剤化することができる。
【0338】
医薬組成物は、その意図する投与経路(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、又は腹腔内)と適合性を有するように、製剤化される。組成物は、無菌希釈剤(例えば、無菌水若しくは生理食塩水)、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶剤、抗菌若しくは抗カビ剤(例えば、ベンジルアルコール若しくはメチルパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)、酸化防止剤(アスコルビン酸若しくは亜硫酸水素ナトリウムなど)、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸など)、緩衝剤(アセテート、シトレート、若しくはホスフェートなど)、及び、等張剤(例えば、糖類(例えば、デキストロース)、ポリアルコール(例えば、マンニトール若しくはソルビトール)、若しくは塩類(例えば、塩化ナトリウム))、又はこれらの任意の組み合わせを含むことができる。リポソーム懸濁液もまた、薬学的に許容される担体として使用可能である(例えば、米国特許第4,522,811号を参照されたい)。組成物の調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、又は複数回投与用バイアルに製剤化し、封入することができる。必要な場合(例えば、注射可能な製剤におけるように)、適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング、又は界面活性剤を用いることにより、維持することができる。吸収を遅らせる剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)を含めることにより、抗体又はその抗原結合断片の吸収を長くすることができる。或いは、徐放は、インプラント及びマイクロカプセル化デリバリーシステムによって達成することができ、これらとしては、生分解性・生体適合性ポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸;Alza Corporation及びNova Pharmaceutical,Inc.)を挙げることができる。
【0339】
本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片のいずれかの1つ以上を含有する組成物は、単位剤形(即ち、投与を容易にし、用量を均一にするための、所定量の活性化合物を含有する、物理的に別個の単位)で、非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、又は腹腔内)投与のために製剤化することができる。
【0340】
組成物の毒性及び治療効果は、細胞培養液又は実験用動物(例えば、サル)における、標準的な薬学的手順により決定することができる。例えば、LD50(集団の50%に対して致死性の用量)、及び、ED50(集団の50%において治療に有効な用量)を決定することができ、治療指数は、LD50:ED50の比率である。高い治療指数を示す薬剤が好ましい。薬剤が、望ましくない副作用を示す場合、損害の可能性を最低限に抑える(即ち、望ましくない副作用を軽減する)ためのケアを取る必要がある。毒性及び治療効果は、他の標準的な薬学的手順により決定することができる。
【0341】
細胞培養アッセイ及び動物研究から入手したデータを、対象(例えば、ヒト)で用いるための、任意の所与の剤の適切な用量の製剤化において使用することができる。1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、又は4つ)の抗体又はその抗原結合断片(例えば、本明細書に記載される抗体又は抗体断片のいずれか)の治療有効量は、対象、対象又は疾患を発症するリスクがあると同定された対象の疾患を治療し、対象(例えば、ヒト)の疾患の1つ以上の症状の重症度、頻度、及び/又は持続期間を減少させる量である。本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片のいずれかの有効性及び投与は、当該技術分野において周知の方法を使用して、健康管理の専門家又は獣医学の専門家により、加えて、対象(例えば、ヒト)における疾患の1つ以上の症状を観察することにより、決定することができる。ある特定の因子は、対象を効果的に治療するのに必要な用量及びタイミング(例えば、疾患又は障害の重症度、以前の治療、対象の総体的な健康及び/又は年齢、並びに、他の疾患の存在)に影響を及ぼし得る。
【0342】
例示的な用量としては、対象の体重1キログラム当たりの、本明細書に記載される抗体又は抗原結合断片のいずれかの量(ミリグラム又はマイクログラム)(例えば、約1μg/kg~約500mg/kg、約100μg/kg~約500mg/kg、約100μg/kg~約50mg/kg、約10μg/kg~約5mg/kg、約10μg/kg~約0.5mg/kg、又は、約1μg/kg~約50μg/kg)が挙げられる。これらの用量は広範囲をカバーしているものの、抗体及びその抗原結合断片を含む治療剤は、これらの効能、及び有効量を、当該技術分野において周知の方法により決定することができることを、当業者は理解するであろう。典型的には、比較的低用量をまず投与し、担当の健康管理の専門家若しくは獣医学の専門家(治療用途の場合)、又は、研究者(依然として開発段階で働いている場合)が続けて、及び徐々に、適切な応答が得られるまで、用量を増大させることができる。加えて、任意の特定の対象に対する、具体的な用量レベルは、用いる具体的な化合物の活性、対象の年齢、体重、総体的な健康、性別、及び食事、投与時間、投与経路、排泄速度、並びに、インビボでの抗体又は抗体断片の半減期を含む様々な因子に依存すると理解されている。
【0343】
医薬組成物は、容器、パック、又はディスペンサーに、投与用の取扱説明書と共に含めることができる。本開示は、本明細書に記載される様々な用途のための、抗体又はその抗原結合断片の製造方法もまた提供する。
【0344】
追加の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて説明してきたが、上記の説明は例示を目的とするものであり、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点、及び修正は、特許請求の範囲内である。追加の実施形態も提供される。
【0345】
実施形態1は、改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座を含む遺伝子改変げっ歯類であり、上記組換え免疫グロブリン重鎖遺伝子座はIgG定常領域遺伝子を含み、上記IgG定常領域遺伝子はCH1ドメインを欠くIgG重鎖定常領域をコードし、上記遺伝子改変げっ歯類は重鎖抗体を発現する。
【0346】
実施形態2は、実施形態1に記載の遺伝子改変げっ歯類であり、上記げっ歯類は正確に1つのIgG定常領域遺伝子を含む。
【0347】
実施形態3は、実施形態1又は2に記載の遺伝子改変げっ歯類であり、上記IgG重鎖定常領域遺伝子はIGHG1である。
【0348】
実施形態4は、実施形態1~3のいずれか1つに記載の遺伝子改変げっ歯類であり、上記IgG重鎖定常領域は、CH2ドメイン及びCH3ドメイン、並びに任意選択でヒンジ領域を含むか、又はそれらからなる。
【0349】
実施形態5は、ゲノムが、IGHG3、IGHG2b、及びIGHG2c遺伝子の欠失と、げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHG1遺伝子のCH1エクソンの欠失とを含む生殖細胞系遺伝子改変を含む遺伝子改変げっ歯類である。
【0350】
実施形態6は、実施形態5に記載のげっ歯類であり、上記生殖細胞系遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類IGHE遺伝子の欠失をさらに含む。
【0351】
実施形態7は、実施形態5又は6に記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類Sγ2b、Sγ2c、及びSεスイッチ領域の欠失をさらに含む。
【0352】
実施形態8は、実施形態5~7のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記改変免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子を含み、上記改変IGHG1遺伝子は、配列番号1と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む。
【0353】
実施形態9は、実施形態5~8のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類Sγ3スイッチ領域の欠失をさらに含む。
【0354】
実施形態10は、実施形態5~9のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類のゲノムは、げっ歯類Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変げっ歯類のIGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHM、IGHδ、IGHA遺伝子を含む。
【0355】
実施形態11は、実施形態5~9のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類IGHM遺伝子及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む。
【0356】
実施形態12は、実施形態5~9及び11のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類ゲノムは、げっ歯類Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHA遺伝子を含む。
【0357】
実施形態13は、実施形態12に記載のげっ歯類であり、上記Sμ及びSγ1スイッチ領域が、配列番号8と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結される。
【0358】
実施形態14は、実施形態5~9のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1コード配列の欠失をさらに含む。
【0359】
実施形態15は、実施形態5~9及び14のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類のゲノムは、げっ歯類Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変げっ歯類IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHδ、IGHA遺伝子を含む。
【0360】
実施形態16は、実施形態15に記載のげっ歯類であり、上記Sμスイッチ領域及び上記改変IGHM遺伝子が、配列番号10と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結される。
【0361】
実施形態17は、実施形態5~9のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1エクソンの欠失及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む。
【0362】
実施形態18は、実施形態5~9及び17のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類のゲノムは、げっ歯類Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHA遺伝子を含む。
【0363】
実施形態19は、実施形態5~9のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるIGHM遺伝子のCH1エクソンの欠失及びIGHδ遺伝子のCH1コード配列の欠失をさらに含む。
【0364】
実施形態20は、実施形態5~9及び19のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類のゲノムは、げっ歯類Sμ、Sγ1、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHM遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHδ遺伝子、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHA遺伝子を含む。
【0365】
実施形態21は、実施形態19又は20に記載のげっ歯類であり、上記改変IGHM遺伝子は、配列番号10と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列と連結され、上記改変IGHδ遺伝子は、配列番号41と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む。
【0366】
実施形態22は、実施形態14~21のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記改変IGHM遺伝子は、配列番号13と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一である配列を含む。
【0367】
実施形態23は、実施形態5~8のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類Sγ1スイッチ領域の欠失をさらに含む。
【0368】
実施形態24は、実施形態5~8及び23のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類のゲノムは、げっ歯類Sμ、Sγ3、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHM、IGHδ、IGHA遺伝子を含む。
【0369】
実施形態25は、実施形態5~8及び23のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類Sγ3スイッチ領域の欠失をさらに含む。
【0370】
実施形態26は、実施形態5~8、23及び25のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記遺伝子改変は、上記げっ歯類免疫グロブリン重鎖遺伝子座におけるげっ歯類IGHM及びIGHδ遺伝子の欠失をさらに含む。
【0371】
実施形態27は、実施形態5~8、23、25又は26のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、上記げっ歯類のゲノムは、げっ歯類Sμ、Sαスイッチ領域、CH1ドメインをコードする配列を欠く改変IGHG1遺伝子、及びげっ歯類IGHA遺伝子を含む。
【0372】
実施形態28は、実施形態27に記載のげっ歯類であり、上記Sμスイッチ領域及び上記改変IGHG1遺伝子は、配列番号9と少なくとも80%、90%、95%又は99%同一の配列と連結される。
【0373】
実施形態29は、実施形態5~10、23及び24のいずれか1つに記載のげっ歯類であり、改変ゲノムは機能的IGHM遺伝子を含む。
【実施例】
【0374】
本発明を以下の実施例でさらに説明し、これらは、特許請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではない。
【0375】
実施例1:概要
非ヒト動物の免疫グロブリン重鎖遺伝子座を遺伝子編集によって改変した。例えば、重鎖抗体を発現できるマウスを得るために、マウス第12染色体内の免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座を改変した。遺伝子改変マウスは、
図1に示すように重鎖抗体を発現することができる。さらに、第12染色体上の重鎖可変領域遺伝子座の全ての内因性VDJ配列がヒトVDJ配列で置き換えられ、それによって、マウスによって発現された重鎖抗体の可変領域は完全にヒト化された配列を有した。いくつかの実験では、ヒトVDJ配列を有するマウスで免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座の遺伝子改変を行った。
【0376】
実施例2:マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座の改変
図2に示すように、マウス(C57BL/6)免疫グロブリン定常領域遺伝子には、(以下の順序で示すように)免疫グロブリン重定常μ(IGHM、又はCμ)、免疫グロブリン重定常δ(IGHδ、又はCδ)、免疫グロブリン重定常γ3(IGHG3、又はCγ3)、免疫グロブリン重定常γ1(IGHG1、又はCγ1)、免疫グロブリン重定常γ2b(IGHG2b、又はCγ2b)、免疫グロブリン重定常γ2c(IGHG2c、又はCγ2c)、免疫グロブリン重定常ε(IGHE、又はCε)、及び免疫グロブリン重定常α(IGHA、又はCα)遺伝子が含まれる。
図3に示すように、スイッチ領域(例えば、Sμ、Sγ3、Sγ1、Sγ2b、Sγ2c、Sε、及びSα)及びそれらのそれぞれのプロモーターは、対応する定常領域遺伝子の上流に位置する。特に、Cγ1遺伝子には、N末端からC末端にかけて、IgG1のCH1、H(ヒンジ)、CH2、CH3、M1、及びM2領域をコードする配列が含まれる。
【0377】
マウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座は、以下に説明する様々な方法によって改変された。実験は、完全にヒト化されたVDJ配列を有するマウスで実施された。VDJ領域ヒト化マウスの詳細は、例えばWO2020169022A1及びUS20200390073A1に見出すことができ、これらそれぞれの全体が、参照により本明細書に組み込まれている。
【0378】
重鎖抗体のみを発現するマウスを得るために、Cγ3、Cγ1、Cγ2b、Cγ2c、及びCε遺伝子座を改変し、CH1コード領域のない切断されたCγ1配列のみを保持し(Cγ1ΔCH1)、
図4Aの変異対立遺伝子1又は変異対立遺伝子1’として示される変異対立遺伝子を得た。変異対立遺伝子1に基づいて、スイッチ領域(例えば、Sμ及びSγ1)、Cμ及び/又はCδ配列に異なる改変が加えられた。例えば、Cμ及びCδ配列全体がノックアウトされ、結果として生じる対立遺伝子は、変異対立遺伝子2及び変異対立遺伝子2’(さらにSγ1が欠落)として表示される。或いは、ノックアウトされる領域は、CμのCH1コード領域(変異対立遺伝子3として示される、結果として生じる対立遺伝子を有する)、CμのCH1コード領域とCδ全体(変異対立遺伝子4として示される、結果として生じる対立遺伝子を有する)、及びCμのCH1コード領域とCδのCH1コード領域の両方(変異対立遺伝子5として示される、結果として生じる対立遺伝子を有する)から選択された。
【0379】
実施例3:ターゲティングベクターの構築
改変には、V1、V2、V3、V4、V5、V6、V7などのターゲティングベクターが使用された。
【0380】
ベクターV1
ベクターV1には、
図5に示すようなCγ1ΔCH1ノックイン配列(配列番号1)が含まれていた。Cγ1ΔCH1配列は、CH1のコード配列を有していない。CH1コード領域は欠失したか、又はNeoカセットで置き換えられた。Neoカセットは、2つのFrt(又はLoxP)配列に隣接するNeo遺伝子配列を含む。Flpトランスジェニックマウスを、カセットを除去するためにNeoカセットを搭載したマウスと交配させた。
【0381】
ターゲティングベクターV1には、5’から3’の順序で、以下の特徴配列:上流相同アーム(5’相同アーム)、マウスSγ1プロモーター配列、マウスSγ1、Cγ1ΔCH1配列、及び下流相同アーム(3’相同アーム)、が含まれていた。ターゲティングベクターにはさらに、陽性クローンスクリーニング用の抗生物質耐性遺伝子(例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、又はNeo)と、抗生物質耐性遺伝子に隣接する2つのFrt組換え部位が含まれる場合がある。さらに、ネガティブ選択マーカーを持つコーディング遺伝子(ジフテリア毒素Aサブユニット(DTA)をコードする遺伝子)をターゲティングベクターに挿入することもできる。
【0382】
マウスSγ1プロモーター、マウスSγ1、及びCγ1ΔCH1ノックイン配列(配列番号1)を含む16076bpの配列が、マウス細菌人工染色体(RP23-38K22又はRP23-265P18)からクローニングされた。以下の2セットのプライマーペアを使用して、V1ベクターの構築のために、マウスSγ1プロモーター、マウスSγ1、及びCγ1ΔCH1ノックイン配列を含む配列を取得した。次に、V1-F1とV1-R1から増幅された配列と、V1-F2とV1-R2から増幅された配列を連結した。
V1-F1(配列番号2):
5’-GTGGTTCTGGCTACAAGATAGAGCTCTGTCAATGATGTTTGCAGAGACTACA-3’
V1-R1(配列番号3):
5’-CTCCCTATACGTCCTCTCACCTACAAGAAAAAGTATATGTGATTACACTGTCAGACAG-3’
V1-F2(配列番号4):
5’-GTGTAATCACATATACTTTTTCTTGTAGGTGAGAGGACGTATAGGGAGGAGGGGTTC-3’
V1-R2(配列番号5):
5’-CGTCTAGTCCTTGCCCACGTGTCGACCCCATAGGGAGGACAGACTGAGG-3’
【0383】
図6に示すように、V1ベクターを使用して、マウス重鎖定常領域遺伝子座(Sγ3からCεまで)の100883bp配列(NCBI参照配列NC_000078.7の核酸113232142から113333024)を1つのステップで置き換えた。
【0384】
ベクターV2
図7に示すように、V2ベクターを使用して、マウス重鎖定常領域(Cγ3からCεに及ぶ)の92859bp配列(NCBI参照配列NC_000078.7の核酸113232142から113325000)を1つのステップで置き換えた。
【0385】
この方法には、一対のプライマーを使用してマウス細菌人工染色体(BAC)からクローニングし、Cγ1ΔCH1ノックイン配列(配列番号1)を含むノックイン配列を取得することも含まれていた。以下のプライマーを使用した。
V2-F1(配列番号6):
5’-TCTGAACTACTTCGTCGACGTGAGAGGACGTATAGGGAGGAGGG-3’
V2-R1(配列番号7):
5’-CACGTGGATCCGCGGCCGCCCATAGGGAGGACAGACTGAGGAC-3’
【0386】
ベクターV3
図8に示すように、V3ベクターを使用して、Cμ及びCδを含む染色体から合計16434bpのヌクレオチドをノックアウトした。組換え変異対立遺伝子2におけるSμとSγ1間の連結配列を配列番号8に示す。
【0387】
ベクターV4
図9に示すように、ターゲティングベクターV4には、5’から3’の順序で、以下の特徴配列:上流相同アーム(5’相同アーム)、マウスSμの一部、及び下流相同アーム(3’相同アーム)、が含まれていた。ターゲティングベクターにはさらに、陽性クローンスクリーニング用の抗生物質耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、又はNeo)と、抗生物質耐性遺伝子に隣接する2つのFrt組換え部位が含まれていた。さらに、ネガティブ選択マーカーを持つコーディング遺伝子(ジフテリア毒素Aサブユニット(DTA)をコードする遺伝子)もターゲティングベクターに挿入された。具体的には、Sμは組換え変異対立遺伝子2’のCγ1ΔCH1’に直接連結されていた(即ち、間に他のスイッチ領域や免疫グロブリン遺伝子配列はなかった)。連結配列を配列番号9に示す。
【0388】
ベクターV5
図10に示すように、V5ベクターを使用して、Cμ内のCH1コード配列をノックアウトした。CμのCH1コード配列を削除すると、連結配列は配列番号10に示される。
【0389】
ベクターV6
図11に示すように、ターゲティングベクターV6には、5’から3’の順序で、以下の特徴配列:上流相同アーム(5’相同アーム)、マウスSμ領域の一部、マウスCμΔCH1配列、及び下流相同アーム(3’相同アーム)、が含まれていた。ターゲティングベクターにはさらに、陽性クローンスクリーニング用の抗生物質耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、又はNeo)と、抗生物質耐性遺伝子に隣接する2つのFrt組換え部位が含まれていた。さらに、ネガティブ選択マーカーを持つコーディング遺伝子(ジフテリア毒素Aサブユニット(DTA)をコードする遺伝子)もターゲティングベクターに挿入された。
【0390】
マウスCμΔCH1配列を含む配列が、マウス体細胞からクローニングされた。以下のプライマーペアを使用して、V6ベクターの構築のために、マウスCμΔCH1(又はCμΔCH1ノックイン配列、配列番号13)を含む配列を取得した。
V6-F1(配列番号11):
5’-ATCCCTCTCTGGTCCTAACCAAACCCTCCCAGCAGGGGTG-3’
V6-R1(配列番号12):
5’-TTGACCCATCTCAGTTTACATGGTGAATGACTACAATATATCTGGAATTTGG-3’
【0391】
ベクターV7
図12に示すように、ターゲティングベクターV7には、5’から3’の順序で、以下の特徴配列:上流相同アーム(5’相同アーム)、CμΔCH1配列、CδΔCH1配列(又は、CδΔCH1ノックイン配列、配列番号41)、及び下流相同アーム(3’相同アーム)、が含まれていた。ターゲティングベクターにはさらに、陽性クローンスクリーニング用の抗生物質耐性遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、又はNeo)と、抗生物質耐性遺伝子に隣接する2つのFrt組換え部位が含まれていた。さらに、ネガティブ選択マーカーを持つコーディング遺伝子(ジフテリア毒素Aサブユニット(DTA)をコードする遺伝子)もターゲティングベクターに挿入された。
【0392】
マウスSμスイッチ領域、CμΔCH1配列、及びCδΔCH1配列を含む配列が、マウスゲノムからクローニングされた。以下のプライマーペアを使用して、V7ベクターの構築のために、マウスCμΔCH1とCδΔCH1の上流のヌクレオチドを含むノックイン配列を取得した。
V7-F1(配列番号14):
5’-ATCCCTCTCTGGTCCTAACCAAACCCTCCCAGCAGGGGTG-3’
V7-R1(配列番号15):
5’-TTCTGCATGGTCCAGGGATTGATCAGACAGATAGTGAAGTTCTGAGGACA-3’
【0393】
実施例4:遺伝子改変の検証
変異対立遺伝子1
PCRとサザンブロットを使用して、変異対立遺伝子1の遺伝子型を検出した。まず、L-GT-F1/L-GT-R1とR-GT-F2/R-GT-R2の2セットのプライマーペアを使用してPCRによって陽性クローン細胞を同定した。例示的な結果をそれぞれ
図13A~13Bに示す。プライマーの配列を以下の表に示す。
【0394】
【0395】
次に、陽性クローンをサザンブロット(それぞれBclI、ScaI、XmnI、及びBglIIで消化し、続いて4つの対応するプローブでハイブリダイゼーションを行う)で検証し、正しい陽性クローン細胞を選別した。サザンブロット検出戦略(制限酵素、プローブ、及び標的断片サイズを含む)とプローブプライマーを以下の表に示す。
【0396】
【0397】
【0398】
例示的な検出結果を
図14A~14Dに示す。PCR及びサザンブロットの結果によると、F1-012、F1-017、F1-018及びF1-019と番号付けられたマウスは、変異対立遺伝子1陽性ヘテロ接合マウスであると同定された。変異対立遺伝子1にランダム挿入は検出されなかった。
【0399】
変異対立遺伝子2
プライマーDE-F1とDE-R1を使用して、変異対立遺伝子2のCμからCδまでの配列のノックアウトを確認した。検出結果を
図15に示す。F1-1、F1-2、F1-3、F1-4、F1-5、F1-6、F1-7及びF1-8と番号付けられたマウスは、陽性ヘテロ接合マウスとして同定された。プライマーの配列を以下の表に示す。
【0400】
【0401】
変異対立遺伝子2’
プライマーGT-Mut-F、GT-Mut-R、及びGT-WT-Rを使用して、変異対立遺伝子2’のCμからSγ1までの配列のノックアウトを確認した。検出結果を
図16に示す。F1-2及びF1-4と番号付けられたマウスは、陽性ヘテロ接合マウスとして同定された。プライマーの配列を以下の表に示す。
【0402】
【0403】
変異対立遺伝子3
プライマーGT-3FとGT-3Rを使用して、変異対立遺伝子3のCμのCH1コード配列のノックアウトを確認した。検出結果を
図17に示す。F1-2、F1-3及びF1-6と番号付けられたマウスは、陽性ヘテロ接合マウスとして同定された。プライマーの配列を以下の表に示す。
【0404】
【0405】
変異対立遺伝子4
プライマーMut-FとMut-Rを使用して、変異対立遺伝子4のCμΔCH1の配列を確認した。プライマーF4とR4を使用して、変異対立遺伝子4にCδが存在しないことを確認した。検出結果をそれぞれ
図18A~18Bに示す。F1-1、F1-2、F1-3、F1-4、F1-5、F1-6、F1-7、F1-8、F1-9及びF1-10と番号付けられたマウスは、陽性ヘテロ接合マウスとして同定された。プライマーの配列を以下の表に示す。
【0406】
【0407】
変異対立遺伝子5
変異対立遺伝子5において、プライマーMut-FとMut-Rを使用してCμΔCH1の配列を確認し、かつプライマーF3とR3を使用してCδΔCH1の配列を確認した。検出結果をそれぞれ
図19A~19Bに示す。F1-1、F1-2、F1-3、F1-4、F1-5、F1-6、F1-7及びF1-8と番号付けられたマウスは、陽性ヘテロ接合マウスとして同定された。プライマーの配列を以下の表に示す。
【0408】
【0409】
実施例5:マウス免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座の改変
ヒト免疫グロブリン遺伝子をマウスゲノムに導入し、ヒト化抗体を発現するマウスを作製するための実験を行った。
図20はヒト化マウスの作製方法を示す。この方法は、まず、ヒト染色体上のヒト免疫グロブリン領域を改変することを含む。その後、改変ヒト染色体をマウス受容細胞に導入した。
【0410】
マウス免疫グロブリン可変領域遺伝子座の配列は、直接置換(例えば、相同組換え、又はCre媒介組換え)によってヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子座の配列で置き換えられた。場合によっては、段階的なアプローチによってヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子をマウスゲノムに導入することができる。次に、正しい置換のために受容細胞をスクリーニングした。その後、細胞を胚盤胞に注入してキメラマウスを作製した。その後の繁殖を実施して、ヒト又はヒト化免疫グロブリン可変領域遺伝子座配列を含むマウスを得た。
【0411】
免疫グロブリン重鎖遺伝子座はマウス第12染色体上に位置する。免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子座の両側に2つの組換え部位を導入した。
【0412】
改変ヒト染色体を生成するための実験も行った。免疫グロブリン重鎖遺伝子座の可変領域の両側に2つの組換え部位を導入した。次に、改変ヒト染色体をマウス細胞に導入した。その後、細胞をスクリーニングし、ヒト染色体を1つだけ含む細胞を選択した。その後、Creリコンビナーゼは、マウス染色体上のV、D、J領域をヒト染色体上のV、D、J領域で置き換えることを媒介した(
図21)。
【0413】
陽性クローン細胞を、マイクロインジェクションによってBALB/cマウスの胚盤胞に注入した。胚のマイクロインジェクションは、例えば、A.Nagy,et al., “Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual(Third Edition),” Cold Spring Harbor Laboratory Press,2003に記載されている方法に従って実施した。注入された受精卵を培養液に移し、短時間培養した後、受容マウスの卵管に移植して、遺伝子改変ヒト化マウス(F0世代)を作製した。その後、マウスを、C57BL/6バックグラウンドを有するマウスと交配させた。マウスの尾から得たDNAに対してPCR分析を実施した。マウスを、BALB/cバックグラウンドを有するマウスとさらに数回(例えば、少なくとも5回)交配させ、BALB/cバックグラウンドを有する重鎖免疫グロブリン遺伝子座ヒト化ヘテロ接合マウスを得た。
【0414】
その後、ヘテロ接合マウスを互いに交配させてホモ接合マウスを得た。免疫グロブリン重鎖遺伝子座ヒト化ホモ接合マウスの作製方法の詳細な説明は、WO2020169022A1及びUS20200390073A1に提供されており、これらそれぞれその全体が、参照により本明細書に組み込まれている。
【0415】
実施例6:マウス免疫グロブリン軽鎖遺伝子座の改変
カッパ(κ)軽鎖遺伝子座ノックアウトマウス
免疫グロブリンκ軽鎖(κ)遺伝子座はマウス第6染色体上に位置する。マウス第6染色体を、免疫グロブリンκ軽鎖可変領域遺伝子座の全配列をノックアウトすることによって改変した。詳細なノックアウト方法は、例えば、WO2020169022A1及びUS20200390073A1;Zou,X.,et al. “Subtle differences in antibody responses and hypermutation of λ light chains in mice with a disrupted χ constant region.” European Journal of Immunology 25.8(1995):2154-2162;Zou,Y.R.,et al. “Gene targeting in the Ig kappa locus:efficient generation of lambda chain-expressing B cells,independent of gene rearrangements in Ig kappa.” The EMBO Journal 12.3(1993):811-820;Takeda,S.,et al. “Deletion of the immunoglobulin kappa chain intron enhancer abolishes kappa chain gene rearrangement in cis but not lambda chain gene rearrangement in trans.” The EMBO Journal12.6(1993):2329-2336、に見出すことができ、これらそれぞれの全体が、参照により本明細書に組み込まれている。
【0416】
ラムダ(λ)軽鎖遺伝子座ノックアウトマウス
免疫グロブリンλ軽鎖(λ)はマウス第16染色体上に位置する。マウス第16染色体を、免疫グロブリンλ軽鎖可変領域遺伝子座の全配列をノックアウトすることによって改変した。詳細なノックアウト方法は、例えば、Zou,X.,et al. “Block in development at the pre-B-II to immature B cell stage in mice without Igκ and Igλ light chain.” The Journal of Immunology 170.3(2003):1354-1361、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0417】
本明細書に記載されるマウスを互いに交配させることにより、ヒト免疫グロブリン重鎖VDJ領域、改変されたマウス免疫グロブリン重鎖定常領域遺伝子座(Cγ1のCH1コード領域を欠く)を有し、かつマウス免疫グロブリン軽鎖遺伝子座の全部又は一部を欠くマウスを得ることができる。
【0418】
実施例7:改変IgG1遺伝子を有するマウスの重鎖抗体
上記で同定されたCγ1のCH1コード領域を欠くマウス(それぞれ変異対立遺伝子2’、変異対立遺伝子3、及び変異対立遺伝子4の遺伝子型を有するマウス)及び野生型(WT)マウスから採血して血清サンプルを得た。抗mIgG1抗体(カタログ番号:ab190481、Abcam)を使用して血清中に任意の発現したIgGを同定するためのウェスタンブロッティング分析のために血清サンプルはを調製した。
図32に示すように、結果によりバンドの混合物が明らかになった:約75kDのバンド1つ(CH1ドメインを欠く二量体IgG1の予想されるサイズ)、及び約150kDのバンド1つ(野生型IgGの予想されるサイズ)。結果は、本明細書に記載される方法を使用して作製されたマウスが、末梢血中にCH1ドメインを欠くIgG1を発現できることを示している。
【0419】
免疫原を注射することでマウスを免疫し、その後、様々な方法(例えば、ハイブリドーマ、ファージスクリーニング、10x Genomicsによる単一細胞技術、又はBeacon(登録商標)Optofluidic System)によって特異的に結合する抗体をスクリーニングすることができる。予備的な結果は、本明細書に記載される方法で作製したマウスを使用して、高い親和性、高い多様性、良好な機能(例えば、高いエンドサイトーシス活性)、及び良好な開発可能性(例えば、高い親水性及び良好な熱安定性)を有する抗体を得ることができることを示した。
【0420】
変異対立遺伝子3(Mut3)を有するマウス
ヒト化マウス(重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてヘテロ接合性、κ軽鎖遺伝子座ノックアウト、及びλ軽鎖遺伝子座ノックアウトなし)を抗原Aで免疫した(5匹のマウス)。3回の免疫付与後、血清力価は、FACSによって検出されるように、10
4倍増加した。次に、Beacon(登録商標)Optofluidic Systemを使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を産生できる形質細胞を単離した。各抗体の発現ベクターを構築し、宿主細胞に導入した。FACSで確認された陽性細胞の数は63個であった。抗体配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は6~23であることが示された(
図22)。さらに、クローンの94%(59/63)はCDR3の長さが12以上で、合計35個の独特なCDR3配列があった。
図23は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。さらに、いくつかの抗体の親和性もテストした。
図24に示すように、抗原Aに対するこれらの抗体のKDは10
-9Mに達し、良好な結合親和性を示している。
【0421】
別の実験では、ヒト化マウス(4匹のマウスは、重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖遺伝子座の欠失についてホモ接合性、かつλ軽鎖遺伝子座の欠失についてヘテロ接合性、3匹のマウスは、重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖遺伝子座の欠失についてホモ接合性、かつλ軽鎖遺伝子座の欠失についてホモ接合性であった)をヒト4-1BB(カタログ番号:41B-H5258、ACROBiosystems)で免疫した。4回の免疫付与後、血清力価は、FACSによって検出されるように、10
4倍増加した。FACSで確認された抗原特異的クローンの数は67個であった。抗体配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は7~19であることが示された(
図33)。
図34は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。さらに、いくつかの抗体の親和性もテストした。
【0422】
別の実験では、ヒト化マウス(19匹のマウスは、重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖遺伝子座の欠失についてホモ接合性、かつλ軽鎖遺伝子座の欠失についてヘテロ接合性であった)を抗原ヒトCD3ED及びカニクイザルCD3EDで免疫した。4回の免疫付与後、血清力価は、FACSによって検出されるように、10
5倍増加した。FACSで確認された抗原特異的クローンの数は273個であった。抗体配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は6~25であることが示された(
図35)。
図36は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。さらに、いくつかの抗体の親和性もテストした。
【0423】
ヒト化マウス(重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖遺伝子座及びλ軽鎖遺伝子座ノックアウト)を抗原ヒト血清アルブミンで免疫した(10匹のマウス)。次に、Beacon(登録商標)Optofluidic Systemを使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を産生できる形質細胞を単離した。FACSで確認された陽性細胞の数は84個であった。抗体配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は12~17であることが示された。
図43は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【0424】
変異対立遺伝子2(Mut2)を有するマウス
ヒト化マウス(重鎖変異対立遺伝子2遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖遺伝子座ノックアウト、λ軽鎖遺伝子座ノックアウトなし)を抗原A(10匹のマウス)で免疫した。次に、Beacon(登録商標)Optofluidic Systemを使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を産生できる形質細胞を単離した。FACSで確認された陽性細胞の数は40個であった。抗体配列のさらなる分析により、合計14個の独特なCDR3配列が示された。加えて、いくつかの抗体の親和性もテストした。
図25に示すように、抗原Aに対するこれらの抗体のKDは10
-8Mに達し、良好な結合親和性を示している。
【0425】
さらに、免疫化されたMut2マウスの脾臓組織を採取し、脾臓細胞から全RNAを抽出した。免疫グロブリン可変領域遺伝子座をPCRによってクローニングし、その後ファージプラスミドに挿入してファージ組換えプラスミドライブラリを構築することができる。ある実験では、構築されたライブラリの2ラウンドのパニングとスクリーニングの後、合計202個のELISA陽性クローンが得られた。冗長な配列を除去後、FACSで確認された陽性細胞の数は94個であった。これらの抗体の配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さは8~18であることが示された(IMGTによって定義される)。
図26は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【0426】
変異対立遺伝子2’(Mut2’)を有するマウス
ヒト化マウス(重鎖変異対立遺伝子2’遺伝子型についてヘテロ接合性、κ軽鎖及びλ軽鎖遺伝子座ノックアウト)を抗原ヒト血清アルブミンで免疫した(12匹のマウス)。次に、Beacon(登録商標)Optofluidic Systemを使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を産生できる形質細胞を単離した。FACSで確認された陽性細胞の数は96個であった。抗体配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は5~22であることが示された。さらに、クローンの78.1%(75/96)はCDR3の長さが12以上であった。
図44は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。さらに、いくつかの抗体の親和性もテストした。
図45に示すように、ヒト血清アルブミンに対するいくつかの抗体のKDは10
-9Mに達し、良好な結合親和性を示している。
【0427】
変異対立遺伝子4(Mut4)を有するマウス
ヒト化マウス(重鎖変異対立遺伝子4遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖及びλ軽鎖遺伝子座ノックアウト)を抗原ヒト血清アルブミンで免疫した(10匹のマウス)。次に、Beacon(登録商標)Optofluidic Systemを使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を産生できる形質細胞を単離した。FACSで確認された陽性細胞の数は41個であった。抗体配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は8~23であり、クローンの65.9%(27/41)はCDR3の長さが12以上であることが示された。
図46は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。
【0428】
変異対立遺伝子5(Mut5)を有するマウス
ヒト化マウス(重鎖変異対立遺伝子5遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖及びλ軽鎖遺伝子座ノックアウト)を抗原Aで免疫した。次に、Beacon(登録商標)Optofluidic Systemを使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を産生できる形質細胞を単離した。FACSで確認された陽性細胞の数は20個であった。配列のさらなる分析により、重鎖可変領域のCDR3の長さ(IMGTによって定義される)は10~18であることが示された。
図47は可変領域遺伝子の生殖細胞系遺伝子使用を示す。加えて、いくつかの抗体の親和性もテストした。抗原Aに対するこれらの抗体のKDは10
-9Mに達し、良好な結合親和性を示している。
【0429】
B細胞の発達
改変IgG1マウスと野生型マウスの免疫系を比較するための実験を行った。6~8週齢のRenMabマウス(ヒト化重鎖免疫グロブリン遺伝子座)及び改変IgG1マウスを選択した。その中で、改変IgG1マウスは、RenMabマウスと比較して、体重、外観、及び活力は類似していた。これらのマウスの末梢血、脾臓、リンパ節、及び骨髄組織を採取し、明らかな解剖学的変化は発見されなかった。
【0430】
実施例8.ヒト抗TFR1抗体の生成
マウス(5匹のマウスは、重鎖変異対立遺伝子3遺伝子型についてホモ接合性、κ軽鎖遺伝子座の欠失についてホモ接合性、かつλ軽鎖遺伝子座の欠失についてヘテロ接合性であった)をHisタグ付きヒトTFR1(トランスフェリン受容体1)タンパク質(hTFR1-His、ACROBiosystems、カタログ番号:CD1-H5243)で免疫し、抗TFR1抗体を取得した。免疫付与の前に、陰性対照として後眼窩血を採取した。最初の免疫付与には、フロイントの完全アジュバント(CFA)を使用し、2回目、及び3回目の免疫付与には、フロイントの不完全アジュバント(IFA)を使用した。合計3回の免疫付与(2週間ごと)を実施した。3回目の免疫付与の1週間後に、後眼窩血を採取し、血清の抗体力価をFACSにより検出した。
【0431】
前回の免疫付与から少なくとも14日後に、免疫付与を強化する手順も実行した。TFR1タンパク質を腹腔内注射し、ヒトTFR1抗原を発現するCHO-S細胞を尾静脈から注射した。
【0432】
抗原特異的免疫細胞を、免疫付与したマウスから単離し、さらに、抗TFR1抗体を得た、又は、抗TFR1抗体の重鎖可変領域配列を得た。例えば、単一細胞技術(例えば、Beacon(登録商標)Optofluidic System、Berkeley Lights Inc.を使用する)を使用して、抗原特異的モノクローナル抗体を分泌する形質細胞をスクリーニングして見つけた。逆転写とPCR配列決定を使用して、抗体可変領域配列を取得した。得られた可変領域配列を抗体発現のために使用し、FACSを用いて、TFR1に対する結合親和性を検証した。CH1ドメインが欠いているため、得られた抗体の重鎖可変領域(VH)は、重鎖単一可変ドメイン(VHH)とも呼ばれる。
【0433】
具体的には、得られたVHH配列をそれぞれヒトIgG1定常領域(例えば、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン)に接続した。本方法により得られた例示的な抗体は、23B8、24A1、24C9、及び24G5を含んだ。重鎖CDR1-3配列を
図37及び
図38に示す。23B8、24A1、24C9、及び24G5のVHH領域配列を
図39に示す。
【0434】
抗体の定常領域をさらに組換え、位置297におけるアスパラギンをアラニンで置き換えることができる(N297A)。例えば、24G5の定常領域にN297A変異が導入されると、結果として得られる抗体は24G5-Nと命名される。
【0435】
実施例9.抗TFR1抗体の種間結合
CHO-S-hTFR1細胞又はCHO-S-fasTFR1細胞をそれぞれ105細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに移した。段階希釈したサンプル抗TFR1抗体を96ウェルプレートに加え、4℃で30分間インキュベートした。PBSを陰性対照(NC)として使用した。次に、フローサイトメトリー分析の前に、細胞を二次抗体である抗hIgG-Fc-Alex Flour(商標) 647(Jackson ImmunoResearch Laboratories、カタログ番号:109-606-170)と共に暗所、4℃で15分間インキュベートした。
【0436】
CHO-S-hTFR1細胞又はCHO-S-fasTFR1細胞は、それぞれヒトTFR1(hTFR1、配列番号70)又はMacaca fascicularis(カニクイザル)TFR1アミノ酸配列(fasTFR1、配列番号71)を発現するベクターでCHO-S細胞をトランスフェクトすることによって得られた。試験結果を以下の表に示す。
【0437】
ヒトイズロン酸-2-スルファターゼにコンジュゲートしたヒトTFR1を標的とするヒト化IgG1抗体であるJR141は、2021年3月に日本でムコ多糖症II型の静脈内治療薬として初めて承認された。JR141のVH配列及びVL配列は、それぞれ配列番号72及び配列番号73に示される。陽性対照(JR141-N)では、JR141のVHとVLをN297A変異を有するヒトIgG1定常領域に接続した。
【0438】
【0439】
実施例10.抗TFR1抗体の結合親和性
抗TFR1抗体のヒト(hTFR1-His、ACROBiosystems、カタログ番号:CD1-H5243)又はサル(fasTFR1-His、ACROBiosystems、カタログ番号:TFR-C524a)のHisタグ付きTFR1タンパク質への結合親和性を、予め固定化したプロテインAセンサチップを装着したBiacore(商標)(Biacore、Inc.、ニュージャージー州ピスカタウェイ)8Kバイオセンサーでの表面プラズモン共鳴(SPR)を使用して検証した。
【0440】
精製された抗TFR1抗体は、検出のためにプロテインAチップ(シリーズSセンサチッププロテインA)上に捕捉された。精製された抗TFR1抗体(1μg/mL)を10μL/分でロードして、hTFR1-His及びfasTFR1-His(200nM)に結合させた。流速は30μL/分であった。結合時間及び解離時間をそれぞれ180秒及び600秒に設定した。各滴定液の最後の注射の後に、チップをグリシン溶液(pH 2.0)で、30μL/分で30秒間再生した。
【0441】
Biacore(商標) 8K Evaluationソフトウェア3.0を用いて、データ全体を、1:1のラングミュア結合モデル(Karlsson,R.Roos,H.Fagerstam,L.Petersson,B.,1994.Methods Enzymology 6.99-110)に適合させることにより、動力学的会合速度(kon)及び解離速度(koff)を同時に得た。親和性を、動力学的速度定数の商から推定した(KD=koff/kon)。
【0442】
当業者が理解するように、パラメータ(例えば、抗体濃度)を適切に調整した同じ方法を、各試験抗体に対して実施した。試験抗体に対する結果を、以下の表にまとめる。結果は、4つの抗TFR1抗体全てがヒト及びサルTFR1に高い親和性で結合できることを示している。
【0443】
【0444】
実施例11.抗TFR1抗体のエピトープ分析
精製された抗TFR1抗体のペア間の標的タンパク質エピトープの相対位置を、30℃でForteBio Octetシステムを使用したバイオレイヤー干渉法(BLI)によって分析した。HBS-EP+緩衝液(10×)から希釈した1×HBS-EP+緩衝液(10mMの、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、150mMのNaCl、3mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及び0.05%のP20、pH7.4)を、実験全体を通してランニング緩衝液として用いた。約10μg/mLのhTFR1-Hisタンパク質をHIS1K(抗ペンタHIS)で200秒間捕捉し、200nMの抗体(検体1)を30μL/分の流速で注入してリガンドに結合させた。異なる抗体の結合が互いに干渉するかどうかを決定するために、同じ条件下で別の抗体(検体2)を注射した。結合時間は、各抗体につき300秒であった。
【0445】
各抗体の結合値を、Data Analysis HT 12.0を使用して得た。ある抗体の、別の抗体への結合の干渉を定量するために、結合比を計算し、各対の抗体を比較した。第1の抗体(検体1)の結合値で除した、第2の抗体(検体2)の結合値により、結合比を定義する。各抗体ペアの結合比を、以下のマトリックス表にまとめる。具体的には、検体1が検体2に対して阻害効果を示した場合、結合比は0.0~0.5であり、検体1が検体2に対してブロッキング効果を示さなかった場合、結合比は0.5~1.1であった。一般的に、互いに干渉する抗体ペアは、同一又は重複するエピトープを持つ。
【0446】
エピトープ結合アッセイの結果は、24A1と24G5が同じエピトープを認識でき、23B8、24C9及びJR141-Nが異なるエピトープを認識できることを示している。
【0447】
【0448】
実施例12.抗TFR1抗体の内在化
抗TFR1抗体とpHAb-ヤギ抗ヒトIgG二次抗体をヒト皮質微小血管内皮細胞(hCMEC/D細胞)に加え、3時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を遠心分離し、FACS緩衝液で洗浄した。平均蛍光強度(MFI)を、フローサイトメーターを使用して測定した。抗体のエンドサイトーシス率を計算した。ヒトIgG1タンパク質(CrownBio、カタログ番号:C0001)をアイソタイプ対照(ISO)として使用した。結果は以下の表に示されており、4つの抗体全てがヒト皮質微小血管内皮細胞において良好なエンドサイトーシス活性を示したことが示されている。
【0449】
【0450】
実施例13.抗TFR1抗体の安定性分析
抗TFR1抗体23B8、24A1、24C9、及び24G5の安定性を評価した。具体的には、以下の試験を実施した:(1)溶液の外観及び目に見える不溶性物質の存在を観察する;(2)サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SEC-UPLC)により抗体の純度変化を検出する(全てのピーク面積の合計に対する主ピーク面積のパーセンテージとして表示(純度、%));(3)疎水性相互作用クロマトグラフィー-高速液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC)法を使用して抗体の見かけの疎水性の変化を検出する(主ピークの保持時間として表示(HIC、分));(4)キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)により抗体の電荷変異体を検出する(主成分、酸性成分、アルカリ性成分のパーセンテージとして表示);(5)UNcleシステムにより抗体の熱安定性を検出する(融解温度(Tm)及び凝集温度(Tagg)として表示)。
【0451】
SEC-UPLC実験では、Agilent 1290クロマトグラフシステム(XBridge(商標) Protein BEH SECカラム(200Å、Waters Corporation)と接続)を使用した。抗体サンプルを精製水で1mg/mLに希釈した。以下のパラメータを使用した:移動相:25mMのリン酸緩衝液(PB)(pH 6.8)+0.3MのNaCl;流速:1.8mL/分;カラム温度:25℃;検出波長:280nm;注入量:10μL;サンプルトレー温度:6℃;及び実行時間:7分。
【0452】
HIC-HPLC実験では、Agilent 1260クロマトグラフシステム(ProPac(商標) HIC-10カラム(4.6×100mm、Thermo Scientific)と接続)を使用し、サンプルを、移動相Aを用いて0.5mg/mLまで希釈した。以下のパラメータを使用した:移動相A:0.9Mの硫酸アンモニウム、0.1MのPB、10%のアセトニトリル(pH 6.5);移動相B:0.1MのPB、10%のアセトニトリル(pH 6.5);流速:0.8mL/分;勾配:0分 100% A、2分 100% A、32分 100% B、34分 100% B、35分 100% A、及び、45分 100% A;カラム温度:30℃;検出波長:280nm;注入量:10μg;サンプルトレー温度:約6℃;並びに実行時間:45分。
【0453】
cIEF実験では、サンプル調製のために、Maurice cIEF法開発キット(Protein Simple、カタログ番号:PS-MDK01-C)を使用した。具体的には、40μgのタンパク質サンプルを、キットの中で、以下の試薬と混合した:1μLのMaurice cIEF pI Marker-4.05、1μLのMaurice cIEF pI Marker-9.99、35μLの1%メチルセルロース溶液、2μLのMaurice cIEF 500 mM アルギニン、4μLの両性電解質(Pharmalyte pH範囲3~10)、及び、水(加えて100μLの終体積にする)。Maurice分析器(Protein Simple、Santa Clara、CA)で、Maurice cIEFカートリッジ(PS-MC02-C)を使用して、イメージングキャピラリー等電点電気泳動スペクトルを生成した。サンプルに、合計10分間焦点を合わせた。機器にインストールした解析ソフトウェアを使用して、280nmに焦点を合わせたタンパク質の吸光度を分析した。
【0454】
熱安定性実験では、60mg/mLの抗体溶液を1℃ずつ25℃から95℃まで加熱し、各測定の前に1分間の平衡時間を置いた。
【0455】
詳細な結果を以下の表に示す。結果は、4つの抗体全てが良好な安定性と物理的及び化学的特性を有することを示している。
【0456】
【0457】
実施例14.薬物動態(PK)分析
マウスTFR1タンパク質の細胞外領域が対応するヒトTFR1細胞外領域で置き換えられたキメラTFR1タンパク質(配列番号74)を発現するように、ヒト化TFR1マウスモデル(hTFR1マウス)を組換えた。ヒト化TFR1マウスモデルに関する詳細な説明は、PCT出願番号PCT/CN2022/105924に見出すことができ、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0458】
抗TFR1抗体の濃度をhTFR1マウスにおいて決定した。具体的には、マウスを異なる群(1群あたり8匹のマウス)に入れ、ほぼ等モル量のJR141-N(G2)、23B8-N(G3)、24A1-N(G4)、24G5-N(G5)、又は24C9-N(G6)を静脈内(i.v.)注射で投与した。対照群(G1)マウスにヒトIgG1(hIgG1)を投与した。投与スキームの詳細を以下の表に示す。
【0459】
【0460】
投与の0.5、6、24、及び72時間後に血液と脳サンプルを採取した。各時点で2匹のマウスをサンプリングし、後眼窩血を採取した後、マウスを麻酔した。脳内の残留血液による干渉を避けるために、マウスを室温で10分間、生理食塩水で灌流した。具体的には、生理食塩水を左心室から右心室へ全身循環を介して灌流した。脳サンプルを切除し、矢状面によって2つの半脳に分割した。左半脳は注入した抗体の定量化にかけ、右半脳はホルマリンで固定し、連続切片用にパラフィンに包埋した。脳サンプルを細かく切り分け、1×混合プロテアーゼ阻害剤を含むDPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)で均質化した。脳ホモジネートをアリコートしてタンパク質を抽出し、続いて電気化学発光法で抗体を定量化した。残りのホモジネートについては、15%デキストランを使用して5400gで15分間の勾配密度遠心分離によって毛細血管を除去した。遠心分離後、遠心管の上部の画分を実質として保存し、タンパク質抽出と抗体定量化も行った。
図40A~40Dは、総脳タンパク質中の抗体濃度(
図40A)、脳総タンパク質中の抗体濃度と血清抗体濃度との比(
図40B)、脳実質中の抗体濃度(
図40C)、及び各時点における脳実質中の抗体濃度と血清抗体濃度との比(
図40D)を示す。これらの結果は、24G5-N(群G5)が実質又は全脳のいずれかで最も豊富であることを実証した。
【0461】
同様の実験では、hTFR1マウスを5つの群(1群あたり3匹のマウス)に入れ、18.4mg/kgのJR141-N(G2)、10mg/kgの23B8-N(G3)、10mg/kgの24A1-N(G4)、又は10mg/kgの24G5-N(G5)を静脈内注射(合計1回投与)で投与した。対照群(G1)マウスにhIgG1(G1)を投与した。投与の24時間後に脳サンプルを採取し、抗TFR1抗体の濃度を決定した。
図41A~41Bは、それぞれ脳実質及び脳総タンパク質中の抗体濃度試験の結果を示す。試験した全ての抗体は、脳内でhIgG1(G1)よりも高い濃度を示し、陽性対照のJR141-N(G2)と比較して、23B8-N(G3)及び24G5-N(G5)は血液脳関門をよりよく通過して脳実質に入ることができることを示している。
【0462】
別の同様の実験では、hTFR1マウスを7つの群(1群あたり6匹のマウス)に入れ、JR141-N(G2~G4)又は24G5-N(G5~G7)を静脈内(i.v.)注射で投与した。対照群(G1)マウスにhIgG1を投与した。投与スキームの詳細を以下の表に示す。
【0463】
【0464】
投与の6時間及び24時間後に、上述の方法を使用して血液及び脳サンプルを採取した。各時点で3匹のマウスをサンプリングした。組織の処理及び抗体の定量化も上述のように実施した。脳実質中のヒト化抗TFR1抗体の濃度の測定結果を
図42に示す。結果は、各投与条件下で、24G5-Nの脳実質に蓄積された抗体濃度がhIgG1のそれよりも有意に高かったことを示している。さらに、JR141-Nと24G5-Nの両方の濃度は、脳実質において用量依存的な傾向を示した。
【0465】
マウス脳におけるヒト化抗TFR1抗体24G5-Nの分布を検出するために、上記の実験で使用したマウスの右半脳切片でそれぞれhIgG、hTFR1、及びmCD31を染色することによって免疫蛍光アッセイを実施した。結果は、mCD31が微小血管でよく標識されたことを示した。hTFR1も微小血管で検出され、mCD31と共局在していた。さらに、実質内のいくつかのニューロンでもhTFR1の発現が検出された。特に、抗TFR1抗体24G5-Nを、DyLight(登録商標)488とコンジュゲートした二次抗IgG抗体によって染色した。hTFR1と同様に、24G5-Nは微小血管と実質で検出され、そのシグナルはhTFR1シグナルと重複していた。したがって、全脳若しくは実質における24G5-Nの定量化、又は実質における24G5-Nの免疫蛍光の視覚的証拠のいずれにおいても、結果は、ヒト化抗TFR1抗体24G5-Nが血液脳関門(BBB)を効率的に通過できることを示している。
【0466】
実施例15.ブロッキングアッセイ
抗TFR1抗体23B8、24A1、24C9、及び24G5によるTF(トランスフェリン)へのTFR1の結合のブロッキングを、30℃でForteBio Octet(登録商標)システムを使用したバイオレイヤー干渉法(BLI)でテストした。具体的には、HBS-EP+緩衝液(10×)から希釈した1×HBS-EP+緩衝液(10mMの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.05%界面活性剤P20、pH 7.4)を、実験全体を通してランニング緩衝液として使用した。約10μg/mLの抗体をAHC(抗ヒトIgG Fcキャプチャー)で200秒間捕捉し、800nMのhTFR1-His(ACROBiosystems、カタログ番号:CD1-H5243)とhTF-His(ヒトトランスフェリンタンパク質、Kactus Biosystems、カタログ番号:TFN-HM101)を注入してリガンドに結合させた。結合時間は、各抗体につき300秒であった。各抗体の結合値を、Data Analysis HT 12.0を使用して得た。結果は、これら4つの抗体がTFR1とTFの結合をブロッキングしなかったことを示した。したがって、このような非ブロッキング抗体は、正常細胞におけるTFR1-TF相互作用に干渉する可能性は低いと考えられる。
【配列表】
【国際調査報告】