(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-01
(54)【発明の名称】銅腐食試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/30 20060101AFI20250924BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20250924BHJP
G01N 30/04 20060101ALI20250924BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20250924BHJP
【FI】
G01N33/30
G01N30/88 G
G01N30/04 B
G01N30/72 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025517105
(86)(22)【出願日】2023-09-20
(85)【翻訳文提出日】2025-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2023075928
(87)【国際公開番号】W WO2024061962
(87)【国際公開日】2024-03-28
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】フィリベール,グエナエル・ソフィア・オリビア
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジアイ
(72)【発明者】
【氏名】ドブロウォルスキー,クリストフ・クラウス
(57)【要約】
本発明は、潤滑流体の銅腐食電位を評価するための方法であって、a)当該潤滑流体の試料をバイアルに入れるステップであって、当該試料が、当該バイアルを部分的に満たし、それによって、空間が、バイアルにおいて試料の上に存在し、当該空間における気相物質をサンプリングするのに好適である、ステップと、b)バイアルを封止するステップと、c)封止された当該バイアル中の試料を少なくとも80℃の温度で12時間超加熱するステップと、d)フルスキャン及び選択イオンモニタリングとともにヘッドスペースGC-MSを使用して、気相部分を分析するステップと、を含む、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑流体の銅腐食電位を評価するための方法であって、
a)前記潤滑流体の試料をバイアルに入れるステップであって、前記試料が、前記バイアルを部分的に満たし、それによって、空間が、前記バイアルにおいて前記試料の上に存在し、前記空間における気相物質をサンプリングするのに好適である、ステップと、
b)前記バイアルを封止するステップと、
c)封止された前記バイアル中の前記試料を少なくとも80℃の温度で12時間超加熱するステップと、
d)フルスキャン及び選択イオンモニタリングとともにヘッドスペースGC-MSを使用して、気相部分を分析するステップと、を含む、方法。
【請求項2】
選択イオンモニタリングが、NH
3、COS、CS
2、及びH
2Sのうちの1つ以上を含む種の存在を特定するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップd)において得られた結果を、既知の銅腐食特性を有する更なる潤滑流体にステップa)~d)を適用して得られた結果と比較するステップe)も含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップc)において、前記試料が、前記封止されたバイアル中で少なくとも100℃の温度で加熱される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)において、前記試料が、前記封止されたバイアル中で140℃の温度で48時間又は170℃の温度で24時間加熱される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
選択イオンモニタリングが、NH
3、COS、CS
2、及びH
2Sのうちの1つ以上の存在を評価するために使用される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑流体の気相銅腐食電位を容易に評価するための試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー移行が進むにつれて、電動モーター又は「eモーター」を少なくとも部分的に使用する輸送の需要が増加している。銅は、その導電性、伝熱能力、延性、及びコストのために、eモーターにおける重要な構成要素である。eモーター内では、銅巻線は、典型的にはコーティングによって保護される。しかしながら、接続点では、コーティング劣化のために、銅が露出する可能性がある。
【0003】
典型的には、現在のeモーターでは、2つの通常の構成:トランスミッションで使用される潤滑流体がeモーターから離れて保持される、乾式eモーターと、ギアボックスを潤滑することに加えてeモーターを潤滑及び冷却するために潤滑流体が使用される、湿式eモーターと、がある。湿式eモーターでは、液相若しくは気相又は両方のいずれかで、流体がeモーターの銅巻線と接触するリスクが増大している。
【0004】
eモーターにおける使用に好適な新しい潤滑流体の開発は、多くの研究の焦点となってきた。これらの流体にとって低レベルの銅腐食を示すことが重要である。銅腐食は、多くの因子によって引き起こされると考えられる。基油中の、又は潤滑流体中で使用される特定の添加剤から誘導される硫黄及び窒素化合物の存在は、それらがより高い温度で劣化するので、腐食に寄与することが知られている。eモーターにおける使用のための新しい潤滑流体の製剤は、それらの銅腐食電位を決定するために潜在的な候補の広範で時間のかかる試験を必要とする。
【0005】
炭化水素製品における銅腐食についての試験は、従来ASTM D130に基づいており、銅のストリップを、流体、例えば、油に浸漬させ、何時間も加熱する。次いで、変色のレベルに応じて、1a~4cのスケールで使用された銅ストリップの視覚的評価を与える。この方法は、高レベルの銅腐食と低レベルの銅腐食との間の明確な区別を提供するが、低レベルの腐食性の間の比較に必要な精度を提供することができない。
【0006】
ASTM D130は、比較的古い試験であり、eモーターにおける使用のための潤滑剤を試験するために開発されたものではなかった。より現代的な要求について試験を改善するために多くの試みがなされてきた。例えば、試験の感度を改善するために、銅ストリップが浸漬された油試料を、銅損失を定量化するために、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)での試験の終わりに銅濃度について分析することによって、それを拡張することが可能である。流体の気相銅腐食電位を評価するために、銅ストリップを流体試料の上に吊るすことによって、又は銅ストリップを部分的にのみ浸漬させることによって、試験を修飾することも可能である。
【0007】
通電条件下での流体の電子部品との適合性を試験するために、いわゆる「通電腐食及び導電性堆積物」試験が開発されている。この導電性堆積物試験は、G.Muller;J.Bucci;G.Mueller;R.Pelz;T.Newcomb;A.Gangopadhyay,「Conductive Layer Deposits and the Development of an Effective Bench Test for Electric Vehicle Drivetrains」,in SAE International;2021に記載されており、回路基板を使用し、その半分を流体に浸漬させ、他の半分を蒸気に曝露する。流体は、典型的には、150℃で加熱され、5VのDC電力が基板に印加される。抵抗は、液相及び気相の両方において経時的に監視される。合格/不合格閾値は、依然として評価されているが、1000時間以内に短絡堆積物に起因して抵抗が減少するときに不合格を決定することができると現在考えられている。
【0008】
更なる銅腐食試験が、G.Hunt,M.Gahagan and M.Peplow,Lubrication science,vol.29,no.4,pp.279-290,2017に記載されている。この試験では、2本の裸線を試験容器に入れる。一方を試験流体中に浸漬させ、他方を流体上に吊るす。1mAの直流(direct current、DC)を印加する。試験流体は、所望の温度で保持され、吊るされた線は、試験流体の蒸気に曝露されるであろう。線の抵抗は、経時的にモニタリングされる。各線が腐食するにつれて、いくらかの導電性銅金属が失われ、したがって電気抵抗が増加するであろう。腐食は、導電断面積の減少に起因した回路において測定される抵抗の変化として検出することができる。しかしながら、この方法は、セットアップが困難であり、各試料のために新しい線を設置することを必要とする。
【0009】
製剤化された潤滑流体の気相銅腐食電位を簡単かつ迅速に試験したいという要望が依然として存在する。更に、改善された流体の更なる開発を助けるために、試験方法が、任意の試験された流体によって引き起こされている銅腐食のメカニズムへの洞察を提供することができれば望ましいであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、潤滑流体の銅腐食電位を評価するための方法であって、
a)当該潤滑流体の試料をバイアルに入れるステップであって、当該試料が、当該バイアルを部分的に満たし、それによって、空間が、バイアルにおいて試料の上に存在し、当該空間における気相物質をサンプリングするのに好適である、ステップと、
b)バイアルを封止するステップと、
c)封止された当該バイアル中の試料を少なくとも80℃の温度で12時間超加熱するステップと、
d)フルスキャン及び選択イオンモニタリングとともにヘッドスペースGC-MSを使用して、気相部分を分析するステップと、を含む、方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、潤滑流体の銅腐食電位の量の正確な評価を、当該試料が、封止された試料を12時間超加熱することを含む予備処理に供された後、当該潤滑流体の試料の上の気相の質量分析と組み合わされたガスクロマトグラフィー(Gas-chromatography coupled with mass spectrometry、GC-MS)分析を使用して容易に評価することができることを見出した。特に、GC-MSは、硫化水素(H2S)、アンモニア(NH3)、二硫化カルボニル(CS2)、及び硫化カルボニル(COS)のうちの1つ以上を含む種の存在を特定するために使用され得る。しかしながら、他の腐食種は、フルスキャンにおいても、モニタリングのために正しいイオンを選択することによっても、特定され得る。
【0012】
本発明の方法は、潤滑流体の気相銅腐食電位を評価する簡単かつ迅速な方法を提供する。それは、かなりより複雑で時間のかかる工業的な既知の方法とよく相関する結果をもたらすことが実証されている。本発明の方法は、例えば、多数の候補潤滑流体試料の迅速な評価を提供するために、使用され得る。
【0013】
本発明において、潤滑流体の試料は、バイアルに入れ、それによって、当該試料は、そのバイアルを部分的にのみ満たし、空間は、液体試料の上に存在する。典型的には、試料は、バイアルの体積の5~20%の範囲、好ましくは20%未満を満たすであろう。より大きな試料体積は、形成されたより高い蒸気圧のために、試験中の漏出及び試料損失の可能性を増加させる。
【0014】
バイアルの封止は、キャップ、例えば、アルミニウムキャップを使用し、シリコーン、ゴム、及びPTFEのうちの1つ以上などの、穿孔可能な物質のセプタムを組み込むことによって好適に行われる。
【0015】
ヘッドスペースGC-MSは、既知の方法である。「ヘッドスペース」という用語は、試料がバイアル中の液体試料の上の空間から採取されるという事実を指す。典型的なヘッドスペースGC-MS法では、試料を、バイアル中に封止し、次いで短時間、例えば1時間加熱して、蒸気相及び液体試料を平衡化させる。次いで、気相のアリコートは、バイアルに挿入された針を介して採取され、加熱された移送ラインによってガスクロマトグラフ(gas chromatograph、GC)に通され、種は、分離された後、質量分析計(mass spectrometer、MS)において特定される。
【0016】
本発明において、潤滑流体の試料は、封止された試料が、少なくとも80℃の温度で少なくとも12時間加熱される、予備処理に供される。好ましくは、温度は、少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも170℃である。好適には、予備処理ステップは、180℃を超えない温度で行われる。予備処理ステップは、好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも48時間である。予備処理ステップは、より高い温度でより短い時間、又はより低い温度でより長い時間行われ得ることが容易に理解されるであろう。例えば、好適な予備処理ステップは、120℃で72時間又は170℃で24時間行われ得る。
【0017】
予備処理ステップ後、液体潤滑流体試料の上の気相の一部分をバイアルから取り出し、GC-MSに注入する。GC-MSは、注入された気相部分における種を分離し、それらを分析する。
【0018】
好適なGC-MS条件は、当業者によって容易に決定されるであろう。
本発明における選択イオンモニタリングの使用は、銅腐食へのそれらの寄与について知られている標的分子の評価を可能にする。選択イオンモニタリング(Selected ion monitoring、SIM)は、全範囲の代わりに単一の質量対電荷比が検出されるように選択される、質量分析における走査モードである。この走査モードは、改善された感度を可能にし、共溶出物質からの干渉を除去し、目的の種の正確な評価を可能にする。本発明において特に興味深いのは、アンモニア(質量対電荷比m/z=17)、H2S(質量対電荷比m/z=34)、二硫化カルボニル(質量対電荷比m/z=76)、及びCOS(質量対電荷比m/z=60)である。しかしながら、本発明は、実際の又は疑わしい腐食種に関連する任意の選択されたイオンに容易に適用可能である。
【0019】
クロマトグラム上のピーク下の面積は、目的の分析物の濃度に正比例する。検出器は、ピーク面積と分析物濃度との間の応答係数を確立するために、標準化合物を使用して較正することができる。あるいは、潤滑流体中の腐食種のピーク面積は、標準潤滑流体について得られた同じ測定値と比較することができる。典型的には、標準潤滑流体は、既知の銅腐食電位を有する既知の潤滑流体である。
【0020】
ここで、以下の非限定的な実施例を参照することにより、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0021】
実施例1~12
本発明の方法の有効性を実証するために、湿式eモーターのための潤滑流体として好適ないくつかの流体を調製し、方法を使用して試験した。各流体は、GTL基油及び少なくとも1つの添加剤パッケージを含有した。
【0022】
各例において、流体の試料をヘッドスペースバイアルに入れ、140℃で48時間又は170℃で24時間のいずれかで予熱した。
ヘッドスペース試料を採取し、GC-MSで分析した。条件:注入時間1分、オーブン45℃で8分間、20℃/分で120℃で20分間まで勾配、PoraBOND Qカラム(50m×0.53mm×10um)、入口180℃、分割5:1、キャリアガスとしてヘリウム。
【0023】
選択イオンモニタリングを使用して、特定の気相腐食剤を評価した。選択イオンモニタリングを使用して評価される、4つの潜在的な腐食種を選択した。これらは、アンモニア、硫化カルボニル、二硫化炭素、及び硫化水素であった。
【0024】
既知の銅腐食電位を有する、既知の流体であった、実施例1として示された製剤を標準とし、潜在的な腐食種の各々についてGCトレース下の面積を測定した。この面積は、各腐食種について100と設定した。全ての他の測定値は、この標準と比較して定量化した。これらの実施例についての結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
気相腐食阻害剤の添加(実施例2及び3)及び添加剤パッケージの変化(実施例4~9)を含む、製剤における変化の、気相腐食種の生成に対する効果は、本発明の方法を使用して容易に特定可能であることが明らかに示されている。これは、製剤化された潤滑流体の起こり得る気相銅腐食の迅速かつ簡単な評価を可能にする。
【0027】
次いで、本発明の方法からの結果を、既知のより複雑な銅腐食試験方法を使用して同じ試料のいくつかについての結果と比較した。
表2における試料は各々、G.Muller;J.Bucci;G.Mueller;R.Pelz;T.Newcomb;A.Gangopadhyay,「Conductive Layer Deposits and the Development of an Effective Bench Test for Electric Vehicle Drivetrains」,in SAE International;2021による導電性堆積物試験を使用して評価した。次いで、導電性堆積物試験で使用された油試料を、誘導結合プラズマ(ICP)を使用して評価して、使用された油に溶解した銅のレベル、及びCDTの終了時の新鮮な油からの硫黄損失を評価した。これらの試験からの結果を表2に示す。
【0028】
【国際調査報告】