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特表2025-532750パターン化されたポリマーフィルム構造の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-03
(54)【発明の名称】パターン化されたポリマーフィルム構造の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 71/00 20230101AFI20250926BHJP
   C08G 73/02 20060101ALI20250926BHJP
   C08G 61/00 20060101ALI20250926BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20250926BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20250926BHJP
【FI】
H10K71/00
C08G73/02
C08G61/00
H10K85/10
H10K50/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2025506089
(86)(22)【出願日】2023-08-02
(85)【翻訳文提出日】2025-04-04
(86)【国際出願番号】 FI2023050451
(87)【国際公開番号】W WO2024028539
(87)【国際公開日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】20225704
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513317138
【氏名又は名称】トゥルク ユリオピスト
【氏名又は名称原語表記】Turun yliopisto
【住所又は居所原語表記】Yliopistonmaki, Turun yliopisto, 20014 Finland
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】クヴァルンストローム,カリタ
(72)【発明者】
【氏名】サロマキ,ミッコ
(72)【発明者】
【氏名】ダムリン,ピア
(72)【発明者】
【氏名】ロイカス,カリ
(72)【発明者】
【氏名】ナウマ,マウリ
(72)【発明者】
【氏名】ユーエール,ラーフル
【テーマコード(参考)】
3K107
4J032
4J043
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107DD22
3K107DD43X
3K107FF14
3K107FF17
3K107GG02
3K107GG06
3K107GG07
3K107GG26
4J032BA03
4J032BA04
4J032BA13
4J032BB01
4J032BB03
4J032BC02
4J032BC03
4J032BC07
4J032BC10
4J032BC12
4J032BC13
4J032CA00
4J032CA03
4J032CB01
4J032CB03
4J032CD02
4J032CE01
4J032CG01
4J043QB02
4J043RA08
4J043SA05
4J043UA121
4J043XA07
4J043XA28
4J043XA29
4J043XB05
4J043ZA44
4J043ZA45
4J043ZB47
4J043ZB49
4J043ZB50
(57)【要約】
本発明は、基板上にパターン化されたフィルムを作製する方法であって、酸化剤を含む溶液を基板の表面にコーティングにより塗布することにより基板上に酸化剤層を形成すること、酸化剤層を乾燥すること、パターンに従って酸化剤層上に阻害剤を塗布し、酸化剤層の形成を部分的に阻害すること、および大気圧下で20~95℃の重合温度で表面をモノマー蒸気にさらすことによってポリマー層を形成することを含む方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にパターン化されたフィルムを作製するための方法であって、
酸化剤を含む溶液を前記基板の表面にコーティングにより塗布することにより前記基板上に酸化剤層を形成すること;
前記酸化剤層を乾燥すること;
パターンに従って前記酸化剤層上に阻害剤を適用し、前記酸化剤層の形成を部分的に阻害すること;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で前記表面をモノマー蒸気にさらすことによってポリマー層を形成すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記モノマー蒸気が、アズレン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、およびそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー蒸気が、ピロール、アニリン、チオフェン、およびフェニレンからなる群より選択されるさらなるモノマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害剤が、還元剤および錯化剤からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、アスコルビン酸、シュウ酸、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ヒドラジンおよびその誘導体、クエン酸、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、およびヨウ化物イオン、ギ酸、還元糖、エチレンジアミン四酢酸、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸、トリメチレンジアミン四酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N’,N’-三酢酸、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED)、カテコール、3,5-ジスルホカテコール、サリチル酸塩、およびグリシンからなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤が、印刷またはスタンピングによって塗布される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記気相重合が、1~20分間継続される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記気相重合が、前記ポリマー層の厚さが10~100nmになるまで継続される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記気相重合中の前記表面の温度が25~75℃である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記気相重合中の前記重合温度が25~90℃である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記気相重合中、前記表面の温度が前記重合温度より0~30℃低いか、または前記重合温度より0~20℃高い、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化剤が、-p-トルエンスルホン酸鉄(III)、FeCl、CuCl、CuBr、およびトリフルオロメタンスルホン酸鉄(III)からなる群より選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化剤を含む前記溶液が、前記表面にスピンコートされる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化剤を含む前記溶液の濃度が、60~500mMである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、前記気相重合の後に、前記フィルムを60~100℃の温度でアニールする工程を、含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酸化剤層を形成する工程、前記酸化剤層を乾燥させる工程、阻害剤を適用する工程、および気相重合によってポリマー層を形成する工程を繰り返すことを、さらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれかに記載の方法によって得られるフィルムを含む、装置。
【請求項18】
有機電気化学トランジスタ、電気化学トランスデューサ、エレクトロクロミック装置、エレクトロルミネセンス装置、エレクトロルミネセンスディスプレイ、有機コンデンサ、スーパーコンデンサ、センサ、バイオセンサ、エネルギーハーベスティング装置、帯電防止材料、光起電装置、ストレージ装置、電極、タッチスクリーン、回路基板、アンテナ、電界効果トランジスタ、光検出器、または熱電装置である、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
基板の表面にパターン化されたフィルムを作製するためのシステムであって、
前記表面に酸化剤を含む溶液をコーティングにより適用して前記表面に酸化剤層を形成するように構成された酸化剤ユニット;
前記酸化剤層を乾燥する手段;
パターンに従って前記酸化剤層上に阻害剤を適用する手段;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で前記表面をモノマー蒸気にさらすことによってポリマー層を形成するように構成されたチャンバー;
を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少なくとも一つのポリマー層を含むパターン化されたフィルムを作製する方法に関する。本開示は、また、少なくとも一つのポリマー層を含むフィルムに関する。本開示は、さらに、フィルムを含む装置、ならびに少なくとも一つのポリマー層を含むパターン化されたフィルムを作製するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アズレンモノマーの酸化により、1-位と3-位とで重合が起こり、1,3-ポリアズレンが得られる。ポリアズレン(PAz)は、高静電容量と酸化還元挙動を示す導電性ポリマーである。PAzフィルムは、電気化学、化学、光化学重合によって生成できる。PAzフィルムは、その電子特性、導電性、酸化還元挙動、および高速充放電特性のため、エレクトロニクス、帯電防止コーティング、色素増感型または有機太陽電池、電気化学トランスデューサ、エレクトロクロミック装置、エレクトロルミネセンス装置、有機発光ダイオード(OLED)、およびスーパーキャパシタの分野に関連する用途に有用である。用途に適合させるためには、PAzフィルムは高度に組織化され、均質で、透明で、薄いことが必要である。現在の方法のうち、電気化学重合では不均一なフィルムが生成され、導電性電極基板が必要になるため、作製は電極材料のみに限定されるが、酸化化学合成では粉末または顆粒状の材料が得られる。PAzは不溶性であるため、それ以上の鋳造や加工は不可能な場合がある。
【0003】
一方、導電性ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)フィルムおよびその共重合体フィルムも知られており、さまざまな分野で使用されている。これらのフィルムは、PAzフィルムと同じ方法で作製できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/221958号
【特許文献2】国際公開第2019/211510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
望まれる特性を有する高品質のPAzおよび/またはPEDOTフィルムの作製は、現在の作製方法では難しい可能性があるため、新しいアプローチが必要となり得る。また、そのまま、またはさらなる製品の基礎として使用することができるパターン化されたフィルムを作製することができることも理想的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願明細書は、基板上にパターン化されたフィルムを作製する方法であって、
酸化剤を含む溶液を基板の表面にコーティングにより塗布することにより基板上に酸化剤層を形成すること;
酸化剤層を乾燥すること;
パターンに従って酸化剤層上に阻害剤を適用し、酸化剤層の形成を部分的に阻害すること;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で表面をモノマー蒸気にさらすことによってポリマー層を形成すること
を含む方法に関する。
【0007】
本願明細書は、また、本明細書に記載の方法によって得られるフィルムを含む装置に関する。
【0008】
本願明細書は、さらに、基板の表面上にパターン化されたフィルムを作製するためのシステムであって、
酸化剤を含む溶液を表面にコーティングにより適用して表面上に酸化剤層を形成するように構成された酸化剤ユニット;
酸化剤層を乾燥する手段;
パターンに従って酸化剤層上に阻害剤を適用する手段;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で表面をモノマー蒸気にさらしてポリマー層を形成するように構成されたチャンバー
を含むシステムに関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
実施形態のさらなる理解を深めるために含まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、さまざまな実施形態を図示する。
図1図1A~1Cは、本発明の方法の実施形態に従って基板上に形成された膜と、その方法の様々な工程を概略的に示している。
図2】実施形態に従って、気相重合を実行するための気相重合セルを示す。
図3】実施形態に従った基板の連続VPPプロセスのセットアップを示す。
図4】ゴムスタンプで生成されたパターンを視覚化したものである。
図5】実施形態に従った印刷パターンを視覚化したものである。
図6】別の実施形態による印刷パターンを視覚化したものである。
図7】印刷された領域の端からのAFM画像と、画像から特定の位置での高さプロファイルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願明細書は、基板上にパターン化されたフィルムを作製するための方法であって、
酸化剤を含む溶液を基板の表面にコーティングにより塗布することにより基板上に酸化剤層を形成すること;
酸化剤層を乾燥すること;
パターンに従って酸化剤層上に阻害剤を塗布し、酸化剤層の形成を部分的に阻害すること;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で表面をモノマー蒸気にさらすことによってポリマー層を形成すること
を含む方法に関する。
【0011】
本方法は、国際公開第2020/221958号および国際公開第2019/211510号に記載された蒸着重合法を使用し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。特に、それらの実験セクションは、本明細書に記載されていない限り、酸化剤層の形成および重合を説明するものとして参照により組み込まれる。
【0012】
本方法において、まず、基板の表面にコーティングにより酸化剤層が形成される。その後、酸化剤層は乾燥されるか、または乾燥するように放置される。乾燥させる場合は以下に説明するように実行され、乾燥されることが好ましい。酸化剤層が乾燥した後、すなわち使用された溶媒が蒸発した後、阻害剤が酸化剤層上に塗布される。阻害剤は、酸化剤層の形成を部分的に阻害するようにパターンに従って塗布される。阻害剤は、後続の工程でポリマー層を形成することを望まない酸化剤層の部分に塗布される。脱酸素剤の機能については、以下にさらに詳しく説明する。この選択的阻害の後、国際公開第2022/221958号に記載されているように、気相重合によってポリマー層が形成される。
【0013】
したがって、方法の工程は、順序で実行される。この説明から明らかなように、方法は、さらなる工程を含むこともできる。
【0014】
この明細書の文脈では、特に指定がない限り、「重合温度」という用語は、重合気相重合中のモノマー蒸気の温度を指す場合がある。重合温度は、重合が行われる反応チャンバーまたはセルの温度を指すこともある。さらに、「表面」という用語は、基板の表面、または先行工程で得られ、さらに処理される表面を指す。また、「堆積表面」という用語は、「表面」という用語と互換的に使用されることがある。したがって、本明細書の文脈では、「表面」という用語は、基板の表面自体、または酸化剤層で覆われた表面を指すことがある。さらに、「表面」は、酸化剤層の上にあるポリマー層で覆われた表面を指すこともある。さらに、基板の表面の最初の層が酸化剤層であり、次にポリマー層が続くなど、酸化剤および/またはポリマー層の連続層で覆われた表面を指すこともある。したがって、「表面」は、化学物質が表面に適用される(堆積)プロセス中に変化することがある。
【0015】
本明細書において「フィルム」という用語は、特に明記しない限り、横方向の寸法が厚さよりもかなり大きい構造を指すものと理解されるべきである。その意味で、フィルムは「薄い」構造であると考えられる。本明細書において、フィルムが基板の表面に「配置されている」という表現は、特に明記しない限り、フィルムが基板上または基板上方に形成されることを意味するものと理解されるべきである。
【0016】
「表面の温度」という用語は、実際には基板の温度を意味する。基板の温度、したがって表面の温度は、温度センサや加熱/冷却装置などを使用して個別に制御することが好ましい。「重合温度」という用語は、モノマー蒸気の温度を意味する。
【0017】
「酸化剤の作用を阻害する」および「酸化剤層の形成を阻害する」という用語は、通常、当該阻害剤が酸化剤の作用を妨げることを意味する。あるいは、阻害剤が酸化剤に重大な影響を及ぼす可能性があり、その結果、酸化剤層が形成されても、阻害剤が適用された部分にポリマー層が形成されるほど十分な程度には形成されない。
【0018】
得られるフィルムの品質は作製方法に大きく依存し、特に、異なる層の厚さやそれらの均一性によって影響される。本方法では、シート抵抗や表面粗さが良好で、フィルムの均一性も良好なフィルムなど、高品質のフィルムが得られることが確認されている。これらは、選択されたコーティング方法と、基板表面とモノマー蒸気の温度差によるものと考えられる。実際、基板(基板の表面)とセル/チャンバー(モノマー蒸気の温度)の温度差によって、基板表面へのモノマーの凝縮速度と、表面近くのモノマー蒸気の勾配が制御される。基板温度とモノマーの堆積/凝縮速度は、フィルムの特性に影響する。
【0019】
一つの実施形態によれば、ポリマー層は、アズレンおよび/または3,4-エチレンジオキシチオフェンのポリマーまたはコポリマーからなる。実際、一つの実施形態によれば、モノマー蒸気は、アズレン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、およびそれらの組み合わせを含む。したがって、ポリマーは、必要に応じてホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。
【0020】
もう一つの実施形態によれば、モノマー蒸気は、アズレンおよび/または3,4-エチレンジオキシチオフェンに加えて、ピロール、アニリン、チオフェン、およびフェニレンからなる群より選択されるさらなるモノマーを含む。
【0021】
一つの実施形態において、気相重合において、表面は少なくともアズレンモノマー蒸気および少なくとも一つのさらなるモノマー蒸気にさらされる。さらなる実施形態では、気相重合において、表面は少なくとも3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマー蒸気および少なくとも一つのさらなるモノマー蒸気にさらされる。さらにさらなる実施形態では、気相重合において、表面はアズレンおよび3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマー蒸気にさらされる。
【0022】
もう一つの実施形態では、気相重合において、表面は、少なくともアズレンモノマー蒸気および/または3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ピロール、アニリン、チオフェン、およびフェニレンからなる群より選択される少なくとも一つのさらなるモノマー蒸気にさらされる。さらなる実施形態では、少なくとも一つのさらなるモノマー蒸気は、ピロール、アニリン、チオフェン、フェニレン、フラン、エチレン、テトラフルオロエチレン、塩化ビニル、プロピレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、ビニルアセテート、エチレン酢酸ビニル、スチレン、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)、イソブチレン(メチルプロペン)、プロピレン、メチルペンテン、ブタン-1、イソブチレン、ならびに他の任意の線状オレフィン、環状オレフィン、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルエステルおよびアリルエステルから選択される。これらのモノマーのさまざまな混合物も使用することができ、その結果、コポリマーが得られる。したがって、結果として得られるポリマーは、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブテン-1(PB-1)、ポリイソブチレン(PIB)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエン(Mクラス)ゴム(EPDMゴム)などのポリオレフィンエラストマー(POE)であり得る。
【0023】
阻害剤は、適用された領域において酸化剤層を還元および/または不活性化する。これにより、その部分でのモノマーの重合が防止される。阻害剤は、目的のフィルムパターンのネガティブを形成するために使用される。
【0024】
一つの実施形態によれば、阻害剤は、還元剤および錯化剤からなる群より選択される。阻害剤の機能は、酸化剤の作用を阻害することであり、それにより、モノマー蒸気が適用されると、酸化剤が阻害される領域においてポリマーが形成されない。本方法によれば、酸化剤をパターンに従って適用した場合よりも、より精密なパターン、すなわちより小さくより正確なパターンを作製することができると考えられる。これは、例えば、酸化剤溶液の性質、例えばその流動特性によるものと考えられる。本方法によれば、さらに均一で平坦な酸化剤層を形成できるため、阻害解除されていない領域でも平坦で均一なままであり、高い導電性と良好な品質のフィルムを形成することができる。また、最終的なパターン化フィルムの特性は酸化剤層の品質、主にその均一性と平坦性に依存するため、いくつかの適用方法によってより正確な最終結果がもたらされると考えられる。通常、スピンコーティング、スプレーコーティング、エアロゾル堆積、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、原子層堆積(ALD)、ゾルゲル堆積、電気メッキ、ロールツーロール堆積およびディップコーティングは、酸化剤溶液を適用する他の方法よりも正確な酸化剤層をもたらす。実際、これらのコーティング方法を使用すると、酸化剤の量、したがって層の厚さを正確に制御できる。たとえば、スピンコーティングの場合、回転速度と使用量を調整することでこれを実現でき、スプレーコーティングの場合も使用量を調整することで実現できる。ディップコーティングでは、ディッピングの速度を制御することで制御を達成することができる。浸漬などのソーキング方法では、同様のレベルの制御は達成できない。スピンコーティング、スプレーコーティング、およびディップコーティングが好ましい場合がある。
【0025】
以下でより詳細に論じるように、酸化剤は鉄(II)塩、鉄(III)塩、セリウム(IV)塩、および銅(II)塩からなる群より選択することができる。したがって、阻害剤が還元剤である場合、金属塩を低い酸化状態に、たとえばFe(III)をFe(II)に還元する。これにより、酸化剤が不活性化される。阻害剤が錯化剤(キレート剤とも呼ばれる)である場合、それは酸化剤(たとえばFe(III))を錯化、つまり一種のカプセル化し、その後、モノマーと反応できなくなる。酸化剤は、例えば、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、トリフルオロメタンスルホン酸鉄(III)、塩化鉄(III)(iron (III) chloride)、p-トルエンスルホン酸、ヨウ素、臭素、モリブデンリン酸、過硫酸アンモニウム、DL-酒石酸、ポリアクリル酸、塩化銅、臭化銅、塩化鉄(III)(ferric chloride)、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、鉄(III)トルエンスルホン酸塩、過塩素酸鉄(III)、Cu(ClO・6HO、硝酸アンモニウムセリウム(IV)、硫酸セリウム(IV)、およびそれらの混合物であり得る。阻害剤は、酸化剤の作用を十分な程度まで阻害するのに十分な能力を有するように選択される。これは、還元剤の場合に特に重要である。
【0026】
好ましい実施形態によれば、表面は、阻害剤の塗布と蒸着による重合との間にクリーニングされない。実際に、そのようなクリーニングは必要ではなく、クリーニングしなくても良好な結果が得られることが観察されている。
【0027】
一つの実施形態によれば、阻害剤は、アスコルビン酸;シュウ酸;チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム;ヒドラジンおよびその誘導体;クエン酸;水素化アルミニウムリチウム(LiAlH);水素化ホウ素ナトリウム(NaBH);ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、およびヨウ化物イオン;ギ酸;還元糖(ガラクトース、グルコース、グリセルアルデヒド、フルクトース、リボース、およびキシロース);エチレンジアミン四酢酸(EDTA);トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CDTA);トリメチレンジアミン四酢酸(TMDTA);N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N’,N’-三酢酸(HEDTA)、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED);カテコール;3,5-ジスルホカテコール(TIRON);サリチル酸塩;グリシンからなる群より選択される。これらのうち、クエン酸;シュウ酸;クエン酸塩;エチレンジアミン四酢酸(EDTA);トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CDTA);トリメチレンジアミン四酢酸(TMDTA);N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N’,N’-三酢酸(HEDTA)、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED);カテコール;3,5-ジスルホカテコール(TIRON);サリチル酸;およびグリシンは主に錯化剤(ただし、特にFe(III)を還元する能力も多少ある)であり、その他は還元剤である。
【0028】
もう一つの実施形態によれば、阻害剤は印刷またはスタンプによって適用される。印刷は、例えば、ノズルサイズが典型的にはマイクロメートルスケールであるインクジェットプリンターによって実行することができる。他の可能な印刷技術としては、マイクロコンタクト印刷およびグラビア印刷がある。スタンプは、ゴムスタンプによって実行することができる。さらに、テープキャスティング、プレス印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷または3D印刷(この3D印刷は基板の作製にも使用できる)も可能である。パターン化されたフィルムは、使用されるモノマーおよび所望のフィルム厚さに応じて、一つの層として適用することも、複数の連続した層として適用することもできる。
【0029】
さらに、本方法は、酸化剤層の形成、酸化剤層の乾燥、阻害剤の適用、および気相重合によるポリマー層の形成の工程を繰り返すことも含み得る。このような工程は、必要に応じて複数回繰り返すことができる。使用されるモノマーは、層ごとに異なっていてもよい。したがって、パターン化されたフィルム上に酸化剤層を再度適用し、阻害剤を使用して新しい酸化剤層上に別のパターンを作成することができる。このプロセスにより、最終フィルムに異なる厚さの異なる領域を形成することができる。ポリマー層は導電性であるため、このような構造は導電性の異なる領域を有することができる。
【0030】
一つの実施形態において、フィルムの合計厚さは、20nm~50μm、または50nm~10μm、または100nm~1μm、または200nm~500nmである。
【0031】
一つの実施形態において、方法はバッチプロセスとして実行される。すなわち、例えば反応チャンバーまたはセル内で、一つのフィルムを一度に作製することができ、その中で異なる方法工程を実行することができる。一つの実施形態において、方法は連続プロセスとして、例えばロールツーロールプロセスまたはディッピングプロセスとして実行される。すなわち、基板を一つの方法工程から他の方法工程に中断することなく移動させることができる。例えば、最初に酸化剤でコーティングし、次に乾燥させ、続いて阻害剤を適用し、次にモノマー蒸気にさらす。連続プロセスでは、複数のフィルムを同時に並行して作製することができる。
【0032】
一つの実施形態において、フィルムは剛性構造を有する。もう一つの実施形態では、フィルムは柔軟性を有する。さらなる実施形態では、フィルムは巻き上げられ得る。
【0033】
一つの実施形態において、少なくとも一つの触媒および/または少なくとも一つの触媒添加剤が気相重合に使用される。一つの実施形態において、少なくとも一つの触媒および/または触媒添加剤は、以下から選択される:チーグラー・ナッタ触媒、AlCl、TiCl、硝酸セリウム(IV)アンモニウム、トシル酸セリウム(IV)、トシル酸Fe(III)、ピリジン、p-トルエンスルホン酸(p-TSA)、ジエチレングリコール(DEG)、モリブドリン酸、モリブド-2-バナドリン酸、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)、アルキルベンゼンスルホン酸Fe(III)、ヨウ素、臭素、ピロカテコールバイオレット、ベンゼンスルホン酸(BSA)、p-トルエンスルホン酸(TSA)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)、ブチルベンゼンスルホン酸(BBSA)、グリセロール、トリアルキルアルミニウムを含まない改質メチルアルミノキサン、TEMPO((2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)オキシルまたは(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)オキシダニル);Ti、V、Zr、Cr、W、Coの過酸化物、塩化物またはヨウ化物、およびアルミニウム(MgまたはLi)アルキルTiClで、アルキルアルミニウム化合物が炭化水素溶媒中にあるもの、マグネシウム塩に担持されたチタン、VOCl、VCl、またはVO(OR)、アルミニウムアルキルRAlClで、遷移金属(Zr、TiまたはHf)がシクロペンタジエニル環に挟まれたもの、アルミナ、シリカ、ジルコニアまたは活性炭に担持されたCr、Mo、CoまたはNi;Cr/SiO、Zr/AlおよびTi/MgO、担持された酸化クロム;シリカ、アルミナまたはチタニアに担持されたビス(アレン)酸化クロム。
【0034】
一つの実施形態において、気相重合は、ポリマー層の厚さが少なくとも10~100nm、または20~90nm、または30~80nm、または40~60nmになるまで継続される。特定の用途では、より厚いフィルム、つまり複数のポリマー層が有用な場合があるが、他の用途では、より薄いフィルムで層が少ない方が有用な場合がある。層の数、つまりフィルムの厚さは、マイクロレベルまたはナノレベルの活性物質の含有量と構成に影響を及ぼし、導電性、静電容量、シート抵抗、バンドギャップ、活性表面積、透明性などのフィルム特性に影響を及ぼす。
【0035】
基板は、フィルムのキャリアまたは支持構造として機能する。基板は変更可能であり、基板の材料は、フィルムが使用される用途に応じて変えることができる。一つの実施形態において、基板は剛性である。一つの実施形態において、基板は柔軟で、曲げることができ、および/または巻き取ることができる。
【0036】
一つの実施形態において、ポリマー層は1,3-ポリアズレン層である。別の実施形態では、フィルムは少なくとも一つの1,3-ポリアズレン層を含む。さらなる実施形態では、フィルムは、PAz、またはモノマーの一つがアズレンであるコポリマー、またはそれらの任意の組み合わせから形成された少なくとも一つのポリマー層からなる。さらにさらなる実施形態では、フィルムは、PEDOTフィルム、または3,4-エチレンジオキシチオフェンと別のモノマーとのコポリマーである。一つの実施形態において、フィルムは、3,4-エチレンジオキシチオフェンとアズレンとのコポリマーである。一つの実施形態において、フィルムは、上記に列挙したポリマーおよびコポリマーのいずれかから形成された一つ以上のポリマー層からなる。
【0037】
一つの実施形態において、ポリマー層は基板の少なくとも片側に形成される。別の実施形態では、ポリマー層は基板の上面および下面上に形成される。
【0038】
一つの実施形態において、気相重合は、1~20分、または2~16分、または4~8分間継続される。重合時間は、ポリマー層の厚さに影響を及ぼし得る。重合をより長時間継続すると、ポリマー層がより厚くなる可能性がある。また、重合を継続しても、ある一定時間が経過すると層が厚くならなくなる可能性もある。これは、酸化剤層で覆われた表面がポリマーで完全に占有されると、重合をより長時間継続してもモノマーが酸化剤に到達できないという事実によるものと考えられる。モノマーはそのまま堆積するだけで、重合されない。さらに、堆積した非重合モノマーは、フィルムの洗浄中に洗い流されるか、またはすすがれて、重合されたフィルムのみが残る。このような洗浄は、アセトニトリルなどの任意の適切な液体によって実行することができる。
【0039】
ポリマー層は、大気圧気相重合(VPP)によって表面に形成される。VPPは、モノマーのみが気相に変換される重合技術である。大気圧で実行されるVPPには、制御が容易であるという利点もある。圧力制御や高度な装置、真空オーブンは必要ない。方法は、大面積フィルムの作製にも使用できる。
【0040】
一つの実施形態において、VPPは反応チャンバーまたはセル内で実行される。もう一つの実施形態では、反応チャンバーまたはセルの温度が制御される。一つの実施形態において、反応チャンバーまたはセルの温度はサーモスタットバスで制御される。
【0041】
一つの実施形態において、気相重合中、表面温度は21~75℃、または25~75℃、または30~60℃、または35~65℃、40~50℃、または45~55℃である。
【0042】
一つの実施形態において、気相重合中、重合温度(すなわち、反応チャンバーの温度)は、20~90℃、または35~85℃、または40~80℃、または45~75℃、または50~70℃、または55~65℃である。低い重合温度の使用は、より少ない電力の使用によりコストを節約するという追加の有用性を有する。また、生体分子処理された基板またはプラスチックおよびその他の繊細な基板などの温度に敏感な基板にも適している可能性がある。
【0043】
一つの実施形態において、気相重合中、表面温度は重合温度と異なり、すなわち、0℃より大きい温度差がある。温度差は、例えば、>0~30℃、または1~25℃、または5~20℃、または10~15℃であり得る。一つの実施形態において、気相重合中、表面温度は、重合温度より>0~30℃、または1~25℃、または5~20℃、または10~15℃低いか、または重合温度より>0~20℃、または1~15℃、または5~10℃高い。一つの実施形態において、気相重合中、表面温度は、重合温度より>0~30℃、または1~30℃、または1~25℃、または2~25℃、または3~25℃、または4~20℃、または5~20℃、または10~15℃低いか、または重合温度より>0~20℃、または1~15℃、または2~15℃、または3~15℃、または4~10℃、または5~10℃高い。気相重合はセルまたは反応チャンバー内で行うことができるが、そのような装置なしで行うこともできる。しかし、より容易な温度制御およびモノマー蒸気の形成のために、セルまたは反応チャンバーを使用することが好ましい。反応チャンバーは、例えば大量の製品を作製するための大きな空間であってもよい。
【0044】
通常、表面温度はモノマーの温度、つまり重合温度よりも低くなる。実際には、約1℃の温度差で、表面上のモノマーの凝縮速度にプラスの影響を与えるのに十分であることが確認されている。温度差は、得られるフィルムの特性にプラスの影響を与えることが確認されている。たとえば、フィルムの導電性、フィルム上の欠陥の種類、フィルムの透明性、フィルムの表面粗さ、フィルムの耐熱性、およびフィルムの透過率の一つ以上に影響を及ぼす可能性がある。
【0045】
表面温度はフィルムのシート抵抗に影響を及ぼす可能性がある。シート抵抗は増加または減少する可能性がある。さらに、フィルム構成の安定性に影響を及ぼす可能性があり、場合によっては洗浄中の応力による破損を回避する。温度処理後のシート抵抗の減少は、導体または半導体のドーピングレベルが低下しているか、ポリマー鎖構造が再編成または破壊されていることを意味する可能性がある。一つの実施形態において、表面温度は少なくとも0℃以上である。別の実施形態では、表面温度は少なくとも室温以上である。
【0046】
一つの実施形態において、重合温度(すなわち、反応チャンバーの温度)は20~95℃であり、表面温度は25~75℃である;重合温度は25~74℃であり、表面温度は26~75℃である;重合温度は25~90℃であり、表面温度は25~75℃である;または、重合温度は35~85℃であり、表面温度は30~70℃である;または、重合温度は40~80℃であり、表面温度は35~65℃である;または、重合温度は45~75℃であり、表面温度は40~50℃である;または、重合温度は50~60℃であり、表面温度は45~55℃である。
【0047】
一つの実施形態において、セルまたは反応チャンバーには飽和量のモノマー蒸気が含まれる。この量はセルまたはチャンバーのサイズに応じて異なる場合がある。
【0048】
一つの実施形態において、酸化剤は、鉄(II)、鉄(III)、セリウム(IV)および銅(II)塩からなる群より選択される。一つの実施形態において、酸化剤は、鉄(III)-p-トルエンスルホン酸塩(FETOS)、FeCl、CuCl、CuBrおよびトリフルオロメタンスルホン酸鉄(III)(Fe(OTf))からなる群より選択される。酸化剤の酸化強度は異なってもよい。フィルム構造およびポリマー構成は、どの酸化剤が使用されるかに応じて変化する可能性がある。上に列挙の酸化剤は、高品質のフィルムの形成を可能にすると考えられる。
【0049】
一つの実施形態において、酸化剤を含む溶液の濃度は、60~500mM、または70~480mM、または120~320mM、または180~240mMである。酸化剤を含む溶液中の溶媒は、n-ブタノール、メチルアルコール、2-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロパノール、エチルセロソルブ、エチルアルコール、エチルアセテート、アセトニトリルおよびメチルエチルケトンなどの有機溶媒およびそれらの混合物からなる群より選択されてもよい。酸化剤の目的は、モノマーを脱プロトン化し、重合を開始することである。一つの実施形態において、溶液は溶媒と酸化剤からなる。一つの実施形態において、重合前に酸化剤層を乾燥させる。重合前に酸化剤層を乾燥することにより、重合工程に進む前に溶媒の痕跡を除去することができる。一つの実施形態において、重合反応は、それらの界面における気固反応である。
【0050】
酸化剤溶液には塩基阻害剤も含まれている場合がある。塩基阻害剤は酸化剤の活性を低下させ、重合速度を低下させる。これにより、最終ポリマーの導電性が変化する可能性がある。塩基阻害剤は、アミン系化合物、および窒素原子を含む飽和または不飽和複素環式化合物(ピリジン系、イミダゾール系、またはピロール系化合物など)、水蒸気、グリセロール、グリコール誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択できる。
【0051】
一つの実施形態において、酸化剤を含む溶液が表面にスピンコートされる。一つの実施形態において、酸化剤を含む溶液が、1000~2800rpmで20~90秒間表面にスピンコートされる。一つの実施形態において、酸化剤を含む溶液が、1200~2600rpm、または1400~2400rpm、または1600~2200rpm、または1800~2000rpmで30~80秒間、または40~70秒間、または50~60秒間表面にスピンコートされる。一つの実施形態において、酸化剤でコーティングされた表面は、気相重合の前に乾燥される。一つの実施形態において、酸化剤でコーティングされた表面は、ホットプレート上で70~110℃の温度で10~150秒間、例えば90℃で90秒間乾燥される。
【0052】
異なる酸化剤は異なる温度で異なる挙動を示す可能性があり、また一つの酸化剤も異なる温度で異なる挙動を示す可能性がある。したがって、最適な条件を見つけるために、いくつかの簡単なテストを実行する必要がある場合がある。
【0053】
一つの実施形態において、方法は、酸化剤層の形成前に表面をクリーニングする工程を含む。一つの実施形態において、基板は、溶媒を用いた超音波処理によってクリーニングされてもよい。一つの実施形態において、超音波処理用の溶媒は、有機溶媒からなる群より選択されてもよい。一つの実施形態において、超音波処理用の溶媒は、アセトン、エタノール、水、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0054】
一つの実施形態において、クリーニングされた表面を高温溶液に浸漬することができる。一つの実施形態において、クリーニングされた表面を、HO:NHOH(25%):H2O2(30%)の5:1:1の体積比の高温溶液に、温度50-100℃、たとえば85℃で浸漬することができる。クリーニングには、表面に残った有機不純物を除去するという追加の効用がある。一つの実施形態において、酸素プラズマ処理が続くことがある。酸素プラズマ処理とは、プラズマチャンバーに酸素が導入されるプラズマ処理を指す。
【0055】
酸素プラズマ処理には、基板をさらにクリーニングする追加の機能がある。酸素は、低コストで入手しやすいため、プラズマクリーニング技術で最もよく使用されるガスである。
【0056】
一つの実施形態において、方法は、気相重合後に、フィルムを60~100℃の温度でアニールする工程を含む。一つの実施形態において、アニール工程の温度は70~90℃または約80℃である。一つの実施形態において、フィルムのアニールは、140~40秒、または50~120秒、または60~90秒、例えば120秒間継続される。アニールは、ホットプレート上またはオーブン内で行うことができる。一つの実施形態において、システムは、したがって、フィルムを60~100℃の温度でアニールするように構成された加熱ユニットを含む。
【0057】
一つの実施形態において、アニール後、フィルムを室温まで冷却する。洗浄工程中のフィルムの応力破壊を回避するために、フィルムをアニールすることができる。一つの実施形態において、アニールおよび冷却されたフィルムを洗浄する。一つの実施形態において、洗浄は、フィルムをMeCNおよび/またはエタノールで浸漬洗浄することを含む。洗浄には、未反応の酸化剤、モノマー、および伝導性を低下させる可能性のあるその他の不純物を除去するという追加の用途がある。使用する溶媒は、フィルムのシート抵抗に影響を及ぼす可能性がある。シート抵抗は、例えば溶媒中に存在する水の痕跡により低下する可能性がある。一つの実施形態において、洗浄後、フィルムを乾燥窒素ガス流下で乾燥させる。
【0058】
一つの実施形態において、基板は非導電性である。一つの実施形態において、基板はガラス、紙、セルロース、繊維、布、木材、皮革、綿、セラミック、石英、ゴム、ポリマー、またはこれらの任意の組み合わせを含むか、またはそれらから構成される。一つの実施形態において、ガラスは顕微鏡用スライドガラス、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラス、またはインジウムスズ酸化物(ITO)コーティングガラスであってもよい。本方法に従って作製されたポリマーフィルムは、さらなる製品を作製するための基板として使用することもできる。一つの実施形態において、非導電性基板はポリマーを含むか、またはそれらから構成される。ポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ-3,4-エチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリカーボネート(例えば、MakrofolPCまたはMakrofolDE1-1などのMakrofol(商標)の商標名で販売されているもの)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリアミド(PI)、ポリエステルスルホン(PES)、ポリスチレン(PS)、および非晶質ポリエステル(A-PETまたはPET-G)、およびそれらの混合物であってもよい。もう一つの実施形態では、ゴムは、エチレンプロピレンゴム(EPR)およびエチレンプロピレンジエンモノマー(Mクラス)ゴム(EPDMゴム)からなる群より選択される。さらに、基板は、Si、Ge、またはIII-V族元素(In、As、Gaなど)に基づく、またはセルロースナノチューブ(CNT)、銀ナノワイヤ材料、グラフェン、またはその他の類似の組み合わせ材料および基板のような半導体材料であってよい。
【0059】
一つの実施形態において、基板の厚さは5μm~2cmである。基板の厚さは、フィルムの使用目的または基板の材料に応じて変化してもよい。
【0060】
本明細書において、基板が「非導電性」であるという表現は、特に明記しない限り、基板のシート抵抗が10Mohms/square(M/□)以上であることを意味するものと理解される。
【0061】
一つの実施形態において、基板は導電性であり、例えばフッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラス、インジウムスズ酸化物(ITO)コーティングガラス、金(Au)コーティング基板、銀(Ag)コーティング基板、またはシリコンである。用途に応じて、導電性基板または非導電性基板が有用であり得る。
【0062】
フィルムの粗さは、表面粗さとも呼ばれ、実際の表面の法線ベクトルの方向と理想的な形状との偏差の尺度である。偏差が大きい場合、表面は粗く、偏差が小さい場合、表面は滑らかである。
【0063】
一つの実施形態において、フィルムの平均粗さ(Ra)は、200nm未満、または150nm未満、または100nm未満、または80nm未満、または50nm未満、または25nm未満、または15nm未満、または10nm未満である。
【0064】
PAzフィルムの粗さ平均値は、WSXM5ソフトウェアを使用して原子間力顕微鏡(AFM)画像から取得される。粗さ平均は、サンプルの平均高さと各単一ポイントの高さの差の絶対値の平均である。この数値は間隔の範囲によって異なる。これは、PAzフィルムの均一性または粗さを示す。次の式(1)で計算できる。
【0065】
[式1]
式(1)
ここで、
r.aは粗さ平均、
<a>は平均高さ、
aijはサンプルの各点の高さ、
iとjは2次元面上の1点(エントリ)の位置を表し、
Nは表面上で考慮される「aij」点の数である。
【0066】
フィルムの粗さの二乗平均平方根(rms)は、WSXM5ソフトウェアを使用してAFM画像から得られる。これは次の式(2)で計算できる。
【0067】
[式2]
式(2)
この数値は間隔の範囲によって異なる。最小値:対象の間隔の高さの最小値。最大値:対象の間隔の高さの最大値。
【0068】
一つの実施形態において、フィルムの粗さは、任意のアニーリングおよび洗浄工程の前に測定される。これは、フィルムの重要な特性であるので、フィルムの粗さにこれらの工程がどのように影響するかを確認するのに役立つ。
【0069】
滑らかなフィルムには、導電性および透過性がフィルムの表面全体にわたって均一に維持されるという付加的な有用性がある。
【0070】
一つの実施形態において、フィルムの透過率は、10~95%、または20~85%、または30~75%である。一つの実施形態において、フィルムの透過率は、300~1100nm、または550~1100nm、または550nmで測定される。
【0071】
Agilent8453分光計を、UV-Visスペクトルを記録するために使用することできる。%透過率(%T)は、次の式(3)を使用して吸光度(Abs)データから計算される。
【0072】
(%T)=(10^(-絶対値))*100 式(3)
一つの実施形態において、フィルムの面積容量は、0~10mF/cm、または0.01~9mF/cm、または0.05~8mF/cm、または0.2~7mF/cm、または1~5mF/cm、または2~4mF/cmである。一つの実施形態において、フィルムの面積容量は、0~25mF/cm、または0.01~15mF/cm、または0.05~10mF/cm、または0.2~7mF/cm、または1~5mF/cm、または2~4mF/cmである。
【0073】
一つの実施形態において、フィルムの体積容量は、200~2000F/cm、または250~1500F/cm、または300~1200F/cm、または500~1000F/cm、または600~800F/cmである。一つの実施形態において、フィルムの体積容量は、5000~18000F/cm、または6000~17500F/cm、または7000~17000F/cmである。
【0074】
一つの実施形態において、面積容量(CA)および体積容量(CV)の値は、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学的特性評価によって決定される。電荷(Q)は、Originソフトウェアで電位範囲-0.25V~0.9Vにおいてサイクリックボルタモグラムを積分することによって計算され、さらに式(4)および(5)を使用して処理されて静電容量値が得られる。
【0075】
面積容量CA=Q/(ΔV*A) 式(4)
体積容量CV=Q/(ΔV*V) 式(5)
ここで、「ΔV」は電位窓、「A」は面積、「V」は作用電極の体積である。
【0076】
一つの実施形態において、フィルムの導電率は、0~3S.cm、または0.01~2S.cm、または0.05~1.5S.cm、または0.1~1.0S.cm、または0.3~0.8S.cm、または0.4~0.6S.cmである。導電率は、フィルムの任意の洗浄の前または後に測定することができる。洗浄後、導電率は洗浄工程前よりも高くなるか低くなる可能性がある。重合温度が低い場合、洗浄工程前の導電率は低くなる。重合温度が高い場合、洗浄工程後の導電率は低くなる。
【0077】
一つの実施形態において、フィルムのシート抵抗は、1~80MΩ/□、または2~70MΩ/□、または5~50MΩ/□、または10~40MΩ/□、または15~30MΩ/□である。一つの実施形態において、フィルムのシート抵抗は、0.01~2MΩ/□、または0.05~1.5MΩ/□、または0.08~1.1MΩ/□、または0.2~1.1MΩ/□、または0.6~1MΩ/□である。シート抵抗は、フィルムの任意の洗浄の前または後に測定することができる。洗浄後、シート抵抗値は、洗浄工程前よりも高くても低くてもよい。重合温度が低い場合、洗浄工程後のシート抵抗値は低くなる。重合温度が高い場合、洗浄工程後のシート抵抗値は高くなる。
【0078】
一つの実施形態において、シート抵抗は、任意のアニーリングおよび洗浄工程の前に測定される。これは、これらの工程がフィルムの抵抗にどのように影響するかを確認するのに役立つ。
【0079】
円筒形4点プローブヘッドを備えたJandelモデルRM3000+を使用して、ポリマーフィルムのシート抵抗(rsheet)値を得ることができる。フィルムの比抵抗(r)は、式(6)のように、シート抵抗とフィルムの厚さ(d)を乗じて得られる。
【0080】
r=rsheet d 式(6)
フィルムの導電率(s)は式(7)に従って得られる。
【0081】
s=1/r 式(7)
本出願に記載された方法は、高度に組織化された、透明で均質な多層薄膜を作製するという付加的な有用性を有する。さらに、本出願に記載された方法は、大気圧制御重合、短い反応時間、低温、および低モノマー負荷の理由により、低コスト、簡単かつ迅速であるという付加的な有用性を有する。
【0082】
本出願に記載された方法は、さらに、異なる用途に有用なフィルムを層ごとに作製できるという追加の有用性を有する。本出願に記載された方法は、また、曲げ可能な電子機器に使用できるプラスチック材料上に柔軟な薄膜を作製できるという追加の有用性を有する。さらに、方法により、ナノメートルからマイクロメートル規模の薄膜を作製することができる。
【0083】
本出願に記載された方法は、導電性や粗さの値など、異なる特性を有するフィルムの作製に適しているという追加の有用性を有し、したがって、さまざまな用途に有用である。
【0084】
本発明はさらに、本発明の方法によって得られるフィルム、すなわち、気相重合によって形成された少なくとも一つの部分的なパターン化ポリマー層を含み、基板の少なくとも一つの表面上に配置されているフィルムに関する。一つの実施形態によれば、フィルムの全厚は10nm~100μmである。方法に関連して上記で説明したすべての変形および実施形態は、必要な変更を加えてフィルムに適用される。
【0085】
本願明細書は、上述した方法によって得られるフィルムを含む装置にも関する。方法に関連して説明したすべての変形および実施形態は、必要な変更を加えて装置に適用される。
【0086】
装置は、例えば、有機電気化学トランジスタ、電気化学トランスデューサ、エレクトロクロミック装置、エレクトロルミネセンス装置、エレクトロルミネセンスディスプレイ、有機コンデンサ、スーパーコンデンサ、センサ、バイオセンサ、エネルギーハーベスティング装置、帯電防止材料、光起電装置、ストレージ装置、電極、タッチスクリーン、回路基板、アンテナ、電界効果トランジスタ、光検出器、または熱電装置であり得る。特に興味深い装置は電極およびアンテナであり、本方法により、基板の表面に直接導電パターンを作製できる。実際、本方法により、衣類に使用される電子機器などのさまざまな印刷電子機器を作製できる。
【0087】
本願明細書は、さらに、上記で定義したフィルムを電子装置内の帯電防止コーティングまたは電極として使用することに関する。
【0088】
本願明細書は、さらに、基板の表面上にパターン化されたフィルムを作製するためのシステムであって、
表面に酸化剤を含む溶液をコーティングにより適用して表面上に酸化剤層を形成するように構成された酸化剤ユニット;
酸化剤層を乾燥する手段;
パターンに従って酸化剤層上に阻害剤を適用する手段;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で表面をモノマー蒸気にさらして、ポリマー層を形成するように構成されたチャンバー
を含んでなるシステムに関する。
【0089】
システムの部品は、上記のように連続した順序になっている。任意に、チャンバーの温度が表面の温度と異なるように構成され、その差は通常0~30℃である。また、方法に関連して上記で説明したすべての変形および実施形態は、必要な変更を加えてシステムに準用される。表面が重合温度以外の温度に保たれている場合、システムは表面を所望の温度に保つ手段を備えている。
【0090】
上述のように、システムは、基板およびチャンバー用の少なくとも一つの温度制御システムを備え、任意で、基板が、チャンバー、すなわちモノマー蒸気と基板の表面との両方を正確かつ精密に温度制御するように、チャンバー内および加熱ブロック上に温度センサを備えることが好ましい。システムは、加熱装置および/または冷却装置などの所望の温度を維持するための手段も備えることが好ましい。
【0091】
(図面の詳細な説明)
図1A~1Cは、本発明の方法の実施形態に従って基板上に形成されたフィルムと、方法の様々な工程を模式的に示す。図1Aでは、基板4の表面に酸化剤層2が形成されている。図1Bでは、酸化剤層に阻害剤12のパターンが適用されている。図1Cは、重合後の状況を示しており、活性が阻害されていない領域上の酸化剤層2の表面上にポリマーフィルム3が形成されている。
【0092】
図2は、一つの実施形態による気相重合を行うための気相重合(VPP)セルを示す。重合または反応チャンバー5は、基板4および金属ブロック8用のスタンド7を備える。重合チャンバー5には、モノマー蒸気9の温度を重合温度に保つために恒温槽10が取り付けられている。基板4の温度、ひいては表面の温度を制御された所定の温度に保つために、恒温槽11が金属ブロック8に取り付けられている。重合チャンバー5は、重合チャンバー5を閉じるために使用される蓋6を備える。
【0093】
図3は、一つの実施形態による基板の連続VPPプロセスのセットアップを示している。ロールツーロール技術によって、酸化剤13を含む溶液が基板4上に堆積され、続いてオーブン内またはヒーターで酸化剤が乾燥される14。その後、プリンター15によって阻害剤が適用され、基板は予熱される16。これもオーブン内またはヒーターで実行できる。次の工程では、基板4は重合チャンバー5内でモノマー蒸気にさらされる。ローラーの速度によって、基板がチャンバー内に滞在する時間が決まる。基板または堆積表面の温度は、ヒーターおよび/または温度コントローラー17によって制御される。次に、ヒーター18でフィルムを加熱してアニールし、続いて洗浄液19で洗浄される。最後に、フィルムは乾燥機20で乾燥され(窒素ガスを使用)、パターン化されたフィルム21で覆われた基板が得られる。
【0094】
図4から7については、以下の実験の部分でさらに詳しく説明する。
【0095】
(実験部分)
いくつかの異なるパターンのフィルムを調製した。
【0096】
(材料と装置)
使用した材料と装置は以下の通りである。
【0097】
VWR Chemicals製のアセトン
Altia Oy製のエタノール
シグマアルドリッチ製の水酸化アンモニウム、
VWR Chemicals製の過酸化水素
Lab Scan製のn-ブタノール
Lab Scan製のピリジン
メルク製のアセトニトリル
TCI製の3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)
Aldric製の鉄(III)-p-トルエンスルホン酸塩、モル質量677.52g/mol
メルク製のチオ硫酸ナトリウム、モル質量248.18g/mol
メルク製のアスコルビン酸、モル質量176.13g/mol
メルク製のシュウ酸、モル質量126.07
基板はガラスまたはポリエチレンテレフタレート(PET)であった。ガラスはMenzel-GlaeserまたはRFFrance製で、76mmx26mmのプレートにカットされている。PETプレートはGoodfellow製、ES30-FM-000225である。
【0098】
VWR製の超音波クリーナーであるUltrasonic Cleaner USC-THD、および、測定チップであるJandel Se No:376573、チップRμ100を備えた導電率測定装置であるJandel、Model:RM3000+を使用した。Harrick Plasma製の酸素プラズマクリーナーであるPlasma Cleaner、PDC002も使用した。インクジェットプリンターはDimatix製である。
【0099】
(基板のクリーニング)
基板は酸化剤を適用する前にクリーニングした。ガラス板のクリーニングは、アセトン、水、エタノールで各液体に5分間超音波を当てて行った。その後、水50ml、水酸化アンモニウム10ml、過酸化水素10mlからなるクリーニング液を用意し、80℃に加熱し、プレートを、垂直に立てた状態で5分間浸した。その後、基板を水で洗い流し、次にエタノールで洗い流し、少なくとも1時間乾燥させた。実験開始直前に、酸素ガスによるプラズマで5分間プレートをクリーニングした。
【0100】
PETプレートも同様に超音波処理によりクリーニングされ、続いて周囲状態で乾燥され、酸素プラズマクリーニングが5分間行われ、その後すぐにスピンコーターに運ばれ、酸化剤コーティングが行われた。
【0101】
(酸化剤溶液、その調製および塗布)
酸化剤は、全ての実施例において同じであり、すなわち、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、n-ブタノールおよびピリジンを含む溶液であった。酸化剤溶液は、エッペンドルフチューブにp-トルエンスルホン酸鉄(III)0.160mgを加え、n-ブタノール850μLを加えることによって調製した。その後、ピリジン11.3μLをピペットでチューブに移し、溶液を混合した。総量が1mlになるまでn-ブタノールを加えた。p-トルエンスルホン酸鉄(III)が溶解しなかった場合は、超音波を使用して溶解した。
【0102】
酸素プラズマクリーニング後、基板を回転支持体上に配置して回転を開始した。その後、上記で調製した酸化剤溶液を60μL/6.5cm(60μL/平方インチ)ずつ20秒間ピペットで滴下した。1分間回転させた後、基板を加熱プレート(90℃)に90秒間移した。
【0103】
(阻害溶液の調製とその塗布)
様々な阻害剤を試験した。印刷された阻害剤については、固体阻害剤を水(30vol-%)とプロピレングリコール(70vol-%)の混合物に0.01Mの濃度で溶解した。スタンプされた阻害剤は水に溶解した。
【0104】
阻害剤は、ゴムスタンプまたはインクジェット印刷のいずれかの方法で適用された。ゴムスタンプを使用する場合は、目的の溶液で湿らせた柔らかいティッシュペーパーを使用して湿らせた。ゴムスタンプはガラス基板に使用され、インクジェット印刷はPET基板に使用された。ゴムスタンプは、乾燥していない酸化剤層でもテストされた。
【0105】
(重合)
重合は、全ての実施例において同じ方法で行われた。すなわち、EDOTを唯一のモノマーとしてVPPプロセスが使用された。液体EDOTは、加熱されたVPPチャンバー(75℃)の底に、50μLの量で適用した。約15分間蒸発させた。阻害剤でパターンを適用した後、処理された表面を下にして基板をチャンバー内に配置した。基板をチャンバー内に90秒間保持し、熱い銅板(65℃)を基板上に60秒間配置し、チャンバーをさらに90秒間閉じた。完成品をチャンバーから取り出し、フィルムを上に向けて再びヒートプレート(90℃)の上に90秒間置いた。フィルムの形成に問題があった場合は、プロセスを数回繰り返した。冷却したフィルムと基板をアセトニトリルで二回洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。
【0106】
(ゴムスタンピング)
ガラス基板上に酸化剤層を作製した後、ゴムスタンプをアスコルビン酸(1)、チオ硫酸ナトリウム(2)、またはシュウ酸(3)の0.01M水溶液で湿らせ、スタンプを新鮮な酸化剤層の上に押し付けた。
【0107】
図4は、VPPプロセス後のガラス基板上のPEDOTフィルムの結果画像を示している(左端はアスコルビン酸、中央はチオ硫酸ナトリウム、右端はシュウ酸)。スタンプ領域からPEDOTを完全に除去することはできなかった。スタンプ領域の抵抗は非常に高く、追加の洗浄工程が除去をさらに改善するのにいくらか影響した。ラマンスペクトルと顕微鏡画像では、透明なスタンプ領域でもPEDOT残留物の反応が観察される。
【0108】
(インクジェット印刷)
印刷はPET基板を使用して行われ、阻害剤は酸化剤層が乾燥した後に印刷された。その他のプロトコルは上記のとおりである。
【0109】
印刷プロセスでは、乾燥した酸化剤の表面に還元剤を印刷して、重合が起こらないパターンを作成した。テスト用に、0.01Mクエン酸三ナトリウムと0.01Mチオ硫酸の二種類の溶液が作られた。どちらも、70%プロピレングリコールと30%水の混合物である。これらの「インク」を使用して、最良の結果を得るための適切な印刷パラメーターを確立するために、図5の左側に示すテストパターンが最初に印刷された。作成されたパターンの視覚的な品質は非常に良好であったが(図5の右側を参照)、導電率の測定では、酸化剤の還元は完全ではなく、導電率のわずかな低下しか測定されなかった。図では、VPPフィルムは厚さが薄く透明度が高いため、パターンの視認性がやや低くなっている。
【0110】
最初の試みの結果は、印刷された領域も電気を通すことが判明したため、部分的にしか成功しなかった。ただし、導電性は低かった。酸化剤層を完全に不活性化するには、印刷プロセスにおける還元剤の濃度と液体の量(液滴サイズ)をさらに最適化する必要がある。
【0111】
二つ目のパターン化フィルムセットでは、NaOHでpH5に中和したアスコルビン酸0.01M溶液を、70%/30%プロピレングリコール/水の混合物で再度調製した。今回は、電極の完全なアレイが印刷され(図6の左側)、印刷されたパターンの視覚的な品質は今回も優れていた(図6の右側)。ただし、導電率は印刷領域と非印刷領域で実質的に同じであった。最初の印刷中にラスター印刷パターンが観察され、光学顕微鏡を使用して、還元剤が均一に覆われるのではなく、表面に穴のアレイが見られたことから、最初のテストからパラメーターをわずかに変更する必要があった。パラメーターの更新後、表面は均一に適用された。
【0112】
印刷パターンの端からの原子間力顕微鏡画像では、還元剤がフィルムの厚さを約20nm減少させることがわかる。図7は、印刷領域の端からのAFM画像を示している(左)。高さプロファイルは画像から決定された(右)。AFM画像内の線は、プロファイルが取得された場所を示している。
【0113】
また、二回目の印刷では、酸化剤層の完全な不活性化は得られなかった。印刷された領域で電気伝導性が観察された。ただし、印刷された還元剤の濃度と滴サイズを増やすことで、これも最適化される。VPPフィルムの厚さは20nm以上(約40nm)であったため、20nmの厚さを減らしてもフィルムが完全に除去されることはない。また、シート抵抗値から、印刷領域に導電層があることがわかる。シート抵抗は、印刷されていない領域では290Ω/□、印刷された領域では320Ω/□であった。
【0114】
(結論)
酸化剤の還元は完全ではなかったものの、パターン全体にわたって小さな滴は同じであり、印刷された電極パターンを通して連続した「穴」が作られたことを意味する。これらの結果から、酸化剤溶液中のFETOSの濃度と一致するように、0.236Mという高濃度の還元溶液でも機能すると思われる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2025-07-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にパターン化されたフィルムを作製するための方法であって、
酸化剤を含む溶液を前記基板の表面にコーティングにより塗布することにより前記基板上に酸化剤層を形成すること;
前記酸化剤層を乾燥すること;
パターンに従って前記酸化剤層上に阻害剤を適用し、前記酸化剤層の形成を部分的に阻害すること;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で前記表面をモノマー蒸気にさらすことにより、気相重合によってポリマー層を形成すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記モノマー蒸気が、アズレン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるモノマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー蒸気が、ピロール、アニリン、チオフェン、およびフェニレンからなる群より選択されるさらなるモノマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害剤が、還元剤および錯化剤からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、アスコルビン酸、シュウ酸、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ヒドラジンおよびその誘導体、クエン酸、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、およびヨウ化物イオン、ギ酸、還元糖、エチレンジアミン四酢酸、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸、トリメチレンジアミン四酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N’,N’-三酢酸、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED)、カテコール、3,5-ジスルホカテコール、サリチル酸塩、およびグリシンからなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤が、印刷またはスタンピングによって塗布される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記気相重合が、1~20分間継続される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記気相重合が、前記ポリマー層の厚さが10~100nmになるまで継続される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記気相重合中の前記表面の温度が25~75℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記気相重合中の前記重合温度が25~90℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
前記気相重合中、前記表面の温度が前記重合温度より0~30℃低いか、または前記重合温度より0~20℃高い、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化剤が、-p-トルエンスルホン酸鉄(III)、FeCl、CuCl、CuBr、およびトリフルオロメタンスルホン酸鉄(III)からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化剤を含む前記溶液が、前記表面にスピンコートされる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化剤を含む前記溶液の濃度が、60~500mMである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、前記気相重合の後に、前記フィルムを60~100℃の温度でアニールする工程を、含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
酸化剤層を形成する工程、前記酸化剤層を乾燥させる工程、阻害剤を適用する工程、および気相重合によってポリマー層を形成する工程を繰り返すことを、さらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項17】
請求項1または2に記載の方法によって得られるフィルムを含む、装置。
【請求項18】
有機電気化学トランジスタ、電気化学トランスデューサ、エレクトロクロミック装置、エレクトロルミネセンス装置、エレクトロルミネセンスディスプレイ、有機コンデンサ、スーパーコンデンサ、センサ、バイオセンサ、エネルギーハーベスティング装置、帯電防止材料、光起電装置、ストレージ装置、電極、タッチスクリーン、回路基板、アンテナ、電界効果トランジスタ、光検出器、または熱電装置である、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
基板の表面にパターン化されたフィルムを作製するためのシステムであって、
前記表面に酸化剤を含む溶液をコーティングにより適用して前記表面に酸化剤層を形成するように構成された酸化剤ユニット;
前記酸化剤層を乾燥する手段;
パターンに従って前記酸化剤層上に阻害剤を適用する手段;および
大気圧下で20~95℃の重合温度で前記表面をモノマー蒸気にさらすことによってポリマー層を形成するように構成されたチャンバー;
を含む、システム。
【国際調査報告】