(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-09
(54)【発明の名称】乾式工程用新規バインダーを含む電極物質層組成物、及びこれを含むリチウムイオンバッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20251002BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20251002BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20251002BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20251002BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20251002BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20251002BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20251002BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20251002BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20251002BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/587
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025519138
(86)(22)【出願日】2023-10-05
(85)【翻訳文提出日】2025-05-29
(86)【国際出願番号】 KR2023015302
(87)【国際公開番号】W WO2024076164
(87)【国際公開日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】10-2022-0127133
(32)【優先日】2022-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0014776
(32)【優先日】2023-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520336861
【氏名又は名称】シーエヌピー ソリューションズ カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】525121228
【氏名又は名称】キム,ジョン ウン
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン ウン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,クァン ソク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ホ
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017BB11
5H017DD05
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA23
5H050FA16
5H050GA03
5H050HA01
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、リチウムイオンバッテリー用電極関連技術であり、より具体的には、湿式ではなく、乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、各成分が自体的に凝集していることもあり、乾式混練の際に粒子間の摩擦により発生した静電気によって互いに凝集することもあるため、乾式方法による各成分の均一な混練が難しいという問題点を解決することができるうえ、電極層物質組成物シート製造の際に比較的低い圧力でも厚さ100μm未満のシートを作ることが可能な特性を有する新規バインダーを含む電極物質層組成物、前記組成物を含む電極、前記電極の製造方法、及び前記電極を含むリチウムイオンバッテリーに関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極又は負極用活物質、アクリレート系化合物、及び前記アクリレート系化合物用硬化剤を含む、乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項2】
前記アクリレート系化合物はメタクリレート系化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項3】
前記アクリレート系化合物は、2個~16個の官能基を含み、主鎖が炭素数2個~1,000個からなるモノマー又はオリゴマーであることを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項4】
前記官能基は、2個~16個であり、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基、又はこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる1つ以上であることを特徴とする、請求項3に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項5】
前記アクリレート系化合物は、前記正極又は負極用活物質100重量部当たり0.1~20重量部で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項6】
前記硬化剤は、熱硬化剤及び光硬化剤のうちの1つ以上であり、前記アクリレート系化合物100重量部当たり0.1~20重量部で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項7】
前記熱硬化剤は、過酸化物又はアゾ化合物を含み、前記光硬化剤は、フェニルケトン系化合物又はホスフィンオキシド系化合物を含むことを特徴とする、請求項6に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項8】
前記アクリレート系化合物とは異なる種類のバインダーを1つ以上さらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項9】
前記アクリレート系化合物と前記バインダーは、99:1~1:99の重量比を有することを特徴とする、請求項8に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項10】
伝導性カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブよりなる1つ以上のナノ炭素系伝導度増進剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項11】
前記正極又は負極用活物質は、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、鉄、リン、錫、チタン、カーボン材料、シリコン、酸化シリコン、硫黄及びこれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の乾式工程用電極物質層組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の乾式工程用電極物質層組成物からなる正極物質層又は負極物質層のうちの1つ以上を含む、リチウムイオンバッテリー用電極。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の乾式工程用電極物質層組成物を準備する組成物準備ステップと、
前記乾式工程用電極物質層組成物で正極物質層シート又は負極物質層シートを形成するシート形成ステップと、
金属極板に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを付着させる付着ステップと、
前記付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させる硬化ステップと、
前記硬化ステップが行われて得られた電極物質層を圧延するステップと、を含む、リチウムイオンバッテリー用電極の製造方法。
【請求項14】
前記付着ステップは、前記金属極板にプライマー層を形成するステップと、前記プライマー層に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを配置した後に圧着するステップと、を含んで行われることを特徴とする、請求項13に記載のリチウムイオンバッテリー用電極の製造方法。
【請求項15】
前記硬化ステップは、5分~30分間50℃~180℃で処理する熱硬化及びUV照射による光硬化のうちの1つ以上を介して行われることを特徴とする、請求項13に記載のリチウムイオンバッテリー用電極の製造方法。
【請求項16】
請求項12に記載のリチウムイオンバッテリー用電極を含むリチウムイオンバッテリー。
【請求項17】
請求項13に記載の製造方法で製造されたリチウムイオンバッテリー用電極を含むリチウムイオンバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリー用電極関連技術であり、より具体的には、湿式ではなく、乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、混練時の固体粒子の摩擦による静電気現象のため粒子凝集が発生して均一な混練を妨げるという問題点を解決することができるうえ、電極層物質組成物シート製造の際に比較的低い圧力でも厚さ100μm未満のシートを作ることが可能な、乾式工程用新規バインダーを含む電極物質層組成物、前記組成物を含む電極、前記電極の製造方法、及び前記電極を含むリチウムイオンバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーは、リチウムを含んでいる化合物粒子を正極活物質として、そして黒鉛に代表される負極活物質をバインダーと共に混合してアルミニウム又は銅などの金属箔(極板)上に活物質層を形成し、ここに電解質を含浸した後、中間に分離膜と呼ばれるいわゆるセパレータ(separator)を介在してラミネートすることで作る。このとき、リチウムイオンは、正極活物質層と負極活物質層内に入ってから出てくる過程(lithiation、de-lithiation)を繰り返しながら作動する。
【0003】
電極板を作る従来技術は、滑物質、バインダー、その他の添加剤などを溶媒に分散させていわゆるスラリー(slurry)を作り、これを金属極板上に一定の厚さに塗布、乾燥させて活物質電極板を作るいわゆる湿式方法である。これは、長い間使用されてきた方法であって、各成分を均一に混合することができ、これによりバッテリーの性能を最大化することができるという利点がある。しかし、乾燥工程で溶媒を完全に除去しなければならず、かつ大気汚染の危険がある溶媒はすべて回収しなければならないという不便さがあり、経済的又は環境的に非常に不便さがある方法である。
【0004】
かかる問題点を改善するために開示された最近の技術が乾式工程である。乾式工程とは、活物質、その他の添加剤をバインダーと共に溶媒なしにそのまま乾式で混合した後、これに圧力を加えて活物質組成物シートを作り、これを金属極板上に付着させて電極板を製造する技法である。この乾式方法は、溶媒を除去し捕集しなければならない複雑な工程を排除することができるため、溶媒回収装置が必要ないなど、従来の湿式方法よりも一層環境にやさしい方法である。
【0005】
ただし、乾式工程法で電極板を製造するには、活物質、バインダー及び添加剤(代表的に、伝導性カーボンブラック又はカーボンナノチューブ)を乾式で分散しなければならない。このとき、活物質と伝導度増進剤は既に定められている物質であるので、乾式工程法では適切なバインダーの選択が非常に重要であるといえる。乾式工程に使用される既存のバインダーはいずれも固体粒子であるが、各粒子の大きさと密度が異なり、特に各成分を混練するときに固体粒子の摩擦により表面に電荷が発生し、これから発生する静電気現象のために粒子凝集が発生して均一な混練を妨げて均一な混練が難しくなるという問題点が発生する。
【0006】
したがって、溶媒を使用しない乾式工程でも、活物質や伝導度増進剤などの各成分をより均一に混練することができる新しいバインディング技術、すなわち乾式工程に用いられるのに適した特性を有する新しいバインダー物質、及びこれを含む電極物質層組成物の開発が切実に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、常温で液状として存在し且つ後硬化が可能なアクリレート系化合物の新たな用途を提供することであり、すなわち、溶媒を使用しない乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、混練時に前記固体粒子の摩擦による静電気現象のため粒子凝集が発生して均一な混練を妨げるので、これを解決することができるように新規バインダーとしてアクリル系化合物を含む電極物質層組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、乾式工程用新規バインダーであるアクリレート系化合物により均一に混練された電極物質層組成物を使用するので、低い圧力でさらに薄い正極物質層又は負極物質層を製造することができ、製造された正極物質層又は負極物質層シートを電極板に付着させた後、シートに含まれたアクリレート系化合物の後硬化によって電極板にシートをより強固に付着させることができる電極の製造方法及びその方法で製造された電極を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、乾式工程で製造された電極を含むことで、溶媒を除去し捕集しなければならない複雑な工程を排除することができるため、環境調和性及び経済性に優れるだけでなく、さらに薄い正極物質層又は負極物質層により小型化が可能なリチウムイオンバッテリーを提供することにある。
【0010】
本発明の目的は、上述した目的に限定されず、上述していない別の目的は、以降の記載から当業者に明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、まず、本発明は、正極又は負極用活物質、アクリレート系化合物、及び前記アクリレート系化合物用硬化剤を含む、乾式工程用電極物質層組成物を提供する。
【0012】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物は、メタクリレート系化合物を含む。
【0013】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物は、2個~16個の官能基を含み、主鎖が炭素数2個~1,000個からなるモノマー又はオリゴマーである。
【0014】
好適な実施形態において、前記官能基は、2個~16個であり、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基、又はこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つ以上である。
【0015】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物は、前記正極又は負極用活物質100重量部当たり0.1~20重量部で含まれる。
【0016】
好適な実施形態において、前記硬化剤は、熱硬化剤及び光硬化剤のうちの1つ以上であり、前記アクリレート系化合物100重量部当たり0.1~20重量部で含まれる。
【0017】
好適な実施形態において、前記熱硬化剤は、過酸化物又はアゾ化合物を含み、前記光硬化剤は、フェニルケトン系化合物又はホスフィンオキシド系化合物を含む。
【0018】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物とは異なる種類のバインダーを少なくとも1つさらに含む。
【0019】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物と前記バインダーは、99:1~1:99の重量比を有する。
【0020】
好適な実施形態において、伝導性カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブよりなる1つ以上のナノ炭素系伝導度増進剤をさらに含む。
【0021】
好適な実施形態において、前記正極又は負極用活物質は、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、鉄、リン、錫、チタン、カーボン材料、シリコン、酸化シリコン、硫黄及びこれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上を含む。
【0022】
また、本発明は、上述したいずれかの乾式工程用電極物質層組成物からなる正極物質層又は負極物質層を含むリチウムイオンバッテリー用電極を提供する。
【0023】
また、本発明は、上述したいずれかの乾式工程用電極物質層組成物を準備する組成物準備ステップと、前記乾式工程用電極物質層組成物で正極物質層シート又は負極物質層シートを形成するシート形成ステップと、金属極板に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを付着させる付着ステップと、前記付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させる硬化ステップと、前記硬化ステップが行われて得られた電極物質層を圧延するステップと、を含む、リチウムイオンバッテリー用電極の製造方法を提供する。
【0024】
好適な実施形態において、前記付着ステップは、前記金属極板にプライマー層を形成するステップと、前記プライマー層に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを配置した後に圧着するステップと、を含んで行われる。
【0025】
好適な実施形態において、前記硬化ステップは、5分~30分間50℃~180℃で処理する熱硬化及びUV照射による光硬化のうちの1つ以上を介して行われる。
【0026】
また、本発明は、上述したリチウムイオンバッテリー用電極を含むリチウムイオンバッテリーを提供する。
【0027】
また、本発明は、上述した製造方法で製造されたリチウムイオンバッテリー用電極を含むリチウムイオンバッテリーを提供する。
【発明の効果】
【0028】
上述した本発明の電極物質層組成物によれば、バインダーとして常温で液状であるアクリレート系化合物を含むため、溶媒を使用しない乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、混練時の前記固体粒子の摩擦による静電気現象のために粒子凝集が発生して均一な混練を妨害するという問題点なしに活物質をより均一に混練することができる。
【0029】
また、本発明のリチウムイオンバッテリー用電極及び前記電極の製造方法によれば、アクリレート系化合物により均一に混練された電極物質層組成物を使用するので、低い圧力でより薄い正極物質層又は負極物質層を製造することができ、製造された正極物質層又は負極物質層シートを電極板に付着させた後、シートに含まれたアクリレート系化合物の後硬化を介してアクリレートを固体化してバインダーとしての役割を果たすようにし、付随的に電極板にシートをよく付着させることができ、圧延工程を行うことにより電極密度を高めるという効果がある。
【0030】
また、本発明のリチウムイオンバッテリーによれば、乾式工程で製造された電極を含むことで溶媒を除去し捕集しなければならない複雑な工程を排除することができるので、環境調和性及び経済性に優れるだけでなく、さらに薄い正極物質層又は負極物質層により小型化が可能である。
【0031】
本発明の効果は、上述した効果に限定されず、上述していない他の効果は、以降の記載から当業者には明確に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の比較例1によって既存の乾式工程用バインダーであるPTFE(Polytetrafluoroethylene)粒子を含む比較例電極物質層組成物1を用いて製造された電極に対する充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施例による乾式工程用電極物質層組成物1からなる電極と、比較例2による比較例電極物質層組成物2からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図3】本発明の他の実施例による乾式工程用電極物質層組成物2からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図4】本発明の別の実施例による乾式工程用電極物質層組成物3からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図5】本発明の別の実施例による乾式工程用電極物質層組成物4からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図6】本発明の別の実施例による乾式工程用電極物質層組成物5からなる電極の充放電回数(Cycle)による比容量(Specific cappacty)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明で使用される用語は、本発明における機能を考慮しながら出来るだけ現在広く使用されている一般用語を選択したが、これは、当分野に従事している技術者の意図又は判例、新しい技術の出現などによって変わり得る。また、特定の場合は、出願人が任意に選定した用語もあり、この場合、該当する発明の説明部分で詳細にその意味を記載する。
【0034】
本発明で言及した「含む」、「有する」、「からなる」などが使用される場合、「~のみ」が使用されない限り、他の部分が追加できる。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
【0035】
構成要素を解釈するにあたり、別途の明示的な記載がなくても誤差範囲を含むものと解釈する。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態それぞれの特徴的な部分は、部分的に又は全体的に互いに結合又は組み合わせ可能であり、技術的に様々な連動及び駆動が可能であり、各実施形態は、互いに対して独立して実施してもよく、連関関係で一緒に実施してもよい。
【0037】
以下、添付図面及び好適な実施例を参照して本発明の技術的構成を詳細に説明する。
【0038】
しかし、本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。明細書全体にわたり、本発明を説明するために使用される同じ参照番号は、同じ構成要素を表す。
【0039】
本発明の技術的特徴は、常温で液状として存在し且つ後硬化が可能なアクリレート系化合物の新たな用途を提供することであり、溶媒を使用しない乾式工程で電極を製造するときに、固体粒子ではなく、常温で液状であるバインダーを用いて活物質を均一に混練することができるように、新規バインダーとしてアクリレート系化合物を含む電極物質層組成物、及び前記組成物からなる正極物質層又は負極物質層を含むリチウムイオンバッテリー用電極だけでなく、乾式工程用新規バインダーであるアクリレート系化合物により均一に混練された電極物質層組成物を使用するので、低い圧力でより薄い正極物質層又は負極物質層を製造することができ、製造された正極物質層又は負極物質層シートを電極板に付着させた後、シートに含まれたアクリレート系化合物の後硬化を介してアクリレートを固体化してバインダーとしての役割を果たすようにし、付随的に電極板にシートをよく付着させることができ、圧延工程を行うことにより電極密度を高める電極の製造方法、及び前記電極を含むリチウムイオンバッテリーにある。
【0040】
すなわち、従来公知になっているように、リチウムイオンバッテリーをなす重要な構成の一つである電極は、正極活物質又は負極活物質、添加剤等をバインダーと共に混練して電極物質層組成物を製造した後、これを所望の厚さの電極物質層組成物シートを作り、これを再び金属電極板上に付着させて製造する。しかし、電極物質層組成物の製造時に、湿式工程ではこれらの成分を溶媒に入れて混練するので、各成分の均一な混練が可能であるが、乾式工程では溶媒なしに固体状態のバインダーのみを使用しなければならないので、均一な混練状態を得ることが非常に難しいが、本発明は、より均一な混練状態を有する電極物質層組成物を得るために、従来の如く固体状態のバインダーを使用せず、常温では液状として存在するものの、別途の処理工程を介して固体状に作ることができる化合物であるアクリレート系化合物を用いることにより、より均一な混練が可能な乾式工程用新規バインダーを含む新たな組成の乾式工程用電極物質層組成物を開発したからである。
【0041】
その結果、本発明の技術が、常温で液状として存在し且つ後硬化が可能なアクリレート系化合物の新たな用途、すなわち活物質と添加剤を混練するときにより均一な混練状態を得、電極物質層の形成に役立つ新規バインダーを提供することなので、以下、本発明の説明は、主に正極を用いて説明するが、活物質の種類を問わず、すなわち正電極用又は負電極用活物質に共通に適用できる技術であることが自明である。
【0042】
したがって、本発明は、正極又は負極用活物質、アクリレート系化合物、及び前記アクリレート系化合物用硬化剤を含む乾式加工用電極物質層組成物を提供する。
【0043】
ここで、アクリレート系化合物は、常温で液状として存在するが、別途処理過程、すなわち硬化過程を経て固体化される特性を有することさえすれば制限されないが、常温で液状として存在するアクリレート系化合物に適切な形態の硬化剤を付加し、適当な条件で硬化させると固体状であり、三次元網目構造を有する高分子に変換されてアクリレート化合物が電解質に溶出しないためバッテリーの性能に悪い影響を及ぼさないという特徴があるからである。しかも、適当な官能基を有するアクリレート系化合物の場合、硬化した後には、三次元網目構造を有する高分子形態をなし、金属電極板との付着性も増加させることができて有利である。一方、実施例では、主にアクリレート系化合物(Acrylates)を用いて説明したが、類似した特性を有するメタクリレート(Methacrylates)系化合物も含むことは自明である。したがって、本発明で使用されるアクリレート系化合物は、アクリレート系化合物及びメタクリレート系化合物だけでなく、他の置換基を有する同一系化合物を含むと理解されるべきである。
【0044】
アクリレート系化合物は、少なくとも2つの官能基を含むアクリレート系化合物であれば限定されないが、含まれる官能基は、熱又は光によって反応することさえできれば限定されないが、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基、又はこれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上であり、特に2個~16個の官能基を含むアクリレート系化合物であり得る。官能基が2個以下であれば、一官能アクリレートとして硬化点が少なくて硬化反応が難しいため不利であり、16個以上であれば、官能基が多すぎて短時間で硬い物性を有する高分子に変換されるおそれがあり、むしろ不利であるからである。
【0045】
また、本発明で使用されるアクリレート系化合物は、特に断りのない限り、モノマー及びオリゴマー形態など、あらゆる形態のアクリレート化合物を意味するが、一実施形態として、主鎖が炭素数2個~1,000個からなるモノマー又はオリゴマー形態であり得る。主鎖の炭素数が2個未満であれば、後硬化時に脆性が非常に強い高分子となってバインダー物質として適さないため不利であり、主鎖の炭素数が1,000個以上であれば、立体障害(Steric hindrance)が起こり、むしろバインダーとしての役割を妨げるおそれがあるからである。本発明は、常温で液状として存在し且つ別途の処理によって後硬化するアクリレート系化合物をバインダーとして使用することが主な技術的特徴であるので、上述した官能基は一例に過ぎず、これらに限定されるものでないことは明らかである。
【0046】
本発明で使用されるアクリレート系化合物は、トリエチレングリコールアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビスフェノールAエチレンオキシドジメタクリレートなどの各種脂肪族及び芳香族アクリレート系モノマー、及びこれらのアクリレートをなす主鎖のモノマーが2つ以上の単位で形成された複合体であるオリゴマー、例えば、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基などよりなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0047】
アクリレート系化合物は、正極又は負極用活物質100重量部当たり0.1~20重量部で含まれ得る。アクリレート系化合物の含有量が0.1重量部未満であれば、アクリレート系化合物の含有量が低すぎてバインダーの役割が微々たるものであって混練に不利であり、アクリレート系化合物の含有量が20重量部以上であれば、相対的に活物質の含有量が低くなって全体体積に比べて電気容量が低くなり、リチウムイオンバッテリーの性能が低下するという問題があり得る。
【0048】
アクリレート系硬化剤は、常温で液状として存在するアクリレート系化合物を混練した後、別途の処理によって硬化させて三次元網目構造(3-dimensional network)を有する高分子に変換させるための構成要素であって、熱硬化剤及び光硬化剤が1つ以上使用できる。すなわち、光硬化がうまく行われない場合、特に電極層の厚さが厚い場合には、光硬化剤(光開始剤)と熱硬化剤とを並行して使用すると、さらに効果的であるからである。これらの硬化剤は、熱又は光によってラジカルを発生する物質でさえあれば、種類を問わずにいずれでも使用可能である。
【0049】
より具体的には、熱硬化剤(Thermal initiator)は、過酸化物又はアゾ化合物を含む硬化剤であって、50℃~180℃で分解されて反応開始剤を発生さえすれば特別な種類に限定されないが、一実施形態として、過酸化物を含む硬化剤(peroxide initiator)としては、酸素ラジカルを発生する過酸化ベゾイル(Benzoylperoxide、BP)などがあり得る。アゾ化合物を含む硬化剤としては、2,2-アゾビスイソブチロニトリル(2,2-azobisisobutyronitirle、AIBN)などが使用できる。このとき、硬化剤分解温度が50℃未満であれば、分解温度が低すぎて反応開始剤があまり容易に発生して不利であり、分解温度が180℃以上であれば、硬化反応のための温度が高すぎてコストの面で不利である。好ましくは、50℃~150℃の温度で分解される硬化剤を使用することが好ましい。
【0050】
光硬化剤(Photoinitiator)は、UVなどの光を照射すると、ラジカルを発生するフェニルケトン系化合物又はホスフィンオキシド系化合物を含む硬化剤が使用できる。一実施形態として、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ヒドロキシジメチルアセトフェノン、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド又はメチルベンゾイルホルメートなどに代表される固体状及び液状の光開始剤などが使用できる。
【0051】
硬化剤は、アクリレート系化合物100重量部当たり0.1~20重量部で含まれ得るが、硬化剤の含有量が0.1重量部未満であれば、アクリレート系化合物が硬化せずに硬化反応後にも液状として残る可能性が高くて不利であり、20重量部超過であれば、過硬化が行われてあまり硬くなるか硬化反応に全て参加していない硬化剤から発生したラジカルが副反応を起こすことにより、さらに含まれるバインダーを劣化させるおそれがあるためである。
【0052】
必要な場合、アクリレート系化合物に加えて、他の種類のバインダーをさらに1つ以上含むことができる。ここで、アクリレート系化合物と前記バインダーは、99:1~1:99の重量比を有することができる。好ましくは、アクリレート系化合物と前記バインダーの重量比が80:20~20:80であり得る。前記重量比の上限及び下限値を超えると、これは、実質的に混合物ではなく、ほぼ単独のバインダーと同様なので、混合バインダーとしての役割が微々たるものであって不利である。
【0053】
ここで、他の種類のバインダーは、乾式工程用として使用できるさえすれば、公知の全てのバインダーを使用することができ、2つ以上のバインダーを混合して使用することができる。一実施形態として、バインダーは、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)、ポリオレフィン(polyolefin)、ポリアルキレン(polyalkylenes)、ポリエーテル(polyethers)、スチレン-ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber、SBR)、ポリシロキサンとポリシロキサンの共重合体、分岐状ポリエーテル(branched polyether)、ポリビニルエーテル(polyvinylether)、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリビニルカーボネート(polyvinylcarbonate)、これらの共重合体、及び/又はこれらの混合物を含むことができる。1つ以上のバインダーは、グア(guar)、アルギン酸、ポリ[(イソブチレン-alt-マレイン酸、アンモニウム塩)-co-イソブチレン-alt-マレイン酸無水物)](poly[(isobutylene-alt-maleic acid、ammonium salt)-co-isobutylene-alt-maleicanhydride)]、ポリ(エチレン-alt-マレイン無水物(poly(ethylene-alt-maleic anhydride))、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸無水物)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、及びポリビニルエーテルをさらに含むことができる。 バインダーは、セルロースを含むことができる。一部の態様において、ポリオレフィンは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、その共重合体、及び/又はそれらの混合物を含むことができる。例えば、バインダーは、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエチレン-ブロック-ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジメチルシロキサン-co-アルキルメチルシロキサン(polydimethylsiloxane-co-alkylmethyl siloxane)、それらの共重合体、及び/又はそれらの混合物を含むことができる。特定の態様において、フィブリル化可能なバインダーは、PTFEである。バインダーは、セルロース又はセルロースの誘導体を含むことができる。セルロースの誘導体は、例えばセルロースエステル、例えばセルロースアセテート(cellulose acetate)、セルロースエーテル、例えばメチルセルロース(methylcellulose)、エチルセルロース(ethylcellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxylpropylcellulose、HPC)、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(hydroxylpropylmethylcellulose)、又はヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethylcellulose、HEC)、セルロースニトレート(cellulose nitrate)、セルロースキトサン(cellulose chitosan)、例えばカルボキシメチルセルロースキトサン(carboxymethylcellulose chitosan);又はカルボキシアルキルセルロース(carboxyalkyl cellulose)、例えばカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)、カルボキシエチルセルロース(carboxyethylcellulose)、カルボキシプロピルセルロース(carboxy propylcellulose)、又はカルボキシイソプロピルセルロース(carboxyisopropyl cellulose)を含むことができる。追加の態様において、セルロース又はセルロース誘導体は、セルロース塩を含むことができる。別の態様において、セルロース塩カチオンは、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム又はリチウムから選択できる。例えば、セルロース又はセルロース誘導体は、ナトリウムセルロースエステル、ナトリウムセルロースエーテル、ナトリウムセルロースニトレート、又はナトリウムカルボキシアルキルセルロースから選択されるナトリウムセルロース又はナトリウムセルロース誘導体を含むことができる。CMCは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを含むことができる。一部の態様において、1つ以上のバインダーはCMC、PVDF、及び/又はPTFEを含む。
【0054】
場合によっては、本発明の電極物質層組成物がナノ炭素系伝導度増進剤を含むことができる。ナノ炭素系伝導度増進剤は、ナノサイズの炭素物質でさえあれば限定されないが、一実施形態として、伝導性カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ(単層、二層、多層など)よりなる群から選択される1つ以上であり得る。例えば、カーボンナノチューブの場合、アスペクト比が非常に大きくて有利である。カーボンナノチューブの場合、単層、二層、多層のいずれか1種又はそれ以上を混合して使用することができるが、ナノ炭素系伝導度増進剤の含有量は、アクリレート系化合物、又はアクリレート系化合物及び他の種類のバインダー100重量部当たり0.05~300重量部の範囲であり得る。ナノ炭素系伝導度増進剤の含有量が0.05重量部未満であれば、含有量が少なすぎて伝導度増進効果が微々たるものであって不利であり、300重量部以上であれば、含有量が高すぎて全体活物質スラリーの粘度が高くなりすぎるか、或いは活物質からなる電極層の緻密度を低下させるおそれがあってむしろ不利である。
【0055】
カーボンナノチューブなどのナノ炭素系伝導度増進剤を混練する方法は、カーボンナノチューブ又は伝導性カーボンブラックなどの伝導度増進剤を活物質などと共に一次に先に混練した後、ここに液状のアクリレート系化合物を加えて最終的に混練する方法を用いることができる。あるいは、カーボンナノチューブ又は伝導性カーボンブラックなどの伝導度増進剤をアクリレート系化合物と先に混練した後、これを再び活物質と混練して最終混練物を製造することもできる。
【0056】
正極又は負極用活物質は、リチウムイオンバッテリーの正極又は負極に使用するのに適した材料であって、本技術分野で知られている任意の活物質であり得る。一実施形態として、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、鉄、リン、錫、チタン、カーボン材料、シリコン、酸化シリコン、硫黄、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0057】
カーボン材料は、例えば、グラファイト材料(graphitic material)、グラファイト、グラフェン-含有材料(graphene-containing material)、ハードカーボン(hard carbon)、ソフトカーボン(soft carbon)、カーボンナノチューブ(carbon nanotube)、多孔質カーボン(porous carbon)、伝導性カーボン(conductive carbon)、又はこれらの組み合わせから選択できる。グラファイトは、合成又は天然に由来することができる。活性カーボンは、スチーム工程又は酸/エッチング工程に由来することができる。一部の態様において、グラファイト材料は、表面処理された材料であり得る。一部の態様において、多孔質カーボンは活性カーボンを含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンは、階層的に構造化されたカーボン(hierarchically structured carbon)を含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンは、構造化されたカーボンナノチューブ、構造化されたカーボンナノワイヤ、及び/又は構造化されたカーボンナノシートを含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンはグラフェンシートを含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンは表面処理カーボンであり得る。
【0058】
次に、本発明のリチウムイオンバッテリー用電極は、上述したいずれか一つの乾式加工用電極物質層組成物からなる正極物質層又は負極物質層を含む。正極物質層又は負極物質層は、100μm未満の厚さを有するが、前記乾式加工用電極物質層組成物がアクリレート系化合物を含むことにより、さらに薄くて優れた特性を有する電極フィルムを製造することができるからである。
【0059】
次に、本発明のリチウムイオンバッテリー用電極の製造方法は、上述したいずれかの乾式加工用電極物質層組成物を準備する組成物準備ステップと、前記乾式工程用電極物質層組成物で正極物質層シート又は負極物質層シートを形成するシート形成ステップと、金属極板に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを付着させる付着ステップと、前記付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させる硬化ステップと、前記硬化ステップが行われて得られた電極物質層を圧延するステップと、を含むことができる。ここで、これらの各ステップをバッチ型に加工するか、或いは連続工程を介して最終電極板を製造することもできる。連続工程を導入することが最も効率的な製造工程であり得る。
【0060】
組成物準備ステップは、全ての構成成分、すなわち負極又は正極用活物質、液状のアクリレート系化合物及びアクリレート系化合物用硬化剤を入れて乾式でせん断力を加えながら混練することさえできれば、公知の全ての混練方法が使用できる。ここで、様々な混練方法が使用できるが、混練装置としては、適当な形態のブレードを備えたヘンセルミキサーなどの攪拌機形態の混練機(低速及び高速攪拌機)又は押出機形態の連続工程が可能な混練装置がある。代表的には、混練機能が付加された一軸スクリュー押出機(single screw extruder)、二軸スクリュー押出機(twin screw extruder)、又は連続ニーダー(continuous kneader)などの混練装置が効果的である。
【0061】
このような連続混練装置の端部に適当な厚さのシート状に作ることが可能なダイを用いて一定厚さの活物質組成物シートを作り、これを複数回ローリングして所望の厚さにするシート形成ステップを行うことができる。後述する実施例及び比較例では、一定の間隔を有するように考案された2つのロールの間を通過させるカレンダリング法を使用した。
【0062】
付着ステップは、金属極板にプライマー層を形成するステップと、前記プライマー層に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを配置した後、圧着するステップと、を含んで行われることができる。連続工程では、別途供給装置を介して供給される金属電極板上に上述の付着ステップを行うことができる。
【0063】
硬化ステップは、付着ステップで金属極板に付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させてアクリレート化合物を固体化することにより、バインダーとしての役割を果たすようにし、且つ金属極板に対するシートの付着性を強化させるための工程であって、5分~30分間50℃~150℃で処理する熱硬化及び/又はUV照射による光硬化のうちのいずれかによって行われることができる。
【0064】
圧延ステップは、硬化ステップが行われて得られた電極物質層を最終的に適切な力で押して電極密度を高めるために行われることができる。
【実施例1】
【0065】
正極用活物質であるNCM811(95.0重量%)、アクリレート系化合物(エチレングリコール系2官能モノマーと6官能エチレングリコール系オリゴマーを1:1の重量比で混合する)2.5重量%、熱硬化剤であるアゾ系硬化剤(AIBN)0.05重量%、及び光硬化剤であるホスフォンオキシド系硬化剤(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)0.05重量%、及び伝導性カーボンブラック2.4重量%を混練機としてのニーダー(Kneader)に入れ、常温で20rpmにて10分間混練して乾式加工用電極物質層組成物1を製造した。
【実施例2】
【0066】
光硬化剤を使用せず、熱硬化剤であるアゾ系硬化剤(AIBN)0.1重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして、乾式加工用電極物質層組成物2を製造した。
【実施例3】
【0067】
アクリレート系化合物ではなく、アクリレート系化合物とPTFEを1:1の重量比で混合して使用した以外は、実施例1と同様にして、乾式加工用電極物質層組成物3を製造した。
【実施例4】
【0068】
アクリレート系化合物ではなく、アクリレート系化合物とエチレングリコール系共重合物(エチレングリコール-無水マレイン酸-アクリロニトリルの3成分系共重合物、CNP solutions、韓国)を1:1の重量比で混合して使用した以外は、実施例1と同様にして、乾式加工用電極物質層組成物4を製造した。
【実施例5】
【0069】
負極用活物質である黒鉛と酸化シリコン(SiOx)の混合活物質(黒鉛:SiOx=90:10(重量比)、理論容量:470mAh/g)95.0重量%、6官能ウレタン系オリゴマー3.5重量%、熱硬化剤であるアゾ系硬化剤(AIBN)0.05重量%、及び光硬化剤であるホスフィンオキシド系硬化剤(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)0.05重量%、カーボンブラック1.4重量%、及び単層カーボンナノチューブ0.5重量%を混練機としてのニーダー(Kneader)に入れ、常温で20rpmにて10分間混練して乾燥加工用電極物質層組成物5を製造した。
【実施例6】
【0070】
1.組成物準備ステップ
【0071】
実施例1と同様の方法で電極物質層組成物1を準備した。
【0072】
2.正極物質層シート形成ステップ
【0073】
電極物質層組成物1に7kgf/cm2の圧力を加えながら数回ローリング(rolling)して厚さ70μmの正極物質層シートを形成した。
【0074】
3.付着ステップ
【0075】
(I)プライマー層形成ステップ
【0076】
正極物質層シートをアルミニウム極板上に付着させるために、極板の表面に次のようにプライマー層を形成した。正極板用プライマーは、カーボンナノチューブをエチレングリコール-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合物(CNP solutions、韓国)と共にNMPに入れ、常温で10分間攪拌した後、これを再び加圧噴射法で分散してプライマー溶液を製造した。バインダー内のカーボンナノチューブの含有量は、共重合物の全重量に対して20重量%であり、分散液中の固形分の含有量は4重量%であった。プライマー層は、バーコーターを用いて厚さ1.0μm程度に形成した(乾燥:130℃、2分)。プライマー層に対するテープテストの結果、プライマー層が極板から剥離せず、よく付着していることを確認した。また、プライマー層が形成された極板の表面抵抗は、2×10-3Ω/面積であって、極板であるアルミニウムの表面抵抗と類似であった。
【0077】
(II)圧着ステップ
【0078】
プライマー層が形成されたアルミニウム極板に正極物質層シートをのせて圧着することで臨時正電極を形成した。
【0079】
4.硬化ステップ
【0080】
臨時正電極を120℃の温度で10分間処理した後、UV照射(700mJ/cm2)することにより、アクリレート系化合物であるエチレングリコール系2官能モノマーと6官能エチレングリコール系オリゴマーが硬化して、バインダーとして使用したアクリレート化合物が電解液に溶出しないバインダーとして役割を果たすようにした。
【0081】
5.圧延ステップ
【0082】
硬化ステップを経た電極物質層は、電極密度が1.0g/cm3となるように圧延過程を経て、厚さ70μmの正極物質層シートが含まれたリチウムイオンバッテリー用正電極を最終的に製造した。
【実施例7】
【0083】
組成物準備ステップで電極物質層組成物2を準備し、硬化ステップでUV照射なしに熱硬化のみを(120℃、10分)行った以外は、実施例6と同様にして、厚さ70μmの正極物質層シートが含まれたリチウムイオンバッテリー用正電極2を製造した。
【実施例8】
【0084】
組成物準備ステップで電極物質層組成物3を準備し、ローリング圧力を7kgf/cm2として電極物質層を形成した以外は、実施例6と同様にして、厚さ75μmの正極物質層シートを含むリチウムイオンバッテリー用正電極3を製造した。
【実施例9】
【0085】
組成物準備ステップで電極物質層組成物5を準備し、シート形成ステップでローリング圧力を7kgf/cm2として負極物質層シートを形成し、付着ステップで金属電極板として銅箔を用いた以外は、実施例6と同様にして、厚さ65μmの負極物質層シートを含むリチウムイオンバッテリー用負電極を製造した。
【0086】
<比較例1>
正電極用活物質であるNCM811(95.0重量%)、PTFE3.5重量%及び伝導性カーボンブラック1.5重量%を混合し、300rpmの速度で10分間撹拌して比較例電極物質層組成物1を製造した。
【0087】
<比較例2>
組成物準備ステップでアゾ系硬化剤(AIBN)0.001重量%及びホスフィンオキシド系硬化剤(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)0.001重量%、伝導性カーボンブラック2.498重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例電極物質層組成物2を製造した。
【0088】
<比較例3>
組成物準備ステップで比較例電極物質層組成物1を準備し、シート形成ステップでローリング圧力を20kgf/cm2として正極物質層シートを形成し、硬化ステップが行われなかった以外は、実施例6と同様にして、比較例正電極1を製造した。比較例正電極1の製造時に形成された正極物質層シートの厚さは110μmである。
【0089】
<比較例4>
組成物準備ステップで比較例電極物質層組成物2を準備した以外は、実施例6と同様にして、厚さ80μmの正極物質層シートを含む比較例正電極2を製造した。
【0090】
<実験例1>
リチウムイオンバッテリー用正電極1~5と比較例正電極1及び2を対象にして、電極物質層が金属極板上によく付着したことを確認するために、スコッチテープを用いた接着力試験を行った。このために、3M Scotch Tapeを電極物質層の表面に付着させた後、これを剥がす過程中に電極物質層が極板から剥離するか否かで付着程度を判定した。
【0091】
スコッチテープを用いた接着力試験の結果、リチウムイオンバッテリー用正電極1~5と比較例正電極1はいずれも電極物質層が極板上によく付着していることを確認した。ただし、比較例正電極2の場合、正電極板に付着した活物質層が堅固でなく、特に表面のべたつきが残っていた。
【0092】
言い換えれば、リチウムイオンバッテリー用正電極1は、電極物質層が電極板によく付着しており、柔軟であり、表面はべたつきがなかった。特に正極物質層シート加工性に非常に優れた。アクリレート系化合物が常温では液状であるため、ほとんど無機質粒子からなる活物質組成物の混練やローリングなどの加工が遥かに容易であると推定される。
【0093】
リチウムイオンバッテリー用正電極2も、電極物質層の表面のべたつきがなく、電極板によく付着しており、電極物質層が比較的柔軟であったが、電極物質層の堅固さは、実施例1(熱硬化剤及び光硬化剤の両方を使用した場合)よりもやや堅くないことが観察された。
【0094】
リチウムイオンバッテリー用正電極3は、電極物質層が電極板にしっかりと付着しており、電極板を曲げたときに柔軟であり、表面のべたつきもなかった。
【0095】
リチウムイオンバッテリー用正電極4の場合、活物質組成物シートは、70μmの厚さにシートを作ることが容易であり、電極板との接着力にも優れるうえ、堅い電極物質層を得た。
【0096】
リチウムイオンバッテリー用負電極も、柔軟な曲げ特性を示しており、電極物質層に対する接着力試験の結果、電極物質層が電極板によく付着していることを確認した。
【0097】
<実験例2>
リチウムイオンバッテリー用正電極1~5と比較例正電極1及び2を対象に電極物質層を形成する過程で加えられる圧力と形成された最終厚さを測定し、比較する実験を行った。
【0098】
実験結果、電極物質層用組成物に固体状バインダー(PTFE)のみ使用された場合(比較例1)、シート形成ステップで正極物質層シートを形成するために高い圧力でローリングをしなければならず、より高い圧力でローリングを行っても厚さ100μm以下の正極物質層シートを作ることが容易ではないことが確認された。これに対し、実施例1~実施例5及び比較例2のように電極物質層組成物にアクリレート系化合物が含まれると、シート形成ステップで正極物質層シートを作るためのローリング圧力も格段に低く、厚さ100μm以下(代表的に60~80μmの厚さ)の正極物質層シートを容易に作ることができることを確認した。
【0099】
<実験例3>
リチウムイオンバッテリー用正電極1~5と比較例正電極1及び2を対象に、次のように充放電サイクル試験を行い、その結果をそれぞれ
図1~
図6に示した。
【0100】
正電極に対するセル性能試験は、次の通りである。セル性能試験は、ハーフセル構造のコインセル(CR2032)を作り、これに対する充放電サイクル試験を1.0C率で行った。このとき、対電極(counter electrode)としてはリチウムメタル箔を使用し、電解質はエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート(VC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)等のカーボネート類混合溶媒(重量比:EC/DEC/VC/FEC=3/7/0.05/0.05)にLiPF61.15モルを溶解させて電解液として使用した。コインセルは、アルゴンガスで充填されたグローブボックスで製造した。
【0101】
本発明の充放電サイクル試験の際に、初期に0.1C~1.0C率に上げ、その後1.0C率で寿命試験を行った。4回サイクル後の放電容量を初期容量とし、これらの初期容量を50回~100回サイクル後の放電容量と比較して容量維持率を計算した。
【0102】
図1に示すように、比較例正電極1の場合、約40~50サイクル程度後に容量が減少する結果を示した。
【0103】
本発明の実施例6によるリチウムイオンバッテリー用正電極1に対する充放電サイクル試験の結果、
図2に示すように、100サイクル後に初期容量の89%程度に維持することが測定された。一方、比較例4による比較例正電極2の場合には、100サイクル後の容量維持率も約70%程度であって容量が減少する結果を示した。このような結果から、アクリレート系化合物がバインダーとしての役割を果たすためには十分に硬化しなければならないことが分かる。
【0104】
図3に示すように、本発明の実施例7によるリチウムイオンバッテリー用正電極2の充放電サイクル試験結果は、87%程度であって、実施例1の結果に比べてやや低い容量維持率を示した。
【0105】
本発明の実施例8によるリチウムイオンバッテリー用正電極3の充放電サイクル試験結果が示された
図4を参照すると、100回サイクル後の容量維持率は、約90%程度であって、実施例6によるリチウムイオンバッテリー用正電極1の結果と類似であった。本発明のリチウムイオンバッテリー用正電極3と比較例正電極1の結果を比較すると、PTFEを本発明のアクリレート系バインダーと混合して使用すると、PTFE単独の場合に示された容量の急激な減少現象が改善されることが分かる。
【0106】
また、本発明の実施例9に係るリチウムイオン電池用正電極4の充放電サイクル試験結果が示された
図5から、100回サイクル後の容量維持率が91%程度で優れた結果を得たことが分かる。
【0107】
図4及び
図5の結果より、本発明のアクリレート系バインダーを他の乾式用バインダーと混合して使用することが可能であることが分かる。
【0108】
本発明の実施例10によるリチウムイオンバッテリー用負電極の充放電サイクル試験結果が示された
図6を参照すると、4回サイクル後の放電容量は415mAh/g、そして50回サイクル後の放電容量は397mAh/gと測定され、96%程度の容量維持率を示した。
【0109】
上述した実験結果から、乾式加工用電極物質層組成物にアクリレート系化合物をバインダーとして使用しながら、アクリレート系化合物用硬化剤を併用すると、アクリレート系化合物が常温で液状であるため、正極又は負極活物質を含む電極物質層組成物の均一な混合が可能であり、電極物質層組成物からなる電極シート、すなわち陽極物質層シート又は負極物質層シートの加工性にも優れるため、10kgf/cm2未満の比較的低い圧力においても厚さ100μm未満の比較的薄い厚さの電極層物質組成物シートを作ることができ、最終的に硬化ステップを経て電極物質層シートの金属電極板との接着力にも優れるうえ、充放電サイクル試験の際に容量維持率も高く維持することができることを確認した。
【0110】
したがって、本発明のように乾式工程用電極物質層組成物にバインダーとしてアクリレート系化合物とアクリレート系化合物用硬化剤を含むと、熱硬化法又は光硬化法などの硬化方法に関係なく、硬化が行われることさえすれば物理的な特性だけでなく、サイクル試験による容量維持率もかなり高いレベルに維持されるが、特に、硬化剤として光開始剤と熱硬化剤を混合して使用することが電極物質層の物性維持に非常に効果的であることを確認した。
【0111】
本発明の電極物質層組成物は、正極物質層及び負極物質層を形成するために使用でき、活物質を用いる一般なリチウムイオンバッテリーに多様に使用できる。また、本発明のリチウムイオンバッテリーは、電気自動車だけでなく、携帯電話やノートパソコンなど、多様なバッテリーを用いる機器に使用できる。
【0112】
本発明は、上述したように好適な実施例を挙げて図示及び説明したが、上述した実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって様々な変更及び修正が可能であろう。
【手続補正書】
【提出日】2025-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリー用電極関連技術であり、より具体的には、湿式ではなく、乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、混練時の固体粒子の摩擦による静電気現象のため粒子凝集が発生して均一な混練を妨げるという問題点を解決することができるうえ、電極層物質組成物シート製造の際に比較的低い圧力でも厚さ100μm未満のシートを作ることが可能な、乾式工程用新規バインダーを含む電極物質層組成物、前記組成物を含む電極、前記電極の製造方法、及び前記電極を含むリチウムイオンバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンバッテリーは、リチウムを含んでいる化合物粒子を正極活物質として、そして黒鉛に代表される負極活物質をバインダーと共に混合してアルミニウム又は銅などの金属箔(極板)上に活物質層を形成し、ここに電解質を含浸した後、中間に分離膜と呼ばれるいわゆるセパレータ(separator)を介在してラミネートすることで作る。このとき、リチウムイオンは、正極活物質層と負極活物質層内に入ってから出てくる過程(lithiation、de-lithiation)を繰り返しながら作動する。
【0003】
電極板を作る従来技術は、滑物質、バインダー、その他の添加剤などを溶媒に分散させていわゆるスラリー(slurry)を作り、これを金属極板上に一定の厚さに塗布、乾燥させて活物質電極板を作るいわゆる湿式方法である。これは、長い間使用されてきた方法であって、各成分を均一に混合することができ、これによりバッテリーの性能を最大化することができるという利点がある。しかし、乾燥工程で溶媒を完全に除去しなければならず、かつ大気汚染の危険がある溶媒はすべて回収しなければならないという不便さがあり、経済的又は環境的に非常に不便さがある方法である。
【0004】
かかる問題点を改善するために開示された最近の技術が乾式工程である。乾式工程とは、活物質、その他の添加剤をバインダーと共に溶媒なしにそのまま乾式で混合した後、これに圧力を加えて活物質組成物シートを作り、これを金属極板上に付着させて電極板を製造する技法である。この乾式方法は、溶媒を除去し捕集しなければならない複雑な工程を排除することができるため、溶媒回収装置が必要ないなど、従来の湿式方法よりも一層環境にやさしい方法である。
【0005】
ただし、乾式工程法で電極板を製造するには、活物質、バインダー及び添加剤(代表的に、伝導性カーボンブラック又はカーボンナノチューブ)を乾式で分散しなければならない。このとき、活物質と伝導度増進剤は既に定められている物質であるので、乾式工程法では適切なバインダーの選択が非常に重要であるといえる。乾式工程に使用される既存のバインダーはいずれも固体粒子であるが、各粒子の大きさと密度が異なり、特に各成分を混練するときに固体粒子の摩擦により表面に電荷が発生し、これから発生する静電気現象のために粒子凝集が発生して均一な混練を妨げて均一な混練が難しくなるという問題点が発生する。
【0006】
したがって、溶媒を使用しない乾式工程でも、活物質や伝導度増進剤などの各成分をより均一に混練することができる新しいバインディング技術、すなわち乾式工程に用いられるのに適した特性を有する新しいバインダー物質、及びこれを含む電極物質層組成物の開発が切実に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、常温で液状として存在し且つ後硬化が可能なアクリレート系化合物の新たな用途を提供することであり、すなわち、溶媒を使用しない乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、混練時に前記固体粒子の摩擦による静電気現象のため粒子凝集が発生して均一な混練を妨げるので、これを解決することができるように新規バインダーとしてアクリル系化合物を含む電極物質層組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、乾式工程用新規バインダーであるアクリレート系化合物により均一に混練された電極物質層組成物を使用するので、低い圧力でさらに薄い正極物質層又は負極物質層を製造することができ、製造された正極物質層又は負極物質層シートを電極板に付着させた後、シートに含まれたアクリレート系化合物の後硬化によって電極板にシートをより強固に付着させることができる電極の製造方法及びその方法で製造された電極を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、乾式工程で製造された電極を含むことで、溶媒を除去し捕集しなければならない複雑な工程を排除することができるため、環境調和性及び経済性に優れるだけでなく、さらに薄い正極物質層又は負極物質層により小型化が可能なリチウムイオンバッテリーを提供することにある。
【0010】
本発明の目的は、上述した目的に限定されず、上述していない別の目的は、以降の記載から当業者に明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、まず、本発明は、正極又は負極用活物質、アクリレート系化合物、及び前記アクリレート系化合物用硬化剤を含む、乾式工程用電極物質層組成物を提供する。
【0012】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物は、メタクリレート系化合物を含む。
【0013】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物は、2個~16個の官能基を含み、主鎖が炭素数2個~1,000個からなるモノマー又はオリゴマーである。
【0014】
好適な実施形態において、前記官能基は、2個~16個であり、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基、又はこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる一つ以上である。
【0015】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物は、前記正極又は負極用活物質100重量部当たり0.1~20重量部で含まれる。
【0016】
好適な実施形態において、前記硬化剤は、熱硬化剤及び光硬化剤のうちの1つ以上であり、前記アクリレート系化合物100重量部当たり0.1 20重量部で含まれる。
【0017】
好適な実施形態において、前記熱硬化剤は、過酸化物又はアゾ化合物を含み、前記光硬化剤は、フェニルケトン系化合物又はホスフィンオキシド系化合物を含む。
【0018】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物とは異なる種類のバインダーを少なくとも1つさらに含む。
【0019】
好適な実施形態において、前記アクリレート系化合物と前記バインダーは、99:1 1:99の重量比を有する。
【0020】
好適な実施形態において、伝導性カーボンブラック、グラフェン及びカーボンナノチューブよりなる1つ以上のナノ炭素系伝導度増進剤をさらに含む。
【0021】
好適な実施形態において、前記正極又は負極用活物質は、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、鉄、リン、錫、チタン、カーボン材料、シリコン、酸化シリコン、硫黄及びこれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上を含む。
【0022】
また、本発明は、上述したいずれかの乾式工程用電極物質層組成物からなる正極物質層又は負極物質層を含むリチウムイオンバッテリー用電極を提供する。
【0023】
また、本発明は、上述したいずれかの乾式工程用電極物質層組成物を準備する組成物準備ステップと、前記乾式工程用電極物質層組成物で正極物質層シート又は負極物質層シートを形成するシート形成ステップと、金属極板に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを付着させる付着ステップと、前記付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させる硬化ステップと、前記硬化ステップが行われて得られた電極物質層を圧延するステップと、を含む、リチウムイオンバッテリー用電極の製造方法を提供する。
【0024】
好適な実施形態において、前記付着ステップは、前記金属極板にプライマー層を形成するステップと、前記プライマー層に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを配置した後に圧着するステップと、を含んで行われる。
【0025】
好適な実施形態において、前記硬化ステップは、5分 30分間50℃ 180℃で処理する熱硬化及びUV照射による光硬化のうちの1つ以上を介して行われる。
【0026】
また、本発明は、上述したリチウムイオンバッテリー用電極を含むリチウムイオンバッテリーを提供する。
【0027】
また、本発明は、上述した製造方法で製造されたリチウムイオンバッテリー用電極を含むリチウムイオンバッテリーを提供する。
【発明の効果】
【0028】
上述した本発明の電極物質層組成物によれば、バインダーとして常温で液状であるアクリレート系化合物を含むため、溶媒を使用しない乾式工程で電極を製造するときに使用される既存のバインダーが固体粒子であって、混練時の前記固体粒子の摩擦による静電気現象のために粒子凝集が発生して均一な混練を妨害するという問題点なしに活物質をより均一に混練することができる。
【0029】
また、本発明のリチウムイオンバッテリー用電極及び前記電極の製造方法によれば、アクリレート系化合物により均一に混練された電極物質層組成物を使用するので、低い圧力でより薄い正極物質層又は負極物質層を製造することができ、製造された正極物質層又は負極物質層シートを電極板に付着させた後、シートに含まれたアクリレート系化合物の後硬化を介してアクリレートを固体化してバインダーとしての役割を果たすようにし、付随的に電極板にシートをよく付着させることができ、圧延工程を行うことにより電極密度を高めるという効果がある。
【0030】
また、本発明のリチウムイオンバッテリーによれば、乾式工程で製造された電極を含むことで溶媒を除去し捕集しなければならない複雑な工程を排除することができるので、環境調和性及び経済性に優れるだけでなく、さらに薄い正極物質層又は負極物質層により小型化が可能である。
【0031】
本発明の効果は、上述した効果に限定されず、上述していない他の効果は、以降の記載から当業者には明確に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の比較例1によって既存の乾式工程用バインダーであるPTFE(Polytetrafluoroethylene)粒子を含む比較例電極物質層組成物1を用いて製造された電極に対する充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施例による乾式工程用電極物質層組成物1からなる電極と、比較例2による比較例電極物質層組成物2からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図3】本発明の他の実施例による乾式工程用電極物質層組成物2からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図4】本発明の別の実施例による乾式工程用電極物質層組成物3からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図5】本発明の別の実施例による乾式工程用電極物質層組成物4からなる電極の充放電回数(Cycle)による容量維持率(Capacity retention)を示すグラフである。
【
図6】本発明の別の実施例による乾式工程用電極物質層組成物5からなる電極の充放電回数(Cycle)による比容量(Specific cappacty)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明で使用される用語は、本発明における機能を考慮しながら出来るだけ現在広く使用されている一般用語を選択したが、これは、当分野に従事している技術者の意図又は判例、新しい技術の出現などによって変わり得る。また、特定の場合は、出願人が任意に選定した用語もあり、この場合、該当する発明の説明部分で詳細にその意味を記載する。
【0034】
本発明で言及した「含む」、「有する」、「からなる」などが使用される場合、「~のみ」が使用されない限り、他の部分が追加できる。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
【0035】
構成要素を解釈するにあたり、別途の明示的な記載がなくても誤差範囲を含むものと解釈する。
【0036】
本発明の幾つかの実施形態それぞれの特徴的な部分は、部分的に又は全体的に互いに結合又は組み合わせ可能であり、技術的に様々な連動及び駆動が可能であり、各実施形態は、互いに対して独立して実施してもよく、連関関係で一緒に実施してもよい。
【0037】
以下、添付図面及び好適な実施例を参照して本発明の技術的構成を詳細に説明する。
【0038】
しかし、本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。明細書全体にわたり、本発明を説明するために使用される同じ参照番号は、同じ構成要素を表す。
【0039】
本発明の技術的特徴は、常温で液状として存在し且つ後硬化が可能なアクリレート系化合物の新たな用途を提供することであり、溶媒を使用しない乾式工程で電極を製造するときに、固体粒子ではなく、常温で液状であるバインダーを用いて活物質を均一に混練することができるように、新規バインダーとしてアクリレート系化合物を含む電極物質層組成物、及び前記組成物からなる正極物質層又は負極物質層を含むリチウムイオンバッテリー用電極だけでなく、乾式工程用新規バインダーであるアクリレート系化合物により均一に混練された電極物質層組成物を使用するので、低い圧力でより薄い正極物質層又は負極物質層を製造することができ、製造された正極物質層又は負極物質層シートを電極板に付着させた後、シートに含まれたアクリレート系化合物の後硬化を介してアクリレートを固体化してバインダーとしての役割を果たすようにし、付随的に電極板にシートをよく付着させることができ、圧延工程を行うことにより電極密度を高める電極の製造方法、及び前記電極を含むリチウムイオンバッテリーにある。
【0040】
すなわち、従来公知になっているように、リチウムイオンバッテリーをなす重要な構成の一つである電極は、正極活物質又は負極活物質、添加剤等をバインダーと共に混練して電極物質層組成物を製造した後、これを所望の厚さの電極物質層組成物シートを作り、これを再び金属電極板上に付着させて製造する。しかし、電極物質層組成物の製造時に、湿式工程ではこれらの成分を溶媒に入れて混練するので、各成分の均一な混練が可能であるが、乾式工程では溶媒なしに固体状態のバインダーのみを使用しなければならないので、均一な混練状態を得ることが非常に難しいが、本発明は、より均一な混練状態を有する電極物質層組成物を得るために、従来の如く固体状態のバインダーを使用せず、常温では液状として存在するものの、別途の処理工程を介して固体状に作ることができる化合物であるアクリレート系化合物を用いることにより、より均一な混練が可能な乾式工程用新規バインダーを含む新たな組成の乾式工程用電極物質層組成物を開発したからである。
【0041】
その結果、本発明の技術が、常温で液状として存在し且つ後硬化が可能なアクリレート系化合物の新たな用途、すなわち活物質と添加剤を混練するときにより均一な混練状態を得、電極物質層の形成に役立つ新規バインダーを提供することなので、以下、本発明の説明は、主に正極を用いて説明するが、活物質の種類を問わず、すなわち正電極用又は負電極用活物質に共通に適用できる技術であることが自明である。
【0042】
したがって、本発明は、正極又は負極用活物質、アクリレート系化合物、及び前記アクリレート系化合物用硬化剤を含む乾式加工用電極物質層組成物を提供する。
【0043】
ここで、アクリレート系化合物は、常温で液状として存在するが、別途処理過程、すなわち硬化過程を経て固体化される特性を有することさえすれば制限されないが、常温で液状として存在するアクリレート系化合物に適切な形態の硬化剤を付加し、適当な条件で硬化させると固体状であり、三次元網目構造を有する高分子に変換されてアクリレート化合物が電解質に溶出しないためバッテリーの性能に悪い影響を及ぼさないという特徴があるからである。しかも、適当な官能基を有するアクリレート系化合物の場合、硬化した後には、三次元網目構造を有する高分子形態をなし、金属電極板との付着性も増加させることができて有利である。一方、実施例では、主にアクリレート系化合物(Acrylates)を用いて説明したが、類似した特性を有するメタクリレート(Methacrylates)系化合物も含むことは自明である。したがって、本発明で使用されるアクリレート系化合物は、アクリレート系化合物及びメタクリレート系化合物だけでなく、他の置換基を有する同一系化合物を含むと理解されるべきである。
【0044】
アクリレート系化合物は、少なくとも2つの官能基を含むアクリレート系化合物であれば限定されないが、含まれる官能基は、熱又は光によって反応することさえできれば限定されないが、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基、又はこれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上であり、特に2個 16個の官能基を含むアクリレート系化合物であり得る。官能基が2個以下であれば、一官能アクリレートとして硬化点が少なくて硬化反応が難しいため不利であり、16個以上であれば、官能基が多すぎて短時間で硬い物性を有する高分子に変換されるおそれがあり、むしろ不利であるからである。
【0045】
また、本発明で使用されるアクリレート系化合物は、特に断りのない限り、モノマー及びオリゴマー形態など、あらゆる形態のアクリレート化合物を意味するが、一実施形態として、主鎖が炭素数2個 1,000個からなるモノマー又はオリゴマー形態であり得る。主鎖の炭素数が2個未満であれば、後硬化時に脆性が非常に強い高分子となってバインダー物質として適さないため不利であり、主鎖の炭素数が1,000個以上であれば、立体障害(Steric hindrance)が起こり、むしろバインダーとしての役割を妨げるおそれがあるからである。本発明は、常温で液状として存在し且つ別途の処理によって後硬化するアクリレート系化合物をバインダーとして使用することが主な技術的特徴であるので、上述した官能基は一例に過ぎず、これらに限定されるものでないことは明らかである。
【0046】
本発明で使用されるアクリレート系化合物は、トリエチレングリコールアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ビスフェノールAエチレンオキシドジメタクリレートなどの各種脂肪族及び芳香族アクリレート系モノマー、及びこれらのアクリレートをなす主鎖のモノマーが2つ以上の単位で形成された複合体であるオリゴマー、例えば、メチレン基、ウレタン基、エステル基、エーテル基、オキシド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、ブタジエン基、イミド基、アミン基、アミド基、エポキシ基、オレフィン基、スルホン基などよりなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0047】
アクリレート系化合物は、正極又は負極用活物質100重量部当たり0.1 20重量部で含まれ得る。アクリレート系化合物の含有量が0.1重量部未満であれば、アクリレート系化合物の含有量が低すぎてバインダーの役割が微々たるものであって混練に不利であり、アクリレート系化合物の含有量が20重量部以上であれば、相対的に活物質の含有量が低くなって全体体積に比べて電気容量が低くなり、リチウムイオンバッテリーの性能が低下するという問題があり得る。
【0048】
アクリレート系硬化剤は、常温で液状として存在するアクリレート系化合物を混練した後、別途の処理によって硬化させて三次元網目構造(3-dimensional network)を有する高分子に変換させるための構成要素であって、熱硬化剤及び光硬化剤が1つ以上使用できる。すなわち、光硬化がうまく行われない場合、特に電極層の厚さが厚い場合には、光硬化剤(光開始剤)と熱硬化剤とを並行して使用すると、さらに効果的であるからである。これらの硬化剤は、熱又は光によってラジカルを発生する物質でさえあれば、種類を問わずにいずれでも使用可能である。
【0049】
より具体的には、熱硬化剤(Thermal initiator)は、過酸化物又はアゾ化合物を含む硬化剤であって、50℃ 180℃で分解されて反応開始剤を発生さえすれば特別な種類に限定されないが、一実施形態として、過酸化物を含む硬化剤(peroxide initiator)としては、酸素ラジカルを発生する過酸化ベゾイル(Benzoylperoxide、BP)などがあり得る。アゾ化合物を含む硬化剤としては、2,2-アゾビスイソブチロニトリル(2,2-azobisisobutyronitirle、AIBN)などが使用できる。このとき、硬化剤分解温度が50℃未満であれば、分解温度が低すぎて反応開始剤があまり容易に発生して不利であり、分解温度が180℃以上であれば、硬化反応のための温度が高すぎてコストの面で不利である。好ましくは、50℃ 150℃の温度で分解される硬化剤を使用することが好ましい。
【0050】
光硬化剤(Photoinitiator)は、UVなどの光を照射すると、ラジカルを発生するフェニルケトン系化合物又はホスフィンオキシド系化合物を含む硬化剤が使用できる。一実施形態として、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ヒドロキシジメチルアセトフェノン、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド又はメチルベンゾイルホルメートなどに代表される固体状及び液状の光開始剤などが使用できる。
【0051】
硬化剤は、アクリレート系化合物100重量部当たり0.1~20重量部で含まれ得るが、硬化剤の含有量が0.1重量部未満であれば、アクリレート系化合物が硬化せずに硬化反応後にも液状として残る可能性が高くて不利であり、20重量部超過であれば、過硬化が行われてあまり硬くなるか硬化反応に全て参加していない硬化剤から発生したラジカルが副反応を起こすことにより、さらに含まれるバインダーを劣化させるおそれがあるためである。
【0052】
必要な場合、アクリレート系化合物に加えて、他の種類のバインダーをさらに1つ以上含むことができる。ここで、アクリレート系化合物と前記バインダーは、99:1 1:99の重量比を有することができる。好ましくは、アクリレート系化合物と前記バインダーの重量比が80:20~20:80であり得る。前記重量比の上限及び下限値を超えると、これは、実質的に混合物ではなく、ほぼ単独のバインダーと同様なので、混合バインダーとしての役割が微々たるものであって不利である。
【0053】
ここで、他の種類のバインダーは、乾式工程用として使用できるさえすれば、公知の全てのバインダーを使用することができ、2つ以上のバインダーを混合して使用することができる。一実施形態として、バインダーは、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)、ポリオレフィン(polyolefin)、ポリアルキレン(polyalkylenes)、ポリエーテル(polyethers)、スチレン-ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber、SBR)、ポリシロキサンとポリシロキサンの共重合体、分岐状ポリエーテル(branched polyether)、ポリビニルエーテル(polyvinylether)、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリビニルカーボネート(polyvinylcarbonate)、これらの共重合体、及び/又はこれらの混合物を含むことができる。1つ以上のバインダーは、グア(guar)、アルギン酸、ポリ[(イソブチレン-alt-マレイン酸、アンモニウム塩)-co-イソブチレン-alt-マレイン酸無水物)](poly[(isobutylene-alt-maleic acid、ammonium salt)-co-isobutylene-alt-maleicanhydride)]、ポリ(エチレン-alt-マレイン無水物(poly(ethylene-alt-maleic anhydride))、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸無水物)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、及びポリビニルエーテルをさらに含むことができる。 バインダーは、セルロースを含むことができる。一部の態様において、ポリオレフィンは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、その共重合体、及び/又はそれらの混合物を含むことができる。例えば、バインダーは、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエチレン-ブロック-ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジメチルシロキサン-co-アルキルメチルシロキサン(polydimethylsiloxane-co-alkylmethyl siloxane)、それらの共重合体、及び/又はそれらの混合物を含むことができる。特定の態様において、フィブリル化可能なバインダーは、PTFEである。バインダーは、セルロース又はセルロースの誘導体を含むことができる。セルロースの誘導体は、例えばセルロースエステル、例えばセルロースアセテート(cellulose acetate)、セルロースエーテル、例えばメチルセルロース(methylcellulose)、エチルセルロース(ethylcellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxylpropylcellulose、HPC)、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース(hydroxylpropylmethylcellulose)、又はヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethylcellulose、HEC)、セルロースニトレート(cellulose nitrate);セルロースキトサン(cellulose chitosan)、例えばカルボキシメチルセルロースキトサン(carboxymethylcellulose chitosan)、又はカルボキシアルキルセルロース(carboxyalkyl cellulose)、例えばカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose、CMC)、カルボキシエチルセルロース(carboxyethylcellulose)、カルボキシプロピルセルロース(carboxy propylcellulose)、又はカルボキシイソプロピルセルロース(carboxyisopropyl cellulose)を含むことができる。追加の態様において、セルロース又はセルロース誘導体は、セルロース塩を含むことができる。別の態様において、セルロース塩カチオンは、ナトリウム、アンモニウム、カルシウム又はリチウムから選択できる。例えば、セルロース又はセルロース誘導体は、ナトリウムセルロースエステル、ナトリウムセルロースエーテル、ナトリウムセルロースニトレート、又はナトリウムカルボキシアルキルセルロースから選択されるナトリウムセルロース又はナトリウムセルロース誘導体を含むことができる。CMCは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを含むことができる。一部の態様において、1つ以上のバインダーはCMC、PVDF、及び/又はPTFEを含む。
【0054】
場合によっては、本発明の電極物質層組成物がナノ炭素系伝導度増進剤を含むことができる。ナノ炭素系伝導度増進剤は、ナノサイズの炭素物質でさえあれば限定されないが、一実施形態として、伝導性カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ(単層、二層、多層など)よりなる群から選択される1つ以上であり得る。例えば、カーボンナノチューブの場合、アスペクト比が非常に大きくて有利である。カーボンナノチューブの場合、単層、二層、多層のいずれか1種又はそれ以上を混合して使用することができるが、ナノ炭素系伝導度増進剤の含有量は、アクリレート系化合物、又はアクリレート系化合物及び他の種類のバインダー100重量部当たり0.05 300重量部の範囲であり得る。ナノ炭素系伝導度増進剤の含有量が0.05重量部未満であれば、含有量が少なすぎて伝導度増進効果が微々たるものであって不利であり、300重量部以上であれば、含有量が高すぎて全体活物質スラリーの粘度が高くなりすぎるか、或いは活物質からなる電極層の緻密度を低下させるおそれがあってむしろ不利である。
【0055】
カーボンナノチューブなどのナノ炭素系伝導度増進剤を混練する方法は、カーボンナノチューブ又は伝導性カーボンブラックなどの伝導度増進剤を活物質などと共に一次に先に混練した後、ここに液状のアクリレート系化合物を加えて最終的に混練する方法を用いることができる。あるいは、カーボンナノチューブ又は伝導性カーボンブラックなどの伝導度増進剤をアクリレート系化合物と先に混練した後、これを再び活物質と混練して最終混練物を製造することもできる。
【0056】
正極又は負極用活物質は、リチウムイオンバッテリーの正極又は負極に使用するのに適した材料であって、本技術分野で知られている任意の活物質であり得る。一実施形態として、リチウム、マンガン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、鉄、リン、錫、チタン、カーボン材料、シリコン、酸化シリコン、硫黄、及びそれらの組み合わせよりなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0057】
カーボン材料は、例えば、グラファイト材料(graphitic material)、グラファイト、グラフェン-含有材料(graphene-containing material)、ハードカーボン(hard carbon)、ソフトカーボン(soft carbon)、カーボンナノチューブ(carbon nanotube)、多孔質カーボン(porous carbon)、伝導性カーボン(conductive carbon)、又はこれらの組み合わせから選択できる。グラファイトは、合成又は天然に由来することができる。活性カーボンは、スチーム工程又は酸/エッチング工程に由来することができる。一部の態様において、グラファイト材料は、表面処理された材料であり得る。一部の態様において、多孔質カーボンは活性カーボンを含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンは、階層的に構造化されたカーボン(hierarchically structured carbon)を含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンは、構造化されたカーボンナノチューブ、構造化されたカーボンナノワイヤ、及び/又は構造化されたカーボンナノシートを含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンはグラフェンシートを含むことができる。一部の態様において、多孔質カーボンは表面処理カーボンであり得る。
【0058】
次に、本発明のリチウムイオンバッテリー用電極は、上述したいずれか一つの乾式加工用電極物質層組成物からなる正極物質層又は負極物質層を含む。正極物質層又は負極物質層は、100μm未満の厚さを有するが、前記乾式加工用電極物質層組成物がアクリレート系化合物を含むことにより、さらに薄くて優れた特性を有する電極フィルムを製造することができるからである。
【0059】
次に、本発明のリチウムイオンバッテリー用電極の製造方法は、上述したいずれかの乾式加工用電極物質層組成物を準備する組成物準備ステップと、前記乾式工程用電極物質層組成物で正極物質層シート又は負極物質層シートを形成するシート形成ステップと、金属極板に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを付着させる付着ステップと、前記付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させる硬化ステップと、前記硬化ステップが行われて得られた電極物質層を圧延するステップと、を含むことができる。ここで、これらの各ステップをバッチ型に加工するか、或いは連続工程を介して最終電極板を製造することもできる。連続工程を導入することが最も効率的な製造工程であり得る。
【0060】
組成物準備ステップは、全ての構成成分、すなわち負極又は正極用活物質、液状のアクリレート系化合物及びアクリレート系化合物用硬化剤を入れて乾式でせん断力を加えながら混練することさえできれば、公知の全ての混練方法が使用できる。ここで、様々な混練方法が使用できるが、混練装置としては、適当な形態のブレードを備えたヘンセルミキサーなどの攪拌機形態の混練機(低速及び高速攪拌機)又は押出機形態の連続工程が可能な混練装置がある。代表的には、混練機能が付加された一軸スクリュー押出機(single screw extruder)、二軸スクリュー押出機(twin screw extruder)、又は連続ニーダー(continuous kneader)などの混練装置が効果的である。
【0061】
このような連続混練装置の端部に適当な厚さのシート状に作ることが可能なダイを用いて一定厚さの活物質組成物シートを作り、これを複数回ローリングして所望の厚さにするシート形成ステップを行うことができる。後述する実施例及び比較例では、一定の間隔を有するように考案された2つのロールの間を通過させるカレンダリング法を使用した。
【0062】
付着ステップは、金属極板にプライマー層を形成するステップと、前記プライマー層に前記正極物質層シート又は負極物質層シートを配置した後、圧着するステップと、を含んで行われることができる。連続工程では、別途供給装置を介して供給される金属電極板上に上述の付着ステップを行うことができる。
【0063】
硬化ステップは、付着ステップで金属極板に付着した正極物質層シート又は負極物質層シートを硬化させてアクリレート化合物を固体化することにより、バインダーとしての役割を果たすようにし、且つ金属極板に対するシートの付着性を強化させるための工程であって、5分~30分間50℃~180℃で処理する熱硬化及び/又はUV照射による光硬化のうちのいずれかによって行われることができる。
【0064】
圧延ステップは、硬化ステップが行われて得られた電極物質層を最終的に適切な力で押して電極密度を高めるために行われることができる。
【実施例1】
【0065】
正極用活物質であるNCM811(95.0重量%)、アクリレート系化合物(エチレングリコール系2官能モノマーと6官能エチレングリコール系オリゴマーを1:1の重量比で混合する)2.5重量%、熱硬化剤であるアゾ系硬化剤(AIBN)0.05重量%、及び光硬化剤であるホスフォンオキシド系硬化剤(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)0.05重量%、及び伝導性カーボンブラック2.4重量%を混練機としてのニーダー(Kneader)に入れ、常温で20rpmにて10分間混練して乾式加工用電極物質層組成物1を製造した。
【実施例2】
【0066】
光硬化剤を使用せず、熱硬化剤であるアゾ系硬化剤(AIBN)0.1重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして、乾式加工用電極物質層組成物2を製造した。
【実施例3】
【0067】
アクリレート系化合物ではなく、アクリレート系化合物とPTFEを1:1の重量比で混合して使用した以外は、実施例1と同様にして、乾式加工用電極物質層組成物3を製造した。
【実施例4】
【0068】
アクリレート系化合物ではなく、アクリレート系化合物とエチレングリコール系共重合物(エチレングリコール-無水マレイン酸-アクリロニトリルの3成分系共重合物、CNP solutions、韓国)を1:1の重量比で混合して使用した以外は、実施例1と同様にして、乾式加工用電極物質層組成物4を製造した。
【実施例5】
【0069】
負極用活物質である黒鉛と酸化シリコン(SiOx)の混合活物質(黒鉛:SiOx=90:10(重量比)、理論容量:470mAh/g)95.0重量%、6官能ウレタン系オリゴマー3.5重量%、熱硬化剤であるアゾ系硬化剤(AIBN)0.05重量%、及び光硬化剤であるホスフィンオキシド系硬化剤(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)0.05重量%、カーボンブラック1.4重量%、及び単層カーボンナノチューブ0.5重量%を混練機としてのニーダー(Kneader)に入れ、常温で20rpmにて10分間混練して乾燥加工用電極物質層組成物5を製造した。
【実施例6】
【0070】
1.組成物準備ステップ
【0071】
実施例1と同様の方法で電極物質層組成物1を準備した。
【0072】
2.正極物質層シート形成ステップ
【0073】
電極物質層組成物1に7kgf/cm2の圧力を加えながら数回ローリング(rolling)して厚さ70μmの正極物質層シートを形成した。
【0074】
3.付着ステップ
【0075】
(I)プライマー層形成ステップ
【0076】
正極物質層シートをアルミニウム極板上に付着させるために、極板の表面に次のようにプライマー層を形成した。正極板用プライマーは、カーボンナノチューブをエチレングリコール-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合物(CNP solutions、韓国)と共にNMPに入れ、常温で10分間攪拌した後、これを再び加圧噴射法で分散してプライマー溶液を製造した。バインダー内のカーボンナノチューブの含有量は、共重合物の全重量に対して20重量%であり、分散液中の固形分の含有量は4重量%であった。プライマー層は、バーコーターを用いて厚さ1.0μm程度に形成した(乾燥:130℃、2分)。プライマー層に対するテープテストの結果、プライマー層が極板から剥離せず、よく付着していることを確認した。また、プライマー層が形成された極板の表面抵抗は、2×10-3Ω/面積であって、極板であるアルミニウムの表面抵抗と類似であった。
【0077】
(II)圧着ステップ
【0078】
プライマー層が形成されたアルミニウム極板に正極物質層シートをのせて圧着することで臨時正電極を形成した。
【0079】
4.硬化ステップ
【0080】
臨時正電極を120℃の温度で10分間処理した後、UV照射(700mJ/cm2)することにより、アクリレート系化合物であるエチレングリコール系2官能モノマーと6官能エチレングリコール系オリゴマーが硬化して、バインダーとして使用したアクリレート化合物が電解液に溶出しないバインダーとして役割を果たすようにした。
【0081】
5.圧延ステップ
【0082】
硬化ステップを経た電極物質層は、電極密度が1.0g/cm3となるように圧延過程を経て、厚さ70μmの正極物質層シートが含まれたリチウムイオンバッテリー用正電極1を最終的に製造した。
【実施例7】
【0083】
組成物準備ステップで電極物質層組成物2を準備し、硬化ステップでUV照射なしに熱硬化のみを(120℃、10分)行った以外は、実施例6と同様にして、厚さ70μmの正極物質層シートが含まれたリチウムイオンバッテリー用正電極2を製造した。
【実施例8】
【0084】
組成物準備ステップで電極物質層組成物3を準備し、ローリング圧力を7kgf/cm2として電極物質層を形成した以外は、実施例6と同様にして、厚さ75μmの正極物質層シートを含むリチウムイオンバッテリー用正電極3を製造した。
【実施例9】
【0085】
組成物準備ステップで電極物質層組成物5を準備し、シート形成ステップでローリング圧力を7kgf/cm2として負極物質層シートを形成し、付着ステップで金属電極板として銅箔を用いた以外は、実施例6と同様にして、厚さ65μmの負極物質層シートを含むリチウムイオンバッテリー用負電極を製造した。
【0086】
<比較例1>
正電極用活物質であるNCM811(95.0重量%)、PTFE3.5重量%及び伝導性カーボンブラック1.5重量%を混合し、300rpmの速度で10分間撹拌して比較例電極物質層組成物1を製造した。
【0087】
<比較例2>
組成物準備ステップでアゾ系硬化剤(AIBN)0.001重量%及びホスフィンオキシド系硬化剤(トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド)0.001重量%、伝導性カーボンブラック2.498重量%を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例電極物質層組成物2を製造した。
【0088】
<比較例3>
組成物準備ステップで比較例電極物質層組成物1を準備し、シート形成ステップでローリング圧力を20kgf/cm2として正極物質層シートを形成し、硬化ステップが行われなかった以外は、実施例6と同様にして、比較例正電極1を製造した。比較例正電極1の製造時に形成された正極物質層シートの厚さは110μmである。
【0089】
<比較例4>
組成物準備ステップで比較例電極物質層組成物2を準備した以外は、実施例6と同様にして、厚さ80μmの正極物質層シートを含む比較例正電極2を製造した。
【0090】
<実験例1>
リチウムイオンバッテリー用正電極1 5と比較例正電極1及び2を対象にして、電極物質層が金属極板上によく付着したことを確認するために、スコッチテープを用いた接着力試験を行った。このために、3M Scotch Tapeを電極物質層の表面に付着させた後、これを剥がす過程中に電極物質層が極板から剥離するか否かで付着程度を判定した。
【0091】
スコッチテープを用いた接着力試験の結果、リチウムイオンバッテリー用正電極1 5と比較例正電極1はいずれも電極物質層が極板上によく付着していることを確認した。ただし、比較例正電極2の場合、正電極板に付着した活物質層が堅固でなく、特に表面のべたつきが残っていた。
【0092】
言い換えれば、リチウムイオンバッテリー用正電極1は、電極物質層が電極板によく付着しており、柔軟であり、表面はべたつきがなかった。特に正極物質層シート加工性に非常に優れた。アクリレート系化合物が常温では液状であるため、ほとんど無機質粒子からなる活物質組成物の混練やローリングなどの加工が遥かに容易であると推定される。
【0093】
リチウムイオンバッテリー用正電極2も、電極物質層の表面のべたつきがなく、電極板によく付着しており、電極物質層が比較的柔軟であったが、電極物質層の堅固さは、実施例1(熱硬化剤及び光硬化剤の両方を使用した場合)よりもやや堅くないことが観察された。
【0094】
リチウムイオンバッテリー用正電極3は、電極物質層が電極板にしっかりと付着しており、電極板を曲げたときに柔軟であり、表面のべたつきもなかった。
【0095】
リチウムイオンバッテリー用正電極4の場合、活物質組成物シートは、70μmの厚さにシートを作ることが容易であり、電極板との接着力にも優れるうえ、堅い電極物質層を得た。
【0096】
リチウムイオンバッテリー用負電極も、柔軟な曲げ特性を示しており、電極物質層に対する接着力試験の結果、電極物質層が電極板によく付着していることを確認した。
【0097】
<実験例2>
リチウムイオンバッテリー用正電極1 5と比較例正電極1及び2を対象に電極物質層を形成する過程で加えられる圧力と形成された最終厚さを測定し、比較する実験を行った。
【0098】
実験結果、電極物質層用組成物に固体状バインダー(PTFE)のみ使用された場合(比較例1)、シート形成ステップで正極物質層シートを形成するために高い圧力でローリングをしなければならず、より高い圧力でローリングを行っても厚さ100μm以下の正極物質層シートを作ることが容易ではないことが確認された。これに対し、実施例1~実施例5及び比較例2のように電極物質層組成物にアクリレート系化合物が含まれると、シート形成ステップで正極物質層シートを作るためのローリング圧力も格段に低く、厚さ100μm以下(代表的に60~80μmの厚さ)の正極物質層シートを容易に作ることができることを確認した。
【0099】
<実験例3>
リチウムイオンバッテリー用正電極1 5と比較例正電極1及び2を対象に、次のように充放電サイクル試験を行い、その結果をそれぞれ
図1 図6に示した。
【0100】
正電極に対するセル性能試験は、次の通りである。セル性能試験は、ハーフセル構造のコインセル(CR2032)を作り、これに対する充放電サイクル試験を1.0C率で行った。このとき、対電極(counter electrode)としてはリチウムメタル箔を使用し、電解質はエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ビニレンカーボネート(VC)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)等のカーボネート類混合溶媒(重量比:EC/DEC/VC/FEC=3/7/0.05/0.05)にLiPF61.15モルを溶解させて電解液として使用した。コインセルは、アルゴンガスで充填されたグローブボックスで製造した。
【0101】
本発明の充放電サイクル試験の際に、初期に0.1C~1.0C率に上げ、その後1.0C率で寿命試験を行った。4回サイクル後の放電容量を初期容量とし、これらの初期容量を50回~100回サイクル後の放電容量と比較して容量維持率を計算した。
【0102】
図1に示すように、比較例正電極1の場合、約40 50サイクル程度後に容量が減少する結果を示した。
【0103】
本発明の実施例6によるリチウムイオンバッテリー用正電極1に対する充放電サイクル試験の結果、
図2に示すように、100サイクル後に初期容量の89%程度に維持することが測定された。一方、比較例4による比較例正電極2の場合には、100サイクル後の容量維持率も約70%程度であって容量が減少する結果を示した。このような結果から、アクリレート系化合物がバインダーとしての役割を果たすためには十分に硬化しなければならないことが分かる。
【0104】
図3に示すように、本発明の実施例7によるリチウムイオンバッテリー用正電極2の充放電サイクル試験結果は、87%程度であって、実施例1の結果に比べてやや低い容量維持率を示した。
【0105】
本発明の実施例8によるリチウムイオンバッテリー用正電極3の充放電サイクル試験結果が示された
図4を参照すると、100回サイクル後の容量維持率は、約90%程度であって、実施例6によるリチウムイオンバッテリー用正電極1の結果と類似であった。本発明のリチウムイオンバッテリー用正電極3と比較例正電極1の結果を比較すると、PTFEを本発明のアクリレート系バインダーと混合して使用すると、PTFE単独の場合に示された容量の急激な減少現象が改善されることが分かる。
【0106】
また、本発明の電極物質層組成物4を用いたことを除いては、実施例8と同様の方法で製造されたリチウムイオン電池用正極4の充放電サイクル試験結果を示した
図5 から、 100回サイクル後の容量維持率が91%程度と優れた結果を得たことが分かる。
【0107】
図4及び
図5の結果より、本発明のアクリレート系バインダーを他の乾式用バインダーと混合して使用することが可能であることが分かる。
【0108】
本発明の実施例9によるリチウムイオンバッテリー用負電極の充放電サイクル試験結果が示された
図6を参照すると、4回サイクル後の放電容量は415mAh/g、そして50回サイクル後の放電容量は397mAh/gと測定され、96%程度の容量維持率を示した。
【0109】
上述した実験結果から、乾式加工用電極物質層組成物にアクリレート系化合物をバインダーとして使用しながら、アクリレート系化合物用硬化剤を併用すると、アクリレート系化合物が常温で液状であるため、正極又は負極活物質を含む電極物質層組成物の均一な混合が可能であり、電極物質層組成物からなる電極シート、すなわち陽極物質層シート又は負極物質層シートの加工性にも優れるため、10kgf/cm2未満の比較的低い圧力においても厚さ100μm未満の比較的薄い厚さの電極層物質組成物シートを作ることができ、最終的に硬化ステップを経て電極物質層シートの金属電極板との接着力にも優れるうえ、充放電サイクル試験の際に容量維持率も高く維持することができることを確認した。
【0110】
したがって、本発明のように乾式工程用電極物質層組成物にバインダーとしてアクリレート系化合物とアクリレート系化合物用硬化剤を含むと、熱硬化法又は光硬化法などの硬化方法に関係なく、硬化が行われることさえすれば物理的な特性だけでなく、サイクル試験による容量維持率もかなり高いレベルに維持されるが、特に、硬化剤として光開始剤と熱硬化剤を混合して使用することが電極物質層の物性維持に非常に効果的であることを確認した。
【0111】
本発明の電極物質層組成物は、正極物質層及び負極物質層を形成するために使用でき、活物質を用いる一般なリチウムイオンバッテリーに多様に使用できる。また、本発明のリチウムイオンバッテリーは、電気自動車だけでなく、携帯電話やノートパソコンなど、多様なバッテリーを用いる機器に使用できる。
【0112】
本発明は、上述したように好適な実施例を挙げて図示及び説明したが、上述した実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱することなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって様々な変更及び修正が可能であろう。
【国際調査報告】