(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-09
(54)【発明の名称】ポリエステル系熱収縮フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20251002BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20251002BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B65D65/40 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025519999
(86)(22)【出願日】2023-09-22
(85)【翻訳文提出日】2025-04-07
(86)【国際出願番号】 US2023033420
(87)【国際公開番号】W WO2024096967
(87)【国際公開日】2024-05-10
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523012126
【氏名又は名称】ボンセット アメリカ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Bonset America Corporation
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ビクトリア マリー モンカダ ミークス
(72)【発明者】
【氏名】勘坂 裕一郎
【テーマコード(参考)】
3E086
4F071
【Fターム(参考)】
3E086AD17
3E086BA15
3E086BB67
3E086DA08
4F071AA46
4F071AA81
4F071AA84
4F071AA86
4F071AB26
4F071AE11
4F071AF30
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
リサイクル性を向上させ、かつ、装着性や外観性に優れたポリエステル系熱収縮フィルムを提供する。
ポリエステル系熱収縮フィルムであって、(A)ポリエステル樹脂等のクランピング分率を1.2%以下とし、(B)融点を190~230℃とし、(C)融解熱量を25~45mJ/mgとし、(D1)~(D4)60、70、80℃の各10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向の熱収縮率を0~5%、25~50%、55~85%とするとともに、95℃~100℃、10秒で測定される熱収縮率の値の標準偏差を1.5%以下とする。
【選択図】
図2(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸と、ポリアルコールとの反応生成物であるポリエステル樹脂に由来したポリエステル系熱収縮フィルムであって、下記特性(A)~(C)、及び(D1)~(D4)を有することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルム。
(A)APR Document Code:PET-S-08に準拠して測定される、前記ポリエステル樹脂と、他のPET樹脂との混合物におけるクランピング分率を1.2%以下の値とする。
(B)前記ポリエステル樹脂のDSCによって測定される融点を190~230℃の範囲内の値とする。
(C)前記ポリエステル系熱収縮フィルムのDSCによって測定される融点における融解ピーク面積に相当する融解熱量を25~45mJ/mgの範囲内の値とする。
(D1)60℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を0~5%の範囲内の値とする。
(D2)70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を25~50%の範囲内の値とする。
(D3)80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を55~85%の範囲内の値とする。
(D4)95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率の値の標準偏差を1.5%以下の値とする。
【請求項2】
(D4´)95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を70%以上の値とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項3】
(D5)60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率が、下記関係式(1)を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【数1】
a:関係式(1)の傾きに相当し、3.25以上、4以下の値
b:関係式(1)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【請求項4】
(D5´)60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率が、下記関係式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【数2】
a´:関係式(2)の傾きに相当し、3.3以上、3.75以下の値
b´:関係式(2)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【請求項5】
(D5´´)60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率が、下記関係式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【数3】
a´´:関係式(3)の傾きに相当し、3.35以上、3.5以下の値
b´´:関係式(3)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【請求項6】
(D6)70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向に直交する方向における熱収縮率を-3~5%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項7】
前記フィルムの厚さを10~100μmの範囲内の値とし、かつ、所定条件下で測定される厚さの標準偏差を1.7μm以下とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂との混合物であって、重量配合比を100:0~80:20の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系熱収縮フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系熱収縮フィルムに関する。
より詳しくは、リサイクル性と、熱収縮性のバランスが良好であって、使用済みのPETボトルに装着したまま、一緒にリサイクルできるとともに、熱収縮温度等が多少変化したような場合であっても、得られる熱収縮率を修正し、装着性や外観性に優れたポリエステル系熱収縮フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料用保存容器や洗剤用保存容器等として、ポリエチレン樹脂(HDPE)製ボトルやポリエステル樹脂(PET)製ボトル(以下、単に、PETボトルと称する場合がある。)が多用されている。
特に、飲料用保存容器として、軽量性や耐久性に優れており、非常に利便性が高いことから、PETボトルが世界的に広く普及している。
一方で、このようなPETボトルが、使用後に河川に廃棄され、それが海洋流出等して、深刻な環境問題となっている。
そこで、このような環境問題を解決するために、このようなPETボトルの回収やリサイクル技術の研究が活発に行われている。
【0003】
又、PETボトルには、その名称や内容物に関する各種情報を表記し、かつ装飾性等を向上させるために、所定の表示ラベルが周囲に被覆されている。
すなわち、表示ラベルとして、ポリエステル系熱収縮フィルムを用いた表示ラベルを、PETボトルの周囲に対して、全面包装することが主流となっている。
より具体的には、良好な熱収縮性を得るために、非結晶性ポリエステル樹脂(PETG)に由来してなるポリエステル系熱収縮フィルムが多用されている。
【0004】
しかしながら、PETGの熱特性として、融点を有しておらず、かつ、熱収縮フィルムで包装されたPETボトルのリサイクル工程において、リサイクルペレット同士の互着を引き起こし易いという問題があった。
すなわち、熱収縮フィルムで包装された状態のPETボトルを、リサイクル工程において熱溶融させた場合に、
図11(a)に示すように、熱収縮フィルムに起因して、熱収縮フィルムを含むリサイクルペレット同士が互着して塊を生じ、配管の途中で目詰まりを生じさせるという問題が見られた。
従って、本来ならば、熱収縮フィルムを含めて、PETボトルを溶融させた場合に、得られるリサイクルペレット同士が互着せず、ペレタイザーを用いて、
図11(b)に示すように、所定形状のペレットを効果的かつ安定的に作成するということが、困難であるという問題が見られた。
【0005】
そこで、各種目的を達成すべく、リサイクル性を考慮して、所定融点を有する、結晶性ポリエステル樹脂に由来してなるポリエステル系熱収縮フィルムが、提案されている(特許文献1及び2)。
すなわち、特許文献1は、残余インクの悪影響を抑制しつつ、優れたリサイクル性等を得ることを目的としたポリエステル系熱収縮フィルムである。
より具体的には、例えば、80℃、10秒の熱処理の際、主収縮方向の熱収縮率が30%以上であり、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimetry、以下、単にDSCと称する場合がある。)で測定した融点が170~230℃の範囲等とするポリエステル系熱収縮フィルムである。
【0006】
又、特許文献2も、優れたリサイクル性等を得ることを目的としたポリエステル系熱収縮フィルムである。
より具体的には、
図12(a)~(b)に示すように、所定条件で測定されるクランピング分率を10%以下に制御し、特性曲線L6や、L6´が示すように、ポリエステル系熱収縮フィルムの融点や結晶化温度を制御することを意図した発明である。
そして、例えば、70℃、10秒間の主収縮方向の熱収縮率を0%~50%とし、80℃、10秒の主収縮方向の熱収縮率を30%~85%とし、100℃、10秒の主収縮方向の熱収縮率を40~90%の範囲とし、かつ、融点を170~240℃の範囲等に制限するポリエステル系熱収縮フィルムである。
【0007】
一方、特許文献3は、ポリエステル系熱収縮フィルムに対する印刷加工性等を向上させるとともに、所定温度範囲ごとに、熱収縮率の変化率を制限し、PETボトル等に装着した場合に、優れた仕上り性を発揮することを目的としたポリエステル系熱収縮フィルムである。
より具体的には、主収縮方向の熱収縮率の温度による変化率(%/℃)が、60~70℃の範囲で1.5~3.0、70~80℃の範囲で2.5~3.5、80~90℃の範囲で1.0~2.0、及び90~100℃の範囲で0.1~1.0であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2020-521823号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特表2022-510146号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2011-184690号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示されたポリエステル系熱収縮フィルムは、それぞれ所定条件下で測定される凝集分率や、クランピング分率の値を、所定値以下とし、それなりのリサイクル性が得られるものの、所定温度領域における熱収縮率の値がばらつきやすいという問題が見られた。
すなわち、幅広い範囲の融点を有する結晶性ポリエステル樹脂を用いていることから、いずれも所定温度範囲(60~100℃)、特に、70℃前後の温度領域における熱収縮率の値がばらつきやすいという問題が見られた。
そのため、熱収縮時における斑やシワ等が発生しやすくなり、外観性や装着性に劣ることから、未だ、ポリエステル系熱収縮フィルムのリサイクル性と、熱収縮性との間で、良好なバランスがとれなかった。
【0010】
一方、特許文献3に開示されたポリエステル系熱収縮フィルムは、所定条件下で測定されるクランピング分率について何ら考慮しておらず、使用済みのPETボトルに装着したままリサイクルした場合、固着現象(互着現象)が生じやすいという問題が見られた。
しかも、全実施例(実施例1~4)において、70℃、10秒における熱収縮率の値が約15~30%未満の範囲であって、相当低いことから、ポリエステル系熱収縮フィルムとしての使い勝手が悪く、かつ、安定的な熱収縮性が得られないという問題が見られた。
【0011】
そこで、本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意努力した結果、ポリエステル樹脂に由来したポリエステル系熱収縮フィルムであって、少なくとも原料樹脂としてのクランピング分率等の所定特性(A)~(B)、及び、ポリエステル系熱収縮フィルムとしての所定特性(C)、(D1)~(D4)を制御することによって、従来の問題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、ポリエステル系熱収縮フィルムが被覆された状態のPETボトルを一緒にリサイクルした場合であっても、所定形状のペレットを効果的かつ安定的に作成することができ、ひいては、熱収縮温度等が変化し、熱収縮率が所望範囲とならない場合であっても、それを修正し、装着性や外観性に優れたポリエステル系熱収縮フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、多価カルボン酸と、ポリアルコールとの反応生成物であるポリエステル樹脂に由来したポリエステル系熱収縮フィルムであって、下記特性(A)~(C)、及び(D1)~(D4)を有することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルムが提供され、上述した問題点を解決できる。
(A)APR Document Code:PET-S-08に準拠して測定される、ポリエステル樹脂と、他のPET樹脂との混合物におけるクランピング分率(以下、単に、クランピング分率と称する場合がある。)を1.2%以下の値とする。
(B)ポリエステル樹脂のDSCによって測定される融点を190~230℃の範囲内の値とする。
(C)ポリエステル系熱収縮フィルムのDSCによって測定される融点における融解ピーク面積に相当する融解熱量を25~45mJ/mgの範囲内の値とする。
(D1)60℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を0~5%の範囲内の値とする。
(D2)70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を25~50%の範囲内の値とする。
(D3)80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を55~85%の範囲内の値とする。
(D4)95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率の値の標準偏差を1.5%以下の値とする。
すなわち、このように構成(A)~(C)及び(D1)~(D4)を満足し、ポリエステル系熱収縮フィルムの原料樹脂であるポリエステル樹脂に対して、他のPET樹脂(リサイクルPET樹脂等)を混合し、一定条件下で測定してなるクランピング分率や、原料樹脂としてのポリエステル樹脂の融点、更には、融解熱量、所定温度における熱収縮率を所定範囲に制御することによって、リサイクル性と、熱収縮性のバランスを良好なものとすることができる。
従って、ポリエステル系熱収縮フィルムを所定のPETボトルに装着したまま、一緒にリサイクルできるとともに、比較的低温条件から、高温条件にかけて、熱収縮温度等が変化し、熱収縮率が所望範囲とならない場合であっても、それを修正し、装着性や外観性に優れたポリエステル系熱収縮フィルムを提供することができる。
【0013】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、特性(D4´)として、95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率を70%以上の値とすることが好ましい。
このように高温範囲の熱収縮率も制御することにより、それに対応して、比較的低温範囲の60~80℃における熱収縮率の値を所望範囲に制御しやすくなり、ひいては、フィルムの熱収縮時における装着性や外観性を更に良好なものとすることができる。
【0014】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、特性(D5)として、60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率が、下記関係式(1)を満足することが好ましい。
このように所定温度範囲において、熱収縮温度と、熱収縮率とが、所定の関係式(1)を満足することによって、それらの値を線形関数的に制御することができる。
従って、良好なリサイクル性を維持したまま、熱収縮温度等が変化し、熱収縮率が所望範囲とならない場合であっても、それを修正し、精度良く、かつ良好な熱収縮性を得ることができる。
【0015】
【0016】
a:関係式(1)の傾きに相当し、3.25以上、4以下の値
b:関係式(1)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【0017】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、特性(D5´)として、60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率が、下記関係式(2)を満足することが好ましい。
このように所定温度範囲において、熱収縮温度と、熱収縮率とが、所定の関係式(2)を満足することによって、良好なリサイクル性を維持したまま、より狭い範囲で、それらの値を線形関数的に制御することができる。
【0018】
【0019】
a´:関係式(2)の傾きに相当し、3.3以上、3.75以下の値
b´:関係式(2)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【0020】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、特性(D5´´)として、60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率が、下記関係式(3)を満足することが好ましい。
このように所定温度範囲において、熱収縮温度と、熱収縮率とが、所定の関係式(3)を満足することによって、更に狭い範囲で、それらの値を線形関数的に制御することができる。
【0021】
【0022】
a´´:関係式(3)の傾きに相当し、3.35以上、3.5以下の値
b´´:関係式(3)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【0023】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、特性(D6)として、70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向に直交する方向(MD方向)における熱収縮率を-3~5%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように所定温度条件のMD方向における熱収縮率についても制限することによって、PETボトルの周囲を被覆し、比較的低温で熱収縮させる際であっても、装着性や外観性が良好となり、結果として、文字や図形等の変形も少なくなって、正確な情報性等が得られやすくなる。
しかも、このようにMD方向における熱収縮率について制限することによって、ポリエステル系熱収縮フィルム全体の熱収縮性のバランスをとって、PETボトルと一緒にリサイクルしたとしても、粘着性や流動性等を制御して、ペレットを安定的に得ることができる。
【0024】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、フィルムの平均厚さを10~100μmの範囲内の値とし、かつ、所定条件下で測定される平均厚さの標準偏差を1.7μm以下の値とすることが好ましい。
このように、フィルム厚さ及びそのばらつきとしての標準偏差を制限することによって、リサイクル性と、熱収縮性のバランスが更に良好になって、精度良く制御された熱収縮性、透明性、更には、優れた機械的特性等を有するポリエステル系熱収縮フィルムを得ることができる。
【0025】
又、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムを構成するにあたり、ポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂との混合物であって、重量配合比を100:0~80:20の範囲内の値とすることが好ましい。
このように、かかる重量配合比を制御することによって、リサイクル性と、熱収縮性のバランスが更に良好になって、精度良く制御された熱収縮性、装着性、外観性、透明性、更には、優れた機械的特性等を有するポリエステル系熱収縮フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1(a)~(c)は、それぞれポリエステル系熱収縮フィルムの形態を説明するための図である。
【
図2】
図2(a)は、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成する際の最大延伸速度と、100℃、10秒での主収縮方向の熱収縮率の標準偏差との関係を説明するために供する図であり、
図2(b)は、同様に、最大延伸速度と、厚さの標準偏差との関係を説明するために供する図である。
【
図3】
図3は、所定最大延伸速度で作成したポリエステル系熱収縮フィルムにおける100℃、10秒での主収縮方向の熱収縮率の標準偏差と、クランピング分率の評価(相対値)との関係を説明するために供する図である。
【
図4】
図4は、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成する際の最大延伸速度と、結晶化熱量との関係を説明するために供する図である。
【
図5】
図5は、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成する際の最大延伸速度と、ポリエステル系熱収縮フィルムのガラス転移温度との関係を説明するために供する図である。
【
図6】
図6は、最大延伸速度と、融解熱量との関係を説明するために供する図である。
【
図7】
図7は、本発明における関係式(1)によって規定される領域(S1)を説明するために供する図である。
【
図8】
図8は、本発明における関係式(2)によって規定される領域(S2)を説明するために供する図である。
【
図9】
図9は、本発明における関係式(3)によって規定される領域(S3)を説明するために供する図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例1のポリエステル系熱収縮フィルムにおけるDSCチャートであり、
図10(b)は、実施例1等でクランピング分率を測定する際に用いたポリエステル樹脂(PET2)のDSCチャートである。
【
図11】
図11(a)は、従来のポリエステル系熱収縮フィルムで被覆されたPETボトルの互着状態を示す概念図であり、
図11(b)は、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムで被覆されたPETボトルに由来した、リサイクル工程で得られたリサイクルPET樹脂を示す概念図である。
【
図12】
図12(a)は、特許文献2(従来2)における、クランピング分率と、融点との関係を示す図であり、
図12(b)は、同特許文献2における、クランピング分率と、結晶化熱量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、
図1(a)~(c)に例示するように、多価カルボン酸と、ポリアルコールとの反応生成物であるポリエステル樹脂に由来したポリエステル系熱収縮フィルムである。
そして、下記特性(A)~(C)、及び(D1)~(D4)を満足することを特徴とするポリエステル系熱収縮フィルムが提供される。
(A)APR Document Code:PET-S-08に準拠して測定される、ポリエステル樹脂と、他のPET樹脂との混合物におけるクランピング分率を1.2%以下の値とする。
(B)ポリエステル樹脂のDSCによって測定される融点を190~230℃の範囲内の値とする。
(C)ポリエステル系熱収縮フィルムのDSCによって測定される融点における融解ピーク面積に相当する融解熱量を25~45mJ/mgの範囲内の値とする。
(D1)60℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を0~5%の範囲内の値とする。
(D2)70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を25~50%の範囲内の値とする。
(D3)80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を55~85%の範囲内の値とする。
(D4)95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率の値の標準偏差を1.5%以下の値とする。
以下、第1の実施形態のポリエステル系熱収縮フィルムを各構成要件に分けて、適宜、図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0028】
1.多価カルボン酸
ポリエステル樹脂の構成成分(原料成分)の一つとしての多価カルボン酸としては、ポリアルコールと反応し、ポリエステル構造を形成できる化合物であれば特に制限されるものではないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪酸ジカルボン酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、あるいは、これらのエステル形成性誘導体等の少なくとも一つが挙げられる。
【0029】
特に、テレフタル酸であれば、ポリアルコールと反応性が良好であって、結晶性のポリエステル構造を形成しやすく、かつ、比較的安価であって、経済的にも有利なことから好適である。
従って、使用する多価カルボン酸の全体量を100モル%としたときに、テレフタル酸の使用量を90モル%以上の値とすることが好ましく、95~100モル%の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0030】
2.ポリアルコール
(1)種類
又、ポリエステル樹脂の構成成分の一つとしてのポリアルコールは、複数の反応性水酸基を有する化合物であれば特に制限されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、あるいは、1,4-シクロヘキサンジメタノールと異なる脂環式ジオールや、芳香族ジオール等の少なくとも一つを配合することも好ましい。
このようなポリアルコールを用いることによって、多価カルボン酸と適度に反応させ、結晶性等が所定範囲に制御されたポリエステル樹脂が得られやすいためである。
【0031】
又、これらのポリアルコール中、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等から選ばれた1種以上のジオールを用いることがより好ましい。
すなわち、これらの特定ポリアルコールを用いることによって、多価カルボン酸と反応させて得られるポリエステル樹脂の融点、熱収縮率、熱収縮応力等を所定範囲内の値に、更に容易に調整できるためである。
【0032】
従って、使用するポリアルコールの全体量を100モル%としたときに、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等から選ばれた1種以上のジオールの使用量を90モル%以上の値とすることが好ましく、95~100モル%の範囲内の値とすることがより好ましい。
そして、必要に応じ、ポリエステル系熱収縮フィルムの熱特性や機械的特性を変化させるために、他のジカルボン酸及びジオール、あるいはヒドロキシカルボン酸を使用しても良く、それぞれ単独使用であっても、あるいは、混合物としての組み合わせであっても良い。
【0033】
(2)反応量
又、ポリアルコールの反応量も特に制限されるものではないが、通常、テレフタル酸等を80モル%以上含む多価カルボン酸100モルと、ポリアルコール130~220モルの割合で反応させることが好ましく、ポリアルコール150~210モルの割合で反応させることがより好ましく、ポリアルコール180~200モルの割合で反応させることが更に好ましく、かつ、これらの反応物を結晶化させてなるポリエステル樹脂であることが好適である。
【0034】
その場合、ポリエステル樹脂における結晶性の目安としては、JIS K 7122:2012に準拠して測定したDSC曲線から算出される結晶化度として、1~15%の範囲内の値とすることが好ましく、2~10%の範囲内の値とすることがより好ましく、3~8%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
すなわち、かかるDSC曲線において、融解ピーク面積から求められる融解熱量(ΔHm)及び結晶化ピーク面積から求められる結晶化熱量(ΔHc)と、結晶化ポリエチレンテレフタレートの完全結晶化熱量(ΔHm0)から、下式(4)に従って、ポリエステル樹脂の結晶化度を算出することができる。
【0035】
【0036】
ΔHm:融解熱量(J/g)
ΔHc:結晶化熱量(J/g)
ΔHm0:140.1J/g(結晶化ポリエチレンテレフタレートの完全結晶化熱量)
【0037】
3.ポリエステル樹脂
(1)クランピング分率
ポリエステル系熱収縮フィルムを構成する、原料樹脂としてのポリエステル樹脂の特性(A)として、APR Document Code:PET-S-08に準拠して測定される、ポリエステル樹脂及び他のPET樹脂の混合物である、ポリエステル樹脂等のクランピング分率を1.2%以下の値とする。
この理由は、かかるクランピング分率が1.2%を超えると、リサイクル性が著しく低下したり、熱収縮率のバラツキが大きくなったりする場合があるためである。その結果、熱収縮温度が多少変化した際の熱収縮時における斑やシワ等の発生を抑制したり、良好な装着性を維持したりすることが困難となる。
但し、クランピング分率を過度に小さな値とすると、歩留まりが著しく低下したり、あるいは、ポリエステル樹脂に使用する配合成分の種類等が過度に制限されたりする場合がある。
従って、ポリエステル樹脂等のクランピング分率を0.01~1%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.1~0.8%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0038】
なお、従来のポリエステル樹脂の場合、それから構成したポリエステル系熱収縮フィルムは、例えば、70℃、10秒の熱収縮率につき、0%~50%の範囲が好ましいとされており、そのため、融点が大きくばらつき、ひいては、S字状の特性曲線が変化しやすいと言える。
よって、従来のポリエステル樹脂の由来したポリエステル系熱収縮フィルムの場合、熱収縮温度がばらつき、所望する熱収縮率が得られない場合であっても、それを迅速かつ精度良く修正できないという状況であった。
それに対して、本発明の場合、熱収縮温度と、熱収縮率とが、線形関数的に変化することから、熱収縮温度がばらつき、一時的に所望する熱収縮率が得られない状況であっても、ポリエステル樹脂等のクランピング分率を制御するとともに、後述する関係式(1)~(3)等に準じて、所望の熱収縮率を安定的に得ることができる。
【0039】
なお、APR Document Code:PET-S-08に準拠してなる、ポリエステル樹脂等のクランピング分率は、下記測定条件によって、測定することができる。
1)オーブンを210℃に予備加熱する。
2)次いで、ポリエステル系熱収縮フィルムが装着された状態のPETボトル等を洗浄、水簸、結晶化させてなる、初期重量(1kg)のPETフレーク(ポリエステル樹脂及び他のPET樹脂の混合物に相当する)を、アルミホイルで裏打ちされた22x33cmのベーキングパンに収容する。
3)次いで、ベーキングパンに収容されたPETフレークを、所定温度に保持されたオーブンを用いて、90分間加熱処理する。
4)次いで、オーブンからベーキングパンを取り出し、そのまま室温まで冷却する。
5)ベーキングパンから、PETフレークを取り出し、開口部が12.5mmのステンレス製メッシュを備えたふるい上に収容する。
6)PETフレークを収容したふるいを、PETフレークの全量がふるい処理されまで、手で振動させる。そして、PETフレークがメッシュを通過するフレークにつき、下方で、回収する。なお、メッシュを通過できず、メッシュ上に残留するPETフレーク(凝集体)については、適宜取り除く。
7)メッシュを通過できない凝集体の重さを秤量する。又、アルミホイルに付着したPETフレークや、残留物についても、別々に秤量する。
8)初期重量(1kg)に対する、秤量したメッシュを通過できないPETフレーク(凝集体)や残留物等の重量から、クランピング分率を算出する。
【0040】
(2)融点
又、特性(B)として、ポリエステル系熱収縮フィルムの原料樹脂であるポリエステル樹脂の融点は、DSC曲線における融解ピークの最大値を示す温度と定義されるが、それを190~230℃の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる融点が190℃未満の値になると、PETボトルをリサイクルする際の乾燥工程において、ポリエステル系熱収縮フィルムを用いた表示ラベルが融解しやすくなる場合があるためである。それにより、PETボトルリサイクル片を、互着させ、凝集化(塊化)させる場合がある。
一方、かかる融点が、230℃を超えた値になると、ラベルに用いるポリエステル系熱収縮フィルムの原反シートの押出加工及び延伸加工に必要な熱量が高くなりすぎ、加工が困難になる場合があるためである。
【0041】
従って、ポリエステル樹脂の融点を195~225℃の範囲内の値とすることがより好ましく、200~220℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
すなわち、ポリエステル樹脂の融点の値の制御も重要であるが、その範囲(最大値と、最小値の差)を、25℃以下とすることにより、より好ましくは、15℃以下とすることにより、結晶性ポリエステル樹脂を主成分(例えば、80重量%以上)とした場合であっても、リサイクルと、熱収縮性とのバランスが更に良好になるためである。
そして、ポリエステル樹脂の融点は、例えば、DSCを用いて得られるプロフィールにおいて、吸熱反応として示される融解熱のピーク温度である融解ピーク温度(Tpm)として測定できる(以下、同様である)。
なお、かかる融解熱のピークにおける面積(ピーク面積)や半値幅等から、ポリエステル樹脂の結晶性を推定することができる。
【0042】
(3)平均分子量
又、ポリエステル樹脂の平均分子量としての、固有粘度(IV値)を0.65~0.85dL/gの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる固有粘度が、0.65dL/g未満の値になると、溶融粘度が低すぎて、押出成形性に問題が生じる場合があるためである。
一方、かかる固有粘度が、0.85dL/gを超えた値になると、溶融粘度が高すぎて、押出成形性にも問題が生じる場合があるためである。
【0043】
従って、固有粘度を0.68~0.83dL/gの範囲内の値とすることがより好ましく、0.7~0.8dL/gの範囲内の値とすることが更に好ましい。
すなわち、ポリエステル樹脂の固有粘度の値の制御も重要であるが、その範囲(最大値と、最小値の差)を、0.15dL/g以下等とすることにより、結晶性ポリエステル樹脂を主成分(例えば、80重量%以上)とした場合であっても、リサイクルと、熱収縮性とのバランスが更に良好になる。
なお、ポリエステル樹脂の固有粘度は、JIS K 7390に準拠して測定できる(以下、同様である)。
【0044】
(4)添加剤
又、ポリエステル樹脂には、必要に応じて酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、金属石鹸、ワックス、防かび剤、抗菌剤、造核剤、難燃剤、スリップ剤などの添加剤を配合することも好ましい。
特に、フィルム表面の滑り性を向上させるために、炭酸カルシウム系粒子、シリカ系粒子、ガラス系粒子等の無機系スリップ剤を、例えば、フィルムの全体量(100重量%)の0.01~10重量%の範囲で配合することが好ましい。
【0045】
又、添加剤の添加方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。但し、簡便かつ均一混合性に優れていることから、マスターバッチによる添加が好適である。
例えば、アンチブロッキング剤を配合する際のポリエステル樹脂系マスターバッチの具体例(市販品)として、Anti-Blocking Agent(Contains:20%Silica、Sukano社製、商品名:G dc S559-E)等が挙げられる。
その他、熱収縮フィルムの物性、特に収縮率や熱収縮応力を損なわない範囲で、他の樹脂を配合することも好ましい。
【0046】
(5)混合物
又、ポリエステル系熱収縮フィルムの原料樹脂としてのポリエステル樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂との混合物であって、重量配合比を100:0~80:20の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる重量配合比が80:20を上回ると、リサイクル性と、熱収縮性のバランスが悪くなって、安定的にリサイクルPETが得られないばかりか、所望温度範囲における熱収縮率のばらつきが大きくなる場合がある。
すなわち、通常は、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量を、ポリエステル樹脂の全体量(100重量%)に対して、少なくとも60重量%以上の値としなければ、良好な収縮性が得られないと言われていた。
しかしながら、本発明の場合、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量を、ポリエステル樹脂の全体量(100重量%)に対して、20重量%以下の値とする場合であっても、ポリエステル樹脂のクランピング分率、融点及びそのばらつき、融解熱量及びそのばらつき、平均分子量(固有粘度及びそのばらつき)や、更には、製造時の延伸条件(延伸温度、延伸倍率、熱工程温度等)を考慮することにより、良好な熱収縮性を得ることができる。
従って、結晶性ポリエステル樹脂と、非結晶性ポリエステル樹脂との混合物における重量配合比を99:1~85:15の範囲内の値とすることがより好ましく、98:2~90:10の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0047】
4.融解熱量(ΔHm)
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(C)として、ポリエステル系熱収縮フィルムの、DSCによって測定される融点における融解ピーク面積に相当する融解熱量(ΔHmと記載する場合がある。)を25~45mJ/mgの範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかるポリエステル系熱収縮フィルムの融解熱量が25mJ/mg未満の値になると、結晶化が不足するため、耐熱性が著しく低下し、ポリエステル系熱収縮フィルムが融解しやすくなる場合があるためである。
一方、かかるポリエステル系熱収縮フィルムの融解熱量が45mJ/mgを超えた値になると、結晶化は十分であるものの、ポリエステル系熱収縮フィルムの原反シートの押出加工及び延伸加工に必要な熱量が高くなりすぎ、製造条件の制御が困難になる場合があるためである。
従って、ポリエステル系熱収縮フィルムの融解熱量を28~40mJ/mgの範囲内の値とすることがより好ましく、30~35mJ/mgの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0048】
5.熱特性
(1)所定測定条件(60℃等)における熱収縮率D1
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D1)として、60℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を0~5%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、60℃、10秒の熱収縮条件で測定される熱収縮率が5%を超えると、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管期間が短くなったり、或いは、保管条件を厳格に制御したりしなければならない場合があるためである。
一方、かかる熱収縮率が、マイナス%になると、熱収縮フィルムとしての機能を全く発揮しない場合があったり、使用可能な原料成分の配合量や配合比が厳格に制限されたりする場合があるためである。
従って、特性(D1)に関し、60℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を0.1~4.5%の範囲内の値とすることが好ましく、0.5~4%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0049】
(2)所定測定条件(70℃等)における熱収縮率D2
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D2)として、70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を25~50%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる熱収縮率が25%未満の値になると、熱収縮フィルムとしての機能を安定的に発揮しない場合があったり、使用可能な原料成分の配合量や配合比が厳格に制限されたりする場合があるためである。
一方、かかる熱収縮率が50%を超えると、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管期間が短くなったり、或いは、保管条件を厳格に制御しなければならなかったり、更には、PETボトルに装着した場合に、斑やシワ等が生じやすくなるためである。
従って、特性(D2)に関し、70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を30~45%の範囲内の値とすることが好ましく、35~40%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0050】
(3)所定測定条件(80℃等)における熱収縮率D3
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D3)として、80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を55~75%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる熱収縮率が55%未満の値になると、ポリエステル系熱収縮フィルムとしての機能を安定的に発揮しない場合があったり、使用可能な原料成分の配合量や配合比が厳格に制限されたりする場合があるためである。
一方、かかる熱収縮率が75%を超えると、ポリエステル系熱収縮フィルムの保管期間が短くなったり、或いは、保管条件を厳格に制御しなければならなかったり、更には、PETボトルに装着した場合に、斑やシワ等が発生しやすくなる場合があるためである。
従って、特性(D3)に関し、80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向における熱収縮率を58~72%の範囲内の値とすることが好ましく、60~70%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0051】
(4)所定測定条件(100℃等)における熱収縮率(D4´)及びその標準偏差(D4)
(4)-1 熱収縮率
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D4´)として、95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率を70%以上の値とすることが好ましい。
この理由は、このように高温条件のTD方向における熱収縮率についても制限することにより、斑やシワ等の発生が少なくなり、ひいては、良好な外観性や装着性が得られるためである。
すなわち、PETボトルの周囲を被覆し、高温条件のみならず、比較的低温で熱収縮させた場合であっても、装着性が向上するばかりか、外観性が向上し、表面に積層した文字や図形等を精度良く認識することができる。
但し、かかる熱収縮率(D4´)を過度に大きくすると、歩留まりが著しく低下し、経済的に不利になったり、あるいは、ポリエステル樹脂に使用する配合成分の種類等が過度に制限されたりする場合がある。
従って、かかる熱収縮率(D4´)を71~90%の範囲内の値とすることがより好ましく、72~85%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0052】
(4)-2 熱収縮率の標準偏差
又、ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D4)として、95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率の標準偏差を1.5%以下の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる熱収縮率の標準偏差が1.5%を超えると、ポリエステル系熱収縮フィルムとしての機能を安定的に発揮しない場合があったり、使用可能な原料成分の配合量や配合比が厳格に制限されたりする場合があるためである。
但し、かかる熱収縮率の標準偏差が過度に小さくなると、製造上の歩留まりが過度に低下したり、使用可能な原材料の種類が過度に制限されたり、更には、保管条件を厳格に制御しなければならなかったりする場合があるためである。
従って、特性(D4)に関し、95℃~100℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率の標準偏差を0.05~1.0%の範囲内の値とすることが好ましく、0.1~0.8%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0053】
ここで、
図2(a)に言及して、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成する際の最大延伸速度と、100℃、10秒での主収縮方向の熱収縮率の標準偏差との関係を説明する。
すなわち、
図2(a)の横軸には、ポリエステル系熱収縮フィルムの作成時の最大延伸速度が採って示してあり、縦軸には、100℃、10秒で測定される主収縮方向の熱収縮率の標準偏差が採って示してある。
かかる
図2(a)中の特性曲線L1から、最大延伸速度が40%/sec.以上になって、60%/sec.程度になるまでは、熱収縮率の標準偏差が、0.3~0.5%の範囲内で、徐々に増大する傾向が見られている。又、最大延伸速度が60%/sec.を超えて、67%/sec.になると、熱収縮率の標準偏差が相当の割合で増大し、0.5%から、1.5%程度の値となる傾向が見られている。そして、最大延伸速度が67%/sec.を超えると、更に急激に熱収縮率の標準偏差が増加し、1.5%を超える値になっている。
【0054】
すなわち、係る特性曲線L1から、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムの場合、その作成時の最大延伸速度を所定範囲内の値に制御することによって、所定条件で測定される熱収縮率の標準偏差を低い所望値に安定的に制御できることが理解される。
例えば、最大延伸速度が、少なくとも40~67%/sec.の範囲内の値であれば、かかる熱収縮率(%)の標準偏差を1.5%以下の小さな値に制御できることが理解される。
ここで、最大延伸速度とは、フィルムの主収縮方向(TD方向)の最大延伸速度であって、ポリエステル系熱収縮フィルムを製造する際に、未延伸フィルムにつき、所定速度を変えて延伸する場合があるが、それが最大となる速度と定義される値である。
すなわち、未延伸フィルムの延伸開始後、数秒、例えば、0.1~12秒以内の延伸速度が最大となるため、その間の延伸速度の最大値を最大延伸速度とみなすことができる。
なお、TD方向の延伸速度は下記式によって定義することができる。
TD方向の延伸速度(%/sec.)=(Wt2-Wt1)/Wt1×100/(t2-t1)
Wt1:未延伸フィルムを延伸開始したのち、t1秒後のフィルムの幅(m)
Wt2:未延伸フィルムを延伸開始したのち、t2秒後のフィルムの幅(m)
(但し、t1<t2、0≦t1、0.1≦t2≦12である。)
【0055】
但し、
図2(a)中の比較例2や比較例3の場合、クランピング分率が、本発明(実施例5等)と比較して、相当大きいことが判明しており、本発明のように、クランピング分率が、少なくとも1.2以下の場合に、特性曲線L1が得られることに留意すべきである。
一方、後述するように、最大延伸速度を所定範囲内の値に制御することによって、
図2(b)中の特性曲線L1´が示すように、ポリエステル系熱収縮フィルムの厚さについての標準偏差についても、所望値に安定的に制御できている。
すなわち、特性曲線L1´の場合、クランピング分率が高い比較例2や比較例3の場合であっても、最大延伸速度に対して良好な相関性を示すことから、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける厚さの標準偏差については、クランピング分率を厳格に制御しない場合であっても、所定値に制御できることが理解される。
【0056】
又、
図3に言及し、所定熱収縮条件(100℃、10秒)で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率の標準偏差と、クランピング分率の評価との関係を説明する。
すなわち、横軸に、主収縮方向における熱収縮率の標準偏差(%)が採って示してあり、縦軸に、クランピング分率の評価結果(相対値)が採って示してある。
かかる
図3中の特性曲線L2から、主収縮方向における熱収縮率の標準偏差が小さい程、クランピング分率の評価結果(相対値)が高くなる傾向があると言える。
より具体的には、主収縮方向における熱収縮率の標準偏差が1.5%を境界として、それ以下であれば、少なくとも3以上の高い評価が得られ、熱収縮率の標準偏差(%)が1%以下であれば、最高評価である5という高い評価が得られることが理解される。
一方、主収縮方向における熱収縮率の標準偏差が1.5%を超えると、急激に、クランピング分率の評価結果が小さくなり、標準偏差が1.9%では、クランピング分率の評価結果が0であり、更に、標準偏差が2.6%では、クランピング分率の評価結果が確実に0である。
従って、
図3中の特性曲線から判断して、主収縮方向における熱収縮率の標準偏差を制御することによって、クランピング分率の評価結果を調整できることが理解される。
【0057】
なお、
図4、
図5、
図6に示すように、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成する際の最大延伸速度が、結晶化熱量、ガラス転移温度、及び融解熱量に対して、それぞれ、所定の相関関係があることが推認されるが、それらについては、第2の実施形態の製造方法において、詳細に説明する。
【0058】
(5)所定測定条件における熱収縮率D5
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D5)として、60~80℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向(TD方向)における熱収縮率が、下記関係式(1)を満足することが好ましい。
この理由は、このように所定温度範囲において、熱収縮温度と、熱収縮率とが、所定の関係式(1)を満足することによって、結晶性ポリエステル樹脂の配合割合が多い場合であっても、精度良く、かつ良好な熱収縮性を得ることができるためである。従って、ひいては熱収縮力の制御も容易となる。
【0059】
【0060】
a:関係式(1)の傾きに相当し、3.25以上、4以下の値
b:関係式(1)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【0061】
より具体的には、
図7に言及して、60~80℃、10秒の熱収縮条件の主収縮方向(TD方向)における熱収縮率の関係を、関係式(1)との関係で説明する。
すなわち、
図7の横軸に、熱収縮温度(℃)が採って示してあり、縦軸に、ポリエステル系熱収縮フィルムの主収縮方向(TD方向)における熱収縮率(%)が採って示してある。
かかる
図7中、上下方向に位置する2本の直線によって挟まれた斜線部分(S1)が、本発明の関係式(1)で規定される範囲であって、少なくとも60~80℃の範囲であれば、熱収縮温度の増加に対応して、熱収縮率が、線形関数的に増加することが理解される。
よって、熱収縮温度がばらつき、一時的に所望する熱収縮率が得られない状況であっても、後述する関係式(1)等に準じて、クランピング分率を制御することによって、ポリエステル系熱収縮フィルムの熱収縮率(%)を所望の範囲内の値に制御できると言える。
例えば、本発明における60、70、80℃における熱収縮率を所定範囲内に制御するに際して、関係式(1)等を用いることが極めて有効である。
なお、
図7中に、従来技術(特許文献2及び3)のポリエステル系熱収縮フィルムの熱収縮率(%)を従来2(Ex.1)及び従来3(Ex.1)と付した曲線で示す。
これらのD2及びD3の曲線の場合、熱収縮温度の低下に対応して、熱収縮率が、線形関数的に低下せず、全体的に、いわゆるS字状となることが判明している。その上、70℃近辺では、従来2(Ex.1)及び従来3(Ex.1)は、本発明の関係式(1)で規定される範囲から大きくはずれることが理解される。
【0062】
更に言えば、より好ましくは、特性(D5´)として、熱収縮温度と、熱収縮率とが、所定の関係式(2)及びを満足することであり、更に好ましくは、特性(D5´´)として、所定の関係式(3)を満足することである。
すなわち、
図8及び
図9中、それぞれ上下方向に位置する2本の直線によって挟まれた斜線部分(S2及びS3)が、それぞれ本発明の関係式(2)及び関係式(3)で規定される範囲である。そして、少なくとも60~80℃の範囲であれば、熱収縮温度の増加に対応して、熱収縮率が、より精度良く、線形関数的に増加することが理解される。
なお、
図7と同様に、
図8及び
図9中に、それぞれ従来技術(特許文献2及び3)のポリエステル系熱収縮フィルムの熱収縮率(%)を従来2(Ex.1)及び従来3(Ex.1)と付した曲線で示す。
【0063】
【0064】
a´:関係式(2)の傾きに相当し、3.3以上、3.75以下の値
b´:関係式(2)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【0065】
【0066】
a´´:関係式(3)の傾きに相当し、3.35以上、3.5以下の値
b´´:関係式(3)の定数に相当し、0以上、5以下の値
【0067】
(6)所定測定条件における、MD方向の熱収縮率D6
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D6)として、70℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向に直交する方向(MD方向)における熱収縮率を-3~5%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このように所定温度条件のMD方向における熱収縮率についても制限することによって、PETボトルの周囲を被覆し、比較的低温で熱収縮させる際であっても、斑やシワ等の発生がより少なくなるためである。
従って、省エネ加熱であっても、良好な装着性や外観性等が得られやすくなる。
その上、このようにMD方向における熱収縮率について制限することによって、ポリエステル系熱収縮フィルム全体の熱収縮性のバランスをとって、PETボトルと一緒にリサイクルしたとしても、粘着性や流動性等を制御して、ペレットを安定的に得ることができる。
よって、特性(D6)として、かかるMD方向における熱収縮率を-2.5~4%の範囲内の値とすることがより好ましく、-2~3.5%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0068】
(7)所定測定条件における、MD方向の熱収縮率D7
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D7)として、60~90℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向に直交する方向(MD方向)における熱収縮率が、少なくとも1つの極小値を有し、当該極小値を、-3%以上の値とすることが好ましい。
この理由は、所定温度条件のMD方向における熱収縮率のプロフィールが、所定大きさの極小値を有するように制限することによって、温度条件が多少ばらつき、熱収縮率が変化したような場合であっても、それを修正し、熱収縮させる際に、良好な外観や正確な情報性等が得られやすいことを、簡易な熱収縮曲線の実測やTMA測定等によって、より明確に判断できる。
しかも、所定温度範囲でのMD方向における熱収縮率を制限することによって、ポリエステル系熱収縮フィルム全体の熱収縮性のバランスをとることができ、発生する熱収縮応力を低減させ、かつ、PETボトルと一緒にリサイクルしたとしても、ペレットを更に安定的に得ることができる。
従って、特性(D7)として、かかるMD方向における熱収縮率の極小値を-1~2%の範囲内の値とすることがより好ましく、-0.5~1%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0069】
(8)所定測定条件における、MD方向の熱収縮率D8
ポリエステル系熱収縮フィルムの特性(D8)として、60~90℃、10秒の熱収縮条件で測定される、主収縮方向に直交する方向(MD方向)における熱収縮率が、少なくとも1つの極大値を有し、当該極大値を、3%以下の値とすることが好ましい。
この理由は、このように所定温度条件のMD方向における熱収縮率のプロフィールが、所定大きさの極大値を有するように制限することによって、熱収縮させる際に、良好な外観や正確な情報性等が得られやすく、かつ、発生する熱収縮応力が所定値以下であることを、より明確に判断できる。
なお、熱収縮率のプロフィールにおいて、所定大きさの極大値を有するに際して、更に、上述した所定大きさの極小値を同時に有することが好ましい。
従って、特性(D8)として、かかるMD方向における熱収縮率の極大値を-1~2%の範囲内の値とすることがより好ましく、-0.5~1.5%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0070】
6.厚さ
又、ポリエステル系熱収縮フィルムの厚さ(平均厚さ、以下、同様である。)は、各種PETボトルの形態に対応させて変更できるが、通常、10~100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるポリエステル系熱収縮フィルムの厚さが10μm未満の値になると、取り扱いが困難になって、破断強度等が著しく低下する場合があるためである。
一方、かかるポリエステル系熱収縮フィルムの厚さが100μmを超えると、所定温度で加熱した場合に、均一に熱収縮しない場合があったり、あるいは、均一な厚さに製造したりすることが困難となる場合があるためである。
従って、ポリエステル系熱収縮フィルムの厚さを20~70μmの範囲内の値とすることがより好ましく、40~60μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
そして、ポリエステル系熱収縮フィルムの厚さは、ISO4593に準拠して、マイクロメータ((株)ミツトヨ社製、製品名「シックネスゲージ547-401」)を用いて測定し、算出することができる。
【0071】
なお、
図2(b)をもとに上述したように、所定条件下で測定されるポリエステル系熱収縮フィルムの平均厚さのばらつきとしての標準偏差を、1.7μm以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる平均厚さの標準偏差を、所定値以下とすることにより、結晶性ポリエステル樹脂を主成分(例えば、80重量%以上)に由来したポリエステル系熱収縮フィルムとした場合であっても、リサイクル性と、熱収縮性とのバランスが更に良好になるためである。
但し、かかる平均厚さの標準偏差が過度に小さくなると、歩留まりが著しく低下し、経済的に不利になったり、あるいは、ポリエステル樹脂に使用する配合成分の種類等が過度に制限されたりする場合がある。
従って、ポリエステル系熱収縮フィルムの平均厚さの標準偏差を0.05~1.4μmの範囲内の値とすることがより好ましく、0.1~1.2μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、平均厚さの標準偏差の測定方法については、実施例1において、詳細に説明する。
【0072】
7.機能層
本発明の目的等を損なわない範囲において、ポリエステル系熱収縮フィルムは、必要に応じて各種機能を付与するための機能層を有することも好ましい。
かかる機能層としては、表面滑性、耐汚染性、耐候性等を付与するためのコーティング層、転写層、意匠性を付与するための印刷層等が挙げられる。
そして、これらの中でも、特に、界面活性剤を用いたコーティング層であれば、帯電防止性及び表面滑性の向上に大きく寄与することから、機能層として好ましい態様である。
【0073】
例えば、
図1(b)に示すように、これらの各種添加剤の少なくとも一つを含む他の樹脂層10a、10bを、ポリエステル系熱収縮フィルム10の片面、又は両面に、積層することも好ましい。
その場合、ポリエステル系熱収縮フィルムの厚さを100%としたときに、追加で積層する他の樹脂層の単層厚さ又は合計厚さを、通常、0.1~10%の範囲内の値とすることが好ましい。
そして、他の樹脂層を構成する主成分としての樹脂は、ポリエステル系熱収縮フィルムと同様のポリエステル樹脂であっても良く、あるいは、それとは異なるアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂等の少なくとも一つであることが好ましい。
【0074】
更に、ポリエステル系熱収縮フィルムを多層構造にして、加水分解防止効果や機械的保護を更に図ったり、あるいは、
図1(c)に示すように、ポリエステル系熱収縮フィルムの収縮率が、面内で均一になったりするように、ポリエステル系熱収縮フィルム10の表面に、収縮率調整層10cを設けることも好ましい。
かかる収縮率調整層は、ポリエステル系熱収縮フィルムの収縮特性に応じて、接着剤、塗布方式、あるいは加熱処理等によって、ポリエステル樹脂等からなる所定層として、積層できる。
【0075】
8.ヘイズ値及びヘイズ値/厚さ
(1)ヘイズ値
又、ASTM D1003に準拠して測定される、ポリエステル系熱収縮フィルムのヘイズ値を2~8%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるヘイズ値が8%を超えると、透明性が不良となり、ラベル作成の際に見栄えが悪くなる虞があるので好ましくないためである。
従って、かかるヘイズ値は、7%以下がより好ましく、6%以下が更に好ましい。
なおヘイズ値は、ヘイズメーター等を用いて測定することができるが、その値は、通常、小さいほど透明性が高くて好ましいが、実用上必要な滑り性を付与する目的でフィルムに所定量の滑剤を添加せざるを得ないこと等を考慮すると、2%程度が下限になる。
【0076】
(2)ヘイズ値/厚さ
又、ポリエステル系熱収縮フィルムのヘイズ値/厚さを0.15%/μm以下の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるヘイズ値/厚さが0.15%/μmを超えると、リサイクル性と、熱収縮性とのバランスの良さが低下する場合があるためである。
従って、かかるヘイズ値/厚さを、0.14%/μm以下の値とすることがより好ましく、0.13%/μm以下の値とすることが更に好ましい。
但し、かかるヘイズ値/厚さが過度に小さくなると、ポリエステル系熱収縮フィルムの製造管理や、配合材料の制限等が過度に厳格になる場合がある。
従って、かかるヘイズ値/厚さを、0.03%/μm以上の値とすることが好ましく、0.04%/μm以上の値とすることがより好ましく、0.05%/μm以上の値とすることが更に好ましい。
【0077】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態のポリエステル系熱収縮フィルムの製造方法である。以下、各工程に分けて、具体的に説明する。
【0078】
1.原材料の準備及び混合工程
原材料として、
図11(b)に示すようなリサイクルした結晶性ポリエステル樹脂ペレット、ゴム系樹脂、帯電防止剤、加水分解防止剤等の、主剤や添加剤を準備する。
かかる原材料の準備の際に、主成分となるリサイクルした結晶性ポリエステル樹脂ペレットを、所定温度(例えば、結晶化温度から-10℃低い温度)にて、所定時間(例えば、3~10時間)、加熱して、絶乾状態とすることが好ましい。
次いで、攪拌容器内に、秤量しながら、リサイクルした結晶性ポリエステル樹脂ペレット等を投入し、攪拌装置を用いて、均一になるまで、混合攪拌することが好ましい。
そして、結晶性ポリエステル樹脂として、リサイクルしてなる結晶性ポリエステル樹脂ペレット以外に、非リサイクルの結晶性ポリエステル樹脂ペレットを用いても良い。
すなわち、経済的には、結晶性ポリエステル樹脂として、リサイクルしてなる結晶性ポリエステル樹脂ペレットを比較的多く、例えば、全体量に対して、50重量%以上用いることが好ましい。
一方、クランピング分率、融点、融解熱量、ヘイズ値等を所望範囲に調整しやすくするためには、非リサイクルの結晶性ポリエステル樹脂ペレットを比較的多く、例えば、全体量に対して、50重量%以上用いることが好ましい
【0079】
2.原反シートの作成工程
次いで、典型的には、押し出し成形(T-ダイ法)、あるいは、インフレーション法やキャスト成形法により行い、所定厚さの原反シートを作成することが好ましい。
より具体的には、例えば、押出温度245℃の条件で、押出機により、押し出し成形を行い、所定厚さ(通常、200~300μm)の原反シートを得ることができる。
【0080】
3.ポリエステル系熱収縮フィルムの作成
次いで、得られた原反シートにつき、熱収縮フィルム製造装置(テンター)を用い、ロール上やロール間を移動させながら、加熱押圧して、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成する。
但し、かかる収縮性を発現させるための延伸処理方法としては、インフレーション法、ロール延伸法、テンター延伸法及びそれらの組み合わせが知られている。
そして、生産性がより良好なことから、キャスト成形法によるシート成形及びロール延伸とテンター延伸の組み合わせが更に好適である。
【0081】
すなわち、所定の予熱加熱温度、例えば、110~150℃の範囲内の温度において予熱しながら、所定の延伸温度、最大延伸速度、延伸倍率で、フィルム幅を基本的に拡大させながら、かつ、加熱押圧しながら、所定方向に延伸することにより、ポリエステル系熱収縮フィルムを構成するポリエステル樹脂の分子を所定状態に結晶化させることが好ましい。
そして、所定の熱固定温度、例えば、60~80℃の範囲内の温度において、その状態で固化させることによって、装飾やラベル等として用いられる熱収縮性のポリエステル系熱収縮フィルムを作成できる。
すなわち、通常、Tダイ法やインフレーション法等によってフィルム原反を製造した後、フィルム原反を樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱し、最大延伸速度を40~67%/sec.の範囲内の値、好ましくは45~62%/sec.の範囲内の値として、少なくとも主延伸方向(フィルム原反の幅方向、すなわち、TD方向)に3~8倍の範囲内の値、好ましくは4~6倍の範囲内の値に延伸することが好ましい。
【0082】
4.最大延伸速度の影響
(1)所定熱収縮率の標準偏差との関係
既に上述した
図2(a)中の特性曲線L1が示すように、所定のクランピング分率を有することを前提として、最大延伸速度と、100℃、10秒での主収縮方向の熱収縮率の標準偏差と、の間で所定の相関関係があることが見出されている。
又、
図2(b)中の特性曲線L1´が示すように、所定のクランピング分率を有することに関係なく、最大延伸速度と、厚さの標準偏差と、所定の相関関係があることが見出されている。そして、かかる特性曲線L1´から、最大延伸速度が40%/sec.未満になると、厚さの標準偏差が、少なくとも1.7μmを超えた値になることが理解される。
【0083】
(2)結晶化熱量との関係
又、
図4中の特性曲線L3が示すように、最大延伸速度と、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおける結晶化熱量との間に、所定の相関関係があることが見出されている。
すなわち、一定要件下、最大延伸速度の値を、所定範囲内とすることによって、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおける結晶化熱量の値を所望範囲の値に安定的に制御することができる。
例えば、最大延伸速度を40~65%/sec.の範囲に制御することによって、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおける結晶化熱量の値を12~15mJ/mgの範囲に制御することができる。
【0084】
(3)ガラス転移温度との関係
又、
図5中の特性曲線L4が示すように、最大延伸速度と、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおけるガラス転移温度との間には、所定の相関関係があることが見出されている。
すなわち、一定要件下、最大延伸速度の値を、所定範囲内とすることによって、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおけるガラス転移温度の値を所望範囲の値に安定的に制御することができる。
例えば、最大延伸速度を40~58%/sec.以下の範囲に制御することによって、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおけるガラス転移温度の値を74.5℃近辺に制御することができる。
又、例えば、最大延伸速度が58%/sec.を超えて、65%/sec.程度の範囲では、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおけるガラス転移温度の値が74.5℃近辺から、74.3℃近辺に低下する傾向が見られる。
更に、例えば、最大延伸速度が65%/sec.を超えた範囲では、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおけるガラス転移温度の値が、確実に、74.3℃以下に低下し、それが持続する傾向があることが理解される。
【0085】
(4)融解熱量(ΔHm)との関係
又、
図6中の特性曲線L5が示すように、最大延伸速度と、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおける融解熱量(ΔHm)との間に、それぞれ所定の相関関係(直線関係)があることが見出されている。
すなわち、一定要件下、最大延伸速度の値を、例えば、40~65%/sec.の範囲内とすることによって、得られるポリエステル系熱収縮フィルムにおける結晶化温度や、融解熱量を所望値に、直線関係を利用して、安定的に制御することができる。
逆に、最大延伸速度の値が、例えば、65%/sec.を超えると、相関関係(直線関係)が低下することから、融解熱量を所望値に制御しにくくなることが理解される。
【0086】
5.ポリエステル系熱収縮フィルムの検査工程
作成したポリエステル系熱収縮フィルムにつき、連続的又は間断的に、下記特性等を測定し、所定の検査工程を設けることが好ましい。
すなわち、所定の検査工程によって、下記特性等を測定し、所定範囲内の値に入ることを確認することによって、より均一な収縮特性等を有するポリエステル系熱収縮フィルムとできる。
1)ポリエステル系熱収縮フィルムの外観についての目視検査
2)厚さのばらつき測定
3)引張強度測定(ASTM D882)
4)引張伸び測定(ASTM D882)
5)表面滑り性検査(ASTM D1894)
6)比重測定(ASTM D792)
7)リングクラッシュ試験(TAPPI T882)
8)引裂強度測定(ASTM D1922)
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例に基づき、詳細に説明する。但し、特に理由なく、本発明の権利範囲が、実施例の記載によって狭められることはない。
又、実施例1等において用いた結晶性ポリエステル樹脂及び非結晶性ポリエステル樹脂等は、以下の通りである。
なお、非結晶性ポリエステル樹脂の欄に記載した固有粘度(IV値)は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(重量比=1/1)の混合溶媒中、温度30℃で、ウベローデ粘度計を用いて測定した。
【0088】
(PET1)
結晶性ポリエステル樹脂として、PET1(Eastman Chemical社製、商品名「Embrace Encore」、ガラス転移温度(Tg):74℃、融点:217℃、密度:1.3g/cm
3)を準備した。
(PET2)
結晶性ポリエステル樹脂として、PET1とは異なる結晶性ポリエステル樹脂として、PET2(ジカルボン酸:テレフタル酸98.6モル%、イソフタル酸1.4モル%、ジオール:エチレングリコール97.3モル%、ジエチレングリコール2.7モル%からなる、結晶性ポリエステル樹脂(ガラス転移温度(Tg):78℃、融点:251℃、固有粘度(IV値):0.72、密度:1.3g/cm
3))を準備した。すなわち、市販のPETボトルをリサイクルし、
図11(b)に示すように、ペレット化した結晶性ポリエステル樹脂である。
なお、PET2は、後述する実施例における評価1(クランピング分率)でのみ用いられた。
又、
図10(b)に、JIS K7121:2012に準拠し、DSC測定によって得られるPET2のDSCチャートの例を示す。
すなわち、DSC装置を用い、Step1として、昇温速度10℃/minで、30℃から300℃まで、測定試料を昇温する。
次いで、Step2として、降温速度100℃/minで、300℃から0℃まで急激に一旦降温させる(
図10(b)中では図示せず)。
更に、Step3として、昇温速度10℃/minで、0℃から300℃まで昇温させる。
そして、Step1、Step3において得られたDSC曲線の比熱変化点の温度や、発現したピーク点の温度等から、PET2の特性を規定するガラス転移温度や融解ピーク等を精度良く判別することができる。
【0089】
(PETG)
非結晶性ポリエステル樹脂として、PETG(ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールからなる非結晶性ポリエステル(Eastman Chemical社製、商品名「Embrace LV」、ガラス転移温度(Tg):68.2℃、融点無し、固有粘度(IV値):0.7、密度:1.3g/cm3))を準備した。
【0090】
(添加剤)
添加剤(ブロッキング防止剤)として、ポリエチレンテレフタレート樹脂80質量部に対し、シリカを20質量部配合してなるシリカマスターバッチ(Sukano社製、商品名「G dc S559-E」、20重量%のSilica含有品)を準備した。
【0091】
[実施例1]
1.ポリエステル系熱収縮フィルムの作成
結晶性ポリエステル樹脂として、上述したPET1を準備した。
次いで、攪拌容器内に、準備したPET1を1000g投入した。
又、熱収縮フィルムのアンチブロッキング剤として、所定条件で乾燥させた上述のAnti-Blocking Agentを、PET1を100重量部としたときに、1重量部の割合で配合し、熱収縮フィルム形成用原料とした。
【0092】
次いで、この熱収縮フィルム形成用原料を、ベント式2軸押出機を用いて押出温度245℃の条件で、押出機により、押し出し成形を行い、厚さ250μmの原反シートを得た。
最後に、熱収縮フィルム製造装置を用い、原反シートから、予熱加熱温度125℃、最大延伸速度56%/sec.、延伸温度86℃、熱固定温度72℃、延伸倍率(MD方向:1.07倍、TD方向:4.8倍)で、設定厚さ50μmのポリエステル系熱収縮フィルムを作成した。
【0093】
2.ポリエステル系熱収縮フィルムの評価
(1)評価1(クランピング分率)
表1に示すように、PET1と、PET2と、PETGを適宜配合し、それからポリエステル樹脂を得た。
次いで、APR Document Code:PET-S-08に準拠して、ポリエステル樹脂(結晶性ポリエステル樹脂、又は、非結晶性ポリエステル樹脂、あるいはそれらの混合物)のクランピング分率を測定し、下記基準に沿って評価した。
◎:クランピング分率が1%以下である。
〇:クランピング分率が1.2%以下である。
△:クランピング分率が1.4%以下である。
×:クランピング分率が1.4%超である。
【0094】
(2)評価2(ポリエステル系熱収縮フィルムのDSC測定)
得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、DSC装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、製品名「DSC7000X」)を用い、所定条件下に、融点(融解ピーク温度)等を測定した。
より具体的には、ポリエステル系熱収縮フィルムのサンプルをドライオーブンで60℃にて6時間以上乾燥させた。
次いで、当該サンプルを、示差走査熱量計にセットして、Step1(昇温速度10℃/minで、25℃から250℃まで昇温)で一旦高温域まで昇温させた。
次いで、Step2(降温速度10℃/minで、250℃から25℃まで降温)で一旦低温域まで降温させた。最後に、Step3(昇温速度10℃/minで、25℃から250℃まで昇温)で再度高温域に昇温させた。
そして、
図10(a)に示すように、得られたDSC曲線から、ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化熱量、融点(融解ピーク温度)、及び融解ピーク面積に相当する融解熱量(ΔHm)をそれぞれ測定した。
【0095】
(3)評価3(熱収縮率)
得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、ASTM D2732-08に準拠して、熱収縮率を測定した。
すなわち、主収縮方向(TD方向)に沿った長さが100mm、非収縮方向(MD方向)に沿った長さが100mmの四角形状となるように切断し、それを測定試料とした。
次いで、得られたポリエステル系熱収縮フィルムを、10℃きざみで、60、70、80、90、100℃に、それぞれ温度制御された温水を内部に収容した恒温槽に、それぞれ10秒間浸漬し、熱収縮させた。
次いで、各温度において、加熱処理前後の寸法変化から、下式(5)に準じて、主収縮方向(TD方向)及び非収縮方向(MD方向)の熱収縮率(%)をそれぞれ算出した。
【0096】
【0097】
(4)評価4(熱収縮率の標準偏差)
得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、下記の手順でASTM D2732-08に準拠して、熱収縮率を測定し、標準偏差を算出した。
まず、得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、幅方向に均等に、8個の測定試料を取得した。
すなわち、主収縮方向(TD方向)に沿った長さが100mm、非収縮方向(MD方向)に沿った長さが100mmの四角形状となるように切断し、それを測定試料として8個準備した。
次いで、前処理として、準備した8個の測定試料を、23℃、50%RHの雰囲気下に40時間以上放置した。
次いで、前処理した8個の測定試料を、100℃に、温度制御された温水を内部に収容した恒温槽に、それぞれ10秒間浸漬し、熱収縮させた。
次いで、加熱処理前後の寸法変化から、上式(5)に準じて、主収縮方向(TD方向)の熱収縮率(%)をそれぞれ算出した。
次いで、算出された8個の測定試料の熱収縮率から、標準偏差を更に算出し、下記基準に沿って、評価した。
◎:熱収縮率の標準偏差が、1.0%以下である。
○:熱収縮率の標準偏差が、1.5%以下である。
△:熱収縮率の標準偏差が、2.5%以下である。
×:熱収縮率の標準偏差が、2.5%超である。
【0098】
(5)評価5及び6(厚さ及び標準偏差)
得られたポリエステル系熱収縮フィルムの厚さを、ISO4593に準拠して、マイクロメータ((株)ミツトヨ社製、製品名「シックネスゲージ547-401」)を用いて、フィルムの幅方向に均等間隔で20点測定し、その平均値を算出して、厚さ(平均厚さ)とした。
又、得られたポリエステル系熱収縮フィルムの厚さ(平均厚さ)の算出に用いた20点の測定値から、標準偏差を更に算出し、下記基準に沿って、評価した。
◎:厚さの標準偏差が、1.4μm以下である。
○:厚さの標準偏差が、1.7μm以下である。
△:厚さの標準偏差が、2μm以下である。
×:厚さの標準偏差が、2μm超である。
【0099】
(6)評価7(ヘイズ値)
得られたポリエステル系熱収縮フィルムにつき、ASTM D1003に準拠して、ヘイズメーター(BYK社製、製品名「haze-gard dual」)を用いてヘイズ値を測定し、下記基準に準じて評価した。
◎:ヘイズ値が7%以下である。
〇:ヘイズ値が8%以下である。
△:ヘイズ値が10%以下である。
×:ヘイズ値が10%を超えている。
【0100】
(7)評価8(装着性/外観性)
市販の飲料水が充填された状態のナス型のPETボトル(商品名「Limmi Lemon Juice」、容積:200ml)を準備した。
次いで、ポリエステル系熱収縮フィルムを幅20.5cmにスリットして得た、長尺状のサンプルに対して、幅方向の端部に1,3-ジオキソランを塗布した。
次いで、重ね代が約1cmとなるように、幅方向の端部同士を重ね合わせて接着し、直径約6.2cmの筒状ラベルとした。更に、この筒状ラベルを長手方向に11cm毎に切り出し、複数の筒状ラベルを得た。
次いで、当該筒状ラベルを準備した、概ね円柱状のPETボトルの胴部に被せ、80℃に保持された蒸気トンネルの中を、ベルトコンベアの上にのせるとともに、8秒間加熱しつつ移動させ、筒状ラベルが、概ね円柱状のPETボトルの胴部の上部から下部にわたって密着するよう熱収縮させた。
【0101】
次いで、熱収縮後の筒状ラベルにつき、PETボトルに対して、所定長さ(5mm以上)や所定幅(1mm以上)の条件で密着していない装着不良が発生していないか、あるいは、斑やシワの発生性を目視観察し、以下の基準に沿って、装着性を評価した。
◎:筒状ラベルの5個中、全てに装着不良や、斑やシワの発生が観察されなかった。
○:筒状ラベルの5個中、3個以上に装着不良や、斑やシワの発生が観察されなかった。
△:筒状ラベルの5個中、1個以上に装着不良や、斑やシワの発生が観察されなかった。
×:筒状ラベルの5個中、全てに装着不良や、斑やシワの発生が観察された。
【0102】
[実施例2]
実施例2において、表1に示すように、予備加熱温度(℃)及び最大延伸速度(%/sec.)等を変えた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。それぞれ得られた結果を表2に示す。
【0103】
[実施例3]
実施例3において、ポリエステル系熱収縮フィルムの設定厚さを45μmとし、表1に示すように、最大延伸速度(%/sec.)等を変えた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。それぞれ得られた結果を表2に示す。
【0104】
[実施例4~5]
実施例4~5において、表1に示すように、延伸温度(℃)、熱固定温度(℃)及び最大延伸速度(%/sec.)等を変えた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。それぞれ得られた結果を表2に示す。
【0105】
[実施例6]
実施例6において、表1に示すように、PET樹脂として、上述したPET1及びPETG(配合比=80/20)を用いた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0106】
[比較例1]
比較例1において、表1に示すように、予備加熱温度(℃)、延伸温度(℃)、及び最大延伸速度(%/sec.)等を変えた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0107】
[比較例2]
比較例2において、表1に示すように、PET樹脂として、上述したPET1及びPETG(配合比=80/20)を用い、予備加熱温度(℃)、延伸温度(℃)、熱固定温度(℃)、及び最大延伸速度(%/sec.)等を変えた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0108】
[比較例3]
比較例3において、表1に示すように、PET樹脂として、上述したPET1及びPETG(配合比=60/40)を用い、予備加熱温度(℃)、延伸温度(℃)、熱固定温度(℃)、及び最大延伸速度(%/sec.)等を変えた他は、実施例1と同様に、ポリエステル系熱収縮フィルムを作成し、評価した。得られた結果を表2に示す。
【0109】
【0110】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明によれば、少なくともクランピング分率等の所定特性(A)~(C)、及び熱収縮率に関する(D1)~(D4)を制御することによって、リサイクル性と、熱収縮性のバランスが良好になった。
すなわち、リサイクルPETのように、主として結晶性のポリエステル樹脂を用い、その所定のクランピング分率等を厳格に制御することによって、ポリエステル系熱収縮フィルムが装着されたままのPETボトルをリサイクルした場合であっても、互着現象を有効に防止し、所望のリサイクルペレットを効果的かつ安定的に作成できるようになった。
又、それにより、ポリエステル系熱収縮フィルムにおける熱収縮率や厚さのばらつきを小さくし、熱収縮時に発生する熱収縮応力等を制御して、幅広い温度領域において、優れた装着性や外観性を発揮するポリエステル系熱収縮フィルムを提供できるようになった。
【0112】
しかも、本発明のポリエステル系熱収縮フィルムによれば、その厚さによらず、かつ、熱収縮温度等が多少変化し、所望の熱収縮率が得られないような場合であっても、精度良く修正し、熱収縮率を所望の範囲に制御することができるようになった。
従って、各種PETボトル等に対して、優れた装着性や外観性を発揮でき、そればかりか、各種PETボトル等に装着したまま、一緒にリサイクルできることから、環境性や経済性を維持したまま、汎用性を著しく広げることができ、その産業上の利用可能性は極めて高いと言える。
【符号の説明】
【0113】
10:ポリエステル系熱収縮フィルム
10a:他の樹脂層1
10b:他の樹脂層2
10c:収縮率調整層
【国際調査報告】