(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-10
(54)【発明の名称】ノンアルコール酒類と発酵飲料に適するクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279及びLRCC 8325
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20251003BHJP
C12G 1/00 20190101ALI20251003BHJP
C12G 3/00 20190101ALI20251003BHJP
C12C 7/00 20060101ALI20251003BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20251003BHJP
【FI】
C12N1/16 G ZNA
C12G1/00
C12G3/00
C12C7/00
C12N15/31
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025514720
(86)(22)【出願日】2023-12-20
(85)【翻訳文提出日】2025-03-10
(86)【国際出願番号】 KR2023021037
(87)【国際公開番号】W WO2025063396
(87)【国際公開日】2025-03-27
(31)【優先権主張番号】10-2023-0126551
(32)【優先日】2023-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り KMB 50th Anniversary 2023 Annual Meeting & International Symposium 開催案内の写し
(71)【出願人】
【識別番号】525086950
【氏名又は名称】ロッテ チルスン ビバレッジ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ミンジュ
(72)【発明者】
【氏名】イム,アヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ミン,ビョンジク
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ソクミン
(72)【発明者】
【氏名】クァク,ウンクォン
(72)【発明者】
【氏名】シム,フスン
(72)【発明者】
【氏名】クァク,ジュンギ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ギョンヘウォン
【テーマコード(参考)】
4B065
4B128
【Fターム(参考)】
4B065AA72X
4B065AC14
4B065BC03
4B065BD43
4B065CA06
4B065CA41
4B128AC09
4B128AG01
4B128AS15
4B128AS18
4B128BL11
4B128BL13
4B128CP38
(57)【要約】
本発明は、ノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料の製造に適するクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)LRCC 8325菌株、クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株及びその用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株。
【請求項2】
KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール生産用組成物。
【請求項3】
KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール含有食品。
【請求項4】
前記食品は、飲料水、茶、ドリンク剤、マッコリ、焼酎、ウィスキー、ワイン、ビール、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含む、請求項3に記載のエタノール含有食品。
【請求項5】
基質の存在下で、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株を培養するステップを含み、
前記基質は、麦汁又は根野菜抽出物を含み、
前記根野菜は、クズ、ゴボウ、ショウガ、キキョウ、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含む、エタノール含有食品の製造方法。
【請求項6】
前記菌株を培養するステップは、5℃~35℃で、12時間~72時間行われる、請求項5に記載のエタノール含有食品の製造方法。
【請求項7】
前記菌株を培養するステップは、前記菌株の初期接種濃度が105CFU/ml~107CFU/mlである、請求項5に記載のエタノール含有食品の製造方法。
【請求項8】
KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株。
【請求項9】
KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール生産用組成物。
【請求項10】
KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール含有食品。
【請求項11】
前記食品は、飲料水、茶、ドリンク剤、マッコリ、焼酎、ウィスキー、ワイン、ビール、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含む、請求項10に記載のエタノール含有食品。
【請求項12】
基質の存在下で、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株を培養するステップを含み、
前記基質は、麦汁又は根野菜抽出物を含み、
前記根野菜は、クズ、ゴボウ、ショウガ、キキョウ、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含む、エタノール含有食品の製造方法。
【請求項13】
前記菌株を培養するステップは、5℃~35℃で、12時間~72時間行われる、請求項12に記載のエタノール含有食品の製造方法。
【請求項14】
前記菌株を培養するステップは、菌株の初期接種濃度が105CFU/ml~107CFU/mlである、請求項12に記載のエタノール含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2023年9月21日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2023-0126551号に対して優先権を主張し、当該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、ノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料の製造に適するクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)LRCC 8325菌株、クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、飲料市場がより具体化且つ細分化するに伴って消費者のニーズに特化した製品が市販されており、中でも、酒類市場では無アルコール(Alcohol-free)飲料又は低アルコール(Non-Alcohol及びLow-Alcohol)飲料の人気が高まっている。特に、近年のCOVID-19のような感染病の流行によって外出と酒屋への出入りが制限されながら、消費者たちが家で一人で酒類を楽しむ、いわゆる一人飲みや家飲みが増え、上記のような飲料の人気はより一層高まっている。
【0004】
一方、全世界的に家飲みがトレンドになる中、1回平均飲酒量は減ったが、飲酒回数は増えた。特に、家事と育児活動が増えた女性たちがストレス解消用に酒を飲みながら、女性層の酒類消費が多くなった。また、家で家族と一緒に又は一人で軽く飲む雰囲気が作られながら、果実酒、低アルコール、カクテルなどの低アルコール酒類の製品が大人気を得ており、若い者たちもここに関心を有しながら関連市場が大きく拡大しつつある。
【0005】
韓国酒類市場において無アルコール(Alcohol-free)飲料は、アルコール含有量が1%未満の飲料で、酒類に該当しないものを意味し、酵母を使用しない非発酵製造工程によって製造される。低アルコール飲料は、アルコール含有量が約1%~3%程度と低い酒類を意味し、既存ビール製造工程の最後の濾過段階で分離工法を用いてアルコールのみを選択的に除去するか、発酵過程を短時間で終えてアルコールの生成を防ぐことによって製造される。
【0006】
ただし、このような製造工程では発酵ビール固有の香りと味が阻害されてしまい、消費者のニーズを充足させるために香味成分を人工的に添加しているのが実情である。これを克服するために、マルトース(maltose)に対する利用性が低い酵母を活用する方案が提案されたことがあるが、遺伝子組換え生命体(Genetically Modified Organism;GMO)などを活用する方案であるがため、消費者の不安をなくすには依然として足りない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するために案出されたものであり、ノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料の製造に適しながらも遺伝子組換えをしていないクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)LRCC 8325菌株及びその用途を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、遺伝子組換えをしていないクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株及びその用途を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の目的は、以上に言及した目的に限定されない。本発明の目的は、以下の説明からより明確になり得、特許請求の範囲に記載する手段及びその組合せによって実現されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本発明の一実施例は、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株に関する。
【0012】
本発明の他の実施例は、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びそれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール生産用組成物に関する。
【0013】
本発明の他の実施例は、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びそれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール含有食品に関する。
【0014】
前記食品は、飲料水、茶、ドリンク剤、マッコリ、焼酎、ウィスキー、ワイン、ビール、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含んでよい。
【0015】
本発明の他の実施例は、基質の存在下で、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株を培養するステップを含む、エタノール含有食品の製造方法に関する。
【0016】
前記基質は、麦汁、クズ、ゴボウ、ショウガ、キキョウ、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含んでよい。
【0017】
前記基質の糖度は、10プラトー(plato)~11プラトーであってよい。
【0018】
前記菌株を培養するステップは、5℃~35℃で、12時間~72時間行われてよい。
【0019】
前記菌株を培養するステップは、菌株の初期接種濃度が105CFU/ml~107CFU/mlであってよい。
【0020】
本発明の一実施例は、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株に関する。
【0021】
本発明の他の実施例は、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール生産用組成物に関する。
【0022】
本発明の他の実施例は、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール含有食品に関する。
【0023】
前記食品は、飲料水、茶、ドリンク剤、マッコリ、焼酎、ウィスキー、ワイン、ビール、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含んでよい。
【0024】
本発明の他の実施例は、基質の存在下で、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株を培養するステップを含む、エタノール含有食品の製造方法に関する。
【0025】
前記基質は、麦汁、クズ、ゴボウ、ショウガ、キキョウ、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含んでよい。
【0026】
前記基質の糖度は、10プラトー(plato)~11プラトーであってよい。
【0027】
前記菌株を培養するステップは、5℃~35℃で、12時間~72時間行われてよい。
【0028】
前記菌株を培養するステップは、菌株の初期接種濃度が105CFU/ml~107CFU/mlであってよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の分離同定した新規菌株を利用すると、別のエタノール除去工程を行わずに、又は遺伝子組換え生命体(Genetically Modified Organism;GMO)を利用せずに、エタノール含有量が約1%~3%程度と低いノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料を製造することができる。
【0030】
また、本発明によって製造されたノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料は、花香が強く、脂肪香及び油香は弱いため、芳しいながらすっきりした味を具現することができる。
【0031】
また、本発明に係る菌株を利用すると、ノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料の製造工程上の効率を向上させ、費用を節減でき、様々な根野菜を用いて発酵飲料を製造することができる。
【0032】
本発明の効果は、以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は、以下の説明から推論可能なあらゆる効果を含むものと理解されるべきであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施例に係るクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)LRCC 8325菌株(以下、LRCC 8325菌株)の系統樹(phylogenetic tree)を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例に係るクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株(以下、LRCC 8279菌株)の系統樹を示す図である。
【
図3】LRCC 8325及びLRCC 8279菌株の非配糖体化酵素活性を確認した写真である。
【
図4】単一糖を含む培地で酵母のアルコール生成能を分析したグラフである。
【
図5】混合糖を含む培地で酵母のアルコール生成能を分析したグラフである。
【
図6】10℃の培養温度で培養時間による酵母のアルコール生成能及び生長性を分析したグラフである。
【
図7】15℃の培養温度で培養時間による酵母のアルコール生成能及び生長性を分析したグラフである。
【
図8】20℃の培養温度で培養時間による酵母のアルコール生成能及び生長性を分析したグラフである。
【
図9】25℃の培養温度で培養時間による酵母のアルコール生成能及び生長性を分析したグラフである。
【
図10】30℃の培養温度で培養時間による酵母のアルコール生成能及び生長性を分析したグラフである。
【
図11】本発明の一実験例によって酵母を用いて麦汁を発酵する場合にアルコール生成量を分析したグラフである。
【
図12】本発明の一実験例によって酵母を用いて麦汁を発酵する場合にRE(Real Extract)を算出したグラフである。
【
図13】本発明の一実験例によって酵母を用いて麦汁を発酵する場合にRDF(Real degree of fermentation)を算出したグラフである。
【
図14】本発明の一実験例によって気体クロマトグラフィー質量分析法(Gas chromatography/Mass spectrometer;GC-MS)を用いて麦汁発酵物の香り成分を比較分析したグラフである。
【
図15】本発明の一実験例によって麦汁発酵物の香りパターンによる類似度を分析したものである。
【
図16】根野菜濃縮液を発酵する場合に、アルコール生成量及び生菌数を分析したグラフである。
【
図17】本発明の一実験例によってクズのGC-MSによる香り成分を比較分析したグラフである。
【
図18】本発明の一実験例によってクズの香りパターンによる類似度を分析したものである。
【
図19】本発明の一実験例によってゴボウのGC-MSによる香り成分を比較分析したグラフである。
【
図20】本発明の一実験例によってゴボウの香りパターンによる類似度を分析したものである。
【
図21】本発明の一実験例によってショウガのGC-MSによる香り成分を比較分析したグラフである。
【
図22】本発明の一実験例によってショウガの香りパターンによる類似度を分析したものである。
【
図23】本発明の一実験例によってキキョウのGC-MSによる香り成分を比較分析したグラフである。
【
図24】本発明の一実験例によってキキョウの香りパターンによる類似度を分析したものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株。
【0035】
KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株。
【実施例】
【0036】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は、添付の図面と関連した以下の好ましい実施例から容易に理解されるであろう。ただし、本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態で具体化されてもよい。むしろ、ここで紹介される実施例は、開示された内容が徹底且つ完全になり得るように、そして通常の技術者に本発明の思想が十分に伝達され得るようにするために提供されるものである。
【0037】
各図の説明において類似の参照符号を類似の構成要素に対して使用した。添付の図面において、構造物の寸法は、本発明の明確性のために実際よりも拡大して示される。第1、第2などの用語は、様々な構成要素を説明するために使われてよいが、これらの構成要素は当該用語によって限定されてはならない。これらの用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的で使われるだけである。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しない範囲で第1構成要素は第2構成要素と命名されてよく、類似に、第2構成要素も第1構成要素と命名されてよい。単数の表現は、文脈において特に断らない限り、複数の表現を含む。
【0038】
本明細書において、「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部分品又はこれらを組み合わせたものの存在又は付加の可能性をあらかじめ排除しないものと理解されるべきである。また、層、膜、領域、基質などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合に、これは、他の部分の「真上に」ある場合だけでなく、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。同様に、層、膜、領域、基質などの部分が他の部分の「下に」あるとする場合に、これは、他の部分の「真下に」ある場合だけでなく、その中間にさらに他の部分がある場合も含む。
【0039】
別に断りのない限り、本明細書で使われる成分、反応条件、成分の含有量を示す全ての数字、値及び/又は表現は、これらの数字が本質的に異なる物からこのような値を得る上で発生する測定の様々な不確実性が反映された近似値である点から、全ての場合において「約」という用語で修飾されるものと理解されるべきである。また、本記載において数値範囲が開示される場合に、このような範囲は連続的であり、特記しない限り、このような範囲の最小値から最大値を含む該最大値までの全ての値を含む。さらに、このような範囲が整数を示す場合に、特記しない限り、最小値から最大値を含む該最大値までの全ての整数が含まれる。
【0040】
本明細書において、範囲が変数に対して記載される場合に、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載範囲内の全ての値を含むものとして理解されるであろう。例えば、「5~10」の範囲は、5、6、7、8、9、及び10の値だけでなく、6~10、7~10、6~9、7~9などの任意の下位範囲も含み、5.5、6.5、7.5、5.5~8.5及び6.5~9などのような、記載範囲の範疇に妥当な整数同士の間の任意の値も含むものと理解され得る。また、例えば、「10%~30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%などの値と30%までを含む全ての整数だけでなく、10%~15%、12%~18%、20%~30%などの任意の下位範囲も含み、10.5%、15.5%、25.5%などのような、記載範囲の範疇内の妥当な整数同士の間の任意の値も含むものと理解されるであろう。
【0041】
本発明の一例は、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)LRCC 8325菌株に関する。
【0042】
本発明において、クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株は、韓国微生物保存センターに2023年07月26日付で受託番号KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株であってよい。
【0043】
前記クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株の26S rRNA塩基配列は、配列番号1の塩基配列を含んでよい。
【0044】
前記クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株は、麦芽又は米麹に由来するものであってよい。
【0045】
前記クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株は、グルコース(D-Glucose)、キシロース(D-Xylose)、キシリトール(Xylitol)、ガラクトース(D-Galactose)、ソルビトール(D-Sorbitol)、ラクトース(D-Lactose)、スクロース(D-Saccharose)、ラフィノース(D-Raffinose)、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つに対する分解能を有するものであってよい。
【0046】
本発明の他の一例は、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール生産用組成物に関する。
【0047】
本明細書において用語「培養物」は、菌株を培養した後、前記菌株を含む培養液、菌株の培養液から分離した分離物、その分画物又は培養濾液、発酵ブロス(broth)、又はこれらから分離した上澄液に該当する液体を意味するか、上澄液を凍結乾燥させた乾燥物を指すが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明において組成物は、例えば、直接噴射可能な溶液、粉末及び懸濁液の形態、又は高濃縮の水性、油性又は他の懸濁液、分散液、エマルジョン、油性分散液、ペースト、粉塵、飛散物質、又は顆粒剤として製造されてよいが、これに限定されるものではない。
【0049】
本発明の他の一例は、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール含有食品に関する。
【0050】
前記エタノール含有食品は、飲料水、茶、ドリンク剤、マッコリ、焼酎、ウィスキー、ワイン、ビール、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含んでよく、飲用可能な食品であれば通常の意味の健康機能食品も含んでよいが、特に限定されるものではない。
【0051】
前記エタノール含有食品は、飲料を含む通常の食品のように様々な天然炭水化物又は甘味剤などを追加成分として含んでよい。前記天然炭水化物は、ブドウ糖及び果糖のようなモノサッカライド、マルトース及びスクロースのようなジサッカライド、デキストリン及びシクロデキストリンのようなポリサッカライド、及びキシリトール、ソルビトール及びエリトリトールなどの糖アルコールであってよい。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤、又はサッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用することができる。本発明のエタノール含有食品は、例えば、100ml当たりに前記天然炭水化物又は甘味剤を約0.00001g~10g含んでよいが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明において、エタノール含有食品は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などの添加剤を含んでよい。その他、前記食品は、天然果物ジュース、果物ジュース飲料、及び野菜飲料の製造のための果肉を含有してもよい。このような成分は独立に又は組合せで使用することができる。このような添加剤の比率は、本発明のエタノール含有食品では、例えば、100重量部当たりに前記添加剤を0.001重量部~10重量部含んでよいが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明において、エタノール含有食品は、様々な栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含有してよい。その他、天然果物ジュース、果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含有してもよいが、特に限定されない。
【0054】
本発明の他の一例は、基質の存在下で、KCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株を培養するステップを含む、エタノール含有食品の製造方法に関する。
【0055】
前記基質は、麦汁、クズ、ゴボウ、ショウガ、キキョウ、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含んでよく、前記基質は、溶液上で前処理されたものであってよい。
【0056】
前記基質の糖度は、10プラトー(plato)~11プラトー、10プラトー~10.8プラトー、又は10プラトー~10.6プラトーであってよいが、これに限定されず、前記エタノール含有食品の糖度を考慮して適切な範囲で選択されてよい。
【0057】
前記菌株を培養するステップは、5℃~35℃、5℃~30℃、10℃~35℃、又は10℃~30℃で行われてよい。
【0058】
前記菌株を培養するステップは、12時間~72時間、又は24時間~72時間行われてよい。
【0059】
前記菌株を培養するステップは、前記菌株の初期接種濃度が105CFU/ml~107CFU/ml、106CFU/ml~107CFU/ml、又は106CFU/mlであってよい。
【0060】
本明細書において「培養」は、適切に人工的に調節した環境条件で微生物を生育させることを意味できる。
【0061】
前記培養は、バッチ工程、注入バッチ、又は反復注入バッチ工程(fed batch or repeated fed batch process)で連続式で培養できるが、これに限定されない。
【0062】
また、前記エタノール含有食品の製造方法は、菌株又はその培養物から生産されたエタノールを濃縮するステップを含んでよい。エタノールを濃縮する方法は、蒸留などの当業界に広く知られた公知の方法を用いることができる。
【0063】
前記エタノール含有食品の製造方法は、前述したKCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株とその培養物などを含む組成物及びエタノール含有食品の内容と実質的に重複する内容を含んでよく、重複部分に関する説明は省略する。
【0064】
本発明の他の一例は、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株に関する。
【0065】
本発明において、クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株は、韓国微生物保存センターに2023年07月26日付で受託番号KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株であってよい。
【0066】
前記クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株の26S rRNA塩基配列は、配列番号2の塩基配列を含んでよい。
【0067】
前記クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株は、麦芽又は米麹に由来するものであってよい。
【0068】
前記クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株は、グルコース(D-Glucose)、キシロース(D-Xylose)、キシリトール(Xylitol)、ガラクトース(D-Galactose)、ソルビトール(D-Sorbitol)、ラクトース(D-Lactose)、スクロース(D-Saccharose)、ラフィノース(D-Raffinose)、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つに対する分解能を有するものであってよい。
【0069】
本発明の他の一例は、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール生産用組成物に関する。
【0070】
本発明の他の一例は、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株、該菌株の培養物、及びこれらの組合せのうち少なくとも一つを含むエタノール含有食品に関する。
【0071】
本発明の他の一例は、基質の存在下で、KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株を培養するステップを含むエタノール含有食品の製造方法に関する。
【0072】
前記KCCM 13372Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株に関するエタノール生産用組成物、エタノール含有食品及びその製造方法は、前述したKCCM 13373Pとして寄託されたクルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株に関するエタノール生産用組成物、エタノール含有食品及びその製造方法の内容と実質的に重複する内容を含んでよく、重複部分に関する説明は省略する。
【0073】
以下、実験例を用いて本発明の他の形態をより具体的に説明する。下記実験例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0074】
実験例
1.酵母の分離及び同定
韓国マンウォン伝統市場(ソウルマポ所在)の麦芽及び米麹をYPDブロス培地で24時間種菌培養(Enrichment culture)した後、多段希釈させてYPD Agar培地で48時間培養した。その後、純粋コロニーを3次まで継代培養して酵母を純粋分離した。
【0075】
分離した酵母の26S rRNAの塩基配列を、汎用プライマーである785F及び907Rプライマーで増幅させ、NCBI GenBankデータベースを用いてクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)との塩基配列類似度を分析した結果、2種の新規な酵母を分離同定でき、K.marxianus LRCC 8325(以下、LRCC 8325菌株)及びK.marxianus LRCC 8279(以下、LRCC 8279菌株)と命名した。K.marxianus LRCC 8325菌株は、ブダペスト条約下の寄託機関である韓国微生物保存センターに2023年07月26日付で寄託し、KCCM 13373Pの寄託番号が与えられ、K.marxianus LRCC 8279菌株は、韓国微生物保存センターに2023年07月26日付で寄託し、KCCM 13372Pの寄託番号が与えられた。
【0076】
クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8325菌株の26S rRNA塩基配列は、配列番号1の塩基配列を含んでよく、クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株の26S rRNA塩基配列は、配列番号2の塩基配列を含んでよく、これらを下記表1に示した。
【0077】
【0078】
分離同定した菌株のクルイベロマイセス属に属する他の菌株との系統分類学的連関性は、
図1及び
図2に示した。
【0079】
2.酵母の糖利用性及び非配糖体化酵素活性の確認
2-1.糖利用性
LRCC 8325菌株及びLRCC 8279菌株の糖利用性をAPI 20C AUXキット(Biomerieux社、フランス)で分析した。前記キットは、酵母菌株が19種の糖を利用する生化学的能力を試験して同定可能にするものであり、キットの19種の糖基質が分注されているストリップに、希釈した菌株を分注し、48時間~72時間以上培養した。各菌株による糖基質の発酵の結果を判定し、その結果を表2及び表3に示した。
【0080】
【0081】
【0082】
(ここで、CON:糖基質無添加、GLU:D-Glucose、GLY:Glycerol、2KG:Ca2-keto-Gluconate、ARA:L-Arabinose、XYL:D-Xylose、ADO:Adonitol、XLT:Xylitol、GAL:D-Galactose、INO:Inositol、SOR:D-Sorbitol、MDG:Methyl-αD-Glusopyranoside、NAG:N-Acetyl-Glucosamine、CEL:D-Cellobiose、LAC:D-Lactose、MAL:D-Maltose、SAC:D-Saccharose、TRE:D-Trehalose、MLZ:D-Melezitose、RAF:D-Raffinoseである。)
【0083】
表2及び表3から確認できるように、LRCC 8325菌株及びLRCC 8279菌株は、グルコース(D-Glucose)、キシロース(D-Xylose)、キシリトール(Xylitol)、ガラクトース(D-Galactose)、ソルビトール(D-Sorbitol)、ラクトース(D-Lactose)、スクロース(D-Saccharose,Sucrose)、及びラフィノース(D-Raffinose)を炭素源として使用することができた。
【0084】
2-2.非配糖体化酵素活性
Bile Esculin Agar培地で、LRCC 8325菌株及びLRCC 8279菌株をペーパーディスク(paper disc)に分注した後、エスクリン(Esculin)が分解したときに現れる黒色環を確認し、その結果を
図3に示した。
【0085】
ここで、+controlは、サッカロミセス(Saccharomyces cerevisiae)属において非配糖体活性の高い菌株を選定して対照群として設定したものであり、-controlは、サッカロミセス属菌株のうち、非配糖体活性の低い菌株を選定して対照群として設定したものである。
【0086】
図3を参照すると、LRCC 8279及びLRCC 8325は、β-グルコシダーゼ(β-glucosidase)の活性に優れているので、根野菜を発酵させながら体内利用率を高める非配糖体を多く生成できることが確認できる。
【0087】
3.酵母のアルコール生成能及び温度別生長性の確認
3-1.糖の種類によるアルコール生成能
LRCC 8325菌株、LRCC 8279菌株、及び対照群であるサッカロミセスセレビシエの初期接種濃度は106CFU/mlであり、5種の培地(YP、YPD、YPF、YPM、及びYPS)を用いて30℃で48時間培養し、糖の種類によるアルコール生成能を確認した。
【0088】
5種の培地は共通に酵母抽出物(Yeast extract)1重量%及びペプトン(Peptone)2重量%を含有し、YPD培地はグルコース(Glucose)2重量%、YPF培地はフラクトース(Fructose)2重量%、YPM培地はマルトース(Maltose)2重量%、YPS培地はスクロース(Sucrose)2重量%をさらに含有する。重量%は、培地の総重量を基準とする。
【0089】
酵母のアルコール生成能を確認した結果を、
図4及び表4に示した。
【0090】
【0091】
3-2.混合糖含有量によるアルコール生成能
LRCC 8325菌株、LRCC 8279菌株、及び対照群であるサッカロミセスセレビシエ菌株の初期接種濃度は106CFU/mlであり、4種の混合炭素源培地を用いて30℃で5日間培養し、混合糖の含有量によるアルコール生成能を確認した。
【0092】
混合炭素源培地は共通に、酵母抽出物1重量%及びペプトン2重量%を含有し、YPDM0.8培地はグルコース及びマルトースをそれぞれ0.8重量%、YPDM1培地は各糖を1重量%、YPDM1.5培地は各糖を1.5重量%、YPDM2培地は各糖を2重量%さらに含有する。重量%は、培地の総重量を基準とする。
【0093】
酵母のアルコール生成能を確認した結果を、
図5及び表5に示した。
【0094】
【0095】
図4及び表4と共に
図5及び表5を参照すると、グルコース及びマルトースに露出された状態で対照群菌株はグルコース及びマルトースの両方を用いてエタノールを生成するのに対し、LRCC 8325菌株及びLRCC 8279菌株はマルトース利用性が低いので、グルコースを主に消耗して少量のエタノールを生成することが確認された。
【0096】
3-3.培養温度及び培養時間によるアルコール生成能及び酵母生長性
LRCC 8325菌株、LRCC 8279菌株、及び対照群としてS.cerevisiae 2(maltose-negative)を準備した。
【0097】
初期接種濃度は106CFU/mlであり、YPD培地(グルコース2重量%含有)を用いて10℃、15℃、25℃及び30℃で1日~5日間培養した。
【0098】
培養温度及び培養時間によるアルコール生成能と酵母生長性を確認し、その結果を
図6~
図10、及び表6に示した。
【0099】
【0100】
図6~
図10、及び表6から確認できるように、対照群菌株、LRCC 8325菌株、及びLRCC 8279菌株は、培養温度及び培養時間別生菌数に有意差がなかった。
【0101】
ただし、培養温度が10℃~15℃の場合に約5日目まで、20℃の場合に約3日目まで、25℃~30℃の場合に約1日目まで、LRCC 8325菌株及びLRCC 8279菌株は対照群と対比して、生菌数は類似であるが、アルコール生成量は有意に低いことが測定された。したがって、培養温度が増加するほど培養時間は短い方が、低アルコール飲料を製造するのに有利であり、初期接種量に比べて生長能に優れながらアルコール生成量が1%未満である培養条件は、培養温度が15℃、培養時間が3日であることを確認した。
【0102】
4.酵母を用いた麦汁発酵
4-1.麦汁発酵
LRCC 8325菌株、LRCC 8279菌株、及び対照群であるサッカロミセスセレビシエ菌株の初期接種濃度は106CFU/mlであり、10.4糖度(Plato)に調節された麦汁を、30℃で1日~3日間発酵させ、麦汁発酵物を準備した。
【0103】
麦汁は、麦芽を粉砕し、糖化過程を経て糖度を1次調節し、濾過後にホップを添加する煮沸過程を経で準備した。また、発酵後の最終製品の糖度である1.8プラトーを考慮して麦汁の糖度を10.4プラトーに調節した。
【0104】
麦汁発酵物から測定されたアルコール生成量は
図11に、RE(Real Extract)は
図12に、RDF(Real Degree of Fermentation)は
図13に示し、実験値をまとめて表7に示した。RDFは、発酵程度を測定するための指標であり、その算出は「William Hardwick,(1994).Handbook of Brewing,CRC Press.」に提示された下記数式1を利用した。
【0105】
【0106】
Oは、初期比重(original gravity)(゜P)を意味する。
【0107】
Eは、実抽出物(real extract)(゜P)を意味する。
【0108】
【0109】
(ここで、RE:麦汁発酵後残糖、RDF:麦汁内糖がアルコールとして発酵される程度である。)
図11、
図12、
図13、及び表7から確認できるように、麦汁内糖組成中に麦芽が60%~70%を占めるが、グルコース及びマルトースに露出された状態で対照群菌株はグルコース及びマルトースの両方を用いてエタノールを生成するのに対し、LRCC 8325菌株及びLRCC 8279菌株はマルトース利用性が低いので、グルコースを主に消耗して少量のエタノールを生成することが確認された。
【0110】
4-2.麦汁発酵物の官能評価
4-1.で準備した麦汁発酵物を、気体クロマトグラフィー質量分析法(Gas chromatography/Mass spectrometer;GC-MS)(GC:Aglient Technologies 7890B,MS:Aglient Techonlogies社製5977A)及び電子鼻Hercles II(Alpha M.O.S.,Toulouse,France)を用いて、味と香りパターンの変化を分析し、その結果を
図14及び
図15に示し、
図14の実験値を表8に示した。
【0111】
味の変数による主要成分は、発酵香(fermented)はイソアミルアルコール(Isoamyl alcohol)及びエチルアセテート(Ethyl acetate)であり、果物香(Fruity)はエチルヘキサノエート(Ethyl hexanoate)、エチルデカノエート(Ethyl decanoate)及びエチルブタノエート(Ethyl butanoate)であり、花香(Floral)は2-フェニルエチルアセテート(2-phynylethyl acetate)及びフェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)であり、脂肪香(Fatty)はカプリル酸(Octanoic acid)であり、油香(Waxy & Oily)はエチルオクタノエート(Ethyl octanoate)であり、フェノール香(Phenolic)はグアイアコール(Guaiacol)である。
【0112】
GC-MS(GC:Aglient Technologies 7890B,MS:Aglient Techonlogies社製5977A)によって香り成分を分析した結果、香り特性別主要成分は次の通りであった。
【0113】
発酵香特性(fermented):イソアミルアルコール(Isoamyl alcohol)及びエチルアセテート(Ethyl acetate)
【0114】
果物香特性(Fruity):エチルヘキサノエート(Ethyl hexanoate)、エチルデカノエート(Ethyl decanoate)及びエチルブタノエート(Ethyl butanoate)
【0115】
花香特性(Floral):2-フェニルエチルアセテート(2-phynylethyl acetate)及びフェニルエチルアルコール(Phenylethyl alcohol)
【0116】
脂肪香特性(Fatty):カプリル酸(Octanoic acid)
【0117】
油香特性(Waxy & Oily):エチルオクタノエート(Ethyl octanoate)
【0118】
フェノール香特性(Phenolic):グアイアコール(Guaiacol)
【0119】
【0120】
図14及び表8から確認できるように、花香(Floral)の香り特性が比較的強く現れた。したがって、本発明に係るLRCC 8279菌株及びLRCC8235菌株を利用すると、花香が強化した低アルコール飲料の製造に利点があることを確認した。
【0121】
図15から確認できるように、PC1、PC2の値はそれぞれ93.719、5.039で、主にx軸に該当するPC1によって試料間の差が判別された。LRCC 8279及びLRCC 8325菌株は、S.cerevisiae菌株に対比してx軸を基準に負の値を示すことから、香り成分に差があることが確認でき、相対的により互いに近づいていることから、香り成分が類似することが確認できる。
【0122】
5.根野菜濃縮液の発酵
5-1.濃縮液の発酵
LRCC 8325菌株、LRCC 8279菌株、S.cerevisiae及びS.cerevisiae 2の初期接種濃度は106CFU/mlであり、根野菜濃縮液を15℃で3日間発酵させ、根野菜発酵物を準備した。根野菜は、クズ、ショウガ、キキョウ及びゴボウを使用した。
【0123】
根野菜濃縮液は、冷蔵又は冷凍保管された根野菜(クズ、ショウガ、キキョウ及びゴボウ)を準備し、この根野菜を圧搾又は加熱して抽出した抽出物をフィルタープレスなどのような濾過濃縮装置を用いて準備したものでよい。前記根野菜は、必要によっては乾燥したものであってもよい。また、前記根野菜濃縮液は、必要によって殺菌工程を経てよい。
【0124】
菌株別根野菜発酵物のアルコール生成量及び生菌数を測定し、
図16及び表9に示した。
【0125】
【0126】
図16及び表9から確認できるように、LRCC 8279菌株及びLRCC 8325菌株は、S.cerevisiae菌株に比べて、生長能は類似或いは優れながら、アルコール生成量は低い傾向を示した。このことから、本発明のLRCC 8279菌株及びLRCC 8325菌株は、低アルコール飲料の製造に利点があることを確認した。
【0127】
5-2.根野菜発酵物の官能評価
前述した5-1.によって根野菜発酵物を準備し、GC-MS(GC:Aglient Technologies 7890B,MS:Aglient Techonlogies社製5977A)及び電子鼻Hercles II(Alpha M.O.S.,Toulouse,France)を用いて、発酵物による菌株別味と香りパターンの変化を分析し、その結果を、
図17~
図24、及び表10~
図13に示した。
【0128】
クズ発酵物の香りパターン分析の結果を、
図17、
図18及び表10に示した。
【0129】
【0130】
図17及び表10から確認できるように、クズ発酵物の場合、エーテル香(ethereal)及び発酵香(fermented)が比較的強く現れ、主要成分は、エーテル香特性(ethereal)を有するエチルアセテート(Ethyl acetate)及び発酵香特性(fermented)を有するイソアミルアルコール(Isoamyl Alcohol)であった。
【0131】
図18から確認できるように、クズ発酵物の場合、PC1、PC2の値はそれぞれ96.763及び2.718で、主にx軸に該当するPC1によって試料間の差があると判別された。LRCC 8279及びLRCC 8325菌株は、S.cerevisiae菌株に対比して、x軸を基準に正の値を示すことから、香り成分に差があり、相対的により互いに近づいていることから、香り成分が類似することが確認できた。
【0132】
ゴボウ発酵物の香りパターン分析の結果を
図19、
図20及び表11に示した。
【0133】
【0134】
図19及び表11から確認できるように、ゴボウ発酵物の場合、花香(Floral)及びエーテル香(Ethereal)が比較的強く現れ、主要成分は花香特性(Floral)を有するサリチル酸メチル(Methyl salicylate)及びフェニルアルコール(Phenyl alcohol)、並びにエーテル香特性(Ethereal)を有するエチルアセテート(Ethyl acetate)であった。
【0135】
図20から確認できるように、ゴボウ発酵物の場合、PC1、PC2の値はそれぞれ、92.323及び7.285で、主にx軸に該当するPC1によって試料間の差があると判別される。LRCC 8279及びLRCC 8325菌株は、S.cerevisiae菌株に対比して、x軸を基準に正の値を示すことから、香り成分に差があり、相対的により互いに近づいていることから、香り成分が類似することが確認できた。
【0136】
ショウガ発酵物の香りパターン分析の結果を、
図21、
図22及び表12に示した。
【0137】
【0138】
図21及び表12から確認できるように、ショウガ発酵物の場合、花香(Floral)及びエーテル香(Ethereal)が比較的強く現れ、主要成分は、花香特性(Floral)を有するサリチル酸メチル(Methyl salicylate)及びフェニルアルコール(Phenyl alcohol)、並びにエーテル香特性(Ethereal)を有するエチルアセテート(Ethyl acetate)であった。
【0139】
図22から確認できるように、ショウガ発酵物の場合、PC1、PC2の値はそれぞれ60.680及び33.536で、主にx軸に該当するPC1によって試料間の差があると判別された。LRCC 8279及びLRCC 8325菌株は、S.cerevisiae菌株に対比して、x軸を基準に正の値を示すことから、香り成分に差があり、相対的により互いに近づいていることから、香り成分が類似することが確認できた。
【0140】
キキョウ発酵物の香りパターン分析の結果を、
図23、
図24及び表13に示した。
【0141】
【0142】
図23及び表13から確認できるように、キキョウ発酵物の場合、花香(Floral)及びエーテル香(Ethereal)が比較的強く現れ、主要成分は、花香特性(Floral)を有するサリチル酸メチル(Methyl salicylate)及びフェニルアルコール(Phenyl alcohol)、並びにエーテル香特性(Ethereal)を有するエチルアセテート(Ethyl acetate)であった。
【0143】
図24から確認できるように、ショウガ発酵物の場合、PC1、PC2の値はそれぞれ98.257及び1.393で、主にx軸に該当するPC1によって試料間の差があると判別された。LRCC 8279及びLRCC 8325菌株は、S.cerevisiae菌株に対比して、x軸を基準に正の値を示すことから、香り成分に差があり、相対的により互いに近づいていることから、香り成分が類似することが確認できた。
【0144】
したがって、本発明に係るLRCC 8279及びLRCC 8325菌株を利用すると、全体的にエーテル香(Ethereal)が強化されつつ、根野菜種類によって発酵香(Fermented)或いは花香(Floral)が強化した低アルコール飲料の製造に利点があることを確認した。
【0145】
【0146】
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、ノンアルコール酒類及び根野菜発酵飲料の製造に適するクルイベロマイセスマルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)LRCC 8325菌株、クルイベロマイセスマルシアヌスLRCC 8279菌株及びその用途に関する。
【配列表】
【国際調査報告】