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再表2013-133020イオン伝導性ガラスセラミックス、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年9月12日
【発行日】2015年7月30日
(54)【発明の名称】イオン伝導性ガラスセラミックス、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/02 20060101AFI20150703BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20150703BHJP
【FI】
   C03C10/02
   H01M10/0562
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
【出願番号】特願2014-503749(P2014-503749)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-49189(P2012-49189)
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】林 晃敏
(72)【発明者】
【氏名】辰巳砂 昌弘
【テーマコード(参考)】
4G062
5H029
【Fターム(参考)】
4G062AA11
4G062BB15
4G062CC09
4G062CC10
4G062DA02
4G062DA03
4G062DB01
4G062DB02
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4G062EB07
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4G062MM23
4G062NN25
5H029AJ01
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
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5H029AL07
5H029AL11
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5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ00
5H029HJ02
(57)【要約】
一般式(I):Na2S−Mxy−Nab(MとNは異なってP、Si、Ge、B、Al、Gaから選択され、x、y、a及びbは、M及びNの種類に応じて、化学量論比を与える整数であり、Na2Sが60モル%より大きく、80モル%未満含まれる)で示されるイオン伝導性ガラスセラミックス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):Na2S−Mxy−Nab(MとNは異なってP、Si、Ge、B、Al、Gaから選択され、x、y、a及びbは、M及びNの種類に応じて、化学量論比を与える整数であり、Na2Sが60モル%より大きく、80モル%未満含まれる)で示されるイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項2】
前記Na2S−Mxy−Nabが、Na2S−P25−SiS2、Na2S−P25−GeS2、Na2S−P25−B23、、Na2S−P25−Al23、Na2S−P25−Ga23、Na2S−SiS2−GeS2、Na2S−SiS2−B23、Na2S−SiS2−Al23、Na2S−SiS2−Ga23、Na2S−GeS2−B23、Na2S−GeS2−Al23、Na2S−GeS2−Ga23、Na2S−B23−Al23、Na2S−B23−Ga23又はNa2S−Al23−Ga23である請求項1に記載のイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項3】
前記Na2S−Mxy−Nabが、Na2S−P25−SiS2である請求項1に記載のイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項4】
前記Na2S−P25−SiS2が、0.1〜10モル%のSiS2を含む請求項3に記載のイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項5】
前記イオン伝導性ガラスセラミックスは、対応するガラスが有していたガラス転移点を示さない請求項1に記載のイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項6】
請求項1に記載のイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法であって、
前記一般式(I):Na2S−Mxy−Nabを与えるNa2SとMxyとNabとを所定割合で含む原料混合物をメカニカルミリング処理に付してガラスを得る工程と、前記ガラスをその結晶化温度以上の温度で熱処理することでイオン伝導性ガラスセラミックスに変換する工程とを含むイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記メカニカルミリング処理が、遊星型ボールミルを用いて、50〜600回転/分、0.1〜50時間、1〜100kWh/原料混合物1kgの条件下で行われる請求項6に記載のイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法。
【請求項8】
正極、負極、及び前記正極と前記負極間に位置する固体電解質層とを少なくとも備え、前記固体電解質層が、請求項1に記載のイオン伝導性ガラスセラミックスを含む全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性ガラスセラミックス、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池に関する。更に詳しくは、本発明は、豊富なナトリウム資源を背景に低コストで提供可能なイオン伝導性ガラスセラミックス、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高電圧、高容量を有するため、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ノートパソコン、電気自動車等の電源として多用されている。一般に流通しているリチウム二次電池は、電解質として、電解塩を非水系溶媒に溶解した液状電解質を使用している。非水系溶媒には、可燃性の溶媒が多く含まれているため、安全性の確保が望まれている。
安全性を確保するために、非水系溶媒を使用せずに、電解質を固体材料であるLi2S−P25から形成する、いわゆる固体電解質を使用した全固体二次電池が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M.Tatsumisago et.al.,Funct.Mater.Lett.,1(2008)31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車、太陽電池、風力発電等の発電装置等において、電力を貯蔵するためにリチウム二次電池の需要が増大している。しかし、リチウム二次電池は、埋蔵量が少なく、かつ産出地が偏在しているリチウムを使用するため、需要に供給が追いつかないという懸念があると共に、高コストであるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者等は、上記懸念及び課題が全固体二次電池においても生じると考えている。そこで資源量が豊富なナトリウムを使用した電池が、ポストリチウム二次電池として挙げられる。ナトリウムを使用した電池には、ナトリウムイオン伝導性固体が使用されるが、そのナトリウムイオン伝導性固体としては、β-アルミナが広く知られている。この材料は室温で10-3 S cm-1以上のナトリウムイオン伝導性を示す[文献:X. Lu et al., Journal of Power Sources, 195 (2010) 2431-2442.]。しかしながら、この材料の合成には1600℃以上での高温焼成が必要であり、電極活物質との固体界面接合が困難であるという課題があった。高温での焼成を必要とせず、プレスのみで得られる粉末成形体として高い導電率を示す材料が、室温作動型全固体電池の電極-電解質界面構築には重要となる。発明者等は既存の文献を調査したが、室温において粉末成形体として十分なナトリウムイオン伝導性を有する固体材料に関する文献を見い出せていない。
【0006】
そこで、発明者等は、Li2Sに代えてNa2Sの使用を試みたが、イオン伝導性の観点で更なる改善の余地があると考えた。そのため、発明者等は、更に鋭意検討した結果、Na2Sを含む固体材料の原料をメカニカルミリング処理に付すことでガラスを得、次いで、ガラスをそのガラス転移点以上の温度で熱処理することで変換したガラスセラミックスであれば、イオン伝導性が大幅に改善されることを見出し本発明に至った。
【0007】
かくして本発明によれば、一般式(I):Na2S−Mxy−Nab(MとNは異なってP、Si、Ge、B、Al、Gaから選択され、x、y、a及びbは、M及びNの種類に応じて、化学量論比を与える整数であり、Na2Sが60モル%より大きく、80モル%未満含まれる)で示されるイオン伝導性ガラスセラミックスが提供される。
【0008】
更に、本発明によれば、上記イオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法であって、
前記一般式(I):Na2S−Mxy−Nabを与えるNa2SとMxyとNabとを所定割合で含む原料混合物をメカニカルミリング処理に付してガラスを得る工程と、前記ガラスをその結晶化温度以上の温度で熱処理することでイオン伝導性ガラスセラミックスに変換する工程とを含むイオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、正極、負極、及び前記正極と前記負極間に位置する固体電解質層とを少なくとも備え、前記固体電解質層が、上記イオン伝導性ガラスセラミックスを含む全固体二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウムの資源量に依存しない、高いイオン伝導性を有するガラスセラミックスを提供できる。
また、Na2S−Mxy−Nabが、Na2S−P25−SiS2である場合、より高いイオン伝導性を有するガラスセラミックスを提供できる。
本発明のガラスセラミックスの製造方法によれば、メカニカルミリング処理と熱処理という簡便な方法で、リチウムの資源量に依存しない、高いイオン伝導性を有するガラスセラミックスを提供できる。
【0011】
メカニカルミリング処理が、遊星型ボールミルを用いて、50〜600回転/分、0.1〜50時間、1〜100kWh/原料混合物1kgの条件下で行われる場合、より高いイオン伝導性を有するガラスセラミックスを提供できる。
本発明の全固体二次電池は、ナトリウムを含む固体電解質層を使用するため、豊富なナトリウム資源を背景に低コストで提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のガラスセラミックスの室温での導電率を示すグラフである。
図2】実施例2のガラスセラミックスの導電率の温度依存性を示すグラフである。
図3】実施例3のガラスセラミックスのXRDパターンである。
図4】実施例3のガラスセラミックスのラマンスペクトルである。
図5】実施例4のガラスセラミックスのサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(イオン伝導性ガラスセラミックス)
ガラスセラミックスは、非晶質状態のガラス成分中に、結晶質部が分散した状態であってもよい。結晶質部の割合は、ガラスセラミックス全体に対して、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。上限は100重量%である。なお、結晶質部の割合は固体NMRにより測定可能である。
更に、ガラスセラミックスは、対応するガラスに存在していたガラス転移点が存在しないものであることが好ましい。
【0014】
本発明のイオン伝導性ガラスセラミックスは、一般式(I):Na2S−Mxy−Nab(MとNは異なってP、Si、Ge、B、Al、Gaから選択され、x、y、a及びbは、M及びNの種類に応じて、化学量論比を与える整数であり、Na2Sが60モル%より大きく、80モル%未満含まれる)で表される。具体的には、Na2S−P25−SiS2、Na2S−P25−GeS2、Na2S−P25−B23、、Na2S−P25−Al23、Na2S−P25−Ga23、Na2S−SiS2−GeS2、Na2S−SiS2−B23、Na2S−SiS2−Al23、Na2S−SiS2−Ga23、Na2S−GeS2−B23、Na2S−GeS2−Al23、Na2S−GeS2−Ga23、Na2S−B23−Al23、Na2S−B23−Ga23、Na2S−Al23−Ga23等が挙げられる。この内、Na2S−P25−SiS2が特に好ましい。更に、NaI、Na3PO4等の他のイオン伝導性材料を加えてもよい。
【0015】
本発明のイオン伝導性材料は、3成分から構成されるため、Na2S−P25のような、2成分の材料に比べて、より多くのNaイオンを含有したガラスおよびガラスセラミックスを作製することができると発明者等は考えている。
更に、Na2S−Mxy−Nabは、60モル%より大きく、80モル%未満のNa2Sを含む。この範囲であれば、対応するガラスより、イオン伝導性を向上できる。また、65モル%より大きく、80モル%未満のNa2Sを含むことがより好ましく、67〜78モル%のNa2Sを含むことが更に好ましい。
【0016】
ここで、MxyがP25の場合、Nabは、Na2S−P25の結晶構造を維持しうる範囲内で、含まれることが好ましい。また、Na2S−P25−SiS2の場合、Na2S−P25−SiS2中にSiS2が占める割合は、0.1〜10モル%の範囲であることが好ましい。この範囲内であれば、Na2S−P25よりも顕著に導電率を向上でき、その結果、充放電効率の向上した全固体二次電池を提供できる。より好ましいSiS2が占める割合は、4〜8モル%の範囲である
【0017】
(イオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法)
イオン伝導性ガラスセラミックスの製造方法は、
(i)一般式(I):Na2S−Mxy−Nabを与えるNa2SとMxyとNabとを所定割合で含む原料混合物をメカニカルミリング処理に付してガラスを得る工程、
(ii)ガラスをその結晶化温度以上の温度で熱処理することでイオン伝導性ガラスセラミックスに変換する工程
とを含んでいる。
【0018】
(1)工程(i)
工程(i)におけるメカニカルミリング処理は、原料を十分混合・反応できさえすれば、処理装置及び処理条件は特に限定されない。
処理装置としては、通常ボールミルが使用できる。ボールミルは、大きな機械的エネルギーが得られるため好ましい。ボールミルの中でも、遊星型ボールミルは、ポットが自転回転すると共に、台盤が公転回転するため、高い衝撃エネルギーを効率よく発生させることができるので、好ましい。
【0019】
処理条件は、使用する処理装置に応じて適宜設定できる。例えば、ボールミルを使用する場合、回転速度が大きいほど及び/又は処理時間が長いほど、原料を均一に混合・反応できる。なお、「及び/又は」は、A及び/又はBで表現すると、A、B又は、A及びBを意味する。具体的には、遊星型ボールミルを使用する場合、50〜600回転/分の回転速度、0.1〜50時間の処理時間、1〜100kWh/原料混合物1kgの条件が挙げられる。より好ましい処理条件としては、200〜500回転/分の回転速度、1〜20時間の処理時間、6〜50kWh/原料混合物1kgが挙げられる。
【0020】
(2)工程(ii)
上記工程(i)で得られたガラスを、熱処理に付すことで、イオン伝導性ガラスセラミックスに変換する。この熱処理は、ガラスの結晶化温度以上の温度で行われる。
ガラス転移点(Tg)は、Na2SとMxyとNabの割合によって相違するが、例えば、Na2S−P25の場合、180〜200℃の範囲にある。また第一結晶化温度(Tc)は190〜240℃の範囲にある。熱処理温度の上限は、特に限定されないが、通常、第一結晶化温度+100℃である。
熱処理時間は、ガラスをイオン伝導性ガラスセラミックスに変換し得る時間であり、熱処理温度が高いと短く、低いと長くなる。熱処理時間は、通常、0.1〜10時間の範囲である。
【0021】
(イオン伝導性ガラスセラミックスの用途)
イオン伝導性ガラスセラミックスは、イオン伝導性が求められる用途であれば、いずれの用途にも使用できる。例えば、全固体二次電池及び全固体キャパシタの固体電解質層、センサーの導電層等が挙げられる。この内、全固体二次電池の固体電解質層に使用することが好ましい。
全固体二次電池は、特に限定されないが、通常、正極、負極、及び正極と負極間に位置する固体電解質層とを少なくとも備えている。
【0022】
(1)固体電解質層
固体電解質層には、上記イオン伝導性ガラスセラミックス(Na2S−Mxy−Nab)が含まれる。上記イオン伝導性ガラスセラミックス以外に、全固体二次電池に通常使用される電解質(例えば、NaI、Na3PO4等)が含まれていてもよい。なお、固体電解質層中、上記イオン伝導性ガラスセラミックスが占める割合は、80重量%以上であることが好ましく、全量であることがより好ましい。固体電解質層の厚さは、1〜1000μmであることが好ましく、1〜200μmであることがより好ましい。固体電解質層は、例えば、その原料をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。
【0023】
(2)正極
正極は、特に限定されない。正極は、正極活物質のみからなっていてもよく、結着剤、導電剤、電解質等と混合されていてもよい。
正極活物質としては、Na0.44MnO2、NaNi0.5Mn0.52、FeS、TiS2、NaCoO2、NaFeO2、NaCrO2、Na32(PO4)3、NaMn24等の種々の遷移金属化合物や硫黄、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム等が挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン等が挙げられる。
導電剤としては、天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、カーボンブラック、気相成長カーボンファィバ(VGCF)等が挙げられる。
電解質としては、固体電解質層に使用される電解質が挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質及び、任意に結着剤、導電剤、電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。
正極は、アルミニウム又は銅等の集電体の上に形成されていてもよい。
【0024】
(3)負極
負極は、特に限定されない。負極は、負極活物質のみからなっていてもよく、結着剤、導電剤、電解質等と混合されていてもよい。
負極活物質としては、Na、In、Sn等の金属、Na合金、グラファイト、ハードカーボン、Li4/3Ti5/34、Na32(PO4)3、SnO等の種々の遷移金属酸化物等が挙げられる。
結着剤、導電剤及び電解質は、上記正極の欄で挙げた物をいずれも使用できる。
負極は、例えば、負極活物質及び、任意に結着剤、導電剤、電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。また、負極活物質として金属又はその合金からなる金属シート(箔)を使用する場合、をそのまま使用可能である。
負極は、アルミニウム又は銅等の集電体の上に形成されていてもよい。
【0025】
(4)全固体二次電池の製造法
全固体二次電池は、例えば、正極と、電解質層と、負極とを積層し、プレスすることにより得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
実施例1
工程(i):メカニカルミリング処理
Na2S(ナガオ社製、純度99.1%)、P25(アルドリッチ社製、純度99.9%)及びSiS2(フルウチ化学社製、純度99.999%)を(100−x)Na3PS4・xNa4SiS4と表した場合に、x=0、2、4、5及び6のモル%となるように計量し、それぞれを遊星型ボールミルに投入した。投入後、メカニカルミリング処理することで、Na3PS4(75Na2S・25P25)、98Na3PS4・2Na4SiS4、96Na3PS4・4Na4SiS4、95Na3PS4・5Na4SiS4及び94Na3PS4・6Na4SiS4の組成の混合物を得た。
遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P−7を使用し、ポット及びボールはZrO2製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個入っているミルを使用した。メカニカルミリング処理は、510rpmの回転速度、室温、乾燥窒素グローブボックス内で20時間行った。
【0027】
なお、上記製造法は、Akitoshi Hayashi et al., Journal of Non−Crystalline Solids 356 (2010) 2670−2673のExperimentalの記載に準じている。
上記5種のメカニカルミリング処理後の試料80mgをプレス(圧力370MPa)することで直径10mm、厚さ約1mmのペレットを得た。得られたペレット中には、ミリングによる反応によって立方晶Na3PS4が一部生成しているものの、ガラス成分を含んでいることをDTA測定により確認した。
【0028】
工程(ii):熱処理
上記5種のガラスからなるペレットを、室温(25℃)から結晶化温度以上の220℃に向かって加熱し、ガラスをガラスセラミックス化した。更に、220℃に達してから、室温に向かってガラスセラミックスのペレットを冷却した。
【0029】
ガラスセラミックスのペレットの室温での導電率の測定結果を図1に示す。図1に示すように、Na3PS4のガラスセラミックスのペレットの導電率が2×10-4Scm-1であるのに対して、SiS2成分を含むガラスセラミックスのペレットはいずれも導電率が向上していることが分かる。更に、94Na3PS4・6Na4SiS4のガラスセラミックスでは、Na3PS4のガラスセラミックスのペレットの約3.7倍の導電率(7.4×10-4Scm-1)が得られていることが分かる。
【0030】
実施例2
Na3PS4と95Na3PS4・5Na4SiS4のガラスセラミックスのペレットの温度に対する導電率の変化を図2に示す。図2中、黒丸は95Na3PS4・5Na4SiS4のガラスセラミックスのペレットの、白丸はNa3PS4のガラスセラミックスのペレットの測定結果である。ガラスセラミックスは270℃で熱処理したものを用いた。
図2から以下のことが分かる。
95Na3PS4・5Na4SiS4のガラスセラミックスのペレットは、Na3PS4のガラスセラミックスのペレットと比較して、25〜160℃のいずれの温度においても高い導電率を有していることが分かる。
【0031】
実施例3
実施例1と同様にして、Na3PS4(75Na2S・25P25)、95Na3PS4・5Na4SiS4、90Na3PS4・10Na4SiS4、75Na3PS4・25Na4SiS4、33Na3PS4・67Na4SiS4及びNa4SiS4(67Na2S・33SiS2)のガラスセラミックスのペレットを得た。また組成によって結晶化温度に違いがみられたため、試料の熱処理温度は結晶化温度に応じて220〜360℃の間で選択した。
得られたガラスセラミックスのペレットのXRDパターンを図3に示す。図3から、95Na3PS4・5Na4SiS4及び90Na3PS4・10Na4SiS4のガラスセラミックスのペレットは、Na3PS4と同じ立方晶Na3PS4の結晶構造を有していることが分かる。
また、Na3PS4(75Na2S・25P25)、90Na3PS4・10Na4SiS4、75Na3PS4・25Na4SiS4、33Na3PS4・67Na4SiS4及びNa4SiS4(67Na2S・33SiS2)のガラスセラミックスのペレットのラマンスペクトルを図4に示す。図4から、ガラスセラミックスは、PS43-およびSiS44-の、架橋硫黄を含まない孤立アニオンのみを含有しており、(100−x)Na3PS4・xNa4SiS4の仕込み組成に対応した局所構造を持っていることがわかる。また、90Na3PS4・10Na4SiS4のガラスセラミックスのペレットでは、Na3PS4由来のPS43-のピークが主に観測され、XRDから得られた立方晶Na3PS4が存在するという実験結果と矛盾しない。
【0032】
実施例4
作用極としてステンレススチールを、電解質として90Na3PS4・10Na4SiS4のガラスセラミックスのペレット(厚さ約1mm)を、対極としてステンレススチール上の金属ナトリウムを用いて、サイクリックボルタンメトリーを用いて得たサイクリックボルタモグラムを図5に示す。掃引条件は、5mV/秒、室温とした。
図5から、このガラスセラミックスにおいては、0V付近にNaの溶解・析出に対応する還元・酸化電流が繰り返し観測された。また酸化側、+5Vまで掃引しても電解質の分解等による大きな酸化電流が観測されないことから、このガラスセラミックスは電気化学的に+5Vまで安定であることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】