(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月3日
【発行日】2015年12月10日
(54)【発明の名称】交流電機システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 3/22 20060101AFI20151113BHJP
H02P 6/24 20060101ALI20151113BHJP
【FI】
H02P3/22 B
H02P6/02 371L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
【出願番号】特願2014-507335(P2014-507335)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2012年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-80286(P2012-80286)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 章夫
【テーマコード(参考)】
5H530
5H560
【Fターム(参考)】
5H530AA07
5H530BB18
5H530CC21
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5H560HB05
5H560JJ03
5H560SS02
5H560UA06
5H560XA12
(57)【要約】
交流電動機21の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になった際に、交流電動機21の電気端子を開放状態とし、または、インバータ11内部の還流ダイオードを介して電気端子を導通可能な状態にする操作を行う。ここで、各電気端子を流れる電流をゼロ近傍にする操作として、インバータ11の全ての上アームまたは下アームのスイッチング素子をオンさせて電気端子を短絡させる。これにより、インバータ11の運転停止時に交流電動機21等のリアクタンス成分が有する電磁エネルギーが交流電動機21からインバータ11側に流入するのを防止または抑制する。その結果、過電圧や過電流の発生を防止してインバータ11や主コンデンサ50、電源を保護し、交流電機システムの安全性を高める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電機と、
前記交流電機の複数の電気端子に接続され、前記交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、
前記電力変換器を構成する半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、
を有する交流電機システムにおいて、
前記交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍である時点を取得する電流情報取得手段を備え、
前記電力変換器と前記交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間において、
前記電流情報取得手段が前記時点を取得した場合に、前記制御装置により、前記電気端子を開放状態とし、または、前記電力変換器の内部の整流素子を介して当該電気端子を導通可能な状態にする操作を、全ての前記電気端子について行うことを特徴とする交流電機システム。
【請求項2】
交流電機と、
前記交流電機の複数の電気端子に接続され、前記交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、
前記電力変換器を構成する半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、
を有する交流電機システムにおいて、
前記電力変換器と前記交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から、電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間に、
前記交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍となった時点で当該電気端子を開放し、または、前記電力変換器の内部の整流素子を介して当該電気端子を導通可能な状態にする操作を、全ての前記電気端子について行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記変換器移行期間における前記電力変換器の操作として、前記交流電機の複数の電気端子同士を短絡する操作により、前記電気端子を流れる電流がゼロ近傍となる状態を生成することを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記電力変換器がフルブリッジ型のインバータであり、
前記電気端子同士の短絡操作を、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子と、当該スイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードとにより電流を還流させて行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記変換器移行期間では、
各電気端子を流れる電流の方向が前記電力変換器から前記交流電機に向かう正方向である場合、または、各電気端子を流れる電流の大きさが所定の負値からゼロまでの範囲にある場合には、当該電気端子に接続されている前記電力変換器の上下アームの半導体スイッチング素子をオフ状態にしてその状態を維持し、
各電気端子を流れる電流の大きさが前記所定の負値以下である場合には、当該電気端子に接続されている上アームのスイッチング素子をオフ状態にし、かつ、下アームのスイッチング素子をオン状態にして、
当該電気端子を流れる電流がゼロ近傍となった時点で下アームのスイッチング素子をオフ状態にする操作を行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項6】
請求項4に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記変換器移行期間では、
各電気端子を流れる電流の方向が前記電力変換器から前記交流電機に向かう正方向である場合、または、各電気端子を流れる電流の大きさが所定の負値からゼロまでの範囲にある場合には、当該電気端子に接続されている前記電力変換器の上アームの半導体スイッチング素子をオン状態、下アームの半導体スイッチング素子をオフ状態にし、
各電気端子を流れる電流の大きさが前記所定の負値以下である場合には、当該電気端子に接続されている前記電力変換器の上下アームの半導体スイッチング素子をオフ状態にしてその状態を維持し、
当該電気端子を流れる電流がゼロ近傍となった時点で上アームのスイッチング素子をオフ状態にする操作を行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載した交流電機システムの制御方法において、
各スイッチング素子の操作を、前記変換器移行期間の開始時点におけるシステムの状態からその後のシステムの挙動を推定して実現することを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項8】
請求項4〜6の何れか1項に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記電力変換器の直流電圧部には、直流スイッチを介して直流電源が接続され、
前記変換器移行期間では、
前記交流電機の複数の電気端子同士が短絡されている間に前記直流スイッチがオフされ、
その後、前記複数の電気端子につき、各電気端子を通って流れる電流を順にゼロ近傍に減少させ、かつ、その時点で当該電気端子を開放し、または、前記電力変換器の内部の整流素子を介して当該電気端子を導通可能な状態にする操作を、全ての前記電気端子について行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項9】
請求項2に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記交流電機が永久磁石型同期機であることを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記電力変換器がフルブリッジ型のインバータであり、
前記永久磁石型同期機の誘導起電力の線間ピーク値が、前記インバータの直流電圧部の電圧よりも高くなる期間が存在することを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記永久磁石型同期機は、当該同期機の電気端子の短絡によって流れる電流により、内部の永久磁石が非可逆減磁しないように構成されていることを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項12】
交流電機と、
前記交流電機の複数の電気端子に接続され、前記交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、
前記電力変換器を構成する半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、
を有する交流電機システムにおいて、
前記電力変換器と前記交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から、電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間に、
前記スイッチング素子を制御することにより、前記交流電機から前記電力変換器にエネ
ルギーが供給されるのを防止または抑制し、かつ、前記交流電機を駆動する力学的動力源のエネルギーを消費させて当該エネルギーを安全なレベルまで低減させる以前に、
前記変換器停止期間に移行することを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項13】
請求項5に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記変換器移行期間に、
前記電力変換器の上下アーム双方のスイッチング素子がオフ状態になっている前記電気端子について、電流が一旦ゼロになった後に通流を再開したことを検知し、あるいは再び通流可能な状態にある場合に、
当該電気端子ではないその他の電気端子につき、下アームのスイッチング素子をオフ状態にすると共に、流れる電流が正の場合には上アームのスイッチング素子をオン状態とし、流れる電流がゼロ近傍になった時点で上アームのスイッチング素子をオフ状態とする操作を行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【請求項14】
請求項5に記載した交流電機システムの制御方法において、
前記変換器移行期間に、
前記電力変換器の上下アーム双方のスイッチング素子がオフ状態になっている前記電気端子について、電流が一旦ゼロになった後に通流を再開したことを検知し、あるいは再び通流可能な状態にある場合に、
当該電気端子ではないその他の電気端子につき、上アームのスイッチング素子をオフ状態にすると共に、流れる電流が負の場合には下アームのスイッチング素子をオン状態とし、流れる電流がゼロ近傍になった時点で下アームのスイッチング素子をオフ状態とする操作を行うことを特徴とする交流電機システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機や交流発電機、交流電源等の交流電機と、この交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、を備えた交流電機システムに関する。更に詳しくは、本発明は、電力変換器の運転停止時に、交流電機から電力変換器側に電磁エネルギーが流入するのを防止または抑制するようにした交流電機システム、及び、その制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11は、交流電機システムの一例を示す概念図である。図11において、10は、インバータやコンバータのように交流電力を制御可能な電力変換器であり、20は、交流電動機や交流電源等の交流電機である。
この交流電機システムでは、電力変換器10による電力変換動作、及び、交流電機20による電動機動作、発電機動作等により、電力変換器10と交流電機20との間で交流電力を授受している。
構成において、交流電機20はリアクタンス成分が存在し、電力変換器10と交流電機20との間のケーブルにもリアクタンスが存在する。また、ケーブルの途中に接続された部品としてのリアクトルやフィルタにもリアクタンスが存在する。図11において、30は、交流電機20を除いたリアクタンス成分を示す。
【0003】
次に、図12は、図11の具体例を示す概念図である。図12において、11は三相の電力変換器としてのフルブリッジ型のインバータ、111〜116はインバータ11を構成する半導体スイッチング素子、21は交流電機としての交流電動機、40は電源(直流電源)、50は直流電圧部のコンデンサ(以下、主コンデンサという)である。
この交流電機システムにおいては、インバータ11のスイッチング素子111〜116をオン、オフして交流電動機21に供給する三相(U,V,W相)の交流電力を制御することにより、交流電動機21の発生トルクや回転速度を調整することができる。
この種の交流電機システムは公知であるため、回路の構成や動作についての詳細な説明は省略する。
【0004】
上述したような交流電機システムでは、電力変換器10の運転を停止する際に問題が生じる。すなわち、前述したリアクタンス成分の有する電磁エネルギーが、電力変換器10を停止する際に電力変換器10に流入するという問題である。
図12の交流電機システムを例示して説明すれば、インバータ11の運転停止時、すなわちインバータ11の全てのスイッチング素子111〜116をオフした際に、交流電動機21の有する電磁エネルギーがインバータ11に流入することにより、次のような問題が生じる。
【0005】
まず、インバータ11内の還流ダイオードを介して直流電圧部の主コンデンサ50の電圧が上昇し、その電圧が主コンデンサ50やスイッチング素子111〜116の耐圧を超えると、これらの部品が破損する。この問題を回避するには、主コンデンサ50の静電容量の増大、主コンデンサ50やスイッチング素子111〜116の耐圧を高める、等の対策が有効であるが、いずれもコスト,体積,発生損失の増大等を伴う。
これに対し、主コンデンサ50と直列に、半導体スイッチング素子と抵抗との直列接続回路(ダイナミックブレーキ回路)を付加し、主コンデンサ50に印加される電圧が過大になった場合にダイナミックブレーキ回路を動作させて主コンデンサ50の電圧上昇を抑える方法がある。しかし、この方法も、ダイナミックブレーキ回路を付加することにより、コストや体積の増大が避けられない。特に、電流通流時に電力変換器の運転を停止するのは非常時のみという場合が多く、そのためだけにダイナミックブレーキ回路を設けることは著しく不経済である。
【0006】
次に、交流電動機21が、例えば永久磁石型同期電動機(Permanent Magnet SynchronousMotor:PMSM,以下、PMモータともいう)である場合、電動機の高速回転時には無負荷誘起電圧(誘導起電力)が直流電圧部の電圧よりも高くなることがあり、その場合には電力変換器10の停止後も直流電圧部に電流が流れ続ける。特に、直流電圧部に電源としてバッテリーが接続されている場合には、直流電圧部に流入する電流が過大になるとバッテリーが破損することがある。
【0007】
この場合、直流電圧部への流入電流が過大になる状態から脱するために、バッテリーと電力変換器との間に直流スイッチを設け、この直流スイッチを遮断することが考えられる。しかし、交流電機(この例ではPMモータ)に電流が流れているときには、やはりリアクタンス成分が有する電磁エネルギーが主コンデンサ50に流入する結果、主コンデンサ50に過電圧が印加されることになる。
【0008】
また、交流電機システムを構成する電力変換器10としては、図12に示したインバータ11以外にも、例えばマトリクスコンバータのように、電流を双方向に通流、遮断可能な半導体スイッチング素子が交流電機20に接続される場合がある。このマトリクスコンバータにおいて、スイッチング素子をオフさせて何れの方向にも電流が流れ得ない状態にすると、リアクタンス成分の有する電磁エネルギーが行き場を失う結果、過大な電圧がスイッチング素子に瞬時に印加され、スイッチング素子が破損してしまうことがある。
【0009】
ここで、図13は、図12の交流電機システムにおいて、インバータ11の運転を停止した場合のシミュレーション結果を示す波形図である。なお、交流電動機21にはPMモータを用いており、図13は、インバータ11が回生動作している状態(PMモータの発生電力をインバータ11側に供給している状態)において、時刻t
1でインバータ11の運転を停止した場合の各部の電圧、電流等の挙動を示している。
図13によれば、元々400[V]であった直流電圧部の電圧(図中のインバータ直流電圧)が、時刻t
1以後は800[V]まで上昇している。このため、主コンデンサ50の耐圧が800[V]よりも低い場合には、主コンデンサ50が破損してしまう。
【0010】
このような現象は、図12の構成において、インバータ11の運転停止後に、インバータ11側から電源40に電流を流し込めない場合に生じる。
例えば、図14に示すように、電源40がバッテリー41と直流リレーのリレー接点(以下、直流スイッチという)42とによって構成されている場合に、インバータ11の運転停止と同時に直流スイッチ42がオフされると、PMモータからの回生電力による電流を、インバータ11の還流ダイオードを介してバッテリー41に流し込むことができなくなり、主コンデンサ50に過電圧が印加される。
【0011】
図15は、図14の交流電機システムにおいて、インバータ11の運転を停止した場合のシミュレーション結果を示す波形図であり、電源40への電流流入のシミュレーションを行った場合のものである。
このシミュレーションでは、PMモータを高速回転させて無負荷誘起電圧が直流電圧部の電圧よりも高くなり、インバータ11が回生動作を行っている時刻t
1でインバータ11の運転を停止し、その後の時刻t
2で直流スイッチ42を遮断したときのシステムの挙動を求めている。
【0012】
図15によれば、インバータ11の運転を停止した時刻t
1以後は、符号dにて示すように、バッテリー41には時刻t
1以前よりも大きい電流が流入しており、この電流値よりもバッテリー41の電流耐量が低いとバッテリー41が破損する恐れがある。
また、直流スイッチ42を遮断する時刻t
2以後は、直流電圧部の電圧が大幅に上昇しているため、主コンデンサ50の耐圧が問題になる。
【0013】
の問題を解決する方法の一つとして、特許文献1に開示された従来技術がある。
特許文献1の従来技術では、回路の主スイッチ(図14における直流スイッチ42に相当)が何らかの理由で開放されたとき、インバータの上アームまたは下アームのスイッチング素子を全てオン状態としてモータの固定子巻線を短絡させ、モータからインバータへの電磁エネルギーの流入を回避している。
これにより、電源側に過大な電流が流入し、または、主コンデンサに過電圧が印加されるのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−47055号公報(段落[0024]〜[0034]、図1,図2等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示された従来技術には、以下のような問題がある。
(1)この従来技術では、モータを短絡させることで過大な電流が持続して流れるので、モータの過熱や永久磁石の減磁を生じ得る。
(2)この従来技術では、モータの短絡により流れる過大な電流の減衰を、モータの減速に依存しているため、通常、過大な短絡電流が減衰するまでに相当な時間を必要とする。また、モータが充分に減速する前にインバータの運転を停止、すなわち全てのスイッチング素子をオフすると、大きな短絡電流によってリアクタンス成分に蓄積された電磁エネルギーがインバータに流入する。
【0016】
主コンデンサの電圧の上昇は、特に、主コンデンサの容量が小さい場合に問題になり易い。例えば、電気自動車用のインバータにおいては、寿命延長などの理由により、体積当たりの容量が比較的小さいフィルムコンデンサを用いることが多いため、主コンデンサの電圧の上昇が特に問題になる。
【0017】
そこで、本発明の目的は、交流電機,電力変換器及びその制御装置を備えた交流電機システムにおいて、電力変換器の運転停止時にリアクタンス成分が有する電磁エネルギーが電力変換器側に流入するのを防止または抑制し、過電圧や過電流の発生を防止してシステムの安全性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
課題を解決するため、本発明は、交流電機と、この交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、その制御装置と、を備えた交流電機システムにおいて、交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になった際に、交流電機の電気端子を実質的に開放状態とし、または、電力変換器内部の還流ダイオードを介して電気端子を導通可能な状態にするような操作を行う。ここで、交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になる時点は、電流検出値や電流の推定演算値を用いて取得する。
また、前記電気端子を流れる電流をゼロ近傍にするには、電力変換器の下アームまたは上アームのスイッチング素子及び還流ダイオードにより電流を還流させ、これによって交流電機の複数の電気端子同士を短絡すればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になった際に、交流電機の電気端子を開放状態とし、または、電力変換器の内部を介して電気端子を導通可能な状態にする操作を行うことにより、電力変換器の運転停止時に交流電機等のリアクタンス成分が有する電磁エネルギーが交流電機から電力変換器側に流入するのを防止または抑制する。これにより、過電圧や過電流の発生を防止して電力変換器や電源を保護し、交流電機システムの安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の動作を示す波形図である。
【図2】本発明の実施形態における交流電機システムの主要部の構成図である。
【図3】本発明の実施形態の動作を示す波形図である。
【図4】本発明の実施形態における交流電機システムの主要部の構成図である。
【図5】本発明の実施形態の動作を示す波形図である。
【図6】交流電動機の回転速度に対する誘導起電力及び直流電圧部の電圧の関係を示す特性図である。
【図7】本発明の実施形態における制御装置のロジックを示す回路図である。
【図8】請求項13に係る発明を実施しない場合の現象を示す波形図である。
【図9】本発明の実施形態の動作を説明するための交流電機システムの主要部の構成図である。
【図10】本発明の実施形態の動作を示す波形図である。
【図11】交流電機システムの一例を示す概念図である。
【図12】図11の具体例を示す概念図である。
【図13】図12の交流電機システムを対象としたシミュレーション結果を示す波形図である。
【図14】図12の交流電機システムの具体例を示す回路図である。
【図15】図14の交流電機システムを対象としたシミュレーション結果を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、請求項1,2に相当する本発明の実施形態を説明する。この例えば、図12,図14に示した三相の交流電機システムに適用されるが、交流電機システムの相数が三相を超える場合にも適用可能である。
【0022】
三相のシステムにおいて、三相交流が平衡正弦波である場合、定常状態において電力は理論上、一定となる。実際のシステムでは厳密に三相平衡正弦波である場合は少ないものの、基本的には三相平衡正弦波を仮定してシステムを成り立たせる場合が多く、以下の説明でもこの考え方は有効である。
すなわち、図14に示したような三相の交流電機システムにおいて、インバータ11の運転を三相同時に停止させると、停止時の各相の電力が等しい条件であれば、どの時点でインバータ11を停止しても交流電動機21等のリアクタンス成分は必ず電磁エネルギーを有し、この電磁エネルギーがインバータ11側に流入して前述したような問題を生じる。
【0023】
そこで、この実施形態では、インバータ11の各相のスイッチング素子をオフするタイミングを制御することにより、交流電動機21等のリアクタンス成分が有する電磁エネルギーがインバータ11側に流入するのを抑制するようにした。
すなわち、三相の交流電動機21の電流を各相について個別に見ると、各相電流は交流であるため、電流がゼロとなる瞬間が半周期に1回、必ず発生する。この点に着目し、本実施形態では、各相個別に電流がゼロ近傍になったときに当該相についてインバータ11の上下アームのスイッチング素子をオフ状態とし、これを三相すべてについて順次行う。
各相の通流電流がゼロであれば、当該相のリアクタンス成分が有する電磁エネルギーはゼロであるから、当該相のスイッチング素子をオフにする操作を行うことにより、交流電動機21からインバータ11側への電磁エネルギーの流入を防止または抑制することができる。
【0024】
ここで、図1は本実施形態の動作を示す波形図である。
図1において、期間aは、インバータ11が回生動作している期間、すなわち、交流電動機21を回生運転させてその発生電力をインバータ11が制御している期間(以下、変換器動作期間ともいう)、期間bは、インバータ11の各相の電流がゼロになった時点から上下アームのスイッチング素子を一括して順次オフしていく期間(以下、変換器移行期間ともいう)、期間cは、インバータ11の運転を完全に停止する期間(以下、変換器停止期間ともいう)である。
なお、図1の各波形において、V
uvはU−V相間の線間電圧、i
u,i
v,i
wはU,V,W相の出力電流、i
dcは図14のバッテリー41に流れる直流電流、V
dcはインバータ11の直流電圧(直流電圧部の電圧)である。
【0025】
図1によれば、期間bではインバータ11の出力電流が期間aよりも増加して交流電動機21に流れているが、バッテリー41への流入電流はゼロになっている。また、期間a,bではインバータ11の直流電圧が460[V]であったのに対し、期間cでは570[V]であり、図13の従来技術に比べて、主コンデンサ50に印加される電圧が大幅に低下しているので、主コンデンサ50の低耐圧化が可能になっている。
【0026】
次に、図2は、この実施形態における交流電機システムの主要部の構成図である。
この図2は、図14に示したフルブリッジ型のインバータ11の一相(例えばU相)について、上下アームのスイッチング素子を一括してオフにした状態を示している。なお、図2において、111D,112DはU相の還流ダイオードである。
【0027】
インバータ11のU相の上下アームのスイッチング素子を一括してオフすると、このU相について、図2に示すように、交流電動機21の電気端子は還流ダイオード111D,112Dのみを介して導通可能な状態となる。従って、U相の他相に対する電圧が、直流電圧部の電圧よりも低い限り、U相は開放状態となり、電流は通流しない。また、U相の他相に対する電圧が、直流電圧部の電圧よりも高くなっても、その大小関係が成り立っている期間のみ電流が流れるため、通常動作時に対して流れる電流を抑制することができる。
【0028】
ここではフルブリッジ型のインバータ11を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他種の電力変換器にも適用可能である。
例えば、マトリクスコンバータにおいても、ある相の電流がゼロ近傍となった時点で当該相のスイッチング素子をオフすることができる。その場合、当該相は実質的に開放状態となり、前述のように還流ダイオードのみを介して導通する状態とは異なる。請求項1,2の記載から明らかなように、本発明は、電力変換器としてインバータだけでなくマトリクスコンバータを用いる場合も包含する。
【0029】
次に、図3は、請求項3に対応する動作を示す波形図である。
図3において、前記同様に期間aは変換器動作期間、期間bは変換器移行期間、期間cは変換器停止期間である。図3では、期間aから期間bに移行する際、交流電動機21の各相の電気端子を短絡させることにより、交流電動機21の電流を還流させた後(この動作モードを還流モードという)、以下に説明する所定のスイッチング素子の操作を期間bにて行う様子を示している。
【0030】
交流電動機21の各相の電気端子を短絡すれば、交流電動機21からインバータ11を介してバッテリー41側に電力が流入することがなくなると共に、そのときの短絡電流は交流であるため、必ず交番する、すなわち電流がゼロとなる瞬間が生じる。従って、前述したように、インバータ11の各相の出力電流がゼロになった時点で当該相の上下アームのスイッチング素子をオフさせる操作を行うことができる。
なお、交流電動機21の各相の電気端子を短絡して電流を還流させる手段は、例えばインバータ11のスイッチング素子のオン、オフ状態を制御することにより、あるいは、専用の回路を付加することによって実現可能である。図3の例では、インバータ11の下アームのスイッチング素子112,114,116を全てオンすることにより、交流電動機21の各相の電気端子を短絡している。
【0031】
次いで、図4は、フルブリッジ型のインバータ11において、交流電動機21の各相の電気端子を短絡して電流を還流させる場合の主要部の説明図であり、請求項4に相当する。
フルブリッジ型のインバータ11によって交流電動機21を駆動する場合には、インバータ11の上アームの全てのスイッチング素子111,113,115または下アームの全てのスイッチング素子112,114,116をオン状態にすれば、交流電動機21の全相の電気端子を短絡することができる。図4では、○印で囲んだ下アームの全てのスイッチング素子112,114,116をオンさせている。
なお、このようにインバータ11の上アームまたは下アームの全てのスイッチング素子をオンさせることにより、インバータ11に接続された負荷の電気端子を短絡させる技術自体は公知であるため、詳述を省略する。
【0032】
図5は、請求項5に対応する実施形態の動作を示す波形図である。
この実施形態では、変換器動作期間aにおいて、図4に示したように下アームの全てのスイッチング素子112,114,116をオン状態、上アームの全てのスイッチング素子111,113,115をオフ状態とし、その後に変換器移行期間bを開始する。
この操作により、期間bでは交流電動機21の各相が短絡されているので、交流電動機21から発生する電圧、及び、交流電動機21のリアクタンス成分を流れる電流に起因した磁気エネルギーにより、比較的大きな短絡電流i
u,i
v,i
wが、交流電動機21と下アームのスイッチング素子112,114,116を通って還流する。
【0033】
ここで、下アームのスイッチング素子112,114,116が、例えばIGBT等の能動スイッチング素子と、この能動スイッチング素子に並列に接続された還流ダイオードとから構成されている場合、還流ダイオードを通って電流が流れている場合には、並列接続された能動スイッチング素子には電流が流れていない。このような状態では、当該能動スイッチング素子をオフ状態とする。この操作による短絡電流の変化は実質的にない。
このような操作を行えば、当該相については、還流ダイオードに流れる電流が減少していき、やがてゼロになった時点で、当該還流ダイオードに並列接続されている能動スイッチング素子がオフされているため、電流はゼロのままで維持される。これにより、当該相に関しては、電流がゼロの状態でスイッチング素子をオフするという操作が実現される。
【0034】
また、能動スイッチング素子に電流が流れている場合でも、その値がゼロ、あるいは所定値以下になったときに、当該能動スイッチング素子をオフする。ここで、の所定値は、能動スイッチング素子をオフすることによる交流電動機21からインバータ11への電流の流入、あるいは、電流の流入によって上昇する直流電圧部の電圧が許容値以下になることを指標として決めればよい。
なお、図5における符号eは、W相電流i
wがゼロになる時点を示し、符号fは、U相電流i
u,V相電流i
vがゼロになる時点を示している。また、符号gは、その時点で正の電流i
wが流れているW相の下アームのスイッチング素子116をオフすることを示し、符号hは、その時点で正の電流i
vが流れているV相の下アームのスイッチング素子114をオフすることを示している。
以上のような操作を各相について行うことにより、電流がゼロになった時点でスイッチング素子をオフさせることができる。
【0035】
図5によれば、変換器移行期間bから変換器停止期間cに切り替わる際に直流電圧部の電圧が上昇しているものの、その値は、460[V]から570[V]への上昇であり、図13に示したような800[V]という過大な値への上昇は抑制されている。
なお、図5において460[V]から570[V]に電圧が上昇しているのは、交流電動機21の電気端子における電流の通流が継続している状態でスイッチング素子をオフしたことによる。しかし、スイッチング素子をオフした時の電流値が図13に比べて小さくなっていることによって電圧の上昇が抑制されているのであり、これは本発明の所期の効果が達成されていることを示している。
この実施形態も、四相以上の交流電機システムに適用可能である。
【0036】
また、三相のうち最初の一相(ここではA相と呼ぶ)の下アームのスイッチング素子がオフ状態になった場合、残りの二相(B相,C相と呼ぶ)が短絡状態にあるときは、B相,C相の各端子に対するA相の電位(電圧V
aと呼ぶ)がインバータ11の直流電圧部の電圧よりも高くなると、A相の下アームのスイッチング素子がオフ状態にあっても、A相の上アームのスイッチング素子の還流ダイオードに電流が流れる。ただし、この電流が流れる期間は、電圧V
aが直流電圧部の電圧よりも高い期間のみであり、顕著な電圧上昇には至らない場合が多いため、特に問題とはならない。
【0037】
なお、以上の説明では下アームのスイッチング素子を操作する場合の動作を説明したが、請求項6に記載するように、上アームのスイッチング素子を操作した場合でも全く同様の動作が実現可能である。
【0038】
上述したスイッチング素子の操作は、請求項1における電流情報取得手段として電流検出器を用い、この電流検出器によって交流電動機21の各相の電流を検出することにより容易に実現可能である。
電流情報取得手段の他の例としては、請求項7に記載するように、短絡操作開始時点における交流電機システムの状態(各相の電流の振幅及び位相、並びに交流電動機21の回転速度等)に基づき、交流電動機21の数学的モデルを用いて短絡後の電流の挙動を推定演算することによって実現可能である。これは特に、交流電動機21の相電流を検出せずに推定して交流電動機21を駆動する交流電機システムにおいて有用である。
【0039】
次に、請求項8に対応する実施形態を説明する。この図14に示したように、例えば、電気自動車に搭載されたバッテリー41等の直流電源を有する交流電機システムに関するものである。
図14において、交流電動機21に通電中にインバータ11の運転を停止すると、交流電動機21からインバータ11に電磁エネルギーが流入するが、バッテリー41によって直流電圧部の電圧がクランプされているため、直流電圧の跳ね上がりは実質的に生じない。しかし、その代わりに、バッテリー41に過電流が流入する怖れがある。
バッテリー41は、過電流の流入によって著しく劣化することがあるため、このような状況を生じさせないことが望ましい。
【0040】
そこで、この実施形態では、次のような操作を行うことによってバッテリー41への過電流の流入を防止するものである。
すなわち、まず、交流電動機21の全ての電気端子を短絡する。短絡の方法は、前述したようにインバータ11の上アームまたは下アームの全てのスイッチング素子をオンさせればよい。これにより、前述したようにバッテリー41を流れる電流はゼロとなる。
この状態で、バッテリー41と直流電圧部との間の直流スイッチ42をオフする。直流電路を開閉するスイッチは、電路を流れている電流が過大な状態ではオフできないことがあるが、バッテリー41を流れる電流がゼロの状態であれば直流スイッチ42を確実にオフすることができる。
【0041】
続いて、既に説明したように、各相の電流がゼロになった時点で当該相のスイッチング素子を順次オフする操作を行う。
このようにすれば、バッテリー41に過電流が流入するのを回避しながら、直流電圧部の電圧上昇を抑制し、システムを安全に停止させることが可能となる。
【0042】
次いで、請求項9,10に相当する実施形態を説明する。
本発明に係る技術は、特に、交流電機がPMモータの場合に大きな効果を発揮する。すなわち、PMモータは永久磁石の磁束に起因する誘導起電力(磁石起電力)を有し、その振幅は一般的に回転速度に比例する。従って、高速回転領域では比較的高い起電力がPMモータの端子間に発生するため、インバータ等の電力変換器によってPMモータを駆動している最中に電力変換器の運転を停止すると、PMモータから電力変換器に流入する電磁エネルギーが大きくなり易い傾向がある。
なお、誘導電動機や巻線型同期電動機においては、高速回転時に電流を調整することによって起電力を低下させることができるため、この点でPMモータとは相違する。
【0043】
ここで、図6は、交流電動機(PMモータ)の回転速度に対する誘導起電力及び直流電圧部の電圧の関係を示す特性図である。
PMモータを適用対象とする交流電機システムにおいて、誘導起電力の線間ピーク値が、PMモータを駆動するインバータ11の直流電圧部の電圧よりも高くなる場合は、本発明の作用効果は大きくなる。
なお、周知のように、PMモータは永久磁石型同期発電機と構造が同一であるから、本実施形態はこれらの両者を含む永久磁石型同期機に適用可能である。
【0044】
前述したように、誘導起電力は回転速度に比例する。このため、PMモータに許容される最高の回転速度において誘導起電力がインバータ11の直流電圧部よりも高くなるように設計されたシステムでは、インバータ11が停止する直前のPMモータの電磁エネルギーの多寡によらず、直流電圧が例えばバッテリー41によってほぼ一定値に維持される場合、インバータ11の運転停止後もPMモータから電流が流れ続ける。このため、の電流によってバッテリー41が過熱したり、破損したりする恐れがある。
また、直流電圧部にバッテリー41が接続されていない場合でも、そもそも停止時のモータ端子電圧が高いため、直流電圧部に流入する電流が大きくなり易く、この電流を抑制する必要性は高い。
【0045】
従って、本発明を適用することにより、特に直流電圧部にバッテリー41が接続されている交流電機システムにおいては、バッテリー41への電流の継続的な流入を防ぐことができる。また、このような交流電機システム以外でも、直流電圧部への過電流の流入を抑制することができる。
PMモータを用いた交流電機システムにおいては、上述した直流電圧部の電圧上昇という問題が存在するため、安全上の見地から、PMモータの誘導起電力を低めに、極端な場合には直流電圧部の電圧よりも低く設計しなくてはならない場合が多い。このことは、同じ仕事量をモータにさせる場合に、必要な電流が大きくなることを意味しており、電流値が大きくなることは駆動用インバータやケーブルの容量増大につながり、不経済であると共に、インバータの寸法や質量の増大を招く。
これらの問題は、交流電機システムを各種産業や電気自動車などに適用する際の大きな障害となる。従って、本発明により直流電圧部の電圧が過度に上昇するのを解決することによって、障害を取り除くことができ、交流電機システムの経済性と小型軽量化を大きく推進することが可能となる。
【0046】
次いで、請求項11に対応する実施形態を説明する。
図1,図3,図5からわかるように、本発明では、変換器移行期間bにおいて、瞬間的に大きな電流が交流電動機21の固定子巻線に流れる。一般に、永久磁石には非可逆減磁という現象がある。これは、永久磁石を減磁する方向に大きな磁束が作用すると、永久磁石の磁化が非可逆的に弱まり、再度着磁しない限り元に戻らない現象をいう。
PMモータでは、固定子巻線に電流が流れると磁束が発生し、ロータの位置によっては、固定子巻線から発生した磁束が永久磁石を減磁させる方向に作用する場合がある。つまり、PMモータの巻線に流れる電流値によっては、PMモータ内の永久磁石が非可逆減磁することがあり、これによってPMモータは所望の特性を発揮できなくなる。
【0047】
上述した非可逆減磁を回避するためには、例えば、永久磁石の量を増やしたり、PMモータの構造を工夫したりする必要があり、これらの対策はPMモータの設計段階から考慮することが望ましい。
すなわち、交流電機システム全体の安全を担保するために、本発明を適用してシステムが安全に停止した後に、システムを再度運転する必要が生じる場合がある。そのような場合には、上述したような方法により、永久磁石が非可逆減磁しないようにモータを設計すればよい。
【0048】
なお、ある程度の非可逆減磁であれば問題にならない用途では、変換器移行期間bに瞬間的に流れる過電流を利用して、PMモータが非可逆減磁するように設計することも可能である。
すなわち、非可逆減磁することにより、非可逆減磁させない場合に対して、一般に永久磁石の量を減らせたり、永久磁石のグレードを下げたりすることが可能であるため、PMモータの低コスト化が可能である。また、非可逆減磁によって誘導起電力が低下するため、PMモータからインバータ側へ流入する電磁エネルギーが減少し、変換器移行期間bにおいて流れる電流が減少するので、PMモータやインバータの発熱を抑えることができる。
【0049】
次に、請求項12に対応する実施形態を説明する。
上述した各実施形態の上位概念に相当する技術思想は、以下のとおりである。
すなわち、変換器移行期間bにおいて、インバータ11等の電力変換器の操作によって交流電動機21等の交流電機から電力変換器へのエネルギーの流入を防止または抑制し、かつ、交流電機を駆動する力学的動力源のエネルギーを消費させて電磁エネルギーが安全なレベルまで減衰するのを待たずに、換言すれば、交流電機が安全な速度レベルまで減速するのを待たずに、電力変換器を安全に停止させることである。
【0050】
例えば、本発明の交流電機システムを、車輪を有する輸送機器などに適用する場合には、電力変換器のスイッチング素子を制御して交流電機の巻線を短絡させれば、交流電機から電力変換器へのエネルギーの流入を抑制することができる。しかし、この状態を継続すると、原理的に輸送機器の運動エネルギーが交流電機内で巻線の抵抗損失やコアの鉄損あるいは摩擦力によって消費され、変換器を停止しても問題ない速度レベルまで車両が減速するまで、変換器の運転停止を待たなくてはならない。つまり、極めて長い時間にわたって交流電機の短絡状態を継続しなくてはならず、交流電機及び電力変換器が過熱によって破損する可能性が極めて高くなる。この問題を回避するように交流電機システムを設計すると、システムが過剰スペックになって全体的な質量、寸法、コストが上昇してしまう。
よって、本発明によれば、前述した変換器移行期間bにおいて電力変換器のスイッチング素子を制御するタイミングを適切に操作することにより、交流電機を長期間にわたって短絡させずに、言い換えれば交流電機が安全なレベルまで減速するのを待たずに、システムを安全に停止させることができる。
【0051】
なお、電力変換器は、一般的に、過電流を検出すると電力変換器の全スイッチング素子を一度に遮断するように動作する。このような動作を、「過電流トリップ」と呼ぶ。
しかし、本発明は、過電流検出時に直ちに遮断動作に移行しない点で「過電流トリップ」とは相容れない。従って、本発明を適用する場合には、過電流トリップ機能を停止させる必要がある。一つの方法としては、交流電機の回転速度および電流が所定値よりも小さい場合には交流電機から発生する電磁エネルギーも相対的に小さいため、過電流トリップ機能を有効にしておき、回転速度および電流が所定値を上回った場合に本発明を適用することが考えられる。
【0052】
次いで、図7は本発明の実施形態を実現するためのロジックを示す回路図である。
図7において、201は抵抗、202はコンデンサ、203は波形整形回路、204はNOTゲート、205,206はORゲート、207はゼロラッチ回路、208,211はANDゲート、209は前述した電流情報取得手段としての電流検出器、210はコンパレータ、212,213はアンプである。また、前述したように、111は例えばインバータ11のU相の上アームのスイッチング素子、112は下アームのスイッチング素子であり、111D,112Dはこれらのスイッチング素子111,112にそれぞれ逆並列に接続された還流ダイオードである。
前述のごとく、交流電動機21の電流を検出せずに推定演算によって電流がゼロ近傍になる時点を取得する場合には、電流情報取得手段として、電流検出器209による検出値の代わりに、演算手段により求めた電流推定値がコンパレータに入力されることになる。
【0053】
図7において、緊急停止信号ESは、例えば、図14の直流スイッチ42が何らかの理由によって開放されたような場合を緊急時と認識して「0」となり、交流電機システムの通常運転時には「1」となる信号である。
緊急停止信号ESが「1」である間は、インバータ11のU相の上下アームのスイッチング素子111,112は、それぞれ制御用スイッチング信号S
1,S
2によってオン、オフされる。いま、緊急停止信号ESが「0」になると、制御用スイッチング信号S
1,S
2はANDゲート211,208の作用によって無効となる。これにより、上アームのスイッチング素子111がオフ状態になる一方、下アームのスイッチング素子112はオン状態になると同時に、電流iの極性に応じて出力信号を切り替えるコンパレータ210の入力が有効化される。このコンパレータ210は、電流iが正の場合には「0」を、電流iが負の場合には「1」を出力し、その出力はORゲート206を介してゼロラッチ回路207に入力される。
【0054】
ゼロラッチ回路207は、入力信号が「1」→「0」に変化すると同時に「0」を出力し、以降はその状態を保持する。従って、緊急停止信号ESが「1」である間は、ORゲート206の作用によってゼロラッチ回路207に「1」が入力されており、その後に緊急停止信号ESが「0」になると、電流iが正になればゼロラッチ回路207に「0」が入力されることになる。
ゼロラッチ回路207の出力信号は、下アームのスイッチング素子112の制御信号を生成するANDゲート208の入力信号となっており、この入力信号が「0」になることによってスイッチング素子112はオフ状態となる。
【0055】
以上に説明した動作は、例えば図1における変換器動作期間aから、緊急停止信号ESの入力によって変換器移行期間bに入った後、電流iの極性に応じて下アームのスイッチング素子112をオフするまでの動作に対応している。なお、何らかの障害によってスイッチング素子112がいつまでもオフ状態に至らないことが安全上問題である場合には、緊急停止信号ESが「1」から「0」に変化した場合に、所定時間の経過後にスイッチング素子112を強制的にオフさせればよい。図7の例では、抵抗201及びコンデンサ202の時定数を調整することで所定時間を調整可能としており、抵抗201とコンデンサ202との接続点に接続された波形整形回路203、ANDゲート208、アンプ212を介して、スイッチング素子112のオフディレイ動作を可能にしている。
【0056】
なお、図7は主に電子回路によって所望のロジックを実現しているが、周知のように電子回路の構成には大きな自由度があり、図7に示したものは最も基本的な実施例の一つに過ぎない。従って、図7以外の回路構成を採用することも勿論可能であるし、図7における機能の一部をソフトウェアによって実現することも可能である。
【0057】
次に、図8〜図10に基づいて請求項13に対応する実施形態を説明する。
図4の構成において、請求項5に記載したように、変換器移行期間bに三相のうち最初の一相(ここではA相と呼ぶ)の下アームのスイッチング素子がオフ状態になった場合、残りの二相(B相,C相と呼ぶ)が短絡状態にある場合には、更に次の現象が生じ得る。
【0058】
すなわち、A相の電位がB相及びC相の短絡部の電位よりも低くなると、A相の下アームのスイッチング素子に並列に接続されている還流ダイオードが導通してA相に再び電流が流れてしまうことがある。この状態を示したのが図8であり、図8の例では、V相の電流i
vが負のままでゼロを交差しないため、請求項4に示した方法では変換器移行期間bから変換器停止期間cに移ることができず、変換器移行期間bが継続される。この現象のきっかけは、W相(ここで言うA相に相当)の電流i
wが一旦ゼロになりながら、再び流れ始めることである。
【0059】
の問題は、次に示す方法によって解決可能である。すなわち、A相に電流が再び流れる理由は、前述したようにA相の電位がB相及びC相の短絡部の電位よりも低くなることにあるので、B相及びC相の電流通流状態を維持したまま、A相の電位が低くなることによって電流が遮断される状態を作り出せばよい。
具体的には、A相の電流が一旦ゼロになった後、通流を再開したことを検知し、あるいは再び通流可能状態にあると判定された場合には、図9に示すように各スイッチング素子の状態を変化させればよい。なお、図9では、オン状態のスイッチング素子を○印により囲んである。
【0060】
つまり、A相(図9のW相)については、インバータ11の上下アームのスイッチング素子のオフ状態を維持したまま、B相,C相(それぞれU相,V相)については、まず下アームのスイッチング素子112,114をオフ状態とし、電流が正の場合には上アームのスイッチング素子111をオン状態とする。この操作により、電流が正(この例ではU相電流が正)の場合には上アームのスイッチング素子111を通って電流が通流し、電流が負(この例ではV相電流が負)の場合には上アームのスイッチング素子113に逆並列接続された還流ダイオードを通って電流が通流する。
すなわち、図9に示す動作により、交流電動機21における電流通流状態を維持したまま、電流の短絡ルートを下アームのスイッチング素子群から上アームのスイッチング素子群に切り替えたことになる。
【0061】
このとき、A相(W相)については上アームの還流ダイオードが短絡ルートとなるところ、先に説明したように、この状態ではA相の電位がB相とC相の短絡部の電位よりも低くなっているため、前記上アームの還流ダイオードが遮断状態となり、電流は流れなくなる。
の操作により、やがてB相,C相を流れる電流はゼロに至り、その時点で先にオン状態とした上アームのスイッチング素子をオフ状態にすることによって、インバータ11の全てのスイッチング素子がオフ状態となり、電流がゼロの状態で変換器停止期間cに移ることが可能となる。
【0062】
の一連の操作を行った場合の波形が、図10である。
変換器移行期間b1において、図8に示したW相の電流がゼロとなった後、再び流れ始めた期間b2で、上述した上下アームのスイッチング素子群の切り替え操作を行うことにより、U相,V相(B相,C相)の通流状態を維持しつつ、W相の電流が上アームの還流ダイオードによって遮断されている。
その後、U相,W相の電流もゼロとなり、期間b2が終了して変換器停止期間cに至る。このときの直流電圧部の電圧の上昇は極めて小さく、この例では、460[V]→463[V]となっており、実質的には電圧の上昇が解消されていると言える。
【0063】
なお、の説明では、下アームのスイッチング素子群から上アームのスイッチング素子群への短絡経路の切り替え操作について説明したが、請求項14に記載するように、上アームのスイッチング素子群から下アームのスイッチング素子群への切り替え操作についても全く同様に実現可能である。
また、請求項13,14の制御方法を、請求項8のようにバッテリー41等の直流電源を有する交流電機システムに適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、例えばインバータにより車両駆動用交流電動機を駆動する電気自動車用またはハイブリッド自動車用の電動機駆動システムを始めとして、電力変換器と交流電機との間で電力を授受する各種の交流電機システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
10:電力変換器
11:インバータ
20:交流電機
21:交流電動機
30:リアクタンス成分
40:電源
50:主コンデンサ
111〜116:半導体スイッチング素子
111D,112D:還流ダイオード
201:抵抗
202:コンデンサ
203:波形整形回路
204:NOTゲート
205,206:ORゲート
207:ゼロラッチ回路
208,211:ANDゲート
209:電流検出器
210:コンパレータ
212,213:アンプ
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【手続補正書】
【提出日】2014年8月4日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
三相のシステムにおいて、三相交流が平衡正弦波である場合、定常状態において電力は理論上、一定となる。実際のシステムでは厳密に三相平衡正弦波である場合は少ないものの、基本的には三相平衡正弦波を仮定してシステムを成り立たせる場合が多く、以下の説明でもこの考え方は有効である。
すなわち、図14に示したような三相の交流電機システムにおいて、インバータ11の運転を三相同時に停止させると、停止時の各相の電力が等しい条件であれば、どの時点でインバータ11を停止しても交流電動機21等のリアクタンス成分は必ず電磁エネルギーを有し、この電磁エネルギーがインバータ11側に流入して
従来の問題を生じる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
前述したように、誘導起電力は回転速度に比例する。このため、PMモータに許容される最高の回転速度において誘導起電力がインバータ11の直流電圧部
の電圧よりも高くなるように設計されたシステムでは、インバータ11が停止する直前のPMモータの電磁エネルギーの多寡によらず、直流電圧が例えばバッテリー41によってほぼ一定値に維持される場合、インバータ11の運転停止後もPMモータから電流が流れ続ける。このため、の電流によってバッテリー41が過熱したり、破損したりする恐れがある。
また、直流電圧部にバッテリー41が接続されていない場合でも、そもそも停止時のモータ端子電圧が高いため、直流電圧部に流入する電流が大きくなり易く、この電流を抑制する必要性は高い。
【国際調査報告】