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再表2013-161335ベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20151201BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20151201BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
   F16H59/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2014-512380(P2014-512380)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-100582(P2012-100582)
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】金原 茂
(72)【発明者】
【氏名】藤川 敦司
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA12
3J552PA52
3J552PA63
3J552QB02
3J552QB08
3J552TA10
3J552TB12
3J552VA13W
3J552VA15W
3J552VA18Z
3J552VA33Z
3J552VA34Z
3J552VA38Z
3J552VA74Z
3J552VB01Z
3J552VC01Z
3J552VD01Z
(57)【要約】
ベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置において、摩擦係数補正手段(M4)は、摩擦係数算出手段(M3)が所定の変速比において算出した摩擦係数と該所定の変速比における摩擦係数マップ(16)に記憶した摩擦係数のデフォルト値とから摩擦係数補正係数を算出し、各変速比の摩擦係数マップ(16)に記憶した摩擦係数のデフォルト値を摩擦係数補正係数により一律に補正する。これにより、一つの摩擦係数補正係数を算出するだけで全ての摩擦係数マップ(16)の摩擦係数のデフォルト値を補正することが可能になり、かつ補正された摩擦係数のデフォルト値の信頼性も確保される。しかも一つの変速比においてのみ摩擦係数を算出すれば良いため、摩擦係数摩擦係数が算出可能となる頻度を増加させて補正された摩擦係数のデフォルト値の信頼性を更に高めることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリ(13,14)および無端ベルト(15)間の摩擦係数のデフォルト値(μ0 )を変速比毎に記憶する摩擦係数マップ(16)と、
前記プーリ(13,14)および前記無端ベルト(15)間の摩擦係数(μ)を算出する摩擦係数算出手段(M3)と、
前記摩擦係数算出手段(M3)で算出した摩擦係数(μ)に基づいて前記摩擦係数マップ(16)に記憶した前記摩擦係数のデフォルト値(μ0 )を補正する摩擦係数補正手段(M4)と、
を備えるベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置であって、
前記摩擦係数補正手段(M4)は、前記摩擦係数算出手段(M3)が所定の変速比において算出した摩擦係数(μ)と該所定の変速比における前記摩擦係数マップ(16)に記憶した摩擦係数のデフォルト値(μ0 )とから摩擦係数補正係数(k)を算出し、各変速比の前記摩擦係数マップ(16)に記憶した前記摩擦係数のデフォルト値(μ0 )を前記摩擦係数補正係数(k)により一律に補正することを特徴とするベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プーリおよび無端ベルト間の摩擦係数のデフォルト値を変速比毎に記憶する摩擦係数マップと、プーリおよび無端ベルト間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、前記摩擦係数算出手段で算出した摩擦係数に基づいて前記摩擦係数マップに記憶した前記摩擦係数のデフォルト値を補正する摩擦係数補正手段とを備えたベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸に設けたドライブプーリと出力軸に設けたドリブンプーリとに無端ベルトを巻き掛けたベルト式無段変速機では、プーリが無端ベルトを挟圧する軸推力を制御することで、プーリの溝幅を変化させて変速比を増減するとともに、プーリおよび無端ベルト間にスリップが発生するのを防止している。プーリおよび無端ベルト間にスリップが発生するのを防止すべくプーリの軸推力を制御するとき、プーリおよび無端ベルト間の摩擦係数が大きいとスリップが発生し難いが、発熱量が増加して効率低下を招くことがあり、小さいとスリップが発生し易いため、その摩擦係数を考慮して必要な軸推力を算出する必要がある。
【0003】
プーリおよび無端ベルト間の摩擦係数はベルト式無段変速機の変速比に応じて変化するため、予め摩擦係数のデフォルト値(新車時に設定される初期値)を記憶させた摩擦係数マップを変速比毎に設けておき、そのときの変速比に応じた摩擦係数マップから摩擦係数のデフォルト値を読み出してプーリの軸推力を制御することが行われている。しかしながら、経時変化による摩耗等によりプーリおよび無端ベルトの接触面の性状が変化すると、それらの間の摩擦係数も次第に変化し、実際の摩擦係数は摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値から乖離するため、ベルト式無段変速機の運転状態から算出した実際の摩擦係数に基づいて摩擦係数のデフォルト値を補正してプーリの軸推力の制御に使用する必要がある。
【0004】
下記特許文献1には、各変速比毎にプーリおよび無端ベルト間の実際の摩擦係数を算出し、算出した摩擦係数を用いて対応する変速比の摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値を補正し、補正した摩擦係数を用いてプーリの軸推力を制御するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特許第4158665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、各変速比毎に実際の摩擦係数を算出するのは、その変速比でベルト式無段変速機が所定時間定常状態で運転されることが必要となるが、例えば発進時の高変速比状態は極めて短時間しか継続しないため、高変速比状態における実際の摩擦係数を算出する機会は殆どないと言える。従って、上記従来のものは、全ての変速比領域で摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値を的確に補正することは困難であり、プーリの側圧が過剰になってエンジンの燃費を悪化させたり、プーリの側圧が不足して無端ベルトがスリップしたりする可能性があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、摩擦係数マップに変速比毎に予め記憶されたベルト式無段変速機のプーリおよび無端ベルト間の摩擦係数のデフォルト値を、プーリおよび無端ベルトに経時変化が生じるのに応じて簡単かつ的確に補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によれば、プーリおよび無端ベルト間の摩擦係数のデフォルト値を変速比毎に記憶する摩擦係数マップと、前記プーリおよび前記無端ベルト間の摩擦係数を算出する摩擦係数算出手段と、前記摩擦係数算出手段で算出した摩擦係数に基づいて前記摩擦係数マップに記憶した前記摩擦係数のデフォルト値を補正する摩擦係数補正手段とを備えるベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置であって、前記摩擦係数補正手段は、前記摩擦係数算出手段が所定の変速比において算出した摩擦係数と該所定の変速比における前記摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値とから摩擦係数補正係数を算出し、各変速比の前記摩擦係数マップに記憶した前記摩擦係数のデフォルト値を前記摩擦係数補正係数により一律に補正することを特徴とするベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態のドライブプーリ13およびドリブンプーリ14は本発明のプーリに対応する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の特徴によれば、摩擦係数補正手段は、摩擦係数算出手段が所定の変速比において算出した摩擦係数と該所定の変速比における摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値とから摩擦係数補正係数を算出し、各変速比の摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値を摩擦係数補正係数により一律に補正する。これにより、一つの摩擦係数補正係数を算出するだけで全ての摩擦係数マップの摩擦係数のデフォルト値を補正することが可能になり、かつ補正された摩擦係数のデフォルト値の信頼性も確保されるため、各変速比毎に算出した複数の摩擦係数から複数の摩擦係数補正係数を求め、そられの摩擦係数補正係数で各変速比毎の摩擦係数マップに記憶した摩擦係数のデフォルト値を補正する従来の手法に比べて演算負荷が軽減される。しかも一つの変速比においてのみ摩擦係数を算出すれば良いため、複数の変速比においてそれぞれ摩擦係数を算出する従来の手法に比べて、摩擦係数が算出可能となる頻度を増加させて補正された摩擦係数のデフォルト値の信頼性を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はベルト式無段変速機の全体構造を示す図である。(第1の実施の形態)
図2図2はベルト式無段変速機の変速制御および側圧制御の説明図である。(第1の実施の形態)
図3図3はプーリの変速制御および側圧制御を決定するフローチャートである。(第1の実施の形態)
図4図4はプーリ側圧と動力伝達効率との関係を示すグラフである。(第1の実施の形態)
図5図5はトルク比と動力伝達効率との関係を示グラフである。(第1の実施の形態)
図6図6はトルク比とベルトスリップとの関係を示す図である。(第1の実施の形態)
図7図7は入力軸回転数の変動波形および出力軸回転数の変動波形を示す図である。(第1の実施の形態)
図8図8は変動成分の周波数および滑り識別子からトルク比を検索するマップを示す図である。(第1の実施の形態)
図9図9は変動成分の周波数および位相遅れからトルク比を検索するマップを示す図である。(第1の実施の形態)
図10図10はプーリ側圧の制御系のブロック図である。(第1の実施の形態)
図11図11は二つの物体の接触面の状態を示す模式図である。(第1の実施の形態)
【符号の説明】
【0012】
13 ドライブプーリ(プーリ)
14 ドリブンプーリ(プーリ)
15 無端ベルト
16 摩擦係数マップ
M3 摩擦係数算出手段
M4 摩擦係数補正手段
μ 摩擦係数
μ0 摩擦係数のデフォルト値
k 摩擦係数補正係数
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1図11に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【第1の実施の形態】
【0014】
図1に示すように、自動車に搭載されるベルト式無段変速機TMは、エンジンEに接続された入力軸11と、入力軸11と平行に配置された出力軸12と、入力軸11に設けられたドライブプーリ13と、出力軸12に設けられたドリブンプーリ14と、ドライブプーリ13およびドリブンプーリ14に巻き掛けられた金属製の無端ベルト15とを備える。ドライブプーリ13は固定側プーリ半体13aと可動側プーリ半体13bとで構成され、可動側プーリ半体13bはプーリ側圧で固定側プーリ半体13aに接近する方向に付勢される。同様に、ドリブンプーリ14は固定側プーリ半体14aと可動側プーリ半体14bとで構成され、可動側プーリ半体14bはプーリ側圧で固定側プーリ半体14aに接近する方向に付勢される。従って、ドライブプーリ13の可動側プーリ半体13bおよびドリブンプーリ14の可動側プーリ半体14bに作用させるプーリ側圧を制御し、ドライブプーリ13およびドリブンプーリ14の一方の溝幅を増加させて他方の溝幅を減少させることで、ベルト式無段変速機TMの変速比を任意に変更することができる。
【0015】
ベルト式無段変速機TMの変速比を制御する電子制御ユニットUには、入力軸回転数センサSaで検出した入力軸11の回転数と、出力軸回転数センサSbで検出した出力軸12の回転数と、エンジン回転数センサScで検出したエンジンEの回転数とに加えて、アクセル開度信号、車速信号等が入力される。電子制御ユニットUは、アクセル開度信号および車速信号に基づいてベルト式無段変速機TMのプーリ側圧を変化させる通常の変速比制御以外に、後述するトルク比Trを推定し、このトルク比Trを用いてベルト式無段変速機TMの動力伝達効率を高めるべくプーリ側圧を変化させる制御を行う。
【0016】
図2に示すように、ベルト式無段変速機TMの入力トルクをTDRとし、出力トルクをTDNとし、最大伝達入力トルク、即ちドライブプーリ13および無端ベルト15間にスリップが発生する瞬間の入力トルクTDRをTmaxDRとし、最大伝達出力トルク、即ちドリブンプーリ14および無端ベルト15間にスリップが発生する瞬間の出力トルクTDNをTmaxDNとし、動力伝達効率をη、変速比をiとすると、ベルト式無段変速機TMの最大伝達トルクTmaxは,TmaxDRあるいはTmaxDN/ηiの何れか小さい方となり、TDR>Tmaxのときに、ドライブプーリ13およびドリブンプーリ14の何れか一方がスリップする。
【0017】
図3のフローチャートに示すように、例えば、ステップS1でTmaxDR>TmaxDN/ηiの場合には、出力トルクTDN>最大伝達出力トルクTmaxDNになった瞬間にドリブンプーリ14にスリップが発生するため、ステップS2でベルト式無段変速機TMの変速比を制御するためにドライブプーリ13の側圧を制御し(変速制御)、ドリブンプーリ14のスリップを防止するためにドリブンプーリ14の側圧を制御する(側圧制御)。
【0018】
逆に、前記ステップS1でTmaxDR≦TmaxDN/ηiの場合には、入力トルクTDR>最大伝達入力トルクTmaxDRになった瞬間にドライブプーリ13にスリップが発生するため、ステップS3でベルト式無段変速機TMの変速比を制御するためにドリブンプーリ14の側圧を変更し(変速制御)、ドライブプーリ13のスリップを防止するためにドライブプーリ13の側圧を制御する(側圧制御)。
【0019】
ところで、ベルト式無段変速機TMの動力伝達効率を高める手段の一つとして、プーリに加えるプーリ側圧を低下させることが知られている。図4は、プーリ側圧に対する動力伝達効率および摩擦損失の関係を示すもので、プーリ側圧の減少に伴って、プーリおよび無端ベルト間のスリップが小さいミクロスリップ領域から、遷移領域を経て、プーリおよび無端ベルト間のスリップが大きいマクロスリップ領域に移行する。ミクロスリップ領域ではプーリ側圧の減少に応じて動力伝達効率が次第に向上するが、遷移領域で動力伝達効率が低下し始め、マクロスリップ領域で動力伝達効率が急激に低下する。
【0020】
その理由は、無端ベルトの金属エレメントの半径方向滑りと金属リングの滑りに起因する摩擦損失の和は、プーリ側圧の減少に伴ってミクロスリップ領域からマクロスリップ領域まで一定の比較的に大きい減少率Aで減少するが、金属エレメントの接線方向滑りに起因する摩擦損失は、ミクロスリップ領域から遷移領域にかけて略一定の比較的に小さい増加率B(A>B)で増加し、マクロスリップ領域で急激に増加するためと考えられる。
【0021】
最大の動力伝達効率を得るには、プーリ側圧を遷移領域の直前のミクロスリップ領域に制御することが望ましいが、プーリ側圧を過剰に減少させてしまうと、ミクロスリップ領域から遷移領域を通り越してマクロスリップ領域に入ってしまい、プーリに対して無端ベルトが大きくスリップして損傷する可能がある。従って、ベルト式無段変速機TMの耐久性を確保しながら動力伝達効率を高めるには、プーリ側圧を遷移領域の直前のミクロスリップ領域に精度良く制御することが必要となる。
【0022】
そのために、本発明ではトルク比Trというパラメータを導入している。トルク比Trは、
Tr=T/Tmax …(1)
で定義されるもので、Tはベルト式無段変速機TMが現在伝達しているトルク(極端なスリップが発生している場合を除き、入力トルクTDRに一致する)であり、Tmaxはベルト式無段変速機TMが現在の軸推力(つまり、プーリ側圧×プーリピストンの受圧面積)でスリップせずに伝達可能な最大トルクである。トルク比Tr=0は動力伝達が行われていない状態に対応し、トルク比Tr=1は現在伝達しているトルクが飽和した状態に対応し、トルク比Tr>1はマクロスリップが発生してしまったか、それに遷移している状態に対応する。
【0023】
図5に示すように、変速比がODの状態および変速比がMIDの状態では、トルク比Trが1.0で最大の動力伝達効率が得られる。また変速比がLOWの状態では、最大の動力伝達効率が得られるトルク比Trは0.9に低下するが、トルク比Trが1.0でも依然として高い動力伝達効率が得られることが分かる。つまり、トルク比Trというパラメータは動力伝達効率と極めて高い相関関係があり、このトルク比Trが1.0に近い値になるようにベルト式無段変速機TMのプーリ側圧を制御することで動力伝達効率を高めることができ、しかもマクロスリップの発生を防止してベルト式無段変速機TMの耐久性を確保することができる。
【0024】
トルク比Trを算出する際に必要な最大伝達可能トルクTmaxは、ドライブプーリ13を側圧制御する場合、即ちドライブプーリ13がスリップする場合には、
Tmax=2μRQ/cosα …(2)
で与えられ、ドリブンプーリ14を側圧制御する場合、即ちドリブンプーリ14がスリップする場合には、
Tmax=2μRQ/ηicosα …(3)
で与えられる。ここで、μは側圧制御される側のプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数、Rは側圧制御される側のプーリ13,14に対する無端ベルト15の巻き付き半径、Qは側圧制御される側のプーリ13,14の軸推力、αはプーリ13,14のV角の半分の角度、ηはベルト式無段変速機TMの動力伝達効率、iは変速比である。
【0025】
このように、トルク比Trを算出するには最大伝達可能トルクTmaxを算出する必要があり、最大伝達可能トルクTmaxを算出するには、プーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μ、プーリ13,14に対する無端ベルト15の巻き付き半径Rおよびプーリ13,14の軸推力Qを検出する必要があるため、多くのセンサが必要になる。これらのセンサを実際の車両に搭載することは、コストの観点から実現することが困難である。
【0026】
本実施の形態は、トルク比Trを、滑り識別子IDslipと入力軸11の回転数変動の周波数f0 (変動成分の周波数f0 )とから、あるいは位相遅れΔφと入力軸11の回転数変動の周波数f0 (変動成分の周波数f0 )とから推定するものである。入力軸11の回転数変動はエンジンEの回転数変動と同期することから、入力軸11の回転数変動の周波数f0 はエンジン回転数センサScで検出したエンジン回転数から算出可能であり、また後述するように、滑り識別子IDslipおよび位相遅れΔφは入力軸回転数センサSaで検出した入力軸回転数の変動と、出力軸回転数センサSbで検出した出力軸回転数の変動とから算出可能であるため、トルク比Trを最小限の数のセンサで精度良く推定することができる。
【0027】
次に、滑り識別子IDslipおよび位相遅れΔφについて説明する。図6に示すように、トルク比Trが増加するのに伴い、ミクロスリップ領域ではベルトのスリップ量は僅かずつ増加し、マクロスリップ領域に入るとベルトのスリップ量は急激に増加する。入力軸11に無端ベルト15を介して接続された出力軸12には、入力軸11の回転数変動が無端ベルト15を介して伝達されるため、出力軸12にも同じ周波数の回転数変動が発生する。ベルトおよびプーリ間に全くスリップが存在しないとき、入力軸回転数の変動は減衰することなく出力軸に伝達されるが、トルク比Trの増加に伴ってスリップ量が増加すると、入力軸回転数の変動波形の振幅に対して出力軸回転数の変動波形の振幅が小さくなり、かつ入力軸回転数の変動波形の位相に対して出力軸回転数の変動波形の位相が遅れることになる。
【0028】
図6および図7において、実線で示す入力軸回転数の変動波形に対して鎖線で示す出力軸回転数の変動波形は、トルク比Trの増加に伴って振幅が次第に減少するとともに位相が次第に遅れていることが分かる。入力軸回転数の振動波形は、
Nin=Acos(ωt+φin) …(4)
で与えられ、出力軸回転数の振動波形は、
Nout=Bcos(ωt+φout) …(5)
で与えられる。
【0029】
つまり、入力軸回転数の振動波形に対して出力軸回転数の振動波形は、振幅がAからBに減少し、位相がφin−φoutだけ遅れることになる。
【0030】
次に、滑り識別子IDslipの算出の手法を説明する。
【0031】
先ず、入力軸11の回転数の変動周波数f0 を、エンジンEの気筒数nと、エンジン回転数の直流成分Neとを用いて、次式により算出する。エンジン回転数の直流成分Neは、通常のエンジンEに必ず備えられているエンジン回転数センサScにより検出可能である。
【0032】
【数1】
滑り識別子IDslipは、変動周波数f0 における入力軸11と出力軸12との間の振幅比Mを、ベルト式無段変速機TMの幾何学的な応答、即ち滑りや励振の影響を受けない場合の振幅比Mgにより標準化したものであり、次式により定義される。
【0033】
【数2】
入力軸11の回転数の変動周波数f0 の関数である振幅比Mは次式で定義されるもので、変動周波数f0 はエンジン回転数センサScが出力するエンジン回転数から算出可能であり、Sin(f0 )は入力軸回転数の変動波形のパワスペクトルであって入力軸回転数センサSaの出力から算出可能であり、またSout(f0 )は出力軸転数の変動波形のパワスペクトルであって出力軸回転数センサSbの出力から算出可能である。
【0034】
【数3】
また幾何学条件における振幅比Mgは、ベルト式無段変速機TMで生じる滑りが小さい場合には、近似的に出力信号と入力信号との直流成分の比として表され、次式で定義される。
【0035】
【数4】
幾何学条件における振幅比Mgは、入力軸11および出力軸12の変動成分として用いる物理量に依存する。本実施の形態では前記変動成分として回転数変動を用いているため、ベルト式無段変速機TMの変速比をiとしたときに、Mg=1/iで与えられる。入力軸11および出力軸12の変動成分として、トルク変動を用いた場合には、Mg=iで与えられる。ベルト式無段変速機TMの変速比iは、入力軸回転数センサSaの出力と出力軸回転数センサSbの出力とから算出可能である。
【0036】
以上のことから、(7)式を書き換えると次式のようになり、滑り識別子IDslipは、ベルト式無段変速機TMに既存の入力軸回転数センサSaおよび出力軸回転数センサSbの出力と、エンジンEに既存のエンジン回転数センサScの出力とから算出することができる。
【0037】
【数5】
また位相遅れΔφは次式で定義されるもので、入力軸回転数の変動波形の位相φinは入力軸回転数センサSaの出力から算出可能であり、出力軸回転数の変動波形の位相φoutは出力軸回転数センサSbの出力から算出可能である。
【0038】
【数6】
図8は、横軸に入力軸回転数の変動成分の周波数f0 (あるいはエンジン回転数Ne)をとり、縦軸に滑り識別子IDslipをとったマップであり、トルク比Trを0.7、0.8、0.9、1.0のように変化させると、対応する滑り識別子IDslipの特性ラインが変化する。このマップにより、そのときのベルト式無段変速機TMの変動成分の周波数f0 と滑り識別子IDslipとが決まると、それらの値からそのときのトルク比Trを推定することができる。例えば、変動成分の周波数f0 の値がaであり、滑り識別子IDslipの値がbであるとき、トルク比Trは一点鎖線で示されるラインの0.9になる。
【0039】
図9は、横軸に入力軸回転数の変動成分の周波数f0 (あるいはエンジン回転数Ne)をとり、縦軸に位相遅れΔφをとったマップであり、トルク比Trを0.7、0.8、0.9、1.0のように変化させると、対応する位相遅れΔφの特性ラインが変化する。このマップにより、そのときのベルト式無段変速機TMの変動成分の周波数f0 と位相遅れΔφとが決まると、それらの値からそのときのトルク比Trを推定することができる。例えば、変動成分の周波数f0 の値がcであり、位相遅れΔφの値がdであるとき、トルク比Trは一点鎖線で示されるラインの0.9になる。
【0040】
図10に示すように、電子制御ユニットUはトルク比推定手段M1および側圧制御手段M2を備えており、トルク比推定手段M1は、エンジン回転数センサScで検出したエンジン回転数に対応する変動成分の周波数f0 を算出するとともに、入力軸回転数センサSaおよび出力軸回転数センサSbの出力をフィルタ機能を有するロックインアンプを通過させて前記周波数f0 に対応する振動波形を抽出し、それら入力側および出力側の振動波形から滑り識別子IDslipおよび位相遅れΔφを算出する。続いて滑り識別子IDslipあるいは位相遅れΔφ(図10の例では位相遅れΔφ)と変動成分の周波数f0 とをパラメータとしてマップ検索することで、そのときのトルク比Trを推定する。
【0041】
そして電子制御ユニットUの側圧制御手段M2が、トルク比推定手段M1により推定したトルク比Trに基づいてドライブプーリ13あるいはドリブンプーリ14のプーリ側圧を制御する。以下、電子制御ユニットUの側圧制御手段M2の構成および機能について説明する。
【0042】
また図10に示すように、側圧制御手段M2は、摩擦係数算出手段M3と、摩擦係数補正手段M4と、必要軸推力算出手段M5と、電流値換算手段M6と、負荷トルク推定手段M7と、軸推力換算手段M8とを備える。
【0043】
摩擦係数算出手段M3は、トルク比推定手段M1により推定したトルク比Trと、負荷トルク推定手段M7により推定した負荷トルクT(エンジンEの負荷トルクあるいはベルト式無段変速機TMが現在伝達しているトルクに相当)と、軸推力換算手段M8により換算した側圧制御される側のプーリ13,14の軸推力とに基づいて、側圧制御される側のプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μを算出する。
【0044】
即ち、負荷トルク推定手段M7は、エンジンEの負荷トルクT(ベルト式無段変速機TMが現在伝達しているトルクに相当)をエンジンEの吸気負圧等の運転状態から算出し、軸推力換算手段M8は、油圧センサSd(図10参照)で検出した側圧制御される側のプーリ13,14の油圧を、それに対応する軸推力Qに換算する。そして摩擦係数算出手段M3は、負荷トルク推定手段M7で推定した負荷トルクTと、軸推力換算手段M8で換算した軸推力Qとを次式に適用することで、側圧制御される側のプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μを算出する。
【0045】
μ=Tcosα/2RQTr …(12)
μ=Tηicosα/2RQTr …(13)
尚、(12)式はドライブプーリ13が側圧制御されるときに使用され、(13)式はドリブンプーリ14が側圧制御されるときに使用される。また(12)式および(13)式において、αはプーリ13,14のV角の半分の角度、Rは側圧制御される側のプーリ13,14に対する無端ベルト15の巻き付き半径、ηはベルト式無段変速機TMの動力伝達効率、iは速度比である。
【0046】
摩擦係数マップ16には、各変速比毎にプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数のデフォルト値μ0 が予め記憶されており、所定のタイミングで摩擦係数算出手段M3により算出した摩擦係数μを用いて、摩擦係数補正手段M4が摩擦係数マップ16に記憶した摩擦係数のデフォルト値μ0 を補正し、補正した摩擦係数μ′を必要軸推力算出手段に出力する。摩擦係数マップ16を変速比毎に持つのは、変速比が変化するとプーリ13,14に対する無端ベルト15の巻き付き位置が変化するためであり、巻き付き半径が増加するとプーリ13,14のフランジ部が相互に離反する方向に撓み易くなり、巻き付き半径が変速比から決まる本来の値よりも小さくなる等の理由からである。
【0047】
なお、摩擦係数補正手段M4による摩擦係数のデフォルト値μ0 の補正は本発明の本質部分であり、それについては後から詳述する。
【0048】
続いて、必要軸推力算出手段M5は、摩擦係数補正手段M4が出力する補正後の摩擦係数μ′に基づいて、無端ベルト15のスリップを防止するために必要な、側圧制御される側のプーリ13,14の必要軸推力Qを算出する。
【0049】
必要軸推力Qは、ドライブプーリ13を側圧制御する場合と、ドリブンプーリ14を側圧制御する場合とで異なっており、ドライブプーリ13を側圧制御する場合、即ちドライブプーリ13がスリップする場合には、
Q=Tcosα/2μ′RSTr …(14)
により算出し、ドリブンプーリ14を側圧制御する場合、即ちドリブンプーリ14がスリップする場合には、
Q=Tηicosα/2μ′RSTr …(15)
により算出する。ここで、αはプーリ13,14のV角の半分の角度、μ′は側圧制御される側のプーリ13,14と無端ベルト15との接触面の摩擦係数の補正値、Rは側圧制御される側のプーリ13,14に対する無端ベルト15の巻き付き半径、Tは負荷トルク、STrは目標トルク比、ηはベルト式無段変速機TMの動力伝達効率、iは速度比である。図5で説明したように、ベルト式無段変速機TMの動力伝達効率は、トルク比Trが1.0以下であって1.0に近い値であるときに最大になるため、その値を目標トルク比STrとして設定する。
【0050】
このようにして、必要軸推力算出手段M5が側圧制御される側のプーリ13,14の必要軸推力Qを算出すると、電流値換算手段M6が必要軸推力Qを油圧回路のリニアソレノイド17の電流値に換算し、この電流値でリニアソレノイド17を作動させることで、側圧制御される側のプーリ13,14に必要軸推力Qを発生させて側圧制御を行うことができる。
【0051】
以上のように、ベルト式無段変速機TMのトルク比Trを、入力軸11が有する変動成分が無端ベルト15を介して出力軸12に伝達される伝達特性に基いて推定する際に、入力軸11および出力軸12の変動成分の振幅比を指標化した滑り識別子IDslipと、入力軸11および出力軸12の変動成分の位相差を指標化した位相遅れΔφとの少なくとも一方を用いるので、ベルト式無段変速機TMの動力伝達効率に極めて密接に関連するトルク比Trを精度良く推定して動力伝達効率の向上を図ることができる。しかも滑り識別子IDslipあるいは位相遅れΔφからトルク比Trを推定するので、それを推定するために必要なセンサの数を最小限に抑えてコストの削減を図ることができる。
【0052】
また側圧制御される側のプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μをマクロスリップの発生を伴うことなく推定し、その摩擦係数μに基づいて該プーリ13,14の必要軸推力Qを求め、その必要軸推力Qに基づいて該プーリ13,14の側圧を制御するので、つまり側圧を直接的に支配するパラメータである摩擦係数μを用いて側圧をフィードフォワード制御するので、滑り識別子IDslipあるいは位相遅れΔφ自体をフィードバックする間接的な制御に比べ、制御応答性の向上および制御装置の演算負荷の軽減が可能になる。
【0053】
次に、摩擦係数補正手段M4による摩擦係数のデフォルト値μ0 の補正について詳述する。本実施の形態では、ベルト式無段変速機TMが所定の変速比にあるときに、摩擦係数算出手段M3でプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μを算出し、そのときの変速比に対応する摩擦係数マップ16に記憶された摩擦係数のデフォルト値μ0 との比である摩擦係数補正係数k=μ/μ0 を算出する。そして、この摩擦係数補正係数k=μ/μ0 を全ての変速比の摩擦係数のデフォルト値μ0 に乗算することで、変速比の摩擦係数のデフォルト値μ0 を一律に補正する。
【0054】
このようなことが可能になるのは、ベルト式無段変速機TMのプーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μの経時的な変化(摩耗による変化)が、変速比によらずに、つまりプーリ13,14に対する無端ベルト15の巻き付き位置によらずに、一律であるからである。摩擦係数μが変速比によらずに一律に経時変化するのであれば、定常状態が頻繁にかつ継続的に発生する所定の変速比において摩擦係数μを算出し、その摩擦係数μだけを用いて全ての変速比の摩擦係数のデフォルト値μ0 を一律に補正しても、その精度を確保することができる。これにより、定常状態が殆ど発生しないために摩擦係数μを算出するのが難しい変速比においても、その摩擦係数のデフォルト値μ0 を的確に補正し、プーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μの経時変化を補償することができる。
【0055】
次に、プーリ13,14および無端ベルト15間の摩擦係数μが、変速比によらずに一律に経時変化する理由を説明する。
【0056】
二つの物体間に作用する摩擦力F(N)は、両者間に介在するオイルの油膜の剪断強度τ(N/m2 )と、両者間の真実接触面積A(m2 )との積で算出される。
【0057】
F=τ×A …(16)
二つの物体が接触するとき、それらの接触面には微小な凹凸が存在するため、両者は接触面全体の面積(見かけ接触面積Al)で接触するわけではなく、凸部の先端どうしの接触面積(真実接触面積A)で接触する。前記剪断強度τは、両者が接触する凸部の先端間に介在するオイルの油膜の剪断強度である。
【0058】
また観点を変えると、二つの物体間に作用する摩擦力F(N)は、両者間の摩擦係数μと垂直荷重W(N)との積で算出され、垂直荷重Wは見かけの面圧P(N/m2 )と見かけ接触面積Al(m2 )との積で算出される。
【0059】
F=μ×W=μ×(P×Al) …(17)
(16)式および(17)式からμを求めると、次式のようになる。
【0060】
μ=τ×A/(P×Al)=τ×(A/Al)/P=τ×a …(18)
ここで、a(m2 /N)は接触面積増加係数であり、接触面積率(A/Al)を見かけの面圧Pで除算したものである。
【0061】
図11(A)に模式的に示すように、二つの物体を互いに押し付けたとき、その見かけの面圧Pを増加させると、二つの物体の相互に接触する凸部が潰れるために真実接触面積Aが増加し、見かけ接触面積Alに対する真実接触面積Aの比率である接触面積率(A/Al)も増加する。一般的に、見かけの面圧Pを増加させると、それに比例して接触面積率(A/Al)も増加するため、接触面積率(A/Al)を見かけの面圧Pで除算した値である接触面積増加係数aは一定になる。言い換えると、(18)式から明らかなように、剪断強度τおよび接触面積増加係数aが一定であるとき、摩擦係数μは一定になる。
【0062】
しかしながら、見かけの面圧Pを更に増加させると、二つの物体の相互に接触する凸部がそれ以上潰れ難くなるために真実接触面積Aが増加し難くなり、接触面積率(A/Al)は見かけの面圧Pの増加に比例して増加できなくなり、接触面積増加係数aが減少して摩擦係数μが減少する。
【0063】
さて、ベルト式無段変速機TMのプーリ13,14と無端ベルト15との間の摩擦係数μも、両者の接触面に介在するオイルの剪断強度τと、接触面積増加係数aとの積によって与えられる。この摩擦係数μがベルト式無段変速機TMの変速比に応じてどのように変化するかを考察する。
【0064】
剪断強度τはオイルの特性によって変化するが、オイルの特性は変速比に応じて変化することはないため、剪断強度τは変速比よって変化しないと考えられる。オイルの特性が経時的に変化することはあるが、その変化の影響は全ての変速比において均等に作用し、特定の変速比に対して影響を及ぼすことはない。また接触面積増加係数aはプーリ13,14の接触面の状態および無端ベルト15の接触面の状態の両方により決まるが、変速比が変化しても無端ベルト15の金属エレメントは同じ位置でプーリ13,14に接触するため、無端ベルト15の接触面の状態が変速比よって接触面積増加係数aに影響を及ぼすことはないと考えられる。無端ベルト15の接触面の状態が摩耗等によって経時的に変化することはあるが、その変化は全ての変速比において均等に影響を及ぼすものであり、特定の変速比に対して影響を及ぼすものではない。
【0065】
一方、プーリ13,14は、無端ベルト15に対する接触面の位置が変速比に応じて変化する。即ち、ドライブプーリ13では変速比がLOW側に変化すると無端ベルト15の巻き付き位置が径方向内側に移動し、変速比がOD側に変化すると無端ベルト15の巻き付き位置が径方向外側に移動する。逆に、ドリブンプーリ14では変速比がLOW側に変化すると無端ベルト15の巻き付き位置が径方向外側に移動し、変速比がOD側に変化すると無端ベルト15の巻き付き位置が径方向内側に移動する。従って、時間の経過に応じてプーリ13,14の接触面積増加係数aが変速比毎に異なるように変化すれば、つまりプーリ13,14の接触面積増加係数aが巻き付き位置毎に異なるように変化すれば、接触面積増加係数aが変速比毎に異なってしまい、その結果として摩擦係数μが変速比毎に異なってしまうことになる。
【0066】
しかしながら、実際には、接触面積増加係数aはプーリ13,14の全ての巻き付き位置において均等に経時変化すると見做すことができる。何故ならば、接触面積増加係数aは、真実接触面積を見かけ接触面積で除算した接触面積率(A/Al)を見かけの面圧Pで除算した値であるため、プーリ13,14および無端ベルト15が新品であって表面の凸部が鋭く尖っているときには(図11(A)参照)、見かけの面圧Pを増加させたときに凸部どうしが押し合って容易に潰れることで、接触面積増加係数aが比較的に高い値(つまり、摩擦係数μが比較的に高い値)になる。
【0067】
新品のプーリ13,14の接触面の凸部の先端は時間の経過に伴って次第に摩耗して真実接触面積Aが次第に増加するため、やがて見かけの面圧Pを増加させても接触面積率(A/Al)がそれ以上増加し難い状態になり、接触面積増加係数aが次第に減少して摩擦係数μが次第に減少する。新品のプーリ13,14の接触面の凸部の先端は無端ベルト15との接触により摩耗し、比較的に短い運転時間が経過すると、プーリ13,14の接触面の無端ベルト15に接する部分の全ての領域が略均等に初期摩耗する。この初期摩耗が終了すると、図11(B)に示すような状態となり、プーリ13,14および無端ベルト15の接触面に油膜が形成され、それ以上の摩耗が発生し難い状態になる。この状態では、プーリ13,14の全ての巻き付き位置で接触面の状態が略均一になり、変速比により接触面積増加係数aが異なる事態は発生しなくなる。
【0068】
つまり、プーリ13,14の接触面の接触面積増加係数aは、接触面積増加係数aがばらつく初期摩耗の進行中は、変速比毎に(つまりプーリ13,14の径方向位置毎)に変化する可能性があるが、初期摩耗が終了した後は変速比によらずに一致であると見做すことができる。これにより、剪断強度τおよび接触面積増加係数aの積で与えられる摩擦係数μは変速比よらずに一定であると見做すことができ、径年変化に応じた摩擦係数μの変化だけを考慮すれば良い。従って、所定の変速比で摩擦係数μを算出し、その摩擦係数μを用いて全ての変速比の摩擦係数マップ16を一律に補正するだけで、全ての摩擦係数マップ16の精度を確保することができる。
【0069】
また一つの変速比で摩擦係数μを算出すれば良いため、ベルト式無段変速機TMの定常運転状態が高い頻度で継続的に発生する状態、例えば、車両のクルーズ状態に対応する変速比の摩擦係数μを算出することで、その摩擦係数μを何時でも精度良く算出することが可能となる。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0071】
例えば、実施の形態では摩擦係数マップ16に記憶した摩擦係数のデフォルト値μ0 を補正してプーリ13,14の側圧制御に用いているが、その用途は任意である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11

【手続補正書】
【提出日】2013年8月20日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリ(13,14)および無端ベルト(15)間の摩擦係数のデフォルト値(μo)を変速比毎に記憶する摩擦係数マップ(16)と、
前記プーリ(13,14)および前記無端ベルト(15)間の摩擦係数(μ)を算出する摩擦係数算出手段(M3)と、
前記摩擦係数算出手段(M3)で算出した摩擦係数(μ)に基づいて前記摩擦係数マップ(16)に記憶した前記摩擦係数のデフォルト値(μo)を補正する摩擦係数補正手段(M4)と、
を備えるベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置であって、
前記摩擦係数補正手段(M4)は、前記摩擦係数算出手段(M3)が所定の変速比において算出した摩擦係数(μ)と該所定の変速比における前記摩擦係数マップ(16)に記憶した摩擦係数のデフォルト値(μo)とから摩擦係数補正係数(k)を算出し、各変速比の前記摩擦係数マップ(16)に記憶した前記摩擦係数のデフォルト値(μo)を前記摩擦係数補正係数(k)により一律に補正することを特徴とするベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置。
【請求項2】
前記摩擦係数補正係数(k)は前記無端ベルト(15)の初期摩擦終了後に算出したものを使用することを特徴とする、請求項1に記載のベルト式無段変速機の摩擦係数補正装置。
【国際調査報告】