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  • 再表WO2013161567-継目無鋼管及びその製造方法 図000007
  • 再表WO2013161567-継目無鋼管及びその製造方法 図000008
  • 再表WO2013161567-継目無鋼管及びその製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】継目無鋼管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20151201BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   C22C38/58
   C21D8/10 B
   C21D9/08 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】26
【出願番号】特願2013-518891(P2013-518891)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年4月10日
(11)【特許番号】特許第5408389号(P5408389)
(45)【特許公報発行日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-103838(P2012-103838)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(74)【代理人】
【識別番号】100123906
【弁理士】
【氏名又は名称】竹添 忠
(72)【発明者】
【氏名】上田 侑正
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇次
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032BA03
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC04
4K032CF03
4K042AA06
4K042BA01
4K042BA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD02
4K042DE02
4K042DE05
4K042DE06
4K042DF02
(57)【要約】
厚肉であっても、高い強度及び靭性を有する、継目無鋼管を提供する。本実施形態による継目無鋼管は、質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.25%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.02〜1.0%、Ni:0.02〜1.0%、Mo:0.02〜0.8%、N:0.002〜0.008%、Ca:0.0005〜0.005%、及び、Nb:0.01〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、50mm以上の肉厚を有し、継目無鋼管の軸方向に垂直な断面のうち、表面から2mmの深さの位置を中心とする500μm×500μmの領域である表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が80μm未満であり、表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径と、断面のうち肉厚の中心位置を中心とする500μm×500μmの領域である肉厚中央部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径との差が50μm未満である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.08%、
Si:0.25%以下、
Mn:0.3〜2.0%、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.001〜0.10%、
Cr:0.02〜1.0%、
Ni:0.02〜1.0%、
Mo:0.02〜0.8%、
N:0.002〜0.008%、
Ca:0.0005〜0.005%、及び、
Nb:0.01〜0.1%を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
50mm以上の肉厚を有し、
前記継目無鋼管の軸方向に垂直な断面のうち、表面から2mmの深さの位置を中心とする500μm×500μmの領域である表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が80μm未満であり、
前記表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径と、前記断面のうち前記継目無鋼管の肉厚の中心位置を中心とする500μm×500μmの領域である肉厚中央部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径との差が50μm未満である、継目無鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載の継目無鋼管であってさらに、
前記Feの一部に代えて、
Ti:0.010%以下を含有する、継目無鋼管。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の継目無鋼管であって、
前記Feの一部に代えて、
Cu:1.0%以下、及び、V:0.1%以下からなる群から選択される1種以上を含有する、継目無鋼管。
【請求項4】
質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.25%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.02〜1.0%、Ni:0.02〜1.0%、Mo:0.02〜0.8%、N:0.002〜0.008%、Ca:0.0005〜0.005%、及び、Nb:0.01〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる素材を加熱する工程と、
加熱された前記素材を穿孔及び圧延して素管を製造する工程と、
圧延後の前記素管を加速冷却する工程と、
加速冷却された前記素管を再加熱し、990〜1100℃で均熱する工程と、
均熱された前記素管を急冷して焼入れする工程と、
焼入れされた前記素管を焼戻しする工程とを備える、継目無鋼管の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
前記素材はさらに、前記Feの一部に代えて、
Ti:0.010%以下を含有する、継目無鋼管の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
前記素材はさらに、前記Feの一部に代えて、
Cu:1.0%以下、及び、V:0.1%以下からなる群から選択される1種以上を含有する、継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上及び浅海の油井及びガス井は近年枯渇しつつある。そのため、深海の海底油井及び海底ガス井(以下、海底油井及び海底ガス井の総称を、「海底油井」という。)の開発が進んでいる。
【0003】
海底油井では、フローライン及びライザが、海底に配置された坑口から洋上のプラットホームまでの間に配置される。原油又は天然ガスを含む生産流体は、フローライン又はライザを通って、海底油井からプラットホームまで搬送される。フローラインとは、地表又は海底面の地勢に沿って敷設されたラインパイプである。ライザとは、海底面からプラットホーム方向(つまり上方)に立ち上がって配置されるラインパイプである。
【0004】
これらのラインパイプ(フローライン及びライザ)を構成する鋼管内を通る生産流体は高圧である。また、操業が停止した場合、これらのフローライン及びライザには外部から海水圧が負荷される。さらに、フローライン及びライザには、波浪及び海流による繰り返し応力も負荷される。そのため、フローライン又はライザといったラインパイプ用途として、厚肉の高強度鋼管が求められる。
【0005】
しかしながら、鋼管の肉厚及び強度を増大させると靭性が低下し、脆性破壊しやすくなる。そのため、厚肉の高強度鋼管では、優れた靭性が求められる。
【0006】
このように、海底パイプライン用の厚肉の鋼管には高強度及び高靭性が要求される。溶接鋼管は、長手方向に沿って溶接部(シーム部)を有するため、溶接部は母材と比較して靭性が低くなる。そのため、海底パイプラインには、溶接鋼管よりも、継目無鋼管が適する。
【0007】
特開平9−287028号公報(特許文献1)は、継目無鋼管の製造方法を提案する。特許文献1では、熱間圧延により製造された継目無鋼管を80℃/分以上の冷却速度でAr3変態点以下の温度に冷却し、その後、焼入れ及び焼戻しを実施する。特許文献1の製造方法により製造された継目無鋼管では、結晶粒が微細化され、高い強度及び靭性が得られると記載されている。
【発明の開示】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された製造方法により、たとえば、肉厚が50mm以上といった厚肉の継目無鋼管を製造する場合、靭性にばらつきが生じ、靭性が低くなる場合がある。強度を高めるためにはNbが有効であるが、Nbを含有した場合、表層部の靭性がさらに低下し、表層部と肉厚中央部とで靭性のばらつきが大きくなる場合がある。
【0009】
本発明の目的は、厚肉であっても、高い強度及び靭性を有する、継目無鋼管を提供することである。
【0010】
本実施形態による継目無鋼管は、質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.25%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.02〜1.0%、Ni:0.02〜1.0%、Mo:0.02〜0.8%、N:0.002〜0.008%、Ca:0.0005〜0.005%、及び、Nb:0.01〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、50mm以上の肉厚を有し、継目無鋼管の軸方向に垂直な断面のうち、表面から2mmの深さの位置を中心とする500μm×500μmの領域である表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が80μm未満であり、表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径と、前記断面のうち前記継目無鋼管の肉厚の中心位置を中心とする500μm×500μmの領域である肉厚中央部における平均結晶粒径との差が50μm未満である。
【0011】
本実施形態による継目無鋼管はさらに、Feの一部に代えて、Ti:0.010%以下を含有してもよい。本実施形態による継目無鋼管はさらに、Feの一部に代えて、V:0.1%以下、及び、Cu:1.0%以下からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
【0012】
本実施形態による継目無鋼管の製造方法は、質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.25%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.02〜1.0%、Ni:0.02〜1.0%、Mo:0.02〜0.8%、N:0.002〜0.008%、Ca:0.0005〜0.005%、及び、Nb:0.01〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる素材を加熱する工程と、加熱された素材を熱間加工して素管を製造する工程と、熱間加工後の素管を加速冷却する工程と、加速冷却された素管を再加熱し、990〜1100℃で均熱する工程と、均熱された素管を冷却して焼入れする工程と、焼入れされた素管を焼戻しする工程とを備える。
【0013】
本実施形態による継目無鋼管は、厚肉であっても優れた強度及び靭性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本実施形態の化学組成を有する鋼を、焼入れ後種々の温度まで5℃/分で加熱した時の平均結晶粒径と再加熱温度の関係を示す図である。
図2図2は、本実施形態による継目無鋼管の製造装置の一例を示す設備のレイアウト図である。
図3図3は、本実施形態による継目無鋼管の製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。以降、元素に関する%は「質量%」を意味する。
【0016】
本発明者らは、以下の知見に基づいて、本実施形態による継目無鋼管を完成した。
【0017】
50mm以上の厚肉の継目無鋼管において、Nbは炭素と結合してNbCを形成し、鋼の強度を高める。したがって、高強度、特に、API(米国石油協会)規格で規定されるX80級以上(降伏強度が551MPa以上)の強度を有する厚肉の継目無鋼管を製造するためには、Nbを含有する方が好ましい。
【0018】
しかしながら、Nbを含有した厚肉の継目無鋼管を製造する場合、焼入れ焼戻し後の旧オーステナイト粒(以下、旧γ粒という)が微細化せず、特に、表層部の旧γ粒が粗粒になる場合がある。ここで、表層部とは、継目無鋼管の表面から1〜3mm深さの領域を意味する。
【0019】
Nbを含有する厚肉の継目無鋼管(以下、Nb厚肉材という)において、旧γ粒が粗粒になる原因は、再加熱時にNbCが粒状の逆変態γ粒の成長を抑制するためである。以下、この点について詳述する。
【0020】
熱間加工されたNb厚肉材を焼入れした後、再加熱するとき、再加熱中のNb厚肉材の表層部には、針状の逆変態γ粒と、粒状の逆変態γ粒とが生成される。ここで逆変態γとは、加熱途中に生成するγを意味する。そこで、EBSD(Electron Back Scatting Diffraction:電子線後方散乱回折)法を用いて、針状の逆変態γ粒の結晶方位と、粒状の逆変態γ粒の結晶方位とを調査した。その結果、同一の旧γ粒内に生成された複数の針状の逆変態γ粒の結晶方位は同一であった。一方、粒状の逆変態γ粒の結晶方位は、針状の逆変態γ粒とは異なっていた。
【0021】
以上より、次の事項が推定される。複数の針状の逆変態γ粒は、同じ結晶方位を有するため、互いに成長して合体しやすい。この場合、粗大なγ粒が形成される。一方、粒状の逆変態γ粒は針状の逆変態γ粒と異なる結晶方位を有するため、針状の逆変態γ粒と合体しにくい。そのため、粒状の逆変態γ粒が多いほど、微細なγ粒を形成しやすい。
【0022】
NbCは、再加熱中に、ピン止め効果を発揮して、粒状の逆変態γ粒の成長を抑制する。そのため、再加熱において、針状の逆変態γ粒の占める割合が増加し、その結果、焼戻し後のNb厚肉材の表層部において、旧γ粒が粗粒になりやすい。
【0023】
旧γ粒が粗粒になれば、靭性は低くなる。さらに、厚肉材の場合、肉厚中央部と表層部との旧γ粒の粒径にばらつきが生じ、靭性もばらつく。
【0024】
したがって、Nb厚肉材において、肉厚中央部及び表層部の旧γ粒の粒径を微細にし、ばらつきを低減することにより、優れた強度及び靭性が得られる。具体的には、表層部における旧γ粒の平均結晶粒径を80μm未満とし、表層部と肉厚中央部とでの旧γ粒の平均結晶粒径の差を50μm未満とすることにより、優れた降伏強度及び靭性を得ることができ、表層部と肉厚中央部での靭性のばらつきも抑制できる。
【0025】
Nb厚肉材の表層部における旧γ粒の粗粒化を抑制するために、再加熱時の加熱温度を990℃〜1100℃にする。図1は、Nbを含有する本実施形態の化学組成を有する鋼を、焼入れ後種々の温度まで加熱した時における平均結晶粒径と再加熱温度の関係を示す図である。図1は次の方法により得られた。
【0026】
上述の化学組成の範囲内にある鋼から、後述する実施例1と同じ製法により、直方体状のブロックを得た。このブロックから熱処理用の円柱状小型試験片(直径3mm、高さ10mm)を採取した。1200℃で5分均熱した後、室温まで急冷し、続けて950℃〜1200℃の間の温度まで加熱した。各温度で5分均熱した後、再び室温まで急冷した。加熱速度は、厚肉の鋼管を炉加熱する際の加熱速度に相当する5℃/分であった。
【0027】
熱処理後の旧γ粒の平均粒径(μm)を、後述する平均結晶粒径の測定方法に準じて求めた。求めた平均結晶粒径を利用して、図1を得た。
【0028】
図1を参照して、再加熱温度が950℃から高くなるに従って、平均結晶粒径は小さくなった。一般的な技術常識では、加熱温度を上げると結晶粒が成長して粗粒化する。したがって、Nb厚肉材では、従来の技術常識と異なる現象が生じた。再加熱温度が990℃〜1100℃の場合、旧γ粒の平均結晶粒径は小さいままであり、旧γ粒は細粒化する。一方、再加熱温度が1100℃を超えると、旧γ粒が再び粗粒化した。
【0029】
このような図1に示す現象は、Nb厚肉材特有であり、次の原因が推定される。再加熱温度が990℃未満である場合、再加熱中にNbCが粒状の逆変態γ粒の成長を抑制する。そのため、針状の逆変態γ粒が占める割合が増加し、これらが合体し、焼戻し後の旧γ粒が粗粒化する。
【0030】
一方、再加熱温度が990〜1100℃である場合、再加熱中にNbCが溶融する。そのため、粒状の逆変態γ粒が生成、成長する。その結果、焼戻し後の旧γ粒が細粒になる。さらに、表層部及び肉厚中央部での旧γ粒の平均結晶粒径差が小さくなり、優れた靭性が得られる。さらに、溶融したNbCは、焼戻し後に再度微細に析出する。そのため、高強度を得ることもできる。
【0031】
再加熱温度がさらに上昇して1100℃を超えると、細粒化されたγ粒が粒成長する。その結果、焼戻し後の旧γ粒が粗粒化する。
【0032】
以上の知見に基づいて、本実施形態による継目無鋼管が完成した。以下、本実施の形態による継目無鋼管の詳細を説明する。
【0033】
[化学組成]
本実施形態による継目無鋼管の化学組成は、以下の元素を含有する。
【0034】
C:0.03〜0.08%
炭素(C)は、鋼の強度を高める。しかしながら、C含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、C含有量は0.03〜0.08%である。
【0035】
Si:0.25%以下
珪素(Si)は、鋼の脱酸を目的として添加するだけでなく、強度の上昇及び焼戻し時の軟化抵抗を高めることに寄与する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Si含有量は0.25%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.05%である。
【0036】
Mn:0.3〜2.0%
マンガン(Mn)は鋼の焼入れ性を高める。そのため、肉厚中央部の強度を高めることができる。しかしながら、Mn含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Mn含有量は0.3〜2.0%である。Mn含有量の好ましい下限は0.3%よりも高く、さらに好ましくは0.5%であり、さらに好ましくは1.0%である。
【0037】
P:0.05%以下
燐(P)は、不純物である。Pは、鋼の靭性を低下する。したがって、P含有量は低い方が好ましい。P含有量は0.05%以下である。好ましいP含有量は、0.02%以下であり、さらに好ましくは、0.01%以下である。
【0038】
S:0.005%以下
硫黄(S)は、不純物である。Sは、鋼の靭性を低下する。したがって、S含有量は低い方が好ましい。S含有量は0.005%以下である。好ましいS含有量は、0.003%以下であり、さらに好ましくは、0.001%以下である。
【0039】
Al:0.001〜0.10%
本発明におけるアルミニウム(Al)の含有量は、酸可溶Al(いわゆるSol.Al)の含有量を意味する。Alは、鋼を脱酸する。しかしながら、Al含有量が高すぎれば、クラスター状の介在物が形成され、鋼の靭性が低下する。したがって、Al含有量は、0.001〜0.10%である。Al含有量の好ましい下限は0.001%よりも高く、さらに好ましくは0.01%である。Al含有量の好ましい上限は0.10%未満であり、さらに好ましくは0.07%である。
【0040】
Cr:0.02〜1.0%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Cr含有量は0.02〜1.0%である。Cr含有量の好ましい下限は0.02%よりも高く、さらに好ましくは0.1%である。Cr含有量の好ましい上限は1.0%未満であり、さらに好ましくは0.8%である。
【0041】
Ni:0.02〜1.0%
ニッケル(Ni)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、その効果が飽和する。したがって、Ni含有量は0.02〜1.0%である。Ni含有量の好ましい下限は0.02%よりも高く、さらに好ましくは0.1%である。
【0042】
Mo:0.02〜0.8%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Mo含有量は0.02〜0.8%である。Mo含有量の好ましい下限は0.02%よりも高く、さらに好ましくは0.1%である。Mo含有量の好ましい上限は0.8%未満であり、さらに好ましくは0.5%である。
【0043】
N:0.002〜0.008%
窒素(N)は、AlやTi等と結合して窒化物を形成する。Nが多量に存在すると、窒化物の粗大化を招き、靭性に悪影響を及ぼす。一方、N の含有量が少なすぎれば、窒化物の量が少なすぎて、熱間製管時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果が得られにくい。したがって、Nの含有量は0.002〜0.008%である。N含有量の好ましい下限は0.002%よりも高く、さらに好ましくは0.004%である。N含有量の好ましい上限は0.008%未満であり、さらに好ましくは0.007%である。
【0044】
Ca:0.0005〜0.005%
カルシウム(Ca)は、鋼を脱酸する。Caはさらに、鋼中のSと結合してCaSを形成する。CaSの生成により、MnSの生成が抑制される。つまり、Caは、MnSの生成を抑制し、鋼の靭性及び耐水素誘起割れ(Hydrogen Induced Cracking、HIC)性を向上する。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、クラスター状の介在物が形成され、靭性及び耐HIC性が低下する。
【0045】
Nb:0.01〜0.1%
ニオブ(Nb)は、鋼中のCやNと結合して微細なNb炭窒化物を形成し、鋼の強度を高める。さらに、微細なNb炭窒化物は、分散強化により鋼の強度を高める。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、Nb炭窒化物が粗大化し、鋼の靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0.01〜0.1%である。Nb含有量の好ましい上限は0.1%未満であり、さらに好ましくは0.08%未満である。
【0046】
本実施形態による継目無鋼管の残部は鉄(Fe)及び不純物である。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素をいう。
【0047】
本実施の形態による継目無鋼管はさらに、Feの一部に代えて、Tiを含有してもよい。Tiは必須元素ではなく、選択元素である。
【0048】
Ti:0.010%以下
チタン(Ti)は、鋼中のNと結合してTiNを形成し、固溶したNによる鋼の靭性の低下を抑制する。さらに、微細なTiNが分散析出することにより、熱間製管時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果が得られ、鋼の靭性がさらに向上する。Tiが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、TiNが粗大化したり、粗大なTiCが形成されるため、鋼の靭性が低下する。つまり、TiNを微細分散するために、Ti含有量は制限される。したがって、Ti含有量は0.010%以下である。Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.004%である。
【0049】
本実施の形態による継目無鋼管はさらに、Feの一部に代えて、V及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。V及びCuは必須元素ではなく、選択元素である。これらの元素はいずれも、鋼の強度を高める。
【0050】
V:0.1%以下
バナジウム(V)は、鋼中のCやNと結合して微細な炭窒化物を形成し、鋼の強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、V炭窒化物が粗大化し、鋼の靭性が低下する。したがって、V含有量は、0.1%以下である。V含有量の好ましい下限は0.01%である。V含有量の好ましい上限は0.1%未満であり、さらに好ましくは0.08%である。
【0051】
Cu:1.0%以下
銅(Cu)は鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Cu含有量は1.0%以下である。Cu含有量の好ましい下限は0.1%である。Cu含有量の好ましい上限は1.0%未満であり、さらに好ましくは0.6%である。
【0052】
[肉厚について]
本実施形態による継目無鋼管の肉厚は50mm以上である。つまり、本実施形態の継目無鋼管は厚肉鋼管である。好ましい肉厚の上限は80mmであり、さらに好ましくは70mmである。
【0053】
[旧オーステナイト粒径(旧γ粒)]
上述の肉厚を有する厚肉鋼管では通常、鋼管の表層と肉厚中央部とでの結晶粒径にばらつきが生じやすい。しかしながら、本実施形態による継目無鋼管では、表層部における旧γ粒の平均結晶粒径が80μm未満であり、表層部と肉厚中央部とでの旧γ粒の平均径の差が50μm未満である。そのため、優れた靭性を有し、表層部と肉厚中央部とで、靭性のばらつきを抑えることができる。
【0054】
ここで、表層部における旧γ粒の平均結晶粒径は、次の方法で求められる。継目無鋼管の横断面(継目無鋼管の軸方向に垂直な面)のうち、表面(外面又は内面から)2mmの深さの位置を中心とする測定領域(500μm×500μm)内で旧γ粒径(旧γ粒の平均結晶粒径)を測定する。旧γ粒界は、ピクリン酸飽和水溶液を用いて現出させる。測定領域内の旧γ粒の平均結晶粒径の測定は、JIS G0551(2005)に示される手法に倣って行い、粒度番号を平均結晶粒径に換算して評価を行う。この平均結晶粒径を、表層部の旧γ粒の平均結晶粒径と定義する。
【0055】
同様に、上述の横断面のうち、肉厚の中心位置を中心とする測定領域(500μm×500μm)を選択し、平均結晶粒径を上述と同じ方法により算出する。この平均結晶粒径を、肉厚中央部の旧γ粒の平均結晶粒径と定義する。
【0056】
本実施形態による継目無鋼管では、表層部の旧γ粒の粗粒化が抑制される。そのため、優れた靭性を示す。さらに、表層の硬度を抑えることができるため、優れた耐サワー性も得られる。さらに、表層部及び肉厚中央部の旧γ粒の平均結晶粒径の差が小さい。そのため、継目無鋼管の表層部と肉厚中央部とで靭性のばらつきを抑えることができる。なお、平均結晶粒径は、肉厚中央部の方が表層部よりも小さい。
【0057】
[製造方法]
上述の継目無鋼管の製造方法の一例を説明する。上述の継目無鋼管は、他の製造方法により製造されてもよい。
【0058】
[製造設備]
図2は、本実施の形態によるラインパイプ用継目無鋼管の製造ラインの一例を示すブロック図である。図2を参照して、製造ラインは、加熱炉1と、穿孔機2と、延伸圧延機3と、定径圧延機4と、補熱炉5と、水冷装置6と、焼入れ装置7と、焼戻し装置8とを備える。各装置間には、複数の搬送ローラ10が配置される。図2では、焼入れ装置7及び焼戻し装置8も製造ラインに含まれている。しかしながら、焼入れ装置7及び焼戻し装置8は、製造ラインから離れて配置されていてもよい。要するに、焼入れ装置7及び焼戻し装置8はオフラインに配置されていてもよい。
【0059】
[製造フロー]
図3は、本実施の形態による継目無鋼管の製造工程を示すフロー図である。
【0060】
図3を参照して、本実施の形態による継目無鋼管の製造方法では、初めに、素材を加熱炉1で加熱する(S1)。素材はたとえば、丸ビレットである。素材は、ラウンドCC等の連続鋳造装置により製造されてもよい。また、素材は、インゴットやスラブを鍛造又は分塊圧延することにより製造されてもよい。本例では、素材は丸ビレットであると仮定して、説明を続ける。加熱された丸ビレットを熱間加工して素管にする(S2及びS3)。製造された素管を、必要に応じて補熱炉5により所定の温度に加熱し(S4)、素管を水冷装置6により水冷する(加速冷却:S5)。水冷された素管を焼入れ装置7により焼入れし(S6)、焼戻し装置8により焼戻しする(S7)。以上の工程により、本実施形態の継目無鋼管が製造される。以下、それぞれの工程について詳しく説明する。
【0061】
[加熱工程(S1)]
初めに、丸ビレットを加熱炉1で加熱する。好ましい加熱温度は、1150〜1280℃である。加熱温度が1150℃以上であれば、素材の熱間での変形抵抗が小さく、疵が発生しにくい。加熱温度が1280℃以下であれば、スケールロスを抑えることができ、燃料原単位も低減する。加熱温度の好ましい上限は1200℃である。加熱炉1はたとえば、周知のウォーキングビーム炉やロータリー炉である。
【0062】
[穿孔工程(S2)]
丸ビレットを加熱炉から出す。そして、加熱された丸ビレットを穿孔機2により穿孔圧延する。穿孔機2は、一対の傾斜ロールと、プラグとを備える。プラグは、傾斜ロール間に配置される。好ましい穿孔機2は交叉型の穿孔機である。高い拡管率での穿孔が可能だからである。
【0063】
[圧延工程(S3)]
次に、素管を圧延する。具体的には、素管を延伸圧延機3により延伸圧延する。延伸圧延機3は直列に配列された複数のロールスタンドを含む。延伸圧延機3はたとえば、マンドレルミルである。続いて、延伸圧延された素管を、定径圧延機4により定径圧延して、継目無鋼管を製造する。定径圧延機4は、直列に配列された複数のロールスタンドを含む。定径圧延機4はたとえば、サイザやストレッチレデューサである。
【0064】
定径圧延機4の複数のロールスタンドのうち、最後尾のロールスタンドで圧延された素管の表面温度を「仕上げ温度」と定義する。仕上げ温度はたとえば、定径圧延機4の最後尾のロールスタンドの出側に配置された温度センサにより計測される。好ましい仕上げ温度は、900℃〜1100℃である。上述の好適な仕上げ温度を得るために、延伸圧延機3と定径圧延機4との間に均熱炉を設けて、延伸圧延機3により延伸圧延された素管を均熱しても良い。
【0065】
[再加熱工程(S4)]
再加熱工程(S4)は、必要に応じて実施される。再加熱工程を実施しない場合、図4において、ステップS3からステップS5に進む。また、再加熱工程を実施しない場合、図3において、補熱炉5は配置されない。補熱炉とは、製造された継目無鋼管を冷却することなく焼入れ温度に保持する加熱炉を意味する。
【0066】
製造された継目無鋼管を補熱炉5に装入し、加熱する。この処理により、旧γ粒径の分布はより均一化する。補熱炉5における好ましい加熱温度は、900℃〜1100℃である。好ましい均熱時間は、30分以下である。均熱時間が長すぎれば、旧γ粒が粗粒化する可能性があるからである。
【0067】
[加速冷却工程(S5)]
ステップS3で製造された素管、又は、ステップS4で再加熱された素管を加速冷却する。具体的には、素管を水冷装置6により水冷する。水冷直前の素管の温度(表面温度)はAr3点以上であり、好ましくは900℃以上である。加速冷却前の素管の温度がAr3点未満である場合、上述の補熱炉5や、インダクション加熱装置等を利用して、素管を再加熱し、素管の温度をAr3点以上にする。
【0068】
加速冷却時にける素管の好ましい冷却速度は、100℃/分以上であり、好ましい冷却停止温度はAr1点以下である。さらに好ましい水冷停止温度は450℃以下である。
【0069】
加速冷却を行わずに圧延後に放冷を行う場合、冷却速度が遅いため、粗大で不均一なフェライト・パーライト主体の組織になる。この場合、逆変態γ粒の核生成サイトが少なくなる。一方、上述の加速冷却を実施すれば、母相組織はマルテンサイト化又はベイナイト化し、緻密化され、逆変態γ粒の核生成サイトが多くなる。
【0070】
水冷装置6の構成は、たとえば、以下のとおりである。水冷装置6は、複数の回転ローラと、ラミナー水流装置と、ジェット水流装置とを備える。複数の回転ローラは2列に配置される。素管は2列に配列された複数の回転ローラの間に配置される。このとき、2列の回転ローラはそれぞれ、素管の外面下部と接触する。回転ローラが回転すると、素管が軸周りに回転する。ラミナー水流装置は、回転ローラの上方に配置され、素管に対して上方から水を注ぐ。このとき、素管に注がれる水は、ラミナー状の水流を形成する。ジェット水流装置は、回転ローラに配置された素管の端近傍に配置される。ジェット水流装置は、素管の端から素管内部に向かってジェット水流を噴射する。ラミナー水流装置及びジェット水流装置により、素管の外面及び内面は同時に冷却される。このような水冷装置6の構成は、特に、50mm以上の肉厚を有する本実施形態の厚肉継目無鋼管の加速冷却に好適である。
【0071】
水冷装置6は、上述の回転ローラ、ラミナー水流装置及びジェット水流装置以外の他の装置であってもよい。水冷装置6はたとえば、水槽であってもよい。この場合、ステップS3で製造された素管は水槽内に浸漬され、冷却される。水冷装置6はまた、ラミナー水流装置のみであってもよい。要するに、冷却装置6の種類は限定されない。
【0072】
[焼入れ工程(S6)]
水冷装置6により水冷された素管を再加熱し、焼入れする(S6)。はじめに、焼入れ装置7で継目無鋼管を加熱する(再加熱工程)。このときの再加熱温度を990〜1100℃にする。上述のとおり、再加熱温度が990℃未満である場合、旧γ粒の微細化に有効な粒状の逆変態γ粒の成長をNbCがピン止め効果により抑制する。そのため、製品の旧γ粒が微細化されにくくなり、特に、表層部の旧γ粒が粗大化する。一方、再加熱温度が1100℃を超える場合、表層及び肉厚中央部ともに、製品の旧γ粒が粗粒化する。
【0073】
再加熱温度が990〜1100℃であれば、NbCが溶融し、Nb及びCが固溶する。そのため、再加熱時において、粒状の逆変態γ粒が成長しやすくなり、製品の旧γ粒の粗粒化が抑制される。これにより、特に表層部の旧γ粒の平均結晶粒径が80μm未満になり、靭性が高まる。さらに、表層部と肉厚中央部とでの旧γ粒の平均結晶粒径の差が50μm未満に抑えられ、鋼の靭性のばらつきが抑制される。
【0074】
加熱された素管を冷却することにより焼入れする(冷却工程)。たとえば、水冷により焼入れする。好ましくは、素管温度を室温まで冷却する。これにより、母相組織はマルテンサイト化、又は、ベイナイト化し、組織が緻密化する。
【0075】
[焼戻し工程(S7)]
焼入れされた素管を、焼戻しする。焼戻し温度は、Ac1点以下であり、好ましくは、550〜700℃である。焼戻し温度での好ましい保持時間(均熱時間)は10〜120分である。焼戻し処理により、継目無鋼管の強度グレードを、API規格に基づくX80級以上、つまり、継目無鋼管の降伏応力を551MPa以上にすることができる。
【0076】
なお、焼戻し工程において、微細なNbCが再析出するため、鋼の強度が高まる。
【0077】
以上の製造工程により製造された継目無鋼管では、Nbを含有することにより高強度が得られる。さらに、肉厚が50mm以上であっても、表層部における旧γ粒の平均結晶粒径が80μm未満であり、表層部と肉厚中央部とでの旧γ粒の平均径の差が50μm未満になる。そのため、表層部及び肉厚中央部ともに優れた靭性が得られ、かつ、靭性のばらつきが少ない。
【実施例1】
【0078】
[調査方法]
[試験材の製造]
表1に示す化学組成を有する複数の鋼を真空溶解炉で溶製し、各鋼番号ごとに180kgのインゴットを製造した。
【0079】
【表1】
【0080】
製造されたインゴットを加熱炉に装入し、1250℃で1時間均熱した。加熱炉から抽出されたインゴットを熱間鍛造して直方体状のブロックを製造した。ブロックを加熱炉に装入し、1250℃で30分均熱した。均熱されたブロックに対して、熱間圧延を実施し、板厚が53mm又は60mmの厚板を製造した。熱間圧延での仕上がり温度はいずれも、1050℃であった。製造された厚板を950℃で5分間保持し、その後、板厚に対して水焼入れ(加速冷却)を実施した。
【0081】
水焼入れ後、試験番号1〜17の試験材に対して、表2に示す再加熱温度(℃)で、再加熱を実施した。このとき、いずれの試験材に対しても、5℃/分の昇温速度で加熱した。均熱時間はいずれも5分とした。均熱後、試験材に対して水焼入れを実施した。焼入れ後の試験材に対して、650℃で30分の焼戻しを実施し、試験材を得た。
【0082】
【表2】
【0083】
[評価試験]
[旧γ粒の平均結晶粒径測定試験]
試験番号1〜17の各試験材(厚板)について、上述の測定及び算出方法に基づいて、表層部(厚板の厚さ方向の断面において、表面(上面又は下面)から2mmの深さの位置を中心とする500μm×500μmの領域)の旧γ粒の平均結晶粒径(μm)と、肉厚中央部(厚板の厚さ方向の断面において、厚さ方向の中心位置を中心とする500μm×500μmの領域)の旧γ粒の平均結晶粒径(μm)を求めた。旧γ粒径の試験材は板材であるため、板厚の中心位置(つまり、厚さ53mmの場合は、表面から26.5mm位置、厚さ60mmの場合は表面から30mm位置)を肉厚中央部の中心とみなして、肉厚中央部の旧γ粒の平均結晶粒径を得た。上述の測定方法のとおり、旧γ粒界をピクリン酸飽和水溶液を用いて現出させ、JIS G0551に示される手法に倣って、粒度番号を粒径に換算して旧γ粒の平均結晶粒径を求めた。
【0084】
[引張試験]
各試験材の板厚中央部から、JIS Z2201(1998)に準拠した14A号引張試験片(D=8.5mmφ)を採取した。採取された試験片を用いて、JIS Z 2241(1998)に準拠した引張試験を、常温(25℃)の大気中で実施し、降伏強度(0.2%耐力)を求めた。
【0085】
[靭性評価試験]
試験番号1〜17の表層部及び肉厚中央部(板厚中央部)から、JIS Z2242の4号試験片に準拠したVノッチ試験片を、板材の横断面方向に平行になるように採取した。表層部のVノッチ試験片は、表面を含み、横断面が10mm×10mmであり、Vノッチの深さは2mmであった。肉厚中心部のVノッチ試験は、横断面(10mm×10mm)の中心に、板厚の中心が位置し、Vノッチの深さは2mmであった。
【0086】
採取されたVノッチ試験片を用いて、JIS Z2242に準拠したシャルピー衝撃試験を、−40℃で実施し、−40℃での吸収エネルギを求めた。
【0087】
[表層部の硬さ試験]
試験番号1〜17の各試験材において、表層部のビッカース硬さを次の方法で測定した。各試験材の表面から2mmの深さ位置から、任意に3つの測定点を選択した。各測定点において、JIS Z2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。このとき、試験力は10kgfであった。3つの測定点で得られたビッカース硬さの平均を、その試験材の表層部の硬さ(HV)と定義した。
【0088】
[試験結果]
表2に試験結果を示す。表2を参照して、試験番号9、10、12、13、16はいずれも、化学組成が適切であった。そのため、降伏強度が551MPa以上と高かった。さらに、再加熱温度が適切であったため、表層部の旧γ粒の平均結晶粒径が80μm未満であった。そのため、表層部のビッカース硬さは245HV未満と低かった。
【0089】
さらに、板厚が53mm、60mmと厚かったにもかかわらず、表層部及び肉厚中央部の平均結晶粒径の差分(以下、粒径差という)は、50μm未満であり、肉厚中央部及び表層部の吸収エネルギはいずれも100J以上であった。さらに、肉厚中央部と表層部とでの吸収エネルギ差が100J未満と小さく、靭性のばらつきが小さかった。
【0090】
一方、試験番号1〜3で使用された鋼番号Aの化学組成では、Nbが含有されなかった。そのため、試験番号1〜3の試験材の降伏強度は、試験番号9、10、12、13、16よりも低かった。
【0091】
試験番号4〜6で使用された鋼番号Bの化学組成では、Ti含有量が高かった。そのため、肉厚中央部及び表層部での−40℃での吸収エネルギが低かった。
【0092】
試験番号7、8及び11では、再加熱温度が低かった。そのため、表層部の旧γ粒の平均結晶粒径が80μm以上と大きかった。そのため、表層部のビッカース硬さは高く、表層部の−40℃の吸収エネルギは低かった。さらに、粒径差が50μm以上と大きかったがため、肉厚中央部と表層部とでの吸収エネルギ差が100J以上と大きく、靭性のばらつきが大きかった。
【0093】
試験番号15は、再加熱温度が低かった。そのため、表層部及び肉厚中央部の粒径差は50μm以上と大きかった。そのため、表層部及び肉厚中央部の−40℃の吸収エネルギ差は100J以上と大きく、靭性のばらつきが大きかった。
【0094】
試験番号14及び17は、再加熱温度が高かった。そのため、中央部及び表層部の旧γ粒径の平均結晶粒径が80μm以上と大きかった。そのため、中央部及び表層部の−40℃の吸収エネルギは低かった。さらに、表層部のビッカース硬さは高かった。
【実施例2】
【0095】
[試験材の製造]
表3に示す化学組成を有する鋼を転炉溶製し、連続鋳造法により複数の丸ビレットを製造した。
【0096】
【表3】
【0097】
表3に示す化学組成は適切であった。丸ビレットを加熱炉により1250℃に加熱した。続いて、丸ビレットを穿孔機により穿孔圧延して素管にした。続いて、マンドレルミルにより各素管を延伸圧延した。続いて、サイザにより各素管を定径圧延し、肉厚53mmの素管を製造した。
【0098】
定形圧延直後、素管を室温まで冷却せずに、補熱炉で950℃に均熱した。その後、水焼入れを実施した。焼入れ後の素管に対して再加熱を実施した。このときの再加熱温度は1050℃であった。再加熱後、素管に対して再び水焼入れを実施した。焼入れ後の素管に対して、600℃で30分間焼戻しを実施し、継目無鋼管を製造した。
【0099】
[評価試験]
実施例1と同様に、旧γ粒の平均結晶粒径測定試験、引張試験、靭性評価試験及び表層部の硬さ試験を実施した。なお、表層部については、継目無鋼管の内面側の表層部と、外面側の表層部とで、それぞれビッカース硬さ、吸収エネルギ及び平均結晶粒径を求めた。
【0100】
[試験結果]
表4に試験結果を示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4を参照して、試験番号18の化学組成は適切であった。そのため、降伏強度が551MPa以上と高かった。さらに、再加熱温度が適切であったため、表層部(内面側及び外面側)の旧γ粒の平均結晶粒径が80μm未満であった。そのため、表層部のビッカース硬度は245HV未満と低かった。さらに、−40℃での吸収エネルギは100J以上と高かった。
【0103】
さらに、肉厚が53mmと厚かったにもかかわらず、表層部及び肉厚中央部の粒径差は、50μm未満であり、肉厚中央部及び表層部の吸収エネルギ差は100J未満と小さかった。
【0104】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明による継目無鋼管は、たとえば、ラインパイプとして利用可能であり、特に、海底ラインパイプ(フローライン及びライザ)に好適である。
図1
図2
図3

【手続補正書】
【提出日】2013年9月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.08%、
Si:0.25%以下、
Mn:0.3〜2.0%、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Al:0.001〜0.10%、
Cr:0.02〜1.0%、
Ni:0.02〜1.0%、
Mo:0.02〜0.8%、
N:0.002〜0.008%、
Ca:0.0005〜0.005%、及び、
Nb:0.01〜0.1%を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
50mm以上の肉厚を有し、
前記継目無鋼管の軸方向に垂直な断面のうち、表面から2mmの深さの位置を中心とする500μm×500μmの領域である表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が80μm未満であり、
前記表層部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径と、前記断面のうち前記継目無鋼管の肉厚の中心位置を中心とする500μm×500μmの領域である肉厚中央部における旧オーステナイト粒の平均結晶粒径との差が50μm未満である、継目無鋼管。
【請求項2】
請求項1に記載の継目無鋼管であってさらに、
前記Feの一部に代えて、
Ti:0.010%以下を含有する、継目無鋼管。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の継目無鋼管であって、
前記Feの一部に代えて、
Cu:1.0%以下、及び、V:0.1%以下からなる群から選択される1種以上を含有する、継目無鋼管。
【請求項4】
請求項1に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.25%以下、Mn:0.3〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.02〜1.0%、Ni:0.02〜1.0%、Mo:0.02〜0.8%、N:0.002〜0.008%、Ca:0.0005〜0.005%、及び、Nb:0.01〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる素材を加熱する工程と、
加熱された前記素材を穿孔及び圧延して素管を製造する工程と、
圧延後の前記素管を加速冷却する工程と、
加速冷却された前記素管を再加熱し、990〜1100℃で均熱する工程と、
均熱された前記素管を急冷して焼入れする工程と、
焼入れされた前記素管を焼戻しする工程とを備える、継目無鋼管の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
前記素材はさらに、前記Feの一部に代えて、
Ti:0.010%以下を含有する、継目無鋼管の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の継目無鋼管の製造方法であって、
前記素材はさらに、前記Feの一部に代えて、
Cu:1.0%以下、及び、V:0.1%以下からなる群から選択される1種以上を含有する、継目無鋼管の製造方法。
【国際調査報告】