特表-13161621IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2013-161621傷部及び端面耐食性に優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】傷部及び端面耐食性に優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/44 20060101AFI20151201BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20151201BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20151201BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   C23C22/44
   C23C28/00 C
   B32B15/08 G
   B32B9/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】41
【出願番号】特願2013-541086(P2013-541086)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年4月16日
(11)【特許番号】特許第5457611号(P5457611)
(45)【特許公報発行日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-104139(P2012-104139)
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】猪古 智洋
(72)【発明者】
【氏名】配島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】安井 淳
(72)【発明者】
【氏名】細野 義行
(72)【発明者】
【氏名】横地 京子
【テーマコード(参考)】
4F100
4K026
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AA02C
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4K044BC04
4K044CA16
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】亜鉛系めっき鋼板を用い、クロムを含有することなく、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性、耐薬品性、耐熱黄変性、成型加工性、耐指紋性、導電性、塗装密着性といった諸性能のバランスに優れたクロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板の提供。
【解決手段】鋼板の両面に亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層の表面に更に特定の酸性無機被覆層と特定のアルカリ性有機無機複合被覆層とから成る2層皮膜を有し、酸性無機被覆層の皮膜重量が0.01〜0.5g/mであり、アルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜重量が0.5〜3g/mである表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の両面に亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層の表面に更に酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層とから成る2層皮膜を有し前記酸性無機被覆層の皮膜重量が0.01〜0.5g/mであり、前記アルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜重量が0.5〜3g/mである表面処理亜鉛系めっき鋼板であって、
前記酸性無機被覆層が、ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ(B)、マグネシウム化合物(C)、バナジウム化合物(D)及びフッ素化合物(E)を少なくとも添加して成るpH2〜5の酸性無機被覆剤(L)を塗布し形成された層であり、
前記アルカリ性有機無機複合被覆層が、重量平均分子量が10万〜20万を有するアニオン性ウレタン樹脂(U)、アルカリケイ酸塩(V)、チタンアルコキシド(W)、ポリカルボジイミド樹脂(X)及びシランカップリング剤(Y)を少なくとも添加して成るpH9〜12のアルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布し形成された層である、表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記亜鉛系めっき鋼板の片面の亜鉛目付量が1〜15g/mであることを特徴とする請求項1に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記アルカリ性有機無機被覆層は水分散性ワックス(Z)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
アニオン性ウレタン樹脂(U)がカルボキシル基又はその塩を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
ジルコニウム化合物(A)の含有金属(a)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(a)/(U)=0.001〜0.4、水分散性シリカ(B)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(B)/(U)=0.001〜1、マグネシウム化合物(C)の含有金属(c)とアルカリケイ酸塩(V)の固形分質量比が(c)/(V)=0.001〜0.5、バナジウム化合物(D)の含有金属(d)とアルカリケイ酸塩(V)の固形分質量比が(d)/(V)=0.001〜0.5、フッ素化合物(E)のフッ素元素(e)とマグネシウム化合物(C)の含有金属(c)の固形分質量比が(e)/(c)=0.1〜30、チタンアルコキシド(W)の含有金属(w)とアルカリケイ酸塩(V)の固形分質量比が(w)/(V)=0.01〜1、ポリカルボジイミド樹脂(X)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(X)/(U)=0.001〜0.5、シランカップリング剤(Y)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(Y)/(U)=0.001〜0.5、水分散性ワックス(Z)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(Z)/(U)=0.01〜0.2であることを特徴とする請求項3又は4に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項6】
前記アルカリ性有機無機複合被覆層が100℃を超えるガラス転移温度を持つことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項7】
前記亜鉛系めっき鋼板は電気亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項8】
鋼板の両面に亜鉛めっき層を有する亜鉛系めっき鋼板の表面に請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸性無機被覆層及びアルカリ性有機無機複合被覆層を形成させる2層皮膜形成工程を含み、ここで、当該2層皮膜形成工程は、前記亜鉛系めっき鋼板上に酸性無機被覆剤(L)を塗布した後に50℃以上100℃以下で乾燥させて酸性無機被覆層を形成する工程と、当該酸性無機被覆層の上層にアルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布して被覆し100℃以上200℃未満の到達温度で乾燥を行いアルカリ性有機無機複合被覆層を形成する工程と、を含む表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項8によって得られる表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛目付量が従来より少ない亜鉛系めっき鋼板において耐食性、耐溶剤性及び塗装性に優れたクロムフリー表面処理鋼板に関する。本発明の表面処理鋼板は、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性にも優れ、且つ耐薬品性、耐熱黄変性、成型加工性、耐指紋性、導電性、塗装密着性に優れる。特に本発明は、電気亜鉛系めっき鋼板に用いられるものである。一般的に亜鉛系めっき鋼板は、片面の亜鉛目付量は20g/m程度である。亜鉛目付量を減らした場合、亜鉛の防食期間が短くなり長期的に腐食が進行してしまう。本発明は、特に傷部や端面部等の露出した鉄部の腐食抑制に優れ、亜鉛目付量が少なくても従来と同等以上の傷部及び端面耐食性を示すとともに、長期に渡って赤錆発生をも抑制するクロムフリー表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から家電や建材分野等において、亜鉛めっき鋼板が多岐にわたり使用されている。亜鉛系めっき鋼板は、そのままでは耐食性や塗装性(意匠性のために後塗装する)が不十分であるため、クロメートやリン酸亜鉛などの化成処理が施された製品が製造されている。これらの製品のうち、クロメート処理製品は、用途によっては無塗装で使用される場合がある。その場合、鋼板表面に指紋が付着して外観が損なわれるため、更に樹脂を主成分としてコーティングした耐指紋性鋼板という製品が実用化されている。また、近年では欧州のRoHS規制にともない、6価クロムを使用せず、樹脂を主成分とした様々なクロムフリーの耐指紋性鋼板が実用化されている。
【0003】
この耐指紋性鋼板は、とりわけ家電分野においては近年の高品質化にともない、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部の耐食性、耐熱黄変性、成型加工性、耐指紋性、導電性、塗装性等の様々な要求性能を具備しておく必要がある。
従来の表面処理としてはクロメート処理やりん酸塩処理が施されており、その後に曲げ、押し出しや摺動などの成型加工を経て、成型品に塗装されることが多い。また、用途によっては、塗装せずにそのまま用いる場合もある。
耐指紋性鋼板を成型加工するとき、金型との摩耗を軽減するために不揮発性や揮発性のプレス油を用いる。その油や汚れなどが付着した状態であると塗装不良がおこるため、それを除去するために洗浄を行う。この洗浄にはアルカリや酸を主成分とした洗浄剤を用いることが多い。この洗浄剤は生産効率をあげるために処理時間を短縮させ、従来と比べて洗浄剤を高濃度や高温で使用されることも多い。更に、その後における塗装工程では、スプレー塗装して塗着させるのが主流であり、洗浄時に耐指紋皮膜が剥離していたり、部分的に皮膜欠損していたりすると皮膜表面が不均一な状態であるため、塗料が塗着するときに外観不良が起こる。更に塗装時に溶媒を揮散させて高温焼付けするが、片面塗装の場合に非塗装面が高温雰囲気にさらされるため、樹脂成分や発色するような成分を含有する皮膜は熱黄変する。或いは、塗装しない場合でも、揮発性プレス油を用いた場合に成型加工後に高温でプレス油を揮散させる工程がある。このとき、前記同様に樹脂成分や発色する成分を含有する皮膜は熱黄変する。この熱黄変は意匠性という観点から製品価値が損なわれる。
また、家電製品でもOA、AVなど情報機器には導電性や電磁波シールド性が必要である。特に近年は通信関連で高周波数化してきており、帯電防止を目的とした導電性を備えておくことが重要である。優れた耐食性や耐薬品性を発現させるために耐指紋皮膜が厚塗されていると必然的に性能が低下する。そのため、導電性と両立させることが技術的な課題としてある。
【0004】
近年、中国やインド等新興国の経済成長が目覚しく、資源の消費も急速に加速している。ベースメタルの一種である亜鉛もその対象物質であり、長期的に亜鉛の枯渇が懸念される。ここ数年の資源高騰から供給不安に対する懸念などから、省資源化に対する試みが行われ始めている。
例えば、従来電気亜鉛めっき鋼板は、20g/m以上の亜鉛が片面にめっきされている。電気亜鉛めっき鋼板の亜鉛目付量の減少は、特に鉄の露出した箇所において長期的な鉄の腐食抑制を困難にし、従来品質を維持できないことを意味する。
【0005】
片側の亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板は、一般的に長期に渡り腐食環境下に曝された場合、亜鉛目付量が少ない分、防錆能力に劣る。防錆性を付与するためにクロメートやリン酸塩が従来行われている。クロメート処理は、前述したように近年のRoHS規制等の環境的配慮によって使用することは好ましくない。リン酸塩処理の場合、薄膜化することが困難であり、通常2g/m以上の皮膜量が付着している。厚膜化することにより、不足する耐食性を補うことが可能だが、一方で導電性が極めて劣るなど、近年において重要視される導電性を付与することができない。
【0006】
耐指紋性鋼板においては環境規制から6価クロムを含有しないということだけでなく、前述のように様々な使われ方があり、これらを全て満足できないと実用的でない。これまでクロムフリー表面処理鋼板の技術としていくつか提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、亜鉛系めっき鋼板の表面に、特定の構造をもつ水溶性樹脂、シランカップリング剤、チタン化合物及びジルコニウム化合物のいずれか1種を含有する処理液、これから得られる乾燥皮膜を下層、更にガラス転移温度が−40℃〜0℃の範囲である特定の構造を有するウレタン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、コロイダルシリカ、特定の粒子径を有するポリエチレンワックス、水溶性有機溶剤と水とを含有する処理液、これから得られる乾燥皮膜を上層とする2層の亜鉛系めっき鋼板が開示されている。この技術では、亜鉛目付量が20g/m以上の亜鉛めっき鋼板であれば、優れた耐食性を有するものの、20g/m未満の亜鉛系めっき鋼板に用いる場合、耐食性が極めて低下し、性能バランスを満足できない。特に、傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所において著しく腐食がしやすく、十分な耐食性が得られない。
【0008】
特許文献2には、カチオン性ポリウレタン樹脂、カチオン性フェノール樹脂、シランカップリング剤、マンガン化合物、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、特定の物性を有するフィッシャートロプッシュワックスを特定の比率で含有する処理液で表面処理皮膜を形成させた亜鉛系めっき鋼板が開示されている。しかし、この技術は、加工部やアルカリ処理した後の耐食性、耐薬品性、耐熱黄変性における耐久性という点からは必ずしも満足できるものではない。1層処理であるがゆえに前記性能を満足させるために厚膜化させると導電性が低下し、耐指紋性鋼板に要求される項目の全てを満足することができない。
その上、1層処理故に亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛系めっき鋼板に用いる場合、傷部及び端面耐食性を著しく損なう。
【0009】
特許文献3には、ケイ酸アルカリ金属塩、有機樹脂、固体水分散性ワックス及びシランカップリング剤から成る皮膜によって被覆された表面処理金属板が開示されている。しかし、この場合においても亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板において傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所での十分な耐食性が得られない。
【0010】
特許文献4には、ヘキサフルオロジルコニウム酸、無機酸からなる化成処理液により形成されたジルコニウム膜及び上層に水分散性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリカルボジイミド樹脂、有機チタン化合物、コロイダルシリカ及びポリエチレンワックスからなる皮膜を被覆した表面処理鋼板が開示されている。この技術では、比較的優れた耐食性が得られるものの、塗装密着性に劣り性能バランスを満足できない。
【0011】
特許文献5には、水性樹脂、ケイ酸塩化合物、ポリオレフィンワックス及びコロイダルシリカを含む有機無機複合皮膜により被覆された表面処理金属板が開示されている。しかし、この技術では、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板において傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所において十分な耐食性が得られないばかりか、平面、アルカリ脱脂後並びに加工部においても満足する耐食性が得られない。
【0012】
特許文献6には、リン酸、リン酸塩、シリカ、シランカップリング剤、Ca、Mn、Mg、Ni、Co、Fe、Ca系化合物から選ばれる1種又は2種以上を含有する皮膜を下層に、上層に有機樹脂を含む皮膜により被覆された表面処理鋼板が開示されている。この場合も、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板において平面、アルカリ脱脂後並びに加工部だけでなく、傷部及び端面耐食性が満足できない。
【0013】
特許文献7には、アルカリケイ酸塩及び水溶性樹脂からなる水性樹脂組成物が開示されている。この技術をもってしても、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛系めっき鋼板において傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所において十分な耐食性が得られないばかりか、平面、アルカリ脱脂後並びに加工部においても満足する耐食性が得られない。
【0014】
特許文献8には、第一層にSi、Zr、Ti、Hfから選ばれる酸化物又は水酸化物からなる皮膜、その上層にカルボキシル基及び水酸基からなる有機樹脂及び架橋剤からなる皮膜によって形成された亜鉛めっき鋼板が開示されている。この技術では、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板において傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所に十分な耐食性が得られないばかりか、近年の要求品質に対しては満足するものとは言えない。
【0015】
特許文献9には、最表層にアニオン性官能基を有する有機樹脂、Li、Na、K、Mg、Ca及びSrから選ばれるカチオン性金属元素及び架橋剤によって被覆され、更にその下地皮膜にシランカップリング剤、有機樹脂によって被覆された亜鉛めっき鋼板が開示されている。この場合においても亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板を用いた場合、傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所に十分な耐食性が得られないばかりか、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部等の基本耐食性を満足できない。
【0016】
特許文献10には、有機樹脂、イソシアナート化合物やカルボジイミド化合物等の架橋剤、有機防錆剤、シリカ、リン酸、ニオブ及びジルコニウム化合物、グアニジン化合物、ワックスによって形成された皮膜を被覆した亜鉛めっき鋼板が開示されている。この場合においても、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板を用いた場合、傷部及び端面部等の鉄の露出した箇所に十分な耐食性が得られないばかりか、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部等の基本耐食性を満足できない。更に鉄が露出する箇所においては赤錆が発生しやすく、長期に渡る耐食性が不十分である。
【0017】
特許文献11には、第一層にエポキシ樹脂、ヒドラジン誘導体から成る有機樹脂、シランカップリング剤、リン酸、ヘキサフルオロ金属酸から成る皮膜によって被覆され、第二層にエポキシ樹脂、ウレタン樹脂及び有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物から選ばれる1種の以上の有機金属化合物を含む皮膜によって被覆された亜鉛めっき鋼板が開示されている。この場合においても、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛系めっき鋼板を用いた場合、傷部及び端面部の耐食性は不十分であり、且つ加熱後に鋼材表面が黄変するなど外観色が変化する。
【0018】
特許文献12には、ポリウレタン樹脂、酸化ケイ素、ポリオレフィン樹脂、リン酸、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物及びチタン化合物より選ばれる1種以上の化合物によってなる皮膜を被覆した亜鉛めっき鋼板が開示されている。この場合においても、亜鉛目付量が20g/m未満の亜鉛めっき鋼板を用いた場合、傷部及び端面部耐食性に留まらず、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部耐食性も満足する性能が得られない。その上、鉄が露出する箇所においては赤錆が発生しやすく、長期に渡る耐食性も満足できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−2958号公報
【特許文献2】特開2008−194839号公報
【特許文献3】特許第2998790号公報
【特許文献4】特開2011−17082号公報
【特許文献5】特開2002−212754号公報
【特許文献6】特開2003−213396号公報
【特許文献7】特開平7−316443号公報
【特許文献8】特開2010−47796号公報
【特許文献9】特開2009−248460号公報
【特許文献10】特開2005−281863号公報
【特許文献11】特開2008−910号公報
【特許文献12】特開2008−25023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
これまでに提案されたクロムフリーの表面処理亜鉛系めっき鋼板は、クロメート皮膜上に有機樹脂をコーティングした従来の表面処理亜鉛系めっき鋼板に比べて、1層で形成される技術では処理工程的には経済的であるが、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部の耐食性、耐熱黄変性、成型加工性、耐指紋性、導電性、塗装性等の要求特性に関する性能バランスが依然不十分である。
また、2層で形成される技術においても、下層に樹脂成分を含有しているので耐熱黄変性や導電性が劣り、同様に要求特性に関する性能バランスが不十分である。下層に樹脂を用いていない場合においても、性能バランスが不十分である。その上、これらの技術はいずれも片面の亜鉛目付量が20g/m以上の表面処理亜鉛系めっき鋼板を用いた場合である。片面の亜鉛目付量が1〜15g/mの亜鉛系めっき鋼板を用いる場合、上述した技術ではより一層満足する耐食性が得られない。特に傷部及び端面部において著しく劣る。亜鉛系めっき鋼板の亜鉛目付量の低減は、資源である亜鉛の枯渇抑制及び価格高騰に寄与する。その結果、亜鉛系めっき鋼板の長期的な安定供給を可能にする。
本発明は、亜鉛系めっき鋼板を用い、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性、耐薬品性、耐熱黄変性、成型加工性、耐指紋性、導電性、塗装密着性といった諸性能のバランスに優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供するとともに、特に亜鉛目付量を低減した1〜15g/mの亜鉛めっき系鋼板を用いる場合、低下しうる傷部、端面耐食性においても亜鉛目付量が20g/m以上の亜鉛系めっき鋼板と同等の耐食性を示す優れた表面処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、従来技術が抱える課題を解決するための手段について鋭意検討し、クロムを一切使用せずに表面処理亜鉛系めっき鋼板に要求される種々の特性を確保すべく検討を重ねた結果、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性、耐溶剤性、成型加工性、導電性、塗装性が良好であり、その上傷部並びに端面耐食性が優れ、長期に渡って赤錆が発生しにくい性能バランスに優れる表面処理亜鉛系めっき鋼板を見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、鋼板の両面に亜鉛系めっき層を有し、該亜鉛めっき層の表面に更に酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層とから成る2層皮膜を有し、酸性無機被覆層の皮膜重量が0.01〜0.5g/m、アルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜重量が0.5〜3g/mである表面処理亜鉛系めっき鋼板であって、
酸性無機被覆層が、ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ(B)、マグネシウム化合物(C)、バナジウム化合物(D)及びフッ素化合物(E)を少なくとも添加して成るpH2〜5の酸性無機被覆剤(L)を塗布し形成された層であり、
アルカリ性有機無機複合被覆層が、重量平均分子量が10万〜20万を有するアニオン性ウレタン樹脂(U)、アルカリケイ酸塩(V)、チタンアルコキシド(W)、ポリカルボジイミド樹脂(X)及びシランカップリング剤(Y)を少なくとも添加して成るpH9〜12のアルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布し形成された層である表面処理亜鉛系めっき鋼板である。尚、本特許請求の範囲及び本明細書における「亜鉛めっき」及び「亜鉛系めっき」は、亜鉛を主成分(50重量%以上)とするめっきを意味し、めっきを構成する成分(めっき金属)が亜鉛単独である態様のみならず、他の金属(例えばNi等)をも含む複数の金属である態様(所謂、合金めっき)をも包含する概念である。
【0022】
すなわち、本発明は、
(1)鋼板の両面に亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層の表面に更に酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層とから成る2層皮膜を有し、前記酸性無機被覆層の皮膜重量が0.01〜0.5g/mであり、前記アルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜重量が0.5〜3g/mである表面処理亜鉛系めっき鋼板であって、
前記酸性無機被覆層が、ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ(B)、マグネシウム化合物(C)、バナジウム化合物(D)及びフッ素化合物(E)を少なくとも添加して成るpH2〜5の酸性無機被覆剤(L)を塗布し形成された層であり、
前記アルカリ性有機無機複合被覆層が、重量平均分子量が10万〜20万を有するアニオン性ウレタン樹脂(U)、アルカリケイ酸塩(V)、チタンアルコキシド(W)、ポリカルボジイミド樹脂(X)及びシランカップリング剤(Y)を少なくとも添加して成るpH9〜12のアルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布し形成された層である、表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(2)前記亜鉛系めっき鋼板の片面の亜鉛目付量が1〜15g/mであることを特徴とする(1)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(3)前記アルカリ性有機無機被覆層は水分散性ワックス(Z)を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(4)前記アルカリ性有機無機複合被覆層に含まれるアニオン性ウレタン樹脂(U)がカルボキシル基又はその塩を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(5)ジルコニウム化合物(A)の含有金属(a)とアルカリ性有機無機複合被覆層が含有するアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(a)/(U)=0.001〜0.4、水分散性シリカ(B)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(B)/(U)=0.001〜1、マグネシウム化合物(C)の含有金属(c)とアルカリケイ酸塩(V)の固形分質量比が(c)/(V)=0.001〜0.5、バナジウム化合物(D)の含有金属(d)とアルカリケイ酸塩(V)の固形分質量比が(d)/(V)=0.001〜0.5、フッ素化合物(E)のフッ素元素(e)とマグネシウム化合物(C)の含有金属(c)の固形分質量比が(e)/(c)=0.1〜30、チタンアルコキシド(W)の含有金属(w)とアルカリケイ酸塩(V)の固形分質量比が(w)/(V)=0.01〜1、ポリカルボジイミド(X)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(X)/(U)=0.001〜0.5、シランカップリング剤(Y)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(Y)/(U)=0.001〜0.5、水分散性ワックス(Z)とアニオン性ウレタン樹脂(U)の固形分質量比が(Z)/(U)=0.01〜0.2であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(6)前記アルカリ性有機無機複合被覆層が100℃を超えるガラス転移温度を持つことを特徴とする(1)〜(5)に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(7)前記亜鉛系めっき鋼板は電気亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とする(1)〜(6)の表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
(8)鋼板の表面に亜鉛めっき層を有する亜鉛系めっき鋼板の表面に(1)〜(6)のいずれかに記載の酸性無機被覆層及びアルカリ性有機無機複合被覆層を形成させる2層皮膜形成工程を含み、ここで、当該2層皮膜形成工程は、前記亜鉛系めっき鋼板上に酸性無機被覆剤(L)を塗布した後に50℃以上100℃以下で乾燥させて酸性無機被覆層を形成する工程と、当該酸性無機被覆層の上層にアルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布して被覆し100℃以上200℃未満の到達温度で乾燥を行いアルカリ性有機無機複合被覆層を形成する工程と、を含む表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法に関する。
(9)(8)によって得られる表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、片面の亜鉛目付量が1〜15g/mであっても、クロムを使用せずに、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性、耐薬品性、耐熱黄変性、成型加工性、耐指紋性、導電性、塗装性の各特性に関して優れた性能バランスを示す。その上、従来の片面の亜鉛目付量が20g/m以上である表面処理亜鉛系めっき鋼板と同等以上の優れた傷部並びに端面部耐食性を有する。本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、無塗装で使用しても、或いは塗装しても使用することができる。従って、環境上の問題を克服し、かつ、亜鉛資源の枯渇リスクを軽減し、その上前記各特性の性能バランスを満たすため、極めて大きな産業上の利用価値を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の一形態について詳細に説明する。但し、本発明の技術的範囲は当該形態に限定されるものではない。
【0025】
≪表面処理亜鉛系めっき鋼板≫
本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は、鋼板の両面に亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層の表面に更に酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層とから成る2層皮膜を有し、酸性無機被覆層の皮膜重量が0.01〜0.5g/mであり、アルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜重量が0.5〜3g/mである表面処理亜鉛系めっき鋼板である。ここで、酸性無機被覆層は、ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ(B)、マグネシウム化合物(C)、バナジウム化合物(D)及びフッ素化合物(E)を添加して成るpH2〜5の酸性無機被覆剤(L)を塗布し形成された層であり、アルカリ性有機無機複合被覆層は、重量平均分子量が10万〜20万を有するアニオン性ウレタン樹脂(U)、アルカリケイ酸塩(V)、チタンアルコキシド(W)、ポリカルボジイミド樹脂(X)及びシランカップリング剤(Y)から成るpH9〜12のアルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布し形成された層である。ここで、本形態に係る2層皮膜は、下層(亜鉛めっき層上に形成される層)として酸性無機被覆層を、上層(酸性無機被覆層上に形成される層)としてアルカリ性有機無機複合被覆層を有している。以下、まず、本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板(以下、単に「表面処理鋼板」とも記載する。)の製造方法を説明する。
【0026】
≪表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法≫
次に、本形態に係る表面処理鋼板の製造方法について説明する。本形態に係る表面処理鋼板は、基材である亜鉛系めっき鋼板に酸性無機被覆剤(L)を塗布した後に乾燥させて酸性無機被覆層を形成する工程と、アルカリ性有機無機複合被覆剤(M)を塗布した後に乾燥させてアルカリ性有機無機複合被覆層を形成する工程と、を含む。以下、当該製法で用いる薬剤について、それぞれの成分の詳細、役割や添加量等を述べる。
【0027】
<酸性無機被覆剤(L)>
酸性無機被覆剤(L)は、ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ(B)、マグネシウム化合物(C)、バナジウム化合物(D)及びフッ素化合物(E)を少なくとも添加して成る。以下、各原料成分について詳述する。
【0028】
(成分A:ジルコニウム化合物)
本形態に係る酸性無機被覆剤(L)においては、ジルコニウム化合物(A)の一部は、被覆剤(L)中でフッ素化合物(E)と反応しフッ素を一部イオン化しているものと推測される。
2 H+ ZrF2 − →2 H + ZrF + 2 F
フッ素イオン(F)は良好なエッチング能を有する。特に酸性条件下において良好なエッチング能を有する。従って本形態の酸性無機被覆剤を金属材料(本形態では、表面処理亜鉛系めっき鋼板の基材となる亜鉛系めっき鋼板)の表面に接触させて処理皮膜を形成した場合に、本形態に係る酸性無機被覆剤中のフッ素イオンがその表面を適度に溶解し、前記処理皮膜と前記金属材料の表面との境界部に反応層のようなものを形成すると考えられる。このためこの処理皮膜の亜鉛系めっき鋼板表面への塗装密着性は各段に向上する。密着性の向上によって、平面部、アルカリ脱脂及び加工部耐食性も良化する。
【0029】
この成分Aを添加したことによる作用をより詳細に説明する。酸性無機被覆剤中に添加したジルコニウム化合物(A)及びフッ素化合物(E)の作用によりジルコニウムとフッ素の共存した皮膜を形成し、鉄部の露出した端面部において極めて優れた効果を発揮する。一般に、鉄部の露出した部分において鉄と亜鉛との電池を形成し亜鉛のアノード溶解が促進される。一方でカソード部において溶存酸素の還元によってアルカリ濃縮が起こり、亜鉛の過度な犠牲防食が進行し、長期の腐食環境に曝された場合、亜鉛の犠牲防食が不十分となり鉄面の腐食をも進行させてしまう。本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板では、ジルコニウムとフッ素の共存した皮膜ゆえに、カソード部において上昇しうるpHをフッ化物の放出によって緩衝する役割を担う。つまり、アノード部における過度な犠牲防食を抑制することになり、犠牲防食を適度に保つことになる。そのために、ジルコニウム化合物(A)及びフッ素化合物(E)に由来した共存皮膜は、端面部において優れた耐食性を発揮する。本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板には、片面の亜鉛目付量が1〜15g/mである亜鉛系めっき鋼板の表面にフッ化物イオンが存在することによって過度な犠牲防食を抑え、従来の表面処理剤で処理された亜鉛目付量20g/m以上の表面処理亜鉛系めっき鋼板と同等以上の端面耐食性を有し、赤錆の発生を抑制しうる。
【0030】
本形態に係るジルコニウム化合物(A)としては、ジルコニウムフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化アンモニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。これらは、1種類でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
ここで、酸性無機被覆剤中の成分(A)の添加量を決定するに際しては、アルカリ性有機無機複合被覆剤中の成分(U)の添加量も考慮することが好適である。具体的には、成分(A)が含有する含有金属(a)、すなわちジルコニウム元素(a)と成分(U)の固形分質量比(a)/(U)=0.001〜0.4であることが好ましい。より好ましくは、(a)/(U)=0.005〜0.3であり、更に好ましくは(a)/(U)=0.01〜0.1である。(a)/(U)が0.001を下回ると、傷部耐食性及び端面耐食性含め耐食性全般が劣り、0.4を超えた場合、傷部耐食性が劣るだけでなく、塗装密着性も低下する。これは、酸性無機被覆層であっても同様の固形分質量比で配合する。
【0032】
(成分B:水分散性シリカ)
次に、本形態に係る水分散性シリカ(B)としては、(1)その一部が酸性無機被覆剤に溶解する場合もあるがその全量が完全には溶解することはなく、本形態の酸性無機被覆剤を用いて金属材料の表面に形成した処理皮膜中において固形物として残存するものであり、且つ、(2)酸化物を主成分とするもの(粉体でも液体でもよい)、であれば特に限定されない。ここで、水分散性シリカ(B)としては、空気中における平均粒子径が0.001〜100μm程度のものが好適であり、0.001〜1μm程度の微粒子であることが更に好ましい。過度に大きな粒子は皮膜(酸性無機被覆層)から突出してしまい、一種の皮膜欠陥となり腐食起点となりやすい。そのため、適度な粒子径である必要があり、粒子径が小さい場合、密着性が得られやすいなどの利点がある。本形態の表面被覆剤は水分散性シリカ(B)をコロイド状態で含有することが好ましい。
【0033】
この水分散性シリカとして、より具体的には液相から合成した液相シリカ、気相から合成した気相シリカが挙げられる。
液相シリカとしては、例えばスノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスST―OL、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(いずれも日産化学工業社製)が挙げられる。
また、気相シリカとしては、例えばアエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(いずれも日本アエロジル社製)が挙げられる。
これら液相シリカ及び気相シリカの中の1つのみを前記水分散性シリカとして用いてもよいし、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
水分散性シリカ(B)は、皮膜形成時にバインダーとして機能し連続膜形成の役割を有する。特にジルコニウムフッ化水素酸(A1)と水分散性シリカ(B)との配合において、皮膜内に均一にフッ化物イオンを配置させる点で有効であるとともに、過剰なフッ化物イオンの調整剤としての役割を有する。フッ化物イオンが過剰に存在する場合、傷部耐食性や塗装密着性の点で不利となる。フッ化物イオンは水分散性シリカ(B)との固形分質量比(e)/(B)として0.05〜0.5であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.4である。更に好ましくは、0.15〜0.35である。このような範囲であると、優れた端面耐食性及び傷部耐食性が良好となり、且つ塗装密着性も具備できる。
【0035】
ここで、酸性無機被覆剤中の成分(B)の添加量を決定するに際しても、成分(A)同様、アルカリ性有機無機複合被覆剤中の成分(U)の添加量も考慮することが好適である。具体的には、水分散性シリカ(B)と成分(U)の固形分質量比(B)/(U)=0.001〜1であることが好ましい。より好ましくは、(B)/(U)=0.005〜0.5であり、更に好ましくは(B)/(U)=0.01〜0.3である。(B)/(U)が0.001を下回ると、傷部耐食性及び端面耐食性含め耐食性全般が劣り、1を超えた場合、傷部耐食性が劣るだけでなく、塗装密着性も低下する。
【0036】
(成分C:マグネシウム化合物)
また、本形態に係る酸性無機被覆剤は、マグネシウム化合物(C)を一原料とする。成分(A)、(B)及び(E)を添加して成る酸性無機被覆剤は、時間経過とともに溶液粘度が上昇し、やがてゲル化する。これは、フッ化ジルコニウムとシリカとが反応し生じた生成物に由来する。前記成分(A)、(B)及び(E)を添加して成る酸性無機被覆剤において水溶液中、特にpHが2.0〜5.0程度の酸性水溶液中においては安定して共存することが困難であり、時間の経過とともに水溶液の粘度は増加し、やがてゲル化する傾向がある。
これに対して成分(A)〜(E)を添加して成る酸性無機被覆剤においてはこのような現象は生じ難い。製造後、一定時間(例えば数週間〜数ヶ月)経過した後であっても、その粘度は低い状態が維持されており(つまり、被覆剤安定性が良好であり)工業的使用に耐え得る。本特性にはこのマグネシウム化合物(C)の存在が影響していると本発明者は推定している。この点について次に示す。
【0037】
本形態に係る酸性無機被覆剤中において、このマグネシウム化合物(C)はFと反応(キャッチ)しやすいので、本形態に係る酸性無機被覆剤中にはフリーに存在するFはほぼ存在しないものと考えられる。
これに対して、このようなマグネシウム化合物(C)を添加しない場合は、フッ素イオン(F)が水分散性シリカ(B)の固体表面を溶解し、この水分散性シリカ(B)同士が融着し、徐々に3次元ネットワークを形成して粘度の増加やゲル化が生じると考えられる。
【0038】
本形態に係る酸性無機被覆剤は前記マグネシウム化合物(C)を含有するので、フリーで存在するFがほぼ存在しないと考えられる。従って、前記ジルコニウム化合物(A)と前記水分散性シリカ(B)とは安定して共存できると考えられる。
また、前記マグネシウム化合物(C)はFをキャッチする能力のみでなく、更に、腐食抑制に対するインヒビターとしても作用し、耐食性の向上に寄与するものと考えられる。
これらはFをキャッチする能力がより高いと考えられ、本形態に係る被覆剤の安定性がより高まるからである。この点を更に詳述する。被覆層内に存在するマグネシウム化合物(C)由来による効果は明らかでないが、腐食環境下で生じる腐食生成物の安定化に寄与する。金属の腐食は、腐食環境に曝されることによる亜鉛の溶出と溶存酸素の還元反応によるpHの上昇に伴い亜鉛表面を保護する腐食生成物の破壊が考えられる。しかし、マグネシウム化合物(C)は、高pH環境に曝されながらも安定な腐食生成物を生じる点で耐食性に寄与しうる。
【0039】
本形態に係る酸性無機被覆剤中にはマグネシウム元素(c)が次のような形態(化合物)で含有されているが、このような形態(化合物)であると、耐食性向上により寄与するという点で好ましい。
【0040】
マグネシウム化合物(C)としては、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
これらは、1種類でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本形態に係る酸性無機被覆剤中には、マグネシウム元素(c)は、マグネシウム金属単体として含有されていてもよい。
【0041】
マグネシウム化合物(C)は、このような形態(化合物)のうち、特に酸化物、水酸化物であるのが好ましい。その理由は、本形態の被覆剤を用いて形成した処理皮膜を下地として有する塗装金属材料の耐食性がより向上するからである。これらのうち1成分のみ、又は複数を添加してもよい。
マグネシウム化合物(C)由来成分は、これらは本形態の被覆剤中では溶解しており、分子又はイオンの状態で存在していると考えられる。
【0042】
本形態に係る酸性無機被覆剤においては、前記マグネシウム化合物(C)中のマグネシウム元素(c)の含有モル量(γ)(mol/L)と、フッ素元素の含有モル量(α)(mol/L)との比(γ/α)が0.001〜1.7であることが好ましく、0.005〜1.4であることが更に好ましく、0.01〜1.0であることが最も好ましい。このような範囲であると、本形態に係る酸性無機被覆剤の安定性が良好であり、かつ、本形態に係る酸性無機被覆剤を用いて金属材料表面に形成した被覆膜の耐食性がより高まるので好ましい。
【0043】
ここで、酸性無機被覆剤中の成分(C)の添加量を決定するに際しては、アルカリ性有機無機複合被覆剤中の成分(V)の添加量も考慮することが好適である。具体的には、本形態に係る酸性無機被覆剤においては、マグネシウム化合物(C)の含有金属、すなわちマグネシウム元素(c)と成分(V)の固形分質量比(c)/(V)が0.001〜0.5であることが好ましい。より好ましくは(c)/(V)=0.005〜0.3であり、更に好ましくは(c)/(V)=0.01〜0.1である。
(c)/(V)が0.001を下回ると十分な薬剤安定性が得られないばかりか、耐食性も劣る。一方、(c)/(V)が0.5を上回る場合も薬剤安定性に劣る。これは、酸性無機被覆層であっても同様の固形分質量比で配合する。
【0044】
(成分D:バナジウム化合物)
また、本形態に係る酸性無機被覆剤は、バナジウム化合物(D)を一原料とすることが好ましい。このバナジウム化合物(D)は、腐食抑制剤として作用し、耐食性の底上げに有効である。更にバナジウム化合物(D)を用いると、本形態に係る酸性無機被覆剤の安定性がより良好となる。この効果は、特に酸性無機被覆剤において大きく、安定性向上に寄与する。
これは本形態に係る酸性無機被覆剤中において、バナジウム化合物(D)は、前記フッ素化合物(E)又は一部Fを放出した前記ジルコニウム化合物(A)に配位するためと推定される。
【0045】
また、このバナジウム化合物(D)は、更に腐食に対するインヒビターとしても作用し、耐食性の向上に寄与するとも考えられる。この点を更に詳述する。腐食環境下において亜鉛の溶出及びバナジウム化合物(D)の溶出に伴い、バナジウム化合物(D)が還元され、比較的水に溶出しにくい状態へ変化し亜鉛めっき表面に存在することによって耐食性を発現するものである。
【0046】
このバナジウム化合物(D)は、特にキレート錯体形成能を有する化合物であることが好ましい。バナジウム化合物(D)としては、キレート錯体バナジウム化合物であれば特に限定されず、例えばプロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、酒石酸、りんご酸、アスコルビン酸、アセチルアセトン、硫酸の化合物の1種又は2種以上が挙げられる。
【0047】
このようなバナジウム化合物(D)は、本形態に係る酸性無機被覆剤において、前記アルカリケイ酸塩(V)に対するバナジウム化合物(D)の含有金属、すなわちバナジウム元素(d)の固形分質量比(d)/(V)=0.001〜0.5であることが好ましく、0.005〜0.3であることが更に好ましく、0.01〜0.1であることが特に好ましい。このような範囲であると本形態に係る酸性無機被覆剤の貯蔵安定性及びランニング性(操業安定性)が更に向上するという効果を奏するので好ましい。
【0048】
(成分E:フッ素化合物)
前記フッ素化合物(E)としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、ジルコニウムフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、ジルコニウムフッ化アンモニウム、チタンフッ化アンモニウム、ケイフッ化カリウム、ケイフッ化アンモニウム等が挙げられる。
これらは、1種類でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。前記ジルコニウム化合物(A)がフッ素化合物である場合、フッ素化合物(E)を混合しなくてもよい。
【0049】
フッ素化合物(E)は、前述したように腐食環境下において生じたアルカリ分をフッ化物イオンの解離によって緩衝し、過剰なpH上昇を抑制する役割を有する。従って、亜鉛の犠牲防食能が十分に発揮されるとともに、生じた腐食生成物の安定化に寄与し、亜鉛の腐食並びに鉄の腐食にも効果を発揮する。
フッ素化合物(E)のフッ素元素(e)とマグネシウム化合物(C)の含有金属(c)の固形分質量比(e)/(c)が0.1〜30であることが好ましい。(e)/(c)の下限値については、0.3であることがより好ましく、1であることが更に好ましく、2であることが特に好ましく、3であることが最も好ましい。一方、(e)/(c)の上限値については、20であることがより好ましく、10であることが更に好ましく、8であることが特に好ましく、6であることが最も好ましい。フッ素化合物(E)の添加量が固形分質量比で(e)/(c)が0.1を下回る場合、十分なpH緩衝能を発揮せずに傷部及び端面部耐食性に劣る。(e)/(c)が30を上回る場合、解離するフッ化物イオンの量が過度に増えるため傷部耐食性が劣る。
【0050】
(成分:他の任意成分)
本形態に係る酸性無機被覆剤の任意成分としては、充填剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、抗菌剤、着色剤などがあり、皮膜の性能を損なわない範囲で添加することができる。
【0051】
(成分:液体媒体)
本形態に係る酸性無機被覆剤は水系である。水系とは、溶媒が水を60%以上含有する主成分とすることを意味する。溶媒は水のみでもよいが、皮膜の乾燥性、被覆剤の粘度などを調整する目的で、1価もしくは多価アルコール、ケトン、セロソルブ系などの各種の水溶性有機溶剤を1種又は2種以上併用してもよい。
【0052】
(合計濃度)
本形態に係る酸性無機被覆剤における合計濃度{ジルコニウム化合物(A)、水分散性シリカ(B)、マグネシウム化合物(C)、バナジウム化合物(D)、フッ素化合物(E)、他の成分(導電性物質、着色顔料等)の本形態に係る酸性無機被覆剤が含有する溶媒以外の全てを合計した濃度}は1〜50質量%であることが好ましい。この合計濃度は2〜40質量%であることが更に好ましく、3〜20質量%であることが最も好ましい。このような範囲であると被覆剤の液安定性及び実使用上合理的であるという点で好ましい。尚、ここでいう合計濃度は固形分質量から算出される濃度である。より詳しくは、本形態に係る酸性無機被覆剤を100℃程度で乾燥した後に残存する固形分の質量から算出される濃度である。
【0053】
(液性)
本形態に係る酸性無機被覆剤は、上記のような成分を添加して成る水溶液であり、そのpHは2.0〜5.0であることが好ましく、2.5〜4.5であることが更に好ましい。このような範囲であると金属材料表面のエッチングを抑えランニング性が更に向上するという効果を奏するので好ましい。
【0054】
このように、本形態に係る酸性無機被覆剤は成分(A)〜(E)を原料として適切な量で用い且つ適度な酸性であるため、下記の効果をもたらす。耐指紋性を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板は、塗装されることなく用いられる場合がある。そのため、表面処理した後においても鋼材自体の外観を維持する必要があり、且つ望まれる。鋼材の外観色が変わる原因は、表面粗度や屈折率の変化等が挙げられる。このような状況下、本形態に係る酸性無機被覆剤を使用する場合、適度な酸性であるために適度の鋼材表面をエッチングする。従って、鋼材と異なる屈性率の成分によって被覆しても鋼材表面の凹凸が増えることに由来し、光の拡散反射が増し外観色の変化を抑制する効果を有する。
【0055】
本形態に係る酸性無機被覆剤のpH調整の必要がある場合には適当な酸(例えば、酢酸、硝酸、リン酸及びその塩類など)やアルカリ(例えば、アンモニア、有機アミン及びその塩類など)を添加して行うことができる。
【0056】
<アルカリ性有機無機複合被覆剤(M)>
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤は、重量平均分子量が10万〜20万を有するアニオン性ウレタン樹脂(U)、アルカリケイ酸塩(V)、チタンアルコキシド(W)、ポリカルボジイミド樹脂(X)、シランカップリング剤(Y)を少なくとも添加して成る。アルカリ性有機無機複合被覆層は、更に水分散性ワックス(Z)を含有することができる。該成分の固形分質量比を下記で述べる範囲内に調整して当該剤をアルカリ性有機無機複合被覆剤に調製し、酸性無機被覆層或いは亜鉛系めっき鋼板表面に当該剤を塗布し乾燥することで、アルカリ性有機無機複合被覆層が形成される。酸性無機被覆層の上に形成したアルカリ性有機無機複合被覆層は、亜鉛系めっき鋼板に酸性無機被覆層を形成せずに単独で形成したときより、平面、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性、傷部及び端面耐食性、耐薬品性、成型加工性が向上する。更には、耐熱黄変性、耐指紋性、導電性、塗装性も含めた最良の効果を発現させることができる。特に傷部及び端面部において大きな効果をもたらし、赤錆発生の抑制に寄与する。以下、それぞれの成分の役割や添加量について詳細を述べる。
【0057】
(成分U:アニオン性ウレタン樹脂)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤で用いるアニオン性ウレタン樹脂(U)は、本形態に係る被覆層を形成する主成分であり、耐食性、耐薬品性、成型加工性、耐熱黄変性、塗装性の基本特性を担う。ここで、当該アニオン性ウレタン樹脂(U)は水分散性である。
ウレタン樹脂は、下地皮膜層との密着性(ここでは層間密着性を指す)が高く、緻密な皮膜を形成できるため、亜鉛系めっきを腐食させる水、酸素や酸、アルカリを含む無機塩類などの外的因子の遮断効果を有し、耐食性、耐薬品性を発現させる効果がある。ウレタン樹脂の骨格を形成するポリオール種をポリエーテル系或いはポリエステル系とすることで柔軟性と弾性のバランスがとれるウレタン樹脂とすることができ、密着性も向上させることができる。加えて、適度に分岐を加え強靭性を与えることによって、緻密な膜を形成することができる。これら複合的な作用によって、ポリマー鎖同士の絡み合い、ウレタン基同士の相互作用等が効果的に発現し、耐食性や耐薬品性、塗装性などを発揮する。ウレタン樹脂のポリオール種としては一般的にポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネートに大別される。ポリエステル及びポリカーボネートは極性基を持つ為、分子間相互作用が強く、強靭な皮膜として好適である。一方、ポリエーテルは極性基を持たないため、分子間相互作用がポリエステル、ポリカーボネートと比較し機械的強度に劣る皮膜である。しかしながら、化学的に安定なエーテル基を持つために耐薬品性に有効である。一方で、ポリカーボネート系ポリオールは、化学的、機械的安定性に有利である一方、やや高価であるデメリットを持つ。以上より、本形態の水分散ウレタン樹脂はポリエーテル系、ポリエステル系であるのが好適である。ここで、ウレタン樹脂の骨格を形成するポリオール種のポリエーテル系、ポリエステル系とは、それぞれのエーテルの繰り返し成分、エステルの繰り返し単位の成分がポリオール成分として主であるものをいう。ここで主とは、ポリオール全体質量に対して、50質量%以上であることを意味する。
【0058】
アルカリ性有機無機複合被覆剤に用いられるアニオン性ウレタン樹脂(U)の重量平均分子量は10万〜20万であることが好ましい。ウレタン樹脂の分子量は、膜物性に多大な影響を与える。低分子量物質は、膜内で可塑剤として作用し低Tg化や低機械物性化を引き起こし、その結果耐食性をはじめ、耐溶剤性、耐薬品性等の様々な皮膜性能を低下させる。更に重量平均分子量は、アルカリ性有機無機複合被覆層内に占めるウレタン樹脂体積に影響し、ウレタン樹脂の重量平均分子量が大きくなるに従い、アルカリ性有機無機複合被覆層に占めるウレタン樹脂の体積が大きくなる。その結果、高Tg化及び高物性化し良好な皮膜性能を発現する。
【0059】
ここで、本形態に係るアニオン性ウレタン樹脂(U)や下記で説明する原料の重量平均分子量を含め、本明細書に記載されている重量平均分子量は、JIS−K7252−4に明記されているサイズ排除クロマトグラフィーによる方法による測定値とする。
【0060】
アニオン性ウレタン樹脂(U)は、ポリイソシアネート(特にジイソシアネート);ポリオール(特にジオール);ヒドロキシル基を2個以上、好ましくは2個有するカルボン酸又はスルホン酸、或いはそれら反応性誘導体;及びポリアミン(特にジアミン)を原料として一般的な合成方法により得られるものである。より具体的には、限定的に解釈されるものではないが、例えば、ジイソシアネートとジオールから両端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーを製造し、これにヒドロキシル基を2個有するカルボン酸もしくはその反応性誘導体を反応させて両端にイソシアナト基を有する誘導体とし、ついでトリエタノールアミンなどの3級アミンを加えてアイオノマー(トリエタノールアミン塩)としてから水に加えてエマルジョンとし、更にジアミンを加えて鎖延長を行うことにより、アニオン性ウレタン樹脂(U)を得ることができる。
【0061】
アニオン性ウレタン樹脂(U)を製造する際に用いるポリイソシアネートとしては、脂肪族、脂環式及び芳香族ポリイソシアネートがあり、いずれも使用可能である。具体的には、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの中で、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアヌレート(3量体)、カルボジイミド化ジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ポリイソシアネートを用いる場合には、耐食性、耐熱黄変性、成型加工性等にも優れた皮膜が得られるので好ましい。
【0062】
アニオン性ウレタン樹脂(U)を製造する際に用いるポリオール種としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールを用いるのが好適である。ポリエーテル、ポリエステル骨格であると強アルカリ性或いは強酸性水溶液と接触した場合でも結合が切れにくく、耐薬品性やアルカリ脱脂後の耐食性を得るのに重要である。
【0063】
ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールの製造に使用するグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のポリオールが挙げられる。
【0064】
ポリエーテルポリオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール;トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール等の前記低分子ポリオールの他、ビスフェノールA、エチレンジアミン等のアミン化合物等へのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物;ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。本形態に用いられるポリエーテルポリオール類の重量平均分子量は300〜5000であることが好ましく、特に1000〜3000であることが好ましい。
【0065】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子ポリオール等のポリオール;その化学量論量より少ない量の多価カルボン酸、そのエステル、その無水物及び/又はそのカルボン酸ハライド等のエステル形成性誘導体、並びに/或いは、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、ジメチル−ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン等のラクトン類及び/又はその加水分解開環反応によって得られるヒドロキシカルボン酸;との直接エステル化反応、及び/又は、エステル交換反応によって得られるものが挙げられる。上記多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸、水添ダイマー酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸類;トリメリト酸、トリメシン酸、ひまし油脂肪酸の三量体等のトリカルボン酸類;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸類などの多価カルボン酸が挙げられる。これらの多価カルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらの酸無水物、該多価カルボン酸のクロライド、ブロマイド等のカルボン酸ハライド、該多価カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、アミルエステル等の低級脂肪族エステル等が挙げられる。
【0066】
カルボキシル基又はその塩を有するアニオン性ウレタン樹脂(U)を製造する際に用いるカルボン酸及び/又はスルホン酸、並びにそれら反応性誘導体は、アニオン性ウレタン樹脂(U)に酸性基を導入するため、及びアニオン性ウレタン樹脂(U)を水分散性にするために用いる。これらアニオン性基を中和剤で中和することによって、水に対する分散性を付与することにある。ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘキサン酸、1,4−ブタンジオール−2−スルホン酸等のポリアルカノール基を有する有機酸(例えばジメチロールアルカン酸)を例示することができる(例えば、カルボン酸類、スルホン酸類)。また、反応性誘導体としては、酸無水物のような加水分解性エステル等が挙げられる。このようにアニオン性ウレタン樹脂(U)を自己水分散性にし、乳化剤を使用しないか極力使用しないようにすることにより、耐食性に優れた皮膜が得られる。これらのなかでは、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が好ましい。これらのカルボン酸及びスルホン酸は単独で又は数種を組み合わせて使用することができる。
【0067】
アニオン性ウレタン樹脂(U)を製造する際にポリアミンや水等が用いられる。このポリアミンや水等は、調整したプレポリマーの鎖伸長剤として使用される。これらポリアミンは、通常使用されるポリアミン類の中から適宜選択される。用いるポリアミンとしては、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、ピペラジン、2−メチルピペラジン等の低分子ジアミン類;ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンジアミン等のポリエーテルジアミン類;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の脂環式ジアミン類;m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等の芳香族ジアミン類;などのポリアミン、並びに、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、水加ヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド等のヒドラジン類等が挙げられる。これらの鎖伸長剤は単独で又は数種を組み合わせて使用することができる。
【0068】
アニオン性ウレタン樹脂(U)は合成する段階で加水分解性シラン化合物を用いてシラン変性したものでも構わない。シラン変性するときのシラン化合物の種類、変性量については特に制限はない。シラン化合物としては、周知のシランカップリング剤を用いることができる。シラン変性することにより、アニオン性ウレタン樹脂(U)と反応下地皮膜層との密着性(層間密着性)の向上、更には上塗り皮膜の緻密性の向上に繋がる。これにより、加工部やアルカリ脱脂後の耐食性、成型加工性が向上する。
【0069】
アニオン性ウレタン樹脂(U)は合成時の樹脂の安定性や造膜時の周囲環境が低温乾燥下にある場合の造膜性を高めるために、造膜助剤を配合しておくのが好ましい。造膜助剤としてはブチルセロソルブ、N−メチル−2−ピロリドン、ブチルカルビトール、テキサノールなどが挙げられ、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0070】
(成分V:アルカリケイ酸塩)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤は、アルカリケイ酸塩(V)を一原料とする。一般的にアルカリケイ酸塩(V)は、水溶性の極めて高い成分である。しかしながら、アルカリ金属以外の金属イオンと接触すると水に不溶性の塩を形成する。例えば、アルカリ土類金属であるMgやCa等の金属イオンと水に不溶性の塩を形成しうる。また、上述した有機チタン化合物との接触によっても同様に水に不溶性の塩を形成する。つまり、下層である酸性無機被覆層に含まれるジルコニウムフッ化水素酸、マグネシウム化合物、また上層であるアルカリ性有機無機複合被覆層に含まれる有機チタン化合物と接触することによって水に不溶性の塩を形成し、そのために本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は優れた耐食性を発現するものである。
試験片が腐食環境下に曝された場合、皮膜下において溶存酸素の還元反応が進行し強アルカリ性を呈する。しかし、本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は、添加したアルカリケイ酸塩によって皮膜下が比較的高いアルカリ性に保持されているため、その緩衝作用によって過度なpH上昇が抑制される。従って、本形態に係る表面処理剤を使用すると、片側の亜鉛目付量が従来より少ない1〜15g/mであっても傷部及び端面部において優れた耐食性が得られるとともに、長期に渡って20g/m以上の亜鉛目付量である表面処理亜鉛系めっき鋼板と同等以上の赤錆発生を抑制するものである。
【0071】
本形態で用いるアルカリケイ酸塩(V)は、SiO/NaOが4〜1の範囲であることが好ましい。より好ましくは、SiO/NaOが4〜2である。SiO/NaOが4を超える場合、極めて粘度が高くなり、作業性が悪くなる。SiO/NaOが1を下回る場合、十分な傷部耐食性及び端面耐食性が得られない。
【0072】
本形態で用いるアルカリケイ酸塩(V)は、成分(U)と成分(V)の固形分質量比(V)/(U)が0.01〜1であることが好ましい。より好ましくは、(V)/(U)が0.02〜0.5である。更に好ましくは、0.05〜0.3である。最も好ましくは、(V)/(U)が0.1〜0.2である。(V)/(U)が1を上回る場合、アルカリ性有機無機複合被覆層が脆くなり十分な加工部耐食性及び成型加工性が悪くなる。0.01を下回る場合、十分な傷部及び端面耐食性が得られない。アルカリ性有機無機複合被覆層を用いた場合においても前記固形分質量比にて構成される。
【0073】
(成分W:チタンアルコキシド)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤は、チタンアルコキシド(W)を一原料とする。チタンアルコキシド(W)を用いることにより、アニオン性ウレタン樹脂(U)の骨格に存在するカルボン酸や水溶性カルボジイミド樹脂(X)の骨格に存在するカルボジイミド基との金属架橋により、アルカリ性有機無機複合被覆層を緻密にすることができる。これにより、緻密な皮膜を形成することができ、アルカリ脱脂後の耐食性、耐薬品性が向上する。更に、チタンアルコキシド(W)自体に由来した防錆効果によって加工部耐食性が向上する。更にアルカリケイ酸塩(V)と水に不溶性の塩を形成しより一層バリア性の高い被覆層を形成する。
【0074】
チタンアルコキシド(W)は、チタン原子を中心にアルコキシ基が配位した構造を持つ。このような化合物は、水中において容易に加水分解し縮合を行う。従って、チタンアルコキシド(W)は水中においていくつか縮合したオリゴマー或いはポリマーを形成しているものと推測される。本用途で用いるチタンアルコキシド(W)は、アルコキシ基とキレート剤とが共存したものであることが好ましい。具体的には、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラー2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。特に好ましくはチタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)等が挙げられる。
【0075】
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤では、成分(W)中に含まれる含有金属、すなわちチタン(w)と成分(V)との固形分質量比(w)/(V)として0.01〜1であることが好ましい。より好ましくは(w)/(V)が0.03〜0.8である。更に好ましくは(w)/(V)が0.06〜0.6である。最も好ましくは(w)/(V)が0.1〜0.5である。(w)/(V)が1を上回る場合、十分なアルカリ脱脂後の耐食性、耐溶剤性、塗装密着性が得られず、また、アルカリ性有機無機複合被覆剤の十分な安定性が得られない。(w)/(V)が0.01を下回る場合、アルカリ脱脂後の耐食性、耐溶剤性、及び加工部耐食性の向上効果が十分に得られない。
【0076】
(成分X:ポリカルボジイミド樹脂)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤は、水溶性カルボジイミド樹脂(X)を一原料とする。ここで、水溶性カルボジイミド樹脂(X)は、アニオン性ウレタン樹脂(U)の骨格に存在するカルボン酸と有機架橋する役割を担う。これにより、緻密な皮膜を形成することができ、アルカリ脱脂後の耐食性、耐薬品性が向上する。更に比較的極性の高いカルボジイミド基が上塗り皮膜層に導入されるため、塗装密着性にも大きく寄与する。
【0077】
ポリカルボジイミド樹脂(X)におけるカルボジイミド樹脂は分子中に−N=C=N−基を有する高分子であり、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートの脱炭酸縮合反応によって製造することができる。ここで、カルボジイミド化触媒としては、スズ、酸化マグネシウム、カリウムイオン、18−クラウン−6、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレンオキシドとの組み合わせなどが挙げられる。ジイソシアネートとしては、アニオン性ウレタン樹脂(U)の製造に用いられるポリイソシアネートとして例示したものの中のジイソシアネートを例示することができる。
【0078】
ポリカルボジイミド樹脂(X)は水系ポリカルボジイミド樹脂であり、特に限定されないが、水に分散或いは溶解しているものである。水分散ポリカルボジイミド樹脂は、粒度分布測定装置(大塚電子製 商品名 PAR−III)によって明らかに検出される粒子である。一方、水溶性ポリカルボジイミド樹脂は、粒度分布測定装置によって検出限界程度に検出される極めて小さな粒子である。
【0079】
ポリカルボジイミド樹脂(X)のカルボジイミド当量(カルボジイミド基1mol当たりのカルボジイミド樹脂の化学式量、換言するとカルボジイミド樹脂の分子量をカルボジイミド樹脂に含まれるカルボジイミド基の数で割った値)は、特に制限されるものではないが、100〜1,000の範囲であることが好ましく、300〜700の範囲であることがより好ましい。
【0080】
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤では、成分(X)と成分(U)の固形分質量比が(X)/(U)=0.001〜0.5であることが好ましい。より好ましくは、(X)/(U)が0.005〜0.4である。更に好ましくは、(X)/(U)が0.01〜0.3である。最も好ましくは、0.02〜0.2である。(X)/(U)が0.5を上回ると、むしろ耐食性が悪化する。(X)/(U)が0.001を下回ると、十分な塗装密着性が得られない。アルカリ性有機無機複合被覆層においても前記記載の固形分質量比にて配合する。
【0081】
(成分Y:シランカップリング剤)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤は、シランカップリング剤(Y)を一原料とする。シランカップリング剤(Y)は、ケイ素原子を中心にアルコキシ基と有機官能基を持つ。ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基は、水中において容易に加水分解しシラノール基を与える。シラノール基は不安定な官能基なため、熱力学的に安定なシロキサン結合へ変化するために脱水縮合を起こす。ポリマー化したシロキサンと残存したシラノール基が基材への吸着、及びアルカリ性有機無機複合被覆層の構成成分と相互作用することにより強靭且つ密着性に優れた皮膜を形成しうる。このように、本形態で用いるシランカップリング剤(Y)は、シラノール基による酸性無機被覆層との密着性に寄与する。また、更にアルカリ性有機無機複合被覆剤に添加したアニオン性ウレタン樹脂(U)やアルカリケイ酸塩(V)の由来成分と相互作用することにより緻密な皮膜を形成する。そのために優れた耐食性を発現するものである。
【0082】
本形態で用いるシランカップリング剤(Y)としては、特に限定するものではないが、以下のものが挙げられる。ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカブトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。前記シランカップリング剤(Y)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤では、シランカップリング剤(Y)と成分(U)の固形分質量比が(Y)/(U)=0.001〜0.5であることが好ましい。より好ましくは、(Y)/(U)が0.005〜0.3である。更に好ましくは、(Y)/(U)が0.01〜0.2である。最も好ましくは、0.02〜0.1である。(Y)/(U)が0.5を上回ると、被覆剤の安定性が低下する。(Y)/(U)が0.001を下回る場合、シランカップリング剤(Y)の効果が発揮されず、耐食性、耐薬品性、耐溶剤性、塗装密着性等のいずれの皮膜性能が低下する。
【0084】
(成分Z:水分散性ワックス)
本形態で用いる水分散性ワックス(Z)は被覆層に滑り性を付与し、成型加工性を向上させるために含有する。この平均粒径は0.05〜1.0μmの範囲であることが好ましく、0.1〜0.6μmであることがより好ましい。水分散性ワックスの平均粒径が1.0μmを越えると、ワックスの分散安定性が悪くなる。水分散性ワックスの平均粒径が0.05μmを下回ると、十分な成型加工性が得られない。ここで、ポリエチレンワックスの粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定された平均粒径を指す。
【0085】
水分散性ワックス(Z)の分子量、融点については特に限定はないが、酸価は5〜50の範囲が好ましく、10〜30の範囲がより好ましい。酸価が5未満の場合は、ワックスと樹脂とがほとんど相溶しないため、皮膜形成時にワックスが皮膜表面に完全に配向し、上塗り皮膜層から離脱しやすくなり、成型加工性の低下を引き起こすので好ましくない。一方、酸価が50を超える場合は、ワックスの親水性が強くなるため、ワックス自体が持つ滑性が低下し、耐傷付き性が低下するので好ましくない。水分散性ワックス(Z)は、通常、界面活性剤を分散剤として用いて調製した水分散物を使用する。水分散性ワックスの分散方法については特に制限はなく、工業的に用いられる方法によれば良い。
【0086】
水分散性ワックス(Z)の酸価は次の方法によって求められる。試料を所定量分取し、有機溶媒に溶解させる。有機溶媒によって希釈した液にフェノールフタレイン指示薬を添加し、0.1N KOHエタノール溶液にて滴定する。酸価は次の式によって求められる。
酸価=56.11×規定度×滴定量/分取した試料重量
【0087】
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤では、成分(Z)と成分(U)の固形分質量比として(Z)/(U)が0.01〜0.2であることが好ましい。より好ましくは、(Z)/(U)が0.02〜0.1である。(Z)/(U)が0.2を超えると、水分散性ワックスに使用している界面活性剤の影響により耐食性が低下する。(Z)/(U)が0.01を下回ると、十分な成型加工性が得られない。
【0088】
(成分:コロイダルシリカ)
成分(U)〜(Z)から成るアルカリ性有機無機複合被覆剤は、コロイダルシリカを一原料としてもよい。コロイダルシリカは、耐指紋性、成型加工性を調整する役割を担う。コロイダルシリカは、シラノール基が表面に存在する水分散物であるが、粒径、形状、種類については特に限定するものではないが、粒径に関しては20〜200nmの範囲であることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましい。ここで、シリカの粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定された平均粒径を指す。
【0089】
(成分:他の任意成分)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤の任意成分としては、充填剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、抗菌剤、着色剤などがあり、皮膜の性能を損なわない範囲で添加することができる。
【0090】
(成分:液体媒体)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤は水系である。水系とは、溶媒が水を60%以上含有する主成分とすることを意味する。溶媒は水のみでもよいが、皮膜の乾燥性、被覆剤の粘度などを調整する目的で、1価もしくは多価アルコール、ケトン、セロソルブ系などの各種の水溶性有機溶剤を1種又は2種以上併用してもよい。
【0091】
(合計濃度)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤の固形分濃度は、各成分の固形分質量の合計で5〜30質量%の範囲が好ましく、10〜25質量%の範囲がより好ましい。尚、ここでいう固形分濃度は、本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤を100℃程度で乾燥した後に残存する固形分の質量から算出される濃度である。
【0092】
(液性)
本形態に係るアルカリ性有機無機複合被覆剤のpHは、9〜12の範囲であるのが好ましい。pH調整の必要がある場合には、アンモニア、ジメチルアミン、トリエチルアミン等のアルカリ性物質、又は、酢酸、硝酸、リン酸等の酸性物質を本形態の効果を損なわない範囲で添加することができる。また、アルカリ性有機無機複合被覆剤のpHはMg、Al、Zn等の金属塩を添加することにより調整することもできる。
【0093】
<両剤の調製方法>
本形態に係る両被覆剤(酸性無機被覆剤及びアルカリ性有機無機複合被覆剤)の調製方法は、特に限定されず、いずれも従来公知の方法で製造することができる。ここで、まず、酸性無機被覆剤(L)の調製方法の好適例を説明する。初めに、ジルコニウム化合物(A)を任意の量添加した水溶液を用意する。この場合、ジルコニウム化合物(A)としては、フッ素を含むもの(フッ化ジルコニウム等)を用いてもよく、フッ素を含まないものを用いてもよい。フッ素を含まないジルコニウム化合物(A)を用いた場合には、後述するように、更にフッ素化合物(E)(HF等)を添加する。次に、ここへマグネシウム化合物(C)を任意の量添加し混合する。そして次にこの水溶液に水分散性シリカ(B)、バナジウム化合物(D)、必要に応じてフッ素化合物(E)を含む化合物等を任意の量添加し混合する。このようにして、固形分濃度が所定値である、これら成分が溶解ないし分散した形態の剤を調製することができる。次に、アルカリ性有機無機複合被覆剤(M)の調整方法の好適例を説明する。初めに、脱イオン水に成分(U)を任意の量添加し、更に成分(V)を任意の量添加し混合する。次いで、成分(W)を任意の量添加し混合する。成分(X)を任意の量添加し混合し、成分(Y)を任意の量添加し混合し、成分(Z)を任意の量添加し混合し最終的に所定の固形分濃度となるように調整する。このようにして、固形分濃度が所定値である、これら成分が溶解ないし分散した形態の剤を調製することができる。
【0094】
<基材>
本形態の製造方法で用いる基材としては、用途から亜鉛系めっき鋼板が好ましい。亜鉛系めっき鋼板のめっき方法としては、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっき等が挙げられ、特に指定するものでは無いが、より好ましくは、亜鉛系めっきが、電気めっきにより処理されたものである。
【0095】
<両剤の適用順序>
本形態の2層構造の表面処理層(酸性無機被覆層及びアルカリ性有機無機複合被覆層)は、亜鉛めっき表面に酸性無機被覆剤を接触させた後、乾燥させ、更にその上層にアルカリ性有機無機複合被覆剤を接触させ、乾燥させることにより得られる。以下、各工程を詳述する。
【0096】
<酸性無機被覆層形成工程>
まず、酸性無機被覆層を形成する工程について説明する。
(清浄工程)
亜鉛系めっき鋼板の表面に油や汚れが付着している場合、溶剤脱脂、アルカリ脱脂、酸脱脂をした後、水洗して表面状態を清浄にしてから、被覆剤酸性無機被覆剤を接触させた方がよい。必要に応じて水洗後に乾燥しても構わない。
(接触工程)
本形態の製造方法では、上記のような清浄工程後の亜鉛系めっき鋼板の表面に、上記のような本形態の酸性無機被覆剤を接触させる。
接触させる方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用できる。例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りの方法を適用できる。尚、このような方法で本形態の酸性無機被覆剤を前記亜鉛系めっき鋼板の表面に接触させる前に、他ラインにおいて、必要に応じて前記亜鉛系めっき鋼板に、湯洗、アルカリ脱脂、表面調整などの通常の前処理を適用してもよい。
(乾燥工程)
本形態の製造方法では、本形態の酸性無機被覆剤を前記亜鉛系めっき鋼板の表面に上記のような方法で接触させた後、乾燥する。この乾燥の方法も特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用できる。例えばエアーブロー法や、乾燥機(オーブン等)を用いる方法が挙げられる。乾燥機を用いて乾燥する方法であれば、乾燥温度、乾燥時間は特に制限されず、例えば前記亜鉛系めっき鋼板の表面の最高到達温度を60〜120℃とし、1〜120秒程度、乾燥することができる。
【0097】
<アルカリ性有機無機複合被覆層形成工程>
次に、アルカリ性有機無機複合被覆層を形成する工程について説明する。
(接触工程)
本形態の製造方法では、上記のようにして形成された酸性無機被覆層の表面に、上記のような本形態のアルカリ性有機無機複合被覆剤を接触させる。
接触させる方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用できる。例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りの方法を適用できる。
(乾燥工程)
本形態の製造方法では、本形態のアルカリ性有機無機複合被覆剤を前記酸性無機被覆層の表面に上記のような方法で接触させた後、乾燥する。この乾燥の方法も特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用できる。乾燥機を用いて乾燥する方法であれば、乾燥温度、乾燥時間は特に制限されず、例えば前記酸性無機被覆層が形成された亜鉛系めっき鋼板の表面の最高到達温度を100〜180℃とし、1〜120秒程度、乾燥することができる。より好ましい最高到達温度は、120〜150℃である。
【0098】
≪表面処理亜鉛系めっき鋼板の構造及び性質≫
<層構成>
本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は、酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層との2層皮膜を有する。ここで、本形態では、酸性無機被覆層が下層、アルカリ性有機無機複合被覆層が上層である2層皮膜を形成し被覆された2層皮膜処理亜鉛系めっき鋼板であることが性能バランスという観点から好ましい。アルカリ性有機無機複合被覆層は水分散性ワックス(Z)を含むことが好ましい。
【0099】
<皮膜重量>
本形態に係る皮膜重量は、用途等に応じて適宜決定される。但し、本形態の効果を最良とする酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層との2層構造から成る表面処理亜鉛系めっき鋼板の乾燥皮膜重量の範囲は、酸性無機被覆層が0.01〜0.5g/mであることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.3g/mである。特に好ましくは0.05〜0.2g/mである。皮膜重量が0.01g/mを下回ると、耐食性や成型加工性の点で不利となる。皮膜重量が0.5g/mを上回ると、生産性の点からコスト高となるばかりか、塗装密着性や耐溶剤性等の皮膜性能が低下する。アルカリ性有機無機複合被覆層では、皮膜重量が0.5〜3g/mであることが好ましく、より好ましくは0.7〜2g/mである。特に好ましくは、0.8〜1.5g/mである。乾燥皮膜重量が0.5g/mを下回ると耐食性、傷部及び端面耐食性、耐薬品性、成型加工性、耐指紋性が低下する。一方、皮膜重量が3.0g/mを越えると耐熱黄変性、導電性、塗装性が低下するとともにコスト高となる。
【0100】
<性質>
本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は、平面部、アルカリ脱脂後及び加工部のいずれの耐食性、耐溶剤性、成型加工性、導電性、塗装性も良好であり、その上傷部並びに端面耐食性に優れ、長期に渡って赤錆が発生しにくい性能バランスに優れる。また、アルカリ性有機無機複合被覆層のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が100℃を下回る上塗り(上層側の)皮膜層では、実使用環境下において物性変化を起こしやすい。その理由は、皮膜内の凝集力が不十分となり十分なバリア性が得られない。しかし、ガラス転移温度が100℃以上の場合においては凝集力が高くなるために皮膜のバリア性が向上する。皮膜の高Tg化はアニオン性ウレタン樹脂(U)に当然ながら由来する。短鎖ポリオールへの変更、分岐量の増加、ウレタン基の増加などの手法により達成される。
【0101】
≪表面処理亜鉛系めっき鋼板の用途≫
本形態に係る酸性無機被覆層とアルカリ有機無機複合被覆層との組合せは、特に限定することではないが、片側の亜鉛目付量が1〜15g/mの亜鉛系めっき鋼板における耐指紋性が要求される鋼板(耐指紋鋼板)用途で用いることが好ましい。本形態に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は、耐指紋鋼板に要求される耐食性、塗装密着性、耐溶剤性、耐熱黄変性を具備しながら、成型加工性にも優れている。従来の20g/m以上の亜鉛目付量を具備した表面処理亜鉛系めっき鋼板と同等以上の傷部並びに端面部耐食性を維持できるため、皮膜性能が低下することなく環境や資源の有効活用に配慮した表面処理亜鉛系めっき鋼板である。
【0102】
≪表面処理亜鉛系めっき鋼板の他の形態≫
(被覆層の積層順序)
本発明に係る表面処理亜鉛系めっき鋼板は、上述した形態とは酸性無機被覆層とアルカリ性有機無機複合被覆層の積層順序が異なっていてもよい。すなわち、亜鉛系めっき鋼板の表面に下層としてアルカリ性有機無機複合被覆層を形成し、その上層として酸性無機被覆層を形成してもよい。ただし、上述した酸性無機被覆層及びアルカリ性有機無機複合被覆層による各種の性能をより効果的に発現させるためには、上述した形態のように、下層が酸性無機被覆層、上層がアルカリ性有機無機複合被覆層であることが好ましい。
【0103】
(両剤の適用方法)
また、上述した酸性無機被覆剤及びアルカリ性有機無機複合被覆剤は、いわゆる「塗布型の被覆剤」であったが、上述した形態とは異なり、「塗布型以外の被覆剤」であってもよい。
通常、一般的な金属材料の表面被覆剤には、塗布型の他にも、反応型(自己析出型、電解析出型等)等がある。このような塗布型以外のものは、被覆剤を、例えば前述した基材である金属材料(亜鉛系めっき鋼板)の表面に接触させた後、通常、水洗処理し、その後、乾燥させる。これは、被覆剤を金属材料の表面に接触させることで形成された皮膜に、所望の性能を奏するために不必要な成分(又はその性能を低下させる成分)が含まれるので、これを水洗して除去することが好ましいからである。上述した形態の被覆剤のような「塗布型の被覆剤」は、このような水洗処理を施してもよいが、必ずしも必要ではなく、水洗処理をしなくても乾燥させることで所望の性能を奏する皮膜を形成することができるものである(但し、乾燥前に水洗いしてもよい)。これに対して、「塗布型以外の被覆剤」は、このような水洗処理を施すことが好ましく、水洗処理をすれば所望の性能を奏する皮膜を形成することができるが、水洗処理をしないと、所望の性能を奏しない、又は性能が低下した皮膜しか形成することができないものである。
したがって、本形態の被覆剤は、皮膜の性状を悪化させる可能性がある成分(硝酸根、硫酸根等)は、極力含有しないことが好ましい。
【実施例】
【0104】
以下の実施例及び比較例により、本発明の作用効果を具体的に例示する。実施例は本発明の例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。実施例中、%は特に指定しない限り、質量%をあらわす。
【0105】
[試験板の作製]
(1)供試板
板厚0.8mmの電気亜鉛めっき鋼板(片面あたりの亜鉛付着量10g/m、20g/m)を使用した。
【0106】
(2)脱脂
供試板の汚れを除去するために、アルカリ脱脂を施した。具体的には、アルカリ脱脂剤パルクリーンN364S(日本パーカライジング株式会社製)を脱イオン水で濃度20g/Lに調整し、温度60℃で10秒間スプレー処理した。続いて、水道水で洗浄した後に水切りロールで絞り、50℃で30秒間、熱風乾燥した。
【0107】
(3)酸性無機被覆剤の調製及び被覆方法
初めに、ジルコニウム化合物(A)を任意の量添加した水溶液を用意した。次に、ここへマグネシウム化合物(C)を任意の量添加し混合する。そして次にこの水溶液に水分散性シリカ(B)、バナジウム化合物(D)、必要に応じてフッ素化合物(E)を含む化合物等を任意の量添加し混合する。溶解ないし分散させることによって得ることができ、最終的に固形分濃度が3%になるように表1に示す酸性無機被覆剤を調製した。酸性無機被覆層の乾燥皮膜重量は、上記酸性無機被覆剤を希釈することにより固形分濃度を調整したりバーコーターの種類を変更したりすることで、表1に示す皮膜重量となるようにした。電気亜鉛めっき鋼板の片面にバーコーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で所定の到達板温になるように加熱乾燥した。
【0108】
(4)アルカリ性有機無機複合被覆剤の調製及び被覆方法
アニオン性ウレタン樹脂(U)、アルカリケイ酸塩(V)、チタンアルコキシド(W)、ポリカルボジイミド樹脂(X)、シランカップリング剤(Y)、水分散性ワックス(Z)を用いて表2に示すアルカリ性有機無機複合被覆剤を作製した。脱イオン水にアニオン性ウレタン樹脂(U)を任意の量添加した。更にアルカリケイ酸塩(V)を任意の量添加し混合する。次いで、チタンアルコキシド(W)を任意の量添加し混合する。ポリカルボジイミド樹脂(X)を任意の量添加し混合する。シランカップリング剤(Y)を任意の量添加し混合する。水分散性ワックス(Z)を任意の量添加し混合し最終的に固形分濃度が16%になるように調整した。アルカリ性有機無機複合被覆層の乾燥皮膜重量は、上記アルカリ性有機無機複合被覆剤を希釈することにより固形分濃度を調整したりバーコーターの種類を変更したりすることで、表2に示す皮膜重量となるようにした。酸性無機被覆層を形成した供試板の片面にバーコーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉で所定の到達板温になるように加熱乾燥した。
【0109】
(5)酸性無機被覆剤の原料
ジルコニウム化合物(A)
(A1)ジルコニウムフッ化水素酸(森田化学工業製、商品名 ジルコンフッ化水素酸40%)
(A2)炭酸ジルコニウム(日本軽金属製、商品名 塩基性炭酸ジルコニウム)
(A3)水酸化ジルコニウム(日本軽金属製、商品名 水酸化ジルコニウム)
水分散性シリカ(B)
(B1)コロイダルシリカ、平均粒子径20μm(日産化学工業製、製品名 スノーテックスO)
(B2)コロイダルシリカ、平均粒子径5μm(日産化学工業製、製品名 スノーテックスNSX)
(B3)コロイダルシリカ、平均粒子径50μm(日産化学工業製、製品名 スノーテックスL)
マグネシウム化合物(C)
(C1)酸化マグネシウム(協和化学工業製、商品名 キョーワマグ30)
(C2)炭酸マグネシウム(協和化学工業製、商品名 工業用炭酸マグネシウム)
(C3)水酸化マグネシウム(協和化学工業製、商品名 キョーワスイマグF)
バナジウム化合物(D)
(D1)バナジルアセチルアセトナート(新興化学工業製、商品名 バナジールアセチルアセトネート50D)
(D2)硫酸バナジル(新興化学工業製、商品名 硫酸バナジール)
(D3)シュウ酸バナジル(三津和化学薬品製、商品名 シュウ酸酸化バナジウム(IV))
ジルコニウムフッ化水素酸を除くフッ素化合物(E)
(E1)フッ化水素酸(森田化学工業製、商品名 55%フッ化水素酸)
(E2)フッ化アンモニウム(森田化学工業製、商品名 ジルコンフッ化アンモニウム)
(E3)チタンフッ化水素酸(森田化学工業製、商品名 チタンフッ化水素酸)
【0110】
(6)アルカリ性有機無機複合被覆剤の原料
アニオン性ウレタン樹脂(U)
(U1)ポリエーテル系水分散性ウレタン樹脂:ガラス転移温度90℃、酸価5(カルボキシル基:ジメチロールプロピオン酸由来)、重量平均分子量100,000(第一工業製薬製、商品名 スーパーフレックス130)
(U2)ポリエステル系水分散性ウレタン樹脂:ガラス転移温度95℃、酸価15(カルボキシル基:ジメチロールプロピオン酸由来)、重量平均分子量100,000(アデカ製、商品名 アデカボンタイターHUX−320)
(U3)ポリエステル系水分散性ウレタン樹脂:ガラス転移温度130℃、酸価20(カルボキシル基:ジメチロールプロピオン酸由来)、重量平均分子量150,000(DIC製、商品名 ハイドランWLS−210)
アルカリケイ酸塩(V)
(V1)4号ケイ酸ナトリウム(日本化学工業製、商品名 珪酸ソーダ4号)
(V2)3号ケイ酸ナトリウム(日本化学工業製、商品名 J珪酸ソーダ3号)
(V3)アルカリケイ酸塩でない比較成分として、水分散性シリカ(日産化学工業製、商品名 スノーテックスN)
チタンアルコキシド(W)
(W1)ジイソプロポキシドチタンジアセチルアセトナート(マツモトファインケミカル製、商品名 TC−100)
(W2)ジイソプロポキシドチタンビストリエタノールアミネート(マツモトファインケミカル製、商品名 TC−400)
(W3)ジイソプロポキシドチタンジラクテート(マツモトファインケミカル製、商品名 TC−315)
カルボジイミド樹脂(X)
(X1)カルボジイミド当量430(日清紡製、商品名 カルボジライトSV−02)
(X2)カルボジイミド当量380(日清紡製、商品名 カルボジライトV−02−L2)
(X3)カルボジイミド樹脂でない比較成分として、ブロックイソシアナート(第一工業製薬製、商品名 エラストロンBN−04)
シランカップリング剤(Y)
(Y1)γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製、商品名 KBM−403)
(Y2)テトラエトキシシラン(信越化学工業製、商品名 KBE−04)
ワックス(Z)
(Z1)ポリオレフィンワックス、粒子径0.2μm(三井化学製、商品名 ケミパールW950)
(Z2)ポリオレフィンワックス、粒子径0.3μm(三井化学製、商品名 ケミパールW900)
(Z3)ポリオレフィンワックス、粒子径0.3μm(三井化学製、商品名 ケミパールW401)
【0111】
(7)得られた試供材における、アルカリ有機無機複合被覆層(A)の物性、樹脂皮膜物性の測定方法
(a)ガラス転移温度(Tg)
動的粘弾性測定装置(RSAG2 株式会社TAインスツルメント製)を使用して測定した。TanδmaxをTgとした。
【0112】
[評価試験]
供試板の表面に1層の成分(A)〜(E)または成分(U)〜(Z)から成る被覆層、酸性無機被覆層とアルカリ有機無機複合被覆層の2層構造から形成した試験板について、下記のように性能評価を行った。表3及び表4に、それぞれ実施例及び比較例の評価結果を示す。
【0113】
(7)−1 平面部耐食性
JIS−Z2371:2000に規定された塩水噴霧試験を240時間実施し、白錆発生面積率を目視評価した。
<評価基準>
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○△:白錆発生面積率10%以上、30%未満
△:白錆発生面積率30%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0114】
(7)−2 アルカリ脱脂後耐食性
アルカリ脱脂剤パルクリーンN364S(日本パーカライジング株式会社製)を脱イオン水で濃度20g/Lに調整し、温度60℃で2分間スプレー処理(スプレー圧0.5kg/cm)した。続いて、水道水で洗浄した後に水切りロールで水分を絞った。その後、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を240時間実施し、白錆発生面積率を目視評価した。
<評価基準>
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○△:白錆発生面積率10%以上、30%未満
△:白錆発生面積率30%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0115】
(7)−3 加工部耐食性
エリクセン試験機にて6mm押出し加工を行い、その後、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を240時間実施し、白錆発生面積率を目視評価した。
<評価基準>
◎:白錆発生面積率5%未満
○:白錆発生面積率5%以上、10%未満
○△:白錆発生面積率10%以上、30%未満
△:白錆発生面積率30%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0116】
(7)−4 傷部耐食性
NTカッター(エヌティー株式会社製 A300型)にてクロスカットを施した後、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を120時間実施し、片側最大錆幅を目視評価した。
<評価基準>
◎:錆幅5mm未満
○:錆幅5mm以上、7mm未満
○△:錆幅7mm以上、8.5mm未満
△:錆幅8.5mm以上、10mm未満
×:錆幅10mm以上
【0117】
(7)−5 端面耐食性
JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を72時間実施し、端面からの錆幅を目視評価した。
<評価基準>
◎:錆幅10mm未満
○:錆幅10mm以上、12mm未満
○△:錆幅12mm以上、13.5mm未満
△:錆幅13.5mm以上、15mm未満
×:錆幅15mm以上
【0118】
(7)−6 耐赤錆性
JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を72時間実施し、端面から発生した赤錆発生面積を目視評価した。
<評価基準>
◎:赤錆発生面積率0%
○:赤錆発生面積率1%以上、5%未満
○△:赤錆発生面積率5%以上、10%未満
△:赤錆発生面積率10%以上、20%未満
×:赤錆発生面積率20%以上
【0119】
(8)耐溶剤性
ガーゼにメチルエチルケトン(MEK)、エタノール、へキサンを染み込ませ、各試験板のアルカリ性有機無機複合被覆層の表面に往復20回のラビング試験を施し、表面を観察した。
<評価基準>
◎:外観変化なし
○:若干変化有り
△:やや変化有り
×:変化有り
【0120】
(9)成型加工性(耐型かじり性)
30mm×150mmに切断した試験片(板厚0.8mm)を200トンクランクプレス機を用いてコの字型に成形(ダイス及びポンチの肩R=5mm、クリアランス:板厚の−20%)し、成形品の外観(金型による摺動を受けた部位)を目視にて評価した。
<評価基準>
◎:全く変化無し、
○:一部が極僅かに変色(かじりが見える)、
△:一部が変色(かじりが目立つ)、
×:全面が変色(かじりが極めて目立つ)
【0121】
(10)導電性
表面抵抗を、表面抵抗測定器(SQメーター/山崎精機研究所社製)を用いて評価した。押し付け荷重を300g、接触面積を直径0.9mm、操作速度を10mm/minとした。
<評価基準>
○:表面抵抗が100Ω未満
△:表面抵抗が100Ω以上300Ω未満
×:表面抵抗が300Ω以上
【0122】
(11)塗装密着性
旧JIS K5400を参考にして、メラミンアルキッド系塗料(神東塗料株式会社製グリミン#500)を用いてスプレー塗装した。続いて、120℃で20分間焼付けを行い、乾燥後に25μmの塗膜を形成した。その後、1mm碁盤目を100個施し、テープ剥離を行った。
<評価基準>
○:剥離なし
△:碁盤目残個数が80個以上100個未満
×:碁盤目残個数が80個未満
【0123】
(12)耐指紋性
所定部位の色調(ハンター表色系におけるL1、a1、b1)を測定{ZE2000(日本電色)}した後、そこにワセリンを塗布し、キムワイプ(テックジャム社製)で拭き取りし、同一部位の色調(L2、a2、b2)を再測定し、その時の色差(ΔE=√{(L2−L1)+(a2−a1)+(b2−b1)}を評価した。
<評価基準>
○:ΔEが1.5以下
△:ΔEが1.5超、2以下
×:ΔEが2超
【0124】
(13)被覆剤の安定性
酸性無機被覆剤とアルカリ性有機無機複合被覆剤とをそれぞれ、40℃の恒温槽に1ヶ月静置した後、目視にて外観を評価した。
<評価基準>
○:外観変化なし
△:やや白濁或いは微量の沈殿
×:多量の沈殿或いはゲル化
【0125】
表3からわかるように実施例の2コートの表面処理亜鉛系めっき鋼板は、1コートの表面処理亜鉛系めっき鋼板より一層優れた性能を発揮し、いずれの評価項目においても亜鉛目付量20g/mの鋼材と同等以上であった。すなわち、実施例に係る表面処理鋼板は、従来の亜鉛目付量の亜鉛系めっき鋼板と比べ同等以上の皮膜性能を有するため、優れた品質を保ちながら亜鉛使用量を抑えることができる。これに対し、比較例ではいずれかの項目が劣っていることが分かる。具体的には次のとおりである。表4に示されるように、比較例1〜5、比較例7及び比較例8は成分(A)〜(E)のいずれかの成分を除いており、いずれかの性能が劣っていた。比較例9〜12、比較例14〜16は、成分(U)〜(Z)のいずれかの成分を除いており、いずれかの性能が劣っていた。比較例17〜22は、酸性無機被覆層及びアルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜量が発明の範囲外である場合であり、諸性能を満足できるものではなかった。比較例23及び24は、鋼材の亜鉛目付量が従来の20g/m及び10g/mの鋼材を用いて、且つ成分(E)を除き、成分(V)の種類が異なる従来技術であり、亜鉛目付量が10g/mの鋼材では実施例の表面処理鋼板が持つ性能に到底及ばない。比較例25及び26は、下層に従来の化成処理を施した場合であり、リン酸塩では導電性が不十分であり、Zr化成においても実施例の表面処理鋼板が持つ性能に到底及ばない。なお、比較例17及び18において、酸性無機被覆層の皮膜重量が0.01g/mを下回るにもかかわらず成型加工性の評価が良くなっているのは、以下の理由による。成型加工性は上層(本実施例ではアルカリ性有機無機複合被覆層)の皮膜量に依存し、その皮膜量が多い場合に成型加工性が良くなるのであるが、比較例17及び18では、アルカリ性有機無機複合被覆層の皮膜量が多いためである。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
【表4】
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【国際調査報告】