(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20151201BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
B23K9/04 H
B23K9/04 N
B23K9/04 Z
B23K9/04 K
B23K35/30 340L
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】13
【出願番号】特願2014-512506(P2014-512506)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年4月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-101016(P2012-101016)
(32)【優先日】2012年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】山岡 弘人
(72)【発明者】
【氏名】平野 隆
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】真崎 邦崇
(72)【発明者】
【氏名】村上 優
(57)【要約】
低合金鋼を母材11とする原子炉容器1であって、母材11の内面側には、Ni基合金系溶接材料であるインコネル690合金溶材で多層肉盛溶接して成る複数の肉盛層22〜24が積層され、複数の肉盛層22〜24のうちの母材11の内面側に直に積層される初層である肉盛層22は、希釈率を大きくした肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%を超えないように形成されている。高い耐食性が得られ、多層肉盛溶接後における溶接後熱処理において、母材に含まれる炭素が溶接材料側に拡散して溶接境界部に硬化層が形成されるのを抑制することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料を母材とする圧力容器の前記母材内面側をNi基合金系溶接材料で多層肉盛溶接するに際して、
前記Ni基合金系溶接材料による肉盛溶接に先立つ少なくとも初層の肉盛溶接の段階で、Crの含有量を該少なくとも初層に続く肉盛層のCrの含有量よりも少なくするべく肉盛溶接を行う
ことを特徴とする圧力容器の肉盛溶接方法。
【請求項2】
前記Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材を用い、該インコネル690合金溶材による肉盛溶接に先立つ少なくとも初層の肉盛溶接の段階で、希釈率を大きくしてCrの濃度が16mass%を超えないように肉盛溶接を行う請求項1に記載の圧力容器の肉盛溶接方法。
【請求項3】
前記Ni基合金系溶接材料による肉盛溶接に先立って、該Ni基合金系溶接材料よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料により少なくとも初層の肉盛溶接を行う請求項1に記載の圧力容器の肉盛溶接方法。
【請求項4】
前記Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材を用い、該インコネル690合金溶材よりもCrの含有量が少ないインコネル600合金溶材を低クロムNi基合金系溶接材料として用いる請求項3に記載の圧力容器の肉盛溶接方法。
【請求項5】
鉄鋼材料を母材とする圧力容器であって、
前記母材の内面側には、Ni基合金系溶接材料で多層肉盛溶接して成る複数の肉盛層が積層され、
これらの複数の肉盛層のうちの少なくとも前記母材の内面側に直に積層される初層が、該少なくとも初層に続く肉盛層よりもCrの含有量を少なくして形成されている
ことを特徴とする圧力容器。
【請求項6】
前記Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材が用いられ、少なくとも前記母材の内面側に直に積層される初層が、希釈率を大きくした肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%を超えないように形成されている請求項5に記載の圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器の内面を多層肉盛溶接する際に用いられる圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温高圧のガスや液体を取り扱う圧力容器には、高い耐食性が求められることから、特許文献1に記載されているように、原子炉容器の場合には、低合金鋼から成る母材上に、耐食性に優れたNi基合金、例えば、Crを15〜20重量%含むインコネル600合金(「インコネル(INCONEL)」はスペシャルメタルズ社の登録商標、「インコネル600合金」は材料名)を溶接材料として多層肉盛溶接することが知られている。
【0003】
この原子炉容器に対する肉盛溶接において、応力腐食割れ対策として、高温高圧水に接触する最終肉盛層の溶接時には、インコネル600合金の共金系溶材である溶接ワイヤや溶接棒を用いるようにしているが、近年、さらなる応力腐食割れ対策として、より合金元素を高めたインコネル690合金(「インコネル(INCONEL)」はスペシャルメタルズ社の登録商標、「インコネル690合金」は材料名)を溶接材料として、全層を多層肉盛溶接する手法が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平04-026937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
した多層肉盛溶接による肉盛溶接部は、溶接時に生じた熱歪等に起因する応力等を除去するための溶接後熱処理(応力除去焼鈍)を必要とする。この応力除去焼鈍は、600℃前後の温度で行うが、この温度条件のもとでは、母材としての低合金鋼中に含まれる炭素が、炭化物形成元素であるCrを含む溶接材料側に拡散して溶接境界部(ボンド部)近傍で濃化する。
【0006】
Crを多量に含むインコネル690合金を溶接材料として用いた場合には、低合金鋼中に含まれる炭素の溶接境界部近傍での濃化傾向がより顕著なものとなり、溶接境界部には非常に硬い硬化層が形成される。つまり、溶接境界部には、このような硬化層による延性の低下がみられ、後の側曲げ試験において割れが生じてしまう虞があり、これが原子炉容器を製造するうえでの解決すべき問題となっている。
【0007】
本発明は、した従来の課題に着目してなされたもので、圧力容器に求められる高い耐食性が得られるのは勿論のこと、多層肉盛溶接後の応力除去焼鈍処理において、母材に含まれる炭素が溶接境界部近傍で濃化して溶接境界部に硬化層が形成されるのを抑制することが可能である圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したように、Crを多量に含むインコネル690合金で低合金鋼から成る母材を多層肉盛溶接する場合、この溶接時に生じた熱歪等に起因する応力等を除去するための溶接後熱処理(応力除去焼鈍)を行うと、図8に示すように、母材としての低合金鋼(SA302C)中に含まれる炭素が、炭化物形成元素であるCrを含む溶接材料側に拡散して溶接境界部(ボンド部)近傍で濃化し、溶接境界部には非常に硬い硬化層が形成される。
【0009】
本発明者らは、母材の内面側に直に積層される初層の肉盛層に、インコネル690合金よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料を用いることで、溶接境界部に硬化層が形成されるのを抑え得ることを見出し、本発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、低合金鋼等の鉄鋼材料を母材とする圧力容器の前記母材内面側をNi基合金系溶接材料で多層肉盛溶接するに際して、前記Ni基合金系溶接材料による肉盛溶接に先立つ少なくとも初層の肉盛溶接の段階で、Crの含有量を該少なくとも初層に続く肉盛層のCrの含有量よりも少なくするべく肉盛溶接を行う構成とする。
【0011】
好ましくは、前記Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材を用い、該インコネル690合金溶材による肉盛溶接に先立つ少なくとも初層の肉盛溶接の段階で、希釈率を大きくしてCrの濃度が16mass%を超えないように肉盛溶接を行う構成とする。
【0012】
好ましくは、前記Ni基合金系溶接材料による肉盛溶接に先立って、該Ni基合金系溶接材料よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料により少なくとも初層の肉盛溶接を行う構成とする。
【0013】
好ましくは、前記Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材を用い、該インコネル690合金溶材よりもCrの含有量が少ないインコネル600合金溶材を低クロムNi基合金系溶接材料として用いる構成とする。
【0014】
また、本発明は、鉄鋼材料を母材とする圧力容器であって、前記母材の内面側には、Ni基合金系溶接材料で多層肉盛溶接して成る複数の肉盛層が積層され、これらの複数の肉盛層のうちの少なくとも前記母材の内面側に直に積層される初層が、該少なくとも初層に続く肉盛層よりもCrの含有量を少なくして形成されている構成とする。
【0015】
好ましくは、前記Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材が用いられ、少なくとも前記母材の内面側に直に積層される初層が、希釈率を大きくした肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%を超えないように形成されている構成とする。
【0016】
本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器では、プラズマ溶接、TIG溶接、サブマージ溶接により肉盛層が形成されるが、これらの種類の溶接に限定されない。
【0017】
本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器では、圧力容器を構成する母材内面側をNi基合金系溶接材料、例えば、インコネル690合金溶材で多層肉盛溶接するようにしているので、高い耐食性が得られることとなる。
【0018】
この際、インコネル690合金溶材による肉盛溶接に先立つ複数の肉盛層のうちの少なくとも母材の内面側に直に積層される初層の肉盛溶接の段階で、希釈率を大きくしてCrの濃度が16mass%を超えないように肉盛溶接を行ったり、初層としての肉盛層をNi基合金系溶接材料よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料、例えば、インコネル600合金溶材により形成したりするようにしているので、多層肉盛溶接後における溶接後熱処理において、母材に含まれる炭素の溶接材料側への拡散が抑えられて溶接境界部に硬化層が形成されることが回避されることとなり、後の側曲げ試験において割れが生じる懸念を払拭し得ることとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法では、した構成としているので、圧力容器に要求される高い耐食性が得られるのは言うまでもなく、多層肉盛溶接後の溶接後熱処理における母材に含まれる炭素の溶接材料側への拡散を抑えて溶接境界部に硬化層が形成されるのを防ぐことが可能であり、その結果、圧力容器の安全性を高めることができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る圧力容器の一実施例を示す原子炉容器の概略構成説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係る圧力容器の肉盛溶接部を模してハーフラップにより形成した供試体の模式図である。
【図3】図2のハーフラップにより形成した供試体に対して応力除去焼鈍後に側曲げ試験を行った際の浸透探傷検査の結果を示す溶接境界部を拡大して表した肉盛溶接部の断面写真である。
【図4】図3の浸透探傷検査の測定結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係る圧力容器の他の実施例を示す原子炉容器の概略構成説明図である。
【図6】本発明の他の実施例に係る圧力容器の肉盛溶接方法により形成された肉盛溶接部に対して応力除去焼鈍後に側曲げ試験を行った際の浸透探傷検査の結果を示す溶接境界部を拡大断面写真で表した肉盛溶接部の模式図である。
【図7A】従来の肉盛溶接方法により形成された肉盛溶接部に対して応力除去焼鈍後に側曲げ試験を行った際の浸透探傷検査の結果を示す溶接境界部の拡大断面写真である。
【図7B】同じく従来の肉盛溶接方法により形成された肉盛溶接部に対して応力除去焼鈍後に側曲げ試験を行った際の浸透探傷検査の結果を示す溶接境界部の拡大断面写真である。
【図8】従来の肉盛溶接方法により形成された溶接境界部の応力除去焼鈍後における顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例に係る圧力容器の肉盛溶接方法を用いて製造された圧力容器としての原子炉容器を示している。
【0022】
図1に示すように、この原子炉容器1は、原子炉本体を閉じ込める容器であり、鉄鋼材料である低合金鋼(例えば、SA302C)を母材11とする容器本体2及び蓋体3を備えている。高温・高圧水に接する母材11の容器内面側には、腐食防止のための複数の肉盛層22〜24が積層されている。
【0023】
複数の肉盛層22〜24は、母材11上にNi基合金系溶接材料を多層肉盛溶接して成っており、この実施例において、Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材が用いられ、複数の肉盛層のうちの母材11の内面側に直に積層される初層である肉盛層22は、希釈率を大きくした肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%を超えないように形成され、一方、初層である肉盛層22に続く肉盛層23,24は、希釈率を下げた肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%以上になるように形成されている。
【0024】
した原子炉容器1の母材11の容器内面側に複数の肉盛層22〜24を積層するに際しては、Ni基合金系溶接材料としてのインコネル690合金溶材による肉盛溶接に先立つ初層の肉盛層22の肉盛溶接の段階で、まず、希釈率を大きくしてCrの濃度が16mass%を超えないように肉盛溶接を行って、初層である肉盛層22を形成する。
【0025】
次いで、希釈率を下げてCrの濃度が16mass%以上になるようにインコネル690合金溶材による肉盛溶接を行って、初層である肉盛層22上に2層目以降の肉盛層23,24を形成した後、溶接時に生じた熱歪等に起因する応力等を除去するための溶接後熱処理(応力除去焼鈍)を24〜48時間実施する。なお、この肉盛溶接には、プラズマ溶接、TIG溶接、サブマージ溶接を用いることができるが、これらの種類の溶接に限定されない。
【0026】
この実施例において、Ni基合金系溶接材料としてのインコネル690合金溶材には、基本組成がNi-29Cr-10Feのインコネル690合金の共金系溶材であるインコネル690合金溶材(Ni-0.04C-9Fe-30Cr-0.5Mo-1Ti-1Al)を用いた。
【0027】
この実施例に係る圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器では、原子炉容器1を構成する母材11の内面側をインコネル690合金溶材で多層肉盛溶接するようにしているので、高い耐食性が得られることとなる。
【0028】
加えて、母材11の内面側に直に積層される初層としての肉盛層22の肉盛溶接の段階において、希釈率を大きくしてCrの濃度が16mass%を超えないようにして肉盛溶接を行っているので、多層肉盛溶接後の溶接後熱処理において、母材11に含まれる炭素が初層の肉盛層22側へ拡散することが抑えられて母材11と初層の肉盛層22との溶接境界部に硬化層が形成されることが回避されることとなり、後の側曲げ試験において割れが生じる懸念を払拭し得ることとなる。
【0029】
つまり、原子炉容器1を製造するうえでの問題が解消され、原子炉容器1の安全性を高め得ることとなる
【0030】
そこで、した実施例に係る原子炉容器1の肉盛溶接部を模して、供試体を製作した。
この供試体は、図2に示すように、した実施例の母材11上に、複数の肉盛層をハーフラップにより形成して成り、した実施例の初層に相当する図示左側の肉盛層22は、インコネル690合金溶材による希釈率を大きくした肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%を超えないように形成され、した実施例の初層に続く層に相当する図示中央から右側の肉盛層23,24は、インコネル690合金溶材による希釈率を下げた肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%以上になるように形成されている。
【0031】
供試体を製作する際の溶接条件を表1に示す。
【表1】
【0032】
供試体に対して応力除去焼鈍を48時間実施した後に側曲げ試験を行い、浸透探傷検査により溶接境界部の溶接状態を調べたところ、図3及び図4に示す結果を得た。
【0033】
図3における拡大断面写真及び図4のグラフに示すように、インコネル690合金溶材による希釈率を大きくした肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%を超えないように形成した図3左側の肉盛層22の溶接境界部には、浸透探傷検査による指示(割れなどの欠陥)が見当たらない。
【0034】
これに対して、インコネル690合金溶材による希釈率を下げた肉盛溶接によってCrの濃度が16mass%以上になるように形成した図3中央から右側の肉盛層23,24の母材11との各溶接境界部には、いずれも浸透探傷検査による指示が現れた。
【0035】
したがって、この実施例に係る圧力容器の肉盛溶接方法では、多層肉盛溶接後の溶接後熱処理(応力除去焼鈍)において、母材に含まれる炭素の溶接材料側への拡散が抑えられて溶接境界部には硬化層が形成されずに、割れが生じ難くなっていることが実証できた。
【0036】
図5は、本発明の他の実施例に係る圧力容器の肉盛溶接方法を用いて製造された圧力容器としての原子炉容器を示している。
【0037】
図5に示すように、この原子炉容器1も、原子炉本体を閉じ込める容器であり、鉄鋼材料である低合金鋼(例えば、SA302C)を母材11とする容器本体2及び蓋体3を備えている。高温・高圧水に接する母材11の容器内面側には、腐食防止のための複数の肉盛層12〜15が積層されている。
【0038】
複数の肉盛層12〜15は、母材11上にNi基合金系溶接材料を多層肉盛溶接して成っており、複数の肉盛層のうちの母材11の内面側に直に積層される初層である肉盛層12は、2層目以降の肉盛層13〜15を形成するNi基合金系溶接材料よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料により形成されている。
【0039】
した原子炉容器1の母材11の容器内面側に複数の肉盛層12〜15を積層するに際しては、Ni基合金系溶接材料による肉盛溶接に先立って、このNi基合金系溶接材料よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料で母材11の内面側を直に肉盛溶接して、初層である肉盛層12を形成する。
【0040】
次いで、初層である肉盛層12上にNi基合金系溶接材料による肉盛溶接を行って、2層目以降の肉盛層13〜15を形成した後、溶接時に生じた熱歪等に起因する応力等を除去するための溶接後熱処理(応力除去焼鈍)を24〜48時間実施する。なお、この肉盛溶接には、プラズマ溶接、TIG溶接、サブマージ溶接を用いることができるが、これらの種類の溶接に限定されない。
【0041】
この実施例において、初層である肉盛層12を形成する低クロムNi基合金系溶接材料には、基本組成がNi-15.5Cr-8Feのインコネル600合金の共金系溶材であるインコネル600合金溶材(Ni-0.08C-3Mn-3Fe-20Cr-2.5(Nb+Ta))を用いた。
【0042】
一方、2層目以降の肉盛層13〜15を形成するNi基合金系溶接材料には、基本組成がNi-29Cr-10Feのインコネル690合金の共金系溶材であるインコネル690合金溶材(Ni-0.04C-9Fe-30Cr-0.5Mo-1Ti-1Al)を用いた。
【0043】
この実施例に係る圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器においても、原子炉容器1を構成する母材11の内面側をインコネル690合金溶材で多層肉盛溶接するようにしているので、高い耐食性が得られることとなる。
【0044】
加えて、複数の肉盛層12〜15のうちの母材11の内面側に直に積層される初層としての肉盛層12をインコネル690合金溶材よりもCrの含有量が少ないインコネル600合金溶材により形成するようにしているので、多層肉盛溶接後の溶接後熱処理において、母材11に含まれる炭素が初層の肉盛層12側へ拡散することが抑えられて母材11と初層の肉盛層12との溶接境界部に硬化層が形成されることが回避されることとなり、後の側曲げ試験において割れが生じる懸念を払拭し得ることとなる。
【0045】
つまり、原子炉容器1を製造するうえでの問題が解消され、原子炉容器1の安全性を高め得ることとなる
【0046】
そこで、本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法により形成された肉盛溶接部、すなわち、初層の肉盛層がインコネル600合金溶材で形成され且つ2層目以降の肉盛層がインコネル690合金溶材で形成された肉盛溶接部に対して応力除去焼鈍を48時間実施した後に側曲げ試験を行い、浸透探傷検査により溶接境界部の溶接状態を調べたところ、図6に示す結果を得た。
【0047】
また、従来の肉盛溶接方法により形成された肉盛溶接部、すなわち、全層がインコネル690合金溶材で形成された2パターンの肉盛溶接部に対して応力除去焼鈍を48時間ずつ実施した後に側曲げ試験を行い、浸透探傷検査により溶接境界部の溶接状態をそれぞれ調べたところ、図7A,図7Bに示す結果を得た。
【0048】
図6における拡大断面写真に示すように、本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法により形成された肉盛溶接部の溶接境界部には、浸透探傷検査による指示(割れなどの欠陥)が見当たらない。
【0049】
これに対して、図6の拡大部分に相当する図7A,図7Bの各拡大断面写真に示すように、従来の肉盛溶接方法により形成された2パターンの肉盛溶接部の各溶接境界部には、いずれも浸透探傷検査による指示が現れた。
【0050】
したがって、本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法では、多層肉盛溶接後の溶接後熱処理(応力除去焼鈍)において、母材に含まれる炭素の溶接材料側への拡散が抑えられて溶接境界部には硬化層が形成されずに、割れが生じ難くなっていることが実証できた。
【0051】
した実施例では、Ni基合金系溶接材料としてインコネル690合金溶材を用い、このインコネル690合金溶材よりもCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料としてインコネル600合金溶材を用いる構成としているが、これに限定されるものではない。
【0052】
また、した実施例では、母材11上に多層肉盛溶接して成る複数の肉盛層のうちの母材11の内面側に直に積層される初層である肉盛層12のみをCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料で形成するようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、2層目の肉盛層13もCrの含有量が少ない低クロムNi基合金系溶接材料で形成するようにしてもよい。
【0053】
さらに、した実施例では、本発明に係る圧力容器が原子炉容器である場合を示したが、これに限定されるものではない。
【0054】
本発明に係る圧力容器の肉盛溶接方法及び圧力容器の構成は、した実施例の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 原子炉容器(圧力容器)
2 容器本体
3 蓋体
11 母材
12,22 初層である肉盛層
13〜15,23,24 2層以降の肉盛層
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【国際調査報告】