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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20151201BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20151201BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20151201BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20151201BHJP
   C10M 171/02 20060101ALI20151201BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20151201BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20151201BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 9/36 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 9/40 20060101ALN20151201BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20151201BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20151201BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20151201BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20151201BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C19/16
   F16C33/32
   F16C33/62
   C10M171/02
   C22C38/00 301N
   C22C38/38
   C22C38/04
   C21D1/06 A
   C21D9/36
   C21D9/40 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:02
   C10N50:10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
【出願番号】特願2014-512585(P2014-512585)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年4月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-100027(P2012-100027)
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-233165(P2012-233165)
(32)【優先日】2012年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-80642(P2013-80642)
(32)【優先日】2013年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100192474
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】杉田 芳史
(72)【発明者】
【氏名】勝野 美昭
【テーマコード(参考)】
3J701
4H104
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA01
3J701BA10
3J701BA51
3J701BA70
3J701BA79
3J701DA02
3J701EA02
3J701EA10
3J701EA63
3J701EA70
3J701FA33
3J701GA31
3J701XB03
3J701XB50
3J701XE03
3J701XE11
3J701XE12
3J701XE30
3J701XE31
3J701XE33
4H104EA02A
4H104EA02Z
4H104LA20
4H104PA01
4H104QA18
4K042AA22
4K042BA03
4K042BA04
4K042CA06
4K042DA01
4K042DA02
(57)【要約】
内輪1と外輪2の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)を0体積%超にする。玉(転動体)3を、Si含有率が0.3〜2.2質量%、Mn含有率が0.3〜2.0質量%以下、Si/Mn≦5以下(質量比)の合金鋼からなる素材を加工した後に、浸炭窒化又は窒化を含む熱処理を施すことで得る。玉3の転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0〜20.0%で存在する。玉3の表層部のN含有率は、0.2〜2.0質量%以下であり、残留オーステナイト量(γRC)は0体積%を超え50体積%以下であり、下記の(1) 式を満たす。
γRAB−15≦γRC≦γRAB+15‥‥(1)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、および転動体を有し、
40℃での動粘度が1〜5×10−5/sの潤滑油、または基油の40℃での動粘度が1〜5×10−5/sであるグリースで潤滑され、
内輪または外輪の軌道面と転動体の転動面との転がり接触のPV値が100MPa・m/s以上であり、Dmn値が80万以上の回転条件で使用される転がり軸受であって、
前記内輪および外輪の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)は0体積%超であり、
前記転動体は、Si含有率が0.3質量%以上2.2質量%以下で、Mn含有率が0.3質量%以上2.0質量%以下であるとともに、SiとMnとの含有率の比(Si/Mn)が質量比で5以下である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後に、浸炭窒化又は窒化を含む熱処理が施されて得られ、
転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上20.0%以下の範囲で存在し、
転動面の表層部のN含有率は、0.2質量%以上2.0質量%以下であり、
転動面の表層部の残留オーステナイト量(γRC)は0体積%を超え50体積%以下であり、下記の(1)式を満たすことを特徴とする転がり軸受。
γRAB−15≦γRC≦γRAB+15‥‥(1)
【請求項2】
前記内輪または外輪の軌道面と転動体の転動面との転がり接触の滑り速度Vが0.080m/s以上である請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記内輪および外輪の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)および前記転動体の転動面の表層部の残留オーステナイト量(γRC)は0体積%を超え30体積%以下である請求項1または2記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、40℃での動粘度が1〜5×10−5/s(10〜50cSt)の潤滑油、または基油の40℃での動粘度が1〜5×10−5/s(10〜50cSt)であるグリースで潤滑され、内輪または外輪の軌道面と転動体の転動面との転がり接触のPV値が100MPa・m/s以上であり、Dmn値が80万以上の回転条件で使用される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械で使用される転がり軸受は、Dmn値(軸受内径と外径との平均寸法Dm≒転動体のピッチ円の直径Dp(mm)と、回転速度n(min−1)との積)が80万を超える高速回転域で使用される。最近では、Dmn値が100万を超える場合もある。さらに、主軸の剛性を高めるために高い予圧が付与される。これに伴って、工作機械主軸用の転がり軸受は、PV値(P:面圧(Pa)、V:滑り速度(m/s))が100MPa・m/s以上となることが多い。
【0003】
また、使用中の転がり軸受の発熱を抑えるとともにトルクを低減するために、粘度の低い潤滑剤が使用される。油潤滑の場合は潤滑油の40℃での動粘度を、グリース潤滑の場合は基油の40℃での動粘度を1〜5×10−5/s(10〜50cSt)とする。1×10−5/s未満であると油膜が形成し難く、高速回転で滑りを伴う転がり接触面で金属接触が生じて、焼き付きに至る可能性が高い。5×10−5/sを超えると油膜の形成は良好であるが、油の攪拌抵抗や粘性抵抗により、軸受の温度上昇が大きくなる。これに伴って、主軸の熱変位が大きくなり、工作機械の加工精度が不十分となる。
【0004】
このように、工作機械用転がり軸受はPV値が高く油膜が薄い条件で使用されるため、クリーンな環境で使用されるが、転がり接触面で金属接触が起こり易い状態であることに変わりない。
特許文献1には、工作機械の主軸を支持する転がり軸受に関し、高速回転下で使用された場合の潤滑性能が向上し、低トルク化や発熱量の減少を図るために、内輪および外輪の軌道面および転動面に潤滑剤保持用の溝を形成し、この溝に撥油膜を形成することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、Dmn値が1.0×10以上となるような高速回転環境下で使用される転がり軸受は、PV値が高くなって、転動体と軌道面との間に生じる滑り摩擦が大きくなり、転がり疲労寿命に至る前に摩耗や焼付きが生じることが記載されている。また、グリース潤滑であっても焼付きを良好に防止するために、転動体を下記の構成(a) 〜(c) を満たすものとすることが記載されている。
【0006】
(a)転動面の表層部に、5重量%以上のSiを含有した窒化析出物を有し、窒化析出物の表面被覆率が10%以上である。
(b)使用する素材をなす鋼が、C:0.3〜1.2重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.2〜2.0重量%、Cr:0.5〜2.0重量%を含有し、Mo、V、およびNbの1種以上を合計で0.05〜0.2重量%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
(c)転動面の表層部の残留オーステナイト量が5体積%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本国特開2007−192330号公報
【特許文献2】日本国特開2004−353742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2に記載された転がり軸受には、工作機械用転がり軸受の耐焼き付き性能を良好にするという点で改善の余地がある。
また、上述のように、工作機械用転がり軸受は、PV値が高く油膜が薄い条件で使用されるため、転がり接触面で金属接触が起こり易い。そして、転がり接触面で金属接触が生じると、内外輪の軌道面および転動体の転動面に、磨耗や凝着、圧痕の転写等が生じる恐れがあり、厳しい使用条件では、帯状の走行跡が残る場合もある。走行跡内では表面粗さが当初より粗くなっている。
【0009】
すなわち、工作機械用転がり軸受では、内外輪の軌道面および転動体の転動面に表面粗さの劣化が生じる場合がある。このような表面粗さの劣化に伴い、油膜パラメータΛ値(油膜の厚さ/表面粗さ)が小さくなることで、金属接触がさらに生じ易くなる。また、表面粗さの劣化が進行することで、焼き付きが生じ易くなり、寿命が低下し、振動が大きくなる。
【0010】
さらに、上述のように、工作機械主軸用転がり軸受は、Dmn値が80万以上の回転条件で使用されるため、他の産業機械(例えば、鉄道車両、産業車両、建設機械、ポンプ、タービンなど)用の転がり軸受と比較して、PV値が同等である場合、面圧Pが比較的小さく滑り速度Vが非常に高い(例えば0.080m/s以上、0.100m/s以上)条件下で使用される。
【0011】
Dmn値が高く滑り速度Vが高い条件で転がり軸受が使用されると、転がり接触面での激しい剪断抵抗によって潤滑油の温度が局所的に高くなり、潤滑油の粘度が低下する。これに伴って、油膜が薄くなるため、油膜パラメータΛ値がさらに小さくなる。その結果、工作機械主軸用転がり軸受は、PV値が同等である他の産業機械用転がり軸受と比較して、金属接触や焼き付きがさらに生じ易くなる。
【0012】
一方、ATC(自動工具交換装置)を有する工作機械では、アンクランプ時に、主軸を支持する転がり軸受に非常に大きな軸方向の荷重がかかるため、転がり軸受を構成する軌道輪の軌道面および転動体の転動面に高い耐圧痕性が要求される。
また、5軸加工機などの動作が複雑な工作機械では、工具を含む主軸先端部に予期せぬ衝突が生じる問題があり、このような衝突に伴って、主軸を支持する転がり軸受を構成する軌道輪の軌道面および転動体の転動面に圧痕が生じる恐れがある。軌道輪の軌道面および転動体の転動面に圧痕が生じると、転がり軸受に振動が生じたり転がり軸受の音響特性が低下して、工作機械による加工性能が低下する場合がある。
この発明の課題は、従来の転がり軸受よりも耐焼き付き性能に優れた工作機械用転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明の一態様は、内輪、外輪、および転動体を有し、使用条件が下記の構成(1)を満たす転がり軸受であって、内輪および外輪の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)は0体積%超であり、転動体は下記の構成(2)〜(5)を有することを特徴とする。
【0014】
(1)40℃での動粘度が1〜5×10−5/s(10〜50cSt)の潤滑油、または基油の40℃での動粘度が1〜5×10−5/s(10〜50cSt)であるグリースで潤滑され、内輪または外輪の軌道面と転動体の転動面との転がり接触のPV値が100MPa・m/s以上であり、Dmn値が80万以上の回転条件で使用される。
(2)Si含有率が0.3質量%以上2.2質量%以下で、Mn含有率が0.3質量%以上2.0質量%以下であるとともに、SiとMnとの含有率の比(Si/Mn)が質量比で5以下である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後に、浸炭窒化又は窒化を含む熱処理が施されて得られる。Siにより焼入れ性が向上するとともに、マルテンサイトが強化されるが、寿命の延長効果を得るため、及び転がり接触面(高PV条件下、かつ高V条件下)での耐焼付性の確保のためにSi含有量を03質量%以上とする。但し、Si含有量が多すぎると、靭性の低下によりプログラムミス等による衝撃荷重による破損リスクが高まること、及び被削性が低下することから、Si含有量を2.2質量%以下とする。また、Mn含有量は、Si・Mn系窒化物を効率よく析出させるために0.3質量%以上とする。但し、Mn含有量が多すぎると、熱処理後に表層部の残留オーステナイト量が多すぎて硬さ、耐衝撃性、耐圧痕性が低下するため2.0質量%以下とする。更に、Si含有量に対してMn含有量が少ないと、窒素を十分に拡散させてもSn・Mn系窒化物の析出が促進され難くなるため、(Si/Mn)比を5以下とする。
【0015】
(3)転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上20.0%以下の範囲で存在する。Si・Mn系窒化物は耐摩耗性や耐圧痕性を向上させるとともに、転がり疲れ寿命を向上させる作用を有し、その作用を効果的に得るためにSi・Mn系窒化物の面積率を1.0%以上とする。但し、Si・Mn系窒化物が多すぎると、転動部材として必要な靱性や強度が得られなくなるため、面積率を20.0%以下とする。
(4)転動面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)のN含有率は、0.2質量%以上2.0質量%以下である。表層部に存在する窒素は、マルテンサイトの固溶強化や残留オーステナイトの安定確保、窒化物や炭窒化物を形成して耐摩耗性及び耐圧痕性を向上させて転がり面に作用する接線力を小さくする作用を有し、このような作用を効果的に得るために表層部のN含有率は0.2質量%以上とする。但し、N含有率が多すぎると、転動部材として必要な靱性や強度が得られなくなるためN含有率は2.0質量%以下とする。
【0016】
(5)転動面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の残留オーステナイト量(γRC)は0体積%を超え50体積%以下であり、下記の(1)式を満たす。
γRAB−15≦γRC≦γRAB+15‥‥(1)
前記構成(1)に示す条件で使用される転がり軸受は、前述のように、転がり接触面(内外輪の軌道面と転動体の転動面との接触面)で金属接触が起こり易いが、転動体が前記構成(2) 〜(5)を有することにより、転動体の耐摩耗性および耐圧痕性が良好になる。その結果、内外輪の軌道面および転動体の転動面に、前述のような帯状の走行跡が形成され難くなり、表面粗さの劣化が抑制されるため、転がり軸受の耐焼き付き性能が向上する。
工作機械主軸用転がり軸受は、前記構成(1)と下記の構成(6)を満たす条件で使用される。この態様の転がり軸受は、前記構成(1)と下記の構成(6)を満たす条件で使用される場合でも、良好な耐焼き付き性能が得られる。
【0017】
(6)前記内輪または外輪の軌道面と転動体の転動面との転がり接触の滑り速度Vが0.080m/s以上(または0.100m/s以上)である。
この態様の転がり軸受は、下記の構成(7)を有することが好ましく、下記の構成(8) を有することがより好ましい。
(7)前記内輪および外輪の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)および前記転動体の転動面の表層部の残留オーステナイト量(γRC)は0体積%を超え30体積%以下である。
(8)前記内輪および外輪の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)および前記転動体の転動面の表層部の残留オーステナイト量(γRC)は0体積%を超え20体積%以下である。
【0018】
残留オーステナイト量が多いほど、転がり軸受を構成する軌道輪の軌道面および転動体の転動面に圧痕が付き易くなり、耐焼き付き性および耐摩耗性が低下する。
この態様の転がり軸受が前記構成(7)を有する(より好ましくは前記構成(8)を有する)ことで、転がり軸受を構成する軌道輪の軌道面および転動体の転動面の耐圧痕性が良好になるため、ATC(自動工具交換装置)を有する工作機械や5軸加工機などの工作機械主軸を支持する用途であっても好適に使用できる。
【0019】
また、この態様の転がり軸受が前記構成(7)を有する(より好ましくは前記構成(8)を有する)ことで、転がり軸受の耐焼き性および耐摩耗性が良好になるため、前記構成(1)と構成(6)を満たす条件の用途(工作機械主軸用)に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、従来の転がり軸受よりも耐焼き付き性能に優れた工作機械用転がり軸受が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の一実施形態に相当するアンギュラ玉軸受を示す断面図である。
図2】実施形態で使用した耐焼き付き性能評価試験機を示す概略構成図である。
図3】実施形態で行った試験結果から得られた累積破損確率と寿命との関係を示すグラフである。
図4】限界PV値およびトルクを測定するために実施形態で使用した試験機を示す概略構成図である。
図5】実施形態で行った試験結果から得られた累積破損確率と限界PV値との関係を示すグラフである。
図6】実施形態で行った試験結果から得られた回転速度とトルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について説明する。
[耐焼き付き性能を調べる試験]
図1に示す形状を有し、日本精工(株)の名番「50BNR10ST」に相当するアンギュラ玉軸受を、耐焼き付き性能を調べる試験軸受として作製した。この玉軸受は、内輪1、外輪2、玉(転動体)3、および保持器4で構成されている。
【0023】
内輪1および外輪2は、SUJ2からなる素材を用い、通常の加工方法および熱処理方法を行って得た。比較例の玉3は、SUJ2からなる素材を用い、通常の方法による加工および下記の条件Iによる熱処理を行って得た。実施例の玉3は、下記の素材Aを用い、通常の方法による加工と下記の条件IIによる熱処理を行って得た。
【0024】
<素材A>
素材Aをなす合金鋼の組成:C含有率が1.01質量%、Cr含有率が1.10質量%、Si含有率が0.56質量%、Mn含有率が1.10質量%、Si含有率とMn含有率との比(Si/Mn)=0.51、残部がFeおよび不可避不純物。
<熱処理I:焼入れ焼戻し>
Rxガス雰囲気に所定時間保持した後、油冷する焼入れを行い、次いで焼戻しを行った後、空冷する。
<熱処理II:浸炭窒化→焼入れ焼戻し>
Rxガス+プロパンガス+アンモニアガス雰囲気に所定時間保持する浸炭窒化処理を行った後、油冷する焼入れを行い、次いで焼戻しを行った後、空冷する。
内輪1および外輪2の表層部の残留オーステナイト量(γRAB )を測定したところ、5.1体積%であった。
得られた実施例の玉3の表面(転動面)に存在する、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物を測定したところ、Si・Mn系窒化物の存在比は2面積%であった。得られた実施例の玉3の表層部に存在するN含有率を測定したところ、0.5質量%であった。
【0025】
得られた実施例の玉3の表層部の残留オーステナイト量(γRC)を測定したところ、10体積%であった。実施例の玉3は、玉3の表層部の残留オーステナイト量(γRC)と内輪1および外輪2の表層部の残留オーステナイト量(γRAB)との関係が(1)式を満たしていた。
得られた比較例の玉3の表面(転動面)に存在する、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物を測定したところ、Si・Mn系窒化物の存在比は0.5面積%であった。得られた比較例の玉3の表層部に存在するN含有率を測定したところ、0.1質量%であった。
得られた比較例の玉3の表層部の残留オーステナイト量(γRC)を測定したところ、10体積%であった。
【0026】
実施例の玉3を用いて組み立てた実施例のアンギュラ玉軸受と、比較例の玉3を用いて組み立てた比較例のアンギュラ玉軸受を、図2に示す耐焼き付き性能評価試験機の試験軸受Jとして取り付けて、下記の条件で回転させ、軸受に焼き付きが生じるまでの時間(寿命)を調べた。
図2の試験機は、駆動スピンドル装置5と、試験軸受Jにアキシアル荷重を付与するエアシリンダ装置6と、駆動スピンドル装置5のスピンドルに回転力を付与する駆動ベルト7を有する。
【0027】
<試験条件>
潤滑剤:40℃での動粘度が2.3×10−5/s(23cSt)の基油と、バリウムコンプレックス石鹸からなる増ちょう剤を含有するグリース
回転速度:18000min−1(Dmn値:115万、PV値:500MPa・m/s)
アキシアル荷重:1400N
試験結果を図3のグラフに示す。
【0028】
また、実施例のアンギュラ玉軸受のL50寿命は485.0時間であり、比較例のアンギュラ玉軸受のL50寿命は55.3時間であった。すなわち、実施例のアンギュラ玉軸受の耐焼き付き性能は、比較例のアンギュラ玉軸受の8.8倍であり、この実施例のアンギュラ玉軸受は、耐焼き付き性能に優れたものであった。
[トルクを調べる試験]
図1に示す形状を有し、日本精工(株)の名番「50BNR10ST」に相当するアンギュラ玉軸受(内径50mm、外径80mm、幅16mm、玉の直径6.35mm)を、トルク試験用の試験軸受として作製した。この玉軸受は、内輪1、外輪2、玉(転動体)3、および保持器4で構成されている。
【0029】
内輪1および外輪2は、SUJ2からなる素材を用い、通常の加工方法および熱処理方法を行って得た。比較例の玉3は、SUJ2からなる素材を用い、通常の方法による加工および前記条件Iによる熱処理を行って得た。実施例の玉3は、前記素材Aを用い、通常の方法による加工と前記条件IIによる熱処理を行って得た。
実施例の玉3を用いて組み立てた実施例のアンギュラ玉軸受と、比較例の玉3を用いて組み立てた比較例のアンギュラ玉軸受を、図4に示す試験機の試験軸受Jとして取り付けて、下記の条件で回転させ、限界PV値を調べた。
【0030】
図4の試験機は、サポートスピンドル8と、試験スピンドル9と、これらの間に配置されたトルク計10と、サポートスピンドル8に回転力を付与する駆動ベルト7を有する。サポートスピンドル8および試験スピンドル9とトルク計10とは、カップリング81,91で結合されている。試験スピンドル9の回転時の動トルクがトルク計10で検出される。
【0031】
<試験条件>
潤滑剤:40℃での動粘度が2.3×10−5/s(23cSt)の基油と、バリウムコンプレックス石鹸からなる増ちょう剤を含有するグリース
回転速度:8000min−1
予圧方式:DB組合せの定位置予圧
組込み時の予圧荷重:1180N
試験中に、試験スピンドル9の外筒を油冷し、試験軸受Jの外輪温度とトルク(トルク計10で検出されたトルク値)を測定する。20時間毎に試験スピンドル9の回転速度を1000min−1ずつ上げて等速回転し、等速回転中に試験軸受Jにふらつき等の大きな変化が生じるかどうかを調べ、生じた時点での回転速度(V)と面圧(P)との積(PV値)を限界PV値とする。
【0032】
同じ試験軸受Jを実施例および比較例の軸受で7組ずつ用意して、この試験を各7回行った。その結果をワイブル図表へプロットしたグラフを図5に示す。限界PV値の平均値は、実施例の軸受で330Pa・m/s、比較例の軸受で280Pa・m/sであった。また、図5のグラフから、実施例の軸受の90%信頼度を有する限界PV値は280Pa・m/s程度、比較例の軸受の90%信頼度を有する限界PV値は190Pa・m/s程度であり、比較例の軸受の99%信頼度を有する限界PV値は110Pa・m/s程度であることが分かる。
【0033】
すなわち、実施例の軸受によれば、90%信頼度を有する限界PV値を比較例の軸受の40%以上(約47%)大きくすることができる。また、安全率を考慮した場合、PV値が100Pa・m/s以上の場合に、実施例の軸受による効果が発揮できると言える。
また、この試験における等速回転の回転速度と、各7回の試験での平均トルクとの関係を図6にグラフで示す。このグラフに、実施例の軸受の平均トルクの、比較例の軸受の平均トルクに対するトルク減少率を、併せて示す。図6のグラフから分かるように、回転速度が11000min−1(Dmn値が70万)以上であると、実施例の軸受は比較例の軸受よりもトルクが低く、特に、回転速度が12000min−1(Dmn値が77万)以上であると、トルク減少率が13%以上になっている。
【0034】
このように、実施例の軸受によれば、PV値が高い条件で使用された場合のトルク上昇を低減できる。これは、玉の耐摩耗性が向上したことにより、内外輪の軌道面と玉の表面に劣化(帯状の走行跡等)が生じにくくなったためと考えられる。
なお、この実施形態ではアンギュラ玉軸受を例にとって説明しているが、この発明は、単列円筒ころ軸受や複列円筒ころ軸受等、アンギュラ玉軸受以外の転がり軸受にも適用できる。
【0035】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2012年4月25日出願の日本特許出願(特願2012−100027)、2012年10月22日出願の日本特許出願(特願2012−233165)、2013年4月8日出願の日本特許出願(特願2013−80642)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の転がり軸受は、Dmn値が80万以上の条件下で使用される工作機械の主軸支持用として特に有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 内輪
2 外輪
3 玉(転動体)
4 保持器
5 駆動スピンドル装置
6 エアシリンダ装置
7 駆動ベルト
8 サポートスピンドル
81 カップリング
9 試験スピンドル
91 カップリング
10 トルク計
J 試験軸受
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】