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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2013年10月31日
【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】レール
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20151201BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20151201BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 9/04 20060101ALI20151201BHJP
   C21C 7/00 20060101ALN20151201BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   C22C38/06
   C22C38/58
   C21D9/04 Z
   C21C7/00 H
   C21C7/00 N
   C21C7/00 K
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】33
【出願番号】特願2013-540149(P2013-540149)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年4月23日
(11)【特許番号】特許第5459453号(P5459453)
(45)【特許公報発行日】2014年4月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-97584(P2012-97584)
(32)【優先日】2012年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】上田 正治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 照久
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛士
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
【テーマコード(参考)】
4K013
4K042
【Fターム(参考)】
4K013AA09
4K013BA05
4K013BA08
4K013BA09
4K013BA14
4K013CA02
4K013DA03
4K013DA05
4K013DA08
4K013DA12
4K013EA03
4K013EA26
4K013FA02
4K042AA04
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA08
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA04
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DA01
(57)【要約】
このレールは、レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の組織の95%以上がパーライトもしくはベイナイト組織であり、前記レールの横断面の前記組織中に、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物を被検面積1mm当たり20〜200個含有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.70%以上、1.20%以下、
Si:0.05%以上、2.00%以下、
Mn:0.10%以上、2.00%以下、
P:0.0200%以下、
S:0.0100%超、0.0250%以下、
Al:0.0020%以上、0.0100%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなるレールであって、
前記レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の組織の95%以上がパーライトもしくはベイナイト組織であり;
前記レールの横断面の前記組織中に、Al系酸化物を核とする粒径1μm以上10μm以下のMnS系硫化物を、被検面積1mm当たり20個以上200個以下含有する;
ことを特徴とするレール。
【請求項2】
質量%で、前記Sの含有量が、0.0130%以上0.0200%以下であることを特徴とする請求項1に記載のレール。
【請求項3】
Hの含有量が2.0ppm以下であることを特徴とする請求項2に記載のレール。
【請求項4】
質量%で、さらに、
Ca:0.0005%以上0.0200%以下、
REM:0.0005%以上0.0500%以下、
Cr:0.01%以上2.00%以下、
Mo:0.01%以上0.50%以下、
Co:0.01%以上1.00%以下、
B:0.0001%以上0.0050%以下、
Cu:0.01%以上1.00%以下、
Ni:0.01%以上1.00%以下、
V:0.005%以上0.50%以下、
Nb:0.001%以上0.050%以下、
Ti:0.0050%以上0.0500%以下、
Zr:0.0001%以上0.0200%以下、
N:0.0060%以上0.0200%以下、
のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貨物鉄道で使用される高強度レールにおいて、耐遅れ破壊特性を向上させたレールに関する。
本願は、2012年04月23日に、日本に出願された特願2012−097584号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
経済発展に伴い石炭などの天然資源の新たな開発が進められている。具体的にはこれまで未開であった自然環境の厳しい地域での採掘が進められている。これに伴い、資源を輸送する貨物鉄道では軌道環境が著しく厳しくなっている。そのため、レールに対しては、これまで以上の耐摩耗性が求められるようになってきた。このような背景から、現用の高強度レール以上の耐摩耗性を有したレールの開発が求められるようになってきた。
【0003】
レールの耐摩耗性や耐表面損傷性を改善するため、下記に示すようなレールが開発された。これらのレールの主な特徴は、耐摩耗性を向上させるため、鋼の炭素量を増加させることで、パーライトラメラ中のセメンタイト相の体積比率を増加させるとともに、高強度化している(例えば、特許文献1、2参照)。または、耐摩耗性に加えて耐表面損傷性を向上させるため、金属組織をベイナイトとし、高強度化している(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1には、過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト体積比率を増加させた、耐摩耗性に優れたレールが開示されている。
【0005】
特許文献2には、過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト体積比率を増加させ、同時に、硬さを制御した、耐摩耗性に優れたレールが開示されている。
【0006】
特許文献3には、炭素量を0.2〜0.5%とした上で、Mn、Crを添加することにより金属組織をベイナイトとし、強度を向上させることにより耐摩耗性と耐表面損傷性とを向上させたレールが開示されている。
【0007】
特許文献1〜3の開示技術では、パーライト組織中のセメンタイト相の体積比率を増加させ、同時に、高強度化する。または、金属組織をベイナイトとしてさらに高強度化している。そのため、耐摩耗性の向上が図れる。しかし、高強度化すると鋼中の残留水素による遅れ破壊の発生の危険性が高まり、レールの折損が発生しやすくなるという問題点があった。
【0008】
そこで、残留水素による遅れ破壊の発生を抑制する高強度レールの開発が求められるようになってきた。この問題を解決するため、下記に示すような高強度レールが開発された。これらのレールは、鋼中の水素のトラップサイトを増加させることにより、水素の集積場所を分散させている。また、これらのレールは、組織を微細化したり、炭化物の粒界への析出を抑制することにより、遅れ破壊を抑制している(例えば、特許文献4〜6参照)。
【0009】
特許文献4及び5には、パーライト組織中に水素のトラップサイトである、JIS G 0202に定義されているA系介在物(例えばMnS)やC系介在物(例えばSiO、CaO)を分散させ、さらに、鋼中の水素量を制御することにより、耐遅れ破壊特性を向上させたレールが開示されている。
【0010】
特許文献6には、Nbを添加することで、ベイナイト組織の微細化、粒界への炭化物の析出を防止した、耐遅れ破壊特性に優れたレールが開示されている。
【0011】
しかし、特許文献4及び5の開示技術では、成分系によっては残留水素のトラップサイトである介在物が粗大化し、パーライト鋼の耐遅れ破壊特性が十分に向上しない。または、介在物の種類によっては疲労や破壊の起点となり、レール折損が発生しやすくなるという問題がある。また、特許文献6の開示技術では、合金添加による組織の微細化や粒界への炭化物の析出の抑制が十分ではなく、効果が安定しない、合金添加によりコストが増加するといった問題がある。
【0012】
特許文献7には、耐疲労損傷性を改善するため、Mg酸化物、Mg−Al酸化物またはMg硫化物、もしくはこれらを核としてMnSを析出した介在物を用いて靭性及び延性を向上させたパーライト系レールが開示されている。
【0013】
しかし、特許文献7の開示技術では、パーライト系レールにMgを0.0004%以上含有させる必要がある。Mgは蒸気圧が高く、溶鋼に添加しても歩留りが悪い元素である。そのため、特許文献7の開示技術では、Mg酸化物、Mg−Al酸化物またはMg硫化物を十分に得るための制御が困難であり、コストが増加するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】日本国特開平08−144016号公報
【特許文献2】日本国特開平08−246100号公報
【特許文献3】日本国特開平09−296254号公報
【特許文献4】日本国特開2007−277716号公報
【特許文献5】日本国特開2008−50684号公報
【特許文献6】日本国特開平08−158014号公報
【特許文献7】日本国特開2003−105499号公報
【特許文献8】日本国特開平08−246100号公報
【特許文献9】日本国特開平09−111352号公報
【特許文献10】日本国特開平08−092645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものである。本発明は、特に、資源を輸送する貨物鉄道のレールで要求される、耐遅れ破壊特性を向上させたレールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明の一態様に係るレールは、質量%で、C:0.70%以上、1.20%以下、Si:0.05%以上、2.00%以下、Mn:0.10%以上、2.00%以下、P:0.0200%以下、S:0.0100%超、0.0250%以下、Al:0.0020%以上、0.0100%以下、を含有し、残部がFeおよび不純物からなるレールであって、前記レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の組織の95%以上がパーライトもしくはベイナイト組織であり;前記レールの横断面の前記組織中に、Al系酸化物を核とする粒径1μm以上10μm以下のMnS系硫化物を、被検面積1mm当たり20個以上200個以下含有する。
【0017】
(2)上記(1)に記載のレールでは、質量%で、前記Sの含有量が0.0130%以上0.0200%以下であってもよい。
【0018】
(3)上記(1)または(2)に記載のレールは、Hの含有量が2.0ppm以下であってもよい。
【0019】
(4)また、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載レールは、質量%で、さらに、Ca:0.0005%以上0.0200%以下、REM:0.0005%以上0.0500%以下、Cr:0.01%以上2.00%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、Co:0.01%以上1.00%以下、B:0.0001%以上0.0050%以下、Cu:0.01%以上1.00%以下、Ni:0.01%以上1.00%以下、V:0.005%以上0.50%以下、Nb:0.001%以上0.050%以下、Ti:0.0050%以上0.0500%以下、Zr:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0060%以上0.0200%以下、のうちの1種以上を含有してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記態様によれば、レールの成分及び組織を制御し、さらに、鋼中のAl系酸化物を核とするMnS系硫化物の形態や数を制御することにより、資源を輸送する貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】鋼中のAl系酸化物を核とする微細な(粒径1〜10μm)MnS系硫化物の数と遅れ破壊の限界応力値との関係を示した図である。
図2】本実施形態に係るレールの頭部断面表面位置での呼称、および、パーライト組織もしくはベイナイト組織が必要な領域を示した図である。
図3】Al系酸化物を核とする微細(粒径1〜10μm)なMnS系硫化物を測定する位置を示した図である。
図4】表1−1〜表2−2に示す本発明レール(符号A1〜A50)及び比較レール(符号a7〜a22)におけるAl系酸化物を核とする微細な(粒径1〜10μm)MnS系硫化物の数と遅れ破壊の限界応力値との関係を示した図である。
図5】表1−1〜表1−4に示す本発明レール(符号A14〜A16、A17〜A19、A22〜A24、A28〜A30、A32〜A34、A35〜A37、A38〜A40、A41〜A45、A47〜A49)のAl系酸化物を核とする微細な(粒径1〜10μm)MnS系硫化物の数と遅れ破壊の限界応力値とをS含有量制御、S含有量最適化、H含有量制御の関係で示した図である。
図6A】遅れ破壊試験方法を示した模式図である。
図6B図6Aの遅れ破壊試験における荷重負荷位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明の一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
本実施形態として、耐遅れ破壊特性に優れたレール(以下本実施形態に係るレールという場合がある)につき、詳細に説明する。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
【0023】
まず、本発明者らは、レール(鋼レール)の耐遅れ破壊特性を、水素のトラップサイトである介在物を利用することで改善する方法を検討した。レールの諸特性に影響が少なく、最も安価な介在物を検討した結果、鉄の不純物として含有するSと強化元素として一般的に添加するMnとから生成する軟質なMnS系硫化物(MnSを80%以上含む硫化物)は、靭性や疲労特性に影響を与えず、安価であるため、水素のトラップサイトとして有望であることが判明した。
【0024】
次に、MnS系硫化物を水素のトラップサイトとして活用するため、従来のレールにおけるMnS系硫化物の生成状態を調査した。その結果、MnS系硫化物は、比較的大きなMnS系硫化物と粒径5μm以下の比較的小さなMnS系硫化物とに分類されることがわかった。
【0025】
水素のトラップサイトとしてMnS系硫化物を有効に作用させるには、トラップサイトであるMnS系硫化物とMnS系硫化物に接している地鉄との表面積を増加させる、すなわち、MnS系硫化物を微細化させる必要がある。
そこで、まず、大きなMnS系硫化物の生成挙動を調査した。凝固途中の鋼を分析した結果、大半の鋼ではMnS系硫化物は液相から生成し、鋼が凝固(γ鉄)する前に液相中で粗大化していることが明らかとなった。
【0026】
本発明者らは液相で生成するMnS系硫化物を微細化する方法を検討した。その結果、MnS系硫化物を微細化させるためには、液相においてMnS系硫化物の生成を促進する安定的な核が必要なことを知見した。この知見に基づき、高温で安定な酸化物に着目し、核として用いるための微細な酸化物の選定を行った。炭素量1.0%の鋼を溶解し、様々な酸化物形成元素を添加して酸化物及びMnS系硫化物の生成挙動を調査した。その結果、一定量のAlを添加し、Al系酸化物を液相で微細に分散させることにより、MnSと格子定数が近いAl系酸化物をMnS系硫化物の生成核として作用させることができ、結果的にMnS系硫化物を微細化できることを見出した。
【0027】
次に、本発明者らはAl系酸化物を液相で微細に生成させるためのAlの含有量を検討した。その結果、レールの諸特性に悪影響を与える粗大なAl系酸化物の生成を防止し、微細なAl系酸化物を液相で十分に生成させるには、Alの含有量に一定の範囲に制御することが重要であることを見出した。
【0028】
これらの知見に基づき、本発明者らは後述の通り、耐遅れ破壊特性を調査した。すなわち、まず、炭素量1.0%(0.2%Si−1.0%Mn)、水素量2.5ppmをベース成分として、Al含有量0.0010%、S含有量0.0080%とした鋼と、Al含有量0.0040%、S含有量0.0105%とした鋼とを溶解し鋼片とした。次いで、これらの鋼片に対してそれぞれレール圧延及び熱処理を行って、頭表部(頭部外郭表面を起点として深さ20mmまでの範囲)をパーライトもしくはベイナイト組織としたレールを製造した。このようにして得られたレールに対して、頭部に引張応力を負荷する3点曲げ試験を行い、耐遅れ破壊特性を評価した。耐遅れ破壊特性は、頭部に引張応力が作用するように3点曲げ(スパン長:1.5m)方式で行った。応力条件は200〜500MPa、応力負荷時間は500時間とし、500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値を遅れ破壊の限界応力値とした。
【0029】
遅れ破壊試験の結果、一般のレール精錬においてAlを意図的に添加しない場合のAl含有量である0.0010%、及び一般のレール精錬において得られるレールのS含有量である0.0080%を有する鋼では、遅れ破壊の限界応力値が220MPaであった。一方、Al含有量が0.0040%で、かつS含有量が0.0105%である鋼では、遅れ破壊の限界応力値が330MPaであった。すなわち、Al及びSの含有量を増加させると、Al系酸化物を核とする微細なMnS系硫化物の数が増加し、耐遅れ破壊特性が向上することが分かった。
【0030】
さらに、本発明者らは耐遅れ破壊特性をより一層向上させる方法を検討した。炭素量1.0%(0.2%Si−1.0%Mn−0.0040%Al)、水素量2.5ppmをベース成分として、S含有量を0.0105%と0.0150%とに変化させた鋼を溶解し、レール圧延・熱処理を行い、頭表部をパーライトもしくはベイナイト組織としたレールを製造した。これらのレールを用いて、頭部に引張応力を負荷する3点曲げ試験を行い、耐遅れ破壊特性を評価した。
【0031】
その結果、遅れ破壊の限界応力値が、S含有量0.0105%のレールでは330MPa、S含有量0.0150%のレールでは380MPaとなった。すなわち、S含有量を増加させると、水素のトラップサイトであるAl系酸化物を核とする微細なMnS系硫化物の数がさらに増加し、耐遅れ破壊特性が向上することが確認された。
【0032】
これらのMnS系硫化物の制御に加えて、本発明者らは耐遅れ破壊特性をさらに向上する方法を検討した。その結果、溶鋼の二次精錬(脱ガス)の強化や鋼片段階での脱水素処理を適用して、鋼中の水素量(H含有量)を2.0ppm以下に制御することにより、遅れ破壊の限界応力値が450MPaまで向上し、耐遅れ破壊特性がより一層向上することを確認した。
【0033】
図1に、鋼中のAl系酸化物を核とする微細(粒径1〜10μm)なMnS系硫化物の数と遅れ破壊の限界応力値との関係をまとめて示す。Al系酸化物を核とする微細なMnS系硫化物の測定は、レール頭部表面から深さ10〜20mmの位置からサンプルを採取し、横断面を研磨後、光学顕微鏡もしくは走査型顕微鏡を用いて行った。微細(粒径1〜10μm)なMnS系硫化物の数は測定後に1mm当たりの数に換算した。なお、横断面とは、後述する図3に示すようにレールを長手方向に対して垂直方向に切断した時の断面をいう。
【0034】
図1に示すように、S含有量を所定の範囲に制御した上でAl含有量を増加させると、微細なMnS系硫化物の数が増加し、限界応力値が増加する。これに加えて、Sの含有量をさらに増加させると、微細なMnS系硫化物の数がさらに増加し、限界応力値が増加する。また、鋼中の水素量を2.0ppm以下に制御することにより、限界応力値がより一層増加する。
【0035】
すなわち、本実施形態に係るレールは、化学成分、組織を制御し、鋼中のAl系酸化物を核とするMnS系硫化物の形態や数を制御することにより、貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることを目的としたレールに関する。なお、本実施形態に係るレールでは、さらに、S含有量を増加させ、水素量を低減させることにより、耐遅れ破壊特性をより一層向上させることができる。
【0036】
本実施形態に係るレールの鋼組成の限定理由について詳細に説明する。以下、鋼組成における質量%は、単に%と記載する。
【0037】
(1)鋼の化学成分(鋼組成)の限定理由
本実施形態に係るレールにおいて、鋼の化学成分を前述した数値範囲に限定する理由について詳細に説明する。
【0038】
C:0.70%以上、1.20%以下
Cは、鋼中の組織においてパーライト変態を促進させて、かつ、レールの耐摩耗性を確保するために有効な元素である。また、ベイナイト組織の強度を維持するのに必要な元素である。C含有量が0.70%未満になると、軟質で歪を蓄積し易い初析フェライト組織が生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。また、C含有量が0.70%未満であると、本実施形態に係るレールの成分系では、レールに要求される最低限の強度や耐摩耗性が維持できない。一方、C含有量が1.20%を超えると、靭性の低い初析セメンタイト組織が多量に生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。このため、C含有量を0.70%以上、1.20%以下に限定する。なお、パーライト組織やベイナイト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、C含有量の下限を0.80%とすることが望ましく、C含有量の上限を1.10%とすることが望ましい。
【0039】
Si:0.05%以上、2.00%以下
Siは、パーライト組織のフェライト相やベイナイト組織の基地フェライト組織に固溶して、レール頭部の硬度(強度)を上昇させ、耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、過共析鋼において、靭性の低い初析セメンタイト組織の生成を抑制し、遅れ破壊の発生を抑制する元素である。しかし、Si含有量が0.05%未満では、これらの効果が十分に期待できない。一方、Si含有量が2.00%を超えると、熱間圧延時に表面疵が多く生成する。さらに、Si含有量が2.00%を超えると焼入性が著しく増加し、頭表部に靭性の低いマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生しやすくなる。このため、Si含有量を0.05%以上2.00%以下に限定する。なお、パーライト組織やベイナイト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、Si含有量の下限を0.10%とすることが望ましく、Si含有量の上限を1.50%とすることが望ましい。
【0040】
Mn:0.10%以上、2.00%以下
Mnは、焼き入れ性を高め、パーライトの生成を安定化すると同時に、パーライト組織のラメラ間隔を微細化する元素である。さらに、ベイナイトの生成を安定化すると同時に、変態温度を低下させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度を確保し、耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、Mn含有量が0.10%未満では、その効果が小さい。また、Mn含有量が0.10%未満では軟質で歪を蓄積し易い初析フェライト組織の生成を誘発し、耐摩耗性や耐遅れ破壊特性の確保が困難となる。一方、Mn含有量が2.00%を超えると、焼入性が著しく増加し、頭表部に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。このため、Mn含有量を0.10%以上2.00%以下に限定する。なお、パーライト組織やベイナイト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、Mn含有量の下限を0.20%とすることが望ましく、Mn含有量の上限を1.50%とすることが望ましい。
【0041】
P:0.0200%以下
Pは、鋼中に不可避的に含有される元素である。一般に、転炉での精錬を行うことによりP含有量は0.0020〜0.0300%の範囲に制御される。しかしながら、P含有量が0.0200%を超えると、パーライト組織の靭性が低下し、遅れ破壊を助長する。このため、本実施形態ではP含有量を0.0200%以下に限定する。P含有量の低減によりパーライト組織の靭性を向上させ、遅れ破壊を抑制することが可能である。P含有量は低い方が望ましいのでP含有量の下限は規定しない。しかし、0.0030%未満に低減しても遅れ破壊のより一層の改善は認められない。さらに、精錬コストが増大し、経済性が低下する。そのため、P含有量の下限は0.0030%とすることが望ましい。パーライト組織の靭性低下を抑制し、遅れ破壊を十分に抑制するには、経済性も考慮して、P含有量の下限を0.0050%とすることが望ましく、P含有量の上限を0.0150%とすることがより望ましい。
【0042】
S:0.0100%超、0.0250%以下
Sは、鋼中に不可避的に含有される元素である。一般に、転炉での精錬を行うと、S含有量は0.0030〜0.0300%まで低減する。しかしながら、S含有量とMnS系硫化物の生成量とには相関があり、S含有量が増加するとAl系酸化物を核とする微細なMnS系硫化物が増加するため、本実施形態に係るレールにおいて、S含有量は、0.0100%超とする。S含有量が0.0100%以下では微細なMnS系硫化物の生成量の増加が期待できない。一方、S含有量が0.0250%を超えると、MnS系硫化物の粗大化や生成密度の増加により、応力集中や組織の脆化が発生し、レール折損が発生しやすくなる。このため、S含有量を0.0100%超0.0250%以下に限定した。なお、微細なMnS系硫化物の生成をさらに促進し、MnS系硫化物の粗大化を防止するには、S含有量の下限を0.0130%とすることが望ましく、S含有量の上限を0.0200%以下とすることが望ましい。
【0043】
Al:0.0020%以上、0.0100%以下
Alは、液相でのMnS系硫化物の生成核として作用し、MnS系硫化物を微細分散させるのに不可欠な元素である。Al含有量が0.0020%未満では、Al系酸化物の生成量が少なく、液相でのMnS系硫化物の生成核としての作用が充分ではない。そのため、本実施形態で規定したMnS系硫化物を微細分散させることが困難となる。その結果、耐遅れ破壊特性の確保も困難となる。一方、Al含有量が0.0100%を超えると、Alが過剰となって、MnS系硫化物の数が過剰となる、その結果、組織が脆化し、耐遅れ破壊特性の確保が困難となる。さらに、Al含有量が過剰であるとAl系酸化物がクラスター状に生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Al含有量を0.0020%以上0.0100%以下に限定する。なお、MnS系硫化物の生成核として機能し、Al系酸化物のクラスター化を防止するには、Al含有量を0.0030%以上0.0080%以下とすることが望ましい。なお、一般のレール精錬では0.0020%未満のAlが原料や耐火物から混入する。したがって、Al含有量が0.0020%以上の範囲は精錬工程での意図的なAl添加を意味する。
【0044】
H:2.0ppm(0.0002%)以下
Hは、遅れ破壊の原因となる元素である。レール圧延前の鋼片(ブルーム)のH含有量が2.0ppmを超えると、MnS系硫化物の界面に集積するH含有量が増加し、遅れ破壊が発生しやすくなる。このため、本実施形態に係るレールにおいて、H含有量を2.0ppm以下にすることが好ましい。なお、H含有量の下限値については限定していないが、精錬工程での二次精錬(脱ガス)能力や鋼片の脱水素処理能力を考慮すると、H含有量1.0ppm程度が実製造での限界になると考えられる。
【0045】
また、上記の成分組成を有するレールは、Al系酸化物およびMnS系硫化物の微細分散による耐遅れ破壊特性の向上、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)の増加による耐摩耗性の向上、靭性の向上、溶接熱影響部の軟化の防止、レール頭部内部の断面硬度分布の制御等を図る目的で、上記の元素に加えて、Ca、REM、Cr、Mo、Co、B、Cu、Ni、V、Nb、Ti、Zr、Nを必要に応じて添加してもよい。添加する場合に望ましい含有量を以下に説明する。
なお、これらの化学元素は、必ずしも鋼板中に添加する必要がないため、これらの化学元素の含有量の下限は、いずれも0%であり制限されない。また、Ca、REM、Cr、Mo、Co、B、Cu、Ni、V、Nb、Ti、Zr、Nが後述の下限未満含有されているときは不純物として扱う。
【0046】
Caは、Al系酸化物のクラスタリングを抑制し、MnS系硫化物を微細分散させる。REMはAl系酸化物のクラスタリングの結合部を分解し、MnS系硫化物を微細分散させる。Cr、Moは、平衡変態点を上昇させ、パーライト組織のラメラ間隔やベイナイト組織を微細化し、硬度を向上させる。Coは、摩耗面の基地フェライト組織を微細化し、摩耗面の硬度を高める。Bは、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させ、レール頭部の硬度分布を均一にする。また、ベイナイト組織の焼入れ性を増加させ、硬度を向上させる。Cuは、パーライト組織やベイナイト組織中のフェライトに固溶し、硬度を高める。Niは、パーライト組織やベイナイト組織の靭性と硬度とを向上させ、同時に、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。V、Nb、Tiは、熱間圧延やその後の冷却過程で生成する炭化物や窒化物により、オーステナイト粒の成長を抑制する。さらに、析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の靭性と硬度を向上させる。また、再加熱時に炭化物や窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。Zrは、凝固組織の等軸晶化率(鋳片の厚み方向における等軸晶の生成幅を鋳片の厚みで除したもの)を高めることにより、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、初析セメンタイト組織やマルテンサイト組織の生成を抑制する。Nは、オーステナイト粒界に偏析することによりパーライト変態やベイナイト変態を促進させ、パーライト組織やベイナイト組織を微細化する。これらの効果を得ることがCa、REM、Cr、Mo、Co、B、Cu、Ni、V、Nb、Ti、Zr、Nを添加する主な目的である。
【0047】
Ca:0.0005%以上、0.0200%以下
Caは、強力な脱酸元素であり、添加によりAl系酸化物をCaOAl系酸化物化、あるいはCaOに改質することにより、Al系酸化物のクラスター化や粗大化を防止し、微細なMnS系硫化物の微細分散生成を促進させる元素である。しかし、Ca含有量が0.0005%未満ではその効果は弱い。そのため、これらの効果を得るためにはCa含有量の下限を0.0005%とすることが望ましい。一方、Ca含有量が0.0200%を超えると、Caの粗大酸化物が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Ca含有量の上限を0.0200%に限定することが望ましい。
【0048】
REM:0.0005%以上、0.0500%以下
REMは、最も強力な脱酸元素であり、クラスター化したAl系酸化物を還元してAl系酸化物を微細化することにより、微細なMnS系硫化物の微細分散生成を促進させる元素である。しかし、REM含有量が0.0005%未満では、その効果が小さく、MnS系硫化物の生成核としては不十分となる。そのため、添加する場合には、REM含有量を0.0005%以上とすることが望ましい。一方、REM含有量が0.0500%を超えると、硬質なREMのオキシサルファイド(REMS)が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、REM含有量の上限を0.0500%に限定することが望ましい。
【0049】
なお、REMとはCe、La、PrまたはNd等の希土類金属である。上記REM含有量はこれらの全REMの含有量の合計を限定している。全含有量の総和が上記範囲内であれば、単独、複合(2種類以上)のいずれの形態であっても同様な効果が得られる。
【0050】
Cr:0.01%以上、2.00%以下
Crは、平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化する元素である。また、ベイナイト変態温度を低下させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を向上させる元素である。しかしながら、Cr含有量が0.01%未満ではその効果は小さく、レールの硬度を向上させる効果が全く見られない。そのため、添加する場合には、Cr含有量を0.01%以上とすることが望ましい。一方、Cr含有量が2.00%を超えると、焼入れ性が著しく増加し、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成して遅れ破壊が発生し易くする。このため、Cr含有量を0.01%以上2.00%以下に限定することが望ましい。
【0051】
Mo:0.01%以上、0.50%以下
Moは、Crと同様に平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化する元素である。また、ベイナイト変態を安定化させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を向上させる元素である。しかしながら、Mo含有量が0.01%未満ではその効果が小さく、レールの硬度を向上させる効果が全く見られない。そのため、添加する場合には、Mo含有量を0.01%以上とすることが望ましい。一方、Mo含有量が0.50%を超える過剰な添加を行うと、変態速度が著しく低下し、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。このため、Mo含有量を0.01%以上0.50%以下に限定することが望ましい。
【0052】
Co:0.01%以上、1.00%以下
Coは、パーライト組織のフェライト相やベイナイト組織の基地フェライト組織に固溶し、レール頭表部の摩耗面において、車輪との接触により形成させる微細なフェライト組織をより一層微細化する。これにより、フェライト組織の硬さを高めて耐摩耗性を向上させる元素である。しかしながら、Co含有量が0.01%未満では、フェライト組織の微細化が促進せず、耐摩耗性の向上効果が期待できない。そのため、添加する場合には、Co含有量を0.01%以上とすることが望ましい。一方、Co含有量が1.00%を超えると、上記の効果が飽和するため、含有量に応じたフェライト組織の微細化が図れないだけでなく、合金添加コストの増大により経済性が低下する。このため、Co含有量を0.01%以上1.00%以下に限定することが望ましい。
【0053】
B:0.0001%以上、0.0050%以下
Bは、オーステナイト粒界に鉄炭ほう化物(Fe23(CB))を形成し、パーライト変態の促進効果により、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させる元素である。また、その結果、頭部表面から内部にわたってより均一な硬度分布をレールに付与し、レールを高寿命化することができる。さらに、Bは、ベイナイト組織の焼入れ性を増加させ、ベイナイト組織の硬度を向上させる元素である。しかしながら、B含有量が0.0001%未満では、その効果が十分でなく、レール頭部の硬度分布には改善が認められない。そのため、添加する場合には、B含有量を0.0001%以上とすることが望ましい。一方、B含有量が0.0050%を超えると、粗大な鉄炭ほう化物が生成し、応力集中によりレール損傷が発生しやすくなる。このため、B含有量を0.0001%以上、0.0050%以下に限定することが望ましい。
【0054】
Cu:0.01%以上、1.00%以下
Cuは、パーライト組織のフェライト相やベイナイト組織の基地フェライト組織に固溶し、固溶強化により硬度(強度)を向上させ、耐摩耗性を向上させる元素である。しかしながら、Cu含有量が0.01%未満ではその効果が期待できない。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。このため、Cu含有量を0.01%以上1.00%以下に限定することが望ましい。
【0055】
Ni:0.01%以上1.00%以下
Niは、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させ、同時に、固溶強化により硬度(強度)を向上させ、耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、溶接熱影響部においては、Tiと複合でNiTiの金属間化合物として微細に析出し、析出強化により軟化を抑制する元素である。また、Cu添加鋼において粒界の脆化を抑制する元素である。しかし、Ni含有量が0.01%未満では、これらの効果が著しく小さい。一方、Ni含有量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生し易くなる。このため、Ni含有量を0.01%以上1.00%以下に限定した。
【0056】
V:0.005%以上0.50%以下
Vは、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、V炭化物やV窒化物として析出する元素である。析出したV炭化物やV窒化物は、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させる。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したV炭化物、V窒化物は、析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる。また、Vは、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、比較的高温度域でV炭化物やV窒化物を生成させるため、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、V含有量が0.005%未満ではこれらの効果が十分に期待できず、靭性や硬度(強度)の向上は認められない。一方、V含有量が0.50%を超えると、Vの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織やベイナイト組織が脆化し、レールの靭性が低下する。このため、V含有量を0.005%以上0.50%以下に限定することが望ましい。
【0057】
Nb:0.001%以上0.050%以下
Nbは、Vと同様に、Nb炭化物やNb窒化物として析出する元素である。通常の熱間圧延や高温に加熱する熱処理が行われる場合に、Nb炭化物やNb窒化物は、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させる。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したNb炭化物、Nb窒化物は、析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したNb炭化物、Nb窒化物は、析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を高める。また、Nbは、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、低温度域から高温度域までの広い温度域においてNbの炭化物やNb窒化物を安定的に生成させる。そのため、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、Nb含有量が0.001%未満では、これらの効果が期待できず、パーライト組織の靭性や硬度(強度)の向上は認められない。一方、Nb含有量が0.050%を超えると、Nbの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織やベイナイト組織が脆化し、レールの靭性が低下する。このため、Nb含有量を0.001%以上0.050%以下に限定することが望ましい。
【0058】
Ti:0.0050%以上0.0500%以下
Tiは、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Ti炭化物やTi窒化物として析出する元素である。Ti炭化物やTi窒化物は、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させる。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したTi炭化物、Ti窒化物は、析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる。また、Tiは、溶接時の再加熱において析出したTiの炭化物、Tiの窒化物が溶解しないことを利用して、オーステナイト域まで加熱される熱影響部の組織の微細化を図り、溶接継ぎ手部の脆化を防止するのに有効な元素である。しかし、Ti含有量が0.0050%未満ではこれらの効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が0.0500%を超えると、粗大なTiの炭化物、Tiの窒化物が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Ti含有量を0.0050%以上0.0500%以下に限定することが望ましい。
【0059】
Zr:0.0001%以上0.0200%以下
Zrは、鋼中のOとZrO系介在物を生成する元素である。ZrO系介在物はγ−Feとの格子整合性が良いため、γ−Feが凝固初晶である高炭素レールの凝固核となり、凝固組織の等軸晶化率を高める。すなわち、Zrは、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、レール偏析部に生成するマルテンサイトや初析セメンタイト組織の生成を抑制する元素である。しかし、Zr含有量が0.0001%未満では、ZrO系介在物の数が少なく、凝固核として十分な作用を示さない。その結果、偏析部にマルテンサイトや初析セメンタイト組織が生成し、レールの靭性を十分に向上させることができない。一方、Zr含有量が0.0200%を超えると、粗大なZrO系介在物が多量に生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Zr含有量を0.0001%以上0.0200%以下に限定することが望ましい。
【0060】
N:0.0060%以上0.0200%以下
Nは、オーステナイト粒界に偏析することにより、オーステナイト粒界からのパーライト変態やベイナイト変態を促進させ、主に組織を微細化することにより、靭性を向上させるのに有効な元素である。また、VやAlと同時に添加することで、VNやAlNの析出を促進させる元素である。VNやAlNは、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、ピンニング効果によってオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性の向上に有効である。しかし、N含有量が0.0060%未満では、これらの効果が弱い。一方、N含有量が0.0200%を超えると、鋼中に固溶させることが困難となり、疲労損傷の起点となる気泡が生成し、レール折損が発生し易くなる。このため、N含有量を0.0060%以上0.0200%以下に限定することが望ましい。
【0061】
本実施形態に係るレールは、さらに、不純物として、特性を損なわない範囲であれば上記以外の元素を含んでも構わない。このような不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程で混入するものが例示される。
【0062】
上記のような成分組成で構成されるレールは、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、次に、熱間圧延を経てレールとして製造される。さらに、必要に応じてレール頭頂部の金属組織を制御する目的から熱処理を行う。
【0063】
(2)金属組織の限定理由
本実施形態に係るレールにおいて、鋼の金属組織を限定する理由について詳細に説明する。
本実施形態に係るレールにおいて、レールの頭表部が主としてパーライト組織もしくはベイナイト組織を含むことが重要である。
【0064】
まず、パーライト組織もしくはベイナイト組織に限定した理由について説明する。
車輪と接触するレール頭表部では耐摩耗性及び耐ころがり疲労損傷性の確保が最も重要である。金属組織とこれらの特性との関係を調査した結果、パーライト組織及びベイナイト組織において、これらの特性が最もよいことが確認された。さらに、耐遅れ破壊特性についても、パーライト組織とベイナイト組織を用いることにより、その低下がないことが実験により確認された。そこで、耐摩耗性、耐ころがり疲労損傷性および耐遅れ破壊特性を確保する目的からレールの頭表部の組織がパーライト組織もしくはベイナイト組織を含むことを限定した。
【0065】
パーライト組織とベイナイト組織の使い分けは特に限定していないが、耐摩耗性が重視される軌道ではパーライト組織、耐ころがり疲労損傷性が重視される軌道ではベイナイト組織とすることが望ましい。また、これらの組織の混合組織を用いてもよい。
【0066】
図2に本実施形態に係るレールの頭部断面表面位置での呼称、および、パーライト組織もしくはベイナイト組織が必要な領域を示す。レール頭部3は、頭頂部1と、前記頭頂部1の両端に位置する頭部コーナー部2を有する。頭部コーナー部2の一方は、車輪と主に接触するゲージコーナー(G.C.)部である。
【0067】
前記頭部コーナー部2および前記頭頂部1の表面を起点として深さ20mmまでの範囲を頭表部(3a、斜線部)と呼ぶ。図2に示すように、頭部コーナー部2及び頭頂部1の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部にパーライト組織またはベイナイト組織が配置されていれば、レールにおいて、耐摩耗性、耐ころがり疲労損傷性の確保および耐遅れ破壊特性の向上が図れる。
【0068】
したがって、パーライト組織やベイナイト組織を、車輪とレールが主に接し、耐遅れ破壊特性が要求される頭表部に配置することが望ましい。これらの特性が必要とされないそれ以外の部分はパーライト組織及びベイナイト組織以外の金属組織であってもよい。
【0069】
これらの金属組織の硬さについては特に限定しない。敷設される軌道条件に応じて硬さを調整することが望ましい。なお、耐摩耗性や耐ころがり疲労損傷性を十分に確保するには、硬さは、ビッカース硬さでHv300〜500程度に制御することが望ましい。硬さHv300〜500のパーライト組織やベイナイト組織を得る方法としては、適切な合金選択を行い、圧延後、または、再加熱後のオーステナイト領域のある高温のレール頭部に加速冷却を行うことが望ましい。加速冷却の方法としては、特許文献8、特許文献9、特許文献10等に記載されているような方法で行うことにより、所定の組織と硬さを得ることができる。
【0070】
本実施形態に係るレールの頭表部の金属組織は、上記限定のような、パーライト組織及び/またはベイナイト組織からなることが望ましい。しかし、レールの成分系や熱処理製造方法によっては、これらの組織中に面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、またはマルテンサイト組織が混入することがある。しかし、これらの組織が混入しても、少量であればレールの耐遅れ破壊特性や頭表部の耐摩耗性および耐ころがり疲労損傷性には大きな悪影響を及ぼさない。そのため、本実施形態に係るレールの頭表部の金属組織としては、5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織の混在も含んでもよい。言い換えれば、本実施形態に係るレールの頭表部の金属組織は、95%以上100%以下がパーライト組織もしくはベイナイト組織、またはその混合組織であれば良い。耐遅れ破壊特性を確保し、耐摩耗性や耐ころがり疲労損傷性を十分に向上させるには、頭表部金属組織の98%以上をパーライト組織もしくはベイナイト組織とすることが望ましい。なお、表1−3〜表1−4及び表2−2におけるミクロ組織の欄で5%以下の組織は、記載を省略したため、パーライト組織やベイナイト組織以外の組織が記載されているものは全て面積率で5%超の量を意味する。
【0071】
(3)Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の単位面積当たりの数の限定理由
【0072】
本実施形態に係るレールにおいて、評価対象とした任意の横断面のAl系酸化物を核とするMnS系硫化物の粒径を1〜10μmの範囲に限定した理由について詳細に説明する。
様々な溶解実験の結果、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の粒径が10μmを超えると、単位体積当たりの表面積の減少により、水素のトラップサイトとしての効果が低下する。また、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の粗大化や生成密度の増加により、応力集中や組織の脆化が発生してレール折損が発生しやすくなる。また、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の粒径が1μm未満では、水素のトラップサイトとしての効果は向上するが、レール製造における制御が困難である。さらに、製造後に熱処理等を行う場合にはMnS系硫化物の再溶解が進み、水素のトラップサイトとしての効果が大幅に低減する。Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の粒径が1〜10μmの範囲であれば、地鉄と介在物との界面での表面積を確保することができるため、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物が十分な水素のトラップサイトとなる。さらに、介在物(Al系酸化物を核とするMnS系硫化物)が微細に分散することによって個々の介在物にトラップされる水素量を低減できる。その結果、耐遅れ破壊特性が向上する。このため、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の粒径を1〜10μmの範囲に限定した。
なお、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の粒径は、断面積を測定し、円相当断面に置き換えてその粒径を算定することによって得られる。
【0073】
次に、本実施形態に係るレールにおいて、任意の横断面において、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の個数を、被検面積1mm当たり20〜200個の範囲に限定した理由について詳細に説明する。
【0074】
Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物が被検面積1mm当たり20個未満になると、地鉄と介在物との界面での表面積を確保することが困難となり、介在物(Al系酸化物を核とするMnS系硫化物)が十分な水素のトラップサイトとして機能しない。また、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物が被検面積1mm当たり200個を超えると、硫化物の量が過剰となり、金属組織が脆化し、レール折損が発生しやすくなる。そのため、本実施形態に係るレールにおいて、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物を被検面積1mm当たり20個以上200個以下に限定した。
【0075】
上述のAl系酸化物を核とするMnS系硫化物とは、その中央部付近にAl系酸化物が存在し、その周囲をMnS系硫化物が覆っている介在物である。Al系酸化物とMnS系硫化物との存在比率は特に限定しないが、介在物の延性を確保し、レールの破壊を抑制するには、Al系酸化物の存在比率は、面積率で30%以下が望ましい。
面積率の下限は限定せずに効果を得ることができるが、本実施形態のレールに存在する介在物において、Al酸化物の面積率の下限を5%とすることが好ましい。
【0076】
核であるAl系酸化物、及び周囲を覆うMnS系硫化物については、Al系酸化物、MnS系硫化物のみの含有を限定するものではない。部分的に他の元素が混入してもよい。Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物により安定的に耐遅れ破壊特性を向上させるには、核であるAl系酸化物では、Alが面積率で60%以上が望ましく、周囲を覆うMnS系硫化物では、MnSが面積率で80%以上存在することが望ましい。
【0077】
Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数は、図3に示すように、レール頭部の横断面からサンプルを切り出し、測定を行った。切り出した各サンプルを鏡面研磨し、任意断面において、Al系酸化物を核とするMnS系硫化物を光学顕微鏡もしくは走査型顕微鏡で調査し、上記限定のサイズの介在物数をカウントし、これを単位断面当たりの数として算定した。実施例で示す各レールの代表値はこれら20視野の平均値とした。
【0078】
Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の判定(介在物の特定)は、事前に代表的な介在物をサンプリングし、電子線マイクロアナライザー(EPMA)分析を行うことによって実施した。この特定された介在物の光学顕微鏡もしくは走査型顕微鏡の写真での特徴(形態や色)を基本情報として、介在物の分別を行った。
MnS系硫化物の測定部位は特に限定しないが、図3に示すように、レール頭表部から深さ10〜20mmの範囲で測定することが望ましい。
【0079】
本実施形態に係るレールでは、Al系酸化物を核としないMnS系硫化物も存在する場合がある。しかしながらこれらのMnS系硫化物は、数が少なく耐遅れ破壊特性に寄与しないのでカウントしない。
【0080】
(4)Al系酸化物の制御方法
MnS系硫化物の核となる微細なAl系酸化物の制御について製造方法の例を説明する。
【0081】
Alは強力な脱酸元素であり、溶鋼に金属アルミ(例えばショットアルミと呼ばれるAl粒など)を添加すると、溶鋼中のフリー酸素と反応しAlを形成する。このAlはクラスタリングし易く、結果的にAl系酸化物を粗大させる。粗大化したAl系酸化物が存在すると、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Al系酸化物の粗大化防止は耐遅れ破壊特性を向上させる上で重要である。
【0082】
Al系酸化物の粗大化を防止する方法については、適宜選択することができる。例えば、溶鋼を事前にAlよりも酸化力の強い元素(REM等)で予備脱酸し、酸素量を出来る限り低下させて、Alの含有量を必要最小限とし、Al系酸化物を微細化することができる。
【0083】
また、この方法とは逆に、例えば、予備脱酸を行わず、溶鋼中のフリー酸素が高い状態で、脱酸に必要なAlを一括投入し、粗大なAlのクラスターの生成や浮上を促進させ、残留した微細なAl系酸化物を利用することもできる。
また、これらの脱酸制御に加えて、スラグからの再酸化による粗大なAl系酸化物の生成を抑制する目的から、スラグ排出を強化することもできる。
【0084】
粗大化したAl系酸化物を除去する方法は、適宜選択することができる。例えば、Al系酸化物を浮上させるため、精錬後のレードルでのAr吹き込み、鋳造前のターンディシュでの微細気泡吹き込み等を適用することができる。また、鋳造時でのAl系酸化物の凝集の抑制や粗大なAl系酸化物の浮上を促進する目的から、ターンディシュでの電磁撹拌を適用することができる。
【0085】
これらの溶鋼での制御に加えて、MnS系硫化物が生成する前の固相中において、圧延により強圧下を加えてもよい。圧延での強圧下により粗大化したAl系酸化物を微細に粉砕することが可能となる。Al系酸化物が微細に粉砕されることでMnS系硫化物の生成も分散され、耐遅れ破壊特性がより向上する。なお、強圧下とは、熱間圧延における1パス当たりの減面率が30%以上の圧下をいう。
【0086】
(5)S含有量の制御方法
微細なMnS系硫化物の数を制御するためのS含有量の制御について、製造方法の例を説明する。
溶銑段階ではSは不純物として多量に含まれている。S含有量の制御は転炉で行われるのが一般的である。転炉ではCaOを添加し、CaSとしてSをスラグへ排出する。一般的な転炉での精錬を行うとS含有量は0.0030〜0.0300%まで低減する。この転炉での脱硫処理の時間やCaOの含有量を制御することにより、S含有量を0.0100%超0.0250%以下に制御し、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数を増加させ、耐遅れ破壊特性を向上させることができる。
【0087】
(6)H含有量の制御方法
耐遅れ破壊特性をさらに改善するH含有量の制御について製造方法の例を説明する。
溶銑段階ではHは不純物として含まれている。H含有量の制御は転炉の後の二次精錬(脱ガス)で行われるのが一般的である。二次精錬ではレードルを真空状態にし、鋼中のHを排出する。この二次精錬での処理時間を制御することにより、H含有量を2.0ppm以下に制御することができ、耐遅れ破壊特性をより向上させることができる。
【0088】
水素は上記の精錬後に大気から侵入し、鋳造後の鋼片の水素量を増加させる場合もある。このような場合は、鋼片を除冷または鋼片を再加熱することにより鋼片内部の水素を外部へ拡散させる方法を適用することができる。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の実施例について説明する。
表1−1〜表1−4に本発明レールの化学成分と諸特性とを示す。表1−1〜表1−2には、化学成分値を示し、表1−3〜表1−4には、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さ、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数を示す。さらに、表1−3〜表1−4には、図6Aに示す方法で行った遅れ破壊試験の結果(限界応力値)も併記した。表1−3〜表1−4の頭表部のミクロ組織は、面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織やマルテンサイト組織が混入しているものも含んでいる。
【0090】
表2−1及び表2−2に比較レールの化学成分と諸特性とを示す。表2−1には、化学成分値を示し、表2−2には頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さ、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数を示す。さらに、表2−2には図6Aに示す方法で行った遅れ破壊試験の結果(限界応力値)も併記した。表2−2の頭表部のミクロ組織において、面積率で5%超の初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織が混入している比較例については、頭表部ミクロ組織の欄に初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織も記載した。
表1−1、表1−2、表2−1中の「−」は、その含有量が、測定限界値以下であったことを示す。
【0091】
なお、表1−1〜表1−4、表2−1、表2−2に示した本発明レールおよび比較レールの製造条件は下記に示すとおりである。
溶鋼⇒成分調整(転炉および二次精錬:脱ガス)⇒鋳造(ブルーム)⇒再加熱(1250℃)⇒熱間圧延(仕上げ温度950℃)⇒熱処理(開始温度800℃、加速冷却)⇒放冷
一部の鋼No.については、表1−3、表1−4、表2−2の特記事項に示すような処理を行っている。
【0092】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0093】
【表2-1】
【表2-2】
【0094】
<水素量分析の方法>
表1−1〜表1−2、表2−1に示した本発明レールおよび比較レールの水素量分析の方法は下記のとおりである。
(1)分析工程:鋼片鋳造時のモールド内より溶鋼をサンプリング
(2)サンプル保持方法:サンプリング後、急速冷却して、液体窒素に浸漬
(3)分析方法:熱伝導度法
サンプルサイズ:直径6mm、厚さ1mmの円筒
加熱温度:1900℃(黒鉛るつぼ上でサンプルをインダクションヒーティング)
雰囲気:不活性ガス(Ar)
キャリアガス:N
分析装置:熱伝導度検出器
【0095】
<硬度の測定方法>
表1−3〜表1−4、表2−2に示した本発明レールおよび比較レールの頭表部のミクロ組織は、レール頭表部表面から3mm深さの位置の組織を観察して判断した。また、硬さはレール頭表部表面から3mm深さの位置においてビッカース硬度計で測定した。測定方法は下記に示すとおりである。
(1)事前処理:レール切断の後、横断面を研摩。
(2)測定方法:JIS Z 2244に準じて測定。
(3)測定機:ビッカース硬度計(荷重98N)。
(4)測定箇所:レール頭表部表面から3mm深さの位置。
(5)測定数:5点以上測定し、平均値をレールの代表値とした。
【0096】
<Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の測定方法>
表1−3〜表1−4、表2−2に示した本発明レールおよび比較レールのAl系酸化物を核とするMnS系硫化物の測定は、図3に示すようにレール頭表部表面から10〜20mm深さの位置で行った。測定方法は下記に示すとおりである。
(1)事前処理:レール切断した後、横断面を研磨。
(2)測定方法:Al系酸化物を核とするMnS系硫化物を光学顕微鏡もしくは走査型顕微鏡で調査し、上記限定のサイズの介在物数をカウントし、これを単位断面当たりの数として算定し、20視野の平均値を代表値とした。
(3)事前測定:代表的な介在物をサンプリングし、電子線マイクロアナライザー(EPMA)分析を行い、介在物を特定した。この特定された介在物の光学顕微鏡の写真での特徴(形態や色調)を基本情報として、光学顕微鏡もしくは走査型顕微鏡観察での介在物の分別を実施した。
【0097】
<遅れ破壊試験の条件>
表1−3〜表1−4、表2−2に示した本発明レールおよび比較レールの遅れ破壊試験の条件は下記に示すとおりである。
(1)レール形状:136ポンドレール(67kg/m)
(2)遅れ破壊試験
試験方法:3点曲げ(スパン長:1.5m、図6A参照)
試験姿勢:レール底部に荷重負荷(頭部に引張応力作用、図6B参照)。
応力条件:200〜500MPa(レール頭部表面)
応力負荷時間:500時間
(3)限界応力値:所定の応力で500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値
【0098】
表1−1〜表1−4、表2−1〜表2−2に示した本発明レールおよび比較レールの詳細は下記に示すとおりである。
(1)本発明レール(50本)
符号(鋼No.)A1〜A50:化学成分値、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さ、頭表部の硬さ、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物系介在物の数が本発明範囲内のレール。
(2)比較レール(22本)
符号a1〜a7(7本):C、Si、Mn、Pの含有量または頭表部のミクロ組織が本願発明範囲外のレール。
符号a8〜a22(15本):AlまたはSの含有量、及びAl系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数が本発明範囲外のレール。
【0099】
表1−1〜表1−4、表2−1〜表2−2に示すように、本発明レール(符号A1〜A50)は、比較レール(符号a1〜a7)と比べて、鋼のC、Si、Mn、Pの含有量を限定範囲内に収めることにより、初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織の生成を抑制し、頭表部をパーライト組織またはベイナイト組織に制御できる。さらに、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数を制御し、組織の脆化を抑制することにより、耐遅れ破壊特性を向上させることができる。
【0100】
また、表1−1〜表1−4、表2−1〜表2−2、さらに、図4に示すように、本発明レール(符号A1〜A50)は、比較レール(符号a8〜a22)と比べて、C、Si、Mn、Pの含有量に加えて、鋼のAl、Sの含有量を限定範囲内に収めることにより、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数を抑制し、耐遅れ破壊特性を向上させることができる。
【0101】
また、表1−1〜表1−4、表2−1〜表2−2、さらに、図5に示すように、本発明レール(符号A14〜A16、A17〜A19、A22〜A24、A28〜A30、A32〜A34、A35〜A37、A38〜A40、A41〜A45、A47〜A49)をS含有量、H含有量の観点から比較すると、S含有量を制御することにより、Al系酸化物を核とする粒径1〜10μmのMnS系硫化物の数を抑制し、さらに、S含有量を最適化、H含有量を制御することにより、同一Al系酸化物を核とするMnS系硫化物の数において、耐遅れ破壊特性をより一層向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、レールの鋼成分、組織を制御し、鋼中のAl系酸化物を核とするMnS系硫化物の形態や数を制御することにより、資源を輸送するような貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0103】
1 頭頂部
2 頭部コーナー部
3 レール頭部
3a 頭表部(頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲、斜線部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B

【手続補正書】
【提出日】2013年9月25日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.70%以上、1.20%以下、
Si:0.05%以上、2.00%以下、
Mn:0.10%以上、2.00%以下、
P:0.0200%以下、
S:0.0100%超、0.0250%以下、
Al:0.0020%以上、0.0100%以下、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなるレールであって、
前記レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の組織の95%以上がパーライトもしくはベイナイト組織であり;
前記レールの横断面の前記組織中に、Al系酸化物を核とする粒径1μm以上10μm以下のMnS系硫化物を、被検面積1mm当たり20個以上200個以下含有する;
ことを特徴とするレール。
【請求項2】
質量%で、前記Sの含有量が、0.0130%以上0.0200%以下であることを特徴とする請求項1に記載のレール。
【請求項3】
Hの含有量が2.0ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のレール。
【請求項4】
質量%で、さらに、
Ca:0.0005%以上0.0200%以下、
REM:0.0005%以上0.0500%以下、
Cr:0.01%以上2.00%以下、
Mo:0.01%以上0.50%以下、
Co:0.01%以上1.00%以下、
B:0.0001%以上0.0050%以下、
Cu:0.01%以上1.00%以下、
Ni:0.01%以上1.00%以下、
V:0.005%以上0.50%以下、
Nb:0.001%以上0.050%以下、
Ti:0.0050%以上0.0500%以下、
Zr:0.0001%以上0.0200%以下、
N:0.0060%以上0.0200%以下、
のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレール。
【国際調査報告】