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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2014年1月16日
【発行日】2016年6月20日
(54)【発明の名称】拡管用プラグ
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/20 20060101AFI20160523BHJP
【FI】
   B21D39/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】15
【出願番号】特願2014-524701(P2014-524701)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-157048(P2012-157048)
(32)【優先日】2012年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 友貴
(72)【発明者】
【氏名】上田 薫
(57)【要約】
内面(21)に潤滑油を供給したアルミニウム管(2)を拡管させるために用いられる拡管用プラグ(1)である。拡管用プラグ(1)は,その表面がアルミニウム管(2)の内面(21)に接触する接触領域Sに,開口部の円相当径が3μm以上の複数の窪みが形成されたディンプル領域(11)を有する。窪みの深さの平均値Dμmと,窪みの開口部の円相当径の平均値Lμmは,2≦D≦100,10≦L≦200,及びL/D≦25という関係を満足する。ディンプル領域(11)における窪みの開口部の面積率が10〜50%である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に潤滑油を供給したアルミニウム管内に挿入しつつ、該アルミニウム管の軸方向に相対的に進行させて上記アルミニウム管を拡管させるために用いられる拡管用プラグであって、
該拡管用プラグの表面が上記アルミニウム管の内面に接触する接触領域に、開口部の円相当径が3μm以上の複数の窪みが形成されたディンプル領域を有し、
上記窪みの深さの平均値Dμmと、上記窪みの開口部の円相当径の平均値Lμmは、2≦D≦100、10≦L≦200、及びL/D≦25という関係を満足し、
上記ディンプル領域における上記窪みの上記開口部の面積率が10〜50%であることを特徴とする拡管用プラグ。
【請求項2】
請求項1に記載の拡管用プラグにおいて、軸方向に伸びるライン状のストレート溝が内面に形成されたアルミニウム管の拡管に用いられることを特徴とする拡管用プラグ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の拡管用プラグにおいて、上記ディンプル領域は、上記接触領域だけでなく、該接触領域における上記拡管用プラグの進行方向の前端からさらに1mm以上前方まで形成されていることを特徴とする拡管用プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む)管を拡管加工する際に用いられる拡管用プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば熱交換器においては、内面にらせん状の溝が形成された銅製の伝熱管が用いられている。近年、銅価格の高騰から、伝熱管を銅製からアルミニウム合金製に変更する検討がなされている。
ところが、アルミニウムは、銅に比較して硬度が低いため、銅製の伝熱管のように、らせん状の溝を形成することが困難である。そこで、アルミニウム合金製の伝熱管においては、らせん状の溝ではなく、管の軸方向に伸びるライン状の溝、即ちストレート溝が形成されている。
【0003】
熱交換器の組立は、一般的に次のようにして行われている。
まず、所定のカラー部が形成された放熱フィン材を積層し、円筒状のカラー部内に伝熱管を通す。次いで、伝熱管の内側にその内径よりも大きな外径を有する拡管用プラグを強制的に挿入して伝熱管の外径を拡張させるという拡管加工を行うことにより、伝熱管と放熱フィンを固定する。
【0004】
拡管の際には、拡管用プラグと伝熱管との摩擦を低減し、焼き付きの発生を抑制又は防止するために、潤滑油が用いられている。拡管後には、不必要な潤滑油の残存をできる限り減らし、残油量を小さくすることが望まれている。また、コストの低減という観点から、拡管時に使用される潤滑油量の低減が求められている。
【0005】
これまでに、面粗度が低いセラミックスからなる拡管用プラグが開発されている(特許文献1参照)。また、拡管プラグを固定する芯金の貫通孔に潤滑材を供給する方法が開発されている(特許文献2参照)。また、本体部とその外周表面にダイヤモンドライクカーボン処理(DLC処理)により形成された表面処理層を有する拡管治具が開発されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−182330号公報
【特許文献2】特開平10−263713号公報
【特許文献3】特開平2008−93713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、芯金に潤滑油を流す方法を採用すると、潤滑油の粘度などの性状が制限されてしまう。また、芯金に潤滑油が付着するため、コスト的に不利である。
また、セラミックスからなる拡管用プラグを用いると摩擦の低減を図ることが可能であるが、さらなる改良が求められている。
また、DLC処理により表面処理層を形成する方法も、コスト的に不利である。
【0008】
拡管加工においては、一般に、潤滑油を予めアルミニウム管の内面に供給し、潤滑油が内面に存在する状態において、拡管用プラグをアルミニウム管内に挿入させる。
ストレート溝が形成されたアルミニウム管に対して、潤滑油を供給して拡管用プラグにより拡管を行うと、導入された潤滑油がストレート溝を伝わって流れ出やすくなる。そのため、アルミニウム管と拡管用プラグとの間に潤滑油を十分に供給させて拡管を行うことが困難になる。また、アルミニウム管の内面に供給された潤滑油は、ストレート溝内に沿って存在する。そのため、ストレート溝の凸部に存在する潤滑油が少なくなり、溝の凸部と拡管用プラグとの摩擦が大きくなりやすい。その結果、焼き付きを引き起こすおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであって、少量の潤滑油により拡管を行うことができると共に、軸方向に伸びるストレート溝が内面に形成されたアルミニウム管に対しても、アルミニウム管と拡管用プラグとの間に十分に潤滑油を供給して拡管を行うことができる拡管用プラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、内面に潤滑油を供給したアルミニウム管内に挿入しつつ、該アルミニウム管の軸方向に相対的に進行させて上記アルミニウム管を拡管させるために用いられる拡管用プラグであって、
該拡管用プラグの表面が上記アルミニウム管の内面に接触する接触領域に、開口部の円相当径が3μm以上の複数の窪みが形成されたディンプル領域を有し、
上記窪みの深さの平均値Dμmと、上記窪みの開口部の円相当径の平均値Lμmは、2≦D≦100、10≦L≦200、及びL/D≦25という関係を満足し、
上記ディンプル領域における上記窪みの上記開口部の面積率が10〜50%であることを特徴とする拡管用プラグにある。
【発明の効果】
【0011】
上記拡管用プラグは、少なくとも上記接触領域に、開口部の円相当径が3μm以上の複数の窪みが形成された上記ディンプル領域を有している。そして、上記のごとく、2≦D≦100、10≦L≦200、及びL/D≦25という関係を満足し、上記ディンプル領域における上記開口部の面積率が10〜50%である。そのため、拡管時にアルミニウム管内に拡管用プラグを進行させると、アルミニウム管の内面に存在する潤滑油が、上記ディンプル領域の窪みに保持される。それ故、少量の供給量でも、上記潤滑油を上記接触領域に保持し易くなる。それ故、拡管時における焼き付きの発生を十分に抑制することができる。また、潤滑油を窪み内に保持することができるため、内面に軸方向に伸びるストレート溝が形成されたアルミニウム管に対して適用しても、潤滑油がストレート溝を伝って排出されてしまうことを抑制できる。また、潤滑油が窪み内に保持されるため、ストレート溝の凸部にも潤滑油を供給することができる。そのため、ストレート溝が形成されたアルミニウム管に対しても、少量の供給量で潤滑油を上記接触領域に十分に供給することができる。それ故、焼き付き等の発生を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における、アルミニウム管内に拡管用プラグを進行させて拡管加工を行う様子を示す説明図。
図2】実施例1における、拡管用プラグの斜視図。
図3】実施例1における、拡管用プラグの進行方向における窪みの拡大断面を示す説明図。
図4】実施例1における、拡管用プラグのディンプル領域における表面に形成された窪みの模式図。
図5】実施例1における、拡管用プラグのディンプル領域における表面のレーザー顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、上記拡管用プラグの好ましい実施形態について説明する。
上記拡管用プラグは、アルミニウム管内に挿入しつつ、該アルミニウム管の軸方向に相対的に進行させて上記アルミニウム管を拡管させるために用いられる。拡管用プラグは、表面に、上記アルミニウム管の径を大きくするための斜面又は曲面を有している。具体的には、拡管用プラグは、アルミニウム管の内面との接触領域において、一般に、進行方向の先端側から後方に向けて外径が大きくなる領域を有する。より具体的には、拡管用プラグは、例えば球形状、楕円球形、弾丸形状、三角錐形状、又は外形の少なくとも一部にテーパ領域を設けた円柱形状等により構成することができる。一般に、拡管用プラグの最大径が拡管後のアルミニウム管の内径となる。したがって、拡管用プラグの最大径は、アルミニウム管の内径に応じて適宜設定することができるが、例えば3〜12mmの範囲に設定することができる。
【0014】
アルミニウム管は、純アルミニウム、又はアルミニウム合金のいずれからなるものであってもよい。
拡管にあたっては、アルミニウム管は、水平、斜め、又は鉛直方向に配置することができる。アルミニウム管を斜め又は鉛直方向に配置して拡管を行う場合には、上方から下方へ向けて上記拡管用プラグを進行させることが好ましい。また、比較的長尺なアルミニウム管については、アルミニウム管を水平又は水平に近い状態に配置して拡管を行うことが好ましい。
【0015】
上記拡管用プラグは、内面にライン状のストレート溝が形成されたアルミニウム管の拡管に用いることもできるし、内面に溝が形成されておらず、内面が平滑なアルミニウム管の拡管に用いることもできる。
好ましくは、上記拡管用プラグは、軸方向に伸びるライン状の溝が内面に形成されたアルミニウム管の拡管に用いられることがよい。
この場合には、上記拡管用プラグの表面に形成された窪み内に潤滑油を保持できるという上述の利点を十分にいかすことができる。
アルミニウム管の内面に形成されるライン状のストレート溝は、1つでもよいが、複数形成されていてもよい。
【0016】
また、上記拡管用プラグは、その表面に開口部の円相当径が3μm以上の複数の窪みが形成されたディンプル領域を有する。ディンプル領域は、拡管プラグの表面におけるアルミニウム管の内面との接触領域に形成されている。
好ましくは、上記ディンプル領域は、上記接触領域だけでなく、該接触領域における上記拡管用プラグの進行方向の前端からさらに1mm以上前方まで形成されていることがよい。
この場合には、拡管加工時に上記接触領域の前方にまで十分に潤滑油を保持させることができる。
また、ディンプル領域は、拡管用プラグの表面全体に形成されていてもよい。この場合には、拡管用プラグの表面に窪みを形成する際に、窪みの非形成領域を設ける必要がなくなるため、設計及び加工が容易になる。
【0017】
上記ディンプル領域における上記窪みは、開口部の円相当径が3μm以上のものである。そして、上記円相当径が3μm以上の全ての窪みについて、これらの窪みの深さの平均値Dμmと、これらの窪みの開口部の円相当径の平均値Lμmは、2≦D≦100、10≦L≦200、及びL/D≦25という関係を満足する。ディンプル領域には、開口部の円相当径が3μm未満という小さな窪みが存在してもよいが、これら小さな窪みは本発明における窪みには該当しない。上記ディンプル領域においては、上記のごとく、円相当径が3μm以上の窪みについて、2≦D≦100、10≦L≦200、及びL/D≦25という関係を満足する。
D<2の場合には、窪み内の潤滑油の保持量が少なくなり、接触領域に十分量の潤滑油を保持させることができなくなるおそれがある。一方、D>100の場合には、窪みの深さが大きくなりすぎて、拡管用プラグ自体の強度が低下するおそれがある。そのため、拡管加工中に窪みを起点とした破断が発生するおそれがある。また、100μmを超える大きな深さの窪みを形成すると、潤滑油が窪みの底に貯まってしまうおそれがある。そのため、本来潤滑油が必要な拡管用プラグの表面に潤滑油を十分に供給するために、潤滑油の供給量を増やす必要性が生じるおそれがある。より好ましくは、5≦D≦25がよい。
窪みの深さは、窪みにおける最深部の深さであり、Dは最深部の深さの平均値である。なお、ディンプル領域における円相当径3μm以上の各窪みの最深部の深さを顕微鏡観察により測定し、その平均値をもって上述の窪みの深さの平均値Dとすることができる。
【0018】
また、L<10の場合には、窪みがアルミ摩耗粉で埋まってしまうおそれがある。一方、L>200の場合には、部分的な凝着の原因となる。また、この場合には、窪み内に潤滑油が入り込んだままとどまり易くなり、本来潤滑油が必要な拡管用プラグの表面に潤滑油を十分に供給することが困難になるおそれがある。より好ましくは30≦L≦80がよい。
開口部の円相当径は、窪みの開口部の面積と同面積の円を想定し、その円の直径である。なお、ディンプル領域における円相当径3μm以上の各窪みの開口部の円相当径を顕微鏡観察により測定し、その平均値をもって上述の円相当径Lとすることができる。
【0019】
また、L/D>25の場合には、窪み内から油が流出し易くなり、拡管加工時に、接触領域に潤滑油を十分保持させることが困難になる。また、拡管加工に必要な潤滑油量が増大してしまうおそれがある。より好ましくは、L/D≦15がよい。
【0020】
また、ディンプル領域における上記円相当径が3μm以上の上記窪みの開口部の面積率は、10〜50%である。
面積率が10%未満の場合には、拡管加工時に、拡管用プラグとアルミニウム管との接触領域に潤滑油が供給されにくい領域が増大する。そのため、拡管荷重が大きくなり、少ない潤滑油量で十分に拡管加工を行うことが困難になる。一方、面積率が50%を超える場合には、拡管用プラグの表面とアルミニウム管の内面との接触面積が少なくなり、かえって面圧が大きくなってしまうおそれがある。その結果、凝着が発生し易くなる。より好ましくは、面積率は10〜40%がよく、さらに好ましくは15〜30%がよい。
なお、ディンプル領域における上記円相当径が3μm以上のすべての窪みの開口部の面積を顕微鏡観察により測定し、ディンプル領域の全面積に対する上記円相当径が3μm以上の窪みの開口部の面積の割合(百分率)を算出することにより、ディンプル領域における開口部の面積率を算出することができる。
【0021】
窪みは、例えばサンドブラスト又はレーザー加工により形成することができる。窪みの形状は特に限定されることはないが、開口部の形状が例えば真円、楕円、又は菱形に近い形状になるように加工を行って、窪みを形成することができる。厳密には、完全な真円、楕円、又は菱形にすることは困難であるため、開口部の形状は不定形となりやすい。
【0022】
また、ディンプル領域においては、複数の窪みをランダムに配置してもよいし、例えばレーザー加工により、所定の間隔で整列させた状態で配置してもよい。例えば格子状又は千鳥状に配置させることができる。
【0023】
上記拡管用プラグの材質としては、例えば超硬合金、工具鋼、セラミックスなどがある。好ましくは、超硬合金又は工具鋼がよい。
また、上記拡管用プラグの表面は、無処理でもよいが、硬質皮膜処理が施されていてもよい。
また、上記拡管用プラグは、例えばアルミニウム管よりなる伝熱管を拡管させて放熱フィンに組み付けるという熱交換器の組立に用いることができる。
【実施例】
【0024】
(実施例1)
次に、拡管用プラグの実施例について、説明する。
図1に示すごとく、本例の拡管用プラグ1は、内面21に潤滑油を供給したアルミニウム管2内に挿入しつつ、アルミニウム管2の軸方向に相対的に進行させてアルミニウム管2を拡管させるために用いられる。なお、図1においては、説明の便宜のため、アルミニウム管2についてはその断面を示し、拡管用プラグ1についてはその側面を示している。
【0025】
図1及び図2に示すごとく、拡管用プラグ1は、超硬合金製の弾丸形状であり、その最大径は6mmである。拡管用プラグ1の進行方向Xの後方には、アルミニウム管2内において拡管用プラグ1を進行させるための軸棒3が連結されている。
【0026】
本例は、アルミニウム管2を鉛直方向に固定し、拡管用プラグ1を鉛直方向の上方から下方へ進行させて拡管を行う例である。アルミニウム管2としては、軸方向に伸びる複数のストレート溝25が内面21に形成された管を用いる。
【0027】
図1図4に示すごとく、拡管用プラグの表面が上記アルミニウム管の内面に接触する接触領域Sには、複数の窪み110が形成されたディンプル領域11を有する。なお、図1において、接触領域Sは、所定の幅で表現されているが、実際にはこの幅の範囲内にある拡管用プラグの表面が接触領域Sとなる。
そして、少なくとも接触領域Sの全域にわたって、ディンプル領域11が存在する。図1において、ディンプル領域11は、ドットハッチングを付けて表した領域である。本例におけるディンプル領域11は、接触領域Sだけでなく、拡管用プラグ1の進行方向Xにおける接触領域11の前端からさらに1mm以上前方にまで形成されている(図1参照)。ディンプル領域11には、その全域にわたって複数の窪み110が配置されている。図4に示すごとく、窪み110はそれぞれ開口部111が不定形で形成されている。本例のディンプル領域11において、窪み110は、ランダムに配置されている(図4図5参照)。
【0028】
本例において、窪み110は、サンドブラストにより形成されており、図4は、所定の大きさの窪み110のみを示したディンプル領域の概略図である。実際にサンドブラストにより形成されたディンプル領域11における窪み110のレーザー顕微鏡写真の一例を図5に示す。同図に示すごとく、サンドブラストにより形成された窪みには大小様々なものが存在するが、本明細書における窪み110は、開口部の円相当径が3μm以上のものをいう。円相当径が3μm未満のものは、窪み110に該当しない。実施例にかかる拡管用プラグ1においては、開口部の円相当径が3μm以上の窪みについて、これらの窪みの深さの平均値Dμmと、これらの窪みの開口部の円相当径の平均値Lμmが2≦D≦100、10≦L≦200、L/D≦25という関係を満足し、これらの窪み110の開口部111の面積率が10〜50%にある。
【0029】
本例の拡管用プラグ1(試料1)において、図3に示すごとく、窪み110の深さの平均値D(最深部の深さの平均値)は、D=2μmであり、窪み110の開口部111の円相当径の平均値Lは、L=50μmである。また、ディンプル領域11における窪み110の開口部111の面積率は20%である。
これらの深さ、円相当径、面積率は、オリンパス(株)製のレーザー顕微鏡(OLS3000)による顕微鏡観察により求めることができる。より具体的には、ディンプル領域の表面における全ての凹凸(窪みと窪みでない部分)を2値化し、円相当径を問わずに全ての窪みの面積から各窪みの円相当径を算出する。次いで、円相当径が3μm以上の窪みを抽出する。抽出した全ての窪みについて、各窪みの深さ(最深部の深さ)、各窪みの円相当径を算出し、これらの平均値D、Lを求め、さらに抽出した窪みの面積率を算出する。なお、窪みの深さの平均値Dは、レーザー顕微鏡により3Dプロファイルを得て、そのプロファイルからディンプル領域11における各窪みの最深部の深さの平均値を算出することにより決定する。
【0030】
本例の拡管用プラグ1(試料1)について、窪みの深さの平均値D(μm)、窪みの開口部の円相当径の平均値L(μm)、L/D、窪みの開口部の面積率(%)の値を後述の表1に示す。
【0031】
また、本例においては、窪みの深さの平均値D(μm)、窪みの開口部の円相当径の平均値L(μm)、L/D、窪みの開口部の面積率(%)の少なくともいずれかが、上述の試料1とは異なる21種類の拡管用プラグ(試料2〜試料22)をさらに準備した。その他の構成は試料1と同様である。これらの試料2〜22は、サンドブラストによる処理時間や研磨材の粒径等を変更することにより作製した。これらの試料2〜22についても、窪みの深さD(μm)、開口部の円相当径L(μm)、L/D、開口部の面積率(%)を後述の表1に示す。
なお、試料14〜16においては、拡管用プラグの表面に硬質皮膜を形成してある。その材質を表1に併記する。表中のDLCは、ダイヤモンド・ライク・カーボン(Diamond Like Carbon)を意味する。
【0032】
【表1】
【0033】
次に、各試料の拡管用プラグを用いて、拡管荷重及び油量の評価試験を行った。
「拡管荷重評価試験」
最大径φ6mmの拡管用プラグ(試料1〜24)を用いて、外径:7.0mm、内面ストレート溝付のJIS A3003のアルミニウム合金管(アルミニウム管)を作製する。アルミニウム管は、溝深さ(フィン高さ):300μm、底肉厚(溝底から外周面までの肉厚):475μmである。
具体的には、図1に示すごとく、軸方向に伸びる複数のストレート溝25が内面21に形成されたアルミニウム管2をその軸方向が鉛直方向になるように固定する。そして、市販のアルミニウム加工用の潤滑油(エヌ・エス ルブリカンツ(株)製の「RF530」、温度40℃における動粘度2.2cSt)を鉛直方向の上方から下方へ向けて供給し、アルミニウム管2の内面21に潤滑油を供給する。次いで、アルミニウム管2内に拡管用プラグ1(試料1〜22)を挿入し、軸棒3に所定の荷重をかけて拡管用プラグ1を鉛直方向の上方から下方へ軸方向に進行させて、アルミニウム管2の拡管加工を行う。
【0034】
拡管荷重の評価にあたっては、長さ100mmのアルミニウム管を5本準備し、1本のアルミニウム管に対して0.5mlの潤滑油を用いる。ピペットを用いてアルミニウム管の端部に潤滑油を塗り、アルミニウム管の外部を拘束せずに、管内に各試料の拡管用プラグを挿入することにより上述のごとく拡管を行う。アルミニウム管2内における拡管用プラグ1の移動速度(拡管速度)は、50mm/minとする。そして、拡管を5本のアルミニウム管について連続して行い、拡管プラグの合計移動距離100〜500mmの範囲、即ち、2本目のはじめから5本目のおわりまでの拡管に必要な平均荷重(拡管荷重)を測定した。そして、表面にディンプル領域が全く形成されていない拡管用プラグを用いて同様の拡管加工を行い、ディンプル領域のない拡管用プラグよりも拡管荷重が10%以上低下した場合を○として評価し、10%未満しか低下しなかった場合を×として評価した。その結果を表2に示す。
【0035】
「油量評価試験」
拡管荷重の評価試験と同様にして、拡管用プラグ(試料1〜22)を用いて5本のアルミニウム管の拡管加工を行う。このとき、所定量の潤滑油をアルミニウム管の内面に沿ってピペットで滴下し、拡管加工を行う。そして、5本のアルミニウム管の拡管加工を行った後に、拡管用プラグの表面を倍率50倍の顕微鏡にて観察し、金属光沢を有する金属アルミニウムの凝着の有無を確認した。拡管加工における潤滑油量を0.1mlずつ増加させることにより、アルミニウムの凝着を起こすことなく拡管加工を行うために必要な潤滑油量を決定した。必要な潤滑油量が0.5ml以下の場合を◎として評価した。また、必要な潤滑油量が0.5mlを超えかつ1ml未満の場合を○として評価した。また、必要な潤滑油量が1ml以上の場合を×として評価した。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表1より知られるごとく、試料1〜16の拡管用プラグ1は、少なくとも接触領域Sに、開口部の円相当径が3μm以上の複数の窪み110が形成されたディンプル領域11を有し、窪み110の深さの平均値Dμmと、窪み110の開口部111の円相当径の平均値Lμmが2≦D≦100、10≦L≦200、及びL/D≦25という関係を満足する(図1図5参照)。さらに、ディンプル領域11における円相当径が3μm以上の開口部111の面積率が10〜50%である。
【0038】
そのため、図1に示すごとく、拡管時にアルミニウム管2内に拡管用プラグ1を進行させると、アルミニウム管2の内面21に存在する潤滑油が、ディンプル領域11の窪み110に保持される。それ故、少量の供給量でも、潤滑油を接触領域Sに保持し易くなる。それ故、拡管時における焼き付きの発生を十分に抑制することができる。また、潤滑油を窪み110内に保持することができるため、内面21に軸方向に伸びるストレート溝25が形成されたアルミニウム管2に対して適用しても、潤滑油がストレート溝25を伝って排出されてしまうことを抑制できる。また、潤滑油が窪み110内に保持されるため、ストレート溝25の凸部にも潤滑油を供給し易くなる。そのため、ストレート溝25が形成されたアルミニウム管2に対しても、少量の供給量で潤滑油を接触領域Sに十分に供給することができる。それ故、焼き付き等の発生を十分に抑制することができる。
表2より知られるごとく、試料1〜16の拡管用プラグは、実際に拡管荷重及び油量の評価試験において優れた結果を示している。
【0039】
一方、試料17は、窪みの深さが小さすぎる。そのため、接触領域に十分に潤滑油を供給することが困難になる。また、アルミニウム摩耗粉が窪みを埋めてしまい易くなる。その結果、拡管荷重も拡管に必要な潤滑油量も増大してしまう。
また、試料18は、開口部の円相当径の平均値が小さすぎる。そのため、アルミニウム摩耗粉が窪みを埋めてしまい易くなる。その結果、拡管に必要な潤滑油量が増大してしまう。
また、試料19は、開口部の円相当径の平均値が大きすぎる。そのため、接触領域において部分的に潤滑油が導入されない箇所ができやすくなる。その結果、拡管荷重も拡管に必要な潤滑油量も増大してしまう。
【0040】
また、試料20は、ディンプル領域における開口部の面積率が小さすぎる。そのため、拡管用プラグとアルミニウム管との接触領域に潤滑油が供給されにくい領域が増大する。その結果、拡管荷重も拡管に必要な潤滑油量も増大してしまう。
また、試料21は、ディンプル領域における開口部の面積率が大きすぎる。そのため、拡管用プラグの表面とアルミニウム管の内面との接触面積が少なくなり、かえって面圧が大きくなってしまう。その結果、拡管に必要な潤滑油量が増大してしまう。
また、試料22は、窪みの深さに対する開口部の円相当径が大きすぎる。そのため、窪み内から油が流出し易くなり、拡管加工時に、接触領域に潤滑油を十分保持させることが困難になる。その結果、拡管荷重も拡管に必要な潤滑油量も増大してしまう。
【0041】
なお、本例においては、サンドブラストにより拡管用プラグの表面に窪みを形成した。そのため、窪みの開口部の形状を真円に近づけようとしても、実際には不定形となる(図5参照)。例えばレーザー加工により窪みを形成すると、所望の形状の開口部を有する窪みを形成することが可能になる。これにより、開口部の形状を例えば真円、菱形、又はこれらに近い形状にすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】