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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2014年9月4日
【発行日】2017年2月2日
(54)【発明の名称】脳腫瘍治療のための多能性幹細胞
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/545 20150101AFI20170113BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170113BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170113BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20170113BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20170113BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20170113BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20170113BHJP
   A61K 31/396 20060101ALI20170113BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170113BHJP
   C12N 5/22 20060101ALI20170113BHJP
【FI】
   A61K35/545
   A61P35/00
   A61P43/00 121
   A61P43/00 105
   A61K45/00
   A61K31/522
   A61K31/675
   A61K31/513
   A61K31/396
   C12N15/00 A
   C12N5/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】21
【出願番号】特願2015-503024(P2015-503024)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2014年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-39732(P2013-39732)
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第13回日本分子脳神経外科学会 プログラム・抄録集(発行所:第13回日本分子脳神経外科学会事務局 発行日:平成24年9月1日) [刊行物等] 第13回日本分子脳神経外科学会(主催者:第13回日本分子脳神経外科学会 開催日:平成24年9日20日)
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】難波 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】出澤 真理
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正順
【テーマコード(参考)】
4B024
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B024AA01
4B024CA01
4B024CA11
4B024DA02
4B024DA03
4B024EA02
4B024EA03
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA17
4B065AA93X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC02
4C086BC43
4C086CB05
4C086DA38
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
多能性幹細胞(Muse細胞)を用いた新たな医療用途を提供することを目的とする。
本発明は、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞から分離されたSSEA−3陽性の多能性幹細胞を含む、脳腫瘍を治療するための細胞製剤を提供する。本発明の細胞製剤は、脳腫瘍の対象に対し、自殺遺伝子を導入したMuse細胞を静脈投与し、さらに、該自殺遺伝子に対応するプロドラッグを投与することにより、該Muse細胞を脳腫瘍周辺に選択に集積させ、該自殺遺伝子の発現に伴うプロドラッグの活性化により脳腫瘍を構成する細胞を消滅又はその増殖を減少させるというメカニズムに基づく。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自殺遺伝子を導入した多能性幹細胞を含む、脳腫瘍を治療するための細胞製剤であって、ここで、該多能性幹細胞は、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞から分離されたSSEA−3陽性細胞であり、該細胞製剤は、脳腫瘍を死滅させる又はその増殖を阻害する薬物のプロドラッグとともに使用され、該プロドラッグは、前記自殺遺伝子の発現によって生成する酵素の基質である細胞製剤。
【請求項2】
脳腫瘍を構成するグリオーマ細胞を治療対象とする、請求項1に記載の細胞製剤。
【請求項3】
前記多能性幹細胞が、CD105陽性である、請求項1又は2に記載の細胞製剤。
【請求項4】
前記多能性幹細胞が、CD117陰性及びCD146陰性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項5】
前記多能性幹細胞が、CD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性、及びCD271陰性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項6】
前記多能性幹細胞が、CD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snai1陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性、及びDct陰性である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項7】
前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細胞製剤:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。
【請求項8】
前記多能性幹細胞が、脳腫瘍部位に集積する能力を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項9】
前記自殺遺伝子が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子又はニトロレダクターゼ遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【請求項10】
前記プロドラッグが、自殺遺伝子がHSVtk遺伝子である場合はガンシクロビル(GCV)、アシクロビル、ペンシクロビル、PMEAアデフォビル又はPMPAテノフォビルであり、自殺遺伝子がシトシンデアミナーゼ遺伝子の場合は5−フルオロシトシンであり、自殺遺伝子がウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子の場合は5−フルオロウラシルであり、自殺遺伝子がgpt遺伝子の場合は6−チオキサンチン又は6−チオグアニンであり、自殺遺伝子がニトロレダクターゼ(ntr)遺伝子の場合はプロドラッグはCB1954である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の細胞製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳腫瘍の治療に有効な自殺遺伝子を導入した多能性幹細胞を含有する細胞製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳腫瘍の約1/4を占めるグリオーマ(神経膠腫)は、周囲の正常脳組織に浸潤性に発育するため、脳機能を温存しようとすれば手術による全摘出は困難である。更に、術後には放射線治療や抗癌剤治療を併用することが多いが、治癒率は低く、最も悪性のグリオブラストーマ(膠芽腫)といわれる腫瘍では平均生存期間は約1年にすぎない。しかもこの成績はさまざまな治療戦略の開発にもかかわらず、過去30年間ほとんど変わっておらず、21世紀に残された最後の悪性腫瘍の1つと言われており、新たな治療戦略の開発が急務である。
【0003】
1990年代に導入された「自殺遺伝子治療」という遺伝子治療は、ウイルスなどの遺伝子を用いて、哺乳類では無害な薬物を遺伝子導入細胞中で毒物(抗癌剤)に変化させ、癌細胞を殺す治療法である。中でも単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSVtk遺伝子)と抗ウイルス剤ガンシクロビル(GCV)を用いた自殺遺伝子治療においては、遺伝子導入細胞が全体の10%程度でもすべての腫瘍が消失するバイスタンダー効果(bystander effect)がある(非特許文献1)。しかし、この治療法はラットなどの動物実験では顕著な効果が見られたが、臨床成績は必ずしも満足のいくものではなかった。その理由の1つとして、遺伝子導入のために用いたレトロウイルス産生線維芽細胞の移動能が低く、浸潤性に発育するグリオーマ細胞をカバーしきれなかったことが挙げられる。
【0004】
一方、近年発見され神経再生の研究が盛んな神経幹細胞は脳内で極めて活発な移動能を持ち、ラットの実験では脳腫瘍と神経幹細胞を別々に左右の脳に移植して観察すると神経幹細胞が対側の脳腫瘍まで移動し、腫瘍周辺に集積することが知られている(非特許文献2)。このような移動能のある神経幹細胞に自殺遺伝子を組み込み、腫瘍部で細胞障害性物質を発現させることにより脳腫瘍を治療する方法が試みられている(特許文献1)。本発明者らは、HSVtk/GCV遺伝子を導入した神経幹細胞を脳腫瘍の周辺に移植したところ、バイスタンダー効果による抗腫瘍効果を認め、神経幹細胞が悪性グリオーマの治療に適した細胞であることを見出している(非特許文献3)。しかしながら、神経幹細胞は自殺遺伝子を腫瘍部に運搬するベクターとしては極めて有効であるが、臨床応用を考えた場合に、神経幹細胞を患者から取り出すのは侵襲的で極めて困難である。これまで、本発明者らは、神経幹細胞と同様の移動能を持ちかつより汎用的なベクターとして、骨髄より採取された間葉系幹細胞を自殺遺伝子を腫瘍部に運搬するベクターとして用いて脳腫瘍の治療試験を試みた(特許文献2)。しかしながら、この治療試験に使用した間葉系幹細胞は不均一であり効果が一定でなかった。
【0005】
本発明者らの一人である出澤の研究により、間葉系細胞画分に存在し、誘導操作なしに得られる、SSEA−3(Stage−Specific Embryonic Antigen−3)を表面抗原として発現している多能性幹細胞(Multilineage−differentiating Stress Enduring cells;Muse細胞)が間葉系細胞画分の有する多能性を担っており、組織再生を目指した疾患治療に応用できる可能性があることが分かってきた(特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。しかしながら、脳腫瘍の予防及び/又は治療にMuse細胞を使用し、期待される治療効果が得られることを明らかにした例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−526104号公報
【特許文献2】特開2006−345726号公報
【特許文献3】国際公開第WO2011/007900号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ram,Z.,et al.,Nature Medicine,Vol.3,p.1354−1361(1997)
【非特許文献2】Lee,J.,et al.,Cancer Research,Vol.63,p.8877−8889(2003)
【非特許文献3】Li,S.,et al.,Cancer Gene Therapy,Vol.12,p.600−607(2005)
【非特許文献4】Kuroda,Y.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.107,p.8639−8643(2010)
【非特許文献5】Wakao,S,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.108,p.9875−9880(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、脳腫瘍治療において、多能性幹細胞(Muse細胞)を用いた新たな医療用途を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、自殺遺伝子を導入したMuse細胞及び該自殺遺伝子に対応するプロドラッグを含む、脳腫瘍の予防及び/又は治療のための細胞製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子を導入したヒトMuse細胞をガンシクロビル(GCV)とともに、グリオーマ細胞の培養系に添加することによって、該グリオーマ細胞へのMuse細胞のバイスタンダー効果及び遊走能を確認し、グリオーマ細胞の増殖が顕著に抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]自殺遺伝子を導入した多能性幹細胞を含む、脳腫瘍を治療するための細胞製剤であって、ここで、該多能性幹細胞は、生体の間葉系組織又は培養間葉系細胞から分離されたSSEA−3陽性細胞であり、該細胞製剤は、脳腫瘍を死滅させる又はその増殖を阻害する薬物のプロドラッグとともに使用され、該プロドラッグは、前記自殺遺伝子の発現によって生成する酵素に対する基質である細胞製剤。
[2]脳腫瘍を構成するグリオーマ細胞を治療対象とする、上記[1]に記載の細胞製剤。
[3]前記多能性幹細胞が、CD105陽性である、上記[1]及び[2]に記載の細胞製剤。
[4]前記多能性幹細胞が、CD117陰性及びCD146陰性である、上記[1]〜[3]に記載の細胞製剤。
[5]前記多能性幹細胞が、CD117陰性、CD146陰性、NG2陰性、CD34陰性、vWF陰性、及びCD271陰性である、上記[1]〜[4]に記載の細胞製剤。
[6]前記多能性幹細胞が、CD34陰性、CD117陰性、CD146陰性、CD271陰性、NG2陰性、vWF陰性、Sox10陰性、Snai1陰性、Slug陰性、Tyrp1陰性、及びDct陰性である、上記[1]〜[5]に記載の細胞製剤。
[7]前記多能性幹細胞が、以下の性質の全てを有する多能性幹細胞である、上記[1]〜[6]に記載の細胞製剤:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ。
[8]前記多能性幹細胞が、脳腫瘍部位に集積する能力を有する、上記[1]〜[7]に記載の細胞製剤。
[9]前記自殺遺伝子が、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子又はニトロレダクターゼ遺伝子である、上記[1]〜[8]に記載の細胞製剤。
[10]前記プロドラッグが、自殺遺伝子がHSVtk遺伝子である場合はガンシクロビル(GCV)、アシクロビル、ペンシクロビル、PMEAアデフォビル又はPMPAテノフォビルであり、自殺遺伝子がシトシンデアミナーゼ遺伝子の場合は5−フルオロシトシンであり、自殺遺伝子がウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子の場合は5−フルオロウラシルであり、自殺遺伝子がgpt遺伝子の場合は6−チオキサンチン又は6−チオグアニンであり、自殺遺伝子がニトロレダクターゼ(ntr)遺伝子の場合はプロドラッグはCB1954である、上記[1]〜[8]に記載の細胞製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、脳腫瘍を患っている対象に対し、自殺遺伝子を導入したMuse細胞及び該自殺遺伝子に対するプロドラッグを静脈等から投与することにより、Muse細胞を脳腫瘍に集積させ、自殺遺伝子の発現に伴うプロドラッグの活性化に基づいて、腫瘍細胞を死滅又はその増殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ヒトグリア芽腫(膠芽細胞種)へのMuse細胞の集積を示す。
図2】自殺遺伝子を導入したMuse細胞(Muse−TK)とヒトグリオーマ(A172)におけるバイスタンダー効果を示す。図2は、グリオーマ細胞とMuse−TKとを異なる細胞比で同時培養した場合のグリオーマ細胞の培養状態を経時的に観察した結果を示す。
図3図3は、図2で得られた結果に基づいて、グリオーマ細胞の減少を細胞数をカウントすることによって示した図である。
図4】グリオーマ細胞に対するMuse細胞の遊走能をボイデンチャンバーを用いて測定した結果を示す。
図5】インビボにおけるMuse−TKによるバイスタンダー効果を検証した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、自殺遺伝子を導入した多能性幹細胞(Muse細胞)を含む、脳腫瘍を治療するための細胞製剤に関する。本発明を以下に詳細に説明する。
【0014】
1.適用疾患
本発明は、自殺遺伝子を導入した多能性幹細胞(Muse細胞)を含む細胞製剤を用いて、脳腫瘍の治療、特に、グリオーマ細胞の死滅又はその増殖を阻害する治療を目指す。ここで、「脳腫瘍」とは、任意のタイプの神経細胞が異常に増殖する状態を指す。脳腫瘍の例としては、限定されないが、グリオーマ(膠腫)、髄芽腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、原発性中枢神経系リンパ腫、肉腫、及び脊髄腫瘍が挙げられる。本発明の細胞製剤は、上記各種の脳腫瘍を対象とすることができるが、脳腫瘍の約1/4を占めるグリオーマを治療対象とすることが好ましい。
【0015】
2.細胞製剤
(1)多能性幹細胞(Muse細胞)
本発明の細胞製剤に使用される多能性幹細胞は、本発明者らの一人である出澤が、ヒト生体内にその存在を見出し、「Muse(Multilineage−differentiating Stress Enduring)細胞」と命名した細胞である。Muse細胞は、骨髄液や真皮結合組織等の皮膚組織から得ることができ、各臓器の結合組織にも散在する。また、この細胞は、多能性幹細胞と間葉系幹細胞の両方の性質を有する細胞であり、例えば、それぞれの細胞表面マーカーである「SSEA−3(Stage−specific embryonic antigen−3)」と「CD105」のダブル陽性として同定される。したがって、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、例えば、これらの抗原マーカーを指標として生体組織から分離することができる。Muse細胞の分離法、同定法、及び特徴などの詳細は、国際公開第WO2011/007900号に開示されている。また、Wakaoら(2011、上述)によって報告されているように、骨髄、皮膚などから間葉系細胞を培養し、それをMuse細胞の母集団として用いる場合、SSEA−3陽性細胞の全てがCD105陽性細胞であることが分かっている。したがって、本発明における細胞製剤においては、生体の間葉系組織又は培養間葉系幹細胞からMuse細胞を分離する場合は、単にSSEA−3を抗原マーカーとしてMuse細胞を精製し、使用することができる。なお、本明細書においては、脳腫瘍を治療するための細胞製剤において使用され得る、SSEA−3を抗原マーカーとして、生体の間葉系組織又は培養間葉系組織から分離された多能性幹細胞(Muse細胞)又はMuse細胞を含む細胞集団を単に「SSEA−3陽性細胞」と記載することがある。また、本明細書においては、「非Muse細胞」とは、生体の間葉系組織又は培養間葉系組織に含まれる細胞であって、「SSEA−3陽性細胞」以外の細胞を指す。
【0016】
簡単には、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、細胞表面マーカーであるSSEA−3に対する抗体を単独で用いて、又はSSEA−3及びCD105に対するそれぞれの抗体を両方用いて、生体組織(例えば、間葉系組織)から分離することができる。ここで、「生体」とは、哺乳動物の生体をいう。本発明において、生体には、受精卵や胞胚期より発生段階が前の胚は含まれないが、胎児や胞胚を含む胞胚期以降の発生段階の胚は含まれる。哺乳動物には、限定されないが、ヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ、フェレット等が挙げられる。本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞は、生体の組織由来である点で、胚性幹細胞(ES細胞)や胚性生殖幹細胞(EG細胞)と明確に区別される。また、「間葉系組織」とは、骨、滑膜、脂肪、血液、骨髄、骨格筋、真皮、靭帯、腱、歯髄、臍帯などの組織及び各種臓器に存在する組織をいう。例えば、Muse細胞は、骨髄や皮膚から得ることができる。例えば、生体の間葉系組織を採取し、この組織からMuse細胞を分離し、利用することが好ましい。また、上記分離手段を用いて、培養間葉系細胞からMuse細胞を分離してもよい。なお、本発明の細胞製剤においては、使用されるMuse細胞は、細胞移植を受けるレシピエントに対して自家であってもよく、又は他家であってもよい。
【0017】
上記のように、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団は、例えば、SSEA−3陽性、及びSSEA−3とCD105の二重陽性を指標にして生体組織から分離することができるが、ヒト成人皮膚には、種々のタイプの幹細胞及び前駆細胞を含むことが知られている。しかしながら、Muse細胞は、これらの細胞と同じではない。このような幹細胞及び前駆細胞には、皮膚由来前駆細胞(SKP)、神経堤幹細胞(NCSC)、メラノブラスト(MB)、血管周囲細胞(PC)、内皮前駆細胞(EP)、脂肪由来幹細胞(ADSC)が挙げられる。これらの細胞に固有のマーカーの「非発現」を指標として、Muse細胞を分離することができる。より具体的には、Muse細胞は、CD34(EP及びADSCのマーカー)、CD117(c−kit)(MBのマーカー)、CD146(PC及びADSCのマーカー)、CD271(NGFR)(NCSCのマーカー)、NG2(PCのマーカー)、vWF因子(フォンビルブランド因子)(EPのマーカー)、Sox10(NCSCのマーカー)、Snai1(SKPのマーカー)、Slug(SKPのマーカー)、Tyrp1(MBのマーカー)、及びDct(MBのマーカー)からなる群から選択される11個のマーカーのうち少なくとも1個、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又は11個のマーカーの非発現を指標に分離することができる。例えば、限定されないが、CD117及びCD146の非発現を指標に分離することができ、さらに、CD117、CD146、NG2、CD34、vWF及びCD271の非発現を指標に分離することができ、さらに、上記の11個のマーカーの非発現を指標に分離することができる。
【0018】
また、本発明の細胞製剤に使用される上記特徴を有するMuse細胞は、以下:
(i)テロメラーゼ活性が低いか又は無い;
(ii)三胚葉のいずれの胚葉の細胞に分化する能力を持つ;
(iii)腫瘍性増殖を示さない;及び
(iv)セルフリニューアル能を持つ
からなる群から選択される少なくとも1つの性質を有してもよい。本発明の一局面では、本発明の細胞製剤に使用されるMuse細胞は、上記性質を全て有する。ここで、上記(i)について、「テロメラーゼ活性が低いか又は無い」とは、例えば、TRAPEZE XL telomerase detection kit(Millipore社)を用いてテロメラーゼ活性を検出した場合に、低いか又は検出できないことをいう。テロメラーゼ活性が「低い」とは、例えば、体細胞であるヒト線維芽細胞と同程度のテロメラーゼ活性を有しているか、又はHela細胞に比べて1/5以下、好ましくは1/10以下のテロメラーゼ活性を有していることをいう。上記(ii)について、Muse細胞は、in vitro及びin vivoにおいて、三胚葉(内胚葉系、中胚葉系、及び外胚葉系)に分化する能力を有し、例えば、in vitroで誘導培養することにより、肝細胞、神経細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、骨細胞、脂肪細胞等に分化し得る。また、in vivoで精巣に移植した場合にも三胚葉に分化する能力を示す場合がある。さらに、静注により生体に移植することで損傷を受けた臓器(心臓、皮膚、脊髄、肝、筋肉等)に遊走及び生着し、分化する能力を有する。上記(iii)について、Muse細胞は、浮遊培養では増殖速度約1.3日で増殖するが、10日間程度で増殖が止まるという性質を有し、さらに精巣に移植した場合、少なくとも半年間は癌化しないという性質を有する。また、上記(iv)について、Muse細胞は、セルフリニューアル(自己複製)能を有する。ここで、「セルフリニューアル」とは、1個のMuse細胞を浮遊培養することにより得られる胚様体様細胞塊に含まれる細胞を培養し、再度胚様体様細胞塊を形成させることをいう。セルフリニューアルは1回又は複数回のサイクルを繰り返せばよい。
【0019】
(2)細胞製剤の調製及び使用
本発明は、自殺遺伝子を導入したMuse細胞を含む、脳腫瘍を治療するための細胞製剤であって、該自殺遺伝子に対応するプロドラッグとともに使用する細胞製剤を提供する。
(a)自殺遺伝子
本明細書において使用するとき、「自殺遺伝子」とは、細胞内で発現すると自己を殺傷することができる遺伝子を意味し、典型的には、代謝毒性遺伝子が挙げられる。自殺遺伝子には、限定されないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子(Proc.Natl.Acad.Sci,USA,78,1441−1445(1981))、シトシンデアミナーゼ遺伝子(EG11326 codA 355395..356678,大腸菌)、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(EG11332 upp 2618894..2618268,大腸菌)、グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子(EG10414 gpt 255977..256435,大腸菌)、ニトロレダクターゼ(ntr)遺伝子(EG11261 nfsA 890407..891129,大腸菌)が含まれる。
(b)プロドラッグ
本発明の細胞製剤は、プロドラッグとともに使用することにより脳腫瘍を治療することができる。ここで、本発明の細胞製剤とともに使用される「プロドラッグ」とは、目的とする腫瘍細胞を死滅させる又はその増殖を阻害する薬物のプロドラッグであって、それ自体ではこのような細胞毒性を持たない薬物を意味する。このプロドラッグは、自殺遺伝子の発現によって生成する酵素により薬理活性(細胞毒性)をもつ薬物に変換される。プロドラッグとしては、自殺遺伝子が単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子の場合、ガンシクロビル(GCV)、アシクロビル、ペンシクロビル、PMEAアデフォビル、PMPAテノフォビルなどが挙げられ、好ましくはGCV、アシクロビル、ペンシクロビルを用いることができる。これらは、いずれも核酸のプリン体のグアニンの類似物質でDNA合成に使われると、そこでDNA合成が停止し、抗ウイルス効果を発揮する。また、自殺遺伝子がシトシンデアミナーゼ遺伝子の場合、プロドラッグは5−フルオロシトシンを用いることができる(Human Gene Therapy,7,713−720(1996))。自殺遺伝子がウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子の場合、プロドラッグは5−フルオロウラシルを用いることができる(Int.J.Oncol,18,117−120(2001))。自殺遺伝子がグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子の場合、プロドラッグは6−チオキサンチン又は6−チオグアニンを用いることができる(Human Gene Therapy,8,2043−2055(1997))。自殺遺伝子がニトロレダクターゼ遺伝子の場合、プロドラッグはCB1954を用いることができる(Cancer Gene Therapy,7,721−731(2000))。
【0020】
また、自殺遺伝子の発現により生成する酵素とプロドラッグの反応機構について、例えば、HSVtk(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)遺伝子とGCV(ガンシクロビル)を用いて、以下に説明する。例えば癌細胞にHSVtk遺伝子を導入して発現させ、抗ウイルス剤であるGCVをプロドラッグとして投与する。HSVtk遺伝子を導入された癌細胞はHSVtkによってGCVをリン酸化し、一リン酸化型のGCV(GCV−1P)を形成する。GCV−1Pは、その後、自身のチミジンキナーゼによって三リン酸までリン酸化が進み、DNAポリメラーゼを阻害するために、DNA複製をおこす細胞はアポトーシスに陥り死滅する。さらにGCV−1Pはギャップジャンクションを通って隣接細胞へも取り込まれ、遺伝子導入がない隣接細胞もDNA合成が阻害され死滅する(バイスタンダー効果)。
【0021】
(c)自殺遺伝子のMuse細胞への導入と細胞製剤の調製
本発明の細胞製剤においては、自殺遺伝子を導入したMuse細胞が使用される。Muse細胞に前記自殺遺伝子を導入する方法としては、該遺伝子を組み込んだベクターを導入する方法が一般的である。ベクターの使用による遺伝子導入としては、限定されないが、ウイルス性又は非ウイルス性遺伝子導入(例えば、プラスミド導入、ファージインテグラーゼ、トランスポゾン、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及びレンチウイスルなど)が挙げられる。より具体的には、自殺遺伝子として、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子を用いる場合、マウス由来のHSVtk−レトロウイルス産生細胞(PA317)培養の上清液により、ウイルスを細胞に感染させて遺伝子を導入することができる。シトシンデアミナーゼ遺伝子を用いる場合には、大腸菌のシトシンデアミナーゼ遺伝子のcDNAにサイトメガロウイルス初期遺伝子エンハンサー/プロモーターを付したアデノウイルスベクターに組み込み(Human Gene Therapy,6,1055−1063(1995))、細胞に導入することができる。また、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)遺伝子を用いる場合には、大腸菌のUPRT遺伝子を組み込んだレトロウイルスベクターLXSNを用いて遺伝子を導入することができる。グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)遺伝子を用いる場合には、大腸菌のgpt−レトロウイルス産生細胞(GP/E86gpt)培養の上清液により、ウイルスを細胞に感染させて遺伝子を導入することができる。また、ニトロレダクターゼ(ntr)遺伝子を用いる場合には、大腸菌のntr遺伝子にサイトメガロウイルス初期遺伝子エンハンサー/プロモーターを付したプラスミドを作成し、エレクトロポレーションにより細胞内に遺伝子を導入することができる。なお、遺伝子導入前に所定の細胞数を確保するために、適宜、細胞を増殖させてもよい。
【0022】
本発明の細胞製剤は、自殺遺伝子導入後のMuse細胞を生理食塩水や適切な緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)に懸濁させることによって得られる。この場合、自家又は他家の組織から分離したMuse細胞数が少ない場合には、細胞製剤を治療対象への投与前に細胞を培養して、所定の細胞濃度が得られるまで増殖させてもよい。なお、すでに報告されているように(国際公開第WO2011/007900号)、Muse細胞は、腫瘍化しないため、生体組織から回収した細胞が未分化のまま含まれていても癌化の可能性が低く安全である。また、回収したMuse細胞の培養は、特に限定されないが、通常の増殖培地(例えば、10%仔牛血清を含むα−最少必須培地(α−MEM))において行うことができる。より詳しくは、上記国際公開第WO2011/007900号を参照して、Muse細胞の培養及び増殖において、適宜、培地、添加物(例えば、抗生物質、血清)等を選択し、所定濃度のMuse細胞を含む溶液を調製することができる。
【0023】
(d)細胞製剤の使用
Muse細胞の細胞製剤への使用においては、該細胞を保護するためにジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入及び増殖を防ぐために抗生物質等を細胞製剤に含有させてもよい。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)や間葉系幹細胞に含まれるMuse細胞以外の細胞又は成分を細胞製剤に含有させてもよい。当業者は、これら因子及び薬剤を適切な濃度で細胞製剤に添加することができる。
【0024】
上記で調製される細胞製剤中に含有する自殺遺伝子を導入したMuse細胞の数は、脳腫瘍の治療において所望の効果(例えば、腫瘍の消滅、腫瘍サイズの減少)が得られるように、対象の性別、年齢、体重、患部の状態、使用する細胞の状態等を考慮して、適宜、調整することができる。また、本発明の細胞製剤は、所望の治療効果が得られるまで、複数回(例えば、2〜10回)、適宜、間隔(例えば、1日に2回、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回)をおいて投与されてもよい。したがって、対象の状態にもよるが、治療上有効量としては、例えば、一個体あたり1×10細胞〜1×10細胞で1〜10回の投与量が好ましい。一個体における投与総量としては、限定されないが、1×10細胞〜1×10、1×10細胞〜5×10細胞などが挙げられる。
【0025】
上記した通り、本発明の細胞製剤による脳腫瘍の治療は、Muse細胞に導入された自殺遺伝子の発現、それに続く該遺伝子産物である酵素によるプロドラッグの活性化に基づく。そこで、本発明の細胞製剤の使用においては、該細胞製剤の投与部位、投与方法(腫瘍局所投与、頚動脈内投与、静脈内投与)は限定されない。また、本発明の細胞製剤とともに使用されるプロドラッグは、上記記載の静脈投与であってもよく、また腹腔内投与であってもよい。例えば、本発明によれば、限定されないが、Muse細胞の遊走能(腫瘍周辺への集積脳)を利用して、例えば、脳腫瘍を有する対象に対して、該細胞製剤を静脈投与後、プロドラッグを静脈内又は腹腔内投与することによって、所望の治療効果を得ることができる。なお、プロドラッグの投与時期は、限定されないが、上記効果を有する限り、本発明の細胞製剤の投与後、投与と同時、及び投与前のいずれであってもよい。本発明の一態様においては、自殺遺伝子を導入したMuse細胞、プロドラッグ、及び場合により担体、賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0026】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1:単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)遺伝子を導入したMuse細胞の作製
(1)ヒトMuse細胞の調製
ヒトMuse細胞の調製は、国際公開第WO2011/007900号に記載された方法に従って行った。より具体的には、ヒト骨髄液から接着性を有する間葉系細胞を培養し、増殖を経て、Muse細胞又はMuse細胞を含む細胞集団をSSEA−3陽性細胞としてFACSにて分離した。また、非Muse細胞は、上記間葉系細胞のうち、SSEA−3陰性の細胞群であり、対照として用いた。その後、リン酸緩衝生理食塩水又は培養液を用いて、所定濃度に調整し、以下のバイスタンダー効果及び細胞遊走能の評価に使用した。なお、骨髄間葉系細胞などの間葉系細胞を培養して得たものをMuse細胞の母集団として用いる場合、Wakaoら(2011、上述)によって報告されているように、SSEA−3陽性細胞は全て、CD105陽性細胞であることが分かっている。
(2)HSVtk遺伝子導入
HSVtkレトロウイルス産生細胞(PA317、マウス線維芽細胞、Genetic Therapy Inc.)(Gaithersburg,MDより提供)をMSC培地中で48時間培養した後、その上清よりHSVtkレトロウイルスを得た。これを8μg/mlポリブレン(Aldrich Chemical Company Inc.,Milwaukee,WI)とともに培養中のMuse細胞に添加し、さらに5時間培養し、続いて洗浄後に新鮮な培養液と交換した。150μg/ml G418(Sigma−Aldrich Japan K.K.,Tokyo,Japan)とともに1週間培養し、薬剤耐性細胞を選択することにより遺伝子導入細胞のみを得た。これらの細胞株の中からガンシクロビルGCV感受性の高い株を選び、さらに増殖させ、充分量のHSVtk遺伝子導入細胞(Muse−TK細胞)を得た。
【0028】
実施例2:グリオブラストーマ(膠芽腫)周辺におけるMuse細胞の検出
ヒト対象から採取したヒトグリオブラストーマにMuse細胞が存在しているかどうかを検討した。採取したグリオブラストーマの組織切片を作製し、Muse細胞の細胞表面抗原(SSEA−3に対する抗体を用いて、常法に従って免疫染色を行った。図1に示すように、Muse細胞はグリオブラストーマの周辺に存在することが分かった。
【0029】
実施例3:Muse−TK細胞によるヒトグリオーマ細胞におけるバイスタンダー効果の確認
実施例1において作製したMuse−TKによるバイスタンダー効果を確認するために、インビトロにおいてMuse−TK細胞とグリオーマ細胞との共培養により検討した。96ウェルにヒトグリオーマ細胞(A172)を1.5×10細胞/ウェル、Muse−TK細胞をそれと同数(1/1)、1/4、1/8、1/16、1/32の細胞数として混ぜ、2μg/mlのガンシクロビル(GCV)の存在下に所定日数で培養し、位相差顕微鏡で観察し、撮像した。図2に示すように、GCV添加後の第9日目には、Muse−TK細胞とグリオーマ細胞の割合が1:1、1:4及び1:8の培養系において、グリオーマ細胞の死滅が観察された。さらに、図2の結果に基づいて、GCV添加後の第5日目と第9日目に培養中のグリオーマ細胞を実際にカウントした結果を図3に示す。この結果からも分かるように、1:1〜1:8の細胞比までグリオーマ細胞の細胞増殖を減退させた。このように、Muse−TK細胞において、グリオーマ細胞に対するバイスタンダー効果が認められた。
【0030】
実施例4:Muse−TK細胞によるグリオーマ細胞への遊走能の確認
実施例2に示されるように、Muse細胞は腫瘍周辺に集積する性質を有する。そこで、グリオーマ細胞(A172及びYKG1)の培養上清を用いて、インビトロにおけるMuse細胞の遊走能を検討した。Muse細胞の遊走性をボイデンチャンバー法(Boyden,S.,J.Exp.Med.,Vol.115,p.453−466(1962))を用いて定量的に測定した。使用したボイデンチャンバーは、Milliporeから市販されているQCM Chemotaxis Cell Migration Assay Kit(QCM 24 Well Colorimetric Cell Migration Assay)を使用した。このボイデンチャンバーは、チャンバー内部に、8μmの均一な微細孔を有するフィルターを底部に有するインサートを含む。インサートのフィルター上部にMuse細胞又は非Muse細胞を含む培養液を添加し、インサートの下部にグリオーマ細胞の培養上清を添加し、18時間培養後、フィルターの微細孔を通過した細胞数をカウントした。その結果を図4に示す。「Muse A172」及び「Muse YKG−1」の系において、Muse細胞は、微細孔を通過して、顕著にインサート下部に移動した。一方、非Muse細胞に対してグリオーマ細胞の培養上清を用いた場合、及びこの培養上清の代わりにDMEMを用いた場合には、Muse細胞の移動能は発揮されなかった。このように、グリオーマ細胞の培養上清中には、Muse細胞の遊走能を活性化する何らかの因子が存在することが示唆され、インビボにおいては、この因子によってMuse細胞の脳腫瘍への集積を促しているものと考えられる。
【0031】
実施例5:インビボにおける腫瘍形成抑制効果の検証
実施例1において作製したMuse−TKによるバイスタンダー効果をインビボにおいて確認した。Muse−TK細胞とルシフェラーゼ遺伝子が導入されたU87−luc2細胞(グリオーマ細胞株)をヌードマウス(雄性8週齢)の右脳内に同時移植した。より具体的には、移植されるMuse−TK細胞及びU87−luc2細胞の細胞数は、それぞれ2.5×10個及び10×10個(1:4)とした。上記細胞を脳内に移植後(0日)、翌日(1日目)から、ガンシクロビル(GCV)(Wako)をPBSにより希釈して5mg/mlとし、マウス1匹あたり1回1mg/200μl PBSを1日2回、10日間、腹腔内に投与した。対照として、GCVの代わりにPBSを投与した群、及びMuse−TK細胞の非移植群(U87−luc2細胞のみ)を用いた。細胞移植後から1日目、及び移植後から7日目ごとに、IVIS200を使用し、Bioluminescence imaging(BLI)にて腫瘍形成(増大又は縮小)過程を観察した。その結果を図5に示す。腫瘍形成については35日目まで観察したが、対照群であるPBS投与群(2段目及び4段目)、及びMuse−TK細胞の非移植群(3段目)では、経時的に脳腫瘍の増大が見られた。一方、Muse−TK細胞+GCV群(1段目)では、移植後の7日目より脳腫瘍の形成が抑制され、35日目では脳腫瘍はほとんど消滅していた。実験した4群のそれぞれについて、ルシフェラーゼによる蛍光強度を経時的に測定した場合においも、上記と同様に、Muse−TK細胞+GCV群において蛍光強度の顕著な低下が見られた(データ示さず)。さらに、上記マウスの生存率を検討するためにKaplan−Meier曲線を作製した。その結果、移植後の54日目において、Muse−TK細胞+GCV群では、実験に使用した全てのマウスは生存していたが、その他の3群については、31〜37日目において全てのマウスは腫瘍死した(データ示さず)。これらの結果より、インビボにおいてもMuse−TK細胞によるグリオーマ細胞に対するバイスタンダー効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の細胞製剤は、脳腫瘍の対象に投与することにより、自殺遺伝子を導入したMuse細胞が脳腫瘍周辺に集積し、さらに自殺遺伝子に対応するプロドラッグの投与により、脳腫瘍を構成する細胞を死滅させることができ、脳腫瘍の治療に応用できる。
【0033】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
図3
図4
図1
図2
図5
【国際調査報告】