(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2014年10月16日
【発行日】2017年2月16日
(54)【発明の名称】密封摺動部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20170127BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20170127BHJP
【FI】
F16J15/34 F
C04B35/80 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
【出願番号】特願2015-511251(P2015-511251)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2014年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-81338(P2013-81338)
(32)【優先日】2013年4月9日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公保
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BA04
3J041BC02
(57)【要約】
【課題】 硬質で低摩耗であるという炭化珪素の特徴を備えつつ、好適な密封特性と潤滑性を備えた密封摺動部材を提供する。
【解決手段】
他の部材に対して摺動する摺動面を有し、当該摺動面を介して流体を密封する密封摺動部材であって、前記摺動面に対し繊維の長手方向が略平行に配向されている炭素繊維と、複数の前記炭素繊維の間に設けられた炭化珪素と、を有することを特徴とする密封摺動部材。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の部材に対して摺動する摺動面を有し、当該摺動面を介して流体を密封する密封摺動部材であって、
前記摺動面に対し繊維の長手方向が略平行に配向されている炭素繊維と、
複数の前記炭素繊維の間に設けられた炭化珪素と、を有することを特徴とする密封摺動部材。
【請求項2】
複数の前記炭素繊維の長手方向が略同方向を向く集合体である炭素繊維束部が形成されており、前記炭化珪素が前記炭素繊維束部に含まれる前記炭素繊維の間に形成されている請求項1に記載の密封摺動部材。
【請求項3】
一つの前記炭素繊維束部と、これに隣接する他の前記炭素繊維束部と、の間に設けられている非繊維炭素を、さらに有する請求項2に記載の密封摺動部材。
【請求項4】
前記摺動面に形成された複数の前記炭素繊維束部は、ランダムに配向されている請求項3に記載の密封摺動部材。
【請求項5】
前記摺動面において、前記炭化珪素が35%以上85%未満の面積比で存在する請求項4に記載の密封摺動部材。
【請求項6】
前記摺動面の算術平均粗さRaが、0.2μm以下である請求項5に記載の密封摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシール等に用いられる密封摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシール等に用いる密封摺動部材として、炭化珪素を含む密封摺動部材が提案されている。炭化珪素は、耐熱性が良好で、ヤング率が高く硬質で、低摩耗な摺動部材を実現可能な材料であるが、その一方で、炭化珪素は、材料自体の自己潤滑性が乏しいため、これを用いた密封摺動部材は、流体による潤滑性が乏しいドライ環境で使用することが困難であるという課題を有している。また、炭化珪素を用いた密封摺動部材は、硬質であるがじん性が低く、割れやすいという問題も有している。
【0003】
一方、ブレーキディスクの分野において、炭素繊維を用いることにより、炭化珪素材料の問題点を補う技術が提案されている(特許文献1及び特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−533388号公報
【特許文献2】特開2012−153575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、炭素繊維を用いた従来技術に係る炭化珪素と炭素との複合材料は、ブレーキディスクに用いるような材料であるため、高い摩擦係数を有しており、低い摩擦係数の材料を求められる密封摺動部材として用いた場合に、良好な摺動特性と密封特性を両立することが困難であった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、硬質で低摩耗であるという炭化珪素の特徴を備えつつ、好適な密封特性と潤滑性を備えた密封摺動部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係る密封摺動部材は、
他の部材に対して摺動する摺動面を有し、当該摺動面を介して流体を密封する密封摺動部材であって、
前記摺動面に対し繊維の長手方向が略平行に配向されている炭素繊維と、
複数の前記炭素繊維の間に設けられた炭化珪素と、を有する。
【0008】
本発明に係る密封摺動部材では、炭素繊維が摺動に対して優位な効果を創出し、また、炭化珪素は炭素繊維よりも硬質なため、摺動する相手部材の荷重受けとして機能する。炭素繊維の間に分散して存在する炭化珪素は、荷重受けとして、良好な効果を発揮する。
【0009】
また、複数の前記炭素繊維の長手方向が略同方向を向く集合体である炭素繊維束部が形成されていてもよく、前記炭化珪素が、前記炭素繊維束部に含まれる前記炭素繊維の間に形成されていても良い。
【0010】
炭素繊維が複数まとまった炭素繊維束部が存在することで、繊維間に特定の長さを持つ隙間が形成され、隙間部が流体溜まりとして機能する。つまり、流体が隙間に流入、放出されることで潤滑性を向上させる。また、炭素繊維束部の炭素繊維の隙間に炭化珪素が形成されることで、炭素繊維に近い位置に荷重受けが形成されるため、炭素繊維に荷重がかかり難い。
【0011】
また、例えば、一つの前記炭素繊維束部と、これに隣接する他の前記炭素繊維束部と、の間に設けられている非繊維炭素を、さらに有しても良い。
【0012】
炭素繊維束部と隣接する炭素繊維束部との間に非繊維炭素が存在することにより、非繊維炭素が自己潤滑剤として働き、更に摺動性が向上する。また、摺動面を形成するためにラップ処理を行うが、炭素繊維自体の硬度、或いは炭素繊維束部中の炭化珪素の硬度が非繊維炭素の硬度よりも高いため、ラップ処理により、摺動面に対し、非繊維炭素が炭素繊維束部に比べ低くなり、この部分も流体溜まりとして機能し、潤滑性を向上させる。
【0013】
また、例えば、前記摺動面に形成された複数の前記炭素繊維束部は、ランダムに配向されていても良い。
【0014】
炭素繊維束部がランダムに配向されていることにより、摺動面に漏れ経路となるような経路が形成され難くなり、摺動面間に流体が留まり易くなる。
【0015】
また、例えば、前記摺動面において、前記炭化珪素は35%以上85%未満の面積比で存在しても良い。
【0016】
炭化珪素の面積比を所定の値以上とすることにより、接触力を支える炭化珪素の量を確保でき、荷重を支えることが可能で、炭化珪素の面積比を所定の値未満とすることにより、炭素繊維間の隙間による流体溜まりを確保し、潤滑性を向上させることが可能である。
【0017】
また、例えば、前記摺動面の算術平均粗さRaは、0.2μm以下であっても良い。
【0018】
摺動面の粗さを所定の範囲内とすることにより、摺動面の潤滑性と、摺動面からの密封流体の漏れの防止を、効果的に両立させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る密封摺動部材の斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例の漏れ試験で使用した実機試験機の概略図である。
【
図5】
図5は、実施例で作製した試料における摺動面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る密封摺動部材10の斜視図である。密封摺動部材10は、例えばメカニカルシール装置の内部において、回転軸と伴に回転する回転部材と、回転しない静止部材との境界部に配置される。密封摺動部材10は、典型的には、回転部材側に固定されるものと、静止部材側に固定されるものが対になって使用される。摺動部材10は、対になって使用される他の摺動部材に対して摺動する摺動面20を有しており、摺動する摺動面20を介して流体を密封する。
図1に示す摺動部材10は、中央に貫通孔を有するリング状の外形状を有しており、貫通方向に直交する面の一方が、摺動面20となっているが、摺動部材の形状は特に限定されない。また、本発明の密封摺動部材は回転部材、静止部材双方として用いてもよく、又は一方の密封摺動部材として用いても良い。密封摺動部材の一方として用いる場合、他の部材として、一般的にメカニカルシールに用いられる材料であるカーボンや炭化珪素、超硬合金からなる摺動部材が用いられる。
【0021】
密封摺動部材10は、主に炭素と炭化珪素によって構成されているが、珪素等その他の物質を含んでいても構わない。
図2は、摺動面20の顕微鏡写真である。密封摺動部材10の摺動面20には、密封摺動部材10の製造工程で用いる炭素繊維組織由来のSiC−C繊維形状組織が形成されている。
図2において、SiC−C繊維形状組織は、繊維方向に沿って延びる筋状の組織として観察される。
【0022】
図3は、
図2の一部を拡大したものである。
図2及び
図3において、白色に見える部分が、炭化珪素であり、グレーに見える部分が炭素繊維であり、炭素繊維の間の黒色に見える部分が非繊維炭素である。また、複数の炭素繊維が略同方向を向く集合体を形成している部分が1つの炭素繊維束部であり、炭素繊維束部とその中に存在する筋状の炭化珪素とが、SiC−C繊維形状組織を構成している。本明細書中で炭化珪素は炭化珪素(SiC)からなり、炭素繊維と非繊維炭素は、炭素(C)からなるが、不純物等の他の物質を含むことを妨げない。非繊維炭素は、一つの炭素繊維束部とこれに隣接する他の炭素繊維束部との間に設けられているものと、一つの炭素繊維部を構成する炭素繊維の間に設けられているものと、炭化珪素の間若しくは炭化珪素と炭素繊維との間に設けられているものとが存在するが、非繊維炭素の割合及び配置は、密封摺動部材10の用途等に応じて適宜変更すれば良い。
炭素繊維束部は繊維方向30に垂直な方向に沿って、数十μm〜数百μm程度の幅を有している。また、炭化珪素が集中することにより塊状に形成される箇所があっても良い。
【0023】
SiC−C繊維形状組織では、炭素繊維束部を構成する炭素繊維と、その炭素繊維の間に設けられた炭化珪素とが、繊維方向30(繊維の長手方向)に垂直な方向に沿って交互に現れる。SiC−C繊維形状組織における1つの炭素繊維束部は、繊維方向30に垂直な方向に沿って0.2mm〜4mm程度の幅を有している。また、摺動面20には、複数の炭素繊維束部が、互いの繊維方向30が交差するように形成されている。摺動面20に形成される各炭素繊維束部の配置状態は特に限定されず、ランダムな繊維方向30を有する炭素繊維束部が摺動面20に分散していても良く、複数の炭素繊維束部が編み形状のような所定のパターンで形成されていても良い。なお、炭素繊維束部の繊維方向30は、SiC−C繊維形状組織に含まれる筋状の炭化珪素又は炭素繊維の延びる方向から認識することができる。
【0024】
摺動部材における炭化珪素と炭素(炭素は炭素繊維と非繊維炭素を含む)との含有比率は特に限定されないが、摺動面20において、炭化珪素は35%以上85%未満の面積比で存在することが好ましい。炭化珪素の面積比を35%以上とすることにより、摺動面20からの密封流体の漏れを効果的に低減することが可能であり、また、炭化珪素の面積比を85%未満とすることにより、摺動面20の潤滑性を効果的に向上させることが可能である。また、炭化珪素の面積率を85%以上にすることは、効率的な製造方法では困難である。
【0025】
また、摺動面20の算術平均粗さRa(JIS B 0601:2001)は、0.01μm以上1μm未満であることが好ましい。摺動面20の算術平均粗さRaを0.01μm以上とすることにより、摺動面20の潤滑性を効果的に向上させることが可能であり、また、摺動面20の算術平均粗さRaを1μm未満とすることにより、摺動面20の潤滑性を保持しつつ、密封流体の漏れを防止することができる。さらに、摺動面20のスキューネスPsk(JIS B 0601:2001)は、負の範囲であることが好ましい。スキューネスPskを負の範囲とすることにより、摺動面20に形成された凸部の頂点が、流体を密封する際に対向する他の部材を傷つける問題を防止できる。
【0026】
摺動面20に存在する炭素繊維は、繊維方向30が摺動面20の平面方向に沿うように形成されていることが好ましく、これにより、炭素繊維の端部により相手面を損傷させることなく、摺動することが可能であり、また、漏れ経路が密封摺動環内部に形成されるのを防止し、流体を漏れ難くすることが可能である。なお、摺動面20には、炭化珪素及び炭素の他に、珪素(Si)からなる珪素部(炭化珪素部の内部で、炭化珪素部より白い塊として観察される)が含まれていても良い。
【0027】
以下に、密封摺動部材10の製造方法について説明するが、密封摺動部材10の製造方法は以下に述べる製造方法に限定されるものではない。
【0028】
密封摺動部材10の製造方法における第1の段階では、原料となる炭素繊維を準備する。第1の段階で準備する炭素繊維としては特に限定されないが、例えばPAN系又はピッチ系の炭素繊維であって、長さが1mm〜10mm、太さが5μm〜50μmのものを用いることができる。また、この炭素繊維は摺動面となる表面に対しその長手方向が平行に配向し、かつ摺動面となる表面に対し、二次元的にランダムに摺動面の全面に配向されると良い。ここで、摺動面に現れる炭素繊維の内、摺動面に対し、繊維の長手方向が摺動面となる表面に対し平行である炭素繊維は80%以上であり、摺動面に全体的に配置されているとよい。製造工程により、摺動面に対し平行に配置できない炭素繊維を含んでいても良い。さらには、これらの炭素繊維がシート状になっているものを用いて、摺動面に対し、長手方向を平行に配向しても良い。
【0029】
密封摺動部材10の製造方法における第2の段階では、第1段階で準備した炭素繊維に炭素粉若しくはフェノール樹脂を加えて成型し、さらに必要に応じて焼成することにより、密封摺動部材10と外形状が略一致するベースを形成する。また、シート状に形成した炭素繊維を積層し、炭素粉若しくはフェノール樹脂を加えて成型し、焼成することによりベースを形成しても良い。なお、炭素粉若しくはフェノール樹脂に由来する炭素が、摺動面20における非繊維炭素を構成する。
【0030】
密封摺動部材10の製造方法における第3の段階では、第2段階で形成したベースに溶融状態の珪素(Si)を含浸させ、1400〜1800℃程度で焼成することによりベースの炭素の一部をSiC化させた後、最後に必要に応じて表面(特に摺動面20に相当する表面)を研磨することにより、密封摺動部材10を得る。ベース全体を均一にSiC化する必要はないが、漏れ経路が形成され難くするため、製造された密封摺動部材10における摺動面20から少なくとも1mmの深さまで、ベースの一部がSiC化されていることが好ましい。
【0031】
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳述するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例では、表1に示すように、摺動面20における炭化珪素の面積比率が異なる密封摺動部材10である試料1〜試料7を準備し、これを密封環としてメカニカルシールに適用し、漏れ試験を実施した。
【表1】
【0033】
試料1〜試料7は、シート状に形成されたPAN系の炭素繊維を準備し(第1の段階)、シート状の炭素繊維をフェノール樹脂で固めて積層したのち焼成してベースを形成し(第2の段階)、ベースに溶融状態の珪素を含浸させて1500℃で焼成した後、表面を研磨することにより(第3の段階)、製造した。試料1〜試料7は、第2の工程まではすべて同様に製造し、第3の工程におけるSiC化の条件を調整することにより、摺動面20における炭化珪素の面積比を変化させた。製造後の試料1〜試料7は、レーザー顕微鏡を用いて摺動面20の顕微鏡写真の画像解析を行い、画像処理ソフトを用いて摺動面20における炭化珪素の面積比を計測した(表1参照)。
【0034】
さらに、実機試験機を使用し、試料1〜試料7に係る密封摺動部材10の漏れ試験を実施した。漏れ試験の条件は、密封流体として水を用い、摺動面の圧力と速度の積であるPV値は8MPaG・m/s、温度は室温、相手材として同材を用いて試験を行った。評価結果を表1に示す。なお、表1における漏れ試験の項目において、3ml/hr未満の漏れ量を「〇」、3ml/hr以上の漏れ量を「×」と判定した。また、漏れ試験の前に、各試料における摺動面の面粗さも測定した。
【0035】
試料1〜試料7の摺動面20には、
図5に示すように、互いの繊維方向30が交差する多数の炭素繊維束部を有するSiC−C繊維形状組織が形成されていることが確認され、試料1〜試料7に係る密封摺動部材10は、自己潤滑性が乏しい炭化珪素の問題点を補いつつ、摺動面20からの密封流体の漏れを好適に抑制する。表1に示すように、特に炭化珪素が35%以上85%未満の面積比で存在する試料3〜試料7は、摺動面20からの密封流体の漏れを効果的に低減することが可能であった。なお、上記の条件において漏れが発生した試料1、試料2についても、PV値を低減させるなど適用条件を変更すれば、メカニカルシールとして適切に機能し得る。
【0036】
上述のような実施形態及び実施例で説明したように、密封摺動部材10は、炭素繊維束部を形成する炭素繊維と、その炭素繊維の間に設けられた炭化珪素とを有するSiC−C繊維形状組織が形成されているため、硬質で低摩耗であるという炭化珪素の特徴を備えつつ、好適な密封特性と潤滑性を備える。SiC−C繊維形状組織は、炭化珪素と炭素繊維とが微細に入り組んだ構造を有しており、このようなSiC−C繊維状組織は、後述する要因のうちいずれか又は複数の組み合わせにより、摺動面20に摺動性を付与すると考えられる。例えば、炭素繊維と炭素繊維とが隣接することで炭素繊維間に隙間が形成され、その隙間が流体溜まりとして機能することで潤滑性を付与する。更に、炭素繊維自体が潤滑材として機能する。また、ラップ処理により、炭素繊維自体の硬度、或いは炭素繊維束部中の炭化珪素の硬度が非繊維炭素の硬度よりも高いため、炭素繊維の間にある非繊維炭素が、炭素繊維束部に対して凹んだ凹部を構成することにより、流体溜まりとして機能し、摺動性を付与する。また、非繊維炭素部を構成する炭素が固体潤滑剤の働きをすることで、摺動性を付与する。
【0037】
また、炭素繊維束部における繊維の長手方向の向きが、それぞれの炭素繊維部毎にランダムに配向されていることで、摺動面20に漏れ流路が形成され難く、かつ摺動面20に流体を保持することが可能で、摺動性を付与し得る。さらに、炭素繊維の表面など、炭素繊維の一部をSiC化して形成されたSiC−C繊維状組織は、炭素繊維と炭化珪素とが良好な結合性を有するため、密封摺動部材10に割れや欠け等が発生する問題を好適に防止することができる。またさらに、SiC−C繊維状組織における炭化珪素は強度が高いため、良好な耐摩耗性を密封摺動部材10に与えることができ、摺動面20に隙間が多く存在し過ぎるのを防止する。このように、摺動面20の潤滑性と、摺動面20からの密封流体の漏れの防止を両立することができる密封摺動部材10は、従来の摺動材料では対応が困難であった高温・高圧・高速条件においても、特に好適に用いることが可能である。
【0038】
なお、密封摺動部材10は、同様にSiC−C繊維状組織が摺動面20に形成された摺動部材と対で使用されても良いが、密封摺動部材10と対で使用される他の摺動部材は、金属を含むものや、炭素又は炭化珪素のみを含むものなど、密封摺動部材10とは異なる組成又は組織を有するものであっても良い。
【符号の説明】
【0039】
10…密封摺動部材
20…摺動面
【国際調査報告】