(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2014年4月17日
【発行日】2016年9月5日
(54)【発明の名称】前立腺癌と前立腺肥大を識別するための方法およびキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20160808BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20160808BHJP
【FI】
G01N33/574 B
G01N33/543 541A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2014-540871(P2014-540871)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2013年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-226489(P2012-226489)
(32)【優先日】2012年10月12日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大山 力
(72)【発明者】
【氏名】米山 徹
(72)【発明者】
【氏名】飛澤 悠葵
(72)【発明者】
【氏名】畠山 真吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆
(72)【発明者】
【氏名】左 一八
(72)【発明者】
【氏名】山口 真帆
(57)【要約】
本発明の課題は、少ない分析試料で高感度に再現性よく前立腺癌と前立腺肥大を識別する方法を提供することである。その解決手段としての本発明の前立腺癌と前立腺肥大を識別する方法は、前立腺特異抗原(PSA)を含む分析試料と抗フリーPSA抗体を固定化した担体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAを結合させた後、固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAが結合した担体と末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体に結合したフリーPSAに末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させ、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を測定し、得られた測定量を予め設定された前立腺癌と前立腺肥大のカットオフ値と比較することにより、カットオフ値よりも多い場合は前立腺癌であるかその蓋然性が高く、少ない場合は前立腺肥大であるかその蓋然性が高いと判定することによる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌と前立腺肥大を識別するための方法であって、前立腺特異抗原(PSA)を含む分析試料と抗フリーPSA抗体を固定化した担体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAを結合させた後、固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAが結合した担体と末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体に結合したフリーPSAに末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させ、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を測定し、得られた測定量を予め設定された前立腺癌と前立腺肥大のカットオフ値と比較することにより、カットオフ値よりも多い場合は前立腺癌であるかその蓋然性が高く、少ない場合は前立腺肥大であるかその蓋然性が高いと判定することによる方法。
【請求項2】
PSAを含む分析試料が、血清、尿、前立腺組織抽出液、精液、膀胱洗浄液からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1記載の方法。
【請求項3】
抗フリーPSA抗体が抗ヒトフリーPSA特異的モノクローナル抗体(コンプレックスPSAと反応しないもの)である請求項1記載の方法。
【請求項4】
担体が磁性粒子である請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗フリーPSA抗体を固定化した担体と、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を少なくとも含む前立腺癌と前立腺肥大を識別するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌と前立腺肥大を識別するための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌(prostate carcinoma:以下「Pca」と略す)は男性の主要な死亡原因であることは周知の通りであり、前立腺特異抗原(prostate specific antigen:以下「PSA」と略す)はPcaに対する最も重要な腫瘍マーカーとして認識されている(非特許文献1)。PSAは約34kDaの糖蛋白で、糖鎖はその約8%を占める。Pcaの早期診断に対する血清PSAテストの有用性は既に多くの文献に記載されているが、Pcaに罹患している男性と前立腺肥大(benign prostate hyperplasia:以下「BPH」と略す)に罹患している男性の間にはグレーゾーン(gray zone)と呼ばれるPcaともBPHともどちらとも言えない領域がある(非特許文献2)。そこで2つの病変を正確に区別するための試み、例えば、PSA密度、PSA勾配、フリーPSA/トータルPSAの比などを指標にした試みがこれまで実施されてきた。しかしながら、こうした方法では2つの病変を正確に区別することは困難である。そのため、現在の血清PSAテストはPcaに特異的ではなく、感度と特異度を共に満足させる適切なカットオフ値がないことが世界的な問題となっている。
【0003】
このような背景のもと、本発明者である大山らのグループは、精嚢液から精製したPSAをN−Glycosidase Fで処理し、PSAのN型糖鎖を切り出してmatrix associated laser desorption/ionization time−of−flight(MALDI TOF)mass spectrometry(MS)によって解析することで、PSAの糖鎖として19種類を同定し、PSAの糖鎖が非常に多様性に富んでいることを明らかにした(非特許文献3)。それ以前にStameyらのグループは、PSAの糖鎖としては2本鎖で末端にシアル酸がα(2,6)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖のみが発現していると報告していたが(非特許文献4)、末端のシアル酸はα(2,6)結合でのみでなくα(2,3)結合でガラクトースに結合しているものも約10%存在することが大山らのグループによって明らかになった。その後、大山らのグループは、PSAを糖鎖のみでなく、PSAのペプチド配列を含む状態でMS−MSによって解析することで、PSAのN型糖鎖の末端シアル酸残基は、癌化に伴い、α(2,6)結合でよりもα(2,3)結合でガラクトースに結合するものが増加することを明らかにした(非特許文献5)。
【0004】
以上の知見に鑑みれば、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するPSA量を指標にしてPcaとBPHを識別することが可能であると考えられ、実際に、本発明者である大山が特許文献1において提案した末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するイヌエンジュレクチンを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより、PcaとBPHを識別できることが確認されている。しかしながら、イヌエンジュレクチンを用いたアフィニティークロマトグラフィーによってPcaとBPHを識別する方法は、これまでに提案されてきた方法と全く異なる方法として注目されるが、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するPSA量はトータルPSA量のわずか1〜2%と極微量であるため、精度の高い識別を行うためには分析試料として血清を大量(10ml程度)に必要とするという問題がある。また、使用するイヌエンジュレクチンは天然物からの抽出物であるため、ロット間での品質のばらつきが認められるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4514919号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stamey TA,Yang N,Hay AR,et al.,N.Engl.J.Med.1987;317:909−916
【非特許文献2】Catalona WJ,et al.,JAMA 1998;279:1542−1547
【非特許文献3】Ohyama C,et al.,Glycobiology,2004;14:671−679
【非特許文献4】Belanger A,Van Halbeek H,Gravuxes HC,et al.Prostate,1995;27:187−197
【非特許文献5】Tajiri M,Ohyama C,Wada Y,Glycobiology,2008;18:2−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、少ない分析試料で高感度に再現性よくPcaとBPHを識別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いた免疫学的測定法によって分析試料中に含まれる末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を測定することで、少ない分析試料で高感度に再現性よくPcaとBPHを識別できることを見出した。
【0009】
上記の知見に基づいてなされた本発明のPcaとBPHを識別するための方法は、請求項1記載の通り、PSAを含む分析試料と抗フリーPSA抗体を固定化した担体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAを結合させた後、固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAが結合した担体と末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体に結合したフリーPSAに末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させ、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を測定し、得られた測定量を予め設定されたPcaとBPHのカットオフ値と比較することにより、カットオフ値よりも多い場合はPcaであるかその蓋然性が高く、少ない場合はBPHであるかその蓋然性が高いと判定することによるものである。
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、PSAを含む分析試料が、血清、尿、前立腺組織抽出液、精液、膀胱洗浄液からなる群より選択される少なくとも1つであるものである。
また、請求項3記載の方法は、請求項1記載の方法において、抗フリーPSA抗体が抗ヒトフリーPSA特異的モノクローナル抗体(コンプレックスPSAと反応しないもの)であるものである。
また、請求項4記載の方法は、請求項1記載の方法において、担体が磁性粒子であるものである。
また、本発明のPcaとBPHを識別するためのキットは、請求項5記載の通り、抗フリーPSA抗体を固定化した担体と、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を少なくとも含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ない分析試料で高感度に再現性よくPcaとBPHを識別する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1における、Pca患者とBPH患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量の測定結果である(蛍光強度による)。
【
図3】実施例2における、Pca患者とBPH患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量の測定結果(左)と、この測定結果に基づくROC曲線(右)である。
【
図4】実施例3における、Pca患者とBPH患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量の測定結果(左)と、この測定結果に基づくROC曲線(右)である。
【
図5】実施例4における、Pca患者とBPH患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量の測定結果である(ブランク試料の蛍光強度またはHLT試料の蛍光強度で補正したもの)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のPcaとBPHを識別するための方法は、PSAを含む分析試料と抗フリーPSA抗体を固定化した担体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAを結合させた後、固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAが結合した担体と末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体に結合したフリーPSAに末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させ、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を測定し、得られた測定量を予め設定されたPcaとBPHのカットオフ値と比較することにより、カットオフ値よりも多い場合はPcaであるかその蓋然性が高く、少ない場合はBPHであるかその蓋然性が高いと判定することによるものである。
【0013】
本発明において、PSAを含む分析試料としては、血清、尿、前立腺組織抽出液、精液、膀胱洗浄液などが挙げられる。その調製は自体公知の方法によって行えばよい。分析試料は少量であってよい。望ましくは1〜1000μl、より望ましくは5〜500μl、最も望ましくは10〜100μlである。
【0014】
抗フリーPSA抗体を固定化した担体は、市販の抗フリーPSA抗体と担体を用いて自体公知の方法によって調製することができる。末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を高感度で測定するため、抗フリーPSA抗体として、抗ヒトフリーPSA特異的モノクローナル抗体(コンプレックスPSAと反応しないもの)を用いることが望ましい(例えばクローン2E2由来のものやクローン8A6由来のものなどが市販されている)。担体は、磁性粒子やウェルプレートなどの抗体を固定化することができるものであればどのようなものであってもよいが、磁力によって容易に回収することができるので取扱い性に優れるという点において磁性粒子が望ましい。なお、本発明において「フリーPSA」はα1−アンチキモトリプシンなどの蛋白と結合していないPSAを意味し、非蛋白結合型PSAや遊離型PSAとも称される(コンプレックスPSAは蛋白と結合しているPSAを意味する)。
【0015】
末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体は、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖、即ち、Siaα(2,3)Gal糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体であればどのようなものであってもよい。市販のものとしては本発明者である鈴木らのグループによって確立されたHYB4モノクローナル抗体(和光純薬社)が例示されるがこれに限定されるわけではない。
【0016】
PSAを含む分析試料と抗フリーPSA抗体を固定化した担体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAを結合させる工程と、固定化した抗フリーPSA抗体にフリーPSAが結合した担体と末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を接触させて担体に固定化した抗フリーPSA抗体に結合したフリーPSAに末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させる工程は、いずれも例えば、2℃〜5℃の温度条件で10分間〜3時間行えばよい。末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量の測定は、例えばELISA(Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)サンドイッチ法やフローサイトメトリー法によって行うことができる。後者の場合、測定は例えば検出可能な蛍光標識を行った二次抗体を用いて行えばよいが、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を蛍光標識して二次抗体を用いずに行うこともできる。なお、抗体の標識は検出可能なものであればどのようなものであってもよく、蛍光標識に限定されるわけではない。測定の際に必要に応じて、洗浄、精製、分画といった操作を行ってもよいことは言うまでもない。また、抗フリーPSA抗体を固定化した担体と、末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体は、PcaとBPHを容易かつ簡便に識別することができるように洗浄液などとともにキット化してもよい。
【0017】
こうして測定された末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量を予め設定されたPcaとBPHのカットオフ値と比較することにより、カットオフ値よりも多い場合はPcaであるかその蓋然性が高く、少ない場合はBPHであるかその蓋然性が高いと判定することができる。カットオフ値は、Pcaに罹患している男性群の測定値とBPHに罹患している男性群の測定値をもとに設定することができる。例えば蛍光標識を用いて測定する場合、カットオフ値は蛍光強度(MFI:Mean Fluorescence Intensity)として、測定条件などに応じて1〜10000の範囲にある数値で設定することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0019】
参考例1:末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するHYB4モノクローナル抗体の作製
本発明による前立腺癌と前立腺肥大の識別に用いる末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合した糖鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体を次の手順によって作製した。
【0020】
(1)抗原の調製
糖脂質であるIV
3NeuAcnLc
4Cer(NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1’Cer)を免疫原として使用した。
【0021】
(2)ハイブリドーマの作製
IV
3NeuAcnLc
4Cer(NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1’Cer)228μgをEtOH114μlに溶かし、超音波処理後、PBS 1820μlを加えて、37℃に加温した。その後、アジュバントとして酸処理したSalmonela minnesota菌体膜画分をPBSで1mg/mlに懸濁した溶液568μlを加えて37℃、10分間静置させた。この混合溶液200μlを0,4,7,11,21,25日目にC3Hマウスに尾静脈内投与した。最終投与後3日目に、免疫したマウスの脾臓から調製したリンパ球をケーラーとミルシュタインの常法(Nature,256,495,1975)に従って、細胞融合に供した。融合相手の親細胞に、マウス骨髄腫細胞株であるPAI(ヒューマンサイエンス研究資源バンク、JCRB0113)を用い、融合剤としてはポリエチレングリコール4000(メルク社)を用いた。このようにして融合した細胞は、HAT培地に懸濁し、96穴のマイクロカルチャープレートに分注して培養した。約2週間後、コロニー陽性ウェルの培養上清中の抗体産生をIV
3NeuAcnLc
4Cerを抗原とするELISA法でスクリーニングした。スクリーニングは96穴マイクロタイタープレート(ダイナテック社、IMMULON 1B)を用いて次のようにして行った。IV
3NeuAcnLc
4Cerを95%EtOHで0.1nmol/50μlに調製し、50μl/wellとなるように加えた。ブランクとなるウェルには95%EtOH50μlを入れた。減圧下でEtOHを蒸発させ、抗原糖脂質を固相化後、1% human serum albumin(Sigma社、A6784)含有PBS(PBS−1)を200μl/wellとなるように加え、室温に1時間放置した。PBS−1を除去後、ハイブリドーマ培養上清を50μl/wellとなるように加え、室温にて1時間反応させた。培養上清を除去後、PBS100μl/wellでウェルを1回洗浄した。PBS−1で10000倍希釈した二次抗体(Protein A−HRP)溶液を100μl/wellとなるように加え、室温にて1時間反応させた。二次抗体溶液を除去後、ウェルをPBS100μl/wellで5回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質(O−フェニレンジアミン2mgを80mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.6)5ml、30%過酸化水素2μlで溶解したもの)を100μl/wellとなるように加えた。遮光放置して発色が見られたところで1M HCl100μl/wellを加えて発色を停止させた。その後、測定波長492nm、対照波長630nmに設定したマイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。高い抗体産生能、良好な増殖能をもつ3つのハイブリドーマクローンが得られた(抗体産生陽性率:0.5%)。得られたクローンが産生する抗体のクラス(免疫グロブリンのタイプ)はすべてIgG3(κ)であった。以上のようにして選択されたハイブリドーマのうち、クローンHYB4由来のモノクローナル抗体がSiaα(2,3)Gal糖鎖と特異的に反応した。
【0022】
(3)HYB4モノクローナル抗体の調製
(2)において得られたハイブリドーマ(クローンHYB4)を、75cm2フラスコ(CORNING社、430720)を用いて、10%(v/v)Fetal bovine serum(FBS)含有RPMI1640培地(ニッスイ社、05918)25ml中、37℃、5%CO
2存在下で2日間前培養した。75cm2フラスコ2本から細胞を回収し、E−RDF培地(極東社、26500)1lに懸濁後、大量培養装置(スピンナーフラスコ)に移し、37℃で4日間回転培養を行った。この培養液中にSiaα(2,3)Gal糖鎖と特異的に反応するモノクローナル抗体が高濃度に含まれていた。クローンHYB4由来の培養液は、プロテインAセファロースによるアフニティクロマトグラフィーで精製した。こうしてハイブリドーマ(クローンHYB4)から調製したHYB4モノクローナル抗体は、免疫グロブリンのタイプがIgG3で、分子量は約15万ダルトンであった。こうして確立されたHYB4モノクローナル抗体は、和光純薬社から市販されている。
【0023】
実施例1:HYB4モノクローナル抗体を用いたPcaとBPHの識別(その1)
以下の手順によって行った。
【0024】
(1)担体への抗フリーPSA抗体の固定化
磁性ビーズであるMagplex microsphere(Luminex社)を担体として用い、その表面に抗フリーPSA抗体をXMAP Antibody Coupling Kitのマニュアルに従って固定した。具体的には、1.5mlチューブに6.25×10
6個/500μlのMagplex microsphereを添加し、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。チューブへ500μlのActivation bufferを添加し、10秒間混合後、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。再度チューブへ400μlのActivation bufferを添加し、10秒間混合した。次に50μlのSulfo−NHSと50μlのEDC溶液を添加し、10秒間混合後、20分間室温で放置した。Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。磁性ビーズを洗浄するため、500μlのWash bufferを添加し、10秒間混合後、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。この洗浄操作を計3回繰り返した。25μgの抗ヒトフリーPSA特異的モノクローナル抗体(クローン2E2由来のコンプレックスPSAと反応しない抗フリーPSA抗体)(フナコシ社)を1000μlのActivation bufferに混合し、磁性ビーズの入ったチューブに添加した。室温で緩やかに混合(15−30rpm)しながら2時間放置した。Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。磁性ビーズを洗浄するため、500μlのWash bufferを添加し、10秒間混合後、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。この洗浄操作を計3回繰り返した。最後に1mlのWash bufferを添加し、1μlあたり6250個の抗フリーPSA抗体を固定化したMagplex microsphereを調製し、使用するまで4℃で保存した。
【0025】
(2)Luminexシステムを用いた末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSAの定量
(A)定量対象者
トータルPSAのレベルが20.0ng/ml以下のPca患者79名およびBPH患者96名とし、それぞれの患者から血清を採取し、測定を行った。患者の組織病理学的診断は前立腺生検を行って確認した。患者の年齢、PSA値、病理組織学的悪性度分類および臨床病期を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
(B)定量方法
96穴白色プレート(WATMAN社)の各ウェルに(1)において調製した12500個/2μlの抗フリーPSA抗体固定化Magplex microsphereを添加した。Carbofree Blocking buffer(フナコシ社)を50μl添加し、磁性ビーズをブロッキングした後、各ウェルに分析試料である血清を20μl添加し、1時間、4℃で放置後、磁性ビーズを100μlの0.01%Tween20を含むTris−buffered saline(TBST)で3回洗浄した。次に50μlのHYB4モノクローナル抗体を混合し、1時間、4℃で放置した。磁性ビーズを50μlのTBSTで3回洗浄後、50μlのPhycoerythrin蛍光色素(PE)標識抗マウスIgG3抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を混合し、45分、室温で放置後、Luminex100フローメトリーに96穴白色プレートをセットし、各ウェルの蛍光強度(MFI:Mean Fluorescence Intensity)を測定した。
【0028】
(C)定量結果
図1に示す。
図1から明らかなように、Pca患者の血清の蛍光強度は、BPH患者の血清の蛍光強度よりも有意に高かった(P<0.001,Man whitney U−TEST)。これは即ち、Pca患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量は、BPH患者の血清中のそれより多いことを意味する。また、この定量結果からRelative Operating Characteristic curve(ROC曲線)により解析を行ったところ、MFI値のcutoff=128.5で、感度0.8354、特異度0.7083、AUC(曲線下面積:Area Under the Curve)=0.8445であった(
図2)。
【0029】
(3)PcaとBPHの識別
(2)で設定したMFIのカットオフ値を基準にして本発明の方法によってPcaとBPHの識別を行ったところ、従来のPSA検査でPcaの疑いがあると判断された患者(177名)で針生検を施行してBPHと診断された患者(98名)のうちの約75%(73名)の患者についてBPHと判定できた。以上の結果から、本発明によってPcaとBPHを少ない分析試料で高感度に再現性よく識別できることがわかった。現在行われているPca診断法としての血清PSAテストではPcaとBPHの識別は困難であり、PSA値が4ng/ml以上の場合、前立腺に針を刺入する生検が必要となる。しかしながら、針生検を施行した患者のうちPcaと診断される患者は約20%に過ぎず、結果として残りの約80%の患者には本来不要であった針生検を施行せざるを得ないのが現状である。しかも針生検は侵襲的であり、出血や感染症などの重篤な有害事象を伴うことが懸念される。本発明によれば、PcaとBPHを少ない分析試料で高感度に再現性よく識別できるので、針生検の施行を必要とする症例の絞り込みが可能になるため、これまで困難であった非侵襲的なPca診断の実施ができる。
【0030】
実施例2:HYB4モノクローナル抗体を用いたPcaとBPHの識別(その2)
以下の手順によって行った。
【0031】
(1)担体への抗フリーPSA抗体の固定化
磁性ビーズであるMagplex microsphere(Luminex社)を担体として用い、その表面に抗フリーPSA抗体をXMAP Antibody Coupling Kitのマニュアルに従って固定した。具体的には、1.5mlチューブに1.25×10
7個/1000μlのMagplex microsphereを添加し、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。チューブへ500μlのActivation bufferを添加し、10秒間混合後、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。再度チューブへ400μlのActivation bufferを添加し、10秒間混合した。次に50μlのSulfo−NHSと50μlのEDC溶液を添加し、10秒間混合後、20分間室温で放置した。Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。磁性ビーズを洗浄するため、500μlのWash bufferを添加し、10秒間混合後、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。この洗浄操作を計3回繰り返した。62.5μgの抗ヒトフリーPSA特異的モノクローナル抗体(クローン8A6由来のコンプレックスPSAと反応しない抗フリーPSA抗体)(Abcam社)を500μlのActivation bufferに混合し、磁性ビーズの入ったチューブに添加した。室温で緩やかに混合(15−30rpm)しながら2時間放置した。Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。磁性ビーズを洗浄するため、500μlのWash bufferを添加し、10秒間混合後、Magnetic Separator上で2分間、静置した。磁性ビーズ沈殿後、上清を吸引し、除去した。この洗浄操作を計3回繰り返した。最後に2mlのWash bufferを添加し、1μlあたり6250個の抗フリーPSA抗体を固定化したMagplex microsphereを調製し、使用するまで4℃で保存した。
【0032】
(2)Luminexシステムを用いた末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSAの定量
(A)定量対象者
トータルPSAのレベルが10.0ng/ml以下のPca患者138名およびBPH患者176名とし、それぞれの患者から血清を採取し、測定を行った。患者の組織病理学的診断は前立腺生検を行って確認した。患者の年齢、PSA値、病理組織学的悪性度分類および臨床病期を表2に示す(表中、Non−PCaはBPH患者を意味する)。
【0033】
【表2】
【0034】
(B)定量方法
実施例1に記載の方法と同様の方法で行った。
【0035】
(C)定量結果
図3左に示す(図中、Non−PCaはBPH患者を意味する)。
図3左から明らかなように、Pca患者の血清の蛍光強度は、BPH患者の血清の蛍光強度よりも有意に高かった(P<0.0001,Man whitney U−TEST)。これは即ち、Pca患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量は、BPH患者の血清中のそれより多いことを意味する。また、この定量結果からRelative Operating Characteristic curve(ROC曲線)により解析を行ったところ、MFI値のcutoff=1130で、感度90.6%、特異度64.2%、AUC=0.84であった(
図3右:S2,3PSA)。これに対し、トータルPSA測定法はAUC=0.61、%フリーPSA測定法(フリーPSA/トータルPSAの比を指標にした方法)はAUC=0.60であった(
図3右:図中、PSAはトータルPSA測定法、%fPSAは%フリーPSA測定法を意味する)。よって、本発明の方法は感度90%以上であってAUC=0.80以上であることは、本発明の方法がPcaとBPHの識別精度に優れていることを裏付けるものであった。本発明の方法と、トータルPSA測定法および%フリーPSA測定法について、特異度、診断精度、陽性診断率、陰性診断率を比較した結果を表3に示す(表中、S2,3PSAは本発明の方法、PSAはトータルPSA測定法、%fPSAは%フリーPSA測定法を意味する)。表3から明らかなように、本発明の方法によれば、特異度60%以上、診断精度70%以上、陽性診断率60%以上、陰性診断率80%以上でもって、PcaとBPHを識別できることがわかった。
【0036】
【表3】
【0037】
実施例3:HYB4モノクローナル抗体を用いたPcaとBPHの識別とイヌエンジュレクチンを用いたPcaとBPHの識別の比較
以下の手順によって行った。
【0038】
(1)担体への抗フリーPSA抗体の固定化
実施例2に記載の方法と同様の方法で行った。
【0039】
(2)Luminexシステムを用いた末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSAの定量
(A)定量対象者
トータルPSAのレベルが20.0ng/ml以下のPca患者48名およびBPH患者54名とし、それぞれの患者から血清を採取し、測定を行った。患者の組織病理学的診断は前立腺生検を行って確認した。患者の年齢、PSA値、病理組織学的悪性度分類および臨床病期を表4に示す(表中、Non−PCaはBPH患者を意味する)。
【0040】
【表4】
【0041】
(B)定量方法
(i)HYB4モノクローナル抗体を用いる場合
実施例1に記載の方法と同様の方法で行った。
【0042】
(ii)イヌエンジュレクチンを用いる場合
96穴白色プレート(WATMAN社)の各ウェルに(1)において調製した12500個/2μlの抗フリーPSA抗体固定化Magplex microsphereを添加した。Carbofree Blocking buffer(フナコシ社)を50μl添加し、磁性ビーズをブロッキングした後、各ウェルに分析試料である血清を20μl添加し、1時間、4℃で放置後、磁性ビーズを100μlの0.01%Tween20を含むTris−buffered saline(TBST)で3回洗浄した。次に50μlのビオチン標識イヌエンジュレクチン(Biotinylated MAA:Vector laboratories社)を混合し、1時間、4℃で放置した。磁性ビーズを50μlのTBSTで3回洗浄後、50μlのPhycoerythrin蛍光色素(PE)標識ストレプトアビジン(Santa Cruz Biotechnology社)を混合し、45分、室温で放置後、Luminex100フローメトリーに96穴白色プレートをセットし、各ウェルの蛍光強度(MFI)を測定した。
【0043】
(C)定量結果
図4左に示す(図中、Non−PCaはBPH患者、HYB4は本発明の方法、MAAはイヌエンジュレクチンを用いた方法を意味する)。
図4左から明らかなように、本発明の方法によれば、Pca患者の血清の蛍光強度とBPH患者の血清の蛍光強度の違いを、20μlという少ない血清量で認識することができたが、イヌエンジュレクチンを用いた方法ではできなかった。また、この定量結果からRelative Operating Characteristic curve(ROC曲線)により解析を行ったところ、
図4右から明らかなように、本発明の方法はAUC=0.8561であった(S2,3PSA HYB4)。これに対し、イヌエンジュレクチンを用いた方法はAUC=0.6256であり(S2,3PSA MAA)、トータルPSA測定法のAUC(0.5305:PSA)と%フリーPSA測定法のAUC(0.6582:%fPSA)と大差がなかった。よって、本発明の方法は、イヌエンジュレクチンを用いた方法と比較して、少ない分析試料でもPcaとBPHの識別精度が優れていることがわかった。
【0044】
実施例4:HYB4モノクローナル抗体を用いたPcaとBPHの識別のためのカットオフ値の設定
実施例2における本発明の方法によるPcaとBPHの識別のためのカットオフ値を規格化するため、27例の血清を含まない試料(ブランク試料:リン酸緩衝液)または80例の健常者の血清(HLT試料)について実施例2に記載の方法と同様の方法で測定した蛍光強度で分析試料である血清の蛍光強度を除算することによって比率で表した。結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、HLT試料では末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSAが存在しないため、その蛍光強度はブランク試料の蛍光強度とほぼ同じであった。27例のブランク試料の蛍光強度の平均値あるいは中央値または80例のHLT試料の蛍光強度の平均値あるいは中央値でPca患者の血清の蛍光強度およびBPH患者の血清の蛍光強度を除算し、比率を求めた結果、検出感度90%を満たすカットオフ値は表5の通りであり、Pcaが疑われる患者の血清の蛍光強度をブランク試料の蛍光強度の平均値あるいは中央値またはHLT試料の蛍光強度の平均値あるいは中央値で除算した値がカットオフ値よりも高い場合はPcaであるであるかその蓋然性が高く、少ない場合はBPHであるかその蓋然性が高いと判定することができることがわかった。
【0045】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、少ない分析試料で高感度に再現性よくPcaとBPHを識別する方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【手続補正書】
【提出日】2015年5月23日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
(2)ハイブリドーマの作製
IV
3NeuAcnLc
4Cer(NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcβ1−1’Cer)228μgをEtOH114μlに溶かし、超音波処理後、PBS 1820μlを加えて、37℃に加温した。その後、アジュバントとして酸処理した
Salmonella minnesota菌体膜画分をPBSで1mg/mlに懸濁した溶液568μlを加えて37℃、10分間静置させた。この混合溶液200μlを0,4,7,11,21,25日目にC3Hマウスに尾静脈内投与した。最終投与後3日目に、免疫したマウスの脾臓から調製したリンパ球をケーラーとミルシュタインの常法(Nature,256,495,1975)に従って、細胞融合に供した。融合相手の親細胞に、マウス骨髄腫細胞株であるPAI(ヒューマンサイエンス研究資源バンク、JCRB0113)を用い、融合剤としてはポリエチレングリコール4000(メルク社)を用いた。このようにして融合した細胞は、HAT培地に懸濁し、96穴のマイクロカルチャープレートに分注して培養した。約2週間後、コロニー陽性ウェルの培養上清中の抗体産生をIV
3NeuAcnLc
4Cerを抗原とするELISA法でスクリーニングした。スクリーニングは96穴マイクロタイタープレート(ダイナテック社、IMMULON 1B)を用いて次のようにして行った。IV
3NeuAcnLc
4Cerを95%EtOHで0.1nmol/50μlに調製し、50μl/wellとなるように加えた。ブランクとなるウェルには95%EtOH50μlを入れた。減圧下でEtOHを蒸発させ、抗原糖脂質を固相化後、1% human serum albumin(Sigma社、A6784)含有PBS(PBS−1)を200μl/wellとなるように加え、室温に1時間放置した。PBS−1を除去後、ハイブリドーマ培養上清を50μl/wellとなるように加え、室温にて1時間反応させた。培養上清を除去後、PBS100μl/wellでウェルを1回洗浄した。PBS−1で10000倍希釈した二次抗体(Protein A−HRP)溶液を100μl/wellとなるように加え、室温にて1時間反応させた。二次抗体溶液を除去後、ウェルをPBS100μl/wellで5回洗浄した。ペルオキシダーゼ基質(O−フェニレンジアミン2mgを80mMクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.6)5ml、30%過酸化水素2μlで溶解したもの)を100μl/wellとなるように加えた。遮光放置して発色が見られたところで1M HCl100μl/wellを加えて発色を停止させた。その後、測定波長492nm、対照波長630nmに設定したマイクロプレートリーダーで吸光度を測定した。高い抗体産生能、良好な増殖能をもつ3つのハイブリドーマクローンが得られた(抗体産生陽性率:0.5%)。得られたクローンが産生する抗体のクラス(免疫グロブリンのタイプ)はすべてIgG3(κ)であった。以上のようにして選択されたハイブリドーマのうち、クローンHYB4由来のモノクローナル抗体がSiaα(2,3)Gal糖鎖と特異的に反応した。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
(B)定量方法
96穴白色プレート(
WHATMAN社)の各ウェルに(1)において調製した12500個/2μlの抗フリーPSA抗体固定化Magplex microsphereを添加した。Carbofree Blocking buffer(フナコシ社)を50μl添加し、磁性ビーズをブロッキングした後、各ウェルに分析試料である血清を20μl添加し、1時間、4℃で放置後、磁性ビーズを100μlの0.01%Tween20を含むTris−buffered saline(TBST)で3回洗浄した。次に50μlのHYB4モノクローナル抗体を混合し、1時間、4℃で放置した。磁性ビーズを50μlのTBSTで3回洗浄後、50μlのPhycoerythrin蛍光色素(PE)標識抗マウスIgG3抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を混合し、45分、室温で放置後、Luminex100フローメトリーに96穴白色プレートをセットし、各ウェルの蛍光強度(MFI:Mean Fluorescence Intensity)を測定した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
(C)定量結果
図1に示す。
図1から明らかなように、Pca患者の血清の蛍光強度は、BPH患者の血清の蛍光強度よりも有意に高かった(P<0.001,
Mann Whitney U−test)。これは即ち、Pca患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量は、BPH患者の血清中のそれより多いことを意味する。また、この定量結果からRelative Operating Characteristic curve(ROC曲線)により解析を行ったところ、MFI値のcutoff=128.5で、感度0.8354、特異度0.7083、AUC(曲線下面積:Area Under the Curve)=0.8445であった(
図2)。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0035
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0035】
(C)定量結果
図3左に示す(図中、Non−PCaはBPH患者を意味する)。
図3左から明らかなように、Pca患者の血清の蛍光強度は、BPH患者の血清の蛍光強度よりも有意に高かった(P<0.0001,
Mann Whitney U−test)。これは即ち、Pca患者の血清中の末端シアル酸残基がα(2,3)結合でガラクトースに結合したN型糖鎖を有するフリーPSA量は、BPH患者の血清中のそれより多いことを意味する。また、この定量結果からRelative Operating Characteristic curve(ROC曲線)により解析を行ったところ、MFI値のcutoff=1130で、感度90.6%、特異度64.2%、AUC=0.84であった(
図3右:S2,3PSA)。これに対し、トータルPSA測定法はAUC=0.61、%フリーPSA測定法(フリーPSA/トータルPSAの比を指標にした方法)はAUC=0.60であった(
図3右:図中、PSAはトータルPSA測定法、%fPSAは%フリーPSA測定法を意味する)。よって、本発明の方法は感度90%以上であってAUC=0.80以上であることは、本発明の方法がPcaとBPHの識別精度に優れていることを裏付けるものであった。本発明の方法と、トータルPSA測定法および%フリーPSA測定法について、特異度、診断精度、陽性診断率、陰性診断率を比較した結果を表3に示す(表中、S2,3PSAは本発明の方法、PSAはトータルPSA測定法、%fPSAは%フリーPSA測定法を意味する)。表3から明らかなように、本発明の方法によれば、特異度60%以上、診断精度70%以上、陽性診断率60%以上、陰性診断率80%以上でもって、PcaとBPHを識別できることがわかった。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
(ii)イヌエンジュレクチンを用いる場合
96穴白色プレート(
WHATMAN社)の各ウェルに(1)において調製した12500個/2μlの抗フリーPSA抗体固定化Magplex microsphereを添加した。Carbofree Blocking buffer(フナコシ社)を50μl添加し、磁性ビーズをブロッキングした後、各ウェルに分析試料である血清を20μl添加し、1時間、4℃で放置後、磁性ビーズを100μlの0.01%Tween20を含むTris−buffered saline(TBST)で3回洗浄した。次に50μlのビオチン標識イヌエンジュレクチン(Biotinylated MAA:Vector laboratories社)を混合し、1時間、4℃で放置した。磁性ビーズを50μlのTBSTで3回洗浄後、50μlのPhycoerythrin蛍光色素(PE)標識ストレプトアビジン(Santa Cruz Biotechnology社)を混合し、45分、室温で放置後、Luminex100フローメトリーに96穴白色プレートをセットし、各ウェルの蛍光強度(MFI)を測定した。
【国際調査報告】