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再表2014-68631キラルな金属酸化物構造体の製造方法、及びキラルな多孔質構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2014年5月8日
【発行日】2016年9月8日
(54)【発明の名称】キラルな金属酸化物構造体の製造方法、及びキラルな多孔質構造体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20160815BHJP
   C01B 13/32 20060101ALI20160815BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20160815BHJP
【FI】
   C01G23/053
   C01B13/32
   B82Y40/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】22
【出願番号】特願2014-544063(P2014-544063)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2012年10月29日
(11)【特許番号】特許第5958842号(P5958842)
(45)【特許公報発行日】2016年8月2日
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】金 仁華
(72)【発明者】
【氏名】松木囿 裕之
【テーマコード(参考)】
4G042
4G047
【Fターム(参考)】
4G042DA01
4G042DB12
4G042DB24
4G042DB31
4G042DC03
4G042DD04
4G042DD13
4G042DE08
4G042DE14
4G047CA02
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD07
(57)【要約】
【課題】より簡便な手法によりキラルな遷移金属酸化物の構造体を得る方法、及びそのような方法により得られるキラルな遷移金属酸化物の構造体を提供すること。
【解決手段】直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、二つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に、二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属化合物を作用させるゾルゲル法により、上記キラル超分子結晶の表面に金属酸化物層を形成させるゾルゲル工程と、当該ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶を焼成することで、有機物である上記キラル超分子結晶を熱分解させ、当該超分子結晶を鋳型とした上記金属酸化物層からなる遷移金属酸化物構造体を得る焼成工程と、を備えたキラルな金属酸化物構造体の製造方法を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属化合物を作用させるゾルゲル法により、前記キラル超分子結晶の表面に金属酸化物層を形成させるゾルゲル工程と、
前記ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶を焼成することで、有機物である前記キラル超分子結晶を熱分解させ、当該超分子結晶を鋳型とした前記金属酸化物層からなる遷移金属酸化物構造体を得る焼成工程と、を備えたキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属化合物がチタン化合物である請求項1記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸化合物が酒石酸である請求項1又は2記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属化合物が乳酸チタンであり、前記キラル超分子結晶に前記乳酸チタンを作用させるに際して塩基を共存させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項5】
電界放出型走査電子顕微鏡で観察された粒子径が1〜100nmである遷移金属酸化物の一次粒子が凝集してなる多孔質構造体であって、粉砕された状態で観察される拡散反射円二色性スペクトルにおいて正又は負のコットン効果が観察されることを特徴とするキラルな多孔質構造体。
【請求項6】
前記遷移金属酸化物が酸化チタンである請求項5記載のキラルな多孔質構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラルな金属酸化物構造体の製造方法、及びキラルな多孔質構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子間相互作用により有機又は無機化合物を平衡又は非平衡状態で自己組織化させて得られる、特定の空間形状やナノメートルオーダーの規則的構造等を備えたナノ構造体が盛んに提案されている。これらのナノ構造体は、様々な組成の有機/無機複合ナノ材料を構築するための基盤として用いることができるばかりでなく、各種の材質からなるナノ構造体を形成するための鋳型としても用いることができることから、学際的分野や産業的分野等から関心を寄せられている。
【0003】
このようなナノ構造物の例として、例えば特許文献1には、特定の化学構造を備えた界面活性剤を溶液中で自己組織化させ、その周囲でシリカ源となる化合物をゾルゲル反応させてメソポーラスシリカ粒子を形成させることが提案されている。また、特許文献2には、互いに相溶しない非水溶性及び水溶性である2種のポリマーからミクロな相分離構造を形成させ、これをもとに平均孔径1〜200nmのシリンダー構造の細孔を備えた多孔質膜を形成させることが提案されている。また、生体高分子であるDNAやタンパク質が自己組織化により独特な立体構造を備えたナノ構造体となることもよく知られている。しかし、結晶性を備えたポリマーからなる結晶性のナノ構造物は少ない。
【0004】
また、キラリティーを備えたナノ構造体を鋳型とし、その周囲にシリカ等の金属酸化物の層を成長させることにより、鋳型の持つキラリティーを金属酸化物に転写させることが提案されている。このような例として、特許文献2には、らせん構造等の光学活性なキラル配向構造を備えた重合体を鋳型とし、当該鋳型に金属ソースを作用させてキラルな有機/無機複合体を得ることが提案されている。金属酸化物へのキラリティーの付与には、キラルミセルをテンプレートにして合成したねじれ構造のメソポーラスシリカがもっとも成功した例である(特許文献3)。しかしながら、有機系キラルテンプレートから非結晶性のキラルシリカが製造できても、結晶性のキラル金属酸化物の製造例は未だに報告されたことがない。つい最近になって、例えば、非特許文献1に報告されたように、キラルな有機結晶であるナノ結晶セルロースにシリカソースを作用させた後に焼成することでキラリティーを備えたシリカ製の鋳型を作製し、ハードテンプレートである当該鋳型の表面に四塩化チタンを作用させて酸化チタンの層を成長させ、最後に水酸化ナトリウム水溶液を用いて鋳型であるシリカを除去することで、キラリティーを備えた酸化チタンの結晶を得ることが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−208907号公報
【特許文献2】特開2005−239863号公報
【特許文献3】特許第4607101号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kevin E.Shopsowitz,Alexander Stahl,Wadood Y.Hamad,and Mark J. MacLachlan,Angew.Chem.,2012,51,6886−6890
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化チタンは、周知のように、触媒としての性質と半導体としての性質を備えるため、キラルな酸化チタン結晶は、キラルな生成物を得ることのできる反応場としての用途が期待できるとともに、円偏光のような特殊な偏光を備えた光にのみ感応するセンサー等としてセキュリティー分野への用途も期待できる。しかしながら、チタンを初めとした遷移金属ソースとして一般的に用いられる化合物は反応性が高くて扱いにくいため、これを用いて結晶やナノ粒子等といったキラルな金属酸化物の構造体を得るには、非特許文献1に記載されたような煩雑な操作を必要とするのが現状である。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、より簡便な手法によりキラルな遷移金属酸化物の構造体を得る方法、及びそのような方法により得られるキラルな遷移金属酸化物の構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物とから得られる酸塩基型のキラル超分子結晶を用いれば、温和な反応性を有する二座以上のキレート配位子型の遷移金属錯体を金属ソースとしたゾルゲル反応により、金属酸化物のキラルな構造体を調製できることを見出した。このような手法により金属酸化物の構造体を調製できる理由は、必ずしも明らかでないが、この超分子錯体が、ポリエチレンイミンに由来する塩基性の二級アミノ基とジカルボン酸に由来する酸性のカルボキシル基とを備えるため、塩基触媒や酸触媒によって触媒される反応における良好な反応場になり、キレート配位子型の遷移金属錯体の加水分解を触媒したためと推察される。このような調製方法であれば、非特許文献1に記載されるように、有機物の備えるキラリティーをハードテンプレートに転写する手間が省けるので、金属酸化物のキラルな構造体を調製するための工数を削減することができる。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属化合物を作用させるゾルゲル法により、上記キラル超分子結晶の表面に金属酸化物層を形成させるゾルゲル工程と、当該ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶を焼成することで、有機物である上記キラル超分子結晶を熱分解させ、当該超分子結晶を鋳型とした上記金属酸化物層からなる遷移金属酸化物構造体を得る焼成工程と、を備えたキラルな金属酸化物構造体の製造方法である。
【0011】
(2)また本発明は、上記遷移金属化合物がチタン化合物である(1)項記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法である。
【0012】
(3)また本発明は、上記ジカルボン酸化合物が酒石酸である(1)項又は(2)項記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法である。
【0013】
(4)また本発明は、上記遷移金属化合物が乳酸チタンであり、上記キラル超分子結晶にこの乳酸チタンを作用させるに際して塩基を共存させることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法である。
【0014】
(5)また本発明は、電界放出型走査電子顕微鏡で観察された粒子径が1〜100nmである遷移金属酸化物の一次粒子が凝集してなる多孔質構造体であって、粉砕された状態で観察される拡散反射円二色性スペクトルにおいて正又は負のコットン効果が観察されることを特徴とするキラルな多孔質構造体である。
【0015】
(6)また本発明は、上記遷移金属酸化物が酸化チタンである(5)項記載のキラルな多孔質構造体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より簡便な手法によりキラルな遷移金属酸化物の構造体を得る方法、及びそのような方法により得られるキラルな遷移金属酸化物の構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、LPEIとD−又はL−酒石酸と酸化チタンとの複合体についての拡散反射円二色性スペクトルである。
図2図2は、LPEIとD−又はL−酒石酸と酸化チタンとの複合体を焼成して得たチタン酸化物構造体の拡散反射円二色性スペクトルである。
図3図3は、実施例1における焼成後に得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)のXRDスペクトルである。
図4図4は、実施例1におけるLPEIとD−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/D−Tart)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
図5図5は、実施例1における600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
図6図6は、実施例2における焼成後に得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)のXRDスペクトルである。
図7図7は、実施例2におけるLPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/L−Tart)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
図8図8は、実施例2における600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
図9図9は、LPEIとDL−酒石酸と酸化チタンとの複合体についての拡散反射円二色性スペクトルである。
図10図10は、LPEIとDL−酒石酸と酸化チタンとの複合体を焼成して得たチタン酸化物構造体の拡散反射円二色性スペクトルである。
図11図11は、参考例1における焼成後に得られたチタン酸化物構造体(TiO@DL)のXRDスペクトルである。
図12図12は、参考例1におけるLPEIとDL−酒石酸との複合体(TiO@LPEI/DL−Tart)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、c、d、eと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るキラルな金属酸化物構造体の製造方法の一実施態様、及びキラルな多孔質構造体の一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様及び実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<キラルな金属酸化物構造体の製造方法>
本発明に係るキラルな金属酸化物構造体の製造方法は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属化合物を作用させるゾルゲル法により、上記キラル超分子結晶の表面に金属酸化物層を形成させるゾルゲル工程と、当該ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶を焼成することで、有機物である上記キラル超分子結晶を熱分解させ、当該超分子結晶を鋳型とした上記金属酸化物層からなる遷移金属酸化物構造体を得る焼成工程と、を備える。本発明に係るキラルな金属酸化物構造体の製造方法が上記の各工程を備えることにより、ジカルボン酸化合物の持つキラリティーの反映された超分子結晶が鋳型となり、その鋳型をもとにして形成された金属酸化物構造体に当該キラリティーが転写される。このキラルな金属酸化物構造体は、遷移金属酸化物のナノ粒子が集合した多孔質構造を備え、キラルな反応場としての用途や、キラルな半導体素子としての用途を初めとした各種用途に有用である。以下、本発明に係るキラルな金属酸化物構造体の製造方法が備える各工程について説明する。
【0020】
[ゾルゲル工程]
ゾルゲル工程では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属化合物を作用させる。
【0021】
本発明で用いられる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマー(以下、単に「ポリマー」とも呼ぶ。)は、下記化学式で表される構造を分子内に備える。下記化学式で表される構造には二級のアミノ基が含まれ、このアミノ基の窒素原子が後述するキラルなジカルボン酸化合物に含まれるカルボキシル基と相互作用して酸塩基型の錯体を形成する。上記キラルなジカルボン酸化合物は、二個のカルボキシル基を備えた二塩基酸であり、二分子のポリマーに含まれるアミノ基のそれぞれと錯体を形成することができるので、ポリマーは、キラルなジカルボン酸化合物によって架橋される。その結果、複数のポリマーと複数のキラルなジカルボン酸化合物とが自己組織化した構造を備えた酸塩基型錯体型の超分子結晶が形成される。この超分子結晶は、上記キラルなジカルボン酸化合物に誘起された、構造的なキラリティーを備える。
【0022】
【化1】
(上記化学式中、nは1以上の整数である。)
【0023】
本発明で用いられるポリマーは、分子内に上記化学式で示す直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えていれば足り、その他の部分の構造は特に問わないので、線状構造はもちろん、星状、櫛状の構造であってもよく、上記化学式からなるホモポリマーであってもよいし、他の繰り返し単位も備えた共重合体であってもよい。ポリマーが共重合体である場合、当該ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分のモル比が20%以上であれば安定な結晶を形成できるとの観点から好ましく、直鎖状ポリエチレンイミン骨格の繰り返し単位数が10以上となるブロック共重合体であることがより好ましい。ポリマーは、上記化学式からなるホモポリマーであることが最も好ましい。
【0024】
また、ポリマーとしては、後述するキラルなジカルボン酸化合物との間で結晶性の会合体を形成させる能力が高いほど好ましい。したがって、ポリマーは、ホモポリマーであっても共重合体であっても、上記化学式で示される直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分に相当する部分の分子量が500〜1,000,000程度の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーは、市販品を用いてもよいし、本発明者らが特開2009−30017号公報等に開示した合成法によって得ることもできる。
【0025】
本発明で用いられるキラルなジカルボン酸化合物は、4以上の炭素原子を備える。既に述べたように、このジカルボン酸化合物の備える2個のカルボキシル基が上記のポリマーを架橋して超分子結晶を形成させるとともに、このジカルボン酸に由来する構造的なキラリティーが形成される超分子結晶に誘起される。ジカルボン酸化合物はD−体であってもL−体であってもよい。なお、ジカルボン酸化合物の光学純度は、必ずしも100%eeである必要はなく、90%ee以上であることが好ましく、95%ee以上であることがより好ましく、98%ee以上であることがさらに好ましい。
【0026】
ジカルボン酸化合物としては、4以上の炭素原子と2個のカルボキシル基と不斉炭素とを備えるものであればよく、直鎖状であるか分枝状であるかを問わない。このようなジカルボン酸化合物としては、酒石酸、アルトラル酸、グルカル酸、マンナル酸、グルロン酸、イダル酸、ガラクタル酸、タルロン酸等が例示され、酒石酸が好ましく例示される。
【0027】
本発明で用いられる遷移金属化合物は、二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属錯体化合物である。一般に遷移金属錯体化合物は、反応性が極めて高く、僅かな水分と反応して遷移金属酸化物や遷移金属水酸化物に変換されてしまうので水系で用いることが難しい。しかしながら、二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属錯体化合物は、反応性が比較的穏やかであり、水系で用いることができる。そのため、上記のキラルな超分子錯体と水系で反応させて、キラルな遷移金属酸化物構造体を形成させることが可能になる。
【0028】
遷移金属錯体を構成する遷移金属としては、特に限定されない。周知の通り、遷移金属元素を含む化合物は触媒活性や半導体特性を示すものが多く、中でもチタンを含む化合物である酸化チタンはそのような活性や特性が高い。このような観点からは、遷移金属としてチタンを好ましく用いることができる。また、キレート配位子としては、二座以上のものであれば特に限定されない。このような配位子としては、乳酸、アセチルアセトン、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン等を例示することができるが、中でも乳酸を好ましく用いることができる。これらのことから、本発明で用いられる遷移金属としては、乳酸チタンが好ましく例示される。
【0029】
本工程では、まず、上述のポリマーとキラルなジカルボン酸とを水中で作用させて、これらと水分子とからなる超分子結晶を形成させる。次に、このような超分子結晶を形成させるための一態様について説明する。この態様では、ポリマー水溶液調製小工程と、ジカルボン酸水溶液調製小工程と、混合小工程と、析出小工程と、を順次行う。以下、これらの工程について説明する。
【0030】
ポリマー水溶液調製小工程では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーの水溶液が調製される。このとき、水溶液を調製するのに用いる水は、加温されることにより、80℃以上の熱水となっていることが好ましい。また、このとき用いられる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーについては、既に述べた通りである。
【0031】
ポリマーの水溶液を調製する手順の一例としては、ポリマーの粉末を蒸留水に加え、それを80℃以上まで加熱することによってポリマーを溶解させることを挙げることができる。このとき、水溶液におけるポリマーの濃度は、0.5〜8質量%の範囲であることが好ましい。
【0032】
調製されたポリマーの水溶液は、加温された状態のままで、後述の混合小工程に付される。
【0033】
ジカルボン酸水溶液調製小工程は、特に限定されないが、上記のポリマー水溶液調製小工程と並行して行われることが好ましい。この小工程では、上述のジカルボン酸化合物の水溶液を調製する。ここで用いられるジカルボン酸化合物はキラル(光学活性体)である。なお、水溶液を調製するのに用いる水は、加温されることにより、80℃以上の熱水となっていることが好ましい。
【0034】
ジカルボン酸化合物の水溶液を調製する手順の一例としては、当該ジカルボン酸化合物の粉末を蒸留水に加え、それを80℃以上まで加熱することによってジカルボン酸化合物を溶解させることを挙げることができる。このとき、水溶液におけるジカルボン酸化合物の濃度は、0.5〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0035】
調製されたジカルボン酸化合物の水溶液は、加温された状態のままで、後述の混合小工程に付される。
【0036】
混合小工程では、上記のポリマーの水溶液とジカルボン酸化合物の水溶液とを混合させて混合水溶液を得る。このとき、混合される2つの水溶液は、いずれも80℃以上程度の温度に加温されていることが好ましい。
【0037】
ポリマーの水溶液とジカルボン酸化合物の水溶液とを混合させる際、ポリマーの直鎖状ポリエチレンイミン骨格に含まれる二級アミノ基1当量に対して、ジカルボン酸化合物に含まれるカルボキシル基が、0.5〜1.5当量であることが好ましく、0.9〜1.1当量であることがより好ましく、1当量であることがさらに好ましい
【0038】
この小工程で調製された混合水溶液は、析出小工程に付される。
【0039】
析出小工程では、混合小工程で得られた混合水溶液中にポリマーとジカルボン酸化合物との酸塩基型錯体を析出させる。この酸塩基型錯体は、既に述べたように、キラルな超分子結晶(キラル超分子結晶)である。なお、以下の記載では、キラル超分子結晶のことを単に超分子結晶とも呼ぶ。
【0040】
この小工程を行うにあたり、加温された状態である混合水溶液を徐々に冷却させる。このときの冷却方法については、特に限定されるものでないが、一例として空気雰囲気下で自然冷却して室温まで水温を下げる方法を挙げることができる。この過程で水溶液中に白い固体が析出するが、この粉末は、ナノサイズである酸塩基型錯体の結晶(超分子結晶)が凝集してできた多孔質の複合体である。なお、上記のように自然冷却を行うに際して、混合された水溶液を静置したまま放置してもよいし、当該水溶液に撹拌や振動を与えることによって固体の析出を促進してもよい。得られた白色の析出物は、濾別等の手段により単離される。単離された後の析出物を蒸留水やエタノール、アセトン等の有機溶媒で適宜洗浄し、乾燥させてもよい。
【0041】
上記のようにして得られた超分子結晶は、上述の遷移金属化合物との反応に付される。この反応は、遷移金属化合物及び塩基を含む水溶液(ゾルゲル反応液)に超分子結晶を加えて室温で撹拌することにより行われる。この過程で遷移金属化合物は、ゾルゲル反応を生じ、超分子結晶の表面に遷移金属酸化物の層を形成させる。なお、ゾルゲル反応の結果生じる化合物は、正確には、遷移金属元素(M)と酸素原子(O)とからなるポリマー[(−M−O−)]が大半となるが、本発明ではこのポリマーを含めて金属酸化物又は遷移金属酸化物という用語を用いる。
【0042】
塩基としては、特に限定されないが、アンモニア水を好ましく用いることができる。遷移金属は、酸性の配位子を持ち、水溶液となったときに酸性を呈するものがある。酸塩基型錯体である超分子結晶は低いpHの水溶液中で分解されてしまう場合もあるので、ゾルゲル反応液中に塩基を加え、そのpHが3〜8程度となるような条件でゾルゲル反応を行う必要がある。なお、塩基は、単にゾルゲル反応液のpHを調節するために添加されるものなので、遷移金属の水溶液のpHが上記の範囲を呈する場合には、必ずしもゾルゲル反応液に塩基を加えなくともよい。
【0043】
遷移金属化合物と塩基と水とを混合してゾルゲル反応液を調製するに際して、これらの混合比は溶液のpHを確認しながら適宜決定される。一例として、遷移金属化合物として乳酸チタン(マツモトファインケミカル株式会社製、オルガチックスTC−310、乳酸チタン44質量%水溶液;以下単にTC−310とも呼ぶ。)を用い、塩基として1Mアンモニア水を用いる場合、乳酸チタン(TC−310)と塩基との比率は容積比(TC−310:1Mアンモニア水)で1:2〜2:1程度、好ましくは1:1程度を挙げることができ、乳酸チタンと塩基との合計と水との比率は容積比[(TC−310+1Mアンモニア水):水]で1:0.5〜1:2程度、好ましくは1:2程度を挙げることができる。最も好ましい容積比としては、乳酸チタン(TC−310):1Mアンモニア:水=6:6:23を挙げることができる。
【0044】
ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶は、焼成工程に付される。
【0045】
[焼成工程]
焼成工程では、ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶を焼成することで、有機物であるキラル超分子結晶を熱分解させ、当該超分子結晶を鋳型とした上記金属酸化物層からなるキラルな遷移金属酸化物構造体を得る。ここで行われる焼成により、鋳型となったキラル超分子結晶が熱分解により蒸発し、鋳型の周りに形成されたキラルな金属酸化物構造体のみが残る。なお、上記のように、ゾルゲル工程を経た金属酸化物層は遷移金属元素(M)と酸素原子(O)とからなるポリマーだったが、この工程における焼成を経ることにより、このポリマーが金属酸化物(チタンを用いた場合には酸化チタン(TiO))に変換されるとともに、アモルファス状態だった金属酸化物が結晶化してキラルな金属酸化物構造体となる。
【0046】
焼成の条件は、金属酸化物が、所望する結晶状態となるような条件となるように適宜決定すればよい。例えば、遷移金属化合物としてチタン化合物を用いた場合には、300〜800℃で焼成することにより結晶化してキラルな酸化チタン構造体を得ることができる。ところで、酸化チタンにはアナターゼ型及びルチル型の2種類の結晶状態があり、アナターゼ型の結晶の方が優れた触媒活性や半導体特性を示すとされている。この場合、焼成条件を300〜550℃とすればアナターゼ型の結晶を得ることができるので好ましく、500〜550℃とすることがより好ましい。
【0047】
焼成工程を経て得られたキラルな金属酸化物構造体は、鋳型として用いたキラル超分子結晶に誘起された、原子配列等といった構造に基づくキラリティーを備える。特に、遷移金属化合物としてチタン化合物を用いて得られるキラルな酸化チタンは、触媒活性や半導体特性を備えるので、キラルな反応場としての用途や、キラルな半導体素子としての用途を初めとした各種用途に有用である。そして、本発明のキラルな金属酸化物構造体の製造方法によれば、有機物の備えるキラリティーをハードテンプレートに転写する手間が省けるので、金属酸化物のキラルな構造体を調製するための工数を削減することができる。
【0048】
<キラルな多孔質構造体>
上記のキラルな金属酸化物構造体の製造方法で得られるキラルな金属酸化物構造体もまた本発明の一つである。このキラルな金属酸化物構造体は、電界放出型走査電子顕微鏡で観察された粒子径が1〜100nmである遷移金属酸化物の一次粒子が凝集してなるキラルな多孔質構造体である。次に、このキラルな多孔質構造体の一実施形態について説明する。なお、以下の説明では、すでに説明したキラルな金属酸化物構造体の製造方法と重複する説明を適宜省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0049】
本発明のキラルな多孔質構造体は、鋳型として用いたキラル超分子結晶のキラリティーが転写され、原子の配列といったレベルにおいて構造的なキラリティーを備えるので、本発明のキラルな多孔質構造体は、例えば乳鉢を用いて粉砕された状態であってもなおキラリティーを示す。したがって、本発明のキラルな多孔質構造体は、粉砕された状態で観察される拡散反射円二色性スペクトルにおいて、正又は負のコットン効果を示す。なお、拡散反射円二色性スペクトルの観察は、多孔質構造体を乳鉢ですり潰して粉砕物とした後、この粉砕物をKClやKBr中に分散させた状態で行うことができる。
【0050】
本発明のキラルな多孔質構造体が、このような原子の配列といったレベルにおいて構造的なキラリティーを備える理由は必ずしも明らかでない。しかしながら、このことは焼成に伴う、遷移金属酸化物結晶の成長過程と、鋳型として用いたキラル超分子結晶の熱分解過程とに関係があると推察される。上記ゾルゲル工程を経た遷移金属酸化物は、アモルファス状態であり、これが焼成工程における加熱を受けることで結晶状態へと転換される。例えば、酸化チタンであれば、150℃程度から結晶化が始まるとされており、まずはアナターゼ型の結晶となってから、600℃以上での加熱を受けてさらにルチル型の結晶へと相転移するとされている。
【0051】
ところで、鋳型であるキラル超分子結晶は、酸化チタンの結晶化が始まる150℃程度の温度では、依然として分解されずにその構造を維持していると考えられる。そうすると、鋳型であるキラル超分子結晶に接している酸化チタンは、150℃付近で結晶化を開始するに際して、キラル超分子結晶のキラリティーを反映した状態で結晶化を開始すると考えられる。その後、焼成温度が上がるにつれて酸化チタンの結晶化が進むことになるが、結晶化は既に作製された酸化チタンの結晶を新たな鋳型として進むものであるので、キラル超分子結晶のキラリティーが反映されて既に結晶化した結晶のキラリティーが次々に転写されてゆくことになり、結果として、結晶全体が原子の配列といったレベルでのキラリティーを備えることになると考えられる。このため、本発明のキラルな多孔質構造体は、乳鉢ですり潰された粉砕物となってもなお、キラリティーを備える。これに対して、従来提案されてきたような、螺旋等のキラルな構造を備えることによりキラリティーを発現するメソポーラス結晶等では、キラリティーの元となる螺旋等の立体構造が粉砕により破壊されるとキラリティーの消失を引き起こすと考えられる。この点で、本発明のキラルな多孔質構造体は従来提案されてきたキラルなメソポーラス結晶と大きく異なるものである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[直鎖状ポリエチレンイミン(LPEI)の合成]
市販のポリエチルオキサゾリン(質量平均分子量50,000、平均重合度約500、Aldrich社製)30gを5Mの塩酸水溶液(150mL)に溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加温し、その温度で10時間撹拌した。反応溶液にアセトン(500mL)を加えてポリマーを完全に沈殿させ、それを濾別し、メタノールで3回洗浄して白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて分析したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖のエチル基に由来した1.2ppmのピーク(CH)と2.3ppmのピーク(CH)とが完全に消失していることが確認された。したがって、得られたポリマーでは、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0054】
ポリエチレンイミンの粉末を蒸留水(50mL)に溶解し、撹拌しながら、その溶液に15%アンモニア水(500mL)を滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー会合体粉末を濾過し、そのポリマー会合体粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥することで、直鎖状ポリエチレンイミン(LPEI)を得た。収量は22g(結晶水含有)であった。なお、ポリマー会合体とは、ポリエチレンイミン分子同士が、その分子に含まれる2級アミノ基を介した水分子との水素結合により架橋されたものであり、高い結晶性を備える超分子錯体である。また、ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンでは、その側鎖だけが化学反応し、その主鎖には変化がない。したがって、LPEIの重合度は加水分解前の約500と同様である。
【0055】
[実施例1]
LPEI粉末(含水率46質量%)158mg(2級アミノ基2mmolに相当)を蒸留水(40mL)に加え、それを約100℃になるまで加熱して、LPEIが完全に溶解したポリマー水溶液を調製した。一方、D−酒石酸粉末(東京化成工業株式会社製)150mg(1mmol)を蒸留水(40mL)に溶解させ、その溶液を約100℃になるまで加熱して溶解させ、ジカルボン酸水溶液を調製した。その後、約100℃の水温を維持したまま、ジカルボン酸水溶液をポリマー水溶液中に注ぎ、混合水溶液を調製した。この混合水溶液を室温まで自然放冷した後、さらに4℃にて一晩放置した。翌日、混合水溶液中に生じたポリマーとD−酒石酸との複合体(キラル超分子結晶)遠心分離にて洗浄した。この複合体に、乳酸チタン(マツモトファインケミカル株式会社製、製品名オルガチックスTC−310、乳酸チタン44質量%水溶液):1Mアンモニア水:水=6:6:23(容積比)の混合液を加え、室温で2時間撹拌した。その後、固体を遠心分離により回収し、蒸留水、次いでアセトンで洗浄した。乾燥後、酸化チタンで表面が覆われた、LPEIとD−酒石酸の複合体(TiO@LPEI/D−Tart)413mgを得た。
【0056】
その後、得られた複合体(TiO@LPEI/D−Tart)を500℃、600℃、700℃のいずれかの温度にて焼成を行って質量減(%)を算出した。その結果を表1に示す。以上の手順によりチタン酸化物構造体(TiO@D)を得た。
【0057】
LPEIとD−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/D−Tart)、及び600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)のそれぞれについて、乳鉢で粉砕した後でKCl中に40質量%の濃度で分散させ、拡散反射円二色性スペクトルを測定した。LPEIとD−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/D−Tart)についてのスペクトルを図1(符号D)に、600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)のスペクトルを図2(符号D)に、それぞれ示す。
【0058】
また、それぞれの焼成温度で3時間加熱して得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)のそれぞれについてXRDを測定した。その結果を図3に示す。図3は、実施例1における焼成後に得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)のXRDスペクトルである。
【0059】
さらに、LPEIとD−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/D−Tart)、及び600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、SU8010)で観察した結果をそれぞれ図4及び図5に示す。図4は、実施例1におけるLPEIとD−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/D−Tart)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。図5は、実施例1における600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@D)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
【0060】
[実施例2]
D−酒石酸の代わりにL−酒石酸(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、LPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/L−Tart)、及びチタン酸化物構造体(TiO@L)を得た。LPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体の収量は、537mgだった。焼成時の質量減(%)を表1に示す。
【0061】
LPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/L−Tart)、及び600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)のそれぞれについて、乳鉢で粉砕した後でKCl中に40質量%の濃度で分散させ、拡散反射円二色性スペクトルを測定した。LPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/L−Tart)についてのスペクトルを図1(符号L)に、600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)のスペクトルを図2(符号L)に、それぞれ示す。
【0062】
また、それぞれの焼成温度で3時間加熱して得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)のそれぞれについてXRDを測定した。その結果を図6に示す。図6は、実施例2における焼成後に得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)のXRDスペクトルである。
【0063】
さらに、LPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/L−Tart)、及び600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)のそれぞれについて、電界放出型走査電子顕微鏡で観察した結果をそれぞれ図7及び図8に示す。図7は、実施例2におけるLPEIとL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/L−Tart)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。図8は、実施例2における600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@L)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、cと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
【0064】
[参考例1]
D−酒石酸の代わりにDL−酒石酸(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順により、LPEIとDL−酒石酸との複合体(TiO@LPEI/DL−Tart)、及びチタン酸化物構造体(TiO@DL)を得た。焼成時の質量減(%)を表1に示す。
【0065】
LPEIとDL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/DL−Tart)、及び600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@DL)のそれぞれについて、乳鉢で粉砕した後でKCl中に40質量%の濃度で分散させ、拡散反射円二色性スペクトルを測定した。LPEIとDL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/DL−Tart)についてのスペクトルを図9に、600℃での焼成で得られたチタン酸化物構造体(TiO@DL)のスペクトルを図10に、それぞれ示す。
【0066】
また、それぞれの焼成温度で3時間加熱して得られたチタン酸化物構造体(TiO@DL)のそれぞれについてXRDを測定した。その結果を図11に示す。図11は、参考例1における焼成後に得られたチタン酸化物構造体(TiO@DL)のXRDスペクトルである。
【0067】
さらに、LPEIとDL−酒石酸と酸化チタンとの複合体(TiO@LPEI/DL−Tart)について、電界放出型走査電子顕微鏡で観察した結果を図12に示す。図12は、参考例1におけるLPEIとDL−酒石酸との複合体(TiO@LPEI/DL−Tart)の電界放出型走査電子顕微鏡による観察画像であり、a、b、c、d、eと進むにつれて低倍率での観察画像となる。
【0068】
【表1】
【0069】
図1及び図2に示す通り、得られた複合体及びそれを600℃で焼成して得られた金属酸化物構造体は、キラリティーに応じた円二色性スペクトルが得られることがわかる。特に、図2に示すように、本発明で得られた金属酸化物構造体は、乳鉢ですり潰されることにより粉砕された後であっても、キラリティーに応じた円二色性スペクトルが得られることがわかる。したがって、得られた金属酸化物構造体は、原子配列レベルでのキラリティーを備えたキラルな金属酸化物構造体であることがわかる。一方、図9及び図10に示す通り、ラセミ体の酒石酸を用いた場合には、得られた複合体及び600℃で焼成して得られた金属酸化物構造体の円二色性シグナルは観察されなかった。すなわち、ラセミ体酒石酸系から得られた酸化チタンは光学不活性であった。
【0070】
また、図3及び図6に示すように、得られた複合体を500℃で焼成するとアナターゼ型の酸化チタンが得られ、600℃、700℃と焼成温度が高くなるにつれてルチル型の酸化チタンとなることがわかる。
【0071】
さらに、図4及び図7に示すように、本発明の方法で得られた酸化チタンの金属酸化物構造体は、粒子径が1〜100nmである酸化チタンの一次粒子が凝集してなる多孔質構造体であることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12

【手続補正書】
【提出日】2016年5月18日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を備えたポリマーと、2つのカルボキシル基を備え、4以上の炭素原子を備えたキラルなジカルボン酸化合物と、を含んでなる酸塩基型錯体のキラル超分子結晶に二座以上のキレート配位子を備えた遷移金属化合物を作用させるゾルゲル法により、前記キラル超分子結晶の表面に金属酸化物層を形成させるゾルゲル工程と、
前記ゾルゲル工程を経たキラル超分子結晶を焼成することで、有機物である前記キラル超分子結晶を熱分解させ、当該超分子結晶を鋳型とした前記金属酸化物層からなる遷移金属酸化物構造体を得る焼成工程と、を備えたキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属化合物がチタン化合物である請求項1記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ジカルボン酸化合物が酒石酸である請求項1又は2記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属化合物が乳酸チタンであり、前記キラル超分子結晶に前記乳酸チタンを作用させるに際して塩基を共存させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のキラルな金属酸化物構造体の製造方法。
【請求項5】
電界放出型走査電子顕微鏡で観察された粒子径が1〜100nmである遷移金属酸化物の一次粒子が凝集してなる多孔質構造体であって、粉砕された状態で観察される拡散反射円二色性スペクトルにおいて正又は負のコットン効果が観察され、結晶状態であることを特徴とするキラルな多孔質構造体。
【請求項6】
前記遷移金属酸化物が酸化チタンである請求項5記載のキラルな多孔質構造体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
(5)また本発明は、電界放出型走査電子顕微鏡で観察された粒子径が1〜100nmである遷移金属酸化物の一次粒子が凝集してなる多孔質構造体であって、粉砕された状態で観察される拡散反射円二色性スペクトルにおいて正又は負のコットン効果が観察され、結晶状態であることを特徴とするキラルな多孔質構造体である。
【国際調査報告】