(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2014年6月5日
【発行日】2017年1月5日
(54)【発明の名称】新規トリコデルマ属菌を用いたダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20161209BHJP
A01N 63/00 20060101ALI20161209BHJP
A01P 7/02 20060101ALI20161209BHJP
【FI】
C12N1/14 A
A01N63/00 F
A01P7/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】16
【出願番号】特願2014-549735(P2014-549735)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2012年11月30日
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】515020522
【氏名又は名称】十和田グリーンタフ・アグロサイエンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599035122
【氏名又は名称】有限会社 芹澤微生物研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】阿野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 順三郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 陽一郎
【テーマコード(参考)】
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA70X
4B065BD10
4B065BD14
4B065CA43
4H011AC04
4H011BB21
4H011BC20
4H011DA02
4H011DA15
4H011DD05
(57)【要約】
新規なトリコデルマ(Trichoderma)属菌を用いたダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法を提供すること。
ダニ殺虫能を有し、トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma Atroviride)に属する真菌であって、当該真菌は、加工された緑色凝灰岩から単離され、寄託番号がNITE P−1419である真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダニ殺虫能を有し、トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma Atroviride)に属する真菌であって、
当該真菌は、以下の加工工程を経て得られる緑色凝灰岩の微細粉から単離されたことを特徴とする真菌。
(1)緑色凝灰岩ブロックを切断する工程。
(2)切断により発生した緑色凝灰岩の砕石粒を含む排水を貯留する工程。
(3)貯留した排水を撹拌し、緑色凝灰岩の微細粉のコロイドを当該排水中に形成させる工程。
(4)凝集剤を前記排水に添加して前記コロイドを沈殿させ、その沈殿物を吸引すると共に、吸引した前記沈殿物を脱水する工程。
(5)脱水した前記沈殿物を乾燥する工程。
【請求項2】
ダニ殺虫能を有し、トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma Atroviride)に属する受託番号がNITE P−1419であることを特徴とする真菌。
【請求項3】
請求項1又は2記載の真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法。
【請求項4】
前記胞子懸濁液に窒素及び炭素を含む栄養源を、前記胞子懸濁液に対して1%添加したことを特徴とする請求項3記載のダニ駆除方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の真菌が常在する前記緑色凝灰岩の微細粉をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させると共に、当該ダニに前記真菌の菌糸を形成させることを特徴とするダニ発生の予防方法。
【請求項7】
前記胞子懸濁液に窒素及び炭素を含む栄養源を、前記胞子懸濁液に対して1%添加したことを特徴とする請求項6記載のダニ発生の予防方法。
【請求項8】
請求項1又は2記載の真菌の単離源である前記緑色凝灰岩の微細粉をダニ及び/又はその生息地に対して作用させると共に、当該ダニに、前記緑色凝灰岩の微細粉に常在する前記真菌の菌糸を形成させることを特徴とするダニ発生の予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微生物を用いたダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法に関するものであり、特に、トリコデルマ(Trichoderma)属菌を用いたダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダニ類によるヒトや家畜への被害は、地球温暖化に伴い、年々深刻さを増している。
【0003】
例えば、家禽や鳥類の外部寄生虫として知られているワクモ(Dermanyssus gallinae)は、養鶏産業界に多大な被害を与えることが危惧されるダニである。吸血性であるこのダニは夜間に吸血を行い、鶏体自体に影響を与え、貧血や鶏冠の白化、産卵率の低下などに関連すると考えられている。
【0004】
一方で、珪藻土やその他の鉱物微細粉をワクモ、或いはその他のダニ類に噴霧、或いは水和物を直接掛けることによって、ワクモ等の関節や可動部の隙間に、それら鉱物微粒子が入り込み、ワクモ等の体液を吸収、或いは鉱物切片による外皮の切断等によって、ワクモ等を駆除する方法が公知であり、広く普及している。
【0005】
さらに一方で、トリコデルマ・アルバム(Trichoderma album)がワクモに寄生し、ワクモを死滅させるという研究が発表されている(非特許文献1)。
【0006】
トリコデルマ(Trichoderma)属菌のうち、世界中で広く流通しているトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)は、土壌中、菌床等の自然環境に広く常在する微生物である。この微生物を用いて作物の病害防除を試みる場合、土壌等の単離源から同定したトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)を、大型のタンク或いは、工業的な培養施設を用いて単離場所とは異なった環境で大量培養し、しかる後、その培養物をシリカやその他の鉱物微細粉に担持する手法が知られている。また、それらの培養、及び製剤化の手法については、種々のものが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hussein A. Kaoud et al, 「Susceptibility of Poultry Red mites to Entomopathogens」, International Journal of Poultry Science 9 (3), p. 259-263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、秋田県大館市比内町で採掘される緑色凝灰岩(以下「十和田石」ということがある)に常在する微生物の中から、新規なトリコデルマ (Trichoderma )属菌の発見と単離を試みた。
【0009】
トリコデルマ(Trichoderma)属菌は、天然の岩石上に於いても発見例があることは公知になっている。したがって、単離源が前記緑色凝灰岩である可能性も十分に予見出来る。但し、通常、緑色凝灰岩の採掘方法は、地上部より縦に採掘を行う露天掘りであり、その場合、周辺環境の変化によって、岩盤に付着している微生物相は、例えば、常在する微生物の種類が異なったり、常在そのものが阻害されるような影響を受けやすい。この為、緑色凝灰岩に常在する微生物の中から、トリコデルマ(Trichoderma)属菌を、再現性を持って単離することは容易ではない。
【0010】
しかし、発明者らは、秋田県大館市比内町に、少なくとも日本国内においては一か所だけ存在する、横穴方式の緑色凝灰岩の採掘場が、山肌にトンネルを掘り、地下へ向かって掘り下げっていく方法であることに着目し、同坑道内地下30mの十和田石砕石場にて、緑色凝灰岩に新規なトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)が常在していることを発見し、その単離に成功した。
【0011】
この坑道内は、昭和47年より採掘が開始され、年間を通じて、気温10℃で、湿度90%に維持されている為、坑道内に生息する微生物の生態系は非常に限られており、前述の露天掘りと比較して、坑内の微生物相は、周辺環境の変化による前記のような影響を殆ど受けない利点がある。
【0012】
発明者らは、十和田石砕石場より切り出された十和田石の岩石ブロックを加工・研磨する際に発生する加工微細粉を含む排水を集積した溜池に、ポリ塩化アルミニウム凝集剤(PAC)を投入して微細粉を凝集沈殿させ、その沈殿物を回収後乾燥させた後に得られる、粒径が1μm〜80μmの範囲にあり、ピーク値が5μmである微細粉(通称、十和田石ケーキ)中からトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)HNT−01株(以下、「HNT−01」ということがある)を採取することができた。
【0013】
そして、このトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)HNT−01株を新規微生物として、平成24年9月7日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託した(受託番号NITE P−1419)。
【0014】
上述したように、トリコデルマ・アルバム(Trichoderma album)がワクモに寄生し、ワクモを死滅させるという研究が発表されているが、トリコデルマ(Trichoderma)属の他の種の菌がワクモに寄生し、ワクモを死滅させるという報告はなされていない。また、上述したように、シリカ等の鉱物微細粉でワクモを駆除するという方法は広く公知であるが、その鉱物微細粉に常在する微生物も同時に、ワクモの駆除や発生予防に用いるという複合的な発明はなされていない。
【0015】
そこで、本発明は、新規なトリコデルマ(Trichoderma)属菌を用いたダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法と、そのトリコデルマ(Trichoderma)属菌が鉱物微細粉に常在することによる、鉱物微細粉との相乗効果によるダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法の二点を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、以下の発明を提案する。
【0017】
請求項1の発明は、
ダニ殺虫能を有し、トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma Atroviride)に属する真菌であって、
当該真菌は、以下の加工工程を経て得られる緑色凝灰岩の微細粉から単離されたことを特徴とする真菌である。
【0018】
(1)緑色凝灰岩ブロックを切断する工程。
【0019】
(2)切断により発生した緑色凝灰岩の砕石粒を含む排水を貯留する工程。
【0020】
(3)貯留した排水を撹拌し、緑色凝灰岩の微細粉のコロイドを当該排水中に形成させる工程。
【0021】
(4)凝集剤を前記排水に添加して前記コロイドを沈殿させ、その沈殿物を吸引すると共に、吸引した前記沈殿物を脱水する工程。
【0022】
(5)脱水した前記沈殿物を乾燥する工程。
【0023】
請求項2の発明は、
ダニ殺虫能を有し、トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma Atroviride)に属する受託番号がNITE P−1419であることを特徴とする真菌である。
【0024】
請求項3の発明は、
請求項1又は2記載の真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法である。
【0025】
請求項4の発明は、
前記胞子懸濁液に窒素及び炭素を含む栄養源を、前記胞子懸濁液に対して1%添加したことを特徴とする請求項3記載のダニ駆除方法である。
【0026】
請求項5の発明は、
請求項1又は2記載の真菌が常在する前記緑色凝灰岩の微細粉をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法である。
【0027】
請求項6の発明は、
請求項1又は2記載の真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させると共に、当該ダニに前記真菌の菌糸を形成させることを特徴とするダニ発生の予防方法である。
【0028】
請求項7の発明は、
前記胞子懸濁液に窒素及び炭素を含む栄養源を、前記胞子懸濁液に対して1%添加したことを特徴とする請求項6記載のダニ発生の予防方法である。
【0029】
請求項8の発明は、
請求項1又は2記載の真菌の単離源である前記緑色凝灰岩の微細粉をダニ及び/又はその生息地に対して作用させると共に、当該ダニに、前記緑色凝灰岩の微細粉に常在する前記真菌の菌糸を形成させることを特徴とするダニ発生の予防方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、新規なトリコデルマ(Trichoderma)属菌を用いたダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法、及びそのトリコデルマ(Trichoderma)属菌が鉱物微細粉に常在することによる、鉱物微細粉との相乗効果によるダニ駆除方法及びダニ発生の予防方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】(a)横穴方式である十和田石砕石場で採掘された緑色凝灰岩に菌糸のコロニーを形成しているトリコデルマ(Trichoderma)属菌を表す図、(b)緑色凝灰岩を加工する旋盤と水を放出するノズルを表す図、(c)緑色凝灰岩を加工した際に発生する排水を貯留する貯水撹拌設備を表す図、(d)緑色凝灰岩のゲルを表す図である。
【
図2】HNT−01胞子懸濁液をシーラー用ビニール袋に10mL 分注したものを2つ準備し、それぞれの袋の中央にワクモダニが入ったシャーレA、Bを静置し、2日経過後のワクモダニの様子を表した図であって、(a)シャーレAのワクモの様子、(b)同じくシャーレAのワクモの拡大図、(c)シャーレBのワクモの様子、(d)同じくシャーレBのワクモの拡大図である。
【
図3】ワクモダニを3本のサンプルチューブに数匹ずつ入れ、そこに滅菌生理食塩水300μL、HNT−01胞子懸濁液300μL、HNT−01寒天断片をそれぞれ加えて数日間経過後のワクモダニの様子を表した図であって、(a)滅菌生理食塩水の場合、(b)HNT−01寒天断片の場合、(c)HNT−01胞子懸濁液の場合、(d)図(c)図示のHNT−01胞子懸濁液で死滅したワクモダニの倒立顕微鏡写真である。
【
図4】(a)10
1倍希釈(10
7cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液におけるワクモダニの様子を表した図、(b)10
2倍希釈(10
6cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液におけるワクモダニの様子を表した図、(c)10
1倍希釈(10
7 cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液において、HNT−01に感染したワクモダニ、(d)同じくワクモダニの前足部分の拡大図。
【
図5】10
1倍から10
7倍まで希釈したHNT−01胞子懸濁液にPDB培地を添加し、4日経過後のワクモダニの様子を表した図であって、そのうち(a)10
1倍希釈(10
7cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液の場合、(b)10
2倍希釈(10
6cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液の場合、(c)10
3倍希釈(10
5cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液の場合、(d)10
4倍希釈(10
4cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液の場合。
【
図6】10
3倍希釈(10
5 cells/mL)のHNT−01胞子懸濁液で死亡した、あるいは瀕死状態のワクモダニを顕微鏡観察した図であって、(a)死亡したワクモダニ周辺に形成されているHNT−01の菌糸の状態、(b)同じくワクモダニの足の部分の拡大図、(c)瀕死状態のワクモダニに形成されているHNT−01の菌糸の状態、(d)同じくワクモダニの足の部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本発明のトリコデルマ(Trichoderma)属菌の単離源を、横穴方式である坑道内の十和田石砕石場で採掘された緑色凝灰岩とした。上述したように、この坑道内は、昭和47年より採掘が開始され、年間を通じて、気温10℃で、湿度90%に維持されている為、坑道内に生息する微生物の生態系は非常に限られており、前述の露天掘りと比較して、坑内の微生物相は、周辺環境の変化による影響、すなわち、常在する微生物の種類が異なったり、常在そのものが阻害されるような影響を殆ど受けない利点がある。
【0033】
そして、
図1(a)に表されるように、トリコデルマ(Trichoderma)属菌は、採掘された十和田石のブロック表面に付着しており、地上部へ持ち出す木製のパレット等の栄養源(セルロース)が存在すると、胞子より発芽し、菌糸のコロニーを形成する。
【0034】
前記十和田石は、正式名称は「石英安山岩質浮石質凝灰岩」といい、「グリーンタフ」という名称で知られている。この凝灰岩は、今から約1,000万年前、日本列島が形作られた頃、海底火山の火山灰が堆積して固まって出来たものである。電子顕微鏡で観察すると、極めて微細な粒子同士が結びついた多孔質構造が認められる。主な構成鉱物は、曹長石、緑泥石、石英のほか、非晶質結晶が30%程度ある珪酸塩鉱物である。
【0035】
十和田石は、青緑色の美しい色彩と滑りにくく保温性・保湿性を有する事から、40年程前より、建築石材や浴室の床材として、砕石場から切り出されて製品化されている。また、この製材過程で発生する砕石粒や切り屑は、化成肥料や化学農薬のコア(原体)としての造粒剤としても使われている。
【0036】
前記採石場から採掘された十和田石を前記製品へと加工する際に、十和田石をカッター面に沿って水を掛ける(
図1(b))。そして、切断された箇所から発生する十和田石微細粉が排水中に含まれることになるが、その微細粉の粒径は、水を当てながらの鋼鉄製の刃物による一定速度と圧力制御による切断の為、1μmから80μmの間で一定しており、ピーク値は5μm近辺になる。
【0037】
この十和田石の微細粉と共に、十和田石のブロック表面に付着していたトリコデルマ(Trichoderma)属菌の胞子も前記微細粉と一緒に排水中に移動する。この排水を一か所に集め貯水し、モーターにより攪拌する事で、緑色凝灰岩の微細粉のコロイドが排水中に形成される(
図1(c))。また、この攪拌作業により、トリコデルマ(Trichoderma)属菌も同時に通気培養される仕組みとなっている。
【0038】
一定時間の攪拌の後、凝集剤(PAC:ポリ塩化アルミニウム)を排水プールへ投入することで、緑色凝灰岩コロイドをプール床面に沈殿させ、その沈殿物をポンプで吸引し脱水する工程によって、緑色凝灰岩の粘土状ゲルを得ることが出来る(
図1(d))。この粘土状ゲルには、十和田石のブロックに常在していたトリコデルマ(Trichoderma)属菌の胞子も含まれていることになる。
【0039】
しかる後、この粘土状のゲルをビニールハウスの中で、自然乾燥させることによって、緑色凝灰岩微細粉の乾物を得ることが出来る。尚、この微細粉サイズは、上述した通り工業的に一定の大きさであり、一般的な生物製剤にあるような、微生物を担持させるシリカ、他の鉱物微細粉の組成やサイズと同じであるので、自然乾燥させた緑色凝灰岩微細粉は、生物農薬の担持体として用いることが出来る。また、この緑色凝灰岩微細粉単体においても、公知の研究成果と同じく、微細粉がワクモ等の関節や可動部に入り込み、ワクモの動きを弱め、水分を吸収し、鉱物切片でワクモ等の表皮を切断することで、ワクモ等が死滅することは確認済みであるので、この緑色凝灰岩微細粉単独であっても、ダニ類の殺虫に用いることが出来る。
【0040】
このような特徴を有する前記乾燥させた緑色凝灰岩微細粉からトリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)HNT−01株が採取された。
【0041】
トリコデルマ(Trichoderma)属菌は、胞子を形成することで乾燥に耐えることは公知になっているが、本発明に係るHNT−01も、前記粘土状のゲルを乾燥させた緑色凝灰岩微細粉の上に胞子を形成しており、その微細粉自体が植物病害菌の抑制を行う実証実験によって確認された。したがって、この一連の工程を経て得られる緑色凝灰岩微細粉と、そこに常在するトリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma atroviride)は、極めて効率的でコストの掛からない生物製剤になると考えられる。
【0042】
前記トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma atroviride)HNT−01株は、新規微生物として、平成24年9月7日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託され、受託番号NITE P−1419が付与された。
【実施例1】
【0043】
(HNT−01によるワクモダニ殺虫効果)
本実施例では、HNT−01懸濁液及びHNT−01寒天切片によるワクモダニ殺虫効果について下記の実験を行った。
【0044】
<実験材料>
・ワクモダニ
・HNT−01 胞子懸濁液(10
8 cells/mL)、PDA培地で培養したHNT−01の培養プレート
・滅菌生理食塩水
・サンプルチューブ
・シーラー用ビニール袋、チャック付きポリ袋
【0045】
<実験方法>
(1)PDA培地で培養したHNT−01のプレートから白金耳を用いて集菌し、0.85%滅菌生理食塩水で懸濁した。懸濁後、脱脂綿入りパスツールピペットでろ過し、HNT−01胞子懸濁液を得た(10
8 cells/mL)。
【0046】
HNT−01胞子懸濁液を滅菌生理食塩水で希釈し(10
6cells/mL)、シーラー用ビニール袋に10mL 分注したものを2つ準備し、それぞれの袋の中央にワクモダニが入ったシャーレA、Bを静置した。シャーレには直径3mm程度の穴がひとつ開いており、ワクモダニはその穴から自由に出入りできるように調整した。その後、2、5日後に経過を観察した。
【0047】
(2)上記とは別に、ワクモダニを3本のサンプルチューブに数匹ずつ入れ、そこに滅菌生理食塩水300μL、HNT−01胞子懸濁液300μL(10
7cfu/mL)、HNT−01寒天断片をそれぞれ加えて数日間経過観察を行った。
【0048】
<結果及び考察>
(1)上記実験方法(1)において、2日後の経過を観察したところ、シャーレAの半数程ワクモダニは死亡していたが、シャーレBのワクモダニは生存していた。5日後に経過を観察したところ、どちらのシャーレのワクモダニもほとんど死滅しており、わずかに生き残ったものも瀕死状態であるのか、激しく動く様子は見られなかった(
図2)。
【0049】
(2)上記実験方法(2)において、滅菌生理食塩水を加えたサンプルチューブをコントロールとしてHNT−01胞子懸濁液及びHNT−01寒天切片との比較を行った。その結果、HNT−01胞子懸濁液を添加したサンプルチューブのみ、ワクモダニの死滅を確認することができた(
図3(c)。1週間経過後、死滅したワクモダニを倒立顕微鏡で確認したところダニの表面全体に緑色のカビが付着していることが確認できた(
図3(d))。
【0050】
HNT−01の寒天断片および滅菌生理食塩水を添加したサンプルチューブでは、1週間経過してもワクモダニは動き回っているのが確認できた(
図3(a)、(b))。
【0051】
このことより、HNT−01寒天断片では、胞子がワクモダニに付着するのが困難であったためカビに感染せず生育できたと考えられるので、上記の実験結果から、HNT−01は、ワクモダニを殺虫するのに少なくとも胞子懸濁液の状態が好ましいことが推測される。
【実施例2】
【0052】
(栄養源を与えたHNT−01胞子懸濁液によるワクモダニ殺虫効果)
本実施例では、HNT−01胞子懸濁液にポテトデキストロースブロス(PDB)培地を添加し、少ない菌数のHNT−01でワクモダニの殺虫効果が得られるか下記の実験を行った。
【0053】
<実験材料>
・ワクモダニ
・HNT−01 胞子懸濁液(4.59×10
8cells/mL)
・滅菌生理食塩水
・ねじ口ガラスバイアル
・PDB培地
【0054】
<実験方法>
HNT−01の胞子懸濁液を滅菌生理食塩水で10
1倍から10
7倍まで希釈したものを準備した。ワクモダニをガラスバイアルに10〜20匹程度移し、そこに前記希釈した各々の胞子懸濁液を1mL分注した。分注後、ガラスバイアルをボルテックスで懸濁した。その後、24℃で1週間静置培養を行った。
【0055】
1週間培養後、PDB培地を前記胞子懸濁液1mLに対して1%である10μL添加し、更に4日間培養を続けた。培養後、目視での確認と顕微鏡での観察を行った。
【0056】
<結果及び考察>
1週間の培養で、10
1倍希釈(10
7 cells/mL)では、ワクモダニの沈殿および菌糸の絡みつきと、半数程度の死亡が確認された(
図4(a)、(c)、(d))。しかし、10
2倍以降の希釈倍率系(10
6cells/mL〜10
1cells/mL)では少数死亡が確認されるものの、生存が確認された(
図4(b))。
【0057】
このことから、胞子から菌糸成長するための窒素及び炭素源が不足していると推測され、前記10
1倍から10
7倍までの各希釈倍率系のHNT−01胞子懸濁液に、少量(10μL)のPDB培地を添加してさらに培養を行った。
【0058】
その結果、11日培養(上述の7日間+4日間)を行うと10
3倍希釈(10
5cells/mL)までの希釈系列で多くのワクモの死亡が確認された(
図5)。それ以降の希釈系列では、生存しているワクモが多数観察された。
【0059】
また、
図6で示されるように、死亡あるいは瀕死状態のワクモにはHNT−01の菌糸が形成されている。このことから、HNT−01によってワクモダニの殺虫効果が得られるだけでなく、ワクモダニの死骸に菌糸が形成されることにより、HNT−01が長期間生存することができ、殺虫後新たなワクモダニの発生を抑制することができることが示唆される。
【0060】
なお、通常、トリコデルマ(Trichoderma)属菌の生育には、1/1PDB培地のように濃い栄養源が必要であるが、そのような栄養源を前記懸濁液に添加すると、当該栄養源に引き寄せられる他の雑菌が増えるおそれがある。したがって、前記懸濁液に添加する前記PDB培地のような栄養源は、前記懸濁液に対して1%程度添加するだけでよく、それにより、少ない菌数のHNT−01でワクモダニの殺虫効果を得ることができる。
【0061】
実施例1、2より、HNT−01にワクモダニの殺虫効果があることが認められた。また、HNT−01胞子懸濁液に少量の栄養素を加えた場合、10日前後並びに10
5 cells/mL程度の胞子懸濁液でワクモダニの生存率を大きく低下させることが示唆された。さらに、ワクモダニの殺虫効果が得られた後、ワクモダニの死骸に菌糸が形成されるので、殺虫後新たなワクモダニの発生を抑制することができることが示唆された。
【0062】
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【手続補正書】
【提出日】2013年6月3日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダニ殺虫能を有し、トリコデルマ アトロビリデ(Trichoderma Atroviride)に属する真菌であって、
当該真菌は、受託番号がNITE P−1419であり、
以下の加工工程を経て得られる緑色凝灰岩の微細粉から単離されたことを特徴とする真菌。
(1)緑色凝灰岩ブロックを切断する工程。
(2)切断により発生した緑色凝灰岩の砕石粒を含む排水を貯留する工程。
(3)貯留した排水を撹拌し、緑色凝灰岩の微細粉のコロイドを当該排水中に形成させる工程。
(4)凝集剤を前記排水に添加して前記コロイドを沈殿させ、その沈殿物を吸引すると共に、吸引した前記沈殿物を脱水する工程。
(5)脱水した前記沈殿物を乾燥する工程。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1記載の真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法。
【請求項4】
前記胞子懸濁液に窒素及び炭素を含む栄養源を、前記胞子懸濁液に対して1%添加したことを特徴とする請求項3記載のダニ駆除方法。
【請求項5】
請求項1記載の真菌が常在する前記緑色凝灰岩の微細粉をダニ及び/又はその生息地に対して作用させることを特徴とするダニ駆除方法。
【請求項6】
請求項1記載の真菌の胞子懸濁液をダニ及び/又はその生息地に対して作用させると共に、当該ダニに前記真菌の菌糸を形成させることを特徴とするダニ発生の予防方法。
【請求項7】
前記胞子懸濁液に窒素及び炭素を含む栄養源を、前記胞子懸濁液に対して1%添加したことを特徴とする請求項6記載のダニ発生の予防方法。
【請求項8】
請求項1記載の真菌の単離源である前記緑色凝灰岩の微細粉をダニ及び/又はその生息地に対して作用させると共に、当該ダニに、前記緑色凝灰岩の微細粉に常在する前記真菌の菌糸を形成させることを特徴とするダニ発生の予防方法。
【国際調査報告】