(54)【発明の名称】集積装置および集積方法、微小物体集積構造体の製造装置、微生物の集積除去装置、被検出物質の検出装置、被分離物質の分離装置、ならびに被導入物質の導入装置
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
集積装置(100)は、粒子径が互いに異なるビーズ(1,2)を集積する。集積装置(100)は、基板(10)と、光発熱用光源(20)とを備える。基板(10)は、ビーズ(1,2)が分散したサンプル(13)を保持可能に構成される。光発熱用光源(20)は、基板(10)またはサンプル(13)にレーザ光(201)を照射し、サンプル(13)内に温度差を生じさせる。
前記対物レンズの焦点が、前記液体中にあり、かつ、前記液体の周囲の気体と前記液体との界面である気液界面の近傍に位置するように、前記対物レンズと前記気液界面との間の距離を調整する調整機構をさらに備える、請求項9に記載の集積装置。
前記複数種類の微小物体は、前記物理的特性として、粒子径および形状の少なくとも一方が互いに異なる2種類以上の微小物体を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の集積装置。
前記照射するステップにおいて、前記保持領域に光を照射して、前記保持領域の近傍に対流が発生するように前記保持領域を加熱する、請求項14または15に記載の集積方法。
前記照射するステップにおいて、前記保持領域に光を照射して、前記保持領域の近傍にさらに気泡が発生するように前記保持領域を加熱する、請求項16に記載の集積方法。
前記複数種類の微小物体は、前記物理的特性として、粒子径および形状の少なくとも一方が互いに異なる2種類以上の微小物体を含む、請求項12〜19のいずれか1項に記載の集積方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0033】
本発明およびその実施の形態では、基板の保持領域に光を照射して、保持領域の近傍に温度差を生じさせることにより、対流および気泡が発生するように保持領域を加熱する。「近傍」とは、気泡の直径のたとえば2倍よりも小さな距離にある空間を指すことが好ましい。また、「保持領域の近傍に気泡が発生する」には、気泡が保持領域に接して発生する場合を含む。
【0034】
本発明およびその実施の形態において、「微小物体」との用語は、サブナノメートルのオーダーからマイクロメートルのオーダーまでのサイズを有する物体を意味する。微小物体の形状は特に限定されず、たとえば球形、楕円球形、ロッド形状等である。微小物体が楕円球形の場合、楕円球の短軸方向および長軸方向の長さの少なくとも一方がサブナノメートルのオーダーからマイクロメートルのオーダーであればよい。微小物体がロッド形状の場合、ロッドの幅および長さの少なくとも一方がサブナノメートルのオーダーからマイクロメートルのオーダーであればよい。
【0035】
微小物体の例としては、金属ナノ粒子、金属ナノ粒子集積体、金属ナノ粒子集積構造体、半導体ナノ粒子、有機ナノ粒子、樹脂ビーズなどが挙げられる。「金属ナノ粒子」とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する金属粒子である。「金属ナノ粒子集積体」とは、複数の金属ナノ粒子が凝集することによって形成された集積体である。「金属ナノ粒子集積構造体」とは、たとえば複数の金属ナノ粒子が相互作用部位を介してビーズの表面に固定され、互いに隙間を設けて、金属ナノ粒子の直径以下の間隔で配置された構造体である。「半導体ナノ粒子」とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する半導体粒子である。「有機ナノ粒子」とは、ナノメートルのオーダーのサイズを有する有機化合物からなる粒子である。「樹脂ビーズ」とは、ナノメートルのオーダーからマイクロメートルのオーダーのサイズを有する樹脂からなる粒子である。
【0036】
さらに、微小物体は生体(たとえば細胞、組織、器官など)由来のもの、または生体と相互作用するものであってもよく、たとえば細胞、生体物質を含み得る。生体物質は、核酸、タンパク質、多糖類等の生体高分子を含み得る。また、微小物体は、微生物(たとえば細菌、真菌)、アレルゲンなどの抗原、ウイルスを含み得る。
【0037】
本発明およびその実施の形態において、「被導入物質」は、細胞内に導入可能な物質であれば、生体物質でもよく、生体物質に限定されない無機分子または有機分子(たとえば薬品等)であってもよい。また、「被導入物質」は、微生物、抗原、ウイルス、イオン等を含み得る。
【0038】
本発明およびその実施の形態において、「微小物体集積構造体」との用語は、複数の微小物体が集積することによって形成された構造体を意味する。
【0039】
本発明およびその実施の形態において、「PM(Particulate Matter)」とは、マイクロメートルのオーダーのサイズを有する粒子状物質である。PMの例としては、PM2.5、PM10、SPM(Suspended Particulate Matter)が挙げられる。PM2.5は、粒子径が2.5μm以下の粒子である。PM10およびSPMは、いずれも粒子径が10μm以下の粒子である。ただし、PM10は粒子径が10μmを超える粒子を含み得る一方で、SPMは粒子径が10μmを超える粒子を含まない点において、両者は相違する。
【0040】
本発明およびその実施の形態において、「マイクロバブル」とは、マイクロメートルのオーダーの気泡である。
【0041】
本発明およびその実施の形態において、「サブナノメートルのオーダー」には、0.1nmから1nmの範囲が含まれる。「ナノメートルのオーダー」には、1nmから1000nm(1μm)の範囲が含まれる。「マイクロメートルのオーダー」には、1μmから1000μm(1mm)の範囲が含まれる。したがって、「サブナノメートルのオーダーからマイクロメートルのオーダー」には、0.1nmから1000μmの範囲が含まれる。「サブナノメートルのオーダーからマイクロメートルのオーダー」は、典型的には数ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲を示し、好ましくは0.1μm〜100μmの範囲を示し、より好ましくは0.1μm〜数十マイクロメートルを示し得る。
【0042】
本発明およびその実施の形態において、「種類」との用語は、共通の性質によって微小物体を分類したときの微小物体のまとまりを意味する。上記共通の性質としては、微小物体の物理的特性または化学的特性が用いられる。
【0043】
本発明およびその実施の形態において、「物理的特性」との用語は、微小物体の機械的特性(力学的特性)、電気的特性、磁気的特性、光学的特性、または熱的特性を意味する。機械的特性の具体例としては、微小物体のサイズ、形状、内部構造、密度が挙げられる。電気的特性の具体例としては、微小物体の表面電荷、誘電率が挙げられる。磁気的特性の具体例としては、微小物体の透磁率が挙げられる。光学的特性の具体例としては、微小物体の共鳴吸収波長(励起波長)、屈折率(高周波誘電率の平方根)、非線形感受率が挙げられる。熱的特性の具体例としては、微小物体の比熱、熱伝導率、熱膨張率、耐熱性が挙げられる。
【0044】
本発明およびその実施の形態において、「化学的特性」との用語は、微小物体の材料に関する特性、および微小物体が分散される液体(分散媒)に対する微小物体の親和度を意味する。微小物体の材料に関する特性の具体例としては、たとえば微小物体の組成、分子構造が挙げられる。分散媒に対する微小物体の親和度の具体例としては、微小物体の親水性または疎水性の程度が挙げられる。
【0045】
本発明およびその実施の形態において、「生物学的特性」との用語は、微小物体の細胞としての特性を意味する。細胞としての特性の具体例としては、細胞分裂、タンパク質・脂質・糖等の生成および分泌、物質分解、細胞死が挙げられる。
【0046】
本発明およびその実施の形態において、「光を吸収する」あるいは「光吸収性を有する」との用語は、物質により吸収される光のエネルギーがゼロより大きいという性質を意味する。光の波長領域は、紫外領域、可視領域、および近赤外領域のいずれかの領域、これら3つの領域のうちの2つの領域にまたがる領域、3つの領域のすべての領域にまたがる領域のいずれもよい。すなわち、光は、レーザ光であってもよいが、これに限定されるものではなく、白色光またはパルス光などスペクトル幅の広い光であってもよい。
【0047】
光吸収性は、たとえば吸収率の範囲によって定義することができる。この場合、吸収率の範囲の下限はゼロよりも大きければよく、特に限定されない。また、吸収率の範囲の上限は100%である。
【0048】
本発明およびその実施の形態において、「分散」との用語は、微小物体が液体中に浮遊することを意味する。また、「単分散」との用語は、粒子径および形状の均一性が高いことを意味する。一例として、平均粒子径に対する標準偏差の比によって定義される変動係数(CV:Coefficient of Variation)が典型的には15%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり得る。
【0049】
[実施の形態1]
以下の実施の形態1では、微小物体の一つの例示的形態として、ポリスチレンからなる樹脂ビーズが採用される。ただし、樹脂ビーズの材料はこれに限定されるものではなく、たとえばアクリル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等であってもよい。
【0050】
<集積装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態1に係る集積装置の概略的構成を示した図である。
図1を参照して、集積装置100は、基板10と、光発熱用光源20と、ダイクロイックミラー21と、対物レンズ22と、照明用光源30と、撮影機器31と、XYZ軸ステージ40と、制御部50とを備える。x方向およびy方向は水平方向を表す。x方向とy方向とは互いに直交する。z方向は鉛直方向を表す。重力の向きはz方向下方である。
【0051】
基板10はXYZ軸ステージ40上に配置されている。基板10はサンプル13を保持している。本実施の形態において、サンプル13は、ビーズ1およびビーズ2(
図3参照)のうちの少なくとも一方が分散された液体である。サンプル13の詳細については後述する。
【0052】
光発熱用光源20は、たとえば近赤外(たとえば波長1064nm)のレーザ光201を発生させる。レーザ光201は連続光であることが好ましい。なお、光発熱用光源20の具体的な構成はこれに限定されるものではない。後述する薄膜12(
図2参照)の材料の光吸収帯の光を発する各種光源を光発熱用光源20として用いることができる。
【0053】
ダイクロイックミラー21は、近赤外光を反射する一方で、白色光を透過する。ダイクロイックミラー21は、光発熱用光源20からの近赤外のレーザ光201を反射して対物レンズ22へと導く。
【0054】
対物レンズ22は、光発熱用光源20からのレーザ光201を集光する。対物レンズ22は、その焦点位置に、レーザ光201の光軸に垂直方向の断面の直径が最小となるレーザスポット(あるいはビームウエスト)を形成することができる。対物レンズ22で集光された光は基板10またはサンプル13に照射される。ここで「照射する」とは、レーザ光201が基板10またはサンプル13を通過する場合を含む。すなわち、対物レンズ22で集光された光のレーザスポットが基板10内またはサンプル13内に位置する場合に限定されない。
【0055】
本実施の形態では、倍率の異なる2種類の対物レンズ22が準備される。対物レンズの倍率は10倍または100倍である。なお、ダイクロイックミラー21および対物レンズ22は、たとえば倒立型顕微鏡本体(図示せず)に組み込まれる。
【0056】
100倍の対物レンズを用いた場合、対物レンズ22通過後のレーザ光201の出力は、たとえば、光発熱用光源20から出射されるレーザ光201の出力の約20%である。本実施の形態では、レーザ光201の出力は0.5Wであり、対物レンズ22および基板10通過後のレーザ光201の出力は、薄膜12なし、かつサンプル13なしの場合、100mWであった。レーザスポットの直径は約1μmであった。また、10倍の対物レンズを用いた場合、対物レンズ22および基板10通過後のレーザ光201の出力は、光発熱用光源20から出射されるレーザ光201の出力の約60%である。レーザスポットの直径は約10μmであった。以下に説明する各実施の形態およびその変形例では、特に説明がない限り、対物レンズ22および基板10通過後のレーザ光201の出力は、薄膜12なし、かつサンプル13なしの状態で100mWに設定した。
【0057】
照明用光源30は、基板10上のサンプル13を照らすための光を発する。照明用光源30は、たとえば白色光301を発する光源である。1つの実施例として、ハロゲンランプを照明用光源30に用いることができる。
【0058】
対物レンズ22は、サンプル13からの白色光301を取り込むためにも用いられる。対物レンズ22を通過した白色光301は、ダイクロイックミラー21を透過して撮影機器31へと達する。
【0059】
撮影機器31は、サンプル13におけるレーザ光201のレーザスポット近傍領域を撮影する。撮影機器31は、たとえばイメージセンサを備えたビデオカメラによって実現される。撮影機器31で撮影される画像は、動画であっても静止画であってもよい。
【0060】
制御部50は、光発熱用光源20、照明用光源30、および撮影機器31を制御する。制御部50は、たとえばマイクロコンピュータあるいはパーソナルコンピュータ等によって実現される。
【0061】
なお、集積装置100の光学系は、光発熱用のレーザ光201を基板10に照射することが可能であるとともに、サンプル13からの白色光301を撮影機器31に取り込むことが可能であれば、ダイクロイックミラーを用いるものに限定されない。集積装置100の光学系は、ダイクロイックミラーに加えてあるいは代えて、光ファイバ等の光学部品を含んでもよい。また、集積装置100において、照明用光源30および撮影機器31は必須の構成要素ではない。
【0062】
図2は、
図1に示した集積装置100の基板10付近の構成の拡大斜視図である。
図1および
図2を参照して、基板10は、カバーガラス11と、カバーガラス11上に形成された薄膜12とを含む。
【0063】
薄膜12は、光発熱用光源20からのレーザ光201を吸収して、光エネルギーを熱エネルギーに変換するために形成される。薄膜12の材料は、レーザ光201の波長帯(本実施の形態では近赤外)に対する光吸収性(たとえば光熱変換効率)が高い材料であることが好ましい。また、薄膜12の厚みは、レーザ光201の強度および薄膜12の材料の光吸収性を考慮して、設計的あるいは実験的に決定することが好ましい。
【0064】
本実施の形態では、厚みがナノメートルのオーダーの金薄膜が薄膜12として形成される。金薄膜の表面の自由電子は表面プラズモンを形成し、レーザ光201によって振動する。これにより分極が生じる。その結果、金薄膜は熱を発生させる。この効果を「光発熱効果」という。
【0065】
なお、本実施の形態ではレーザ光201として1064nmの波長の光を用いて光発熱効果を発生させているが、金薄膜の表面プラズモン共鳴波長(空気中または水中では400nm〜800nmの可視光の波長域に存在する波長)に近い波長の光をレーザ光201として使用してもよい。これにより、同じレーザ出力でも、より多くの熱を発生させることができる。
【0066】
薄膜12は、蒸着、スパッタリング、または自己組織化などの公知の手法を用いて形成することができる。本実施の形態では、日立ハイテクノロジーズ株式会社製のイオンスパッタリング装置E−1010型を用いて薄膜12を形成した。薄膜12の厚みは10nmに設定した。
【0067】
なお、薄膜12の材料は金に限定されるものではなく、光発熱効果を生じ得る金以外の金属元素(たとえば銀)、金属ナノ粒子集積構造体(たとえば金ナノ粒子または銀ナノ粒子を用いた構造体)などであってもよい。あるいは、レーザ光201の波長帯の光吸収率が高い材料であってもよい。このような材料としては、黒体に近い材料(たとえばカーボンナノチューブ黒体)がある。
【0068】
XYZ軸ステージ40の位置を調整することによって、対物レンズ22の焦点に対する基板10の相対位置が調整される。対物レンズ22の焦点の位置にレーザ光201のレーザスポットは形成される。レーザ光201のレーザスポットは、薄膜12近傍に位置するように調整することが好ましい。
【0069】
基板10には、サンプル13を保持する保持領域が形成される。
図2に示す例では、カバーガラス11全体に薄膜12が形成されているが、薄膜12のうちサンプル13が保持されている領域(破線で示す)が保持領域121に相当する。なお、保持領域121のみに薄膜を形成してもよい。また、
図2では示していないが、サンプル13を滴下すべき位置を示す液滴ガイドを設けてもよい。液滴ガイドとしては、保持領域121の外周に沿う環状の段差を形成することができる。ただし、液滴ガイドのサイズおよび形状は、保持すべきサンプル13の体積等に応じて適宜定められる。
【0070】
サンプル13は、ポリスチレンビーズが分散された液体である。液体(分散媒)の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態では水(具体的には超純水)である。本実施の形態では3種類のサンプルが準備される。なお、以下に説明する第1および第2のサンプルは、第3のサンプルの比較例として準備されるものである。液体の体積は、いずれも10μLである。
【0071】
図3は、第1〜第3のサンプルに分散されるビーズを説明するための図である。
図3(A)〜(C)を参照して、ビーズ1,2の各々は疎水性の粒子である。ビーズ1,2の形状は略球形である。液体中に分散されたビーズ1,2の凝集を防止するため、すべてのビーズ1,2の表面は同符号に帯電(本実施の形態では負に帯電)している。
【0072】
第1のサンプルは、ビーズ1のみの単分散性の液体である(
図3(A)参照)。ビーズ1の粒子径は1.0μmである。ビーズ1の個数N1は4.6×10
6個である。
【0073】
第2のサンプルは、ビーズ2のみの単分散性の液体である(
図3(B)参照)。ビーズ2の粒子径は0.2μmである。ビーズ2の個数N2は3.9×10
8個である。
【0074】
第3のサンプルは、ビーズ1,2の両方を含む液体である(
図3(C)参照)。ビーズ1の個数N1およびビーズ2の個数N2は、それぞれ、4.6×10
6個および3.9×10
8個である。すなわち、第3のサンプルにおけるビーズ1とビーズ2との個数比は、N1:N2=1:85である。なお、後述する第3’のサンプルおよび第3’’におけるビーズ1とビーズ2との個数比は、それぞれ、N1:N2=1:43および1:9である(
図7参照)。
【0075】
本実施の形態ではビーズ1として、Polysciences社製のFluoresbrite Carboxylate Microspheres(2.5% Solids−Latex),1.0μm BBを使用した。ビーズ2として、同社製のFluoresbrite Carboxylate Microspheres(2.5% Solids−Latex),0.20μm NYOを使用した。
【0076】
<集積方法>
図4は、本発明の実施の形態1に係るビーズの集積方法を説明するためのフローチャートである。
図1〜
図4を参照して、ステップS11において、ビーズが分散したサンプル13(第1〜第3のサンプルのいずれか)を準備する。そして、サンプル13が基板10上に滴下される(ステップS12)。なお、サンプル13の滴下後、所定の時間(たとえば5〜10分間程度)サンプル13を静置してもよい。これは、サンプル13中でのビーズの移動が少なくなる状態になるまで静置することにより、ビーズの集積条件を統一するためである。
【0077】
制御部50は、サンプル13の撮影を開始するように撮影機器31を制御する(ステップS13)。また、制御部50は、基板10にレーザ光201を照射するように光発熱用光源20を制御する(ステップS14)。ステップS14において、サンプル13に温度差を生じさせるためのレーザ光201を対物レンズ22によって集光し、集光された光を薄膜12の保持領域121またはサンプル13に導入する。これにより、サンプル13中に分散しているビーズが集積される。ビーズが集積する様子およびそのメカニズムの詳細については後述する。
【0078】
その後、サンプル13の液体が気化される(ステップS15)。これにより、基板10上に形成されたビーズの集積体の取得が容易になる。液体を気化する手法は特に限定されない。たとえば、レーザ光201の照射を継続して、薄膜12の発熱により液体を気化させてもよい。本実施の形態では、レーザ光201の照射を停止して、空気中で自然蒸発により液体がなくなるまでサンプル13が放置される。すなわち、サンプル13は自然乾燥される。
【0079】
なお、ステップS13,S15の処理は、サンプル13の観察あるいは集積体の取得のための処理であるので、ビーズの集積においては必須ではない。つまり、ステップS11,S12,S14の処理のみを含むフローチャートを実行した場合でもビーズを集積することができる。
【0080】
<ビーズの集積の様子および集積メカニズム>
続いて、ビーズが集積する様子の一例について、撮影機器31で撮影された写真を参照しながら説明する。ここではビーズ1,2の両方を含む第3のサンプルの写真を示す。
【0081】
図5は、第3のサンプルにおける光照射開始後のレーザスポット近傍領域の時間変化を示す連続写真である。
図5を参照して、各写真は、鉛直方向(z方向)下方から上方に向かって第3のサンプルを撮影したものである。各写真に示す時刻(1s,5sなど)は、光照射開始時を基準とした経過時間(単位:秒)を表す。対物レンズ22の倍率は100倍である。
【0082】
レーザ光201の照射を開始すると、レーザスポットを中心にマイクロバブルMBが発生する。レーザ光201の照射を継続すると、マイクロバブルMBは時間の経過とともに成長する。ただし、
図5に示す例においては光照射開始後25秒程度が経過すると、マイクロバブルMBのサイズはほぼ飽和する。
【0083】
写真は、レーザスポットを中心として、マイクロバブルMBの鉛直方向下方にビーズ1,2が集積する様子を表している。光照射開始後、数秒(たとえば1秒〜5秒)程度でビーズ1,2の集積を確認することができる。その後、時間が経過するに従って、ビーズ1,2の集積量が増加する。
【0084】
図6は、第3のサンプルにおいてビーズ1,2の集積体が形成されるメカニズムを説明するための模式図である。
図6を参照して、光照射開始前、ビーズ1,2はサンプル13の液体中に分散している(
図6(A)参照)。
【0085】
レーザ光201の照射を開始すると、薄膜12がレーザ光201を吸収する。薄膜12に吸収された光エネルギーは、光発熱効果により熱エネルギーに変換される(
図6(B))。これにより、薄膜12のうちレーザスポット近傍の領域が局所的に加熱される。この加熱領域の周囲の液体の温度が上昇すると、マイクロバブルMBが発生する(
図6(C)参照)。マイクロバブルMBは薄膜12の近傍で成長する。
【0086】
液体の温度はレーザスポットに近いほど高くなる。言い換えると、レーザ光201の照射により液体中に温度差が生じる。これにより、液体内において対流が発生する。この際に発生する対流は熱対流である。対流の方向は、矢印AR1で示すように、一旦マイクロバブルMBに向かい、その後マイクロバブルMBから離れる方向である(
図6(D)参照)。
【0087】
マイクロバブルMBと基板10における薄膜12との間には、対流の流速がゼロとなる淀み領域が生じる。対流によって移動したビーズ1,2は、まずマイクロバブルMBの表面に押し付けられる。ビーズ1,2の多くは、マイクロバブルMBと基板10との間に形成されるリング状の淀み領域近傍に滞留する。すなわち、マイクロバブルMBは、光照射により制御可能な対流を堰き止める、マイクロメートルのオーダーの流体ストッパとして機能する。ここで、ビーズ2の方がビーズ1よりも小さいので、ビーズ2の方がマイクロバブルMBと基板10との間の領域RAに入り込み易い(
図6(E)および
図6(F)参照)。ビーズ2の一部は、マイクロバブルMBの鉛直方向直下の領域RBにも入り込み得る。一方、ビーズ1は、領域RA,RBには入り込みにくいので、ビーズ2よりもレーザスポットから離れた位置に集積し易い。
【0088】
ビーズ1,2の集積が完了すると、レーザ光201の照射が停止される。これに続くサンプル13の液体を気化させる過程において、マイクロバブルMBが薄膜12から解離する。これに伴い、マイクロバブルMBの周囲に堆積されたビーズ1,2の一部は液体中に巻き上げられる(
図6(G)参照)。そして、巻き上げられたビーズ1,2は、重力によって液体中を落下して基板10上の薄膜12の表面に集積する(
図6(H)参照)。
【0089】
<ビーズの粒子径の集積体の構造への影響>
次に、第1〜第3のサンプルの各々における集積体の構造を説明する。以下において、集積体の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真およびレーザ顕微鏡による集積体の断面形状の測定結果を示す。なお、以下に示す結果は自然乾燥後のサンプル13を測定したものである。
【0090】
図7は、
図8〜
図17で用いたビーズの集積条件を説明するための図である。
図7(A)を参照して、
図8〜
図10は、それぞれ第1〜第3のサンプルについて、倍率が100倍の対物レンズ22(以下、単に「100倍レンズ」とも記載する)を用いた場合のビーズの集積結果を示す図である。
図11〜
図13は、それぞれ第1〜第3のサンプルについて、倍率が10倍の対物レンズ22(以下、単に「10倍レンズ」とも記載する)を用いた場合のビーズの集積結果を示す図である。
図7(B)を参照して、
図14〜
図17は、第3’および第3’’のサンプルについて、ビーズ1とビーズ2との個数比(N1:N2)を変更した場合のビーズの集積結果を示す図である。
【0091】
図8および
図9は、それぞれ第1および第2のサンプルについて、100倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の断面形状の測定結果を示す図である。
図8(A)および
図9(A)は、集積体のSEM写真である。
図8(B)は、VIIIB−VIIIB線に沿う集積体の断面形状の測定結果を示す図である。
図8(B)の横軸は、VIIIB−VIIIB線に沿う距離を表す。
図8(B)の縦軸は、鉛直方向(z方向)上向きの高さを表す。なお、
図9(B)に示す測定結果についての説明は、
図8(B)についてのものと同様である。
【0092】
図8(A)および
図8(B)を参照して、第1のサンプルについて、ビーズ1からなる集積体の高さはレーザスポットの中心で最も高く、レーザスポットの中心から離れるに従って低くなる。このような形状はドーム形状と表現することができる。
【0093】
図9(A)および
図9(B)を参照して、第2のサンプルについて、ビーズ2からなる集積体は、ビーズ1からなる集積体よりも高さおよび直径がいずれも小さい。しかし、ビーズ2からなる集積体は、その高さがレーザスポットの中心で最も高い点において、ビーズ1からなる集積体と共通する。
【0094】
図10は、第3のサンプルについて、100倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の断面形状の測定結果を示す図である。
図10は、
図8および
図9と対比される。
【0095】
図10(B)を参照して、レーザスポットの中心での集積体の高さは、レーザスポットの周囲の集積体の高さよりも低い。このように、ビーズ1およびビーズ2の両方を含むサンプルでは、いわばリング形状の集積体が形成される。
【0096】
さらに
図10(A)を参照すると、左下の拡大図に示すように、集積体の中央部分は、主にビーズ2から構成されていることが分かる。この中央部分を取り囲むように、主にビーズ1から構成された構造が形成される。
【0097】
以上のように、1種類のビーズのみを含むサンプル(第1のサンプル)と2種類のビーズを含むサンプル(第3のサンプル)とを比較すると、集積体の構造に差異が生じる。このような差異が生じる要因としては、マイクロバブルMBとその周囲の液体との気液界面に形成される集積構造(
図6(E)および
図6(F)参照)の構造安定性の違いが考えられる。
【0098】
より詳細に説明すると、第1のサンプルについて、マイクロバブルMBの存在下では、マイクロバブルMBとその周囲の液体との気液界面に沿ってビーズ1が滞留することにより、ビーズ1からなる集積体はリング形状を有している。この集積体においては、ビーズ1によってある種の構造が形成されている。この構造は六方最密充填構造と考えられる。
【0099】
マイクロバブルMBは、サンプル13の液体を気化させる過程において消失する。そのため、ビーズ1からなる集積体は、気液界面を利用してリング形状を維持することはできなくなる。
【0100】
それに加えて、液体が完全に気化する前にビーズ1間に毛管力が働く。毛管力は、親水性の微小物体同士の間あるいは疎水性の微小物体同士の間では引力として作用する一方で、親水性の微小物体と疎水性の微小物体との間では斥力として作用する。ビーズ1は疎水性であるため、毛管力は引力として作用してビーズ1を凝集させる。
【0101】
以上のように、サンプル13の液体を気化させると、リング形状の維持に気液界面を利用できなくなるのとともに、ビーズ1同士を凝集させる方向に毛管力が作用する。これにより、第1のサンプルの場合、リング形状の中心方向に向かって集積体が崩れる。崩れたビーズ1がリング形状の中央部分に堆積する結果、集積体の形状がリング形状からドーム形状へと変化すると考えられる。
【0102】
これに対し、第3のサンプルの場合、第1のサンプルと同様に、ビーズ1によって六方最密充填構造が形成される。第3のサンプルはビーズ2を含むので、隣接するビーズ1間の隙間にビーズ2が入り込む。その結果、ビーズ1とビーズ2との間の粒子間距離は、ビーズ1のみからなる六方最密充填構造におけるビーズ1同士の粒子間距離よりも小さくなる。このように、粒子径が異なる2種類のビーズを含むことにより、高密度で高い構造安定性を有する集積構造が形成される。したがって、第3のサンプルの集積体では、マイクロバブルMBの消失後においてもリング形状を維持することができると考えられる。
【0103】
<対物レンズの倍率の集積体の構造への影響>
続いて、対物レンズ22の倍率が集積体の構造に与える影響について説明する。具体的には、10倍レンズを用いて形成された集積体と、100倍レンズを用いて形成された集積体とが比較される。
【0104】
図11〜
図13は、それぞれ第1〜第3のサンプルについて、10倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の断面形状の測定結果を示す図である。
図11〜
図13に示す集積結果における集積条件は、対物レンズ22の倍率以外は、
図8〜
図10に示す集積結果における集積条件とそれぞれ同等である。
【0105】
図8および
図11を参照して、第1のサンプルにおける集積体の直径は、100倍レンズの場合に45μmであるのに対し、10倍レンズの場合には75μmである。同様に、
図9および
図12を参照して、第2のサンプルにおける集積体の直径は、100倍レンズの場合に38μmであるのに対し、10倍レンズの場合には100μmである。
図10および
図13を参照して、第3のサンプルにおける集積体の直径は、100倍レンズの場合に35μmであるのに対し、10倍レンズの場合には70μmである。
【0106】
このように、10倍レンズを用いて集積体を形成した場合の方が、100倍レンズを用いて集積体を形成した場合よりも、集積体のサイズが大きい。つまり、倍率の異なる対物レンズを用いることにより、集積体のサイズを制御することができる。その理由を以下に説明する。
【0107】
10倍レンズを用いてレーザ光201を集光する場合の方が、100倍レンズを用いてレーザ光201を集光する場合よりも、大きなマイクロバブルMBが発生する。実測値の一例を挙げると、100倍レンズを用いて光を集光した場合、第1〜第3のサンプルにおけるマイクロバブルMBの直径の最大値は、それぞれ、93.8μm、91.1μm、61.0μmである。一方、10倍レンズを用いて光を集光した場合、第1〜第3のサンプルにおけるマイクロバブルMBの直径の最大値は、それぞれ、213μm、202μm、177μmである。
図6で説明したように、マイクロバブルMBとその周囲の液体との気液界面に集積体は形成される。したがって、マイクロバブルMBが大きいほど集積体は大きくなり得る。
【0108】
10倍レンズを用いて集光する場合の方が100倍レンズを用いて集光する場合よりもマイクロバブルMBが大きい理由としては、以下の3つの要因が考えられる。
【0109】
第1の要因としては、レーザスポットの面積が考えられる。10倍レンズを用いて集光する場合の方が、100倍レンズを用いて集光する場合よりも、レーザスポットの面積が大きい。つまり、光発熱効果が生じる領域の面積が大きいので、その領域に接する液体の体積も大きくなる。その結果、マイクロバブルMBが大きくなると考えられる。
【0110】
第2の要因としては、薄膜12で吸収されるレーザ光201の割合(=薄膜12に吸収された光エネルギー/薄膜12に照射された光エネルギー)が考えられる。薄膜12の厚みに対するレーザ光201の強度([W/m
2]、すなわち単位時間当たりのエネルギー密度[J/(m
2・s)])が相対的に高いと、レーザ光201の一部は薄膜12で吸収されることなく透過してしまう可能性がある。これは、レーザ強度は、ある値以上になると、吸収飽和と呼ばれる非線形光学現象に起因して、物質が吸収できる光の許容値を超えてしまうためと考えられる。10倍レンズを用いて集光する場合、レーザ光の出力が等しいとしても、100倍レンズを用いて集光する場合よりもレーザスポットの面積が広くなるので、レーザスポットにおける光のエネルギー密度が低くなる。そのため、吸収飽和により薄膜12を透過する光のエネルギーが減り、薄膜12で吸収される光の割合が高くなる。したがって、10倍レンズを用いて集光する場合の方が、より大きな光エネルギーが薄膜12で吸収され、マイクロバブルMBの発生に寄与している可能性がある。
【0111】
第3の要因としては、薄膜12の変性(剥離を含む)が考えられる。レーザ光201のエネルギー密度が高いと、レーザスポットの領域の薄膜が変性してしまうことがある。10倍レンズを用いる場合の方が、100倍レンズを用いる場合よりもレーザスポットにおけるエネルギー密度が低いので、薄膜12の変性が生じにくい。
【0112】
なお、上述のように、薄膜12の厚みは、レーザ光の強度および薄膜の材料の光吸収性に基づいて決定することが好ましい。薄膜12が薄いほど、光発熱効果によって生じた熱が薄膜12を伝導し易い。これにより、薄膜12のうち温度が上昇した領域が広くなるので、その領域に接する液体の体積が大きくなる。その結果、より大きなマイクロバブルMBが発生し得る。その一方で、レーザ光201の強度に対して薄膜12が薄過ぎると、レーザ光201の一部が薄膜12により吸収されない。その結果、光発熱効果によって生じる熱エネルギーが小さくなる。このようなトレードオフの関係が存在するので、薄膜12の厚みには最適値が存在する。
【0113】
本実施の形態では、薄膜12の厚みは10nmに設定した。これは、3種類の膜厚(10nm、30nm、50nm)の薄膜を形成し、光照射下でマイクロバブルMBのサイズを測定した結果、膜厚が10nmの場合に形成されたマイクロバブルMBのサイズが最大であったためである。
【0114】
なお、同一倍率の対物レンズ22でもサンプルによってマイクロバブルMBの直径は異なる。マイクロバブルMBの直径は、第3のサンプル、第2のサンプル、第1のサンプルの順に小さい。特に、第3のサンプルにおけるマイクロバブルMBの直径は、第1および第2のサンプルにおけるマイクロバブルMBの直径よりも小さい。これは、複数種類のビーズから形成された集積体(第3のサンプルにおける集積体)の方が、単一種類のビーズから形成された集積体(第1または第2のサンプルにおける集積体)よりも高い構造安定性を有するため、マイクロバブルMBの成長の妨げになり易いためと考えられる。このことは、ビーズを含まないサンプル(超純水)において発生するマイクロバブルMBの直径が最大であることからも分かる。
【0115】
<ビーズの個数比の集積体の構造への影響>
次に、ビーズ1とビーズ2との個数比が集積体の構造に与える影響について説明する。以下では、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合(第3’のサンプルの場合)に形成された集積体の構造と、N1:N2=1:9の場合(第3’’のサンプルの場合)に形成された集積体の構造とが比較される。
【0116】
図14は、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合について、100倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の3次元形状を示す図である。
図15は、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:9の場合について、100倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の3次元形状を示す図である。
図14(A)および
図15(A)は、集積体のSEM写真を示す。
図14(B)および
図15(B)は、集積体の3次元形状の測定結果を示す。
【0117】
図14および
図15を参照して、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合(
図14参照)の方が、N1:N2=1:9の場合(
図15参照)と比べて、集積体の直径が小さい一方で集積体の高さが高い。
【0118】
図16は、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合について、10倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の3次元形状を示す図である。
図17は、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:9の場合について、10倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の3次元形状を示す図である。
【0119】
図16および
図17を参照して、
図14および
図15と同様に、ビーズの個数比がN1:N2=1:43の場合(
図16参照)の方が、N1:N2=1:9の場合(
図17参照)と比べて、集積体の直径が小さい一方で集積体の高さが高い。
【0120】
このように、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合の方が、N1:N2=1:9の場合よりも集積体のリング形状がより顕著に確認される。このことは、ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合の方が集積体の構造安定性が高く、サンプル13の気化過程で集積体のリング形状が維持され易いことを示している。その理由について説明する。
【0121】
第3’および第3’’のサンプルでは上述のように、マイクロバブルMBが発生した際にビーズ1による六方最密充填構造が形成される。そして、ビーズ1間の隙間にビーズ2が入り込む。このとき、ビーズ2の総体積(各ビーズ2の体積×ビーズ2の個数N2)がビーズ1の総体積(各ビーズ1の体積×ビーズ1の個数N1)に近い方が、ビーズ1間の隙間に入り込むビーズ2の個数が大きくなる。これにより、集積体の構造安定性が高められる。
【0122】
図14〜
図17に示す例においては、ビーズ1(直径:1.0μm)とビーズ2(直径:0.2μm)との直径比は5:1であるので、ビーズ1とビーズ2との体積比は125:1である。ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合、総体積比は(125×1):(1×43)=2.9:1となる。一方、個数比がN1:N2=1:9の場合、総体積比は(125×1):(1×9)=14:1となる。ビーズ1とビーズ2との個数比がN1:N2=1:43の場合の方が、N1:N2=1:9の場合よりもビーズ2の総体積がビーズ1の総体積に近いので、より構造安定性の高い集積体が形成される。
【0123】
このように、本実施の形態によれば、微小物体が分散した状態の液体が準備される。この液体を保持する基板への光照射という非常に簡易な操作によって、迅速に微小物体を集積することができる。本実施の形態に示すサンプルでは、わずか数秒から数十秒程度の短時間で集積が可能である。
【0124】
微小物体は液体中に分散していればよいので、特許文献1のように微小物体を基板上に固定する処理が不要である。つまり、光照射前の下処理の工程が削減されるので、コストを低減することができる。
【0125】
なお、本実施の形態では、微小物体が液体中に分散している例について説明したが、本発明に係る「空間」は液体で満たされたものに限定されない。微小物体が気体中に分散している場合についても、光照射により気体中に温度差を生じさせて、それによる対流によって微小物体を集積することができる。
【0126】
[実施の形態1の変形例]
実施の形態1の変形例においては、蛍光ビーズによってレーザ光が吸収される。また、本変形例では、サンプルの液体とその周囲の気体との気液界面にレーザ光が照射される。
【0127】
図18は、本発明の実施の形態1の変形例に係る集積装置の概略的構成を示した図である。
図18を参照して、集積装置101は、調整機構41と、レーザ変位計42とをさらに備える点において、
図1に示した集積装置100と異なる。また、基板10には薄膜12(
図2参照)は形成されていない。
【0128】
図18に示された構成では、対物レンズ22の位置は固定されている。調整機構41は、基板10が搭載されたXYZ軸ステージ40のx方向、y方向およびz方向の位置を調整する。調整機構41としては、たとえば顕微鏡に付属のサーボモータおよび焦準ハンドルなどの駆動機構を用いることができる。なお、調整機構41の具体的な構成は特に限定されるものではない。また、調整機構41は、固定された基板10に対して、対物レンズ22の位置を調整してもよい。
【0129】
レーザ変位計42は、レーザ変位計42と基板10との間の鉛直方向の距離を測定するとともに、基板10の水平方向の変位を測定する。レーザ変位計42の測定結果を用いることにより、レーザ光201のレーザスポットの位置を調整することができる。たとえば、調整機構41は、レーザ変位計42の測定結果に基づいて、XYZ軸ステージ40の位置を調整してもよい。ただし、レーザ変位計42は必須の構成ではない。
【0130】
本変形例においては、レーザ光201に対して2光子吸収を示す蛍光ビーズを用いて形成される集積体の構造を比較する。本変形例で用いられるビーズは、実施の形態1で用いられるビーズ1,2と同じである。ビーズ1とビーズ2との個数比が異なる3種類のサンプル(第4〜第6のサンプル)が準備される。液体の体積は10μLである。
【0131】
ビーズ1は、ブライトブルーの蛍光色素(Fluoresbrite社製BB)を内部に含む。ビーズ1の最大励起波長は365nmである。
【0132】
ビーズ2は、イエローオレンジの蛍光色素(Fluoresbrite社製NYO)を内部に含む。ビーズ2の最大励起波長は530nmである。上述のように、光発熱用光源20の波長は1064nmであるので、ビーズ2の最大励起波長の約2倍である。このため、ビーズ2では、レーザ光201によって2光子吸収過程が発生し得る。なお、本変形例では2光子吸収過程の例について説明するが、3光子以上の多光子吸収過程が発生する材料を用いてもよい。
【0133】
第4のサンプルにおけるビーズ1とビーズ2との個数比は、N1:N2=0.64×10
7:3.3×10
8=1:51である。第5のサンプルにおけるビーズ1とビーズ2との個数比は、N1:N2=1.2×10
7:2.9×10
8=1:25である。第6のサンプルにおけるビーズ1とビーズ2との個数比は、N1:N2=2.3×10
7:2.0×10
8=1:9である。
【0134】
レーザ光201のレーザスポットが、サンプル13の液体中にあり、かつ、液体の周囲の気体と液体との界面である気液界面の近傍に位置するように、対物レンズ22と気液界面との間の距離が調整される。さらに、レーザ光201のレーザスポットが、液体中にあり、かつ気液界面の近傍に位置することがより好ましい。液滴の外周部分では液滴の厚みが小さいため分散媒の蒸発が早く、分散したビーズ1とビーズ2とはともに高濃度になる。2光子吸収過程の発生確率は光強度の2乗に比例するので、光強度が高い光をビーズ2が多数存在する高濃度の気液界面に導入することにより、2光子吸収過程の発生確率が高くなるためである。
【0135】
本変形例では、倍率が100倍の対物レンズ22を用いて、レーザ光201のレーザスポットの位置が水平方向(x方向およびy方向)について気液界面から28μmとなるように調整した。また、高さ方向(z方向)について、基板10上でピントの合う位置からXYZ軸ステージ40を2μm下げて基板上面から10μm以下の高さにビームウエストの位置を調節することにより、液滴中でのレーザスポットの位置を決めた。レーザ光201の出力は、実施の形態1における出力よりも高い2Wに設定した。対物レンズ22および基板10通過後のレーザ光201の出力は、サンプル13なしの場合、約0.4Wであった。なお、レーザスポットの位置の調整は必須ではなく、レーザ光201がサンプル13を通過すればよい。
【0136】
図19は、第4〜第6のサンプルの気液界面における集積体の光学写真である。
図19(A)〜(C)は、第4〜第6のサンプルの集積体をそれぞれ示す。画像上側の部分(Aで表す)は気体である。画像下側の部分(Lで表す)は液体である。液体と気体との間の色の濃い部分(Iで表す)は気液界面である。
【0137】
図19(A)〜(C)を参照して、
図19(A)に示される集積体が最も大きく、
図19(C)に示される集積体が最も小さい。つまり、ビーズ2の個数が多いほど、あるいはビーズ1に対するビーズ2の個数比が高いほど、集積体が大きくなる。2光子吸収過程によりレーザ光201をビーズ2が吸収するので、ビーズ2の個数が多いほど(あるいはビーズ2の個数比が高いほど)、ビーズ2による光の吸収量が大きい。その結果、ビーズ2による発熱量が大きくなる。発熱量が大きいほど対流が生じ易いので、大きな集積体が形成されると考えられる。
【0138】
また、サンプル13の液体中では、バルク(気液界面から離れた液体の中心付近の領域)から気液界面に近づくに従ってビーズ1,2の濃度が高くなる。そのため、気液界面に対物レンズ22の焦点の位置を調整することによって、より大きな集積体を形成することができる。
【0139】
図20は、第4のサンプルの集積体を拡大して示すSEM写真である。
図20を参照して、気液界面において液体が蒸発した箇所では、ビーズ1がビーズ2に埋もれている様子が示される。
【0140】
[実施の形態2]
実施の形態1に示した集積装置を用いて微小物体集積構造体の製造装置を実現することができる。実施の形態2では、樹脂ビーズからなる2元フォトニック構造を製造する例について説明する。微小物体集積構造体の製造装置の構成は、
図1および
図2に示した集積装置100の構成と同等である。また、微小物体集積構造体の製造方法は、
図4に示したフローチャートの処理と同等である。したがって、微小物体集積構造体の製造装置の構成および微小物体集積構造体の製造方法についての説明は繰り返さない。
【0141】
図10(A)に戻り、右上の拡大図に示されるように、第3のサンプルについて100倍レンズを用いて集積体を形成すると、主にビーズ1が高密度に集積された構造の周囲に、ビーズ1が周期的に配置された構造が形成される。これは、ビーズ1とそのビーズ1に最も近い他のビーズ1との隙間がビーズ2で充填されることにより、ビーズ1が周期的に整列したものである。ビーズ1の構造の周期は数百nmであり、可視光の波長と同程度である。このように、集積装置100を用いて2元フォトニック構造の製造装置を実現することができる。なお、
図13(A)の右上の拡大図に示されるように、10倍レンズを用いて集積体を形成した場合についても、同様の2元フォトニック構造が形成されたことを確認することができる。
【0142】
このように、実施の形態2によれば、レーザ光が照射された箇所に2元フォトニック構造を製造することができる。フォトニック構造は、光の波長オーダーのサイズの誘電体が周期的に配列した構造体で、構成要素となる誘電体のサイズ、形状、屈折率、および周期を変えることで、特定の波長の光を強く反射したり、閉じ込めたりする性質を有する。2元フォトニック構造とは、サイズの異なる2種類の誘電体からなるフォトニック構造を意味する。本実施の形態では、
図13に示すように、凹レンズ型の2元フォトニック構造が作製される。このような凹レンズ型2元フォトニック構造の応用例として、波長選択性を有する凹レンズがある。波長選択性凹レンズは、たとえば光通信素子として使用することができる。
【0143】
さらに、薄膜の材料および厚み、液体の種類、対物レンズの倍率、レーザ光の強度等を調整することにより、マイクロバブルのサイズが変わるため、フォトニック構造のサイズを制御することができる。また、ビーズの種類(たとえば粒子径、形状等)を変更することにより、フォトニック構造の周期を制御することができる。これにより、様々な波長に対応して、フォトニック構造を製造することが可能である。
【0144】
[実施の形態2の変形例1]
実施の形態2では、樹脂ビーズからなる2元フォトニック構造が形成される例について説明した。実施の形態2にて説明した例では、光照射の停止後、液体が自然蒸発によりなくなるまでサンプルが乾燥(自然乾燥)される。これに対し、変形例1では、サンプルを真空乾燥させる例について説明する。変形例1,2に係る微小物体集積構造体の製造装置の構成は、
図1および
図2に示した集積装置100の構成と同等である。また、微小物体集積構造体の製造方法は、
図4に示したフローチャートの処理と同等である。したがって、微小物体集積構造体の製造装置の構成および微小物体集積構造体の製造方法についての説明は繰り返さない。
【0145】
図1〜
図3を再び参照して、本変形例では、ビーズ1,2の両方を含むサンプル(第3のサンプル)が用いられる。ビーズ1とビーズ2との個数比は、N1:N2=1:85である(
図7(A)参照)。
【0146】
対物レンズ22(10倍レンズ)および基板10通過後のレーザ光201の出力は、サンプル13なしの場合、0.1Wであった。光照射の停止後にサンプル13を図示しないデシケータ内に設置した。デシケータ内の圧力は0.02MPa(=152Torr)に設定した。真空乾燥を約40分間行なった後、サンプル13をデシケータから取り出した。
【0147】
図21は、第3のサンプルを真空乾燥させた場合に形成された集積体のSEM写真である。
図22は、
図21に示した集積体の3次元形状および断面形状を示す図である。
図22(A)は、集積体の3次元形状の測定結果を示す。
図22(B)は、
図21のXXIIB―XXIIB線に沿う集積体の断面形状の測定結果を示す。
【0148】
図21および
図22を参照して、サンプル13を真空乾燥させる場合も、サンプル13を自然乾燥させる場合(
図13参照)と同様に、リング形状の集積体が形成される。この集積体では、ビーズ1とそのビーズ1に最も近い他のビーズ1との隙間がビーズ2で充填されることにより、ビーズ1が周期的に整列している。ビーズ1の構造の周期は、可視光の波長と同程度(数百nm)である。よって、2元フォトニック構造が形成されたことが確認される。さらに、断面形状の測定結果より、この集積体が単層構造を有することが分かる。
【0149】
図23は、第3のサンプルについて、光照射なしで自然乾燥させた場合の消衰スペクトルと、光照射後に真空乾燥させた場合の消衰スペクトルとを示す図である。
図23および後述する
図29において、横軸は波長を表し、縦軸は消衰度を表す。曲線P3は、自然乾燥後の消衰スペクトルを表す。曲線Q3は、真空乾燥後の消衰スペクトルを表す。
【0150】
図23を参照して、自然乾燥後の消衰スペクトル、および真空乾燥後の消衰スペクトルは、いずれも青色〜緑色の波長域にピークを有する。そのため、自然乾燥後のサンプル13および真空乾燥後のサンプル13の各々は構造色を示す。これは、フォトニック構造に依存した特定波長の光のみが反射されるためである。これによっても
図21および
図22に示した集積体がフォトニック構造を有することが確認される。
【0151】
第3のサンプルを自然乾燥させる場合、集積体の直径は約70μmであり、集積体の高さは約10μmである(
図13(B)参照)。これに対し、第3のサンプルを真空乾燥させた場合、集積体の直径は約100μmであり、集積体の高さは約2μmである。つまり、サンプル13を真空乾燥させる場合の方が、サンプル13を自然乾燥させる場合と比べて、集積体の直径が大きくなるとともに集積体の高さが低くなる。その結果、集積体が単層構造を有するに至る。このメカニズムについて説明する。
【0152】
図24は、光照射後に自然乾燥させた場合のメカニズムと、光照射後に真空乾燥させた場合のメカニズムとを比較するための模式図である。
図24(A)に示すように、サンプル13を自然乾燥する場合、光照射の停止後にマイクロバブルMBの直径はあまり変化しない。
【0153】
一方、
図24(B)に示すように、サンプル13を真空乾燥する場合、マイクロバブルMBの直径は、真空乾燥の開始前の直径よりも大きくなる。これは、真空乾燥により、サンプル13の周囲の圧力が大気圧(すなわち真空乾燥の開始前の圧力)よりも減圧されるためである。
【0154】
このことは、たとえば以下のようにして確認することができる。レーザ光201をサンプル13に1分間照射した。このサンプル13をデシケータ内に設置した。デシケータ内にて真空乾燥させた時間(乾燥時間)が比較的短い場合、サンプル13内の液体の全てが蒸発するには至らず、液体内にマクロバブルMBを観察することができる。したがって、光学顕微鏡を用いてサンプル13の画像を取得することにより、乾燥時間の長さに応じたマイクロバブルMBの直径を測定することが可能である。
【0155】
図25は、マイクロバブルMBの直径の測定結果を示す図である。
図25において、横軸はサンプル13の乾燥時間を表す。縦軸は、光照射停止時のマイクロバブルMBの直径を基準とした直径の増加量を表す。
【0156】
図24および
図25を参照して、第3のサンプルの場合、実施の形態1にて説明したように、レーザ光201の照射中におけるマイクロバブルMBの直径の最大値は61.0μmであった。これに対し、真空乾燥中のマイクロバブルMBの直径は約150μm〜200μmであった。このように、真空乾燥によりマイクロバブルMBの直径が大きくなることが確認される。
【0157】
上述したように、レーザ光201の照射中には、ビーズ1,2がマイクロバブルMBと基板10との間の領域に集積することにより、リング形状の集積体が形成される。この集積体は、真空乾燥によりマイクロバブルMBの直径が大きくなるに従って、リング形状の動径方向に向かって崩れる。これにより、集積体の高さが低くなる。その結果、集積体が単層構造を有するに至ると考えられる。
【0158】
また、
図25に示す例では、乾燥開始時刻から約6分間、マイクロバブルMBの直径が時間の経過とともに大きくなることが分かる。したがって、乾燥時間を変更することにより、フォトニック構造のサイズ(直径)および高さを制御することができる。
【0159】
[実施の形態2の変形例2]
実施の形態2およびその変形例1では、レーザ光の照射位置およびその周辺に集積体が形成されると説明した。しかし、基板上にサンプルの液滴を滴下する場合、液滴の縁の領域においても集積体を形成することが可能である。変形例2では、第1〜第3のサンプル(
図7(A)参照)を用いた場合において、液滴の縁に集積体を形成する構成について説明する。
【0160】
図26〜
図28は、それぞれ第1〜第3のサンプルの液滴の縁の領域に形成された集積体のSEM写真である。以下では、各サンプルを自然乾燥させた例を示すが、真空乾燥させてもよい。
【0161】
図26および
図27を参照して、第1のサンプルでは、液体の縁においてもビーズ1からなる集積体が観察される。第2のサンプルにおいても第1のサンプルと同様に、ビーズ2からなる集積体が観察される。ビーズ1からなる集積体、およびビーズ2からなる集積体は、いずれも六方最密充填構造を有する。
【0162】
図28を参照して、第3のサンプルでは、ビーズ1とそのビーズ1に最も近い他のビーズ1との隙間がビーズ2で充填されることにより、ビーズ1が周期的に配置された構造が形成される。ビーズ1の構造の周期は可視光の波長と同程度である。したがって、第3のサンプルを用いた場合に液体の縁に形成される集積体も2元フォトニック構造を有することが分かる。
【0163】
図29は、第1〜第3のサンプルの消衰スペクトルを示す図である。曲線P1〜P3は、第1〜第3のサンプルの消衰スペクトルをそれぞれ表す。
図29を参照して、自然乾燥後の液滴の縁の領域に形成される集積体がフォトニック構造を有することが確認される。
【0164】
このように、ビーズ1,2の両方を含むサンプル(第3のサンプル等)にレーザ光201を照射した場合、レーザスポット近傍領域にフォトニック構造が形成される(
図13(A)等参照)。それに加えて、サンプルを自然乾燥(あるいは、ここでは示さないが真空乾燥)させることにより、サンプルの液滴の縁の領域においてもフォトニック構造を形成することができる。
【0165】
[実施の形態3]
微小物体は生体由来のものであってもよい。実施の形態3においては、生体由来の微小物体の1つの例示的形態として、細菌が集積される。具体的には、ロッド形状の細菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が集積される。なお、実施の形態3に係る集積装置の構成は、
図1および
図2に示す集積装置100の構成と同等であるため、説明は繰り返さない。
【0166】
実施の形態3では、実施の形態1におけるビーズ1に代えて、細菌3(緑膿菌)が用いられる。本実施の形態で使用した緑膿菌の幅は0.599±0.09μmであった。緑膿菌の長さは1.72±0.36μmであった。緑膿菌とビーズ1(直径:1.0μm)との体積比は、(0.599×0.599×1.72):(1.0×1.0×1.0)=0.617:1と見積もられる。つまり、緑膿菌はビーズ1と同程度のサイズを有する。
【0167】
第7のサンプルとして、細菌3とビーズ2(直径:0.2μm)とが分散されたサンプル13が準備される。細菌3の個数N3は1.2×10
6個である。ビーズ2の個数N2は1.0×10
8個である。すなわち、細菌3とビーズ2との個数比は、N3:N2=1:82である。液体の体積は10μLである。
【0168】
図30は、第7のサンプルにおける光照射開始後のレーザスポット近傍領域の時間変化を示す連続写真である。
図30は、ビーズ1,2を含む第3のサンプル(
図5参照)と対比される。第3のサンプルの場合と同様に、レーザスポット近傍に細菌3が集積する様子が示される。なお、対物レンズ22の倍率は100倍である。
【0169】
ここで、光照射開始から41秒後にレーザ光201の照射を停止すると、41秒から45秒にかけて細菌3(円で示す)がマイクロバブルMBから離れていく様子が示される。
【0170】
図31は、第3のサンプルと第7のサンプルとの間で、光照射停止後の変化を比較するための連続写真である。
図31を参照して、各写真に示された時刻(0s,2sなど)は、レーザ光201の照射停止後の経過時間(単位:秒)を表す。
【0171】
図31(A)は、ビーズ1,2を含む第3のサンプルの様子を表す。薄膜12への光照射終了後でもビーズ1の位置はほとんど変化しない。注目した特定のビーズ1を円で示すと、そのビーズ1はブラウン運動によって不規則に運動するのみである。
図31(A)に示す6秒間でのビーズ1の移動距離は数μm程度である。
【0172】
これに対し、
図31(B)は、緑膿菌およびビーズ2を含む第7のサンプルの様子を表す。薄膜12への光照射停止後、マイクロバブルMBから離れる方向に細菌3の集団が拡散する様子が示される。注目した特定の細菌3を円で示すと、その細菌3がマイクロバブルMBから離れる方向に素早く移動する様子が示される。
図31(B)に示す6秒間での細菌3の移動距離は数十μm程度である。このような細菌3の迅速な集団拡散は、集積された細菌3のうちの少なくとも一部は生存状態であることを示す証拠である。
【0173】
図32は、第7のサンプルについて、100倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の断面形状の測定結果を示す図である。
図33は、第7のサンプルについて、10倍レンズを用いて形成された集積体のSEM写真および集積体の断面形状の測定結果を示す図である。
図32および
図33は、
図10および
図13とそれぞれ対比される。
【0174】
図32および
図33を参照して、細菌3およびビーズ2を集積する場合にも、ビーズ1およびビーズ2を集積する場合と同様に、リング形状の集積体が形成されることが確認される。また、
図32および
図33の拡大図において破線で示すように、細菌3は、ロッド形状の長軸方向が基板10の主面(x方向およびy方向に平行な面)に平行となる状態で集積されていることが分かる。
【0175】
緑膿菌は、院内感染等の原因となり得る、人間にとって有害な細菌である。しかしながら、人間にとって有用な細菌についても同様の方法による集積が可能である。
【0176】
たとえば、二酸化炭素をメタノールなどの有用物質に変換する超低栄養性細菌(Rhodococcus erythropolis)を集積することができる。上述のように、超低栄養性細菌は、生きたままの状態で、かつロッド形状の長軸方向が基板10の主面に平行となる状態で集積される。これにより、超低栄養性細菌のロッド形状の長軸方向が基板10の主面に垂直となる状態で集積される場合と比べて、細菌の集団の表面積(基板10の主面に平行な面の面積)が大きくなる。したがって、基板10上に二酸化炭素を流通させた際に、高効率に二酸化炭素を固定化することができる。
【0177】
[実施の形態4]
実施の形態3で説明した集積装置を使用して、人間に有害な微生物を除去することが可能である。
【0178】
図34は、本発明の実施の形態4に係る微生物の集積除去装置の概略的構成を示す図である。
図34を参照して、微生物の集積除去装置200は、捕集部210と、除去部220とを備える。
【0179】
捕集部210は、空気中を浮遊する微生物を捕集する。除去部220は、捕集部210によって捕集された微生物を光照射により集積するともに除去する。除去部220の構成は、
図1に示す集積装置100の構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0180】
図35は、
図34に示した捕集部210の構成の一例を示す図である。
図34および
図35を参照して、図示しないモータによりファン211を回転させると、捕集部210の吸引口212から一定量の空気が吸引される。この空気とともに、空気中を浮遊する微生物4が吸引されて、捕集部210内に設置された基板102に吹き付けられる。基板102には、サンプル13の液体が保持されている。これにより、空気中を浮遊する微生物4がサンプル13の液体中に捕集される。なお、微生物4の捕集方法は上記の手法に限定されるものではなく、公知の各種手法を採用することができる。
【0181】
基板102は、サンプル13の液体中に微生物4が捕集されると、除去部220のXYZ軸ステージ40上の所定の位置に設置される。除去部220は、レーザ光201を基板102に照射する。レーザスポット近傍の液体は、高温になっている。より具体的には、液体(本実施の形態では水)内にアルブミンを分散させると、アルブミンが光照射により凝固することが確認される。アルブミンの凝固温度は75〜78℃であるため、レーザスポット近傍の液体の一部は約80℃以上となっていることが分かる。このように、光照射により微生物4を気泡表面の近傍に集積しつつ、レーザスポット近傍における高温処理による微生物の除去効果を得ることができる。
【0182】
[実施の形態5]
環境汚染粒子であるPM2.5は、人体に吸引されると肺の奥まで侵入し得るので、呼吸系および循環器系への影響が懸念される。PM2.5の拡散状況を把握するために、大気中のPM2.5の質量濃度(単位:μg/m
3)を簡易かつ迅速に測定する技術が求められている。実施の形態5では、実施の形態1の集積装置を用いてPM2.5を検出する検出装置について説明する。
【0183】
空気中にはPM2.5だけでなく、粒子径の異なるPM(たとえばPM10)が含まれ得る。そのため、一般的なPM2.5の検出装置は、粒子径の異なるPMからPM2.5を分離するために分粒器を備える。たとえばサイクロン方式の分粒器を備えた検出装置では、空気の吸引口を装置の設置面から数メートル程度の高さに設置することが必要である。このため、設置場所の確保が難しい場合がある。
【0184】
これに対し、本実施の形態に示す検出装置では、光照射によりPM10とPM2.5とを互いに分離された状態で集積することができる。これにより、分粒器を設けなくてもPM2.5の質量濃度の算出が可能になる。したがって、検出装置を小型化することができる。
【0185】
図36は、本発明の実施の形態5に係る検出装置の概略的構成を示した図である。
図36を参照して、検出装置300は、エアサンプラ310と、検出部320とを備える。
【0186】
エアサンプラ310は、吸引口311と、フィルタ312と、流量計313と、ポンプ314とを含む。ポンプ314を作動させると、吸引口311から空気が吸引される。流量計313は、吸引された空気量を測定する。吸引口311からポンプ314への流路にはフィルタ312が設けられている。フィルタ312は、吸引された空気中に含まれるPMを捕集する。フィルタ312で捕集されたPMは、検出部320の基板103上の液体中に分散される。なお、検出部320の構成は、
図1に示した集積装置100の構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0187】
図37は、
図36に示した検出装置300の基板103付近の構成の拡大斜視図である。
図37を参照して、基板103では、その表面上にマイクロ流路14が形成されている。基板103としては、たとえば、住友ベークライト株式会社製のS−BIO SUMILON BS−21102を使用することができる。マイクロ流路14の少なくとも一部には薄膜12が形成されている。対物レンズ22で集光されたレーザ光201は、マイクロ流路14に形成された薄膜12に照射される。
【0188】
図38は、本発明の実施の形態5に係るPM2.5の検出方法を説明するためのフローチャートである。
図36〜
図38を参照して、ステップS31において、エアサンプラ310は、たとえば数リットル(1L〜10L)程度の空気を吸引する。これにより、吸引された空気中に含まれるPMがフィルタ312で捕集される。フィルタ312で捕集されたPMは、フィルタ312から分離され、液体中に分散される(ステップS32)。フィルタ312からPMを分離する手法としては、公知の各種抽出方法を用いてもよいし、フィルタ312を振動させてPMを振るい落としてもよい。
【0189】
ステップS33において、PMが分散している分散液がマイクロ流路14に流通される。マイクロ流路14に形成された薄膜12にレーザ光201を照射すると、光発熱効果によりマイクロバブルMBが発生する。これによりPMの集積体が形成される(ステップS34)。
【0190】
なお、マイクロ流路14の幅がレーザスポットのサイズ(直径)に比べて大きいと、液体中に分散しているPMがレーザスポットを通過せずにマイクロ流路14を流通してしまう可能性がある。そのため、マイクロ流路14の幅とレーザスポットの直径との大小関係は、マイクロ流路14の幅がレーザスポットのサイズよりも小さくなるように決定することが好ましい。これにより、レーザスポットを通過せずにマイクロ流路14を流通するPMが少なくなるので、PMを高効率に集積することができる。
【0191】
次に、制御部50は、PMの集積体を撮影するように撮影機器31を制御する(ステップS35)。撮影機器31により撮影された画像は、演算部60に出力される。演算部60は、たとえばマイクロコンピュータ等で構成される。演算部60は、撮影機器31で撮影された画像の処理結果に基づいて、大気中のPMの質量濃度を演算する(ステップS36)。なお、撮影機器31による撮影時にはレーザ光201の照射を継続していてもよいし、レーザ光201の照射停止後に撮影してもよい。
【0192】
演算部60におけるPMの質量濃度の演算例を説明する。たとえば
図10に示す画像では、レーザスポット近傍の中央部分にサイズの小さなビーズ2(直径:0.2μm)が主に集積され、その周囲にサイズの大きなビーズ1(直径:1.0μm)が主に集積される。光照射によりPMが集積する場合にも、ビーズの場合と同様に、レーザスポットの中央部分にPM2.5の領域が形成され、その中央部分を取り囲むようにPM10の領域が形成される。このようにPM2.5とPM10とが分離した集積体の画像に対して画像処理を実行することにより、PM2.5の領域を特定する。たとえば、PM2.5の領域とPM10の領域との明度の違いに基づいて、これらの領域間の境界を抽出することができる。
【0193】
PM2.5の集積量が大きいほど、照明用の白色光301の透過光が減少して画像の色が濃くなる。演算部60のメモリ(図示せず)には、画像の明度とPM2.5の個数との間の対応関係が予め保持されている。したがって、PM2.5の領域を分割した各微小領域について、その領域における画像の明度に基づいて、その領域に含まれるPM2.5の個数を算出することができる。各微小領域のPM2.5の個数を積分することにより、領域全体のPM2.5の総数が算出される。PM2.5の平均質量は既知であるので、PM2.5の総数に平均質量を乗算することにより、PM2.5の総質量(単位:μg)が求まる。そして、PM2.5の総質量を、吸引された空気量(単位:m
3)で除算することにより、PM2.5の質量濃度(単位:μg/m
3)を算出することができる。
【0194】
このように、本実施の形態によれば、液体中に分散したPMを光照射により集積する。この集積体においては、PM2.5とPM10とが分離されている。そのため、サイクロン方式の分粒器を用いてPM2.5を分離しなくて済むので、検出装置の大幅な小型化を実現することができる。また、分粒器によりPM2.5を分離する時間が不要になるので、検出時間を短縮することができる。
【0195】
[実施の形態6]
実施の形態6においては、被分離物質を分離する分離装置に集積装置が適用される。ここでは分離装置の一つの例示的形態として、フローサイトメータについて説明する。本実施の形態における微小物体は細胞である。
【0196】
図39は、本発明の実施の形態6に係るフローサイトメータの概略的構成を示した図である。
図39を参照して、フローサイトメータ400は、フローセル410と、シース液導入部411と、サンプル導入部412と、対物レンズ422と、光源430と、分光器431と、セルソータ440と、制御部450とを備える。
【0197】
光源430は、たとえば赤色(たとえば波長635nm)のレーザ光201を発生させる。光源430は、光発熱用の光源と、分光用の光源とを兼ねるものである。すなわち、光源430は、本発明に係る「光源」および「分光用光源」の両方に相当する。ただし、フローサイトメータは、光発熱用の光源と分光用の光源とを別に備えてもよい。
【0198】
シース液導入部411は、シース液をフローセル410に導入する。シース液の流れは、所定の流速に保たれた層流が形成されるように制御されている。サンプル導入部412は、細胞1A,1B,1Cが分散されたサンプル液をフローセル410に導入する。ここでは細胞1Cを被分離物質とする。
【0199】
フローセル410の流路には対物レンズ422が配置されている。対物レンズ422は、光源430からのレーザ光201を集光する。フローセル410の流路の側面の一部には、薄膜12が形成されている。対物レンズ422によって集光された光は、薄膜12およびサンプル液に照射される。照射された光は、サンプル液内の細胞を集積するとともに、破線で示すように透過光または散乱光として分光器431に入射する。
【0200】
フローセル410の出口端には、被分離物質を分離するためのセルソータ440が設けられている。セルソータ440は、フローセル410の出口端から滴下される液滴を帯電させる。制御部450は、シース液導入部411、サンプル導入部412、光源430、分光器431、およびセルソータ440を制御する。
【0201】
図40は、本発明の実施の形態6に係る被分離物質である細胞の分離方法を説明するためのフローチャートである。
図39および
図40を参照して、まず、細胞1A,1B,1Cが準備される(ステップS41)。そして、細胞1A,1B,1Cはサンプル液中に分散される(ステップS42)。サンプル液内の細胞1A,1B,1Cは、層流が形成されたフローセル410の中を順次流通される(ステップS43)。
【0202】
対物レンズ422で集光されたレーザ光201が薄膜12およびフローセル410の流路を流れるサンプル液に導入されると、サンプル液内の細胞(細胞1A,1B,1Cのいずれか1種類の細胞)が集積して、細胞の集積体が形成される(ステップS44)。
【0203】
分光器431は、集積体からの透過光または散乱光を分光して、その分光結果を制御部450内の解析部460に出力する(ステップS45)。解析部460のメモリ(図示せず)には、細胞1A,1B,1Cの各々についての分光データ(スペクトル)が予め保持されている。解析部460は、各集積体について、分光器431からの分光結果をメモリに保持された分光データと比較することにより、その集積体が被分離物質(細胞1C)からなるものか否かを解析する。
【0204】
集積体が被分離物質からなるとの解析結果が得られた場合、制御部450は、その集積体を含む液滴の落下時に、電場を液滴に印加するようにセルソータ440を制御する。これにより液滴の落下方向が変わり、その液滴は容器442に落下する。したがって、細胞1Cからなる集積体は、容器442へと振り分けられる。
【0205】
一方、集積体が被分離物質からなるものではないとの解析結果が得られた場合には、制御部450は、その集積体を含む液滴には電場を印加しないようにセルソータ440を制御する。これにより、その液滴は容器443に自由落下するので、細胞1Aまたは細胞1Bからなる集積体は、容器443に集められる(ステップS46)。
【0206】
このように、実施の形態1に係る集積装置をフローサイトメータに適用すると、光照射によってフローセルを流通する細胞を集積することができる。細胞が集積され、分光対象が大きくなることにより、分光結果の解析精度が向上する。したがって、被分離物質の分離精度を向上させることができる。
【0207】
[実施の形態7]
実施の形態1〜6では、カバーガラス11上に形成された薄膜12(金薄膜)の光発熱効果を用いて液体が加熱されると説明した(
図2参照)。しかし、液体の加熱手法はこれに限定されるものではない。実施の形態7においては、液体中に分散する金属ナノ粒子による光発熱効果によって液体が加熱される。
【0208】
本実施の形態では、金属ナノ粒子として金ナノ粒子が採用される。金ナノ粒子の平均粒子径は、サブナノメートルオーダー〜ナノメートルオーダー(約2nm〜1000nm)であり、たとえば2nm〜500nm、好ましくは、2nm〜100nm、より好ましくは、5nm〜50nmであり得る。本実施の形態において、金ナノ粒子の粒子径は30nmである。
【0209】
なお、光発熱効果により液体を加熱するための粒子(光熱変換粒子)は金ナノ粒子に限定されない。他の金属ナノ粒子の例としては、銀ナノ粒子および銅ナノ粒子が挙げられる。また、光熱変換粒子は、金属ナノ粒子に限定されるものはなく、たとえばカーボンブラックであってもよい。
【0210】
実施の形態1では、対流に乗って移動したビーズ1,2が、マイクロバブルMBにより生じた淀み領域近傍に滞留すると説明した。実施の形態7では、以下に詳細に説明するように、複数のビーズ1がレーザ光201の光誘起力により捕捉される。捕捉されたビーズ1によって淀み領域が生じる。
【0211】
<ビーズおよび金ナノ粒子の光トラップ>
レーザ光201の光誘起力を用いた光トラップについて説明する。本発明およびその実施の形態において、「光誘起力」とは、散逸力、勾配力および物質間光誘起力の総称として用いられる。散逸力とは、光散乱あるいは光吸収といった散逸的過程において、光の運動量が物質に与えられることによって発生する力である。勾配力は、光誘起分極が生じた物質が不均一な電磁場の中に置かれた場合に、電磁気学的なポテンシャルの安定点に物質を移動させる力である。物質間光誘起力とは、光励起された複数の物質中の誘起分極から生じる縦電場による力と横電場(輻射場)による力との和である。
【0212】
図41は、複数のビーズ1が捕捉されるメカニズムを説明するための模式図である。
図42は、ビーズ1の2粒子モデルを説明するための図である。
図41および
図42を参照して、複数のビーズ1は液体中に分散される。
【0213】
複数のビーズ1の各々はレーザ光201を受ける。レーザ光201の偏光方向はy方向である。すなわち、レーザ光201の偏光方向は、ビーズ1の中心を結ぶ軸Axと略平行な方向である。この場合、ビーズ1の各々には、レーザ光201の偏光方向に平行な方向に沿って電気分極が生じる。これにより、各ビーズ1は、電磁気学的なポテンシャルの安定点であるレーザ光201のレーザスポットの近傍に捕捉される。また、すべてのビーズ1中の電気分極の向きは同一である。このため、
図42に示されるように、近接するビーズ1の間には引力が生じる。
【0214】
ビーズ1は球状であるので、応答光電場は、Maxwell方程式の積分形として表現できる。応答電場E
iは以下の式(1)に従って表わされる。
【0216】
i,jは球状セルの粒子番号である。V
j=Vは球状セルの体積である。M,Lは自己相互作用に関連する量である。個々のビーズの内部での感受率および電場分布は平坦であるとする。誘起分極P
iは以下の式(2)に従って表わされる。
【0218】
感受率χにはDrudeモデルが適用される。感受率χは以下の式(3)に従って表わされる。
【0220】
χ
bは背景の感受率を表わし、ω
pはプラズマエネルギーを表わし、γは非輻射緩和定数を示し、v
fはフェルミ面上における電子速度を示す。aは球状セルの半径を示す。非輻射緩和定数γは光で励起された電子から光以外の状態(たとえばフォノンを介して熱に変換された状態)への緩和を示す値である。
【0221】
一方、光誘起力は、以下の式(4)によって一般的に表わされる(T.Iida and H.Ishihara,Phys.Rev.B77,245319(2008))。
【0223】
上記式(2)および式(3)に従ってそれぞれ表わされる誘起分極Piおよび応答電場E
iが式(4)に代入される。これにより、光誘起力は以下の式(5)に従って表わされる。
【0225】
E
(0)は入射光の電場を表し、GはGreen関数を表わす。式(5)の右辺の第1項は入射光による散逸力と勾配力との和を表わし、第2項は物質間光誘起力を表わす。入射光による勾配力は光強度勾配∇|E
(0)|
2に比例するため、入射光を強く集光することで勾配力が散逸力を上回る状況を作ることができ、光トラップが可能となる。一方、物質間光誘起力は光強度に比例する。したがって、入射光の光強度勾配および光強度を制御することで、勾配力および物質間光誘起力を調整することができる。
【0226】
図43は、本発明の実施の形態7に係る集積装置の概略的構成を示した図である。
図43を参照して、集積装置500は、基板10に代えて基板105を備える点において、
図1に示す集積装置100と異なる。光発熱用光源20から発せられたレーザ光201の出力は0.1Wであった。対物レンズ22通過後のレーザ光201の出力は0.019Wであった。100倍レンズを対物レンズ22として用いた。それ以外の構成は、集積装置100の対応する構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。また、集積方法は、
図4に示したフローチャートの処理と同等である。
【0227】
図44は、
図43に示した集積装置500の基板105付近の構成の拡大斜視図である。
図44を参照して、基板105は、カバーガラス11上に薄膜12(金薄膜)が形成されていない点において、
図2に示す基板10と異なる。
【0228】
基板105はサンプル135を保持する。サンプル135は、ビーズ1と、金ナノ粒子5とが分散された液体である。液体(分散媒)の種類は特に限定されるものではないが、本実施の形態では水(超純水)である。本実施の形態では、サンプル135として4種類のサンプル(第8〜第11のサンプル)が準備される。液体の体積は、いずれも10μLである。レーザ光は、液滴の縁近傍の領域に照射される。
【0229】
図45は、
図46〜
図49にて用いたサンプル135を説明するための図である。
図45を参照して、第8〜第11のサンプルにおいて、ビーズ1の濃度は共通であり、1.14×10
9(個/mL)であった。一方、金ナノ粒子5の濃度(以下、単に「金ナノ粒子濃度」とも記載する)は、第8〜第11のサンプルの順に低くなる。
【0230】
<ビーズの集積の様子および集積メカニズム>
図46は、第8のサンプルにおける光照射によるレーザスポット近傍領域の時間変化を示す連続写真である。
図43および
図46を参照して、レーザ光201の照射開始時刻を0秒とし、撮影機器31を用いて撮影された気液界面の様子が示される。煩雑になるのを防ぐため光照射開始前の写真にのみ示すが、各写真の上側の色の濃い部分(Lで表す)は液体である。各写真の下側の色の薄い部分(Aで表す)は気体である。液体と気体との間の白い部分(Iで表す)は気液界面である。
【0231】
レーザスポットは、液体の気液界面近傍(たとえば気液界面から数μm以内)において、基板105表面よりも10μmだけ鉛直方向(z方向)上方に調整される(
図43参照)。光照射開始から110秒が経過した時点で光照射は停止された。
【0232】
図46に示す例においては、光照射開始時刻から6秒経過後にはレーザスポットを中心に集積体6の形成が明確に観察される。光照射をさらに継続すると、時間の経過に伴い、集積体6が成長する様子が観察される。ただし、光照射開始後40秒程度が経過すると、集積体6の成長速度が緩やかになる。なお、各写真の下側において、気液界面よりも気体側に観察される色の濃い円形部分はバブルである。
【0233】
図47は、光照射停止後に自然乾燥させた第10のサンプルにおいて形成された集積体6の光学写真である。
図48は、
図47に示す領域R1(レーザスポットの近傍領域)のSEM写真である。
図47および
図48を参照して、レーザスポット近傍において、ビーズ1が集積して六方最密充填構造を形成されることが分かる。さらに、ビーズ1の隙間に金ナノ粒子5が堆積していることが観察される。
【0234】
図49は、実施の形態7において集積体6が形成されるメカニズムを説明するための模式図である。
図49(A)はレーザ光201のレーザスポット近傍の様子を示し、
図49(B)は液体全体の様子を示す。
【0235】
図49(A)を参照して、レーザ光201の照射により、レーザスポットの位置にビーズ1が捕捉される。捕捉されたビーズ1がいわば「核」となり、集積体6が成長する。
【0236】
集積体6が成長する要因として、ビーズ1が疎水性の粒子であることが考えられる。疎水性の粒子では、水中にて粒子同士が接触している状態の方が、粒子同士が水中に分散している状態と比べて、水と接する表面積が小さいため安定である。したがって、集積体6に一旦接触したビーズ1は集積体6から離れにくいので、集積体6が成長しやすくなる。
【0237】
粒子径が小さいほど光誘起力に用いて粒子を捕捉しにくい。ビーズ1の粒子径が1.0μmであるのに対し、金ナノ粒子5の粒子径は30nmである。そのため、金ナノ粒子5は、ビーズ1と比べて捕捉しにくい。しかし、本実施の形態によれば、捕捉されたビーズ1からなる集積体6の隙間に金ナノ粒子5が入り込む。これにより、金ナノ粒子5を安定的に捕捉することができる。
【0238】
このようにして捕捉された金ナノ粒子5が光発熱効果により熱を発生させることによって、レーザスポットおよびその周辺の液体が加熱される。集積体6による光発熱効果について、より詳細に説明する。複数の金ナノ粒子5の各々の表面の自由電子がレーザ光201により振動することによって分極が生じる。複数の金ナノ粒子5はレーザ光201の波長(1064nm)以下のスケールまで互いに近接しているので、局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルのピーク波長がシフトする。そのため、たとえ単一の金ナノ粒子5の局在表面プラズモンに対しては非共鳴の波長域のレーザ光201であっても高効率に吸収できるようになる。その結果、レーザ光201の強い吸収が生じるので、集積体6において高効率に熱を発生させることができる。集積体6が高効率にレーザ光201を熱に変換することによって周囲の液体が局所的に加熱される。これにより、液体内に温度差(あるいは温度勾配)が作り出さるので、その温度差に起因して、集積体6に向かう方向に対流が起こる。
【0239】
図49(B)を参照して、対流の方向は、矢印AR2,AR3にて示すように、一旦集積体6に向かい、その後、集積体6から離れる方向である。このため、集積体6近傍において対流の淀み領域が生じる。ビーズ1および金ナノ粒子5が対流に乗って淀み領域に向けて移動することにより、集積体6の成長が促進される。このように、体積の大部分をビーズ1が占める集積体6は、光照射により制御可能な対流を堰き止める、マイクロメートルのオーダーの流体ストッパとしても機能する。
【0240】
本実施の形態では、気液界面近傍にレーザ光201が照射される。レーザスポットよりもバルク側の領域と、レーザスポットよりも気液界面側の領域とでは、液滴の表面形状に由来する空間的な非対称性のため、液体の温度が不均一になり易い。よって、対流が起こり易い。
【0241】
さらに、気液界面近傍が加熱されるので、バルクが加熱される場合と比べて、気液界面から液体が蒸発し易い(矢印AR4参照)。液滴から液体が蒸発するのに伴い、液滴中の液体は流動する。この流動効果によってもビーズ1および金ナノ粒子5が集積体6に向けて移動する。
【0242】
<金ナノ粒子濃度の集積体の構造への影響>
図50は、第10のサンプルにおける光照射によるレーザスポット近傍の時間変化を示す連続写真である。
図50を参照して、第10のサンプルにおいては、第8のサンプルの場合(
図46参照)と同様に、光照射開始後、時間の経過に伴い集積体6の成長する様子が観察される。各時刻における第10のサンプルの集積体6のサイズ(以下、単に「集積体サイズ」と記載する)は、第8のサンプルの集積体サイズよりも小さいことが分かる。
【0243】
図51は、光照射開始後の集積体サイズの時間変化を第8〜第10のサンプル間で比較するための図である。
図10において、横軸は、光照射開始後の経過時間(照射時間)を表す。縦軸は集積体サイズを表す。曲線L8〜L10は、第8〜第10のサンプルにおける集積体サイズの時間変化をそれぞれ示す。なお、集積体サイズは、連続写真(
図46および
図50参照)における集積体6の外接円(図示せず)の直径から算出される。
【0244】
図51を参照して、集積体6が時間の経過とともに成長して大きくなることが確認される。また、金ナノ粒子濃度が高いほど、集積体6がより短時間で大きくなることが分かる。
【0245】
図46に示したように、第8のサンプルでは、対流の発生が光照射開始直後に観察される。図示しないが、第9のサンプルにおいても同様である。これは、第8および第9のサンプルでは、レーザスポットに形成された集積体6内の金ナノ粒子5の集積量が光照射開始直後であってもある程度大きいので、対流を起こすのに十分な発熱が生じるためと考えられる。
【0246】
これに対し、第10のサンプルでは、光照射開始直後には対流はほとんど観察されず、光照射開始から約40秒経過後に対流が大きくなる様子が観察される。これは、第10のサンプルの金ナノ粒子濃度が第8および第9のサンプルの金ナノ粒子濃度よりも低いので、光照射開始直後では、集積体6内の金ナノ粒子5からの発熱量が相対的に小さいためと考えられる。光照射を継続すると、時間の経過とともに金ナノ粒子5の集積量が大きくなる。金ナノ粒子5の集積量がある値に達した場合に、十分な発熱量が得られるようになり、対流が発生する。
【0247】
また、集積体6がある程度の大きさ(
図51に示す例では約12μm)になると、集積体6の形成初期と比べて、集積体6の成長が遅くなることが分かる。これは、以下の2つの理由によるものと考えられる。
【0248】
第1に、光照射を続けると系が熱平衡状態に近付くため、集積体6の温度は、集積体6の周囲の分散媒の温度と近くなる。このため、液体内での温度差が相対的に小さくなるので対流が起こりにくくなる。その結果、集積体6のサイズはある程度のところで飽和する。
【0249】
第2に、液体内の金ナノ粒子5の量が多いほど単位時間当たりの発熱量は大きいので、集積体6が迅速に成長する。第8〜第10のいずれのサンプルにおいても、液体内には十分な量の金ナノ粒子5が含まれているので、集積体6の成長は遅くなりにくい。しかしながら、第10のサンプルでは、第8および第9のサンプルと比べて金ナノ粒子5の量が少ないので、集積体6の形成に時間を要するとともに、集積体6のサイズは小さなまま飽和する。
【0250】
なお、本実施の形態においては、レーザ光201が気液界面近傍(液滴の縁の領域)に照射される。金ナノ粒子5は、光照射を開始する前においても気液界面近傍に集まり易い。このことについて、光照射前の第8および第11のサンプルの消衰スペクトルの測定結果に基づいて以下に説明する。第8および第11のサンプルではビーズ1の濃度は共通である。一方、第11のサンプルの金ナノ粒子濃度は、第8のサンプルの金ナノ粒子濃度の10分の1である(
図45参照)。
【0251】
図52は、第8および第11のサンプルについて、光照射開始前の気液界面近傍における消衰スペクトルを示す図である。
図52(A)は第8のサンプルの消衰スペクトルを示し、
図52(B)は第11のサンプルの消衰スペクトルを示す。横軸は波長を表し、縦軸は消衰度を表す。
【0252】
図52(A)および
図52(B)を参照して、第8のサンプルでは530nm付近にピークが測定される一方で、第11のサンプルではそのようなピークは測定されない。このことから、金ナノ粒子濃度が比較的高い場合には、光照射開始前であっても金ナノ粒子5が気液界面近傍に高密度に存在していることが分かる。よって、レーザ光201を気液界面近傍に照射する場合、レーザ光201をバルクに照射する場合と比べて、ビーズ1からなる集積体6の隙間に入り込む金ナノ粒子5の量が大きくなる。これにより、金ナノ粒子5からの発熱量が大きくなるので、より短時間で液体内に温度差を生じさせて対流を発生させることができる。
【0253】
以上のように、実施の形態7によれば、金ナノ粒子5の光発熱効果を利用してビーズ1および金ナノ粒子5を集積することができる。また、本実施の形態では、蒸着またはスパッタリングによってカバーガラス11上に薄膜12を形成しなくて済むので、より簡易な集積方法を実現することができる。
【0254】
なお、本実施の形態においては、金ナノ粒子5およびビーズ1のうちのいずれか一方が本発明に係る「第1の粒子」に対応し、他方が本発明に係る「第2の粒子」に対応する。また、金ナノ粒子5が本発明に係る「光熱変換粒子」に対応する。金ナノ粒子5とビーズ1とでは、たとえば、機械的特性(サイズ、形状、密度など)、光学的特性(共鳴吸収波長など)、熱的特性(比熱、熱伝導率、熱膨張率、耐熱性など)、および水に対する親和度(親水性または疎水性の程度)が互いに異なる。
【0255】
なお、本実施の形態では、光熱変換粒子としての金属ナノ粒子と、光熱変換粒子の粒子径よりも大きい粒子径を有する樹脂ビーズとを含むサンプルを用いる例について説明した。しかし、光熱変換粒子の粒子径と樹脂ビーズの粒子径との大小関係は逆であってもよい。一例として、光熱変換粒子としてのカーボン系粒子または有機粒子(たとえば直径数100nm程度の粒子)と、光熱変換粒子の粒子径よりも小さい粒子径を有する樹脂ビーズ(たとえば直径数10nmのポリスチレンビーズ)とを含むサンプルを準備してもよい。なお、光熱変換粒子の方が相対的に大きい場合、光熱変換粒子は、光を強く反射しない粒子であることが好ましい。
【0256】
このようなサンプルにレーザ光を照射すると、相対的にサイズの大きな光熱変換粒子がレーザスポットの位置に光トラップされるとともに、光熱変換粒子の光発熱効果により対流が起こる。樹脂ビーズは、光トラップされた光熱変換粒子に向けて対流により移動して、光熱変換粒子の隙間に捕捉される。このように、光熱変換粒子は、光発熱効果を起こす熱源として機能するとともに、ナノメートルからマイクロメートルのオーダーの流体ストッパとしても機能する。
【0257】
また、本発明に係る「第1および第2の粒子」として、たとえば粒子径が異なる2種類の金属ナノ粒子の組合せ、あるいは、金属ナノ粒子とカーボン系粒子(カーボンブラック等)との組合せを採用してもよい。この場合には両方の粒子が本発明に係る「光熱変換粒子」に対応する。
【0258】
さらに、光熱変換粒子(光吸収性の微小物体)以外の粒子のサンプル内での含有量および濃度が等しい場合、光熱変換粒子の含有量に応じて、最終的に形成される集積体のサイズが異なる。したがって、光熱変換粒子以外の粒子の含有量および濃度を予め決定した状態で同一条件の光照射を一定時間行なうことにより、集積体のサイズから光熱変換粒子の含有量を推定(あるいは光熱変換粒子の含有の有無を検出)することができる。
【0259】
[実施の形態7の変形例]
実施の形態7では、直径1.0μmのビーズ1と、金ナノ粒子5とを含むサンプルが用いられる例について説明した。実施の形態7の変形例においては、直径0.2μmのビーズ2と、金ナノ粒子5とを含むサンプル(第12のサンプル)が採用される。
【0260】
ビーズ2の濃度は1.42×10
11(個/mL)であった。金ナノ粒子濃度は、3.19×10
11(個/mL)であった。なお、変形例で用いられる集積装置は、集積装置500(
図43参照)と同等であるため、説明は繰り返さない。光発熱用光源20から発せられたレーザ光201の出力は0.8Wであった。対物レンズ22通過後のレーザ光201の出力は0.16Wであった。100倍レンズを対物レンズ22として用いた。
【0261】
図53は、第12のサンプルにおける光照射によるレーザスポット近傍の時間変化を示す連続写真である。
図53を参照して、光照射により、レーザスポットから物質が湧き出すように生成される様子が観察される。この物質は、光照射に起因する発熱によってビーズ2が溶けたものである。
【0262】
図54は、光照射後に自然乾燥させた第12のサンプルにおいて形成された集積体6の光学写真である。
図55は、第12のサンプルのレーザスポットの領域(
図53に示す領域R2)のSEM写真である。
図56は、第12のサンプルのレーザスポットから離れた領域(
図53に示す領域R3)のSEM写真である。レーザ光の照射時間は110秒間であった。
【0263】
図55を参照して、レーザスポットの領域R2では、複数のビーズ2のうちの一部が溶けて一体化しているとことが観察される。ビーズ2として用いたポリスチレンビーズの融点は240℃であるため、光照射時には集積体6の温度が240℃よりも高くなることが分かる。なお、金ナノ粒子5の融点は1000℃以上であるため、金ナノ粒子5は溶けていないと考えられる。
【0264】
図56を参照して、レーザスポットから離れた領域R3では、ビーズ2によって六方最密充填構造が形成される。さらに、右側の拡大図に示されるように、隣接するビーズ2間の隙間に金ナノ粒子5が入り込んでいることが分かる。
【0265】
以上のように、本変形例によれば、金ナノ粒子5の発熱に起因する対流によりビーズ2が集積されるとともに、集積されたビーズ2が高温になり溶ける。このような集積手法によれば、たとえば微小な型(いわゆる金型)を準備して、その型の内部にビーズ2を集積することにより、ビーズ2を型の形状に成型することができる。つまり、微小な成形加工を実現することができる。
【0266】
[実施の形態8]
細胞は、その周囲に存在する物質を細胞表面で分子認識して選択的に結合したり、細胞の周囲に存在する物質を細胞内に取り込んだりする作用(取込作用)を生じることが知られている。実施の形態8では、樹脂ビーズに代えて、細胞と、細胞の取込作用により細胞内に導入可能な物質(被導入物質)とが適用される。取込作用の例としては、細胞によるエンドサイトーシス等の飲食作用、膜チャネルタンパク質(細胞膜を貫通するチャネルタンパク質)を経由したイオン等の通過作用、または、細胞膜の直接的な通過作用が挙げられる。
【0267】
図57は、細胞7のエンドサイトーシスによるペプチド8の導入を説明するための概念図である。
図57を参照して、細胞7表面の糖鎖(図示せず)と、細胞7の周囲に存在するペプチドの型とが対応する場合、そのペプチドはエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。一般に、液体中のペプチド8の濃度(以下、単に「ペプチド濃度」とも記載する)が均一の場合、エンドサイトーシスを起こすには10μM以上のペプチド濃度が必要とされる。ペプチド濃度が高くなるに従って、細胞7へのペプチド8の導入量が大きくなる。光照射により細胞7およびペプチド8を集積すると、細胞7の周囲のペプチド濃度が局所的に高くなる。これにより、エンドサイトーシスによる細胞7内へのペプチド8の導入を促進することができる。
【0268】
なお、実施の形態8に係るペプチドの導入装置の構成は、基板10に代えて基板106を備える点において、
図1に示す集積装置100と異なる。ペプチドの導入装置のそれ以外の構成は、集積装置100の対応する構成と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
【0269】
図58は、基板106付近の構成の拡大斜視図である。
図59は、基板106の上面図である。
【0270】
図58および
図59を参照して、基板106としては、たとえばガラスボトムディッシュを用いることができる。基板106の底面には、スパッタリングにより形成された金薄膜に代えて、金ナノ粒子5の自己組織化により膜(以下、「自己組織化膜」ともいう)122が形成されている。なお、自己組織化膜122の形成手法としては、公知の手法を採用することができる。本実施の形態では、具体的には以下の手順で自己組織化膜を形成した。濃度6.38×10
11(個/mL)の金ナノ粒子5の分散液を準備した。この分散液15μLを基板106の底面に滴下した後、分散液を真空乾燥させた。
【0271】
10倍レンズを対物レンズ22として用いた。レーザ光201は、金ナノ粒子5の自己組織化膜122に照射される。自己組織化膜122は疎密を有する。本実施の形態では、自己組織化膜122のうち金ナノ粒子5が高密度になっている箇所にレーザスポットの位置を調整した。光発熱用光源20から発せられたレーザ光201の出力は0.1Wであった。対物レンズ22通過後のレーザ光201の出力は0.068Wであった。レーザスポットの直径は約10μmであった。
【0272】
基板106はサンプル136を保持する。サンプル136は、細胞7およびペプチド8を含む。本実施の形態では、細胞7として、ヒト子宮頸ガン由来の細胞であるヒーラ(HeLa)細胞が用いられる。
【0273】
サンプル136を準備する手法を説明する。細胞7培養時の培地としてα−MEM(+)を用いた。α−MEM(+)とは、α−MEM(−)にウシ胎児血清(10% FBS:Fetal Bovine Serum)(Life Technologies社製Gibco)を添加したものである。
【0274】
一般に、ヒーラ細胞の培養においては、培地中を浮遊した状態(浮遊状態)のヒーラ細胞が培養ディッシュ(図示せず)に移された後、培養ディッシュの底面に付着した状態(付着状態)で培養される。そのため、細胞7の多くを再び浮遊状態にしてから基板106にて光照射を行なうためには、細胞7を培養ディッシュから剥離して回収する必要がある。多くの場合、全ての細胞7が培養ディッシュから剥離されるとは限らず、浮遊状態の細胞(以下、「浮遊細胞」ともいう)と付着状態の細胞(以下、「付着細胞」ともいう)とが混在した状態になる。本実施の形態では、まず、培養ディッシュ内の細胞7をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(D−PBS)(ナカライテスク社製)により洗浄した。
【0275】
さらに、トリプシン溶液(0.5g/Lのトリプシンと、0.53mMのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)との混合溶液)を培養ディッシュに添加した。その後、37℃に設定されたインキュベータ内に培養ディッシュを5分間静置することにより、培養ディッシュの底面からヒーラ細胞を剥離させた。
【0276】
次に、抗生物質を含む溶液(ペニシリン−ストレプトマイシン溶液)(シグマアルドリッチ社製)をα−MEM(+)により50倍希釈した溶液を用いて、培養ディッシュ内の細胞7を回収した。なお、抗生物質はコンタミネーション防止のために添加される。
【0277】
このようにして培養ディッシュから回収された細胞7を含む培地を基板106に滴下した。サンプル136には約5万個の細胞7が含まれる。この数値は血球計算盤を用いて細胞数を計測することにより求められる。基板106を37℃のインキュベータ内に一晩静置することにより、細胞7を培養した。
【0278】
その後、光照射に先立って培地をα−MEM(+)からα−MEM(−)に交換した。ペプチドα−MEM(+)を用いると、その中に含まれるウシ胎児血清が細胞7内へのペプチド8の導入を阻害するためである。さらに、培地にペプチド8を添加した。
【0279】
図60は、実施の形態8にて用いられるペプチド8を示す図である。
図60を参照して、ペプチド8はオクタアルギニンペプチドである。アルギニンペプチドは、主としてエンドサイトーシス(より詳細にはマクロピノサイトーシス(macropinocytosis))により細胞内に導入されることが知られている。
【0280】
ペプチド8のC末端にはシステイン残基(Cysで示す)が結合している。さらに、システイン側鎖に蛍光色素が結合している。蛍光色素としては、Alexa488 C5−maleimide(Life Technologies社製Invitrogen)を用いた。この蛍光色素の励起波長は488nmであり、最大蛍光波長は519nmである。ただし、ペプチド8に蛍光色素が結合されていることは、後述する蛍光測定(
図63および
図64参照)のためであって必須ではない。
【0281】
本実施の形態では、サンプル136として、第13のサンプルが準備される。第13のサンプルのペプチド濃度は1μMであって、一般的にエンドサイトーシスが起こり易いペプチド濃度(10μM以上)よりも低い。
【0282】
図61は、本発明の実施の形態8に係るペプチド8の導入方法を説明するためのフローチャートである。
図61を参照して、ペプチドの導入方法は、細胞7およびペプチド8をサンプル136内に分散させるステップS11に先立って、金ナノ粒子5の自己組織化膜を形成するステップS10をさらに備える。一方、ペプチドの導入方法は、サンプル136を乾燥するステップS15を備えなくてよい。それ以外の処理は、
図4に示したフローチャートの対応する処理と同等である。
【0283】
図62は、実施の形態8におけるペプチド8の集積メカニズムを説明するための模式図である。本実施の形態では、金薄膜に代えて自己組織化膜が用いられる点、ならびに、ビーズ1,2に代えて細胞7およびペプチド8がそれぞれ用いられる点において、実施の形態1と異なる。本実施の形態における集積メカニズムは、実施の形態1にて説明したメカニズム(
図6参照)と基本的に同等である。
【0284】
図62を参照して、レーザ光201が金ナノ粒子5の自己組織化膜に照射されると、金ナノ粒子5の光発熱効果により、自己組織化膜の周囲の液体(培地)が局所的に加熱される。これにより、培地が気化したり、培地中に溶解している気体(空気など)が熱膨張したりすることによって、マイクロバブルMBが発生する。さらに、加熱により培地内に温度差が生じるため、対流(矢印AR6で示す)が発生する。細胞7のうち浮遊細胞、およびペプチド8が対流によってマイクロバブルMBに向けて運ばれるため、レーザスポット近傍ではペプチド8が相対的に高濃度になる。その結果、レーザスポット近傍の細胞7内へのエンドサイトーシスを促進することができる。
【0285】
上述のように、ペプチド8の各々には蛍光色素が結合されている。したがって、蛍光色素から発せられる蛍光を測定することにより、サンプル136内のペプチドの分布を測定することができる。本実施の形態では、共焦点レーザ顕微鏡を用いて各サンプルの透過像および蛍光像を取得した。
【0286】
図63は、第13のサンプルの光照射後における共焦点顕微鏡写真である。
図63(A)は透過像を示し、
図63(B)は蛍光像を示す。
【0287】
図63(A)の透過像に示すように、各細胞7は略楕円球形状を有する。生存状態の細胞では核と細胞質との境界が明確でないのに対し、死滅状態の細胞では核収縮が明確に観察されるので、生存状態の細胞と死滅状態の細胞とを区別することができる。
図62(A)より、光照射後においてもほとんどの細胞7が生存状態であることが分かる。
【0288】
次に
図63(B)を参照して、図中、明るく示された領域は、蛍光色素から発せられた蛍光によるものである。細胞7の内部からの蛍光が観察される。そのため、ペプチド8がエンドサイトーシスによって細胞7内に導入されたことが分かる。より詳細には、細胞7内の細胞質および核において蛍光が観察される。このため、ペプチド8は、エンドサイトーシスの過程でリソソームと融合する前にエンドソームから抜け出して、細胞質および核に到達したものと考えられる。
【0289】
また、細胞7の蛍光はレーザスポットに近いほど明るい。これにより、レーザスポットに近いほどペプチド8が高密度に集積されていることが分かる。なお、レーザスポットの位置が最も明るいことから、ペプチド8の集積量はレーザスポットの位置で最大と考えられる。
【0290】
このように、本実施の形態によれば、一般にはエンドサイトーシスが起こりにくい低いペプチド濃度(10μM未満)であっても、エンドサイトーシスを積極的に起こすことができる。図示しないが、ペプチド濃度が50nMの場合にもエンドサイトーシスが効率的に起こることが確認される。これは、
図62にて説明したように、光照射により生じた対流によってレーザスポット近傍領域にペプチド8が集積される結果、細胞7の周囲のペプチド濃度が局所的に10μMよりも高くなるためと考えられる。
【0291】
なお、上述のように、細胞7のうちの一部は基板106の底面に付着しており、残りは培地中を浮遊している(
図62参照)。細胞7とレーザスポットとの間の距離が等しい場合、浮遊細胞の方が付着細胞よりも明るく観察される。つまり、浮遊細胞へのペプチド8の導入量は、付着細胞へのペプチド8の導入量よりも大きい。その理由は以下の通りである。
【0292】
浮遊細胞は、光照射により生じた対流によってペプチド8とともに液体中を移動する。一方、付着細胞は、対流が生じても基板106の底面に固定される。そのため、浮遊細胞とペプチド8との相対速度は、付着細胞とペプチド8との相対速度よりも小さい。したがって、浮遊細胞では、その周囲にペプチド8が存在する期間が相対的に長くなるので、ペプチド8の導入量が大きくなる。
【0293】
また、本実施の形態においてペプチド8の集積を起こすためには、レーザ光201の出力をある程度大きく設定する必要がある。しかし、レーザ光201の出力を過度に大きく設定すると、発熱により細胞7に死滅してしまうので、エンドサイトースが起こらなくなる。したがって、光照射によりエンドサイトーシスを促進させるためには、ペプチド8を集積可能である一方で過度の発熱が抑制されるように、レーザ光201の出力を適切に設定することが好ましい。
【0294】
別の観点から説明すると、本実施の形態では、自己組織化膜のうち金ナノ粒子5が高密度の箇所にレーザスポットの位置を調整した。そのため、金ナノ粒子5が低密度の箇所にレーザ光201が照射される場合と比べて、発熱量が大きい。このように、発熱量はレーザスポットの位置に応じて異なり得る。したがって、レーザスポットの位置(言い換えると、レーザスポットの位置における自己組織化膜の厚み)は、レーザ出力および金ナノ粒子5の光吸収性に基づいて決定されることが好ましい。
【0295】
なお、実施の形態8においては、細胞7(より特定的には浮遊細胞)およびペプチド8が本発明に係る「微小物体」に対応する。細胞7とペプチド8とでは、機械的特性(サイズ、形状、内部構造、密度など)が互いに異なる。また、ペプチド8は、本発明に係る「被導入物質」に対応する。
【0296】
なお、本実施の形態では、細胞内へのペプチドのエンドサイトーシスによる導入を促進する構成について説明したが、被導入物質の集積によって促進可能な作用は、細胞内への導入に限定されない。エンドサイトーシスの前段階では、分子認識による被導入物質の細胞表面への選択的結合が起こるが、選択的結合が起こるのみで被導入物質が細胞内に取り込まれない場合もあり得る。本実施の形態によれば、細胞膜表面と分子認識の相互作用を起こし得る物質を細胞膜表面に集積することにより、細胞表面における分子認識(あるいは選択的結合)を促進することもできる。
【0297】
[実施の形態8の変形例]
実施の形態8では、培地中に浮遊細胞および付着細胞が混在している例について説明した。本変形例では、培地中の細胞7のほとんどが浮遊細胞である例について説明する。
【0298】
変形例にて用いられる第14のサンプルでは、金ナノ粒子5の自己組織化膜に代えて、スパッタリングにより金薄膜が基板(図示しないガラスボトムディッシュ)上に形成される。金薄膜の形成手法は実施の形態1における手法と同等であるため、説明は繰り返さない。金薄膜の厚みは10nmであった。光発熱用光源20から出力されるレーザ光201の出力は0.1Wであった。
【0299】
培養ディッシュにて培養された細胞7を回収する手法は、実施の形態8における手法と、ほぼ同等である。ただし、本変形例では、培養ディッシュから回収された細胞7を含む培地を基板106に滴下した直後にレーザ光が照射される。これにより、ほとんど全ての細胞7を浮遊細胞とすることができる。第14のサンプルのペプチド濃度は1μMであった。
【0300】
図64は、第14のサンプルにおける光照射によるレーザスポット近傍の光学写真および蛍光イメージである。
図64(A)は光学写真を示す。
図64(B)は、共焦点顕微鏡を用いて取得された蛍光イメージを示す。
【0301】
図64(A)を参照して、レーザスポットの位置にマイクロバブルMBが生じることが確認される。マイクロバブルMBの周囲には多数の細胞7が存在する。
【0302】
図64(B)を参照して、マイクロバブルMBの位置におけるペプチド濃度がマイクロバブルMB周囲のペプチド濃度よりも高い。これにより、光照射によってペプチド8が集積していることが確認される。さらに、マイクロバブルMB近傍の細胞7(浮遊細胞)の内部からも蛍光が観察される。したがって、細胞7内にペプチド8が導入されていることが分かる。
【0303】
なお、レーザ光201の出力を過度に高く設定すると、発熱により細胞7がダメージを受け得る。しかし、光照射から1日〜2日経過後においても、マイクロバブルMBの周囲の細胞7が細胞7生存状態であることが確認される。したがって、本変形例によれば、細胞7にダメージを与えることなく細胞7内にペプチド8を導入可能であることが分かる。
【0304】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。