特表-15025612IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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再表2015-25612炭素材料及びこの炭素材料を用いた熱処理用治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2015年2月26日
【発行日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】炭素材料及びこの炭素材料を用いた熱処理用治具
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20170210BHJP
   C04B 41/86 20060101ALI20170210BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20170210BHJP
【FI】
   C04B41/87 V
   C04B41/86 S
   C04B35/64 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】18
【出願番号】特願2015-532752(P2015-532752)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2014年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173116(P2013-173116)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇
(57)【要約】
本発明は、酎酸化性に優れるとともに、処理製品等の相手材への付着を抑制することができる炭素材料及び熱処理用治具を提供することを目的としている。
炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体である炭素質基材の表面に、炭化ケイ素から成る保護層が形成されていることを特徴とするものであり、上記保護層中の一部の炭化ケイ素は、上記炭素質基材の気孔中に浸透していることが望ましく、また、上記保護層の厚みが5.3μm以上であることが望ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体から成る炭素質基材の表面に、炭化ケイ素から成る保護層が形成されていることを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
上記炭化ケイ素のうち一部の炭化ケイ素は、上記炭素質基材の気孔中に浸透している、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
上記保護層の厚みが5.3μm以上である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の炭素材料が用いられることを特徴とする熱処理用治具。
【請求項5】
炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体から成る炭素質基材の表面に、ホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下のホウ珪酸ガラス層が形成されていることを特徴とする炭素材料。
【請求項6】
上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.50以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1200℃以上の温度で熱処理して得られたものである、請求項5に記載の炭素材料。
【請求項7】
上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.40以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1100℃以上1200℃未満の温度で熱処理して得られたものである、請求項5に記載の炭素材料。
【請求項8】
炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体から成る炭素質基材の表面に、ホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下のホウ珪酸ガラス層が形成されていることを特徴とする熱処理用治具。
【請求項9】
上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.50以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1200℃以上の温度で熱処理して得られたものである、請求項8に記載の熱処理用治具。
【請求項10】
上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.40以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1100℃以上1200℃未満の温度で熱処理して得られたものである、請求項8に記載の熱処理用治具。
【請求項11】
1000℃の高温下で用いられ、上記ホウ珪酸ガラス層のホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下である、請求項8〜10の何れか1項に記載の熱処理用治具。
【請求項12】
1100℃の高温下で用いられ、上記ホウ珪酸ガラス層のホウ素/ケイ素の質量比が0.095以下である、請求項8〜10の何れか1項に記載の熱処理用治具。
【請求項13】
1200℃の高温下で用いられ、上記ホウ珪酸ガラス層のホウ素/ケイ素の質量比が0.05以下である、請求項8〜10の何れか1項に記載の熱処理用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素材料及びこの炭素材料を用いた熱処理用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は耐熱性、耐薬品性、良電気伝導性、低熱膨張率、軽量であるなど優れた性質を有するため、産業界の広い分野で使用されている。ところが、炭素材料は、高温の空気中では酸化消耗を受け易いという欠点を有する。
【0003】
そこで、Si−B−C三元系の炭素材料が提案されている(特許文献1、非特許文献1、2参照)。当該炭素材料では、大気中1200℃での酸化消耗率が数%以下である状態が長時間にわたって維持される、即ち、高い耐酸化特性を有することが知られている。これは、酸化によってガラス化する成分を炭素材料の内部に分散化しておくことで、炭素材料の酸化と同時にその内部および表面にガラス層が形成されるため、酸化の進行を阻止することができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−119741号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】石川敏功,長沖通,新・炭素工業,近代編集社(1980)
【非特許文献2】本田英昌,小林和夫,ハイテク炭素材料,工業調査会(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、Si−B−C三元系の炭素材料は、その内部及び表面において低軟化点の硼珪酸ガラス層が形成されることで耐酸化性が発現するが、そのガラス層が粘着成分となり、炭素材料が他の材料と接触している場合に、炭素材料と他の材料とが付着する問題がある。即ち、Si−B−C三元系の炭素材料は、硼素によって珪酸ガラスの軟化点を下げ、硼珪酸ガラス層で炭素材料の酸化進行を保護することができる一方、その軟化点の低いガラス層の存在によって他の材料と付着するという現象が生じる。このため、Si−B−C三元系の炭素材料を炉内治具等に用いた場合には、炭素製品(炉内治具等)と接触する処理製品とが付着するという課題を有していた。
【0007】
そこで本発明は、耐酸化性に優れるとともに、接触する処理製品等の相手材への付着を抑制することができる炭素材料及びこの炭素材料を用いた熱処理用治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の炭素材料は、炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体(以下、Si−B−C三元系焼結体と称することがある)から成る炭素質基材の表面に、炭化ケイ素から成る保護層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐酸化性に優れるとともに、炉内治具等として使用したときに処理製品等の相手材への付着が生じ難いといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】材料A1の断面SEM写真である。
図2】B/Si比、使用温度と付着の有無との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の炭素材料は、Si−B−C三元系焼結体から成る炭素質基材の表面に、炭化ケイ素から成る保護層が形成されていることを特徴とする。
炭素質基材の表面には炭化ケイ素から成る保護層が形成されているので、酸化性雰囲気中で本発明の炭素材料を用いた場合であっても、炭素質基材と酸素とが接触するのを抑制できる。したがって、本発明の炭素材料は高い耐酸化消耗性を発揮する。
【0012】
また、炭素質基材と保護層とは熱膨張率が異なる等といった理由により、保護層の一部にクラックや剥離が生じて、炭素質基材が露出する場合がある。しかしながら、当該クラック等が生じた場合であっても、炭素質基材として耐酸化消耗性に優れたSi−B−C三元系焼結体が用いられているので、酸化消耗による不具合の発生を長期にわたって抑制することが可能となる。
【0013】
加えて、Si−B−C三元系焼結体は高温(約800℃〜約1200℃)の空気に触れると低軟化点(約800℃)の硼珪酸ガラスを形成するが、炭化ケイ素から成る保護層は高温(約800℃〜約1200℃)の空気に触れると高軟化点(約1500〜1700℃)の珪酸ガラス層を形成する。したがって、炭化ケイ素から成る保護層を有すれば炭素材料が高温状態に曝された場合であっても、炭素材料の表面に高軟化点の保護層が形成されるので、高温状態で炭素材料が他の部材と接触しても、炭素材料と他の部材とが付着するのを防止できる。
ここで、ガラスの軟化点とはガラスが自重で顕著に軟化変形しはじめる温度で、約107.6dPa・sの粘度に相当する温度のことでありJIS R 3103−1:2001に規定される方法により測定することができる。
【0014】
上記炭化ケイ素のうち一部の炭化ケイ素は、上記炭素質基材の気孔中に浸透していることが望ましい。
上記構成の如く、炭化ケイ素が炭素質基材の気孔中に浸透していれば、アンカー効果が発揮されるので、炭素質基材と保護層との密着強度が高くなる。
【0015】
上記保護層の厚みが5.3μm以上であることが望ましい。
保護層の厚みが5.3μm以上であれば、上述の作用効果が一層発揮される。
【0016】
上述した炭素材料は、熱処理用治具として好適に用いることができる。炭素材料を熱処理用治具として用いる場合、常に還元雰囲気中で用いられるわけではなく、下記に示す理由等により、酸化性雰囲気(酸素の存在下で高温に曝される雰囲気)中で用いられる場合も多い。
【0017】
(1)金属製品やセラミックス製品の焼結工程、接着工程、或いは脱脂工程に用いられる熱処理炉では、製造工程サイクルの向上(短縮)のために、より高温で炉扉が開放される場合が多い。
(2)炉の気密性を高めるには設備コストが高くなる問題があるため、低い気密性での操炉が実施される場合も多い。
(3)高温での処理中に、製品から酸素成分が発生する場合がある。
【0018】
このような条件下では、黒鉛等の炭素材料を熱処理用治具として用いることができない場合があり、また、用いることができたとしても、熱処理用治具が短寿命となるといった問題がある。
この場合、前述のSi−B−C三元系焼結体から成る炭素材料を熱処理用治具として用いれば、熱処理用治具の酸化を抑制することができるが、相手材に付着することがある。そこで、本発明の炭素材料を熱処理用治具として用いれば、これらの問題を解消できる。
【0019】
即ち、本発明の炭素材料を熱処理用治具として用いれば、酸化消耗の恐れが高い環境(例えば、酸素の存在下で1200℃の高温に曝される環境)下で使用されても、炭素材料の耐酸化消耗性に優れるため長期間にわたる使用が可能となる。また、熱処理時に、熱処理の対象物と接触していても、炭素質基材で生じる硼珪酸ガラスに起因する付着を、保護層によって防ぐことができる。これらのことから、本発明の炭素材料は熱処理用治具として好適に使用可能となる。
【0020】
尚、熱処理用治具として用いる場合、相手材と接触する部分にのみ本発明の炭素材料を用い、相手材と接触しない部分については、Si−B−C三元系焼結体のみから成る炭素材料(保護層が形成されていない炭素材料)を用いる構造であっても良い。このような構造であれば、熱処理用治具の製造コストを低減できる。
【0021】
炭素材料であって、炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体から成る炭素質基材の表面に、ホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下のホウ珪酸ガラス層が形成されていることを特徴とする。
【0022】
上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.50以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1200℃以上の温度で熱処理して得られたものであることが望ましく、また、上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.40以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1100℃以上1200℃未満の温度で熱処理して得られたものであることが望ましい。
このようにして、ホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下のホウ珪酸ガラス層を形成することができる。
尚、上記酸素存在雰囲気中での熱処理は、温度が高すぎるとホウ珪酸ガラス層が蒸発して失われる恐れがある。したがって、熱処理温度の上限は、一酸化ケイ素の沸点である1880℃以下が好ましく、より好ましくは1800℃以下である。
【0023】
熱処理用治具であって、炭素−炭化ホウ素−炭化ケイ素焼結体から成る炭素質基材の表面に、ホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下のホウ珪酸ガラス層が形成されていることを特徴とする。
【0024】
上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.50以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1200℃以上の温度で熱処理して得られたものであることが望ましく、また、上記ホウ珪酸ガラス層は、ホウ素/ケイ素の質量比が0.40以下の炭素質基材を酸素存在雰囲気中で1100℃以上1200℃未満の温度で熱処理して得られたものであることが望ましい。
【0025】
また、1000℃の高温下で用いられ、上記ホウ珪酸ガラス層のホウ素/ケイ素の質量比が0.16以下であることが望ましく、また、1100℃の高温下で用いられ、上記ホウ珪酸ガラス層のホウ素/ケイ素の質量比が0.095以下であることが望ましく、更に、1200℃の高温下で用いられ、上記ホウ珪酸ガラス層のホウ素/ケイ素の質量比が0.05以下であることが望ましい。
【実施例】
【0026】
〔第1実施例〕
(実施例1)
先ず、人造黒鉛粉67質量%と樹脂バインダー(フェノール樹脂)33質量%とを混捏し、粉砕することで炭素質粉末(粒子径5〜100μm)を得た。次に、この炭素質粉末に、炭化ホウ素粉(平均粒径15μm)と炭化ケイ素粉(平均粒径3μm)とが重量比で1:4の割合で含まれた混合粉を加え、らいかい機で1時間混合した。次いで、当該混合した粉体を400MPaの圧力で金型成形し、更に、この成形体を非酸化性雰囲気下にて900℃で1時間熱処理することによって、Si−B−C三元系焼結体から成る炭素質基材を得た。得られた炭素質基材の組成は、炭素が71.2質量%、ケイ素が26.85質量%、ホウ素が1.95質量%であった。
【0027】
次に、ケイ素粉末(平均粒度40μm)と、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂の10重量%水溶液とを、重量比で8:10の割合で混合分散させてスラリーを調製した。次いで、このスラリーを、上記炭素質基材の表面に厚みが約0.1mmとなるように塗布し、乾燥機の中で100℃、1時間で乾燥させ、さらに非酸化性雰囲気下にて1600℃で1時間熱処理した。その後、冷却して取り出した。この一連の処理により、Si−B−C三元系焼結体から成る炭素質基材の表面に、炭化ケイ素から成る保護層(厚さ1.7μm)が形成された炭素材料を得た。
【0028】
この炭素材料の断面SEM写真を図1に示す。図1において、横方向に延びる白っぽい部位が炭化ケイ素から成る保護層1であり、この保護層1の下側に存在するのが、炭素質基材2である。図1から明らかなように、保護層1の炭化ケイ素のうち一部の炭化ケイ素は、上記炭素質基材2の気孔中に浸透していることがわかる。尚、図1における白い縦横の直線はスケール線であり、線間距離は10μmである。
このようにして作製した炭素材料を、以下、材料A1と称する。
【0029】
(実施例2〜6)
上記スラリーの塗布厚みを変える(約0.4〜10mm)ことにより、下記表1に示すように保護層の膜厚を変化させたこと以外は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下それぞれ、材料A2〜A6と称する。
【0030】
(比較例1)
炭素材料として、等方性黒鉛材(東洋炭素社製のIG−11であって、保護層が形成されていないもの)を用いた。
このようにして作製した炭素材料を、以下、材料Z1と称する。
【0031】
(比較例2)
炭素材料として、等方性黒鉛材(東洋炭素社製のIG−11)の表面に、上記実施例1と同様の方法で保護層を形成したものを用いた。但し、上記実施例1とはスラリーの塗布厚みが異なるので、保護層の膜厚は材料A1と異なっている。
このようにして作製した炭素材料を、以下、材料Z2と称する。
【0032】
(比較例3)
保護層を形成しなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した(即ち、炭素材料はSi−B−C三元系焼結体のみから構成されている)。
このようにして作製した炭素材料を、以下、材料Z3と称する。
【0033】
(実験)
上記材料A1〜A6、Z1〜Z3の酸化試験を下記の条件で行い、下記(1)式で示す酸化消耗率と、アルミナ製蒸発皿(以下、アルミナ皿と称することがある)への付着の有無について調べたので、それらの結果を表1に示す。尚、付着試験においてアルミナ皿を使用するのは、当該アルミナ皿は表面の凹凸が大きく、付着が起こり易い表面形状だからである。
【0034】
・酸化試験の条件
マッフル炉を予め1200℃まで加熱しておき、材料A1〜A6、Z1〜Z3が載置されたアルミナ皿を上記マッフル炉内に配置して、大気中1200℃で1時間放置し、その後、アルミナ皿を冷却するという条件である。尚、酸化試験の前後で、材料A1〜A6、Z1〜Z3の重量を測定した。
【0035】
・酸化消耗率の算出
酸化消耗率=〔(酸化試験後の材料の重量―酸化試験前の材料の重量)/酸化試験前の材料の重量〕×100・・・(1)
【0036】
【表1】
【0037】
上記表1から明らかなように、炭素質基材がSi−B−C三元系焼結体からなり、この炭素質基材の表面にSiCから成る保護層が形成された材料A1〜A6では、酸化消耗が認められないか、又は、酸化消耗があっても酸化消耗率は極めて低くなっている。更に、アルミナ皿への付着は無いか、又は、アルミナ皿への付着があっても若干の付着となっている。
【0038】
これに対して、炭素質基材が黒鉛であり、この炭素質基材の表面に保護層が形成されていない材料Z1では、アルミナ皿への付着は無いが、酸化消耗率が極めて高くなっている。また、炭素質基材が黒鉛であり、この炭素質基材の表面に保護層が形成されている材料Z2では、アルミナ皿への付着は無く、材料Z1よりも酸化消耗率が低くなっている。但し、材料A1〜A6に比べると酸化消耗率が高くなっている。更に、炭素質基材がSi−B−C三元系焼結体からなり、この炭素質基材の表面に保護層が形成されていない材料Z3では、材料Z1、Z2よりも酸化消耗率が低くなっているものの、材料A1〜A6に比べると酸化消耗率は高く、しかも、アルミナ皿への付着が認められた。
【0039】
以上の実験結果から、酸化性雰囲気で熱処理用治具等の材料としては、炭素質基材がSi−B−C三元系焼結体からなり、SiCから成る保護層が炭素質基材の表面に形成されている炭素材料を用いるのが好ましいことが分かる。
【0040】
また、材料A1〜A6を比較した場合、材料A1ではアルミナ皿への若干付着しているが、材料A2〜A6ではアルミナ皿への付着は認められなかった。更に、材料A1、A2では酸化消耗が若干生じているが、材料A3〜A6では酸化消耗が全く生じていなかった。これらのことから、SiC膜厚は5.3μm以上であることが好ましく、特に、15.7μm以上であることが好ましいことが分かる。尚、SiC膜厚が大きくなり過ぎると、炭素材料の製造コストが高くなるので、30μm以下に規制するのが好ましい。
【0041】
〔第2実施例〕
(実施例1)
先ず、コークス粉末とピッチを混練し微粉砕して得られた平均粒子径10μmの自己焼結性のカーボン粉砕粉と、平均粒子径3μmのSiC粉末と、平均粒子径15μmのBC粉末との配合比率を下記表2の配合(a)とし、これらを気流中撹拌混合機で5分間混合した。次に、得られた混合粉末を、l00MPaで30×45×160mmの形状に成形した後、還元雰囲気中1100℃で焼成し、Si−B−C三元系の耐酸化性炭素複合材料を得た。次いで、該耐酸化性炭素複合材料を10×10×10mmの試験片に加工した後、アルミナクロスの上に載せて2L/minの空気フロー中、1200℃で1時間熱処理した。これによって、素材表面にガラス被膜が形成された炭素複合材料を得た。
このようにして作製した炭素複合材料を、以下、材料B1と称する。
【0042】
(実施例2〜5)
カーボン粉砕粉と、SiC粉末と、BC粉末との配合比率を、それぞれ、下記表2の配合(b)〜(e)とした他は、上記実施例1と同様にして炭素複合材料を得た。
このようにして作製した炭素複合材料を、以下それぞれ、材料B2〜B5と称する。
【0043】
(実施例6〜9)
空気フロー中で熱処理する際の温度を1100℃とした他は、それぞれ、上記実施例2〜5と同様にして炭素複合材料を得た。
このようにして作製した炭素複合材料を、以下それぞれ、材料B6〜B9と称する。
【0044】
(比較例)
空気フロー中で熱処理する際の温度を1100℃とした他は、上記実施例1と同様にして炭素複合材料を得た。
このようにして作製した炭素複合材料を、以下、材料Yと称する。
【0045】
ここで、カーボンとSiCとBCとの割合、及び、BとSiとの質量元素濃度比(以下、B/Si比と称することがある)を下記表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
(実験1)
材料B1〜B9、Yの付着試験を行ったので、その結果を表3に示す。実験は、材料B1〜B9、Yとアルミナクロスとが接した状態で、2L/minの空気フロー中で、所定の試験温度(800℃、1000℃、1100℃、1200℃。但し、材料B6〜B9、Yでは、1000℃、1100℃のみ。)で1時間静置して、冷却後に材料B1〜B9、Yとアルミナクロスとの付着の有無を調査したので、その結果を表3に示す。表3には、被膜形成前後のB/Si質量濃度比も併せて示している。
尚、表3から明らかなように、多くの場合、ガラス被膜形成時に試験片とアルミナクロスとが付着していた。そこで、付着試験では、ガラス被膜形成時に付着のなかった上面を下面として、アルミナクロスと接触させ、この状態で上記実験を行った。
【0048】
【表3】
【0049】
表3から明らかなように、材料B1〜B9は材料Yに比べて、被膜形成後の熱処理時において、試験片とアルミナクロスとの付着が抑制されているのがわかる。具体的には、材料Yでは、1000℃での熱処理時に付着しているのに対して、材料B1〜B9では、1000℃での熱処理時には全て付着していない。特に、材料B2〜B5、B9では、1100℃での熱処理時でも付着しておらず、その中でも、材料B5では、1200℃での熱処理時でも付着していなかった。これは、以下に示す理由によるものと考えられる
【0050】
ホウ素化合物を大気中(酸素存在下)で加熱すると、500℃以上で揮発性の酸化ホウ素(B)を生成し、ホウ素成分濃度が低下する。この現象を利用し、Si−B−C三元系の耐酸化炭素複合材料を大気中で熱処理して、基板(材料)表面にホウ素成分の少ないSi−B−Oガラス被膜を形成する。その場合、当該被膜を形成するための熱処理温度が高いほど、Bの蒸発が速く進む。このため、同じ1時間の熱処理時間でも、熱処理温度が高いほど、ホウ素成分がより少ないSi−B−Oガラス被膜が生成する。加えて、熱処理前のホウ素の量が少ないほど、ホウ素成分がより少ないSi−B−Oガラス被膜が生成する。そして、当該ホウ素成分がより少ないSi−B−Oガラス被膜は、高融点のSiO組成に近づくため、軟化点が高くなる。この結果、試験片とアルミナクロスとの付着が生じ難くなるものと考えられる。
【0051】
具体的には、材料Yでは、被膜形成後のB/Si比が0.172であるのに対して、材料B1〜B9では、被膜形成後のB/Si比が0.042〜0.137である。特に、材料B2〜B5、B9では、0.042〜0.089であり、その中でも、材料B5、B9では0.042〜0.044となっている。
B/Si比、使用温度と付着の有無との関係を図2に示したが、同図から明らかなように、被膜形成後のB/Si比が小さくなるほど、高温処理時における試験片とアルミナクロスとの付着が生じ難くなっていることがわかる。
【0052】
(実験2)
材料B1〜B9、Z1、Z2の酸化消耗率を、上記第1実施例の実験と同様にして調べたので、その結果を表4に示す。尚、被膜形成後の酸化消耗率は、1回の実験結果を示しているが、被膜形成時の酸化消耗率は、各条件での付着試験回数(1100℃被膜形成では2回、1200℃被膜形成では4回)の平均値を記載している。また、表4には、B/Si比についても記載している。
【0053】
【表4】
【0054】
被膜形成後の酸化消耗率試験において、材料B1〜B9は材料Z1、Z2に比べて、高い耐酸化消耗性を示すことがわかる。
【0055】
(実験3)
材料B1〜B9、Yにおけるガラス被膜の膜厚を測定したので、その結果を表5に示す。尚、ガラス被膜の膜厚は各材料のSEM写真から求めた。
【0056】
【表5】
【0057】
表5から明らかなように、ガラス被膜(ホウケイ酸ガラス被膜)の膜厚が15μmの材料B1、B2、B6であっても、上記実験2に示したように、酸化消耗は十分に抑制されている。したがって、ガラス被膜の膜厚は15μm以上あれば十分であることがわかる。尚、材料B8、B9で特に膜厚が大きくなっているのは、被膜形成時に酸化消耗が大きく、カーボンが焼失する過程で取り残されたSiCとBCが多いため考えられる
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は熱処理用治具等として用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 保護層
2 炭素質基材
図1
図2
【国際調査報告】