特表-16104634IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年6月30日
【発行日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20170908BHJP
【FI】
   C08L101/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2016-566465(P2016-566465)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2015年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-263476(P2014-263476)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】000104364
【氏名又は名称】出光ライオンコンポジット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】周 霖
(72)【発明者】
【氏名】山本 麻衣子
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AH002
4J002BB001
4J002BC021
4J002CF001
4J002CG001
4J002CL001
(57)【要約】
(A)熱可塑性樹脂99〜50質量%及び(B)酢酸リグニン50〜1質量%を含む熱可塑性樹脂組成物、並びにその成形体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂99〜50質量%及び(B)酢酸リグニン50〜1質量%を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)酢酸リグニンが、熱溶融性を有する酢酸リグニンである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)熱可塑性樹脂95〜70質量%及び前記(B)酢酸リグニン30〜5質量%を含む、請求項1〜3のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子製品、情報通信機器、OA機器、機械、自動車、産業資材、建材分野等で有用な熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関し、より詳しくは、環境への影響が軽減された材料として好適に用いられる熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンなどのプラスチックは、電気製品やOA機器、電機電子製品に使用する際には、難燃化する必要があり、一般的にはブロム系難燃剤やリン系難燃剤など石油由来の化合物を多く配合する必要がある。さらに近年の環境意識の高まりにより、耐久性に優れた材料やバイオマス由来の原料が望まれるようになってきた。
しかしバイオマス由来の原料は、例えば、バイオエタノールの製造において特に顕著となったように、デンプンや糖など食料と競合する原料を用いる場合が多く、これにより食料価格の上昇や食糧生産の減少に繋がるなど問題が指摘されていた。
そこで、現在特に注目度が高いのが、食料と競合しないセルロース系バイオマスから原料を製造する技術である。
熱可塑性樹脂にセルロース系バイオマスからの原料であるリグニン化合物を配合する技術は特許文献1に開示されている。ただし、リグニンは広く一般的なものを使用しており、リグニン配合による難燃化の記載はない。また、一般的なリグニンは、熱溶融せず、樹脂に配合した場合、凝集物として存在してしまうため、機械的物性や成形体の外観を低下させることがあった。また、特許文献1には酢酸リグニンが記載されているが、リグニン化合物として各種一般的なものを羅列した中の一つであり、実施例においても酢酸リグニンは使用されておらず、有効な酢酸リグニンを特定していない。
【0003】
特許文献2には、(a)リグニン類35〜65重量%及び(b)熱可塑性樹脂65〜35重量%よりなるリグニン類含有樹脂組成物が開示されており、木材チップを酢酸、及び塩酸を用いて高温蒸煮して得られる「酢酸蒸解リグニン」を使用することができる旨記載されている。しかしながら、クラフトリグニンやリグニンスルホン酸を使用した例が記載されているが、酢酸エチルに可溶な酢酸リグニンを使用した例は記載されていない。
特許文献3には、「リグニン誘導体に化学修飾で導入した反応活性官能基とを備えたリグニン誘導体」が記載されているが、酢酸リグニンについては記載されておらず、当然のことながら、それを熱可塑性樹脂に配合した樹脂組成物は記載されていない。
また、特許文献4には、特定のリグニンを使うことにより樹脂の流動性と難燃性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この特定のリグニンも樹脂中での分散性は向上するものの、熱溶融特性が不十分な場合があり、ポリオレフィンのようにリグニンとの親和性が低い樹脂への分散性が悪かった。分散性が悪かったため外観不良が発生したり、引張特性が低下するなどの恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−152410号公報
【特許文献2】特開2001−261965号公報
【特許文献3】特開2010−163497号公報
【特許文献4】特開2014−15579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、環境への影響が軽減され、かつ、難燃性が高く、成形体の外観、耐熱老化性、耐候性に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂と特定のリグニンを特定量含む熱可塑性樹脂組成物及びその成形体を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記、
<1>(A)熱可塑性樹脂99〜50質量%及び(B)酢酸リグニン50〜1質量%を含む熱可塑性樹脂組成物、
<2>前記(B)酢酸リグニンが、熱溶融性を有する酢酸リグニンである、上記<1>に記載の熱可塑性樹脂組成物、
<3>前記(A)熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記<1>又は<2>に記載の熱可塑性樹脂組成物、
<4>前記(A)熱可塑性樹脂95〜70質量%及び前記(B)酢酸リグニン30〜5質量%を含む、上記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物、及び
<5>上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形体
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
酢酸リグニンは熱可塑性樹脂に対して分散性が極めて良好であり、難燃性向上効果も高い。そのため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形外観、耐熱老化性、耐候性に優れ、ハウジングなどの外観の良さが必要な製品や屋外への利用も可能となる。また、分散性が良好のため、薄肉のフィルムなどにも適用できる。そして、バイオマス由来であり非可食材料であるリグニンを用いるので、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、食料と競合することなく環境負荷物質の低減など環境特性の高い材料である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂99〜50質量%及び(B)酢酸リグニン50〜1質量%を含む。
なお、本明細書において、「(A)熱可塑性樹脂」を「成分(A)」、「(B)酢酸リグニン」を「成分(B)」ということがある。また、本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組合せはより好ましい。
【0009】
<成分(A):熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は、好ましくはオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂及びポリカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0010】
(1)ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂としては、主として以下のものが挙げられる。
【0011】
(1−1)ポリプロピレン系樹脂
プロピレンの単独重合体、及びプロピレンを主成分とする共重合体等から選ばれる1種又は2種以上で構成することができる。
【0012】
プロピレンの単独重合体としては、特に制限はないが、軽量且つ成形性に優れさせる観点から、230℃(2.16kg)でのメルトマスフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分であるプロピレン単独重合体が好ましい。さらに樹脂組成物の剛性や耐衝撃性の観点から230℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが0.2〜60g/10分であることがより好ましい。
【0013】
プロピレンを主成分とする共重合体としては、特に制限はないが、例えば、プロピレンとエチレンとの共重合体、プロピレンとプロピレン以外の1種又は2種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体、及びプロピレンとプロピレン以外の1種又は2種以上のα−オレフィンとのブロック共重合体等が挙げられる。プロピレンを主成分とする共重合体のなかでも、軽量且つ成形性に優れる樹脂組成物を得るという観点から、230℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが0.1〜200g/10分であるプロピレン共重合体が好ましい。さらに樹脂組成物の剛性や耐衝撃性の観点から230℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが0.2〜60g/10分であることがより好ましい。
プロピレン以外のα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、及び1−エイコセン等が挙げられる。
【0014】
(1−2)ポリエチレン系樹脂
エチレンの単独重合体、及びエチレンを主成分とする共重合体等から選ばれる1種又は2種以上で構成することができる。
【0015】
エチレンの単独重合体としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられるが、軽量且つ成形性に優れさせる観点から、密度が0.910〜0.965g/cm3、190℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが0.01〜200g/10分であるエチレン単独重合体が好ましい。190℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが範囲内であれば、樹脂組成物の流動性及び成形体の表面外観に不具合を生じるおそれがなく、0.01〜60g/10分であることがより好ましい。
【0016】
エチレンを主成分とする共重合体としては、例えば、エチレンとエチレン以外のα−オレフィンとのランダム共重合体、及びエチレンとエチレン以外のα−オレフィンとのブロック共重合体が挙げられる。エチレンを主成分とする共重合体のなかでも、軽量且つ成形性に優れる樹脂組成物を得るという観点から、190℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが0.01〜200g/10分であるエチレン共重合体が好ましい。また、190℃(2.16kg)でのメルトマスフローレートが範囲内であれば、樹脂組成物の流動性及び成形体の表面外観に不具合を生じるおそれがなく、0.01〜60g/10分であることがより好ましい。
エチレン以外のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、及び1−エイコセン等が挙げられる。
【0017】
市販のポリオレフィン系樹脂としては、プライムポリマー(株)製のポリプロピレン系樹脂「プライムポリプロ」、「ポリファイン」、「プライムTPO」の各シリーズ(たとえば、品番:J−700GP、J−966HP)、プライムポリマー(株)製の各種ポリエチレン樹脂「ハイゼックス」、「ネオゼックス」、「ウルトゼックス」、「モアテック」、「エボリュー」の各シリーズ(たとえば、高密度ポリエチレン樹脂、品番:2200J)、及び東ソー(株)製の低密度ポリエチレン「ペトロセン」シリーズ(たとえば、品番:ペトロセン190)等が挙げられる。
【0018】
(2)ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン系樹脂は、例えば、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−tert−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体等が挙げられる。これらポリスチレン系樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
市販のポリスチレン系樹脂としては、PSジャパン(株)製、「PSJ−ポリスチレン」シリーズ(たとえば、品番:H8672)、東洋スチレン(株)製、「トーヨースチロール」シリーズ等が挙げられる。
【0019】
(3)ポリエステル樹脂
ポリオール−ポリカルボン酸型ポリエステル樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、テレフタル酸と1,3−プロパンジオールあるいは1,4−ブタンジオールとの共重合体、ポリ乳酸樹脂及び/又はポリ乳酸を含む共重合樹脂等が挙げられる。これらポリエステル樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリ乳酸樹脂及び/又はポリ乳酸を含む共重合樹脂は、乳酸又は乳酸とそれ以外のヒドロキシカルボン酸を加熱脱水重合すると低分子量のポリ乳酸又はその共重合体が得られ、これをさらに減圧下に加熱分解することにより、乳酸又はその共重合体の環状二量体であるラクチドが得られ、次いでラクチドを金属塩等の触媒存在下で重合してポリ乳酸樹脂及び/又はポリ乳酸を含む共重合樹脂が得られる。
市販のポリオール−ポリカルボン酸型ポリエステル樹脂としては、三井化学(株)製、「三井PETTM」シリーズ(たとえば、品番:三井J125)や東洋紡(株)製、「バイロン」シリーズ等が挙げられる。
市販のポリ乳酸樹脂及び/又はポリ乳酸を含む共重合樹脂としては、浙江海正生物材料股分有限公司(Zhejiang Hisun Biomaterials Co., Ltd)製の結晶性ポリ乳酸樹脂(「レヴォダ(REVODE)」シリーズ、L体/D体比=100/0〜85/5、たとえば、品番:レヴォダ101)や三井化学(株)製のポリ乳酸樹脂(植物澱粉を乳酸発酵して製造)である「レイシア」シリーズ等が挙げられる。
【0020】
(4)ポリアミド樹脂
ポリアミド樹脂は、例えば、ラクタムの開環重合体、ジアミンと二塩基酸との重縮合体、ω−アミノ酸の重縮合体等が挙げられる。これらポリアミド樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
市販のポリアミド樹脂としては、東レ(株)製のナイロン6やナイロン66である「アミラン」シリーズ(たとえば、品番:CM1017)、旭化成(株)製のポリアミド66樹脂である「レオナ」シリーズ及び帝人(株)の「n−ナイロン」や「n,m−ナイロン」シリーズ等が挙げられる。
【0021】
(5)ポリカーボネート樹脂
成分(A)としてのポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であっても脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、成分(B)との親和性の観点及び耐衝撃性と耐熱性の観点から芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることがより好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、通常、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べて、耐熱性、難燃性及び耐衝撃性が良好であるため樹脂組成物の主成分とすることができる。
また、芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体であるか又は芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含む樹脂を用いる場合、難燃性及び低温における耐衝撃性をさらに向上することができる。該共重合体を構成するポリオルガノシロキサンは、ポリジメチルシロキサンであることが難燃性の点からより好ましい。
市販の芳香族ポリカーボネート樹脂としては、出光興産(株)製の「タフロン」シリーズや帝人(株)製の「パンライト」シリーズ等が挙げられる。
【0022】
前記成分(A)の熱可塑性樹脂は相溶性のあるものは適宜混合して用いてもよい。たとえば、一般に流動性が悪いと考えられている芳香族ポリカーボネート樹脂にポリエステル樹脂を適量混合すれば、流動性が改善される。
また、前記(1)〜(5)に記載した熱可塑性樹脂以外に、それらと相溶性のある他の熱可塑性樹脂、例えば、AS樹脂や(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体等を適量混合してもよい。
【0023】
<成分(B):酢酸リグニン>
「酢酸リグニン」とは、リグニン骨格の一部に酢酸に由来する基が導入(アセチル化)されたリグニンのことでる。
酢酸リグニンの製造方法は、具体的には、例えば、リグニンの原料となる植物材料(例えば、針葉樹、広葉樹、イネ科植物など)を、酢酸を用いて蒸解することによって、パルプ廃液として酢酸リグニンを得ることができる。
【0024】
酢酸を用いた蒸解方法としては、例えば、リグニンの原料となる植物材料と、酢酸及び無機酸(例えば、塩酸、硫酸など)とを混合し、反応させる。
酢酸の配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、酢酸(100%換算)が、例えば、500質量部以上、好ましくは、900質量部以上であり、例えば、30,000質量部以下、好ましくは、15,000質量部以下である。
また、無機酸の配合割合は、リグニンの原料となる植物材料100質量部に対して、無機酸(100%換算)が、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.05質量部以上であり、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
また、反応条件としては、反応温度が、例えば、30℃以上、好ましくは、50℃以上であり、例えば、400℃以下、好ましくは、250℃以下である。また、反応時間が、例えば、0.5時間以上、好ましくは、1時間以上であり、例えば、20時間以下、好ましくは、10時間以下である。
【0025】
このような蒸解によって、パルプが得られるとともに、パルプ廃液として酢酸リグニンが得られる。
次いで、この方法では、濾過などの公知の分離方法によってパルプを分離し、濾液(パルプ廃液)を回収し、例えば、ロータリーエバポレーター、減圧蒸留などを用いた公知の方法によりパルプ廃液を濃縮する。その後、大過剰の酢酸エチルを添加し、撹拌した後、上清を分取する。得られた上清から、例えば、ロータリーエバポレーター、減圧蒸留などを用いた公知の方法により酢酸エチルを除去(留去)することによって、固形の酢酸リグニン〔1〕を得ることができる。得られた酢酸リグニン〔1〕は熱溶融性を有している。本発明における「熱溶融性」とは、100℃以上に加熱したときに軟化して溶融する性質をいう。
また、上清を分取した残りに大過剰の水を添加し、90℃程度に加熱しながら撹拌する。撹拌後、静置し、濾過することによって、固形分として酢酸リグニン〔2〕を回収することができる。得られた酢酸リグニン〔2〕は熱溶融性を示さない。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)の熱可塑性樹脂と成分(B)の酢酸リグニンとを、成分(A)と成分(B)との合計量を100質量%としたとき、成分(A)99〜50質量%、成分(B)50〜1質量%の割合で含有する。
成分(A)と成分(B)との割合は、好ましくは、成分(A)が95〜50質量%、成分(B)が5〜50質量%であり、さらに好ましくは、成分(A)が95〜70質量%、成分(B)が5〜30質量%である。
成分(A)が50質量%未満では耐候性及び耐熱老化性が適切な状態に保持されず、成形体において良好な外観を得ることができない。また、成分(B)が1質量%未満では成分(B)を配合することによって得られる効果が十分ではない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは実質的に100質量%である。
【0027】
[各種添加剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、成分(A)及び成分(B)とともに、各種添加剤を必要により含有させることができる。そのような添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、結晶核剤、軟化剤、帯電防止剤、金属不活性化剤、抗菌抗カビ剤、顔料等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物、ポリアミドポリエーテルブロック共重合体(永久帯電防止性能付与)等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。これらは1種以上を組み合わせて用いてもよい。
滑剤としては、特に限定されないが、脂肪酸アミド系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪酸金属塩系滑剤等が挙げられる。これらは1種以上を組み合わせて用いてもよい。
結晶核剤としては、特に限定されないが、ソルビトール類、リン系核剤、ロジン類、石油樹脂類等が挙げられる。
軟化剤としては、特に限定されないが、流動パラフィン、鉱物油系軟化剤(プロセスオイル)、非芳香族系ゴム用鉱物油系軟化剤(プロセスオイル)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
帯電防止剤としては、特に限定されないが、カチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤、ノニオン系帯電防止剤、両性系帯電防止剤、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類が挙げられる。
金属不活性化剤としては、特に限定されないが、ヒドラジン系金属不活性化剤、窒素化合物系金属不活性化剤、亜リン酸エステル系金属不活性化剤等が挙げられる。これらは1種以上を組み合わせて用いてもよい。
抗菌抗カビ剤としては、特に限定されないが、有機化合物系抗菌抗カビ剤、天然物有機系抗菌抗カビ剤、無機物系抗菌抗カビ剤等が挙げられる。
顔料としては、特に限定されないが、無機顔料、有機顔料等が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等が挙げられる。有機顔料としては、アゾ顔料、酸性染料レーキ、塩基性染料レーキ、縮合多環顔料等が挙げられる。これらの顔料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
添加剤成分の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の特性が損なわれない範囲であれば特に制限はない。
【0029】
[混練及び成形]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の成分(A)及び(B)を前記割合で、さらに必要に応じて添加される各種添加剤を配合し、混練することにより得られる。このときの配合及び混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。
混練の際の加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類により通常160〜350℃の範囲で適宜選択されるが、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン系樹脂を用いる場合は160〜250℃の範囲、ポリスチレン系樹脂を用いる場合は170〜280℃の範囲、ポリエステル樹脂を用いる場合は230〜280℃の範囲で選択される。
また、ポリアミド樹脂を用いる場合は240〜290℃の範囲、ポリカーボネート樹脂を用いる場合は270〜350℃の範囲、ポリ乳酸樹脂を用いる場合は190〜250℃の範囲で選択される。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の溶融混練及びペレット化によって得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により各種成形体を製造することができる。特に、上記溶融混練方法により、ペレット状の成形原料を製造し、次いでこのペレットを用いて、射出成形あるいは射出圧縮成形による射出成形体の製造、及び押出成形による押出成形体の製造に好適に用いることができる。また、押出成形にて押出シートにした後に加圧及び熱成形して成形体としてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0032】
〔測定項目〕
(1)酸素指数
酸素指数(LOI、単位%)はASTM D2863に準拠して測定した。
(2)耐候性
耐候性テスト(ブラックパネル温度83℃、300時間)では、サンシャインウェザオメーターを用いて紫外線を300時間連続照射し、照射と照射の間に降雨(0.5時間)のサイクルを繰り返した。テスト前後の試験片について、JIS K7161又はJIS K7113に準拠して測定した引張試験における伸度の保持率(%)を耐候性の指標として表1〜9に表示した。
(3)耐熱老化性
耐熱老化性テスト(温度100℃)では、試験片を恒温室に100時間静置し、テスト前後の試験片について、JIS K7161又はJIS K7113に準拠して測定した引張試験における伸度の保持率(%)を耐熱老化性の指標として表1〜9に表示した。
(4)成形体外観
射出成形で得られた直後の試験片の外観を目視で観察してブツとシルバーのいずれも観察されないものを「A」(使用可能)、ブツは観察されないが、シルバーが観察されるものを「B」(使用可能ではあるが、性能は悪い)、両方が観察されるものを「C」(使用不可)として表1〜9に表示した。
【0033】
〔実施例1〕
表1に示す割合(質量部)で各成分を配合し、押出機(田辺プラスチック機械株式会社製、機種名:VS40)に供給し、210℃で溶融混練してペレット化した。
得られたペレットを射出成形機(東芝機械株式会社製、型式:IS100N)を用いてシリンダー温度210℃、金型温度50℃の条件で射出成形して成形体(試験片)を得た。得られた成形体(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3mm)について下記の特性を測定し、その結果を表1に示した。
【0034】
〔実施例2〜14〕
表1〜9に示す割合(質量部)で各成分を配合して、溶融混練温度、シリンダー温度、金型温度を表1〜9に示すように、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にペレット化し、得られた試験片を用いて上記の特性を測定し、その結果を表1〜9に示した。
【0035】
〔比較例1〜11〕
表1〜9に示すように、比較例1及び4〜11においては成分(A)単独を用い、比較例2及び3においては成分(A)及び多量の成分(B)又は比較用成分(C)を用いて、溶融混練温度、シリンダー温度、金型温度を表1〜9に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてペレット化し、得られた試験片を用いて上記の特性を測定し、その結果を表1〜9に示した。
【0036】
各例で使用した材料は下記の通りである。
(1)成分(A)
*ポリプロピレン1
(株)プライムポリマー製、品番:J−700GP〔密度=0.905g/cm3、MFR=6.8g/10分(230℃、2.16kg)〕
*ポリプロピレン2
(株)プライムポリマー製、品番:J−966HP〔密度=0.90g/cm3、MFR=23g/10分(230℃、2.16kg)〕
*高密度ポリエチレン
(株)プライムポリマー製、品番:2200J〔密度=0.95g/cm3、MFR=12g/10分(190℃、2.16kg)〕
*低密度ポリエチレン
東ソー(株)製、品番:ペトロセン190〔密度=0.92g/cm3、MFR=8g/10分(190℃、2.16kg)〕
*芳香族ポリカーボネート
出光興産(株)製、品番:FN1900A(粘度平均分子量=19,000、屈折率=1.585)
*ポリスチレン系樹脂
PSジャパン(株)製、品番:H8672〔MFR=12g/10分(220℃、2.16kg)〕
*ポリエステル樹脂
三井化学(株)製、品番:三井J125(ポリエチレンテレフタレート)
*ポリ乳酸樹脂
浙江海正生物材料股分有限公司製の結晶性ポリ乳酸樹脂〔品番:レヴォダ101、L体/D体比=98%以上〕
*ポリアミド
東レ(株)製 品番:CM1017(ポリアミド6)
【0037】
(2)成分(B)
*熱溶融性を有する酢酸リグニン
*熱溶融しない酢酸リグニン
コーンストーバー100gに、酢酸(100%換算)950g及び硫酸3gを混合し、118℃(還流下)で4時間反応させて蒸解して、パルプを含有する反応液を得た。得られた反応液を濾過してパルプを分離して、濾液(パルプ廃液)を回収し、ロータリーエバポレーターを用いてパルプ廃液を濃縮した。次いで、パルプ廃液1質量部に対して酢酸エチル10質量部を添加し、撹拌した後、上清を分取した。
得られた上清から、ロータリーエバポレーターを用いて酢酸エチルを除去(留去)することによって、固形の酢酸リグニン〔1〕7.6gを得た。得られた酢酸リグニン〔1〕を150℃で加熱したところ軟化して溶融した。したがって、酢酸リグニン〔1〕は熱溶融性を有する。
一方、上清を分取した残液1質量部に対して水10質量部を添加し、95℃に加熱しながら撹拌した。撹拌後、静置し、濾過することによって、固形分として酢酸リグニン〔2〕8.1gを得た。得られた酢酸リグニン〔2〕を200℃以上でで加熱しても溶融せず、230℃を超過した時点で発煙しながら熱分解が開始された。したがって、酢酸リグニン〔2〕は熱溶融性を示さない。
【0038】
(3)比較用成分(C)
*クラフトリグニン
和光純薬(株)製
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
【表9】
【0048】
表1〜9の結果から以下のことがわかる。
すなわち、実施例におけるように、「酢酸リグニン」を各種熱可塑性樹脂に適量配合することにより、LOIが増大し難燃性が向上する。さらに耐候性(引張伸度の保持率)及び耐熱老化性(引張伸度の保持率)が、無添加のものより優れており、分散性が良好であるため、成形体の外観が優れている。
一方、比較例2におけるように、「酢酸リグニン」を配合する場合であっても量が50%を超えるとそれ以上の効果は見られず、成形体の外観に悪影響を及ぼす。
さらに、比較例3におけるように、「酢酸リグニン」以外のリグニンを適量配合しても耐候性及び耐熱老化性について実施例におけるような効果は少ないか、又はほとんど効果がない上、成形体の外観に悪影響を及ぼす。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物又は成形体は電気電子製品、情報通信機器、OA機器、機械、自動車、産業資材、建材分野等で有用であり、二酸化炭素排出量削減や化石原料低減等環境への影響が軽減された材料として好適に用いられる。
【国際調査報告】