(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年8月18日
【発行日】2017年11月9日
(54)【発明の名称】接着剤及び構造体、並びに、接着方法
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20171013BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20171013BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20171013BHJP
B29C 65/40 20060101ALI20171013BHJP
B29C 65/14 20060101ALI20171013BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/04
C09J5/00
B29C65/40
B29C65/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】14
【出願番号】特願2016-574819(P2016-574819)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-23098(P2015-23098)
(32)【優先日】2015年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省委託「次世代構造部材創製・加工技術開発(次世代複合材及び軽金属構造部材創製・加工技術開発)」に係る「次世代構造部材創製・加工技術開発(複合材構造)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高柳 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 直元
(72)【発明者】
【氏名】堀苑 英毅
(72)【発明者】
【氏名】神原 信幸
(72)【発明者】
【氏名】村岡 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】林 宏明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 統
(72)【発明者】
【氏名】辻 幸太郎
【テーマコード(参考)】
4F211
4J040
【Fターム(参考)】
4F211AB16
4F211AB24
4F211AD16
4F211TA04
4F211TN19
4F211TN26
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4F211TN53
4J040EB011
4J040ED001
4J040EE001
4J040EG001
4J040EH031
4J040EJ021
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4J040JA02
4J040JA09
4J040JB01
4J040KA32
4J040KA42
4J040LA03
4J040LA06
4J040LA09
4J040MA10
4J040NA15
4J040NA22
4J040PA23
4J040PA31
(57)【要約】
短時間で熱可塑性樹脂同士を接着でき、優れた接着強度を得ることができる接着剤、該接着剤により接着された構造体、該接着剤を用いた接着方法を提供する。接着剤は、熱可塑性樹脂または炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を含む第1部材(11)と、前記熱可塑性樹脂または前記炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を含む第2部材(12)とを接着する。接着剤は、熱可塑性樹脂を主剤とし、該主剤中に、電磁波を吸収して発熱する金属製のナノ材料を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を含む第1部材と、前記熱可塑性樹脂または前記炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を含む第2部材とを接着する接着剤であって、
熱可塑性樹脂を主剤とし、該主剤中に、電磁波を吸収して発熱する金属製のナノ材料を含む接着剤。
【請求項2】
前記ナノ材料が、ナノファイバまたはナノコイルである請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記電磁波が、3MHz以上3GHz以下である請求項1または請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記金属が白金または金である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の接着剤。
【請求項5】
前記主剤に対する前記ナノ材料の添加量が30μg/cm2以下である請求項1から請求項4のいずれかに記載の接着剤。
【請求項6】
前記第1部材と前記第2部材とが、請求項1から請求項5のいずれかに記載の接着剤によって接着された構造体。
【請求項7】
前記接着剤の前記熱可塑性樹脂と、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の前記熱可塑性樹脂とが同一材料である請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
前記第1部材の接着予定箇所に、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の接着剤を配置する工程と、
前記接着剤上に前記第2部材を配置する工程と、
前記接着剤に対して前記電磁波を照射して、前記第1部材と前記第2部材とを前記接着剤で接着する工程と、
を含む接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤、該接着剤を用いた構造体、及び、該接着剤を用いた接着方法に関し、特に熱可塑性樹脂同士を接着するための接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維で強化された樹脂(炭素繊維強化プラスチック)は、軽量かつ高強度、高弾性を有する素材である。炭素繊維強化プラスチックは、航空機部材、風車翼などに適用される。炭素繊維強化プラスチックには、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とするもの(炭素繊維強化熱硬化性樹脂プラスチック:CFRP)と、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするもの(炭素繊維強化熱可塑性樹脂プラスチック:CFRTP)とがある。CFRTPはCFRPに比べて成形時間が短いという利点(ハイサイクル特性)がある。
【0003】
例えば航空機部材では、CFRTP製部材同士が接合される部位、CFRTP製部材と熱可塑性樹脂製の部材とが接合される部位、または、熱可塑性樹脂製の部材同士が接合される部位が存在する。CFRTPのハイサイクル特性を生かすためには、短時間で部材同士を接合する接着技術が必要とされる。
【0004】
接着剤としては熱硬化性樹脂を主剤とするものが一般的である。熱硬化性樹脂を主剤とする接着剤を用いる場合には接着剤を加熱する必要がある。しかし、熱可塑性樹脂を上記接着剤で接着する場合には、熱硬化性樹脂の硬化温度まで加熱することができないために、十分な接着強度を確保できない。
【0005】
別の接着技術として、マイクロ波誘導加熱を用いた接着がある。この技術では、マイクロ波発熱体として磁性体(フェライトなど)を接着剤に混入し、接着剤にマイクロ波が照射されたときにマイクロ波発熱体が発する熱を利用して接着剤を硬化させている。
【0006】
特許文献1は、カーボンブラックまたはSiCからなるフィラーを含有する接着剤を用いている。特許文献1は、接着剤にマイクロ波を照射してフィラーが加熱することを利用して接着剤を硬化させることにより2つの被着体を接合する方法を開示する。
【0007】
新規の接着技術として超音波接合が検討されている。超音波接合では、一方の樹脂製部材の接合予定箇所に、エネルギーダイレクタを含む接着剤を突起状に付着させた後、接着剤を塗布した部分を下向きにして別の樹脂製部材と接触させる。部材上部から接着予定箇所に超音波を照射すると、エネルギーダイレクタが超音波を受けて発熱し、接着剤が溶融して部材が接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−156510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の超音波接合では接着剤を突起形状に塗布させなければならず、接着剤を下向きにしても部材に付着しているようにしなければならないため、接着剤塗布工程が煩雑である。接着剤が突起状であるので、2つの部材を接触させた時に隙間等ができやすいため、接着精度が低下するという問題があった。更に、超音波により部材が損傷を受けることが問題となっていた。
【0010】
特許文献1の方法で炭素繊維強化プラスチック同士を接着する場合には、炭素繊維強化プラスチックはいずれも炭素分を多量に含んでいる。このため、マイクロ波照射により接着剤だけでなく被着体も加熱されてしまい、適切に接着されないだけでなく、被着体が損傷を受けることが問題となっていた。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、短時間で熱可塑性樹脂同士を接着することができ、優れた接着強度を得ることができる接着剤、及び、該接着剤により接着された構造体、該接着剤を用いた接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、熱可塑性樹脂または炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を含む第1部材と、前記熱可塑性樹脂または前記炭素繊維で強化された熱可塑性樹脂を含む第2部材とを接着する接着剤であって、前記熱可塑性樹脂を主剤とし、該主剤中に、電磁波を吸収して発熱する金属製のナノ材料を含む接着剤である。
【0013】
上記接着剤に電磁波が照射されると、金属製ナノ材料が電磁波を吸収し発熱する。この熱により主剤である熱可塑性樹脂が加熱され、熱可塑性樹脂が溶融し接着層を形成する。この結果、熱可塑性樹脂を含む部材同士を接着するに当たって、十分な接着強度を得ることができる。
本発明は、第1部材及び第2部材と材質が異なり、電磁波吸収効率が高い金属製のナノ材料を用いているため、電磁波照射による加熱効率が高く短時間で接着可能であり、部材の損傷を防止されるとの効果を奏する。
【0014】
第1の態様において、前記ナノ材料が、ナノファイバまたはナノコイルであることが好ましい。上記形状のナノ材料は、特に電磁波吸収効率が高いので有利である。
【0015】
第1の態様において、前記電磁波が、3MHz以上3GHz以下であることが好ましい。本態様のナノ材料は、上記周波数の電磁波の吸収効率が高い。上記範囲の電磁波は特殊な管理を必要としないので、簡易な装置で電磁波照射が可能である。
【0016】
第1の態様において、前記金属が白金または金であることが好ましい。
金属製ナノ材料の製造過程が酸化雰囲気であっても、白金または金は酸化されにくく、酸化物は導電性を有する。このため電磁波吸収効率が高いナノ材料を製造することが可能である。
【0017】
第1の態様において、前記主剤に対する前記ナノ材料の添加量が30μg/cm
2以下であることが好ましい。
金属製のナノ材料は電磁波吸収効率が高いため、このようにわずかな添加量であっても熱可塑性樹脂の加熱に十分である。また、ナノ材料の添加量が多い場合には、接着後において接着層のクラック発生の原因となる。本態様の接着剤は、クラックの発生を抑制し、接着部材の疲労強度を向上させることができる。
【0018】
本発明の第2の態様は、前記第1部材と前記第2部材とが、第1の態様の接着剤によって接着された構造体である。
【0019】
本態様では、十分な接着強度を有する接着層が形成されるので、高強度の構造体となる。接着層のクラックの発生が抑制されるので、疲労強度が高い構造体となる。
【0020】
第2の態様において、前記接着剤の前記熱可塑性樹脂と、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方の前記熱可塑性樹脂とが同一材料であることが好ましい。
こうすることにより、より高い接着強度を得ることができる。
【0021】
本発明の第3の態様は、前記第1部材の接着予定箇所に、第1の態様の接着剤を配置する工程と、前記接着剤上に前記第2部材を配置する工程と、前記接着剤に対して前記電磁波を照射して、前記第1部材と前記第2部材とを前記接着剤で接着する工程と、を含む接着方法である。
【0022】
本態様に依れば、接着強度が高く耐久性に優れる構造体を、簡易な工程で短時間に作製することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に依れば、熱可塑性樹脂または炭素繊維強化熱可塑性樹脂からなる部材に損傷を与えることなく、短時間で部材同士を接着することができる。本発明の接着剤を用いれば十分な接着強度を示すため、高強度の構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る構造体の概略図である。
【
図3】電磁波の別の照射方法を説明する概略図である。
【
図4】実施例1及び比較例の基板温度の経時変化を表すグラフである。
【
図5】主剤に対するナノ材料の載置量と基板温度の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明の一実施形態に係る構造体の接着部分の概略図である。構造体10は、第1部材11と第2部材12とが重ね合わせられ、重ね合わせ部分が接着層13を介して接合される。構造体10は具体的に、航空機、風車翼などである。
【0026】
第1部材11及び第2部材12は、熱可塑性樹脂からなる部材、または、炭素繊維強化熱可塑性樹脂プラスチック(CFRTP)からなる部材である。すなわち、第1部材11及び第2部材12の組み合わせは、熱可塑性樹脂からなる部材同士、CFRTPからなる部材同士、及び、熱可塑性樹脂からなる部材とCFRTPからなる部材である。航空機を例に挙げると、第1部材11及び第2部材12は、スキン及びストリンガ、フロアビーム及びブラケット等である。
【0027】
接着層13は、熱可塑性樹脂を主剤とし、主剤中に電磁波を吸収して発熱する金属製のナノ材料を含む接着剤から形成される。
【0028】
接着剤の主剤となる熱可塑性樹脂は、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)などである。主剤が第1部材11及び第2部材12と同じ材質であれば、接着層13の接着強度が良好となるので好ましい。第1部材11と第2部材12とで熱可塑性樹脂の種類が異なる場合には、接着剤は第1部材11及び第2部材12のいずれか一方と同じ材質であることが好ましい。
【0029】
「ナノ材料」とは、2次元または3次元のサイズがナノスケール(1〜数百nm)である材料である。ナノ材料は具体的に、ナノファイバ(断面の直径がナノスケール)、ナノコイル(断面の直径がナノスケールであり、長さ方向がコイル状に形成されたもの)、ナノ粒子(粒径がナノスケール)、ナノチューブ(断面の直径がナノスケールの中空のファイバ)などである。特にナノコイル、ナノファイバは、電磁波吸収効率が高いので好ましい。
【0030】
主剤に対するナノ材料の添加量が多い場合は、使用中に接着層13にクラックが発生する。このため、主剤に対するナノ材料の添加量は、接着剤単位面積当たりの質量を0.1mg/cm
2以下、好ましくは30μg/cm
2以下とする。上述のナノ材料は電磁波吸収効率が高いため、添加量が少なくても大きい発熱量を得ることができる。一方、添加量の管理の容易性、ナノ材料の分散性、発熱量等を考慮すると、添加量の下限値は0.1μg/cm
2であることが好ましい。
【0031】
金属の種類は特に限定されないが、照射される電磁波の周波数において電磁波吸収効率が高い金属であることが好ましい。具体的にPt,Au,Ni,Cuである。
後述するナノコイルやナノファイバの形成工程において金属が酸化される。Pt,Auは酸化されにくく、酸化された場合でも導電性を有する物質であるので、Pt,Auはナノ材料として最適である。
【0032】
金属製のナノファイバはエレクトロスピニング法を用いて作製される。
金属酢酸塩を高分子溶液(例えば、ポリビニルアルコール水溶液)に溶解させる。得られた溶液がエレクトロスピニング法により基板上に噴霧されて金属を含むナノファイバが形成される。得られたナノファイバが還元雰囲気で熱処理されて、金属製のナノファイバが得られる。
【0033】
金属製のナノコイルは、エレクトロスピニング法を用いて作製されたナノファイバをコア部として表面に金属薄膜を形成することにより得られる。この場合、コア部は金属であっても良いし、高分子であっても良い。ナノコイルは中実でも良く、中空でも良い。中空のナノコイルを形成する方法としては、高分子のコア部を用い、金属薄膜形成後に熱処理を施して高分子を蒸発させる方法などがある。
【0034】
接着剤は液体状でも良いが、シート状(厚さ150μm程度)であっても良い。シート状の接着剤であれば、容易に接着剤を部材に貼り付けることができるし、接着層13の厚さを略均一にすることができる。
【0035】
本実施形態の接着剤を用いて第1部材11及び第2部材12を接着する方法を以下で説明する。
第1部材11の接着予定箇所に上述の接着剤を所定量塗布する。シート状の接着剤を使用する場合には、所定の大きさに接着剤シートを切り出して、第1部材11上に載置する。第2部材12の接着予定箇所を第1部材11上の接着剤に接触させて、第1部材11上に第2部材12を載置する。
【0036】
第1部材11と第2部材12とを重ね合わせた後、接着剤に対して電磁波を照射する。電磁波の周波数には限定されないが、例えばX線のように特殊な管理が必要な電磁波ではないことが好ましい。ナノ材料を構成する金属の周波数吸収効率が高い周波数の電磁波であることが好ましい。上記を考慮すると、短波(HF、3MHz以上30MHz以下)、超短波(VHF、30MHz以上300MHz以下)、極超短波(300MHz以上3GHz以下)が照射されることが好ましい。具体的に、ISMバンドの電磁波が使用できる。
照射される電磁波は第1部材11及び第2部材12を透過可能であることが求められ、電磁波の周波数が適切に選定される。
【0037】
図2は電磁波の照射方法を説明する概略図である。
図2に示す方法では、第1部材11と第2部材12とを接着剤14を介して重ね合わせた部材がチャンバ15内に収容される。チャンバ15内で電磁波が部材に照射されると、電磁波が接着剤14に到達する。接着剤14中のナノ材料(金属製ナノコイル、金属製ナノファイバ)が電磁波を吸収し、発熱する。ナノ材料から発せられた熱によって主剤(熱可塑性樹脂)が加熱されて溶融する。電磁波照射が遮断されると、接着剤が冷却され、接着層が形成される。
【0038】
図3は電磁波の別の照射方法を説明する概略図である。
図3に示す方法では、部材の接着剤14の上方に照射器16が設置される。この時、接着剤14が塗布された領域の中央が、照射器16の中央とほぼ一致する。
図3の方法では、部材はチャンバ等の容器に収容される必要はない。照射器16の運転により照射器16から電磁波が部材に照射されると、上述と同様に電磁波がナノ材料に吸収されてナノ材料が発熱し、接着剤14の主剤が溶融する。その後、照射器16を停止させると電磁波が遮断されることにより接着剤が冷却され、接着層が形成される。
【0039】
電磁波の照射量及び照射時間は、主剤が溶融し、且つ、接着予定箇所以外の場所に流出しないよう接着剤塗布時の形状またはシート形状が保持されるように設定される。
【実施例1】
【0040】
実施例の試料として、Ptナノコイル(直径250nm、コイルピッチ3.2μmの中実コイル)を載置したPPS樹脂基板(東レ(株)製、型番A900、10mm×10mm×厚さ2mm)を準備した。基板を電子天秤上に設置し、基板上にPtナノコイルを載置した。この計測により秤量下限値(0.1mg)以下であることを確認した。従って、基板上のPtナノコイル量は0.1mg/cm
2以下だった。
【0041】
比較例の試料として、NiZn系フェライト(JFEケミカル(株)製、型番JN−350)を60wt%(1.3g/cm
3)混合したPPS樹脂(東レ(株)製、型番A900)を10mm×10mm×厚さ2mmの基板上に成形したものを準備した。なお、フェライト材料は、電磁波吸収効率が高い物質であると従来より知られている材料である。
【0042】
各基板の上方からマイクロ波(2.45GHz、20W)を照射し、基板表面の温度の経時変化を赤外線サーモグラフィを用いて測定した。
図4に結果を示す。
【0043】
実施例では照射開始から約20秒の間に温度が急激に上昇し、その後温度上昇率は低下した。照射開始から20秒後に282.2℃、約33秒後に300℃に到達した。PPS樹脂の融点は約280℃である。すなわち、実施例の方法ではPPS樹脂の融点を超える温度まで加熱することが可能であった。
【0044】
比較例では照射開始からの温度上昇は緩やかであり、5分後に72.2℃に到達した。比較例ではPPS樹脂の融点に到達していないため、PPS樹脂を溶融させることができない。すなわち、PPS樹脂によって部材同士を接着することができない。
【0045】
このことからPtナノコイルはフェライトと比較して電磁波吸収効率が極めて高い材料であると言える。従って、わずかな量のPtナノコイルを使用しただけでPPS樹脂溶解させて部材同士を接着することができ、十分な接着強度を得ることが可能であると言える。
【実施例2】
【0046】
試料として、Ptナノコイル(直径250nm、コイルピッチ3.2μmの中実コイル)を載置したポリエーテルエーテルケトン(=PEEK)樹脂基板(Victrex Japan(株)製、型番450G、10mm×10mm×厚さ3mm)を準備した。
【0047】
ここで、ナノ材料の載置量は、7.2μg/cm
2、12μg/cm
2、24μg/cm
2とした。
【0048】
比較例の試料として、上記実施例と同様のポリエーテルエーテルケトン樹脂基板を準備し、Ptナノコイルを載置せずに、上記実施例と同様に基板の上方からマイクロ波を照射し、基板表面の温度経時変化を赤外線サーモグラフィを用いて測定した。結果を
図5に示す。
【0049】
ナノ材料を載置しない試料(PEEK樹脂基板)は表面温度がほとんど上がらなかった。これに対し、ナノ材料の載置量の増加に応じて、基板の表面温度も上昇した。PEEK樹脂の融点は約340〜380℃である。すなわち、実施例の方法ではいずれもPEEK樹脂の融点を超える温度まで加熱することが可能であった。実際、本実施例のナノ材料を載置したPEEK樹脂基板ではいずれも基板表面の溶融が確認された。
図5によれば、ナノ材料の載置量は30μg/cm
2以下の少量であっても大きい発熱量を得ることができた。
【符号の説明】
【0050】
10 構造体
11 第1部材
12 第2部材
13 接着層
14 接着剤
15 チャンバ
16 照射器
【国際調査報告】