(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
本発明は、がん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体の製造方法であって、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドカリキシンの全部又は一部をコードする核酸を導入してがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を発現させる工程と、当該がん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部で非ヒト哺乳動物を免疫して抗体を得る工程と、当該抗体を、精製したがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を用いた一次スクリーニングで精製する工程と、を含む方法を提供する。
前記一次スクリーニングの後、さらに、がん細胞又は組織と、正常細胞又は組織とに対する抗体の反応性を比較し、がん細胞又は組織に対する反応性が、正常細胞又は組織に対する反応性より優位に高い抗体を選択する工程を含む、請求項1に記載の方法。
前記がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞が、糖鎖転移酵素を導入し、がん細胞特異的糖鎖構造を発現するように人工的に改変した細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
前記がん細胞又は組織に反応し、前記正常細胞又は組織に反応しない抗体を選択する工程は、免疫組織染色又は免疫細胞染色によって行われる、請求項2から5のいずれか1項に記載の方法。
Fc領域に1以上のN−結合型糖鎖が結合し、該N−結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない、請求項7から9のいずれか1項に記載のがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメント。
抗がん活性を有する物質を結合させた請求項7から10のいずれか1項に記載のがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含む医薬組成物。
被検者から採取したサンプル中のがん細胞特異的ポドカリキシンを、請求項1から6のいずれか1項に記載された方法で製造されたがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は請求項7〜10のいずれか1項に記載のがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体若しくはその抗原結合フラグメントを用いて、測定する工程を含む、がんの検査方法。
請求項1から6のいずれか1項に記載された方法で製造されたがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体若しくはその抗原結合フラグメント、又は請求項7〜10のいずれか1項に記載のがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体若しくはその抗原結合フラグメントを含む、がんの検査用キット。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るがん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体の製造方法は、
がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドカリキシンの全部又は一部をコードする核酸を導入してがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を発現させる工程と、
前記がん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を非ヒト哺乳動物に免疫して抗体を得る工程と、
前記抗体を、精製したがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を用いた一次スクリーニングで精製する工程と、を含む。
【0013】
本明細書において「がん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体」は、がん細胞に発現するポドカリキシンとの反応性の方が、正常細胞に発現するポドカリキシンとの反応性より有意に高い抗体を意味する。一態様において、「がん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体」は、がん細胞に発現するポドカリキシンと反応し、正常細胞に発現するポドカリキシンとはまったく反応しない。一態様において、「がん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体」は、がん細胞に発現するポドカリキシンとの反応性が著しく高い一方、正常細胞に発現するポドカリキシンともある程度反応する。
本明細書においては、「がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体」は、「がん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体」と同義である。
【0014】
ポドカリキシンは、精巣腫瘍、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、大腸がん、膵がん等に高発現している一方、正常細胞にも発現している。
ヒトポドカリキシン(BC143318, NM_001018111)は、配列番号:1で表されるタンパク質であるが、本明細書において「ポドカリキシン」という場合、その機能的な変異体も含まれる。
【0015】
本明細書において「抗体」は、一対のジスルフィド結合で安定化された2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)が会合した構造をとる。重鎖は、重鎖可変領域VH、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及びCH1とCH2の間に位置するヒンジ領域からなり、軽鎖は、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとからなる。この中で、VHとVLからなる可変領域断片(Fv)が、抗原結合に直接関与し、抗体に多様性を与える領域である。また、VL、CL、VH、CH1からなる抗原結合領域をFab領域と呼び、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる領域をFc領域と呼ぶ。
可変領域のうち、直接抗原と接触する領域は特に変化が大きく、相補性決定領域(complementarity−determining region: CDR)と呼ばれる。CDR以外の比較的変異の少ない部分をフレームワーク(framework region: FR)と呼ぶ。軽鎖と重鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDR(重鎖CDR1〜3、及び軽鎖CDR1〜3)が存在する。
【0016】
本明細書において「がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞」は、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞であればどのような細胞であってもよい。例えば、がん細胞であってもよいし、非がん細胞に必要な糖転位酵素を導入し、がん細胞特異的糖鎖構造を発現するように人工的に改変した細胞であってもよい。「がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞」としては、例えば以下の細胞が挙げられる。
−膠芽腫細胞株LN229由来細胞。
本発明者らは、これまでに、脳腫瘍では悪性度に応じてケラタン硫酸修飾が亢進することを確認し(Kato Y et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008; 369(4): 1041−1046.)、脳腫瘍細胞株の中から高度にケラタン硫酸修飾の起こっているLN229細胞を発見している(Hayatsu N et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008; 368(2): 217−222.)。また、astrocytic tumorにおいてポドカリキシンが悪性度と相関して高発現していることを報告している(Hayatsu N et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008; 374(2): 394−398.)。さらに、LN229細胞により発現させたタンパク質には、シアル酸ががん細胞特異的に付加することを報告している(Kato Y et al., Sci Rep. 2014; 4: 5924)。
−膠芽腫細胞株LN464細胞に糖転移酵素のKSGal6STを遺伝子導入した細胞(Hayatsu N et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008; 368: 217−222.)。本発明者らは、この文献において、膠芽腫細胞株LN464細胞に糖転移酵素のKSGal6STを遺伝子導入すると、脳腫瘍組織で高発現することが知られているケラタン硫酸の高発現株ができることを報告している。
−子宮頸がん細胞(HeLa細胞)や白血病細胞(Namalwa細胞)に糖転移酵素を遺伝子導入した細胞(Kimura H et al., Biochem Biophys Res Commun. 1997 Aug 8; 237(1): 131−137.)。この文献では、本発明者らが、子宮頸がん細胞(HeLa細胞)や白血病細胞(Namalwa細胞)に糖転移酵素を遺伝子導入し、どのような糖鎖を付加するかを詳細に見ている。
−Namalwa細胞に糖転移酵素を遺伝子導入した細胞(Kaneko M et al., FEBS Lett. 1999; 452(3): 237−242.)。この文献では、本発明者らが、Namalwa細胞に糖転移酵素を遺伝子導入し、どのような糖鎖を付加するかを詳細に見ている。
−サル腎臓細胞(COS1細胞)に糖転移酵素を導入した細胞(Kaneko M et al., Blood. 1997; 90(2): 839−849.)。
−ハムスター卵巣細胞(CHO−Lec1細胞)に糖転移酵素を導入した細胞(Kaneko M et al., FEBS Lett. 2003; 554(3): 515−519.)。
【0017】
本明細書において「がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に、ポドカリキシンの全部又は一部をコードする核酸を導入して発現させる工程」は、常法に従って当業者が行うことができるが、本発明に係るがん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体の製造方法においては、がん細胞にポドカリキシンの全部又は一部をコードする核酸を導入して強制発現させることにより得られたがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を抗原として用いることを特徴とする。ポドカリキシンの一部をコードする核酸としては、がん細胞特異的糖鎖が結合しているポドカリキシンの部分をコードする核酸を用いることができる。がん細胞特異的糖鎖が結合しているポドカリキシンの部分をコードする核酸としては、ポドカリキシンの細胞外領域をコードする核酸が挙げられる。本明細書において核酸は目的のタンパク質を発現できる限りどのような核酸であってもよいが、DNA、RNA、又はDNA/RNAキメラ、人工核酸等が挙げられる。
【0018】
一態様において、ポドカリキシンの全部又は一部を分泌型として発現させる。これは、ポドカリキシンの細胞外領域をコードする核酸を、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞に導入することにより行うことができる。分泌型として発現されたポドカリキシンは、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞の培養上清から精製することができる。例えば、ポドカリキシンを適当なタグをつけた状態で発現させ、かかるタグを利用して精製してもよい。
【0019】
本明細書において「がん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を非ヒト哺乳動物に免疫して抗体を得る工程」は、がん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を非ヒト哺乳動物に投与することによって行うことができる。精製したがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を用いてもよい。
免疫は、例えば、がん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を、必要に応じてアジュバントと共に、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、又は腹腔内に注射して行うことができる。
【0020】
非ヒト哺乳動物の免疫工程は、がん細胞特異的ポドカリキシンを分泌型として発現させず、膜タンパク質として発現させ、細胞ごと非ヒト哺乳動物に投与して行ってもよい。
免疫は、常法に従って行うことができるが、例えば1×10
7〜1×10
9の細胞を腹腔内に、10日に1回ずつ、複数回投与することにより行うことができる。
【0021】
本明細書において、非ヒト哺乳動物とは、典型的にはマウスであるが特に限定されず、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等が挙げられる。
【0022】
本明細書において「抗体の一次スクリーニング」とは、抗体産生細胞から目的の抗体を同定していく過程における最初のスクリーニングをいい、例えば、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養上清を用いたスクリーニングをいう。
抗体の一次スクリーニングにおいては、モノクローナル抗体を取得する工程及びモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを特定する工程を含むことが好ましい。
本発明における抗体の一次スクリーニングは、概して以下のように行われる。
まず、がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞にポドカリキシン又はその一部をアフィニティータグ(FLAGタグ、Hisタグ、Mycタグ、PAタグ、等)と共に発現させ、当該アフィニティータグを用いて精製を行う。こうして精製したがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部をELISAプレートに固相化し、ここに抗体産生細胞から得られた抗体を加え、反応するウェルを選択する。この方法により、スクリーニングの初期の段階で、がん細胞特異的抗体を選択することができる。
精製したがん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部とは、精製タンパク質又はその一部であれば特に限定されるものではなく、強制発現されたタンパク質を精製したものであってもよく、内在性のタンパク質を精製したものであってもよい。
【0023】
本発明に係るがん細胞特異的に発現するポドカリキシンに対する抗体の製造方法は、一次スクリーニングの後、がん細胞又は組織と、正常細胞又は組織とに対する抗体の反応性を比較し、がん細胞又は組織に対する反応性が、正常細胞又は組織に対する反応性より優位に高い抗体を選択する工程を含んでいてもよい。
がん細胞又は組織としては、脳腫瘍、前立腺がん、精巣腫瘍、腎がん、甲状腺がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、大腸がん、膵がん、悪性中皮腫、骨肉腫における細胞又は組織が挙げられ、正常細胞としては、血管内皮細胞及び、腎上皮細胞等が挙げられる。また、正常組織としては、全身の血管及び腎臓等が挙げられる。
がん細胞又は組織としては、1)腺がん(肺腺がん、肝臓腺がん、膵臓腺がん、リンパ腺がん、子宮腺がん、精のう腺がん、胃腺がん等)、2)基底細胞がん(皮膚がん等)、3)扁平上皮がん(口腔がん、舌がん、咽頭がん、食道がん、咽頭がん、子宮頚部がん等)、4)肉腫(リンパ管肉腫、カポジ肉腫、悪性骨肉腫等)、5)造血器腫瘍(急性・慢性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、及び急性・慢性リンパ性白血病などの白血病、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫などのリンパ腫、並びに多発性骨髄腫等)、6)その他、腎細胞がん等の細胞又は組織であってもよい。
【0024】
本明細書において、「がん細胞又は組織と、正常細胞又は組織とに対する前記抗体の反応性を比較する工程」は、がん細胞又は組織と一次スクリーニングで得られた抗体とを反応させ、結合の有無を検出し、一方で、正常細胞又は組織と一次スクリーニングで得られた抗体とを反応させ、結合の有無を調べる工程を意味する。この工程は、フローサイトメトリー、免疫組織染色(IHC)、免疫細胞染色(ICC)等により行うことができる。
【0025】
がん細胞又は組織と抗体の反応性、正常細胞又は組織と抗体の反応性を比較した後、がん細胞又は組織に対する反応性が、前記正常細胞又は組織に対する反応性より有意に高い抗体を選択することにより、がん細胞特異的抗体を得ることができる。
選択されたがん細胞特異的抗体は、その後さらに精製することができる。
【0026】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリ等の非ヒト動物に免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。キメラ抗体とは、異なる種に由来する抗体の断片が連結された抗体をいう。
「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体に特徴的なアミノ酸配列で、ヒト抗体の対応する位置を置換した抗体を意味し、例えば、マウスに免疫して作製した抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3を有し、重鎖及び軽鎖のそれぞれ4つのフレームワーク領域(FR)を含むその他のすべての領域がヒト抗体に由来するもの等が挙げられる。かかる抗体は、CDR移植抗体と呼ばれる場合もある。用語「ヒト化抗体」は、ヒトキメラ抗体を含む場合もある。
【0027】
本明細書において、抗ポドカリキシン抗体の「抗原結合フラグメント」とは、抗ポドカリキシン抗体のフラグメントであって、ポドカリキシンに結合するフラグメントをいう。具体的には、VL、VH、CL及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab’)2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、diabody型、scDb型、tandem scFv型、ロイシンジッパー型等の二重特異性抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントの一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。これらのCDRは、PcMab−6のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFNFNTNAMN(配列番号:2)
重鎖CDR2:LIRSKSNNYATYYADSVKD(配列番号:3)
重鎖CDR3:GYGSY(配列番号:4)
軽鎖CDR1:KASQSVNNDVA(配列番号:5)
軽鎖CDR2:FASNRYT(配列番号:6)
軽鎖CDR3:QLDYNSTWT(配列番号:7)
【0029】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、本発明の効果を奏する限り、6つのCDRのうちいくつを含むものであってもよいが、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6つ含むものとすることができ、含む数が多い方が好ましい。
【0030】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列に、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んだ重鎖CDR1;配列番号:3で表されるアミノ酸配列に、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んだ重鎖CDR2;配列番号:4で表されるアミノ酸配列に、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んだ重鎖CDR3;配列番号:5で表されるアミノ酸配列に、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んだ軽鎖CDR1;配列番号:6で表されるアミノ酸配列に、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んだ軽鎖CDR2;配列番号:7で表されるアミノ酸配列に、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んだ軽鎖CDR3の少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0031】
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含む。アミノ酸は慣用的な一文字表記又は三文字表記で示される場合もある。本明細書においてアミノ酸又はその誘導体としては、天然タンパク質性L−アミノ酸;非天然アミノ酸;アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物等が挙げられる。非天然アミノ酸の例として、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α−二置換アミノ酸(α−メチルアラニンなど)、N−アルキル−α−アミノ酸、D−アミノ酸、β−アミノ酸、α−ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
本明細書において「1から数個のアミノ酸の付加、置換又は欠失を有する」という場合、欠失、置換等されるアミノ酸の個数は、結果として得られるポリペプチドがCDRとしての機能を保持する限り特に限定されないが、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個とすることができ、1個、2個、3個又は4個とすることが好ましい。置換又は付加されるアミノ酸は、天然のタンパク質性アミノ酸に加えて、非天然のアミノ酸又はアミノ酸アナログであってもよい。アミノ酸の欠失、置換又は付加の位置は、CDRとしての機能が保持される限り、もとのCDR配列のどこであってもよい。
【0033】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントにおいては、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR1;配列番号:3で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR2;配列番号:4で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖CDR3;配列番号:5で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1;配列番号:6で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2;配列番号:7で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3の少なくとも1つを含むものであってもよい。
【0034】
本明細書において、「80%以上の同一性を有する」とは、それぞれ元の配列と変異した配列を有する二つのポリペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるようにアライメントしたときに、共通するアミノ酸残基の数が、元の配列のアミノ酸数の80%以上であることを意味する。
同一性は80%以上であって、CDRとしての機能を保持する限り何%であってもよく、例えば85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上とすることができる。
【0035】
重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列にアミノ酸を付加、置換、又は欠失させたアミノ酸配列からなるCDRや、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法等の公知の方法を用いて作製され得る。これらの方法によれば、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS. 1998; 95: 6037−6042.; Schier R et al., J. Mol. Bio. 1996; 263: 551−567.; Schier R et al., J. Mol. Biol. 1996; 255: 28−43.; Yang WP et al., J. Mol. Biol. 1995; 254: 392−403.)。
【0036】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントの別の一態様は、
配列番号:8で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:8で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:8で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む。
配列番号:8で表されるアミノ酸配列は、PcMab−6の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0037】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントの一態様は、
配列番号:10で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:10で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:10で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖
を含む。
配列番号:10で表されるアミノ酸配列は、PcMab−6の重鎖のアミノ酸配列である。
本明細書において、重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失という場合、付加、置換、又は欠失するアミノ酸の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個とすることができる。その他の用語は、上述したとおりである。
【0038】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、Fc領域に1以上のN−結合型糖鎖が結合し、該N−結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体であってもよい。
例えばIgG抗体のFc領域には、N−結合型糖鎖の結合部位が2ヶ所存在し、この部位に複合型糖鎖が結合している。N−結合型糖鎖とは、Asn−X−Ser/Thr配列のAsnに結合する糖鎖をいい、共通した構造Man3GlcNAc2−Asnを有する。非還元末端の2つのマンノース(Man)に結合する糖鎖の種類により、高マンノース型、混成型、及び複合型等に分類される。
N−結合型糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)にはフコースが結合しうるが、このフコースが結合していない場合、結合している場合に比較してADCC活性が著しく上昇することが知られている。このことは例えば、国際公開第2002/031140号に記載されている。
ADCC活性が著しく向上することにより、抗体を医薬として用いる場合に投与量を少なくすることができるので、副作用を軽減させることが可能であると共に、治療費も低減させることができる。
【0039】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、抗がん活性を有する物質を結合させて用いてもよい。
本明細書において、「抗がん活性を有する物質」とは、腫瘍サイズの低下(遅延又は停止)、腫瘍の転移の阻害、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる物質を意味する。具体的には、毒素、抗がん剤、ラジオアイソトープを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0040】
抗がん活性を有する毒素としては、例えば、緑膿菌外毒素(PE)又はその細胞障害性フラグメント(例えばPE38)、ジフテリア毒素、リシンA等が挙げられる。抗がん活性を有する毒素は、抗ポドカリキシン抗体と共に毒素が取り込まれる細胞、即ちポドカリキシンを発現しているがん細胞のみに毒性を発揮するので、周囲の細胞に悪影響を与えず、特異的に効果を得られるという利点がある。特に、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、がん細胞に発現する抗ポドカリキシンに特異的に結合するので、有用である。
【0041】
抗がん剤としては、例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、デキサメタゾン等の低分子化合物や、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12)等のタンパク質が挙げられる。
【0042】
抗がん活性を有するラジオアイソトープとしては、
32P、
14C、
125I、
3H、
131I、
211At、
90Y等が挙げられる。ラジオアイソトープは、抗ポドカリキシン抗体が結合する細胞、即ちポドカリキシンを発現している細胞の周囲の細胞にも毒性を発揮する。一般に、がん細胞は均一ではなく、すべてのがん細胞がポドカリキシンを発現しているわけではないので、周囲のポドカリキシン陰性のがん細胞を殺すためにラジオアイソトープは有用である。なお、ラジオアイソトープを結合させる場合、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体はFabやscFv等の低分子抗体としてもよい。
【0043】
上記抗がん活性を有する物質は、公知の方法によってがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体に直接結合させることができる。また、例えばリポソーム等の担体に封入してがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体に結合させてもよい。
【0044】
上記抗がん活性を有する物質が蛋白質やポリペプチドの場合は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードする核酸(後述)と抗がん活性を有する物質をコードするDNAを連結し、適当な発現ベクターに挿入することにより、抗がん活性を有する物質とがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体との融合タンパク質として発現させてもよい。
【0045】
(核酸)
本発明は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードする核酸も包含する。核酸は、天然の核酸であっても人工の核酸であってもよく、例えば、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラが挙げられるがこれらに限定されない。がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードする核酸の塩基配列は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法に従って決定することができ、公知の方法又はそれに準ずる方法で調製することができる。
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードする核酸としては、例えば、配列番号:10で表されるPcMab−6の重鎖をコードするDNA(配列番号:11)、配列番号:8で表されるPcMab−6の軽鎖をコードするDNA(配列番号:9)が挙げられるがこれらに限定されない。
PcMab−6のCDRのそれぞれをコードする核酸は、これらの配列番号で示されるDNA配列に含まれている。
【0046】
(発現ベクター)
本発明は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードする核酸を含む発現ベクターも包含する。発現ベクターは、使用する宿主細胞にあわせて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、カリフラワーモザイクウイルスベクターやタバコモザイクウイルスベクターなどの植物ウイルスベクター、コスミド、YAC、EBV由来エピソーム等が挙げられる。これらの発現ベクターには、公知の方法(制限酵素を利用する方法等)で、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードする核酸を挿入することができる。
【0047】
本発明に係る発現ベクターは、さらに、抗体遺伝子の発現を調節するプロモーター、複製起点、選択マーカー遺伝子等を含むことができる。プロモーター及び複製起点は、宿主細胞と発現ベクターの種類によって適宜選択することができる。
【0048】
(形質転換体)
本発明は、本発明に係る発現ベクターを含む形質転換体を包含する。形質転換体は、本発明に係る発現ベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクトすることによって得ることができる。宿主細胞としては、例えば、哺乳類細胞(CHO細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、HeLa細胞、Vero細胞など)、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞(サッカロミセス属、アスペルギルス属など)といった真核細胞や、大腸菌(E.Coli)、枯草菌等の原核細胞を用いることができる。
【0049】
(抗体の製造方法)
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、以下に記載する方法によっても製造することができる。
がん細胞特異的抗ポドカリキシンモノクローナル抗体は、がん細胞特異的ポドカリキシン又はその一部を免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、がん細胞特異的抗ポドカリキシンポリクローナル抗体は、がん細胞特異的ポドカリキシン又はその断片を免疫した動物の血清から得ることができる。
【0050】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を遺伝子組換え法で作製する場合、例えば、本発明に係る核酸を含む発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、この形質転換体を適当な条件で培養して抗体を発現させ、公知の方法に従って単離精製すればよい。
単離精製方法としては、例えば、プロテインA/G/L等を用いたアフィニティカラム、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析が挙げられ、これらを適宜組み合わせることができる。
【0051】
所定のエピトープの配列に結合する抗体は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法で作製することができる。例えば、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定し、当該ペプチドと複数の抗体の結合を検出することにより、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることができる。
ここで、「複数の抗体」としては、動物に抗原タンパク質又はその部分ペプチドを免疫することによって得たものを用いてもよいし、ファージディスプレイ法によって作製した抗体ライブラリ又は抗体フラグメントライブラリを用いてもよい。ファージディスプレイ法によるライブラリを用いる場合、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定しパニングを繰り返すことによって、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることもできる。
【0052】
ヒトキメラ抗体及びヒトCDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから抗体遺伝子をクローン化し、これをヒト抗体遺伝子の一部と遺伝子組換え技術で連結することによって作製することができる。
例えば、ヒト型キメラ抗体の場合、マウス抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(LH)をPCRでクローニングして配列を解析する。次に、一致率の高い抗体塩基配列から、リーダー配列を含む5’プライマーを作製し、5’プライマーと可変部3’プライマーによって上記cDNAから、シグナル配列から可変領域の3’末端までをPCRでクローニングする。一方で、ヒトIgG1の重鎖及び軽鎖の定常領域をクローニングし、重鎖と軽鎖それぞれについて、マウス抗体由来可変領域と、ヒト抗体由来定常領域とをPCRによるOverlapping Hanging法で連結し、増幅する。得られたDNAを適当な発現ベクターに挿入し、これを形質転換して、ヒト型キメラ抗体を得ることができる。
【0053】
CDR移植抗体の場合、使用するマウス抗体可変部と最も相同性の高いヒト抗体可変部を選択してクローン化し、メガプライマー法を用いた部位選択的突然変異導入により、CDRの塩基配列を改変する。フレームワーク領域を構成するアミノ酸配列をヒト化すると抗原との特異的な結合ができなくなる場合には、フレームワークの一部のアミノ酸をヒト型からラット型に変換してもよい。
元の配列において、1から数個の、好ましくは1又は2個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるCDRや、元の配列に80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法等の公知の方法を用いて作製され得る。
これらの方法により、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS. 1998; 95: 6037−6042.; Schier R et al., J. Mol. Bio. 1996; 263: 551−567.; Schier R et al., J. Mol. Biol. 1996; 255: 28−43.; Yang WP et al., J. Mol. Biol. 1995; 254: 392−403.)。本発明は、このような方法で成熟させたCDRを含む抗体も包含する。
【0054】
がん細胞特異的糖鎖構造を発現する細胞として、トリコスタチンA処理ニワトリB細胞由来DT40細胞株を用いてもよく、抗体の製造方法として、トリコスタチンA処理ニワトリB細胞由来DT40細胞株から抗体産生株を取得するAdlib法(Seo H et al., Nat. Biotechnol. 2002; 6: 731−736.)を用いてもよい。また、非ヒト哺乳動物として、マウス抗体遺伝子が破壊されヒト抗体遺伝子が導入されたマウスであるKMマウスを用いてもよく、抗体の製造方法として、KMマウスに免疫してヒト抗体を作製する方法(Itoh K et al., Jpn. J. Cancer Res. 2001; 92: 1313−1321.;Koide A et al., J. Mol. Biol. 1998; 284: 1141−1151.)等を用いてもよい。
【0055】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体の抗原結合フラグメントは、当該フラグメントをコードするDNAを用いて上述の方法で発現させてもよいし、また、全長の抗体を得てからパパイン、ペプシン等の酵素で処理して断片化してもよい。
【0056】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、作製方法や精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、形態等が異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体として同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を、大腸菌等の原核細胞で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明は、かかる抗体も包含する。
【0057】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体が、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN−結合型糖鎖を有する抗体である場合、かかる抗体は公知の方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。かかる抗体の製造方法は、例えば、国際公開第2002/031140号、特開2009−225781号公報に記載されている。
具体的には、例えば、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードするDNAを含む発現ベクターを用いて、GDP−フコースの合成に関与する酵素の活性、又はα−1,6−フコシルトランスフェラーゼの活性が低下又は欠失した細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養した後、目的とするがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を精製することによって得ることができる。
GDP−フコースの合成に関与する酵素としては、例えば、GDP−mannose 4,6−dehydratase(GMP)、GDP−keto−6−deoxymannose 3,5−epimerase,4−reductase(Fx)、GDP−beta−L−fucose pyrophosphorylase(GFPP)が挙げられる。
ここで、細胞は特に限定されないが、哺乳動物細胞が好ましく、例えば上記酵素活性を低下又は欠失されたCHO細胞を用いることができる。
上記方法によって得られる抗体組成物は、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
【0058】
また、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN−結合型糖鎖を有する抗体は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をコードするDNAを含む発現ベクターを昆虫卵に導入し、孵化させて昆虫を成長させ、必要に応じて交配を行ってトランスジェニック昆虫を作製し、当該トランスジェニック昆虫又はその分泌物からがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を抽出することによっても得ることができる。昆虫としてはカイコを用いることができ、その場合、繭から抗体を抽出することができる。
この方法によって得られる抗体組成物も、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
【0059】
(本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体の活性)
抗体医薬の薬効メカニズムは、抗体が有する2つの生物活性に基づいている。1つは標的抗原特異的な結合活性であり、結合することによって標的抗原分子の機能を中和する活性である。標的抗原分子の機能の中和はFab領域を介して発揮される。
【0060】
もう1つは、エフェクター活性と呼ばれる抗体の生物活性である。エフェクター活性は、抗体のFc領域を介して、抗体依存性細胞障害活性(antibody−dependent cellular cytotoxicity;ADCC)、補体依存性細胞障害活性(complement−dependent cytotoxicity;CDC)、アポトーシスの直接誘導等の態様で発揮される。
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体の活性は、以下の方法で測定することができる。
【0061】
(1)結合活性
抗体の結合活性は公知の方法、例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)、蛍光抗体法、FACS法等で、測定することができる。
【0062】
(2)ADCC活性
ADCC活性とは、標的細胞の細胞表面抗原に本発明の抗体が結合した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(エフェクター細胞)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に障害を与える活性を意味する。
ADCC活性は、ポドカリキシンを発現している標的細胞とエフェクター細胞と本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を混合し、ADCCの程度を測定することによって知ることができる。エフェクター細胞としては、例えば、マウス脾細胞、ヒト末梢血や骨髄から分離した単球核を利用することができる。標的細胞は、例えばポドカリキシン陽性がん細胞とすることができる。標的細胞をあらかじめ51Cr等で標識し、これに本発明の抗体を加えてインキュベーションし、その後標的細胞に対して適切な比のエフェクター細胞を加えてインキュベーションを行う。インキュベーション後、上清を採取し、上清中の上記標識をカウントすることにより、測定することが可能である。
【0063】
(3)CDC活性
CDC活性とは、補体系による細胞障害活性を意味する。
CDC活性は、ADCC活性の試験において、エフェクター細胞に代えて補体を用いることにより測定することができる。
【0064】
(4)腫瘍増殖抑制活性
腫瘍増殖抑制活性は、腫瘍モデル動物を利用して測定することができる。例えば、マウスの皮下に腫瘍を移植し、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を投与する。非投与群と投与群における腫瘍組織の体積を比較することにより、腫瘍増殖抑制効果を測定することができる。
なお、腫瘍増殖抑制活性は、個々の細胞の増殖を抑制する結果生じるものであっても、細胞死を誘導する結果生じるものであってもよい。
【0065】
(医薬組成物)
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、ポドカリキシンを発現するがんの予防又は治療に用いてもよい。本発明に係る医薬組成物の一態様は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含み、さらに薬学的に許容できる担体や添加物を含む。
【0066】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントは、がん細胞を標的とする薬物の送達に用いてもよい。本発明に係る医薬組成物の別の一態様は、上述した抗がん活性を有する物質やその他の抗がん剤を結合させたがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントを含み、さらに薬学的に許容できる担体や添加物を含む。
【0067】
担体及び添加物の例としては、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
本発明に係る医薬組成物は、様々な形態、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤等とすることができる。好ましい態様は、注射剤であり、非経口(例えば、静脈内、経皮、腹腔内、筋内)で投与することが好ましい。
【0069】
本発明に係る医薬組成物は、ポドカリキシンが関連する疾患、特にがんの治療に有効である。
ポドカリキシンが関連するがんとしては、例えば、脳腫瘍、前立腺がん、精巣腫瘍、腎がん、甲状腺がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、大腸がん、膵がん、悪性中皮腫、骨肉腫等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、これらのがんに特に有用である。
【0070】
本発明は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントを治療有効量投与することを含むポドカリキシンが関連する疾患の治療方法も包含する。
本明細書において、治療有効量とは、治療する疾患の一つ又は複数の症状が、それによりある程度緩和される作用物質の量を意味する。抗がん剤の場合、腫瘍サイズの低下;腫瘍の転移の阻害(遅延又は停止);腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを示す量を意味する。
具体的には、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合フラグメントの投与量は、例えば、0.025〜50mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgであり、より好ましくは0.1〜25mg/kg、さらに好ましくは0.1〜10mg/kg又は0.1〜3mg/kgとすることができるが、これに限定されない。
【0071】
(検査方法、検査薬、検査キット)
上述のとおり、ポドカリキシンは特定のがん細胞において高発現している。従って、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、がん、特に脳腫瘍、前立腺がん、精巣腫瘍、腎がん、甲状腺がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、大腸がん、膵がん、悪性中皮腫、骨肉腫等のポドカリキシンが高発現するがんの診断に有用である。本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体は、がん細胞特異的に結合するので、診断に特に有用である。
本発明は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を含むがんの検査薬、がんの検査のための抗体の使用、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を用いるがんの検査方法をも包含する。
【0072】
本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をがんの検査方法に用いる場合、検査に用いられるサンプルは、例えば、対象から採取されたがんが疑われる組織、血清、髄液、尿、体液(唾液、汗など)とすることができる。ポドカリキシンは、膜タンパク質であるが、血清中に分泌されることが知られている。
【0073】
検査方法としては、例えば、イムノアッセイ、凝集法、比濁法、ウエスタンブロッティング法、表面プラズモン共鳴(SPR)法等が挙げられるが、これらに限定されない。
中でも、検出可能に標識した本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体と、サンプル中のがん細胞特異的ポドカリキシンとの抗原抗体反応を利用してがん細胞特異的ポドカリキシンの量を測定するイムノアッセイが好ましい。
【0074】
イムノアッセイは、検出可能に標識したがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体、又は、検出可能に標識したがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体に対する抗体(二次抗体)を用いる。抗体の標識法により、エンザイムイムノアッセイ(EIA又はELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)等に分類され、これらのいずれも本発明の方法に用いることができる。
ELISA法では、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、RIA法では、
125I、
131I、
35S、
3H等の放射性物質、FPIA法では、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、CLIA法では、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識した抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドット等のナノ粒子で標識した抗体を検出することもできる。
また、イムノアッセイでは、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体をビオチンで標識し、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
【0075】
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に抗原を測定することができて好ましい。
ELISA法には競合法とサンドイッチ法がある。競合法では、マイクロプレート等の固相担体にがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を固定し、サンプルと酵素標識したがん特異的ポドカリキシンを添加して、抗原抗体反応を生じさせる。いったん洗浄した後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定する。サンプル中のポドカリキシンが多ければ発色は弱くなり、サンプル中のポドカリキシンが少なければ発色が強くなるので、検量線を用いてポドカリキシン量を求めることができる。
【0076】
サンドイッチ法では、固相担体にがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を固定し、サンプルを添加し、反応させた後、さらに酵素で標識した別のエピトープを認識するがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、ポドカリキシン量を求めることができる。サンドイッチ法では、固相担体に固定したがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗トとサンプル中のがん特異的ポドカリキシンを反応させた後、非標識抗体(一次抗体)を添加し、この非標識抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3’−diaminobenzidine(DAB)、3,3’,5,5’−tetramethylbenzidine(TMB)、o−phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p−nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
【0077】
本明細書において「固相担体」は、抗体を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられ、標的物質は、これらの固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
【0078】
また、上記イムノアッセイの中で、微量のタンパク質を簡便に検出できる方法として凝集法も好ましい。凝集法としては、例えば、抗体にラテックス粒子を結合させたラテックス凝集法が挙げられる。
ラテックス粒子にがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を結合させてサンプルに混合すると、がん特異的ポドカリキシンが存在すれば、抗体結合ラテックス粒子が凝集する。そこで、サンプルに近赤外光を照射して、吸光度の測定(比濁法)又は散乱光の測定(比朧法)により凝集塊を定量し、抗原の濃度を求めることができる。
【0079】
本明細書において「検査」は、診断に必要な情報を得るために、被検者から採取した試料を調べることを意味し、本発明の検査方法は、例えば検査会社等で実施され得る。
【0080】
本発明に係る検査方法の一態様は、被検者のサンプル中のがん特異的ポドカリキシンが、非がん患者のがん特異的ポドカリキシンより多いか否かを分析する工程を含む。非がん患者のサンプルと比較して、被検者のサンプル中のがん特異的ポドカリキシン量が有意に多い場合に、該被検者はがんに罹患している可能性が高いと判定される。
【0081】
本発明に係る検査方法の一態様は、がんの治療を受けた後の患者のサンプル中のがん特異的ポドカリキシンを経時的に測定し、がん特異的ポドカリキシン量の変動を分析する工程を含む。ポドカリキシン量が経時的に増加する傾向にある場合、当該患者におけるがんの再発又は転移の可能性が高いと判定される。
【0082】
本発明は、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を含むがんの診断薬、がんの診断のための本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体の使用、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を用いるがんの診断方法をも包含する。本明細書において「診断」とは、医師等の医療行為者が、被検者ががんに罹患している可能性や、がんが再発、転移している可能性を判断することを意味する。
【0083】
[がんの検査用キット]
本発明に係るがんの検査用キットは、上述した検査方法を使用してがんの検査を行うためのキットであり、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体を含む。
本発明に係る検査用キットは、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体とがん特異的ポドカリキシンとの抗原抗体反応を利用するイムノアッセイによって、ポドカリキシン量を測定するために必要な試薬や装置を含む。
【0084】
検査用キットの一態様は、サンドイッチ法によってがん特異的ポドカリキシンを測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用のがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識したがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;及び、アルカリホスファターゼ基質(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
捕獲抗体と標識抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに捕獲抗体を固定し、ここにサンプルを適宜希釈して添加した後インキュベートし、サンプルを除去して洗浄する。次に、標識した抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、がん特異的ポドカリキシン量を求めることができる。
【0085】
検査用キットの別の態様は、二次抗体を使用してサンドイッチ法によりがん特異的ポドカリキシンを測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用のがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;一次抗体として、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;二次抗体として、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;及び、アルカリホスファターゼ(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
捕獲抗体と一次抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに捕獲抗体を固定し、ここにサンプルを適宜希釈して添加した後インキュベートし、サンプルを除去して洗浄する。続いて、一次抗体を添加してインキュベート及び洗浄を行い、さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、がん特異的ポドカリキシン量を求めることができる。二次抗体を用いることにより、反応が増幅され検出感度を高めることができる。
【0086】
また、検査用キットの別の態様は、マイクロタイタープレート;一次抗体としてのがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体;及び、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼの基質、を含む。
かかるキットによれば、まず、適当な濃度に希釈したサンプルでマイクロタイタープレートをコーティングし、一次抗体を添加する。インキュベート及び洗浄を行った後、酵素標識した二次抗体を添加し、インキュベート及び洗浄を行い、基質を加えて発色させる。
マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、がん特異的ポドカリキシン量を求めることができる。
【0087】
各検査用キットは、さらに、必要な緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むことも好ましい。
【0088】
標識抗体は、酵素標識した抗体に限定されず、放射性物質(
25I、
131I、
35S、
3H等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等)、発光物質(ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等)、ナノ粒子(金コロイド、量子ドット)等で標識した抗体であってもよい。また標識抗体としてビオチン化抗体を用い、キットに標識したアビジン又はストレプトアビジンを加えることもできる。
【0089】
本発明に係る検査用キットのさらに別の態様として、ラテックス凝集法によってがん特異的ポドカリキシンを測定するためのものも挙げられる。このキットは、がん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体感作ラテックスを含み、サンプルとがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体とを混合し、光学的方法で集塊を定量する。キットに凝集反応を可視化する凝集反応板が含まれていることも好ましい。
【0090】
本発明に係る検査用キットは、診断用キットとして用いることもできる。なお、本発明に係るがんの検査方法、診断方法、がんの検査用キット、診断用キットには、本発明に係るがん細胞特異的抗ポドカリキシン抗体に代えて、その抗原結合フラグメントを用いても
よい。
【0091】
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0093】
<方法>
1.リコンビナントタンパク質のマウスへの免疫とスクリーニング
ヒト脳腫瘍細胞株のLN229細胞(ATCCから購入)を用いてヒトポドカリキシンの細胞外領域(配列番号1における26番目から426番目のアミノ酸)をリポフェクション法(ライフテクノロジー社)にて導入し、G418(ライフテクノロジー社)による薬剤選抜を行って分泌型ヒトポドカリキシンの安定発現株(LN229/sol−hPODXL)を樹立した。分泌型ヒトポドカリキシンのC末端には、発明者らが開発したPA tag(Fujii Y et al., Protein Expr Purif. 2014; 95: 240−247.)を付加した。LN229/sol−hPODXLを10%ウシ胎児血清(FBS;ライフテクノロジー社)を添加したDMEM培地(和光純薬株式会社)で大量培養し、その上清を回収した。回収した上清を0.22μmフィルター(ミリポア社)でろ過し、PA tagシステムを用いて分泌型ポドカリキシンの精製を行った。分泌型ポドカリキシンの溶出には、0.1mg/mLのPA tagペプチド(hpp4051:12アミノ酸のペプチド)を用いた。吸光度0D280をナノドロップライト(サーモサイエンティフィック社)を用いて計測した。
【0094】
精製した分泌型ポドカリキシンを、Balb/cマウス(メス、5週齢;クレア社)に免疫した。1回あたり100μgを0.5mLのPBSで懸濁したものを腹腔投与し、7〜14日の間隔をおいて5回免疫を行った。1回目の免疫のみ、アジュバントとして0.5mLのImjectAlum(サーモサイエンティフィック社)と混合して免疫を行った。最終免疫から48時間後に、免疫したマウスから脾臓を採取し、脾細胞を抽出した。脾細胞はマウスミエローマのP3U1細胞(ATCCから購入)とポリエチレングリコール1,500(シグマアルドリッチ社)を用いて融合させ、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT;ライフテクノロジー社)を添加した10%FBS/RPMI培地(和光純薬株式会社)を用いて、10日間培養を行った。分泌した抗体について、ELISA法による一次スクリーニングを行った。
【0095】
ELISAの抗原として、分泌型ヒトポドカリキシンを固相化した。分泌型ヒトポドカリキシンを1μg/mLでマキシソープ(サーモサイエンティフィック社)へ固相化し、ブロッキングは1%BSA/PBSで行った。ハイブリドーマ培養上清を一次抗体液とし、anti−mouse IgG−HRP(ダコ社)を二次抗体液とした。抗原抗体反応は全て室温で行い、プレート洗浄は0.05%Tween−20を含むPBSで行った。検出は1−Step Ultra TMB−ELISA(サーモサイエンティフィック社)を使用し、655nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(バイオラッド社)にて測定した。
【0096】
2.フローサイトメトリー
二次スクリーニングには内在的にヒトポドカリキシンの発現しているLN229細胞、及びLN229細胞にヒトポドカリキシンを強制発現させた細胞を用いて反応性を検討した。樹立したモノクローナル抗体の評価には上記細胞の他に、膠芽腫細胞株LN229(ATCCより購入)、乳がん細胞株MCF−7(ATCCより購入)、骨肉腫細胞株U2−OS(ATCCより購入)、血管内皮細胞株(Cambrex社より購入)を用いた。1反応あたり1x10
5細胞を使用した。細胞に培養上清を添加し、氷上で1時間、一次抗体を10μg/mLの濃度で反応させた。0.1%BSA/PBSで洗浄した後、Alexa488標識抗マウスIgG抗体(1/1,000希釈、ライフテクノロジー社)を添加し、氷上で30分、二次抗体反応を行った。0.1%BSA/PBSで洗浄した後、Cell Analyzer EC800 (ソニー社)で解析を行った。各種がん細胞株に反応し、血管内皮細胞に反応しないクローン(PcMab−6)、及び両者に反応するクローン(PcMab−47)を含む、多数のクローンを樹立した。
【0097】
3.免疫組織染色
各種パラフィン切片を、キシレンとエタノールの系列を使って脱パラフィンした。pH6.0のクエン酸バッファー(ダコ社)を用いて、オートクレーブにより抗原賦活化を行った。3%H
2O
2を用いて内在性のペルオキシダーゼを不活性化した。SuperBlock(サーモフィッシャー社)を用いて、室温、10分、ブロッキングを行い、一次抗体を5−10μg/mLの濃度で室温で1時間反応させた。LSAB kit(ダコ社)、LSAB2(ダコ社)、あるいは、Envision+(ダコ社)で増幅後、DAB(ダコ社)で発色した。
【0098】
4. PcMab−6、PcMab−47抗体のアミノ酸配列及び塩基配列の決定
PcMab−6ハイブリドーマ細胞及びPcMab−47ハイブリドーマ細胞1×10
6からQIAGEN RNeasy mini kitを使用してトータルRNAを抽出した。トータルRNA5μgからSuperScript III First−Strand Syntheses kitを使用してcDNA合成を行った。以下の実験にcDNAを鋳型として使用した。
【0099】
H鎖の増幅に以下のプライマーを使用した。
HindIII−PcMab6HF1atg:gctaagcttAACATGCTGTTGGGGCTGAAG(配列番号:12)
mIgG1terNotI:ggcggccgcTCATTTACCAGGAGAGTGGGA(配列番号:13)
InF.HindIII−Pc47H:CGGTATCGATAAGCTTAACATGGAAAGGCACTGG(配列番号:14)
InF.Pc47HterNotI:TCTAGAGTCGCGGCCGCTCATTTACCAGGAGAGT(配列番号:15)
PCR反応にはQIAGEN HotStar HiFidelity DNA polymeraseを使用した。温度条件は、最初に95℃5分、次に94℃15秒、50℃1分、72℃1分を35サイクル、最後に72℃10分とした。増幅したPCR産物はFastGene Gel/PCR Extractionにて精製した。PcMab6H鎖PCR産物は、制限酵素HindIII,NotIにて37℃で1時間処理し、再度FastGene Gel/PCR Extraction kitにて精製した。同じく制限酵素HindIII,NotIにて酵素処理し、同kitにて精製したpCAG vctorにLigation Highを用いてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の確認を行った。PcMab47H鎖PCR産物については、PCR産物をFastGene Gel/PCR Extraction kitにて精製後、HindIII,NotI処理し、同kitにて精製したpCAG vectorにInFusion HD cloning kitにてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。
【0100】
L鎖の増幅に以下のプライマーを使用した。
HindIII−PcMab6L.F1atg:gcgaagcttAAGATGAAGTCACAGACCCAG(配列番号:16)
mIgCKterNotI:ggcggccgcCTAACACTCATTCCTGTTGAA(配列番号:17)
InF.HindIII−Pc47L:CGGTATCGATAAGCTTAAAATGGATTTTCAGGTGCA(配列番号:18)
InF.mIgCKterNotI:TCTAGAGTCGCGGCCGCCTAACACTCATTCCTGT(配列番号:19)
PCR反応にはQIAGEN HotStar HiFidelity DNA polymeraseを使用した。温度条件は、最初に95℃5分、次に94℃15秒、50℃1分、72℃1分を35サイクル、最後に72℃10分とした。増幅したPCR産物はFastGene Gel/PCR Extractionにて精製した。
PcMab6L鎖PCR産物は、制限酵素HindIII,NotIにて37℃で1時間処理し、再度FastGene Gel/PCR Extraction kitにて精製した。同じく制限酵素HindIII,NotIにて酵素処理し、同kitにて精製したpCAG vctorにLigation Highを用いてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の確認を行った。
PcMab47L鎖PCR産物については、PCR産物をFastGene Gel/PCR Extraction kitにて精製後、HindIII,NotI処理し、同kit にて精製したpCAG vectorにInFusion HD cloning kitにてサブクローニングし、ベクタープライマーから塩基配列の決定を行った。
【0101】
PcMab−6のH鎖をコードするDNAの塩基配列は配列番号:11に、PcMab−6のL鎖をコードするDNAの塩基配列は配列番号:9に示すとおりであった。PcMab−47のH鎖をコードするDNAの塩基配列は配列番号:23に、PcMab−47のL鎖をコードするDNAの塩基配列は配列番号:21に示すとおりであった。
塩基配列からアミノ酸配列を予測した。PcMab−6のH鎖アミノ酸配列は配列番号:10に、PcMab−6のL鎖アミノ酸配列は配列番号:8に示すとおりであった。PcMab−47のH鎖アミノ酸配列は配列番号:22に、PcMab−47のL鎖アミノ酸配列は配列番号:20に示す
とおりであった。
【0102】
5.CDRの決定
決定した塩基配列より以下のURLのホームページ(abYsis)に提供されているイムノグロブリンの配列予測ソフトにてCDRの部位を特定した。
(http://www.bioinf.org.uk/abysis/sequence_input/key_annotation/key_annotation.html)
PcMab−6の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:2〜7に示されるように特定された。
PcMab−47の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:24〜29に示されるように特定された。
【0103】
6. ヒトキメラ型PcMab−6抗体(chPcMab−6),ヒトキメラ型PcMab−47抗体(chPcMab−47)の作製
ヒトキメラ型PcMab−6抗体(chPcMab−6)及びヒトキメラ型PcMab−47抗体(chPcMab−47)を作製するために、PcMab−6、PcMab−47のVH領域をコードするDNAをPCRで増幅し、ヒトIgG1のCH1、ヒンジ領域、CH2、CH3領域をコードするDNAを保持したpCAGベクターに組み込んだ(pCAG−hIgG1hG2b/PcMab−6HVH,pCAG−hIgG1hG2b/PcMab−47HVH)。
PcMab−6のVH領域はpCAG/PcMab−6Hプラスミドを鋳型として、以下のプライマーにより増幅した。
HindIII−PcMab−6VHF1atg:gctaagcttAACATGCTGTTGGGGCTGAAG(配列番号:12)
PcMab6VHR−BamHI:gccggatccTGAGGAGACTGTGAGAGTGGT(配列番号:30)
PcMab−47のVH領域はpCAG/PcMab−47Hプラスミドを鋳型として、以下のプライマーに
より増幅した。
InF.HindIII−Pc47H:CGGTATCGATAAGCTTAACATGGAAAGGCACTGG(配列番号:14)
InFr.PcMab47VHR−BamHI:GGCCCTTGGTGGATCCTGCAGAGACAGTGACCA(配列番号:31)
【0104】
PcMab−6のL鎖は、PcMab−6のVL領域をコードするDNAをPCRで増幅し、PcMab−47のL鎖は、PcMab−47のVL領域をコードするDNAをPCRで増幅し、ヒトIgGのκ鎖のCL領域をコードするDNAを保持したpCAGベクターに組み込んだ(pCAG−hIgCK/PcMab−6L,pCAG−hIgCK/PcMab−47L)。
PcMab−6のVL領域をコードするDNAは、pCAG/PcMab−6Lプラスミドを鋳型として、以下のプライマーにより増幅した。
HindIII−PcMab6L.F1atg:gcgaagcttAAGATGAAGTCACAGACCCAG(配列番号:16)
PcMab6LVL−BamHI:gccggatccCCGTTTGATTTCCAGCTTGGT(配列番号:32)
PcMab−47のVL領域をコードするDNAは、pCAG/PcMab−47Lプラスミドを鋳型として、以下のプライマーにより増幅した。
InF.HindIII−Pc47L:CGGTATCGATAAGCTTAAAATGGATTTTCAGGTGCA(配列番号:18)
InF.PcMab47LVL−SpeI:CAGCCACAGTACTAGTCCGTTTCAGCTCCAGCT(配列番号:33)
【0105】
pCAG−hIgG1hG2b/PcMab−6HVH(G418)/pCAG−hIgCK/PcMab−6LVL(zeocin)又はpCAG−hIgG1hG2b/PcMab−47HVH(G418)/pCAG−hIgCK/PcMab−47LVL(zeocin)を、それぞれ2.5μgを混合し、Lipofectamin LTXの方法に従って、CHO細胞1x10
5(6ウェルプレートの1ウェルに相当)に形質導入した。24時間後からZeocin 500μg/mL、G418 1mg/mL入りの培地で形質導入細胞の選択をした。ポドカリキシンを強制発現させたLN229細胞(LN229/hPODXL)に対して、選択細胞の培養上清の反応性をフローサイトメトリーにて確認した。
【0106】
chPcMab−6抗体の高発現株を、無血清培地(ライフテクノロジー社)を用いて培養し、培養上清を回収した。培養上清をプロテインGカラム(GEヘルスケア社)に通し、chPcMab−6抗体を精製した。chPcMab−6抗体は、配列番号:34で示すアミノ酸配列からなる重鎖と、配列番号:36で示すアミノ酸配列からなる軽鎖で構成されている。重鎖をコードするDNAの塩基配列を配列番号:35に、軽鎖をコードするDNAの塩基配列を配列番号:37に示す。重鎖は、PcMab−6抗体のVH領域と、ヒトIgG1に由来するCH1、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる。軽鎖は、PcMab−6抗体のVL領域と、ヒトkappaに由来するCLとからなる。
【0107】
同様に、chPcMab−47抗体の高発現株を、無血清培地(ライフテクノロジー社)を用いて培養し、培養上清を回収した。培養上清をプロテインGカラム(GEヘルスケア社)に通し、chPcMab−47抗体を精製した。chPcMab−47抗体は、配列番号:38で示すアミノ酸配列からなる重鎖と、配列番号:40で示すアミノ酸配列からなる軽鎖で構成されている。重鎖をコードするDNAの塩基配列を配列番号:39に、軽鎖をコードするDNAの塩基配列を配列番号:41に示す。重鎖は、PcMab−47抗体のVH領域と、ヒトIgG1に由来するCH1、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる。軽鎖は、PcMab−47抗体のVL領域と、ヒトkappaに由来するCLとからなる。
【0108】
7. ポドカリキシンに対するchPcMab−6抗体の反応性
chPcMab−6抗体がポドカリキシンに対して反応を示すことを確認した。ヒトポドカリキシンの発現している膠芽腫細胞株LN229(ATCCより購入)、LN229細胞にヒトポドカリキシンを強制発現させた細胞(LN229/hPODXL)、悪性中皮腫細胞株MSTO−211H、NCI−H226、乳がん細胞株MCF−7(ATCCより購入)、骨肉腫細胞株U2−OS(ATCCより購入)、血管内皮細胞株(Cambrex社より購入)を用いた。1反応あたり1x10
5細胞を使用した。細胞に培養上清を添加し、氷上で1時間、一次抗体を10μg/mLの濃度で反応させた。0.1%BSA/PBSで洗浄した後、FITC標識抗ヒトIgG抗体(1/1,000希釈ライフテクノロジー社)を添加し、氷上で30分、二次抗体反応を行った。0.1%BSA/PBSで洗浄した後、Cell Analyzer EC800(ソニー社)で解析を行った。
結果を
図4に示す。図に示す通り、chPcMab−6抗体は、ポドカリキシンを発現した細胞株に対し、いずれも良く反応した。一方、正常細胞である血管内皮細胞には反応しなかった。ネガティブコントロールとして、それぞれの二次抗体のみを用いた。
【0109】
8. ポドカリキシン陽性細胞(LN229/PODXL)に対するchPcMab−6のADCC活性の測定
ヒト単核球(Effector細胞)をRPMI1640(Phenol red free;タカラバイオ社)に浮遊させ、細胞数を1x10
7cells/mLに調整した。Calcein−AM(PromoCell社)で標識したLN229/PODXL(Target細胞)を1x10
5cells/mLとなるように調整し、chPcMab−6を終濃度が10μg/mLの濃度になるように添加した。コントロールとしては、PBSを用いた。96well plateにヒト単核球とLN229/PODXLのEffector/Target(E/T)比が100となるように混合して播種した。陽性対照(完全放出)には、ヒト単核球の代わりに0.1%に希釈したTritonX−100を、陰性対象(自然放出)には、ヒト単核球の代わりにRPMI1640培地を添加した。37°C、5%CO
2の条件下で4時間インキュベートし、反応後の上清100μLを蛍光測定用黒色プレートに分取後、蛍光プレートリーダーで蛍光強度(励起波長:485nm,検出波長:535nm)を測定した。
細胞障害活性(%)は、以下の式にて計算した。
% Specific lysis(Cytotoxicity)=(E/T比の平均値−陰性対照の平均値)/(陽性対照の平均値−陰性対照の平均値)х100
【0110】
<結果>
1)抗ポドカリキシン抗体の樹立
分泌型ポドカリキシンを免疫したマウスから抽出した脾細胞とマウスミエローマのP3U1細胞をPEG法にて細胞融合を行い、96wellプレート5枚へ播種した。一次スクリーニングは分泌型ヒトポドカリキシンを固相化したELISAで行った。655nmの吸光度で0.45以上のものが480ウェル中49ウェルあり、24wellプレートへ拡大培養した。細胞の増殖が確認できた培養上清48ウェルを用いて二次スクリーニングを行った。分泌型ヒトポドカリキシンを固相化したELISAで、655nmの吸光度で0.2以上の値のものが48ウェル中40ウェルであった。さらに内在性のヒトポドカリキシンを発現するLN229細胞を用いてフローサイトメトリーによる解析を行った。LN229細胞に対して陽性のものは18/48ウェルであった。ELISA、フローサイトメトリーともに陽性は48ウェル中15ウェルであり、これらについて限界希釈法によるシングルクローン化を行った。シングルクローンは9個樹立できた。フローサイトメトリーによる解析から、LN229細胞、及びLN229細胞/ヒトポドカリキシン安定発現株に対して反応性を示し、LN229/ヒトポドカリキシンに対する反応性が、内在性のポドカリキシンを発現するLN229に対する反応性よりも高いという結果になった。
【0111】
2)マウス抗体によるフローサイトメトリー(
図1)
新規に樹立した抗体の中で、PcMab−6(IgG1,kappa)は、膠芽腫細胞株LN229、LN229/PODXL、悪性中皮腫細胞株MSTO−211H、NCI−H226、乳がん細胞株MCF−7、骨肉腫細胞株U2−OSに高反応性を示したが、血管内皮細胞株にはほとんど反応性を示さなかった。一方、別のクローンであるPcMab−47は、LN229、LN229/PODXL、悪性中皮腫細胞株MSTO−211H、NCI−H226、MCF−7、U2−OS、血管内皮細胞株のすべてに反応することがわかった。これらの結果から、PcMab−6が、がん特異的抗体(cancer−specific mAb:CasMab)であることがわかった。
【0112】
3)免疫組織染色(
図2、
図3)
ポドカリキシンは乳がんに高発現していることが知られている。よって、PcMab−6及び抗ポドカリキシン抗体(ポリクローナル抗体;R&D社)を乳がん組織アレイ(US Biomax社)に5μg/mLの濃度で反応させた。その結果、ポリクローナル抗体は、乳がん組織のがん細胞だけでなく、血管内皮細胞に高反応性を示した。一方、PcMab−6は、がん細胞だけに反応し、血管内皮細胞にはほとんど反応性を示さないことがわかった。同様に、PcMab−6とPcMab−47の乳がんに対する反応性の違いを検討した。PcMab−47(5μg/mL)の濃度では、乳がん組織のがん細胞だけでなく、血管内皮細胞に高反応性を示した。一方、PcMab−6(10μg/mL)は、がん細胞だけに反応し、血管内皮細胞にはほとんど反応性を示さなかった。以上より、PcMab−6は免疫組織染色においても、CasMabであることが確認された。
【0113】
4)ヒトキメラ型抗体によるフローサイトメトリー(
図4)
ヒトキメラ型抗体chPcMab−6(IgG1,kappa)は、PcMab−6と同様に、膠芽腫細胞株LN229、LN229/PODXL、悪性中皮腫細胞株MSTO−211H、NCI−H226、乳がん細胞株MCF−7、骨肉腫細胞株U2−OSに高反応性を示したが、血管内皮細胞株にはほとんど反応性を示さなかった。一方、ヒトキメラ型抗体chPcMab−47は、LN229、LN229/PODXL、悪性中皮腫細胞株MSTO−211H、NCI−H226、MCF−7、U2−OS、血管内皮細胞株のすべてに反応することがわかった。これらの結果から、chPcMab−6もPcMab−6と同様に、CasMabであることがわかった。
【0114】
5)chPcMab−6のADCC活性
図5に示す通り、chPcMab−6はLN229/PODXLに対し、ADCC活性を示した。
【0115】
・ポドカリキシン陽性細胞(LN229/PODXL)に対するchPcMab−6のADCC活性の測定?2(NK細胞)
ヒトNK細胞(Effector細胞)をRPMI1640 (Phenol red free; タカラバイオ社)に浮遊させ、細胞数を1x10
7cells/mLに調整した。Calcein−AM(PromoCell社)で標識したLN229/PODXL(Target細胞)を1x10
5cells/mLとなるように調整し、chPcMab−6を終濃度が10μg/mL、20μg/mLの濃度になるように添加した。コントロールとしては、PBSを用いた。96 well plateにヒト単核球とLN229/PODXLのEffector/Target(E/T)比が100となるように混合して播種した。陽性対照(完全放出)には、ヒト単核球の代わりに0.1%に希釈したTritonX−100を、陰性対象(自然放出)には、ヒト単核球の代わりにRPMI1640培地を添加した。37°C、5%CO
2の条件下で4時間インキュベートし、反応後の上清100μLを蛍光測定用黒色プレートに分取後、蛍光プレートリーダーで蛍光強度(励起波長:485nm,検出波長:535nm)を測定した。
細胞障害活性(%)は、以下の式にて計算した。
% Specific lysis(Cytotoxicity)=(E/T比の平均値−陰性対照の平均値)/(陽性対照の平均値−陰性対照の平均値)х100
【0116】
・コアフコース欠損ヒトキメラ型PcMab−6(chPcMab−6f)の作製
CHO−s細胞(サーモサイエンティフィック社)に、コアフコースを転移する糖転移酵素(Fut−8)のCRISPR/Casプラスミドを導入し、CHO−s− fut8−knock out細胞を樹立した。pCAG−hIgG1hG2b/PcMab−6HVH(G418)/pCAG−hIgCK/PcMab−6LVL(zeocin)又はpCAG−hIgG1hG2b/PcMab−47HVH(G418)/pCAG−hIgCK/PcMab−47LVL(zeocin)を、それぞれ2.5μgを混合し、Lipofectamin LTXの方法に従って、CHO−s/fut8−knock out細胞1x10
5個(6ウェルプレートの1ウェルに相当)に形質導入した。24時間後からZeocin 500μg/mL、G418 1mg/mL入りの培地で形質導入細胞の選択をした。ポドカリキシンを強制発現させたLN229細胞(LN229/hPODXL)に対して、選択細胞の培養上清の反応性をフローサイトメトリーにて確認した。
chPcMab−6f抗体の高発現株を、無血清培地(サーモサイエンティフィック社)を用いて培養し、培養上清を回収した。培養上清をプロテインGセファロース4 FF(Fast Flow)(GEヘルスケア社)に通し、chPcMab−6f抗体を精製した。chPcMab−6f抗体は、配列番号:34で示すアミノ酸配列からなる重鎖と、配列番号:36で示すアミノ酸配列からなる軽鎖で構成されている。重鎖をコードするDNAの塩基配列を配列番号:35に、軽鎖をコードするDNAの塩基配列を配列番号:37に示す。重鎖は、PcMab−6抗体のVH領域と、ヒトIgG1に由来するCH1、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる。軽鎖は、PcMab−6抗体のVL領域と、ヒトkappa鎖に由来するC
Lとからなる。
【0117】
・抗ポドカリキシン抗体による抗腫瘍効果の検討
CHO細胞にヒトポドカリキシンを高発現させた細胞株(CHO/hPODXL)を、18匹のヌードマウスの皮下に移植した。腫瘍移植から1日後、4日後、11日後、18日後に、chPcMab−6抗体、chPcMa47抗体、ヒト正常IgGを100μg/mouseで腹腔内投与を行った。腫瘍移植から4日後に、すべてのマウスに対し、腫瘍周辺にヒトNK細胞を8.25x10
5/mouse投与、腫瘍移植から11日後に、すべてのマウスに対し、腫瘍周辺にヒトNK細胞を9.125x10
5/mouse投与した。腫瘍の大きさを、腫瘍移植から、4日後、7日後、10日後、14日後、17日後、24日後、28日後、30日後に測定した。腫瘍移植から30日後に、すべてのマウスを解剖した。
【0118】
結果
図6に示す通り、chPcMab−6はLN229/PODXLに対し、ADCC活性を示した。chPcMab−6の濃度が10μg/mLと20μg/mLで有意差がないことから、10μg/mLの濃度で十分であることがわかった。また、
図5の単核球を用いた検討と比べ、chPcMab−6によるADCC活性が増強した。